ハヤテのごとく! SideStory
ラブ師匠VS恋愛コーディネーター
初出 2010年01月13日/再公開 2011年03月31日
written by
双剣士
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************* ラスベガス編 第4話『思わぬ伏兵』(Side−N) *************
ワタルの運命を決める一夜のギャンブル。橘美琴と貴嶋サキのポーカー対決は、観客の期待に違わぬ好勝負が展開されていた。ただしそれは抜きつ抜かれつの鍔迫り合いという意味ではなくて、一歩一歩着実に美少女の白い肌が露わになっていくという形で。
「そのバニースーツは勝負に負けると自動的に服のあちこちが破れていくという、NASAの新技術で作られているのだぁあ!」
「いらんわぁああ!! なに無駄なハイテク素材開発しとんねんNASAのボケはぁあ!!」
「なるほど、NASAの新素材か……」
「なんという説得力ある設定なんでしょうね」
「あるかぁあ!! お前らも感心しとらんとちったぁ抗議せんかい!!」
「ギャンブルってホント理不尽よね〜」
《他人事みたいにいうなハゲ――!!》
真っ赤な顔で抗議する愛沢咲夜の声は、ラスベガスの喧騒に飲み込まれる。異国で繰り広げられる勝負の熱気は、ジワリジワリと咲夜の身を侵食しつつあった。自分はひょっとして取り返しのつかないことをしてしまったんやないか、そんな不安が白い肌をいっそう紅潮させる。イラストのない文字だけの展開とはいえ、これだけ恥ずかしがってくれれば筆者の指先にも気合が入るというもの。
《あかん……全米だけやのぅて、作者や読者までウチの敵とちゃうの?》
しかし神ならぬ咲夜の目には、海の向こうで身体をゾクゾクと震わせる年上少女の存在までは映っていないのだった。
一方、やはり海の向こうではあるが全然別の方角では。
「やや、見てくださいシャルナちゃん。なんだか青ざめた人がいますよ、きっとゾンビですよシャルナちゃん」
「…………」
「あ!! 無視しましたよシャルナちゃん!! この人ノリ悪いです」
別の意味で不機嫌な少女に向かって、世界一空気を読めない元気印の下級生が容赦ないボケ突っ込みを繰り返していた。
「ははは。でも文ちゃんはヒナさんの知り合いだったんだね」
「ふぁい!! この人は文の学校の生徒会長さんです!!」
「けどこの飛行機に乗ってるって事は……文ちゃんもあの賞品が当たったのかな?」
「いえ、文もシャルナちゃんも金持ちなので、あんな賞品に頼らずとも海外に行くことが出来るのです」
「あ、そう……」
トルコに向かう飛行機の席で偶然出会ったのは、クイズ大会で西沢歩とデッドヒートを繰り広げた日比野文。温厚な歩ですら鼻白む傍若無人ぶりに見えるが、当人は別に喧嘩を売ってるつもりはない。思ったことをそのまま口に出してしまうタイプというだけなのだ。
「じゃ……じゃあもしかして旅行も、トルコ・アテネっていう私たちのコースとは違うのかな?」
「はい。文たちはイスタンブールからシルクロードを伝いインドに行く予定です」
「シルクロード? て事はもしかして、それって陸路なの?!」
文の話す大胆プランに心の底から仰天する普通少女。できるできない以前に、そういうのに挑もうという根性がすごい。いささか気押された歩は常識人らしい懸念を投げかけた。
「で……でもそんなすごい旅行……怖くはないの?」
「たしかに恐ろしいですが……怖がっていては何も新しい発見などないのです」
「文ちゃんはチャレンジャーなのね」
「ふぁい!! 文はいつだってチャレンジ精神を忘れないのです!!」
自宅警備員の兄を反面教師に持つ元気少女の言葉には異様な説得力が込められていた。それを聞いて西沢歩は、日比野文についての印象を修正しなきゃと思った。礼儀知らずでハチャメチャな子かと思ってたけど、それに伴う失敗やトラブルを全部背負いこむだけの覚悟とパワーがこの子にはあるんだな、と。
「ワタル君に分けてあげたいな……」
「へ? お姉さん、いま誰かの名前言いましたか? ひょっとして彼氏?」
「あ、いや、弟みたいなものなんだけどね……文ちゃんみたいな自信と強運が、あの子にもあったら良かったのになと思って」
「ふぁい、だったら今からでも分けてあげるのです。どうせ向こうに着くまでは運なんて要らないのです。飛行機が落ちない程度の最低限の運だけあればいいですから」
「ちょ、その運まで手放すのはやめて、お願い!!」
こうして無敵の生徒会長の情けない叫び声が、エコノミーシートに響き渡ったのだった。
そして、ラスベガスの勝負もいよいよ終盤。
「さぁ、ルーレット対決も大詰め!! 先に100万円に達したほうが勝ちというこの勝負、果たしてその行方は?!……現在のポイントは美琴さま93万円、ワタル坊ちゃん51万円!! 美琴さまの圧倒的リード!!」
そう景気良くアナウンスする一条。だが掛け金に上限のないギャンブルでは、途中経過など大した意味はない。むしろ彼は心の中で、予想とは全く違うここまでの状況に戦慄していた。
《バカな……美琴さまと対峙していながら、元金の50万円を失わぬどころか、わずかに増やしているだと? ありえん!!》
ルーレットは客同士の奪い合いではなく、あくまで客とディーラーの勝負。だから美琴とサキの両方が勝ってチップを増やすことは原理的には十分ありうる。だがそれは通常の場合ならば、だ。ラスベガスの魔女と1対1勝負を挑んだ者は、これまで例外なく勝負運を吸い取られて奈落の底に突き落とされるのが当然のはず。確かに勝敗の数では美琴が圧倒しているし、それに合わせてバニースーツが破れていくおかげで表面上は圧倒的形勢に見えるけれども……元金が減っていないということは、多く小さく負けながらも要所要所では当てているということなのだ。
《なぜだ……サキ君にそんな器量があるとは思えん。美琴さまに匹敵する豪運の持ち主が、明らかに向こうに手を貸している……いったい何者が?!》
カジノの観客席を鋭く見渡す一条。しかしさすがの彼にも、空の彼方から強運を送りこむ未来の生徒会長の存在を感知するのは不可能であった。
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