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ガリバーの陰謀(前半)

初出 2002年02月18日
written by 双剣士 (WebSite)
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 これは、ねこねこファンディスク所載の「名探偵・片瀬健三郎」を元ネタとしたB級パクリ小説です。そのため元ネタを知らない読者に対してはネタバレになるうえ、何が面白いのかさっぱり理解できない可能性があります。ご注意ください。


前半

 俺の名は片瀬健三郎。しがない探偵だ。
 相棒のクルーザー、ロシナンテと一緒に日々事件を解決している。
 探偵なんて言うと気ままに暮らしているように見えるかも知れないが、なかなか現実はどうして、そうも行かないもんだ。どうも俺はトラブルの女神とやらに気に入られているらしく、事件の方から俺のところに飛び込んでくると来ている。
「やれやれ……」
 俺は愛用のGT2000を飛ばしながら、ダンヒルの煙をくゆらせた。今日はゆっくりとロシナンテの手入れをしてやる予定だったが、あんな電話が掛かってきたとあっちゃそうも行かない。
『もしもし、こちらは片瀬……』
『あんた探偵? すぐに来て!』
『……君は誰だい? 君のような可愛い声を、俺は聞き忘れたりしないはずなんだが……』
『う、うっさいわね! 私が困ってるってのに放っておくつもり? 黙って来てくれればいいのよ、どうせ暇なんでしょ!(プツッ)』
 どうにも訳の分からない電話だったが、俺のところに駆け込む依頼人なんて大抵そんなもんだ。ほとんどが訳ありで、盗聴を恐れるせいか名乗りもせず逆探知もさせてくれない。電話の相手が俺以外だったらお手上げだろう……そこまで読んで俺に掛けてきたのなら、なかなかに人を見る眼のある依頼人だと言えなくもないが。
 俺は電話を切ってから、朝のステーキとコーヒーを十分に時間を掛けて味わった。それからテーブルに地図を広げて部屋の明かりを消した。続いて空の薬莢を紐でつり下げ、地図の上にかざす。
「コックリさん、コックリさん、どうぞ教えてくださいな……」

                 **

 数分後、俺はとある一軒家の前に立っていた。見た目はごく普通の一軒家に見えるが、あんな電話を掛けてくるくらいだ、平穏無事に迎え入れてくれるとも思えない。
 ふっ。
 トラップを十分に警戒しながら玄関に近づくと、俺は右手を懐に差し入れながら空いた手で引き戸を軽く引いた。鍵が掛かってる。当然だ。俺は鍵穴の前にしゃがみ込んで髪の毛を差し込み、罠が仕掛けられてないことを確認してから針金を取り出し……。
「こんにちは。清香ちゃんのお友達ですか?」
 突然背後から響く声。俺の背筋は凍り付いた。何の気配も感じさせずに俺の背後を取るとは……ただ者ではない。これまで幾人ものエージェントや殺し屋たちと渡り合ったが、これほど完璧に殺気を消せる相手に会ったのは初めてだ。銃を懐に置いたまま針金なんぞを手にした今の体勢では、とうてい反撃に移れるとは思えない。
 いま下手に動くとやられる!
「ごめんなさいね、いま玄関を開けますから」
 背後の人物はのんびりとした様子で扉を開けると、俺を追い抜くようにして家の中へと足を踏み入れた。相手が背を向けた……そう瞬時に判断した俺は針金を捨て、右手を懐へと……。
「さぁ、お入りください」
 振り返った彼女の視線に縫い止められて、懐へ差し込んだ俺の右手は凍り付いた。何の悪意もなさそうな、いかにも普通の主婦のような笑顔……こういう顔をしながら人殺しのできる奴が、俺たちの世界では一番恐れられる。片瀬健三郎、絶体絶命の危機か?
「……遅かったじゃない」
 そのとき、均衡を破るかのように第3の人物の声が家の中から掛かった。どこかで聞き覚えのある……そう、今朝の電話の声だ。目の前の主婦然とした女性が首を傾げ、視線が俺から外れる。
「清香ちゃん、あなたにお客様よ」
「……見りゃわかるわ。あとは私がやるから、さっさとどいてよ」
「えぇ」
 ……どうやら主婦然とした人物は、俺の依頼人の身内らしい。それならば当面は戦わずに済みそうだ。俺はほっと胸をなで下ろした。

                 **

 数分後。俺は依頼人の家の2階で、今日3本目のダンヒルをふかしていた。緊張した後の一服は格別だ。こんな世界も悪くないと思わせてくれる。
「ちょっと、部屋がタバコ臭くなっちゃうじゃない、やめてよね」
「おっと、これは失礼、おチビちゃん」
「チビって言うなぁ!」
 いかにも女の子らしい部屋のベッドの上で、今回の依頼人は声を荒らげた。殺伐とした世界で生きてきた俺なんかにとっては新鮮な感じがする彼女の部屋。綺麗に片づけられた様子から、几帳面で慎ましやかなレディの生き様が感じられる。
「……俺の勘も狂ったかな」
「ちょっと、それどういう意味よ? 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよぉ!」
 なおも脇から聞こえてくる甲高い声。このまま現実逃避しているわけにも行かないようだ。俺はベッドの上のおチビちゃんの方に向き直った。
「……で、今朝の電話は君が掛けてきたんだな、おチビちゃん」
「チビって言うな……って、これじゃ話が進まないわね。そうよ。こんなこと誰にも相談なんて出来ないし」
「STOP。言わなくていい、一目みて分かった」
 小さな布一枚を羽織っただけの姿の依頼人は、ベッドの上で仁王立ちしていた。傲然と無い胸を張って……身長15センチに縮んだ今となっては、無い胸がさらに無くなってしまっていたが。
「……なんか、あんた失礼なこと考えてない?」
「気のせいだ。それじゃ、君をそんな姿にした相手のことを聞こうか」

                 **

 今回の依頼人……小野崎清香の話によれば、始まりは通信販売の目録だったそうだ。すらりと身長が伸び身体の凹凸もくっきり……そんな宣伝文句を信じて購入した薬を飲んだ途端、いきなり全身が手のひらサイズに縮まってしまったらしい。脱げた服の山から抜け出して電話のスイッチを押すまでに一苦労をしたと言っていた。
「粗悪品よ、粗悪品! 私が期待してた効果と正反対の薬を送ってきたんだわ! ひどいと思わない?」
「こんな薬を作れる通販会社なら、それはそれですごいと思うが」
「なによぉ、人ごとだと思って!」
 おチビちゃんは涙目になって訴えた。普通の人間がこんな目に遭えばもっと落ち込みそうなものだが、この依頼人は怒りが先に立つタイプらしい。俺としても、湿っぽくなるよりは有り難いが。
「……で、医者を呼ぶ前に俺のところに電話してきた理由は?」
「医者なんて呼べる訳ないじゃない。実験室のフラスコに閉じこめられるなんて真っ平よ。あんたに頼みたいのは、ねぇ……」
「裸のままじゃ困るから、着せ替え人形用の服を買ってきて欲しいと」
「変態か、おのれはぁっ!」
 おチビちゃんは俺の腕を蹴ったり叩いたりしたが、もちろん痛くも痒くもない。からかいがいのある依頼人だ。
「とにかく! すぐに通販の会社に抗議に行くのよ!」
「……はたして解毒剤を持ってるかどうか」
「解毒剤なんか要らないわよ! 私が注文したのは背が伸びる薬! クレームつけて、一番効果があるのと交換してもらうんだから!」
 こんな目にあっても、身長が伸びる薬の方は信じているらしい。だが俺の方はそう脳天気には居られなかった。裏の世界の論理からすれば、目立つだけの巨大薬よりは隠密行動に適した縮小薬の方が使いでがあるだろう。つまり縮小薬のほうしか開発していない可能性は極めて高い……本来ならおチビちゃんの手に渡るような品ではないのだろうが。
「ん、まてよ……おチビちゃん、その薬はいつ届いた?」
「な、なに? 今朝よ今朝……あんたに電話した10分ほど前」
 こんな薬を作れるのは、まっとうな組織ではない。そんな裏の組織が、貴重な縮小薬が人手に渡ったことを見逃すはずは……。
「おチビちゃん、逃げるぞ!」
「え、え、なになに?」
 俺はおチビちゃんを胸のポケットに放り込むと、使い残しの縮小薬をつかんで部屋を飛び出した。家のそばに停めておいた愛車GT2000に飛び乗って、エンジンを……。
 チッチッチッ……
「ん? こ、こいつは! くそっ!」
 ごろごろごろごろ−−−っ!
 ボンッ
 派手な音を立てて吹き飛ぶ、俺の愛車GT2000。
 ……さらば、My Friend。お前の走りは忘れない。
「な……なんなのよ、今の?」
 さすがに怖くなったか、ポケットの中のおチビちゃんの声も震えている。思ったよりも敵の動きは早いようだ……だが何も知らないおチビちゃんを心配させることも無かろう。
「気にするな。こういう仕事をしてると、いろいろと狙われることも多いんでな」
「えっえっ、えぇえっ!!」
 目をきょろきょろさせながら首を振るおチビちゃん。とんでもないことに巻き込まれたと思ってるんだろう……安心してくれ、俺も同じ気持ちだから。

                 **

 もう1台のGT2000に乗り換えて、俺とおチビちゃんは繁華街に向けてドライブしていた。
「……いつの間に2台目の車を持ってきたのよ?」
「気にするな。いつものことだ」
 震えているおチビちゃんに上着を貸してやりたいところだが、そのまま窒息されても困る。仕方なく俺は、彼女をレーシング用のグローブの中に入れて急場をしのぐことにした。指の穴から少女の両足がつきだしている姿はなかなかに艶めかしいものがあるが、反対側から突きだした首から飛び出す罵詈雑言がそれをうち消して余りある。
「……それ以上言ったら殺すわよ」
「勝手に人の心を読まんでくれ」
 グローブをかぶったまま胸ポケットに入ったおチビちゃんは、ぶすっとむくれた。なんだかんだ言っても不安なのだろう。何か喋っていないと気が収まらないらしい。
「ねぇねぇ、これから通販の会社に乗り込むんでしょ?」
「いや、その前に寄るところがある」

                 **

 繁華街に停めた車におチビちゃんを残し、俺は街の裏通りへと向かった。場末の酒場の裏口に入り、合い言葉を交わして奥へと進む。
「雨が上がって良かったっスね」
「洗濯物が、よく乾きます」
 さらに奥に進むと、ロウソクの明かりの漏れる扉が見えてきた。その奥に、俺を待つ女が居る。
「いらっしゃいませ♪」
「しばらくだな、アサミ」
 闇の情報屋アサミ。これまで彼女の情報に何度も助けられてきた。今回のように裏組織の影の絡んだ仕事をするときには、一度はここに通うのが俺の習慣である。もっとも……。
「何になさいますか? 本日のメニューは、○○がお勧めですが♪」
 ……こんなに愛想のいい女ではなかったはずなのだが。
「いつものを頼む」
「かしこまりました♪」
 目の前の女情報屋は、いつものように水晶球を取り出……すのではなく、桐の箱から取り出した首飾りをぶら下げて見せた。白い石が銀色の糸の先で揺れている。俺の脳裏に電流が走った。
「お前、本当にアサミか?」
「はい、アサ○ですよぉ♪ さぁて、あなたのお願いを言ってください♪」
 怪しすぎる。俺はとっさに席を立ち、目の前の女との距離を測った。この女は危険だ。首飾りを前にして願いを口にした途端、とんでもないことが起こるような気が……。
「ちょっとアサ○、なに油売ってるのよ? さっさと戻って働きなさい!」
「あーん、許してお姉ちゃあ〜ん」
 ……と思った途端、部屋の背後から白い手が伸びて女情報屋の首根っこをつかんだ。そのままズルズルと引きずられていく怪しい少女……唖然として見送る俺の前に、今度は本物のアサミが現れた。
「お待たせ、しました」
「……なんだったんだ今のは」
「めっ」
 アサミは人差し指を1本たてて、俺の追求に釘を差した。俺の好奇心はしおしおとしぼんでいった……さすがは裏の情報屋。料金外の情報は一言たりとも漏らさない。人の生命が石ころよりも軽いこの世界で身を立てるには、こうした技も必要なのだろう。
「いつもの、ですね?」
「……あ、ああ。頼む」
 水晶球に手をかざしたアサミは、真剣に水晶の光をのぞき込んだ。完璧な占い師の仕草。この光景をみて、裏世界の情報がやりとりされているとは誰も思うまい。
「みーちゃん」
「ん?」
「みーちゃん、と出ました」
「みーちゃん、か……そうか、そんな裏があったとはな。礼を言うぜ、アサミ」
「……お気をつけて」
 情報を得た以上、長居は無用。互いの事情を深く詮索しないことは裏世界での付き合いの常識である。俺は席を立ち、背を向けて扉へと向かった。
「……あの、それから」
「うん?」
「……みーちゃんは、帰ってきません」
「そうか。それで繋がった。ありがとうよ、アサミ……そっちも気をつけてな」
「……はい」

                 **

「で、どういうことになったのよ?」
 愛車GT2000に戻って道路に滑り出した途端、おチビちゃんの追求が始まった。彼女にはあまり心配をかけたくなかったが、こうまで事態が大きくなってくると言いつくろうのも難しい。俺は大まかに事態を説明することにした。
「思った通り、この件には裏組織の陰謀が絡んでいる……世界の根幹を揺るがしかねない途方もない計略だ。おチビちゃんが手に入れた薬は、その謎を解き明かす鍵ってわけだ。おチビちゃんも俺も、もう引き下がれないところまで関わっちまったらしいぜ」
「……“みーちゃん”って言葉1つから、よくそこまで引き出せるものね」
「こら、心を読むなって言ったろうが」
 俺たちは高速道路を南に向かっていた。悪辣な陰謀は政財界に広く根を張っていたが、まだ完璧とは言いがたい。世界が動乱に巻き込まれるのは避けられないとしても、このおチビちゃんの身辺だけでも安全にしてやるのが俺の仕事だ。
「そういうわけで、通販会社などは末端にすぎない。この陰謀から身を守るには、中心部に痛撃を食らわせるのが唯一の策だ。少々荒っぽいやり方だが、この薬の開発者と直接交渉する。場合によっては力づくになるが」
「簡単そうに言うけど……そんな陰謀に絡んだ薬なんだったら、開発する人って地下の研究所とか、そういう秘密の場所に隔離されてるんじゃない?」
「心配するな、俺だって素人じゃない……着いたぞ」
 某有名寿司チェーン店の前で、俺はGT2000を停めて車から降りた。チェーン店の入っているビルの4階、明かりの消えている一角に俺の求める相手は居る。
「ここだ」
「ここぉ?」
 疑惑のまなざしを向けるおチビちゃんをポケットに放り込み、俺はエレベーターに乗った。3階と4階のボタンを同時に押して待つこと10秒……2つのボタンが同時に点滅し、エレベーターの扉が開いた。
「隠し階だ。こういう場所を設けるのはこの世界では常識……うっ?」
 一面に立ちこめる血の臭い。その中央に人の気配が……俺は殺気が消えていることを確認すると、懐中電灯を室内に向けて状況を把握し、あわてて駆け寄った。
「しっかりしろ、おい!」
 胸から血をあふれさせている女性。医者に見せるまでもなく致命傷だ。裏組織の手はここまで伸びていたのか……悔しさを噛みしめる俺の腕の中で、縮小薬の開発者である進藤博士の唇が動く。
「せ、せっかく……」
「ん? なんだ、聞いてやるぞ!」
「せっかくSSに……出られたのに……ぐふっ……また私だけ、こんな……役だなんて……ガクリ」
 みるみる冷たくなっていく進藤博士。さすがに刺激が強すぎたらしく、胸ポケットのおチビちゃんも表情を蒼くしている……だがこのとき、俺の頭にはピンとひらめくものがあった。
「こんな役……ガクリ……そうか、そうだったのか!」

                 **

 数分後、俺とおチビちゃんはGT2000で黄昏の街を疾走していた。
「ちょっと待ちなさいよ! 殺人事件の第1発見者でしょ、警察が来るまであそこで待つのが市民の義務じゃない?」
「俺みたいな人間には、市民の義務など関係ない……もう何年も税金を払ってないしな」
「威張って言うことかぁっ!」
 死体を見るのは初めてだろうに、おチビちゃんは相変わらず元気だった。
「で、どうするのよこれから? 手がかりがなくなっちゃったんでしょ?」
「そうでもない。進藤博士の最後の言葉、覚えているか?」
「……なんだか、思い出しちゃいけない台詞だったような気がするんだけど」
「こんな役、ガクリ……そう言ったんだ。裏組織に気づかれずにメッセージを残すには、これが精一杯だったんだろう」 
 YAKUとGAKURI。このアルファベットを組み合わせて並べ替えると、AYUAYU UGUU、つまり“あゆあゆ、うぐぅ”となる。これは太古より連綿と伝わる青少年洗脳のキーワードであり、その起源はアトランティス大陸の時代まで遡る。この言葉と今回の事件そしてアサミの情報とをつなぎ合わせると、浮かび上がってくるのは全世界的な陰謀……ストーンヘンジとスフィンクスとモアイ像をリンクさせ、エーテル効果によって劣性遺伝子を排除、選ばれし勇者たちのチャネリングによってオリオン大星雲に毒電波を送信しようという悪魔の計略である。それが成功した暁には、地球は宇宙海賊からの報復を受けて滅亡か隷属を強いられることは必定。
 この計画を遂行する組織の中枢基地は、ピリレイス地図を10次元紐理論を用いて解読し、それに地軸移動と赤方偏移を考慮した補正をかけることで求められる。
「そして得られた秘密基地の場所に、俺たちは向かっているというわけだ……おい、どうした?」
 おチビちゃんの返事がない。視線をポケットにおろすと、派手に転倒したおチビちゃんがこめかみを押さえながら身を起こそうとしていた。
「あ、あのさぁ……さっきの人の話から、どうやってその“あゆあゆ、うぐぅ”とやらに結びつくのか、もう一回説明してくれない……」
「企業秘密です♪」
「じゃ、じゃあ1万歩ゆずったとしてさ……どうやったらそんな推理につながるのか、私にも分かるように説明して見なさいよ!」
「これ以上はボクの口からは言えないよ。関係ない人を巻き込みたくないからね」
「他社ネタでごまかすなぁっ! さっきから聞いてれば、全部あんたの妄想でしょうが!」
「そんなこと言う人、嫌いです」
「やめんかい!」
 おチビちゃんが頭から湯気を立てている。まぁ、一般人に付いてこられないのも無理はない。だが数々の難事件と向き合った俺が今こうして五体満足で居られるのは、この名推理のおかげなのだ。
「はぁ……探偵って頭が良くないとなれないって思ってたんだけど。まさか、電波の入ったオカルトおたくに頼むことになるとは思わなかったわ」
「十字アンテナつきの通販マニアに言われたくはないな」
「な、なによなによ! あんたには関係ないでしょ!!!」
 これから乗り込むのは敵の本拠地。この黄昏を目にするのはこれが最後になるかもしれない。だが俺とおチビちゃんに悲壮感は微塵もなかった。死地に挑む気分としては悪くない。これで相棒がうら若き美女ならば、生還を約束する洒落た台詞のひとつも吐くところなのだが。
「また失礼なこと考えてるんじゃない?」
「気にするな、おチビちゃんにヒロイン役を期待してるわけじゃない」
「……あんた、向こうに着く前に死にたいみたいね……」
 おチビちゃんは拳を固めて唇をわななかせたが、これから俺たちを待ち受ける運命に比べれば、彼女の怒りなどそよ風のようなものだった。

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