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Colors
日時: 2017/06/27 23:09
名前: タッキー
参照: http://colors

12月24日。午後3時頃、広大な三千院家の中にある綾崎宅の二階の一室。この家の長女である綾崎アカリの部屋に、なにやら騒がしく階段を駆け上がる音が響ていた。その足音は確実に、スマホを片手にベットの上で横になっているアカリの部屋へ近づいて、そして次の瞬間、勢いよくアカリの部屋のドアは開かれた。

「アカリちゃーーん!!!カナエちゃんが意地悪するーーー!!!!」

「してません!!!」

部屋に飛び込んできたのは白髪の女の子と、その子の胸下ぐらいの身長の小さな青い髪の女の子だった。アカリは彼女たちに反応したのかユラリと上体を起こしたが、二人の目にその光景はまだ映っておらず、気づかないまま口論、もといじゃれ合いを続けていた。

「だいたい、リナさんはもっと時と場所とを考えるべきです!」

「時が…って言うなら今日はクリスマスイヴだし、場所だったら…ここはカナエちゃんの家なんだから問題ないんじゃない?それとも、カナエちゃんは私にギュってされるの……イヤ?」

「べ、べつに嫌というわけではないですけど……ちょっと回数が多いというか………。恥ずかしいというか………」

最後の方は声量が小さすぎて、すぐ隣にいたリナにも届いていなかった。何と言っていたのか聞き返そうとしたリナだったが、いつもなら真っ先に会話に入ってくるアカリが未だ一言も話していないことに気づいた。リナが彼女のほうを見てみると、アカリはベッドに座ったままうなだれている状態で固まっていた。

「お、お姉ちゃん?どうしたんですか?もしかしてお腹が痛いとか……?」

「………………のに………」

「「へ?」」

遅れてアカリの状態に気づき、声をかけたカナエの耳に入ったの力の台詞の一端のみだった。さすがに心配になった二人が近づいてみると、アカリが横にしたスマホを両手でガッチリと握りしめているのが分かった。さらには、彼女の体がプルプルと震えていることも……

「プロトのために貯めていた石全部使ったのに………」

「「…………」」

アカリの言葉にリナはクエスチョンマークしか出てこなかったが、カナエのほうはこの光景に見覚えがあるようで、どこか呆れたような表情を浮かべていた

「そりゃ、星5だったけれど……出にくいのは分かってたけれども……!!」

次の瞬間アカリは突然立ち上がり、割りと大声で、自室の天井に向かって胸の内をぶつけた





「なんでギル様礼装がこないんだよぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」







「…………」

「…………」



「なんで礼装が来ないんだよ!!この前もギル様の礼装来なかったし!なにか!?鯖のほうがいるからいいだろって!?いいわけあるか!!だいたいピックアップ礼装のくせに確率低すぎるんだよ!!くるのはダーニックばっかだし!!それも星四だし!!………………」




「…………」

「…………」

その後、リナとカナエは十数分間にわたってブツブツと愚痴を並べきったあげく、消沈していくアカリを黙って見ていた。






「もうダメ……。ぜパるわ………」























     第1話 『 Re; 』


































「ていうか、なんでウチの庭でクリスマスパーティーするのよ?人数多いんだから母屋のほうでやったほうが良かったんじゃないの?」

「まぁ、よいではないか。大きくやりすぎても、掃除とか片付けとか……いろいろ大変なのだ」

「おもに執事とメイドさんたちが…ね」

ヒナギクは隣で美味しそうにチキンを頬張るナギを見て、大きくため息をついた。庭先に目を戻すとそこにはいつもはないはずのテントが建ち、その中では歩や千桜など、多くの友人たちがテーブルを囲って楽しそうに賑わっていた。そしてこの家の家主であるハヤテはというと、女性陣のために彼女たちの隣で忙しそうながらもどこか嬉しそうに、バーべキュー用のコンロでせっせと肉やら野菜やらを調理していた

「相変わらずだな……」

「たしかに、あんまり変わってはいないのかもね………」

見られていることに気づいたのか、ハヤテは一旦手を止めると汗のつたう顔を上げてこちらに手を振ってきた。さも当然のように手を振り返したヒナギクだったが、腕を下ろした後でナギがじっとりとした目で自分のことを見ていることに気づいた

「相変わらずだな」

「な、なによ!これくらい普通でしょ!?」

今度はナギがため息をつく番だった。

「まったく…いつまで新婚ホヤホヤなんだか……」

「べ、べつにそんなんじゃ………!」

「まったくだよ。毎日毎日、娘達の前でもお構いなしなんだから。パパもママも、もうちょっと節度というものを持ってほしいね」

「ちょっ!!アカリまで……!!」

ナギの言葉に動揺していたせいか、ヒナギクは自分の娘がすぐ隣まで来ているのにも気づいていなかった。いつものように、左側で結ったポニーテールを元気に揺らすアカリは、呆れた声で、しかし少し嬉しそうな顔で、いつものように母親であるヒナギクに無垢な笑顔を向けた

「それじゃ、わたしはお肉をたくさん食べないといけないので!!」

軽い敬礼をしたアカリは逃げるようにテントの方へ足を弾ませたが、何か言う気力も失せていたのでヒナギクはひらひらと手を振って了解の合図だけを送り、そのまま黙って娘の背中を見送った

「相変わらず元気だな」

「元気がありすぎて困ってるくらいよ。少しは妹を見習ってほしいのだけど」

とは言いつつも、その元気の良さも含めてアカリはよくできた娘だとヒナギク自身思っている。きっと調子に乗るので本人には絶対に言わないが、アカリは率直に言って良い子だ。素直で真面目。家事手伝いは進んでしてくれるし、学校の成績も申し分ない。分かり切っていることだが家族間の仲はすこぶる良い。彼女の言動に困らせることもあるが、それら全てを含めて愛おしいと思っている


……私もハヤテとあんまり変わらないわね。



自分を改めて見つめ直して、ヒナギクは微笑と一緒にため息をこぼした

「どうした?」

「べつに。ほら、わたしたちも何か食べましょ」

そう言ってナギを残したままヒナギクは一歩踏み出す。手持ちの食べ物は無いし、腹もすいている。付け加えると娘と同じく肉が欲しい気分だ。気の回るハヤテのことだからちゃんと残ってはいるだろうが、アカリが向かった以上うかうかもしていられない。それに、どうせならみんなと一緒に盛り上がったほうがいいに決まっている


今日はせっかくのクリスマスパーティーなのだから
































同刻。ひたすらに肉と野菜を頬張り、いい年をした女性とは思えないほど口回りを汚していてる西沢歩の耳を、涼やかだがとても騒がしい声が通り抜けた

「おーい!!あゆゆーー!!」

「こ、こら!あゆゆ先生だって一応先生なんだから、ちゃんと先生をつけなきゃだめでしょ!」

「ルナちゃん?一応ってどういうことかな?一応って?」

声の始点には瓜二つの白髪美少女が二人。大きな目にそれを飾る長い睫毛、理想とも言える顔のパーツの整い方まで、まるでコピーを取ったかのように似すぎている。違うところがあるとすれば一人はカチューシャで髪を飾り、もう一人は結った髪でお下げを作っているという髪型の違いの一点のみだ

…自分がこの子たちくらい綺麗だったら、もっと華やかな人生になったのだろうか。

世の中の不平等さは目から侵入すると同時に体中に巡り渡り、脳にありもしないことを想像させる。しかし説明するまでもなく双子である目の前の少女たちは自分の教え子であり、彼女たちにとって自分は先生だ。間違っても大人気ないところは見せられない。そう、一応先生なのだから

「で、何の用なのかな?先生は今お肉を確保するのに忙しいのだけど」

「なんかお肉食べたい系の人多くない?気のせい?」

「あゆゆ先生はもとからよく食べる方だから。この前も体重が……」

「はいストップーー!!お肉あげるから!!ね!?」

このように生徒に振り回されてしまっていては大人気もへったくれもないのだが、これが白皇学院教師、西沢歩の日常なのだ。つまり生徒たちとの仲はすこぶる良いというわけである。

「で、結局何の用だったのかな…?」

「いや、見かけたら声をかけただけだったんだけど…」

「わたしの…お肉……」

二人の皿に積み上げられた焼肉串を見て、がっくりと肩を落とす。べつに普段から食べていないわけではないが、三千院家内で振舞われる肉はスーパーのそれとは違い高級なのだ。この機会にたくさん食べておきたいというのは当たり前だろう
しかしいつまでも貧乏くさいことを言うわけにもいかず、また次の肉を手に入れるために力を振り絞って顔を上げる。バーベキューは戦争なのだ。相手が子供でも油断をすればすぐに寝首をかかれる。大勢が集まる以上、食べられる数には限りがある。それをいかに効率よく、かつ大量に自分のもとにできるかが重要なのだ。落ち込んでいる時間などない。行動を起こすべきなのは今なのだ

「あの…あゆゆ先生?」

「なにかなルナちゃん!!BBQは戦いなのよ!!だから先生は早くお肉を確保しなきゃいけないの!!」

「いや…これ」

差し出されたものを見て歩は思わず息を呑む。カチューシャの女の子が自分に渡そうとしているのは先ほど自分があげたはずの焼肉たち。人は失って初めてそれの大切さに気づくというが、今がまさにその状況なのだろう。山型に積まれているそれは自分が持っているときよりも一段と輝いて見えた。これをくれる彼女は女神なのだろうか。いや、女神なんですね分かります

「いいの?」

「いや、わたしこんなに食べないですし…。ていうよりもうお腹いっぱいなんです」

「ありがとうございます!!」

大人気ないところを見せないと思ったのはきっと遠い昔のことだったのだろう。直角に近い角度で歩は頭を下げる。だがすぐに態勢を直すと人の集まるテントのほうに向き直った

「じゃ、わたしはもっと食べないと満足できないので!!」

「あ、はい…。頑張ってください…」

砂煙をあげる勢いでテント方向へ突っ込んでいく歩に呆気にとられていたルナだったが、すぐに隣からの妹の声に意識を呼び戻される

「相変わらずあゆゆは元気だねー」

「そうだね……」

歩から貰った肉で口をもぐもぐさせているリナとの会話に、ルナはどこか違和感を覚える。しばらく頭の中を旋転していたそのしこりはやがてシャボン玉のように弾けて一つの答えを彼女に誘起させた

「だからあゆゆ先生は先生なんだから、ちゃんと先生をつけなさーい!!」





























「はい。熱いから気を付けてな」

「あ、ありがとうございます……」

粗熱を残すねぎま串に息を吹きかけ、必死に温度を下げようとする様がとても愛らしい。幼女に食べ物を渡しているだけなのに、頭の中で様々なシチュエーションが生まれてきてしまう。これはもう両親に頼んで一日だけでもいいからこの子を貸してもらうしかない。いや、決してやましい気持ちはないのだ。これはそう、仕事のためだ。ノベル作家としての本分を全うするために必要なことなのだ

「千桜お姉ちゃん?カナエちゃんが可愛いのは分かり過ぎるんだけど、いやらしい手つきで幼女を連れ去ろうとするのはよくないと思うよ。うん」

「だ、だれが誘拐犯だぁーーーっ!!」

「いや、そこまでは言ってないんだけどね…」

驚きのあまり、意図せずに大きな声を出してしまう。相変わらず綾崎家のセコムは優秀で、次女に甘々な姉と両親、長女に過保護な両親。そして当然、妻をしつこいほどにガードしている夫という徹底ぶりだ。呆れるのを通り越して尊敬してしまう。
しかしそんな呑気な思考もそれまでだった。

「お姉ちゃん。千桜さんが誘拐なんてするはずないですか!」

純粋な優しさが千桜の胸に突き刺さる

「いやいや、意外とこういう人って適当な理由つけて幼女さらっていくタイプだからね。気を付けたほうがいいよ。マジで」

的を射ているだけ、アカリの言葉のダメージが大きい

「だから千桜さんはそんな人じゃないんですって!」

「いや、千桜お姉ちゃんは犯罪者予備軍だね。間違いなく」

優しさが痛い。酷評が辛い。
このままではベクトル違いの圧力で精神が押し潰されてしまいそうだ。しかし当然、大の大人が、二人係とは言え子どもにメンタルをボコボコにされて沈黙したままではいられない。いまだ言葉の鉄球が飛び交う中で体制を立て直し、千桜は焼き串をつかみ取る。炭火焼き独特の香りが立ち、焼きたてでまだ泡立つ肉汁が滴り落ちる。これなら勝てる。BBQ戦争で最も破壊力の高い兵器を手に入れた千桜は確信した。これで勝つると
なるべく自然に。そして冷静に。クールな外面を崩さずに、しかし心ではほくそ笑みながら千桜は綾崎姉妹に串肉を差し出した

「ほら、肉焼けてるぞ」

「いや、私はもうお肉はいいかなって」

「すいません。私もお腹いっぱいなので」

拒否られた。つらい、死のう
しかし落ち込む千春を蚊帳の外に放り出し、アカリ達はいつのまにか合流していたルナたちとの談義に花を咲かせている。やはり世代が近いほうが共通の話題が多いのもあって会話が良く弾むらしい。それに、ほぼ全員が白皇に通っているというのが一番大きいのだろう。

「そういえば、アカリちゃん生徒会長になったんだっけ?」

千桜はふとヒナギクが話していたことを思い出す。母娘そろって白皇学院の生徒会長をやっているなんて、血は争えないとはこのことを言うのだろう。

「そうなんですよ!一年生で生徒会長なんて、すごいですよねー!!」

話に真っ先に食い付いてきたのはカナエだった。明らかに顔が輝いていて、瞳に映る姉への愛慕は爛々と燃え盛り、収まるところを知りそうにない。
ふいに、自分に妹がいたらこんな風だったのだろうかと考えてみる。いや、ここまで慕ってくれる家族がいること自体とても珍しいことだとは千桜自身分かってはいたが、それでもそう思做さずにはいられないほど、彼女を見ていると自分も妹が欲しかったと、そんなことを考えさせられる。

「攫っちゃダメだよ?」

「誰が誘拐犯だぁーーーー!!!」









































騒がしかった時間は既に終わり、今はもう灯りの無くなった自分の家の庭からは不思議なくらいに音が聞こえてこない。かすかな風だけがハヤテの頬を撫ぜ、どこかセンチな気持ちにさせられる

「なにたそがれてるのよ?」

いつか聞いた気がする台詞が、ハヤテの鼓膜にするりと入ってくる。振り返る間もなくヒナギクが横に来て、ハヤテと同じようにベランダの柵にもたれかかる。と、しようとして彼女はすぐに柵から距離をとった。ここは2階。大したことはないとは言え、やはり苦手なものは苦手らしい。ヒナギクに合わせてハヤテも柵から離れた

「で、何考えてたの?」

「いや、少し不思議だなぁって」

「ふ〜ん。何が?」

余計なことは聞かず、シンプルに先を促される。もう長い付き合いだ。何も言わなくても全てが分かるわけではないが、どういう時にどうして欲しいかぐらいはお互いに理解しあっている

「結局、変わったことなんてなかったってことが」

勿論、みんな成長したし、仕事や新しいことも始めている。自分たちのように結婚している者だっている。しかしこうして集まってみれば、まるで高校時代に戻ったかのように、あの頃と同じような話で、あの頃と同じような盛り上がり方をする。ずっと続くと、永遠だと思っていたものは終わってしまったはずなのに、蓋を開けてみればそんなことはありませんでした、と

「だから、それがなんだか不思議で」

色々な非日常があった旧時も、何の変哲もないただの日常だった今までも、まるで別物のように感じていたはずのものは実質同じだと今頃になって気づく。

「そうね〜」

きっと、ヒナギクが一番変わっていない。相変わらずの負けず嫌いで、相変わらずのしっかり者で、相変わらず人に優しい。彼女だけは何も変わっていないんじゃないかと思えるほど、移り変わりが見られない。もちろん胸の方も

「何か失礼なこと考えてるでしょ」

「い、いや!ヒナはそのままでも十分魅力的だから!!」

「そう?ありがと」

なんとか誤魔化せただろうか。いや、ギリギリアウトな気がする。あと一歩でも取誤れば、すぐさまお説教の雨でうたれることになっただろう

「でも……」

しかし、ヒナギクの言葉でハヤテの不安は消散する

「ハヤテは変わった気がする」

湧き出した感情は驚きだっただろうか、喜びだったろうか、それとも悲しみだっただろうか。その答えに辿り着かないまま、彼女の次の言葉に耳を傾ける。ヒナギクがそう言った理由がなんだかとても重要なもので、今の自分を形作っている何かのようにも思えた

「なんだと思う?」

「………」

ただでは解答を出してくれないヒナギクに、ハヤテは少しだけ捻り声を漏らす。正直に言ってしまえば自分が変わったことなどないと思っている。強いて挙げるならお金があることくらいだろうが、きっとそれは答案として正しくない。もっと内面的な、それこそ心境の変化のようだとは予想がついているのだが、ハヤテはどうしても思い当る節がない。
気づくまでは時間がかかる、いや、言わなければきっと分からないと踏んだヒナギクは軽くため息を溢し、相変わらずそういう所だけは変わっていない、と前置きをしてから頭を悩ませるハヤテに答えを打ち明けた

「ハヤテがね、私のことちゃんと見てくれるようになったってところよ」

「………え?」

これはもしかして土下座コースだろうか。再び不安が脳を占め始める

「ぼ、僕はいつだってヒナをちゃんと見てるよ!」

「知ってるわよ」

苦し紛れに出てきた言葉をあっさりと肯定され、少し拍子抜ける

「ハヤテがわたしを好きだってことくらい、ちゃんと分かってるわよ」

なら何故と聞き返そうとして、しかしそれはヒナギクの恥ずかしそうな表情に押し返された

「ハヤテくん…」

そう呼ばれたのはいつぶりだっただろうか。その言葉に感覚の全てが吸い込まれる。
自分はきっともうすぐ大切な言葉を聞くことになるのだろう。そう直感したハヤテは聞いてもいないのに返しの言葉を考え始める。彼女にとっての、一番大切な人にとっての一番大切な言葉になるような一言を

「ハヤテくん。わたしね…、あなたのことが好きなのよ」

いつか聞いたはずの告白。今までに聞いたことのない告白。不思議な感覚だった。ハヤテはそれを覚えているのに、ハヤテ自身はそれを知らない
ほんの少しだけ逡巡する。口を開くまでの瞬間が異様に長く感じる。夜冬の冷たい空気が肺に届くと同時に、身体が温めた息が闇夜に白を色付ける

「僕は、ヒナギクさんに返しきれないほどの恩があります」

自分も君が好きだと囁けることができたなら、どんなに気が楽だっただろうか。愛していると抱きしめることができたなら、どんなに胸のつかえが払拭されただろうか
しかし、そうはできなかった。そうできないだけの理由があり、それでなくてもここで愛を謡うのは正しくないと、ヒナギクに対する言葉としてふさわしくないとハヤテ自身が思った

「アナタが僕を幸せにしてくれたから、僕にはアナタを幸せにする義務があります。だから、僕はこの人生をそのために使います。アナタが自由だと言ってくれたから、僕はアナタのものになります」

好きだ。好きだ。愛している。その言葉を言えないのがもどかしい。
心の底から好きなのに、世界の誰よりも愛しているのに、ハヤテにはそれを言える資格がない。救われただけの幸せを、無条件で注いでくれた愛を、その全部を返済するまでは自分は彼女に追いつくことができない
どれほどの年月がかかるのだろう。きっと一つの命じゃ足りず、人生の全てを使っても届かない。だから…

「だから、ずっとアナタの傍にいます」

そっと彼女の手を取る。為すがままに持ち上げられた掌に抵抗の素振りはない

「これまでも、これからもヒナギクさんだけを見ています」

「うん……」

もしかしたら、気づけなかったかもしれない。もしかしたら、知らなかったのかもしれない。もしかしたら、これとは違うもっといいエンディングがあったのかもしれない。
しかし、これでいいのだ。胸の内にしこりを残し、まだ正しく想いを伝えられないままだとしても、これが正しいのだ

「流石に寒いわね。そろそろ中に入りましょ」

ヒナギクと共に一階のリビングへ足を進める。ハヤテの出した答えは愛には到底至っていないのに、ヒナギクはどこか満足した面持ちをしている
そう、これでいいのだ。これが正しいのだ


この話は、正しい彼女のための物語なのだから










































時を数刻さかのぼり、片付けの間際に千桜がふいに湧いた疑問を口にした。

「そういえば、岳さんたちはどうしたんだ?今日来ていないみたいだけど」

「お父さんたちなら、お兄ちゃんを迎えに行ってるよ」

白髪の少女の言葉から、千桜は自分の記憶の奥を覗き込む。そういえば、この少女の親、岳とレナの第一子は男の子だった。たしか名前は「シン」といったはずだ。赤ん坊の頃しか見たことがないので、成長した今の姿は想像もつかないが、きっと彼らの息子なのだからどうせイケメソなのだろう

「てか、そのお兄さんは今までどこにいたんだ?」

「ん?それなら勿論に……」

「新潟の専門学校に通ってたんですけど、今年度からこっちに引っ越すことになったんです」

突然、姉のほうが妹の言葉に被せる形で答えたが、千桜にはあまり気にならなかった。きっとカナエのように彼女たちも兄のことが好きなのだろう。まったくどこのラノベ展開だよと思いながら、おそらくこの少女たちに慕われているだろうその兄のことが気になった

「お兄さんって、どんな人なんだ?」

「え〜と……、一言でいうならカッコいい人です」

予想を当てた自分に少しだけ嫌悪感を覚える

「実は、わたしたちも一緒に過ごした時間は短いんですけど、小さい頃に遊んでくれた時は優しくて、頼りになって……」

書いているジャンルとは違うが小説のネタにはなるので、千桜はできるだけ聞き漏らしがないようにしっかりと耳を寄せる。妹のほうも混じって話は長くなったのだが、自分が聞いたことなので途中で止めることもできず、やはりラノベ展開みたいだな、と薄ら思いながら千桜は結局話の全てを聞いたのだった





























































































はいどうも、タッキーです。おひさしぶりです
まぁね、いろいろあったんですよ。車の免許取ったりとか骨折ったりとか就職決まったりとか。

そんなわけで今回から新作「Colors」始まります。前のヤツみたいに目も当てられない駄文を忘れ去られるくらい稀な頻度で更新していきます。
ちなみにお初の方にむけてですが、これには前作「兄と娘と恋人と」とかいう駄作があるのです。取り敢えずべつに読まなくてもお話が分かるように頑張ります

原作も終わっちゃったし、なんだかんだ暇だし(暇ではない)だらだらと書いていきます。どうぞよろしくお願いします。
最後にオリキャラのプロフィールをば












綾崎 愛湊(かなえ)

年齢  6才

誕生日 6月13日

血液型 O型

身長  96.3p

体重  19.9s

家族構成 父(ハヤテ),母(ヒナギク),姉(アカリ)

好き   お姉ちゃん(す、好きだなんて言ってないですよ!?)、両親

嫌い、苦手 苺,辛い食べ物,お手伝い(できないわけじゃないです!苦手なだけです!)


綾崎家の次女。小さい頃から(今も小さいけども)ハヤテについて回ってるので幼いながらに敬語で話してます。
性格はほぼヒナギクといった感じでもちろん負けず嫌い。運動とか勉強とかは大変良くできる子なんですが、家事全般が壊滅的。今はお手伝いで済んでるけど、大人になっても治らない設定で、そのうちきっと台所とかを破壊しだします。
姉たちによく絡まれよく怒りますが、それが特にいやではなく恥ずかしいから怒っています。
あとはまぁ、自分が(ビジュアル的にも)気にっているキャラなので多分よくでてきます











竜堂(りんどう) 潤愛(るな)

年齢  12才

誕生日 2月24日

血液型 A型

身長 156.2p

体重 43.2s

家族構成 父,母,兄,妹

好き、得意 コーヒー(飲むのも淹れるのも)

嫌い、苦手 機械とかは少し分からない


そのうち出てくる岳さんとルナさんの娘。妹のリナとは双子で1時間お姉ちゃん。岳さんとルナさんに関してはどうしても気になるのなら「兄と娘と恋人と」のどこかにプロフィールがあります(適当
妹にいつもついていってる、というか妹がはしゃぎ過ぎないように見ているといった感じ。基本的にはなんでも人並み以上くらいにこなしますが、この小説の中では普通な感じの女の子です。
両親が「喫茶どんぐり」をやっている(これも前作からの設定)影響でコーヒーには無駄に詳しい。お店のお手伝いとかもよくしてくれるいい子です。











竜堂 麗愛(りな)

年齢 12才

誕生日 2月24日

血液型 A型

身長 158.2p

体重 44.1s

家族構成 父,母,兄,姉

好き、得意 お姉ちゃん、カナエちゃん!カナエちゃん!!(大事なので二回

嫌い、苦手 水



ルナちゃんの双子の妹。双子とはいえ一応末っ子なのでお姉ちゃん願望があり、よくカナエちゃんに絡む
いつもはアホの子っぽい感じですが、運動とか勉強とかは大得意で、それらをするときはスイッチが入って人が変わったようにカッコいい女の子になります。それが原因で学校では女の子からモテてます。
お姉ちゃん願望はましましですが、それと同じくらいにお姉ちゃんっ子。やれば自分だけでなんとかできるのに、なにかにつけてルナと一緒にしようとします。
ちなみに水が苦手というのは、飲む以外の全てで水が嫌いという設定です。雨とかプールとか、お風呂は姉たちと一緒にしぶしぶ入ります。もちろん泳げません




さて、今回のプロフィールは異常ですお兄ちゃんのほうは一応、このお話の重要人物なので次回紹介します。女の子たちの名前の漢字がキラキラすぎるのはまぁ、いろいろ考えてたら…ね。

それではまた次回もよろしくお願いします
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Re: Colors ( No.1 )
日時: 2017/07/22 01:13
名前: タッキー
参照: http://colors

「なんで…、なんで……!」

その足で大地を蹴りつけ、その身体で空を切り裂く。
どれくらい走り続けただろうか。どれだけ進んでも然程変わらない風景に飽き飽きしてくる。相変わらず枝葉が雨のごとく降りかかり、それを回避し、破壊し、ときには受け止める。

---ったく、どれだけ広いんだよ

そう脳に浮かんだのもつかの間、頬を切り裂く銃弾によって言葉は口に届く前に消散する。流石に連発はしてこない。
てか、人に向けて麻酔銃をブッパするのは違法ではなかっただろうか。違法だった気がする。違法であってほしい。
この状況を本当にざっくりと説明すると追われている。もう少し詳しくいうなら黒服で強面の大勢の男たちに追い回されている。別に借金が1億5千万ほどあったり、どこぞの金持ちのご令嬢を誘拐したわけじゃない。一応金持ちの敷地内には入っているのだけど、もちろん何か盗んだりとかは一切していない。
ここで自分が追われている理由を思い返してみる。たしか練習試合の助っ人に呼ばれて、集合場所が会場の白皇学院で、時間は部長のミスで教えられていなかったから適当な時間に行ったら案の定他の部員はいなくて、そして学院に足を踏み入れた瞬間に黒服の人たちに「あなた、不審者ですね?」とか言われて

---オレ悪く無くね?

そう思うと同時に、ずっと言おうとしていた言葉が喉を通る。初めてこの学院に来た人ならきっと理解してくれるはずだ。なぜなら、普通の学校には絶対にいないのだから

「なんで、なんで学校にSPがいるんだよーー!」

やっと音になったその言葉は銃声にかき消され、その後しばらくしてから青年の逃走劇は幕を閉じた。もちろん、非平和的な幕引きで

















   第2話 『そして青年はさらに大人になる』




















やっとのことで見つけた小屋に身を隠す。SPたちには見られないように慎重に、しかし素早くドアを開きその内部へ身を潜り込ませる。足跡が通り過ぎていくのを確認してから、しばらく忘れていた普通の呼吸をし、それからやっと深く息をついて精神と身体の両方を落ち着かせる。まずは状況を確認をするべきだろう。時間に関しては大分ロスしたとはいえ、学院には大分余裕をもって来ている。きっと問題ないはずだ。それよりも問題は場所だ。広大な敷地だということはさっき、文字通り嫌というほど思い知らされたので、少なくとも場所ぐらいは把握しておかなければ確実に迷ってしまう。いや、現時点ですでに迷っている。

「てか、白皇内での集合場所も聞かされてねえし。ま、剣道部の試合だから道場にいけばいいか」

それならまずは案内してもらうためにこの学校の生徒を見つけなければ、とそう考えた矢先に一人の少女と目が合う。
運が良いことに、この小屋には一人の生徒がいた。運が悪いことに、今まさに着替えようとしてブラウスが丸見えになってしまっている女子生徒が

「………」

「………」

お互いにベタな展開だな〜、とか思いながら、お互いに黙り込む。重い空気の中、少女はいそいそと上着を着こみ、意外にも冷静な面持ちを青年に向ける。

「あなた、学校の生徒じゃないよね。だったら用事で来た他校の生徒ってことでいい?」

「ま、まぁ、そんなとこだけど…」

「それじゃ、おおかた正規の手続きなしに入ってSPに見つかって、そして追われた挙句ここに逃げ込んだってところでしょ?」

鋭い洞察力だ。さっきまでの状況からここまで冷静に状況を分析できる少女は大分肝が据わっていると見える。ひとまず誤解無く、安全に解決できそうだと判断した青年はほっと息を落とす。

「とりあえず、この学校に用があるんでしょ?」

「そうそう、剣道の練習試合があって…」

そこで青年ははじめて、少女が着こんだ衣服が偶然にも剣道着であることに気づく。

「そう、なら案内するね。丁度ワタシ、剣道部の部長だから」

彼女が部長をやっていると公言したことに違和感はなかった。先ほどの流れから分かる冷静で正確な判断力もそうだが、少しだけ見えてしまった彼女の上半身には無駄な贅肉は一切なく、引き締まったいい身体をしていた。けっしてイヤらしい意味ではく。

「で、それよりも先に言うことがあるんじゃない?」

「え?」

「え?じゃなくて、女の子の着替え見たんだから、事故でも一応言うことがあるでしょ?」

ここですぐに謝罪の言葉が出てきたならば、この事件はどんなに平和的に解決しただろうか。しかし、現実はそうはいかない

「いや、まぁ慎ましくてもその方が良いっていう人もいるし、気にすることないんじゃないか?」

その言葉に、思わず青年の口をついたその言辞に、少女は急速に顔を赤く染める。
まずいと直感したときにはすでに遅く、少女の飛び蹴りは綺麗な形で青年の顔面を歪めていた。




































「はぁ〜っ、もう最悪っ!!」

綾崎アカリは激昂していた。その程度はというと、まさに、実は宇宙人の地球育ちの主人公が、親友を強敵に殺され、スーパ―なんとやらに変身するぐらに。
一応律儀に案内して、「試合ではギタンギタンにするから!」と、道場内にいる部員全員に聞こえる程の大声で啖呵を切ってから青年を待合室に放り込んだ後も、彼女の怒りは決しておさまらなかった。落ち着くために竹刀を何度も振ってはいたが、切っ先が空を切り裂くたびに先ほどの青年の発言を思い出し、逆にイライラしてくる。素振りをやめてもやることがないので、ただイライラするだけでそわそわと落ち着かない様子を周りに見せているだけだった。

「なに?恋でもしてるの?」

「違うわぁあああ!!」

応援にきた親友からの一言にも目をギラつかせて反応する。アカリの親友、霞アヤカはそっとしておいた方が良いと判断し、差し入れのスポーツドリンクだけを置いて部屋を後にする。もっとも、それにすらアカリは気づいてはいなかったが。










































鋭い殺気が肌をビリビリと刺している。たった一人に向けられているはずのそれは道場全体に届き渡り、重く緊迫した空気を造出していた。

「なぁ、お前あの娘になんかしたの?さっきからめっちゃ睨んでるけど」

「いや、まぁ…少し……」

向かい側に座る少女の視線はそれこそ人を殺せるのではないかと思うほど先鋭で冷たく、しかし明らかに激情という熱をもっている。流石に青年も反省はしているが、だからといって罪が免じられたわけではない。よって練習試合の間中青年は彼女の殺気を一身に受けるほかなく、せめて彼女と試合をするようなことにならないように祈ることしかできなかった。

「大将戦。両者前へお願いします」

まぁ、助っ人のはずなのになぜか大将をやらされている青年の願いが届くはずもないのだが。

「審判、ちょっとタイム」

「いや剣道にタイムは無いん…」

「タっ!イっ!ムっ!!」

「はいはい……」

おそらく審判は彼女の友達か何かなのだろう。やけにあっさりと我が儘を通し、今まさにドスドスとこちらに歩み寄ってくる少女と、もう帰りたいと思っている青年をどこか呆れたような表情で見ている。できれば助けてほしいのだがと思ったが、もう目の前まで来ていた少女によってアイコンタクトは見事に阻止される。

「あんた、全力でかかってきなさい」

面越しでも分かるほど彼女は険しい顔をしている。素直に頷くほかなかった

「全力で叩き潰してあげるから」

そう台詞を残して再び定位置に少女は戻る。

「もう告白は終わったの?」

「だから違うって!!」

お互いに礼をしてからしゃがみ、竹刀を相手の切っ先に向ける。剣を構えた少女の形貌はさすが部長といったところか、なるほど隙がない。今更だが、剣道に関しては青年は実は素人である。学校のトレーニングルームで筋トレしていたところをたまたま部長に見られて「いい筋肉だ。よければ助っ人に来てほしい」とかいう超理論で今ここまで連れてこられている。しかし、もし不甲斐ない負け方でもしたら、目の前で未だに殺気をギラつかせている少女はさらに怒ることだろう。ある程度良い打ち合いをして、そして綺麗な一撃を打ち込ませることができれば、もしかしたら満足してくれるかもしれない。無論、それだけの技術は何一つ持っていないので無理な話ではあるが。

「では……」

もう青年にうまく彼女を静める方法を考えるだけの時間はない。できる限りの全力で彼女に応戦することのほかには。

「はじめっ!」

早々、少女が一気に間合いを詰める。それはまさに刹那で、気づけば青年の体は勝手に動いていた。必ず入っていたはずの一閃を紙一重で躱し、少女の放ったそれよりもさらに素早く鋭い閃で彼女の胴を穿つ。文字通り、勝敗を決したのは瞬きする間の出来事だった。

「………」

「………」

「い、一本……」

その光景を目の当たりにした全員が息を呑むなか、青年はふと我に返る。「やってしまった…」と。
少女の方から何か言ってくることはなかったが、一礼を入れる時に涙目でこちらをさっきより強く睨んでいるのが見えてしまい、青年はあらためて自分の行いを後悔する。というより青年自身、自分に剣道の才能があったことに驚いている。
いつか剣をしていた時があったのだろうか。いや、それよりも…

「………」

痛いほどの殺気が、さらに鋭さを増して肌に刺さる。練習試合が終わるまでこの圧拉がれるような空気をどうやって耐えるか、それを考えるほうが先決だと青年は判断した。















































練習試合のあった次の日、12月29日の午後3時前。綾崎アカリはバイト先の「喫茶どんぐり」のドアを引く。相変わらず店内に人はいなく、しんと静まっている空間には小洒落た音楽がまるで空気のように馴染んでいる。バイトが楽なのは大変ありがたいのだが、ここまで客が来ないとお給金を貰っている身としては逆に罪悪感が湧いてくる。

「お疲れ様でーす」

少し大きめに挨拶を残す。厨房か、それとも二階で伝票の整理でもしているのだろうか。もしかしたら家のほうで休んでいる可能性もある。
ハヤテから聞いた話では、この喫茶店は元々店のみだったらしいのだが、新しいマスターが裏に家を建ててそのまま店のほうと連結させたのだという。だから店裏の家とこの喫茶店はほとんど一つの建物で、行き来も簡単にできる。かくいうアカリもここのマスターである岳たちとは家族ぐるみの仲なので、バイト終わりなどはしょっちゅう遊びに行ったりもしている。

「ていうか、本当に家のほうにいるのかな?」

返事のない店内にアカリは少しの不安を感じ始める。いてもいなくてもあまり問題ないとはいえ、仕事を丸ごとすっぽかしているのは正直どうかと思う。このままでは埒が明かないので一応エプロンだけ付けてから店内をしらみつぶしに探すことにした。もっとも、二階か厨房かトイレの少ない選択肢ではあったが。

「あの〜、岳さ〜ん?」

取り敢えず一番近かった厨房から顔を覗かせ、そこに一人の人物を発見する。意外にも早く目的を達成できた。できたのだが、アカリが探していた岳は黒髪の麗人であり、厨房にいる人物は薄い桜花弁が溶け込んだような綺麗な白髪をしている。髪色で思い当るの岳の妻であるレナだが、彼女は長髪であり目の前の人物は短髪である。ていうか、そもそも男だ。
アカリの脳にある種の予感がよぎる。良い予感ではなく、悪い予感が

「いやいや、流石にちょっと……」

「あ、父さんに用なら、今は二階に……って」

悪い予感というのは大抵当たってしまうものである。
その髪色をアカリは知っている。その声を持つ少年をアカリは覚えている。忘れもしない、羞恥と屈辱で塗り固められたつい昨日の記憶。
もう二度と会うことはないと思っていた人物、もう二度と会いたくないと思っていた青年、竜堂シンとの再会を綾崎アカリは見事に果たした。

「な、なんでアンタがここにいんの!!」

「なんでって、家の手伝いだけど」

アカリ自身、練習試合のあとに名簿を見て彼の名前を知ったときから、なんとなく予想はしていたのだ。
竜堂なんて苗字はそうそういるものでもないし、加えてあの髪の色。この喫茶店のマスターである竜堂の者なのは決定事項だった。だとすれば彼がここで手伝いをしているのも決しておかしな話ではない。アカリが認めようとしなかっただけで、これが事実なのだ。

「お、アカリちゃんもう来てたんだね」

するとふいにアカリの後ろから、シンと同じ髪色をした綺麗な女性が厨房に顔を見せる。アカリはここぞとばかりにその女性、ここのもう一人のマスターであるレナに助けを求めた。

「れ、レナさん!聞いてくださいよ!!」

「ん〜?」

それから一部始終を話し終え、ついでにシンに対するヤジもこれ以上ないほどに飛ばしたのだが、聞き手のレナはニコニコとしているばかりで、挙句に返ってきたのは「たしかにそれはシンが悪いね〜」と、のほほんとした感想だけだった。アカリとしてはもう少し息子の素行を叱るなりなんなりしてほしかったわけだが、結局軽い訓戒だけで済んでしまう。

「ま、シンも反省はしているみたいだし、これから一緒にお店を手伝ってもらうことになるわけなので、お互い仲良くね」

仲良くと言われても、正直どうしたらいいものか。ふとシンの方を見てみるとあろうことか欠伸をかいている。
アカリのイライラとこれからの不満はむくむくと膨張するばかりだった。




































「あ〜疲れた」

崩れ落ちるような形でリビングのソファベッドに身を委ねる。結局はあれから良くも悪くも何もなく、お互いにほとんど話さないまま平和をバイトを終えたのだが、なぜかいつもの倍以上働いたような感覚さえしてくる。

「お疲れ様。あの店が忙しいなんて珍しいわね」

頭後ろからヒナギクが労いの言葉をかけてきてくれる。料理でもしているところだったのだろうか。台所からの良い香りとエプロン姿の母親を見てアカリはふとそう思った。今日のことを話そうかとも考えたが、長くなるし、思い出すだけで疲れてくるので話題を変えることにした。

「ねぇ〜ママ。今日のご飯なに〜?」

「ん?今日はオムライスよ」

「オムライス!!」

さっきまでの気怠そうな表情は一瞬にして消え去り、どこから力が湧いてくるのかアカリは勢いよくソファから飛び起きる。

「ほら、もうすぐできるから手を洗ってきなさい」

「はーい!」

浮足で洗面所へ向かうアカリを、既に食卓について夕食を待っていたハヤテが朗らかな表情で見送る

「まったく、いつまでも子供っぽいっていうか…」

「ま、ハヤテもアカリとあんまり変わらないけどね」

「え!?僕そんなに子供っぽい!?」

両親の痴話を横目に次女の綾崎カナエはひそかに腹を空かす。今日も綾崎家は平和である










































































































はい、2話目でーす(←なんかやる気なくなってきた
いやさ、オリキャラばっかりだとね、なんかモチベーション下がるわけですよ。なぜか。
なので最後の方にちょっとだけ綾崎家の日常的なのが入っています。これからオリキャラのみとかたくさんあるんだろうなぁ〜。はぁ〜
てことでオリキャラのプロフィールでーす





綾崎 愛虹(アカリ)

年齢 16才

誕生日 12月12日

血液型 A型

身長 160.6p

体重 47.4s

家族構成 父,母,妹

好き、得意 家族,オムライス

嫌い、苦手 暗い場所,怖い話


おなじみ(?)アカリちゃん。今作の主人公的な立ち位置の一人。相変わらず背は高め。だけど胸はあんまり無い(多分遺伝
1話でお話してたけど、ヒナさんと同じで一年生で生徒会長やってます。天才というよりかは努力家。ただしお堅いわけではなくむしろラフな性格をしているので学園の人気者。ファンクラブもあったりだとかするかも。
そして家では家族大好き人間。高校生になってヒナさんとはしょうもない言い争い(主にハヤテのこととか、胸のこととか)もしていますが、なんだかんだ言って母親が一番好きだったりする。相変わらずハヤテには甘えっぱなしだし、妹は可愛すぎてしょうがないしでなんだかんだ楽しく過ごしてます。まぁ、今作はそういうところを書けたらって思ってます。









竜堂 心(シン)

年齢 17才

誕生日 10月14日

血液型 A型

身長 181.8p

体重 64.2s

家族構成 父,母,妹ふたり

好き、得意 特になし

嫌い、苦手 特になし


実はアカリちゃんとは1歳年上。そして背が高いイケメンで細マッチョ。もうビジュアルだけなら無敵。学校で筋トレしてたのは趣味とかじゃなくてただ単に習慣になっているだけです。
それはそうとして実は彼も主人公的な立ち位置だったりする。サブ主人公的な?アカリちゃんとか妹たちとかともっと絡ませたい。
物静かで、あまり友達はいないです。一応転校してきたっていう設定あるしね。ちなみに超理論の剣道部長とは今後仲良くなっていくかも。部長っていっても大会終わってるので同学年なので。
まぁ、特徴としてはイケメソぐらい。着やせするタイプで脱ぐとムッキムキ。終了。
剣道ができたりしていたのはまぁ、色々とお話があるんですが、多分やらないんじゃないかなぁ〜って。あくまでハヤヒナ後日談ですので(とか言って思いっきりオリキャラブッ込んでいくスタイルww
お店のお手伝いでアカリちゃんと一緒に働いているので多分ちょくちょくでてきます







ちなみにちらっと出てきた霞アヤカちゃんなんですが、苗字からお察しの通り愛歌さんの娘さん。彼氏の梢くんは執事だから婿養子なんじゃないかなぁ〜って(あと苗字分かんないし
名前の漢字表記は「愛彩夏」。珍しく普通の漢字。だけど「愛」を入れるのは忘れない徹底ぶり(ドヤァ
まぁ、おいおいちゃんとプロフィール載せます。取り敢えずアカリちゃんの親友で生徒会副会長です。もちろん同学年










なんかオリキャラどんどん増えてくね。でもまだまだ増えるよ☆
あとオリキャラのイメージとかフリー掲示板に載せてます。よかったら見てってくださーい
それでは
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Re: Colors ( No.2 )
日時: 2017/09/26 01:09
名前: タッキー

12月31日、大晦日。毎日と言っていいほど常時賑やかな綾崎家に一段と元気の良い声が響いた。

「大掃除をしましょう!」

父親と同じ空色の髪を揺らす綾崎カナエはいつも以上にやる気満々である。大掃除をするといっても、一部例外を除いて綾崎家はハヤテをはじめとした卓越した家事スキルを持った家族で構成されているため、基本的に敷地内はそこらのビジネスホテルよりも掃除が行き届いた状態に保たれている。よって年末などは大掃除ならぬ小掃除をしてから家族全員でダラダラと過ごすのがこの家庭の習慣だ。もちろんカナエはその家庭内ですくすくと育ってきたため、彼女自身今まで大掃除などという単語すら知らなっかたのだが、それがなぜ今年になってその言葉を覚えたかというと

「マリアさんから教えてもらいました。大掃除、1年の締めに感謝を込めてお家を綺麗にすること。なんてすばらしい習わしなんでしょう!ぜひ私たちもやりましょう!ていうかお掃除のお手伝いがしたいです!!」

「なんていい子なんだカナエは〜!」

「最後に本音をぶっちゃけちゃうカナエちゃんマジかわゆすーー!」

末っ子の発言に熱狂的に盛り上がる父と姉を無視すると、まぁ、そういうことである。母親に似て負けず嫌いのカナエはどうしても家事手伝いが不得手であることを克服したいのだろう。そして大掃除という大名目があると知って、その機会をみすみす逃すような彼女ではない。ついでに言うと単純に興味が湧いたという理由も混じっている。
既に子供用サイズのエプロンを体に巻き三角巾もきちんと付けているカナエは、家族の、主に父と姉の温かい視線を一身に受けながら、まだまだ届くには遠い天井に向かって拳を突き上げる。

「さぁ、大掃除しましょう!」














 第3話 『取り敢えず年末は紅白かネットで年越しする』

















失敗した。

いろいろと過程はあったのだが、それらをいろいろと省力して簡潔に綾崎家の大掃除を表すならその言葉が最も適切だろう。
本人曰くきちんと掃除しているつもりだったらしいのだが、唯一家事スキルを持っていないカナエが皿を割るわ、床を水浸しにするわ、モノは壊すわ、挙句の果てに三千院家の敷地内に生息していた動物たちが入ってくるわで、それはもうどこぞのお嬢様の昔の所業よりもこっ酷く散らかしまわってくれた。
きちんと反省していたので誰も責めたり叱ったりはしなかったが、カナエは結局泣き出してしまい、姉のアカリが彼女をなだめる係を受け持ち、ハヤテとヒナギクは家の超掃除する係についた。

「カナエは悪いことしたわけじゃないから、泣くことなんてないんだよ。また今度頑張ればいいんだから」

「でも、でも……」

「なんでも簡単できるわけじゃないから。ほら、飴ちゃん食べる?」

「……。食べます……」

口の中で飴玉を転がしているうちに、カナエは少し落ち着いたようだ。目元は真っ赤にはらしているが、もう泣いてはいない。そこに流石というべきか、ハヤテたちが超掃除を終わらせてリビングに戻ってきた。

「ごめんなさい……」

「まぁ、お嬢様もこんな感じだったから全然大丈夫だよ」

しゅんとしている娘に優しい言葉をかけるハヤテはどこか父親らしさが出ている。ヒナギクはカナエを抱き上げ、小さい彼女の背中をそっと撫ぜた。

「いいのよ、失敗しても。みんなそうやって大きくなるんだから」

優しい言葉にまた涙が出そうになったが、カナエはそれをぐっと堪える。

「さぁ、日も暮れてきてるし、晩御飯にしましょ」























晩飯を終え、風呂で体を綺麗に流したカナエはすっかり元気になっていた。そしてその元気な彼女の今の目標は年を越すまで眠らないことだ。いつもは早めに就寝するし、両親もできるだけそうさせるのだが、年越しくらいは遅くまで起きていても大丈夫だろうとのこと。

「はいカナエちゃん」

「これは?」

紅白も終盤に差し掛かり、目標の時刻まであと1時間を切ったところでアカリが自分の分とカナエの分の二つの缶を持ってくる。

「コーヒー。甘い奴だけどね」

カナエは渡された缶コーヒーを珍しいものを見るような目で見る。それもそのはずだ。カナエはこれまでコーヒーという飲み物を飲んだことが無かく、もちろんその効能を知るわけもない。知っていることと言えば苦い飲み物ということくらいだ。

「苦いからっていうのもあるけど、これって目が覚める効果があるから、一緒に飲んでがんばろ」

「………」

物は試しと、思い切って缶に口を寄せる。腕を傾けた直後にカナエの口内に流れ込んできたのは少しの甘味と、それを飲み込んで襲い掛かる猛烈な苦味だった。

「お、お姉ちゃぁ〜ん」

思わず顔を歪める妹に、アカリはまだ早かったかと反省する。しかし特には何も施さず、なんだかんだで頑張って全部飲み干そうとするカナエを見守っているだけだった。ちびちびと何度も缶を口に当て、初めての苦味に苦戦している妹の横で、アカリも自分の缶を開ける。そして丁度そこで彼女たちの目玉である水蓮司ルカが登場してくる

「ルカお姉ちゃんキター!」

興奮してコーヒーを一気に飲み干したアカリンを見て、カナエのほうにも火がつく。ルカが歌いだす前になんとか空にしようと無理してペースを上げていた。結局、ルカのステージは缶コーヒーよりも先に終わってしまったが、何回かむせながらもきちんと飲み干したカナエの頭をアカリがやさしく撫でる。

「今年はちゃんとおきていられそうですね」

日付が変わるまであと30分ほど。苦味ですっかり目の冴えたカナエは姉と一緒にソファベッドに身を委ねながら紅白の結果発表を見守った































1月1日。日付が変わってすぐ、ヒナギクとハヤテが互いに雑務を終えてリビングに戻ってくると、映像が流れたままのテレビの前で娘たちが見事にねおちしているのが確認できた。
どちらも起こすのがもったいないくらいに気持ちよさそうに眠っており、そっとテレビの電源を落とし、ハヤテがアカリを、ヒナギクがカナエを、それぞれ抱えて寝室に運ぶことにした。

「結局今年もダメだったみたいね。アカリまで寝ちゃってるし…」

「今日はいろいろ大変だったからね。なんだかんだで楽しかったけど」

ハヤテの微かな笑い声に反応したのか、カナエが声を漏らす。ちなみに姉のほうはこれでもかというほどぐっすりと深い眠りについている。

「……ん…。…………さ………」

抱えた小さな体を優しく揺らしながらヒナギクは微笑む

「夢でもみているのかしらね」

「ヒナみたいに愉快な夢だったりして」

「ゆ、愉快ってなによ!べつに……」

「ん……。ピアニッシモ・プレシア・ディアス・メンソール大佐……」

「…………」

「…………」

どうやら、ハヤテの想像以上に愉快な夢を見ていたようだ

「誰よ。タバコの銘柄なんか幼稚園児に教えたの」

「さ、さぁ…。てかなんでまたマイナーやつを…」

「どうせ作者の趣味でしょ」

「このSSそんなこと言っちゃう感じでしたっけ?」

カナエの見ている夢について非常に興味を持ったが、それと同時に次女のもの覚えの良さに多少の不安を覚え始めたハヤテとヒナギクだった











































どうも、今回みたいにダラダラ更新していきます。(これから更新するとはいってない
ちなみに自分はタバコは吸いません
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