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ラブ師匠VS恋愛コーディネーター

初出 2010年01月12日/再公開 2011年03月30日
written by 双剣士 (WebSite)
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************* ラスベガス編 第3話『賭けるもの』(Side−L) *************

 橘ワタルの運命が決まる勝負の朝。愛沢家のラスベガス別宅で朝食を済ませた愛沢咲夜は、黒塗りのキャデラックに乗ってワタルたちの泊まっているホテルへと向かっていた。後部座席に座る愛沢家長女に、別宅の留守を預かる老執事が助手席から問いかける。
「咲夜お嬢さま、本当によろしいのですか? カジノが開く時間にはまだ早いようですが……」
「ええねんええねん。どうせ夕方まで放っといたかて、あいつら観光する余裕なんかあれへんやろうしな」
 ワタルの性格からして『ツキを無駄遣いしたくない』と開始時間までホテルの一室に閉じこもりかねないが、そういう貧乏性では大勝負に勝つことなど出来っこない。雰囲気に慣れる意味でも勝ち癖をつける意味でも、陽が高いうちからカジノに入っておくべきだ、そう彼女は快活そうに笑った。
「ほら、素人観光客向けのカジノとか空港の施設とかって、レート低い代わりに設定バカ甘のスロットマシーンとか置いてあるやん? あそこやったらサキさんでも大負けせんで済むやろ」
「しかし本番のギャンブルでは、スロットなど使わないと思われますが……」
「度胸つけるんが目的やからそれで十分なんや。それに素人がなまじ戦術とかセオリー覚えたかて、プロのカモにされるだけやん?」
 自身はギャンブルなどしたことないくせに、こういう感覚はさすが財閥令嬢。老執事は内心で舌を巻きつつも、不安げにおずおずと問いかけた。
「咲夜お嬢さま、差し出がましいと承知で申し上げますが……それだけのご見識がおありでしたら、なぜワタル坊ちゃまの外ウマなどお引受けになられましたか? 相手はラスベガスの魔女だというのに」
「……なんやて?」
「爺は心配でならないのです。あり余る才覚を持ちながら、幼馴染への情ゆえに取り返しのつかぬことになりはしないかと……旦那さまと同じ過ちをされたとあっては、奥様に申し訳が立ちませぬ」
「…………」
 ちょっと怒ったように口をつぐむ咲夜。だが老執事があえて憎まれ事を言わなければならない立場であることも、敏い彼女は完全に理解していた。しばしの沈黙の後、咲夜は以前にも増して元気な口ぶりで使用人の不安を封じこめた。
「大丈夫やって。あいつの前世は勇者なんやから」


「美琴さんの様子はどう?」
「はぁ、昨夜よりはだいぶ落ち着かれた様子で……いま精神集中を図っておいでです」
 時は移ってその日の夕刻。息子との勝負を数十分後に控えた高級カジノの控室で、橘美琴の執事・一条は霞愛歌からの国際電話を受けていた。
「どんな未来が待っているにせよ、勝負に勝たなくては選ぶ権利すらなくなる……美琴さま自身もそう覚悟を決められたようで」
「良かったわ。いくらワタル君の覚醒を促すためとはいえ、あまり露骨な出来レースというのも困りますもの」
 息子との同居をためらう美琴に勝負を放棄されては意味がないし、かといってワタルが手も足も出ないくらいの本気を出されても困る。このへんのさじ加減が愛歌の苦労のしどころだったのだが、どうやら勝負開始までに間に合ったようである。
「ただ……」
「どうかしたの?」
「美琴さまはラスベガスでは名前の通ってるお方です。息子相手の真剣勝負と聞いて観客が集まってきてるというのに、掛け金は高々50万円、勝負は可能なかぎり引き延ばして……というのでは、いずれにしろ出来レースの疑いをかけられるのは必定かと」
「観客の目なんてどうでも良くなくて?」
「美琴さまの体面だけでなく、ワタル坊ちゃんの気迫にも影響しかねないのです。単なる母子の賭け事遊びといった空気になってしまったら、こちらが本気でないことをワタル坊ちゃんに悟られる危険性があります」
「そうねぇ〜」
 愛歌は電話の向こうでしばし思考をめぐらすと、黒い尻尾を押し隠しながら電話回線に毒を注ぎ込んだ。
「だったらこういう趣向はどう? たしかそちらには、咲夜さんがいるのよね……」


「レディース・アーンド・ジェントルメン!! さぁさぁ今夜もスペシャルなナイトがやってきたぜ――!! 親と子の意地をかけて、このラスベガスで熱い勝負の花が咲き誇る!!」
 そして、ついに運命の始まり。執事の一条がマイクで観客の興奮をあおり、対戦者である美琴とサキを紹介する。やいのやいのと観客が歓声を上げる中、そんな空気に物申したい1人の少女がいた。
「盛り上げるのはええ……賑やかなんはウチも嫌いやないし……けどな……」
「ん? 咲夜?」
「なんでウチがこないな格好せないかんねん!!」
 なんと、ワタルの応援に来たはずの愛沢家長女はウサ耳にハイレグスーツをまとったバニーガール姿に身を包んでいたのだった。猛然と抗議する咲夜に対して、ラスベガスの魔女は冷ややかに返答した。
「だってしょうがないじゃない。咲夜ちゃんお金がなくて勝負すらできないワタル君の外ウマに乗るっていうから……けどお金出すだけなんてギャンブルの醍醐味を味わえないから、もっと別の名物で楽しんでもらおうと思って」
「別の名物?」
「そ♥ ここはラスベガス。ギャンブルと並ぶラスベガスの名物といえば……ストリップよ♥」
 負けるたびにバニースーツを少しずつ剥いで行く。勝負を引き延ばすほど観客が盛り上がっていく仕組みが、こうして新たに用意されたのだった。

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