Re-Stand up, Daisy!(ハヤヒナ一話完結) |
- 日時: 2013/12/29 23:28
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。すっかり寒くなりましたね。
今回は、2年半以上前に元祖ひなゆめで投稿したものを再投稿します。最近こんなのばっかですね。 ハヤテに対して素直になれない自分を見つめなおすヒナのお話です。 タイトルの和訳「立ち上がれ、ヒナギク!」…そのままの意味のストーリーになってるかと思います。
それでは、どーぞ!
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【Re-Stand up, Daisy!】
「あ〜あ…これじゃしばらく帰れないかな…?」
シトシトと落ち続ける雨。それを私は校舎の昇降口から眺めることしかできなかった。 迂闊だった。今日の朝は雲ひとつ無い快晴。まさか雨が降るだなんて、思ってもみなかった。 お気に入りの折りたたみ傘は数日前に使った後、乾かしてから部屋に置きっぱなしだった。
「小降りになるのを待つしかないわね…」
今日は生徒会の会議の後、私は資料の整理のために残っていた。始めは他の役員メンバーも手伝ってくれていたけど、ひと段落して私一人でも片付けられる所まで進んだら全員帰してしまった。私個人のための資料整理もあったから、あんまり手伝わせるのも申し訳なかった。 普段なら部活のある生徒がいる時間ではあるけど、今日に限って大きな職員会議があったため、全校単位で部活が休みだった。生徒会だけはその例からは漏れる形となったのだった。
以上の理由のため校舎には誰もいなく、私の独り言だけが寂しく響くだけ…。 自分だけが世界から取り残されたかのような孤独感。なんか久しぶりな感覚。 帰れないことには確かに困っていたが、一方でそれを楽しもうとさえする自分が存在した。
ふと、実の両親に捨てられた時のことを思い出した。こんなこと、いつぶりになるのだろう…? コレに関しては何度思い返しても、やっぱり寂しくて辛い。
「あれ!?ヒナギクさん。どうしたんですか…?」
「フェッ!!?」
急にかけられた声に、私は肩をビクリと震わせ奇声をあげてしまった。 そして、その声の主を見るために慌てて振り返った。 振り返ったのは、声の主を「いち早く見るため」であり、「誰であるのか確認するため」ではなかった。 こうやって私が辛い時にいきなり現れる人だなんて決まってるから、確認をする必要が無い。
「は、ハヤテ君!?」
「生徒会で居残りですか?あいかわらずご精が出ますね!」
「こんな時間にどうしたの…!?」
誰もいないはずの校舎。それは彼も例外でないはず。 ココに彼がいる理由を察せなかった。ひょっとして、ホントに私が困ってるから…?
「いや〜、一度帰ったは良かったんですが、ロッカーに財布を忘れちゃって…。他の物なら別に明日でも良かったんですけど、コレばかりは取りに戻らないといけませんからね」
「そうなんだ…。それで、お財布は大丈夫だった?」
「ええ、おかげさまで。ロッカーにはカギがかかってるんで…」
「それは良かったわね」
とまあ、そうそう都合の良い話なんかは無い。とりあえず彼の忘れ物が無事だったのは一安心。
話は変わって先程の続きになるのだが、最近は両親に捨てられた時のことを思い出す際には、必ず一緒に思い出すものが出来た。 それは、16歳の誕生日に時計塔のテラスで彼が見せてくれたあの笑顔と、「今いる場所(ここ)はそれほど悪くはない」という言葉。 これらのおかげで、両親の事を思い出すのがそこまで辛くなくなった。 もっと言ってしまえば、今の私というものは、あの経験無しには存在しないという事を、頭と心の両方で理解できたのだ。
話を戻そう。 ナギを連れていないハヤテ君と会うと、私はいつもなら「一緒に帰れるかも」とか「ちょっと話していけるかも」とか色々と浮かれてしまう。悔しいけどこれは事実。 しかしながら今日の私は、どうやって傘も持たずに立ち尽くしているのをごまかそうかという事しか考えていなかった。 うまく傘の話題にならないような展開に持っていかないと…!
「…あれ?ヒナギクさんは折りたたみ傘ですか?」
「え"!?」
相変わらずこんな時だけは鋭い。どうやら彼の脳内では「雨降りの中、傘を忘れて立ち尽くす桂ヒナギク」というイメージは再生されなかったようだ。 普段の自分の行いがそうさせている事が分かるので、悪い気はしない。それでも、好きな人が自分の現状を察してくれないとなると…やっぱり少し寂しい。
「え、ええ。ま、まあそんなトコよ!」
「そーですか。では、一緒に帰りませんか?」
「!?」
本当にこんな時に限って、私が一番心の中で求めている事を言ってくれる。 普段ならせいぜい「そうですか、ではお先に。」くらいしか言ってくれないのに…。 嬉しいけど、つい今しがた発してしまった自分のつまらないプライドを守る一言が足枷になって、うまく返せない。
「……」
自分でもハッキリと分かるほど顔が火照っている。 ただ「傘を忘れた」って言うだけなのに、私という人間はどうしてこんななんだろう…。
「…す、すいません!無理に誘ってしまって。じゃあ僕はコレで!!」
「あっ…」
ハッキリしない私の態度を拒絶とみなしたのか、ハヤテ君は申し訳無さそうに去ろうとした。 そう、「去ろうとした」のであって、「去った」のではない。 なぜ?それはカンタン。私が彼の腕をつかんだから。
「えっ!?」
「あっ…ゴメンね。私…」
つい。ホントについ手が伸びてしまった。彼もおそらく私がそんな行動に移るとは思ってもみなかっただろう。 多分…普段なら、そのままその恋しい背中を見送っていたシーン。 なぜ今日に限って引き止めたのかなんて分からない。そんな事はどうでもよかった。 ただ、つかんだ彼の腕のぬくもりが、私のつまらないプライドを溶かしていくように感じた。
「私…傘、忘れちゃったんだ。ゴメン、嘘ついてた」
「え!?そーだったんですか?」
「うん…」
「あぁ…そーですよね。朝は良く晴れてましたからね」
言えた。言えたじゃないの、桂ヒナギク。 そんな簡単な言葉ひとつのために、一体どれだけつまらない意地を張ってたのやら…。
「だから…」
「だったら僕の傘を使ってください!男物ですけど、大きいから濡れにくいと思います」
「えっ!?」
私がつかんだ腕とは反対側の手に握られた黒い傘を彼は差し出す。面食らった私は、差し出されるままにその傘を受け取ってしまった。 もちろん、私が発しようとした言葉はそんな事の催促ではない。
「僕だったら走って帰るから、大丈夫です!それじゃ…」
「待って!!」
「!?」
またも走り去ろうとした彼の腕を、私は先程より強くつかんでいた。 普段の私らしくない行動に、明らかに彼は動揺していた。
「えっと…?」
「ハヤテ君、あなたの優しさはすごく…ものすごく嬉しいけど、人の話は最後まで聞きなさい」
彼の大きめの傘を開き、その中に互いの身体が入るようにさした。 ひとつの傘に二人の人間…そう、「あいあい傘」の状態だ。
「こうすれば、二人とも濡れないでしょう?」
「ヒナギクさん…」
「ハヤテ君が私を気遣ってくれるのはホントによく分かるわ…でも、私だって同じくらい貴方の事を想ってるの。だから、『相手さえ良ければ自分なんてどうでもいい』だなんて思わないで」
「……」
私の言葉に、うつむき押し黙ってしまうハヤテ君。 その表情も、その意思も、私には見えなかった。 勢いに任せてマズイ事を言ったかな…?
「そうですね…。そうですよねっ!!」
「ハヤテ君!?」
しかし意外にも、顔を上げた彼の表情は爽やかな笑顔だった。 驚きもしたし、傷つけてなかったようなので、ひとまず安心した。
「いや〜、目が覚めました。」
「ん!?」
「ハハ…コッチの話です。じゃあ帰りましょうか。傘は僕がお持ちしますね!!」
彼はひょいと私の手から傘を奪い、少し私寄りになるように差した。それについて、私は何も言わなかった。 彼の心境の変化(?)が分からない私は、その明るさにただただ首をかしげるばかりだったけど、笑顔になれたのならそれでいい。深くは考えなかった。 誰もいない学校の広い敷地を一組の男女がひとつの傘で歩いていく。多分、いつもなら恥ずかしくて頭の中がグルグルしてしまうところなんだろうけど、今日は不思議と落ち着いている。
「あの、ハヤテ君…」
「なんですか?」
「傘に入れてもらう身なのに、偉そうな事言って…ゴメンね」
思い返してみれば、「一緒に傘に入れて」と言おうとしただけなのに、随分と偉そうに…しかも小恥ずかしい事まで言ったものだ。 こういうところが女の子らしくないと言われる所以なのだろうか…?
◆
「ヒナギクさん、さっき…僕の『優しさ』って言ってましたよね?」
「え…?う、うん」
私のお詫びにたっぷりと間を置いてからのハヤテ君の言葉。 返事が来るかと思いきや、彼が発したのは予想外の質問だった。
「アレは僕がよかれと思ってしたものですけど、結局ただの押し付けだったんですよ」
「押し付け…?」
「はい。ヒナギクさんの気持ちを無視して、傘を渡して僕だけが満足して帰ろうとしてたんだなって…」
「!!」
なるほど、彼はさっきのやりとりでそんな事を考えていたのね。 私はふむふむとうなずく。 自分の想いが届いたような気がして、ちょっと照れくさいけど嬉しい。
「今思えば、ずっとそんな風にやってきてたんですよね。よかれと思って…」
「ずっと?」
「はい。小さい時からずっと…。僕が人に関わると、後からその人に親が迷惑をかけてしまうんで…」
「……」
「だから、あげられるものは全部、自分は何も求めない…それが正しいんだって思ってました」
雨の降る空の彼方を見るハヤテ君。その彼が歩んできた過去…尊敬する両親を愛してやまなかった私には到底想像もつかない。 ただ、小さい頃から作りものの笑顔で他人と接してきた彼を想像すると、胸が痛くなる。
「でもそれは『優しさ』なんかじゃなくて、自己満足…だったんだって、気付いちゃって。そこは普通なら落ち込むところなのかもしれませんけど、なんか妙に清清しくな
っちゃったんですよね…」
「…そうなんだ。」
「はい。それは多分、ヒナギクさんの優しさが本物で…『強さ』だと分かったから」
「強さ?」
「ええ。人と人との繋がりの中で妥協せずに他人を想い、それを伝える…頭では分かっていたとしても、なかなか出来る事ではありません」
「妥協せず…かぁ。確かにそうかも」
彼の放つ言葉は、その一つ一つが絶妙に納得できるものだった。確かに、どんなに仲の良い者同士でも、本気でその人の事を想って言ってあげるということはなかなか難しいと思う。 実際、私は美希・泉・理沙の3人に対してはかなり諦めの入った部分もある。もちろん彼女たちが本気で困ってる時は全力で助けるし、助けられた事も数え切れない程にあるけど…。 お姉ちゃんは、お酒にお金に先生としての態度に…もう諦めてない部分の方が少ない。尊敬はしてる。これはホント。 では逆に、歩から見た私はどうだろう?いつまで経ってもハヤテ君に対してモジモジして動き出さない私(自覚はしている)には、ほとほと呆れているだろうけど、それを言われた事は無い。
「いやぁ、僕もお嬢様の事を本気で想えば学校をサボるのはダメだって、もっとちゃんと言えるハズなんですけどねぇ…」
「私も、お姉ちゃんの事を想えば、ムチ打ってでもあのグータラな生活態度を直せるハズよね…」
お互いに苦笑する。 まあ、どんなに相手のことを想おうが、最終的に動くのは、その相手なのだ。想いが届かない時もあれば、届いたとしてもそれを行動に移せない事だってある。 だからこそ、彼が私の想いを受け取ってくれて、納得してくれた事が嬉しい。
「まあその話は置いときまして…今日はヒナギクさんのおかげで、大切な事に気付けました。ありがとうございます」
「…ううん。私の方こそ、ありがとう」
その表情。 私以外の人にとっては、ただの笑顔かもしれない。だけど私にとっては特別。 毎晩毎晩、寝る前に枕元で思い浮かべている…夢にまで出てくることだってある。 その笑顔を見るたびに私はときめき、また少し彼のことがスキになる。
「やっぱり…好きなのよね…」
「ん?なんですか?」
「ううん、独り言」
先程よりだいぶ弱くなった雨音に重ねて呟く。もちろん、彼には聞こえないように。 頭では常々分かっていた事だけど、口に出さずにいられなかった。
「あっ!あのコンビニが見えたら二つ目の角を右でしたよね?」
「うん」
ちなみに、彼は私を家まで送ってくれると譲らなかったので、その厚意に甘える事にした。 私が三千院家までお邪魔して、傘を借してもらえるようお願いしても良かったんだけど、それだと結局のところ返すのに二度手間になってしまうという事での結論だった。 今いる地点から私の家まで、もうわずか。いつもならいやに長く感じる道のりも、彼と一緒だとあっという間だ。 もう少し、あと10分…あと5分でいい。このままでいたいな…。
「あれ…?」
「?」
「雨、止んじゃいましたね」
「あら…ホントだ」
色々と考えにふけっていたから気づかなかった。 さっきまでのドンヨリした空とはうって変わって、沈んでしまいそうな夕日が顔を出している。 彼は掌をのばして雨が降っていないのを確認すると、傘をたたみ雫をはらってからボタンを閉じる。 「あいあい傘」が名残惜しかった私は、あえて傘をさしているときと同じ距離感を保った。今日の私はなんだか積極的ね…。 彼もそれに構わずそのまま進む。傘が不要になっても、ちゃんとウチまで送ってくれるあたりは律儀だと思った。
雨上がりの空は好きだ。ぽつりと浮かぶちぎれ雲が夕日と重なって、とても綺麗。 いつもなら、ただただイヤなだけのはずの水たまりも、彼が隣にいるからか、跳び越えて進む。 家までの残りわずかな道も、私にとってはもう二度と経験できないかもしれないような…大事な大事な帰り道だ。
「ココですね」
「うん」
無事に家に着く。やっぱり楽しい時間はあっという間に終わってしまう。 私は門に背を向け、彼と正対する。
「今日はホントにありがとう!ハヤテ君がいなかったら、私今頃ようやく学校を出てたかも…」
「いいえ、このくらい。というか、やっと一ついつものお礼が出来た感じですよ。それに…」
「ん?」
「今日は多分これからの人生が変わるくらい大事なことを気付かせてもらいましたし…って、これじゃまたお世話になりっぱなしですね。ハハ…」
自嘲気味なセリフとは対照的に、その笑顔はとても晴やかだった。自然と私も笑みがこぼれる。
「ウフフッ…じゃあまた傘忘れたらお願いするわね」
「ヒナギクさんが2度もそんなミスしないと思いますけど…その時は任せてください!!」
「む"〜!私だって、同じミスを繰り返す事くらいあるのよ〜!じゃあ今度から雨が降ったら毎回迎えに来てもらおうかしら…」
「え"っ、僕は全然構わないんですけど…お嬢様もいますし…」
「もうっ!ハヤテ君たら、冗談よ…」
と言いつつも、「全然構わない」のくだりにはガッツポーズが出るほど嬉しい私だったりする。「やっぱり本気だ」って言い直そうかしら…? あっと、いけない。いつまでも話していたいけど、彼の帰りを待っている人たちもいる。 私一人のわがままで、彼女たちに心配させてしまうのもいささか筋違いだろう。
「あ、ごめんなさい。こんなトコでいつまでも話してられないわよね」
「いえいえ、僕だったらいつまででも大丈夫です。」
「…ホントは?」
「お嬢様の機嫌がどんどん悪くなります…」
「もうっ…」
本当にいつまででも大丈夫だったら、私が彼を帰す事は無いだろう。でも、そんなのはあり得ないから、本当の事を言ってくれる方が嬉しい。
「じゃあ、また明日ね。今日はホントにありがとう!」
「いいえ、こちらこそ。…では!」
笑顔で彼を見送る。彼も笑顔を返してくれる。私の大好きな笑顔を。 その背中がだんだんと小さくなっていってしまう。
本当は叫びたい…。「好きだよ」って。その背中に、聞こえるまで何度でも。 今の私にはちょっと…いえ、到底無理。 それでも、今は無理だとしても、いつかきっと…。 そのときには、あなたは私に笑顔で応えてくれるのかな…?
おわり…?
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