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ラブ師匠VS恋愛コーディネーター

初出 2011年04月11日
written by 双剣士 (WebSite)
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********* 地下迷宮編 第3話『暗闇の悪魔とボーイミーツガール』(Side−N) ********

 さて、招かれざるクラスメートたちのお陰でミコノス島で最初の夜を不本意極まりない表情で過ごすことになった三千院ナギであるが……トイレに行った帰りにふと宝物庫に立ち寄ってしまったことを契機に、いつのまにか暗闇で1人たたずむという一層不本意な状況に陥っていた。
「ふ―――しかし、なんなのだ? ここは……」
 宝物庫に置かれていた怪しげな押しボタン。『押しちゃダメだぞ♥』という貼り紙に誘われてそぉっと押してみたところ、床が抜けて転落した先は石造りの地下迷宮。一時期ここに住んでいたころには別荘の地下にこんなのが隠されていたなんて知らなかったし、マリアもクラウスも教えてくれなかった。あの貼り紙からして母は知っていたようだけど。
「ハムスターはクノッソスの迷宮がこの近くだって言ってたけど……まさかそこに通じてるとか? ははは嘘だろ、ミノタウロスがここに封じられてるなんて……」
 伝説の怪物など現実には居ない、そう心の中でつぶやいても身体の震えが止まらない。見知らぬ暗闇で独りぼっちという心細さも拍車をかける。ついさっきまでは呼んでもいないお邪魔虫どもが大勢いたのに何で今は誰もいないんだ、とナギは恐怖を文句で誤魔化そうと試みたが、ツッコンだりフォローしてくれる人は誰もいなかった。受け手のいない言葉は少女の未来を暗示するように、奥深い迷宮の闇へと吸い込まれ消え去っていってしまった。
 一緒に迷宮に落ちてきた西沢歩は、いまは傍にいない。水溜まりの奥が海に通じてるか見てくると言って、1人で潜って行ってしまった。脱出ルートを見つけるのが最優先だと思ったから唯一の懐中電灯もあいつに持たせた。そのこと自体に後悔はしてないけど……考えてみれば自分は今、すがるものを全部手放してしまったのかも……。
 カツーン
「…………!!!」
 ふと暗闇の奥で物音がした気がして、ナギはビクッと身を震わせた。こんな地下迷宮に一般人が入り込むわけがないし、風や鳥の羽音とも思えない。自分とハムスターの他に誰かいるとすれば、それは自分たちを探しに来た誰かか……あるいはこの迷宮に大昔から住んでいた、得体の知れない何者か。
「ハ、ハヤテ……?」
 前者の可能性にすがる思いで、恐る恐る振り返る。だが返ってきたのは少年執事の優しい声ではなかった。思い人の気配とは明らかに違う、頭から何かを生やし両腕を広げた何者かの気配。それがみるみるうちに、圧倒的な存在感を持って三千院ナギの方へと迫ってきていた。こうなっては少女のやせ我慢など、金魚すくいの紙にも等しい。
「にゃああああああ!!!」
 涙を浮かべたナギは悲鳴を上げて駆け出した。彼女に迫る黒い影の正体が幼いときに結婚の約束を交わした相手であることなど、このときのナギには想像できるはずもなかった。


「ぶはっ! やっぱりカンは当たってたよナギちゃん!! この下、外に……」
「はっ!……」
「つながって……」
「…………」
「…………」
 ナギが逃げ出してから数分後。脱出路を見つけて水溜まりに引き返してきた西沢歩の前にいたのは、ナギと入れ違いにこの場所へとやってきた少年執事であった。対する歩の格好は一糸まとわぬ全裸である。
「きゃっ!! ハハハ、ハヤテ君!!!」
「えっと、その……ス、スミマセン……」
「い、いやその……助けに来てくれてありがとう……」
 真っ赤な顔で背中を向け合いながら暗闇の中でぎこちない会話を交わす2人の男女。彼らの頭の中は嬉しさと気まずさと恥ずかしさがミックスされた甘々エキスが音速を超える勢いで駆け巡っていた。原作ではページ数の壁で覆い隠された2人の心理、一部ではあるが読み取ってみよう。
「あわわ西沢さんがなんでなんでこんなとこに裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸いや消さなきゃ忘れなきゃ西沢さんに失礼でも胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸胸けっこうあったり何考えてんだ僕のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ忘れようでないとでも全裸全裸全裸全裸全裸全裸いやそんな場合じゃない僕はお嬢さまを探さなきゃでも西沢さんをここに置いとけないし助けてあげなきゃ裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸……」
「うわ見られちゃったよハヤテ君に全部全部全部全部全部全部見られたよね覚えられたよね変態だと思われたよね2人きり2人きり2人きり2人きり2人きりでも見られたのがハヤテ君で良かったって言うか遅かれ早かれそうなるんだからって言うかうわー私なに考えてんだろバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカでもどう思われたかなハヤテ君すこしは意識してくれたのかな違う違う違う違う違うそうじゃなくてどうしよう謝られても困るしお粗末さまって言うのも変だし暗くって見えなかったかもしれないしいやでもライトライトライトライトライトが当たってたから裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸……」

 ……話が進まない上にキーボード叩きながら首を括りたくなってきたので、この辺で勘弁してもらいたい。
「ハヤテ君!!」
「あ、着替え終わりましたか西沢さん」
 一時の混乱からようやく抜け出した2人の男女は、ナギたちとの合流を目指して地下迷宮を移動し始めた。全裸……もとい、全力で。
「西沢さんのことも僕が守りますから、一緒にお嬢さまを探してください!!」
「あ……う、うん」
 当然のように差し出されたハヤテの手。それは歩にとって、彼が潮見高校の同級生だったころには触れたくても触れられなかった手のひらである。少女は先ほどとは別種のドキドキに胸が高鳴るのを感じながら、差し出された手を握って地下迷宮を駆け出したのだった。

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