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気になるあの娘と、晴れた日に

初出 2004年06月09日
written by 双剣士 (WebSite)
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有紀寧3

「なぁ、あんたら……夕べの日の出大暴走、来てたんだろ?」
「たりめーだろ」
「だったらなんで、宮沢を1人にして帰ったんだ? 宮沢が疲れてるの、知ってただろうに」
 数時間後。時刻は夕方にさしかかっていた。有紀寧は相変わらず朋也の膝ですやすやと眠り続けていたが、彼女を取り巻く男たちの緊張感はさすがに相当ゆるんできていた。ひそひそ声で背後に向かって問いかける朋也に、大声で怒鳴りつけるわけにも行かないモヒカン不良たちは渋々ながら答えた。
「1人にする訳ねえだろ! ゆきねぇを置き去りになんかしたら、どんな野郎に目を付けられるか分かったもんじゃねぇ。現にてめぇが現れたことだしな」
「……ひょっとして海岸にいるときから宮沢をずっと見張ってた、ってことか? だったら素直に手伝ってやればいいだろ、片付けを」
「俺たちは手伝うって言ったんだよ! 先に帰れって言ったのはゆきねぇなんだ。こういうことになるとこいつ、頑固だからな」
 心外だとばかりに不良たちは言葉を吐き捨てると、どこか遠くに語りかけるようにつぶやき始めた。
「てめぇには分かんねぇだろうな……ゆきねぇは俺たちに甘えてなんかくれねぇんだよ。俺たちに世話を焼くことばっかり考えてるくせに、俺たちから何かしてもらおうなんてまるっきり考えてねぇんだ。ま、先に俺たちの方がゆきねぇに甘えちまってるんだが」
「だからって……」
「前にも話しただろ、ゆきねぇが安心して甘えられるのは、亡くなった兄貴に対してだけなんだって。お前にはきっと、あいつの面影があるんだろう……だから俺たちだってお前のこと、黙認してるわけだしな」
 アーミーナイフを突きつけておきながら黙認しているとは妙な言いぐさだが、その点を突っ込む勇気は朋也にはなかった。
「しっかし納得いかねぇよな。俺たちから見りゃ、お前なんてあいつとは全然違うタイプなのに。どこをどう気に入ったんだか」
「正直いって俺だって、兄貴に似てるからって理由だけで慕われたって嬉しくなんかないさ」
 おっ、と驚いたように顔をあげる不良たちに対して、朋也は夕焼け空を見上げながら言葉を継いだ。
「最初その話を聞いたときは、あまりいい気分はしなかった……だけど今は、俺に出来ることだったら何でもしてやりたいと思ってる。俺自身だって、宮沢のお陰でずいぶん救われてるし」
「格好つけてんじゃ……」
「よせ」
 怒りにまかせて立ち上がりかける背後の不良学生を、モヒカン不良は静かに手を広げて制止した。
「理由はどうあれ、俺たちにないものをこいつは持ってんだ。このくらいのことを言う資格はある」
「けどよぉ」
「話、続けろよ。こっ恥ずかしい告白をさ」
「……やめた。あとは宮沢に、直接言う」
「てめぇっ!」
 天の邪鬼な朋也の言い分に激高の声があがる。しかし再び制止の手が上がったお陰で、怒りの拳が朋也に降り注ぐことはなかった。代わりに呆れたような、どこか楽しそうな感想が背後から投じられた。
「お前、結構いい性格してんのな」
「ああ。よく言われる」
「俺たちにびびって格好つけた台詞をぞろぞろ並べやがったら、今すぐ絞めてやろうと思ってたんだが……気が失せた。だが覚えとけよ、もしもゆきねぇを泣かしたりしやがったら」
「悪いが、宮沢が泣きたいって言うんなら胸を貸してやるつもりだけど」
「……こいつ、痛いところ突きやがって」
 双方から漏れる苦笑の声。そのとき、膝の上の有紀寧から『うん……』と小さなうめき声が上がった。男たちは雑談を中断し、大切な姫君のために小さな静寂を形作った。

                 **

 それから少しして。目を覚ました有紀寧と朋也は公園を離れ、帰宅の途についていた。2、3歩前を歩いていた有紀寧は両手を腰の後ろに組むと、楽しそうに朋也の方に振り返った。
「朋也さん、おまじないをしませんか?」
「おまじない?」
「今日ずっと一緒にいてくれた、お礼です……ちょっぴり幸せになれると思いますよ」
 夕陽を背にした有紀寧の表情はキラキラと輝いていた。朋也は眩しそうに立ち止まると、どうすればいいんだ、と可憐な下級生に問い返した。
「そこに立ち止まって、両手を広げてください。斜め下に向かって……ちょうど深呼吸するみたいに」
 朋也が言われたとおりにすると、有紀寧は両手を胸の前に組みながら祈るように語りかけた。
「それから目を閉じて、オレノムネデナケ、オレノムネデナケ、オレノムネデナケ、って3回唱えてください」
「オレノムネデナケ、オレノムネデナケ……お、俺の胸で、泣け?」
 自分の言葉に驚いて目を開ける朋也。すると触れ合わんばかりの至近距離に有紀寧の身体があった。小走りで駆け寄ってきた有紀寧は両手で朋也の肩に掴まると、小さく背伸びをしながら元気良くささやいた。
「よくできましたっ」
 ちゅっ。

Fin.

筆者コメント
 有紀寧ルート、完結です。最後はちょっと大胆にまとめてみました。そういえばまともにキスシーンを書くのって、初音SS以来5年ぶりなんですね。我ながらびっくり。


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