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タイトル第19回お題:『それが○○との出会いだった』 (2008/11/17〜11/30) ←批評会はオープン参加
記事No119
投稿日: 2008/11/16(Sun) 20:56
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
お題SSに取り組む前に、以下のルール説明ページに必ず目を通してください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?no=1&reno=no&oya=1&mode=msgview&page=0

なにか疑問などがありましたら、以下の質問ツリーをご覧ください。
そして回答が見つからなければ、質問事項を書き込んでください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?mode=allread&no=2&page=0

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 今回のテーマでは過去補完系に挑戦してもらいたいと思います。
 ハヤテとマリアさんの出会い、咲夜とハルさんの出会い、ヒナギクと文ちゃんの出会い
……などなど、初対面のシーンは各キャラの立ち位置を決める重要な場面であり
ストーリーテラーの腕の見せ所です。さぁ、皆さんはどんな「亡き女を想う」物語を
つむぎだしますか?


【条件1】
 作品の中に、以下の1行を必ず使用するものとします。
   『それが○○との出会いだった』
 「○○」には相手の名前、あるいは「彼」「彼女」「あの子」などの
代名詞を入れてください。

【条件2】
 今回はオリジナルキャラの使用を認めます。主役につかってもOKです。
ただし条件1の台詞を言う語り手キャラと、その対象である出会いキャラのうち
少なくともどちらか一方はハヤテ公式キャラとしてください。
 言い換えますとオリジナルキャラ同士の出会いネタは反則とします。

【条件3】
 えっちなのは禁止です。

(注:オープン参加式ですので、このスレッドへの投稿では作者IDは発行されません)

タイトル私のAngel
記事No120
投稿日: 2008/11/21(Fri) 18:50
投稿者黒獅子
こちらには初投稿となります、黒獅子です。
よろしくお願いします。



ーーー



秒針が時を刻む音がやたらと大きく聞こえる。
いつもより3時間は早く目が覚めてから、この時点まで時計に視線を注いだ回数は優に100回を超えているだろう。
何をやっても落ち着かず、わけもなく家の中をうろうろとし、妻は明らかに迷惑がっているがそれどころではない。
これほど時が経つのが待ち遠しいのはいつ以来のことだろうか。
その原因は、先日尋ねてきた私の元教え子の発言である。
正確に言えばあれは尋ねてきたというより、乗り込んできたという方が正しい。
久方ぶりの再開に感激の抱擁でもあるかと思ったら「約束どおり来たわよ。とりあえず私たちを助けなさい! 」ときたものだ。
まあ、やってきた理由はほかの教え子だったやつが最近そのことで相談に来ていたし、大体予測は付いていたのだが、あいかわらず身も蓋もないやつだ。
しかし、こちらとしてもあのときの約束を守らない気はないし、妻も子供を欲しがっていたから、あいつの提案を拒むことはなかった。
そして今日、あいつの言うことが正しければ私はあいつの妹と会うことになる。
だが気になるのはあいつの態度だ。
妹の話に及んだときは、“世界一可愛い”だの“優しくて誰にも愛される”だの散々褒め称えていたのに、私が会うことを切り出したとたんたった今まで喜色に富んでいた顔が曇り始めた。
私は今すぐにでもといっているのに、何かと理由をつけて先延ばしにしたりしようとするのだ。
そんな自慢の妹なら、あいつの性格からしてすぐにでも見せびらかしたいだろうに。
まあ、あいつのハチャメチャな言動は昔からのことだから深く考えるのはよそう。
いやぁ、しかし待ち遠しい。いったいどんな子が―
そこで鳴り響く、来客を告げるインターホンの音。
押した相手は間違いなくあいつだろう。
その音を聞くや否や、私は玄関へと妻を伴い飛び出した。

「やっほー、お邪魔するわよー 」

こちらが玄関の戸をあけるまでもなく、勝手知ったるといった風にあいつはうちへとずかずかと乗り込む。
そのことをいちいち咎めるつもりはない。
どうせ注意したところで暖簾に腕押しだろうし、そんなことよりもっと重要なことがある。
あいつの後ろにいる小さな桃色の髪の少女、そう今回の主役であるあいつの妹だ。
といっても、いきなりその子に話しかけるのもマナーがなっていない。
はやる気持ちを抑えてまずは元教え子の方に言葉をかける。

「おお、雪路。待ってたぞ 」

「まあ、別に先生には待ってもらってなくてもよかったんだけどね 」

ぶっきらぼうに返す元教え子であり、私の娘になる予定の雪路。
まったく、昔はもっと素直で可愛かったというのに、時の流れとは残酷なものだ。
しかし、ここでいちいち悲観にくれている暇はない。
目的は後ろにいる妹の方なのだから。
早速私は紹介するように促す。

「で、お前の後ろ居る子がそうなんだな 」

「そうよ。ほら、挨拶して 」

「は、はじめまして。ヒナギクです…… 」

“ズキューン”

このときの私の衝撃を擬音に表すとしたら、これほど似つかわしいものはない。
初対面の人相手に緊張しているのか、姉の服の端を摘みながらおそるおそる私たちを覗き込み、震える声で搾り出すように挨拶するその仕草は、何者にも勝る愛らしさがあった。
それはもう、どっかの金融機関のCMで話題になった某チワワなど圧倒するものであると断言する。
なに? その譬えは時間軸がおかしいだと?
そんな苦情は私ではなく、後で批評のときに作者にでも言ってくれ。
逸れた話を戻そう。
なんと言ったらいいのだろう。
その可愛らしさ、愛くるしさは決して語彙が豊富とは自慢できない私であっても、400字詰めの原稿用紙が宇宙規模の量で目の前にあったとしても書き足らないだろう。
そこでなるべく完結に伝わるように極力短く一言にまとめたい。
「天使」…… そう「天使」だ!
これ以上彼女を形容する言葉に似合うものはない。
生きててよかったと、人生で心のそこから思えたのは初めてではないだろうか。
しかし気になるのはそんな私を見る雪路だ。
いったいなんだというのだ、その殺し屋のような鋭い視線は?
仮にも元担任である私に、今すぐにでも隠し持っている銃で頭を打ち抜こうとするような目をするもんじゃないぞ。
まさかとは思うが、私がいかがわしい考えをしているなどと思っているのではないだろうな。
全く、聖職者であった私が如何に天使が目の前に現れたかといってこんな小さな子に……
と、そんなふうにせわしなく思考をめぐらしていると(その間1秒を満たしているかどうか)、妻が微笑みながら天使を褒め称える。

「ちゃんと挨拶できてえらいわね。ヒナギクちゃん♪ 」

「あ、ありごとうございます 」

“チュドーン”

やばいやばいやばいやばい……
妻に褒められ、笑顔を見せる天使。
これほど美しく清らかなものがこの世にあるか? いや、絶対にない!
嗚呼、これから私は毎日この笑顔を見ることができるというのか。
そして“パパ”と呼ばれて、大きくなったお嫁さんになってあげるとかいわれたり、もちろん親子なわけであるからそりゃもう当然に一緒にベッドで眠ったり、お風呂に入ったりするわけで……
女の子はすぐにそういうのを父親とするのは嫌がるっていうと聞いている。
これはもう、一刻も早く親子としても絆を深めるためにもすぐに実行しなくてはならん!
ん? 妻よ、どうしてそんな汚いものを見るような目で私を見ているのだ?
ははは、まさか私が天使に夢中になりそうなので嫉妬しているのかい?
やだなぁ、「生涯僕は君だけを愛し続ける」とあの時給料三ヶ月分の指輪とともに誓ったではないか。
これは“親子愛”(大切なところなので強調)であるのだから全く別物なのであって……
いやいや、どうして小さな声で「やっぱり」などと呟いているのかね?
全く雪路といい、君といい、私を何だと思っているのやら。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではないな。
とりあえず、ここはいい印象を与えて私と天使との距離を少しでも縮めないと。
ふふふ、ここは元小学生教師の腕の見せ所だ。
まずは軽いスキンシップとして天使を抱きかかえて私が茶の間へと……
おいおい妻よ、どうして君が天使を抱きかかええるのだね?
しかもそんなふうに私に背を向けては天使が見えなくなってしまうではないか。
そして雪路、何故今お前は私の耳を引っ張って外へ連れ出そうとするのだね?
しかも「あそこなら誰にも見つからない」などと物騒なことを言って。
私は今おまえの相手をする気は…… ってこ、こら! そんなに強く引っ張るな!
そして妻よ! 頼むから今すぐ私と変わってくれ!
抱っこは我慢するから! ちょっと頭をなでるだけでもいいからぁぁぁぁぁぁぁぁ!

それが私の天使との出会いだった。


ー完ー

タイトル必然じゃないから
記事No121
投稿日: 2008/11/30(Sun) 09:58
投稿者めーき
彼女との出会いは必然じゃなかった。
今でも、そう思っている。
私、シャルナ・アーラムギルと彼女、日比野 文ちゃんの出会いは偶然だった。



必然じゃないから



私がインドからこの東京に来たのは偶然だ。
私は昔からこのインドじゃない国がどうなっているのかをこの目で見たかった。ただ、それだけ。
別に日本じゃなくても、アメリカでもイギリスでもブラジルでもどこでも良かった。
そんな時、たまたま私のクラスに留学の話が来た。
東京の白皇学院というらしい。写真を見せて貰ったら、とても高く、白い時計塔があって、綺麗な校舎があることが分かった。学力も相当高かったけど、この学校でもトップクラスだった私なら何とかなった。世界の言語だって夢のために勉強していた。お金も親に相談したら、何とかなると言ってくれた。
そんなわけで私は海を渡り、日本にたどり着いたのだ。


ファーストコンタクトだって偶然だ。
入学式の日。私は新品の制服を身に纏い、校門から白皇学院を見ていた。
私の目で見る白皇学院は写真で見るよりずっとずっと大きくて、驚いた。やはり自分の目で見なければ分からないこともある。
私は校門を越え、入学式が行われる体育館に向かった。
行き交う途中にたくさんの新入生と思われる人を見た。早足で歩く人、周りを見回しながら歩く人、一緒に並んで、歓談しながら向かう人達もいた。
そして、後ろから追い抜くときに私を見る人が沢山いた。しかし、私に積極的に近づこうという人はいなかった。
それはただ単に人見知りしているからか、肌が黒いのを見て近寄りがたいと思っているか…
『いいか、お前はインド人だ。日本人とは肌の色など違うこともある。
 だから、みんなとは除け者にされる可能性もあるんだぞ」
たった一人で歩く私は留学する前に先生に言われた事を思い出した。
まだ本当に人見知りしているだけかもしれないが、私にはどうしても私の肌がみんなを遠ざけているような気がした。
私は少し足早に体育館へ向かう。
体育館に着くと先生と思われる人が館内へ案内してくれた。
体育館内は外から見る以上に広々としており、野球やサッカーならこの中でできると思った。
私は新入生の並んでいるところへ行った。列はどうやら来た順に横へ並んでいるようで男の子や女の子がバラバラに並んでいた。
私もそれに文句などないので、最後列の人の横に並んだ。
その際に隣の人の姿を盗み見る。
茶色の髪をカチューシャで留めた小柄な女の子。透き通るような肌をしていて私とは全く違っていた。
すると、その子もこっちの方に関心が向いたのか、私を見た。
そのままこっちを見続ける。
その子の目は綺麗でじっと見つめられるとなんだか変な感じだった。
そしてふいに、
「ガングロです」
と言った。
もしかして私のこと?
「今、目の前にガングロなメガネっ娘という新たな流行の開拓者がいます」
どうやら私のことを言っているらしい。というか新たな流行って…
「私は生まれつきこんな肌の色なの」
私はとりあえずそう返した。
するとその子は
「生まれつきガングロギャルなんですか!」
と素で驚いた表情をした。
「違うわ。私はインド人なの」
その驚きに冷静にツッコミを入れると、少し心配になった。
この学校は名門校だけど本当にこの子はここの新入生なのかしら。
「嘘です! 本物のインド人ならいつもターバンを巻いて、カレーをナンに載せて食べているはずです」
「ここで巻いていてもただの変な人よ」
その子の少し大きめな声に何人かがこっちを見る。ここまで食いついてくるとは思わなかった。
それにしても完全な偏見でできた意見だった。今時、インドの都市部でターバンを巻いてる人なんて殆ど見たことない。
そのことを教えてあげるとその子は目を丸くして、ビックリです と呟いた。
「ターバンは絶滅危惧種なんですね」
これは何が言いたいのか何となく分かったから、ツッコミはやめておいた。
そうするとその子はこっちを向いた。
「教えてくれてありがとうございました」
にこやかに礼を言う彼女。
唐突な礼に私は少し驚いた。
そして、入学式が始まる。

式の始まりを待つざわざわとした列の中。
それが文ちゃんとの出会いだった。

式が終わった後、私達、新入生はクラス表が張り出されているところで自分のクラスを確認するようにと誘導された。
皆それに従い、ゆっくりとした歩調で出口へ向かう。
「うわっ」
私は後ろからの人に飲み込まれ、もみくちゃにされる。
押されて、押されて、洗濯機の中の洗濯物ってこんな感じなのかもしれない。
そういえばあの子ように小柄ならもっと大変かもしれない。
私はそう思い、隣を見た。
「あなたは大丈夫?」
しかし、その子はいなかった。
飲み込まれる前まで一緒だったが、やはりはぐれてしまったのか。
いや、ただ単に他の友達を見つけ、人をかき分けてその子と一緒に先に行ったのかもしれない。
そう思うと少し寂しくなった。
自分でもそう思うのはおかしい。そう思ったけれど、ここで話しかけてくれたのはあの子だけだったからその思いは消えなかった。
再び私は一人になって、歩いている。
やがて、流れの止まった所にたどり着いた。やはりそこも人が集まっていたが、他の人が入る隙間ぐらいはあった。
私はするりするりと人の間を通り抜けて、クラス表が見えるところへ。
クラス表は大きな掲示板に貼られていて、首を少し伸ばさなければいけなかった。
1組、2組、3組。私の名前は見つからない。一体どこにあるんだろう。

「私は7組みたいですね」

ふいに隣から声が聞こえた。
隣を見ると、茶髪のあの子が私の隣で一緒にクラス表を見ていた。
どうして、という疑問は飲み込んだ。クラスを見に来ているのに決まっている。
代わりに私は言った。
「先に行ったんじゃないの?」
私がそう言うと、その子はキョトンとした。
「何言ってるんですか。あんな中を一人先になんて行けるわけないですよ」
つまり、彼女は私とはぐれて、私の後を追いかけてきたのだ。
私はてっきり先に行ったと思いこんでいて…
私は少し恥ずかしくなった。
「で、ガングロさんの名前はなんですか?」
その子は訊いてきた。
というかガングロさんって。私の説明を全然分かってない。
恥ずかしさがひいてきた代わりに少しの怒りがこみ上げた。
「私はシャルナ・アーラムギルよ」
私は名前の部分を若干強調して教えた。
その子は頷くと、
「シャルナちゃんですね。なんかかっこいい名前です」
私の名前をクラス表の中から探し始めた。
そして、すぐに
「ありました!」
指を指しながら、声を上げる。
私はその指の方向を辿り、7組のクラス表にたどり着いた。
ということは、
「私と同じクラスですね。よろしく、シャルナちゃん」
その子が私に笑いかけてくる。
その笑顔はどこまでも純粋で可愛くて、同性でもドキッとした。
しかし、私はまだこの子の名前を知らないことに気がついた。
「あなたの名前は?」
「私ですか? 文といいます。日比野 文です」
初めての自己紹介。
異国の人との自己紹介は何も変わらないはずなのにどこか新鮮だった。
「これで友達ですね!」
やっぱりにこやかに笑う彼女。
友達。
これも改めて聞くと恥ずかしくてくすぐったくて、でも嫌じゃなかった。
そんなことをしていると、後ろの方から文句が聞こえてきた。
どうやら前の方にいる私たちがずっと居座っているのが邪魔なようだ。
私たちはそそくさとここから退散した。
ちょっと離れて彼女 ― 文ちゃんは言った。
「じゃあ、私たちのクラスに行きましょう! シャルナちゃん」
そう宣言して、私の手を握って走り出した。
文ちゃんが勢いよく駆けだしたから、私も勢いよく引っ張られる。
引っ張られるときにメガネがずれたが、文ちゃんはそんなことに気付かず、走り続ける。
そこで言わなければならないことに気付いた。
「文ちゃん」
「なんですか?」
「そっちは校舎じゃないわ」
そう彼女はみんなとはまるっきり違う方向へ走り出していた。
文ちゃんはピタリと止まり、私の方を向く。
そして、言う。
「校舎ってどっちですか」
「知らずに走り出したのね」
私は思わず突っ込んだ。



これが私と文ちゃんの出会い。
きっと私が東京に来なかったら、白皇に行かなかったら、あの時隣にいなければ、私たちは友達にはならなかっただろう。
だからこそ私はこの少しぼけててとても可愛い友達との友情を大事にしたいと思う。
だから、これからもお願いね。文ちゃん。



fin

タイトルインド人情報
記事No125
投稿日: 2008/12/01(Mon) 23:07
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
SSの感想ではありませんが、なんともタイムリーなことに
インド人に対する偏見について触れているページを見つけ
ましたので張っておきます。

http://yukawanet.com/sunday/2008/12/post_225.html

タイトル曙光 (しょこう)
記事No122
投稿日: 2008/11/30(Sun) 17:38
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 あれは確か8年くらい前、ウチらが5歳のガキやったころの話や。病気で入院しとったゆっきゅん……ナギの母親のことやけど…
…が退院できたっちゅうんで、帝じいさんのところで退院祝いのパーティーが開かれたことがあってん。ウチら愛沢家も一応は親戚筋
ゆうことでパーティーに呼ばれたわけなんやけど。
「なんやねん、この落書きは」
「ら……落書きじゃないよ、サク姉ちゃん! ナギが一生懸命描いた漫画だよ!」
「漫画やて〜? これがか? まーなんにしてもこんなつまらんもん描いてないで、少しはウチらと外で遊び!!」
 久しぶりに会うたナギが嬉しそうに差し出してきたノートを見て、ウチは思うたことをそのまま口にした。あのころはウチも
ガキやったしな、他の友だちとお喋りしてる最中やったもんで、ナギのことをそのまま放ったらかしてお喋りに戻ってしもうたんや。
ナギは同い年の従姉妹やゆうても妹みたいなもんやったし、友だち作るんが下手なんも知っとったからな。少しくらい冷たくしても
涙をこらえながらウチの背中を追いかけてくるやろ……多分そうタカをくくっとったんやろな。ところがその日に限っては、そうは
ならんかった。
「結婚してください!!」
 甲高い子どもの声がホール一杯に響き渡って、会場のざわめきがピタッと止まる。ウチらが視線を向けた先には、嬉しそうに
繋いだ手をぶんぶんと振り回すナギと、そのナギと手をつないだまま困ったような様子で手を振られるままになってる和服の
女の子の姿があったんや。
「なんだなんだ、結婚って言ったか、いま?」
「あれ三千院家のご令嬢だろ、結婚相手を決めるとなったら一大事だぞ」
 パーティー会場がざわざわと騒がしくなる。ウチはお喋りを中断して、ナギのほうに歩み寄った。
「なんやなんや、どないした?」
「サ、サク姉ちゃんなんかに用はないのだ! 私はやっと本当の親友を見つけたんだから!」
「本当の親友やて?」
 得意そうに胸を張るナギの背中に隠れるようにしながら、その和服の子はチラチラとこっちに視線を送っとった。キラキラと輝く
ナギの瞳とは対照的に、その子の真っ黒な目は吸い込まれそうなくらい深く沈んだ色をしてたんを今でもよぉ覚えてる。まるで深海魚
みたいな目、いうんがウチの第一印象やったしな。
 そう、それが伊澄さんとの出会いやった。


「なんや、ナギが自分で友だち作るなんて珍しいやん。何があったんや? この子と」
 結婚うんぬんはひとまず脇に置いて、ウチとしては友好的に話しかけるきっかけを探ってみた。自分ではそのつもりやったんやけど。
「サク姉ちゃんには関係ない!」
「な、なんやて?」
「あ、あのぉ……」
 いきなり強気になったナギと、その陰に隠れてオロオロしとる伊澄さん。それ見たウチは思わずカチンときた。妹分やと思うてたナギが
急に生意気になったんも面白なかったし、ウチを差し置いてえらんだ本当の親友っちゅう子が言いたいこともよぉ言わんグズやっちゅうのも
ムカツキの元やった。なんせウチの周囲におった友だちは芸人みたいに口がよぉ回る子ばっかりやったしな。
「はん? なんやの、挨拶もよぉ出来へんのか? なんとか言うてみたらどないやねん、えぇ?」
「あ……う……えっと……」
「こんなヤツのことなんか気にしなくていいのだ! さぁ行こう、さっそく“こんいんとどけ”を作らなくちゃ!」
「なっ……こんなヤツやと! ウチのことシカトする気ぃか! こら、待たんかーい!!」
 そのまま手を繋いで奥の部屋へと去っていくナギと伊澄さんの背中に、ウチは思いつく限りの悪態をついた。もうナギになんか親切に
してやるもんかと思うた。ウチからナギを取っていった和服の子のことを心の底から嫌いになることに決めた。その子のことを生涯の仇敵と
してメモっといたろうかとすら思うたわな。
 逆恨みもええとこやと今やったら分かるんやけど、ウチもほんまにガキやったし……とにかくそんな感じで、ウチと伊澄さんの
出会い方は最悪やったんや。


    *  *


 それから2ヵ月後、退院したはずのゆっきゅんが亡くなった。ナギは可哀そうに、5歳にして独りぼっちになってしもたわけや。
 本当やったらすぐにでもナギのとこに行って慰めてやらなあかんはずやった。そやけど当時のウチはパーティーで喧嘩したことを
まだ根に持っとったし、それにお母ちゃんがちょうどお産の時期にさしかかってて……ちゃうちゃう、こないだ会ぅた日向の
ことやのぅて、その2つ下の夕華のことや……お母ちゃんの代わりに妹や弟の面倒みなあかんとか、いろいろ忙しい時期やったのを
口実にして、ナギの方を放ったらかしにしてしもうたんや。
 それでもまぁ、心のどこかに引っかかってたんやろな。ゴタゴタが一段落した頃になってから仲直りしようと思うて、アポなしで
ナギのお屋敷に行ってみたわけなんやけど……てっきり暗い顔で落ち込んでると思うてたのに、当のナギは全然そんなこと無かったんや。


「きゃははは、ほら見ろタマ、この不細工なやつがエヴァ量産機だぞ……あれ、サク? ずいぶん久しぶりだな。ちょっと忙しいから話は後でな」
「あ、あぁ……それはええんやけど……」
 数ヶ月ぶりに会ったナギは気持ち悪いくらいに普段どおりやった。いつもみたいに1人でアニメ見て、大笑いしながら設定にケチをつけとった。
 いつもと違うとこと言うたら白い子ネコみたいな動物を膝に抱いてることと、ゆっきゅんが好きやったチェックのストールを肩に巻いとること。
 まぁ無理に母親のこと思い出させて悲しい思いさせるのもアレやし、元気にやってるんやったらいいか……とか思うたりもしたんやけどな。
「ちょー待てぇっ! のんきにアニメ見てる場合か、さっさとそいつから離れんかい!」
「わっ!! なんだサク、いきなり大声出して、うちのネコがどうかしたのか?」
「いやいやネコって! 丸々3行ツッコめへんかったけど、それってトラや、トラ! タイガー!!」
 多分あんたやったら、あのときのウチの気持ち分かると思うけどな。ナギのほうは至って平然としたもんやった。
「トラ? ははは、バカだなぁサク、これがどうしたらトラに見えるんだ? これはネコだろ、正真正銘の」
「違う違う違う、ボケとるんはあんたのほうや! 目ぇ覚まさんかい!」
「子どものネコとトラを見間違えるなんてどうかしてるんじゃないか? これはアフリカで拾ってきた由緒正しいホワイトタイガー猫だ。
最近流行の手乗りタイガーだぞ」
「いやいや、タイガーって自分で言っとるし!」
 まぁ今にして思えば、タマは図体こそ大きいけど振舞いは完全に普通のネコやしな。結果的にはナギの言い分が正しかったっちゅうか…
…え、なんでそんな微妙な顔してるん?
「それに伊澄もネコだって言ってたしな。だからこの子はネコなのだ。私はこいつのお母さんになってあげるって決めたのだ」
 また伊澄か。忘れかけてた忌々しい“親友”の名前を耳にして、ウチはいっぺんに気分が悪うなった。ナギの呼び方がいつの間にか
『サク姉ちゃん』から呼び捨てになってるんも気づかんほどにな。


 母親を亡くしたナギが伊澄さんと一緒にアフリカ旅行に行って、そこでその白いネコを拾ってきたんだという話を聞かされたウチは、
なんか除け者にされた気がしてムカッ腹を立てた。せっかく来たったのに早々と立ち直ってしもてるナギのことも不愉快やったし、
ウチ抜きでそれをやってのけた伊澄さんのことも妬ましかった。身勝手もここに極まれりって感じやけどな、今にして思うたら…
…え、羨ましいって? 自分が子どものころは世話を焼いたり焼かれたりする友だちなんておらんかったからって? あ、いや、
あんたの古傷をえぐるつもりは無かったんやけど……。
 こほん。
 そ、そういうわけでナギがアニメに戻った後、一言いうたろと思うたウチは伊澄さんを探しに出たわけや。あいつの漫画部屋で
伝説の長編を読みふけってる、そうナギが言うたもんやからな。ところがそこには誰もおらんかった。当時はまだ伊澄さんの迷子癖を
知らんかったから、えらい驚いてあちこちを探し回ったんや。結構あちこち歩き回ったと思うで、子どもの感覚でも疲れるくらいやったし、
ようやく伊澄さんを見つけた頃には日が暮れかけとったからな。
 結局そのとき、伊澄さんがどこにおったんかと言うと……。


    *  *


「臨・兵・闘・者……はっ?!」
「やっと見つけたで、なんでまたこんなとこに……って、なんやこれは!」
「え、あ、あのぉ……」
 伊澄さんが隠れとった場所は、あのカキの木の脇を流れとる河を上った先にある山奥の納屋やった。ウチが扉を開けた途端に白い煙が
モクモクと飛び出してきて、その奥で赤々とした炎が燃えとったんや。山火事を起こす気ぃかと思うたウチは大声を出した。
「どういうつもりや! あんた伊澄いうたか、こんなとこで火遊びなんかして、火事になったらどないするんや!」
「あ、いえ、これは火遊びじゃなくて、タマに話をさせるためのお札を作ってただけで……はっ?」
「え、タマの?」
 意外な名前が出てきて絶句するウチの前で、言葉を切った伊澄さんはいきなり土下座してきた。
「ごめんなさい! ごめんなさい、何でもしますからこのことはナギには言わないで!」
「へ?」
 煙が晴れてきて、ようやくウチの目にも納屋の様子が分かるようになってきた。たしかに伊澄さんの言う通り、干し藁とかが燃え上がっとる
状況やなかった。納屋の床には白木の枠に載せられた白いお皿と、そこに注がれた油とロウソクがあって、それにあぶられた護摩木が
煙の発生源やったんや。でもそれやったらナギに怒られることもあれへんのに……とウチがぼんやり思うた途端、伊澄さんは堰を切ったように
言い訳を始めたんや。
「お願いします、ナギにだけは内緒にしてください! ナギはたった一人の大切な友だちで、お母さまを亡くされた可哀そうな子で…
…だから私、ナギのためだったら何でもしてあげたいんです」
「えっと……なんでも、言うても、なぁ?」
 拳の振りおろしどころが無くなって、ウチは視線を泳がせながらほっぺたを掻いた。トラに話をさせるって、そりゃ無茶やろ……あ、でも
この子、あのナギと意気投合するような子やったもんな。喋るトラとか空飛ぶブタとか、訳の分らんこと言い出すんも無理ないか……そう
ウチが考えとるうちにも、伊澄さんの言い訳は続いた。
「お願いです! このことを知られたら私は……あの子を2度も怖がらせるようなことだけは、どうか……」
「こ、怖がらせる? 伊澄……とか言うたよな、どういうことや?」
「私はあの子を傷つけてしまったから……だからお母さまの分まで、ナギのことを支えてあげなきゃいけないんです! あの子は初めての
友だちだから、大事な大事な友だちだから……だから、どうか……」


 三つ指ついて平伏したまま、伊澄さんはすすり泣きを始めた。それを立ったまま見下ろしとったウチは……ついさっきまでの怒りとか
ムカツキが、潮を引くみたいに消えていくのを感じたんや。
 かなわへんなぁって。
 この子、本当にナギのことが大事で……ナギがああやってアニメ見て笑ってられるんは、この子が頑張ってくれたおかげなんやなぁって。
 ゆっきゅんが亡くなってぽっかり空いた心の穴を、この子とタマが一生懸命に埋めてくれたんやなぁって。
 トラに喋らすとかアホなこと言うてるけど、それがこの子なりのナギへの接し方で……それでナギが笑えるようになったんやったら、
文句つけることないわなぁって。
 あいつのこと放っといたウチなんかが、いまさら口をはさめる訳あれへんよなって。
「伊澄……さん、ゆうたっけ。ごめんな、大声だして」
 呼び捨てのままやったら怒鳴っとった頃の流れを断ち切られへん気がして。ウチは言葉づかいを丁寧にしながら、伊澄さんの前にしゃがみこんだんや。
「ウチが悪かった。あんたの気持ち、よぉ分かったから……ナギにはこのこと内緒にしといたる。それでえぇか?」
「本当?」
 和服の袖で涙を拭いながら、伊澄さんは不安そうに顔をあげた。その顔を見てウチは決心した。もう意地悪は終わりや。今まで誤解して
勝手に怒ってた分、この子には思いっきり優しくしたろうってな。
「ほんまほんま。そやから土下座なんかせんでええねん。ほら立ちや」
 いままでの嫌味やった関係は今日限り、これから一緒にやり直したる。そう思うたウチはとびっきりの笑顔を作って、伊澄さんの前に
手を差し出した。
「ウチは咲夜。ナギの従姉妹で、今日からあんたのマブダチや」


 え、『いい話ですね』って? そんなことあるかい、相手はあの伊澄さんやで?
 あそこでウチと握手してくれたら美しい友情話にでもなったんやろけど、違うんや。伊澄さんはウチの手をとるどころか、逆に汚いものに
出会ったみたいにピョンと後ろに飛んで逃げて、そんでまた土下座して言い訳しだしたんや。
「ごめんなさい、それだけは……どうかそれだけは……」
「な、なんやの、ウチと友だちになるんは嫌なんか?」
「だってお友だちになったら、あなたと“けっこん”しなきゃいけないんでしょう? 私にはナギがいるから……」
「はぁ?……って、なんでやねん!」
 伊澄さんのボケとウチのツッコミが初めて噛み合った瞬間やったな、あのときが。


Fin.

タイトル第19回批評チャット会ログ
記事No123
投稿日: 2008/12/01(Mon) 00:54
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
11/30(日曜)に開催された、批評チャット会のログを公開します。
 今回は黒獅子さんが初参加で、しかも参加作品がみなハイレベル。
とても初めてとは思えないくらいスムーズに会話を進めることができました。
「また参加したい」と言ってもらえて嬉しかったです。

http://soukensi.net/odai/chat/chatlog19.htm