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ラブ師匠VS恋愛コーディネーター

初出 2010年01月01日/再公開 2011年03月22日
written by 双剣士 (WebSite)
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************* プロローグ編 第1話(Side−L) *************

 冬の夕陽もすっかり暮れた、3学期に入って間もない金曜日の夜のこと。白皇学院副会長・霞愛歌は、誰もいない生徒会室から国際電話をかけていた。
「編入試験……1点差で不合格ですね? まぁ試験問題に若干の不備があったので何とも言えませんが……キリカさんが独断で不合格と……」
 その日の夕方に編入試験を受けた、とある男子1名。本来なら試験の点数が合格に達しなかった以上、粛々と不合格の判定を伝えるだけのこと。この程度のことは理事長代理である葛葉キリカの権限のうちで、誰からも異論のないまま事は終わるはずであった。だがその少年が、三千院家……この白皇学院の理事の別宅に勤める新米執事だという点が、事態を少々複雑にしていた。
「ただ三千院の方から再考してほしいとの話が来ていて、理事会では理事長の判断に任せるとのことですが……」
 我ながら無茶を言っているわね、と説明しながら愛歌は思った。いくら理事会で判断しかねるとはいえ、学院どころか国内にすらいない理事長にどう判断しろと言うのか。有力理事同士の意見が対立している状況で理事長が天の声を下せば、必ずどちらかに遺恨を残す。これはもう編入生1人の処遇うんぬんではなく、政治的な次元の話になってしまっているのだ。有能とはいえ自分とそう歳の変わらない女の子……天王州アテネ理事長に、電話越しに判断しろと迫るのは酷といえよう。
「どうします? 一度決めたことですし、やはりこのまま……」
 愛歌としては助け船を出したつもりだった。理事長代理の判断を追認して、争いの種になる少年とは関わりを持たないのが一番いい。三千院家からの推薦状を握りつぶす形にはなるけど、『不合格の通知をすでに出した』という既成事実のほうが重いと言い張れば、筋としてはそれで通る。さまざまな財閥家の思惑が渦巻く名門私立学院だからこそ、裁定には大義名分が重要なのだ。
「理事長……?」
「……その……」
「はい?」
「綾崎ハヤテ、と言いましたわね、その編入生は」
「はい……?」
「その人は……この学院に入ることで、幸せになれるのかしら」
「……え?!」
 このときアテネの胸に去来した思いなど愛歌に分かるはずもない。あくまで政治的な視点で物事を考えていた愛歌は理事長の言葉に一瞬ぽかんとしたあと、すぐに言外の意図を頭の中で組み立てた……なるほど、教育機関の理事長としての理念を、キリカさんに対抗する大義名分にするつもりなんですね。なかなかの政治センスじゃないですか。
「それはまぁ……入学を希望するからには、その希望に沿うのが彼にとっての幸せだと思いますけど」
「そう……そうですわよね……」
「ではそのように、理事会に伝えましょうか?」
「えぇ……そうしてくださるかしら」
「わかりました」
 明言こそしないものの理事長の意向としてはこれで十分。電話を切った愛歌は速効で綾崎ハヤテの生徒証を用意させると、それを少年に手渡すべく三千院家へと車を走らせた。アテネの決断の裏にあるのが教育者の理念などではないことを彼女が知るまでには、まだ数カ月の時が必要だった。


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