ハヤテのごとく! SideStory
ラブ師匠VS恋愛コーディネーター
初出 2010年01月18日/再公開 2011年04月02日
written by
双剣士
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************* ラスベガス編 第6話『アジテーター』(Side−N) *************
「けど……本当に良かったんですかね?」
「なにが?」
「ですからその……やはり一緒に暮したほうが……」
ラスベガス決戦を勝利で終えた後。橘ワタルと貴嶋サキは、熱気を冷ますためにホテルまでの道をとぼとぼと歩いていた。望み通りの結末とはいえ母子の仲を裂く形になったことを気に病んだサキは遠慮がちにそうつぶやいたのだが、ワタルからは思わぬ返答が返ってきた。
「向こうにその気がないんだから無理だろ?」
「え?」
「だって考えてもみろよ。25%の確率で当てられるって奴が、あんなチマチマ賭けてどうするよ。あんなの勝ちをズルズル先延ばしにしてたのは見え見えじゃんか」
離れてはいてもさすがに親子。ワタルには美琴の本当の気持ちが、手に取るように読めていたのだった。
「あの人に……オレと一緒に住む覚悟なんてないのさ」
「ふぅ〜ん、そうだったんだ……」
そしてホテルに戻った後。ホテルの電話から朝風理沙の携帯に向けて掛かってきたお礼の電話を引き取る形で、西沢歩はギャンブル勝負の顛末を聞いたのだった。
「でもそれで良かったのかな? ワタル君」
「いいもなにも、一番おさまりのいい結末になったんだから納得するしかねーじゃん。母ちゃんも含めてさ」
「それって……寂しくない?」
根っから普通の家庭に育った西沢歩には、息子と一緒に暮らすのを怖がる母親というのがどうにもピンとこない。それを当り前のように受け止める少年の気持ちも彼女には良く分からなかった。サキさんのために無理して強がってるんじゃないかな、そんな推測もこめて水を向けてみたのだが……。
「寂しいなんて言ったらパチが当たるだろ。今回はサキとか咲夜とか、いろんなやつの力を借りて勝てたんだもんな……ねーちゃんにもさ」
「う、ううん、私なんて……」
「いや本当。直接なにかしてくれたんでなくてもさ、遠くからでも自分のこと心配してくれる奴がいてくれるって、やっぱり嬉しかったよ。ありがと、ねーちゃん」
「ワタル君……」
ワタルの言葉に胸を熱くする歩。こんな子が幸せになれないはずがない、と善人な彼女は思った。そしてワタルの母親の方には自分たちのように支えてくれる人はいたのかな、ふとそんな疑問が頭をかすめたのだった。息子すら自分の傍におけない母親というのは、実はとっても臆病で寂しがりな人だったのかもしれないな、と。
「……ねぇ、ワタル君。お母さんはどうして、ワタル君にそんな勝負を挑んだのかな?」
「はぁ? 知らねーよ。たまたまオレたちが近くに来たから遊んでやろうってだけだろ? あの人なりのやり方でさ」
「でもさ、一緒に暮らそうって突然言いだしてサキさんを首にするとまで言って、一緒に来てた子にストリップまでさせて……それが全部ワタル君をからかってるだけなんて……」
「好きな子をいじめる小学生みたいな心境だったんじゃね?」
「そうかな……」
恋愛コーディネーターの脳内コンピュータが鋭く回転する。ワタルの母親の行動はどのプロファイリングにも当てはまらない、支離滅裂な行動のように歩には思えた。ワタルを挑発して勝負させた上に負けられない理由をどんどん積み上げていく勝負師の顔と、息子と暮らすのを怖がったり2万円ずつ小刻みに賭けていく臆病者の顔。そう、まるで……ワタルの母親の中に、2つの人格があるかのよう。
《もしワタル君の言うお母さん像が当たってるとしたら……これお母さん自身の発案じゃないよね。ひょっとしたら誰かが、お母さんにワタル君と勝負するよう吹き込んだんじゃないかな?》
確信というにはほど遠い、かすかな疑問。だが後になってみればこれが、西沢歩が自分に敵対する扇動者の存在を察知した最初の事件になるのであった。
そして、ワタルとの電話を終えた後。
「おぅ、どうだった歩君、ワタル君の様子は?」
「なんとかギャンブルに勝てたそうですよ。意外とあの子、強運の星の下に生まれてるんじゃないかな?」
「そうかそうか。きっとウチの神社の御利益があったんだな。歩君が今回の旅行を当てたのもそうだし」
「あのときのことは思い出したくもないわ。なんで私がカエルなんか……」
「ん?」
「わぁあっ、ヒナさんストップ、そのことは内緒でしょっ!!」
ワタルたちと釣り合いをとるかのような生徒会長の不幸は、早くも日本を発つ前から始まっていたのだった。
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ラブ師匠VS恋愛コーディネーター・ラスベガス6
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