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暇つぶしの始まり

初出 2009年03月30日
written by 双剣士 (WebSite)
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 この小説は、桂ヒナギクが生徒会長に当選した日の午後の出来事を描いた物語です。
 ヒナギクが生徒会長になるまでの経緯については、拙作「伝説の始まり」の設定を引き継いでいます。
 もしお時間があれば、「伝説の始まり」を先にご覧になってから「暇つぶしの始まり」本編に目を通されることをお勧めいたします。



『選挙管理委員会からのお知らせです。昨日とり行なわれました生徒会選挙の開票結果をお知らせします……』
 白皇学院のお昼休み。教室のスピーカーから流れてくる校内放送の音声を耳にした瀬川泉と朝風理沙は、小さく目配せをしながら親指を立てた。弱冠15歳の生徒会長候補・桂ヒナギクが即席ライブを敢行し白皇学院中を熱狂の渦に飲み込ませた日から丸2日。あの型破りな生徒会役員選挙の結果の出る瞬間が、ついにやってきたのである。
「いよいよだね、ヒナちゃん」
「1年生の生徒会長の誕生か。まさに伝説の始まりだな」
 ところが2人の楽しげな様子とは裏腹に、肝心の次期生徒会長の表情は沈みまくっていた。選挙の当落がどうという以前に心の準備ができてないという方が正しい。何しろ彼女は2日前まで、生徒会長になるつもりなど全く無かったのだから。
「うああぁぁ……」
「ど、どうしたのヒナちゃん、テンション低いよ」
「勘弁してよ、もう……あなたたちのせいで、みんなの前であんな恥ずかしいことやらされて……みんなに全力で引かれたりしてたら……」
「心配性だな、ヒナ。でも大丈夫、みんなノリノリだったじゃないか」
「理沙、人ごとだと思って……」
 なまじ先が読めるというのも困りもの。知性と理性と洞察力と行動力で幾多の試練を乗り越えてきた桂ヒナギクといえども、いやそんな彼女だからこそ、状況に流されまくった2日前の演説会での出来事は人生の汚点に等しかった。だがそんな彼女の苦悩も知らず、校内放送は粛々と続く。
『生徒会書記候補、春風千桜さん、297票、当選。信任率は91パーセントでした。副会長候補は立候補者なしということで割愛させていただきます。そして生徒会長候補、桂ヒナギクさん……』
「ごくり」
「わくわく♪」
「くぅぅ……」
 おしゃべりの声が完全に止まり、クラスメートの視線がスピーカーとヒナギクの方へと集中する……ヒナギクにとっては永遠の拷問にも感じられた数秒の沈黙。その沈黙を破ったのは、これまでの厳粛な語り口が嘘のような高らかなる宣言だった。
『……326票、当選です。信任率はなんと100パーセント、史上初の完全勝利です! 新会長おめでとう!』
「おめでとうヒナちゃん!」
「やったな、ヒナ!」
「すっごーい!!」
「信じらんねーっ!!」
 口々に湧き上がる驚きと祝福の声、そしてヒナギクの頭上に放たれるクラッカーの炸裂音。顔を上げたヒナギクは夢の中にいるような気分であたりを見渡した。暗雲が吹き払われたような陽光と周囲の色彩、彼女に駆け寄る顔、声、拍手、万歳三唱、そして差し出される花束の山。ついにこの瞬間、白皇学院に新しいアイドルが誕生したのである。

    *  *

「ヒナの敵ってどういうことですか?!」
「あ、あの、落ち着いて、美希さん」
 ヒナギクとその友人たちが歓喜の渦に囲まれていたのと同時刻。ヒナギクを生徒会長に押し上げた立役者と言っていい2人の女生徒が、人気のない体育館裏の片隅で穏やかならぬ密談を交わしていた。とりわけヒナギクの親友にして親衛隊長役を自負する少女の剣幕は尋常ではなかった。
「これが落ち着いていられますか! 私はヒナを無理やり会長にしちゃったんです、それがヒナの身を危険にさらすことになるなんて」
「それに関しては私も同罪よ。だからこうして、あなたにだけは話しておこうと来てもらったんじゃないの」
 病弱を理由に辞退した生徒会長候補、霞愛歌は困ったように手を頬に当てながら、落ち着いた口ぶりで花菱美希の興奮を抑えにかかった。
「うかつだったわ。遅かれ早かれ、あの人とヒナギクさんが対立することになるだろうとは思ってたんだけど……会長就任前から、こんなことになるとはね」
「誰なんです、その敵ってのは? ヒナが会長になることについては生徒全員が賛成票を入れてるんですよ、誰からも恨まれるようなことなんて」
「生徒じゃないのよ、その人は」
 どこから話したらいいものか。霞愛歌は困り果てた様子で静かに首を振りながら、慎重に言葉を選びつつ美希への説明を始めた。

すべてに恵まれたお金持ちにとって、一番嫌いなものって何か分かる? 『退屈』なのよ。その人は平地に乱をおこすようなタイプの人でね、白皇学院に来た当時は、ずいぶん無茶なこともやったらしいの。
幸か不幸か、当時の生徒会長さんが奇跡的に優秀な人で……表向きその人の言いなりになる振りをしつつ、生徒たちにはエンターテイメントとして楽しめるようにイベントを昇華させる、絶妙の舵取りをしてくれてね。
それでその人は、思い通り豪快にやっても生徒は喜んでくれるんだって、悪い方向に勘違いしちゃったみたいなの。

「い……いったい、どんな無茶なことをやったんですか?」
 美希としては聞かずにはいられない。だがそれに対する愛歌の答えは、常識的な教育現場の日常をはるかに超えていた。
「そうね……たとえば体育祭のときに常人では完走できないような無茶なコースを設定して高額の賞金を賭けるとか、クラス名簿の写真を撮るとき全員に「ともだち」のマスクをかぶらせるとか」
「は? 意味分かんないです、そんなマンガみたいなことして何になるんですか」
「さぁ、私に聞かれても……他にも文化祭を同人誌の即売会にして売上競争をけしかけたりとか、学校内の執事さんを集めてトーナメント大会を開いたりとか、その優勝者に学外から刺客を雇って襲わせたりとか」
「なんですか、それ? 出来の悪いギャグアニメじゃあるまいし」
 このときの美希は知る由もない。これから始まる桂ヒナギク会長の治世において、愛歌のいう旧習が次々と復活を遂げていくことを。

でも優秀な生徒会長さんが引退した後……後任の会長さんには、そんな器用なことはできなかったわ。その人の暴走を許していたら死人が出かねないし名門の名前にも傷がつく、そう心配した生徒会と教職員一同は徹底サボタージュすることに決めたらしいのね、その人の言うことを。
本来ならそこで一悶着あって良さそうなものなんだけど、誰も自分に反論しない癖に命令は聞かないって状況に気づいたその人は、その時点で争う意欲を失ってしまったらしいの。わがままなお金持ちらしい態度だけどね。
だから美希さん、中等部にいたころは無茶なイベントの噂を聞いたこと無かったでしょう?

    *  *

 周囲の生徒たちから口々に祝辞と握手を求められるヒナギクのもとに、クールな眼鏡美人が歩み寄ってきたのは12時半過ぎのことだった。
「おめでとう、会長。そしてよろしく」
「……あなたこそおめでとう、春風さん」
「千桜でいいよ」
 照れたように差し出された春風千桜の手をしっかり握る桂ヒナギク。新しい会長と書記の姿に観衆から拍手が沸き起こった。するとそこに、無邪気そうな笑顔がスルスルと割り込んできた。
「ねぇねぇちーちゃん、せっかく当選したことだしさ、今日はカラオケ行って騒がなーい?」
「あ、いや、私は騒がしいの苦手なので……」
「固いこと言わないでさ。いいよね理沙ちん、ヒナちゃん?」
 瀬川泉に話を振られた朝風理沙はニンマリとした笑顔を浮かべ、桂ヒナギクはというと千桜の手を握ったまま離さない。退路を断たれたことに気づいた千桜は深々と溜め息をついた。こうして千桜と泉たちの付き合いが始まるのだが……その詳細については、これとは別の物語になる。

    *  *

 一方、美希と愛歌の密談もいよいよ佳境に入ってゆく。
「それ以来、従順で大人しそうで、先生たちの言いなりになりそうな女子を生徒会長にするのが、その人を刺激しないための伝統になってたんですって。先生たちが私を会長にしようとしたのも、そう」
「…………」
 愛歌さんが従順で大人しい女子? 言いたいことはいろいろあったが美希はあえて沈黙を守った。
「そこへあの、ヒナギクさんの鮮烈デビューがあったでしょう? 久しぶりに歯ごたえのある生徒会長が現れたって、手ぐすね引いて待ちかまえてるらしいの」
「……ずいぶん詳しいんですね、愛歌さん。まるで見てきたことみたいに」
「伊達に1年長く、この学院に居ないわ」
 この頃には美希もだいぶ冷静になってきていた。どうやら直接的に恨みを買うとかヒナギクを妨害するとかいう話ではなく、やたら目立つヒナギク新会長に対して向こうが勝手に好敵手とみなしているだけらしい。まだ火も煙も立ってない段階なのだからスルーしようと思えばできる。去年までの会長と同じことをしていればいいのだ。しかし……。
「だから、ね、美希さん。ヒナギクさんには最初のうちだけでもどうか穏便に、大人しく振舞っててほしいのよ。その人に挑発されても我慢して、先生の言うことを素直に聞いて……選挙に当選して浮かれだってる状況じゃ耳を貸してもらえないだろうと思って、こうして来てもらったの」
「無理だと思います」
 美希は即座に断言した。美希とヒナギクとの付き合いは長い。ヒナギクが挑発されて大人しくしていられるタイプかどうか、嫌というほど分かってる。
「ヒナは売られたケンカは全部買って、実力で相手をねじ伏せてきたんです。愛歌さんもそんなヒナの性格を知ったうえで、会長に推したんじゃなかったんですか?」

    *  *

 その日の放課後。教職員への挨拶回りと生徒会旧役員からの引き継ぎを終えたヒナギク・千桜そして泉・理沙・美希の5人は、いよいよ生徒会執行部のある時計塔……ガーデンゲートへと足を運んでいた。本来ならクラス委員に過ぎない泉たち3人が新執行部の挨拶回りに同行するなどありえないのだが、年若い生徒会長を側近として支えるという美希のごり押しによって実現した組み合わせである。優等生らしい行事など縁のなかった泉たちは年長者たちとの触れあいに興奮気味だった。
「みんな優しそうな先生で良かったよね〜♪」
「理事長だけ都合が悪くて会えなかったのが残念だったけどな」
「先輩方から引き継いだ、この議事録ノート……汚さないようにしないと。うぅ、責任重大……」
 そんななか、花菱美希はじっと下を向いたまま沈黙を守っていた。新しい生徒会長からの挨拶の場に理事長が姿を見せなかったという事実。単なる日程のミスマッチかもしれない。だが昼休みに愛歌の話を聞いていた美希にとっては、何か裏があるように思えてならなかった。
《どんな挑発をされるかと警戒してたんだが……どういうことだ? 他の先生たちが見てる前での表面上の馴れ合いすら拒絶ってことか、それとも愛歌さんの気の回しすぎ?》
 隣を歩くヒナギクの表情をちらりと見上げる。生徒会室への初登庁という晴れがましい場であるにもかかわらず、親友の表情はぎこちなく青ざめているように美希には見えた。やっぱり就任挨拶の場に学院最高責任者がいないという政治的な意味を、彼女も重く受け止めているんだろうか。
「なぁ、ヒナ……あまり深く考えないで、な? こういったことはこれからもあるだろうし、私たちだってついてるから」
 昼間の愛歌との話はまだヒナギクには伝えてない。祝賀ムードの中で切り出し辛かったのもあるし、実際に相手から挑発された後のほうが話しやすいだろうとも思ったから。だから今は気休めの言葉しかいえない、そんな自分を美希は歯がゆく思った……ところが。
「……あなたに何が分かるのよ……」
「……え、ヒナ?」
「これから何度もあるって? そんなこと分かってるわよ、分かってるけどしょうがないじゃない、自分でどうにかするしかないんだから……」
「お、おいヒナ、どうした? そんなに気にしてたなんて思わなかった、私たちでよければ相談に……」
 ただならぬヒナギクの雰囲気と焦る美希の声色に、泉たちの顔色も変わる。足を止めた一同に注目された新生徒会長は全身を小刻みに震わせながら、泣きそうな表情でヒステリックな金切り声を発した。
「だいたい何なのよ、どういう嫌がらせな訳? 生徒会室があんな高いところにあるなんて!」

    *  *

「いらっしゃい……あら、どうしたの?」
 足を凍りつかせたヒナギクを引きずるようにして時計塔のエレベータ前へとやって来た一同を出迎えたのは、本来なら生徒会執行部の新しい主人になっているはずだった年上の同級生だった。事情を聞いた彼女は眼を丸くして大げさに驚いて見せた。
「まぁ、そうだったの……でも慣れてもらうしかないわよね、副会長に立候補した時点でこうなることは覚悟しといてもらわないと」
「言われなくたって分かってます……」
 観念したようにつぶやくヒナギクを見つめる愛歌の瞳に嗜虐的な光が灯る。ヒナギク以外の全員がそれに気づき密かに確信した。この人は絶対、ヒナギクの弱点を知った上で生徒会に誘ったに違いない、と。
「あの、でもどうして、愛歌さんがここに?」
「そりゃね、私が見込んだヒナギクさんの晴れ舞台だもの。お出迎えくらいしたいじゃない?」
 嘘だ、絶対に嘘だ。ヒナが怖がるのを見物に来たに決まってる……テレパシーのように美希・泉・理沙・千桜の4人は同じことを思った。そんな一同の視線を華麗にスルーしつつ、霞愛歌はエレベータの扉のほうへとヒナギクたちを導いた。
「さ、では行ってらっしゃい、生徒会長の桂ヒナギクさん。みんなもしっかり支えてあげてね」
「はぁ〜い」
「……(がくがく、ぶるぶる)……」
「あ、あの、よければ愛歌さんも一緒に……」
 昼間の件の相談もあるし、と言う気持ちを言外に乗せた美希の誘いだったが、愛歌は静かに首を振った。
「遠慮しておくわ。私は直前になって生徒会長の椅子を放り出した立場だしね」

がしゃんっ!!
「ひっ、なにこれ、真っ暗になっちゃったよ!」
「(ポロポロポロ)はうぅ、私死ぬの、ここで死ぬの? このままロープ切れて落っこちて死んじゃうの?」
「お、落ち着けヒナ、大丈夫だから! こういうときは歌だ歌、ほら、だんご、だんご……」

「……まぁ、そんなことがあったの。災難ねぇ」
「災難なんかじゃないですよ! これは明らかに嫌がらせです。見てください、これ!」
 エレベータに乗るヒナギクたちを見送ってからわずか10分後。霞愛歌は電話越しに泉たちに泣きつかれて、時計塔最上階の生徒会室へと登ってきていた。エレベータの故障はわずか数十秒の出来事だったが、あまりといえばあまりのタイミングである。桂ヒナギクを始めとする新執行部の面々はすっかり魂の抜けたような表情で、10分経った今になっても呆然と生徒会室のソファに身を投げ出していた。
『これはほんの挨拶代わりだ。私を失望させてくれるなよ』……これをどこで?」
「ここに上がってみたら生徒会長の机の上にあったんです! どう考えても理事長からの宣戦布告ですよ、これ!」
 愛歌に手渡した便箋を指差しながら花菱美希は怒声を張り上げていた。彼女もエレベータ故障で恐怖に震えた1人だったが、この便箋を見て怒りが恐怖を完全に上回ってしまったらしい。そんな親友の剣幕を見てトラブル好きな黒髪の巫女が声を上げた。
「なんだ美希、宣戦布告って?」
「あ、いや、なんでもないのよ。みんなが気に掛けるようなことじゃ……」
「愛歌さん、もう賽は投げられたんですよ? 先に相手が仕掛けてきたんです、こっちも団結して戦わないと!」
 なんとか穏便に済ませたい愛歌の言葉を美希は横から奪い取った。なにせ相手はヒナギク最大の弱点を的確について来たのである。いまだ身体の震えの止まらないヒナギクに代わり、義憤に燃えて声が大きくなるのも無理からぬところ。なにしろヒナギクは大事な親友なのだ。
「戦いって何のこと、美希ちゃん?」
「愛歌さん、昼間の話をみんなにしても良いですよね?」
「待ってちょうだい。私にだって確かなことは何も分からないのだし、まずは興奮を鎮めて……」
「これ以上確かな証拠が、まだ必要ですか!」
 美希は愛歌の手から便箋を奪い取ると、制止を振り切って同志たちに向かって説明を始めたのだった。

    *  *

 花菱美希の説明は延々15分にも渡った。制止するはずだった愛歌も要所要所で話を振られ、理事長の過去の悪行について説明せざるを得なかった。そしてそれを聞いた生徒会メンバーたちの瞳は徐々に恐怖の色が抜け、ある者は赤い戦闘色に、ある者は静寂の漆黒へと変貌を遂げた……得体の知れない恐怖よりは明確な敵手のいるほうが、まだ心の整理をつけやすいということなのだろう。
「やろう、ヒナ。こんなことされて黙ってる手はないぞ」
真っ先に主戦論を唱えたのはトラブル大好きな黒髪の巫女だった。
「う〜ん、なんとか仲良くやっていけないかな?」
困り顔の社長令嬢は融和策を唱え、
「相手が理事長となると正面だって喧嘩は出来ませんし……ひとまず相手の出方を見ては?」
クールな眼鏡娘は慎重論を打ち出してくる。
「そうよ、千桜さんの言うとおり落ち着いて様子を見ましょう。こちらから仕掛けるわけには行かないんだし」
と病弱な才女が専守防衛論を展開すれば、
「今にして思えば、就任挨拶の席に出てこなかったのも今回の悪戯を効果的に見せるためだったんだな」
戦うことを前提に早くも相手の意図を先読みしようとする、名門出身のオデコ娘。


 だが結局のところ、執行部としての姿勢を決めるのはヒナギクの役目である。そのことは全員が承知していた。じっと黙って話を聞いていた桂ヒナギクは全員の視線を集めながら瞳を開くと、新任会長らしからぬ威厳をもって決断を下した。
「まずは執行部の体制を固めて、理事長の出方を待ちましょう。ハル子の言うとおり」
「……」
 決断の中身よりも不意に飛び出した愉快なネーミングのほうに注意が行ってしまうのは、いかにも出来立ての集団らしいところである。さっきまでは春風さんとか千桜さんとか呼んでたんじゃ……という疑問の声を美希たちは黙って飲み込んだ。知り合ったばかりの相手に動物の子供みたいなあだ名をつけるってことは、ヒナのやつ冷静に見えても結構頭がカッカしてるってことだし……それに放っておいたほうが、今後何かと面白いから。
 そしてヒナギクが下した決断はそれだけではなかった。
「それから愛歌さん。変なタイミングになってしまいましたがお願いします。空席になってる副会長の役職、引き受けてください」
「え? あ、いえ、でも、私にはそんな大役……」
「選挙で立候補者が出なかった以上、選ぶ権利は生徒会長にあるんです。もともと愛歌さんにお願いするつもりでしたけど、こういう状況になった以上は理事長のことをよく知る人材は欠かせません……責任を取ってください」
「責任って言われたって……」
 もちろんヒナギク以外のメンバーにも異論はない。困ったように周囲を見渡す愛歌だったが、縋りつくような5人からの視線に責められて首を縦に振らざるを得なかった。空席を埋めた新生徒会長は高らかに宣言した。
「さぁ、それじゃこの話はお終い! じゃ早速、持ち込んだ荷物のお片づけをするわよ! やることは山ほどあるんだから!」
 ところがこの言葉を聞いた瞬間、新会長の側近になるはずだった3人の親友は蜘蛛の子を散らすようにソファから弾け去り……一瞬にして人数は半分になったのだった。
「……素晴らしいお友達ね」
「いいんです、長い付き合いですから」
 白皇学院・新執行部の初仕事は、こうして一斉に溜め息をつくことから始まったのだった。


「ヒナちゃんも大変だね、就任早々」
「まぁ、とことんヒーローの星の下に生まれてるんだろうな。本人が望まなくてもトラブルのほうから舞い込んで来るんだから」
「あはは、言えてる〜♪」
 主戦論は退けられたものの、エレベータの中で楽しそうに今後の展開に思いをはせる泉と理沙。だが美希のほうはまだ心痛な表情を崩していなかった。
「本当にいいのかな……だって相手はヒナが高いところに弱いのを知ってるんだぞ? それを利用して攻撃されたら……」
「だぁい丈夫だって。心配性だなぁ、美希は」
「でも、ヒナの高所恐怖症は一朝一夕では治らないし、私たちがフォローするにも限界が……」
 あくまでヒナギクの身を案じる美希だったが、事態を面白くするほうに期待を寄せている2人には通じなかった。
「だったらさ、格好いい助っ人とかが現れたりするんじゃない? 高いところに登って身動き取れなくなったヒナちゃんのことを助け出してくれる人とか」
「ヒーローものではお約束だもんな。それで 『呼んでくれればいつだって助けに行きますよ』 みたいなキザな台詞を吐いて、風のように去っていくとかさ」
「ははは、まっさかぁ」
 3人とも、この時点では単なる冗談のつもりだった。


Fin.

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