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対象スレッド 件名: 朝風が吹く頃に
名前: ネームレス
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朝風が吹く頃に
日時: 2015/04/19 18:43
名前: ネームレス

 僕はその日、運命に出会った。
 何気無く通りかかった道。なんとなしに登った階段。まるで時間に置いていかれたかのような神社。
 そして、静かに佇む黒髪で巫女服を着た長身の美少女。
 朝も早い時間帯。自分でもなぜこの時間帯にこんな場所にまで来たのかわからない。それこそ、まるで導かれたかのようだった。

「キミ」

 声をかけられたのだと気づくのに、少し時間がかかった。
 女性にしては少し低く、それでいて女らしいその声は僕の心を撃ち抜いた。流れ弾にでも当たった気分だった。

「は、はい」

 普段の自分ではありえないぐらい硬い声だ。否定できないくらい自分は緊張している。そう自覚した。

「そこは危ないぞ」
「え」
「キサマ。そこで何をやっている」

 不意に、後ろから声をかけられた。
 そこにいたのは見た瞬間にボケてることがわかるじいさんだった。

「あ、いや、僕は怪しい奴じゃ」
「怪しい奴じゃとぉおおおおお!? 出会え、出会えぇええええ!」
「えええええ!?」

 このじいさんが叫ぶと神社の奥から鬼の面を被った筋骨隆々の男が二人して俺を取り囲んだ。

「待ってください! 僕は怪しい奴じゃないです!」
「証拠はあるのか証拠は!」
「僕はただ、目が早く覚めたから何気無く通ったことの無い道を通って、なんとなしに見覚えもない階段を登って、ただ偶然この神社に辿り着いただけで__」
「それのどこが、怪しくない証拠なんじゃああああ!」

 いや、どっからどう聞いても怪しくな__。
 はたと気づく。恐らくこのじいさんはこの神社の主っつーか、神主っつーか、恐らくそんな感じなのだろう。つまり、ここはじいさんの家、もしくは敷地ということに。
 そして、もし自分が自分の家に見知らぬ奴がやってきて「偶然目が覚めて偶然知らない道を通って偶然知らない場所に出くわして偶然この家に辿り着いた」と聞かされたら、どう思うか。
 ……………………。

「あーあ。ダメだこりゃ。自らカミングアウトしてら」
「見事に自爆してんな」
「ち、ちが」
「かぁああああああっ!」

 やばいやばいやばい!
 自分の立場が凄く危ういことに今頃になって気付き、助けを求めるように先ほどの美少女を見ると

「ニヤニヤ」

 なぜかとても楽しそうにこちらを眺めていた。
 あ、終わった。

「きぇえええええええええい!」
「ぐふぅっ!?」

 僕の意識が少女に向いた瞬間、強烈な衝撃が僕の体に走り、意識が遠のく。

「連れてけぇ!」
「「はい」」

 意識が遠のくなか、少女が意味深な目線をこちらに向けていた光景を最後に、目の前が真っ暗になった。



「出してくれぇ〜。頼むから出してくれぇ〜」

 涙混じりの懇願。
 うん、なんというか、今一生に一度味わえるかどうかの経験をしている。
 目に見えるは地下空洞。
 手に触れるは金属の檻。
 ここは牢獄だった。
 ……というかここはマジでやばい! なんか骸骨とかあるし! 人死んでんじゃねえか!

「死にたくねえええええ!」
「わかったわかった。今出してやるから騒ぐな」
「死にたくない死にたくない死にたく……え?」
「ほれ」

 ガチャン。
 音がするとともに檻が開いた。
 よくわからず、とりあえず警戒しながら牢屋を出て、助けてくれた人物を見る。
 その人は、先ほどの女性だった。

「あ……ありがとう、ございます」
「ふむ、素直に礼を言われるのはいつぶりか……とりあえず外に出るか。ここは危険だからな」
「は、はい!」

 巫女服の女性は先導するように足早に動く。置いていかれないようにそれを急いで追いかけた。
 やばい、ドキドキする。あぁ、この人なんて名前なんだろう。なんか立ち振る舞いとか醸し出す雰囲気とかすっごくかっこいい。
 そう、ドキドキし過ぎて

「…………」
「…………」

 __凄く気まずい。

「あー、えーっと、危険ってどう危険なんですか?」
「どうもこうも道をしらない者が入れば死ぬまで迷い続けるような広大な地下空洞にいるということ以上に危険なことがあるのか?」
「は、はは、そうですよね。……そんな広いのか」
「ま、ここが危険なのは別の理由だがな」
「別の?」
「ああ。ここには巨大な「グォオオオオオオオオ」」
「……なんて?」
「だから巨大な「グォオオオオオオオオ」」

 …………。
 何だろう。この不吉な感じ。
 よくわからないけど、ドシンドシンって地響きがなってるのはなぜだろう。
 よくわからないけど、唸り声が近くなってるような気がするのはなぜだろう。
 よくわからないけど、目の前の女性が後ろを見て「おぉ」と薄いリアクションで驚いてるのは__マジでなぜだろう。
 僕は恐る恐る後ろ向いた。そこにいたのは__





 __巨大なワニ。





「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ぎゃぁああああああああ!!! ワニぃいいい!? で、でけえええええええ!!!」

 でかいよ! どこのファンタジーだよ! というかなんでこんなワニがこんなところにいるんだよ!

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ぎゃぁああああ! 喰われるううううううう!」

 あ、死んだ。
 そう思ったその時だった。

 チャキッ

「グ……」
「…………」

 え? なんで黙ってるの?

「グ……ウ……ォオ」
「……ぱあん」
「ッ!!!」

 気の抜けたような声でそんな事を言う。何をしているのか全くもって意味不明だが、ワニは急に慌て出し、地響きを立てながら奥へと去っていった。

「……あの」
「やはり前回のことがトラウマになっているか。まあいい。行こうか」
「…………」

 袖にしまった黒い物体はなんだったのか。
 僕はこの神社の闇を垣間見てしまったのかもしれない……。



「さ、おじいちゃんが来る前に帰った方がいいぞ」
「あ、はい」

 ようやく地下迷宮から脱出し、数時間ぶりの外の空気を味わう。
 ……ちょっとした散歩のつもりが、とんだことになっちゃったなぁ。
 …………。

「どうした」
「え!? えー、あー」

 そういえば、結局彼女の名前を僕は知らない。
 聞きたい……けど見ず知らずの男に教えてくれるだろうか。いや、普通警戒するだろう。……でも、気になる。

「あ、あの!」
「なんだ」
「よければ、あなたの名前を教えてください!」
「……」

 一世一代の大勝負だった。少なくとも、僕にとっては。
 彼女は驚いたように少しだけ目を見開く。そしてすぐに、微笑んだかと思うと

「通りすがりの巫女だ。覚えておくがいい」

 そう言って、境内に戻って行った。
 僕はただ、その姿に見惚れていた。
 こみ上げてくる何かがあって、どうしてもそれを抑えきれなくて、僕は、呟いた。

「通りすがってないじゃん」

 僕は朝の光に照らされながら風のように去って行く彼女に、ただただ心奪われていた。


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どうもー。「名前が無い」が名前のネームレスでーす。
性懲りも無く新作。一応、三〜五話予定です。
さて、この作品は朝風理沙とオリキャラのカップリング小説となります。一応頭ん中では設定まとまってるんで早めに次が出せるよう頑張ります。
今回は前に私が書いた「キミとミキ」と同じ世界線での出来事です。まあ、「だからどうした」って感じなのでそっちを読まなくてもストーリーに大きな影響はありません。いちいちキャラ作るのがめんどかったからとかそういうんじゃありません。
それではネームレスでした。