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タイトル 必然じゃないから
投稿日: 2008/11/30(Sun) 09:58
投稿者めーき

彼女との出会いは必然じゃなかった。
今でも、そう思っている。
私、シャルナ・アーラムギルと彼女、日比野 文ちゃんの出会いは偶然だった。



必然じゃないから



私がインドからこの東京に来たのは偶然だ。
私は昔からこのインドじゃない国がどうなっているのかをこの目で見たかった。ただ、それだけ。
別に日本じゃなくても、アメリカでもイギリスでもブラジルでもどこでも良かった。
そんな時、たまたま私のクラスに留学の話が来た。
東京の白皇学院というらしい。写真を見せて貰ったら、とても高く、白い時計塔があって、綺麗な校舎があることが分かった。学力も相当高かったけど、この学校でもトップクラスだった私なら何とかなった。世界の言語だって夢のために勉強していた。お金も親に相談したら、何とかなると言ってくれた。
そんなわけで私は海を渡り、日本にたどり着いたのだ。


ファーストコンタクトだって偶然だ。
入学式の日。私は新品の制服を身に纏い、校門から白皇学院を見ていた。
私の目で見る白皇学院は写真で見るよりずっとずっと大きくて、驚いた。やはり自分の目で見なければ分からないこともある。
私は校門を越え、入学式が行われる体育館に向かった。
行き交う途中にたくさんの新入生と思われる人を見た。早足で歩く人、周りを見回しながら歩く人、一緒に並んで、歓談しながら向かう人達もいた。
そして、後ろから追い抜くときに私を見る人が沢山いた。しかし、私に積極的に近づこうという人はいなかった。
それはただ単に人見知りしているからか、肌が黒いのを見て近寄りがたいと思っているか…
『いいか、お前はインド人だ。日本人とは肌の色など違うこともある。
 だから、みんなとは除け者にされる可能性もあるんだぞ」
たった一人で歩く私は留学する前に先生に言われた事を思い出した。
まだ本当に人見知りしているだけかもしれないが、私にはどうしても私の肌がみんなを遠ざけているような気がした。
私は少し足早に体育館へ向かう。
体育館に着くと先生と思われる人が館内へ案内してくれた。
体育館内は外から見る以上に広々としており、野球やサッカーならこの中でできると思った。
私は新入生の並んでいるところへ行った。列はどうやら来た順に横へ並んでいるようで男の子や女の子がバラバラに並んでいた。
私もそれに文句などないので、最後列の人の横に並んだ。
その際に隣の人の姿を盗み見る。
茶色の髪をカチューシャで留めた小柄な女の子。透き通るような肌をしていて私とは全く違っていた。
すると、その子もこっちの方に関心が向いたのか、私を見た。
そのままこっちを見続ける。
その子の目は綺麗でじっと見つめられるとなんだか変な感じだった。
そしてふいに、
「ガングロです」
と言った。
もしかして私のこと?
「今、目の前にガングロなメガネっ娘という新たな流行の開拓者がいます」
どうやら私のことを言っているらしい。というか新たな流行って…
「私は生まれつきこんな肌の色なの」
私はとりあえずそう返した。
するとその子は
「生まれつきガングロギャルなんですか!」
と素で驚いた表情をした。
「違うわ。私はインド人なの」
その驚きに冷静にツッコミを入れると、少し心配になった。
この学校は名門校だけど本当にこの子はここの新入生なのかしら。
「嘘です! 本物のインド人ならいつもターバンを巻いて、カレーをナンに載せて食べているはずです」
「ここで巻いていてもただの変な人よ」
その子の少し大きめな声に何人かがこっちを見る。ここまで食いついてくるとは思わなかった。
それにしても完全な偏見でできた意見だった。今時、インドの都市部でターバンを巻いてる人なんて殆ど見たことない。
そのことを教えてあげるとその子は目を丸くして、ビックリです と呟いた。
「ターバンは絶滅危惧種なんですね」
これは何が言いたいのか何となく分かったから、ツッコミはやめておいた。
そうするとその子はこっちを向いた。
「教えてくれてありがとうございました」
にこやかに礼を言う彼女。
唐突な礼に私は少し驚いた。
そして、入学式が始まる。

式の始まりを待つざわざわとした列の中。
それが文ちゃんとの出会いだった。

式が終わった後、私達、新入生はクラス表が張り出されているところで自分のクラスを確認するようにと誘導された。
皆それに従い、ゆっくりとした歩調で出口へ向かう。
「うわっ」
私は後ろからの人に飲み込まれ、もみくちゃにされる。
押されて、押されて、洗濯機の中の洗濯物ってこんな感じなのかもしれない。
そういえばあの子ように小柄ならもっと大変かもしれない。
私はそう思い、隣を見た。
「あなたは大丈夫?」
しかし、その子はいなかった。
飲み込まれる前まで一緒だったが、やはりはぐれてしまったのか。
いや、ただ単に他の友達を見つけ、人をかき分けてその子と一緒に先に行ったのかもしれない。
そう思うと少し寂しくなった。
自分でもそう思うのはおかしい。そう思ったけれど、ここで話しかけてくれたのはあの子だけだったからその思いは消えなかった。
再び私は一人になって、歩いている。
やがて、流れの止まった所にたどり着いた。やはりそこも人が集まっていたが、他の人が入る隙間ぐらいはあった。
私はするりするりと人の間を通り抜けて、クラス表が見えるところへ。
クラス表は大きな掲示板に貼られていて、首を少し伸ばさなければいけなかった。
1組、2組、3組。私の名前は見つからない。一体どこにあるんだろう。

「私は7組みたいですね」

ふいに隣から声が聞こえた。
隣を見ると、茶髪のあの子が私の隣で一緒にクラス表を見ていた。
どうして、という疑問は飲み込んだ。クラスを見に来ているのに決まっている。
代わりに私は言った。
「先に行ったんじゃないの?」
私がそう言うと、その子はキョトンとした。
「何言ってるんですか。あんな中を一人先になんて行けるわけないですよ」
つまり、彼女は私とはぐれて、私の後を追いかけてきたのだ。
私はてっきり先に行ったと思いこんでいて…
私は少し恥ずかしくなった。
「で、ガングロさんの名前はなんですか?」
その子は訊いてきた。
というかガングロさんって。私の説明を全然分かってない。
恥ずかしさがひいてきた代わりに少しの怒りがこみ上げた。
「私はシャルナ・アーラムギルよ」
私は名前の部分を若干強調して教えた。
その子は頷くと、
「シャルナちゃんですね。なんかかっこいい名前です」
私の名前をクラス表の中から探し始めた。
そして、すぐに
「ありました!」
指を指しながら、声を上げる。
私はその指の方向を辿り、7組のクラス表にたどり着いた。
ということは、
「私と同じクラスですね。よろしく、シャルナちゃん」
その子が私に笑いかけてくる。
その笑顔はどこまでも純粋で可愛くて、同性でもドキッとした。
しかし、私はまだこの子の名前を知らないことに気がついた。
「あなたの名前は?」
「私ですか? 文といいます。日比野 文です」
初めての自己紹介。
異国の人との自己紹介は何も変わらないはずなのにどこか新鮮だった。
「これで友達ですね!」
やっぱりにこやかに笑う彼女。
友達。
これも改めて聞くと恥ずかしくてくすぐったくて、でも嫌じゃなかった。
そんなことをしていると、後ろの方から文句が聞こえてきた。
どうやら前の方にいる私たちがずっと居座っているのが邪魔なようだ。
私たちはそそくさとここから退散した。
ちょっと離れて彼女 ― 文ちゃんは言った。
「じゃあ、私たちのクラスに行きましょう! シャルナちゃん」
そう宣言して、私の手を握って走り出した。
文ちゃんが勢いよく駆けだしたから、私も勢いよく引っ張られる。
引っ張られるときにメガネがずれたが、文ちゃんはそんなことに気付かず、走り続ける。
そこで言わなければならないことに気付いた。
「文ちゃん」
「なんですか?」
「そっちは校舎じゃないわ」
そう彼女はみんなとはまるっきり違う方向へ走り出していた。
文ちゃんはピタリと止まり、私の方を向く。
そして、言う。
「校舎ってどっちですか」
「知らずに走り出したのね」
私は思わず突っ込んだ。



これが私と文ちゃんの出会い。
きっと私が東京に来なかったら、白皇に行かなかったら、あの時隣にいなければ、私たちは友達にはならなかっただろう。
だからこそ私はこの少しぼけててとても可愛い友達との友情を大事にしたいと思う。
だから、これからもお願いね。文ちゃん。



fin


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