ハヤテのごとく! SideStory
ラブ師匠VS恋愛コーディネーター
初出 2012年04月01日
written by
双剣士
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********* 地下迷宮編 第4話『想いの天秤』(Side−N) ********
地下迷宮の暗闇を全力で逃げ回っていた三千院ナギは、助けに来た桂ヒナギクと合流し、ミノタウロスの亡霊……もとい迷子のウサ耳幼馴染とも再会を果たしていた。
「とりあえずハヤテ君と歩を見つけないとね」
「そ……そうだな」
心細さから開放されて、ようやく生来の利発さを取り戻したナギ。だがそうなると、少々わがままな不満が彼女の胸に浮かんできた。ハヤテが助けに来てくれたのは嬉しいけど……どうしてあいつはハムスターのほうに行っちゃったんだ。なんで一番心細いときに私のそばに居てくれないんだ。今日の昼間だって一緒にいてくれなかったし。
「とりあえず、ここを脱出するためにハヤテ君たちと合流したいんだけど……」
「そうだな。ハムスターのことも心配だしな」
ヒナギクの提案に対する相槌に、知らず知らず険がこもる。歩のことが心配でないといえば嘘になるが、それより彼女がハヤテを独占してる事実のほうがムカついて仕方なかった。あのハヤテのことだ、きっと今頃また余計なフラグを立てているに違いない。なにせ相手はあの泥棒ハムスター……
《……いや、違うな》
この地下迷宮に落ちる前。一緒にトイレに行った帰りに彼女が見せてくれた純粋な笑顔が、暖かい気持ちと共にナギの脳裏に思い起こされた。この旅行に来て以降、次から次へと知り合いの女たちが群がってきて自分とハヤテの仲を邪魔する、そう思って拗ねてきたけど……あいつの笑顔はそうじゃない。日頃から財産狙いの親戚たちに囲まれて育ったナギには分かってしまう、澄み切った言葉と腐臭のこもった社交辞令の違いくらいは。
『だからありがとう。連れてきてくれて』
『……ギリシャ、まだあんまり回ってないだろ?……だったらこの後の旅行で、少しだけ一緒に案内してやるよ』
何の気なしに出してやることになった福引の旅行券だけど、あんなふうに真正面からお礼を言われたら照れるじゃないか。サービスのひとつもしてやりたくなるじゃないか。
《……まぁいい。ラッキーでハヤテと2人きりになることくらいは許してやる。さっさと返せよ、ハムスター》
胸の中でこっそりと踏ん切りをつけた三千院ナギは、伊澄たちと一緒に地下迷宮を歩き始めた。それは当初『誰の邪魔も入らない完全無欠の海外バケーション』を志していた引きこもり少女の気持ちが、ちょっとだけ揺れ動いた瞬間だった。
一方で、そのラッキーをかみしめながら地下迷宮を走る少女の気持ちは複雑だった。
《ハヤテ君は、やっぱり優しいなぁ……けど今、ハヤテ君にとっての1番はナギちゃんだよね……それは……少し妬けちゃうかな?》
先に立って走る男の子の気持ちが、今この場にいない女主人のほうに向いていることは歩にだって分かる。ゴゴゴゴッと迷宮の奥から妙な音が響いてくるこの状況では、我儘を言えないのも分かってる。だが旅先で好きな人に手を引いてもらう、少し前までは想像も出来なかったロマンチックな展開が少しでも長く続いて欲しいというのも偽らざる彼女の気持ちだったのだ。
《ハヤテ君は、ナギちゃんのことが本当に大事なんだよね……愛情なのか忠誠心なのかは知らないけど》
できれば後者であって欲しい。だが危機に見舞われている年下の女の子相手にそんなことを考えてしまう自分が、ちょっと恥ずかしく思えてしまう西沢歩16歳なのであった。乙女心は複雑怪奇なのだ。
「……あっ……」
そんな彼女の手から、少年の指先がふっと離れる。物思いにふけりかけた歩が顔を上げた先では、倒壊する石柱に向かって疾風のように飛び込んでいく少年執事と……そしてその胸に抱かれて飛び出してくる、金髪の少女の姿が映った。歩はほっと胸をなでおろすと共に、先ほどまで身体の奥に巣食っていた灰色の思いを激しく首を振って外に追い出した。
「大丈夫ですか? お嬢さま」
「うん。ありがとうハヤテ」
「いえいえ、助けに来るのが遅くなって申し訳……」
そしてお約束のように倒壊する石の下に埋もれるハヤテ。だが程なくしてそこから自力脱出した少年執事は、一同が揃ったことを確認すると頼もしく迷宮からの脱出を宣言した。
「とりあえず少しは収まってきたみたいですけど、いつまた崩れ始めるか分かりません。なので早くここを脱出しましょう!!」
「あっ……」
ごく自然に手を握られて、西沢歩は頬を赤くした。収まりかけた心臓の音が再びバクバクと鳴り始める。だがそんな2人の仕草を小さな女主人が見逃すはずもない。
「ていうかお前、そう言いつつなんでハムスターの手を……」
「愛情の差かな?」
「なっ!!」
その場の勢いとはいえ、先ほどの二者択一に答えが出たような気がして、つい軽口を叩いてしまう。もちろん本気でナギと喧嘩したかったわけじゃない。冗談冗談と少女の勘気を静めようとしかけた歩だったが、少年執事の弁明のほうがそれより早かった。
「べ……別に深い意味はないですよ!! 西沢さんはか弱い女の子なんですから守ってあげないと……」
「なら、いいけど……」
意外にあっさりと矛を収めるナギの様子に拍子抜けをする歩。だが今は、そんなことを突っ込んでる場合じゃない。
「さ、そんなことよりもお嬢さまも早く!!」
左手でナギの手を握るハヤテ。そうしつつも自分の手を離さずにいてくれたことが、歩はちょっぴり嬉しかったりするのだった。
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