ハヤテのごとく! SideStory
ラブ師匠ウォーズ(完結編)
初出 2009年02月09日
written by
双剣士
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************* 完結編 *************
「何よこれ? こんなの聞いてないわ、私に出来るわけないでしょう?!」
なんだかんだで動画研制作の映画のヒロインを引き受けることになった桂ヒナギク。だが翌日に理沙から渡された台本をみた彼女は金切り声をあげた。そこには男の子に情熱的なアプローチを迫る女の子の手練手管の数々が、これでもかというほど書き込まれていたのである。しかしヒナギクの反応をあらかじめ予期していた理沙は余裕綽々だった。
「仕方ないだろ、これはバレンタイン企画なんだ。女の子が男の子に告白することになってるんだよ」
「そんな恥ずかしいこと、できるわけ……」
「いいのかヒナ、バレンタインに女の子からチョコもらう日々がこれからずっと続いても? そんなんだから中身は男の子だなんて言われるんだぞ」
「うっ……」
口ごもるヒナギクに、ここぞとばかりに攻めかかる理沙。愛歌から頼まれたという真実を糊塗するためにわざと偽悪的に振舞うのは、理沙の得意とするところである。
「それにさ、ほら、ヒナって人気者だから。スクリーン越しでもいいからヒナに告白されてみたいって需要が多いんだよ」
「ちょっと、みんなに見せる気? ダメダメ、そんなの絶対ダメなんだから! そんなんだったら私、降りる!」
「逃げるのか、ヒナ?」
ところがここでヒナギクの退路をふさいだのは、昨日猛反対していたはずの美希だった。
ここでシーンは前日夜の作戦会議にさかのぼる。
「……という作戦はどうだ、美希?」
「なるほど。ヒナとハヤ太君の両方に『これは演技』と思わせておくわけか。これなら確かに危険はないな」
「でもさ、それじゃハヤ太君の反応って見られなくない?」
「大丈夫、演技って名目がある分だけ方法や回数は増やせるからな。それにハヤ太君が演技と知りつつ顔色を変えるようなら、それが彼のストライクゾーンってことだろ」
「なるほどね♪」
ヒナギクの言葉をハヤテが本気にしない舞台設定。それを聞いて安堵した美希と泉は、いつものゴシップ好きの性格に戻っていた。
そして最初のリハーサル日を迎える。綺麗にラッピングされたチョコレートの箱を握ったヒナギクは、普段の凛々しさはどこへ行ったかと思うくらい露骨に緊張しまくっていた。相手役に“偶然”指名された綾崎ハヤテが優しく声をかける。
「大丈夫ですよ、ヒナギクさん。これはあくまで演技、フリをするだけなんですから」
「え、えぇ、分かってるけど……」
ヒナギクの胸中は複雑だった。“なんで皆の見てるところで好きな人に告白しなきゃならないの”と心の片隅では思いつつ、“嫌ってると思われてる自分の気持ちに少しくらいは気づいてもらいたい”という想いもある。これから彼に対して行う告白を本気にされても困るし演技としてスルーされるのも困るという、実にややこしい立場に彼女は陥ってしまったのだった。誰にも相談できない類の悩みなだけに彼女の苦悩は深い。
「は〜い、それじゃシーン78テイク1、アクション!」
「ヒナちゃん、頑張って!」
泉たちの声援を受けて告白シーンに挑むヒナギクとハヤテ。2人は互いに向かい合い、じっと視線をからめ合う。そして……少女の震える手に握られたリボン付きのチョコレートが、おずおずと少年の方に差し出された。
「ハヤテ君、これ……あの、実は私、ずっと前からあなたのことが……」
「ありがとうございます。僕も出会った時から好きでしたよ、ヒナギク」
「えっ……」
《し、幸せすぎるっ!!!》
思わず頭を真っ白にしてしまったヒナギク。それに対し、女性側からの予定のセリフが出てこないことをいぶかしんだハヤテは沈黙を守った。そのまま十数秒……やがて監督の理沙から『カット!』の声がかかり、何事かと3人娘がヒナギクの方に駆け寄ってきた。
「どうしたヒナ、セリフを忘れるなんてヒナらしくもない」
「ご、ごめんなさい。なんだか緊張しちゃって……」
「初めてだから仕方ないよ、ヒナちゃん」
「ほら、ハヤ太君のことをカボチャか何かだと思えばいいんだよ。そんなにマジになること無いんだ、ヒナ」
ヒナギクの気持ちも知らずに勝手なことを言う3人。そんな風に思えたら苦労しないわよ、とヒナギクは心の中で毒づいたのだが……少年から放たれた一言を耳にして、一瞬にして憤怒の炎が全身を焼き尽くした。
「そうですよ、ヒナギクさん。どうせ本気じゃないって分かってますから。リラックスしていきましょ、リラックス」
「……(むかっ)……」
舞い上がってたのは自分1人で、肝心の相方はあくまで演技として彼女の言葉を受け止めただけ。そうと知らされたヒナギクの心には負けず嫌いの虫が住み着き、あっという間に彼女の逡巡や羞恥心を押し流したのだった。
《そう……さっきの一言はあくまで演技で、私の言葉も単なる演技だと思ってるわけね……いいわよ、それじゃその余裕、叩き潰してあげようじゃない!》
「ふむ……なるほどね」
理沙たちから届けられたDVDを見ていた霞愛歌は、ジャプニカ弱点帳に要点をメモしながら1人つぶやいた。綾崎ハヤテは結局ヒナギクの告白を本気にする様子は見せなかったけれど、いつもの人当たりのいい表情を脱ぎ棄てて動揺したり逃げ出したりする場面は随所に見受けられる。愛歌は早速その1つから導いたアドバイスを、メルマガに書いて送った。
好きな相手だからと言って甘やかしてはダメ。時には厳しく叱ったりひっぱたいたりすることも、2人の絆を確かめる大切なイベントなのよ
「……これは修正しなくても大丈夫そうですね、ナギがハヤテ君に無茶言うのなんて珍しいことでもないですし」
ラブ師匠メルマガを受け取ったマリアは、色っぽさのないアドバイスをそのままナギへと転送した。彼女にしては迂闊な行動だった。普段から我が侭放題を貫いている三千院ナギが「もっと厳しく」とアドバイスを受けた時にどうするか、ナギたちのじゃれあいを見すぎてきたマリアには想像の外だったのである。
……そして数分後、ナギの部屋で少年執事の阿鼻叫喚の声が響き渡ったのだった。
Fin.
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