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気になるあの娘と、晴れた日に

初出 2004年06月16日
written by 双剣士 (WebSite)
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草サッカー編 TRUE END

「それで? ねぇパパ、それからどうなったの?」
「ああ、もちろん勝ったさ。あれは嬉しかったなぁ」
 今年10歳になる岡崎汐おかざき うしお。朋也と渚の間に生まれた1人娘は、瞳をらんらんと輝かせながら父親の昔話を聞いていた。
「ふ〜ん……でもパパ、結局パパはゴール決められなかったんだね」
「それは仕方ないさ。パパはそういう役割じゃなかったんだし」
「ママなんか、ぜんぜん活躍してなかったみたいじゃない」
「ママはパパの後ろで、パパに守ってもらってたんですよっ。ねっ」
「あ、ああ……」
 幸せそうに笑顔を向けてくる妻の渚が眩しくて、朋也は照れたように鼻の頭をかいた。1児の母になってから10年が経つというのに、渚の持つほんわかとしたムードは学生のころからぜんぜん変わっていない。さすがは早苗さんの血筋である。
 ……かくいう朋也も数年後には娘から『万年新婚夫婦っ』とからかわれることになるのだが。
「でも、すごいよねぇ……杏先生や風子おねぇちゃんも一緒に出てたんだ。見たかったなぁ」
「えへへ……」
「そうだな。あのときのあいつらは輝いてたしな」
 渚の体調のために汐を一人っ子にしてしまったことを最初のうち朋也たちは残念がったが、それが杞憂であることを知るのに時間はかからなかった。汐のことを『教え子』と呼び、『妹』と呼ぶ昔の友人たちが毎週のように岡崎家に押しかけてくるようになったからである。おかげで高校を出てから10年余がたった今となっても、あのころの腐れ縁は続いている。
「春原のおじちゃん、結局いちばんゴールが多かったんだね。信じられないけど」
「……気の毒にな」
 春原陽平はある意味、あのサッカーの試合で最も人生を狂わされた1人であった。最初のうちは滅多打ちにされた恐怖が蘇って来ていたものの、時間が経つにつれて悪い記憶が薄れてくると『僕はあのサッカー部からハットトリックを決めた男だ』という妙な自信を抱くようになってしまったのである。高校卒業後はJリーグの入団テストで全国行脚し、いまでもプロや実業団のサッカーチームの入団テストを渡り歩く『サッカー浪人』人生を送っている。旧友たちからは悲しいものを見る視線を投げかけられている彼ではあったが、自分の夢に向かって挑戦し続けているという意味では、幸せな20代といえるのかも知れない。
「でもさパパ」
「うん?」
「ことみって、あのことみお姉ちゃんのことでしょ? それに智代って、この新聞に出てる人?」
「ああ」
「すご〜い!」
 ことみは今では海外で多くの学術賞に輝き、先日はこの街の名誉市民に認定されたばかり。智代はと言えば、いまや彼女の発言が新聞に載らない日はないという有名人。手の届かないところに巣立ってしまったかに思われた彼女たちであったが……気がついてみると、いつの間にか彼女たちもこの街に舞い戻ってきていたのだった。
「すごいやつらだったよ……本当にな」
 昔を振り返るには若すぎる。そう自覚しながらも岡崎朋也は懐かしく思い出さずには居られなかった。あの夏の奇跡を凝縮したような、暑い暑い1日のことを。

最終結果

古河 鬼畜 ベイカーズ VS サッカー部 8 − 7 1分 秋生 2分 部員A 11分 ことみ 7分 部員B(PK) 24分 ことみ(FK) 12分 部員C 32分 陽平as杏 14分 部員B 34分 陽平as芽衣 17分 部員C 37分 陽平as杏 19分 部員D 39分 智代 30分 部員A 42分 芽衣asことみ MVP 一ノ瀬ことみ


Fin.

筆者コメント
 草サッカー編、これにて完結です。エピローグに出てきた岡崎家の光景は、近日執筆する予定の『汐ルート』のプロローグだとお考えください。ご愛読ありがとうございました。


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