Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.1 ) |
- 日時: 2015/09/20 23:21
- 名前: ネームレス
- 【第二話:マリオメーカーの鬼畜ステージ攻略動画見て、徐々に洗練されていく動きを見ていると「これをプレイしている人間って最後目が死んでそう」っていつも思う】
《片手直剣使い必見! 森の秘薬クエ》
進むと決めてまず、アイテムなどを買い込むために訪れた店に置かれていた無料の攻略本。恐らくはプレイヤーメイドと思われるそれには、少し驚くほどの情報量があった。 街、村の位置、フィールドに出現するモンスター、店に売られているアイテム、値段、最初に取っておくといいスキル情報……etc こんなものを無料だなんて、随分気前のいい人がいたもんだ、なんて思いながらも製作者に心から感謝する。 その中にあったクエスト情報の中にあった《森の秘薬》と言うクエスト。それは始まりの街の北西ゲートを出て、広い草原を突っ切り、深い森の中の迷路のような小道を抜けた先の《ホルンカ》という名の村にあるクエストらしい。小さい村らしいがちゃんとした《圏内》らしく、宿屋と武器屋、道具屋もあり《進むと決めた者》の殆どが最初に行き着く拠点として使うらしい。周辺のフィールドでも麻痺毒や装備破壊といった危険なスキルを使うモンスターはおらず、経験値を稼ぐのにもオススメらしい。 そんなホルンカという村にあるクエスト、《森の秘薬》と呼ばれるものの概要は、病気で寝込んでいる娘のために薬の材料を手に入れたいが、それが危険なモンスターからしか取れない代物らしく、それを取ってきてくれたなら我が家に伝わる剣を冒険者に譲る__といった内容だ。 そして、危険なモンスターというのはリトルネペントと呼ばれる、ホルンカの近くの森の比較的浅い部分に現れる植物系モンスターのことで、秘薬の材料になるのはその中でもごく稀にしか現れない《花つき》と呼ばれる個体らしい。 さらにリトルネペントは攻撃力こそ初期モンスターの中では高い部類で、腐食液による武器や防具の耐久力を減少させる厄介な攻撃があるらしいが防御力は低く攻撃もバリエーションが少なく注意すれば難なく避けれる。弱点を正確に狙えばレベル1初期装備でも倒せるらしい。 もちろん、装備アイテム類はしっかり整えておくに越したことは無いが。
「よし、行くか!」
攻略本通り、スキルには片手直剣と索敵を選び、アイテムもポーションを買えるだけ買い、僕は少しの間だがお世話になった最初の街から旅立った。
◯
道中、何匹かのモンスターとエンカウントしたものの、最初の街周辺のモンスターはソードスキルさえ使えれば勝てる__これは攻略本ではなくアインの言だ__という言葉通り、特に慌てることなく倒した。 不思議な気分だった。 ここはデスゲーム。明確なまでに「命が数値化されゼロになった瞬間に現実世界の自分も死んでしまう」ことが確定されている世界。 ふわふわした頭で考えていたことがある。もしこれがデスゲームではなかったら。もしデスゲームというのが茅場明菜の嘘であれば。 すでに何百何千と被害が出ている今、それだけの数現実世界に「帰還」している事になる。なら、僕たちもナーヴギアを引っこ抜いてこの事件はお終い。 そうならないのはここが本当にデスゲームだから。 だというのに、僕は慌てなかった。少し前までの僕なら、きっと慌てて、まともにソードスキルも出せず死んでいただろう。 もしその理由が僕がこの世界に「慣れた」ということなら喜ぶべきことだろう。だが、理由が「現実を直視出来ていない」のであれば__僕は近いうちに死ぬだろう。 覚悟を決めるべきだ。僕が、「kou」として生きる。その覚悟を……。
そんな僕は今、ホルンカの村の中で隠れていた。
「……ままならないなぁ……」
理由? あると言えばあるし、無いと言えば無い。
ただ僕が知らない人の集団にビビってるだけだ。
「情けないにも程があるぞ僕……!」
頭のどこかで野々村が呆れたような声を出した__ような気がした。 僕はなぜか隠密スキルも取ってないのにスニーキングミッションに精を出し、無事途中で倒したモンスターの素材を売却し茶革のハーフコートを購入し即装備。予備のスモールソードも買っておく。上位のブロンズソードもあったが、耐久力が低くリトルネペントの腐食液とは相性が悪いらしい。 そこまで考えて気付く。自分の知識は攻略本ありきの知識だと。当たり前としては当たり前。しかし、生き残ると決めたkouにはそれだけでは足りない。 今後、もしもっと強い敵と出会ったら装備はどうするか。もし最前線まで行くとするなら、いつまでも攻略本に頼ってもいられない。自分で考え、行動する必要もあるはずだ。 少し考え、
「金属装備は無い」
フルプレートの鎧を着た自分を想像。絶望的に似合わないし、なんか着せられてる感が凄い。なにより動きにくいし、あまりモンスターの攻撃を受けたくないkouとしては当たる前提の装備はしたくない。 なら部分的に金属をあしらった装備なら? どこか勇者然とした自分を想像する。__ダメだ。黒歴史だ。命の危険をギリギリまで減らせるにしても着てるだけで正気度が減って行く気がする。 やはり革装備。これなら地味でいいし動きやすい。攻撃をあまり受けたくないkouとしてはベストだ。
「今後、可能な限りは革装備を貫こう」
__今装備してるコートのような。 そこまで考えてから早速店を出て、隠れながら圏外へと向かう。 これから自分のこと全てを自分で考えていくというあまりにも普通で、それでいてとても難しいことをしていかなければならないことに心が折れそうになるkouだった。
「あ、クエスト」
クエストを忘れていることに気づき、さらに未来への不安が高まるばかりだった。
その後、僕はすぐにクエストを受ける。 その時、実際に今にも消えてしまいそうな寝込んでいる少女を見てしまったせいか、僕は昔のことを思い出し泣きそうになってしまった。 昔、僕が風邪で寝込んだ時、野々村がそれはもう慌てふためきながら__しかし看病は完璧だった__世話をしてくれた。 そのことを思い出したせいか、例えNPCだとわかっていても、邪険に扱えるはずもない。
「待ってて。今、薬の材料を持ってくるから」
理解できるはずもない。何故なら彼女はNPCなのだから。ただ決まった行動を繰り返すだけの、ゲームを円滑に回すための存在。 でも、そんな僕の言葉を聞いて、その少女は笑った__気がした。 幻想かもしれない。ただ、そうであってほしいと願う自己満足。それでも、僕はその笑顔に勇気をもらい、森へと駆け出した。
「おい、あれ」 「そうだな。あいつにするか」
森につき、すぐに索敵を開始する。モンスターは倒れることでリポップする。つまり、リトルネペントを狩り続ければレアな花つきとも出会えるはずだ。 索敵は自分と敵の簡単なレベル差もわかる。カラーカーソルが白に近ければ余裕で倒せるレベル。赤に近くなる程強く、黒が混じったような色になると現在のレベル差ではまず勝てない、というものだ。 あくまで簡易的なもので、パーティを組むなり装備を新調するなりとその差を埋めることは可能だが、今現在においてはかなり心強い。 早速カーソルが近くに現れる。色はちょっと濃いめの赤。油断しなければ倒せるレベル。僕はそこに向かい、案の定というかリトルネペントを発見した。カーソルの周りには狭いイエローの縁取り。つまり、クエストのターゲットであることを示す。
「……よし」
覚悟は決めた。武器を手に取り、不意打ちの準備。 弱点はウツボ部分と太い茎の接合部……!
「はぁっ!」
あれからたくさん狩った。数は五十を超えたあたりで数えるのをやめた。とにかくたくさん狩った。 途中、《実つき》と呼ばれる危険なネペントとエンカウントしたりと心臓が破裂するかと思ったけど、なんとかやり過ごしとにかくリトルネペントをひたすら狩り続けた。 レベルも上がり、今ではレベルは4である。ここまで上げるのに五時間ほどかかったけど。
「……そろそろ出てくれないかな」
武器の耐久力は限界にきていて、予備の方を現在使っているがそっちも耐久力が半分を切った。流石にキツイ。耐久力回復のために一旦村へ戻った方がいいかも……。 と、そこまで考えていた時。
「い、いた?」
《花つき》がそこにいた。 一瞬幻かとも思ったが、たしかに花つきがそこにいた。 噂では花つきは花が完全に散ると実つきになるらしい。そうなってしまっては折角のレアモンスターもただの地雷モンスターだ。勝負は短期決戦。一気に行くしかないと覚悟を決める。
「……っ!」
駆ける。 敵は花つきが一体、取り巻きが二体。しかし、すでに数多くのリトルネペントを狩り、その途中でブーストの練習もしたkouの敵ではない。
「フッ!」
短く息を吐き、片手直剣ソードスキル《ホリゾンタル》を放つ。単発水平切りの斬撃は青いライトエフェクトを宙に走らせ、踏み込みとソードスキルに合わせた手の振りで速度と威力をブーストさせる。《ホリゾンタル》は見事弱点へとヒットし、花つきのHPを三割ほど減少させる。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
叫び声を上げながら取り巻きとともに蔓を鞭のようにしならせ攻撃をしてくる。しかし、技後硬直がすでに終わり後ろへ下がっていた僕なら避けるには容易。 目の前で花つきの頭上の実から徐々に花びらが散り、実自体も巨大化していく光景は心臓に悪いが焦らない。 __大丈夫。これぐらいなら、野々村の方が百倍強い!
「はぁ!」
攻撃の隙間を抜い、花つきへ追撃のホリゾンタル。さらに三割減少。この調子なら、あと二撃で倒せる。 自分の中にある最強の存在、野々村を強くイメージする。 野々村ならどう動くか、野々村ならどう倒すか。 その動きを常に間近で見てきたkouは少しずつ自身の動きを自身の中にある野々村の動きへとトレースさせていく。 __もっと早く、もっと鋭く、もっと強く!!! その後、三十秒ほどで花つきを倒し、取り巻きも一分ほどで倒しkouはキーアイテムを入手することに成功した。
「疲……れた」
満身創痍。僕は今まさにそんな状態だった。 ここはゲーム。意識がある限りは走り続けれるし剣は降り続けられる。だとしても、すごく集中した後は倦怠感がすごい。 でも、同時に達成感もあった。やり遂げた、一人でもクリアできたんだという、達成感。
「……よし」
いつまでもその場にいてはモンスターが寄ってくる。 さっさと帰ってあの少女の元へアイテムを届けなきゃ! ……実際にアイテムを渡すのは母親の方だけど。
「おい」 「え?」
声をかけられた。反射的に振り向く。 そして、
「っらぁ!」 「っ!? ぐっ!」
ドン、という衝撃。まともに受けることも出来ず、HPは二割ほど減少。受身も取れず地面へと転がってしまう。 そして、僕の頭の中はパニックになってしまう。 __なぜ!? どうして!? マップ上にカーソルは無かった! 油断してたとはいえ、索敵スキルも持ってるのに! グルグルと頭の中を駆け巡る思考。ようやく顔を上げれば、そこにいるのは二人のプレイヤー。そこにきて、ようやくカーソルを確認する。
「よう」 「う……ぁ……」
恐怖。 ここにきて僕は、ようやく感情が状況に追いついた。 __マズイ。マズイマズイマズイ! __死にたくない死にたくない死にたくない! 恐怖に彩られたであろう僕の表情を見下ろしながら、プレイヤーは口を開く。
「とりあえず、アイテムよこせや」
ーーーーーーーーーー
ども! ネームレスです! 二話目です! いやぁ、まさか続くとは。自分でもびっくりなんだなこれが。 今回はアニメでは無かった原作8巻「始まりの日」を題材にしております。 弱虫東宮がなんだかんだでゲーム内でやっていく話。果たして、彼の行動は勇気か、もしくは思考の麻痺か。これからも彼には頑張って行ってもらいましょう。 さて、早速オリジナル展開になってしまったが私は謝らない。そしてもし続きができなくても謝らない。 それでは次回があればそこでお会いしましょう! ネームレスでした!
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.2 ) |
- 日時: 2015/12/27 14:35
- 名前: ネームレス
- 【第三話:エンカウント】
「おいおい。ビビっちゃって声も出せねえのか?」 「そう急くなよ。おいガキ。さっさとアイテム出せや」
目の前のプレイヤーの頭上にアイコンが表示される。色はオレンジ。プレイヤーがプレイヤーを圏外で攻撃した際に変化する色。この色になるとしばらくの間圏内に入るリスクがある。 だというのに、目の前のプレイヤーは容赦なく僕にそれを行ってきた。明確な敵対の意思。狙いは……僕が手に入れたクエストのキーアイテム。
「いやあね。強い剣欲しくて来たんだけど一時間張っても花つきさんが出ないのなんの。めんどいから君みたいなのに《頼んで》譲ってもらおうかなーって」
と、軽薄そうな方が薄い笑いを浮かべながらそう言ってきた。隣の大柄な男は何も喋らない僕に痺れを切らしつつあるのか、イライラした態度だった。
「おい。さっさと出せ。そうすりゃ楽に逝かせてやる」 「い、いかせる?」
やっと出た言葉が、それ。 どういうことだ。いかせる? 行かせる? どこに?
「あー、つまり、殺す、ってことだよ。君に言いふらされたりしたら、俺たち商売上がったりだもん」
殺す。 他はなんて言ったか分からないけど、その言葉だけはクリアに脳に響いた。 殺す。僕を、殺す。
死
「い、嫌、だ」 「ああ?」 「嫌、だ。死にたく、ない。死ぬわけには、いか、ない!」
生への執着。剣を構え、震える体を必死に抑えながら、立ち上がる。
「あーあ。めんどくさいなー。ねえ君。もうちょっと考えなよ。二対一。しかも君は消耗してる。そんな震えた体じゃ剣だってまともに」 「うるせえ。やる気ならいいじゃねえか。さっさと殺るぞ」 「はいはい。せっかちだねえ」
目の前の二人も武器を抜く。大柄な方は片手剣。軽薄そうな方は短剣。 そこで初めて僕は二人の顔を、目を見た。 死人のような目だった。 何もかも諦めてるような、全てを放棄してしまったような、濁っていて生気を感じさせない、恐ろしい目。
「う、うわあああああ!」
恐怖に駆られ、滅茶苦茶に剣を振り回す。ソードスキルも型も無いチャンバラ以下の剣。 そんな剣が届くはずもなく、簡単に弾かれガラ空きの胴を蹴られる。
「かっ…!?」
HPが数ドット減少。再び立ち上がる気力も無く、もがくように二人から距離を取る。
「ひっ、いや、助け」 「いやー、それ俺らに言っちゃう? ねえ」 「はっ。違いねえ」
二人の口の端が吊り上がる。 殺される。
「いや、しにたくない、しにたくない、いやだよ、たすけてよ、だれか、だれか」 「誰も来ませーん」
短剣で切りつけられる。HPが減少する。 片手剣で斬られる。HPが減少する。 短剣で突かれる。HPが減少する。 片手剣で斬り払われる。HPが減少する。 HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。 レッドゾーン。危険域。 残り、一割。
「ぅ……ぁ……」 「あひゃひゃひゃひゃ! トラウマなっちゃった!? ねえ! こっちはすっごく楽しいよ!」 「はっ。ちょうどいい慣らしだったよ。練習台ありがとな」
視界が赤く染まる。思考がまとまらない。頭の中は真っ白だ。 形にならない後悔だけが濁流のように胸の内に流れ込む。 始まりの街に引きこもっていればよかったんだ。最初から、ずっと、誰かがこの世界を終わらせてくれるんだって。 最初から無理だったんだ。僕みたいな弱虫が、この世界を剣一本で生きていくなんて。 野々原。ごめん。もう、会えないかもしれない。 最後までダメな坊ちゃんでごめん。 苦労をかけてごめん。 世話をしてもらってごめん。
本当に、ごめん、なさい。
「じゃあ、ラストー!」
剣に光が宿る。ソードスキル。 紅く染まった刀身が、容赦無く僕に襲いかかり__
__ライトグリーンのライトエフェクトがそれを吹き飛ばした。
「ぐぎゃっ!?」 「なっ!? て、てめ」 「おっそ」 「ぐっ!?」
……なにが、起こったのだろう。 僕と二人の間に割って入るように一人の剣士が立っていた。
「いやー、びっくりしたよ。普通にマップに来たら他にプレイヤーがいるのにずっと動かなかったんだよ。いや、動いてはいたかな? 滅茶苦茶遅かったけど。こりゃなんかあるなーって思ったら突然別のアイコン、しかもオレンジ! これ、隠密のスキルだよね。あ、こりゃ危ないと思っていっそいで駆けつけたんだよ。いやー、さすが私。速い速い。ギリギリ間に合ったよ。おや? どしたのそのリアクション。まだ戸惑ってるねー。ダメダメ。そんなんじゃ遅い遅い。生きたかったら常に速くあれ。あ、これ持論なんだけど。だから今から君のことも速攻で助けて」 「うるっせえええええ!」
大柄な男がラストグリーンの光を剣に纏わせ、疾風のような速さで目の前の剣士に突撃し、“何か大きな物が上へと飛んだ”。
「君、遅いね」
いつの間にか剣を上へと掲げるようにして振り上げていた剣士。その姿はポーズが変わっていること以外は先ほどと全く同じ。何一つ変化はない。
ドサッ。
先ほどの“何か”が地面に着く。 《腕》。それは《腕》だった。見間違えようもない。
「う、あぁあああああああああああああああああ!!?」
絶叫。大柄な男が。 肩から無くなった《右腕》を見て、絶叫した。
「君たちはオレンジ。オレンジを攻撃してもオレンジにはならない。__殺してもね」
先ほどから変わらない明るい声音。それに、僅かに氷の棘が混じったような攻撃的な口調に変わる。
「まさか、攻略組」 「それはどうだろうね〜」
一歩、踏み出す。
「ひっ」
それだけで大柄な男は萎縮する。先ほどまでの姿は見る影もない。 軽薄そうな男もまた、恐怖していた。
「私、結構強いよ? 君達二人ぐらいなら後ろの子守りながらでも余裕で相手できる自信がある。……さて、君達はどうする? 逃げるなら追わない。この子回復させなきゃだしね。でも君達の情報はきちんと広めておくから、もう表に出れるとは思わないことだね。もし二人で掛かってくるならそれでもいい。__その時は死んでも文句言わないでね」 「「ひっ、ヒィぁあああああああああああああ!!!」」
二人は表情を恐怖に歪め、全力で逃げ出していった。 僕はそんな光景を、ただ眺めることしかできなかった。 目の前の剣士がこちらに振り返る。その時僕は、本当に遅まきながら、目の前の剣士が女性であることに気づいた。
「さて。君も早く立って。はいポーション。飲んで回復しといてね。四肢がくっついて状態異常もないならこの世界は気力次第で何処までも走り回れるから気合出してね。さっさとしないとMobがどんどん集まってくるから。いやー、さっきの奴らが大声でMobを呼び寄せるなんてことにでなくて良かったよ。さすがの私も君を守りながら無限に沸くMobとか勘弁だからね。冷静さを欠いて尻尾巻いて逃げてくれて助かったー。やっぱり余裕奪うのが交渉のコツだよねー」
早口でまくしたてるように喋りながらも、彼女はこちらへポーションを投げこちらに飲むように促す。 一瞬毒かと思ったが、この人が僕を殺す気なら今更どうしようもないと決め好意に甘える。ほんの少しの苦みと甘酸っぱい液体を飲むと、ゆっくりとHPが回復していく。
「あり、がとうございます」 「あ、いいよいいよ。プレイヤーはいつ助ける立場助けられる立場が逆転するかわからない。一人でも攻略してくれるプレイヤーが増えるのはいいことだしそれにあの場で見なかったことにして後々になっていやな想像が膨らみ真実がわからないから「ああ、あの時見に行っていれば」みたいな思考に囚われるのとか嫌だからね。メシマズなっちゃうからね。美味しい物は美味しく食べたいもの」
本当に、本当によく喋る人だなー、と失礼なことを考えていた。 ぼんやりとここがフィールドである事も忘れ聞き入っていると、不意に目の前に手が差し出される。
「じゃ、行こっか。私《キャシー》。君は?」 「……《コウ》」
手を繋ぐと、グイッと引っ張り上げられ、彼女の顔が近くから僕の顔を覗き込む。
「よろしくね、《コウ》!」
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.3 ) |
- 日時: 2016/01/02 04:42
- 名前: デス
- このサイトに干渉するのは何年振りだろうか……お久し振り。
そして明けましておめでとうございます、ネームレスさん。デスであります。
ここんとこのリアル事情は金銭的に余裕が出来ましたが時間的に余裕0となった為あっちゃこっちゃに浮気して自分の創作活動を放棄し、ひたすら受動のスタイルをとっておりましたw
ということでちょっと実家に帰ってきた気分で覗いてみたらネームレスさんが素晴らしい作品を執筆なさっていたのでこうして感想を書き込んだ次第でありますよ。
で、肝心の感想なのですが、すいません、一番最初に驚いたのがネームレスさんの文章力でした(笑)。誰の視点でどういう風に話が展開されているのか、場面の描写はどうなっているのか、淡々と状況を拙い言葉で云うだけになってないか。そーいう素人さんのネット小説読む時、毎回私が気にしてる部分がオールパーフェクトでした(何様ですかおのれは)。本当に数年前の作品と比べてダンチだと思います。
そんな感じで何にも気にすることなくスラーっと読めまして、読んだ結果、
「東宮ガンバッ!」
もーーこれだけですね言いたいことは(笑)。こういう未熟な男の子が傷付いて転んでボロボロになりながら、それでも自分の足で確り立ち上がって、前向いて踏ん張って、一人じゃ無理な時でも周りの人に支えられて、段々と進んでいく。そんな王道成長物語を感じさせてくれました。
これから逞しくなっていくであろう東宮君を妄想すると胸がバクバクしてきます(笑)。
それとログインしている他の原作キャラ(両方)との邂逅も待ち遠しいですね。やっぱり二次創作の醍醐味は原作と違う展開、人物と出逢った原作キャラ達の反応だと個人的には思っておりますので。勘違い物大好物ですはい(笑)。その時の心理描写等も期待してます!
長々と軸の定まってない文章すいませんでした(苦笑)。これからも執筆頑張ってください!
それでは!
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.4 ) |
- 日時: 2016/01/02 23:28
- 名前: ネームレス
- 〈レス返し〉
※お詫び:こちらの方で本編内容に関係無いと判断した部分はスルーさせていただきます。申し訳ございません。
感想きちゃいましたー! やったぜ! やりました! やっちゃったぜ! こんなテンションでやっていくのは私ことネームレスと申します。よろしくお願いします。
そんなわけでデスさんあけおめことよろでございまーす! 感想あざーっす!
>そんな感じで何にも気にすることなくスラーっと読めまして、読んだ結果、
「東宮ガンバッ!」
もーーこれだけですね言いたいことは(笑)。こういう未熟な男の子が傷付いて転んでボロボロになりながら、それでも自分の足で確り立ち上がって、前向いて踏ん張って、一人じゃ無理な時でも周りの人に支えられて、段々と進んでいく。そんな王道成長物語を感じさせてくれました。<
東宮は私自身も好きなキャラですので、どうにかしてこの子を活躍させたい! と考えたら当時少し構想としてのみ考えていたSAOクロスの主人公にしようと考えました。今後も傷付き、ボロボロになり、心が折れて前を見れなくなる……そんなことがあるかもしれませんし無いかもしれません。どっちでしょうね?←作者 これからも日進月歩で進んでいく東宮の成長をどうか見守ってください。そして私が途中で投げ出さぬよう見張っていてください。
>これから逞しくなっていくであろう東宮君を妄想すると胸がバクバクしてきます(笑)。<
Q.東宮は逞しくなりますか? A.それがわからない。 作者として今後どうなっていくのかをここでバラせないのが辛い。とりあえず無双はしません。
>それとログインしている他の原作キャラ(両方)との邂逅も待ち遠しいですね。やっぱり二次創作の醍醐味は原作と違う展開、人物と出逢った原作キャラ達の反応だと個人的には思っておりますので。勘違い物大好物ですはい(笑)。その時の心理描写等も期待してます!<
ここから少し真面目な話になります。 実はというかなんというか、この作品は“SAOキャラを積極的に出す気がありません”。言ってしまえばこの世界は“ハヤテのごとく! にソードアート・オンラインの世界観のみを委託した”ということです。原作及びアニメを知ってる人でナーヴギアの開発者の名が変わっていることに気付いた人は気づいていたかもしれませんが、この時点でヒースクリフが出る可能性はゼロです。先に言っちゃうとキリトとアスナも出ません。私は気分で書くタイプなので他キャラはわかりませんが、それも積極的に出す気はありません。 他作品ごとのキャラの邂逅を楽しみにしていた方々には申し訳ございませんが、この方針を変えるつもりはありませんので、今後この作品を読むにあたってはその事をご理解の上お願いします。この度は私の不手際で説明不足であった事をお詫びします。
>長々と軸の定まってない文章すいませんでした(苦笑)。これからも執筆頑張ってください!
それでは!<
先ほどの説明の後だと凄え気まずいですが、この作品をお読みいただき本当にありがとうございます。執筆の方も頑張りますので、拙い文ではありますが、お付き合いしていただければと思います。 デスさん。ありがとうございました。
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.5 ) |
- 日時: 2016/01/03 01:29
- 名前: ネームレス
- 【第四話:実は状況はなに一つ進展していないということに書き終わってから気付いた】
「いやぁー! 命あっての物種だとはよく言うけど本当に生きててよかったよかった! あ、改めて自己紹介するね。私の名前はキャシーだよ。よろしくね! こう見えて攻略組なんだよ。この世界じゃ性別の差は存在しないから女でもその気になりゃあそこらの男どもよりいっぱい強くなれるんだよ。む? その顔は攻略組について聞きたそうだね。いいだろう教えてしんぜよう。攻略組というのは現時点でゲームクリアに積極的な人たちの事だよ。レベル上げて装備を強化してボスを倒すぞー! って意気込んでる人たちの事を敬意を込めて攻略組と誰かが言い始めたんだよ。で、私もその一人。なぜ攻略組である私がこんな最初の村にいるかというと__」
……。……よく喋る人だなぁ。 僕の周りでこんな喋る人は見た事がない。こんな一方的に自分の情報だけを伝える、というよりは押し付けるタイプの子は初めてだと断言できる。そのぐらいよく喋る子だった。 おかげで先ほどまでの恐怖心とかも和らいできたけど、彼女がそれを狙ってやっているのかまでは判別できない。
「__てなわけだよ。さて、今度はコウの番だよ」 「……うぇ!? ぼ、僕!?」 「当たり前だよー。レディにだけ話させるなんて紳士じゃないぞー。ほーらほら。ここで会ったのもなにかの縁。自己紹介しなさいな。さらっとでいいよー。深いとこまで教えられても扱いに困るから」
なんというか、物怖じしない人だ。誰にでも堂々と出来るのは桂さんに通じるところがあるかもしれない。
「ぼ、僕の名前はコウ。えっと、今日この村にきて、秘薬クエを受けたんだ」 「ふむふむ。三日遅れで動くとは大胆だねー」 「あ、はは。前の人たちとはかなり離されちゃったよね」
今更ながら自分の決断の遅さに後悔する。三日遅れ。この遅れをこの世界で取り戻すのは至難の技だろう。常にログイン状態を強いられるのだから、家の事情も何も関係ない。先に「動く」と決めた者からその分前へ進めるのだ。 僕なんかが行っても足手まといにしかならないし、覚悟していた事とはいえ、初日のアインからの誘いを断らなきゃ良かったと思ってしまう。 ところが、
「ううん。実はそうでもないよ」
と、彼女は言った。
「何分ネトゲ経験者って結構いないものでねー。さらにはナーヴギア初のVRMMOと来たもんだから今はみんな足踏みしてる状態なんだよね。今迷宮区をみんなで探索してるところだけどいやはや見つからない見つからない。さらにはボスは七人パーティを七つまで、最大四十九人で挑む事ができるという前提がある以上強敵確実でしょ? 今だいたい二十人ぐらい集まってて初の大規模戦闘ということもあってパーティの運用とかここの役割とかパーティ線における最低限の立ち回りの基本とかそういうのも情報共有して練習中だし足踏みしてる状態なんだよね。それに君、秘薬クエのキーアイテム取ったってことはアニールブレード入手するんでしょ? ああ、警戒しないで私はもう持ってるから。わざわざ助けた命を捨てるような真似はしないよ。とにかく君がこれから頑張れば、まあ二層ぐらいからは参戦できると思うよ?」
ふぅー、と一息。 激流のごとく伝えられた情報を必死に拾い、頭の中で整理していく。その中で気になったことがあった。答えてもらえるかはわからないけど、聞いてみよう。
「あ、あの」 「なになに?」 「ベータテスターの人たちは? その人たちの知恵を借りれば、もっと楽になるんじゃ」
ベータテスター。 このソードアート・オンラインという世界を正式サービス前に短い期間だが体験する事ができた千人。この人たちがいれば、この世界は少なくともベータテストでクリアされている階層までは楽なんじゃ……。 そんな楽観的思考を切り捨てるかのように、彼女の言葉は鋭く言い放たれた。
「半分は死んだ。もう半分は姿をくらました」 「……え?」 「この世界の理(ルール)を教えようか。この世界はリソースの奪い合いなんだ。無限に出る物じゃない。物によっては本当に先着一名様のみのアイテムとかあるしね。少し話は変わるけど、この世界で生きるにはどうすればいいと思う? 答えは強くなること。強くなるためには誰よりも早く行動することと、誰よりも多く情報を集めること。ベータテスターの皆さんは全員スタートダッシュをして“他プレイヤーを置き去りにしたんだ”。もちろん、みんながみんなそうじゃない。だけど、大抵のベータテスターが情報抱えて多くの経験値やアイテムを独占しちゃったもんだから一般プレイヤーのベータテスターへの怒りの感情は尋常な物じゃない。この狂った世界でまだいろいろと浮き足立ってる状況だから尚更ね。そこに自分がベータテスターだと名乗って行ける勇気もなく潜伏するような感じで攻略組と行動を共にしてるんだよ。で、これは秘密のルートで手に入れた情報だけど情報に溺れ経験値効率のいいけどその分危険度も倍に膨れ上がるソロの道を走ったベータテスターがその慢心からか半分近くがすでにこの世からサヨナラバイバイしちゃってるんだよね。むしろ、君みたいなプレイヤーの方がいっぱい生き残ってるんだよね」
結論を言えば、ベータテスターの知識は当てにできないということだ。 このままだと攻略にはかなりの時間を消費してしまいそうだ。
「ま、理由はそれだけじゃないけど」 「なにか言った?」 「なーんでも。あ、そうだ。ベータテスターが何にもしてないわけじゃないよ。店で無料配布してる攻略本にはベータテスターたちの知識も使われてるんだから。攻略組に中にはベータテスターを受け入れようと周りに説得している人たちもいるしね」 「そうなんだ」
おそらく、動いている人たちというのはアインたちだろう。誰々が来ているかはわからないけど、綾崎が来てるならまずベータテスターを見放す選択はしないはずだ。 さらに多分だけどアインも綾崎もどちらも主人が一緒の可能性がある。アインがそれっぽいことを言ってたし、綾崎の主人の三千院はゲーマーだから執事がいるなら絶対いる。そうなれば、アインはともかくとしても綾崎なら三千院を守るよう立ち回るはず。なら、有用な知識を持ってるベータテスターを放置はしないはずだ。そしてアインなら無条件で綾崎の手伝いもするだろう。 ……そうか。みんな動いてるんだ。生き残るために。
「どうしたの?」
彼女は不思議そうな顔をして僕を見る。 彼女なら、協力してくれるだろうか。 僕は、ずっと考えていた。もし今、僕が攻略組になったとして、僕が入るポジションはあるだろうか? 今はあるだろう。頑張って強くなれば現状数に余裕があるうちは置いてもらえる。 しかし、もっと先では? 僕は弱い。とても弱い。そんな僕がいつまでもボス攻略に役立つとは限らない。むしろ、足を引っ張る可能性すらある。 なら、僕が居るべきは“外のポジション”だ。でもそれには協力者が必要。でも彼女ならきっと。
「うん。ねえキャシーさん。君は攻略組だって言ってたよね」 「うん。そだよ。あとさん付けはいらない」 「なら、僕とフレンドになってほしい」 「なんで?」 「なんでって……」
ここで断られるのは予想外だった。彼女……キャシーはこれまでの短い時間ではあるけれど、とても親切で優しい対応をしてくれたから。 無条件の善意というのを、キャシーに期待している自分がいた。
「ねえコウ。あなたは私にもしかしたら親切で優しい、って印象を抱いてるかもだけど、私は理由もなくフレンドになってあげるほどお人好しでもないよ」
その言葉は、自分が先ほどまでキャシーに抱いていたものとは、全くの正反対の内容だった。 キャシーの目つきが、言葉の質が変わる。
「フレンドを交換すればいつでもどこでも相手の場所を確認できる。少なくとも普通のフィールド上であればどこでも。つまりフレンドってのは相手を信用するという前提なわけだ。コウは私を信じているのかもしれないけど、私はコウを自分の場所をバラしてもいい相手だと、この短い時間じゃ思えない」
それは、僕を襲った二人のプレイヤーの時と同じものだった。 明確な敵と認識する直前のたいどだった。
「ねえ。君が私を必要とする理由を教えて?」
恐怖した。 あの二人のプレイヤーに向けられていたものが、今自分にも向けられている。 手足が震えていた。 今、彼女の目には僕はどう見えているのだろう。 目を逸らしたかった。迂闊なことを言った僕を殴ってやりたかった。 ……でも
「僕が、君を必要とする、理由は……」
これは、最初の一歩だ。
「僕が君を通じて攻略組に情報を流したかったから」
伝えた。僕の意思を。
「……続けて」 「……僕は、弱い。あの二人のプレイヤーに襲われた時、何もできなかった。ゲームとしての強さじゃなくて、心がもうどうしようもないくらい弱いんだ。きっと、ボスを目の前にしてしまったら僕は何もできなくなってしまう」
自分が情けない。 こんな事を平気で言えてしまう自分が情けない。 弱い事を認めてしまう自分が情けない。 ボスから逃げたい、戦いたくないという魂胆がバレバレの自分が情けない。 情けなくて、逃げ出したくなる。
「でも、何もせずに籠っているのは絶対に嫌だ」
でも、逃げ出したくない。 生きて帰った時、“逃げた自分”ではいたくない。 野々原に誇れるような、そんな自分になりたいんだ。
「だから僕は《探索者》になる。今はベータテスターの知識があるから必要ないかもしれない。けど、いつか絶対に情報が必要な時がくる。その時に必要な情報、求められたモノを手に入れれる存在が必要だ。その存在に僕はなりたい」
それが、僕の出した答えだった。
「……つまり君は、私に君の手に入れた情報を攻略組に流してもらいたいって事だね?」 「うん」 「なるほどなるほど。立派だね」
これなら、納得してもらえただろうか。
「でもダメ」 「なんで!?」
今のはOKの流れだったじゃん! そんな動揺する僕を真っ直ぐ見つめ、
「君。まだ隠してる事あるでしょ」
と、笑顔で言ってきた。 ドキリ、とした。 たしかにある。二つある。 一つは僕はすでに、攻略組とのパイプがあるということ。 僕は初日のうちにアインとフレンドを交換しているのだ。もし僕の想像通り、アインたちが今最前線で動いているなら、事情を話してアインに情報を流して貰えばいい。 しかし、僕はそれをしたくなかった。理由を問われれば簡単。協力してもらえばアインは確実に手伝いにくる。彼が前線から外れるのは僕の望むところではない。 そしてもう一つは、僕個人が人と接したくないからだ。 バカな理由かもしれないけど、正直知らない人と話すのは怖い。目の前にいるキャシーのようにずかずか入り込んで来る場合は例外ではあるものの、それだって本当は避けたい。だから情報を流すにしても間接的な方法をとりたい。別の人に代わりに流してもらうような。 以上二つの理由から彼女に頼んだわけである。
「コウ。あなたの事情には首を突っ込まない。だけどこれだけは言うね。
情報は凶器だよ。
嘘の情報を流せば間違った情報を信じたプレイヤーはそれによって命を落とすかもしれない。あなたが今取り扱おうとしているのは、そんな簡単に人に預けても、流してもいいものでもない」 「う……」
そう言われると、なにも言えない。僕の考え自体、その場の思いつきのようなものだから。 やっぱりダメか、と諦めかけた。
「でも、発想自体は悪くない」
そんな僕を前に彼女は続けた。
「私は無理でも、情報屋ならいいと思う。この場合は取引かな。君は情報屋に情報を売り、情報屋は君から買った情報をプレイヤーに売る。情報の真偽は情報屋に証明してもらえばいい。情報は鮮度と正確さが命。君に協力してもらえるなら情報屋も助かると思う」
情報屋。そうか、そういうのもあるのか。 たしかに情報屋として動くと決めてる人たちなら僕みたいな思いつきで動く奴とは違ってそういったものの取り扱いに慣れているだろうし、適任だろう。 だけど、
「僕には」 「情報屋の知り合いがいないなら私が紹介してあげる」
全部を言う前に言われたし解決策も提示された。どうやらキャシーの中では早くも僕がどういった人種なのか位置付けされてしまったようだ。 ……悲くなんてない。
「いやぁー、今日は実りのある一日だったよ。これもコウのおかげだね! じゃ、頑張ってね《探索者》のコウ。情報屋は明日には来るように言っておくから! こうなったら急がないと! バイバーイ!」
一度こうと決めた瞬間、突風のように走り去っていった彼女は嵐のようだった。 そして、彼女の会話のペースに呑まれスルーしていたけど、
「……結局、知らない人と話すのか」
動けばいずれはアインにも知られるだろうし、協力を求めるなら遅かれ早かれだ。 とは言え、幾ら何でも明日には来るって早すぎではなかろうか。
「……はぁ」
誰が来るかはわからない。けど、心の準備だけはしておかなければ。 なんというか、明日が来なければいいと心から願った。
クエストも終わらせなきゃなぁ……。
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.6 ) |
- 日時: 2016/01/10 20:42
- 名前: ネームレス
- 【第五話:そろそろ1層クリアしてもいいんじゃね? というかさせたい】
「……はぁ」
あの後。僕はクエストのキーアイテムを例の親子へ渡し、報酬である《アニールブレード》を入手する事ができた。 できた、のだが。
「結局、完治はしないか」
クエストは達成した。しかし、病気の少女が完全に回復する、という事はなかった。 まあ、当たり前と言えば当たり前だ。 魔法を限界まで削られた剣だけのファンタジー。リアルな非日常とも称すべきこのゲームでは、ちょっと特殊な素材を使っただけの薬を一回飲ませたぐらいで天から光が降り注ぎ、まるで先ほどまでの病弱さが嘘のように辺りを走り回るぐらいになるまで回復する……なんて事はない。そんな事が起きたら世界観がおかしくなる。 あの少女は薬を飲み、少しだけ元気になった……ような気がする。本当にその程度の回復だった。 まあ、所詮はNPC。クエストで報酬を手に入れる過程で少しだけ関わるだけのキャラだ。いちいち気にする事もない。 けれど。 少しだけ期待したんだ。自分が持ってきたアイテムのおかげで、劇的に回復することを。自分が何かを成す事が出来たという事を分かりやすい結果で見たかった。相手はNPCではあったけど、助けたという実感が欲しかった。 そんなぼくの浅ましいにも程がある考えはあっさりと否定され、彼女はこれからも新しく剣を求める人々が現れる度にまた病気になり生死をさまよう事になるだろうし、何れは見向きもされなくなるんだろうけど。 でも、なんだろう。そんなのは、嫌だな。 ……時間がある時は、会いに来よう。意味がなくてもいい。ただこのままなのは、嫌だ。
「……さて、と」
とりあえずはつぎのもんだにでも取り掛かろう。 ……今日の宿はどうしようかな。
「そういえば待ち合わせとかどうするんだろう」
昨日、キャシーが言っていた情報屋。もうこの際会うのはしょうがない。僕が望んだことだし。しかし、キャシーと結局フレンドが交換できなかった今、合流の方法がわからない。
「もしかして、からかわれたのかな」
最悪の想像が浮かぶ。 口では共感したようなことを言って、内心はとても呆れていたのではなかろうか? それで会話を打ち切る口実として情報屋を紹介すると言って、早々に立ち去った?
「……有り得る」 「何が有り得るのか聞きたいところだが、君がキャシーの言っていた自称《探索者》か?」 「ビョァアアアアア!?」
ごめんなさいごめんなさい僕みたいな奴が人を疑うなんて最低の行いをしてごめんなさい出来心だったんですだって僕に親切にしてくれる女の子ってそれだけでもうレアっていうかキャシーほどの美少女なら各方面から引っ張りだこだろうしなんで僕なんかに親切してくれるのかって疑う気にもなっちゃうじゃないですかだからこれは本当に出来心で……
「……て、あ、あれ? あなたは?」 「こちらではリアルネームは厳禁だから先に自己紹介をさせてもらう。私は《miki☆nyan》……まあ普通にミキでいい」 「……あ、僕は《kou》。コウでいいです」
それはもう本名なんじゃ。 喉元にまで出かかった言葉を飲み込み自己紹介をする。 しかしというかなんというか、これはいったいどういうことだろう。 いやだって、目の前で顔にデカデカと「不本意だ」とでも書いてそうなぐらい苦々しい顔で自己紹介をしてくれたのは、僕も知ってる人だから。 花菱美希。 生徒会に所属し朝風理沙、瀬川泉とよく一緒にいる僕と同じ白皇学院の二年生。政治家の娘で情報収集を趣味としている少女。 それがまさか、
「ミキにゃんという名前でゲームを始めるなんて」 「わ、私だってもう少し普通なのをと思った」
あ、声に出ていたっぽい。
「しかし、ゲームみたいなものでイズ……あー、エロ担当に付けられたんだ」
なんて酷い紹介の仕方だろうか。幾らリアルネームは厳禁だからって。
「えーと、いつもの三人でお互いに名前をつけあったとか、そんな感じ?」 「だいたいその通りだ」
もしこのゲームが普通のゲームであれば、それでも良かったのだろう。ちょっと恥ずかしいかもしれないが、仲間内で少しネタになるぐらいだ。 それがこのデスゲームで容姿までリアルの自分のものを引っ張り出されてしまえば、この名前はとても恥ずかしいだろう。しかもほぼ本名だ。
「あ、あー。それで、キャシーからどれくらい聞いてる?」 「……」
冷たい視線が刺さる。話題を露骨に避けたのはバレバレだ。 正直、僕が白皇学院で交流があるのは綾崎ぐらいで、アイン……虎鉄くんともリアルじゃ登山の時に少し一緒になったぐらいだ。あの時は綾崎絡みで若干不仲になったり大変だった。 ぶっちゃけほぼ交流が無い。桂さんとも少し剣道で関わるぐらいで日常生活における関わりはゼロだ。 まあ、何が言いたいかというと、キャシーの時もそうだったがそこまで親しいわけでもない女子に睨まれ現在僕は吐きそうである。
「……キャシーからは君がキャシーに話した内容については聞いてる」
が、彼女の方もあんまり続けたい話題では無かったようで会話に乗ってもらった。 ……助かった。
「コウは自称《探索者》で、主に情報収集にアイテム収集。他には未踏破エリアの探索などをメインに活動し、手に入れた情報は情報屋である私と取引する。この内容であっているか?」 「う、うん」 「で、ボス攻略に積極的に参加する気はない」 「……うん」 「さらには知り合いにはできれば会いたくない」 「……」
否定できないのが辛い。いや、ある意味知り合いにはもう会っているけれど。目の前に。 聞きたいことは聞き終えたのか、質疑応答、というよりは確認作業が終わると、少しミキは考え込む。というかほぼ交流の無い女の子を本名で呼ぶのって凄い違和感が……いやキャラネームでもあるから不自然では無いんだけれど。
「ひとつ提案がある」 「は、はい」 「情報の取引についてだが、やはり私はできるなら自分の目で確認したい」 「はい」 「だからどうだろう。君は私のボディガードのような立場になるというのは」 「ぼ、ボディガード? それはつまり僕がみ、ミキ……さん、の護衛をするってこと?」 「呼びにくいなら呼びやすいように呼んでくれ。まあそういうことだ。君だって、いきなり知ら無いエリアに投げ出されてなんのノウハウもなく情報集めるのは嫌だろう?」
確かに嫌だ。
「えっと、じゃ、じゃあお願いします?」 「そうか。じゃあ行こうか」 「……え?」 「今日は迷宮区の攻略に行くぞ? まだボス部屋までのマッピングが終わってい無いんだ」
迷宮区。 全ての層に存在し、階層主(ボス)がいる場所。こいつを倒すことで次への階層への道が解放される。そして、その階層における最終ステージのようなものでもあり、その時点で最も強いMobが設置されているって攻略本に……。
「……いや。無理でしょ」
このゲーム《ソードアート・オンライン》は全100層のステージで構成されている。 1層1層がとてつもない大きさで、従来のゲームの常識をぶち破る、恐らくあらゆる意味で伝説に残るゲームだ。 そして、それぞれの層にはきちんとテーマが設定され、そのテーマに沿ったステージ構成、Mobの設定がされている。 現在、僕が今いる第1層のテーマは言うなれば《チュートリアル》だ。全ての階層のなかでも最も広い階層であり、存在するMobも多種多様。戦闘の練習にはもってこいだ。 第1層迷宮区を守護するMobはコボルド、と呼ばれる種類だ。たしか妖精や精霊の類だったはず。妖精、と聞くとあまり強そうに聞こえない。 しかし、まあ、当然というかなんというか。 ゲームが始まって三日間。何もせず引きこもり、やっとか行動起こしてクエスト一つ消化するもののレベル上げの類はしていない。そんな僕が迷宮区に入ればどうなるか。 少し想像すれば想像もつくと思う。
「うわああああああああああ!!! 死ぬ! 死ぬ!」 「三連撃の後に必ず隙が出来るからソードスキル一本撃ってすぐに下がれ。大して速くないからよく見れば初見の対処も容易いぞ。弱点は首。ホリゾンタルなら狙いやすい。複数体が相手の場合は常に囲まれないように立ち回ればいい」 「言ってないで助けてください!」 「私は敏捷に振ってるから攻撃力が無いんだ。少し攻撃して経験値だけ貰うから後は頑張ってくれ」
なんて横暴な! そんなこと思ってる間にも三連撃の最後の一撃をギリギリで避ける。あ、掠った。HPが5%ぐらい減った。
「っ!」
剣を構え、光を帯びたのを確認してから思い切り踏み込み、全身を使って剣を振るう。片手直剣系ソードスキル《ホリゾンタル》。水平に振り抜かれた剣が敵の首を……あ、やばっ! ガキーン! と金属同士がぶつかった音が酷く反響する。僕が放った《ホリゾンタル》が狙っていた首の位置より上の部分に振られ、コボルドが装備していた兜に当たり、弾かれてしまった。致命的な隙が生まれる。
「キシャアア!」 「ごふっ!」
かなり大振りの一撃が僕の腹にヒット。硬直していた僕に抵抗が出来るはずもなくホームラン。二度ほどバウンドし地に伏せる。HP3割減少。
「ぷはぁっ!? 死ぬ! 本気で死にますってこれ!」 「はぁ。これから君はたくさんの未開地に赴くのだぞ? そうなればMobも今みたいに情報ありで戦えるとも限らない。というか、まず無しで戦うことになる。なぜなら君がその情報を得なければならないからだ」 「うぐっ」 「もしぬるい覚悟で来たのなら悪いことは言わない。最前線からは引いたほうがいい」
その言葉には呆れとか期待外れといった感情はなく、僕の心配をしての言葉だというのはすぐに分かった。 彼女の言うことも最もだ。これから僕は一人でこのクソッタレな世界で戦わないといけない。戦うと決めたんだ。なのに、情報まで与えられてこの始末。さらには文句まで……。
「……いや」
ダメだ。これは僕がやると決めたんだ。僕が自分の意思で決めたのに、みっともない姿は見せられない。 もう、“弱虫東宮”は卒業したいんだ。
「やります!」
ポーチからポーションを取り出しぐびっと飲む。これでじわじわとHPは回復していく。が、回復を待つ暇は無い。 もう一度剣を構え、目の前のコボルドに剣を振るった。
「行くぞ!」
*
今私の目の前で戦う見た目に頼りない少年は懸命に剣を振るっていた。 何度も攻撃をくらい、その度に立ち上がる。そして、次の攻防にはほんの少しだけ、先ほどよりも上手く動く。 何度も傷を負い、傷の数だけ成長する。 あの人外どもと比べると明らかに劣っている。しかし、倒れてもすぐに立ち上がるその姿は見ているものに勇気を与える。
「東宮康太郎。思ったより骨がありそうだ」
ようやくコボルドを倒し、大の字で寝転がる少年に目を向けて、言葉をこぼす。 労いの言葉でもかけようと近づき、彼の顔を見下ろす。彼は私を見ると達成感からかふにゃっとした笑顔を浮かべた。私はそれに返すように笑みを浮かべて、
「ヒナはやらんぞ」 「くぁwせdrftgyふじこl」
意味不明な叫びを上げ、のたうち回るコウを放置し、マップの確認をする。 私の情報網はヒナに恋する全ての野郎どもを把握している。ゆめゆめヒナに色目を使おうとは思わ無いことだ。
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.7 ) |
- 日時: 2016/02/19 10:52
- 名前: ネームレス
- 【番外編:書きたいことがあるから始めたのにちっともストーリーが進まねえ! だから俺は番外編を書く】
第四十七層フローリア。広場にはたくさんの花が咲き誇り、デートスポットとしても人気なエリア。 さらにここには多くの植物系のアイテムをドロップする事ができ、ポーションの材料になったりもするため一部のプレイヤーにも人気がある。 そんな階層であるフローリアには現在、人気の店がある。
イーストガーデン
ここにはフローリアだけでなく、最下層から最前線までの幅広いエリアで手に入る植物系アイテムが多種多様に存在する。そこには、情報のみ存在し、入手方法が不明とされているエリクシール__体力や状態異常、部位欠損などのダメージを全て回復する__の原材料となるS級アイテムも存在するため、多くの調合師がその店に足繁く通っていた。 だが、この店には謎があった。開店以来、誰も店長となるプレイヤーを見た事が無いのだ。 元々あった店ではなく、ある日急に現れた店であり、品物も週一ほどのペースで更新され続けている。さらに普通は店では買えないようなレアアイテムも存在する事から、確実にここを誰かが経営してるのは間違いない。しかし、毎日のように通うプレイヤーでさえその姿を見た事が無い。いるのは雇われているであろうNPC店員のみ。 イーストガーデン。多くのギルドがアイテムを優先的に売ってもらおうと店長の姿を探すが、その正体は誰も知ら無い__
__わけではない。
「あ、あやさ……ウインド。また価格の相談したいんだけど」 「あ、おはようございますコウ。種子ですか? 花ですか? それとも薬草でしょうか」 「今回は花だよ。珍しいのが入ったんだ。栽培に成功して数が増えてきたから売ろうかと思って」 「それはなんという花ですか?」 「《ラックティア》ってアイテムで、見た目もきれいでちゃんと鉢植えに入れておけば一ヶ月ぐらいは持つよ。あと、ちょっとコツがいるんだけど栽培の仕方次第でラックティアから雫が採取できるんだ。その雫は使用すると一定時間レアドロップの確率が上がるんだ。そっちの雫は別売りしようかと思うんだけど」 「幸運の涙、ですか。凄いアイテムじゃないですか。……って、それ情報屋のアイテム名鑑に乗ってたレアアイテムじゃないですか!」 「ははは……。まあそうなんだけど。頼めないかな」 「うーん、そうですね……効果、レアリティ、一日の栽培量、だいたいこのぐらいでは?」
そうやってウインドが提示してきた値段を見て、ちょっと顔をしかめる。
「少し高くないか?」 「相変わらずですね。僕からしたら喉から手が出るほど欲しいアイテムですよ。花本体の値段はもっと低くてもいいと思いますが、雫単体ならもっと高くていいレベルですよ?」
そういうものなのだろうか?
「まあ、コウからしてみたらあまりわからない有難さかもしれませんね」
そう苦笑しながらウインドは言ってきた。なんか失礼じゃないか?
「そりゃあ、僕は使わないけどさ」 「違いますよ。コウにかかれば、大抵の植物系アイテムは量産可能だからという意味です」 「ああ、なるほど」
ウインドが言うには、僕が栽培する一部のアイテムはボスのLAボーナスを量産してるようなものらしい。言い過ぎな気もするが、それだけの事をしているという事だろう。自覚は無いが。
「まあわかったよ。ありがとう。この値段で売ってみる」 「今度買いに行きますね」 「ウインドたちになら直接売ってもいいんだけど」
というかただで提供してもいい。別に金目的でやってるわけではない。完全に趣味だ。 ある日、日々の戦いに疲れ果てた時にミキさんが「スキルスロットに余裕があるなら生活系スキルでも覚えてみたらどうだ?」と言ってきたので、前から気になっていた《園芸》スキルを取ったのだ。 最初は一度に育てられる量、種類などが多く制限され、唯一育てる事ができたのはNPCショップに売られていた何の効果もないただの花。 しかし、育っていく過程が意外とリアルだったので__時間は超短縮されていたが__味を占めた僕は一気にはまった。 それ以来、冒険の合間に熟練度を上げてはやり方を工夫したり、拾った種やドロップした根などから多くの草花を栽培していった。最近は食材なども量産している。 しかし、作るだけ作って自分じゃ使い切れない状況になってしまい、相談したのがアイン(虎鉄)とウインド(ハヤテ)だった。その結果がイーストガーデンである。 それが今ではそれなりの人気店になり軽く城を建てれるぐらいの財産が溜まっていたりするのだけど、僕は作っているだけだから店の経営のアドバイスや値段設定は全部アインとウインドのおかげである。だからこの二人になら余った分は上げてもいいもだけど……。 しかしウインドは少し笑って「お気持ちだけで十分ですよ」と言うだけだ。
「なにか欲しいものがあれば店の方に出向かせてもらいます。探索の役にも立ちますしね」 「うーん、わかった」
アインにも同じような感じに断られた。でもまあ、二人が納得してるならいいか。
「あ、じゃあせめて野菜はもらってくれないか? あれは店売りにするにしても長期間は置けないし、僕は料理スキル持ってないしさ」 「もう園芸っていうより農業ですよね」
そこにはツッコまないでほしい。
「うーん……わかりました。食材関係はこちらで買い取らせていただきます」 「別にタダでも」 「ダメです」
そこだけは譲れないとばかりに語気を強めて言ってくる。こうなったら絶対に折れないだろう。
「それじゃあ後でホームに来てくれ。そこで確認するから」 「わかりました。じゃあお金持ってきますね」
そう言ってウインドは足早に去っていった。ウインドは何故か金銭トラブルが多発しているため、同じくログインしてる三千院……キャラネーム《マスク・ザ・レジェンド》__本人曰く、本来はマスク付けて謎キャラロールプレイをして楽しむはずだったとかなんとか__が管理しているらしい。 普段から買うには身内の許可がいるなんて、大変だなぁ。
『坊っちゃま! お金があるからって無駄に使ってはいけません!』 『いいじゃんかよ! 野々原のケチ!』
「……主従、か」
ぽつり、と呟く。 その呟きは誰に届くでもなく空間に拡散し、溶けて消える。 先ほどまでの楽しい気分が嘘のように冷めていくのがわかった。どうやら、自分のメンタルはこのSAOでそれなりの修羅場をくぐった程度じゃ全然成長していないらしい。 堪えろ、漏らすな。何度も自分に言い聞かせ、溢れ出そうになる何かを必死に心の中でせき止める。 そうやって少しの間、その場に立ち尽くしてからホームでウインドを待っていようと移動を始める。 突然、ポーンと新着メッセージの通知が届く。
【ミキ:明日最前線の転移門前広場で集合。】
ミキさんと組んでからもう何度も見たメッセージだ。恐らくは迷宮区のマッピングだろう。【了解。】と打ち込み返信。今のうちに準備しておかなきゃ。
「さ、頑張るぞ!」
言い聞かせるように声を出す。 東宮康太郎がkouとして生きて既に1年以上が経過した。 最初は慣れなかった剣の重みも、戦闘も、世界観も、今ではすっかり日常となっている。 いつか帰れるのか? 何度も思い、そしてそんな思考を振り払うように何度も頭を振る。 帰るんだ。絶対に。そのために頑張ってる人たちがこの世界にはいるんだ。なのに、前に進むと決めた自分が止まるわけにはいかない。 たとえ、傷だらけになるとしても。
【オマケ】 誰もが寝静まるような時間。闇が深まり、昼間であれば恋人同士が語らっているフローリアの広場にはだ人っ子ひとりいない。 ……いや、たった一人だけ存在していた。 鍛え上げられた隠密スキルにより姿を闇夜に隠し、同じく高熟練度だと思われる忍び足スキルによって音もなく動く。 その身には夜の色、とでも言うべき色の外套を着て、迷うことなきその動きは視覚補助の効果もある索敵スキルのレベルの高さと普段からこの道を使う者独特の“慣れ”を感じさせた。 もしこの者を見つけようとするのなら、索敵スキルをマスターするだけでは足りないだろう。今まさに、この者はこの世界の者からは認知することが出来ないほどにその存在を薄めていた。 例え、イーストガーデンの店長を見つけるため、日夜イーストガーデンの前を張っている者がいて、その者のすぐ隣を横切ったとしても気づかれる事はないだろう。
「えーと、今週の収入は……うわ。すごい事なってるな〜。在庫はまだ余裕があるな。ラックティアだけ入荷して今日は帰るか」
この東宮康太郎、kouの存在は。 最初は普通に入荷していた。普通に夜中に入って、普通に消費した分を補充して収入を回収し、普通に帰った。 スキルもアイテムも使わず、人目を機にする事なく通っていた。 しかし、イーストガーデンがある程度の人気が誇ってからは何故かイーストガーデンの前に怪しげな人物__大手ギルドの団員。スカウト目的__が現れ始めたのだ。 当然のようにコミュ症を発揮させ、持ち得る手段全てを使い、全力で姿を隠し、こっそりと入荷するようにした。 そしたら、何故かイーストガーデンの店長、つまりは自分の事が七不思議扱いされるようになり、さらには事実を知るのが自分含め三人で、うち二人が最前線でも最優と呼ばれるギルドに所属している事からも、ギルド間の関係も考え秘密を明かす事が出来なくなってしまった。 それ以来、コウは入荷の際には神経を極限にまで尖らせ、驚異的な集中力でイーストガーデンに出入りしなければいけない羽目になった。
「はぁ、ただ枯らすのが勿体無いから始めたのに、どうしてこんな事になったんだろう……」
一人文句を言っても答えなど帰ってくるはずもない。 灯りのない部屋を灯すのは、窓から僅かに入る月光のみ。 そんな救いのないこの状況に、コウはただため息を吐くのであった。
−−−−−−−−−− 本編で使う予定はなかったけど妄想が膨らみ書きたかったものシリーズ第一弾。正直本編書くより楽しく書けてしまった。まあ楽しく書けたからといって文章のクオリティは上がらないんだけどね! 本編未登場の綾崎ハヤテの登場と三千院ナギのキャラネームをさらっと置いていくスタイル。さて、この物語どこまで続くかなあ?
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Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised ( No.8 ) |
- 日時: 2017/05/14 00:29
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- どうも、RIDEです。
ネームレスさんの作品読ませていただきました。
東宮が主人公という珍しい物語、結構面白かったです。 見知ったような気がする人たちもちらほら見えていて、シュールさが出ているような気がしました。
それとは対照的にキャラの心情をうまく語るシリアスな文章にも引きこまれました。 これだけの文章が書けるのも、ネームレスさんの熱意の表れですね。
これからもがんばってください。 どこまで続けられるか楽しみにしています。
それでは。
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