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お熱いのが好き、Baby!

初出 2005年05月07日
written by 双剣士 (WebSite)
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小学館の出してる漫画だってことを微塵も考えてない第2章


 それから1時間後。綾崎ハヤテは映画館のある市内の道を、たった1人でとぼとぼと歩いていた。
「やれやれ、お嬢さまも無茶いうよなぁ〜〜」
 足取りは重く、表情も曇りまくり。精神的疲労が少年の背中に豪雪のようにのしかかっていた。引きこもり少女を連れて街に出て様々な話をしながら映画館に向かうという少年のもくろみは初手から脆くも崩れ、さらなる無理難題が彼の身に降りかかっていたのだった。

『なぜだ? なんで『世界の末端で〜』がないんだ?』
『申し訳ありません、お嬢さまのお好きな劇場版アニメなら取り揃えてあるのですが……せめて数日前にお命じいただければ』
『今日でないとダメだ!……おいハヤテ』
『はい?』
『これから街に行って買って来い! お前ならできる!』
                 :
                 :
『はい、大人1枚で1800円ね』
『あ、いえその……映画見に来たんじゃなくてですね、あの、映画そのものを売ってくれませんか』
『はぁ〜ん??(怪訝な視線)』

「買えるわけ、ないんだよなぁ」
 ナギにしてみればビデオやDVDを買うのと同じ感覚で命じたのだろうが、人気映画のDVD版が映画上映の最中に販売されているわけがない。かといって今更、買えませんでした、と手ぶらで帰るわけには行かなかった。彼女が自分の常識のなさを反省するとは思えない、逆に世間の理不尽さに憤慨して一層かたくなになるのは目に見えている。
「はあぁぁあぁ〜〜」
 深々と溜め息をつきながらゾンビのように街をさまようハヤテ。どうしよう、また役立たずと怒られるに決まってる……と出口のない悪循環に苛まれていた、ちょうどそのとき。
「☆★☆★……痛っ!!!」
 ゴツンという音とともに目の前で火花が散り、気が付くと彼は路上で仰向けに倒れ込んでいた。視界が歪み頭がズキズキと痛む。何にぶつかったんだろう、と身を起こして周囲を見渡すと……彼の真正面に、同じく仰向けでうんうんと唸っている女性の姿が見えた。
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
 あわてて駆け寄り女性を助け起こすハヤテ。メイド服姿のその女性に見覚えがあるような気がしたが、痛む頭とかすむ視界では良く分からない。誰だったっけ、と顔を近づけようとした瞬間。
「きゃーっ、放してケダモノ〜〜!!」
 強烈な悲鳴とともに下から迫りあがってくるJETアッパーの直撃を食らい、少年は高々と宙を舞ったのであった。

                 **

「……遅い。何をしてるんだあいつは」
 同時刻の三千院邸。ナギはイライラしながら借金執事の帰りを待っていた。
「ハヤテ君はナギに頼まれて行ったんでしょう? 信じて待ってあげなくちゃダメですよ」
「別に、信じてないわけじゃない。ハヤテは私のためなら何だってしてくれるんだから」
 なだめの言葉をかけるマリアに対してナギはぶっきらぼうにそう言い放ち……だが数秒もしないうちにしびれを切らして、アンティーク調の電話機に手を伸ばした。
「あぁクラウス、私だ。ハヤテが今どこで何をしてるか至急調べてほしい……え、もう見張りを付けてある?……何ぃ、うら若き女性と一緒ぉ?!(がちゃんっ)」
 三千院ナギは受話器を乱暴にたたきつけると、禍々しいオーラを放ちながらのっしのっしと玄関の方へと向かった。その背後から、あくまで平静な誰何の声が投げかけられる。
「どこに行かれるんですか、ナギ?」
「決まってる、ハヤテを連れ戻しに……」
「焼きもちですね♪」
 楽しくてたまらない様子のマリア。ナギの歩みは急停止し……しばらくの後、激しく首を振って再び大きな足音を響かせ始めた。
「あれだ、私のお使い中にサボってるハヤテを懲らしめに行くだけだ……そう、これは主人としての義務で、仕方なく行くだけなんだからな」
「はい、はい♥」
「……ふんっ」
 唇をとがらせたまま、素直でない少女はSPの面々を呼び集めた。

                 **

「ごめんなさいハヤテさん、私、つい……」
「い、いやぁ気にしないでください。僕は身体丈夫だし、それにもとはと言えば僕の不注意が原因だったんですし」
 人目を避けた路上の一角で、JETアッパーのダメージから立ち直ったハヤテに深々と頭を下げている黒髪の女性。彼女の名前は貴嶋サキ、三千院ナギの婚約者である橘ワタル(13歳)のお付きメイドである。ナギの執事である綾崎ハヤテとも顔見知りではあるのだが、ナギとワタルがお世辞にも仲がよいとは言えないこと、および当人が男性免疫皆無&天然ポンコツ属性もちという厄介な性格であることもあって、言葉を交わす機会はそう多くはない。
「あいたた……」
「あの、サキさん大丈夫ですか? やっぱりさっきの……」
「ひぃっ!」
 ぶつけた頭を心配して近寄ろうとするハヤテ。だがサキは彼の手を見た途端、脅えたようにきゅっと身を引いて自分の身体を固く抱き締めた。ハヤテは腕を伸ばしたまま硬直し……やがてがっくりと肩を落として、ぶつぶつと愚痴をこぼし始めた。
「そうですよね、怒ってますよね……当然だよなぁ、僕、サキさんやワタルくんに迷惑ばっかりかけてるし……今日だって……」
「あわわ、違うんです誤解です。ハヤテさんのことを怒ってるとか嫌ってるとか、そういうんじゃなくて……あの私、こういうの、慣れてないものですから」
 悪いほうへ悪いほうへと思考をループさせていく少年のことを、サキはあわててフォローしようとした。こういう困っている少年を彼女は放っておけない性格なのである。事業再建のため海外で奔走する両親に取り残されたワタル少年の保護者として、まことに得がたい人材だといえるだろう……トラブルの大半が彼女自身から発している事実はとりあえず横に置いといて。
「いいんです、無理して慰めてくれなくたって……」
「嘘じゃないんですってば。私、小さいときから引っ込み思案で、男の子と話したこととかほとんど無くて……学校も共学じゃなかったし」
「……サキさんもお嬢さま学校の人だったんですね……」
「いえ、女子校とはいってもお金持ちの子が通うようなとこじゃ……って、なんでそこで落ち込んじゃうんですかぁ!」
 無職の両親を養うために幼少時からバイトに明け暮れてきたハヤテにとって、サキの身上話はますます自分を惨めにするだけ。ずんずん沈んでいく少年になんと声をかけるか、迷ったサキは……もはや自分の手には負えないと割り切って、無理矢理に話題を変えようと試みた。
「あ、あのぉ……ところで、ハヤテさんは何の御用でいらしたんですか?」
「…………」
「き、きっとナギお嬢さまの言い付けですよね? 私、何かお手伝いできるかも知れませんよ?」
「無理ですよ、いくらサキさんでも……」
 少年はぽつりぽつりと語り始めた。流行の恋愛映画を見たいとナギが言い出したこと、屋敷の中の映画館でないと嫌だとゴネてしまったこと、そしてその映画を買いに出されて、けんもほろろに追い返されたこと……。
「だったら、うちからお貸ししましょうか?」
 対するサキの口からは、意外にあっさりと解決案が飛び出してきた。ワタルの家がレンタルビデオ屋をしていることはハヤテも知っている。少年は死んだ魚のような眼で疑わしげにメイド服の女性を見上げた。
「で、でもビデオとかはまだ出てないはず……」
「いま映画館でやってるのとは違いますけど、別の俳優さんがテレビの2時間ドラマでやってたのがあるんです。たぶん若が録画してたのがあったと思いますよ♪」
「……毎度思うんですが、そういうの他人に貸し出して大丈夫なんですか、そのお店?」
「何をいまさら」
 貴嶋サキはにっこりと微笑むと、励ますように少年の肩に手を伸ば……しかけて弾けるように引き戻した。ところが戻した手は彼女の口元に戻る前に、涙をいっぱいに溜めた少年の両手にがっしりと握り締められていた。
「は、ハヤテ、さん……」
「ありがとう、ありがとうございます、サキさん!」
「わ、分かりましたから……手を、手を放して……」
「地獄に仏とは貴女のことです! これでクビにならずに済みます! この御恩は決して……」
「い、いい、いやあぁぁあぁ〜〜あぁ〜〜!」
 感激するハヤテの気持ちは良く分かる。手を握られて10秒間耐え続けたというのはサキにしては上出来と言えよう……しかしギャグストーリーのお約束、最後には悲鳴とともに渾身のギャラクティカ・マグナムが少年の左頬に炸裂してしまうのであった。
「『10cmの爆弾』にしてくださいよ、ボクシング技でオチつけるんだったらぁ〜〜!」
 宙を舞う少年の口からは、激しく年齢層を選びそうな意味不明の叫びが漏れていたという。

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筆者あとがき:

 サキさん、ほとんどヒロイン並みの目立ちっぷりですな(笑)。彼女は実に動かしやすいキャラではあるんですが、生真面目で世話好きな部分と天然ボケな部分とを両方織り込むのは実に難しいことが書いてみて分かったため、今回は前者をメインに描いてみました。次回はまたナギが主役に戻ります。

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