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タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
日時: 2017/04/09 10:01
名前: どうふん

最終回までに何とか(第一話が)間に合ったかな・・・


当方、過去二作を投稿しております「どうふん」と申します。
いずれも原作では起こり得ないハヤテとヒナギクさんのカップリングを目的とした作品です。
もっとも原作の設定においてもチャンスはあったと思いますが、恋愛下手で不器用な二人(特にヒナギクさん)にとっては越えるべき障壁が高すぎた、というところでしょうか。それを乗り越えるには、キャラクターやタイミングに少々(多少?)力を加える必要がありました。
この作品はそのうちの一つである「憧憬は遠く近く」の続編となります。大学生になって漸く憧憬に辿り着いた二人がその先に見るものは何か。
障壁は乗り越えても、まだまだ障害は転がっている中、大人になった二人が、よろめきながらも本当にハッピーエンドに辿り着くことができるのか、そんな世界を描いてみたいと思います。


現時点の構想としては十話程度の中編を考えておりますが、例によって全く当てにはならないこと、申し上げておきます。
しかしながらタイムアップとならないように、スムーズな更新を目指しますのでよろしくお願いします。



タガタメニ・・・家族 〜 「憧憬」未来図


第一話: 真珠の一粒


満開の桜はピークを過ぎ、散りゆく花びらが風に舞っている。
葉桜が目立つメモリアルパークの中に人影は見えなかった。ほんの数日前、(場所柄を弁えてよ・・・)と眉を顰めた花見客の姿もない。
行き慣れた場所なのに、何となく心許なくて入口で足が止まった。門を潜る手前で、桂ヒナギクは一人佇んでいた。
ほんの少し顔を横に向けた。そこにはいつも優しい笑顔を向けてくれる恋人、綾崎ハヤテの姿はなかった。

遠くで電車が通過する音が聞こえた。それが合図であったかのように、体に力がこもり、足が動いた。ヒナギクは持参した花束を改めて胸に抱き、ゲートを潜った。
やや小ぶりな白い墓石を前にして足を止めたヒナギクは、花束を供える前に、墓石に刻まれた名前を見た。
(ショウタ君・・・)
ここにヒナギクの昔の恋人が眠っている。


墓参りの時は、いつもハヤテと二人だった。
ハヤテはショウタとの面識はない。しかし、ヒナギクにとってどれほど大きな存在であったかは知っている。十年以上も前に亡くなっているとはいえ、また命の恩人であるとはいえ、こそこそと一人で元カレに会いに行かれては不愉快だろう、とヒナギクがハヤテに気を遣ったことからそうなった。
ヒナギクが墓参りに行くと伝えると、ハヤテはいつも笑顔を見せてついてくる。
しかしこの日は、ハヤテがご主人様である三千院ナギのお供をして一週間ほど海外に出張していた。
ハヤテが大学生でありながら三千院家の執事を務める以上、仕方ないことはわかっているが、何となく面白くないような感情が働き、一人で墓参りすることにした。
別に対抗意識を働かせたわけではない。そう言い聞かせながら。

花束を供え、線香に火をつけたヒナギクは、いつもより胸を締め付けられていることに気付いた。
困惑を振り払うようにヒナギクは頭を振り、瞳を閉じて掌を合わせた。瞼の裏に浮かぶショウタは、優しい眼差しをヒナギクに向けて微笑んでいた。
ただし、その表情は変わらない。遺影のものだった。
いや、厳密に言えば、少し異なる。初めて見たショウタの遺影は寂しそうに笑っていた。それが、明るい笑顔に見える様になったのは、気の持ち様によるものか。それともほんの少しだけ記憶が戻ってきたのか。
(まだ・・・全然ダメ。思い出して上げたいのに・・・。ごめんね、ショウタ君・・・)

小学校に入る前のヒナギク、そして姉である雪路に借金を押し付けて両親が失踪した時、ヒナギクは辛くて寂しくて泣いてばかりいた。そんな頃、近所にいた小学生のショウタはヒナギクを慰め、可愛がってくれた。だから笑顔を取り戻すことができた。
(二人でいつか結婚する約束までしていたのよね・・・)
何と幼くて無邪気な初恋であったことか。それはほんの一ヶ月で消え去った。ショウタの事故死によって。

しかし、幼くとも、短くとも、当時の想いが曖昧なものとはヒナギクには思えない。二人が崖から落ちる時、ショウタはヒナギクを庇い守ろうとした。そして重傷を負いながら、必ず元気になる、と約束してくれた。だから泣かないで、とも。
そしてヒナギクは、ショウタの死に耐えられず、自ら記憶を喪った。ショウタがどんな子だったのか、全て他人から聞いたものであり、自分自身の思い出はない。

十年以上の間、ショウタを思い出すことなく、今でも記憶のほとんどは戻ってはいない。
初恋の相手にして、私の身代わりとなって死に、最後まで私を気遣っていた婚約者。
その人の記憶を取り戻せない自分を、一年以上の時間を掛けてようやく受け入れることができたものの、寂しさと申し訳なさは心の片隅に残っていた。

涙が溢れていることに気付いた。しばらく忘れていたものだった。
(ハヤテがいないからかしら・・・。どれだけ感傷的になっているのよ、私は)
一粒の真珠が頬を伝って流れた。一粒だけだった。
ショウタに申し訳ない気がする一方で、ハヤテにも後ろめたさを感じていた。
(このくらいなら許してね、ハヤテ。今だけだから)


ヒナギクがショウタの墓に背を向けた時、いつからか二人連れの年配の男女が左手に少し離れて佇んでいた。
一瞬だけ目が合って、二人はすぐ横を向いた。まあ偶然だろう。しかし、一人きりの心情に不躾に闖入されたような気がして、ヒナギクは指で顔を拭き、足早に二人の横を擦り抜けた。

メモリアルパークのゲートを潜ろうとして、ふと気になった。ヒナギクは足を留め、振り向いた。
やはり・・・というのか、二人はこちらを向いていた。
(あの二人・・・、どこかで見たことがあるかしら)顔をはっきりと見たわけではないし、判断する材料もないが、何となくそんな気がした。

だが、ヒナギクはそれ以上考えるのを止め、足早にその場を去った。今感じたものは、懐かしさではなく、むしろどんよりとした重苦しさに似ていた。




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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.1 )
日時: 2017/04/15 09:43
名前: どうふん

とうとう終わっちゃったか・・・。
最終章の駆け足感は半端なかったですね。まあ、エンディングはこれで良かったんだろうと思います。
私の思い描く未来と畑先生のそれが懸け離れていることはわかっていましたし(そもそも設定を勝手に加えている)、ヒナギクさんとナギちゃんの成長をはっきりと感じることができました。あ、それとハヤテもですね。

まだティーンエイジャーの三人の未来、応援してます。
それと、千桜さんやマリアさんなど、私の好きだった数多くのキャラクターたちも。


そして当方の思い描く未来も、完結に向けて邁進したい、と思います。
以下、第二話です。



第二話:金髪の花嫁


アイドルグループが名前に冠して有名となった乃木坂は南青山にある。
ここに旧)日本陸軍の将軍を祀る神社があり、それに由来した比較的歴史の浅い地名であるということは、どれだけ世間に知られているのだろうか。
この坂の元々の名前は何かというと・・・
(へー、ここ、昔は『幽霊坂』って言ったんだ。幽霊坂46・・・。う・・・ん、アイドルグループの名前としては・・・やっぱり問題あるかな)
都内某大学二年生である西沢歩は、一つお利口さんになったような気がして道端の看板を眺めていたが、改めて目的地へと歩きだした。

三叉路の道に行き当たった。
(ええと・・・こっちで良かったかな?)結婚式の招待状を取り出して、添えられた地図を眺めていると、後ろから呼び声が聞こえた。振り向くまでもなく、声の主はわかっている。
「ヒナさん」遥か遠くから駆けてきたのは高校以来の親友である桂ヒナギクだった。最初は豆粒の様だったその姿は見る見る近づいてくる。
(スーツ姿なのに何でヒナさんはあんなに早く走れるんだろう?)かつて完璧超人と呼ばれていた彼女の卓越した能力には拍車が掛かっているように思えた。
さながらテレポーションのような高速移動で目の前に立ったヒナギクは息も切らしていなかった。

歩は半ば呆れつつも、それより聞きたいことを口にした。
「今日は綾崎君と一緒じゃないの、ヒナさん」
「花嫁さんから、今日一日だけハヤテを返してほしい、って頼まれたのよ。だから朝からずっと」
「そうか・・・。まあそうだろうな」歩は遠くを見る様に目を細めた。
「それにね、付き人はもう一人いるわよ」
「え、それ、もしかして」


教会の白い屋根が見えてきた。そのこじんまりした建物に歩はちょっと意外な感がした。
「ねえ、ヒナさん。日本最大級の大富豪がなんでこんな小さな教会で結婚式なのかな」
「披露宴は日を改めて世界中から二千人くらい要人や経済人を呼んでやるみたいよ。でも結婚式は身近な友達にお祝いしてほしいんだって」
「へえ。ちょっとそれ、嬉しいかも。それだけ私たちのこと大事に思ってくれてるんだ」
「ええ、きっとそうね」

教会の敷地に入ると、庭でそれぞれ純白のタキシードとウェディングドレスを身にまとった新郎新婦が記念写真を撮っていた。少し離れて執事服のハヤテとメイド姿のマリアが佇んでいる。ハヤテだけでなく、マリアも花嫁に頼まれ、今日は付きっきりだった。
(あ、メイドのマリアさんは久しぶり。でも、やっぱりこっちの方が似合ってるかな・・・)
もっともメイドになる必要はないと思うが、これは当人の気分の問題だろう。

フラッシュが光り、一息ついた花嫁がヒナギクと歩に顔を向けた。
息を呑む程の美しい笑顔がそこにあった。陽光を受けたブロンドが揺れて、眩しいくらいに輝いている。
「ほ・・・本日はお日柄も良く・・・、お、おめでとうございます」
「もう、そんなしゃちほこばるのはやめて下さいな、歩さん」花嫁・・・天王州アテネは苦笑した。
「本当に・・・綺麗ね・・・、あーたん」今では、ハヤテだけでなく、ヒナギクもアテネを「あーたん」と呼んでいる。三人が再会した時、アテネは自分を「天王州さん」と呼ぶヒナギクに向かって言った。
「ヒナも私のことは『あーたん』と呼びなさい。あなたたちは二人で一人ですからね」赤面して顔を見合わせるハヤテとヒナギクを眺めて、アテネは溜飲を下げたように笑っていた。

「ヒナ、西沢さん。花婿の方もよろしく」ハヤテがさっきから微動だにしない花婿に掌の先を向けた。挨拶した二人に、花婿は「ご足労掛けて申し訳ない」と丁寧にしかし不愛想に答えた。
「兄さん、今日は主役なんだから、お客様にはもっとにこやかにしなきゃ」
「別にそれは関係ない。俺は妻の望みを叶えただけだ。これも人助けだからな」
(ずっとこの調子だよ・・・)ヒナギクに向かい肩をすくめて見せたハヤテだが、兄の無表情な鼻の下がいつもよりほんの少しだけ伸びていることには気づいていた。


「僕はあーたんの元カレで父親になって、これからは弟かあ・・・」呑気な口調のハヤテに、アテネとヒナギクと歩の三人から射るような視線が飛んだ。


4/21 一部修正(第二話末尾ほか)



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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.2 )
日時: 2017/04/21 23:02
名前: どうふん


第三話:ブーケの行方


「邪魔するなアアアアアア!」
一年前、アリス転じてアテネは、伊澄を伴い、今まさに滅びようとするロイヤルガーデンに戻った。
ロイヤルガーデンはヒスイに占拠されていた。自らが滅びることも厭わず、ロイヤルガーデンに潜む神の力を求め、ヒスイはアテネと伊澄を相手に荒れ狂う。
敢然と立ち向かった二人だが、すでに力の一部を我が物としていたヒスイに歯が立たない。
(くっ・・・二人では無理か。ハヤテとヒナの力を借りないと。それとも・・・あの人がいれば・・・)だが、息次ぐ間もない猛攻に、退却する余裕すらない。

防壁として身を隠していた柱が崩れ落ちた。これまでか、と思ったアテネを庇うように飛び込んできたのがハヤテの兄、イクサだった。イクサはアテネの手元に転がっている神剣、黒椿を手にした。
「いつか来たことがある、ここに。やっと戻ってこれた。お前はあの時に」
「や・・・やっと思い出したの。遅いわよ」
「遅れた分の働きはするさ」イクサの渾身の力で振るわれた神剣は縦横無尽に暴れまわり、ヒスイから神の力を切り離し、ロイヤルガーデンから追放した。いや解放したというべきか。イクサにとっては、ヒスイもまた救うべき人間の一人に他ならなかった。

しかしさすがに力を使い果たし、倒れているイクサに、アテネは這い寄るように近づき、介抱しようとした。
イクサの閉じていた目が開いてアテネを見た。「胸元露出女・・・。確かアテネ・・・だったな。お前にだったら、俺の愛情を捧げてもいいかもしれない」
無礼というか場違いなセリフにあっけにとられたアテネだったが、ハヤテの兄たるこの男の真剣な眼差しに貫かれたような気がした。
それでもアテネは気を揮ってイクサを見据えた。「いきなり何を言ってるのかしら。親切心と義侠心は人の百倍あっても、愛情なんか一かけらも持たない人が」
「俺が愛するのは、他人のために生きられる人だ。お前は遊んで暮らすこともできるのに、命がけでこの変ちくりんな城に二度までも入り込んで正当な持ち主に返そうとした。財宝にも力にも目もくれず、何の代償も求めなかった。そんなお前なら好きになれそうな気がする」
褒められているのか馬鹿にされているのか、よくわからないが、一度ならず二度まで、いや三度か。絶体絶命の危地から救ってくれたこの男に、悪意は持てなかった。
「今、返事なんて・・・できないけど。取り合えず元の世界に戻りましょう。もうすぐロイヤルガーデンは消滅するわ」
「あ・・・ああ」と答えたものの、イクサに起きる力は残っておらず、アテネの支えが必要だった。駆け寄ってきた伊澄も手伝った。
「覚えている限り、初めてだ」
「え、何がですの」アテネも疲弊している。よろよろと歩きながら、ようやく聞き返した。
「人に助けられるのは」はあ・・・何を言ってるのかしら、この人は。
「・・・だったら、私に言うことがあるんじゃないの」
「愛してる」
「そ、そうじゃなくて。人に助けられたら『ありがとう』でしょ」
「俺の辞書に感謝とありがとうはない。無縁に生きてきたからな」
この人でも冗談をいうんだ・・・、アテネは思ったが突っ込むのは止めた。
実際のところ、冗談でもなさそうだったから。

「それに、命を助けるばかりでなく、生み出してもいいかもしれない」
「まあ確かに、あなたみたいな人が十人いればこの国は見違えますわね」こう言ったのは伊澄だが、本気で言っているのかはわからない。
「十人か・・・。それは一人に産ませるにはハードルが高いな」
「だったら側室を持てばいかがです。私でも構いませんよ」
「お前が良くても、妻が許さんだろう」
こんな会話を無表情のまま続ける二人に、アテネは口を挟むタイミングを見出せなかった。
(この人は私より、伊澄と相性が良いんじゃないかしら・・・。大体誰のことよ、妻って)


********************************************************************


チャペルでの式は恙なく終わり、ブーケトスの時間がやってきた。
「あら、歩。目の色があまり変わってないわね。てっきりハンターになりきってるかと思ったんだけど」
「もらうべき人、たくさんいるじゃない。ヒナさんに、愛歌さんに、ナギちゃんに・・・。私のところまでは回ってこないよ・・・」
「そんなことわからないでしょ。頑張って幸運を掴まなきゃ。女神のブーケだからご利益あると思うわよ」
「う、うん・・・」

ブーケが空中に舞った。
天に伸びた沢山の手をすり抜けたブーケは歩の胸元に飛び込んでいた。
「え、え?」
羨望に満ちた瞳に囲まれ、歩は呆気に取られていた。
「あ、あたしなんかで良いのかな。フィアンセどころか彼氏もいないのに・・・。ヒナさん、まさか私を憐れんで回してくれたとか」
「違うわよ。私も掴もうとしたんだけど手の中からすり抜けちゃったのよ」ヒナギクが首を傾げるようなそぶりを見せた。
「それってまさか・・・、ヒナさんから私が幸せを掴み取っちゃうなんてことは・・・」
ヒナギクは噴き出した。まさかそんなこと、あるわけないでしょ、と言いたげな瞳に、そりゃまあ・・・そうだよね、と歩は自分を納得させた。

「でもね。この中で真っ先に結婚するのは歩ということかもしれないわよ」
「あはは・・・。まさかね、まさか」


***************************************************::


結婚式の後のパーティは大盛況の中で終わり、ヒナギクはムラサキノヤカタに向かって歩いていた。途中までハヤテと一緒だったが、今日、ハヤテは三千院家の屋敷に戻る日だった。
「あのブーケを持ち帰れれば、ハヤテにアピールできたんだけどなあ・・・」それにしても、確かに掴んだ、と思ったのに、何で取り損ねたのかしら。
そんなことを考えつつ、ムラサキノヤカタが見えるところまで来た。

足が止まった。ムラサキノヤカタの門から少し離れて、二つの人影が街灯りに浮かび上がっていた。



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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.3 )
日時: 2017/04/30 20:46
名前: どうふん


第四話:もう一つの過去


「ここに何か御用ですか」ヒナギクは静かに尋ねた。「それとも私に用があるんですか。一ヶ月ほど前にも会いましたよね」
メモリアルパークにいた二人に間違いない。確信していた。

ヒナギクに睨みつけられた男は、口ごもりつつ、手を振って去ろうとした。
「待ちなさい」ヒナギクの凛とした声に、二人は背を向けたまま足を留めた。
「あなたたち、一体誰なの。何か目的があるんでしょ」
「それは・・・何も・・・。不愉快な思いをさせたことはお詫びします」再び歩き始めた二人の背中には何とも言えない寂寥が漂っている、ようにも見えた。
そして、それだけではない。ずっと俯いたまま向き合おうとしないその顔には、かすかな見覚えがあった。あの時に感じた疑念が次第に膨れ上がり、形をとろうとしていた。
「待ちなさい」もう一度、ヒナギクは声を掛けた。今度は振り向く気配はなく、足早に過ぎ去ろうとする。
「待って、お父さん。お母さんも」二人が凍り付いた。

「ひ・・・人違いだよ」呻くような声が、男の口からもれた。
やっぱり・・・そうだったのね・・・ヒナギクは思った。


*******************************************************************::::


喫茶店でヒナギクと二人は向き合っていた。顔を隠すように伏せたままの二人はまともにヒナギクの顔を見ない。


ムラサキノヤカタの前で三人の動きが止まった時、気配に気づいたクラウスが出てきた。クラウスは週の半分、こちらで執事を務めていた。
「どうかされましたか、ヒナギクさん。この方々は?」
「い、いや、私の知り合いよ。ちょっと通りがかったみたいで」
それでしたら中へ、というクラウスをヒナギクは遮った。さすがに、家の中に入れる気はしなかった。


「で、一体何で、今更やってきたの」平常心を保とうとしている声が微かに震えていた。喉が渇いていることに気付き、氷水の入ったグラスを持ち上げた。
「ヒナギク・・・立派になったな。やはり、家を出て正解だった・・・」
「親はなくても・・・よく言ったものね」
ぬけぬけした物言いにヒナギクの瞳が燃えた。グラスは口元まで運ばれることなく一瞬で粉々になった。テーブルの上に溢れた水には、赤いものが混じっていた。
「ま、待ってくれ、ヒナギク。全て説明するから」腰を半分浮かしていたヒナギクだが、気を落ち着かせるように椅子に体重を掛けた。
「手、手を・・・」
「そんなことはどうでもいいから、説明しなさい」
「・・・お前に対してやったことに弁解する気はない。今更会うつもりだってなかった。だが、私たちは逃げたんじゃない。攫われて監禁されたんだ」
え・・・。ヒナギクの動きが止まった。

父親の説明によると、事業に失敗した両親は、騙されてヤミの借金を背負い、取り立て屋に押し込まれた。娘二人を売るか、タコ部屋で働くかの選択を余儀なくされた両親は、子供には罪はない、と自身が働くことを選んだ。
その代わり、子供の前から黙って姿を消すことを余儀なくされた。ただ、ヒナギク達が金持ちの家の養子となってまともに生きている、ということだけは借金取りが教えてくれた。
それを心の支えにして生きながらえてきた二人だったが、借金取りにガサ入れが入り、ようやく自由になった。
「だからせめて一目だけでも、ヒナギクの顔が見たくて戻ってきたんだ。お前が元気にしている、ということだけは確かめたかった」

「それはおかしいわよ。お姉ちゃんがいてくれたから助かったけど、私たちは住む場所も食べ物もなくて二人で野宿していたのよ。そして借金だって一億円近く押し付けられて」
「やつらの手口だったんだ。借用書を回し持って、同じ借金をあちこちで主張する。だから、私たちは全て借金を被ったはずなのに、奴らはお前たちにも同じものを押し付けた」
私たちが馬鹿だった・・・。項垂れる父親の横で、母親はすすり泣いていた。
初めて、胸が締め付けられるような思いが湧いた。

(お父さんとお母さんは私を捨てたわけじゃなかったの・・・)まさかとは思いつつ、信じたい、との気持ちは抑えが効かなかった。
「私の部屋に来る?」両親は首を振った。それはできない。今更親を名乗る資格なんかない。ただ、時々会ってもらえるなら、それで十分だ、という。
「お金はあるの?」両親は苦り切って顔を見合わせた。ガサ入れのどさくさで、働いた金の一部は戻ってきた。だから大丈夫、とは云うものの貧しい暮らしをしていることは見当がついた。そもそも服すらあちこち破れ、擦り切れている。ヒナギクは財布の中にある紙幣から小銭まで加えて無理に握らせ、先に喫茶店を出た。

手からは血が流れていたが、痛みは感じなかった。


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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.4 )
日時: 2017/05/10 22:06
名前: どうふん

第五話: すれ違う気持ち 


「どうした、ヒナ。それにその手は」一夜が明け、食堂に現れたヒナギクは、同居人である春風千桜が声を上げるほどに憔悴していた。
一睡もできなかった。
昨日両親から聞いた話は、ヒナギクの全く知らない世界だった。
(私がお姉ちゃんや義理の両親やハヤテに助けられ、仲間に囲まれて幸せに過ごしている間、お父さんとお母さんは監禁されて、奴隷のような目にあって苦しんでいたんだ)
両親だけ?目の前の千桜がかつてヒナギクに言ったことがある。「お前は周囲を助けて幸せにしているんだ」本当にそうなのか?
かつての恋人であるショウタもヒナギクを守って死んだ。私は親も恋人も犠牲にして、大好きな人を踏みつけにして、自分だけが幸せになっているのではないか?


「ねえ、ちょっとおかしいよ、ヒナ。パーティで何かあったの?」
夕方になり、クラウスと入れ替わりでやってきたハヤテの目はいつもどおり優しく、そして心配に満ちている。しかし、そのハヤテにも相談することはできなかった。
かつてヒナギクは私の好きな人はみんないなくなってしまう、そう思い込んでいたことがある。だがそれは間違いで、私が周囲を不幸に追いやっているのではないか。
悲観論はエスカレートする一方だった。
目の前のハヤテに対してさえそうだった。私と付き合ってこの人は幸せになれるのか。私は不幸な人をまた一人増やしてしまうのではないか・・・。
これ以上ハヤテの顔を見るのが辛くなった。

「ごめん・・・ちょっと疲れているみたい・・・」
ハヤテを振り切ってヒナギクは一人、部屋に戻った。
しばらく経って紅茶とクッキーを盆に載せたハヤテが戸をノックした。戸は開いたものの、ヒナギクの沈鬱な雰囲気は、ハヤテに長居を許さなかった。


*******************************************************************************************************:


ひと月が過ぎた。
負け犬公園の近くにある喫茶店でヒナギクは両親と向き合っていた。週末に待ち合わせしたのは、これで三度目になる。
姉に会ってほしい、というヒナギクに、両親は、合わせる顔がない、の一点張りだった。
(私にはあるの?)という発想は湧かなかった。実際に借金を返済した姉と、姉に頼りきりだった自分とは違って当たり前だろう、と捉えていた。
しかし、気になるのはその態度だ。相変わらず俯いたままで、目もろくに合わそうとせず、他人には絶対に言わないでくれ、というスタンスがずっと変わらない。そんなにも罪の意識に苛まれているのか。

昔の話をしてもうまくかみ合わない。幼い子供であった当時の記憶に曖昧さや間違いがあっても不思議はないが、かなり重要なことを両親の方が覚えていないなんてこともざらにある。
それほどに辛い時間を過ごしてきたということだろうか。確かに、自分も死に別れた昔の恋人の記憶を失ってしまったことは事実だし、ありえないことではないだろうが・・・。

結局、その日も煮え切らないまま終わった。何度会っても両親であるはずの人物に、懐かしさや親愛の情が湧き上がってこない。
不思議だった。幼いころに別れて十年以上が過ぎ、顔もうろ覚えであるとはいえ、誤解も解けて親子の感動の再会であるはずなのに。

(私はこの人たちとどう付き合っていけばいいのだろう・・・)
血は水より濃い、という。だが、今、自分が親として慕っているのは紛れもなく養父母だった。
本物の親のように愛情を注いでくれた養父母を悲しませることはできない。今更本当の親が見つかったから、といって養父母の下を離れるなんて考えられない。
だからといって自分たちのために悲惨な境遇に落ちていた生みの親を見捨てるなんてことが許されるのか。


****************************************************************************:::


「どこに行ってたの?」ムラサキノヤカタに戻ると、ハヤテが食堂でコーヒーを啜っていた。その声に棘を感じ、胸に刺さったような痛みが走った。
ひと頃の沈み込んでいた姿はもう見せていないが、休日に行先の言えない外出が増え、また一人で考え込むことが長くなり、その分、ハヤテへのフォローが疎かになっていた。
「ご、ごめん・・・ちょっとゼミの人たちと打ち合わせに・・・」
ハヤテの表情は動かない。ぞくり、とするものが背中に走った。普段はもどかしく感じるくらいに優しいハヤテが、こんなに不機嫌な顔や態度を露わにすることは珍しい。いや、初めてではないだろうか。

「な、何よ・・・」
「別に何でもありません。僕がとやかく言うことではありませんから」久しぶりに聞く敬語が冷たく響き、ハヤテは席を立った。

その後姿に向かって何を言っていいのかわからず、立ち尽くしているヒナギクの後ろから声が聞こえた。
「何があったんだ、ヒナ」千桜だった。
「べ、別に何も・・・」
「そんなわけ、ないだろう。今の綾崎君の反応は」口ごもるヒナギクに向かい、千桜は続けた。「何か理由があるだろう。ヤキモチでも妬いているんじゃないのか」



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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.5 )
日時: 2017/05/16 22:07
名前: どうふん


第6話 不機嫌の理由


テーブルに置きっぱなしのコーヒーカップを手に取り、一口啜った。半分ほど残っていたコーヒーは氷の解けたアイスコーヒーほどに冷めていた。
ヒナギクは千桜の言葉を思い返した。言われてみればそうかもしれない。しかし何故・・・?

ここしばらくハヤテとの接点が減っているのは確かだ。しかし一緒に過ごす時間がなくなったわけではない。ヤキモチといっても、いったい誰に対して?ハヤテ以外の男友達と親しくした覚えはない。
まさか私が両親に会っていることを知って、そっちを優先させていることがまずいのか。だとしたら今はどうしようもない・・・。
(いや、そうだとしても、もっとハヤテに気を遣わないと。本当のことはまだ言えないからって、ごまかそうとされたら気分が良くないわよね)恋人同士でいる時間が長くなるとともに、いつの間にか馴れて甘えていたかもしれない。
とにかくこのまま放っておくのはまずい。ヒナギクは立ち上がり、ハヤテの部屋へ向かった。このあたり明らかにヒナギクは成長している。ここで昔のように意地を張っていたらどこまでこじれたかわからない。


そっと戸を開けると、ハヤテがベッドに寝ころんでいるのが見えた。
「ごめんなさい、ハヤテ。ちょっと気になっていたんでしょ」
「な、何のことだよ」いきなり声を掛けられたハヤテは動揺していた。半身を起こしたハヤテにヒナギクは有無を言わさず抱きついた。ハヤテのネガティブな感情や思考を吹き飛ばすには、これが一番手っ取り早い。
「あ、あの・・・」
「最近、二人の時間が減っちゃっていたわね。あんな顔されると寂しくって」目が泳いでいるハヤテは、腕をヒナギクの背に回しながら縺れる舌を懸命に動かした。
「ぼ・・・僕こそごめん。僕の方が謝らないといけないんだ。ええと・・・あんな態度を取って・・・」実際ハヤテは部屋に戻ってから後悔に駆られ、今までずっと自己嫌悪に浸っていた。「僕がごちゃごちゃ言うようなことじゃないんだ。ヒナにとっては大切なことなんだから」

(やっぱり気付いているんだ。私が両親に会っていること)自分の両親をクズ呼ばわりしているハヤテにしてみれば、娘を同じ目に会わせたヒナギクの両親に好意が持てない、ということか。
「だったら、やっぱりごめんね、ハヤテ。私の方こそ。あなたにとっては不愉快なことかもしれないけど、しばらくの間だけだから目を瞑っていてほしいの」
「う、うん。当然だね。ちょっと妬いちゃっただけで、不愉快なんてことはないよ。間違いなくヒナには惚れ直したから」
迷いを吹っ切ったようにハヤテの腕に力が籠った。いつもより力強くて息苦しい程だった。
(ちょ、ちょっと緩めて)もがく様に体をくねらせたヒナギクに構わず、ハヤテは体を入れ替えて圧し掛かった。


**************************************************************************


差し込んできた朝日に目を覚ましたヒナギクは、隣に眠っていたハヤテが消えていることに気付いた。きっと執事として朝食の準備に取り掛かっているのだろう。
この律儀さは好きなのだが、時々物足りなくなる。(今朝くらい、目を覚ますまで傍にいてほしかったな・・・。でも、良かった。すぐに仲直りできて)心から安堵したように背中と両手を伸ばした。レース越しに朝陽を浴びた素肌が気持ち良かった。
(でも、たまにはハヤテに妬かれるのも悪い気はしないわね)安心さえできれば、勝手なことを考えるのは人間の性みたいなものである。
だが、開放感が溢れ出した頭に疑問が浮かんだ。『ちょっと妬いただけで・・・』
(何でハヤテが妬いているの?)

自分の親は行方知らずなのにヒナギクの親が戻ってきたから?いやそんなはずはない。ハヤテはヒナギクが不思議に感じるほど両親を嫌悪している。
そもそもハヤテはそんな人間じゃない。現に同じような環境の水蓮寺ルカのケースでは積極的に両親をルカに会わせようとした。
(そういえばあの時、ハヤテ君はスーパーカーの前方トランクに入っていたのね・・・)今にして思えば怖いことをしたものだ。いやそれはともかく。
ハヤテが妬く原因は他にあるはずだ。
しかし繰り返すが、ハヤテの疑いを招くような行動は何一つ覚えがない。何よりハヤテはヒナギクの気持ちそのものを疑っているようには思えなかった。
それなのにヤキモチ・・・?そういえばこうも言っていた。『ヒナには惚れ直したから』
妬きながら惚れ直す理由って一体・・・?

まさか・・・あのこと?だけど、それがなぜ・・・。
しばらく考え込んでいたヒナギクの両拳がわなわなと震えた。ヒナギクの頭の中で、幾つもの疑問点が直線で結ばれ、一枚の絵を描きつつあった。


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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.6 )
日時: 2017/05/21 19:49
名前: どうふん

ヒナギクさんが気付いた真実。暴いた真相というべきでしょうか。
説得力がどれだけ持ちうるかは分かりませんが、以下、第七話を持って本作の前半は終了します。
やはり予想より長くなったな・・・。まあ、毎度のことですが。

 

第七話:真実の瞬間


その日の夕刻、負け犬公園。

「急な呼び出しだね、ヒナギク。ど、どうしちゃったのかな」
おどけたように言う父親の声には怯えたような響きがあった。「ここじゃ落ち着けないし、どこか喫茶店でも・・・」
「いや、ここでいいわ」静かに語るヒナギクには有無を言わさない凄みが漂っていた。
「・・・で、何の御用なのかしら」母親は心持ち父親の後ろに隠れるように立っていた。
「会ってもらいたい人がいるのよ」両親がわなわなと震え、逃げ腰になった。「安心して、お姉ちゃんじゃないから。フィアンセに両親を紹介したいの」
最後まで聞いていなかった。ヒナギクに背を向けて駆けだした二人の前に腕組みしたハヤテが立ちはだかっていた。
「何のつもりだよ、父さん、母さん」


****************************************************:::::::


借金と共に塵となっているはずのハヤテが生きている、それどころか大富豪の執事として何不自由なく過ごしている。ハヤテの両親がそう聞いたのは一年以上も前になる。
この最低の人格の持ち主にすれば、そのおこぼれに預かろう、ハヤテをうまく利用すれば大金持ちに・・・、と考えるのは当たり前の話であった。
そのためずっと情報をかき集めようとした。しかし、さすがに三千院家のガードは高く、うかつには近寄れなかった。一度など屋敷に不法侵入し、マシンガンを乱射するSPに追い掛け回され、命からがら逃げ帰ったこともある。

だが、父親は付け入るスキ、というよりすぐ近くにターゲットを見つけた。
ハヤテの恋人はハヤテ同様、両親に捨てられ姉に去られた過去を持っていることを知った。そして美貌に加え、高い能力と円満な人格を持ち、元カレの墓参りを繰り返す情の深い人間であることまで。
両親になりすませば、この小娘をきっと篭絡できる・・・。

そのため、ヒナギクの両親のことを調べて架空のストーリーを作り、写真まで入手してそれらしく見えるため変装した。そして思わせぶりな演技を繰り返し、一度はヒナギクをごまかすことに成功した。
後はヒナギクの実の両親として、しかし表には出ることなく、社会的成功を収めること間違いないヒナギクに生涯たかり続けるつもりだった。

しかしハヤテにばれては元も子もない。ハヤテが二人の正体に気付く前に別れさせないと。ハヤテは両親にとって金ヅルから障害物に降格した。いや、昇格というべきか。
まず両親は、ヒナギクがショウタの墓の前で一人涙している写真を隠し撮りしてハヤテに匿名で送りつけた。
これにハヤテは動揺した。当時、ヒナギクが沈み込んでいた原因はわからずじまいとなり、一人で外出することが増え、行先を教えてくれないことも重なった。
(ヒナはショウタ君のことを思い出して、僕への気持ちが冷めたんじゃ・・・)まさか、とは思いつつ、嫉妬というより不安の黒雲はゆっくりと、しかし着実に膨れ上がっていた。
ハヤテがそれをヒナギクに言えないことは両親の計算づくで、さらに二の矢、三の矢を考えていた。

「そして失恋したヒナギクさんを慰めれば、私たちの存在も高まって一石二鳥、と思ったんだけど。ちょっと甘かったな。まさかこの世間知らずのお嬢ちゃんに見抜かれるとはね」完全に開き直った父親は薄笑いを浮かべていた。さながらラスボス気取りだが、数限りない悪行を重ねながら大した成功例がないのはなぜか、ろくに考えたことはないらしい。こんな安直な作戦が長期に亘って露見しないと本気で思っているのだろうか。
だが、当事者としてはそれでは済まない。ハヤテが形相も凄まじく父親に飛びかかろうとした。

「止めなさい!」ヒナギクの声が響いた。ハヤテの動きを一瞬にして止める迫力があった。
「だ、だけど、ヒナ。こいつらは・・・」
「私は法曹の世界に進もうとしているのよ。こんな連中に騙されるようではまだまだ人の見方が甘いわね。いい勉強になったわ」
意外なほどに穏やかな声を耳にして、両親は醜悪で卑屈な本性を曝け出した。ヒナギクの前に土下座して口々に許しを乞うていた。「ゆ、許してくれるんですね」「もうこんな人を騙すようなことはいたしません」だが、その鼻先にヒナギクは木刀を突きつけた。
「勘違いしないでね。私を騙そうとしたことは許しても、過去の悪事は法の裁きを受けてもらうわよ」

二人はその後警察に突き出され、取り調べられた。後日判明した結果は驚くべきもので、殺人と脱獄を除くほとんどの罪状が適用されることになった。叩けば叩くほどホコリは出てくる一方らしい。
ちなみに、数年後、この父親は一人で脱獄、という新たな罪状を重ねた挙句、懲役を延ばすだけの結果となったが、それは全く別の話である。


*********************************************************************


「ヒナ、あれで良かったの?」ハヤテはおずおずと尋ねた。
「ええ、平気よ。さっきも言ったでしょ。ちょっとした実地訓練だったわよ」
ハヤテの胸が痛んだ。平静を装ってはいても、ヒナギクが大きく傷つき惨憺たる心情にあることはわかった。
恋人の両親が本物のクズであることを改めて知った。本当の親の微かな思い出を利用され汚された。まして一時的にとはいえ詐話師に騙された屈辱は、プライドの高いヒナギクにとって耐え難いものであったろう。
「さ、もう帰りましょう。今晩は僕が腕に縒りを掛けてとびきり美味しいハンバーグを作りますよ」殊更に明るい声を掛け、ヒナギクの肩に腕を回した。
ヒナギクを後押しするように歩き出したハヤテの腕に、ヒナギクが重く感じられた。


「ハヤテの言う通りだったわね」帰り道、ずっと無言だったヒナギクの口が開いた。
「え・・・?」
「自分の子に悪事を躊躇わない親って、本当にいるのね。私の親も・・・そうだったのかしら。」胸が抉られるような気がした。
「信じたかったの。何か事情があったはずだって・・・。やっぱり・・・お父さんもお母さんも私たちを本当に見捨てて借金を押し付けていったのかしら」
「う、ウチの親はクズの中のクズで例外中の例外ですから。ヒナギクさんの親はそんなことないですよ・・・。きっと・・・」
ヒナギクの足が動かなくなった。俯いたその表情は今にも崩れそうになっていた。
もう言葉なんか何の意味もない。そう思ったハヤテは背中からヒナギクの肩を抱いた。少しでもヒナギクの気持ちを軽くしたかった。

だが、今のヒナギクにはそれさえ通じなかった。
「ごめんね、ハヤテ。今日だけは一人にしてほしいの」
ハヤテの手を振り払うと、一人、方向を変え、ヒナギクは歩き去っていった。
ヒナギクの背中がこれほど小さく見えたことはない。その姿が闇に溶け、見えなくなるまで、ハヤテは立ち尽くしていた。
(何て僕は無力なんだ・・・)
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.7 )
日時: 2017/05/23 01:45
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
お話がひと段落するまで様子見していましたと言えば格好はつきますでしょうか…?ご無沙汰しております。

一応ながら家族の形をピーヒャラと書いてる(た)自分にはグサグサとくるお話でした。が、ここで終わる二人ではありません…よね?
高い障害であるほど乗り越えた先に見える景色は素晴らしい事を信じて二人を見守りたいと思いました。

個人的にいちばん衝撃を一番受けたのは、行き遅れてしまいそうな感じのアテネさんが先行ゴールインしてる事でした。十人とは言わずに野球の紅白戦が出来るくらいの家族を作って欲しいですね。

では後半も期待しております。
失礼しました。
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.8 )
日時: 2017/05/24 21:44
名前: どうふん

ロッキー・ラックーンさんへ


 感想ありがとうございます。
 毎回、こうして拙作に感情移入して感想を書いてくれるロッキーさんには感謝・感謝です。


 本作は、タイトルにもあります通り「家族」がモチーフとなります。
 先般のハヤヒナ合同企画本の感想にも書きましたが、管理人さんの評論に刺激を受けて、考えたものです。
 である以上、ハヤヒナのハッピーエンド以外の結末はありえず、このまま終わることはありません。
 ただその途中経過につきましては・・・まだしばらくは二人を温かく見守っていただければ幸いです。

 アテネについてですが、確かに嫁ぎ遅れになりそうな雰囲気ありありですが、だからこそ裏をかいてゴールインさせました・・・。
 済みません、冗談です。そんな計算があったわけではありません。
 ただ、原作における最終段階のアテネが(重要な役割を果たしているにせよ)これという見せ場もなく、主要キャラとして扱われていなかったように思えまして、ハッピーエンドを付け加えた次第です。
 この国をよりよくするためにもお二人には頑張ってほしいな、と思っています。

 ところで、この国のため頑張っている人はもう一人おりますが、その話は後半にて。


 こうして制作秘話、と言っては大げさながら、裏話ができるのは、何といっても感想をいただけるからです。
 改めて、ロッキーさんには御礼申し上げます。


                                   どうふん
                                      
 
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.9 )
日時: 2017/06/02 22:06
名前: どうふん


本作の後半、スタートします。
ヒナギクさんがハヤテの両親を警察に突き出し、ハヤテの元を去ってから何があったのか。その辺の説明は後になります。
そして時は過ぎ、ハヤテもヒナギクさんも、そして仲間たちもそれぞれの人生を歩んでいます。
まずは、アテネの結婚式に出席してエピソードを作ったあの人の話から始めたいと思います。



第八話:マイ・スイートホーム



アテネとイクサの結婚式から、そしてヒナギクの両親騒動から七年が過ぎようとしていた。


三千院家の屋敷から歩いて10分程度。少し離れた住宅街に、こじんまりした二階建ての家がある。古い物件にリフォームを加えたもので、決して豪華なものではない。取り立て特徴もない普通の家である。

夕陽が沈み、あちこちのキッチンでは晩御飯の準備に忙しかった。
その家も例外ではなかったが、時を同じくして、リビングに置かれたベビーベッドの上で、1歳になったばかりの赤ん坊が泣き続けていた。
「はいはい。今行くからねー。ちょっと待っててー」台所から駆け出してきたのは、今や若奥さんとなっている旧姓 西沢歩だった。ブーケトスの占いどおり、アテネに続いたのは歩だった。

よいしょっ、と赤ん坊を抱き上げ、温めたミルクを口に含ませようとした時、ふと疑問が浮かんだ。(ちょっと熱くないかな・・・?)つい、哺乳瓶の先を咥えてみたところで、自分の愚行に気付いた。
(私が舐めちゃったら消毒した意味がないじゃないの)

「ねえ、ねえ、どうしたのお」さっきからベビーベッドを覗き込んでは赤ん坊をあやそうとしていたのは、三歳になるこの家の長女、シオリだった。
「ご、ごめん。失敗しちゃった。もう少しタクミを見てて」あたふたと台所に戻る歩を見送って、シオリは小さなため息と共に、二、三度頭を振った。およそ三歳児らしからぬ振る舞いをみるに、こうした失敗はいつものことなのだろう。


*******************************************************************:


歩はやれやれと、一息ついた。歩の腕の中では、赤ん坊が夢中でミルクを吸っている。
しかし、ゆっくりする時間はない。シオリもまた、お腹すいた、と言いたげに人差し指を咥えながら歩をじっと見ていた。
「ご、ごめんね。すぐ準備するから。もうほとんどできてるんだ」シオリの物欲しそうな視線は変わらない。「そ、それにね、もうすぐパパが帰ってくるから」
「ほんと?」シオリの目が輝いた。
嘘ではない。先ほどメールが入っていた。職場は家からそれほど離れていないので、そろそろ帰ってきても良いころだ。
「じゃ、待ってる。パパといっしょにゴハンたべるんだ」さっきまで萎れていたシオリは別人のように元気になり、飛び跳ねていた。
ふう、助かった・・・、と歩は改めて息をついた。

玄関の鍵が開く音がした。「パパだー」シオリは玄関に向かって駆け出した。「パパ、お帰りなさーい」シオリはいつもこうだった。帰ってきた父親を真っ先に出迎えて抱き着く、というより飛びつき、しがみついて離れない。それが原因で、しばしば母親を不機嫌にさせている。

「ただいま」左手にビジネスバッグ、右手にシオリを抱っこして、父親がリビングに入ってきた。
歩はミルクを飲み終わったタクミの背中を叩いたりさすったりして、げっぷをさせるのに悪戦苦闘していたが、それでも幾分引きつった笑顔を父親に向けた。
「お帰り、ハヤテ君」


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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.10 )
日時: 2017/06/07 21:48
名前: どうふん



第九話:政治家 美希の野望



ハヤテの帰宅とほぼ同時刻−。


「ここでいいよ」衆議院議員花菱美希は運転手に声を掛けた。「はい、先生」運転手が車を止めると同時に、助手席から秘書が素早く車を降りて、後部座席の扉を開いた。年配の秘書に軽く頭を下げながら車から降りた美希は、小さなビルの前に立って外に突き出している看板を見上げた。
少々年季の入ったビルで、法律事務所の名前を示すその看板だけは真新しく輝いている。
「よし」小さく呟いた美希は、秘書に車に残っているよう指示をすると、一人エレベーターに乗った。その足取りには「決意」に似たものが感じられた。


事務所の扉は開いていた。その奥に内扉があり、受付用の電話が置いてあったが、美希は構わず内扉に向き合った。久しぶりの友人、という以上の存在だった顔が思い浮かぶと同時に、胸が高鳴った。
久しぶりの逢瀬・・・そんな気がした。

待ちかねたかのように扉が開き、桂ヒナギクがそこに立っていた。久しぶりに見るかつての美少女は今や絶世の美女となり、表情は以前より穏やかさが窺えたが、その瞳は変わることなく輝いていた。そして胸の辺りも昔と同様・・・いや、それは違う。なだらかな双丘が視認できた。
(やっぱり、ヒナだ。自分の役割を完璧にこなしているんだ。本当に私のヒーローのヒナだ)
ヒナギクの後ろには仕切られた事務机と二つの部屋が見えた。「所長室」とあるのがヒナギクの部屋なのだろう。そしてその隣にある部屋から顔を出したのは春風千桜だった。 


「久しぶりだな、ヒナ。千桜も。時間外に申し訳ない」
「ほんとに久しぶりね。さすが政治家になるとそんなところに気が回るようになったのね」
「ホントにお前が政治家になっちゃうとはなあ、美希。いや花菱先生か」
「友達同士で先生なんてやめてくれ。それなら、私も桂先生、春風先生と言わなきゃバランスがとれないじゃないか。まあ、ヒナが綾崎先生でないのは意外だが」
「そうか、そうか。私たちも世間一般からは先生と呼ばれていたな」
「その通りね、ハル子先生」美希の発言の後半部分をスルーした二人の笑顔はかすかにぎこちなく見えた。

(やっぱり、いろいろ事情があったんだな・・・)美希の先ほどの一言は、不用意、というよりは探りを入れる意図もあったのだろう。明らかに美希はヒナギクの反応を窺っていた。
「じゃ、私はお客さんが来てるんで」千桜は部屋に戻っていった。


「それで、ヒナ・・・」
「ええ、部屋にお入りなさい。二人きりで何の話かしら」ヒナギクは立ち上がった。美希は、先ほど受け取った「桂法律事務所」と記された名刺にもう一度目を遣って、ヒナギクに続いた。

執務室と応接室を兼ねたその部屋に、二人は向き合って座った。
アロマの香りが漂うその部屋は、いかにも法律事務所らしく、壁の一面を書棚が占拠していた。室内装飾というほどの物は何もないが、机の上には花瓶に小さな花が生けられていた。
「評判急上昇の法律事務所なんだから、もっと立派な建物に入っているのかと思ったんだが。まあいずれは移転を考えているのかな。それに心地いいスペースだがちょっと狭くて殺風景だな」無遠慮が止まらない美希にヒナギクは苦笑した。
「ここに来るお客さんはみんな問題を抱えているの。だからね、そんな仰々しい飾りはしないで、誰でもリラックスできる雰囲気を意識しているのよ。だから事務所もそんなに大きくする気はないの」
「なるほど・・・。そんな気配りが開業早々人気の秘密なんだな。全くヒナはどこにいても何をやってもアイドルでヒーローなんだ」
「全く何を言い出すのかしら。社会的な知名度なら美希が一番じゃないの。次はナギかしらね」今、ナギは売れっ子というほどでもないが漫画家として作品を発表する場が徐々に増えていた。ちなみにナギの恋人である東宮康太郎は、ナギのアシスタントとなっている。
「そこんところなんだがな、ヒナ」美希の目が異様な光を帯び、上半身を乗り出した。


**************************************************************:


「何ですって・・・」ヒナギクは絶句していた。「じょ・・・冗談でしょ」
「本気だ。ヒナにこんなこと冗談で言えるか」残念ながら、およそ説得力というものが感じられなかった。
「う・・・。じゃあ言い方を変えよう。仮にも一国の代議士が、こんな冗談を言うためだけに、多忙な政務の合間を縫って弁護士事務所を訪ねるか」

ヒナギクは改めてまじまじと、政治家となった友人の顔を見た。その思いつめたような表情には真剣さが溢れている。だが・・・先入観を拭い去るには至らなかった。それ以上に美希の申し入れは突拍子もなかった。
もっとも美希としては十分に順序を追って話しているつもりなのだが、その中身が、さしものヒナギクの想像力を超えていた。
困惑しているヒナギクに向かい、美希は改めて声を高めた。
「だから頼む。私が全力でサポートする。政界に出てくれ。そして総理大臣になってこの国を救ってくれ」
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.11 )
日時: 2017/06/10 03:46
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
ひと段落ではありませんが、感想キャンペーンにあやかって少しだけ・・・。

いきなり7年も経っちゃったんですね!7年といえばガンダムがZガンダムになって、少年だったアムロがカミーユに指導する側に来ちゃう月日ですね。
まだ物語の大枠が見えてないので核心について聞くのは控えておきますが、ヒナが総理大臣になって叩かれる姿はちょっと見たくないですね・・・。同じ理由で高橋監督は憧れのスターだったので叩かれてるのを見るのは辛いです。どーでもいいですね。
続きに期待しております。失礼しました。
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.12 )
日時: 2017/06/10 19:44
名前: どうふん


ロッキー・ラックーンさんへ


感想ありがとうございます。
確かにまだ後半は始まったばかりで、実際のところ第8〜9話は導入部分です。とりあえず二人のおかれた状況はある程度見えてきたのではないでしょうか。


そうです。七年経っちゃいました。本当に時間の流れるのは早いものです・・・(他人事かいっ)。この間に何があったのか、次回以降次第に明らかになっていきます。

しかし、ヒナギク首相は厳しいですか・・・。それならいっそ皇室に妃殿下として入ってもらうか・・・。すみません、冗談です。
ヒナギクさんには、ヒナギクさんに相応しい未来を掴んでもらいたい、と思ってます。もちろん当方の主観によるものですが、ロッキーさんを不愉快にするものではないと思いますよ。


                                                              どうふん
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.13 )
日時: 2017/06/13 21:58
名前: どうふん

「いい加減にしろ」
「何だこのわけのわからん展開は」
またいつかの如く、脳内に罵声が飛び交うようになりました。これも駄文を人目に晒す因果というものか・・・。




第十話:政治と法の微妙な関係


ヒナギクは、かつて美希が語っていたことを思い出していた。美希は父親の跡を継いで政治家になるばかりでなく、日本で初めての女性首相となるのが夢ではなかったか。
それを自分に代わって叶えてくれ、という美希が悄然として席を立ったのは、つい先ほどのことになる。

「ずいぶんと白熱していたようだが・・・。大丈夫か、ヒナ」二人分のコーヒーを淹れた千桜が入ってきた。
「あら。お客さんはもう帰ったの?」
「ああ。片はついた」余裕ありげにコーヒーを口に含んだ千桜だが、ヒナギクから説明を受けて噴き出した。
「あのぶっ飛んだ性格は変わっていないんだな・・・。だが、面白いじゃないか。弁護士出身の政治家なんて沢山いるんだし、お前ならできるんじゃないか」
「私一人で、そんなことできるわけないでしょ」
「一人、じゃないだろ。有力議員の娘、というより本人がバックアップする、と言ってるんだ。それに財界の有力者も友人だけでなく身内にもいる。私だって法律家として役に立てるかもしれないじゃないか」
「私はこの小さな事務所で困っている人を一人でも多く助けてあげられれば十分なの。それに・・・身の回りの人たちも大切にしたいんだから」


*******************************************************************


(まだあきらめちゃいない)帰りの車の中、美希は自分に言い聞かせた。(そもそも一回で承知してもらえるとは思っていなかったしな)
ずっと憧れていた。恋していた、のかもしれない。桂ヒナギク、という幼馴染に。
政治家になる、できれば総理大臣に、というのは小さい頃から自分の夢、というより義務のように感じていた。有力政治家である父親から何度も言い聞かされた。それに不満を感じたことはない。

父親や秘書に背を押されて、というより全部お膳立てしてもらって選挙に出馬。
難しいことを聞かれれば「当選すれば考えます」と答えていた。当確が出た時にも「今から考えます」と言った時は秘書にちょっとたしなめられたが。


そして数か月。初めて気づいたことがある。
日本の政治や政治家がいかに惨憺たる状況であるか。今まで当然と思っていた日常がいかに危うい均衡の下に成り立っているのか。
(このままではイカン・・・)そう思ったのは彼女本来の純粋さによるものであろう。これが現実だ、と割り切って私利私欲に走る大半の○○チルドレンといった連中に比べれば、美希の方が遥かにマシな人間であったことは確かである。
美希は、この点については父さえも頼りにならないことに気付いた。やはり自分は頂点に立ってこれを打開できる人間ではない。むしろそれを支える存在でいたい。
そして支えたい人間といえば、やはりヒナギクしか思いつかない。生徒会役員の時は面倒を掛けるだけだったが、今はあの頃の自分とは違う。
(ヒナが首相、そして私は副総理。それとも官房長官・・・)そう思うと居ても立ってもいられなくなり、今日の訪問となった。


ただ案の定というか、自分の夢がヒナギクのそれとは懸け離れていた。
(あーあ、道は遠いな)自分が首相になるより難しいかもしれない。そう思うとため息が出た。
「お嬢様」助手席にいた年配の秘書が前を向いたまま口を開いた。長い間父親の秘書を務めていたその人は、美希の幼いころから可愛がってくれていた。美希の様子を見て、しばらく声を掛けるのを控えていたのだろう。普段は美希が嫌がろうとも「先生」と呼ぶのだが、時々昔の呼び方を使うことがある。
「無理をすることはないですよ。まだお嬢様の政治家としての人生は長いんです。十年、二十年経ったその時はどうなっているかわかりませんし」

お見通しだったのか。そもそも美希が学生の頃から情報通となったのは、この人の薫陶と力に拠るところが大きい。
(まあ、当分は無理みたいだな。気にすることはないさ。まだ先は長いんだ。その前に私自身が有力政治家にならないと)美希は車の中で大きく伸びをした。
「次の予定は何でしたっけ」秘書に声を掛けた。吹っ切れたような美希に振り向いた秘書は、優しい笑みを返し、手帳を開いた。


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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.15 )
日時: 2017/06/18 07:27
名前: どうふん


逢さんへ


管理人さんの判断が出ていないため、しばらくレスを控えておりました。
当方としましては、こうして喜んで頂けること、感想をもらえること、書き手の端くれとして感激あるのみです。
ただし、当サイトの発表の場をお借りしている以上、ルールは順守しなければなりませんので、ご依頼の件はご容赦下さい。

当方、漫画が好きでミステリーが大好きというだけの一介の勤め人ですが、あくまで作品で、興味を持ってくれる方に応えたいと思っております。
また何か感じたことを教えて頂ければ幸いです。


                                            どうふん
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.16 )
日時: 2017/06/18 19:47
名前: どうふん



第十一話:ウェディング・サイド・ストーリー



着替えを済ませてリビングに戻ってきたハヤテは、相変わらずしがみついてくるシオリを抱えていた。(いつものこととは言え・・・)歩は苦笑した。
「ハヤテ君、食事はできてるからね。シオリちゃんもパパと一緒に食べるってずっと待ってたんだよ」
「ありがとうございます、西沢さん」
「もう。またそれだ。西沢さんじゃないんだよ」
「あはは・・・、そうですね。すいません、歩さん。癖になっちゃって」
「大体、ハヤテ君は私のご主人様なんだから、敬語なんて使うことないんだよ」
「そりゃそうです。だけどその発言、紛らわしいですよ」
二人は声を合わせて笑った。シオリは何がおかしいのかわからず不思議そうにしている。
「それにね」歩はシオリに目を遣った。「毎日それじゃ奥様が妬くよ」
「よくお分かりで。シオリときたらママより僕の方に抱き着いてくるんだから無理もないけど」
(それだけじゃないでしょ)
この相変わらずの天然ジゴロは、『奥様』が、愛娘からベタ惚れされているハヤテに対して焼餅を妬いていると思っているらしい。


*******************************************************::::::


「じゃ、今日はこんなところでいいかな」
「そうですね。いつもありがとうございます」
「何言ってんのかな。私はお給料をもらっているんだから、こっちの方が『毎度あり』なんだよ。それに・・・将来の予行演習でもあるんだからね」この時ハヤテは初めて気づいた。旧姓西沢、今は足橋歩のお腹にはまだ小さい、しかしはっきりとした膨らみが見えた。
「えへへ・・・。時間が掛かっちゃったけど、やっとあたしもお母さんだね」


ナギが漫画家である足橋剛治のアシスタントになり、漫画の修業をしていた時、歩も今までの行きがかりで、事務所に行ってはナギを応援し、足橋とも親しく話していた。
あのブーケを受け取った日から一週間も経たないうちに、足橋からいきなりのプロポーズを受けた。
「え、え。私たちそもそも付き合ってもいないのに」狼狽える歩を足橋は掻き口説いた。
「だから今から結婚を前提に付き合ってくれ。僕のお嫁さんになる人は歩しかいないんだ」
「え、えええ?でも売れっ子漫画家が私なんかで本当にいいのかな?」

結果的に、ブーケ占いのとおり、真っ先に結婚したのは歩だった。しかし子宝には恵まれないまま今に至っていた。
それがようやく・・・。
「いつかきっと・・・信じていて良かった。不妊治療までして苦しかったけど、この7年間に間違ったことなんてなかったよ」少し涙ぐんだ歩の笑顔は、最高の魅惑に満ちていた。それは、この天然ジゴロをしてちょっと胸をときめかせるほどの。


ハヤテはシオリを抱えたまま、玄関口まで歩を見送った。
門の外から振り返った歩の目の端に、門の表札が目に入った。「桂」と一文字。
(「綾崎」じゃないんだよね・・・)それがハヤテの希望ということは聞いている。
(まあ、ハヤテ君は親といろいろあったんだろうな・・・)詳しい事情を知らない歩にも見当がつく。


ハヤテとしては自分の苗字や肉親に愛着を持ちようがなかった。
唯一の例外である兄も、天王州家に婿入りする形となり「綾崎」ではなくなったことから、自分も、結婚にあたり「桂」姓になることを望んだ。
ハヤテの親の醜悪さを身をもって知ったヒナギクも、「ハヤテさえ良ければ」と同意した。
それは、ハヤテとヒナギクにとって、刑務所にいる二人への縁切りの宣告だった。

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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.17 )
日時: 2017/06/24 08:19
名前: どうふん

第十二話 あの夜のこと


七年前−

ハヤテの両親を警察に突き出した夜、ヒナギクは一人当てもなく歩き回った挙句、喫茶店どんぐりに辿り着き、浴びる様に酒を飲んでいた。
「ヒナギクちゃん、ここはそういう場所じゃないんだけど・・・」マスターが恐る恐るといった風情で目を向ける。
「いいじゃないの。折角お酒を置いているのに、誰も飲んでないんだからあ。在庫一掃セールよ」ヒナギクも姉譲りでアルコールへの耐性は強い。とはいえ、さほど飲んだ経験がないヒナギクは、やがて酔いつぶれる時が来た。遠のく意識の中で、目元が果てしなく熱くなるのを感じながら、必死に堪えた。
泣いてしまっては本当に負けを認めたことになる。そんな気がした。


ヒナギクが目を覚ましたとき、ハヤテの背中にいた。
「ち、ちょっとお。なんなのよ、ハヤテえ」「ごめんね、心配だからついてきちゃった。もうすぐ家に着くよ」全く気付かなかった。ヒナギクは腕時計を見た。結構な時刻となっている。一体どれだけの時間ハヤテは自分を陰から見守ってくれていたのか。しかし今は恥ずかしい気持ちの方が先に来た。
「お、おろしてえ。ころもじゃないんだからあ」呂律がまわっていない。構わず歩き続けたハヤテは首に手を掛けられ、危うく窒息するところだった。

息も絶え絶えになりながらヒナギクをようやく部屋のベッドに運び、よろめきながら部屋を出ようとするハヤテにヒナギクはしがみついてきた。
「どこお・・・いくのよ、はやてえ。ひとりにしないで・・・」先ほどとは一転し、泣きそうに顔をゆがめて縋ってくるヒナギクに、さすがのハヤテも目眩がした。
喉がようやく解放されたハヤテとしては、一刻も早く外の新鮮な空気を吸い込みたかったが、アルコール濃度の高い二酸化炭素で我慢せざるをえなかった。そして誠に遺憾なことに、天女であろうが聖母であろうが、酔っ払いの息はシラフの人間にとって臭いのだ。

いつか雪路に言われたことが頭に浮かんだ。『長い間一緒にいると、ヒナにがっかりすることだってあると思うけど・・・』
(大丈夫ですよ、お姉さん。がっかりなんてしてないから)本気でそう思っている自分に気付いた。ヒナギクのこんな姿さえ新鮮で、可愛くて仕方なかった。やっぱり自分はヒナギクのことが大好きなのだと改めて思った。
(それにこんなことが偶にはないと、バランスがとれないしね。やっぱりヒナには僕がついていないと・・・、あはは、これは図々しいかな)

ヒナギクが静かな寝息を立てるまでそれほど時間はかからなかった。その顔は真っ赤に染まりながら、指はしっかりとハヤテの服を掴んだままだった。
(やれやれ・・・)息をついたハヤテがヒナギクの髪を撫でると、ヒナギクの口元がぴくり、と動いた。その固く瞼を閉じた横顔にしばらく向き合っていたハヤテは、手は休めずに静かに語り掛けた。

「ヒナ、お姉さんが教えてくれたことだけど・・・人生ってさ、失敗したっていいんだよ。たまには負けたってね。どんなにブザマでも挫けてしまわなければ、きっと笑って思い出せる時が来るから」ヒナギクの寝息が聞こえなくなった。
「僕は今まで失敗だらけ、負けっ放しの人生だったけど、今本当に幸せなんだよ。最高の恋人が傍にいて、僕に甘えてくれるんだから・・・」ヒナギクの指に力がこもったのがわかった。瞼の隙間が潤んでいた。
「今までの不幸を全部ひっくるめても、今の幸せにかなうもんか。今日のことだって、いつか二人で笑い合えるよ・・・きっと。その日までずっと・・・僕がついているから」
最後の一言に力を籠めるとヒナギクの固く閉じた瞳からが涙が零れ落ちた。一粒二粒ととめどなくハヤテの胸に浸み込んでいく。
(ほとんどお姉さんの受け売りだけど・・・、自分の言葉も付け加えることはできたかな)
僕は決して無力じゃないんだ・・・そう思うことができた。


翌朝、ヒナギクは頭に響く痛みと身を捩る気恥ずかしさに苛まれるのだが、結果的にこの夜の出来事が早く立ち直ることに繋がった・・・はずである。




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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.18 )
日時: 2017/06/29 22:30
名前: どうふん


第十三話:プロポーズの景色


「お疲れ様。もう二人とも寝ているよ」
ヒナギクが少し遅れて事務所から戻った。手早くヒナギクの夕食を準備したハヤテは、食卓についてヒナギクと向き合った。
「ヒナ、あのね」歩の妊娠を報告しようとしたハヤテだったが、「あ、教えていなかったわね」と笑われてしまった。
ちょっとむくれたハヤテに向かい、ヒナギクはなだめる様に手を振って立ち上がった。
「ごめんごめん。まだ安定期に入っていなかったし、とっくに気付いているとばかり思っていたから。ま、折角だから乾杯しましょ。今、ワインを開けるから」

控えめにワイングラスを合わせる音が響いた。
「それで、西沢さん・・・歩さんは子供が生まれる直前までお手伝いしたい、と言ってくれたけど、やはり母体第一に考えないと」
「歩の好きにさせてあげましょ。もともと歩が立候補してくれたことだし。」
「ヒナがそういうなら。でもシオリも歩さんには懐いているし、ホントにありがたいな」
「ただ体調が悪いときは無理しないようハヤテが目を配ってあげて」
何のこだわりもない口調にハヤテの顔が綻んだ。今更ではあるが。

「家政婦でもベビーシッターでも任せとき。親友二人のためなら。私の花嫁・・・じゃなくて母親修業でもあるんだから給料は安くしとくよ」かつて自分を売り込んできた歩もそうだった。むしろヒナギクの方が気を遣ってとまどっていた。歩は笑顔を崩すことなく強く頷いた。「いつかきっとね」

「畏まりました、所長」口調だけ恭しく改めたハヤテは、今、ヒナギクに千桜を加えた法律事務所で、司法書士としての事務から経理・庶務まで引き受けている。
そして、家事・育児は夫婦で分担しているが、やはり所長のヒナギクよりハヤテの比率が高くなる。
かつて二人が思い浮かべた結婚生活が、千桜や歩の援けを受けて実現した。そう言ってもいいだろう。


*****************************************************************:


四年前のヒナギクの誕生日。ハヤテはヒナギクを高級ホテルのディナーに招待した。
ホテルの最上階にあるレストランの眺望は、ヒナギクをして「綺麗・・・」と呟かせるほどだった。
相変わらずその左手は、向き合うハヤテの右手をしっかりと握りしめていたが。

「まずは、お誕生日おめでとう、ヒナ。それと就職も」ヒナギクは司法修習生を卒業し、大手の弁護士事務所に就職が決まっていた。
「ありがとう、ハヤテ。でも、こんなに奮発しちゃって大丈夫?」一年前に大学を卒業し、三千院家の執事として給料をもらっているハヤテだが、ここまで張り込んだことはない。
「お任せください。こう見えても僕は一足お先に社会人だからね。それに今日はいろんな意味でお祝いの日なんだし」


乾杯の後、ヒナギクはハヤテの目を意味ありげに覗き込んだ。
「ところで・・・今日の『いろんな意味』・・・って、教えてくれないかな」ニッと笑ったハヤテを前に、ヒナギクの心臓がバクバクと鳴った。
「そうですね、まずはヒナの誕生日、就職祝い・・・、ここまでは言ったよね」ここでハヤテは言葉を切った。ヒナギクがごくり、と息を飲み込んだのに気付いた。

(気付かない振りはしているけどやっぱりお見通しだったんだな・・・)苦笑するような気分が湧いた。(ホントにわかりやすいんだから)もっとも、あっさりとサプライズを見破られているハヤテのわかりやすさは、ヒナギクを遥かに凌いでいることも確かであった。
(勿体ぶるのはここまでかな)ハヤテはポケットからリボンの掛かった小箱を取り出した。
「え、ええと・・・。開けてもいいかしら」期待通りの展開にヒナギクの声が震えている。
「も、もちろんだとも。受け取ってもらえたら嬉しいな」やはり普段とは違う。ハヤテの表情に余裕がない。それにいつもなら「喜んでもらえたら」となるところだ。つまり、受け取
ること自体に大きな意味がある。

頬を染めたヒナギクはいそいそとリボンを解き、包み紙が破れないよう細心の注意を払いつつ開いた。
姿を見せたのは紛れもない指環ケースだった。

瞳を輝かせてハヤテに笑顔を向けたヒナギクは、指環ケースを持ち上げ頬ずりした。
ハヤテはやや硬めの笑顔を浮かべ、ヒナギクを食い入るように見つめている。

ようやく指環ケースを下に置いたヒナギクが、ゆっくりと開いた。その手が震えている。
しかし、顔を上げたヒナギクの表情は何とも言えない困惑に満ちていた。
どう解釈すべきかわからず、戸惑うハヤテに向かい、ヒナギクはケースの向きを変えた。


ケースには、肝心なものが入っていなかった。



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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.19 )
日時: 2017/06/30 23:22
名前: タッキー
参照: http://colors

ハヤテくん、煽るのはちょっとどうかなって、お兄さんは思うわけですよ。ね?

どうも、お久しぶりです。タッキーです
いや、まじでお久しぶりです



原作も完結してしまい、良くも悪くもいろいろとお話にも影響がでているかと思います。
それでも、ヒナさんに幸せになってほしいという気持ちはきっと変わらないはず!お互い頑張っていきましょう!

ということでお久しぶりのタッキーでした
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.20 )
日時: 2017/07/01 23:53
名前: どうふん


「あ、煽ってなんかいませんよ。
これはですね、例によってミステリー好きな作者の趣味です。
どんなつまらないトリックを考えてるのか知りませんけど、婚約指輪まで隠しちゃうなんてあんまりだと思いませんか(ハヤテ)」



***************************************************************::::


安心してくれ、ハヤテ君。
今回は別にトリックなんて仕掛けてないから。
ただ、確か君は現金を消す名人じゃなかったかい。何を今さら・・・、という気がするんだが。


さて、タッキーさん、お久しぶりです。
まあ、わかっていたことではありますが、結局は原作とかけ離れた未来となりました。それでも、何かの弾みで、似たような世界になっていた可能性もあったのではないかな・・・、などと往生際悪く考えております。
あとは喜んでくれる方がいれば幸いです。


タッキーさんの新作も今後の展開を楽しみにしております。


                                      どうふん













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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.21 )
日時: 2017/07/04 21:22
名前: どうふん

第十四話 : 君の夢と僕の夢


一体何がどうなったんだ。全身から汗を噴出させつつハヤテは頭を全速回転させた。
やがて閃くものがあった。

昨晩、ジュエリーショップで婚約指環を受け取ったハヤテは、店による包装を断り、そのまま持ち帰った。
念入りに選んだ包装紙とリボンを掛ける前、箱を開いてヒナギクの反応を思い浮かべては悦に入り、取り出しては磨き、指に嵌めてみたりを繰り返していた。
さらに渡し方を何パターンも想定し、シミュレーションと練習を繰り返した。
その時に、もし指環を落として傷つけたりどこに行ったか分からなくなっては大変だ・・・。
そんなことを考えたハヤテは、魔が差したように大切な指環をいったん机上の小物入れにしまったのだった。

そこから指環を取り出した覚えは・・・ない。


「す、済みませんでした。あ、あの・・・これはですね・・・」
「ハ・ヤ・テえええええ。ドジなのはわかってるけど、こんな肝心な場面で・・・。な・・・何をやってるのよ」場を憚った小声ではあったが、ヒナギクの瞳の中と背後に炎が見えた。

ハヤテは焦りつつも内心で幾分安堵していた。以前なら問答無用で吹っ飛ばされていたところだ。やはり、付き合い始めてからの五年間は伊達ではなかった、と言えようか。
しかし、マズい状況に変わりはない。プロポーズはやり直せばいいが、ヒナギクの大切な誕生日を台無しにしたら、一生悪夢にうなされることになりかねない。
ハヤテはヒナギクを宥める、いや喜ばせる方法を必死に考えた。 

(そうだ・・・。「いろんな意味」にはもう一つあったじゃないか)
「ヒナギクさん。ほんとカッコ悪くて済みません。だけど、恥の掻きついでに・・・」
「何言ってるのよ。恥をかいてるのは私の方よ」つい先ほどの自分の姿を思い出したヒナギクは、膨れっ面で腕組みして背を椅子にもたれさせた。
「ご・・・ごもっとも。だけど、僕を信じて、もう一言だけ言わせて下さい」
ヒナギクの表情は変わらない。しかし話を聞く気はありそうだ。


ハヤテが取り出したのは一枚の紙だった。(ん・・・、何かの賞状?)
「これ・・・、僕の気持ちです」
「?」ヒナギクは目を遣った。それは司法書士の免状だった。ハヤテが司法書士の資格をとったことが書かれてあった。
「ハヤテ・・・これ・・・一体・・・?」

「改めてヒナ、名門事務所への就職おめでとう。でも、ヒナの本当の夢は独立だよね。その時は僕にも手伝わしてほしい。夫婦で一緒に法律事務所をやっていかないか」
やっと気づいた。ハヤテはずっと、そのつもりで法律の勉強を重ねていたのだ。そしてそれは、ヒナギクが長い間胸に温めていた願いだった。
(ハヤテ君も、私と同じことを考えてくれていたんだ・・・)全身がの体温が急激に熱くなるのを感じた。しかし、ハヤテの方から言い出されると、本当にそれでいいのか、との思いも湧いた。

「あの・・・ハヤテ。気持ちは嬉しいけど、あなたにはあなたの人生があるんだし、仕事まで私に合わせることはないのよ」言って後悔した。我ながら可愛げのないセリフだと思った。
ちょっと照れながらもハヤテは目をそらさず、きっぱりと言った。「僕の夢はずっとヒナの傍にいてヒナを支えることだから。

ヒナの未来をずっと守りたいんだ。この気持ちは何年経っても変わってないよ。」
「でも・・・、ナギは・・・。執事のことはどうするの」
「お嬢様にはお許しをもらったよ。『たまには里帰りするんだぞ。家族なんだから』だって」
「ナギが・・・」
「あと、『縁がなかったらいつでも戻ってこい』、とも。・・・何か・・・お嫁に行くみたいだね、僕」苦笑しながら頭を掻いた。
ヒナギクは笑わなかった。「そんなことないわよ。ハヤテは私の最高のヒーローなんだから。一緒にやっていきましょう。家庭もお仕事も・・・一緒に」
「ありがとう、ヒナ。一緒に助け合える事務所と幸せな家族を作ろうよ」ハヤテは身を乗り出した。テーブルが遮らなければ、ハヤテはヒナギクを抱きしめていただろうが、そうもいかず、ヒナギクの手を握りしめた。
「お礼・・・、私も言わなくちゃ。いつか、ハヤテと二人で法律事務所を開くのが私の夢だったんだから」
ハヤテは笑い出した。「何だ、そうだったの。僕はずっと、ヒナをどう説得しようか考えていたのに」
「残念?」
「とんでもない。嬉しいよ。ヒナが僕と同じ夢を見ていたなんて」
「実現はもう少し先になるけど。これからは二人で同じ夢を目指すことができるのかしらね」
「そうだね、きっと」ヒナギクはハヤテの免状を胸に抱くようにしてハヤテを見た。
「これ、夢が叶うまで私が預かっていていい?」
「え・・・、そ、そうだね。じゃ、とりあえずこの場は指環の代わりということで・・・」
「ううん。指環よりずっと嬉しいわよ」つい先ほどの膨れっ面から一転した笑顔が満面に広がった。ちょっと呆気に取られたハヤテは苦笑した。
(やっぱりヒナは単純・・・い、いや違った。本物の天女なんだな・・・)


********************************************************:


二人でアパートに帰った。自分の部屋にヒナギクを連れて行ったハヤテは、小物入れを開いた。思った通りだった。
傷がつかないようにハンカチで丁寧に包んでいたものを改めて拾い上げたハヤテは、息を吹きかけ念入りに拭いた後、ヒナギクに向かってひざまづき、両手で捧げるように差し出した。せめてものサービスだった。


四月になり、ヒナギクが初出勤の日、法律事務所で失望に満ちたどよめきが起きた。言うまでもなく、原因のすべてはヒナギクの左手の薬指に光る指環にあった。



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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.22 )
日時: 2017/07/09 22:08
名前: どうふん



第十五話: 未来予想図


ヒナギクが婚約指環を嵌めて半年が過ぎ、ハヤテとヒナギクは結婚した。
三年の間に二児をもうけた後、桂法律事務所として独立を決めた。
子供二人を抱えて夫婦だけで事務所を運営するのは予想以上に大変そうなので、別の事務所に勤めていた千桜にも声掛けし、三人での出発となった。それが唯一の計算違いと言えるだろうか。
しかし、それは二人だけの事務所よりずっと楽しく、負担も減らすことにつながった。

勤めていた大手の法律事務所からは引き止められ、周囲からは早すぎる、と心配されたが、今のところ、桂法律事務所は順調に業績を伸ばしている。


「千桜さんに来てもらって本当に良かったね」夕方、営業時間も過ぎて、事務所を片付けながら、ハヤテが言った。
「そう言ってもらえると、付き合った甲斐もあったというものだな」
「ところで、ハル子はまだ結婚しないの?」
千桜はヒナギクを見て苦笑した。その一瞬、ヒナギクは、自分に向けられた千桜の目が妖しい光を帯びたように見えた。
気のせいよね・・・、ヒナギクは首を捻ったが、実は間違いではなかった。(私はまだ、美少女やヒロインの方に興味があってね・・・。もし、ヒナから誘われたら・・・同性愛に嵌りかねんな)
ヒナギクやハヤテが聞いたら驚くだろうが、千桜がヒナギクの事務所に加わった動機は案外そんなところにあったのかもしれない。
 
「ところで、今日は二人とも(水蓮寺)ルカのコンサートに招待されていたんだったな。子供の方は、歩に頼むのか」
「それはちょっとね。夜遅くなっちゃうし。歩も妊婦なんだから。久々にお祖母ちゃんの出番ってところね」
なるほど・・・。あのハヤテを大好きな義母は、孫のことになると溺愛そのものである。ヒナギクから頼まれて、喜び勇んで駆け付けたのだろう。
(あんな親に恵まれたかったな・・・)そんな思いが頭を掠めた。
ハヤテもヒナギクも実の親から捨てられた。ハヤテの親は刑務所から出てくる気配もなく、ヒナギクの親も行方は杳として知れない。そこへくると離婚はしたが一応の親子関係を保っている自分はまだマシかもしれない。
しかし、血のつながりはなくとも本当に仲の良い両親に見守られ、助けられている二人が羨ましくなる。
「どうかしたの、ハル子」
「あ、いや、何でもない」
「ハル子も一緒に招待してくれればいいのにね」今回の招待状は二人宛てだった。
「まあ、いいじゃないか、特等席なんだし。たまには夫婦水入らずで楽しんできてくれ」

三人で事務所を出た。千桜と別れた二人は、腕を絡めて歩き出した。ハヤテの腕にもたれるヒナギクの後姿は、事務所の中とは別人のように見えた。
(あの二人に倦怠期はないのかな。二児の親とは思えんな・・・)千桜は、二人が今どんな顔をしているのか、回り込んで正面から覗きたい衝動に駆られた。

それは友達、というより作家としての好奇心だったかもしれない。
千桜は、弁護士業の傍ら、リンクフリーのサイトに投稿し、密かにライトノベル作家になる野望を燃やしていた。
(ナギだってあれだけのことができたんだ・・・)

千桜の作品は常に主人公は女性である。小説の面白さはヒロインの魅力にあるとの信念は変わっていない。そして、千桜からすれば、ヒナギクほど魅力に満ちたヒロインは他にない。比肩する、と言えば、二次元の世界ではあるが「め○ん一刻」の音無○子さんくらいだろうか。
主人公は才色兼備の生徒会長だったり、超人的な剣士だったり、辣腕の法律家だったりするのだが、そのキャラはほとんど変わることはない。優しくて、意地っ張りで、不器用で、子供みたいな純粋さと難しさを持っていた。

そんな奥手のヒロインの相方は、ほとんどが心優しき鈍感男であるが、たまに百合が入ったりする。その場合のお相手は、メガネをかけた真面目なコか、やたらと陽気なメイドさん、と相場が決まっていた。
ちょっと気恥ずかしいので、投稿にあたっては男を装っている。ひらがな4文字で奇妙なハンドルネームを付けた。本当は意味も由来もあるのだが、歴史マニアでもない限り気付く人はそういないだろう。
先輩作家から手厳しい批評が入ることもあるが、それもひっくるめて、偶に入ってくるレスを眺めてにやにやしていた。
もちろん、ヒナギクもハヤテも全然気づいていない。

***********************************************************


ルカは30歳近くなり、いわゆるアイドル路線を次第に変更し、実力派シンガーへの道を進み始めた。歌もダンスも卓越しているルカのコンサートは今でも東京ドームを満員にできる。ハヤテとヒナギクが手にしているチケットは、最前列の中央のものだった。

「すごいな・・・」
「本当ね・・・」
ハヤテとヒナギクは、会場の、さながら亜熱帯気候のような熱気に圧倒されていた。
台風のような時間が過ぎた後も、アンコールの拍手が鳴りやまない。
拍手に応えてルカが姿を現した。
「みんなー、ありがとう。最後に、私が初めて作った曲を聴いてくれるかな。披露するのは初めてなんだよ」一段と大きな歓声が沸いた。
会場の灯りが落ちた。真っ暗になった舞台の一角にスポットライトが当てられた。
ギターを抱えて腰掛けているルカが浮かび上がった。
ルカが初めて歌うスローバラードの伴奏は一本のギターだけだった。


「ハヤテ、これ・・・」
「え、ええと・・・」
そのルカによる歌詞は昔の恋人との偶然の再会を描いたものだった。大好きだったのに自分が夢を目指したがため別れざるを得なかった二人。
主人公は何年かぶりに元カレと再会してお互いへの想いは当時から変わっていないことを確信する。しかし今さらよりを戻すことはできない。元カレが結婚している今となっては。
二人は別れ際に握手を交わし、そのまま反対方向に歩き出した。

が、立ち止まった。久しぶりに感じた温もりの残る右手を見つめた。
主人公は振り向き。寂しそうに去る背中に向かって駆け出した・・・。

いわゆる不倫ソング・・・。いやその一歩手前ということか。アイドルからの方向転換はこんなところにも表れているらしい。
歌い終わったルカは、万雷の拍手に手を振って応えた後、最前列のハヤテとヒナギクに向かい、親指を立てて拳を突き出した。
その目は、してやったり、とばかりに悪戯っぽく輝いていた。

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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.23 )
日時: 2017/07/09 23:11
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
今月も感想キャンペインに乗っかりまして。

響子さんの「一日でいいからあたしより長生きして」は昔ヒナに言わせたいと思ってたセリフだったと自分語り・・・。あのあとの義父とのやり取り含めて好きな場面です。
一番好きなセリフは結婚式の二次会での「とにかく…がんばれ」と言う三鷹さんだったりとまた自分語り・・・。

千桜さんのスペックと容姿なら結婚相手には困らなそうですが、この分だとしばらく先の話になりそうですね。
主役二人の様子を俯瞰して見るのに彼女の存在はキーになりそうな気が…実は好きなキャラなんで活躍に期待しております。

では次回も楽しみにしております。
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.24 )
日時: 2017/07/11 21:00
名前: どうふん


ロッキー・ラックーンさんへ


今回も感想ありがとうございます。

「一日でいいから・・・」私もかつてあのセリフには痺れました・・・(感無量)。
実を言えば、前作「コンチェルト」にも入れるか、考えたこともあるんですよね。
終盤、ハヤテをぶん殴ろうと詰め寄る雪路が「あんたにまで死なれたら・・・。いい、あんた。今は勘弁してあげるけど、例え一日でもヒナより先に死んだら一万発覚悟なさいよ」


千桜さんですが、アリスちゃんに並ぶ功労者ですし、本人がその気になりさえすれば相手に不自由はしないでしょうが、オリキャラが必要になりそうで・・・。
この物語で、いろんなカップリングを考えましたが、何といってもヒロインたちに見合うだけの男性の絶対数が足りないですね。

この物語もそろそろ終盤に差し掛かろうとしていますが、ご期待に応えられるよう、最後まで気を抜かずに頑張ります。


                                            どうふん




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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.25 )
日時: 2017/07/18 21:14
名前: どうふん


第十五話は突っ込みどころがかなりあったと思います。

あの話の大事な部分は、プロポーズを何とか乗り切った二人が結婚し、家庭と独立した事務所で何とかやっている、というだけなのですが、いろいろと盛り込んでしまいました。
まあ、千桜さんは私の分身みたいなもので・・・。
ルカまで登場させたのは少々調子に乗りすぎたかな。

そして残り(おそらく)三話。ハヤテとヒナギクさんの家庭に場面を移します。



第十六話:桂家の家族


「あら、お帰り。二人とも寝ているよ」
(いや、寝てるのは三人でしょ)ハヤテはそんなツッコミを堪えた。ヒナギクとハヤテがコンサートから帰ってきた時、二人にとっての義理の、そして唯一の母が孫娘の横で気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「起こしちゃったわね。布団を敷くからもう寝たら」ヒナギクの前で手を振りながら義母は起き上がった。
「あなたたちとも偶にはゆっくり話がしたいからね」

「二人はいい子にしてた?」
「んー、いい子だよ二人とも。可愛くて可愛くて」ヒナギクはもちろんのこと、ハヤテにとってもかけがえのない母の目がハートマークと化しているかに見えた。「あたしとしてはね、もっと流行りの、読めないような、えっと、あれ・・・、ギリギリガールじゃなくて・・・」
「ああ、キラキラネームのことですか」
「あ、そうよ、それ。そんな名前がいいな・・・なんて考えたこともあったんだけど。今思えばいい名前よね」
「娘の名前は私が考えたんだからね、お義母さん」


********************************************************:


「ねえハヤテ、生まれてくる子供の名前のことなんだけど」第一子が生まれる予定日まで二か月を切っていた。「うーん、男の子か女の子かわからないとね」開いた新聞から目を離すことなくハヤテは答えた。生まれてくる子供の性別は聞いておらず、実際のところ、まだハヤテは何も考えていない。
ヒナギクはちょっと不満そうな顔をした。常に子供の存在を体内に意識せざるを得ない母親としては、男の子か女の子か、名前はどうしようか、どんな子に育てようか、その他もろもろが常に頭を占めている。
「だったらね、名付け親を決めておかない?」ヒナギクの提案は、女の子だったらヒナギクが、男の子だったらハヤテが名前を付けるというものだった。
「ああ、いいね」気軽に答えたハヤテが、後悔するまでそれほど時間はかからなかった。


翌日、さっそくヒナギクは産婦人科の診察を受け、胎児の電波写真を持ち帰った。黒い背景の中、次第に目や鼻と思われる個所がはっきりとしつつある。
生まれてくるのは女の子だということだった。
「う・・・ん。確かにオチンチンはなさそうだね」
「約束だからね」ヒナギクはさっそく張り切って名前を考えているが、「こんなのはどうかしら」と目を輝かせて言ってくる名前は、はっきり言って子供が気の毒になるような代物ばかりだった。
(忘れてた・・・ヒナのネーミングセンスを)


「だったらどうすればいいのよ」控えめに、ただし断固として反対を繰り返すハヤテに、ヒナギクの眦が次第に吊り上がってきていた。
ハヤテは弱っていた。こちらから提案をしても意地になったヒナギクが受け入れるとは思えない。「決めるのは私でしょ」と言われればハヤテに反対する術はない。どうすればヒナギクが決める、という前提の下、思う方向に導くことができるだろうか。そうだ、何かヒントを上げれば・・・。
「そ・・・そうだね。ヒナギクにあやかって花の名前なんかどうだろう。母親みたいに素敵な女性になるように」
そのアイディアは悪くない、とヒナギクは思ったらしい。しばらく考え込んでいたが、やがて目を妖しく光らせた。
「じゃ、これなんかどうかしら」ヒナギクは手元の本を取り、挟んでいた栞を取り出した。
「え、これは・・・」ヒナギクが愛用しているハヤテ手作りの栞には押し花が貼られている。しかし、その花は雛菊・・・daisyだった。


「で、でもさ・・・。親と子が同じ名前っていうのは・・・」うろたえるハヤテを前に、ヒナギクは満足げに悪戯っぽく笑っていた。
「あら。そんなこと、言ってないわよ」
「まさか、デイジーとか、英語の名前にする気?」
「何言ってるの、これよ、これ」ヒナギクはハヤテの目の前で栞を振っている。まごついているハヤテを前に、ヒナギクは楽しくて仕方ないように笑っていた。

「栞・・・シオリっていうのはどうかしら」
「・・・そういうことか。いいね、すごく」
「栞ってね、本に挟むんだから道標(みちしるべ)って意味もあるのよ」
「なるほど・・・。僕たちの子は、人の道標になれるような人になってほしいってことだね」
ヒナみたいにね、ハヤテの一転して弾んだ声にヒナギクから誇らしげな笑顔が零れる。
「それだけじゃないわよ。この子は私たちの道標でもあるんだから。この子には一杯の愛情を注いで、誰よりも幸せになってもらうの」
ハヤテが手を伸ばし、ヒナギクのまん丸になった腹を撫でた。手触りを堪能しながら、中の子に話しかけた。
「シオリちゃん、ママがね、さっそく素敵なプレゼントをくれたよ。うん、いい名だ」
ヒナギクの腹がびくんびくんと動いた。
「僕の言うこと、わかってくれたのかな」
「ええ、そうかもね」擽ったそうに顔を緩めていたヒナギクが席を立って台所に向かった。
「あ、お茶なら僕が淹れるよ」
「大丈夫よ。パパは座ってて」
(パパかあ・・・)何とも言えず安らいだ気持ちになって、ハヤテはもう一度超音波の写真を手に取った。その下に病院の領収書があった。
(あれ?)領収書の日付は昨日のものだった。


最終的に、桂家の第一子の名前は、「栞莉(シオリ)」と決まった。フルネームが「桂栞」ではちょっと短すぎるし、日本人っぽくない、と二人で考えたためである。

そして、二年後に授かった男の子の名前はハヤテが付けた。
「拓実(タクミ)」ハヤテの過去や人生観から導き出されたものであることは間違いなかった。




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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.26 )
日時: 2017/07/22 00:33
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
お子ちゃまの名前、とてもいいですね。出来レースの勝負の疑いも示談に持ち込める素敵さです。「彼女が髪を指で分けただけ」な歌を思い出しますね。
元気に明るく育ってほしいと思いつつ次回も期待しております。
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.27 )
日時: 2017/07/23 09:01
名前: どうふん


ロッキー・ラックーンさんへ

子供の名前、お褒め頂きありがとうございます。
偶然性が強いですが、ヒナギクさんの閃きの成果です。
今回は、ハヤヒナ夫婦が乗り越えるべき試練と言っていい子供の命名についてのお話です。それだけでなく、家族の雰囲気なども併せて感じて頂ければ。

リードするヒナギクさんがいて、普段は気持ちよく尻に敷かれているハヤテですが、やはり譲れないことはあります。
もともと妙なところにこだわりや頑固さを持つハヤテですし、今回もハヤテが一線を守った・・・かに見えましたが、やっぱりヒナギクさんが一枚上手だった、というところです。
(まあ・・・結果オーライか)そんなハヤテの声が聞こえてきそうな。


「彼女が髪を云々」・・・ はて?と思ったのですが、「栞のテーマ」ですね。気付くまで時間が掛かってしまいました。

シオリと、そしてタクミが明るく元気に育っているところは次回投稿にて
いや、本当に時間が過ぎるのは早いもので・・・。


                  どうふん

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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.28 )
日時: 2017/07/25 21:54
名前: どうふん



第十七話:ようこそ わが家へ


白皇小学校の運動会は学年を横断した赤青黄白の4チーム対抗戦となっている。そのクライマックスというべき色別対抗リレーを迎えていた。
徒競走でぶっちぎりの一位となった三年生の桂シオリは、当然のごとく赤組の代表選手に選ばれ、最下位から一挙トップに躍り出る離れ業を演じ、観客を驚嘆させた。
応援に来ていたハヤテとヒナギクも愛娘の活躍に興奮して大声援を送っている。

これが決め手となり、大逆転勝利した赤組は寄ってたかってシオリを胴上げしていた。しかし目を細めるハヤテの胸には引っかかるものがあった。(それに引き換え・・・・)と口には出さないが、一年生になる弟タクミの不甲斐なさであった。
徒競走は三位を走っていたが、ゴール直前で転んでビリ。もちろんリレーの選手に選ばれることもない。ダンスも顔まで張り切って演技しているのだが、その動きは左右逆だった。シオリの活躍を見ているだけに、歯がゆさがこみ上げてくる。
運動だけでなく、勉強も学年トップを独走しているシオリに対し、タクミはせいぜい真ん中あたりだった。
(頑張っているのはわかるんだけど・・・)ハヤテのもどかしさには、シオリがいわゆるミニヒナで、タクミがミニハヤテであることも影響しているかもしれない。


「何か・・・引っかかっているみたいね、ハヤテ」二人での帰り道、ヒナギクが声を掛けた。
「う・・・ん、シオリはママに似て凄いんだけど、タクミはもうちょっと・・・」
「あら、いいじゃないの。一生懸命やっているところがすごく可愛いわよ」
やれやれ・・・タクミには甘いんだから・・・。ハヤテはため息をついた。
意外だった。てっきり厳しい母親になるとばかり思っていたヒナギクがこうして息子を甘やかし、自分の方が叱ってばかりなのだ。


その日の夕方、テーブルには父母二人掛かりでこしらえたご馳走が所狭しと並んでいた。お弁当も豪華だったが、夕食は更に手がこんでいる。
歓声を上げた子供たちはさっそくキッチンに駆け込んでお手伝いをしている。その間も子供たちのお喋りは止まらない。運動会のことで話題は尽きない。
タクミは自分のことそっちのけで、シオリの活躍に目を輝かせている。
「お姉ちゃんね、スゴイんだよ」
テレビからは日本の外務大臣が米国の大統領と差しでゴルフをした、というニュースが流れていたが、誰も気づかないでいた。
「それで、タクミはどうだったのかな」ハヤテが聞いた。
「えへへ・・・転んじゃった。あとね、ダンスもちょっと間違えちゃって、後でみんなに笑われちゃった」
「それで?」少々イラついた響きにタクミは気付かない。
「楽しかったあ」相変わらず目をキラキラさせながら話すタクミに、失望にも似た怒りが湧いた。ハヤテにしてみれば、自分の分身が何でこんなにだらしないんだろうと思った。
「負けて悔しくないの、タクミ?もうちょっと頑張ってもいいんじゃないか」
「ええ・・・頑張っていたよお、パパ」抗弁してきたのはタクミでなくてシオリだった。パパ大好きのあまりヒナギクの怒りを買うこともしばしばあるシオリは、ことタクミのこととなると弟の肩を持つ。
(やれやれ、結局僕が悪者か・・・)苦笑したハヤテは諦めたように首を振った。胸の辺りにわだかまるものは消えていなかったが。

「やれやれ・・・」慌ただしい一日が終わった。ベッドに寝っ転がったハヤテの横にヒナギクが滑り込んできた。
ヒナギクの髪が滝の様に流れて滑り落ちてきた。家事のときなどポニーテールにまとめることもしばしばあるが、腰のあたりまで届くその長さは高校生の頃と変わらない。

「心配することないわよ、ハヤテ」ヒナギクにはお見通しだった。
「・・・でも、タクミも男の子だからね。最後は自分の力で世の中を渡っていかなきゃいけないのに・・・。ちょっと不安じゃない?」
ハヤテの脳裏に自分の過去がフラッシュバックしていた。誰にも頼れず、必死になって超人的なスキルと体力を身につけなければ間違いなく野垂れ死にしていた。その言葉通り冴えない表情のハヤテをヒナギクは覗き込むように笑っていた。
「まだこんな小さな子なのよ、ハヤテ。素直ないい子に育っているし、何とかなるわよ」
「ヒナはタクミのことは大らかだなあ・・・。自分にはすごく厳しいのに」
「今は、しっかりと愛情を注いであげること。それをしっかりと受け止めることができる子は、大丈夫よ。何よりタクミは一生懸命に頑張っているじゃないの。いつかきっと実を結ぶわ」自信たっぷりに話すヒナギクにハヤテは釣り込まれたように笑った。
「それにね、うまくいかないことがあっても、私たちやシオリもいるじゃないの。そのための家族・・・一緒に作っていこうって約束したわね」そうだった。プロポーズをしくじりかけた夜、二人で約束した。
確かに昔の自分やヒナギクと、シオリやタクミは環境がまるで違うのだ。考えるまでもなく、自分たちが送ってきた人生の方がよほど異常だった。
自分よりずっと聡明な妻の言うことだ。間違いないだろう。
「そうか・・・そうだね」

ハヤテはヒナギクを抱き寄せ、頭を撫でた。慣れた手つきで髪の束を持ち上げては掌や指の間からさらさらと流れる感触を楽しんでいた。ヒナギクの髪に手櫛を入れるのがハヤテは大好きだった。
ハヤテの視線がちらりと下に向いた。授乳期にひと頃膨らんだヒナギクの胸は子供の離乳と共に元のサイズに戻っていた。やはり人類は哺乳類だったか・・・ちょっと惜しい気がしないでもない。
しかしそんなことに関係なく、ハヤテにとって妻は魅力に満ちた最愛の存在である。
この時点で意識が飛びかけているハヤテは、妻が「それにね、ハヤテ」と呟いたことには気づかなかった。

(やっぱりタクミはハヤテの子なのよ)
ヒナギクは見たことがある。公園でブランコの順番を守ろうとしない体の大きな男の子にタクミが注意して突き飛ばされた時、周囲にいた女の子たちが団結してその子に食って掛かり、タクミを助けていた。
(女の子みんなタクミの味方なんだから。まあ、ちょっと癪だから教えてはあげないけど)
そして、ハヤテになくてタクミが持っているもの。
異性の好意に鈍感ではあっても、決して無神経ではない。だから周りを気遣うことができる。さらに姉と比較されても不貞腐れたり卑屈になることはなく、一緒になって喜んでいる。だからこそシオリもタクミを可愛がっているのである。


この愛すべき息子はかつての恋人の享年とほとんど同じ年になっていた。
ショウタが亡くなってから思い出すことができないまま二十年が過ぎた。当時の記憶が戻ることはもうないかもしれない。そう思うことに抵抗もなくなりつつある。
あの事故が原因となっていた高所恐怖症もいつの間にか克服できていた。高いところではハヤテの手を握るのが習慣になっていたためずっと気付かなかったが、先日、家族でスカイツリーに上ったとき、一人で外を眺めることができることに気付いた。
それ自体は喜ぶべきことだが、複雑な思いもあった。ショウタと自分をつなぐものが、また一つ姿を消したことになる。
結局、ショウタがどういう子だったのかはわからない。ただ、おそらくはタクミよりもう少し頼もしかったんじゃないか、という気はする。
いや、それさえ幻想かもしれない。弱いくせに自分よりずっと大きな子に順番を守るよう諭す姿は、ヒナギクを守ろうとしたショウタと、振り絞る勇気にそれほどの差はないだろう。


ヒナギクはハヤテの顔に目を遣った。ヒナギクの髪を撫でながら、その目は恍惚として意識はどこかへトリップしている。
(私は、この人から本当に愛されているんだ・・・)ハヤテの胸の中で、元恋人をちらりと考えた自分を恥じるような思いがした。
(いや、これは、あくまでタクミのことだからね。私たちの子供のこと)

しかし、それもとりあえず考えるのを止めた。自分の一番大切なものは、たった今、温もりを分かち合っている存在以外にありえない。
子供は可愛い。かけがえのないものだ。しかし、子供への偏愛がきっかけで夫婦仲が醒める、という話も世の中には溢れている。
それは嫌だった。子供は私たちの宝物。でも、私だってハヤテにとっての宝物でいたい。ハヤテを大切に想っていたい。
今度は久しぶりに二人だけでどこかに出掛けたいな・・・。そんなことを思いつつヒナギクは腕をハヤテの首に巻き付けていた。

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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.29 )
日時: 2017/07/29 20:50
名前: どうふん


「憧憬未来図」今回が最終話となります。書き上げるまでおよそ4カ月、と言いたいところですが、本作第一章第一話から考えるとおよそ二年掛かりとなります。まあ、今度こそ完結かな。

ヒナギクさん、ハヤテ、その家族、そして仲間たちに幸あれ。
興味を持って目を通してくれた方々に心より御礼申し上げます。

                                      どうふん



最終話 : ジャパニーズ・ハニートラップ


その日、カルフォルニアにある〇〇ゴルフ場は世界中の注目を集めてていた。何せ米国のドロンパ大統領が、日本の首相ではなく外務大臣を自身がオーナーであるゴルフクラブに招き、貸し切りでプレーするのだ。
警戒も厳重で、FBIの総力を挙げた完全防備が敷かれ、殺到しているマスコミも近寄れなかった。この企画から警備まで、すべてドロンパ大統領の指示によるものだというのは公然の秘密であった。
約束の時間より一時間も早くゴルフ場にやってきたドロンパ大統領は、なかなか姿を見せない賓客をそわそわしながら待っていた。

「大統領、お待たせしました」
「おお。よくぞお越し下さった」時間通り現れた来賓を両手を広げて歓迎しようとしたドロンパ大統領だが、その腕を外務大臣三千院マリアはするりと潜り抜け、少し離れて丁寧に上品に一礼した。
ただ一人、付き添ってきた代議士花菱美希は吹き出しそうになるのを堪えていた。


ヒナギクの政界入りを目指して何度となく訪問を繰り返した美希であるが、受け入れてもらえないまま一年が過ぎた。
「これだけ頼んでもだめなのか、ヒナ」
「美希、あなたが代議士として世の中を何とかしたい、と真剣に考えているのは良くわかるわ。だけど申し訳ないけど、私には私のやることがあるの。それは政治家になって世の中を変えるようなことではなくても、大きな価値があると思うのよ」
肩を落とし、項垂れたまま動かない美希を、ヒナギクはしばらく見つめていた。
「私でなかったら、だめなの?」
美希は微かな希望を感じ、顔を上げた。
「そ、そりゃ・・・。ヒナ以外に誰がいるんだよ」
「そうかしら・・・」意味ありげな瞳が光っているのに美希は気付いた。「あなたの目的は、私を首相にすることではなく、世の中を正したい、ということでしょ。目的と手段を混同させてないかしら」
「そ、そんなこと言っても・・・」
「美希。あなたも一国の政治家なんでしょ。それなら次の方法を、それとも次の人材かしらね。そして自分自身の力で何をしなきゃいけないか。それを考えてみなさい。いつまでも私ばかりを頼っていては駄目」
そうだった。危機感を持ち、何か行動に移さなければ・・・。そう思ったまではいい。しかし、その先はただただヒナギクを首相にすればヒナギクが何とかしてくれる、としか考えていなかった。これでは結局ヒナギクに依存していた高校生の頃と何も変わらない・・・。
「そうだな・・・。ありがとう、ヒナ。やっぱりお前は・・・」最高のヒーローだよ、美希は最後の部分を呑み込んで立ち上がった。

外で待っていた秘書と運転手に伝えた。「先に帰ってくれ。しばらく一人で考え事をしたい」秘書は運転手の肩を抑え、頷いた。
美希は一人、駅前の喫茶店に入った。メニューをもってテーブルに案内しれたウェイトレスは明るいフリルのスカート姿だった。(まるでメイドだな・・・ちょっと地味な色だが)もちろんここはメイド喫茶ではない。
美希の脳裏に閃きが走った。
そうだ、もう一人いた。当時の仲間で、ヒナギクに劣らない経歴を持ち、やはり法曹関係で頭角を表している人物が。
判事:三千院マリアだった。


**********************************************************************:


「そうですわね。裁判官もそろそろ飽きてきましたし、卒業するにはいい頃かもしれませんわね」あっさりと答えられ、美希の方が唖然とした。
「あの・・・?本当にいいんですか」
「ええ。あなたがバックアップしてくれるんでしょ」
そして五年。マリアは日本の憲政史上最年少の外務大臣となり、今や諸外国では首相以上に日本の顔となっている。


その日のゴルフは3ラウンドに亘る長期戦となった。
始まる前はワニが舌なめずりするような顔でマリアを見下ろしていたドロンパ大統領が、コースを上がって来たときにはマリアの足元に跪き、靴の汚れを払おうとして止められたという記事が笑い、いや話題を呼んだ。 
この日から一週間後、米国から懸案事項について大幅譲歩の声明がなされることとなる。

その年、マリアは世論調査で「首相に相応しい人物」第一位となった。
傑出した美貌と超人的なスキルを誇り、優しくてちょっと天然で、しかしその気になれば策を巡らせ黒くもなれるメイドのマリアが一国の宰相となり、最後には国連事務総長として君臨するまでの物語・・・そんなサイドストーリーがあるかどうかは定かでない。
一方の美希も次回の内閣改造で閣僚入りが確実視されている。「親の七光り」「聖母の威を借りるタヌキ」と陰口は消えていないが、マリアをサポートしてアメリカとの交渉に活躍したことで、そうした声も次第に沈静化しつつある。


**********************************************************************


「次は中国ですわね」
「あの連中はアメリカより手強いかもな」
「さあ、どうかしら。少なくとも私たちにハニートラップは通用しませんわよ」
専用車の後部座席に腰かけたマリアと美希は声を合わせて笑った。

目的地に着いた。懐かしい「どんぐり」は今も変わらずそこにある。
「本日『大反省会』につき貸切となっております」入り口の案内板にでかでかと書かれていた。
「たしか『同窓会』じゃなかったかしら」
「多分・・・ナギか歩あたりが、同窓会じゃ当たり前すぎて面白くない、とか言い出したんじゃないのか」中から聞こえてくる歓声や嬌声に目を輝かせ、戸を開けようとした美希の手をマリアは抑えた。賑やかな雰囲気をしばし外で味わうことにした。

マリアの耳にはナギの怒声とそれを宥めるハヤテの声が一段と大きく響いてくる。いや違う、あれは康太郎だ。
美希には泉と理沙のじゃれ合う声が。
ぺたぺたと会場を走り回る足音もする。子連れのメンバーもかなりいるようだ。慌てた声で子供を追いかけているのは歩だろうか。

いきなりギターの音と同時に一段と大きな声が響いた。「イエーイ。それでは皆さん。今年のレコード大賞最有力候補で紅白出場が確定している私のワンマンショーをお愉しみ下さーい!」

「・・・そんな話聞いてます?」
「初耳だ・・・。まあせめてルカが言うなら『盛りすぎ』程度にはなるが」
その時一段と澄み切った声が喧噪を切り裂いた。
「お姉ちゃん、いい加減にしなさーい!!」会場は一瞬にして静まり返った。
マリアはくっくっと喉を鳴らした。ほとんど反射的に美希までが直立不動の姿勢を取っていた。
照れ隠しのように両手を振る美希が、腕に力を込めて、一歩踏み出した。
「じゃ、そろそろ・・・」
「ええ。潮時ですわ」

扉の向こうには、タイムスリップしたかのような異世界が広がっていた。


「タガタメニ・・・家族」完


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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.30 )
日時: 2017/08/08 23:02
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
遅ればせながら完結おめでとうございます。

序盤のフラグをマリアさんで回収するという発想は意外と言うか、美希さんがヒナラブな前提があったので読者としても彼女の目的を見失っていたところでした。実際、マリアさんの方が三千院での経験で人脈なりなんなりがありそうで政治家イメージも湧きやすいですね。

あと最終回でハヤヒナをやらないあたりに、こだわりのようなものを感じました。
私だったら最後の最後まで詰め込んで終わらせるだろうなと想像しましたので・・・。
千桜さんなり美希さんなり、脇役がいい味を出してくれたと思います。

さて、ここまで大変お疲れ様でした。自分の意欲を刺激されたり(完結させないとなぁという使命感も)、物語の参考にさせてもらったりと、いろんな意味で非常に楽しませて頂きました。
チャットルームの方にもまた是非足を運んでみて頂いたらと思います。全然ハヤテ中心の話はしませんが、それはそれで・・・。
では失礼しました。
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図 ( No.31 )
日時: 2017/08/14 23:39
名前: どうふん


ロッキー・ラックーンさんへ


感想ありがとうございます。
しばらく遠出しており、間が空いてしまいました。ご容赦。


さて、政治家への道を既定路線としている美希ですが、なった後のことを別段深く考えてはいないようです。現実を知った時、どのように反応するか。「ヒナ、助けて−」となりそうな気がします。
もちろん、「大好きなヒナと結婚はできなくても別の意味でパートナーに」といった思いもあるでしょう。
しかしながらヒナギクさんが政治家に向いているかは全く別の問題でして、私見では、それは違うだろうな、と。それでは誰が・・・となると、卓越した力量と清濁併せ呑む器量を持つマリアさんに白羽の矢が、というところです。

最終回でハヤヒナをやらなかったのは・・・。う・・・ん。こだわり、と言っていいものか。
あえて言えば、二人の周囲についてできる限り大団円にしたい、という思いはあります。
それと、読後感ですね。ちょっとしたフラグを回収することで、ああ、そんなこともあったなあ、という程度に話の筋を思い返していただければ。
まあ、このあたり、独りよがりかもしれません。


最後になりますが、またロッキーさんの新作にお目にかかれることを楽しみにしています。
また楽しい話をぜひともお願いします。


                                   どうふん








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