ハヤテのごとく! SideStory
ラブ師匠ウォーズ(後編)
初出 2009年02月09日
written by
双剣士
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************* 後編 *************
そんな風に三千院家でお嬢さまとハウスメイドが綾崎ハヤテのセーフティゾーンを探っていたのと同時刻。別のお屋敷にもう1人、少年執事の性向について思いを巡らせている17歳の少女がいた。他ならぬラブ師匠メルマガの発行人、霞愛歌その人である。
「こんなに手練手管を尽くしても動揺ひとつしないなんて……綾崎君ってひょっとして、○モ?」
自室でジャプニカ弱点帳のページをぺらぺらとめくりながら考える。確かに彼は中性的な雰囲気の男の子だし、学校の友人からも頼られるというよりは面白半分にいじられることの多いタイプ。彼への熱愛を隠さない同級生の男子すら居る。最初から同性にしか興味を持たない男の子なら、ナギに教えるアドバイスが一向に効果を見せないのも当然かも知れない。
「……ううん、それはないわね」
しかし愛歌は、脳裏に浮かんだ考えをすぐに否定した。軟弱なだけの男子にあの気難しい三千院ナギが魅かれるわけがない。それに……愛歌にとっては旧知の仲である、愛沢家長女の存在もある。ただでさえ友人の多い彼女がつまらない男を歯牙にもかけないことを愛歌はよく知っていた。会うために彼女が楽しそうに話題にする、まるでスーパーマンか不死身の忍者にも似た数々のエピソード。そこに出てくる少年があの綾崎ハヤテであれば、彼が見た目どおりの貧相な凡人であるはずがない。
「とにかくリサーチが必要ね。綾崎君についての」
相手のことを知らなければ何も始まらない、手っ取り早く調べるには大胆な仕掛けが必要……かつて生徒会長確実といわれた才媛は天才ハウスメイドと同じ結論に達した。ただし伝説の生徒会長と愛歌とでは2つの点で異なっていた。
そのひとつ目は同じ仕草でも演じる人によって効果が違うことをちゃんとわきまえていたこと。そしてもうひとつは、自分自身で動かなくても代わりに動かせる手駒を抱えていたことである。
「あ、もしもし朝風さん? 夜分遅くにごめんなさい、実は動画研の人たちにお願いがあって……」
「ダメダメ、そんなのぜーったいダメっ!!」
「なんでだ美希、こういうのはヒナの役目だろ」
「あ、いやその、ヒナちゃんにこういうことさせるの、なんか可哀想って言うか……」
翌朝、動画研の仲良し3人組……花菱美希、朝風理沙、瀬川泉……は珍しく意見が割れていた。副会長の霞愛歌から受けた依頼『綾崎ハヤテの異性免疫度を徹底リサーチせよ』を実行すること自体には誰一人として異論なし。しかしそのモルモット役に旧友の美人生徒会長を当てようと理沙が提案した途端、美希が猛反対を始めたのである。
「だってさ、実際に異性と接触させてみないとハヤ太君の反応なんて撮影できないんだぞ? 短期間に確実な結果をゲットするんだったら、最高グレードの女の子を割り振るのがセオリーじゃないか。ヒナがやって効果がないなら愛歌さんだって納得するだろ」
「ヒナはそんな風に遊びに使っていい子じゃない! もしハヤ太君がその気になったらどうする気だ!」
「どうするも何も、行くとこまで行くんじゃないか? ヒナは嫌なときは嫌と言えるタイプなんだから大丈夫だよ」
「冗談じゃない! ヒナをオモチャにされてたまるもんか、ヒナは大切な友達なんだぞ!」
ヒナのことは私が守る、とばかりに赤い顔をして仁王立ちする美希。しかし理沙のほうも譲らなかった。実際『ハヤ太君が好きになるとしたらヒナギクみたいなタイプ』という認識では3人とも一致していたのである。それを喜べるかどうかは別として。
「んー、でもさぁ、ヒナちゃんってこういう冗談に協力してくれるかなぁ?」
「拒否するだろうな、正直に話したりしたら。だから罠を仕掛けて誘い出す」
「それは……バレたら後が怖いよ?」
「問題ない。ヒナに怒られてるのは慣れてる」
「そうじゃなくて……」
泉も反対の立場だが、その口調は美希に比べると弱々しい。『ヒナを取られたくない』という本心をあからさまに出せる美希と違って、『ハヤ太君が他の子とくっつくのは嫌』だなんて気持ちを表に出すわけには行かないのだから無理もなかった。理沙も美希もそのことには気づいていたがあえて指摘はしない。ヒナギクの代わりに泉を抜擢したら今度こそ冗談では済まなくなるので。
「と・に・か・く! ヒナだけは絶対ダメだからな、誰がなんと言おうと!」
「私がどうかした?」
「げっ! ヒ、ヒナ……」
大きな声で宣言した美希の背後からひょっこり顔を出したのは、生徒会の仕事を片付けて朝の教室に入ってきた桂ヒナギクその人であった。あまりのタイミングの悪さに3人が口をパクパクさせる中、さらなる乱入者が決定的に事態をややこしくする。
「どうかしましたか? ヒナギクさん」
「あ、ハヤテ君おはよう。なんかね、美希たちが話してたみたいなのよ、私じゃダメだって」
「なんでしょうね? ヒナギクさんに出来ないことって」
「なんだか気になるじゃない? やりもしないうちに出来ないって決め付けられるなんて」
ヒナギクとハヤテのわずかな聞き違い。そこにすかさず突っ込んだのは、悪知恵の回転速度では動画研最速を誇る朝風神社の巫女であった。
「ああ、いやほら、動画研でも1本くらい映画を作ってみようかなと思ってさ。それでヒナをヒロインにすれば人気出るんじゃないかって話をしてたんだけど……無理だよな、出来ないよな? お忙しい生徒会長様のことだし」
「映画ですって? 理沙あなたまさか、また私に恥ずかしい格好をさせようとして……」
「わー、映画のヒロインですか。いいですねー、ヒナギクさんならきっと似合いますよ」
「ハ、ハヤテ君……」
もじもじと語尾を濁す生徒会長を見て、理沙は心の中で『ハヤ太君ナイス!』とVサインを出した。だがハヤテに向けられる美希と泉の視線は、なんとも複雑な色合いを帯びていた。
(完結編に続く)
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