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お姉さま以上、ヒロイン未満(下)

初出 2009年08月14日
written by 双剣士 (WebSite)
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************* 下編 *************

 ある日の夜、勉強を見てもらうという名目で、狭い部屋の中で2人きりになった思春期の男女。
「いや〜、マリアさんが丁寧に教えてくれるおかげですごく助かりますよ」
「そうですか、それは良かったですね〜」
「あの……どうかしましたか?」
「いえ別に」

【101話(10巻5話)のマリアの場合】

 そのころマリアの脳裏には、昼間に出会った西沢歩の照れたような困ったような、それでいて少し寂しそうな表情が鮮明に浮かんでいた。
《さすが驚異の天然ジゴロ。ナギや伊澄さんからキスされるほど気に入られている傍らで、まさか同年代の子から告白までされてたなんて……》
【199話(19巻4話)のマリアの場合】

 そのころマリアの脳裏では、あの水族館デートの日から時々浮かぶ奇妙な感情が、メリーゴーランドのようにぐるぐると駆け廻っていた。
《なんという孔明の罠。こんな笑顔でお礼を言われたら一緒にいるのが嫌だなんて言い出せませんわ。でもこんな夜更けに2人きりなんて……》

 妙に口数の少なくなった年上のお姉さんに背後からじっと見つめられて、ハヤテの鼓動も早くなる。
《ど……どうしたんだろうマリアさん……なぜそんなに僕を見つめて……》
 変に意識するのも失礼かなと考えたハヤテは、マリアの視線に気づかないふりをして真剣にノートに向かう。

【101話(10巻5話)のマリアの場合】

《しかしあの子の告白を断るなんて、意外としっかり者と言うことでしょうか?》
 勉学に励むハヤテの背後で、こっそりと少年の心理分析に取り組むマリア。
《でもハヤテ君はロリコンじゃないって日頃から言ってますし、執事の仕事をしてるからってナギに操を立てる必要なんかないですしね……もしかして……》
【199話(19巻4話)のマリアの場合】

《ああ、そういえばこの子は……ビックリするほどまじめな子でしたわねぇ》
 勉学に励むハヤテの背中を見て、マリアの脳味噌も徐々に冷えてくる。
《そりゃそうですわね。こんな程度で何か問題が起こるなら、とっくの昔に起こってますわ。それなのに私ときたら、1人で大騒ぎして……恥ずかしい……》

「あの、ハヤテ君……」
「は、はい? なんですか?」

【101話(10巻5話)に基づく展開】

 振り返ったハヤテの前には、なまめかしく胸に手を当てる綺麗なお姉さんの姿があった。
「ハヤテ君は、女の子に興味がないんですか?」
「……は?」
 唐突かつ意外すぎる美人メイドさんの言葉。考えてみればここは狭い個室、時刻は夜中、そばにはベッド、そして目の前には彼にとってストライクど真ん中な年上のお姉さん……男なら意識するなというほうが無理である。
《あ、あのマリアさんが突然こんなこと聞くなんて……》
【199話(19巻4話)に基づく展開】

 振り返ったハヤテに向かって、元家庭教師の美人メイドさんは年長者らしく問いかけた。
「分からないところは何でも聞いてくださいね」
「それじゃ……」
 ハヤテが示したプリントを覗きこむマリア。それは白皇学院のテスト過去問からの出典だったが……どうみてもネットの某巨大掲示板からコピペしたとしか思えない、白い肉饅頭キャラのアスキーアートが印刷されていた。
「白皇も……もぉ、つぶれちゃえばいいのにですね……」

 過激すぎるマリアの発言に驚くハヤテ。
「ええ!? いや!! あの!! ななな何言ってるんですかマリアさん!!」

【101話(10巻5話)のマリアの場合】

《あっはっはっ……可愛いなぁハヤテ君……でもなんでそんなにうろたえてるのかしら?》
 問いかけた少女のほうには自分が挑発してる意識など全くない。ピュアすぎる少年の慌てぶりに余裕の笑みを浮かべたマリアは、こほんと小さな咳をして場の空気を引き締めた。
【199話(19巻4話)のマリアの場合】

《まったくもう、これだからゆとりは……でもハヤテ君が染まってなくて良かったですわ》
 おばさん……もとい、年長者らしい嘆きを口にしつつ自分が在学してた頃のテスト問題を思い浮かべたマリアは、色気のなかった灰色の青春の記憶を振り払うべく気合を入れた。

「さ、冗談はこれくらいにして勉強の続きをしますよ、ハヤテ君」
「は……はい! が、がんばります!!」

        ******

 さらさらと紙の上を滑るシャープペンシルの音だけが響く深夜の勉強部屋。
 邪な空気など入り込む余地のない清浄な空間のように見えたが……そこにいる男女のうちの片方は、先ほどまでのやり取りのおかげで完全にあちら側にスイッチが入ってしまっていた。

【101話(10巻5話)のハヤテの場合】

《どうして僕、こんなに胸がドキドキしてるんだろう……あんな思わせぶりなことを言っておきながらその後フォローなしなんて、ひょっとしてマリアさんにからかわれてるのかな? もし万一そうだとしたら嬉しいような、でもちょっと悔しいような……》
【199話(19巻4話)のマリアの場合】

《どうして私、こんなに胸がドキドキしてるのかしら……水族館であんな大胆なことをしておきながら部屋では何もしないなんて、ひょっとしてハヤテ君に女の子扱いされてないのかしら? 変に意識されても困りますけど、でもちょっと悔しいような……》

 その後、一服入れるというハヤテを部屋に残し、マリアは紅茶を入れに厨房に向かう。

【101話(10巻5話)のハヤテの場合】

《バカバカバカ、何を意識してるんだ? あんなに優しいマリアさんが僕なんかをからかって遊んだりするわけないじゃないか。せっかく夜遅くまで勉強を教えてもらってるのに、なんて失礼なことを……忘れろ、忘れるんだ。マリアさんの親切を無駄にするなんて絶対ダメだ!》
【199話(19巻4話)のマリアの場合】

《バカバカバカ、何を意識しているの? あんなに真剣なハヤテ君が私なんかを意識したりするわけないじゃないですか。ナギのために一生懸命に授業に遅れまいとしているのに、なんて失礼なことを……忘れるの、忘れましょう。ハヤテ君の頑張りに水を差しちゃいけません!》

「お……お待たせしました、ハヤテ君」
「あ……ありがとうございます、マリアさん」
 ティーカップを手に部屋に戻ったマリアとそれを迎えるハヤテは、ぎこちない挨拶を交わした。
 そのとき、ふとマリアの目にあるものが飛び込んでくる。
「ところでハヤテ君、それは……?」

【101話(10巻5話)に基づく展開】

「あ、これですか? これは昨日、お嬢さまが描いてた漫画の続きを描いてみてってマリアさんに言われた分ですよ。どうです?」
「これは……深刻ですね」
 その後、不幸に見舞われ続ける魔法少女の苦難が全てハヤテの実体験と聞かされて、マリアは笑顔を浮かべたまま全身を硬直させた。
【199話(19巻4話)に基づく展開】

「あ、これですか? これは以前、三千院の実家に行った時、おじい様からもらったんですよ。でも、なんなんですかね? これ」
「それは……王玉です」
 その後、ナギの母親の話やマリアが家庭教師としてナギのもとに来た当時の話など、マリアの口から思いもよらぬ昔話が飛び出した。

「いや〜、ホントに意外と知らないことが……あるみたいですね〜」
「ええ」

【101話(10巻5話)のハヤテの場合】

「まぁお互い、2か月前までは何も知らない赤の他人でしたからね〜」
「それが今や、13歳のお嬢さまに2人してお仕えなんて、やらしーですねー」
「……え?」
《……え、えぇっ? ぼ、僕ったら今なんて? これじゃロリコンみたいじゃないか、マリアさんに変に思われたらどうしよう……》
【199話(19巻4話)のマリアの場合】

「まぁお互い、4か月前までは何も知らない赤の他人でしたからね〜」
「それが今や、大きな屋敷の小さな部屋に2人きりなんて、やらしーですねー」
「……え?」
《……え、えぇっ? わ、私ったら今なんて? つい思わず口が滑ってしまいましたわ、ハヤテ君に変に思われたらどうしよう……》

 小さな部屋に2人きり。ハヤテとマリアは熱い視線を絡め合った。
《ついこの間までは赤の他人で……》
《それが今では……今では……》
 2人の鼓動がドキドキと早鐘を打つ。

【101話(10巻5話)に基づく展開】

《ああ、どうしたらいいんだろう。なんとかフォローの言葉を考えないと……》
 混乱を極めるハヤテとは対照的に、マリアのほうは純然たるお姉さん視線で少年のことを観察していた。
《今日のハヤテ君、なんだか様子が変だわ……勉強ばかりで熱でも出てきたんでしょうか。それなら早めに休ませてあげないと》
「あ、あの、ハヤテ君」
「は、はいっ?!」
 ひきつったように飛びあがるハヤテに、マリアは優しく道を示すように語りかけた。

「あの……そろそろベッドに行きませんか?」
「……☆□※!!」
【199話(19巻4話)に基づく展開】

《ああ、どうしたらいいんでしょう。なにかフォローの言葉を考えないと……》
 混乱を極めるマリアとは対照的に、ハヤテのほうは純然たる教え子の視線で少女のことを観察していた。
《今日のマリアさん、なんだか様子が変だ……僕のために遅くまで付き合ってくれてるせいかな。そろそろ休ませてあげないと》
「あ、あの、マリアさん」
「は、はいっ?!」
 ひきつったように飛びあがるマリアに、ハヤテは優しく道を示すように語りかけた。

「あの……そろそろベッドに行きませんか?」
「……☆□※!!」

 暴発寸前になった部屋の空気。三千院ナギからの呼び出し音が鳴ったのはちょうどその頃だった。甲高い機械音はラブコメ時空に連れ去られそうになった2人を瞬時に現実に引き戻してくれた。
 そしてそれを耳にしたハヤテとマリアはお互いに顔を見合わせた後、どちらからともなく安堵の溜め息をついたのだった。


Fin.

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