ハヤテのごとく! SideStory  RSS2.0

ラブ師匠VS恋愛コーディネーター

初出 2010年01月06日/再公開 2011年03月27日
written by 双剣士 (WebSite)
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************* プロローグ編 第6話(Side−N) *************

「私……ずっとあなたに謝らなくちゃいけないことがあってね……」
「謝る? はは、なに言ってるのかなヒナさん。いつも迷惑かけてるのはこっちじゃないですか。いったい何について謝ることが……」
「ハヤテ君のことよ」
「へ?」
 2人きりの観覧車の中でヒナギクにそう切り出されたとき、西沢歩の頭に浮かんだのは例のプロファイリングのことだった。
《えっとぉ、ハヤテ君はヒナさんのことが好きで……でもヒナさんの方はそれほどでもない、だったっけ?》
 なんだか遠い昔の子供じみた思考だったような気がする。ハヤテともヒナギクとも以前よりずっと距離の縮まった今の歩にとっては、外見やら口ぶりで判断できるパターン類型などはそれほど頼りに出来るものではなくなっていた。
《ハヤテ君は不幸だ不幸だと言って忙しくしてる人かと思ってたけどちゃんとホワイトデーのお返しをしてくれる人だったし、格好いいと思ってたヒナさんもお風呂でのぼせたり高いところで涙目になったりとか結構可愛いとこあるし》
 しかし目の前にいる少女はそのどれとも違う、小心者で心細げな普通の女の子に見えた。『頼り甲斐のある格好いい生徒会長さん』というイメージをひとまず封印した西沢歩は、おずおずと話の先を促した。
「ハヤテ君の……こと?」
「あなたとハヤテ君のこと応援するとか言っておきながらずいぶん格好悪い話だけど……私はあなたを裏切ってしまったの」
 そう言われても歩にはまるでピンと来ない。ヒナギクは自分なんかのためにずいぶん色々と手を貸してくれたし、事実ハヤテとの仲も良好そのもの。新婚さん疑惑を掛けられただけでも真っ赤になって否定していたヒナギクが、自分に隠れて何か悪どいことをできる性格だとは歩にはちっとも思えなかった。ヒナギクは全然悪くなくて、でも彼女が自分に謝ってくる状況というと……昼ドラ大好きな庶民派の歩には1つしか思い浮かばない。
《こ……これは、ハヤテ君が野獣さんモードになってヒナさんを襲っちゃったとか? んでヒナさんは最初の過ちのあとハヤテ君に平身低頭で謝られて、何となく怒れなくて許しちゃって……誰にも打ち明けられずに今日まで来たけど、実は実は赤ちゃんとか出来ちゃって隠しきれなくなったとか?!》
 悪くないヒナギクが自分に頭を下げてくる状況なんて、それくらいしか思いつかない。もしそうだったら大変だ、私も一緒にヒナさんを支えてあげなくちゃ……怪しい妄想で頭の中を一杯にする西沢歩。ヒナギクの告白が耳に飛び込んできたのは、ちょうどそんなタイミングだった。
「ただそのとき気づいたの、私の本当の気持ち……私は、ハヤテ君のことが好き」
「…………」
「ずっと黙っててごめんなさい。でも怖くて言い出せなくて……」
「……あ、え、それだけ?」
 昼ドラ風の修羅場展開を半ば覚悟していた歩にとっては、拍子抜けもいいところ。
「あの……なんか予想の斜め上を行く反応なんだけど……ごめん、なんか私、話ヘタだった?」
「い、いや、それは大丈夫じゃないかな? ただあんまり深刻そうに話をするから、私はてっきり――『私、ハヤテ君と付き合ってて、もうあんな事やこんな事も』――って言うんだと思って」
 歩としては自分の妄想をかなりマイルドにしてから口に出したつもりだった。ところがそれに対するヒナギクの反応は、今度こそ完全に彼女の予想を超えていた。
「そ、そんなわけないじゃない!! なんで私がハヤテ君と付き合わなくちゃいけないのよ!!」
「は?……あの……今しがた好きとか言ってなかったかな?」


 支離滅裂なヒナギクの言い分を総合すると。要するにヒナギクの気持ちがハヤテの方に傾いたと言うだけで、ハヤテとの間に何かあったわけでもなければ今後どうにかするつもりもない、もちろん歩の邪魔をする気なんて毛頭ない……ということらしい。しかもそれは歩に遠慮してるからではなくて、単に自分から告白するのは負けたみたいで悔しいという子供っぽいプライドの産物らしいのだ。
《ヒナさんって勝ち気なのか臆病なのか分からない人だな……なんか応援したくなってきちゃう》
 恋のライバルが現れたというのに、ちっとも嫌な気分じゃない。むしろ憧れの女の子が、自分と同じ男性を好きになってくれたことが歩は嬉しかった。遠く届かない存在だと思ってた人が自分と同じ想いを共有してる。下田で三千院ナギと和解したときのような、心地よい満足感が西沢歩の胸を満たしていた。
「でも……だったら競争かな? 私がハヤテ君を口説き落とすのが先か、ハヤテ君がヒナさんに告白してくるのが先か」

 こうして心強い恋の助っ人を得たはずの西沢歩は、この日からは逆に不器用なヒナギクに対して助言する立場となったのだった。

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