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大切な寄り道【初投稿】
日時: 2013/07/15 20:54
名前: 高島屋秋帆


8月30日、午前10時半――。

友人兼好敵手(?)である西沢 歩のお祖母さん宅で4日間を過ごした私たち――歩、花菱美希、朝風理沙、瀬川 泉、春風千桜、剣野カユラ、三千院ナギ、マリアさん、私こと桂 ヒナギク、綾崎ハヤテ君の10名と、昨日、とある案件を解決するために加わった愛沢咲夜さんと鷺ノ宮伊澄さんを加えた総勢12名の男女は、当初の予定になかった場所にいた。

「‥‥‥‥」

一同の先頭を切る形で、ハヤテ君は無言で目の前の墓石に合掌していた。
すぐ後ろには、ハヤテ君の主であるナギが神妙な表情で控えている。

常に上から目線の彼女にしては珍しい位神妙だが、その気持ちは解る。

その次に並ぶ歩と私も、その心境はナギのそれに近いと思う。

何故なら、ここに眠っているのはハヤテ君のお祖母さん、綾崎 鈴音さんだからだ。

日頃から何かとハヤテ君の助力を仰いでいる上、その‥‥1人の女の子として彼を恋慕う身だから、せめて心の中で鈴音さんに『お祖母ちゃん』と呼びかける位は許してほしい。


事の発端は、昨日、ナギが発した一言だ。

「明日、帰りがてらハヤテのお祖母様のお墓参りに行こう!」

一瞬後、ナギの言わんとした事が理解できた。

ハヤテ君やナギ、私、伊澄さんら一部の面々しか知らない事だが、昨日、私達は信じられないようなハプニングに巻き込まれた。

まあ、怪我人が1人もいなかったのは良かったのだが。

  ――8月29日朝―― 

遊園地の廃墟を見ながら、ハヤテ君は幼い頃、一度だけ足を運んだという、今は変わり果てた遊園地の思い出を口にした。

『あれが、最後の思い出でした‥‥』

それを耳にした私の脳裏で何かが閃き、私はハヤテ君に尋ねた。

「ハヤテ君のルーツって、この地域にあるの?」

それを聞いたハヤテ君は淀むことなく返した。

「‥‥はい。ここから4駅離れた集落に、父方の祖母のお墓があります」
「‥‥そうなんだ」

ハヤテ君の前を歩きながら聞き耳を立てていたナギは何も言わずに歩き続けている。

そうだったのか。ハヤテ君を捨てた彼の父親もこの地方の出だったんだ。
私の心の奥の古傷がチクリと痛む。

ハヤテ君の言う通りなら、彼の両親のような人達が子供を遊園地に連れて行くという事は正直考えられない。

にも関わらず、遊園地に行った記憶を懐かしく振り返ってみせたということは――。

「ね、ハヤテ君‥‥」
「何でしょう?」

私はハヤテ君の隣に立つと、そっと尋ねた。
前を歩くナギも聞き耳を立てているようだ。

「ハヤテ君をあそこ(遊園地)に連れて行ってくれたのは‥‥お祖母さん?」
「はい」

ハヤテ君は、何の邪気もない穏やかな微笑みを返してきた。

「ほどなくして亡くなりましたから、それが祖母との唯一と言っていい思い出です」

(あ‥‥)

その笑顔を正視しきれなくなった私は、慌てて視線を足元に向けた。

(もう、ずるいわ。いつもいつも‥‥!)

昨日、あんな事をして、私に期待を抱かせておきながら、私をほったらかしにして1人で飛び出していった事を問い詰めてやろうと思ってたのに、あんな顔をされたら、そんな気は雲散霧消してしまった。

優しくて強いのに、結構間が抜けていて放っておけない。
誰かが隣についていないと、絶対無茶をして大怪我してしまう人。それが綾崎ハヤテ。

我ながらおかしいけど、ホント、厄介な人を好きになってしまったものだ。

「おーい、ヒナー!」

美希の声で現実に戻される。
いつの間にか足が止まってしまったようだ。

「ごめーん!」

慌てて足早にその場を離れ、皆の後を追った――。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.1 )
日時: 2013/07/15 21:10
名前: 高島屋秋帆

初めまして。初投稿の高島屋秋帆と申します。

拙作は劇場版のアフターストーリーで、生徒会長殿の視点で進行します。

ご笑読いただければ幸いです。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.2 )
日時: 2013/07/16 20:39
名前: 高島屋秋帆

  ――8月29日・12時30分頃――

「明日、帰る前にハヤテのお祖母様のお墓参りをしたいのだが、どうだ!?」
「え(は)??」(一同)

お昼ご飯の盛り蕎麦が半分ほどなくなった時分、私達はナギの唐突な発言に開いた口を閉じる事ができなかった。

「‥‥な、何だ、そのリアクションは!私、何か間違った事言ったか!?」

唖然とする一同にナギは半ばキレたが、カユラが追い撃ちをかける。

「ナギが人として正しい発言をした‥‥」

傍らのマリアさんも力強く頷いている。

「お前なあ!!」
「お嬢様、カユラさん‥‥」

本格的にキレたように見えたナギだが、それまでかいていた胡座から正座になると姿勢を正す。

「‥‥まあ、ジョークはさておき、だ」
((ジョークかよ!!))

「帰り道のルート沿いにハヤテのお祖母様のお墓がある事がわかった。ハヤテは私の良き執事。良き臣のご先祖に相応の礼を尽くすのは主の責務だ!」
((回りくどいよ!))
「さんせーい!」

ハヤテ君は困ったような笑みを浮かべていたが、すかさず賛同者第1号が名乗りを上げた。

「歩‥‥」
「おお、ハムスター、お前はわかってくれるのか!」

すぐ賛同者が出た事にナギは目を輝かせたが、

「もちろん!ハヤテ君のお祖母ちゃんは私のお祖母ちゃんも同然だからね!」
(待ちなさい、歩ぅ――!)

歩め‥‥。私が恥ずかしくて口に出せない台詞をためらわずに言えるなんて。
貴女の素直さが羨ましい‥‥。

‥‥千桜によれば、先日、歩はルカにハヤテ君を渡したくない一心で暗躍し、千桜はもとより、ナギですらドン引きしたとの事。
そして、それは半ば成功したのだから恐ろしい。

真に畏怖すべき恋敵は、ルカではなくて歩かも知れない――。

「阿呆、何度も言わすな!ハヤテは私の執事。身も心も私の物なのだー!」
「それがどーした!?」

ナギもすかさず反論して歩と角突き合いを始めたため、ハヤテ君がオロオロしながら止めに入るという、いつもながらのベタな光景がそこにあった。

‥‥心なしか、歩がだいぶふてぶてしくなったように見えるのは私だけかな?

「‥‥なあ、ヒナ」
「何?千桜‥‥」

隣にいた千桜がげんなりした様子で耳打ちしてくる。

「この場にルカがいたら、もっと修羅場だったな‥‥」
「そうね‥‥」

そう、つい半月前、ルカ――スーパーアイドル・水蓮寺ルカ――とナギは、冗談ではなくハヤテ君を賭けて全力で対決した結果、引き分けに終わった。

その結果、ルカとハヤテ君との結婚(婚約)は当面なくなったが、ルカがハヤテ君を諦める必要もなくなったため、恋のライバル関係は相変わらずなのだ。

いや、ハヤテ君に素直に好意をアピールできる歩やルカに比べ、私は負けず嫌いが災いし、彼との関係は進展できていない。

このままではいけない。
初恋は実らないと云うけど、舞台にすら上がらずに退場するのはごめんだ。

――まあ、それはさておき、目の前の子猫とハムスター(ゴメンね、歩)の喧嘩を収めないと話が進まない。

「私も賛成よ。アパートはもちろん、生徒会の仕事を沢山手伝ってもらってるんだから、生徒会を代表して、ハヤテ君のお祖母さんのお墓参りをしてもバチは当たらないわ」
「さんせーい!」(泉・美希・理沙)
「ヒナさん‥‥」(歩)

‥‥泉、美希、理沙。本来は貴女達がやるべき仕事なのよ!
歩、言いたい事はわかるけど、可哀想なものを見る目はやめて‥‥。

「‥‥それはさておき、ハヤテ君はお祖母さんのお墓参り、できてないんでしょ?」
「‥‥はい」

彼の過去を知る者なら、とても先祖のお墓参りなどできる状況になかった事は理解できる。
一時、私もそうだったから。

彼は生きるために死に物狂いだったはずだ。
そんな状況に陥った人に先祖を弔えというのは無理が過ぎる。

「なら、出来る時にしておくべきよ。お掃除なら私も手伝うわ」
「もちろん私も手伝うよ!」

歩が名乗りを上げるのはわかっていたが、

「私も手伝うよ。綾崎君には、アパートはもとより、生徒会にも手を貸してくれてるしな」

‥‥千桜が積極的に賛成するとは思わなかった。

「私も行く!ハヤ太君には日頃からお世話になってるし」
「そうだな」
「ハヤ太君の周りにはこんな素晴らしい友人がいると見てもらえば、きっと喜んで下さるだろう!」

‥‥あのね、正しい事を言ってるように聞こえるけど、あんた達がサボってるから、ハヤテ君の仕事が増えてるのよ‥‥!

「‥‥ハヤテ様にお世話になっているのは私達鷺ノ宮家も同じです。私もお手伝いして、お祖母様にお礼を申し上げましょう」
「‥‥ま、ご先祖さんに手を合わせるのは大事やからな」
「異議なし」

伊澄さん、咲夜さん、カユラも異口同音に賛意を示してくれたので、目を丸くするハヤテ君に構わず、私は座を纏めた。

これ以上伸びると、せっかく歩のお祖母ちゃんが用意してくれたお蕎麦が伸びちゃうし。

「じゃ、決定でいいわね♪」
「はーい!!」(ナギとハヤテ以外の一同)
「ぅおい、ヒナギク!何でお前が纏めてんだ!」

ナギがツッコンできたが、適当にあしらう。

「貴女じゃすぐ脱線して、お蕎麦のばしちゃうでしょうが!‥‥それに、お墓参りしたいのはナギも同じでしょ?」
「ま、まあ、そうだが‥‥」

釈然としない表情のナギをよそに、私は話を締め括ると、ハヤテ君に向き直った。

「と言うわけで決定したから、明日もよろしくね。 これ、生徒会長命令だから拒否権はないわよ♪」
「‥‥爽やかな顔して無茶ぶりしてるだろ、ヒナ」

‥‥聞こえませ―ん!



(備考)
ナギとルカの“対決”の結果は、拙作では引き分けにしてあります。
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Re: 大切な寄り道 ( No.3 )
日時: 2013/07/22 21:06
名前: 高島屋秋帆


  ――8月29日 23時――

お風呂を上がった私は、入浴の順番が来た事を伝えるため、ハヤテ君の部屋に向かった。


私も全てを記憶しているわけではないが、一昨日の夜から今朝にかけてのすったもんだで、大半の面々が疲れが溜まり、夏祭りから戻るや、早々に寝入ってしまった。
ナギに至ってはハヤテ君に背負われたまま寝てしまったほどだ。

寝静まった家の廊下に出た時、ふと外を見ると、庭に人影が1人。

身長と髪型からして、該当するのは1人しかいない。
――というか、好きな人の後ろ姿くらい見分けられなくてどうする?

「ハヤテ君?」
「ヒナギクさん‥‥?」

振り向いた彼は、一瞬驚いたものの、すぐいつもの穏やかな表情に戻った。

――とにかく話をしたい、ハヤテ君と。

一足のサンダルを履いて庭に降りた。

昨日の一件と、夏風邪でダウンした時看病してもらった時を除けば、2人きりでハヤテ君と話をする機会は久し振りといってよかった。

空を見上げると、東京とは比べ物にならないほどおびただしい数の星が満点に広がっていた。

「綺麗‥‥」

思わず賛嘆の声が出てしまう。

ミコノス島で見た星空も綺麗だけど、生まれ育った国で見る星空は一段と映える。

東京とは空気の澄み具合が違うこともあるんだろうけど、ハヤテ君と一緒に見ているという事もあるのだろう。

砂時計の砂よ、しばらく落ちないでほしい――。

「――ね、ハヤテ君」
「何でしょう?」

ハヤテ君の穏やかな笑みは、次の瞬間引きつった。

「‥‥昨日、私の手をスリスリした後、私をほったらかしにしてどこかに行っちゃったわよね?」
「え‥‥は、はい‥‥」
「私、すっごく傷ついたのよ。あの時の理由、私には聞く権利があるし、ハヤテ君には説明する義務があるわよね?」
「え‥‥は、はい‥‥」

――多分、想像はつく。
ナギに纏わる事なのだろう。

誰の仕業かはわからないが、鷺ノ宮さんの手で思い出すまで、私もナギや泉達の事を半日余り忘れさせられていた。
ハヤテ君もまた、忘れさせられていたナギの記憶を取り戻そうとしていたのだろう。

「泉達は夢だと思ってるみたいだけど、私はあの遊園地の幻を覚えているわ。‥‥ハヤテ君も覚えているんでしょ?あそこで何があったか」
「‥‥ヒナギクさん‥‥」
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.4 )
日時: 2013/07/23 05:10
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25

こんにちは、ロッキー・ラックーンと申します。はじめまして。

ヒナ独白のサイドストーリーということで、興味しんしんに拝見しております。
登場キャラ数がめちゃくちゃ多い中ですが、それぞれのキャラクターの違いが分かりやすく書かれていると思います。
個人的にはハヤテの「え‥‥は、はい‥‥」の連続が女の子を困らすキャラがにじみ出ててイライラさせられました。笑

ツボを突かれたのが、二人きりの夜空の描写です。
とてもヒナヒナしてて切なくなりました。これだからヒナ→ハヤテはたまらないのですよ。

今後の展開に期待しております!
では、失礼しました。
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.5 )
日時: 2013/07/23 08:51
名前: 高島屋秋帆

ロッキー・ラックーン様

ご笑読&ご感想ありがとうございます。

あの遊園地での出来事を忘れていないのは5人ですが、映画版での咲夜と伊澄はハヤテと直接接点は見受けられませんでしたし、途中参加ですから、ナギと違う立ち位置である会長閣下にお出まし願いました。

どう収束づけられるかわかりませんが、今しばらくお付き合い下さい。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.6 )
日時: 2013/07/23 21:30
名前: 高島屋秋帆

ハヤテ君があわあわしているのが手に取るようにわかる。

「ハヤテ君が軽い気持ちであんな事をするような人じゃないのは、知り合ってから今日までの事で解っているつもりよ。でも、ハヤテ君は女の子の気持ちに対して鈍過ぎるのよ」

昨日の事だって、せめて、後で説明するからと一言言ってくれれば、あんなにもやもやしないで済んだかも知れないのに――。

「すみません、ヒナギクさん‥‥」

ハヤテ君は心底済まなそうに頭を下げた。

ハヤテ君から“いぢめてオーラ(byナギ)”が発散されているというのもわかる気がする。

このままでは話が進まないから、話題を戻そう。

「そんなに謝らなくてもいいから、あの遊園地の事、知ってるなら教えて。観覧車に、ナギと一緒にいた人の事とか」
「え‥‥?」

ハヤテ君が驚きの声を上げた。
彼がナギを助けに向かっている時、私は観覧車のゴンドラに、ナギともう1人乗っているのを見たが、あの人物が一連の事件のキーパーソンなのだろう。

あの人物が幽霊だったとしても、今の私は驚かない。
幽霊嫌いなのは変わらないけど、非科学的な事象がいくらでも存在することは、私自身、木刀正宗や白桜を使うようになった経緯が経緯ゆえに受け止められる。

「‥‥わかりました」

ハヤテ君は話してくれる気になってくれたようだ。


   ――side Chiharu――

(う〜ん、やはりそうか‥‥)

月明かりに照らされたヒナと綾崎君の並びは実に絵になっていた。

綾崎君はどうかわからないが、ヒナの心は明らかに彼に向いているな。

ゴールデンウィーク、綾崎君とヒナは旅行先で鉢合わせし、同一行動をとったらしいが、その後あたりから、ヒナは、男子では綾崎君だけに地の顔を見せるようになったから、ひょっとしたらと思ったが、やはりそうか。

とはいえ、相手が唐変木なのに加え、ライバルが暴走超特急(ルカ)とマキャベリスト(西沢)だからな。ヒナの恋路は茨の道だぞ‥‥。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.7 )
日時: 2013/07/24 11:02
名前: 高島屋秋帆


「ヒナギクさんは、残留思念というものを信じますか?」

ハヤテ君は開口一番そう言った。

「そうでないと説明がつかないなら、信じるしかないじゃない‥‥」

でなければ、木刀正宗や白桜を振るうことはできない。

ハヤテ君は頷くと、ポツリポツリ話し始める。

一昨日から今朝までの一連のすったもんだの“犯人”は、ハヤテ君の父方のお祖母さんである『綾崎鈴音』の残留思念で、孫であるハヤテ君の借金を清算し、自由な人生を歩ませたい一心で引き起こしたものだというのだ。

あの遊園地も『鈴音さん』が幻術で作り上げた代物で、ハヤテ君や私達からナギの記憶を封じ込めるために外界から完全に遮断したという。

そして、『彼女』はハヤテ君の借金を返済できるだけの値打ちがある『宝』を渡し、執事を辞めて自由の身になれと促した。

『宝』って何の事なのだろう。
まさか、この地域のどこかに存在するという『金剛石(ダイヤモンド)』なのか?
でも、ハヤテ君はそれを『彼女』に返したと言う。

「‥‥祖母は『返す義務がないはずのお金に縛られる毎日に戻るのか』と言いましたけど、借金の返済や日々起きるすったもんだを含めてもお嬢様には感謝していますし、三千院の執事になったお蔭で、ヒナギクさんや瀬川さん達といった、人達と知り合う事ができましたし、アーたんとも再会できて、結果ふられましたけど、納得するまで話ができました‥‥」

だから、決して不幸なんかではない、と、ハヤテ君は屈託のない笑顔を私に向けた。

‥‥その笑顔は反則よ、ハヤテ君。
その笑顔、私だけに向けてほしいと願うのは高望みなんだろうか。

ともかく、あの騒ぎの概要はわかった。
鈴音さんは、肉体を失っても尚、孫の行く末を憂いていたのだろう。

取った手段は褒められたものではないけれど、ハヤテ君のために良かれと思ったのは間違いない。

ナギもそうと理解したからこそ、鈴音さんのお墓参りを言い出したのだろう。
ならば――。

「尚の事、明日はしっかりとお墓りしなきゃね、ハヤテ君」

間接的にとはいえ、綾崎ハヤテという人をこの世に送り出してくれたあの人に、私も感謝しなければ、ね――。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.8 )
日時: 2013/07/25 23:26
名前: 高島屋秋帆


※墓参前夜と当日のインターミッション話になります。
そして短いです。



    ――???――

「ここ、は‥‥?」

一面に広がるヒマワリ畑。
歩のお祖母ちゃん宅のそれを遥かに上回る畑、いや、ヒマワリの原だった。

“リリ‥‥”

息を飲んで見渡す私の鼓膜を鈴の音がくすぐる。

――――!!

反射的に背後を向いた私の前に、私と同年輩の和装の少女が立っていた。

(この子は‥‥)

和服が板についた子だ。
くやしいけれど、昨日今日和服を着た私達とは明らかに違う佇まいだ。

そして、彼女の透き通るような白い肌に、既視感を覚える色合いの髪と瞳。

その既視感はすぐ繋がった。想いい焦がれている彼に。

「鈴音、さん‥‥?」

彼女から返ってきたのは微笑だけだが、私にはそれで十分だった。

彼を想い続けてていいんだ。
乗り越えるべき壁は高く、ライバルも強者揃いだが、私はどんな勝負にも負けない!


‥‥あの夜、歩とルカも同じ夢を見ていたと知ったのは、“黒椿の嘆き”にまつわるキス騒動が収束した後のことだった。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.9 )
日時: 2013/07/27 20:57
名前: 高島屋秋帆

 ――8月30日・10時――

歩のお祖母ちゃんに見送られながら帰途についた私達は、お姉ちゃんが生まれるより前に造られたという鈍重な電車‥‥もとい、ディーゼルカーに揺られていた。
エンジンを盛大に吹かす割に加速が鈍い。

最初の予定ではこのまま会津若松で磐越西線に、そして郡山で東北新幹線に乗り換えて帰京することになっていたが、途中下車してハヤテ君のお祖母さんである綾崎鈴音さんのお墓参りに向かった。

私達は結構目立つのか、同じ車両に乗り合わせた地元中高生の注目の的になっていた。

――とはいえ、こちらが大人数だからか、声をかけてくる子はいなかった。


 ――墓地――

「‥‥ここです」

墓地の一角、生い茂った雑草に墓石が覆われている一角でハヤテ君は立ち止まった。

「最後に来たのは三回忌の時でした。兄と一緒に‥‥」

それだけ言うや否や、ハヤテ君は執事服のジャケットを脱ぎ、腕まくりをすると生い茂った雑草を抜き始めた。

「‥‥‥!」
「‥‥‥!」
「‥‥‥!」

ナギ、歩と私が一歩踏み出したのもほぼ同時だったが、草むしりの頭数だけ多くても仕方ない。

「ここは歩と私でやるから、ナギと泉達はあそこの箒と塵取りで周りを掃いてくれる?」

草むしりはハヤテ君と歩と私、それに千桜。抜いた草や落ち葉等を掃くのはナギや泉達に任せた。

「ほんじゃ、私らは花を用立ててくるわ。会長さん」
「ええ、お願いね」

愛沢さんと鷺ノ宮さんはお供えする花を調達するため、この場を離れた。
近くには商店もある。花の調達は大丈夫だ。

「済みません、ご迷惑を‥‥」

ハヤテ君はまたも済まなそうに言うが、私は途中で遮る。

「気にしなくていいの。私達がやりたくてやってることなんだから」

ナギと私が仕切ってここまで来たのだから、彼が気にすることはないのだ。

「さ、手早く終わらせるわよ!」
「オッケー!」
「りょーかい!」
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.10 )
日時: 2013/07/29 09:56
名前: 高島屋秋帆


  ――綾崎家墓所――

墓石周りの草むしりと掃除はひとまず完了。
完全にとは言い難いが、墓石もひととおり拭き清めた。

朽ち果てた卒塔婆は撤去し、愛沢さんと鷺ノ宮さんが用立ててきた花が供えられ、線香が全員に手渡されていく。

(いいわよ、ハヤテ君)

私が頷くと、ハヤテ君は墓石の前に立ち、線香を供えてから静かに手を合わせた。

「‥‥‥‥」

ハヤテ君が合掌していたのは20〜30秒だったか、一言も発する事なくその場を外す。

次いでナギが墓石の前に立ち、線香を供えて合掌したが、その場を離れる時、墓石に向けて一礼した。

「ナギ‥‥」

マリアさんが驚いたように呟くが、私も正直驚いた。

実のお祖父さんである三千院 帝さんにも頭を下げないというこの子が、仏様相手に頭を下げるなんて。

でも、ナギが前任の姫神さんにも増して喜怒哀楽を表に出すようになったのは、ハヤテ君を執事にしてからだとマリアさんから聞いていたから、あの子なりの感謝の証なのだろう。

3番目はマリアさん、次いで歩が合掌と線香の手向けを終え、私は『綾崎家』とだけ彫られた墓石の前に立った。

さほど古くないのにお粗末な墓石だ。
ハヤテ君の父親が建て直したそうだけど、これでは鈴音さんや代々のご先祖様が浮かばれまい。
彼が両親との和解を否定する理由の一端が理解できた。

(お父さんとお母さんはお姉ちゃんと私の事を思い出す事があるんだろうか‥‥?)

切なくなりかけた気持ちを振り払い、線香を手向けて手を合わせる。

「‥‥‥‥」

ここに眠る人達がいたからこそ、ハヤテ君が今ここにいるのだ。率直に感謝しなければならない。

合掌を終えた私は順番を鷺ノ宮さんに譲り、後ろに下がったが、隣にいるナギはお墓を見詰めながら、何かを考えていた。
と、その時だった

「ちょっと、ご相談したいことがあるんですが」
「うん、何?」

ハヤテ君が私達に小声で話しかけてきたのは。何だろう?
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.11 )
日時: 2013/07/31 17:37
名前: 高島屋秋帆


――8月30日夕刻・上り東北新幹線『なすの』X号――

上野駅で信号トラブルが発生したため、始発の郡山駅を20分遅れで発車したなすの号は、一路東京に――とは言い難く、隣の新白河駅にもう20分も停まったままだ。

理由は簡単。ダイヤの乱れに加え、なすの号は各駅停車。『はやて』『やまびこ』『こまち』『つばさ』を先に行かせなければならないからだ。

私達は郡山で確実に座れるなすの号を選んだから、あおりを喰らった感がしないでもないが、『はやて』『やまびこ』ではまず座れないから、全員座れただけでもよしとしなければならないだろう――。

ちなみに、私達は後ろ寄りの『こまち』型車両に陣取り、私は何とハヤテ君の隣の窓側席だった。

つまり、ナギとマリアさん、ハヤテ君と私がそれぞれ隣り合わせになって相向かいになったわけだ。
歩は通路を隔て、泉,理沙,美希達と同じ向かい席に座っていた。

ナギは発車して程なく、マリアさんによりかかって寝入ってしまった。

一昨日の夜から様々なすったもんだに巻き込まれていたから、ここに来て疲れが出たのだろう。

周りを見回すと、他の面々も寝息を立てており、起きているのはハヤテ君と私だけになっていた。

「皆さんだいぶお疲れのようですね。‥‥ヒナギクさんは大丈夫ですか?」
「私はまだ大丈夫よ」
「そうですか」

そんな会話を交わしている間に、なすの号はゆっくりと動き始める。

「‥‥この夏も色んな事があったわね」
「ええ。‥‥去年の今頃には、翌年の夏がこういう日々になるとは予想していませんでした」

ハヤテ君はおかしそうにクスクスと笑った。

「‥‥その、去年の夏休みはバイト漬けだったの?」
「ええ‥‥親はあてになりませんでしたから、翌年もバイトバイトの日々になるんだろうな、と、漠然とですが、そう思っていました」
「‥‥そっか‥‥」

去年の今頃、私はもう高校受験態勢に入っていた、というか、いられた。
実の親ではないけれど、養親が良かったから。
でも、ハヤテ君は――。

「でも、物心ついてからでは、一番充実した夏になりました‥‥」
「‥‥‥‥」

確かに、『ナツコミ』でのナギとルカのハヤテ君を賭けた同人誌勝負と、それに至るまでの様々な出来事。
私も当事者の1人だったが、渦中にいたハヤテ君はどう思っていたのだろう?

そして今回、歩のお父さんの実家での4日間。

まさか、あんな事が起きようとは誰も予想し得なかっただろう。
結果としては誰も怪我しなかった事と、ハヤテ君のお祖母ちゃんの想いに触れ、お墓参りもできたのだから良しとすべきなんだろう。

「私も‥‥かな?」

休み入り早々に高熱を出した挙げ句、ハヤテ君相手に死ぬほど恥ずかしい思いをしたり、手の届かないところでハヤテ君が結婚(?)してしまうかも知れなくなったりとやきもきさせられたが、彼の唐変木ぶりは相変わらずだった。

でも、それも含めて――。

「私も、楽しかった‥‥」
これは私の偽りなき心情だ。
去年は勉強に生徒会活動、時々『どんぐり』でのバイトだったのが、この夏は、私のこれまでの半生では一番光と熱に満ちた日々だった。

片想いとはいえ、『好きな男の人』がいるのといないとで、こうも違うとは思わなかった。

まあ、色々な要因――ハヤテ君の唐変木ぶりや様々な騒動、そして歩と私が攻めあぐねたため、彼との仲は目立った進展がなく、その間に水蓮寺ルカの参戦を許すハメになったのだが――。

さらに、潜在的な“脅威”としてナギ,泉,鷺ノ宮さん,愛沢さんがいる。泉以外の3人は、今はともかく、数年後はもっと魅力的な美人になるだろう。

そして最大最強の恋敵とも言うべき天王州さん。
ハヤテ君はふられたと言うが、彼の話しっぷりを聞く限り、踏ん切りがついたとは思えない。

いずれ彼女は私達の前に再び現れるだろうが、こと恋については譲るつもりはない。必ずハヤテ君を私に振り向かせてみせる――。


‥‥私もそのまま居眠りしてしまったようだ。
気が付くと、私の頭は窓側とは反対方向、つまりハヤテ君の右肩によりかかっている。
彼も舟を漕いでいた。

(わあ、ハヤテ君の肩‥‥)

少し慌てて向かい側を見ると、ナギはマリアさんと寄り添ったまま寝入っている。

ナギも寝ているなら、もう少しこのままでいいでしょ?ハヤテ君‥‥。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.12 )
日時: 2013/07/31 22:25
名前: きは

こんばんは、きはです。
更新を楽しみにしながら、読ませてもらっています。


では感想……といきたいところですが、それはまた別の機会ということで。
今回は、ちょっとした指摘となります。


ヒナギクのモノローグの中で、設定と矛盾している部分があります。それは、以下の文です。


  去年の今頃、私はもう高校受験態勢に入っていた、というか、いられた。


劇場版は高2の夏ですので、去年だと高1です。つまり、高校には既に入っているのです。
まぁ、そんなことは、以下の文でも把握されていることだと思います。


  去年は勉強に生徒会活動、時々『どんぐり』でのバイトだったのが、この夏は、私のこれまでの半生では一番光と熱に満ちた日々だった。



揚げ足取りのような細かい指摘ですが、訂正ないしは修正の方お願いいたします。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.13 )
日時: 2013/07/31 22:52
名前: 高島屋秋帆

ご笑読ありがとうございます。
また、ご指摘痛み入ります。
ただ、入力時のパスワードミスで修正ができない状態です。

『一昨年の今頃、私はもう高校受験態勢に入っていた、というか、いられた』

とするべきでしたね。

悪しからずご了承下さい。

場面は既に帰路ですので、あと数話で完結すると思います。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.14 )
日時: 2013/08/01 20:52
名前: 高島屋秋帆


  ――8月30日 21時20分――

「ぬおあああぁ―――!!!!」

私達の住まいである『ゆかりちゃんハウス』こと『ムラサキノヤカタ』に、ナギの絶叫が響き渡った。


‥‥‥‥私達を乗せたなすの号は、結局1時間半遅れで東京駅に到着。
泉・美希・理沙は花菱家、私達は愛沢家差し回しの車で家路に就いた。

車中、千桜が居眠り中であるのをいいことに、彼女の1日遅れのバースデーパーティーについて、何故か愛沢さんも交えて簡単な打ち合わせを行ったりし、40分余りでムラサキノヤカタに到着した。

愛沢さんと鷺ノ宮さんを乗せた車を見送って門をくぐった私達の目に飛び込んできたのは――。

――縁側でお茶を啜っているリィン・レジオスター神父(の幽霊)と、白い着物姿の若い女性だった。

「やあ、お帰り」
「お帰りなさい、ハヤテ」

‥‥え?

‥‥ハヤテ?

女性の姿に見覚えはあるのだが、記憶の引き出しを開くのに手間取ってしまった。

と、その時、

「ぬおあああぁ―――!!!!」
「えええぇ―――!!??」

ナギと、一瞬遅れてハヤテ君が驚愕の叫びを上げた。

「お、お、お‥‥お祖母ちゃん!!??」

腰を抜かさんばかりにハヤテ君は狼狽えている。

「ええ。お祖母ちゃんよ、ハヤテ」
「な‥‥!」
「嘘‥‥‥」
「えぇーっ!?」
「‥‥マジ?」

ナギとハヤテ君は口をあんぐりと開けていたが、まさかの超展開に、私達もその場に荷物を落としてしまった。

「す‥‥鈴音さん!??」
「ええ。先日はごめんなさいね、三千院ナギさん」

息を呑んで尋ねるナギに、彼女は肯定の答を返す。

(あ‥‥‥!)

その時になって、ようやく私の記憶が繋がった。
あの人は昨夜の夢に出てきた女性に間違いない。

あの人がハヤテ君のお祖母さん、綾崎鈴音さん(の幽霊?)だ――。

鈴音さんは私達を見ると、立ち上がって一礼した。

「綾崎鈴音です。ハヤテが大変お世話になっております」
「い‥‥いえ!私達こそ、ハヤテ君には何かと助けてもらっています‥‥!」
「‥‥じゃねーだろ、ヒナギク!!」

私はつい反射的にお礼を返してしまったが、それにナギが噛みついてきた。

ナギは鈴音さんに向き直り、

「と言うか、何故貴女がここにいるんですか!!?‥‥向こう(冥土)に戻られたんじゃないんですかっ!?」
「そ、そうだよお祖母ちゃん。どうしてここに!?」

珍しくも敬語混じりでツッコみ、ハヤテ君も鈴音さんを問い詰めようとしたが、それに対する鈴音さんの答に、私達も唖然とさせられた。

「う〜ん、ぶっちゃけた話、やり過ぎちゃってしばらく戻れなくなったのよ」
「「はあ!!?」」
((ええーっ!!?))

ペロッと舌を出し、まるで悪戯がバレた子供のように鈴音さんは笑う。

「何そのテヘペロ!? ホントにはっちゃけ過ぎだよ鈴音さん!!」
「やり過ぎて帰れなくなったって、一体何なのさ!?」

鈴音さんにツッコむナギとハヤテ君だったが、このままではボケツッコミの無限ループになると思ったのか、マリアさんが動いた。

「ま、まあ、夜も遅いですし、続きは中で‥‥」



※神父さんとヒナギクは何度か面識があるものとしています。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.15 )
日時: 2013/08/05 14:13
名前: 高島屋秋帆

今話が最終話となります。


  ――9月×日、5時――

いつも通り、私は朝のランニングのため、玄関に用意されているシューズに足を通して外に出る。

「おはようございます」
「――へ?」

その声は、聞き慣れたハヤテ君でもなければ、交替でやって来るクラウスさんでもない。
何より女性の声に他ならない。

今朝はハヤテ君が当番のはずだけど――。

顔を上げた私の目に映ったのは、割烹着を羽織り、竹箒を持った鈴音さん(の幽霊)だった。

「お、おはようございます‥‥ハヤテ君は?」
「ハヤテは疲れてるようだから、目覚まし時刻を5時に繰り下げたの。‥‥お風呂は6時に沸くようにしてあるから、安心して行ってらっしゃい」

果たせるかな、その言葉が終わったか終わらないかのうちに、

「うわあっ!寝過ごしたあぁぁっ!!」

ハヤテ君のうろたえた声が聞こえてきたが、鈴音さんは動ずる事なく、

「ハヤテには私から話しておくから、早くお行きなさい」
「は、はい‥‥」

ハヤテ君が日頃から睡眠時間が短い事は私も気になっていたから、たまに寝坊したとしても責めるつもりはない。鈴音さんがハヤテ君の体調を案じるのは当然だろう。

「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい^^」

鈴音さんに勧められるまま、私は日課に入った。

とはいえ、ハヤテ君はこのアパートの執事である以前に、私にとっては大切な友人であり、想い人。
反省しなければいけないわね‥‥。

――それにしても、“色々やり過ぎて帰れなくなった”鈴音さんがこちらに来てはや数日。

幽霊のはずなのに、もう違和感なくここの住人に馴染みつつあるのは何故だろう?

ハヤテ君やマリアさんは料理や“おばあちゃんの知恵”を教わっている。

それに、

「出されたものはご飯のひと粒まで全て食べなさい。好き嫌いがある子は育ちません」
「え〜〜!!?」

等と駄々をこねるナギを

「食・べ・な・さ・い」

‥‥とてもステキな笑顔で一刀両断して下さるものだから、流石のナギも逆らえない。

また、その様を目の当たりにした私達も、文字通りご飯ひと粒たりとも残さず食べるようになった。

それは、最近アパートの住人になったツグミ・ルリという子も例外ではなく、マナーについて容赦ないダメ出しが飛んでいた。

「年長者には敬語で話しなさい」
「挨拶は相手に聞こえるようにハッキリと」

等々、有無を言わせぬ口調なので、怖いものなしのはずの彼女も閉口してしまったのだが、私も少なからぬ影響を受けていた。
それは、千桜の一言から始まった。

「‥‥ヒナ、最近綾崎君をしばかなくなったな」
「どういう意味よ!?」

それって、まるで私がドSキャラみたいじゃない!?

「いや、いつもなら、1日1度はヒナの鉄拳制裁を喰らった綾崎君の屍が転がってるのに、ここ数日は、学校でもアパートでもヒナが静かだからさ」

‥‥千桜が私をどんな目で見てるのか、よくわかったわ。

でも、以前のように、ハヤテ君がノックなしでドアを開けたりすることはなくなり、言動にもデリカシーを感じられるようになった。
やはり、鈴音さんの影響なのだろうか?

それは嬉しい。ハヤテ君がより魅力的な人になるわけだから‥‥。

でもなぜだろう、この不完全燃焼感は――。

「‥‥無敵先輩?」
「な、何?カユラ」

妙な渾名で私に訊いてくるのは剣野カユラ。
同じ趣味のナギや千桜とはともかく、私との会話は決して多くはなく、彼女から私に話しかけてくる事は珍しい。

「――最近、執事君をしばいてないみたいだけど、深刻なケンカでもしたの?」

――――うん、泣いていいよね、私――――。

(了)



何か凄くグダグダな絞め‥‥締めになってしまいました。

まあ、時系列ではより先を行っているアニメ3・4期でも執事と生徒会長の間は相変わらずですから、このような終わり方になりました。

ご笑読ありがとうございました。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.16 )
日時: 2013/08/05 19:16
名前: ささ

はじめまして、ささです。 
鈴音さんのおかげでハヤテのデリカシーのなさが解消それたとは。完璧なフラグ建築士じゃないですか?
良い作品でした。
これにて失礼します。
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.17 )
日時: 2013/08/06 23:56
名前: 堕天使エルギオス

はじめまして。高島屋秋帆さん。堕天使エルギオスと申します。
私はまだ1作目を書いている途中でなかなか次の文章が思いつかない時に、この作品に出会いました。
とても素晴らしい文章で感動しました。
自分もこのような作品が書けるように努力しなければと思いました。
次の作品も楽しみにしています。
これからもどうかよろしくお願いしますm(_ _)m
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Re: 大切な寄り道【初投稿】 ( No.18 )
日時: 2013/08/08 11:29
名前: 高島屋秋帆

ご感想返信

我が初作をご笑読いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。


ささ様

映画での鈴音さんの真意はナギを閉じ込めてギュウギュウにお説教してやるつもりだったようですので、相変わらずナギには厳しいです。
ハヤテの主にふさわしい人間になってもらうという事ですね。

もちろんハヤテにも甘い顔はしていません。


堕天使エルギオス様
私もこちらでは初投稿ですから、貴方と条件はさほど変わりません。
貴方の書きたいものを作品にすればよろしいかと。

次回作はいくつかプロットがありますが、いずれ投稿したいと思います。
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