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朝風が吹く頃に
日時: 2015/04/19 18:43
名前: ネームレス

 僕はその日、運命に出会った。
 何気無く通りかかった道。なんとなしに登った階段。まるで時間に置いていかれたかのような神社。
 そして、静かに佇む黒髪で巫女服を着た長身の美少女。
 朝も早い時間帯。自分でもなぜこの時間帯にこんな場所にまで来たのかわからない。それこそ、まるで導かれたかのようだった。

「キミ」

 声をかけられたのだと気づくのに、少し時間がかかった。
 女性にしては少し低く、それでいて女らしいその声は僕の心を撃ち抜いた。流れ弾にでも当たった気分だった。

「は、はい」

 普段の自分ではありえないぐらい硬い声だ。否定できないくらい自分は緊張している。そう自覚した。

「そこは危ないぞ」
「え」
「キサマ。そこで何をやっている」

 不意に、後ろから声をかけられた。
 そこにいたのは見た瞬間にボケてることがわかるじいさんだった。

「あ、いや、僕は怪しい奴じゃ」
「怪しい奴じゃとぉおおおおお!? 出会え、出会えぇええええ!」
「えええええ!?」

 このじいさんが叫ぶと神社の奥から鬼の面を被った筋骨隆々の男が二人して俺を取り囲んだ。

「待ってください! 僕は怪しい奴じゃないです!」
「証拠はあるのか証拠は!」
「僕はただ、目が早く覚めたから何気無く通ったことの無い道を通って、なんとなしに見覚えもない階段を登って、ただ偶然この神社に辿り着いただけで__」
「それのどこが、怪しくない証拠なんじゃああああ!」

 いや、どっからどう聞いても怪しくな__。
 はたと気づく。恐らくこのじいさんはこの神社の主っつーか、神主っつーか、恐らくそんな感じなのだろう。つまり、ここはじいさんの家、もしくは敷地ということに。
 そして、もし自分が自分の家に見知らぬ奴がやってきて「偶然目が覚めて偶然知らない道を通って偶然知らない場所に出くわして偶然この家に辿り着いた」と聞かされたら、どう思うか。
 ……………………。

「あーあ。ダメだこりゃ。自らカミングアウトしてら」
「見事に自爆してんな」
「ち、ちが」
「かぁああああああっ!」

 やばいやばいやばい!
 自分の立場が凄く危ういことに今頃になって気付き、助けを求めるように先ほどの美少女を見ると

「ニヤニヤ」

 なぜかとても楽しそうにこちらを眺めていた。
 あ、終わった。

「きぇえええええええええい!」
「ぐふぅっ!?」

 僕の意識が少女に向いた瞬間、強烈な衝撃が僕の体に走り、意識が遠のく。

「連れてけぇ!」
「「はい」」

 意識が遠のくなか、少女が意味深な目線をこちらに向けていた光景を最後に、目の前が真っ暗になった。



「出してくれぇ〜。頼むから出してくれぇ〜」

 涙混じりの懇願。
 うん、なんというか、今一生に一度味わえるかどうかの経験をしている。
 目に見えるは地下空洞。
 手に触れるは金属の檻。
 ここは牢獄だった。
 ……というかここはマジでやばい! なんか骸骨とかあるし! 人死んでんじゃねえか!

「死にたくねえええええ!」
「わかったわかった。今出してやるから騒ぐな」
「死にたくない死にたくない死にたく……え?」
「ほれ」

 ガチャン。
 音がするとともに檻が開いた。
 よくわからず、とりあえず警戒しながら牢屋を出て、助けてくれた人物を見る。
 その人は、先ほどの女性だった。

「あ……ありがとう、ございます」
「ふむ、素直に礼を言われるのはいつぶりか……とりあえず外に出るか。ここは危険だからな」
「は、はい!」

 巫女服の女性は先導するように足早に動く。置いていかれないようにそれを急いで追いかけた。
 やばい、ドキドキする。あぁ、この人なんて名前なんだろう。なんか立ち振る舞いとか醸し出す雰囲気とかすっごくかっこいい。
 そう、ドキドキし過ぎて

「…………」
「…………」

 __凄く気まずい。

「あー、えーっと、危険ってどう危険なんですか?」
「どうもこうも道をしらない者が入れば死ぬまで迷い続けるような広大な地下空洞にいるということ以上に危険なことがあるのか?」
「は、はは、そうですよね。……そんな広いのか」
「ま、ここが危険なのは別の理由だがな」
「別の?」
「ああ。ここには巨大な「グォオオオオオオオオ」」
「……なんて?」
「だから巨大な「グォオオオオオオオオ」」

 …………。
 何だろう。この不吉な感じ。
 よくわからないけど、ドシンドシンって地響きがなってるのはなぜだろう。
 よくわからないけど、唸り声が近くなってるような気がするのはなぜだろう。
 よくわからないけど、目の前の女性が後ろを見て「おぉ」と薄いリアクションで驚いてるのは__マジでなぜだろう。
 僕は恐る恐る後ろ向いた。そこにいたのは__





 __巨大なワニ。





「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ぎゃぁああああああああ!!! ワニぃいいい!? で、でけえええええええ!!!」

 でかいよ! どこのファンタジーだよ! というかなんでこんなワニがこんなところにいるんだよ!

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ぎゃぁああああ! 喰われるううううううう!」

 あ、死んだ。
 そう思ったその時だった。

 チャキッ

「グ……」
「…………」

 え? なんで黙ってるの?

「グ……ウ……ォオ」
「……ぱあん」
「ッ!!!」

 気の抜けたような声でそんな事を言う。何をしているのか全くもって意味不明だが、ワニは急に慌て出し、地響きを立てながら奥へと去っていった。

「……あの」
「やはり前回のことがトラウマになっているか。まあいい。行こうか」
「…………」

 袖にしまった黒い物体はなんだったのか。
 僕はこの神社の闇を垣間見てしまったのかもしれない……。



「さ、おじいちゃんが来る前に帰った方がいいぞ」
「あ、はい」

 ようやく地下迷宮から脱出し、数時間ぶりの外の空気を味わう。
 ……ちょっとした散歩のつもりが、とんだことになっちゃったなぁ。
 …………。

「どうした」
「え!? えー、あー」

 そういえば、結局彼女の名前を僕は知らない。
 聞きたい……けど見ず知らずの男に教えてくれるだろうか。いや、普通警戒するだろう。……でも、気になる。

「あ、あの!」
「なんだ」
「よければ、あなたの名前を教えてください!」
「……」

 一世一代の大勝負だった。少なくとも、僕にとっては。
 彼女は驚いたように少しだけ目を見開く。そしてすぐに、微笑んだかと思うと

「通りすがりの巫女だ。覚えておくがいい」

 そう言って、境内に戻って行った。
 僕はただ、その姿に見惚れていた。
 こみ上げてくる何かがあって、どうしてもそれを抑えきれなくて、僕は、呟いた。

「通りすがってないじゃん」

 僕は朝の光に照らされながら風のように去って行く彼女に、ただただ心奪われていた。


ーーーーーーーーーー

どうもー。「名前が無い」が名前のネームレスでーす。
性懲りも無く新作。一応、三〜五話予定です。
さて、この作品は朝風理沙とオリキャラのカップリング小説となります。一応頭ん中では設定まとまってるんで早めに次が出せるよう頑張ります。
今回は前に私が書いた「キミとミキ」と同じ世界線での出来事です。まあ、「だからどうした」って感じなのでそっちを読まなくてもストーリーに大きな影響はありません。いちいちキャラ作るのがめんどかったからとかそういうんじゃありません。
それではネームレスでした。
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Re: 朝風が吹く頃に ( No.1 )
日時: 2015/05/31 19:09
名前: ネームレス


「おーい。おーいってば。聞こえてるかー」

 僕はその日の朝にあった出来事を思い返し、魂が抜けたようにぼーっとしていた。
 まるで全てが夢だったように感じられる。
 ああ、あの人の名前はいったいなんて言うにだろう。風のように飄々とした人……なんというか、かっこよかったなー。女の人に対する評価じゃない気もするけど。

「おいってば!」
「うるさいぞモブEX。愛しの田中とでも喋ってろ」
「誰が愛しのだ誰が。ったく、せっかく昼飯誘おうと思ったのにやな奴」
「田中はどうした」
「太郎は自主練だよ。だからこの時間暇でさー」

 目の前にいるのはモブEX。本名は元木忍(モトキ シノブ)。ナンパスキルが高くそこらの女なら数日もあればヤれるというクズである。さらに地味に他のスキルも高いから手に負えない。なんでこんな奴の友達やってるんだろう。
 そして田中太郎という奴はこの金持ち学校白皇学園で、部活動に真面目に取り組む変わり者。野球の期待のエースらしい。最近、テストが終わって少ししてから凄い頑張りを見せているらしい。何があったのやら。

「いいだろう。俺とお前の仲だろ?」
「気味の悪いこと言うなよ」
「連れねーなー佐藤紅蓮之王(サトウ スカーレットキング)親にDQNネームを付けられ何もやってないのに問題児指定されクラスからは敬遠され俺と太郎以外の友達がガチでいないという可哀想な奴はっぶね!?」
「チッ、仕留め損なったか。ていうかなんだよそのめちゃくちゃ説明口調なのは」
「いや、お前だけまだ自己紹介されてないと思って」
「はぁ?」

 こいつは何を言ってるんだ。

「さて、まあこの恋の達人「ナンパのだろ」である元木しの「モブEXだろ」がお前がなぜ今抜け殻のようになっているか当ててしんぜよう」

 こいつ怯まねえな。

「どうせ「恋、だろ?」とかドヤ顔で言うんだろ。わかってるからどっか行けよ」

 モブEXは自分のナンパだけでなく、人の色恋沙汰にも手を出したがるクソ迷惑野郎なのだ。
 そういえば太郎の恋がとか言ってたような気がするけど、まあいいか。あいつの恋愛模様など知らん。

「はぁー、つまんねーなお前」
「だったらどっか行け。読者の皆様が「ハヤテSSでいつまでハヤテキャラ出さねえんだよ」って少しずつフラストレーション貯めてきてんぞ」
「はぁ? 読者の皆様って誰だよ」
「多分、お前が僕だけ自己紹介されてないことを気にしたのと同じもんだ」
「???」

 文字通り、次元が違う、ていうことだからなんとも言えない。

「でよう紅蓮之王(スカーレットキング)。昼飯」
「お前怯まねえなホント……勝手に食え」
「じゃ、お席を借りて。いっただきまー」

「ああ、また泉の奴がスカート捲られたのか?」

「っ!」
「す。って、どうした」

 今の声。聞き間違い?
 いや、そんなはずはない。でも、まさか。

「どうしたんだよ紅蓮之王」
「……モブEX。この学校に長身で黒髪を短くまとめている少し目つきの鋭いいつも口元に悪いこと考えてそうな笑みを浮かべているような女子生徒って、いるか」
「おいおい紅蓮之王。幾ら何でもそんな女子生徒……あ、いる」
「誰!?」
「お、おいなんだよ。落ち着け。えーっとたしか、朝風理沙。動画研究部っていう部活の一人で、いつも花菱美希、瀬川泉っていう生徒と連んで悪巧みしてるっつー噂だ」

 泉……さっきのはやっぱり。

「おいおい。まさか朝風理沙のことが好きなのかー?」
「ああ。だから今用事できた」
「は? いや、まじ?」
「じゃあなモブEX! 持つべきものは便利な駒だな!」
「それは酷くねえか!?」

 さらばだ便利な駒。
 おれは件の朝風理沙氏を探すべく廊下へ飛び出した。


 ◯


「さて。どうしたものか」

 教室から飛び出したはいいものの、ノープランだ。
 あー、どうしようかな。なにも考えずに飛び出しちゃったよホント。見失っちゃうしさ。どこですか朝風さん。
 ……。一度戻るか。

「ネタの匂いがする!」
「うわぁ!」

 なんだ曲者か!?

「っと、済まん済まん。ついなにか事件の匂いがしてな。……む?」
「は、はぁ。それはどうも。……え?」

 この人は……。

「今朝の不審者」
「え、えええええええ!?」

 どうやらラブコメの神様は俺を見放してはいなかったようです。
 ……どうすんのこれ。



ーーーーーーーーーー

一ヶ月以上経ってようやく投稿。お久しぶりのネームレス。
少し、頑張ろうかと思います。
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Re: 朝風が吹く頃に ( No.2 )
日時: 2015/06/15 07:01
名前: ネームレス

「では佐藤紅蓮之王。君は私のことが好きということだね」

 青い空。
 白い雲。
 澄んだ空気。
 爽やかな風。
 暖かな木漏れ日。



 僕は何故か好きな人に好きなことがバレた。



「いやいやいやいや! ちょっと待って! これどういう状況!? 前回の最後で邂逅したと思ったらなんで僕の初恋がバレてるの!?」
「ふむ。佐藤紅蓮之王の初恋は私、と。高校で初恋とは少し遅いな」

 なんか余計なことまでバレた。

「ちょっと待ってください! この状況をどうにかさせてください! 今も混乱でどうにかなりそうなんですけど!」
「ふむ、そうだな。三回まわって「好きです!」と言うがいい」

 くるくるくる

「好きです!」
「残念だが今は付き合う予定は無いな」
「フラれたー!?」

 電光石火の勢いでフラれた! 流れるように告白して落とされるようにフラれた! 流れて落ちるって滝かよ! 意味わかんねえよ!

「さて紅蓮之王。心は落ち着いたか紅蓮之王。フラれた気分はどうだ紅蓮之王。好きな人といる気分はどうだ紅蓮之王。コクってフラれた人と同じ空間にいるというラブコメならシリアスになりかね無い状態に身を置いてる気分はどうだ紅蓮之王」
「紅蓮之王を連呼しないでください! というかわかってるなら察してくださいよ! めっちゃくちゃ気まずいんですよこっちは! シリアスになれないのはそっちのせいでしょう!」
「しかしそんな私が好き」
「そうです! ……なに言わせてんの!?」
「言ったのは君だろう?」
「言わせる流れを作ったのはあなたでしょう!」
「しかしそんな私がどんどん好きになっている」
「その通り! ……死にたい」

 膝をおり地に手をつけてただ落ち込む。
 なんだか恥ずかしいことがどんどんバレていく。ここまで僅か何分だよ。

「あっはっは。君は面白いな」

 とってもいい笑顔でそこにただ佇む魔王、朝風理沙さん。いやもうホントマジかわいい。というか美人。マジ美人。

「くそう……殺すなら殺せ」
「残念だがまだ警察のお世話になる覚えはないな。それより一つ疑問があるのだがいいかな?」
「……なんですか」

 ここまで暴露した後だともうなにも怖くない。人それを開き直りと言う。
 もうどんな質問が来たって憮然とした態度で対応してやるんだ!

「君とはどこかで会ったことがあったかい?」

 死のう。

「この白皇の「七不思議:第100を超えてから数えるのをやめた(ダンディボイス)」に書かれている白皇森林には数多くの自殺者の死体が埋められていると聞く。そこで死ぬといい」
「ありがとうござ__止めてよぉおおおおお! 死ぬ覚悟なんて無いから止めてよぉおおおおお! というかなんだよその七不思議! 100超えてるって何個あるんだよ七不思議! あとダンディボイスって誰の声だよぉおおおぉおおおおおおお!!!」

 ツッコミどころ満載過ぎるわ! というか理沙さんもサラッと酷い!
 怒涛の勢いでツッコんだせいか、ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をしながら目の前の理沙さんを見る。……先ほどからニヤニヤした表情を一切崩さない。

「くくく、なかなかいいぞ君は」
「そりゃどうも」
「大抵の者は途中で呆れたり、不機嫌になったりしてまともに相手してくれなくなるからな」

 不意に。先ほどまでのふざけた空気を一変させる寂しげな声で理沙さんは語った。

「昔の私は孤独でな。小さき身でありながら悟ったように常に周りから一歩引いてバカみたいに騒ぐ同年代の子どもたちを「ガキだな〜」と思いながら眺めていたよ」
「……」

 その話を、すぐに信じることは出来なかった。
 だって、僕の知る朝風理沙さんは、今理沙さん自身が語った人物とはまるで真逆だったから。
 ……まだ理沙さんを知れるほど付き合いが深いわけでもないけど。

「近づいてくる奴らも私の家が結構大きな神社ということもあって、言うなれば権力目当て。まあ、こんなのはある程度でかい家を持ってる者たちなら経験することだろう。ナギちゃんとかだな」

 ナギ、と言われてすぐに脳内名簿から出なかったが、すぐに三千院ナギという少女に思考が行き着く。
 三千院家はそれはもう巨大。なんとか繋がろうとあの手この手、それも子どもを使って近づこうとする輩も多いだろう。
 つまり、理沙さんもそういった経験があったのだろう。理沙さんの顔には「煩わしい」と表情にはっきり出ていた。

「おかげで疑うことも覚えてだな。ま、疑うという行為自体がもう無限ループだ。……私は独りだった」

 ずきん、と心がいたんだ。
 なんて、痛々しい顔をするんだろう。なんて、弱々しい顔を見せるのだろう。
 僕は理沙さんの表情に、いやその在り方に心が完全に奪われてしまった。

「だから、君のように一緒になって騒いでくれる人がいてくれて私はとても嬉しいんだ」

 泣きそうだった。
 嬉しさに、切なさに、僕の胸は張り裂けそうだった。

「理沙さ__」
「まあ作り話なんだが」
「__ん?」

 ……今、なんと?

「どうだ。なかなか会心のデキだろう」

 と、あなたはドヤ顔でそう言った。

「………………」

 一方その頃、僕は完全にフリーズしていた。

「む、そろそろ時間だな。なかなか楽しめたよ紅蓮之王。またいつか私の暇つぶしに付き合ってくれ」

 そう言って、彼女は悠然と去って行った。

「……あ、あのアマァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 僕の叫びはチャイムに掻き消され、僕の恋心は膨らむ一方。
 僕はドMなのだろうか?
 そんな疑心が僕の中に現れてきたある日の昼下がり。


 ◯


「理沙」
「美希か。どうした」

 私は最近野球について調べ始めた親友、花菱美希に呼び止められた。
 呼び止められるのはいつものことだ。だから別段不思議はない。だが、今日はいつもの用事とはまた違うだろう。

「随分とお楽しみだったな」
「ああ。彼はなかなかに面白いぞ」

 と言って、先ほどのやり取りを思い出し、口元を釣り上げる。
 彼女がなぜ知っているのか、などという野暮なことは聞かない。情報収集は彼女の十八番。おそらく茂みから聞いていたのだろう。
 彼女も承知の上で聞いているのか、いつもの笑みを浮かべながら続ける。

「“あんな過去”まで話して、気に入ったのかい?」
「……そう、だな」

 その問いには少し間を開けて答えた。

「私の新しいボーイフレンドは楽しそうだろう?」

 と、自信満々に渾身のドヤ顔で言ってやった。

「……やっぱりか。この前部活で、「私もボーイフレンド作った方がいいだろうか」なんて言い始めるから、なにかやるかとは思っていたが……」
「だって泉にはハヤ太くんがいて、理沙は「キミとミキ」にて新しいボーイフレンドを作って、私だけ仲間はずれは酷いじゃないか」
「一話目のあとがき」

 言うなれば、今回のはちょっとした嫉妬だった。
 泉はハヤ太くんに好意を持っている。
 美希には最近思いを寄せてくれる少年がいる。
 私だけ男色が無いのは仲間はずれみたいで悲しいじゃないか。
 もちろん、全部建前で作者が「ちょっと珍しいキャラを主題に書いてみよう」という見切り発車で始まったりなんかはしてないし、とある人が投稿した作品でも私がメインに扱われていて「やっべ被ったしかもあっちの方が面白え」などと内心冷や汗だったりというリアルの事情は一切絡んでいない。

「まあ、そういうの抜きにもなかなか面白いよ彼は」

 なんせ、私と最後まで会話してみせたぐらいだ。
 名誉なことだ。誇ってもいい。

「……理沙。お前はやっぱり、いい奴、だよな」
「困った顔で言う表情では無いと思うのだが?」
「現状一番困った奴なのは理沙だがな」

 と、若干呆れ顔の親友。ここに泉がいれば、訳もわからず相変わらずの頭にクエスチョンマークを浮かべていただろう。

「……さて美希。次の授業はなんだったかな」
「ふっ。少なくとも教室には誰もいなかったことから移動教室であることまでは絞り込めた」
「さすがだな美希」

 その後、私と美希は手当たり次第に教室を見て回り、最終的に体育館で薫先生に泉もろともこってり絞られた。
 泉が「なんで私も!?」と涙目で叫んだのは言うまでもない。



ーーーーー

もうちょっとだけ続くんじゃ。
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Re: 朝風が吹く頃に ( No.3 )
日時: 2015/09/14 22:16
名前: ネームレス

「エンディングが思いつかなかった」
「ええぇ……」


 最終話「よっしゃ! こいつでメイン書いてみよう! と見切り発車で始めたはいいもののまさに五里霧中状態でありそもそもこんな展開にした時点ですでに詰んでいる」


「で、どういう意味ですか」
「君は動じなくなったな紅蓮ノ王」
「チューしますよ」
「本当に動じなくなったな」

 もはやこんな軽口を言い合える仲にまで発展してしまった俺と朝風さん。
 しかし朝風さんに俺が朝風さんのことが好きなことはすでに知られてるはずなのにどうしてこんな普通の悪友みたいな関係になっているのか。これがわからない。

「あと君の私への告白だったが来世でも会えたら運命だな。そこで結婚しよう」
「今世でのチャンスはもうないんですね」

 詰んだ。俺の人生が詰んだ。
 というか返事が軽いよ。

「いいか。……作者はもう疲れているんだ」
「そんなリアルな事情をここに持ってこられても……」

 え? じゃあこれどうやって終わるの?

「そこで、だ。私たちの手でエンディングを考えようではないか!」
「「話は聞かせてもらった!!!」」
「だ、誰だ!」

 いや、すっごく聞き覚えあるけど!

「だ、誰だ! と聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け〜♪」
「学園の破滅を防ぐため」
「学園の平和を守るため〜♪」
「ボケとツッコミの笑いを貫く」
「ラブリーチャーミーな生徒会♪」
「美希!」
「泉だよ♪」
「学園を駆ける動画研究部の三人には」
「エクセレント♪楽しい日々が待ってるよ〜♪」
「にゃーんてな」
「……」

 不覚にも朝風さんの「にゃーんてな」に萌えた。

 end

「え!? これで終わり!?」
「エンディング1の完成だな。タイトルは『生徒会役員d__」
「ダメだ! よく分からないけどそのタイトルはダメだ!」
「じゃあ『朝風萌え√end』で」
「ならよし」
「そこまでの過程を全てバッサリいったな」
「ふぇ〜ん。いっぱい練習したのに〜!」

 済まない。朝風さん以外は帰ってくれないか。
 なんていう度胸など無く、そもそも彼女たちに真面目なエンディングを作る気はあるのだろうか。

「ふむ。流石にパクリはダメだったか」
「そりゃあね」
「ならば次だ! 行くぞ!」
「「応ッ!」」
「え!? なにこの流れ!?」


「久しぶり、だな」

 何年ぶりだろうか。
 今までは突然のことに理解が追いつかず、受け入れることが出来ず、逃げるようにその事実から目を背けてきた。
 しかし、何時までもそんなのでは悲しいではないか。
 だから、今日私は数年ぶりに“彼”の前に立った。

「今まで会えなくて済まない。でも、いろいろあったんだ。本当にいろいろなことがあった。その物事の中で私も成長した……と思う。……やはり、あまり変わってないのかもしれん。だが、今日君に会いに来た。この事だけは私が成長した証ではないかな」

 返事はない。当たり前だ。
 “石”に会話をする機能なんてない。

「こうやって線香を上げれるようになるまで、本当に長かったな」

 彼は、死んだ。
 数年前。事故で亡くなった。
 誰も悪くはない。そんな事故だ。
 私はその時の自分の中に溢れる感情に名前をつけることが今でもできない。ただ涙を流し続けていたのは覚えている。
 彼が死んだという事実を受け入れられず、私は彼の話題を避け、彼を忘れようとし、彼から離れようとした。
 今にして思えば、あの時の時間をもっと上手く使えたのではないかと思う。それこそある程度は成長し、時も経った今だから言えるのだけれど。

「君との思い出が今でもまだ私の中にあるんだ。どんなに消そうとしてもこの思い出だけは消えてくれなかった」

 なんでだろうな?
 分かりきった疑問を口にする。それだけ私が彼を大切にしていたということだ。

「……また来るよ。次からは、ちゃんと来れる」

 そう伝えて、私は去る。

「じゃあな。“石田”」

 歩く足は平常。心の中は凪いでいる。
 私はもう大丈夫だ。
 見上げた空は快晴で、柔らかく吹く風は髪を揺らす。
 彼との思い出がこれからの道行もきっと照らしてくれるだろう__。

 end「あの日仰いだ夏の空」

「誰だ石田ぁあああああああああああああああああ!!!」

 俺じゃねえのかよ! 何のエンディングだよ! というか何があったんだよ!

「石田一成。死亡時17歳。好きな子と結ばれるため一念発起し、数々のイベントをこなし遂に思い人である京子ちゃんと付き合うも、初デートに京子ちゃんの上から落ちてきた豆腐の角を京子ちゃんの代わりに受け、その豆腐が高野豆腐だったこともあり死亡した」
「京子ちゃんって誰だよ! あと高野豆腐の風評被害やめろ!」
「京子とは私の演じた役だ」
「ついでに私が地の文担当」
「私が盛り上げ役だよ♪」
「何のエンディングだぁあああああああああああ!!!」

 あと盛り上げ役って絶対必要ないよね。遠回しな戦力外通告だよね。気付いて!

「なら君とわたしが出ればいいんだな」
「まあ、そうですけど」
「わかった」

 そう言うと朝風さんは二人とこちらに聞こえないように話し合う。
 少し経ち。

「よし。では行くぞ」
「え。急に?」


「私。結婚するんだ」

 神は死んだ__。

 end「選ばれたのは__」

「まあ嘘なんだが」
「っ!? ぷはぁ! 息止まってた……」

 危うく死ぬとこだった。

「あっはっは。君は面白いな」
「朝風さん。何回俺を殺す気っすか」
「まあまあ。生きてるんだからいいだろう?」
((今までもあったんだ……))

 ん? なんか二人からの視線がドン引きの視線に変わったぞ。
 まあ俺は朝風さんと話せりゃいいんだけど。

「全く。君は退屈しないな」
「そりゃよかったよ」
「私のお気に入りNo.2の称号をやろう」
「ありがたしあわ……No.1は?」
「綾崎ハヤ太くんだ」
「綾崎ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 その時の俺の叫びとはなんだ。
 この世のあらゆる怒りを、憎しみを、悲しみを込めた怨嗟が白皇内に響いた。


「ひぃ!」
「どうしたハヤテ?」
「いえ……なんか今、見も知らぬ人からの殺気が……」
「……流石に気のせいではないか?」
「だといいのですか……」


「おお、驚いたな。一瞬鬼にでもなるかと思ったぞ」
「ええ。俺も今、自分が人間から外れた何かに変わるような気がしましたけど気のせいでした」

 あ、なんだろう。凄えスッキリした。追肥出すとスッキリするんだな。これからは定期的に会ったこともない綾崎ハヤ太なる人物に恨みをぶつけていこう。
 こう見ると、俺凄え傍迷惑だな。

「全く」

 朝風さんはそう言ってこちらに近づくと

「これから長い付き合いになるのだからこんなことで怨んでいては身がもたんぞ?」

 と。
 俺の頭をわしゃわしゃしながら言った。というか撫でられた。
 ……へ?

「「……へ?」」
「む? どうした」

 え。いや。どうしたって……。

「む。……あちらに今にも告白しそうな女子生徒と鈍感そうな女子生徒が! これはキマシタワーの気配! 行くぞ下僕!」
「おう! ……いや待て。下僕ってなんだ! あとカメラ忘れてるぞ! おい!」

 先ほどのことなどまるで無かったかのように駆け出す朝風さんを追い、朝風さんが常に持っている盗撮道具を持ちそれを追いかける。
 なんかいつもこんなんばっかだなっ!


「もしかして、脈アリ?」
「いや。理沙は意外と異性との接触に緩いところがあるからまだなんとも」
「でも「長い付き合い」って」
「……春、か」


 後ろで追いかけてきてる二人の会話を聞き取ることは出来なかったが、まあさして重要でもないだろう。
 そんな事より今は朝風さんとキマシタワーだ!

「早くしろ紅蓮ノ王(スカーレットキング)!」
「その読み方やめろ!」
「紅蓮ノ王(インフェルノロード)でもいいぞ?」
「どこのボスだよ!」

 なんて。
 好きな人とするような会話でもないいつも通りの掛け合いをしながらその人の背中を追いかける。
 いつか彼女に並び立てる日は来るのだろうか?
 まあ、そのためにはまず下僕からランクアップしないといけないけれど。
 佐藤紅蓮ノ王。今日も元気です。

−−−−−−−−−−

どもどもー。ネームレスです。
見切り発車の物語の結末ほど大変なこともない。
さて、この作品はこれで一応の完結となります。使い慣れないキャラは使うもんじゃないっすね。
実に3ヶ月の期間をおいての最終話となりましたが、結局最後まで勢いで書き切った! 見切り発車なんてそんなもんよ!
さて、長くなりましたがこれにておさらばとなります。また次の作品でお会いしましょう。
あばよ〜。
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