Kanon SideStory
さゆりん包囲網(中編)
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中編
相沢祐一「‥みんな、気が付いてるか? 最近あいつらの様子が変だって」
水瀬秋子「ちょっと待って、祐一さん」
美坂香里「相沢君はともかく、他のふたりは‥」
天野美汐「‥ゲーム中では出会わない3人ですよね、私たちって」
祐一「‥と、とにかく、様子がおかしいんだよ。だからみんなの意見を聞きたいんだ‥まず、いつも俺に付きまとってくる名雪が、最近は昼休みに食堂について来なくなったし」
秋子「まぁ」
祐一「栞は昼休みに校舎裏に来なくなったし」
香里「ふぅん‥」
祐一「真琴は遅くまで帰って来なくて、たまに肉まんを買ってやっても見向きもしないし」
美汐「‥そうですか」
祐一「あゆは最近、商店街をうろうろしてないみたいだし」
秋子「あらあら」
祐一「それに舞は夜になっても学校に現れないし‥何かがおかしいんだ。揃いも揃って、きっと何かがあったに違いない。みんな、何か気づいてないか?」
香里「さぁ‥あの子たちにも色々とあるんじゃないかしら。でも、それより‥」
秋子「‥そうね、今の話を聞いてると、祐一さんは名雪とあゆちゃんと‥」
美汐「‥私の大切なお友達と‥」
香里「‥私の妹と、それとあと一人‥合計5人の女の子を、掛け持ちしてるってことよね」
祐一「‥うぐぅ」
秋子「あゆちゃんの真似しても誤魔化されませんよ」
美汐「女の敵ですね」
香里「そうね、みんなが相沢君に愛想を尽かしたことを喜ぶべきかもしれないわ。どうする? ここで私たちとしては‥」
美汐「‥こんな話を聞いて、見逃すわけにもいきませんね。懲らしめてやりましょう」
秋子「了承」
祐一「ち、ちょっと待ってくれぇ‥」
舞台は変わって、夜の生徒会室。
役員A「ではこれより、《ハートフル・トラップ》作戦の最終的なミーティングを行う」
役員B「諸君らには既に十分な報酬を与えてあるはずだ。ここにおられる先輩の高校最後の思い出のため、諸君らの奮起を期待したい!」
水瀬名雪「‥くーっ(椅子に座ったまま寝ている)」
役員B「ターゲットはまもなく、この学校に来る手はずになっている。ターゲットが校舎に入ったことを確認したら、月宮君には正面玄関を封鎖してもらい‥」
月宮あゆ「‥うぐぅ、ボク暗いところ駄目なんだよぉ‥(震えている)」
役員B「川澄さんには不測の事態に備えて、校門前で迎撃の任に就いてもらい‥」
川澄舞「‥(話を聞くそぶりも見せずに、周囲を警戒している)‥」
役員B「美坂君は巨大雪だるまに扮して、ターゲットを追い回してもらい‥」
美坂栞「あははは(テレビを見ている)」
役員B「水瀬君には、不安に陥ったターゲットの前に現れて、先輩のところまで誘導してもらい‥」
名雪「‥けろぴー(筆者注・寝言です)」
役員B「沢渡君には、ターゲットの女性がこの先輩に出会った後、白い布をかぶって襲い掛かって先輩に撃退される役を演じてもらう」
沢渡真琴「‥(漫画を読んでいる)‥」
役員B「以上、今夜こそが正念場だ! ではターゲット来訪予定時刻まで待機!」
役員A「‥大丈夫なのか、こいつら?」
役員B「‥聞かないでください、僕に」
そこへ、冒頭の4人が乱入。
役員B「な、何者だ貴様らは?!」
名雪「お母さん?!」
栞「お姉ちゃん?!」
あゆ「ゆ、祐一君?! どうしたの、その腫れ上がった顔は?」
祐一「‥俺のことはいい。それよりみんな、早くここから帰るんだ! 訳の分からん陰謀なんぞに巻き込まれることはないぞ!」
真琴「な、なによぅ、あなたには関係ないでしょ!」
祐一「名雪、眼を覚ましてこっちに来い!」
名雪「嫌だよ。一度引きうけたんだもの、最後まできちっとやるよ」
祐一「‥話しても無駄か。でもイチゴサンデー3つもおごってやれば、許してくれるよな?」
名雪「‥嬉しいけど、食べ物なんかで釣られないよ」
祐一「6個」
名雪「‥うにゅ‥」
祐一「8個」
名雪「‥だ、駄目だよ祐一。そんなこと言っちゃぁ‥」
祐一「10個」
名雪「‥ごめんねみんな。わたし、やっぱり強くはなれないよ」
水瀬名雪、祐一の元に駆け寄る。
香里「栞、馬鹿な真似はやめて帰ってきなさい!」
栞「お姉ちゃん‥ううん、いま私とっても充実してるの。病院には帰らない」
祐一「香里、ここは俺に任せてくれ‥栞、頼むから帰ってきてくれ。俺はお前を傷つけたくないんだ」
栞「祐一さん‥?」
祐一「香里に聞いたんだ、昔のお前が絵の練習をしてたスケッチブックがあるって‥言うことを聞いてくれないなら、俺はこれを学校中にばらまかなきゃならない」
栞「わーっ、そんなこと言う人は嫌いですっ!」
祐一「あれが人目に触れたら‥栞、お前は退院しても、この学校に通うことは出来なくなるぞ」
香里「そうよ栞、人としての道を踏み外しちゃいけないわ!」
栞「‥わ、わかりました‥でも、そんな言い方しなくても…」
美坂栞、陥落。
祐一「舞‥夜食を買ってきたんだ。一緒に食べないか?」
舞「‥牛丼‥」
祐一「(足元に牛丼を置いて)さぁ」
舞「‥‥(するすると歩み寄って、牛丼を掴み立ち上がる)」
祐一「(立ち尽くす舞に)ん? どうした?」
舞「‥(剣と牛丼を両手に持った体勢で)‥食べさせて」
祐一「‥ははは、そうだったな」
川澄舞、懐柔成功。
真琴「な、なによぅ、真琴はそんな手に引っ掛からないんだからね!」
祐一「ずいぶん強気だな、真琴」
真琴「ふーんだ、こっちには肉まんも漫画もあるんだから!」
祐一「ほぉ〜っ、でもこれはないだろ?(小猫を取り出す)」
真琴「ぴろ〜♪(小猫の名を呼んで駆け寄る)」
沢渡真琴、一瞬にして転向。
祐一「さぁて、これで全員だな。帰ろうか」
あゆ「うぐぅ、無視しないで‥」
祐一「さっ、行こうぜみんな。長居は無用だ(背を向ける)」
あゆ「祐一君!(祐一の背中にタックル‥するが寸前で避けられ、扉に激突)」
祐一「‥こんなとこで何やってんだ。さぁ帰ろうぜ、あゆ」
あゆ「(鼻を押さえながら)平然と言わないで! むちゃくちゃ痛かったよぉ!」
月宮あゆ、自爆。
役員A「な、何ということだ‥せっかく雇った助っ人が、たった一人の男によって‥」
役員B「5大ヒロインと言えども、主人公には及ばずか‥計画が甘かったんでしょうかね」
秋子「甘くないのもありますよ?」
名雪「お母さん?!」
秋子「みんな、よく帰ってきてくれたわね。さぁご褒美に、たんと召し上がれ!(ジャムの入った瓶を取り出す)」
助っ人5人、あっという間に生徒会陣営に駆け戻る。
名雪「や、やっぱりわたし、約束は守らないといけないと思うの」
栞「まるでドラマみたいですね」
舞「‥(剣を構える)‥」
真琴「ゆ、祐一のこと、絶対に許さないんだから!」
あゆ「ボク、頑張るよ!」
役員A「こ、これは奇跡か幻か‥」
役員B「‥雨降って地固まる、という奴ですかね。先輩、今がチャンスです。鉄の結束と高い士気を生かすのは」
役員A「う、うむ、よぅしみんな、作戦開始の前に、邪魔者を一掃するぞ!」
生徒会陣営一同「おーっ!」
‥そして数分後。死屍累々と倒れ伏す4人が、口々につぶやいた。
秋子「‥困ったわね‥」
香里「奇跡って‥こんな簡単に、起こるものじゃないのに‥」
美汐「‥やっぱり私たちは、束の間の奇跡の中に居るんです‥」
祐一「さ‥佐祐理さんが‥危ない‥」
(次回、佐祐理さん絶体絶命‥あぁっ、秋子さんのばかぁ!)
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その後の展開(あらすじのみ)
そして、深夜の学校に佐祐理さんが到着。
「あはは〜、舞が用事って、なんでしょう。祐一さんとアツアツのところを見せてくれるんですかね〜」
うきうき気分の佐祐理さん、玄関封鎖役のあゆあゆを完璧に無視。
「うぐぅ……ボクの出番、もう終わり……?」
次に現れた案内役の名雪に対しても、舞の居るところは分かってますからとあっさりかわしてしまう。
「……そんなこというなんて、ずるいよ……」
そして校舎内。いつもの廊下に舞はいない。不思議がる佐祐理さんの前に役員Aが登場。川澄さんが怪我しました、との嘘の説明を信じた佐祐理さんは、心配そうに役員の後について歩く。そこへ雪だるま役の栞、お化け役の真琴が襲いかかるのだが……きゃーきゃー言いながらしがみついてくることを期待していた役員Aの思惑はあっさり外れ。
「あはは〜、舞が相手にもしなかったザコの魔物さんですね〜。よくも舞を怪我させてくれましたね〜」
そういって小さな拳を振り上げる佐祐理さん。顔は笑ってるが目が怒ってる……肝っ玉の小さい栞と真琴に対抗できるわけもなく、2人ともあっさり退散。
そしていよいよ生徒会室前。佐祐理さんをここまで連れ込めば……そう考えて扉を開けた役員Aが見たものは、血を吐いて倒れ伏す役員Bとその脇に立つ川澄舞。
「舞!」
驚喜する佐祐理さんを一瞥して、役員Aに剣を向ける舞。どういうことかとうろたえる役員Aに、「……作戦」と一言だけ答える。「嘘付け、ウインナーに釣られて来たくせに……」とつぶやく役員Bの背中を、即座に踏みつぶす舞。
ことここに及んで、役員Aは泣き落とし作戦に出る。佐祐理さんと共に生徒会室で向かい合うことを幾度夢見たことか、一緒に居残りするのを願ったことか……舞がいるのでそれから先のことは言えなかったが、全身全霊で自分の青春の夢を訴える役員A。それに対し、
「あはは〜、舞と仲直りしてくれるなら、佐祐理は構いませんよ〜」
予想外にあっさりと承諾する佐祐理さん。祈るような目で見つめられた川澄舞は、ぽつりとつぶやく。
「……お腹空いた」
かくして彼女のご機嫌を取るべく、役員Aは自腹を切って舞の食べ歩きツアーにつきあうことになった。ほかのヒロインたちもそれに便乗するのだが、もうこの時点では役員Aに拒否権はない……。
そして数日後。生徒会室で佐祐理さんが来るのを今か今かと待ちわびる役員Aの元へ、後輩の役員Cが現れる。
「先輩、こんなとこで何やってんですか!」
「うるさい! 黙って出ていけ、我輩は忙しいんだ」
「何がなんだか知らないけど、卒業式に出なくて良いんですか?」
そう、その日は3年生の卒業式だったのだ。佐祐理さんたちは約束などけろりと忘れて卒業してしまい、卒業証書を受け取れなかった役員Aは留年の憂き目に……そして新学期、役員Aはさぞ落ち込んでいるかと思いきや……。
「頼む、生徒会に入ってくれ! 我輩の青春の思い出につきあってくれ!」
「……そんな酷なことはないでしょう」
相変わらずなのであった。
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