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ラブ師匠VS恋愛コーディネーター

初出 2010年01月04日/再公開 2011年03月25日
written by 双剣士 (WebSite)
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************* プロローグ編 第4話(Side−N) *************

 ここで舞台は数日さかのぼる。
 旅行にも行かず帰省もせず、お正月番組を見ながら家族と一緒に冬休みをのんびり過ごしていた西沢歩のもとに、1本の電話が飛び込んできた。
「はい、もしもし……」
「ねーちゃん聞いてくれよ、俺、悔しい!」
「な、なんのことかな? 落ち着いて話してみて、ワタル君」
 電話の主は数か月前に友だちになったビデオ屋の店主。同じ年頃の男の子がレンタルビデオ屋を切り盛りしていると弟の一樹から聞いて、興味をひかれて遊びに行ったことから繋がりの出来た少年である。弟と同じ歳だという気安さから「困ったことがあったら何でも相談して?」と別れ際に言い残した記憶が頭の隅っこから蘇ってくる。小さい割にはしっかりしてる、そう思って軽い気持ちでお姉さん風を吹かせただけのつもりだったのだが……。
「あの野郎、ポッと出てきたくせにあいつの視線を釘付けにしやがって! しかも俺のこと子供だと侮って、露骨に手加減なんかしやがって! 今度会ったら絶対ボコボコにしてやる!」
「な……なんのことかわからないけど、誰かと喧嘩とかしたわけなのかな?」
 少年をどうにか落ち着かせながら話を聞く。幼馴染の家に行ったら貧乏そうな顔をした新しい執事がいて、前から気になってた女の子がそいつに熱い視線を向けている。ムカついて決闘を申し込んだら俺の剣先を軽くあしらったうえで「うわぁ〜や〜ら〜れ〜た〜」と露骨に手加減され、かえってこっちが恥をかかされた……ワタルの言い分を繋ぎ合わせると、どうやらそういうことらしい。
《はっはーん。それはズバリ、ジェラシーだね》
 西沢歩の脳細胞がフル回転する。少女系雑誌やファッション誌などから得た知識のおかげで、こうしたパターンにおける傾向と対策に精通していることが歩の密かな自慢でもあった。彼女は自信満々で少年にアドバイスを始めた。
「今の話……このスーパー恋愛コーディネーター、プロフェッサー西沢のプロファイリングによると、その相手は単純な筋肉バカだね」
「あ、いや、そんなマッチョな感じでもなかったけど……」
「いやいや、見かけは華奢でも全身筋肉! ついでに脳みそは体育会系で力こそ正義! それに決定!」
 会ったこともない相手を言いたい放題に決めつけまくる西沢歩。この時点では、彼女は自分の想い人である綾崎ハヤテが三千院家の執事になったことを知らない。もっとも仮に知っていたとしても、固有名詞を出さないワタルの話し方からは『嫌味な執事』の正体を垣間見ることはできなかっただろうが。
「そういう相手をやりこめるんだったらさ、暴力系の戦いは損だよ。もっと知的な方向で勝負しないと」
「そ、そうかな? たとえばどんなのがあると思う、ねーちゃん?」
「そうだねぇ、ゲームとかトランプとか……」
「そりゃねーだろ! そんなんであの執事に勝ったって、伊……あ、あいつにガキ扱いされるだけじゃねーか! もっと女の子にアピールできるのはねーのかよ」
「お、女の子にアピール?」
 思わぬ方向から切り返されてぐっと喉を詰まらせる歩。筋肉バカの執事が相手ではスポーツとか格闘技を勧めるわけにはいかない。かといって根っからの普通人である歩には、執事を雇ったり守られたりする上流階級の女の子が何を喜ぶかなんて想像すら出来ないのだった。でも今更、わかんないって白旗上げるわけにも行かないよね……そう考えた西沢歩は自分だったらこれが嬉しいかもと言う視点から、とりあえず無難な提案をしてみることにした。
「そうね、たとえば……女の子向けの服とかアクセサリーとか、そういうのを勉強して格好つけてみるってのはどう?」
「おっ、なるほど! それだったらあの執事に勝てるかも! サンキュー」
 満足げに電話を切る歩。だが彼女は気づいていなかった……重度のオタクであるワタルに対してさっきのようなアドバイスをすることが、どういう化学変化を起こすことになるのかを。


 それから数カ月後。とある大富豪の幼馴染に呼び出されたワタルは、とある女性の制服についての質問を受けていた。
「へぇ、じゃあ上っ面だけじゃないメイドさんの良さって言うと……」
「べ!! 別に興味なんざねえけどよぉ!! 強いて言うなら……強いて言うならメイド魂ってやつはさぁ……こうクルっとターンしたときのブワっと広がるスカート!! これが大事なんだよ」
「えー、その程度? お前も浅いな〜」
「ばっ!! その程度な訳ねーよ!! 他に言うならつま先立ちだよ!! こう高いものを取るときにクッって上げるあの感じ!!」
 オタク仲間である許嫁の誘導尋問に引っ張られながら得意げに語り続けるワタル。女性の服装について勉強すべしという歩のアドバイスが、いつの間にか本人にしか楽しめない超ディープなこだわりへと変化してしまったことに、ワタル本人は全く気づいていなかった。まぁ専属のメイドさんと一緒に暮らしているという時点で彼にも同情の余地はあるのだが。
「あと他に大事な点はさ――」
「まー、わかったわかった。だいたいそんな感じだって、伊澄」
「なるほど……」
「はっ?!」
 ところが。部屋の片隅にあった置物から姿を現した和服の少女を見た途端、ワタルの全身から血の気が引いた。恋愛コーディネーターのアドバイスは数ヶ月の時を経て、提案者の意図とは全く逆の結末を迎えたのだった。
「な……な、なんで……」
「こんにちは、ワタル君。ワタル君ってメイドさんに詳しくて……マニアックなのね」
「うおお!! ナギのバカやろ〜〜〜!!!」


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