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愛沢家のお出かけ

初出 2005年09月06日/抜粋公開 2007年09月13日
written by 双剣士 (WebSite)

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 今から約2年前、ハヤテのごとく!に登場する8人のヒロインの日常を描いた掌編連作『お出かけ八景』に着手しました。残念ながら8人分のネタが煮詰まらず正式公開までには至らなかったのですが、今にして思えば愛沢咲夜の妹たちをSSに登場させたのはこれが初めてだったりします。
 原作143話にて日向と朝斗がついに初登場しましたので、私が独自に想像していた妹たちをSSに書くことはもう出来ません。これが最後の機会と思いますので、断筆した『お出かけ八景』のうち愛沢咲夜&妹たちの登場する部分のみ、抜粋して公開します。
 当然ながら原作143話とはキャラクターイメージが異なりますので、ご注意ください。(本設定でのキャライメージ詳細は『妹はスナイパー』の冒頭に簡単な説明があります)

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 学校から早く帰った、ある日の夕方。愛沢咲夜はこっそりと吉〇新喜劇の公演へと出掛けようとしていた。楽しみにしていた待望の公演に心浮き立つのも無理からぬところ。
「ほな、行こか……えぇか、絶対に音を立てるんやないで……」
 咲夜の両脇に控えるは巻田と国枝。彼女自慢の超有能な執事たちである。彼らがいる限り咲夜の身は安泰、誘拐犯にも暴漢にも指一本触れさせない。まことに頼りになる執事たちであったが……そんな彼らでも唯一、手の出せない相手がいた。
「姉ちゃん」
「おねーたん」
「へぶぅっ!!」
 背後からの膝タックルを受けて、咲夜は玄関の石床に豪快に顔面を打ち付けた。咲夜を転ばせた張本人たちは無邪気な顔でケラケラと笑っている。
「うぐぐぐっ、これだから人間の身体は……」
「なに出版社違いのボケかましとんねん、姉ちゃん?」
「わーい、おねーたんが転んだ〜、おねーたんが転んだ〜♪」
「え〜い、離れんかい夕華に葉織!」
 倒れたまま声を荒らげる咲夜に対し、妹の夕華(8歳)と葉織(4歳)はニコニコと両脚にしがみついたまま。大好きな長姉に構ってもらいたがっている子供特有のイノセントスマイル。咲夜に頭をぺしぺしと叩かれても全く応える様子がない。
「あはは、姉ちゃんの突っ込みや、突っ込みやぁ〜」
「もっとやってもっとやって、えへへへ」
「こ、こいつら……巻田、国枝! なにしとんねん、ウチを助けんかい」
 いくら主人の命令でも、巻田たちにはどうしようもない。仲の良い姉妹のじゃれあいに割り込んだとあっては、娘たちを溺愛している愛沢家当主から何を言われるか分かったものではなかった。むろん咲夜は弁護してくれるのだろうが……後で述べるように、こういう状況において咲夜が我を通せる可能性は皆無に近いのだし。
「おぉ、サク姉ここにおったんか」
 玄関先で転げ回る3姉妹と静観する2人の青年。そんな膠着状態を打ち破ったのは、新たに家の奥から現れた双子の姉弟であった。今年で10歳になる日向と朝斗、プチ反抗期に入りつつある小憎らしい連中であったが今の咲夜には救いの天使に見える。
「朝斗、えぇとこに来てくれた! この子ら早いとこどうにかしたってぇな」
「お手柄やで、ゆーちゃん、はーちゃん。ところでおねぇ、そんな急いでどこ行く気やったん?」
「ひ、日向、お前……」
 現れた2人が天使でなく猛獣使いであることを瞬時に悟った咲夜は、しどろもどろになりながら妹の問いに答えた。
「ど、どこでもええやん。年頃の女には野暮用が多いんや、お前もそのうち分かるって」
「まさか1人で吉〇を見に行ったりなんかせぇへんよねぇ、おねぇ?」
「なんでお前、それを……」
 はっと口を抑えたが既に手遅れ。予想通りの返事を聞いた日向は素早く両手を胸の前で組み合わせると、瞳をうるうると潤ませて嘘泣きモードに入った。その横では弟の朝斗が手をひらひらさせて年少組の2人に合図を送る。“泣け”のサイン。
「姉ちゃん、ウチらのこと置いてくつもりやったん?」
「うわーん、おねーたんウチらのこと嫌いになったんやぁ! ウチらなんか、おらん方がええんやぁ!」
 玄関先で泣きじゃくる3人の妹と、その後ろから仇を見るような視線を送る弟。それは休みの日になるたびに繰り広げられる光景であり、そしてこうなってしまっては咲夜に選択の余地などなかった。玄関に座り込んだ咲夜は妹たちの頭をなでながら、筋書きどおりの敗北宣言を口に乗せた。
「分かった分かった、一緒に行こ。皆で吉〇新喜劇、見に行こ」
「……嫌々言ぅてんのと違う?」
「ちゃうちゃう、ウチも夕華たちと皆で行けた方が楽しいんや。さぁ支度してき、日向たちと一緒にな」
「うわぁーい、姉ちゃん大好き!」
 家族みんなで見に行くとなれば、ガラスで囲まれた高層階のVIPルームを借りて観劇することになる。朝から並んでやっと手に入れた、舞台のすぐ側の指定席チケットはゴミ箱に捨てるしかない。大喜びで抱きついてくる妹たちに囲まれながら、咲夜はこっそりと溜め息をついた。
《あ〜あ、結局このパターンになってまうんかぁ……ナギの家はええよな、1人っ子やったらこんな苦労、無いんやろうし》


Fin.

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