ハヤテのごとく! SideStory  RSS2.0

ラブ師匠VS恋愛コーディネーター

初出 2010年01月03日/再公開 2011年03月24日
written by 双剣士 (WebSite)
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************* プロローグ編 第3話(Side−L) *************

 その後、白皇学院に正式に入学した綾崎ハヤテの動向を、霞愛歌は折に触れてチェックするようになった。幸か不幸か同じクラスにはならなかったが情報源には事欠かなかった。なにしろヒナギクとその姉だけでなく、彼と同じクラスになった生徒会メンバー……瀬川泉、花菱美希、朝風理沙の3人からも、毎日のように彼の名前がおしゃべりに登場するようになったのだから。
《まぁ確かに不細工ではないけど……そんなにモテるタイプにも見えないのにねぇ》
 生徒証発行時の写真のコピーを眺めながら、愛歌は1人きりの生徒会室で溜め息をついた。学院での彼は三千院ナギにつきっきりで、勉学でも部活でも目立っているわけではない。入学直後に剣道部で3年生の野々原楓に勝ったという噂はあるが、女の子たちの話題はそれとは無縁なものばかりだった。どうやら彼は頼もしい男子としてではなく、気安い遊び相手として認識されている風なのである。
《でも、ただそれだけの男の子とも思えないのよね》
 主人の身を守るために三千院家の遺産相続権を自ら望んで背負った少年執事。旧知の仲である愛沢家長女からその話を聞いたのは、綾崎ハヤテ入学後のことだった。しかし白皇学院での彼のイメージは屈強な戦闘執事とはほど遠い、中性的な草食系男子そのもの。まるで愛歌の目の届くところにいる彼とそれ以外の彼とが、同姓同名の別人であるかのよう。
《ここはひとつ、確かめてみる必要がありそうね》
 椅子の背もたれから身を起こした愛歌は傍らから便箋を取り出すと、流麗な文字で理事会向けの上申書を書き始めた。その冒頭には白皇学院の旧き伝統行事……マラソン自由形の名が記されていた。


 そんなこんなでマラソン大会当日。病弱を名目に出場辞退した霞愛歌は、動画研究部の部室に陣取って校内各所からのカメラ映像を眺めていた。
「歩けなくなった三千院さんを横抱きにしたまま、冴木さんと野々原さんとの戦闘を回避、か……」
 愛歌にとっては期待外れの展開である。確かに女の子1人を抱いたままマラソン自由形でトップをうかがうというのは非凡ではあるが、これでは肝心の戦闘力が測れない。せっかく三千院家執事長をけしかけて優勝を絶対条件に据えさせたのに、これでは何にもならないではないか……そう落胆しかけた愛歌の目の前に、ハヤテにとって最後の障壁が立ちふさがった。
『そうはいかないわよハヤテ君!! ここから先は通すことはできないわ!!』
「あら、会長……これは計算外ね」
 生真面目で完璧主義者な桂ヒナギクが、ゴールに向かう足を止めてまでハヤテたちの前に立ちふさがる。あまつさえ三千院ナギを先にゴールに向かわせてでも綾崎ハヤテとの決着を優先する……普段の彼女らしくもない。だがそんな行為を目の当たりにして愛歌の脳裏に浮かんだのは、三千院家でハヤテを探していたときにヒナギクが浮かべたあの真っ赤な頬の色だった。
「競技の勝利よりも、気になる人との一騎打ちの方が大事、か……ヒナギクさんの中身は男の子だって美希さんが以前言ってたけど、この心理は男の子のものなのかしらね、それとも逆かしら?」
 人知れず愛歌の口元に笑みが浮かぶ。竹刀と竹箒で激しく打ち合う画面内のヒナギクとハヤテに彼女は生温かい視線を送った。当初期待していた真剣な戦闘ではないものの、ある意味それよりずっと面白い戦い……ハヤテの動きよりもヒナギクの表情の方に注意を向けながら愛歌は楽しげに2人を見守った。そして2人の戦いの舞台が吊り橋に移り、そのことに気付いたヒナギクが浮かべた子供っぽい泣き顔を瞳に移した瞬間に、彼女の興奮は頂点に達した。
『キャ――!! バカバカ動かないでよ!! バカ!! ヘンタイ!! いじわる!!』
「ぐっじょぶ!!」


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