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対象スレッド 件名: Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
名前: どうふん
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
日時: 2017/05/10 22:06
名前: どうふん

第五話: すれ違う気持ち 


「どうした、ヒナ。それにその手は」一夜が明け、食堂に現れたヒナギクは、同居人である春風千桜が声を上げるほどに憔悴していた。
一睡もできなかった。
昨日両親から聞いた話は、ヒナギクの全く知らない世界だった。
(私がお姉ちゃんや義理の両親やハヤテに助けられ、仲間に囲まれて幸せに過ごしている間、お父さんとお母さんは監禁されて、奴隷のような目にあって苦しんでいたんだ)
両親だけ?目の前の千桜がかつてヒナギクに言ったことがある。「お前は周囲を助けて幸せにしているんだ」本当にそうなのか?
かつての恋人であるショウタもヒナギクを守って死んだ。私は親も恋人も犠牲にして、大好きな人を踏みつけにして、自分だけが幸せになっているのではないか?


「ねえ、ちょっとおかしいよ、ヒナ。パーティで何かあったの?」
夕方になり、クラウスと入れ替わりでやってきたハヤテの目はいつもどおり優しく、そして心配に満ちている。しかし、そのハヤテにも相談することはできなかった。
かつてヒナギクは私の好きな人はみんないなくなってしまう、そう思い込んでいたことがある。だがそれは間違いで、私が周囲を不幸に追いやっているのではないか。
悲観論はエスカレートする一方だった。
目の前のハヤテに対してさえそうだった。私と付き合ってこの人は幸せになれるのか。私は不幸な人をまた一人増やしてしまうのではないか・・・。
これ以上ハヤテの顔を見るのが辛くなった。

「ごめん・・・ちょっと疲れているみたい・・・」
ハヤテを振り切ってヒナギクは一人、部屋に戻った。
しばらく経って紅茶とクッキーを盆に載せたハヤテが戸をノックした。戸は開いたものの、ヒナギクの沈鬱な雰囲気は、ハヤテに長居を許さなかった。


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ひと月が過ぎた。
負け犬公園の近くにある喫茶店でヒナギクは両親と向き合っていた。週末に待ち合わせしたのは、これで三度目になる。
姉に会ってほしい、というヒナギクに、両親は、合わせる顔がない、の一点張りだった。
(私にはあるの?)という発想は湧かなかった。実際に借金を返済した姉と、姉に頼りきりだった自分とは違って当たり前だろう、と捉えていた。
しかし、気になるのはその態度だ。相変わらず俯いたままで、目もろくに合わそうとせず、他人には絶対に言わないでくれ、というスタンスがずっと変わらない。そんなにも罪の意識に苛まれているのか。

昔の話をしてもうまくかみ合わない。幼い子供であった当時の記憶に曖昧さや間違いがあっても不思議はないが、かなり重要なことを両親の方が覚えていないなんてこともざらにある。
それほどに辛い時間を過ごしてきたということだろうか。確かに、自分も死に別れた昔の恋人の記憶を失ってしまったことは事実だし、ありえないことではないだろうが・・・。

結局、その日も煮え切らないまま終わった。何度会っても両親であるはずの人物に、懐かしさや親愛の情が湧き上がってこない。
不思議だった。幼いころに別れて十年以上が過ぎ、顔もうろ覚えであるとはいえ、誤解も解けて親子の感動の再会であるはずなのに。

(私はこの人たちとどう付き合っていけばいいのだろう・・・)
血は水より濃い、という。だが、今、自分が親として慕っているのは紛れもなく養父母だった。
本物の親のように愛情を注いでくれた養父母を悲しませることはできない。今更本当の親が見つかったから、といって養父母の下を離れるなんて考えられない。
だからといって自分たちのために悲惨な境遇に落ちていた生みの親を見捨てるなんてことが許されるのか。


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「どこに行ってたの?」ムラサキノヤカタに戻ると、ハヤテが食堂でコーヒーを啜っていた。その声に棘を感じ、胸に刺さったような痛みが走った。
ひと頃の沈み込んでいた姿はもう見せていないが、休日に行先の言えない外出が増え、また一人で考え込むことが長くなり、その分、ハヤテへのフォローが疎かになっていた。
「ご、ごめん・・・ちょっとゼミの人たちと打ち合わせに・・・」
ハヤテの表情は動かない。ぞくり、とするものが背中に走った。普段はもどかしく感じるくらいに優しいハヤテが、こんなに不機嫌な顔や態度を露わにすることは珍しい。いや、初めてではないだろうか。

「な、何よ・・・」
「別に何でもありません。僕がとやかく言うことではありませんから」久しぶりに聞く敬語が冷たく響き、ハヤテは席を立った。

その後姿に向かって何を言っていいのかわからず、立ち尽くしているヒナギクの後ろから声が聞こえた。
「何があったんだ、ヒナ」千桜だった。
「べ、別に何も・・・」
「そんなわけ、ないだろう。今の綾崎君の反応は」口ごもるヒナギクに向かい、千桜は続けた。「何か理由があるだろう。ヤキモチでも妬いているんじゃないのか」