鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.1 ) |
- 日時: 2019/03/21 10:15
- 名前: どうふん
- 第1話:最後の二人
「ゆかりちゃんハウス」 それは「ハヤテのごとく」のヒロインである三千院ナギが亡き母親から引き継ぎ、執事綾崎ハヤテが数多くの主要キャラの面倒を見ていたアパート。 物語の舞台となり数々のエピソードを作った場所。存続していれば今頃は聖地巡りの対象となっていたかもしれない・・・そう、存続さえしていれば。
白皇学院での壮絶な戦いが終わってから三カ月。 三千院ナギが相続を受けるべき莫大な財産のみならず、身の回りの物を除く私財まで全てを手放したことにより、この思い出深いアパートも取り壊しと決まった。 周囲の反対にも耳をかさず、ナギは断固としてやりきった。 それに伴い、アパートに住んでいた仲間たちもあるものは自宅、あるいは他のアパートへ、一人、一人と抜けていった。
「まったく、やることが極端なんだから・・・」ゆかりちゃんハウス最後の賃借人である桂ヒナギクはオーナーの、否、オーナーであった三千院ナギを見てため息をついた。もう何度目になるだろうか。 「せめてゆかりちゃんハウスだけでも残してもらえばよかったのに・・・。そうすれば私や千桜たちも残ってあげられたんだから・・・」 「決めたのだ。これからは一人で生きていく。誰の援けも受けない」手を腰に当て、薄い胸を懸命に反らしナギはヒナギクに顔を向けた。 だが、その瞳はヒナギクを突き抜けた先に向いていることにヒナギクは気付いた。 その先に見ているものはなんだろう・・・。ふと考えたヒナギクだが、答えはわかっていた。今どこにいるのかも定かでないかつての執事綾崎ハヤテ。 誤解から始まったとは言え、ずっと一緒にいて最後は深く心でつながり、あえて別々に歩む道を選んだ。 ヒナギクの胸にずきりと痛みが走った。ハヤテはヒナギクの想い人でもあった。
ゆかりちゃんハウスの解体が正式に決まった後、白皇学院生徒会長として周囲の信望厚く、億単位の個人資産を持つヒナギクは、資産と人脈をフル稼働して、住人全員の新しい住居を確保すべく駆けまわっていた。 自分と西沢歩は自宅に戻ればいい。春風千桜と剣野カユラはヒナギクの紹介で近くのアパートにルームシェアすることになった。あの大小の猫二匹は絶望のあまりゆかりちゃんハウスを飛び出して行ったが鷺ノ宮伊澄と愛沢咲夜に拾われたことは確認できた。あと残った神父の幽霊は・・・これはヒナギクの知ったことではない。文字通りに。 だがナギだけはいまだ新たな住処が決まらないでいた。無一文となり身寄りもいないナギには、支払う敷金がなく保証人もいない。ヒナギクは他の友人同様の援助を申し入れているのだが、ナギは頑なに断っていた。 その意気や良し、と言ってやりたいところだが、このままではナギはホームレスになりかねない。それがどれほど苦しくて辛いものか、ヒナギクは身をもって知っている。 (とにかく新生活をスタートできる場だけでもなんとかしてあげないと・・・。ハヤテ君に約束したんだから)それはかつての想いと同じ、ハヤテには届いていない約束であったが。
一ヶ月前、ヒナギクは今まさに去ろうとする綾崎ハヤテを追いかけて想いの丈を告白した。 ハヤテはただ申し訳なさそうに頭を下げた。 「僕はお嬢様、いやナギさんを守りたいんです。それに立派に成長するのを見届ける義務があるんです。だからヒナギクさんの気持ちを受け入れることはできません」それは覚悟していた。 「だったらなぜ傍にいてあげないの」 この当然の質問に対し、ハヤテは答えた。 「僕がいてはナギさんはお嬢様のままなんです。でも一人になればきっと立派に成長してくれると思います。そして僕もナギさんを迎えに行けるだけの人間にならなきゃいけない。その時、僕はナギさんと対等になれると信じているんです」もう一度ハヤテは頭を下げた。 本当にそうか?確かにナギが大きなポテンシャルに加え、非日常的な引きの強さを持っていることは間違いない。しかし独り立ちするための土台が現時点では大幅に欠落している。 いかに固い決意をもって立ち上がったとはいえ、つい先日まで究極級の令嬢で生活力もないナギがいきなり世間の荒海に放り込まれては溺れるのが目に見えている。 (だったら、ナギの手助けは私がやってあげる。大好きな人のために最後にできることを)それは胸の中に留め、涙を拭ってヒナギクはハヤテに背を向けた。もう振り返らなかった。 その背中を見送るハヤテの頬に一筋の涙が流れていたことをヒナギクは知らない。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.2 ) |
- 日時: 2019/03/25 00:33
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
新スレの立ち上げ、お待ちしておりました。
自分は「トニカクカワイイ」はノータッチだったりで、展開についていけるか…頑張ります。 ハヤテキャラのそれぞれの行く道がどうなるのかをしばらくは楽しみにしております。 最後の一文の意味も…。
そういえばアリスちゃんは…?と一瞬思いましたが、この時点ではすでに元に戻っちゃったんでしたね。残念無念。
タイトルも気になってます。「トニカク」には鬼が出てくるのか?それともヒナギクが怒ったときの印象が鬼なのか?はたまたマリアさんが鬼になるのか…?
ではまた次回、楽しみにしております。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.3 ) |
- 日時: 2019/03/25 21:49
- 名前: どうふん
- ロッキー・ラックーンさんへ
早速の感想ありがとうございます。 プロローグと第一話・・・ちょっと思わせぶりが過ぎたかな、などと思っております。 とはいえ、ちゃんと意味はありますので、ご期待に添えるよう頑張ります。
ただ、書き方が紛らわしかったかな?当方も「トニカクカワイイ」はほぼノーフォローでして、登場人物がこの物語に出てくる可能性は果てしなく低いと思われます。
そして、あの不思議の姫は・・・こちらも残念ながら出番はまずありません。これは時系列上仕方ないかな、と。ご容赦。
問題はタイトルですが、これは本作の主題となるところです。怒れるヒナギクさんと優しいヒナギクさんの対照・・・すみません、冗談です。
それと第一話の最後の一文。これは副主題というところですか。当方の基本的な考え方は、「ハヤテが本当に好きなのはヒナギクさん」ですので。原作の結末はどうあれ。
どうふん
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【第2話】鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.4 ) |
- 日時: 2019/03/27 22:07
- 名前: どうふん
- 第2話:不思議アパートの住人
世の中には何じゃそりゃ、と突っ込みたくなるニュースが偶にあるもので、ナギは布団に寝そべってテレビを眺めていた。 昨日、東京の街中に巨大な化け物が突如として現れ、少女を掴んで摩天楼を上っていたそうな。いつか見たキングコングの映画を思い出した。 その化け物は超人的な力を持つ複数の少年少女に追い散らされ、攫われた少女は救われた。それが本当なら面白い。だが、映画かアニメを見ているみたいで現実感が湧かない。今日はエイプリルフールじゃなかったはずだが・・・ ドアをノックする音がした。せっかちに響く独特のリズムは覚えている。 「ナギ、居るの?入るわよ」ヒナギクだった。
「え、なんか話がうますぎないか、ヒナギク?不動産サギじゃないだろうな」 ナギは寝っ転がったまま筋肉痛に蝕まれた体をヒナギクに向けた。 − 敷金・礼金は不要。家賃は5千円/月。原則前月中に支払いであるが苦しいときはあるとき払い可。 そんな話を聞けば、誰もがそう思うであろう。だがその疑問は、ナギが一般的な常識を身に着けつつある、ということでもあった。 「その代わり六畳一間。風呂、トイレは共用。かなり古い物件だけど」ナギは姿勢はそのままで首だけ傾げた。とはいえ、立ち退きが3日後に迫っているにもかかわらず、未だ住むところは決まっていないのが現実だった。何とかアルバイトして独立資金を、というのがナギの目論見だったが、世間知らずで体力もないお嬢様が短期間にまとまった資金を調達できるほど世の中は甘くなかった。 「まあ一回見てみなさい。とりあえずの住処でいいんだし。私があなたにインチキ物件を紹介するわけないでしょ。それにね、ここなら千桜やカユラのアパートも近いわよ」笑顔で話すヒナギクが手を貸し、ナギはやっとの思いで体を起こした。
出迎えてくれたのは、人の好さそうな老婆とまだ若い奥さんくらいの女性であった。 しかし気になったのはその服装である。お婆さんが地味めな和服を着ているのはいいとして、若い女性も着物、それも花魁のような艶やかなものを身にまとっていた。 老婆が丁寧に頭を下げた。「初めまして。管理人の砂掛です。となりは鹿路(ろくろ)。このアパートの住人だよ」 「ああ、あんたかい。家事も全然できないからみっちりと教えてやってくれ、とヒナギクさんから頼まれてるよ」馴れ馴れしい声を上げたのは鹿路と呼ばれた若い女だった。 ナギが睨むような眼を送ってくるのを知らんぷりしてヒナギクも軽く一礼した。 「宜しくお願いします」 「ま、まだ決めたわけではないぞ」 「では、ご案内しましょう。ヒナギクさんも良かったらご一緒に」
「ここ、住んでいるのは管理人さんと鹿路さんだけですか」建物を回りながら首を捻るナギに、管理人と鹿路は顔を見合わせた。 「まあ、そんなとこだね。住んでいる人間は他にいないよ」 「でも・・・何か気配みたいなものを感じるんだが」ウソではない。建物に入ってからずっとどこからともなく視線を感じて仕方ない。 「ま、まあ古い物件ですしね。そんな感じがしても不思議はないわね」ヒナギクの取り繕うような声にちょっと違和感を感じつつも、ナギはこのアパートに住むことを決めた。感じる視線や奇妙な雰囲気は決して不愉快なものではなかった。それに千桜やカユラが近くに住んでいるというのも魅力だった。 (まあ、背に腹は代えられないしな・・・) 「ところで、このアパートの名前は何というのだ・・・いうのですか」 「ああ、それはね。『爽快アパート』っていうんだよ。あんまり古いから妖怪アパートなんて呼ばれたりもするけどね」 「よ、妖怪?」ナギは思わずヒナギクの顔を見た。 ヒナギクは何を思ったか肩をすくめて笑っていた。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.5 ) |
- 日時: 2019/03/30 21:52
- 名前: どうふん
第3話: 一人暮らしの夜は明けて
「永遠はここに」 マリアが残してくれた写真の真ん中に幸せいっぱいの笑顔でピースポーズのナギがいた。マリアとハヤテが両隣で微笑んでいる。 (形見・・・のつもりだったんだろうか) マリアがいなくなって半年が過ぎた。ハヤテは三カ月・・・。二人の行方は杳として知れない。死んだ子の年を数えているような気がした。 そんな思いは気づかないうちに独り言となっていた。 「お前たち・・・どこに行ったんだよ。何で連絡もくれないんだ。おかしいじゃないか。メールも電話番号もラインも何も繋がらないなんて」
新しいアパートで過ごす初めての夜。覚悟はしていたものの寂しさが身に染みた。 誰もいない部屋で布団に潜り込んだナギは写真を手に取った。 マリアにハヤテが去り、ここにはゆかりちゃんハウスの仲間もいない。 最後まで一緒にいて布団を並べて寝たヒナギクさえも。 ナギは本当に一人になったことを感じた。 すすり泣く声が漏れた。抑えることができず、その声が次第に大きくなった。 (大丈夫だよ・・・) (あううう・・・) (俺たちがついてるから・・・) 「え・・・?」ナギは辺りを見回した。かすかな声が確かに聞こえた。 「だ、誰かいるのか?まさか・・・ハヤテ?マリア?」その声に答えるものはなかったが、何かが近くにいるような気がした。それは確かにハヤテやマリアのような優しさに満ちていた。
フライパンをガンガンと叩く音が頭に響いた。 「ほら、起きろ。朝ごはんだぞ。チューするぞ」 寝ぼけ眼をこすりながら、パジャマ姿でナギは台所まで下りた。砂掛と鹿路が立っていた。 「うう・・・、もっと優しく起こしてくれ・・・って早すぎないか」 テーブルにもレンジにも食べられそうなものは見えない。 「何言ってるんだい。さ、朝ごはんを作るよ。あと30分でご飯が炊き上がるからね、それまでに味噌汁とおかずを作らなきゃ」 「え、え、私がか?」 「あんた以外に誰がいるんだい。さ、一人で生きていくんだろ。朝ごはんくらいで作れないでどうすんの。」 「わ・・・わかったよ」あくまで料理を教え込むつもりらしい。昨日鹿路が言っていたことは本当だった。
実際のところ、教え方は容赦なかった。実践あるのみとばかりに、砂掛と鹿路の指示のもとナギは野菜を洗い、包丁を使い、鍋を火にかけた。 「そんな切り方じゃ指をケガするよ。ほんとに何にも知らないんだね、あんたは」 「水と味噌の量はきちんと計って。目分量なんて百年早いよ」 「火はこまめに消して。付けっ放しにしていたらしていたら、こんなアパート、すぐ丸焼けになっちゃうからね」 (手伝うだけのつもりだったのに・・・)
そんなこんなで朝食の準備が整った時には、ナギは食卓に上半身を投げ出してぐったりしていた。 それでも食卓には炊き上がった白ご飯にワカメの味噌汁、焼き魚の不揃いな切り身と不格好なサラダが並んでいた。 「疲れた・・・。腹減った・・・」 「はい、お疲れ様。さ、しっかり食べてちょうだい」砂掛と鹿路がそんなナギを見てにやにやと笑っていた。 (と、取り合えず手づかみで口に入るものを・・・)そのままの姿勢でトマトを目掛けて伸ばした手は鹿路に引っぱたかれた。 「お行儀が悪いよ。きちんと座って手を合わせて」
ナギは顔を一層膨らませた。「何でそんなことしなきゃいけないんだよ。私が作ったんだぞ」 二人の顔つきが変わった。ここから更に一時間、ナギは二人に説教されることになる。 「お米やお味噌をあんたがつくったわけでも、お魚を釣ってきたわけでもないだろう」 「お百姓さんや漁師さんがいて、ここまで運んでくれた人がいて、お店に並べてくれた人がいるから、あんたは朝ごはんを作ることができるんだよ」 「このお茶碗の中にはお米が何粒入っていると思うんだい。その一粒一粒に命があったんだよ。生きるということは他の命を犠牲にしているってこともわかってないね」 「他人様に感謝の気持ちを持たない人間は、誰からも感謝されないよ」
空腹のあまり眩暈がする中、ようやく座りなおして最初の一箸を口に運んだナギは固まった。顎ががくがくと震えた。 美味いとか不味いとか関係なかった。生きるためのエネルギーが体に浸み込んでくるような気がした。 砂掛や鹿路が言ったことの意味がわかった。今、口にしているものは確かに命と汗の結晶だった。自分の汗の一滴くらいも一緒に。 涙が溢れて止まらなかった。口の中のモノが蕩けて形がわからなくなるまで動かなかった。
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【第4話】鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.6 ) |
- 日時: 2019/04/04 21:47
- 名前: どうふん
第4話:永遠、ふたたび
「この星空の下で、君に伝えたいことがあるんだ」 「そうだな、夜は長い。ゆっくり話をしようじゃないか」 どちらからともなく結ばれた手は指を交互に絡めてのものだった。初めての恋人繋ぎだった。
ハヤテと別れて二年目のクリスマス。これはハヤテと出会って三年後のクリスマスでもあった。 もう何でも自分でできる。砂掛や鹿路に鍛えられたナギは料理や掃除も人並み以上の水準となった。 白皇学院は中退し、公立高校に転校したが、生活費はおろか学費さえ自力で稼ぎ、勉学に運動に励んでいる。 そこまで頑張ることが当たり前になった。そればかりでなく自分がどれだけの人に支えられているのかということにも気づいた。 (ちょっとしたヒナギクみたいなものだろ)あんなスーパースターではなくても、自力で全ての糧を稼ぐ、ということはさしものヒナギクさえしていなかった。 ようやくそこまで辿り着いたナギをハヤテは迎えに来た。ハヤテもまた堅気となってビジネスに励み、取り憑かれたような借金や貧乏に振り回されることはなくなった。
久し振りに顔を合わせて、言葉を交わしたナギの眼に涙はなかった。 心のどこかで信じていた。今でも見守ってくれている。きっと迎えに来てくれる、と。 寄り添って過ごす二人きりの時間はいつまでも続くように思えた。お互いこの二年間にあったことは語り尽くせず聞き飽きなかった。 だが、それも一段落して沈黙が訪れる時が来た。 ハヤテは隣が重くなったことに気付いた。もたれかかってくるナギの眼差しをハヤテはしっかりと受け止めた。 そして見つめ合うことしばらく。ハヤテの腕がナギの肩に回り、二人の顔が今まさに重なろうとした。
その空間はスマホの呼び出しに引き裂かれた。 「ナギ、いつになったら来るんだよ。パーティはとっくに始まってるぞ」かつてはアパートの仲間で、今も親友の春風千桜だった。だが、今度ばかりは腹立たしさが先に来た。何でマナーモード、いや、電源を切っておかなかったのか。 「全く無粋な奴だな。恨むぞ。いいところだったのに」 「何を言ってるんだよ。せっかく急いで教えてやろうと思ったのに。いつこっちに来れるんだ」 「ふん、明日の朝まで行かないつもりだったがな。そうもいかないみたいだから今から行くよ」 「おう、さっさと来い。お前が会いたくて仕方なかった人が来てるぞ」 え、会いたがっていた人・・・。ナギの全身に電流が走った。ハヤテはここにいる。と、すると・・・まさか、ヒナギク? 「ハヤテ、行くぞ」ナギは駆けだした。ハヤテもこの展開に多少の不満はあったのだが、とにかくナギを追って走り出した。 「お嬢様、じゃなかった、ナギさん。一体何があったんです?」 「ヒナギクだ。ヒナギクが帰ってきた」ナギの慌て方、というより喜び方は只事ではない ハヤテは困惑した。順当にいけば大学生になっているはずのヒナギクが「帰ってきた」とはどういうことなのか。 (留学でもしてたのかな) 二年前、自分に好意を伝えてくれたヒナギクの背中を見つめて泣いた、あの時の記憶が蘇った。あの時に抱いた得体のしれない感情も。 ヒナギクにまた会える。それは怖いような気まずさもあったが、それ以上に会いたい思いが強かった。
パーティ会場は「どんぐり」だった。賑やかな雰囲気が外まで伝わってくる。ゆかりちゃんハウスや白皇学院の仲間たちが今年も多数集まっているようだ。 息を弾ませて扉を開こうとしたナギだが、その直前に足を止めた。 「ハヤテ、お前はここで待ってろ」 怪訝な顔を浮かべたハヤテの鼻先に、ナギは人差し指を立てた。「いいか、ハヤテ。私は驚く立場だ。だが、それだけじゃつまらないだろ。第二弾のサプライズの主役はお前だ」 ああ、そういうことか。ナギとヒナギクの再会が一段落したその後に登場しろ、ということか。 (僕だって一刻も早くヒナギクさんに会いたいのに) だが、ナギの提案は確かに魅力的だった。パーティが盛り上がること間違いない。ヒナギクの驚いた顔も見たい。ここはナギの言うとおりにした。
よしっ、とドアに向き直ったナギは大きく息を吸い込んでドアを開け、一声叫んだ。 「ヒナギク!」 喧噪が止んで何とも形容しがたい奇妙な空気に包まれた。 会場にいた仲間たちが一斉にナギを見ている。その中心にいたのはヒナギクではなく、これまた行方知らずとなっていたマリアだった。
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【第5話】鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.7 ) |
- 日時: 2019/04/10 22:46
- 名前: どうふん
- 第4話にいきなり登場したマリアさんですが、原作(コミック版)での帰還とは時期にずれがあります。ご容赦。
とはいえ、この物語の展開上に大した意味はありません。ちょっとしたオチに使った、という程度の話です。
第5話:戦闘少女の帰還
「よく頑張ったね」 「最初はどうなるかと思ったけどね。まあ、今のあんたならすぐにでも奥さんになれるよ」 砂掛と鹿路は優しい目でナギを見ていた。どういうわけか、このところ不在がちだった砂掛は頭に包帯を巻き、利き手を三角巾で吊っていた。その理由は教えてもらえないことがわかっているので今更口にしない。 「本当にお世話になりました」 今しっかりと胸を張って二人と向き合っていたナギは丁寧に頭を下げた。お金を貯めたらさっさと出て行こう、そう思っていたアパートに結局二年住むことになった。 砂掛や鹿路の教育は厳しいけど楽しかったし、いつも何かに守られているような気がして寂しさにも耐えられた。 その間にちょっとだけ背が伸びた。この姿を早くヒナギクに見てもらいたい。その時はついでに胸の厚みも比べてみたい。多分今なら勝てるだろう。
引っ越しの積み込みも終わり、あとはハヤテにマリアまで加わって三人ですむマンションへと荷物を運ぶだけである。二人の荷物はすでに新しい部屋へと運ばれていた。 ナギの後ろにはハヤテとマリアが立ち、一緒に頭を下げていた。 「あんたがナギの彼氏かい」ハヤテは笑いながら頭を掻いた。 「なんにせよ、姉上様と彼氏が還ってきたなら良かったじゃないか。これからは三人で一緒に暮らすんだね」 「ああ、本当に良かった。もうここに戻ってくるんじゃないよ」 ナギは吹き出した。「鹿路さん。まるで刑務所を出るみたいじゃないか。私は二人と、(二人だけじゃないような気がするけど)一緒にいて楽しかったよ。今度はお土産を持って遊びに来るからな」 「そうかい、そうかい。そいつは楽しみだねえ」砂掛と鹿路が声を上げて笑った。二人の機嫌のいい笑い声を聞いて、ナギは言いにくかったことを口にした。 「ところで・・・ヒナギクのことは・・・何かご存知ありませんか」笑いが一瞬にして引っ込み、固まったような気配がした。
ナギがこのアパートに引っ越しする時に手伝ってくれたヒナギクは、その後も時々様子を見に来た。そして半年が過ぎ、ナギが初めて手料理をヒナギクに振舞った時、ヒナギクの瞳から涙が溢れてきた。 「ナギ、立派になったわね」 「な、何、泣いてるんだよ。あ、そうか。あんまり旨くて驚いたか」 「驚いたりしないわよ。あなたはきっとできると思っていたんだもの。もうこれで心残りはないわ」 「・・・なんだ、そりゃ」
後になってみれば思い当たることは幾らでもあった。だがその場では首を傾げつつもそれ以上の詮索はしなかった。 その日を最後にヒナギクが訪ねてくることはなくなった。連絡もつかなくなった。マリアやハヤテと同じだった。 ヒナギクの実家まで出向いたナギは、ヒナギクが高校を中退し、家に戻っていないことを初めて知った。もう半年近くも前、ナギが引っ越ししてそれほど時間が経っていないころ、となる。 「この前、手紙が届いて、元気にしているから心配しないで、ってあったんだけど・・・。連絡先も教えてくれないのよ」ヒナギクの義母は諦めたような口調だった。
「申し訳ないけど・・・、私たちにもわからないね」砂掛は呟いた。 「そうですか・・・」後ろでハヤテが呻くような声を絞り出したのを砂掛は聞きとがめた。「あんたもヒナギクさんの友達なのかい?」 どう答えていいのか迷っている風であったが、ハヤテは俯いたまま答えた。「すごくお世話になった人なんです」 「あの・・・私にとっても、大切な人で・・・。それだけでなく大変な迷惑をお掛けしてしまったこともありまして・・・」マリアも口を挟んだ。
砂掛が沈痛そうに顔を顰めた。「あの子はいつもそうさ。いつもいつも人助けして、そして報われることもなく貧乏くじばかり引いているんだ」 怪訝な顔をしていたナギの後ろでマリアとヒナギクの顔が苦しそうにゆがんだ。 「あ・・・、気にしないでくれよ。あんたたちのことを言ってるんじゃないんだ」 「私たちだって偉そうに言える立場じゃないんだから」口々に言う砂掛と鹿路の声がハヤテとマリアの胸に痛かった。 「それで・・・、ヒナギクさんについて砂掛さんたちは何も・・・」 暫くの沈黙の後、砂掛がぼそりと口を開いた。 「知らないよ・・・。だけど、伊澄さんがお屋敷に帰っているから、彼女に訊いたら何かわかるかもしれないね」 伊澄が帰っている?ナギ達にとってはこれも初めて聞く話だった。そもそも砂掛たちが伊澄と知り合いということも知らなかった。 行方不明となるのはいつものことだし、どこに行っても飢えもやつれもしない伊澄のことだからあまり気にしていなかったが、伊澄もまた一年ばかり姿を見ていない。そしてヒナギクの失踪と何か関係があるのでは、と噂されている。
慌ただしく去る三人の後姿を見送りながら、鹿路が小声で訊いた。 「おばば。教えて良かったのかい?」 「わからん。ヒナギクは怒るじゃろ。だが、あの子は人間なんだ。友達と縁を切って良いわけがない。あんたもわかっているだろう」 「それはそうだけどさあ・・・」 家の中に入った鹿路の首が天井に届くほどに伸びて、周囲をぐるぐると回った。 「あんたたち、しばらく不自由な思いをさせたけど。もういいよ」その声に応えて廊下に二つの影が浮かび上がった。生足が生えた古ぼけた和傘と舌を長く伸ばした全身緑色の半魚人に似た姿。妖怪「唐傘」と「あかなめ」だった。 「へへっと。お前さんもな。いつも行儀よく首をたたんでるのはしんどかっただろ。まあ、ヒナギクの頼みとあれば断れねえしな」 「あううううう」 そして管理人は「砂かけババア」。ナギに家事を教え込んでいたのは「ろくろ首」。 このアパートの本来の住人は管理人の砂かけババアを含めた妖怪四人だった。
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【第6話】 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.8 ) |
- 日時: 2019/04/14 21:03
- 名前: どうふん
- 今、放映しているゲゲゲの鬼太郎の第二部(というのかは知りませんが)はどうもピンと来ないですね。ライバルのキャラが立ちすぎているというか・・・。まあ今後の展開を見たいと思います。
ところで言わずもがなではありますが、第二部に出てくる「鬼道衆」は本作のタイトルとは全く関係ありません。念のため。
第6話: 帰還兵の告白
マリアはナギの荷物を受け取るため一人新居に戻り、ハヤテとナギは鷺ノ宮家にまっすぐに向かった。 門まで出てきた伊澄の母親の第一声は「あら、お見舞いに来てくれたんですか」。 その意味はすぐにわかった。 伊澄の部屋に通されたれた二人が見たものは全身に包帯を巻いて寝ている伊澄だった。 「伊澄、一体どうしたのだ、その姿は」 「ちょっと不覚をとりました。戦に戻るのはもう少し先みたいです」顔だけ二人に向けた伊澄は淡々と語った。相変わらずの無表情には、動けない自分への歯がゆさがにじみ出ていた。
「しかし伊澄さんほどの人がこんなケガをするなんて・・・。一体相手は何者なんですか」伊澄は口を噤んだ。 「なあ、伊澄。私たちはお前の友達じゃないか。友達がこうして大怪我して、しかも戦いはまだ終わっていないみたいじゃないか。心配してるんだよ」ナギの精いっぱいの声も伊澄に伝わっているのかどうか。無表情は変わらないまま一言も発しなかった。
「ヒナギクさんも・・・一緒なんですか」ハヤテの声に伊澄の眉がピクリと動いた。 「一緒なわけありませんね。現に私は一人で寝ています」寝返りを打ってそっぽを向いた伊澄の背中は(知っているけど言えません)そう語っていた。 ハヤテは猛烈な焦燥を感じた。言えない理由はなんだろう。言うもはばかられるほど危険な状況にある、ということか。重苦しいものが胸の中で膨れ上がって圧し掛かってきた。 自制が利かずハヤテは伊澄の正面に回り、目の前まで顔を近づけた。 「伊澄さん、教えてください。一体何があったんです?ヒナギクさんは無事なんですか?」 止めようとしたナギだが、血相を変えたハヤテの表情に慄然とした。それはナギが初めて見るハヤテの恐ろしい顔だった。
だが、それを平然と見返す伊澄の眼差しはさらに強かった。 「それを教えたら、ハヤテ様はヒナギクさんを助けに行ってくれますか」意表を突かれて黙り込むハヤテを伊澄は見据えた。その目を直視できずハヤテは俯いた。 「それは・・・。僕が行けば助けることができるんですか」 伊澄は鼻を鳴らした。もう日和ったか・・・、そんな思いが表情に出ていた。 「そんなことわかりません。はっきり言えば二人とも死ぬ可能性が高いですね。いや、私を含めて三人ですか」本気で言っているのか、脅しにかかっているのか傍で見ているナギにも判断できなかった。 だが、明らかにハヤテはひるんでいた。怯えているようにも見えた。 「僕は・・・ここでナギさんを守らなきゃいけないですし・・・。何年も経ってやっと会えたのに・・・」 「それならそれで構いません。立派なことですし責めるつもりもありません。ですが、私たちの世界に足を踏み入れようとは二度と思わないで下さい」
ハヤテは項垂れたままとぼとぼと帰途を歩いていた。 ナギはそんなハヤテのすぐ後ろを歩いていた。行きは二人並んで手を繋いで歩いていたのに、今は背中を追いかけながら声を掛けることさえできない。それほどハヤテの表情は陰鬱だった。
「そうですか・・・」一部始終を聞いたマリアは苦しげに考え込んでいた。 ハヤテは新居に戻って以来、部屋に籠って出てこない。 「なあ、マリア・・・」ナギは先ほどから気になっていたことがあった。「さっきアパートで言ってたじゃないか。ヒナギクに『大変な迷惑』を掛けた、って何のことなんだ?」 「・・・何でもありません。忘れて下さい」マリアはなおも食い下がろうとするナギに顔を向けた。表情が変わっていた。花のような笑顔が逆に怖い。 「そういえば私が旅から帰ってきたとき、ナギは真っ先にヒナギクさんの名前を呼びましたよね。そっちを先に説明してもらえませんか」 口ごもったナギは後ずさりして退散した。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.9 ) |
- 日時: 2019/04/20 20:56
- 名前: どうふん
第7話:巨いなる企て by 聖母
「ハヤテ君・・・」食卓に着いてぼんやりしているハヤテの頭上から声が降ってきた。マリアだった。 先ほどマリアが淹れてくれたコーヒーはほとんど手つかずのまま冷めていた。 「何か悩みがあるなら・・・。お姉さんに言ってごらんなさい。今ならナギもおりませんし」 しばし躊躇した。しかし、今心に抱えている悩みにマリアなら答えをくれそうな気がした。 「マリアさん・・・、僕は正しかったんでしょうか」
三人で暮らし始めて一週間が過ぎた。 久し振りに一緒になった生活はそれなりに楽しかったが、やはりぎこちなさが残っていた。 その原因は言うまでもなく、ヒナギクの行方不明にあった。 「ハヤテ君はヒナギクさんを助けにいきたいんですか?」 マリアの問いに、ハヤテはYESともNOともつかないうめき声を上げただけだった。 「私に背を押してもらいたい、と思ってるならムダですよ」マリアの声にはかつて聞いたことのない冷ややかな響きがあった。 「そうやって誰にでも分け隔てなく優しく、親切にした結果、あなたはどれだけの女の子を傷つけてきたんです。もういい加減学習したのかと思っていましたけど。あなたが守るべきはナギじゃないんですか。あなた自身がそう言ったじゃないですか」 ハヤテは俯いた。それ以上にマリアから言われたことがショックだった。 背を押してもらいたい、というのもあながち間違いではない。自分が悩んでいる様子を見れば「ナギのことは任せてヒナギクさんを助けに行きなさい」そう言ってもらえるような気がしていた。 (確かに・・・僕が守るべきはナギさんだ・・・。ナギさんを放っておいてまでヒナギクさんを命を捨ててまで守らなきゃいけないんだろうか。正義の味方でもスーパーマンでもない僕にそんなこと無理に決まってる) だが、どうしても心に引っかかることがある。それが何なのかはうすうす気付いていたが、それを認めるのが怖かった。
ハヤテの傍らを離れたマリアは忸怩たる思いに苛まれていた。ハヤテの逡巡する理由にマリアは気付いていた。というより恐れていた。 もともとマリアはナギの家庭教師からメイドと立場は変わっても、実質的な保護者としてずっと側にいた。当時のナギは引きこもりで周りには自分しかいなかった。そして認めざるを得ない。自分にとっても愛する存在はナギしかいなかった。そんな二人きりの日常は何の変化もなく淡々と過ぎていた。 しかし、ハヤテが加わることで状況は一変した。日常と非日常の境界線が曖昧となり、いろんな形でハプニングに巻き込まれた。そしてハヤテを軸として沢山の仲間ができた。 そして仲間に囲まれたナギはマリアさえ気付かないうちに少しずつ成長していた。 漫画の勝負に挑み、一度はあきらめかけながらも友達から励まされ踏ん張ることができた。横にマリアがいなくとも一人で寝ることを覚えた。そしてラスベガスではマリアに真っ向から挑み、ついに勝つことができた。 こうしてナギは上っ面でない本物の自信をつけつつある。
そんなナギの大切な想いを叶えたいというのはマリアのかねてからの願いだった。 そして今なら成就の可能性がある。そう思ったマリアはナギの成長ぶりをハヤテに繰り返し吹き込むと同時に、自分が去ることをハヤテに伝えた。ただ、この時点では実際には出て行かなくても良い、と考えていた。 マリアの本当の目的は、ハヤテにナギを強く意識させると同時に、危機感を抱かせることだった。保護者意識以上の気持ちをハヤテに持たせたい、そう思っていた。
しかし状況は一変した。ナギのクリスマスの勘違いはエスカレートし、第三者にまで知られることになった。そしてハヤテがこれに気付き、自分の方が去る覚悟を固めてしまった。これを何とか引き留めないとようやく芽を吹き始めた可能性はゼロになる。 ハヤテをナギの傍らに残すためには自分が先に出ていく他なかった。 もっともマリアといえど神様ではない。ハヤテの両親の企みや白皇学院の死闘まで読めるはずもない。 ただ、1%の可能性を残しておけば、今のナギならきっとなんとかできる。 そう信じた。信じたかったというのが正確なところであろう。とにもかくにもマリアは賭けに出て、それに勝った。 もっともナギが自立を決意した結果、ハヤテに暇を出すのはマリアの想像を超えていた。このため、二人が再会するまで二年間を要することとなった。 しかし、多少の読み違いはあっても、結果的にはマリアの思惑は最高の形で実現した・・・ はずだった。
だが、その計算には不確定要素が紛れ込んでいた。 かつてハヤテはヒナギクと初めて会った時、「お嬢様と似てる・・・」と感じた。そのヒナギクに惹かれ、一時はデートのような時間を過ごすこともあった。 実際のところ負けず嫌いで意地っ張りでありながら優しくて純粋な二人の性格は良く似ている。ただ決定的な違いは克己や尽力の精神だった。 ヒナギクはナギの成長した姿、そういう見方をする人もいる。実際、自立し、成長したナギはヒナギクの相似形といっても過言ではない。
もともとハヤテはヒナギクに興味を持っていない、と周囲もヒナギク自身さえ思っていたが、大きな間違いであることにマリアだけは気付いていた。 少なくともハヤテはヒナギク限定で他の女の子相手と異なる態度を示している。 ヒナギクに嫌われていると思い込んで落ち込んだり、下着姿を覗いたり、下ネタを振ったり、他の女の子には絶対やらないことである。ただ当時は天王州アテネへの贖罪やナギを守ろうとする意思が強すぎたため表面には出てこなかった。
(ナギのため、とはいえ・・・ヒナギクさんには申し訳ないことをした) 本来であればハヤテが付き合っているべき相手はヒナギクだった、と認めざるを得ない。 ただ障害が多すぎた。ヒナギクの稚拙な愛情表現や不器用な打算、ハヤテの自虐的な思い込み、それと偶然とは思えないほどの間の悪さなど数限りない。 決して二人の足を引っ張ったり、仲を裂こうとしたわけではないが、そこに付け込んだ、とは言えるだろう。結局、全く興味がなかったはずのナギにハヤテは心をつかまれた。
そして再会したハヤテとナギはマリアの目論見どおり付き合い始めた。自然な流れで。 だが、成長したナギがヒナギクと似ていたから、ということも認めざるを得ない。ハヤテは今のナギにヒナギクの面影を見ているのではないか。 もっともヒナギクがあんな消え方をしていなければ今さら大した障害とはならなかったであろう。だがこの状況にあって、ハヤテはヒナギクを心配する余り、一度は忘れかけた想いが頭をもたげている。 そして今のハヤテは自立する力を得たナギの保護者としてふるまう必要はない。当時と異なり、ハヤテの行動はナギとヒナギク、どちらへの想いが強いのかで決まることになるだろう。 そこまで考えてマリアは身震いした。胸の中に不安の黒雲が次第に膨らんでいた。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.10 ) |
- 日時: 2019/04/25 22:19
- 名前: どうふん
第7話は当方の世界観に基づくものですが、かなり強引なのはわかっております。
「ハヤテのごとく」の最終回周辺、ヒナギクさんに救いはあった。西沢歩のセリフは絶品だった。あのクズ両親に天誅は下った。 そしてナギは成長し、ハヤテやマリアさんも戻ってきました。良かった良かった。
ということを踏まえたうえで言いますが、根本的に生活力をもたないナギが、なぜゼロからスタートしてあれほどの成長ができたのかは分かりません。やはり支えてくれる人物がいたんじゃないでしょうか。 そしてマリアさん。聡明ではあってもちょっと天然含みで、的外れなこともあるマリアさんが本当にあれほどの計算ができたのでしょうか。読み違いもあっただろうし、結果オーライの要素が強かったのではないかな・・・。
第8話 : そして・・・再び立ち上がる
「ナギちゃん、お久しぶりー。相変わらず元気そうだねー」 「ホントにそう思うのか、お前」 「え、ええと。ハヤテ君と同棲始めたって聞いて、幸せ一杯だと信じて疑わなかったんだけど・・・」 「それは私の顔色を見て判断しろ」 「ええ・・・。だってナギちゃんはいっつも不機嫌そうにしてたじゃない」 「よ…余計なお世話だ」 ナギと西沢歩の再会はこんな形で始まった。先日のクリスマスパーティに歩は不参加だった。その日、生涯初の彼氏と初のお泊りデートをして初体験と初物尽くしで、今なお余韻に浸っていた。 「クリスマスパーティ、行けなくてごめんねえ。思えばあのクリスマスの夜、彼の眼はいつにも増して優しくて・・・、それでいて獣のように・・・」 エヘ、エヘと呆けたようなニヤケ顔が止まらない歩とは対照的にナギはしかめっ面だった。
「で、お前に訊きたいんだが」 一人暮らしを始めたナギはその当初何度も挫けそうになったことがある。そんな時、近くでルームシェアしていた千桜やカユラに聞いた。自分を助けるため、どれだけヒナギクが必死に戦い、歩が葛藤したのか。多少の脚色はあるのだろうが、ともすれば投げ出したくなる自分に鞭を入れることができた。 だが、今訊きたいのはそこではない。ヒナギクの性格を考えればその行為はまだ理解できる。だが、歩がなぜハヤテの告白を断ったのか。それを知りたかった。 「だってあれ・・・本当のことじゃなかったし。一年前にもしかしたらこうなっていたかもしれない、というだけの話でしょ」何でそんなことを訊くの?といいたげだった。 「あたしにとっては、ハヤテ君も大切だけど、ナギちゃんが遠くに行っちゃうのは嫌だったし・・・」 「お前・・・、そんなにまで私のことを・・・。ハヤテやマリアだけじゃない。私はそんなにまで皆から愛されているのか」ナギの眼が潤んでいた。 歩はナギの発想が飛躍していることに気付いた。間違いではないがはっきり言ってそこはそれほど重要なポイントではない。 「あ、あの・・・それだけじゃなくてね」ここで正確さを求めるのが歩の愚直なところ。 一年前に強制的にリセットされてナギだけでなくヒナギクやアリスと一緒に過ごした一年間がなくなるのは嫌だった、という理由もあるし、そもそも当時の事態が本物でない以上、いつ現実に戻されるかわからない、ということもわかっていた。ついでに言えば、本当はちょっと惜しかったかな、という気はしている。 だが、どこまでナギに伝わっていたのかはわからない。とにかくナギは固く拳を握りしめ、文字通り再び立ち上がった。 「私はお前たちからそれだけ愛され尊敬されるにふさわしい人間になってみせるぞ。まずは私のために命を賭けて戦ったヒナギクを必ず助け出す。借りは返すぞ」 (おお・・・。あのぐうたらお嬢様のナギちゃんが・・・まるで少年漫画のヒーローみたいなことを言っている) もっとも助け出すのはナギではなくハヤテということだろうが、歩は素直に感動した。 「ナギちゃん、頑張ってね。必ず私の親友を助け出してね」歩もまた、ヒナギクの失踪に心を痛めている一人だった。 「おお、任せておけ」大見えを切ったナギは駆けだそうとして、立ち止まった。
「ところでハムスター。お前、キスしたのか?」 「え、あたし、彼とは最後まで・・・。思えばあのクリスマスの夜、彼の眼はいつにも増して優しくて・・・」 「いや、それはもういい。夢の中でハヤテとキスしたというのは本当か」 「え、何のことかな・・・?いや、キスした、しましたよ。だけどナギちゃんももう何回も・・・」 「うるさい、お前のことなんて知るかあ!」 考えてみれば、再会した夜にキスし損ねて、それ以降まだ一歩も進んでいなかった。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.11 ) |
- 日時: 2019/04/30 21:00
- 名前: どうふん
- 第9話 : 義理と人情の秤
「ナギ、本気で言ってるの?」マリアは顔を顰めた。 「当然だ。ヒナギクは私の恩人だ。知らん顔はできない」 昂然と胸を張ったナギにマリアは腹立たしさを覚えた。どれだけ成長して独り立ちしても、そして想い人から愛されるまでになっても、根拠なき自信に支えられた天動説は変わらないのか。自分がどれだけ辛い思いをして、ナギのために本来勝ち目のない戦いを微妙な勝利に持ち込ませたのか全然わかっていない。だが、それを言うわけにいかない。 「ヒナギクさんを助けに行ったらハヤテ君が死ぬかもしれないんですよ。わかっているんですか」 「大丈夫だ。ハヤテはきっと生きて帰ってくる」 (その時はヒナギクさんと縒りを戻す可能性がどれだけ高いかわかっているの)縒りを戻す、という表現はどうかと思いつつ、これは呑み込んだ。 「とにかく、私は反対です。伊澄さんも言っていたそうじゃないですか。『私たちの世界に足を踏み入れるな』と。堅気になった私たちが関われるような問題ではありません」 「それでも・・・ヒナギクを見捨てることはできない」苦し気に顔をゆがませながらナギは意地を通した。「それだけの恩がある」 マリアは言葉に詰まった。確かに、自分とハヤテがナギの元から去った時、マリアの読み違いを補い、ナギを助けて育ててくれたのは間違いなくヒナギクだった。
その夜、仕事から帰ってきたハヤテを異様な雰囲気が待ち受けていた。仕事に集中できず、クライアントに怒られ肩を落としていたハヤテだが、それどころではなさそうだった。 「ハヤテ、お前はどう思っているんだ」 ナギとマリアのハヤテに向ける眼差しが只事ではなかった。 「やはり・・・ナギさんをほったらかしてまで行くべきではない・・・と思います」 マリアは小さく息をついた。「ね、ハヤテ君の言う通りですよ。ヒナギクさんならきっと大丈夫です。あれだけの人なんですから」 「そうか・・・それならそれでいいのだが」非常に意外な気がした。複雑な思いがナギの顔に浮かんでいた。
ハヤテは食事を済ませると早々に自分の部屋に籠った。ベッドに寝っ転がって考え込んでいる耳に、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。 入ってきたナギは黙ってハヤテの横に腰掛けた。ハヤテは上半身を起こそうとしたが、ナギに止められた。「ナギさん?」何度か瞬きをしたハヤテにナギは顔を近づけてくる。 「ハヤテ・・・」 ハヤテは混乱した。受け入れていいのか。といって断る理由もない。 だがナギの顔はほんの数センチ前で止まり、それ以上近づいてこなかった。 「ハヤテ、どうした。気になるのか」ナギの息を顔で感じた。 「な、何が、です」 「それを私に言わせるのか」ハヤテは苦渋に満ちた顔をして沈黙した。 「お前の顔、見たことあるな」かつてギリシャで過去と決別できずに苦しむハヤテのことを指していることは明らかだった。 「私のことなら気にするな。きっと待っているから」 「お嬢様・・・」ハヤテの眼に、ナギがかつての姿と重なった。だが・・・、それでもハヤテは決断できなかった。 そんなハヤテの眼をじっと見ていたナギが口を開いた。 「なあ、ハヤテ・・・。お前が好きになった私というのは、ヒナギクが育ててくれたんじゃないのか」 ハヤテは怪訝な顔をした。「え、マリアさんじゃなくて?」 「マリアはまた別だ。やっとわかったよ。そうでなければあんなに何もかもうまくいくものか。あのアパートも私が世間や家事というものを知るためにヒナギクがお膳立てしてくれたんだ」
ハヤテは一人、自分の部屋でまんじりともせず考え込んでいた。 行くか行かないか、ではない。かつて自分はヒナギクを好きだったのではないか。複雑な事情と環境を抱えた当時の自分はそれに気付かなかった。いや、それさえ疑わしい。気付かないふりをしていたのかもしれない。 かつてヒナギクと別れる時に流れた涙とはまさにそれだったのではないか。 それが完全に過去のものならそれでいい。だが、今自分が手に入れたものはヒナギクのお陰であり、苦しめているものは、かつてヒナギクに抱いていた想いではないか。 (今、ヒナギクさんは大変な闘いの真っただ中にいるんだ・・・) 思えばいつもそうだった。ギリシャでも白皇学園でもヒナギクは他人から知られることもなく、最も危険な戦場に身を置いていた。それがハヤテのためであったことさえ最近まで知らなかった。
かつてナギは全財産を投げうってでもハヤテを助けようとした。だからこそナギはかけがえのない存在となった。その陰にヒナギクの苦悩や死闘があったことなど全く気付かなかった。考えてみれば簡単にわかることなのに。 そればかりか、ヒナギクはナギの独り立ちを援けてくれた。ヒナギクはいつも損得や利害を超越して、恋敵を助けてばかりいる。西沢歩、アテネ、水蓮寺ルカそしてナギ。 (助けに行きたい。行かなきゃいけない・・・。現にナギさんも後押ししてくれている) だがそれはヒナギクへの想いを再確認することになるような気がした。それはナギとの別れに他ならないのではないか。 今さらそんなことが許されるわけがない。自分を信じ切ったナギの笑顔とマリアの冷ややかな眼差しが脳裏に蘇る。考えれば考えるほどどうしたらいいのかわからなかった。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.12 ) |
- 日時: 2019/05/08 23:06
- 名前: どうふん
- また今回も話が進まないまま十話を数えることとなりました。ハヤテがなかなか決心してくれないもので・・・。
まさかヒナギクさんの再登場にまで辿り着かないとは・・・。
今後の進め方については少々考え直す必要があろうかと考えておりますが、とにかく、第一章最終話です。
第10話 : 日常との別れ
「あなたは天王州さんを助けなさい」怪物の群れに囲まれ進退窮まったハヤテの前にマスクを被ったヒーローは忽然と現れた。今ならはっきりとわかる。「ヒナギクさん・・・」 「いいから早く」 ハヤテはヒナギクが開いた血路を駆け抜けた。誰かと抱き合いながら振り向いたその先にヒナギクが朱に染まって倒れていた。
机に体を預けて眠っていたハヤテは自分の声で目を覚ました。全身が冷たい汗に塗れていた。カーテンの隙間から覗く外は暗かった。(まだ・・・夜なんだ)手元の時計を掴むと、真夜中をそれほど過ぎてはいなかった。 「やはり・・・見捨てるなんてできないよ・・・」うめくように言ったハヤテは背中に毛布が掛かっていることに気付いた。 (ナギさんだろうか・・・。それともマリアさん)また胸が痛くなり、頭を抱えた。長い夜をずっと悩み苦しんだ。
再びうつらうつらとし始めたハヤテはカーテンの隙間から曙光が顔に差し込んでいるのに気付いた。不用意に開いた目がまぶしくて、瞑った目を再び開くまで時間が掛かった。 だがその時は心を決めていた。一度は閉じかけた目をもう一度開こう。 できることなら失いたくはない。それでも、振り切らなければならないことはある。
「やっぱり行くんだな、ハヤテ」 「はい、お嬢様。申し訳ありません」どこに持っていたのか執事服に着替えたハヤテは両目に大きなクマをつくっていた。執事服をまとい、「ナギさん」を「お嬢様」と呼んでいることが何を意味するのか、マリアは考えるのが怖かった。 「でも・・・どうやって・・・」 「伊澄さんのところへ行きます」確かにそれしか方法はないだろう。 「わかった。では行ってこい。必ずヒナギクを助けて・・・帰ってくるんだぞ」 「はい・・・」ハヤテはマリアを見た。「マリアさん、申し訳ありません」黙然としているマリアから目を反らし、ハヤテは自転車に跨った。 ペダルに片足を乗せ、力を込めたハヤテにマリアは一言も掛けることはなかった。だが、その目にかつての冷ややかな光はなく、ただ申し訳なさと苦しさが見えた。
脇目も降らず自転車を漕ぐハヤテの後姿を二人は見送った。 「なあ、マリア・・・。何であいつは執事服を着ていたんだろうな」 「それは私にはわかりませんが・・・。ハヤテくんにとっては日常と非日常、その境目だったのかもしれませんね・・・。またハヤテくんは非日常へ行ってしまったわけですか」 「なに、大丈夫さ。あいつはきっと日常に戻ってくる。ヒナギクと一緒にな・・・」 ヒナギクと一緒に・・・。ナギは繰り返した。 マリアは又してもナギを見くびっていたことを悟った。(気付いてたのか・・・) それでもあえてハヤテを送り出した心情を思うと自分の方が泣きそうになった。少なくともナギが自分の想像以上に成長していることは間違いなさそうだった。 マリアはそっとナギの背中を抱いた。「まだ、わかりませんよ。ハヤテ君が戻ってこないかどうか」ナギとはあえて反対の言い回しをした。腕の中にある小さな背中が嗚咽するように震えていた。
「伊澄には今、先客がおりますが、お通しても構わないそうです」伊澄の母親に案内された部屋には見覚えのある老婆の姿があった。 「来客って・・・砂掛さんでしたか」違和感があった。数日前に見た包帯も三角巾も消えていた。 (いつの間に治ったんだ・・・?)呆気に取られているハヤテを見た砂掛はごまかすような笑い方をした。 「わしはこう見えてヒーリングの名人での。こうしておけば治癒が早まるのじゃよ」 確かに砂掛は伊澄に手をかざし、念を込めているように見えた。 「は、はあ・・・」
ハヤテは改めて、ヒナギクを助けにいくことを伊澄、そして事情を知っているであろう砂掛に伝えた。 顔を顰めたのは伊澄ではなく砂掛だった。 「何をバカなことを。あの場で人間が何の役に立つ」 「で、でも、ヒナギクさんや伊澄さんは」 「ヒナギクたちは例外じゃ。西洋妖怪と戦ったことがあり、白桜や黒椿を扱えるからこそゲゲゲの森へと入ることができる」 「私はしばらく動けません。私がお借りしていた黒椿はハヤテ様にお渡しします。そしてハヤテ様なら使いこなせますよ」 砂掛の渋面が濃くなった。砂掛にしてみれば、ヒナギクを連れ戻してほしかったのだが、逆方向に話が動いてしまった。だが、今の戦況が楽観できるものでないこともわかっていた。 「だったら・・・勝手にすればいいさ」 「お待ちください。砂かけババアさん」立ち上がろうとした砂掛を伊澄が呼び止めた。 (え。ババアって・・・)およそ伊澄に似つかわしくない言葉遣いにハヤテは呆気にとられた。 しかし砂掛は小娘の無礼な呼びかけに怒るでもなく当たり前のように振り返った。 「ハヤテ様を連れて行ってください。私の体では案内ができません」 砂かけババアはしばらく伊澄とハヤテを見比べていたが、やがてため息をついた。 「じゃ、ついてきな」 ハヤテは伊澄から託された黒椿を携え、砂かけババアの後に続いた。
「あ、あの・・・砂掛さん」 「『砂かけババア』と呼びな。あんたもそろそろ気付いているじゃろ。わしは人間じゃない」 「一体何が起こっているんです。そしてヒナギクさんに何があったんですか」 「日本は・・・日本妖怪は今、西洋妖怪と全面戦争をしているのじゃよ」 絶句するハヤテに砂かけババアは説明を続けた。 今、西洋妖怪は侵略の牙を世界に伸ばしていた。服従するものだけが奴隷あるいは使い捨ての兵隊として生存することを許される。そして屈伏を拒絶した鬼太郎率いる日本妖怪は、およそ二年に亘る「妖怪大戦争」と称される西洋妖怪との抗争に明け暮れていた。 そしてヒナギクや伊澄は鬼太郎ファミリーの一員として、日本妖怪に加わって戦っている、という。
さすがにハヤテの想像を遥かに超えていた。 「一体、なぜ、そんなことに・・・。何でヒナギクさんが」 「まあ、いろいろあってな。以前人間の街中で魔女や怪物騒ぎがあったことは覚えているかの。その場に居合わせたのがヒナギクでね。そこから付き合いが始まったのさ」 確かに二年ほど前、魔女らしき少女が箒に乗って都会の街中を飛び回ったり、キングコングもどきの怪物による少女誘拐事件が報道され、大きな騒ぎとなったことがあった。 今では思い出すものも少ないが「正義の味方」でもあるヒナギクが当事者の一人であったとしたら、それを無視できなかったということは大いにありうる。 そして今、日本妖怪の味方として西洋妖怪の侵略と戦っていると、いうことか。誰にも知られることなく。 改めて胸が痛んだ。結局自分は・・・自分ばかりではないだろうが、どれだけヒナギクに依存し、甘えているのか。 ヒナギクはなぜ何もかも自分で背負おうとするのだろうか。かつてヒナギクは言った。 「たまにはワガママ言わないと幸せつかみ損ねるわよ」それなのに。 「ん、どうしたんだい」 「いえ、何でも・・・」瞼が熱くなりかけていた。
小さな祠が見えた。 「さ、ここから先がゲゲゲの森さ。最初はわしと手をつないだ方がいいじゃろう。こんな婆さんの手で申し訳ないがな」 「い、いえ、何もそんな」むしろ妖怪の手、という点に尻込みを感じたが、握ってみると普通のお年寄りの手と変わりがなかった。 一瞬のことだった。まばたきしたその先に鬱蒼と茂る森が広がっていた。 だが、その森はあちこちから火を噴出していた。火の粉が舞っているのが見える。本格的な山火事だった。 「森が・・・、ゲゲゲの森が・・・」砂かけババアは駆けだした。 一体何が起こってるんだ、ヒナギクさんはどこに?ハヤテは後を追って駆けた。できることはそれだけだった。
<鬼か人か 第一章:曙光のひとかけら【完】>
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.13 ) |
- 日時: 2019/05/11 00:38
- 名前: ハヤテ大好き
- はじめまして、ハヤテ大好きと申します。
自分は長年ここの掲示板の小説を読ませてもらっていました。 感想は書き込めておりませんが、目はすべて通したつもりです。 なんだか上から目線になってしまってごめんなさい。
どれも素晴らしい小説で大好きです。 ですが、原作完結に伴い投稿の数が極端に減ってきてしまったことを残念に思っていました。 ああ本当にハヤテのごとくという物語は完結してしまったのだと寂しくなりました。
でもどうふんさんの小説を拝見した瞬間、ハヤテキャラみんな、その後も歩みを進めていたのだと気づきました。 しかも原作にあったシーンをふんだんに応用してる、、、! パルデノン神殿でハヤテの複雑な顔をナギがみてたとか細かいとこも!
ハヤテがヒナギクに好意があったかという点では 確かにハヤテがヒナギクに女の子として意識してるところも多数あったなと。
あとキャラの台詞まわしが すごく魅力的で面白いです。 それを言ってるシーンがすぐ浮かんできます。
素敵な小説に出会えてとても嬉しいです。
畑先生にも読んでほしいです。
これからも続き待っております。頑張ってください。
追伸 おまけコーナーでもなんでもいいので、ナギとハヤテ絡んでるとこみたいです。 存分にいちゃついてくれないとナギの今までの気持ちが浄化されないようで、、、 方針的に一時的にもハヤナギが難しいのであれば全然これは無視してください。
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Re: 鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら ( No.14 ) |
- 日時: 2019/05/11 23:22
- 名前: どうふん
はじめまして、ハヤテ大好きさん。 感想ありがとうございます。書き始めるのは簡単ですが、書き続けるには、やはり感想を教えてもらえることが一番モチベーションにつながります。
「ハヤテのごとく!」を少々論じるなら、良い意味で中途半端に終わっています。十年以上も連載しながら主人公とヒロインが完結直前まで結ばれない。かつラストシーンで(キスもなく)手を繋いで完結するドラマはそうないと思います(少なくとも私は思いつかない)。 だからこそ、その後を想像する余地が大きいわけで、当方の作品は、恐れ多くも国民的漫画を巻き込んでの勝手な想像です。 ただ、作成に当たっては(コラボ作品を含め)原作に敬意を表して、キャラや設定は極力変えないように気は付けております。そうした意味で「キャラのセリフ回し」を気に入ってもらえたのはありがたい限りです。
畑先生に読んでもらえたら・・・、怒られるかもしれませんが本当に嬉しいですね。
第一章を終えたところで投稿は一休みしますが、また第二章に取り組みます。
あと、ナギについて一言だけ触れておきます。ナギもまた私の頭の中では不幸になってはいけない存在です。
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