CLANNAD SideStory
気になるあの娘と、晴れた日に
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陽平・芽衣4
そして、お祭りの日の夕方。3年ぶりに田舎に帰ってきた春原陽平と待ち合わせをしていた3人の悪友たちは、両手に花状態で颯爽と歩いてくる陽平の姿に唖然とした。一方は彼らもよく知ってる、陽平の妹の芽衣。しかしもう一方は……。
「やぁやぁやぁみんな、久しぶりだね。僕は見てのとおり、順風満帆さっ」
「あ、あの、こんばんはっ!」
「こんな田舎にようこそ。あの、僕××って言うっす」
「良かったら、ご案内しましょうか? このお祭り、けっこう迷子になりやすいですから」
……集まった友人の誰1人として、陽平の挨拶などに興味はなかった。殺到する自己紹介と質問の嵐にたじろぐ女性に助け船を入れるべく、浴衣姿の芽衣がフォローに入った。
「あの、この人は伊吹公子さんと言いまして、私のペンフレンドです。今日お祭りがあるって話を手紙でしたら、ぜひ遊びに来たいと言ってくれて……」
「こんばんは。皆さんにお会いするのを楽しみにしていました。よろしくお願いします」
野原一面に咲くタンポポのような柔らかい笑顔に、一瞬にして骨抜きにされる陽平の悪友たち。さすがに春原の同類、こういう美人を相手にそつなく振る舞う余裕などない。
「こ、これは、ご丁寧に。こちらこそよろしくっす」
「芽衣ちゃんのお友達っすか。なら僕ともお友達ですねっ」
「さっ、そうと決まればさっさと回りましょう、暗くならないうちに」
「ちょっと待ったぁ!」
話の輪に入れない約1名が、胸をそらしながら大声を張り上げる。あ、お前いたの? とでも言いたげな表情を浮かべながら一同は振り返った。
「勝手に出しゃばるなっ! 公子さんは僕と芽衣が招待したんだよ、お前らの出る幕なんて無いのっ!」
「……本当に?」
「そんなのタダの口実ですよね、お祭りを見に来たんでしょ、春原をツテにして?」
「いいえ」
春原の信頼度を如実に示す暴言にさらされながらも、都会から来た丸顔美人は優しい笑顔を崩さなかった。
「芽衣さんとお話ししてて、よくお兄さんの話題が出てきていたので……一度お会いしてみたいと思ってたんですよ。もちろん、お兄さんのお友達の方にも」
「ほらねっ」
「そんな……」
「…………」
「…………」
台本以上の名演技を見せる公子の言葉に陽平は得意顔になり、芽衣は申し訳なさそうに顔を曇らせる。それを聞いた春原の悪友たちは一様に顔を見合わせ、そして腹の底からの悲鳴を発した。
「なんて不憫(なっ!!!」
**
驚愕の出会いから冷めた後、6人は連れもってお祭りの会場を回り始めた。公子の趣味や好きなタイプを聞きたがる友人たちに対して、彼女は柔らかく矛先をいなしながら話題を春原陽平の方に持っていった。一時は学校の先生をしていた彼女の特技がそれであることを、もちろん芽衣たち5人は知る由もなかったが。
「そんなに春原のことが気になります? こいつどーしようもない奴ですよ、何をやらせてもヘタレで」
「そうなんですか? でも芽衣さんの話では、サッカーが得意で格好の良い人だって」
「それは芽衣ちゃんの贔屓目ってやつですよ。春原のだらしなさは、俺たちみんな知ってますし」
「お、お前ら、そんなことどうでもいいじゃないか。ほらほら公子さん、あそこに見える御輿はね……」
冷や汗を垂らしながら話題を変えようとする陽平。彼としては公子の前で滅茶苦茶を言われるのも嫌だし、あまりサッカーの話題で持ち上げられるのも後味が悪かったりするのだった。だがそんな懸念は友人の一言で吹き飛ばされた。
「そうですよ。なんたってこいつ、サッカー進学した先の高校で落ちこぼれて、不良やってるんですし」
「……お、お前ら、なんでそんなことを!」
「ばーか。俺たちが知らないとでも思ってんのか? 格好つけようたってダメ、ダメ」
「芽衣〜っ!!」
怖い顔で妹をにらみつける陽平に、ごめんなさい、と小さく舌を出す芽衣。しかし小さな少女をかばったのは意外にも陽平の悪友たちであった。
「落ち着けよ春原、芽衣ちゃんがお前のこと悪くいう訳ないだろ? 長い付き合いなんだからさ、言葉の裏くらい分かるって」
「名門校のサッカー部なんて、ろくでもないとこばっかりだもんな。お前が管理サッカーに馴染めないことぐらい、ここを出ていく前から俺らには分かってたし」
「だいたい想像できないもんな、こないだまで俺らと神社裏でボール転がしてた春原が、国立だのなんだのってスタジアムで脚光を浴びる姿なんてさ。万一そんなことになったら、俺らなんか近寄ることも出来なくなっちまうだろ」
「そうそう」
「お……お前ら……」
じーんと胸を熱くする陽平と、立ちつくしたまま口を手で覆う芽衣。口は悪くても友人たちが飾らない陽平自身を見ていてくれたことに兄妹は感激していた。そして感激が照れ隠しへと替わる絶妙のタイミングで、公子が口を開いた。
「なんだか聞いていると、やっぱり春原さんって素敵な人なんですね。みなさんにこんなに愛されてて」
「なっ……誤解、誤解ですよ公子さん! なんでこんな奴を俺らが」
「お、おい、さっきと言ってることが違うじゃんか!」
「うるせぇ! 乗せられて心にもないことを口走っちまったじゃねぇか、死ねコラ!」
「ぐはっ、チョークチョーク、ギブギブっ!」
他愛のない揉み合いを始める少年たちを、公子は優しい表情で見守っていた。そんな彼女を脇から見上げる芽衣の視線は、いつしか憧憬の色を帯びてきていた。
**
「でさ、やっぱ僕と公子さんってお似合いだと思うわけよ。そうだろ?」
「あぁ、あぁ、そうかもな」
その日の夜。芽衣や公子が寝静まったあとで、幸福感で一杯の陽平は歓喜の電話を岡崎朋也の自宅に掛けていた。電話の声で父親が起き出さないよう注意しながら、夜中にたたき起こされた朋也は言われるままに相づちを打っていた。
「あぁっ、これって恋だよな、運命だよな! やっと僕にも天使が巡ってきたんだね、役目を譲ってくれた岡崎には感謝、感謝だよ!」
「あぁ、おおいに感謝してくれよな。とりあえず土産、待ってるから。俺と杏と藤林の分、な」
「分かってるって。いまの僕に不可能なんてないのさっ! じゃ切るからね、月曜の報告を楽しみになっ」
浮かれ気分のまま電話を切る陽平。電話口の朋也は溜め息をついた。春原はまだ知らない……公子さんが春原と同じ町内の住人で、ニヒルな婚約者と口うるさい妹を持つ身であることを。
- 筆者コメント
- はい、春原兄妹ルートこれにて完結です。この先に何が起こるかは皆さんのご想像にお任せしましょう。
ところで「なんて不憫なっ」って台詞はCLANNADで一番爆笑した台詞でもあるんですよね。もしボイス有り版が発売されたら、まずはこの悲鳴混じりの叫びを聞くべく芽衣ルートに突進しちゃうと思いますです。
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