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対象スレッド 件名: Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
名前: どうふん
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Re: タガタメニ・・・家族〜「憧憬」未来図
日時: 2017/06/07 21:48
名前: どうふん



第九話:政治家 美希の野望



ハヤテの帰宅とほぼ同時刻−。


「ここでいいよ」衆議院議員花菱美希は運転手に声を掛けた。「はい、先生」運転手が車を止めると同時に、助手席から秘書が素早く車を降りて、後部座席の扉を開いた。年配の秘書に軽く頭を下げながら車から降りた美希は、小さなビルの前に立って外に突き出している看板を見上げた。
少々年季の入ったビルで、法律事務所の名前を示すその看板だけは真新しく輝いている。
「よし」小さく呟いた美希は、秘書に車に残っているよう指示をすると、一人エレベーターに乗った。その足取りには「決意」に似たものが感じられた。


事務所の扉は開いていた。その奥に内扉があり、受付用の電話が置いてあったが、美希は構わず内扉に向き合った。久しぶりの友人、という以上の存在だった顔が思い浮かぶと同時に、胸が高鳴った。
久しぶりの逢瀬・・・そんな気がした。

待ちかねたかのように扉が開き、桂ヒナギクがそこに立っていた。久しぶりに見るかつての美少女は今や絶世の美女となり、表情は以前より穏やかさが窺えたが、その瞳は変わることなく輝いていた。そして胸の辺りも昔と同様・・・いや、それは違う。なだらかな双丘が視認できた。
(やっぱり、ヒナだ。自分の役割を完璧にこなしているんだ。本当に私のヒーローのヒナだ)
ヒナギクの後ろには仕切られた事務机と二つの部屋が見えた。「所長室」とあるのがヒナギクの部屋なのだろう。そしてその隣にある部屋から顔を出したのは春風千桜だった。 


「久しぶりだな、ヒナ。千桜も。時間外に申し訳ない」
「ほんとに久しぶりね。さすが政治家になるとそんなところに気が回るようになったのね」
「ホントにお前が政治家になっちゃうとはなあ、美希。いや花菱先生か」
「友達同士で先生なんてやめてくれ。それなら、私も桂先生、春風先生と言わなきゃバランスがとれないじゃないか。まあ、ヒナが綾崎先生でないのは意外だが」
「そうか、そうか。私たちも世間一般からは先生と呼ばれていたな」
「その通りね、ハル子先生」美希の発言の後半部分をスルーした二人の笑顔はかすかにぎこちなく見えた。

(やっぱり、いろいろ事情があったんだな・・・)美希の先ほどの一言は、不用意、というよりは探りを入れる意図もあったのだろう。明らかに美希はヒナギクの反応を窺っていた。
「じゃ、私はお客さんが来てるんで」千桜は部屋に戻っていった。


「それで、ヒナ・・・」
「ええ、部屋にお入りなさい。二人きりで何の話かしら」ヒナギクは立ち上がった。美希は、先ほど受け取った「桂法律事務所」と記された名刺にもう一度目を遣って、ヒナギクに続いた。

執務室と応接室を兼ねたその部屋に、二人は向き合って座った。
アロマの香りが漂うその部屋は、いかにも法律事務所らしく、壁の一面を書棚が占拠していた。室内装飾というほどの物は何もないが、机の上には花瓶に小さな花が生けられていた。
「評判急上昇の法律事務所なんだから、もっと立派な建物に入っているのかと思ったんだが。まあいずれは移転を考えているのかな。それに心地いいスペースだがちょっと狭くて殺風景だな」無遠慮が止まらない美希にヒナギクは苦笑した。
「ここに来るお客さんはみんな問題を抱えているの。だからね、そんな仰々しい飾りはしないで、誰でもリラックスできる雰囲気を意識しているのよ。だから事務所もそんなに大きくする気はないの」
「なるほど・・・。そんな気配りが開業早々人気の秘密なんだな。全くヒナはどこにいても何をやってもアイドルでヒーローなんだ」
「全く何を言い出すのかしら。社会的な知名度なら美希が一番じゃないの。次はナギかしらね」今、ナギは売れっ子というほどでもないが漫画家として作品を発表する場が徐々に増えていた。ちなみにナギの恋人である東宮康太郎は、ナギのアシスタントとなっている。
「そこんところなんだがな、ヒナ」美希の目が異様な光を帯び、上半身を乗り出した。


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「何ですって・・・」ヒナギクは絶句していた。「じょ・・・冗談でしょ」
「本気だ。ヒナにこんなこと冗談で言えるか」残念ながら、およそ説得力というものが感じられなかった。
「う・・・。じゃあ言い方を変えよう。仮にも一国の代議士が、こんな冗談を言うためだけに、多忙な政務の合間を縫って弁護士事務所を訪ねるか」

ヒナギクは改めてまじまじと、政治家となった友人の顔を見た。その思いつめたような表情には真剣さが溢れている。だが・・・先入観を拭い去るには至らなかった。それ以上に美希の申し入れは突拍子もなかった。
もっとも美希としては十分に順序を追って話しているつもりなのだが、その中身が、さしものヒナギクの想像力を超えていた。
困惑しているヒナギクに向かい、美希は改めて声を高めた。
「だから頼む。私が全力でサポートする。政界に出てくれ。そして総理大臣になってこの国を救ってくれ」