まもって守護月天! SideStory
わたしの Sweet Lady
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第5幕・来々!お友達
ついにやってきた夏休みの初日。山野辺翔子の別荘へと避暑に向かう、待ちに待った旅立ちの日が訪れた。天気は快晴、陽ざしはギラギラ。願ってもない行楽日和のもと、七梨太助たち一同は嬉々としてヘリコプターに乗りこんだ。
次々と地表を離れて一夏の思い出の場所へと機首をめぐらせる3機のヘリ。翔子の話によれば、バスや電車ではたどり着けない場所に彼女の別荘はあるという。思いもよらぬゴージャスな移動手段を目の当たりにして、一同は期待に胸を膨らませていた。
……だが、素直に感動してなどいられない少女がひとり居た。離陸直後のヘリの揺れが収まるやいなや、その少女は弾けるように後部座席から立ち上がると、運転席に座る男性の耳元に口を寄せた。
「ち、ちょっと! なんであんたがここにいるんだよ、大橋さん!」
「……は」
ヘリの後部座席のシートには、翔子と並ぶ形で七梨太助とシャオリンが座っていた。その2人に聞こえないよう声を潜めながら、今回の旅行の幹事役である社長令嬢は噛みつくように言葉をつないだ。
「お袋は外国に出張に行ってる最中で、あんたはお袋専属の運転手なんだろ! そのあんたが、なんでこんなとこに座ってるんだよ! まさか……」
「今回は大橋は必要ない、と社長に命じられまして」
毅然とした表情のままで、ヘリの運転手は質問に答えた。
「だから自分たちの代わりに翔子お嬢様のお世話をせよ、と。商談に勝るとも劣らぬ重大任務だから、全身全霊を込めて立派に勤めあげてみせよ、と」
「なっ……」
公私混同もはなはだしい……中学生の翔子でもそのくらいの分別はつく。だが眼の前の男性の言葉には、一片の不満も疑問も込められていなかった。
「社命ですから」
「……はぁっ」
当然の事をするまでです、といわんばかりの堂々たる態度を前にして、翔子は小さくため息をついた。もともと翔子は、この運転手兼ボディーガードの男が嫌いではない。確かに社命一途な頑固者ではあるけれども……他の真砂子シンパの社員のように、自分に対して粘着質的な干渉をしてくるタイプではなかったから。
「……わかった。ひとつだけ教えてくれ……お袋と和津絵さんは、今どうしてる?」
「社長と専務は、命の次に大事な任務に従事しておられます。翔子お嬢様にはお気づかいなく、と」
「……そう」
この人は嘘をつかない。多少言葉足らずなところはあるにしても。
そう信じている翔子は、小さく首を横に振ると身体の力を抜き、倒れこむように後部座席に腰を降ろした。その様子を見ていたシャオリンと太助は、心配そうに彼女に声をかけた。
「翔子さん? あの、何かあったんですか?」
「……別に」
「山野辺……なんか、悪かったな。俺たち勝手に押しかけたみたいで」
いまさら何を……まったく、ひとの気も知らないで!
……そう心の中で毒づく。だが翔子はそれを声に出すことなく、何食わぬ顔で懐からあるものを取り出した。
「気にしなくていいよ。それより七梨、これでも見ててくれ」
太助の前に差し出された写真の束を見て、シャオリンはぱっと顔を輝かせた。青い海と空をバックにした南洋植物、夕陽を望む波止場、波頭ひしめく切り立った崖……まるで観光ツアーのパンフレットのような風景の数々が、そこにはあったから。
「うわぁ、すごく綺麗です、ねぇねぇ太助様?」
「あ、あぁ……なぁ山野辺、これって……?」
「これから行く所の写真だよ。お袋が客の接待に使ってる場所だから、なまじのリゾート地よりも見ごたえがあるんだってさ」
シャオリンはすっかり気に入った様子で、写真を一枚一枚めくりながら『綺麗』『素敵』を連発していた。そんな様子を横目で見ながら、いきなり翔子は太助の袖を引いて自分のほうに引き寄せた。
「どうだ七梨、ムード満点だろ? 今回こそは、男らしくびしっと決めろよな」
「あ、あぁ……」
山野辺の策略に乗せられてる……そう思いつつも、太助は悪い気はしなかった。そもそも今回のヘリコプター分乗にしたって、わざわざ3台のヘリを用意して人数を3分割し、自分とシャオリンを同じ機体に押しこんだのは翔子である。いつもなら『太助の隣の席』を巡ってルーアンや花織が大騒ぎをするはずなのに、ぶつぶつ言われつつもシャオリンの隣に座れたのは翔子の人徳……いや威圧によるところが大きい。別荘の提供者としての強権を、今回の翔子は遠慮なく発揮するつもりのようだ。
「サンキューな、山野辺」
「あたしの好意を無駄にするなよ」
流暢にウインクをする翔子。さすが山野辺、打つ手が早い……そう感心しかけたとき、太助はかすかな違和感を感じた。どこか、雰囲気がいつもの山野辺と違う……なんだろう、これは……そうだ、この匂いのせいかも。
「……山野辺、なんか化粧の匂いがするんだけど」
「なっ……」
思ったことを何気なく口にする太助。だがその一言の効果は劇的だった。翔子は慌てて太助の耳から顔を離すと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「あ、あたしのことなんか、どうだっていいだろ! ほら、シャオの相手をしてやんな」
「あ、あぁ……」
どうやら触れられたくないことだったらしい。太助はおとなしく引き下がると、身体の向きを変えてシャオリンの持つ写真を覗きこんだ。
「ほらほら見てください太助様、丸太小屋に木のカヌー、うわぁ葉っぱ葺きのテントまであります♪ とっても楽しい旅行になりそうですね」
「へぇ〜、すごいなぁ」
笑顔のシャオリンに相槌を打つ太助。だが彼の心は、さっき感じた違和感に釘づけになっていた。山野辺翔子が化粧?……あまりにも似つかわしくない行動。さすがの山野辺も久しぶりの旅行で心が躍ってるんだろうか……あれ、でも気心の知れた連中と旅行するだけなのに化粧なんか関係ないよな。だとしたら、一体どうして……。
太助の脳裏に、不意にさっき見た翔子のウインクが浮かぶ。
《な、何考えてるんだ俺は! シャオとの仲を深めるチャンスなんだぞ、こんな状況はまたとないのに……なんで山野辺の顔なんかが浮かんでくるんだ!》
七梨太助は心の中で自分の頭を何度も殴りつけた。表面上はあくまで、シャオリンに合わせて笑い声をあげながら。
**
続いてヘリ2号機。
「うおぉ〜、待ちに待ったぜ別荘行き! ついにこの日が来たんだなぁ。待ってろよ夏の海、今行くぜ高原のペンション! 燃えあがれ夏の夜のキャンプファイヤー!」
「うふふ〜、綺麗な別荘、誰も居ないテニスコート♪ 七梨先輩といっしょにダブルスをやって、『愛原、お前のハートにパッシングショットだ』……きゃ〜、なんちゃってなんちゃって♪」
……2号機に乗っているのが誰であるか、説明する必要はなかろう。この日を心待ちにしていた少年と少女は、ヘリの到着が待ちきれないかのように各々の妄想の中で思い出の花を次々と咲かせつつあった。だが……。
「……ふむ、これがヘリコプターというものか」
2号機に同乗した3人目は、あくまで冷静に状況判断をくだした。普段からクールな性格ではあったが、舞いあがっている2人と並んでいると不気味なまでの冷徹さに見える。
早くも夏モード全開の2人は、ノリの悪い大地の精霊を誘いこむべく、彼女の両肩を力一杯に揺さぶった。
「いや〜感謝するぜ、キリュウちゃん。山野辺に別荘行きの決心をさせたのはキリュウちゃんなんだって? すごいよなぁ本当に。ほらほら、念願の避暑地だぜ? もっとヒートアップしよう、しよう」
「あたし、今日までの1週間が本当に待ち遠しかったです! キリュウさんもそうでしょう?」
浮き浮き気分で場を盛り上げようとする2人。ところが……。
「……私は1年以上も待たされた気がするのだが」
たかしと花織の熱狂は一瞬にして凍りついた。
「去年の夏も暑かったが、今年の夏はそれに輪をかける猛暑だった。それなのに大家さんはどこへも連れて行ってくれなかった……まるで私たちのことを忘れてしまったかのように」
「あ、あのぉ……」
「だいたい去年の今ごろは、私と主殿を主役にしたプールの話を書いてくれるはずではなかったのか? それを途中で放り出して……こんな秋の終わり、11月も末の時期になって避暑地の別荘にいこうとは。季節感がないにも程がある」
たかしと花織はキリュウの言うことが全く理解できなかった。理解できなかったが……背骨に氷柱を差し込まれたかのような悪寒に全身が揺さぶられるのを感じ、しどろもどろに反論の言葉を捜した。
「へ、変なこと言うなぁキリュウちゃん。今は夏だぜ、夏休みだぜ?」
「な、な、何を言ってるんですかぁ。1年だなんて、そんな……1週間ですよぉ、待ち焦がれてた日がとうとう来たんですよ?」
「……妙に大家さんの肩を持つんだな、2人とも」
キリュウの鋭い舌鋒が2人の肺腑をえぐった。
「まぁ無理もない、野村殿と花織殿は、2000年2月に公開されたSSで主役級の扱いを受けていたんだったな……私はあの話で、出番をもらえなかった。大家さんに愛されているあなたたちに、私の気持ちなど分からぬ」
「ひぅっ……」
「な、な、な、何のことかな? お、俺たちには、さっぱり……」
ヘリの室内を季節はずれの猛吹雪が吹き抜けた。気温は一挙に氷点下まで下がり、エアコンが自動的に暖房に切り替わった。歯の根まで凍りついた2人を尻目に、傷心の万難地天は悲しそうに吐き捨てた。
「……ふっ、原作の連載休止を受けて執筆が止まるあたり、ここの大家さんも所詮は凡夫だったということか……」
「あらぁ、でも1年間以上も止まっていた物語を再開したってことは、心根を入れ替えたってことじゃないのかしら」
そのとき、思いもよらぬ方向から突っ込みの声が入った。たかしと花織が肩を抱き合いながら弱々しく首を向ける中、大地の精霊は新たな話し相手のほうに静かに矛先を移した。
「信用しかねる。だいたい大家さんの約束というのは、破られるためにあるようなものではないか」
「でも反省してるみたいよ、未完結のままの小説が溜まっていくことに……そういえば来年の3月までに完結させてみせるって、どこかで言ってたわね」
ヘリを運転している女性は操縦桿を握ったまま、この場の誰も知らぬはずの事実を口にした。それは立場的には大家さんの肩を持つようでありながら、実はキリュウの台詞よりも格段に恐ろしい内容であった。
「迂遠な。どうせ守れぬ口約束をするのなら、今世紀中と言ってしまえば区切りも良かろうに」
「あと1ヶ月で完結だなんて、信用する人がネット界に居ると思う?」
「いまさら信用を失う心配など、する必要はなかろう」
「信用や期待はなくても、読者に対する責任はあるでしょう? ほら、このページの読者には学生さんが多いじゃない。このページが出来た年に中学1年生、高校1年生だった人が居るとすると、もうその人たちは3年生なのよね。だからその人たちが卒業する前に、ラストシーンを読ませてあげたいって言うのが、大家さんの希望みたいよ」
「2年前の読者が、未だに期待してくれてるとでも思っているのか。相変わらず現実を見ようとしない人だな、大家さんは」
キリュウと女操縦者の会話は氷の刃にも似て、たかしと花織、そしてこの状況を雲の上から眺めている約1名の愚か者のハートをずたずたに切り裂いた。
「野村先ぱぁい……」
「き、聞こえない、俺はなんにも聞いてないっ!」
そんな2人をよそに、神をも恐れぬ対談はさらに続き……そしてようやく、収束のときが訪れた。
「まぁ機嫌を直してちょうだい。あなたはOVAにも出番があるんだから、いいじゃないの」
「そうだな。取り乱してすまなかった……ところであなたは誰だ? 大家さんの事情にずいぶん詳しいようだが」
「わたし?」
遅れ馳せながら誰何の声を投げかけられた操縦者は、操縦桿から両手を離して振り返ると、極上のウインクをして見せた。
「……通りすがりのお姉さん♪」
**
残るは3号機。こちらにはぜひ、大人の分別ある行動を期待したいところだが……。
「あ〜ん、たー様と一緒に乗りたかったぁ!」
「る、ルーアン先生……」
「あぁもう、あのおじょーちゃんが仕切るとロクなことがないわ! 赤い糸で結ばれてる、あたしとたー様を無理やり引き離すなんて! しかもシャオリンまであっち側に連れ込んで!」
「……あの翔子さんなら、そのくらいのことはしてくると思ってましたがね」
「なによ、いずピーあの不良じょーちゃんの肩を持つ気?」
「いえ別に……ただ反旗を翻すにはタイミングというものがありましてね。別荘に着いてもいないうちから騒ぎ立てるのは、どうかと」
「きーっ! こんなことなら、あのヘリコプターってのに陽天心かけてやれば良かったぁっ!」
「せ、先生おちついて……ほら、お弁当作ってきたんです。ルーアン先生に食べてもらおうと思って」
「……ありがたくいただくわ。でもね遠藤君、食べ物さえ出しとけばあたしがおとなしくしてると思ったら、大間違いよ! いいわね?」
駄々っ子のように両拳を振り回すルーアン先生と、かいがいしく世話をする乎一郎、そして冷ややかに突っ込みをいれる宮内出雲。こちらもまた平穏無事にはすみそうにない面々が揃っていた……だが。
「あのぉ……お取り込み中、申し訳ございませんが……」
「……はい?」
後部座席の3人に投げかけられる、操縦席からの太い声。ヘリ3号機における最大の危険人物を挙げるとすれば、それは間違いなくこの声の持ち主であった。もっとも後部座席の3人はそのことを知る由もなかったが。
「どうしました、三船さん?」
「僭越ではございますが……お2人は、太助さんとシャオリンさんのことを温かく見守っているのでは、なかったのですか……?」
「とんでも、ない!!!」
ルーアンと出雲の台詞は、音程から息継ぎに至るまで完璧なる一致を見せた。
「たー様とシャオリンが一緒のヘリに乗ってるなんて、許せない!」
「シャオさんに真実の愛を教えて差し上げるのが、神に選ばれし私の使命なのですよ」
一拍の沈黙の後、
「……良く分かりましたわ」
翔子お嬢様と太助くんを2人っきりにするのに、この人たちは使える……そう三船和津絵が皮算用をしていることなど、出雲たちには想像不能であったろう。もちろん和津絵にしてもそのことをわざわざ説明するつもりなどない。
「ところでこれから向かう別荘について、簡単に説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
和津絵は急に話題を転換し、ヘリ操縦者らしいレクチャーを始めた。出雲たちはさっきの質問の真意を測りかねていたが、興味深い別の話題を提示されたので即座に頭を切り替えた。
「……そうですね。翔子さんからは事前に何の説明もなかったので」
「はい♪ これから参ります所はですね、外国のお客様を招いてくつろいでいただくために社長が用意しました別荘地でして……22の小島からなっておりますのよ♪ そしてそれぞれの島ごとに、和風、中華風、タイ風、インド風、イタリア風、ブラジル風など、様々な国の風土に合わせた催しを用意しておりまして」
その言葉を聞いたルーアンの箸が、ぴたっと止まる。乎一郎は敬愛する女教師の表情を不安げに見あげた。
「社長は夢を売るお仕事をなさっておいでですからね、世界中からおいでになるお客様に対して、『フジヤマ、ゲイシャ』ばかりお見せするわけにも参りませんでしょう? 相手の方のお好みに合わせて、喜んでいただける雰囲気の保養地を各種とり揃えておりますの」
「それはそれは……それにしても22の島とは……」
「ご心配なく♪ まだ未開拓の無人島が40以上はありますから、新しいオーダーにも存分にお応え出来ますわ」
「ねぇ、ねぇ、それって世界中のお料理が食べられるってこと?」
息せき切って尋ねるルーアンに、三船和津絵は誇らしげに答えた。
「はい、あちこちの島を回り歩くだけの時間がおありでしたら」
「そーと分かれば……遠藤君、お弁当をしまって。こんなところでお腹一杯になるわけには行かないわ」
「そんなぁ、ルーアン先生……」
うきうきするルーアンと、がっくりする乎一郎。ところが次の言葉を聞いて、ルーアンの眉が吊り上った。
「ですが、申し訳ありませんけれども……今回は、ご期待に添えそうにありません」
「えっ?」
「いくらなんでも、全ての島を回るわけには参りませんからね。私どもとしては、あなたがたのようなご希望をお持ちのお客様向けにお勧めのコースを用意しております。そして今回、翔子お嬢様にもそれを推薦申し上げたのですけど……翔子お嬢様、行き先は自分で決めるとおっしゃって、定番コースの大半を外しておしまいになりましたの」
「あ〜んの、小娘ぇ〜!」
「お友達を招待したいといって翔子お嬢様が張りきられるのは分かりますけれど、あまり変わった道筋を選ばれると、私どもは心配で……この気持ち、分かっていただけますでしょう?」
「わかるわ!」
「ええ、まぁ……」
食い物の恨みとばかりに反射的に賛同するルーアン。だが出雲のほうは、相槌を打ちつつも和津絵の言葉を鵜呑みにしてはいなかった。彼の知る山野辺翔子という少女は、友達を歓迎するために行楽のコースをまめに選定するようなタイプではなかったはず。そもそも今回の別荘行きだって、最初のうち彼女は烈火のごとく反対していたはずなのだ。
《翔子さん、いったい何をたくらんでいるんです……?》
どす黒い霧が出雲の心に広がる。どう考えても、自分とシャオリンの仲を取り持つ類の策略であろうはずがない。むしろその逆である可能性が、9割以上。
「あのぉ実は今回、私は翔子お嬢様に内緒でついて来てしまいましたの。幼少のみぎりから翔子お嬢様をお守りしてきた者として、どうしても心配で……過保護とお笑いくださっても結構ですわ。そこでですね、皆さまにお願いがあるのですけれど……私が同道していること、翔子お嬢様にはくれぐれも内密に……」
「……あんたも大変ね、あのおじょーちゃんのお守りだなんて」
一転して低姿勢に出てきた和津絵とは対照的に、ルーアンは胸を張った。
「協力していただければ……私にも多少のツテはございます。コースから外れた島で用意できますお料理の品々を、些少ながらお手元に届けさせていただきますが」
「あたしたちに任せといて♪ ふりょ……山野辺さんには、内緒にしといてあげる。いいわね、遠藤君?」
「は、はい……」
現金なものである。ルーアンは嬉々として和津絵の申し出を受け入れた。
一方の出雲は冷静に状況を分析した……このまま黙って翔子の企みに乗せられる訳には行かない。別荘のことを熟知しているこの女性に貸しを作っておくことは、さきざき決して損にはならないだろう。まして翔子は、この人が別荘に来ていることを知らないらしい……うまくすれば、翔子の思惑を狂わせることが出来るかも。
「……そうですね、お気持ちは良く分かりますよ。仲良くやりましょう、三船さん」
出雲は年増の女性を魅了する自慢の笑顔を作って見せると、にこやかに運転席のほうへ右手を差し出した。
**
そして、しばしの時が流れて。翔子たちを乗せたヘリ1号機が、とある島のヘリポートに着陸した。
「……着いたのか?」
「多分ね。見たらきっと驚くと思うぜ、2人とも」
「うわぁ、どんなところでしょう……」
「ちょっと待っててくれ」
ヘリの扉が開くや否や、翔子は真っ先に飛び降りた。事前に調査してあるとはいえ、彼女にとっても初めて訪れる島である。シャオたちのためという口実を一瞬忘れ、眼の前に広がる光景を胸一杯に感じ……とろうとして、
「……!!!……」
声にならない悲鳴をあげて、眼を丸くした翔子は眼前に立つ2人の女性に駆け寄った。仲良く並んだ2人の女性はにっこりと微笑むと、鏡に映ったような左右対象形を保ちながら揃って一礼した。
「ようこそいらっしゃいました、翔子お嬢様」
「……なんで、あんたらまで!」
その双子の姉妹は、ここにいるはずのない2人であった。ヘリコプターの運転が出来て、かつ敏腕女社長の毒に染められていない若手の人たち……1週間をかけて翔子が厳選に厳選を重ねた3人のうちの2人。今ごろは2号機と3号機に分乗して、この島から遠く離れた場所へとお邪魔虫の面々を送り届けているはずの……。
「いろいろと行き届かない面もあろうかと存じますが」
「どうかよろしくお願いいたします、お嬢様」
邪気のない笑顔で挨拶をする2人。絶句した社長令嬢はぱくぱくと口を振るわせ、手を伸ばして2人を指差すと、その手を空のほうへと向けた。
「申し訳ございません、私たち、今ごろは他のヘリコプターを操縦しているはずだったのですが……」
いまだ口の動きが自由にならぬまま、ぶんぶんと首を縦に振る山野辺翔子。
「今朝になって、今日1日は翔子お嬢様のお世話をせよと社命がくだりまして」
「たいへん光栄に思います♪」
それを聞いた瞬間、翔子の顔色は紙のように蒼白となった。
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次回予告:
「あ〜あ、待ちくたびれたわぁ。月天レギュラーキャラの中で予告読みをやってないの、あたしたちだけだったもんね。さーぁ張りきってやるわよ、ごみちび!」
(……嬉しくなんかないでし)
「ん? どーしたのよ」
(離珠、まだ一回も台詞がないでし……キリュウしゃんよりずぅ〜っと酷いでし。きっと離珠、大家さんに愛されてないんでし)
「……そーかもね。あんた第1幕でちょっと出ただけだっけ?」
(ルーアンしゃんなんか嫌いでし! こうなったら不良になってひねくれて、世界征服でもたくらんでやるでし!)
「某ゲームショップ店員の真似は止めときなさい、可愛くないから」
(うぐぅ、でし……)
「心配しなくてもいいわよ。不良じょーちゃんの作戦がすんなり通るほど、このSSは甘くないみたいだから……たー様とシャオリンを分断できたら、連絡役のあんたの出番も出てくるんじゃない?」
(本当でしか? じゃ早く分断して欲し……ぶるぶる、駄目でし! シャオしゃまの邪魔はさせないでし!)
「あんたも辛い立場よね……まぁとにかく、次回は舞台説明と伏線張りの続きみたいよ。世界遺跡や美味しい食べものが目白押しですって」
(以前に意見募集してた、綺麗な服のシーンはあるんでしか?)
「それはもっと先。不良じょーちゃんを着飾らせる伏線をこれから張るんだって。いいじゃない、次回はあんたの好きな薄皮まんじゅうが出るかも……」
(ずるずる〜)
「あぁそういえば、あんた今シャオリンのそばにいて、あたしとは別行動してるんだっけ。残念ねぇ〜」
(や、やっぱりルーアンしゃん嫌いでし!)
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