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対象スレッド 件名: 【第2話】鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら
名前: どうふん
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【第2話】鬼か人か 〜第一章 曙光のひとかけら
日時: 2019/03/27 22:07
名前: どうふん

第2話:不思議アパートの住人


世の中には何じゃそりゃ、と突っ込みたくなるニュースが偶にあるもので、ナギは布団に寝そべってテレビを眺めていた。
昨日、東京の街中に巨大な化け物が突如として現れ、少女を掴んで摩天楼を上っていたそうな。いつか見たキングコングの映画を思い出した。
その化け物は超人的な力を持つ複数の少年少女に追い散らされ、攫われた少女は救われた。それが本当なら面白い。だが、映画かアニメを見ているみたいで現実感が湧かない。今日はエイプリルフールじゃなかったはずだが・・・
ドアをノックする音がした。せっかちに響く独特のリズムは覚えている。
「ナギ、居るの?入るわよ」ヒナギクだった。

「え、なんか話がうますぎないか、ヒナギク?不動産サギじゃないだろうな」
ナギは寝っ転がったまま筋肉痛に蝕まれた体をヒナギクに向けた。
− 敷金・礼金は不要。家賃は5千円/月。原則前月中に支払いであるが苦しいときはあるとき払い可。
そんな話を聞けば、誰もがそう思うであろう。だがその疑問は、ナギが一般的な常識を身に着けつつある、ということでもあった。
「その代わり六畳一間。風呂、トイレは共用。かなり古い物件だけど」ナギは姿勢はそのままで首だけ傾げた。とはいえ、立ち退きが3日後に迫っているにもかかわらず、未だ住むところは決まっていないのが現実だった。何とかアルバイトして独立資金を、というのがナギの目論見だったが、世間知らずで体力もないお嬢様が短期間にまとまった資金を調達できるほど世の中は甘くなかった。
「まあ一回見てみなさい。とりあえずの住処でいいんだし。私があなたにインチキ物件を紹介するわけないでしょ。それにね、ここなら千桜やカユラのアパートも近いわよ」笑顔で話すヒナギクが手を貸し、ナギはやっとの思いで体を起こした。

出迎えてくれたのは、人の好さそうな老婆とまだ若い奥さんくらいの女性であった。
しかし気になったのはその服装である。お婆さんが地味めな和服を着ているのはいいとして、若い女性も着物、それも花魁のような艶やかなものを身にまとっていた。
老婆が丁寧に頭を下げた。「初めまして。管理人の砂掛です。となりは鹿路(ろくろ)。このアパートの住人だよ」
「ああ、あんたかい。家事も全然できないからみっちりと教えてやってくれ、とヒナギクさんから頼まれてるよ」馴れ馴れしい声を上げたのは鹿路と呼ばれた若い女だった。
ナギが睨むような眼を送ってくるのを知らんぷりしてヒナギクも軽く一礼した。
「宜しくお願いします」
「ま、まだ決めたわけではないぞ」
「では、ご案内しましょう。ヒナギクさんも良かったらご一緒に」

「ここ、住んでいるのは管理人さんと鹿路さんだけですか」建物を回りながら首を捻るナギに、管理人と鹿路は顔を見合わせた。
「まあ、そんなとこだね。住んでいる人間は他にいないよ」
「でも・・・何か気配みたいなものを感じるんだが」ウソではない。建物に入ってからずっとどこからともなく視線を感じて仕方ない。
「ま、まあ古い物件ですしね。そんな感じがしても不思議はないわね」ヒナギクの取り繕うような声にちょっと違和感を感じつつも、ナギはこのアパートに住むことを決めた。感じる視線や奇妙な雰囲気は決して不愉快なものではなかった。それに千桜やカユラが近くに住んでいるというのも魅力だった。
(まあ、背に腹は代えられないしな・・・)
「ところで、このアパートの名前は何というのだ・・・いうのですか」
「ああ、それはね。『爽快アパート』っていうんだよ。あんまり古いから妖怪アパートなんて呼ばれたりもするけどね」
「よ、妖怪?」ナギは思わずヒナギクの顔を見た。
ヒナギクは何を思ったか肩をすくめて笑っていた。