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気になるあの娘と、晴れた日に

初出 2004年06月03日
written by 双剣士 (WebSite)
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草サッカー編5

+----------+ ____________| |____________ | | | | | | 風子 | | | 芽衣 | | | +---陽平-----------------+ | | | | | |----------------------------------| | 智代 | | ことみ | | | | 渚 +---------------椋-------+ | | | 美佐枝 朋也 杏 | | | | | | |____|_______ 祐介 _______|____| | | +----------+ 前半11分 古河 鬼畜 ベイカーズ VS サッカー部 2 − 2 1分 秋生 2分 部員A 11分 ことみ 7分 部員B(PK)

 美佐枝、杏の両サイドバックが意外に頼りになることが明らかになり、智代とことみが超ロングキックの持ち主であることも判明。点数も同点に追いつくなど、素人集団の割には戦える体制が整ってきたように朋也には思われた。だがそれが甘い幻想であることを思い知らされるのに、時間はかからなかった。

「えっ?」
「あっ、こいつっ!」
 ばしぃっ!!
「ちょっ、こいつら、急に……」
「待ちなさいよっ、このっ!」
 ばしぃーーっ!!

 あっという間の2失点。喝采を挙げながら引き上げていく敵フォワードの後姿を、朋也たちは声もなく見送るしかなかった。本気になったサッカー部員たちの実力、というように遠目には見えるのだろうが、実際に手を合わせた美佐枝や朋也の感想は少しちがう。
「あいつら……パスを回して来だしたわね」
「参ったな。俺たちじゃ止められない」
 そう。これまで素人相手と甘く見て単独突破ばかりを仕掛けてきたサッカー部の連中は、今度は横パスを回しながら複数で攻撃を仕掛けてきたのだ。正面から近づいてくる敵が相手なら、確実ではないが阻止することはできる。だが接近しないうちにパスを回されたり守備の裏を通されたりすれば、横の連携を知らず人数も少ない素人ディフェンス陣では対処のしようがない。
 しかも運良くボールを奪えたとしても、それをキープして前線の陽平たちまで届けられる者はいないのだ。朋也や智代のドリブル能力はお寒い限りだし、美佐枝と杏もパスのコントロールはからっきし。頼りは天才少女ことみだが……。
「風向きが変わっちゃったの。いま蹴っても届かないの」
……にわか冬眠状態に入ってしまっていた。渚と椋にいたっては冬眠以前、路傍の石ころ同然の存在でしかなかった。

                 **

 そして。さっぱり出番のなかった古河ベイカーズの3人のフォワード陣にも、実はそれなりの苦労があったのだった。
「えい、えい、えいっ!!」
「な、なんだこの女、来るな、あっちいけっ!」
「逃げちゃダメです。風子いわれてるんです、相手チームを引っかきまわって来いって」
「爪で引っかいてどうするかぁっ! このガキっ」
「風子、ガキじゃないです。どちらかというと大人びてます」
 草サッカーでなければレッドカード間違いなしの、痛々しくも微笑ましい騒動に包まれる敵陣の右サイド。ちょこまかと走り回る風子を誰も捕まえることが出来ず、ここだけは局地的にラグビールールにも似た追っかけっこが展開されていた。サッカー部守備陣の士気はズタズタに切り裂かれていったが、そもそもボールが回ってこない地帯だったので試合の趨勢に影響を与えることはなかった。

 一方、左サイドのほうは春原兄妹が一触即発の状況に置かれていた。
「春原ぁ、お前よく顔を出せたな! 実力もないくせに格好ばかりつけやがって、女の子のチームに入ればヒーローになれるとでも思ったか? わはは、情けないヤツ」
「おにいちゃんはそんなんじゃないもん!」
「おーおー、妹のスカートに隠れてやがるのか? 学校の恥、恥かき野郎〜」
「違うもん! おにいちゃんは下手糞でヘタレだけど、それでも優しいおにいちゃんなんだもん!」
 サッカー部員の野次にたった1人で反論する春原芽衣。だが多勢に無勢なうえ、肝心の兄がノーゴールなものだから反論も徐々に勢いを失っていった。声は次第にかすれ始め、瞳には光るものが溜まりはじめてきた。
「芽衣、もういい」
「……おにいちゃん、悔しいよぉ……」
「こんな奴らの相手をするな。勝てばいいんだ勝てば。僕のボンバヘッが炸裂すれば、奴らだってグウの音も出せなくなるさっ」
「へ〜え、そりゃあ楽しみだ。それでお前のゴール、いつになったら見せてくれるんだ、来年か、100年後か? あははは」
「くぅ〜っ、みてろよお前ら……朋也のやつ何やってんだ、僕に回せば勝てるのに!」
 ……そのころ自陣側では、6点目のシュートがゴールネットを揺らしたばかりであった。

                 **

 かくして。前半の20分間が終わって休憩に入る頃には、古河ベイカーズの面々は完全に生気を失ってしまっていた。

+----------+ ____________| |____________ | | | | | | 風子 | | | 芽衣 | | | +---陽平-----------------+ | | | | | |----------------------------------| | 智代 | | ことみ | | | | 渚 +---------------椋-------+ | | | 美佐枝 朋也 杏 | | | | | | |____|_______ 祐介 _______|____| | | +----------+ 前半終了時点 古河 鬼畜 ベイカーズ VS サッカー部 2 − 6 1分 秋生 2分 部員A 11分 ことみ 7分 部員B(PK) 12分 部員C 14分 部員B 17分 部員C 19分 部員D

 そんな彼らに活を入れたのは、いつのまにか2人そろって戻ってきていた古河ベイカーズのオーナー夫婦であった。
「オラオラァ、お前ら落ち込むな!」
「ファイトですよっ」
「顔あげろ、まだまだ追いつける! 俺に任せとけ」
「オッサン、戻ってきてくれるのか?」
「残念だがそうじゃない。一度退場しちまったらコートには戻れないルールになってんだ」
「……それじゃ、どうしようもないです……」
「大丈夫だ、さっきまでのお前らを見てて作戦を思いついた! まずはキーパー、アンタに代わって……」
 前半6失点の祐介に代わって、秋生からキーパーに指名された人物……その人選に、一同は驚きの声をあげた。なかでも一番驚いたのは指名された本人であった。


筆者コメント
 ようやく前半終了。次回はついに、古河ベイカーズ最強のフォーメーションが明らかにされます……と思いっきり引っ張ってみたりして。


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