CLANNAD SideStory
気になるあの娘と、晴れた日に
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草サッカー編9
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| | 陽平 杏| |
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| ことみ |
|-------智代-------------芽衣------|
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| 朋也 |
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| | 美佐枝 渚 椋 祐介 | |
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後半18分
古河 鬼畜
ベイカーズ VS サッカー部
6 − 7
1分 秋生 2分 部員A
11分 ことみ 7分 部員B(PK)
24分 ことみ(FK) 12分 部員C
32分 陽平as杏 14分 部員B
34分 陽平as芽衣 17分 部員C
37分 陽平as杏 19分 部員D
30分 部員A
as○○は、アシスト者の名
「勝とう、朋也」
後半もいよいよ大詰め。点差も縮まりみんなの志気も最高潮に達したところで、ついに古河ベイカーズの核弾頭が本気になった。
「ここまできたら、プレイスタイルになどこだわっては居られない。全力を尽くしただけじゃ、もう嫌だ。私は勝ちたい」
「智代、それじゃ!」
「春原のお陰で自信もついた。ここからは本気で打たせてもらう」
「よく言ってくれたわ、坂上さん!」
力強い智代の宣言に、美佐枝を始めとする他のメンバーたちも喝采をあげる。リードされている1点などこれで無くなったも同然……そんな雰囲気に包まれた瞬間、1人の少年が盛り上がりに水を差した。
「ちょっと待てえっ! いままでは本気じゃなかったわけ?」
「おにいちゃん?!」
「僕は嫌だぞ! 他人の身体だと思ってみんな、遠慮なく蹴ってくれちゃってさ! これ以上速いシュートが来たら死ぬって! もう勘弁してくれよぉ!」
顔面も腹部も腫らし、立っているのがやっとという陽平の懇願。だがこの状況で彼に同情するものなど、誰1人としていない。
「なに言ってんのよ、あんたエースでしょ! もうひと踏ん張りしなさいって!」
「そうだ春原、お前のお陰でここまでこれた! もうヘタレ呼ばわりするやつなんて1人も居ないぞ、あと2点取ってヒーローになれ!」
「頼む……私は、お前が居てくれないと、駄目なんだ」
「あんたら、こーゆーことになると息ぴったりっすねぇ!」
おそらく陽平の生涯で2度と掛けられることはないであろう、熱い期待を込めた杏たちのエール。しかし既に10回以上にわたって同じ煽動に乗せられてきた陽平は騙されなかった。彼は敵ゴールから遠く離れた方向……コート右脇に逃げ込むと、そこにあぐらを掻いて座り込んだ。意地でもゴール前になんて行かないぞ、という全身を使った意思表明のつもりである。
「こんなところで、春原のヘタレ癖が足を引っ張るとは……」
「早くしろ岡崎、時間がない!」
陽平を立ち上がらせるべく駆け寄ろうとした朋也たちの背に、祐介からの鋭い声が掛かった。時間は残り2分足らず、1点差とはいえまだサッカー部がリード。審判がサッカー部員から出ており、後半ほとんどファールのない展開だったことを考えれば、ロスタイムを取らずにゲーム終了を宣告されても不思議ではない。駄々をこねる陽平をゴール前に引きずっていくような余裕は……。
「くそっ」
「……分かりました。私がやります」
そのとき、腹をくくった小さな少女が手を挙げた。不甲斐ない兄に代わって標的役になると自ら言うのである。陽平の時とはうってかわって、少女の身を案じる攻撃陣。
「な、なに言ってるのよ、怪我じゃ済まないわよ? そこまでしなくたって」
「そうだ。それにお前に向かってでは、思い切り蹴れない」
「無理しちゃだめなの」
「なんだよ、僕のときとえらく違うじゃん!」
すねまくる陽平の叫びを軽く聞き流し、芽衣はすっきりした表情で杏たちの制止を振り切った。
「大丈夫です。それに私だって、勝ちたいですから」
「……芽衣ちゃん」
「よろしくっ!」
一礼してから独りで最前線に駆けだしていく芽衣。杏たちは途方に暮れたように顔を見合わせた。そこへ朋也から決断を促す声が掛かった。
「打て、智代」
「しかし……」
「芽衣ちゃんは賢い。きっとなんとかしてくれる……ここで立ち止まるわけには行かないだろ」
不承不承うなずきながら、智代は脚を振りかぶった。飛距離100メートルをはるかに超える弾丸シュート。前半の衝撃を思い出し、敵守備陣も身構える。ちょこまかと走ってマークを振りきる芽衣の姿が、縫い止められたように智代の目を引きつけていた。
《許せっ!》
智代の脚から放たれる弾丸シュート。心に逡巡があったせいか前半ほどのスピードはないものの、常人のレベルは十分に超えている。まっすぐに向かってくる弾道に、思わず目をつぶる春原芽衣。ところが……。
「危ない、芽衣っ!」
「きゃっ」
芽衣に当たる前に顔面ブロック。そこに駆け込んできたのはピッチ脇で駄々をこねていたはずの春原陽平であった。陽平の顔面に当たったボールは勢いよく跳ね返り、サッカー部の中盤選手のもとに渡った。最後のチャンスとばかりに攻め込んでくる敵フォワード陣。
「おにいちゃん、おにいちゃん、しっかりしてっ!」
「……なんていうか……」
「うらやましいの」
身を挺して妹を守った陽平の姿に、感嘆のつぶやきを漏らす杏とことみ。決定的なシュートを邪魔したとはいえ、今の彼を責める気にはとてもなれなかった。これがあの春原? という驚きと疑問はかすかにあったが。
「美佐枝さん、もっと端っ!」
「分かったっ!」
「……わ、わ、私もいきます……」
一方、古河ベイカーズ守備陣の方はてんやわんや。跳ね返ってきた智代のボールは勢いがつきすぎて絶好のキラーパスを呼び込み、そこに敵のヘディングシュートが襲いかかってきた。
「ユウスケさん、どっちですかっ」
「ま、前……」
祐介のコーチングも間に合わない。キーパー風子が一歩も動けないまま、敵のシュートが放たれ……わずかにコースをそれたボールは、ゴール枠の上を越えていった。
「はあぁぁ〜〜」
「あ、危なかった……」
脱力する守備陣。審判が時計をちらりと見た。このまま終わるのか……そう朋也が思った瞬間、敵ゴールの前から鋭い声が飛んだ。
「こっちだ、打ってこい!」
「……す、春原?」
「時間がない、遠慮するな! はやくこっちへ!」
陽平が、あの春原陽平が、ゴール前でボールを誘っている。ゾンビのようにふらふらと身体を揺らしながらも、瞳の光だけははっきりと見える。驚くより先に、朋也は素早く反応した。風子からもらったボールを一瞬の迷いもなく智代に送る。真後ろからのパスをノートラップのまま振り切る智代。陽平が前にいるのなら狙う必要など無い、放っといてもボールは彼の方角に向かう。力の限り蹴り出すのみ!
ばぁしいぃぃぃーーーっ!
「危ないっ」
地面が裂けたかのような爆発音とともに、見たこともないボールが陽平の顔面に迫ってくる。すべてを受け入れるかのようにふらふらと立ちつくす陽平の脚に芽衣が必死でしがみついた。灰色の巨大な弾丸は倒れ込む陽平の頭のあった位置をすり抜け、敵ゴールネットを突き破って校舎の壁に深々と食い込んだ。轟音が去ったピッチに静寂が訪れ、すぐに歓喜の叫びと落胆のうめきがそれを塗りつぶした。
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| | 陽平 | |
| | / 芽衣 | |
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| / ことみ |
|-------智代-----------------------|
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| 朋也 |
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| | 美佐枝 渚 椋 祐介 | |
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|____|_______ 風子 _______|____|
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後半19分
古河 鬼畜
ベイカーズ VS サッカー部
7 − 7
1分 秋生 2分 部員A
11分 ことみ 7分 部員B(PK)
24分 ことみ(FK) 12分 部員C
32分 陽平as杏 14分 部員B
34分 陽平as芽衣 17分 部員C
37分 陽平as杏 19分 部員D
39分 智代 30分 部員A
- 筆者コメント
- このまま引き分け……じゃ許されませんよね? はいはい、ちゃんとロスタイムにドラマが待ってますからご心配なく。
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