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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス)続
日時: 2013/06/13 21:00
名前: 壊れたラジオ
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=349

過去に書けなくなったやつのリメイクです




あちらこちらの設定を変えていますし、
何しろ、前のプロットは捨てたので…

まあ、ここに書いてある通り
『モンスターハンター』とのクロスです

時おり、特殊設定が登場するので宜しくお願いします


最近忙しいので、更新は不定期です


どうか長い目で見てください……




では……
















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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.1 )
日時: 2013/06/16 14:09
名前: 壊れたラジオ

序章
第一話『疾風の狩人』










「狩人」と聞いて、あなたは何を想像するだろう?










山で獣や鳥を狩り、質素に生きている人々を、だろうか?
きっとそれも、狩人の一つの形だろう。









ただ、この世界では少し違う。
巨大な生態系の中、生き物と生き物の命のやり取りの大きなうねりが、ここにはある。










人は、自然界から比べれば、とても小さな力しか持たない。
その力が及ぶところは、非常に僅かであろう。








それでも巨大な力に屈せず、立ち向かう者がいる……















「……はあっ……はあっ……」














とある場所。
そう言うしかない不毛な大地で、鎧武者が一人走っていた。

ただ、走っている場所はこの鎧には不似合いだ。






一面の砂原……そして蒼天に輝く太陽が、その鎧武者の蒼く輝く鎧の上からじりじりと照りつける。


そんな中で、下に着込んだインナーがぐちゃぐちゃになる心地の悪い感覚を抱いたまま、ひたすら走っていた。












「…どうしてこんな所で…僕は一生懸命走っているんでしょうねっ…」












そういう若い声をした少年は、蒼天よりもブルーな鎧をがしゃがしゃ言わせながら走る。

ストレス指数もマックスである。








普通の人……特に、元気いっぱいの子供や、日ごろの洗濯物をここぞとばかりに干そうとする母親たちなら嬉しいはずの晴天。




但し、今この状況に置かれている少年にとっては、自分に対する大概な嫌味にしか思えなかった。














(ま、今この時が悪い冗談みたいな時に、こんな下らない事を思っている間なんか無いんですけどね……)











そういって自嘲じみたようなため息をつくと、太陽はいっそう少年を照りつけたように感じた。

自分に嫌がられている太陽からすればいい迷惑だ。











こうなるまでの経緯……それは二週間程も前に遡る。


















*                *


















「……」














とある晴天のもとで、少年は岩影に隠れていた。

少しの音も立てまいと、静かに息を潜めているのだが、じりじりと照り付ける真夏の砂浜の太陽はそんな事知ったこっちゃないらしく、少年を辟易とさせていた。









僅かに目を細めて、眼前にある大海を見つめると、ザブン……ザブンと波がうっては返す音が耳に入ってきて、少しの安らぎを心の中に生む。
















リゾート地に向きそうだな、とその青い海を見つめてぼんやりと思った。

目の前の海は透き通っていて美しい。
この豊かな海だから、魚なんかの海産物も豊富だろう。



今のこの状況になければ、のんびりと海水浴か釣りにしゃれ込もうと思ったかもしれない。
ただ、それははっきり言って自殺行為に等しかったが。



















少年はある目的を帯びて孤島にきていた。
勿論、バカンスではなく、他の理由であるが。
……先ほども言ったとおり、こんな時でもなければこの暑い鎧を外して冷たい水に浸かりたい。















『孤島』

それがこのフィールドの名前だ。
文字通り、海に囲まれた巨大な島なのだが、そんじょそこらの無人島と比べてもらっては困る。
…まあ非常に安直なネーミングセンスではあるし、呆れるかもしれないが、簡単さと質素さを求めるギルドのお偉方に素晴らしいフィールド名を考えてもらう事なんぞ、無理に等しい。






そして、この島は豊かな自然と生態系の島、とも言われている。
しかも先ほどもいったとおり、海や山の幸も豊富で綺麗な海まであるのだ。
観光客を呼び寄せるには事欠かないバリューがここにはある。











ここまで書くと、高級リゾート地になっていてもおかしくないような気もする
実際、ここの資金源にそれも入っている





















……そう、『入っている』だけだ





















どんなに過ごしやすくても……いや、過ごしやすいからこそ、この島をただのリゾート地にしない訳がある。


















なぜか?


その答えは簡単だ。

人が過ごしやすいなら、他所様も同じような事を考えるのは明白である。



動物……とりわけ肉食動物にとって、ここは巨大なディナー会場だ。
そしてこの世界の肉食動物は、そんじょそこらのちゃちな物ではない。














巨大な体駆を持ち、地を駆けるもの。

大空を掴めるほどの翼をもち、天翔るもの。

物語に出てくるクリーチャーのように長大な体を持ち、海洋を我が物顔で泳ぎ回るもの。




早い話が、そちらの世界で言う『怪物<モンスター>』だ。

彼らは、須らく強大な力を持っている。
それは自然の中でも巨大な力を持ち、時に人の生活を脅かすこともある。








人は非力だ。
こんな圧倒的な者達が相手なのだから。











しかし、それを覆す者達がいる。
このモンスターを狩り、人々の生活を守る者。
自分の名誉のために、狩りをする者。











……そして、自分の願いの為に、狩る者。












人々は、彼らを『狩人<ハンター>』と呼ぶ




















*                *

















「…!」









僅かな水面の泡立ちに少年は反応した。
長年のハンターとしての勘が一気に冴える。









(来るぞ…)










少年の読みは当たり、先ほど粟立った水面が巨大な水しぶきを上げて爆発する。

そのしぶきを手で防いだ彼が見たのは、巨大な影だった。















ドスン!













重く濡れそぼったものが地面に張り付いた音がした。
その巨体は首や全身を震わせ、体についた水滴をふるい落している。











「…ロアルドロス…」











巨大な山吹色をした怪物を眼前に置き、少年はそうつぶやいた。










<水獣・ロアルドロス>


<海竜種>というモンスターに分類され、その種名の通り、普段は水中に生息するモンスター。



ただ、こいつの場合は陸戦もお手の物だ。

全身は黄色い鱗に覆われ、その一つ一つが細かいため、非常にしなやかな動きが出来る。
爪は鋭く、地面に穿てば全く滑ることなく自由に活動出来る。




そして一番の特徴は頭である。
巨大な海綿質のスポンジ状のタテガミに覆われた首には、大量の水を溜め込んでおり、それ故に陸上でも長時間活動出来るのだ。
















少年は背中の武器を、「いつものように」引っ付かんだ。



折り畳まれた、彼の装備と同じ色をしたそれは、ジョイントを外すと、『カシッ』という小気味よい音を立てて開く。



開くと高さニメートルはあるだろう、蒼く輝く無骨な長弓。




これが彼の武器だ。
彼はポーチからビンの入った弾倉<シリンダ>を取り出し、手早く弓の握りの当たりに差し込む。

『カチャン』という聞きなれた音と、中のビンの蓋が外れ、弓の中に薬品が流れ込む。

その独特の匂いをかぎながら、少年は踏み出した。














*                *














岩陰に隠れて気配を隠していたのが有効だったのか、ロアルドロスはまだ気付いていない。

だが、気配を消したことによる弊害が表れ、少々厄介なことになっていた。














(…ルドロスが集まってきたか…)











気配を消したことにより、安全だと分かった小型モンスターが次々と現れたのだ。

そして、それは非常に厄介な存在であった。







<水生獣・ルドロス>は、ロアルドロスのメスにあたる。



ただ、ハッキリとした体格差がある
ロアルドロスはすべてがオスであり、巨大な体躯になれるのだが、メスのルドロスは小さいのだ。



そもそも、ロアルドロスは巨大なオスが、メスを何頭も従えるハーレムを形成しているのだから、この体格差は当然と言えば当然なのだが。













仕方ない。
少年はそう思うと、弓に矢をつがえた。


















(狙撃範囲だ)









自分の間合いに入ると、少年はためらうことなく矢を放つ。

ひょう、と言う音が空を切り、ロアルドロスの海綿質の頭部に、過たずに命中した。


















「グオオォオオ!?」










その矢が突き刺さったところから高熱の炎を上げ、ロアルドロスの悲鳴が磯にこだました。


流石のモンスターでも、勢いよく…そして不意を撃つように射たれた矢に、怯まないやつはいないだろう。
ただこの事は同時に、ロアルドロスが少年の存在に気付いた、と言うことでもある













「グル……キイイイイイィイイン!!」











甲高い声を上げ、自分の縄張りを犯した者を威嚇するロアルドロス。

周囲のルドロスがうるさくなり始めるが、それをもう見越していた少年は矢を横に拡散させていくつも放つ。


その矢が連続で炎を上げると、後ろにいたルドロス達は恐れをなして引き下がる。











その様子にボスたるロアルドロスは威嚇するかのように咆哮するが、少年は怯まない。

すぐに次の矢をつがえ、狙いをすました。







それが分かったのか、ロアルドロスが少年に向かって走り出す。

それは助走だったらしく、ロアルドロスはその巨体からは到底想像出来ない動きを見せた。








鉤爪の付いた両前足で滑りやすい砂浜をがっしりと掴み、その巨大……十五メートルはある巨体を空中に踊らせる。





だが、少年はそれを見た途端、難なく回転回避でかわす。












パシュッ!パシュッ!!












数本の矢が空中にいるロアルドロスに命中した。
空中では仰け反ることが出来なかったのか、バランスを崩して地面に横転する。



それに向かっていくつも続けざまに放たれる矢は、ロアルドロスを確実に消耗させる。




起き上がり、こちらをぎろりと見据えたロアルドロスは体を横に構えた。










(やばっ!)









少年はそう思うや否や、素早く前転してロアルドロスの尻尾方向に避けた。


その瞬間ロアルドロスの体は、少年の真横を通り抜ける。





少年のとっさの機転によって、ロアルドロスの最大の必殺技、
『デスロール』と言われるそれは不発に終わる。













「ガアァ!」












かわされたことに怒りを感じたのか、ロアルドロスは怒り声を上げ、口から白い吐息を吐き出しながら物凄い勢いで走り出す。


それに合わせ、口からは大量の水球を辺りに撒き散らしているのが厄介だった。



その厄介の元凶は、この水球の中に大量の粘液があることで、これを喰らえば鼻や口が塞がり、窒息してしまう。

ロアルドロスが獲物を捕らえるときには、これが非常に役に立つのだ。










だが、少年はそれをも凌いでいく。
馴れた素振りで水球の間を素早く回避し、的確にその間をすり抜けながら弦を引き絞り、矢を命中させていく。



















その姿は、まるで『疾風』の如く。




















ロアルドロスは走り回った後、もう一度相手にしていた少年を襲おうと振り返る。






しかしこれがこのロアルドロスの失敗だった。












キリキリ……と物凄い力で引き絞られた弓が、ロアルドロスの眼前にあった。


ロアルドロスが反応する前に放たれた矢は、完全にロアルドロスの脳天を…全身を射し貫いていた。




















バシャアッ!!!と磯に体を横たえたロアルドロスの目が……再び開くことは、無かった


















































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.2 )
日時: 2013/06/16 21:18
名前: 壊れたラジオ

序章
第二話『蒼火竜』














「…ふう…これで一体目か…」









ロアルドロスを倒し終わった後、辺りにいたルドロスを一通り倒すと、少年は座り込んだ
一端一息つきたい気持ちもあるが、そうしていられない事情が少年にはあった。








「…ビンの調合でもしておこうかな…」










自分にとって今やるべきことは何かを考えると、ポーチに手を伸ばした。
必要なものが入っているポーチだったが、上手く使えなければ意味は無いからだ。






















「…うわっ!?」











しかし、そんな少年を不意打ったのはいきなり横薙ぎに飛んできた突風だった。










(ただの突風じゃないな……)








全身から伝わる彼の五感はそう告げていた。
精神をとがらせて、じっくりと周囲を見渡し、手は背中の弓にかけられている。














ドスッ……と何かが着地したような音がして、武器を構えた


















<紅い流星>










それが、少年の目に入ってきた物体の最初の印象だった。


先ほどまで自分が隠れていた岩影に潜む、黒い影から赤い光が線を引いている。








少年はその正体を知っている。
と言うより、戦ったことがあったので、知っていたというのが正しいか。














「…ナルガクルガ…」









<迅竜・ナルガクルガ>

本来は夜行性の<飛竜種>でこんな昼間から活動しているのは珍しい。
やっぱり、縄張りの侵入者を排除しに来たのか……



鋭い刃翼、漆黒の体色は、夜の森に完全に適応していると言える。
これで森の深い影に隠れ、獲物を強襲するのだ。

また刃翼は、森の木々を切り裂きながら滑空するのに適してはいるが、その太い幹を切り裂くほどの一撃は、十分な脅威だ。







そして極めつけはその尻尾だ。
非常にしなやかなに出来たそれは、ナルガクルガの体長である十七メートルほどの半分を占める。

その上鞭のようによくしなり、本気でぶん回せば、その先端のスピードは冗談抜きでえげつない。

さらにこれ以上ない奥の手として、普段は仕舞われているが、そこには鱗が変化した巨大なトゲが幾つも密集して生えそろっている。


ナルガクルガが怒り状態になった時のこの尻尾の渾身の一撃は、他の飛竜の骨すら容易に砕くことが出来る。






勿論、人間が喰らえばそれじゃ済まないのはどう考えてもはっきりしている。
そこに残るのは、人の形をしたひき肉だ。











そうなるのは御免だ。
少年はポーチからビンのシリンダを取りだし、素早く弓にセットする


















「ガアアアァァアアッ!!!」















ナルガクルガの目は興奮すると、その目に紅い光をたぎらせ、流星の様に尾を引く。

つまりは正に今がそれと言うわけだ。




出会った瞬間からブチ切れている相手を前にして、少年は矢を一本つがえ、黒き飛竜を狙った。


















*                *



















「お疲れ様でしたー!!<高難度クエスト>達成ですねー!!」












近くに海を臨む港。
そこにある石畳でできたカウンターで、甲高い声が響く。




モンスターを狩る依頼をする場所であり、
なおかつハンターが依頼を受ける場所である<クエストカウンター>。
そこの看板娘のような存在である、ここの受付嬢だ。












「いやー、やっぱり凄いですねー<蒼火竜>さんは!」
「いえ…これが仕事ですから」













そう言うと『いやーん、かっこいいですう』と、彼女はしなをつくった。

それに少し会釈をして返すと、彼女は自分に向けてひらひらと手を振ってくれた。



手を振り返しながら少年はクエストカウンターを離れると、港の側の食事場に入っていった。

その中は貿易商の集う巨大な港であることを証明するが如く、様々な人間でごった返していた。



遠くから来たと思われる異国の商人やお偉方。
そして自分と同じく、ハンター業に身をやつしている者たちが何人かで宴会を開き、騒ぎあっている。


折角クエストに成功したんだ…今日は良いものを食べても良いだろう。

少年は食欲を誘う店内の匂いを嗅ぎながら、開いている席がないか見渡した。
奥のカウンター席が一つ空いているのを彼の視力は逃さない。

人をかき分けてそこにたどり着くと、この地方特産のビールである、<タンジアビール>を一杯コックに頼んだ。












「今日は何か良い食材は入ってます?」
「ニャー、今日のお勧めは水揚げされたばかりの女帝エビ!それに現地直送のシモフリトマトですニャー!」










良いものを食べたいと思っていた少年は、顔見知りの給仕人のアイルー……猫型の獣人にそう尋ねた。


自分がこういう事を聞くのは予想済みだったのか、アイルーはその肉球のついた手で近くの水槽に手を突っ込んで、中にいたエビをいくつか取り出した。












「じゃあ、それを料理してもらえます?」
「まいどありニャー!<蒼火竜>さん!」









パタパタと奥へ引っ込む給仕人。
しかし、あのエビは巨大な鋏を持っていたなぁ、と少年が思った瞬間、奥で結構大きい悲鳴が起きたのはご愛嬌だろう。













「…おい!あの人、<蒼火竜>さんじゃね!?」
「ウソ!本物!?」
「キャー!!<蒼火竜>様ーッ!!」














先ほどの宴会席から大きな声が響き、あたりがそれで一気に騒がしくなる。

少年は苦笑静かに食事をしたかったのだが、それがいつもうまくいかないことに苦笑した。













<蒼火竜>は、彼の通り名だ。

幾らか前までは自分には大層過ぎる名だと思っていたが、自分の力を測れる今となっては、それもごく自然に受け止められるようになっていた。













「すげーよな!今日も<高難度クエスト>を一人でクリアしてきたんだと!」
「マジかよ!いいなあ!俺もあんな風にカッコ良くなりたいなあ!」
「だって何せ、<史上最年少>で<G級ハンター>になったんでしょ!?」
「いやいや!それよりももっと凄いのは、<サポート武器>として、あんまり表だって使われなかった<ガンナー武器>の弓で…弓一本でG級に登り詰めたことだろ!?」
















少年はそれを聞いて、自分が客観的にどう見えているかを判断していた。
自分にとってはこの武器だけが使いこなせるものだったから、それほど自慢できることではなかったのだが。



そう思っていると、左側のカウンター席に座っていた女性のハンターグループから、一人の少女が周りに押されてこちらにやってくるのが見えた。











「…あ、あのっ!」
「?…どうしたんです?」











おずおずと声を掛けてきた一人の少女。
その子がいた集団はきゃいきゃいとこちらの様子を見て話していたが、ハンターのチームだろうか。


全員装備を統一しているのだろうか、<マカライト鉱石>を主とした、<アロイシリーズ>

背負った武器は出て来たこの彼女は<ライトボウガン>の中で最も初期装備の<クロスボウガン>だ。


あまり弓以外の武器には詳しくはないが、典型的な初心者ハンターのようだ。

他の少女はそれぞれ片手剣、ハンマー、大剣であり、どれも初心者用の装備である事を見ると、ハンターになって日が浅いグループのようだ。

そう思っていると、その少女はおずおずと一枚のカードを差し出してきた。

















「…あの…<ギルドカード>…交換して貰えませんか…?」
「…?…良いですよ?」
「ありがとうございますっ!」













大袈裟に頭を下げる彼女だったが、少年はここまでかしこまる理由が分からず苦笑しながら首を傾げた。

その様子を見た彼女が赤くなった理由も分からなかった。







<ギルドカード>はハンターの名刺のようなものだ。
今までどんな狩りをしてきたのか、それがこと細かに記されているので、チームを組む時の指標となる。











「…あの…」
「…?」
「…どうしたら、<蒼火竜>さんみたいに、ガンナーでも…立派なハンターになれるんですか…?」











その問いに少年は少し腕を組んで考え込んだ。

確かに自分の事があるとはいえ……ガンナーは近接武器に比べてリーチがあるぶん、『臆病』とか『良い所取り』と言われやすい。

しかしそれを乗り越えて、チームでもソロでも最大限力を発揮するのがハンターではないのか。















「…ガンナーでも…いや、ガンナーだからこそ、出来ることがあるんです……あなたが今どうしたいかは知りません……ですが、ずっと愛着を持って使っていれば武器も…弾もきっとあなたを助けてくれます……だから頑張ってください…」
「!あ…ありがとうございます!!そんな勿体ないお言葉!一生の宝物です!!!」
「…大袈裟ですねえ…はは」










そう答えると、彼女はまた大げさに頭を下げた。
別れ際に握手を求められたので応じると、これ以上ないぐらいに真っ赤になる。

耳たぶまで真っ赤になった様子に心配になって覗き込むと、彼女はまた深く頭を下げると、さっと後ろを向いて、元いた場所に戻っていく。

その後姿は、その内スキップでもするんじゃないかという勢いだった。














「いいなー!<蒼火竜>様とお話出来るなんて!」
「で!で!?どんなお話をされたの!?あのお方は!?」
「秘密だよー♪教えてあげなーい♪」
「ずるーい!私だってお話したーい!」














戻ってきた彼女に、チームを組んでいた少女たちが取り囲んでいく。

その話の内容を遠巻に聞きながら、心の中で、また苦笑する少年だった




















*                *


















「お待たせしましたニャー!」









十数分経ち、ある程度先ほどの静かではないが、落ち着きを取り戻した時に奥から声が上がる。

先ほどのコックアイルーだ。
手に包帯が巻いてあるのは……気にしないことにしたほうが、彼の性格上無難だろう。




そのコックが持ってきた、自分の今晩の夕食は……『女帝エビのシモフリトマトソース炒め』に、『ヘブンブレッド』と言うパンだ。


『女帝エビ』は深海にすむ滅多に取れない豪華なエビだ。
非常に淡白な味をしており、身のよくしまった取れたての物は、王族の招宴にすら並ぶことが出来ると言われている。

ヘブンブレッドは一口食べれば天にも昇る事が出来ると言われる、北の方でわずかにしか取れない小麦を利用したパンであり、これもまた普通に買おうと思えば目の玉が飛び出るほどの金額がつく。








久しぶりの豪勢な食事だ。
と言うか、基本的にクエスト終わりにしか豪勢なものは食べないのであるが。



褒美があるから仕事ががんばれる、と言う理屈だし、ハンターと言うものは収入は報奨金とモンスターの素材による収入であるから非常に大きい。

それに支出はアイテム代や武器、防具の強化のために時折使うだけのため、差し引きでは結構な額が入ってくる。

トップハンターの彼にとっては、あまりこういった食事には糸目はつけなくても大丈夫なはずなのだが、彼の生来の性格からこういったものはあまり多く食べようと思わなかった。



つまるところ、自分への褒美といった感じだから、これは彼の密かな楽しみだったのだ。




一口食べると濃厚な、それでいて全くクセのない贅沢な旨味が口一杯に広がる。
エビの肉の弾力が歯の中で弾け、素晴らしい食感が脳の奥まで響く。


そして、エビの淡白な味を補佐するかのように、しかし主張しすぎることもなくトマトの酸味が一層それを引き立てる














「やっぱり美味しいですねーここの料理…」











疲れた体に染み渡る旨味に、少年はそう言った。


料理を褒められて悪い気はしないだろう。
アイルーは胸を張った。











「そうでしょうニャー!何せ新鮮ニャから!」
「君の腕もあると思いますけどね」
「そうかニャ?」







そういってほめると、アイルーは照れた表情をした。
ハヤテはそれを見ながら、タンジアビールで喉を潤した。










「あ、ビールもう一杯貰えます?」
「了解ニャー!」







ジョッキが殻になったので少年がそう言うと、アイルーはニコニコ笑いながら空になったビール瓶を持っていった。

その様子を見ながら、皿に少し残っているエビを食べようと目線を移した。














「…さてと…もうちょっと…」









楽しむとしますか…と言う言葉は、隣からニュッと出てきた手によって遮られた。
その腕には、白い甲殻に蒼いラインが入った美しいフォルムの防具がつけられていた。













「…ん…うめえええっ!?なんだこれ!?」
「…あ…」










僕のエビが!
そんな言葉は、振り返った途端に喉に引っ込む。
その目の前にいた陽気そうな少年を見ると、どうしてここに今彼がいるのかと驚く。














「ソウヤ君!?」
「おー!久しぶりだなハヤテー!!」









“ソウヤ”と呼ばれた少年は、少年に向かってニッと笑う。




彼が読んだ<ハヤテ>と言う名は、この少年の本名だ。


ハヤテは、いきなり後ろから現れた友人に、少々の意表をつかれた。
それを意に介することなく、隣の開いていた席によっこらせと腰を下ろした。















「…久しぶりー…と言うほどでも無いでしょ……えーっと…この間のラギアクルス三頭クエストの後だから……二ヶ月振りかな?」
「…よく覚えてるなーお前…」
「でも、さすがはソウヤ君だったね。水中戦はお手の物だったし」
「あ〜〜…しっかし強かったよなー…あの時のラギアクルス…」
「当たり前だよ、G級だったんだ…」












彼らの言う<G級>




ハンターには階級がある。



普通は<下位>、そして<上位>までだ。
しかし一握りの限られた実力者のみが、そのさらに最上級である<G級>ハンターの称号を得られる









生き物である以上、モンスターには当然ながら個体差がある。



そしてごく限られた個体――――――他の個体と比べ、<高い攻撃性・防御性>や<狡猾さ>、<素早さ>を持つ、特に優れた個体がいる。





ハンターですら危険なその相手――――<G級モンスター>を狩ることを許された、ハンターの最上級クラスに当たる階級であり、様々な特権が許されている。








ハヤテは勿論、ソウヤも彼に少し遅れてG級ハンターとなった。


















「あり?そう言えばコテツは?」
「…あの変態の事だから…また凍土じゃないかな?」
「変態って……まあそうか…」
「…否定してやりなよ…」














ソウヤはどちらの味方なんだ?と思わせる言動が多々ある。
コテツに対しても、変態と言う一定の線引きはあるらしいが、それさえもどうかおぼつかない。



ハヤテの知り合いの<黒轟竜のコテツ>は主に凍土や火山の狩猟を主に行っているハンターだ。

全く異なった環境に身を置いている彼を奇異の目で見る人間よりも、尊敬の念で見る者も多かったが、ハヤテにしてみればただの変人だった。

勿論、ハンターとしては尊敬しているのだが……まあ、また後で話すことになるだろう。








全くの余談ではあるが、ハヤテ、ソウヤ、そしてこのコテツは、ここ<タンジアの港>の『三強<トリプル・フォース>』と呼ばれている。

G級ハンター自体、それほど数がいない――――――それがこのタンジアには三人もいるのだ。



無論、三人は近隣で名を知らぬ者のいないほどのハンターである。

しかし、いつもは都合が合わないため、緊急時で呼び出される以外はいつもは別々に行動している。









だが、ギルドによって緊急事態の時に三人揃った時の強さは、尋常ではない。

それぞれが優れたハンターである上に、苦手な相手がほとんどいないこともあるが、
全員の得意分野を当てはめた場合の強さがとんでもないのだ。









水中戦の名手――――――<大海の王>すら圧倒する、<白海竜のソウヤ>

その力強い戦いで――――――地上戦においては右に出る者のいない、<黒轟竜のコテツ>







そして、空中戦――――――





弓を使用し、飛竜にすら逃げ道を与えず、精密かつ力強い狩りを発揮し、人々から蒼天の王の異名で知られる、<蒼火竜のハヤテ>













ハンターズギルド…ハンターを統轄する機関でさえ、彼らに対して敬意を払い――――――

何か危険なモンスターが現れれば、この三人を集めればよい、と言うのが、常識になっていた。







とはいえ、三人が揃うのは前述の通り稀だったが。






















「あ、そう言えば…<高難度クエスト>、またクリアしたんだって?ソロですげーよなお前……」
「…ん?ああ、ありがとう」








ソウヤが賛辞を贈ってくれるのを何の気なしに聞きながら、ハヤテは残ったエビをつまみながら答えた。



ソウヤはいつ頼んだのか、タンジアビールをごくごくと飲んでいた。



























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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.3 )
日時: 2013/06/17 20:49
名前: 壊れたラジオ

序章
第三話『狩人の日常』












クエストについてだが、クエストには『ソロ』と『チーム』がある。






ソロは読んで字のごとく、一人で狩りに行くのだ。

凄まじく危険度が高いし、時間もかかるが、その分見返りとして報酬は多い。






そしてチームは複数人――――――ただし、ギルドの取り決めで、一チームにつき四人までと言う制限がある。

数人で行けば協力して狩りが出来るため、危険度がぐんと下がる。
だからあまりにハンターを多くしてしまえば、モンスターの乱獲を招く恐れもあるし、“4”と言うのはこのあたりの風習では幸運の数字だからだ。





だから普通はチームプレーで狩りをする人が多いため、『ソロ狩り』をする人はほとんどいない










それが、この三人を有名にしている理由であったが。
















ハンターには、“ハンターランク”と言うものが存在する。


ギルドから力のあるハンターに対して、名指しで指名が来ることがあるのだが、それを『緊急クエスト』と言う。







それをクリアすると、ギルドから報酬として、一定の『ハンターランク』が贈られる。

そのハンターランクが高いほど、高レベルのクエストが受けられ、危険なエリアでの採集、採掘が許されるのだ。
そうすることで、ずっと強い防具を作ったり、強力な武器を作製出来るのだが……










如何せん、その門が物凄く狭い。
『G級』のハンターランクと言えば、その門はさらに狭まる。










だが、一応の救済措置は取られている。

例えば、『チームプレー』でクリアしたとしても、ある一定のハンターランクは貰える仕組みになっているのだ。

勿論ソロ狩りをした時よりは低いのだが、安全かつ手っ取り早い。
その為、ほとんどのハンターはハンターランクの近いもの同士でパーティーを組み、
クエストをこなしているのだ。











しかしこの三人は、それぞれ全く他人の力を借りず、『一人』でG級ハンターに上り詰めたのである。
それは、下位ハンターが上位ハンターになることとは天と地ほどの違いがあるだろう。



つまりは、彼らはそれを乗り越えることが出来るほどの猛者であるという事だ。












この三人が出会ったのは、それよりも後……その話は、後々することになるだろう。




















*                *



















外が少し暗くなっているのか、店の中に照明がつき始める。
ただ、ランプの光はそこまで明るいものではないので、それなりに暗い。


雰囲気が出ていると言えば聞こえはいいが、男二人が座っているところにムードもへったくれもあるかと突っ込みたくなる。












「…まあ、僕の故郷…孤島が大変だって聞いたから……それにしたって、あんな奴らが来るとは思わなかったけどね」
「ロアルドロス…ナルガクルガに――――――<大海の王>ラギアクルスと来たもんだ……どこをどうしたらそんなメンツになるんだか…」
「…ここまで来ると、ギルドはハンターを抹殺しに来てるんじゃないかと思うことがあるよ……」












ハヤテとソウヤはお互いの狩りの記憶を話し合う。
その間に皿に残ったソースをパンに付けて食べていたが、行儀は少し悪いのだろうが、それにも増してパンに極上のソースが味をさらに深めて美味しい。


ソウヤがパンに手を伸ばすが、止めるつもりはない。
止めたって無駄だからだ。




彼の話を聞いていると、ソウヤの故郷にもモンスターが出現したらしく、その対処に回っていたらしい。

そして、先ほどの船の便でそこから戻ってきたところだったらしいが……






ソウヤの話を聞きながら、ハヤテは今日遭い見えたモンスターたちの事を思い出していた。










通常、大型モンスターは群れたりしない。


ただ、いくつかの偶然――――――そこに住んでいる人たちには不幸でしかない――――――が重なった結果、何頭かのモンスターが同じフィールドに集まる事がある。



ギルドはこれを<大連続狩猟クエスト>として、限られたハンターにしか受注を許可していない。







そして、その<大連続狩猟クエスト>は、ごくまれに、G級個体で構成されることがある。
こうなってしまえば、もはや手を着けるのが困難だ。










一体ですら、G級ハンターでも苦戦する、G級個体を何頭も狩れと言うのだ。
普通なら、もはや絶望しか見えてこない。
これを<高難度クエスト>と言う。
















が、ハヤテ達は違う。
あろうことか彼らは、このクエストを『ソロ』でほとんどクリアしている。



そういうわけもあって、今や彼らの評判は鰻登りだった。




















*                *


















「…あ、そう言えば……」
「?……何かクエストの依頼かい?」
「…どうして分かるんだよ……」
「君が僕に声を掛けるときは大体、その手の事だからね……もう慣れた」













ハヤテに全て見透かされたことに、ソウヤは溜め息をついた。


この二人は、あるクエストがきっかけで知り合い、ちょくちょくと一緒に狩りをしにいくほどの仲だった。






そもそも、ハヤテには男友達と言える人がほとんどいない。
男性ハンターは自分の事を、友達と言うよりも尊敬の目で見るし…女性は言うに及ばずだ。


こうして、同じ目線から気兼ねなく話せるソウヤの存在は、ハヤテにとっては、凄くありがたかった。



なので、一緒に狩りに行くこと自体は別に嫌な事でも何でもなかったのだが……













「…ただ、前のクエストの時みたいにはしないで欲しいね……」
「…前?…はて?…」
「…いや!!前…半年前の火山戦の時だよ!!」
「…あー…でもオレ水中戦メインだし…」
「いやいや!それでも三頭の大型モンスター全部を僕に押し付けて、希少鉱石採掘はしないで欲しいんだけど!?」













ハヤテの必死の叫びに、ソウヤはケラケラと笑って答えた。
その様子に、ハヤテはこめかみを抑えて嘆息する。







ハヤテから見たソウヤと言う少年は、自由奔放だった






あの時、全モンスターの中でもトップクラスの強さを誇る、G級の火山生息モンスターの高難度クエストを二人で行ったのだが……

あろうことかソウヤは、ハヤテにモンスターの狩りをほとんど任せてしまったのだ。



つまりは、並み居る火山の巨大で狂暴でバカに強いモンスター相手に一人で相手取ることになったのだ。








ハヤテの苦労は、想像に難くない。

もはやパーティー崩壊だろ、と思いながら必死に時間制限内にすべてのモンスターを討伐し、這う這うの体でベースキャンプに戻ると、火山の希少鉱石を自慢げに見ていたソウヤがいた。




モンスターの狩猟をほっぽり出して火山で採れる希少鉱石を売って一財産、としたものだから彼の背中を思いっきり蹴っ飛ばしてやったのはごく当然の反応だろう。
誰だってそうするはずだ。









と言うわけで、ハヤテはその事をちょっと根に持っていた。
それくらいはある程度許されてしかるべきだ。

















「大丈夫だよ!今回はそういうクエストじゃねえから!」
「…なら良いんだけどね……」











ハヤテがため息をついているうちに、給仕人はは食べ終えた皿を持っていく。

<ごゆっくり>とアイコンタクトを送ってくる彼に、会釈を返してソウヤに視線を戻す。















「…で?どんなクエストなの?」












いつまでもふざけているわけにはいかない。
ハヤテの目は、一瞬で狩る者――――――人々が尊敬してやまない、<蒼火竜>の目になる。


ソウヤもそれが分かったのか、おちゃらけた顔を真剣なものにして口を開く。


















「…ああ…場所は<渓流>なんだが……」
「…<渓流>…<ユクモ村>の近く?…」













ハヤテの言葉に、ソウヤがうなずいてビールのジョッキを手に取る。

ハヤテはその村には以前、傷の治療の為に湯治に出掛けたことがあった。
そしてあの近くにあった、非常に美しい豊かな森と川を思い出していた。





















「…まあ、あそこならどんなモンスターが来てもおかしくないけど……でも、G級ハンターの君が、わざわざ僕と一緒に行かなきゃいけないほどのクエストなのかい……?」
「…ああ…少しばかり妙でな……」
「…妙…?」
















ハヤテは眉を潜めた。
ソウヤは、誰が見ても(例外はあったが)立派なG級ハンターだ。

しかし、その彼ですら、二の足を踏むほどのクエスト?



















「渓流下りをしていた観光客が目撃したのが最初なんだが……本人は目の錯覚だと思ったらしくてな………本格的に被害が出たのは、その三日後……つまり昨日だ」
「…ってことは四日前か……」


















ハヤテは顎に手を当てた。
四日前と言えば、孤島においてロアルドロス、ナルガクルガが確認され、
ラギアクルスによって観光船が沈められた日――――――。

そして、それを討伐するためにハヤテが出発した日だ
















「…被害は?」
「…ああ…渓流近くの太い支流があるだろ?…あそこでもう何隻もの船が沈められててな……船は出せないわ、犠牲者は出るわ、産業に問題をきたすわで、もう大変らしいんだ…」
「…川ってことは<海竜種>か…もしくは――――――<魚竜種>か……」












当たり、と言ってソウヤはビールに一口、口を付けた。
それを一気に飲み干した後、大きく息をついて言った。





















「ギルドから入った情報だと、目撃者は全員『青く輝く鱗』、『緑に輝く鱗』……んでもって、巨大なヒレを立てて泳ぐ姿を見たらしい…」
「…と言うことは…」
「…そ、ギルドは直ちにこれを受理……<高難度クエスト>として依頼したんだ…」
「…ちょうどその時、オレもこっちに帰ってきててな。ぜひ<水中戦>の得意なオレにやって欲しいと、頼んで来たんだが――――――モノがモノなんだよ……」














ハヤテは、その正体についてある程度の予想を立てていたが、それがものの見事に当り、そして疑問が湧き出てくる。


ソウヤはもう一杯のビールを給仕人に頼んだ後、ハヤテに向かって言った。






















「…今回の相手は……<水竜・ガノトトス>……んでもって、その亜種の……<翠水竜・ガノトトス亜種>だ……」




































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.4 )
日時: 2013/06/18 21:47
名前: 壊れたラジオ

序章
第4話『思い出の日』









<水竜・ガノトトス>

「魚」の様な姿をした「竜」と言う意味の、<魚竜種>にカテゴライズされるモンスターで、
見た目は文字通り魚のような姿をしている。


ヒレや鱗、それはまさしく魚のそれだ。
もちろんというか当然というか、固さは、その比で無いが。






そして、その遊泳速度は地上を駆ける俊馬にも匹敵するのだ。
相手に静かに近づき、一瞬で仕留めるその姿から、『大海のハンター』とも言われる。











だが、驚くべきことに、実はコイツの先祖は<飛竜種>なのだ。






その証拠として前足の巨大なヒレは、羽ばたく事は無いが、滑空程度なら行える。












そして、魚にはどう考えてもあり得ない足が特徴の一つである。

コイツは立派な足を持つ上に、それが非常に長いため、体高が高い。

足がある事で陸上でも自由に活動出来るし、呼吸もエラでは無く肺で行っている為、酸欠にもならない。











まさに、どちらの環境にも上手く適応したモンスターと言えるだろう。



















*                *





















「ガノトトス――――――渓流には今まで現れたことが無かったはずなんだけど……」












ハヤテは疑問に思ったことを口に出す。

彼の故郷の“孤島”やタンジア近辺の“水没林”では比較的よく見るモンスターだったが、今まで“渓流”のフィールドに現れたという情報はとんと聞かなかった。


ソウヤも彼にしては珍しく、考え込んだような表情をしている。











「そーなんだよ……確かに近くには大河がある事も地図では分かってたんだが……どうも先日起きた地盤の変化によって、新しい水路が出来たんじゃねーかっていうのが研究者たちの見解らしいんだが……」







なるほど、とハヤテはうなずいた。
近くの本流から、新たにできた支流へと入り込んだ個体という事だろうか。

そう考えれば、ある程度の納得はいく。




しかし、あのガノトトスが人々が使う支流に入り込んだとすると、一刻の猶予もなさそうだ。
















「仕方ないね……じゃ、いつものようにまず君が水中でガノトトスと戦って……疲れて陸上に上がったところを僕が仕留める……と言うことで良いのかな……?」
「ああ……まあ、水中でカタが付くのが一番良いんだが。万が一と言う事もあるんだ、分担した方が速いしな」
「確かにね…僕も水中戦は出来ないことは無いけど…」












何せ、水の中のソウヤのスピードったら無い。
普通に泳いでも、二倍・三倍と引き離されるのだ。
水中では一緒にいても、足手まといになるだけだろう。






しばらく話し合い、作戦を練ったあと、二人は二時間後に装備を整えてこちらで落ち合う事にした。

















「じゃ、オレはそこの店で回復薬とか、大タル爆弾とか買ってくるわ」
「うん、じゃあ僕は装備の点検をしてからにしようかな」















二人は、食事場を出ていこうとする……が、彼らは、人混みに飲み込まれた。












どうも、この世代を代表する三人の内、二人もが集まって話し合っていたのがバレたらしく、しばらくの間、握手やギルドカードの交換を求める人の嵐に巻き込まれた二人だった。






















*                *
























「…ふう……」

















何とか人混みを抜け、自分の家……と言っても、港近くの小さな舟を改築しただけの自分の部屋に戻る。

ハヤテは一度鎧を脱ぐと、あちこちの傷の点検を始めた。
まあ、モンスターとの戦いで幾らかは消耗していたのだが、気にするほどでは無いだろう。


















「…よし、まあ大丈夫かな」

















ハヤテは、自分の一番のお気に入りの防具に欠陥が無いことを確認し、ほっと息をつく。








この蒼い装備は彼にとっての宝物だった。



















<蒼火竜>
誰が言ったのかは分からず、いつの間にか浸透していたハヤテの名前だが、この異名が付いた理由は二つだ。

一つは、ただ単に彼の目と髪の色が美しい空色だったからだ。


















しかし、もっと大きな理由があった。














<リオソウル・Zシリーズ>








<蒼火竜・リオレウス亜種>のG級の最高個体から獲れる、最上級の素材をふんだんに使って作られたその装備は、彼が有名になった時に着けていた装備なのだ。






赤い警告色の甲殻を持つリオレウスの原種と違い、空に溶け込む蒼い保護色をした亜種。



原種よりも格段に磨きの懸かった空での戦いに、狙った獲物を必ず捕らえるリオレウス亜種と重ね、ハンター達がハヤテに尊敬の念を込めて贈った名なのだ。























しかし、彼にとってこの装備に対する思い入れは、それだけでは無いのだ。























何故なら、この装備は、自分がG級ハンターとなる為のクエストで戦ったモンスターの物だったから…だ。





この装備を着けているだけで、あの時のリオレウスの力強さを――――――それに立ち向かった時の勇気も――――――傷付いた時の痛みも――――――




















そして、リオレウスを何とか倒した時の、あの感動と達成感を感じる事が出来るからだ。































「…初心、忘れるべからず…ってね…」



















そう呟くと、今度は武器……弓を手にとって確認する





彼の持つ武器……これまた彼のお気に入りである、『カイザー・ボウ・Ι』

リオレウス亜種の素材の一部を使い、その時使用していたリオレウスのメスである、<雌火竜・リオレイア>の素材で作成した『クイーンブラスター ΙΙΙ』を強化して作ったものだ。
























「…よし、大丈夫かな……はあ…早く強化したいんだけど……素材が足りないんですよねぇ……」




















武器は、一から作って貰う事も出来るが、コストと素材がえらく懸かってしまう。

だから普通は、いつも使っている武器に、新しい素材を加えて改造して貰うのだが――――――如何せん、G級個体はそうそういない。










ハヤテの『カイザー・ボウ Ι』も次の形態である『カイザー・ボウ ΙΙ』とするには、<リオレウス亜種>の最上級の厚い鱗が数枚足りなかった。











それにG級の<リオレウス亜種>にはそう滅多にはお目に掛かれない。

何しろ、リオレウス亜種は伝承にて『出会った人間の人生を激変させる存在』と言われており、<緊急クエスト>になる位の希少性を持つのだから。




















「…ま、言ってても仕方ないよね……」





















ハヤテは立ち上がると、家を出るための準備を始めた。
綺麗に整頓されたアイテムボックスの中から、色々な物を取り出していく。







回復薬――――――食料の良く焼けたこんがり肉に……弓に必要な、セット可能なビンを幾つか。




一つ一つ、ハンターをやってきて、本当に必要な物を順番にポーチに詰めていく。





























「…装備は――――――変えなくても大丈夫かな」






















あとは、クエストカウンターの近くの雑貨屋で揃えようか……
そう考えながら、ハヤテは家を出た。


























*                *




















クエストカウンターでは、準備を終えたらしいソウヤが、こちらに手を振っている。
買い物は既に済ませた様で、近くの荷物を積むための荷車にはアイテムが満載している。




やってきたこちらを見て、ソウヤはおかしそうに呟いた




















「…しっかしお前も好きだなあ…その装備……他にも色々持ってるよな?」
「…持ってるけど…僕はこれが一番好きなんだよ……って、君も人のこと言えないだろ…」
「あ、確かに」















そういうソウヤの装備は、<白海竜・ラギアクルス亜種>と言うモンスターの装備である、<ラギア・Zシリーズ>だ。



<ラギアクルス亜種>は、一流の船乗りですら一生に一度出くわすかどうかと言う、極めて希少なモンスターであり、さらに彼がつけているのはそのG級装備なのである。




彼の実力が半端で無いことは、見れば分かるようになっている。


















「…うーん…この装備、G級昇格の為に戦ったときのモンスターの物だから……やっぱり愛着があるよ……」
「…ま、考えることは同じって事だね……っと、それよりもそろそろ船が出港するんじゃ?」
「…おっと!乗り遅れたら洒落になんねぇ!…準備は出来てるよな!?」












ソウヤは船の時間を確認すると、慌てたように言った。
ハヤテは何も言わず、<出来ている>とアイコンタクトを送る。






















「よし!それじゃあ早速、渓流に向かって出発するとしますか!」
















二人は自分の武器を手に取ると、ガシャッと背中に担ぎ、船着き場へと歩いていった。

彼らが乗ったのは、ギルドから出る夜行船の最終便だった。






船に乗り、その個室を何とか取れたので、そこにあったベッドに倒れこむ。

そのまま、疲れを癒すかのように体が働き、深い眠りへといざなわれた。









































この時の二人は、狩りへの不安と期待で一杯で――――――






























これから起きる出来事に対しては、知るよしもなかった。




























































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.5 )
日時: 2013/06/19 21:14
名前: 壊れたラジオ

第一章
第一話『忍び寄る水竜の影』











「ここがガノトトスの現れた支流?」







二日ほど船に揺られ、二人は目的地近くの支流……ガノトトスが出現した辺りに辿り着いた
川の流れに逆らう向きに航行していたので、若干の揺れは否めない。

それでも、さわさわと心地の良い音と、澄んだ水のにおいが漂っている。



ハヤテは船のへりに手を掛けながら、隣のハンモックで寝ているソウヤに問いかけた。








「情報じゃあ、そうだな」
「ふうん…」







結構そっけない返し方だったが、ハヤテは気に留めなかった。

もう一度船の上から川を見下ろして、大きく息をついた。




流れは穏やか…
それに岸に生えている木々は、紅葉でうっすら色付いて、非常に美しい
モンスターの脅威にさらされているなど、嘘のようだ











「…元々観光地だからな、この辺は……ここも、渓流下りのコースとして賑わっていたらしいんだけど……」







ハヤテが思っていたことが分かったとか、ソウヤが横から口をはさむ。



なるほどこれなら観光地としても十分一級品だろう。



しかし、今見た限りでは彼らの船の周囲にはそれらしい船が一隻も見当たらなかった。
それどころか、大事な物資を運ぶための貨物船すら見えない。


勿論陸路も仕えるだろうが、巨大で一気にモノを運べる貨物船がないのは痛いのではないだろうか。




そこまで考えると、ハヤテは首を振った。







考えるまでもない。
皆、ガノトトスという強大なモンスターに怯えているのだろう。
ハヤテの心の中にあった、ある気持ちに火が付いた。









「…早く依頼を達成して、近くの人達を安心させないとね……」
「…そうだな…」










船の白いマストを見ながら、そう呟いた
風邪をいっぱいに受けて大きく膨らんだそれは、大きな周期でゆっくりと揺れていて、船を進めていた。











「ん!?」
「……どうしたの?」
「いや…今、そこの水面が少し黒ずんだ気が…」
「え!?」










ソウヤが突然素っ頓狂な声を上げ、水面を指さした。

ハヤテは、すかさずソウヤが指差した水面を見た


しかし、ハヤテにはぷかぷかと浮かぶ流木しか見えなかった。

ソウヤが頭をガシガシと掻きながら首を傾げた。















「…見間違いか……もしくは流木……」













か何かか…と言おうとしたソウヤの台詞は、
船が、ドンッ!!と言う音を立て、揺れることに掻き消された

うわあ!…と突然の衝撃に二人は足を掬われる

頑丈な木で出来ていた船の甲板に叩きつけられる。














「…何だ?」









目の前に銀砂が散っているのを、頭をぶんぶんと振って追い払いながら、
船の縁を掴んで立ち上がり・・・もう一度、自らの持つ、全神経を尖らせて水面を見渡す。













「あっ!!!」








今度は見逃さなかった。

しかし、ハヤテが叫んだ瞬間、水面が少し泡立つ

…が、それは一瞬の出来事だった
黒い影が、物凄いスピードでこちらに向かってくる















――――――流木なんかじゃない――――――

















ハヤテが高さ二メートルはある『セビレ』を肉眼で確認し、、
そう思考したときには、もう遅かった。



それよりも早く、その水面を滑る影はハヤテたちに近接していたからだ。












「キュイイィイィイッ!!!」











タールのような真黒な魚影が、澄んだ川に映し出される。
水面に巨大なうねりと共に水飛沫をあげ、甲高い声と共に飛び出してくる黒い影















――――――いや…一瞬だが分かった











その影の持つ青に橙、白銀の鱗が煌々と日の光に照らされて、美しく輝くのを、ハヤテは見ていた













水しぶきを反射し、雨粒のように降りかかる水滴の中を、影の正体――――――<水竜・ガノトトス>は、そのサメの様な鋭い歯のついた大口を開き、甲板の上の彼らに躍りかかった。

















「うわっ!」
「くそっ!!!」








ガノトトス自体の巨体と両サイドにある巨大な膜状のヒレが大きく展開し、濁流のごとき勢いで二人を掠めた。





ハヤテのサイドをカッターのように鋭い牙が通ったのを肌で感じた。


サメのように鋭利な牙は、折れても大丈夫なように、奥にずらりと列状に搭載されている。
海中に住む大概のモンスターではあっという間に噛み裂かれて絶命するだろう。






そんな凶器が彼らを数センチ単位でかすっていった



もう少し回避が遅れれば――――――とハヤテはぞっとするが、そうもいっていられない。









獲物を取り逃がしたガノトトスは、船の船首の方へ滑空し、
そのまま大きな水飛沫を上げて水中へと戻っていく。










しかし、どうも一回で諦めたわけでは無いらしい
なめらかに軌道を描いたかと思うと、川の流れがあるにもかかわらずガノトトスはその長大な体を驚くほどのスピードで翻し、物凄いスピードで旋回してきたのだ。



ソウヤが歯を食いしばった音が聞こえた。
即座に背中の武器に手を伸ばし、臨戦態勢を取ろうとする。














「くっそ!船の上からじゃ負が悪い!オレが飛び込んで…!」
「いや!今は戦わない方が良い!」
「っ!何でだ!?」
「ここは結構流れが速い……どうしてもこちらが不利になるだろうからだよ!!!それよりこんな所にいるって事は・・・アレのねぐらが、この近くにある筈だからさ・・・そこで戦う方が良いと思うんだ」










ハヤテの意見は至極真っ当だった。
このような水の利を最大限発揮できるガノトトスのような魚竜に対して、いくら超人的な水泳力を持つソウヤとは言え、苦戦は免れない。

相手の土俵では戦わないことが、勝利の条件の一つでもある。







クソッ!、とソウヤは悪態をついた。














「じゃあ、この状況をどうしようって言うんだ!?」
「それは僕に任せて」












そういうや否や、ハヤテはポーチからビンのシリンダを素早く取り出して弓にセットする。
それからおもむろにアイテムポーチをまさぐると、一つの球を取り出した。





ガノトトスは、尚も接近してくる。

スピードを緩める気はまったくもって一切ないらしい。


巨大な背びれが再度立ち上がり、いつ飛び出してきてもおかしくない状況となる


ハヤテは、そのタイミングをじっと見計らっていた。











(今だ!)









ハヤテは、ガノトトスの進行方向にピッタリ合うような、
絶妙なタイミングで、手にした球を投げ付ける

きつい下向きの放物線を描き、一直線にガノトトスの魚影とぴったり重なる位置まで投げつけられたそれは、その瞬間破裂し、キイイイン!と言う甲高い快音が鳴り響かせた。

















「キイイイッ!?」









快音が山々に反響した瞬間、ガノトトスは驚いて水面に飛び上がった。



ガノトトスは、水中の音を頼りにして獲物を捕らえる
その方が、濁った水の中では好都合だからだ






ただし、それはガノトトスにとって不快な音には、
とことん弱いと言う弱点にもなるのだ
そのことを長年の経験でハヤテは知っていた。












パシュッ!パシュッ!と動きの止まったガノトトスに向かって、
すぐさまハヤテは幾つかの矢を撃ち込んだ。





だが、対して威力のある矢ではない
モンスターにとっては蚊に刺されたよりも効果がないだろうことはハヤテは分かっていた。







ガノトトスは、これ以上やったところで無駄だと思ったのか、
それとも、先程の音を聞きたく無いと思ったのか・・・その巨体を翻して、泳ぎ去った


















*                *



















「…なーるほど……<音爆弾>で怯ませた後、<ペイントビン>を使ったのか…」











種明かしに、ソウヤは腕を組んで納得している。


アイテムの一種である<音爆弾>は、一部のモンスターの声帯にある、<鳴き袋>に、
<爆薬>で爆風を押し込み、大音量を生み出すアイテムだ




ハヤテが撃ち込んだ矢にセットしたのは<ペイントビン>
<ペイントの実>と言う、かなり独特な匂いのする実(間違って服になんか付いたら絶対取れない)のエキスを抽出し、ビンに詰めたものだ

ダメージは無いが、モンスターがどこにいるかの追跡に使える















「…まあ二〜三発撃ち込んだから、数日は効果が切れないと思うけど……」









ハヤテがペイントビンの効力に関して考えていると、もうすぐ着きますよー、と言う声が奥から聞こえる。

はっとして周りを見れば、乗っていたはずの乗組員達はほとんどいない


多分ガノトトスを見て、船内に逃げ込んだんだろう







まあ、普通の一般人にモンスターから逃げるなと言うのは無理がある。






ソウヤもそう思っていたのか、やれやれと言う表情をしながら武器の手入れをしている。

ハヤテは、少し息を吐くと、弓に付けたビンのシリンダを外して新しいビンに一つ一つ付け替えていく。





こう言う細かい、何でもない作業が、後の戦いの命運を左右することもあるのだ
それを行う事がハンターとしての、最低限の心構えだ







丹念に磨いていると、港に付く頃には全ての点検は終了していた























*                *

























「…おー、やっと着いたか…」













港の桟橋を渡り、少しの山道を越えると、大きな門が見えてきた
前に来たときと、あまり変わっていないように見えるが、よく見ると、装飾が少し変わっている


何だか自分がここに来たのがずっと遠くに思えて、ハヤテは何となく所在なさげにそれを見つめていた。

















「…誰だ…お前達は?」













後ろから突然かけられた低い声に、少しビクッとした。

何時もは後ろに立たれたぐらいならばすぐに分かるのだが――――――ガノトトスと会って疲れたからだろうか、それとも先ほど浮かんだ事に呆けていただけだったのか……



振り向くと、そこには怪訝そうな顔をした男がいた。
















「そう言うお前は誰だ?…人に名前を尋ねるときは、そっちから名乗るのが礼儀だろうが」
「…ソウヤ君……あ、どうもすいませんね…こう言うヤツなんで…」










相変わらず結構無礼なソウヤの言葉に呆れつつ、棘を立てない様に中に割って入る。

いつもこんな役割は自分に来る。
結構いい加減にしてくれよと思うのはおかしいことではないはずだ。




話が分からない男ではなかったらしく、少し苦々しそうな顔をした彼だったが正論だと思ったようで、自分の名を名乗った。



















「オレはここの門番だ……この『ユクモ村』の安全を守る人間さ!」
「あー…オレはソウヤだ。…<白海竜>と言った方が分かりやすいか?ここの依頼を受けて来たんだが……あ、それとこっちは<蒼火竜>…」
「…ハヤテです」













通り名で呼ばれると面倒だろうと思ったハヤテは素早く訂正した。
が、一端口から出た言葉は取り消すことなんかできない。











「えっ!?あっ!?失礼致しました!わたしとしたことがご無礼を……あ、村長様はこちらです!!」














名乗った瞬間、こちらの正体を察したらしく、急に腰が低くなる
その変わり身の速さったら無かった





二人は苦笑しながら、大きな門をくぐった

































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.6 )
日時: 2013/06/20 22:18
名前: 壊れたラジオ

第一章
第二話『ユクモ村にて』










村の門をくぐり、門番の男に案内されてきたのは、ある屋敷の前であった。
この村特有の林業が盛んな土地柄であったのか、その建物は木材を主な建築資材としていた。

年季の入った柱を見ていると、その走っている木の木目などが絡み合っていて結構飽きない。
芸術家肌の人間が見たらどうなるかが見ものだろう。



ハヤテのいたタンジアの建物と言うのはほとんどすべてが石でできている。
港に近いため、木材を内部に使うことはあっても、外側の資材として使うと塩分を含んだ海からの風で痛んでしまうからだ。






その屋敷の前の豪勢ながらも庶民の質素さを持つ門をくぐると、庭の前で木々に柄杓で水をやっていた、一人の女性と目が合った。


そうするとこちらに気づいたのか、その人は持っていた柄杓を水がめに戻すと、袖などの崩れていた部分を正して、こちらに向き直った。
よく見知っていた人だったので、ハヤテはあまり気にかけずに会釈をする。












「ようこそお越しくださいました……<白海竜>様……そして<蒼火竜>様………」
「おう、こんちは」
「ちょっとソウヤ君!?村長さんなんだから、もっと敬意を……って、あ…こんにちは…」












慇懃な話し方をする女性に、相変わらずの鷹揚な返事をするソウヤ。
いくらなんでも初対面の人間に対してそれは無いだろう、と少々呆れながら、
あれ?とハヤテは彼女に対して疑問がわき、首をかしげた。


















「村長さん…前と変わってますね…?僕の記憶では、あなたのお母様だったような……」












ハヤテが問うと、そのことは聞かれると予想をしていたのか、村長はニコッと笑って会釈をした。

まあ村長が交代するなど、ただならぬ理由があったことは当然のようにあるだろう。








「お母様は今、少し体調を崩しておられるんです……ですから、私が今代理をしているんですよ」
「あ、なるほど……じゃ、村長さんのご容態は……?」
「…ええ、少しの過労だと……理由は、あなた方のご存じの通りだと思いますが……」
















――――――ガノトトスか。
わざわざ言うまでもないぐらい明白なことだ。




ここで言う村長と言えば、外との交易なんかの責任を一手に背負っている。

それに、この村の村人をも統括しなければいけないから、モンスターによって甚大な被害が出てそれによって仕事に追われることになり・・・・・・そして過労で倒れてしまったのだろう。

ハヤテの表情に気づいたのか、彼女は少し微笑んだ。













「…まあ、軽度だそうなので……もう少ししたら回復するでしょうから…」
「それなら良いんですが――――初穂さん」













今の村長代理・・・初穂と呼ばれた女性は、またニコリと笑う。

こうなった責任がハヤテにあるわけではないのだから、彼がそんな顔をする必要はない。
そんな言葉を言外に含んでいたようだ。



初穂は手で屋敷の引き戸の方を示すと、こんなところで立ち話もなんですからと促した。


断る理由は無かったし、結構な長旅で疲れていた体を少し休めたかった。








引き戸を彼女の使用人が恭しく開けると、木や伊草の独特なにおいが空気に飛散して、ハヤテの鼻についた。


少しだけ薄く影のかかった部屋の中に入りながら、ハヤテは先ほどまで初穂が水をやっていた木のざわめきを聞いていた。





















*                    *






















奥の間に導かれ、ハヤテたちはかなり広い部屋に通された。
『畳』と呼ばれるフローリング材の上にご丁寧に敷かれた座布団の上に腰を下ろしたハヤテに、初穂がそばに置いてあった急須を取った。

近くの小瓶から少量の炒った葉を取り出して、匙で急須に流し込む。




湯を注ぐと、少し青臭い匂いが漂い始める。
慣れていないソウヤは怪訝な顔をしたが、ハヤテにとっては結構好きなにおいだったので気にも留めなかった。







その湯呑が差し出されて一口飲むと、心が安らぐ気がする。
この葉には、人の精神を落ち着ける効果でもあるのだろうか。
そうすれば、ハンターがこぞって――――――いや、狩りの現場でこの程度で落ち着けるのならば、ハンターはここまで厳しくないだろう。












そうだ。
そんなことを考えている暇ではなくて。
ハヤテは湯呑をそっと置くと、目の前にいる初穂を見据えた。




















――――――これからの事を話そう――――――












そう思って、ハヤテは口を開こうとする











しかし、ガラガラッ・・・と引き戸が開けられた音がしてハヤテは言いよどんでしまった。

振り向くと、そこには初穂と同じこの国の伝統衣装(『キモノ』と言うらしい)を着た少女が立っていた。


非常に小柄な人だったことは前回来た時に印象に残っていたが、その時の印象のままそこに現れたことにハヤテは少し驚いた。


しかし、彼女は別の事で驚いたようだった。
手に持っていたいくつかの書類を手から取り落としてしまう。

その顔は紅でも塗ったかのように赤かったので、ハヤテは眉を潜めた。












「お母様、近隣の村からお見舞いが……ハヤテ様!!??」
「あ、イスミさん。失礼しています」
「な……ななななぜここに…!?」












ハヤテが受け答えすると、さらにカァーっと紅くなる。

まるでリンゴか何かのように真っ赤に染まった顔は、もはや耳まで赤い。








ハヤテがいまだに全く気付いていないことがある。
他の人からすれば分かりやすいことこの上ない事ではあるのだが……


この事を事細かに話すと非常に長くはなってしまう。

しかし言っておくべきだろうが、実はハヤテの名は別な事で有名だったりする


















それは、『フラグ建築能力』


有り体に言ってしまえば、詰まるところハヤテの行くところ行くところ、そこにいる女性達に好意を持たれるのだ。


故郷の村ではそこの受付嬢に好意を持たれ、凍土で人を救出したらその人がその辺の領主の姫君で多大な恩の意と好意を持たれ、狩りにたまたま一緒に行けばそのハンター達からも好かれ――――――――――














――――――それがハヤテに命を救われた者なら、尚更、だ―――――――











彼の本来の気質から、そこで困っていた人間がいたのならば自分に出来るすべての力を持ってそれに対処してくれるし、親身になって行く先々で相談に乗ってくれ、
ハンター業に関係ない事でも快く助けてくれる。

いわば人々からすればヒーローのようなものである。





言うまでもなく、イスミもその一人だった。
突然目の前に現れた、自分にとってのヒーローであり、想い人でもある彼を前に、頭の中は沸騰しそうになっていた。





















「…どうしたんですかイスミさん…?風邪ですかね……って熱!?凄い熱ですよ!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!??」













真っ赤になって黙り込んでしまったイスミにハヤテはどうやら変な誤解をしたらしく、イスミのおでこに手を当てる。





勿論、いきなりそんな事をされた彼女は堪ったものではない。
小さな体がそれと分かるほどに一気に跳ね上がり、動悸が止まらなくなる。

そこにいられなくなり、即座に踵を返し、普段ののんびりとした気性からは到底想像も出来ないスピードで部屋から逃げた。





勿論、何のことか全くわかっていないハヤテは頭に大量の疑問符を浮かべながら、小さくなっていくその背中を見ていた。

そばでソウヤため息をつく音と、初穂が小さく吹きだすのが聞こえて振り返った。















「えっと……イスミさん…どうしたんでしょう?」
「…お前のそれは……たまにわざとやってるんじゃ無いかと思うときがあるよ…」
「ふふっ、イスミちゃん……可愛いわね〜…ふふっ」












ソウヤはあきれ顔をしながら、やれやれと首を振った。
彼も一流ハンターである事を除けば、普通の思春期真っ盛りの青年である。
人並みに異性には興味がある年頃ではあったが、この天然の友人を責める気はこれっぽっちも起こらなかった。


しかしそれでも、この目の前の奴に対してちょっと突っ込みたい点があったのもいくらか事実ではあったが。


全くこの男は、年がら年中<ロアルドロス>並みに女性に囲まれていると言うのに、繁殖期を迎えていない<ティガレックス>並みに鈍感なのだ。

(因みに<ティガレックス>は、二頭が出会うと最悪殺し合いになる)










全く持って話は変わるが、防具には<スキル>という物がある。


ハンターの装着する<防具>には、<頭><胴><手><腰><足>の五つがあり、また、<剣士>と<ガンナー>の二つに大きく分けられる。





<剣士>はモンスターにかなり近づく分、防御力を重視している。
<ガンナー>は、モンスターの遠距離攻撃に対応するため、耐性が非常に高い。

…ただ、弾薬を収納するスペースが要るため、<剣士>装備よりも防御力は若干低めだ。








さて、ここまでの話ではいったい何のことだよと思ったかもしれないが、話はここからである。

その防具には一つ一つに固有の<スキルポイント>が割り振られている。
そのポイントが一定値を満たすと、様々な――――――便利な<スキル>が発動するのだ。






そのスキルは、狩人が強大なモンスターと戦うときの、強力な後押しをしてくれる。

その武器の特性を引き出したり、防御面を底上げしたり、様々な便利機能だったり。
その役目はいろいろだが、そのスキルを使いこなすのが重要になってくる。





特にハヤテが愛用するスキルは、
弓の『溜め』を短縮出来る、<集中>(溜め短縮のスキルポイント×10)や、
回避がしやすくなる<回避性能>(回避のスキルポイント×10〜15)などだ。





またこれらのスキルは、足りなければ<装飾品>や<お守り>と言った、<スキル>を追加する予備装備で補える。



ただし、それがマイナスポイントであった場合、様々な不都合なスキルが発動することがあるので、先ほどの装飾品で打ち消すのが好ましい。





そしてこのスキルポイントをどう上手く発動させるかが、ハンターの力量と言える。









まだまだここまでだと、一体何の事かと思うだろうが、
特殊な例として(と言うかギルド非公認で)実はハヤテには、防具を着けていなくても発動しているスキルがあるのだ。




















その名も、<鈍感+2>と<フラグアップ+3> だ。


















大事な事なのでもう一度言うが、<フラグアップ>に至っては、<+3>である。




〈フラグアップ〉は人の心の機微に関する能力で、フラグを乱立することにプラスで細やかな心遣いが出来る能力――――――とされている(噂で)。



例を挙げれば、〈フラグアップ+1〉がモテる人間が持っているレベルだとされている。
それが、+3なのだ。








世の中の男性陣が<フラグアップ+1>でも欲しい!と言っているような物を、デフォルトで・・・しかも二段階上で持っている。





しかもモテない世の男どもが何とかして手に入れたいと思ったところで、コレを発動させる事の出来る防具なんて無いし、逆にコレを打ち消すお守りなんかも無い。












まあ、彼の異常なフラグアップ能力と、人に好意を抱かれるのはそういうわけだ。

むしろこんな表現じゃ飽き足らず、ハヤテを歩くフェロモン砲台と揶揄する人間もいる。
しかし冗談ならまだしも、本気でそう言って彼を貶めようとする輩には、彼のファンからの鉄拳制裁がプレゼントとして贈られてくるからさらに厄介だ。














(……なんかものすごい腹立つ事言われてるような気がする……)












しかし、<鈍感+2>の入ったハヤテの頭は今の状況を全く理解出来るはずもなかった。







いろいろ訳の分からない事に、何だかスッキリしないモヤモヤを抱えたまま会議をするハヤテだった。























*                *

























「ふ〜〜っ…やっぱりここの温泉は良いですねぇ〜…」
「おーいハヤテー!ドリンク奢ってくれー♪」
「…自分で買いなよそれぐらい……」













石を積み上げてできた露天風呂に、薄い霧のような水蒸気の靄が立ち込める。

その中で、ハヤテとソウヤはインナー姿で湯につかっていた。
適度な温度は、彼らの身体の血行を良くし、筋肉をほぐしていく。





ソウヤは近くでドリンクを売っている、売り子アイルーに話しかけてドリンクを選んでいる。
しかし奢る気はない。

いつもいつも何かにつけて奢るこちらの身にしてみれば、たまには自分で買うか若しくは自分に対して買ってほしいものである。

ハヤテはそんな風に思いながら、大きく息を吐いた。
あまりの心地よさに、怒る気は最初からほとんどなかった。
















何でモンスターを倒しに行かずに、温泉に浸かっているんだ!
と言うツッコミが来そうだが、きちんとした理由がある。












ここの温泉…なんと浸かるだけで<体力>や<スタミナ>を最大限まで引き上げる効能を持っている。
とあるハンターによって最大限まで強化されたそれは、人間の持てる力を極限まで引き出せる奇跡の秘湯とあちこちで触れこまれているが、それも当然だろう。

うまい具合に引かれた温泉の熱湯が、近くの岩場からしみだしている。
少し濁ったそれは、少しの硫黄のにおいを交えているから、火山から少し来ているのかもしれない。













そして<ドリンク>

風呂上がりの一杯が格別なのは確かだが、それ以上に魅力的なのは、このドリンクの効力だ。

なんとこれを飲むだけで、普通はスキルポイントを溜めなければ発動しない特殊スキルが、
簡単に発動させられる。

こんなお手軽なやり方をみすみす見逃すわけにはいかない。
ハンターたるもの、自分を有利にする展開を自分から率先して作らなくては。
















「…ん〜……僕はこの、<ボコスカッシュ>にしようかな?」









ハヤテは品ぞろえを一通り見た後、赤く塗られた竹ビンを手に取った。
中には、シュワシュワと音を立てるコーラがなみなみと注がれていた。

それを注文し、アイルーに銅貨を渡すと一気に喉に流し込む。







飲んだとたん力がみなぎり、目が一気に冴えて、<スカッシュ>の名の如く気分がさっぱりする。
脳内の余計な物質が一気に追い出されたかのように視界がクリアになり、腕に力が入る。






発動したスキルは、<攻撃力アップ大>、と<ネコの射撃術>だった。



<射撃術>はガンナーにとって、非常に便利なスキルだ。
これは弾や矢のブレをなくしやすくなる・・・要するに、狙いを定めやすくヒットさせやすくなるのだ。


















「…にっが!?」










そばで茶色い液体を盛大に吹きだすソウヤが見えた。
目の前にいた売り子のアイルーにかかって、小さな悲鳴が上がる。


どうやらソウヤは、<堅米茶>を注文したらしい。

売り子の看板や品の説明を見ていると、<防御力アップ>が発動するらしいそれだったが……かなり苦かったらしい。





あれを注文するのは止めておこう、と思ったハヤテだった
























*                *




















温泉をしっかり堪能し、万全の体制を整えた二人が出発したのは、正午だった。
石段を下り、門のそばにある桟橋を渡ると、そこには二人の番人がいた。


二人は二又の矛を持って、こちらを一瞥したが特に警戒されることも無かった。
こちらのここへ来た理由を知っているからだろう。





ここから先は関係者……要するに、ハンターやそれに準ずる者しか入れない。

ギルドカードを見せると、その二人は頭をペコリと下げ、彼らを通した。


鎖と南京錠で固められた重々しい鉄の門をゆっくりと開くと、ギシギシとさび付いた音が響く。












そこを通り抜けると、崖を削って作った道を身を詰めるようにして通っていく。
人一人が通れるくらいの太さしか無く、ロープは一応張られてはいるがどうも心もとない。

下は崖になっていて、ここからは<狩り場としての渓流>が一望出来た。









そこから見えたのは、他の言葉では言い合わらせないような絶景だった。



広大な森が眼下に広がっている。
しかしそれはどこまでも続いているわけではなく、地平線にある天を突くような尖った山脈に遮られている。


森には薄いベールがかかり、幻想さを増すのに一役買っている。
遠くに見える山脈には雲がかかっており、太陽によって頂点の雪がキラキラと煌めき、森につながるふもとの近くには巨大な滝が毎秒何万トンと言う水をたたえ、この近辺の村を潤している。


山紫水明の地ともいえるこの『渓流』にふさわしい光景だった。



























――――――――――高所恐怖症だったら見れないよな――――――――――――


















この光景にそんな考えが一瞬浮かんだが、
すぐにその道の端が見えてきて、気持ちを引き締めた






崖の裏に回り込むと、ベースキャンプが見えてきた。




ここはハンター達が休む事が出来るようになっている。
小さくて粗末なベッドだが、少し仮眠をとるぐらいならこれで十分だろう。
崖の洞穴のように窪んでいるところに有るから、雨にも濡れない。


しかしソウヤはそれをあまり気にすることなく、きょろきょろとあたりを見回した。




















「おっ!あったあった!」











発見したものに嬉々とした表情を浮かべて、彼はそちらに小走りで向かった。

ソウヤはその側にあった青いボックスに近付いてその中を開けたが、すぐに落胆の表情を浮かべた。


まあそうだろうなと思っていたハヤテは息を吐き、軽く首を横に振った。








「う〜〜ん……やっぱり何も入ってないか……」
「まあ、G級だからね……ギルドも警戒して近付け無いんだよ」








はあ、と溜め息をつくソウヤ




この青いボックスと言うのは、<支給品ボックス>の事である。

この中には、ギルドからハンターに向けて、
狩りの助けになるようなものが入れられているのだ。


<応急薬>や<携帯食料>、<支給用閃光玉>や<携帯用落とし穴>などの消耗品から、〈携帯肉焼器〉や〈双眼鏡〉などの狩りにあれば便利なものまで、いろいろなものが入れられている。










ただ、上位クエストからはギルドの職員がこのベースキャンプに来ることすら難しく、クエスト開始時に何も入っていない事が多い。









さらに上のランクのG級にもなると、届かない事も度々であることも多いため、ハヤテたちのため息の原因だ。




別系統からの解釈をすれば、要するに上位以上の狩り場では自分の持ってきたもの。

つまり、『自分のハンターとしての経験を活かせ』と言う事だ。













やれやれ、と言った風にソウヤは歩き出す。
モンスターが入り込むような巨大なハンター専用の狩場としての『渓流』は、この崖を下ったところにある。












ハヤテもそれに従って、二人は下り坂をゆっくりと下っていった。

























































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.7 )
日時: 2013/06/21 22:31
名前: 壊れたラジオ

第一章
第三話『豊かな恵みの地』












二人が侵入したのは、渓流の『エリア1』と呼ばれる場所だった。
というか、入ったところがいきなり5とか6だったら訳の分からなくなること請け合いだろう。







勿論エリアの番号はギルドが決めたことであって、現実にどう呼ばれているかは知らない。
ギルド他、その他大勢から便宜上そう呼ばれていると言うだけだ。


『孤島』のネーミングセンスにしろ、分かりやすいのを最上級命題とするギルドの組織性によるものだろうか。
まあ、分かりやすいのは良い事だとはハヤテも概ね同意していたが。













ハヤテは、眼前に会った二〜三メートル程の段差をヒョイッと飛び降りた。
着地地点にはくるぶしほどの清水がたまっていて、レギンスに水が撥ねた。














「…クワッ!?グワアッ!」













偶然近くにいた小型の<鳥竜種>の<ガーグァ>が突然の物音にビクッとしたらしい。
悲鳴を上げ、大げさすぎると思えるほどのリアクションを取って跳ね上がる。



<ガーグァ>は丸々とした体に長い首とトサカのある頭、
そして退化した翼を持つ、飛べない鳥竜だ。




・・・そして、モンスターのくせに非常に臆病である。






小さな翼をばたつかせ、丸々と太った体を左右によたよたと揺らしながら短い足で逃げようとする。


そんな様子をじっと見ていたソウヤが、ふとハヤテの方に向かって口を開いた。











「…そう言えばさ、ガーグァの肉ってウマいんだよな?」
「ん?ああ…」











どう考えても本人(竜)の目の前で話すことでは無いが、ソウヤの言ったことは本当だと言う事は良く知っていた。





彼らの肉は非常に高タンパクで、そして柔らかくて美味しい
羽をむしる苦労があるけれど、それを抜きにしても一度食べてみる価値はある。


むしろユクモ村近辺では重要な食肉となっているし、家畜としての需要も大きい。
彼らが産む卵もまた高タンパクなうえに、うまみやコクも最上級レベルの品だ。





そして、家畜よりも野生種の肉の方がより締まっていておいしい。












このエリアにガーグァは数頭いて、葉の中にいた虫を食べていた様だった。

まあ、自分達が来たせいで、この奥にある湿地に逃げてしまったらしいが。



それにこのエリア1は、大型モンスターが侵入出来ないほど狭い。

何しろ峡谷と峡谷の間にある地形のせいでどうにも圧迫感があるし、水や小振りの滝があるだけで、その水も膝下まで無い。
だからこそ、ガーグァも安心して生活出来てた訳だ。





逃げ去ってゆく彼の背中を見ながら、ハヤテはガーグァにちょっと悪いことをしたような気がした。
ま、それはそれとして置いておかないと、後が仕えている。



















「…早くガノトトスを狩りに行かないとね……時間もそうあるわけじゃないし…」
「そうだな」











お互いに顔を見合わせてうなずくと、二人は、エリア1を出た。
峡谷の合間をすり抜けるようにして、狭いルートを通り抜けて行った。


























*                *
























<エリア4>
見る限りの草原。
先ほどの狭いエリアからいきなり開けたところに出ると、昼間の太陽が先ほどまで暗い状況になれた瞳を指した。

思わず目を手で覆い隠し、ようやく慣れてきたところでゆっくりと瞼を開いた。









侵入したそこには、朽ち果てた巨大な木造建築が日の光に影を作っていた。
しかしところどころ大穴の開いたそれは、完全に日光を防げずに点々とした光の粒を影の合間を射していた。









だだっ広い草原の中に立つそれだが、無論、人は住んでなんかいない。

地殻変動が起きるまではこの辺りにも人は住んでいて、昔はこのあたりに大きな集落があったらしいが、その変動により侵入してきたモンスターによって崩壊。


この辺りが狩り場となってしまったから、ここから人は追い出された訳だ。

そして、その集落の生き残りが立てた村が、現在のユクモ村という事らしい。
前回ここに来た時に、勉強としてその時の村長さんに教えてもらったことだ。




















――――――こんな所には住みたいと思う人はいないだろうな……一部変人を除いて――――――










朽ち果てた木材は触れただけで心もとなくギシギシと揺れた。
雨風をしのぐことぐらいは一時的には出来そうだが、定住するに向くかと言われれば否としか言いようがない。

心の中でそんなことを考えると、自分でもバカバカしくなって首を軽く振った。
(ま、誰でもそうだろう……よっぽどの変人でもなければ)


















「…まあ、このエリアには殆ど用事無いだろ……行こうぜ」










自分と同じように廃墟を観察していたソウヤだったが、我に返ったのかエリアの端を指さして自分を促す。

確かに民話してみればここには小型鳥竜種の一種であり、小型肉食恐竜に特徴的な襟巻き(耳の代わりか?)をつけた<狗竜・ジャギィ>が数頭いるだけだった。

おそらく自分の縄張りに侵入者が入ってきたのを察知したのはいいが、どう手を出そうか考えあぐねているのだろう。




が、ジャギィ数頭ならそこまで気にするほどの脅威ではないし、大型モンスターのそばに群れているわけでもないので、放っておいても構わないだろう。



そう思ったとき、鼻をわずかだが嗅ぎ覚えのある匂いが擽った。















「…と、この匂い…?」
「…?…どうした?…ん?コレって…」









ソウヤも何かに気づいたようで、鼻の前で手を仰ぐ仕草をする。








「「――――――<ペイント>の匂い…」」










二人は顔を見合わせた。

ペイントは昨日ハヤテがガノトトスに行ったことだ。
そしてこのフィールドに他のモンスターが現れたと言う報告は聞いていない……と言う事は答えは一つに絞られてくる。

















「…隣のエリアからだ…」
「…恐らく……あのガノトトスだろうね」










二人はその正体をほぼ確信すると、臨戦態勢を整えた。

ハヤテはポーチとビンを確認した後、弓の最終メンテナンスを行う。

その隣で、ソウヤは自分の武器である巨大な槍と、巨大な盾が特徴の大ぶりの武器・・・
<ランス>を取り出した。


その武器は二人が出会ったときにソウヤが持っていたものだが、以前とははるかに輝きや力強さが変わっていたことにハヤテは驚いた。














「…<ネオ・クルスランス>か…」
「ん?ああ!この前、鍛冶屋のオッサンに頼んでたヤツがようやく完成したんでよ、持ってきたんだ」











ハヤテがつぶやくと、ソウヤは自慢げにその武器を掲げた。
<ネオ・クルスランス>は、ソウヤの装備と同じ・・・
つまり、<ラギアクルス亜種>から出来ているランスで、G級の武器の中でもとりわけ高い攻撃力を持つ。



ラギアクルスの素材の力を受け継いだその槍の刀身には常に蒼い電光が這い回り、一刺し毎に強烈な電撃を放つ。








『大海の王』――――――ラギアクルスの強さの片鱗が味わえるのだ。












ハヤテはそれを横目で見ながら、ビンのシリンダを取りだし、弓にセットする。

強烈な…攻撃的と言える刺激臭が、ハヤテの鼻を刺した。






ハヤテが装着したビンは、最もポピュラーなビンである、<強撃ビン>だ。
<空きビン>に、<ニトロダケ>と言うキノコのエキスを入れたもので、放つ矢の威力を高めることが出来る。


弓を使うガンナーであれば、ぜひとも使っておきたいビンの一つだった。








それぞれの作業が終わったあと、二人は顔を見合わせて、慎重に隣のエリアである<エリア7>に侵入した。



















*                *






















少しの体の震えで、ハヤテの意識は完全に冴え渡る。
ハンターとしては慣れ親しんだ感覚だったが、自分はまだ未熟者であることの証とも取れる。














――――――武者震いか…それとも――――――










らしくないな…と思いつつも、目はある一点に集中する。





この<エリア7>は、人が姿を隠せるぐらいの、高いアシが大量に生えている。
足元は柔らかい泥に覆われていて、葦が根を張っていて幾らか頑丈になっているとはいえ、少し心もとない。






その葦の穂の生え揃う合間を見通すと、そこには轟々とうねる大河があった。
おそらく、ガノトトスの入り込んだ支流は、こことつながってしまったのだろう。







大河は基本的に、真ん中の方が速い。
その代わり、川の淵は流れが非常に遅いから、こうして土や泥なんかが積もって、アシが生えやすくなっている。



そして、そのアシが生み出す栄養を食べたり、そこに身を隠す生き物も多い。

こういう場所は釣りのもっともよさげなスポットであるため、こんな時でもなければのんびりと釣りに洒落込もうと思ったかもしれない。














そう――――――こんな時でもなければ……だ。























「おっ!いたいた!」












緊張感あふれるハヤテとは裏腹に、全くの能天気さを発揮しているソウヤが何かを見つけたらしい。

立ち上がった彼が手に持っていたものを見ると、見つけたのはカエルの様だった。






カエルと言っても、その辺にいるような手乗りサイズでケロケロ鳴いているような可愛らしいもんではない。

ざっと三十センチはあるぐらいの大ガエルだ。
足を延ばしたらその倍以上あるだろう。




ソウヤはあまり意に介することなく、それを持ってきていた竿に括り着け始めた。
彼の出身地はこういった環境での狩りが多いから、そんなに気にするほどではないのだろう。















「…じゃあコレを竿にセットして…」














にわかには信じられない話だと思うが、ガノトトスは実は『釣れる』のだ。
ガノトトスはあのカエル類が好物で、遠くにいてもそれらの匂いを嗅ぎ分け、無論竿に付けられたカエルにも食い付く。














しかし実際に見たことがある人間ならばわかるが、何せガノトトスは大きい。

全長が二十メートルを越えることなどザラであるし、体重は十トンを越える。




簡単に言えば一本の竿で巨大な岩を釣り上げるようなもんで、普通に考えればそんなことは出来る腕力も竿もないから無理だと思うのはもっともだ。


















が、なぜか釣れるのだ。
ギルドでは正式な狩猟法の一種であり、基本でもある。

ハンター育成アカデミーの教科書に載っている別名は、『ガノトトスの一本釣り』
他の水生生物にも応用できないかと言うのは、昨今の研究課題の一つでもある。








それにしてもこの竿……ギルドから支給されているのだが、一体どうなっているんだろう?

考える事はあるが、分解しても特に仕組みにおかしなところは無いから、良く分からない。




















そんな事を思っているうちに、ソウヤが何のためらいもなくカエルを放り込んだ。
やるにしてももっとこう……何かないのだろうか、この男は。




ポチャン、と言う音が、嫌に不気味に、静かに響く
いつまで経ってもこの感覚には慣れない。どうしてだろうかは自分でも分からない。













待っている間は、かなり長く感じられた。













いや、実際にはきっとそんなに経っていないのだろう。
魚釣りでは、待っている時間の方が圧倒的に長く感じると言うが、今回ばかりはそれとは少し違うものがあると思う。

何故か分からないまま、物凄く長く感じられた時間はべったりと体にまとわりつく。







まるで鉛の中で泳いでいるようだ。













しかし、実際に時間はそんなに経っていなかったらしく、考え事をしている間に効果は現れた。






澄んだ清流だが、流れのせいでそれほど透き通ってはいない。
その中を縦に切り裂くように、不気味なほどゆっくりと真っ黒な魚影がスーッと近付いてくる。


その現れた影は深いところから浅いところへ来たものだから、ゆっくりと浮き上がってくるセビレは、よりいっそう不気味さを引き立てる。




お化けもそうだが、それはどこにいるか、それが何かがはっきりとせずに近づいてくる時が一番怖いのだ。
それは他のパニックを誘うような出来事にも言える。


海で遠くからゆっくりと近づいてくる人食いザメと会ったときの事を想像すればいい。

しかしそれよりもはるかに大きくて狂暴な分、怖さは跳ね上がるが。










流石のソウヤもこの瞬間ばかりは緊張したのか、その唇を少し舐めた。
慣れているとはいえ、この感覚にはどうにも抗いようはないようだ。








その大きな背びれを持つ黒い影は、カエルを前に少しの間警戒していた。
まるで、本能と理性の間で葛藤しているように見える。

魚よりははるかに賢いだろうそれは、すぐには食いついてこない。







しかしそれは一瞬だった。
魚よりは賢くても、他の生物に比べると見劣りするだろうそれは僅かな躊躇いののち、本能が勝利したようだった。

















「うおわっ!?」










ソウヤは前に大きく引っ張られた。
ガノトトスは水中で身をよじって抵抗するから尚更だ。
竿が弓なりに大きくしなる。




折れるんじゃないか?とハヤテは思ったが、すぐにそれは杞憂だと分かる。





















「…うお…りゃっ!!!」












そんな掛け声とともに、ソウヤは思いっきり竿を振り上げた。
しなりは弾力となって、水中のガノトトスを勢いよく引っ張り出す。









蒼い鱗を持つ水竜は二人の上を通り越し、その美しい体を太陽に煌めかせて大きな放物線を描いた。


しかしその美しさとはかけ離れた、ベシャッと言うみっともない音を地面に叩きつけられた瞬間にあげる。


















「キュイイィィイイイッ!!!」













いきなり放り出され、ひっくり返ってじたばたとめちゃくちゃに暴れるガノトトスは結構愉快だ。



……だが、そんな悠長なことは言っていられなかった。
ガノトトスはすぐに体勢を整えて起き上がり、こちらを瞳のない真っ白で不気味な眼球をこちらに向けた。


二本ある立派な足で立ち上がると、こちらを見据える。
口からは、白い息を吐いている……いきなり引っ張り出されたことにキレているのだ。

カエルはエサとしてやったが、それとは対価がほぼ釣り合わなかったようだ。


















「よーし!どっからでも掛かって来い!!!」










ソウヤはそう言うと、ランスをガノトトスに向けた。

ハヤテはそれに少し遅れて、弓に矢をつがえる。
思いっきり弦を引き絞ると先程までの不安は一気に吹き飛んで、頭が冴えた。





















「…キイイィィ……」












それを見たガノトトスが唸り声を上げた。



考える隙もないまま、二人はそれを合図に飛び出した。




























































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.8 )
日時: 2013/06/22 20:52
名前: 壊れたラジオ

第一章
第四話『強襲する水竜』














巷のギルドに集うハンターたちの間では、ガノトトスは非常に強力な敵として広く知られており、モンスターの中でも比較的有名だ。


カエルに食いつくという習性や、なぜか人の手で釣れるというユーモアな点が人気の一要因となっているらしいが、そんな人には現実にガノトトスに立ち会ってその認識を改めていただきたい。




最初から長々と言っているように、何しろ大きいのが特徴の一つだ。

その巨大さ故なのかどうかは分からないが、攻撃が命中する範囲と言うのも非常にアバウトであり、『足の下に潜り込んだからよもや当たらないと思っていても、攻撃を喰らう』なんて事もとにかくよく引き起こされる。


どう考えても当たってないだろ!と言うようなことはご愛嬌だ。
しかし、その喰らうダメージと言うのが意外とバカにならないのが厄介な点であるが。






特に尻尾でのなぎ払い攻撃や、体を横に構えて繰り出される強力なタックルには要注意だ。






避けた、と思っても決して油断しないことは大前提。
そういう時に限って躱した筈のガノトトスの尻尾が振り切られていなくて、結局ぶち当たって、体力を大幅に削られる。


しかも近接戦をするときは体に生えたヒレに要注意だ。
当たればナイフのように研がれた膜状のヒレに掻き切られ、膜を張っている蝙蝠傘の骨に当たる部分が棘のように露出しているからそれにぶっ刺さり……

挙句の果てに、その棘には獲物を昏倒させる催眠性の毒が含まれているから尚厄介だ。




他のモンスターにも概して言える事ではあるのだが、ガノトトスは特に攻撃の止め時が重要なモンスターだ。

うかつに攻め込んだりしたら、痛い目を見るのは確実にこっちだ。
始めて戦うときは、よく挙動を観察することはハンターとして当然の行動だ。


















「……っと危ないっ!」













右から来る風圧に反応し、ハヤテはガノトトスの尾を紙一重でかわした。
低く風を切るような音を聞けば、それを食らったらどんなに重たく鈍い痛みがやってくるか容易に想像がつく。


しかし武器をふるったならば、その後の僅かな瞬間には隙間ができる。

特にこう言う大きな攻撃の後には必ずスキが出来るものだから、そこに付け込む。






ハヤテはバックステップでわずかに距離を取ると、持った弓が最大までその力を発揮できる位置で矢をつがえる。


狙いすました一撃で、ハヤテはガノトトスの鱗と鱗の継ぎ目に矢を幾つか撃ち込んだ。
深々と突き刺さったそれは、命中の瞬間に小さな爆炎をいくつも挙げてガノトトスの堅い鱗の下にある筋肉を焼き払う。













「ピギイイイィィ!!!」












ガノトトスは悲鳴を上げて大きく怯む。
通常の状態でもこの弓の威力とハヤテの弓力からすればかなりのダメージを見込めるだろうが、さらにそれを押し上げているのは<強撃ビン>の影響だろう。










弓には<溜め段階>と言うものがある。

それは三つに分類され、縦に何本かの矢を射る、<連射>。
横になぎ払う様に何本も放つ、<拡散>。
そして、一本の強力な矢を放つ、<貫通>に分けられている。





彼の弓、『カイザー・ボウΙ』のタイプは、<貫通>と<拡散>

ガノトトスの巨大な体は、縦に長いため、<貫通>や<拡散>は何ヒットもさせることが出来る。


拡散させて全身に隈なくダメージを与えて焼くか、貫通させて内部組織に対してダメージを蓄積するか。

モンスターにとっては微々たるものだろうが、着実にダメージは与えられる。

その状況に応じ、適宜な距離で射撃する機転と才能と技量が必要な厄介なものだが、ハヤテ程の人間が使いこなせば、それは尋常ならざる力を発揮する。














そして、武器には特殊な能力を持つものがある。



それは『属性』だ。





モンスターには使用できる『属性』とは別に、苦手な『属性』と言うものが存在する。

その属性…例えば、火が苦手なモンスターに対して『火属性』の武器で攻撃すれば、本来よりも大きなダメージを与えられる。


そのモンスターの弱点を突くことが出来れば、大幅に有利な戦局を展開できる。




また、『状態異常』と呼ばれる属性もある。
相手を毒で侵す『毒属性』、一時的にモンスターを麻痺させる事の出来る『麻痺属性』、
そして一定時間モンスターを眠らせる事の出来る『睡眠属性』などが挙げられる。






属性は、大きく分ければ六種類だ。

前述した『状態異常属性』。
そして、『火』『水』『雷』『氷』『龍』がある。








これをどうやって生かすか?相手の弱点は何か?

相手に対してどんな武器を使うかはその人次第であり、そのモンスター次第である。








上手く使えるようになれば、そこでハンター初心者は卒業だ。
ハンターの腕の見せ所であり、モンスターを安全に手早く狩るための近道でもあるのだ。




















ハヤテが駆る『カイザー・ボウΙ』は、<蒼火竜・リオレウス亜種>の素材を使っているため、強力な火属性を持つ。

鏃と弓自身に強烈な火属性のエレメントがしみ込んでおり、無尽蔵に巨大な火属性のエネルギーを武器自体に供給している。


そのため、矢はガノトトスに当たるたびに小さな爆炎をあげ、ガノトトスの鱗を、表皮を焼き払う。









また、ソウヤの持つ『ネオ・クルスランス』は、凄まじい放電能力を持つ、<白海竜・ラギアクルス亜種>の素材を主にしているため、強い雷属性を宿す。


雷属性のエレメントによって素材は常に帯電し、パチパチと音を立てるそれは一突きごとに青白い雷電をガノトトスに這わせる。

常に電気ショックを与え続けられているようなものだ。













そして肝心のガノトトスの弱点属性は、『火』と『雷』。

まさに、ガノトトス狩りにもってこいの武器と言うことだ。




二人はその属性の優位を最大限に生かし、持ち前の技量と合わせてガノトトスと渡り合っていた。
















*                *


















ガノトトスがソウヤの方を見た。
ぎろりと瞳の無い目は、彼を不気味に見据える。


ガノトトスはどうやら、先程から自分に張り付いて下からランスでチクチク刺してくるソウヤを先に倒そうと思ったらしい。




体を前のめりにして重心を支えると、両足を踏ん張って尻尾を遠心力でぶん回し、ソウヤに向かって一気に振り下ろした。








鈍く太い鞭のような音がして、回転する尻尾はソウヤに向かって横薙ぎに振るわれた。
しかし、これで彼を攻撃するが当たらずに、そのままむなしく空を切る。




瞬間的に彼は大きくバックステップを繰り出して、攻撃の範囲外に逃れていた。
足の下は結構がら空きなので、素早く方向転換して、尾の無い方に躱したらしい。










ソウヤは地上戦は出来ないと言っていたが……どの口が言うんだ、充分過ぎるじゃないか。
とっさの判断力も水中に劣らないし、バックステップがうまいから機動力も十分だ。











そのままガノトトスに上手く張り付いたまま、ソウヤはチェスの駒の様に動く。




三回ほど隙を狙って上段へと突いたかと思うと、
サイドステップ、バックステップを連発してひらりひらりとガノトトスの攻撃をかわす。




それに翻弄されたガノトトスの攻撃は一層苛烈になるが、ソウヤが焦っている様子は無い。
彼の目の前で鋭い歯が詰まった顎がネズミ取りの金具のような音を立てて勢いよく閉まる。

ソウヤはそれを巨大な盾を構えて踏ん張ると、ガノトトスの牙は分厚く堅い盾に弾かれた。
折れた歯のうちの数本が飛び散った。


ランスは重たい盾と巨大な槍のせいで鈍重な武器と思われがちだが、ところがどっこい最大限まで上手い人間が使えばこうも強い。

ランスの特徴たる頑健なガードもあるうえに、機動力まで十分な要塞だ。





その様子を見ながらハヤテは自らもガノトトスの死角から貫通矢を打ち込む。

ガノトトスの様子を見るに、このままの状況が続けば、それほど苦労はしないはずだ。























――――――このまま行けば勝てるだろう――――――

















勝利をある程度確信したハヤテはそう思った。

しかし、そうは問屋が簡単には卸さないようだ。











怒りに白い息を吐いていたガノトトスが、次の瞬間威嚇するかのように前ヒレを大きく広げた。

そのまま上体を一気に振り上げ、肺一杯に息を吸い込む動作を見せた。
足を踏ん張った時に、地面の柔らかい泥がそのままめり込んでいく。




















(まずい!!!)











ハヤテの五感がそう告げるが、その時にはすでにガノトトスが動いていた。














「伏せろ!!!」










他にどうすることも出来ず、ハヤテは大きく叫んだ。

少しガノトトスの様子の変化に不意を突かれていたソウヤだったが、一瞬ビクッとした後ハヤテの言葉に反応し、回避行動に移った。









しかし、数コンマ遅いかった。
ソウヤが避ける前に、ガノトトスがその口を大きく開けた。


ごぼごぼと言う音がある程度離れていても聞こえる。





















「…ぐわあっ!!!」













瞬間的に、一条の筋がソウヤに襲い掛かる。
ガノトトスの口から発せられた、白いしぶきを上げるそれを喰らい、彼は大きく吹き飛ばされた。

そのまま大河の浅いところに叩きつけられて、大きな水しぶきを上げた。






ガノトトスは奥の手として、口から高圧圧縮された水のブレスをカッターのように噴出する。

水属性の攻撃をするモンスターの多くが体内に持っている『水袋』に蓄えられた大量の水は喉の奥にある肺と器官の間で高圧の力を掛けられ、そのままおもちゃの『水鉄砲』の原理で噴出される。


ただし、威力は水鉄砲の比ではない事は当然のように分かるだろう。
何しろ、重たい鎧を纏った人一人を吹っ飛ばせるほどの威力を持っている時点で、その威力は大概だ。

ここまでなら、まだ良い(良くはないが)。
通常のガノトトスでも持っている武器だから、分からない訳でも無かった。



ただ、普通に戦うような通常のガノトトスならば、噴き出す水の圧力が高すぎてあんな芸当は出来ないはずだったのだ。


ガノトトスのG級個体は、ブレスを『なぎ払うように』噴出したのだ。





しかも、そんな芸当をしているにもかかわらずガノトトスはぴんぴんしているし、威力もソウヤを吹っ飛ばしたその高圧のブレスは薙ぎ払った際、近くにあった岩盤に鋭い切れ込みを刻み込んでいる。













「げほっ!!げほっ!!――――――くそっ……なんつー奴だ……」










ソウヤがよろよろと立ち上がるのが見えた。
岩を切断するほどのブレスを喰らっても死なないのは、ひとえに防具のおかげだろう。

それに感謝しつつも、もう一度ガノトトスを彼らは見据えた。








先ほどソウヤは盾を構えていた様だが、威力が高すぎたのか防げなかったらしい。

ハヤテは何とか回転回避でかわしたが、改めて『G級』の強さを認識する。























「<ランスの盾>で防げないほどの水流……ですか!……」














ハヤテの驚きはごく当然のことだ。

<ランス>と言う武器はどちらかと言うと巨大な<盾>がメインであり、大抵の攻撃は防ぐ事ができるし、それによってノックバックすることはあってもダメージは無い。









しかし、例外と言うものはどこにでも存在する。
ガノトトスの水ブレスの様に貫通性の高い攻撃などの防げない攻撃があることはある。




一応解決策は取ることが出来、<ガード強化>というスキルを付ければ一応防げる様になる。

しかし、生憎彼はステップ回避で攻撃を避けるタイプの『回避型ランス使い<ランサー>』に分類されるタイプのハンターだったため、スキルの枠をそちらに割り振らねばならず、入れる事が出来なかったのだ。






















「キュイイイィィイッ!!!」















好機と見たのか、ガノトトスがよろよろと立っているソウヤに襲いかかる。

<剣士用防具>の高い防御力によってなんとか持ちこたえたらしいソウヤだが、攻撃の余波が及んでいるのかフラフラだ。

後一発耐えられるかどうかも分からない。














「…くっ!」












素早くそう判断したハヤテはアイテムポーチに手を突っ込むと、その中からアイテムを引っ張り出した。

船の上でも使用した<音爆弾>を取りだし、ガノトトスに向かって投げ付ける。





ソウヤに向かって猛スピードで突進するガノトトスの頭部に向かって放物線を描く。
その鳴き袋の中の爆薬が破裂し、快音が鳴り響いた。










その甲高い音にガノトトスは悲鳴を上げて怯み、一瞬動きが鈍くなる。
しかしすぐに持ち直したのか、そのどこからどこまでが首か分からない頭部をふるふると振った。








そしてガノトトスが音のした方向をぎろりと見て、その大顎とその中に生える鋭い牙をハヤテに向ける。






ちらりとあたりを見渡すと、ソウヤは何とか離脱した様だと分かる。
おそらく隣のエリアにいったん退避したのだろう。

ハヤテは一安心すると、ガノトトスの方を向いた。











こちらとの間合いを見計らうガノトトスの姿が、そこにあった。
頭を低く下げ、口を若干開閉しながら、こちらの様子をうかがうガノトトスの姿は、自分たちハンターに近しいものがあった。





ハヤテはすかさず弓に矢をつがえ、ガノトトスの頭部を狙う。
ひゅん、と矢が風を切って飛び、ガノトトスの頭部に一直線に吸い込まれていく。






















「ピキイッ!?」














小さな悲鳴を上げたガノトトスだが、大したダメージは与えられなかった。

少し動いたせいで射線がズレ、矢はガノトトスの頭のヒレを少しばかり削っただけだった。






それに切れたガノトトスはこちらに向かって体をバランスを取るのが難しいと言わんばかりに、左右に体を揺らしながらよたよたと走ってくる。

まるでアヒルみたいな、体を大きく反らせて走ってくる姿は見るぶんには愉快かもしれない。

ガノトトスの巷での『かわいらしい』と言う人がこぞってこの点を上げるだろう。











ただ、目の前で十トンの化け物がそれをやってもこっちとしては面白くもなんともない。
しかもそれを放っておいたら、押し潰されて轢かれるのはこっちだ。

挽肉になって原型も留めないまま死ぬのは誰だっていやだろう。
それこそ、日々ハンター業と言う危険な職種に関わっている人でもだ。






ハヤテはガノトトスの足元の様子を見計らう。






幸いというかなんと言うか、何度も言っている通りガノトトスは巨大だから、そのぶん足が長く、足の下を割と簡単に潜り抜けられる。

足元に近接武器が張り付けばいいのもこのためだ。









すばやくハヤテは懐に潜り込むと、あらかじめある程度溜めていた数本の矢を<拡散>させて放つ。

ガノトトスの体の中で最も柔らかい腹だったが、隙だらけのそこにハヤテは矢を幾つも撃ち込む。

体の正中線に沿って、ズレることなく巨大な矢が次々と突き刺さって、内臓を焼き始める。













ガノトトスは大きく悲鳴を上げた。
偶然かどうかは分からないが、どうやら今の一矢はソウヤの付けた傷を抉ったらしい。

ハヤテはガノトトスが怯んでいる隙に、尻尾の方向へと回避する。
そこから追い打ちのごとく、体を尻尾から頭部に向けて貫通する位置からフルに溜めた一矢を放ち、さらにダメージを蓄積する。
























――――――――― 一度、体勢を整えた方が良いだろう―――――――











ハヤテはガノトトスの様子を確認すると、弓を背中に戻した。
一人でも戦えないことは無いが、ソウヤがいたほうが安全だ。

まだ体力の残っているらしいガノトトスはこちらを向くが、ハヤテはポーチから一つの玉を取り出すと、それを間髪入れずに投げ付けた。

手投げ式の手榴弾のような形状をしたそれは、ガノトトスの眼前まで弧を描いて飛ぶ。















「ピギイイッ!?」










眼前でそれが炸裂し、『カッ!』と目の前に太陽が現れた様な閃光が辺りに撒き散らされ、ガノトトスは大きく退けぞった。

ハヤテは目を傷めない様に、腕で視界を覆っていたが、それでも瞼を貫通した光が目の前を白く染める。







それ程の光を放つ今のアイテムは、<閃光玉>と呼ばれるハンターの必須アイテムの一つだ。

<光虫>と呼ばれる、絶命時に強力な光を放つ虫をこめた玉で、一定時間モンスターの視界を奪える。






攻撃チャンスを増やしたり、逃げるチャンスを作ったり――――――変わった使い方としては、<飛竜>を叩き落としたりと用途が多いアイテムであり、上手く使うことが出来れば非常に便利である。








ハヤテはペイントの匂いが少し薄くなっているのに気付き、ペイントビンをセットする。

そしてガノトトスに数発撃ち込むと、ハヤテはそのエリアを出た。






















*                *























「…ふい〜〜っ…死ぬかと思ったぜ…」










そういって脱力しながら、ソウヤは隣のエリアで座り込んでいた。

体や命に別状はなかったらしいが、内部からのダメージはかなり蓄積していたようだった。




また、強力な水ブレスを食らったせいで、<水属性やられ>を発症していたようだった。
〈水属性やられ〉はモンスターの属性による〈状態異常〉と呼ばれる身体の疾患の一つである。

様々な〈属性やられ〉があるが、そのうちの〈水属性やられ〉は大量の水により息が詰まり、呼吸がしにくくなって、スタミナが回復しにくくなる状態異常だ。

こうなると、ガードするタイプの武器はスタミナを削られると回復しにくいし、逃げる時も息が切れて逃げにくくなり、致命的な結果を招く事がある。


どちらにせよ、ソウヤにとっては一大事だ。








ソウヤはポーチの中から、<回復薬グレード>を取り出して飲む。
一本では足りなかったため、もう一本飲み干してホッと息を付いている。

しかし、回復薬グレードは体力や体のダメージはある程度回復できるが、状態異常までは直すことが出来ない。

それが分かっていた彼は、ポーチをさらに探る。














「…後はコレも…」










目的のものである小さな青い実をポーチの奥底から引っ張り出すと、ソウヤはがりっと齧った。


妙な味が口の中に広がるが、とたんに息苦しさが無くなり、気分がもとに戻る。
ほぼ全ての状態異常を治す事の出来る摩訶不思議な実である、<ウチケシの実>だ。


万全の状態に戻ったソウヤに、エリア移動してきたハヤテが話しかけた。















「大丈夫?」
「…ふう…ああ、まあ大丈夫みたいだ。」











ソウヤがいつものごとく鷹揚に答えた。
その言葉を聞くと、ハヤテはほっと息をついて腰を下ろす。


しかし……とソウヤが長い息を吐き出した。










「それにしても…ブレスをなぎ払ってくるなんてなあ……」
「かなりの筋力が有るみたいだね……普通のガノトトスだったら、噴出した水を前に飛ばさないと、体がバランスを崩して転んでただろうから・・・」











ハヤテもやれやれと言った様子で首を軽く振った。
自分はG級を嘗めていた訳では無いが、どうにも心に隙が生まれてしまっていたらしい。

自分の油断が、時には人を巻き込むことがある。
それは今までの狩りでよく体にしみこんでいると思ったのだが――――――













「……まだまだだな」









ハヤテは頬に手を付いた。

ああいう予想外な事が起きるから、狩り場と言う物は非常に厄介で予測不可能な危険性がいつもあるのだ。







しかし、そんな中でもハンターになりたい人間は多いのだ。
それは、そんな狩場の空気が好きで、面白くもあるからに他ならない。




















一瞬、勝てると油断した事に少し後悔する。
しかし、大事なものは今は後悔ではなく……それをどう生かすべきか考えるべきだろう。


隣で、勢いよく立ち上がった音がして見上げた。


















「よしっ!もうヘマはしねぇ!!リベンジだリベンジ!!!」









ソウヤはハヤテが考えていた事を察したのか、そうでは無いのか――――――恐らくは後者だろう。
能天気な彼に、そこまで人の心を読めるような機微があるかと言えば否と言う以外にはあまりない。




さっさとエリア移動を始めた彼の後ろをついていこうと、ハヤテも腰を上げた。

















下から漂ってくるペイントの匂いからして、ガノトトスは移動をしていなさそうだ。
多分、切れて暴れまわっているに違いないが――――――やらねばなるまい。















ハヤテはポーチから、ビンを取り出そうとするが、ふと考えてやめる事にした。

今回の敵はあのガノトトス一体だけでなく、その亜種も含まれているのだ。
出来るだけ後をスムーズにするために、有効なビンは後に取っておいた方が良いかもしれない。





ハヤテは弓に強撃ビンの余りをセットすると、先ほどと同じ強力なにおいが鼻についた。

そして、結構小さくなっているソウヤの後を追って、元のエリアへの道を戻り始めた。




















そして、二人はガノトトスのいるエリアに再度侵入を開始した。











































































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.9 )
日時: 2013/06/23 04:21
名前: 壊れたラジオ

第一章
第五話『渓流の昼下がり』













「キュイイイッ!!!」








再び侵入した二人を待っていたのは、ブチ切れたガノトトスからの手痛い贈り物だった。





視界を奪ったとは言え、ここまで切れることないだろと悪態をつきながら両サイドに散開する。

今まで立っていた場所を一条の飛沫が通り抜けて、後ろにあった太い幹を持つ木が数本はじけ飛んだ。

しかし、一度喰らった攻撃を喰らうハヤテたちではない。
そのままガノトトスに近接すると、ソウヤはランスを抜刀した勢いで鋭く喉元を狙う。

ハヤテはガノトトスの尾が届かない位置、なおかつ拡散矢が最大の効力を発揮する位置に陣取って射撃を続ける。




炎と雷光のスパークが上がると、ガノトトスを大きく怯ませた。











ガノトトスは巨大だ(もうコレ何回も言っていることだけれど)。
届かないと思ってたら、尻尾の攻撃範囲だったりする。

しかし、それは大きな弱点でもある時がある。







近接武器はガノトトスの腹の下に何がなんでも張り付くこと。
そうすれば、ボディプレス以外の攻撃は大体かわせる。





ガンナーだったら、<貫通矢>を放てる弓か、<貫通弾>を撃てるボウガンを使うこと。
そして、相手の攻撃範囲外から攻撃すること。






基本的に、ガノトトスと戦うときに気を付けることはコレぐらいだ。

・・・ま、後はハンターとしての『慣れ』がものを言う世界だけれど、
ガンナーは防御力が弱いから、一発攻撃を喰らっても大きな痛手だ。









だから、モンスターの攻撃を一発貰ってそれで立ち上がれたらラッキー、と言う位の立ち回りが必要だ。
(ガノトトスだけじゃなくて、他のモンスターにも言えることだけど)
















また、遠く――――――ガノトトスの攻撃範囲の外から撃っていても、あの水ブレスの脅威がある。

ガンナーの剣士に比べて半分程度の貧弱な防御力では当たれば大ダメージは免れない。
それに先ほど剣士用防具をつけているソウヤですらあんなにボロボロにした今回の個体の水ブレスを喰らえば、どうなるか分かったもんじゃない。




近接武器も、いざというときにガノトトスが予想外な行動を取れば、危険な事に変わりない――――――





















「…キイィ……」









ガノトトスが混乱してきたような声を上げる。

ソウヤはガノトトスに張り付き、三回突きとステップを織り交ぜてガノトトスを翻弄する。



ハヤテはソウヤに攻撃が行かないよう、
そして急所を狙ってガノトトスに幾つも矢を撃ち込み、確実に消耗させていく。


その絶妙なコンビネーション攻撃に、どちらを攻撃していいか分からなくなったガノトトスが、とうとうブチ切れた。















「キュイイイィィッ!!!」









甲高い咆哮と共に、ガノトトスが頭を下げた。
まずいな…とハヤテは眉間にしわを寄せる。


おそらく、あれは水ブレスの予備動作だ。
直線で来るか……変化球で来るか。

それが分かりづらい。
















「――――――させるか…よっ!!!…」











しかし、さっき喰らって敏感になっていたのか、ソウヤが素早く動いた。
低く下がったガノトトスの頭にこれでもかという位の勢いで、手に持った巨大な盾により『盾殴り<シールド・バッシュ>』を行う。






ガノトトスの頭は非常に堅い。
ハンマーとか、装備の頭部の部分に使えるぐらいだ。
刃物なんかも全然通らずに、弾かれるほどの堅さをもつヘルメットを自前で持っているようなもので、並大抵の攻撃にはびくともしない。






だがしかし・・・実は、『打撃』に弱いと言う弱点がある。

幾ら堅くても、内部から響く痛みには敵わない。
しかも、そのランスを使うのは一流の使い手のソウヤだ。


重たい盾が思い切り上手く振るわれれば、大ダメージは免れない。









『ガッ!!!』と大きな火花が散って、ガノトトスが怯んだ。






ガノトトスが少しふらつき、一瞬の隙を晒すとハヤテはすかさず矢を撃ち込んだ。
体表面を、ガリガリと貫通する一矢にさしものガノトトスも苦しげな声を上げる。




ガノトトスは牙を剥き出した。
口から白い吐息をシュウシュウと言わせて立ち上らせたガノトトスは、体をもう一度深く構え、足を思い切り踏ん張る。






体を構えるガノトトスに、ハヤテは水ブレスかと即座に思考する。
両足に力を込めて回避の構えを取るが……ガノトトスはハヤテの予想とは全く違う動きを見せた。















「このっ!!!」








もう一度のシールド・バッシュを試みるソウヤだが、それは虚しく空を切ってしまう。



ガノトトスはランスの盾が届く前に、地面を蹴って飛び上がった。
体高の数倍も高く飛び上がったかと思うと、その勢いのまま腹這いで物凄い勢いで突進してくる。

体をくねらせて尻尾と前ヒレを器用に使い、信じられないスピードでハヤテに向かって突進してきたそれは、もはやモンスターではなく巨大な弾丸だ。









――――――全長二十五メートル、横幅十メートル、高さ五メートルの何かを想像して欲しい。

んでもって、それが時速七十キロでこちらに突っ込んでくるわけだ。

もはや処刑の一種に出来そうだ。
しかも、恐怖心と絶望感を同時に浴びせるのに最も効果的だ。

が、非人道的すぎてすぐに非難轟々だろうが。















そんな見当違いな事を考えていたものの、体はきちんと動いていた。
ハンターとしての勘は、こういうときでも正確に働くらしい。

一瞬、当たったかと思うが、それも当然の感覚だった。
・・・ガノトトスはハヤテの体の横、数センチを通り抜けていったからだ。





どうやら突進の瞬間、大ジャンプでの回避……緊急回避でかわせたらしい。

かなり心臓を激しく鼓動させながらも、
ハンターとして培ってきた経験を有り難く思うが、それも束の間だった。

ガノトトスはその巨体をうねらせ、あろうことかUターンしてくる。




地面をドリフトした際に、あまりの衝撃が全体にかかったのか、鱗のいくつかが擦り切れている。

逆に言えば、もうそれぐらいの傷は気にするつもりもないという事だ。












そしてあの攻撃方法が有効だと思ったのだろう。
確かにこうしている間はこちらは攻撃が出来ない。

条件反射かオペラント行動かは知らないが、とにかく学習されると厄介だ。









さらに不味いことに、<音爆弾>はガノトトスがキレている時には全く効かない。
かえって怒らせるだけだ。

閃光玉を投げる暇もない。
投げて目つぶしをしたところで止まってくれるかどうか……



つまり、今のところアレを止める方法は無いわけだ。















「くっ!」
「のわあっ!?」









二人は突進をサイドにそれぞれかわして、ガノトトスをなんとかしのぐ。
しかし重い鎧をつけているので、さすがにこれを何度も続けることは出来ない。

それを避けたそうやが、Uターンしてくるガノトトスを前に悪態をついた。








「くっそ!アレを何とかする方法はねぇのかよ!?」
「う〜〜ん……僕だってあんな暴走した荷車みたいなのに挽かれて死ぬなんて嫌だからね!!どうにかしないと…」














どうにか…と言ったって、どうすれば良いんだあんなもん。
ハヤテは頭の脳ミソを絞って対処法を考える……が、絞った後の雑巾みたいに何も出てこない。

この場合は、無い脳みそを絞ってと言うほうが言葉的には面白いかもしれないが、ハヤテはあいにく脳みそは詰まっている方である。







と、やっぱりまた場違いなことをやっている間にガノトトスはまたUターンしてくる。


こうして戦闘中についつい考え事をしてしまう癖はどう考えても直した方が身のためだが、気づいたらやっているのでどうしようもない。

自分の冷静さに水を掛けられているほど、こういう思考のループに陥りやすいようだ。
つまり、今がその状況だが。









ガノトトスは次でこちらを仕留めるつもりなのか……心なしかスピードが上がっている様に見える。

と言うより、先ほどここを通るのにかかった時間が遥かに短いことを考えると、スピードは確実に上がっている。


















「…くっ!…こうなったら<ニトロダケ>と<空きビン>を調合して<強撃ビン>を……」










こうなれば、持ち込んだ〈ニトロダケ〉と〈空きビン〉を調合して強撃ビンを作成し、コツコツとすれ違いざまに打ち込んでいくしかないかもしれない。

慣れたハヤテなら、逃げ回りながら調合も出来るし……




そこまで考えて、ハヤテはハッとする――――――<ニトロダケ>?















(…確か…<ニトロダケ>と<火薬草>を調合すれば……<爆薬>になったんだけど…)


















――――――爆薬……爆薬!?






そうだ!!!

ハヤテの頭は、一気にある記憶を引っ張りだす。
ここに来る前、タンジアでソウヤが言っていたセリフだ。








『――――――じゃ、オレは回復薬とか、<大タル爆弾>とか買ってくるわ――――――』













考えてる暇は無かった。

















「ソウヤ君!大タル爆弾持ってる!?」
「ええ!?どうするんだそんなもん!?」
「良いから!アレをかわしたら、すぐに僕の近くに置いてくれないか!?」
「わ…分かった!!!」
「来るぞ!!!」










二人はもう一度回避する。
話をしていて回避が少し遅れたがギリギリセーフでかわすことに何とか成功する。
ガノトトスの薄い、ナイフの様な歯が掠めていったのにはさすがに冷や汗が流れたが。

















「……!」












きりきりと弓を引き絞り、ガノトトスに向かって矢を射る。

その一矢は、大気を切り裂く音を立てながら飛び、ガノトトスの尻尾を貫通する。











「ピキイイイイィィイイッ!!!」












ガノトトスは悲鳴を上げた。
貫通矢は尻尾の一部の膜を削って行ったが、ガノトトスはそれ以上気にする様子は無かった。

それどころか更に怒りをたぎらせ、こちらに向かって何もかもお構いなしの最大の突進を繰り出してくる。












(…まだだ…)













「ハヤテ!?逃げろ!」






ソウヤの声が響いてくるが、まだ退くわけにはいかない。
これは、一発きりの賭けなのだ。


こちらにガノトトスが驀進してくるが、ハヤテは精神を極限まで集中する。








(…まだ……まだだ…)


















ガノトトスの突進は追尾性能がバカにならないほど高い……今避けたら、全てが水の泡だ。










「おい!?ハヤテ!?危ねぇ!!!」











切羽詰まったソウヤの声が響いてくる。
そして、ガノトトスの怒り狂う唸り声を間近に聞く。


……気づけば、ガノトトスの大顎はすぐそこにあった。
口腔の中には鋭利な牙が所狭しと並んでいる。

口の上下の高さは人一人分ぐらいありそうだ。










(今だ!)











ハヤテは前転回避を行い、敢えてガノトトスの方に転がる。

彼の体は、ガノトトスの右ヒレの下を上手く潜り抜けた。
ハヤテの持つ驚異的な身体能力と動体視力の賜物だ。















「喰らえっ!」









膝をついて、素早く放ったろくに溜めてもいない一矢が、緩い放物線を描く。

しかし、そこには秘密兵器があった。




























――――――ドゴオオオオオオオオオオン!!!
























耳の鼓膜が破れるんじゃないかと言う程の轟音がガノトトスの突っ込んでいった方向で起きる。

そして巨大な爆炎が立ち上り、巨大なガノトトスの体を飲み込んだ。



















「キイイイイイイッ!?」









もうもうと立ち上る煙の中でガノトトスは何が起こったのか分からず、ただ衝撃で吹っ飛ばされた。

そのままその巨体は大きく横倒しになり、ヒレ状の前足ではひっくり返った体をなかなか起こせずにじたばたともがいている。













秘密兵器の名は、<大タル爆弾>

巨大な<タル>の中にこれでもかと言うぐらい<爆薬>を詰めた、非常に強力で危険なアイテムだ。

モンスターに大きなダメージを与えられるが、運悪く巻き込まれた場合、大きく吹き飛ばされて自分も大きな痛手を負う。

それに、あまりにも大きくて持ち運びには不便だから、ここぞというときの切り札だ。






まさに諸刃の剣と言えるだろう。
















幸い吹っ飛んだのはガノトトスだけの様で、ソウヤは上手く行った事に信じられない様な顔をしている。

しかし時間を無駄にするわけにはいかない。


このチャンスを生かさねば。















「今だ!!!」










ハヤテの声にハッとするソウヤはガノトトスに対しランスの大技、<突進>を繰り出す。
堅実な攻撃で敵を倒すランスだが、こうして槍を持ったまま勢いよく直線的に走り、敵を蹴散らすような大技も持っているのだ。


但し、重たい槍と盾を持ちながら走るため、スタミナの消費が激しいため、やはりここぞというときにしか使えない。













「う、おおおおおおおおっ!!!」












ソウヤが雄叫びを上げながらガノトトスに向かって突っ込んでいく。
横倒しになり、無防備になったガノトトスの腹に、彼は一気にネオ・クルスランスを突き立てた。

















「ギイイイイイイイイッ!!!???」













突き立てられた瞬間、ネオ・クルスランスに込められた電撃が全て解き放たれる。
ガノトトスの体に、おびただしい量の電撃の渦が駆け巡り、ガノトトスの体を大きく痙攣させる。












もはや、これ以上無いほどの攻撃を受けたガノトトス。
だが何処にそんな力が残っているのか、それでも尚立とうとする。

瞳の無い目で、腹から飛び出している異物の先にいる彼をぎろりと睨み返す。



























――――――ドドドドッ!!!――――――




























しかし、彼が立ち上がることは叶わない。

ハヤテの弓から放たれた、灼熱の火炎を纏った矢が、幾つもガノトトスを襲う。


























「…ピ…ギイィィィ……」






















炎と電撃……弱点としている二つの属性の連撃を受けたガノトトスの体は、数度ピクピクと痙攣したかと思うと、糸が切れたかのようにくたりと地面に張り付いた。












光を徐々に失う瞳を見ながら、ハヤテはじっとそこに立ち尽くしていた。



































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.10 )
日時: 2013/06/23 11:11
名前: 壊れたラジオ

第一章
第六話『少年の夢』















「危機一髪…だったね…」
「ああ…」












倒れたガノトトスから素材の剥ぎ取りを終えた二人は、剥ぎ取り用ナイフを鞘にしまうとどっと腰を下ろす。

モンスターから素材を剥ぎ取らないというのは、素材面や金銭面でも勿体ないというのもあるし、戦ったモンスターに対して無礼に当たる。


しかし、全てを剥ぎ取ってはいけない。
幾らかは自然に委ね、返していかねばならないという決まりが昔からある。








足からゆっくりと力が抜けていく。
こういう時にリラックスをして体から力を抜かなければ、どこかで精神が駄目になる。
何時も気を張りっぱなしと言うわけにはいかないのだ。

―――それが狩場と言う危険な状況であってもだ。









ポーチの中から回復薬グレードを取り出した。
それを飲むと、独特な味が舌を刺すが、もう慣れてしまった。


口の中でぬるくなったそれを飲み下すと、体に溜まっていた疲労がゆっくりと抜けていく。
狩りの合間に飲むとそんなに回復したような気がしないが、こういう時に飲んだ回復薬は何故かよく効く気がする。











ふと目を落とすと、影が長くなっているのに気付いた。
はっとして見上げると、もう日は少し傾いていた事に少しの焦りを感じた。



まだクエストは終わったわけではない。
その亜種である、<ガノトトス亜種>がいるのだ。

しかも、二頭クエストとなっていて狩猟依頼がかぶっている以上、少なくともこの近くにいるのは確かだ。





亜種とは地域の隔絶が大きかったり、生物として生きる場所の違いから生まれる生物種としては近縁だが、形態が変化しているものの事だ。
たとえ同じ種であっても環境が変われば、それに対応できるように変異を起こすことがある。


特に辺境に住む亜種と言うのは非常に厄介で、原種と似ていても全く違う行動パターンや属性を操る事が多いため、苦戦する原因となる。

またギルドの決めた便宜上―――モンスターの生態は謎が多いので―――厳密には亜種ではないが、それと近接するぐらいに行動や形態が違うモンスター同士を亜種と定義することもある。


近年の研究で全く違う種だと分かったり、違っていたと思っていたものが近縁だったりすることが多いので、ハンターズギルドと言う組織はよっぽどのことがない限りは大多数のハンターの認識によってそれを定義している。





今回の亜種―――――ガノトトス亜種に関しては、行動パターンや使用する属性は原種と大差ない。

違う所と言えば、原種が青い鱗を持っていたことに対し、亜種は美しい翡翠の鱗を持つ事だろうか。

その鱗は分厚いものだと装飾品に使えるぐらいの価値がある。

とはいえ、流通量はガノトトスに比べると偏差だが少ない。






その理由は単純で、ガノトトスに比べてガノトトス亜種が強力な事が挙げられる。
行動パターンこそ似通っているとはいえ、攻撃一発一発の痛さは全くの別物だ。

原種になれたからと言ってなめてかかると、非常に痛いしっぺ返しを食らうことになる。
それは亜種全般にいえる事であるが。

ランスを背中から取り出し、砥石で切れ味を戻していたソウヤがポーチをちらりと見た。

















「一回ベースキャンプに戻った方が良いんじゃないか?支給品も届いてるかも知れないし…」












彼の言った事は的を射ていた。
それが良いだろうと、ハヤテも考えていた。



ガノトトスとの戦いの後で疲れきった体を少し休めた方が狩りがスムーズに行えるだろうし、G級で支給品が来ている確率は低いだろうが、あったら儲けものだ。



頷くと、ハヤテはゆっくりと立ち上がった。
ベースキャンプに戻るために、来た道を戻ろうとエリアの端へとつま先を向けた。
























――――――バシュウウウウウウゥッ!!!――――――























しかし突然、ハヤテの足元にあった土手が真っ二つに割れて水しぶきが上がり、葦や泥はおろか堅いはずの岩盤が大きく捲られて吹き飛んだ。




ゾッと背筋が一気に冷え、素早く水しぶきの飛んできた方向を見据えて弓に手を掛ける。





















―――――――後一歩、踏み出していたら……











直線状にスパッと切れた土手のその先に、葦が多くて見えづらいものの、その緑に紛れてしまいそうな翡翠の鱗が傾く太陽に照らされて輝く。


船の三角帆のような膜を張った背びれが、こちらに向かって近づいてくる。








どうやら、一端の退去は諦めた方が良いらしい。
ハヤテはペイントビンを取り出すと弓にセットし、その隣ではソウヤはランスを構える。








もう一度、巨大な蛇腹の様なそれ――――――ガノトトスよりも一回り大きい――――――が水面を切り裂いて、急流に切れ目を入れていく。



その下に潜む、真黒な魚影を見た瞬間、二人は目の前の大河に身を踊らせた。





















*                *





















「ふ〜〜っ!やっぱりここの温泉は良いねぇ……もう一度入れて良かったよ」
「縁起でも無いこと言うなよ……まあ、気持ちは分かるけどさ……ふぅ…」














狩りの後、二人は疲れ切った体を暖かい湯につけて、ゆっくりと疲れをほぐしていた。
ソウヤが結構縁起でもない事を言ったが、結構な不幸性のハヤテがそれを口に出すと本当にそれが起りそうなので、彼には自重してほしかった。









結果とすれば、クエストは何とか成功した。

水中戦は元々ソウヤのテリトリーだ。

それに長いことハンターをやって来ていたし、周りが海で人並み以上に海や川などの水中に慣れているハヤテも水中戦は行えたからだ。

ただ、ソウヤのような肺活量はさすがにないが、鍛えても10分〜15分が限界のハヤテとラギアクルス並みの潜水能力を持つ彼を比べる方が間違っている。







それにクリアしたとはいえ、ベースキャンプに戻る頃には日が暮れかけていたため制限時間はぎりぎりだったろうし、狩りはハヤテ個人としては及第点と言ったところだろう。

そして二人は体が棒の様になっていたため、温泉でゆったりまったりと満喫しているのだ。

















村に帰ると大歓迎を受けた。
それはもうもみくちゃにされて、あわや水中でもないのに窒息死の憂き目に遭う所だった。


とはいえ、船を何隻も沈めるほどの強力なモンスターを二頭も狩ってきた上に遠路遥々やって来た有名な二人のハンターだったから、ある意味当然の結果と言えるのだが。





人々は口々に称賛や、これでやっと安心して船が出せる・・等の事を口にしていたのを聞くと、ハヤテの心の奥から温かい気持ちが湧き上がる。










本当に良かったとハヤテは思っていた。
こういう事が感じられるから、ハンターを自分はやっているのだと身に染みる。



あと少しでお祭り騒ぎになりかけたが、村長の計らいでハヤテ達二人は疲れを取るために人込みを抜け、温泉に浸かる事が出来ていた。















――――――浸かっているだけで、体の疲れが取れていく。


極楽と言うのは、こう言う感じの事を言うんだろうなと、心地よい熱と圧迫感を感じながら温泉を堪能していると、この村の温泉の効能について話している観光ガイドの声が湯煙の向こうから聞こえてくる。



















(遠くからわざわざ病気を治しにここに来る人達の気持ちが分かるよ)










実際、自分もそうであった。

彼は昔、受けた傷を治しにここを訪れた事があった。
何度も浸かるうちにすっかりこの温泉の虜となっていたのだが、それはごくごく当たり前のことだったかもしれない。

生まれる前から決められていた人類と言う生き物の快楽には抗えまい。


















「――――――お!?村長さんから差し入れの秘酒だってよ!いい具合に月も出てるし、一杯やらねぇか?」














ハヤテがぼうっと考え事をしているうちに、ソウヤは村長さんからの差し入れを受け取っていた。

彼女の侍従が持ってきたのはこの近辺特有の秘酒らしい。
しかし秘酒と言うぐらいだからきっとお高いものだろうに彼は全く気にする様子も無く、とっくりを受け取ると早速フタを開けて盃に注いでいた。


それをこちらにどこかの小説の一シーンのようにそれをこちらに押し付けてくるが、別に断る理由も無いだろう。













G級ハンターともなってくると、呼び出された時の会合で酒を進められることも多いから、たしなむ程度には好んでいた。
結構大きめの盃を受け取ると、一気に飲み下した。

かなり強いが、舌触りがよくさっぱりとした酒で、それだけで高級なものだと分かる。
――――飲んでもよかったのだろうか?









ソウヤは勿論、他の客―――ハンターも幾らかいる――――から、歓声が上がったが、とくには気にならなかった。

暖かさと熱の圧迫感で脳の中枢が麻痺しているのかもしれない。
そこに酒も加わったら、それが促進されて――――――


















「おい見ろよ!あれが<蒼火竜>さんだぜ!」
「すげぇ!本物が見られるなんて!」
「格好良いなあ――――――オレもいつかあんな風に……」
「そうだな!頑張ろうぜ!」











周りからそんな声が上がるが、酒の廻りが今日はなんだか早かった。

ハヤテは温泉の淵に頭を置いて微睡んでいたため、周りの声があまり聞こえない。




温泉の煙か、目の前に薄いベールを張ったような白い空間が広がっていく。













「…ああ<蒼火竜>様――――素敵ですわ…」
「いつか、あんな人と一緒に狩りに行きたい……」
「それで上手く行けばもしかしたら――――――」
















女性陣の声が聞こえる。
初めに断っておくとここは混浴なのだが、湯浴み衣を着ているためその手の心配は不要だ。
キャイキャイと騒ぐ彼女達の声が、薄ぼんやりと聞こえるだけになった頭はよく働かない。



わずかにソウヤが手を降るのが見えた。
彼のファンに手を振り返しているんだろうか、歓声が聞こえた。




そうしてしばらくぼうっとしていると、目の前がいきなり真っ暗になって、口の中に大量の水が入り込んできて咳き込んだ。
















「おい!?ちょっ!?ハヤテお前溺れ――――――ッ!!」















ソウヤの声で、ハッと我に帰った。


あまりの心地よさに寝こけていたらしく、ソウヤが何とか腕を支えていたことでおぼれずに済んだようだ。










――――――危ない危ない。




ハヤテは鈍くなった頭をぶんぶんと振ると、頬を手で二、三度叩いた。
<蒼火竜>がモンスターとの戦いじゃなくて風呂場で溺れ死んだとなったら良い笑い者だ。















少し風呂での酒は控えておこうと彼はため息をついた。
別に嫌いではないが、飲まずにいても死にはしないからその程度は平気だろう。

そう思いつつ、脱衣所へと向かう彼だったが、そこでは彼を一目見ようとかなりの人の波が出来ており、出るのには入る時以上に難儀した。



















*                *























「…<ガノトトス>は、G級個体となると、<水ブレスなぎ払い>、<ホーミング突進>を行ってくる――――――これらの予備動作を見たときは、必ず回転回避をすること…」
「…また、怒り状態の時は<音爆弾>が効かないので、<大タル爆弾>などを上手く使って動きを止めること――――――と、まあこんなものかなぁ…?」
「…マメだなー、お前」













幾らかのすったもんだを超え、温泉から上がったハヤテは持っていたノートにカリカリとペンを走らせていた。
時折インクを付けたすだけで、それ以外は規則的な音が時を刻んでいる。



ノートとは言っても、その辺にあるような百ページほどの普通のノートではなく、その何倍も分厚い。

そこの中ほどまで開いたところに、今回戦った<ガノトトス>の事を書き込んでいた。











満足できる程度にそれを書き終えると、読み直して誤字がないかを丹念に調べた。


満足げにうなずいた彼は、今まで書いたそれをパラパラとめくってみた。






分厚いノートの半分辺りまでを占めた端正な文字と生き生きとした絵に、その項目のモンスターの解剖スケッチがびっしりと書き込まれていて、素人がそれと見ただけでも分かりやすく解説がそれぞれなされている。

モンスター研究者が見れば、どんな大金を払ってでも欲しいと思うだろうそれは、ハヤテがハンターをする一番大きな理由の一つだった。





その様子をはたから見ていたソウヤは少し苦笑した。











「『モンスター図鑑』も大分埋まったな〜……そろそろネタ切れなんじゃ無いのか?」
「そんなこと無いよ。モンスターにはまだまだ分かってない生態だって多いんだし――――――現に今回のガノトトスもそうだったじゃないか」
「…う〜ん…それもそうだけど……」
「それにさ、これは僕の生涯の目標で永遠に届かない目的なんだ。これを完成させることが僕の生き甲斐で…」
「あ〜ちょっとストップストップ……お前それの事になるとホント熱くなるからなあ……聞くこっちとしてはもうお腹いっぱいだよ……」













ハヤテを呆れたように見るソウヤは、手を前に出してハヤテを静止した。
次々出てきそうになった言葉を止められたハヤテは少しむっとしたが、まあいいかとまた視線を戻した。



彼はハンターになったときから――――――いや、なる前からこの事をずっと夢見て来ていた。












モンスターの生態が不思議で仕方なくて、彼らの事をもっと知りたくて。
彼らの命の営みを解き明かしたくて、調べてみたくてこの世界に身を投じたのだ。









今まで大変なことも沢山あったけれど、それが全て積み重なって、自分となっている。

少しめくっただけで今までに戦ってきたモンスターの顔触れが一同に介し、彼らとの激闘の日々を思い出すと少しの感慨があふれでてきた。











今までの生き方を後悔なんてしていない。
一枚一枚のページにこれまでの狩りや調査で分かったモンスターの生態や、ハンターへの注意事項やらが記されている。


その分厚いノートの半分は、もはやハヤテの人生と言っても過言ではない。



それを満足げに読み返していると、隣から小さな声が響いた。


















「――――――あのう…」
「あっ!?…どうしたんです?」

















今まで気づかなかったことに内心詫びながら、その声の方向を振り向く。
何となくデジャヴを感じるのは気のせいだろうかと思いながら、その少女を見た。

タンジアの時の初心者ハンターとはもちろん別人だが、似たような雰囲気を持って自分の前に立っていることは分かった。

しばらく言いよどんでいた彼女が恐る恐る口を開く。














「えっと――――――握手…してもらえませんか…?」












ああそんな事か、彼はそれを聞き入れた。
と構いませんよと返して右手を差し出すと、まるで金塊が目の前にあるかのような表情で自分の手を握ってくる。

その指の細さに同じハンターとして心配になったが、それは言うべきではあるまい。

















「…あ…ありがとうございますっ!」










欲しがっていた物を貰ったときの子供のように顔を紅潮させる彼女に、いつものことながらどうしたのだろうと思ったが、満足したらしい彼女はゆっくりとその手を離した。


そしてそのまま、フラフラとした足取りで去っていく。
その様子に大丈夫だろうかと疑問に思ってソウヤを振り向くが、彼はやれやれと肩をすくめて見せるだけだった。















「あ〜〜〜、大丈夫だ多分――――――何とかの病ってヤツだからさ…」












半ばやけのようにあっけらかんと言われたセリフに、ハヤテは驚愕する。


本当に病にかかっているのならば、どう考えても早く医術師に診てもらうべきだ。
あの顔の赤くなりようや、ふらふらとした足取りからして、すごい病気かもしれない。


ホントに大丈夫か、と言ったような表情をしていたらしく、ソウヤが噴出した。
彼は理由が分かっているらしいが、それならば教えてくれてもいいだろう。




自分が何を考えているのかが分かったのか、彼は嘆息した後、そばの椅子に掛けてあった手拭いをもう一度取って立ち上がった。















「…ま、いつもの事ながら…お前はお前か……」
「訳が分からないよ……」









ソウヤはそのまま『もっかい風呂に浸かってくる』といって、歩いて行ってしまう。
去り際に、『自分で考えてみな』と言い残して。




しかし、考えたって答えが出てこないのがこの鈍感男だった。
割り算や掛け算が出来ないのに、専門家が解くような難しい方程式や関数を解けと言われているのとほとんど(彼にとって)等しい。

何となくスッキリしなかった彼は、所在無くモンスター図鑑に目を落とした。





































「ねぇ、ちょっと」















そんな声に彼の自分に対して敵意を持つ存在を敏感に伝える神経が反応する。

どう考えても自分に握手とかギルドカードの交換を求めているのでは無さそうな、不機嫌をそのまま具体化して練り固めた様な声を聞いた。





不覚にも、少し狼狽してしまった。





不幸性がとうとう出てきてしまったかと考えるも、いやいや自分に話しかけていない可能性だってあると自分の感覚神経の誤作動に期待をかけて表面上は反応しないようにした。






















「そこのあなたよ」























――――――聞き違いでは無いらしい。





自分の今まで鍛えられてきた感覚の方が、期待より確実だったようだ。
感覚の卓越と言う点では喜ばしいことのはずなのに、全く嬉しくないのは何故だろう?





明らかに自分の事を呼んでいる声は、若い女性だろうか?

今まで女難の気とか――――――は結構あったが、刺されるようなことはしていないし、する気もない。
それに声の具合から、知り合いと言うわけでもない。

それならどうしてここまで不機嫌そうなんだろうかと考えるが、自分の今までの不幸性から考えると、知らないうちに何かをやってしまったという可能性が一番高そうだ。


















(僕何かやっちゃったのかな…ーー?)












そう思って、若干の諦念を感じながらゆっくりと振り返る。
こんな時に自分が悪いと考えて諦めてしまえる自分の性格が恨めしい。














振り返るとそこにいた人の第一印象は、どこかの国の騎士のようだと感じたことだった。


全身を覆う甲冑は金属光沢を放ち、ところどころに竜の鱗や甲殻で防御力を高めている。
それは緑色の淡いつやを放ち、全身にどこか優美さを纏わせている。

しかし騎士は騎士でも女性騎士がモチーフらしく、腰の防具は金属とモンスターの甲殻で出来ているが、どこかの貴族の女性がつけるフリルのスカートの様にも見える。




結果として、凛とした女性騎士のような風貌を持っており、初めて見た初心者ハンターならば気圧されるほどの風格を持っている。






しかし、その表情は優美さとはあまりつながらない。

非常に特徴的で、遠くから見ても目立つであろう桃色の髪をした少女が、声と同じ不機嫌そうな顔でこちらを少し睨んでいた。















































































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.11 )
日時: 2013/06/23 22:09
名前: Hina2
参照: http://hayahina,trip.

初めまして〜。こんばんは〜。Hina2です。

今、1話から読ませていただきました。

それでは、感想です。

モンハンの3rdと、3Gのクロスですか〜。

僕は、3rdは、持っているのですが、3Gは、

持っていないので、ちょっと羨ましいです。

ハヤテと、宗谷強いですね!!

虎鉄は、強そうですね!!

最後に出てきた特徴的な桃色の髪の少女は、

心当たりの人がいるので、当たっていれば嬉しいです。

長々となってしまいました。

では、最後に一言!!

これからも楽しい小説を頑張って書き続けて下さい!

それでは、また。
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.12 )
日時: 2013/06/24 20:46
名前: 壊れたラジオ

感想どうもありがとうございます!
3Gのモンスターは、ぶっちゃけ鬼畜です…
あ、桃色の髪の少女は、恐らくご察しの通りです
では…

*                *






第一章
第七話『狩人の勝負』












「えっと……僕ですか?」
「あなた以外に誰かいるのなら教えて欲しいわね」









何か話さない事には始まらないと思ったハヤテがその少女と思しき人に話しかけると、相当のトゲが混じっている声で彼女はつっけんどんに返してきた。


どうやらハヤテの事が相当気に入らないらしく、その目にも敵意がありありと湧き出ているように見えた。








ハヤテはそうメンタルが強い方ではない。
いや勿論モンスターと戦う時は違うのだが、こう言った人との口での言い合いには少し弱いものがあった。

口喧嘩で勝つのはギルドマスターとかの階級が高い人間だったら理詰めで負かせるかもしれないが、こういったハンターとの口での言い争いであんまり勝った記憶がない。

いや勿論、喧嘩自体をあまりしないから記憶に残っていないだけかもしれないが。
しかし彼女の怒り具合から考えると、自分は大概な事をやらかしてしまったのかもしれない。

気づいていないだけだろうか。
理由を聞かない限りは対処することもままならないから、ハヤテは精神を切り替えて気圧されない様に気を引き締め、彼女に問いかけた。













「…えっと…僕何か悪いことしましたか…?…したなら謝りますけど……って言うか、あなたどちら様ですか…?」










そう聞くと、彼女は腰に手を当て少し胸を張った。
『ガシャッ』と、鎧が鈍い音を響かせて、彼女はこちらをじろっと見据えた。

結構な身長差があるので否応なくこちらが見下ろすことになるので、それに負けない様にしているようにも見えた。

負けず嫌いなんだろうかと直感的にハヤテは思った。













「私はヒナギク。この村の専属ハンターよ!」















あ、なるほど……と、ハヤテは思わず納得した。

豊かな自然があり、かなりのモンスターに怯えなければいけないユクモ村は土地柄として非常に防衛が重要になってくる。

モンスターに対応できるだけの実力を持った専属のハンターがいたっておかしくはない。
……と言うよりもいなかったらそれはそれで問題だろう。

専属ハンターは、主にその近辺の防衛を担っており、特に理由がない限りはそこから動くことは無いはずだ。
それが課せられた使命であるし、そのハンターの誇りでもあるはずだ。


でも、どうしてそんな彼女がこんなにこちらに対して、不機嫌になっているんだろうか。
と言うよりも、彼女が専属ハンターであったのなら――――――


















「ん?じゃあなんで僕達の方に依頼が?あなたがここの専属なら、あなたに依頼が行くはずですよね?」














彼女は言葉に窮してと詰まってしまった。

しかしその瞬間、しまったと思った。
いらない事を自分は言ってしまったらしく、それがどうやら更に彼女の怒りのボルテージを上げてしまったらしかった。


こちらに噛みつくように返してくる彼女の語尾が少し強くなっていた。











「それは……<砂原>って言う所から依頼が来てて……そっちに行ってる間にガノトトスが現れたからよ!!!」











その理由を聞いて、ハヤテは豆鉄砲を喰らったような顔をした。
今の話のどこにこちらが怒られる要素があるのだろうかと首を傾げた。










「え?それって普通の事なんじゃないですか?専属のハンターが村にいなくて、モンスターの被害が出てたら、他の人に依頼をするのは間違ってませんよね……?」








彼女は『バンッ!』と、そこにあったテーブルを叩いた。

ドリンクが少し零れてしまい、自分の大切なノートが濡れそうになった。
慌ててビンを退け、ハヤテは手拭いを取りだしそれを拭こうとした。









「そうじゃないのよ!!!」
「だから一体何がですか!?」








全く彼女の言いたい事が掴めず、思わず声を荒げるハヤテ。
しかも、彼女の訳の分からない怒りのせいで自分の今までの人生が駄目になりそうだったのはいただけない。

そうして声を荒げた彼に、彼女――――――ヒナギクは続けた。












「いい!?私はここの専属ハンターなの!!この村の安全を守るためにモンスターを狩る事が使命なの!!分かる!?」
「…え…?ま……まあそうですね…」









こちらに気圧されない様に声を張り上げた彼女のあまりの気迫に、ハヤテは眉を潜めた。
しかし気づかなかったのか、そんなことお構いなしに彼女は続けた。














「なのに、ここで……よりにもよって自分の故郷を他の人に……依頼されて来ただけのハンターに守られるなんて……釈然としないのよ!!!」








他の人が聞いたならば結構自分勝手な意見だと思うかもしれないセリフだったが、元々孤島の専属ハンターであったハヤテは、ああそうか……と思わず納得する部分もあった。




ハヤテも上位ハンターだったころは、故郷の孤島で専属をやっていたこともあった。
しかしG級ハンターとなった時に、自分は専属ハンターとしての枠を外された。

G級ハンターはギルドの最終兵器だ。
一つの地域を守るには、その力は勿体なさすぎるという理由であるらしい。


そういうわけだったが、専属ハンターとしてのプライドと言う面では彼女に少し汲むところもあったから、その点では納得をしていた。







しかしこの人と自分の間には、根本的な大きな考えや意見の食い違いがあるらしい。
ハヤテはそう思いながら、こちらを非難してくる彼女を見据えていた。









ヒナギクはとてもプライドが高い部類のハンターなのだろう。
自分の仕事に、強い義務感――――――そして、強い誇りを持ってハンターをしている。

そのこの村を守ってきたという自負は彼女のハンターとしてのキャリアと共に、プライドにも直結している。




だから、その仕事を横から取ってしまった自分に対して怒っているという事だろう。
その点については、こちらの配慮が足らなかったと思い、ハヤテは口を開いた。

















「それは――――――すみません」











そういって謝罪の言葉を口にしたものの、彼女はまだ納得が行っていなさそうだった。


ムッとしたまま、どこかぶつけどころのない怒りを押し込めているような表情をしていた。

とはいえ、すぐに武器を抜いてきたりしない程度には落ち着いていたのだろうが。
(こんなところで武器を抜かれたらちょっとまずい――――ここは人が集まる風呂場だ。誰しもスプラッターなものは見たくないだろう。)


こちらが素直に謝罪したので怒りを直接ぶつける事が出来なかったことにもやもやしているのか、彼女はこちらをもう一度見ると、不満そうな口調で詰めかけた。















「ふんっ!それにね!あなた達の力なんか無くたって、私があの時ここにいたら、
私だけでガノトトスくらい倒せたわよ!!!」
「…え〜……ガノトトス二頭ですよ?それは流石に…」











思わず言ったセリフに、ハヤテは自分で嫌気がさした。
また要らないことを口走っていたらしく、首を絞めているのは自分自身だというのに、この口は一向に懲りないらしい。


彼女がずいっととこちらに詰め寄ってきて、少し石鹸か何かの匂いがした。
ハンターとは言え、女の子と言うものは須らくこう言うものなのだろうか。

しかし、そんな事は全く意にも解していない様に彼に責めかけた。
















「失礼ですけどね!私はこの辺りでは結構名前の知られてるハンターなのよ!この辺りのハンターの中では一番早く<上位>に昇格したんだから!!!」













ハヤテは、詰め寄ってきた彼女の装備を見た。



その装備は、<レイアSシリーズ>。
<雌火竜・リオレイア>の上位素材――――――上位と言うからには、G級よりも一つ劣るランクのモンスターから作られた装備だ。





かなり珍しい<雌火竜の紅玉>や、<雌火竜の上棘>なんかを必要とするから、彼女がそれなりの腕をしていることが分かる。

上位ハンターにとっては、かなりいい装備だと言えるだろう。





そう言えば、この装備と<火竜・リオレウス>の装備には何か噂があったような気もするが――――――この際それは置いておく。





武器は……ガンナーである彼はあんまり詳しくは知らないが、<太刀>らしい。
しかし、彼女の武器は近接武器にあんまり詳しくないハヤテでも分かる一品だった。










<飛竜刀・双炎>

<火竜・リオレウス>と<雌火竜リオレイア>と言う、ハンターなら誰もが知っている一組の火竜のつがいの素材から作られている。

その鱗に含まれている炎属性の威力と、鍛え上げられた金属が融合して『鋭い切れ味』『高い攻撃力』を持つ。





そして、<火竜>の素材を使って鍛え上げたからか『強力な火属性』を持ち、上位ハンターの中でも人気の業物だった。
『火竜』の素材を使っているというだけで、リオレウスやリオレイアを狩りの目標と掲げている新人ハンターにとってそれは羨望と憧れの的だろう。







ここまで見るだけだと、彼女は相当な腕利きだ。それは間違いない。
――――――しかし。

















(…でも、もし彼女がガノトトスと戦っていたら…)






今回戦った相手はG級モンスターだ。
上位とは比べ物にならないし、彼女のハンターランクからしてそもそも挑めなかった筈だ。


それでも専属ハンターとしてのプライドのまま戦っていたのならば、もしかしたら命が危なかったかもしれない。






彼女が出撃する事態にならなくて良かったと一瞬思うハヤテだが、その思考は他ならぬ彼女によって遮られる。

















「――――――どうやら私の実力が信じられないみたいね……分かったわ」










そういって考え込むような表情をしている彼女に、ハヤテは嫌な予感がした。
赤熱の<蒼火竜>の装備を着けているのに冷たい汗が背中を伝って行く気がする。


こういう感覚になった時、自分の嫌な予感は大概の場合的中する。
この感覚をプラスにして宝くじになればいいのにと思ったが、考え直すと自分は宝くじなど買わない事を思い出した。







彼女は大きく息を吸い込むと、ハヤテに突き付ける様に言った。


















「私と勝負しなさい!」




















*                *




















ハヤテは、彼女の言ったことの意味が分からずに呆然と突っ立っていた。
いや、言ったことの意味自体は大体分かっている。
その勝負をする根本的な理由が分からないのだ。






狩りと言うのは競争ではない。
まあたまにそういう事を言い出す輩はいたが、ハヤテはあまり好きにはなれない。

ハンターは人々を守るのがナンボのものであり、そういう競争でしくじったら元も子もない。
それに、狩られる側のモンスターにも失礼だ。




しかしあまりにもしつこい人間には仕方なく場を収めるためにやったことは何度かある。
だが、狩りで――――――モンスターはともかくとして、人とあんまり勝負した事の無いハヤテには少し彼女の感覚が分からなかった。







そしてついでに、彼女は自分の事を知らないようだ。
先ほどの自分を知っているらしい女の子やハンター陣とは明らかに違う態度からしてそうだろう。

彼女の自分への態度は、ここに数人かいる他のハンターとは全く違うものだった。






周りで野次馬が集まり始める。
と言うより、ここまで人が多いところで言い争いなどしていたらこうなるのは当然だ。

周りの彼らは彼女を止めようかどうか迷っているらしいが、どうも彼女の剣幕に気圧されているようだし、この辺りでは有名なようだ。
















「――――――ヒナちゃん!!!」








少し周りのギャラリーがワイワイと騒がしくなってきて、どうしたものかとハヤテが考えはじめた時、それを破って出てきた一人の女性がいた。


その人は彼女を見つけると周りのギャラリーを押しのけてこちらに小走りで向かってくる。
結構若い人で彼女の知り合いってことは、姉か友人だろうかとハヤテはなんとなく考えた。

飛び出して彼女の前に立ち、口を開いた。












「ヒナちゃん!ちょっと…この人を知らないの!?この人は…」
「お義母さんはちょっと黙ってて!」











おろおろと彼女に話しかけた、<お母さん>と呼ばれた女性は、ヒナギクの剣幕にひうっ!と縮こまる。









――――――お母さん……だと……
ハヤテは別の意味で驚愕していた。
どう考えても、人の親に見えるような歳を召しているようには見えないのだが……。


ハヤテの感覚は卓越しているので、大体の人の年齢は見ただけでもわかる。
しかし、彼女に関しては全くの誤作動を起こしていたようだ。











そうして考えていると、その人はすごすごと引き下がってしまった。
援護が来ると思っていたが、ふりだしに戻ってしまってようだ。

彼女はこちらに向き直り、ハヤテを指差した。



――――――大勢の大衆の前で指を指されるのは正直心臓によくないし、止めてほしい。

ハヤテはこめかみを押さえてため息をついたが、それが彼女の逆鱗にさらに触れた。














「とにかく!!今からモンスター…『大型モンスター』を一頭狩りにいって……どっちがハンターとして上か確かめるのよ!!」
「あー…なるほど〜――――――って今から!?」
「そうよ!!!」















――――――今からはちょっと勘弁して欲しかった。



もう日が暮れてるどころか辺りはもうすっかり暗くなっていて、月が微かに照っているぐらいだ。
こんな中で狩りに行くのは安全な事とは到底言えない。
確かに夜行性の大型モンスターも多いし夜に狩猟依頼が出ることもあるが、大体は安全な昼間に出る事が多い。

そして、自分は先ほど狩りから帰ってきたばかりであり、少し休んでおきたいのも事実だった。
いくらG級ハンターとはいえ、れっきとした人間であり、自動的に何でもできる魔法の人形ではない。

疲れは溜まるし、限度と言うものがある。







それにたとえ体が万全な状況だったとしても、今から狩りに出られない一番の大きな理由がある。

そう思って彼女に肩をすくめながら言った。












「……今からは流石に無理じゃないですか?」
「ふーーん。負けるのが怖いんだ?そうなんでしょ?」














挑発的な彼女の口調は、自分の勝利を確信しているのがうかがえる。

勝ち負けはどうであれ、まずは話を聞けよと思いつつも、ハヤテは続けた。














「あー…いや、そうじゃなくて…」










こちらをどう考えても見下すように笑う彼女に対し、彼は少々呆れつつ言った。

















「――――――だって今、大型モンスターのクエスト…出てないですよね?どうやって戦うんですか?」


















その言葉を発した途端、沈黙がこの辺一体を支配する。

彼女はしばらく呆けた顔をしていたが、ハヤテの言った事はごく当たり前の事だ。






ガノトトスは強力なモンスターであり、そんじょそこらのモンスターでは歯が立たない。
多分、大概のモンスターはガノトトスを恐れて何処かへ行ってしまったはずだ。

その内戻っては来るだろうが、それはどのくらいの時間がかかるかは分からない。
モンスターは嗅覚が発達したものも多いから、ガノトトスの匂いが残った川やフィールドにはしばらく警戒をすると考えていた。







彼の言う事が分かったのか、痛いところを突かれた彼女はすぐに顔を真っ赤にしたあと、こちらをキッ!!!と睨んできた。

なんとなく怒ったナルガクルガを想像したが、彼女の目からは赤い閃光は尾を引かない。
しかし、それがそこにあるかのような錯覚をしてしまうほどの剣幕で、彼女はこちらに怒鳴ってきた。









「と、とにかく!!何か新しいクエストが出たらそこで勝負して貰うわ!!それまで精々首を洗って待っている事ね!!!」









彼女は少し噛みながらそう言うと、勢いよく踵を返した。
集会浴場に結構集まったギャラリーを勢いよく押し退けて出ていった彼女の背中を見ながら、彼は目を点にしていた。



















――――――この状況を誰か知らない人が見たら悪者の役はどっちだと思うだろうかと、そんなしょうもないことが頭に浮かんだ。

そのまま呆けていた彼に、先ほどの女性がおずおずと話しかけてきて、ハヤテはそちらを振り向いた。










「すみませんね<蒼火竜>様……私の娘がとんだご無礼を…」
「あ、いえ大丈夫ですよ……それより、彼女を追った方が…」
「あ!!では私はこれで…」










謝罪してきたが、彼女に比があるわけではない。
それに、あのままのヒナギクを放っておくのも厄介だ。
そうしてハヤテが促すと、はっとした顔をした彼女は、ヒナギクが押し退けていった後をパタパタと追っていった。














「なんだか変わった人でしたねぇ……勝負って…一体どうすれば良いんだろ……?」


















――――――て言うか、またなんか妙なトラブルに巻き込まれたなあ……





嫌な予感は次々と的中する。
自分の運のなさに、もはや苦笑するしか無い。

しかし笑いごとではなくて肩をすくめると、ハヤテは大きなため息をついた。
と言うか、気疲れと身体的な疲れが一気に来ただけかもしれない。


















「あー…遅かったですか〜〜〜…」










後ろ……それも結構近くから聞こえた声に、ハヤテは振り向いた。
間延びした声は、その声の主のおっとりとした性格を表しているように感じた。














そこには……なんて言ったら良いのだろうか。
特徴と言う特徴があれば、何とか頭の中にある語彙を組み重ねて表現するのだが、それが出来ない。


どこか突出しているわけではないが、際立っておかしな面があるというわけでもない。







自分の語彙で何とか表現するとしたのならば――――――普通?

それだけしか頭に浮かばなかった。










少なくとも、身なりからハンターだと分かる。
武器も背負ってるし、装備も着けているからかろうじてこの村に住む普通の村の女性で無いことぐらいは分かる。


…だが、それだけだ。
逆に言うと、それさえなければ、いつも何処にでもいそうな一人の少女が立っていた。

















































































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.13 )
日時: 2013/06/24 22:40
名前: Hina2
参照: http://hayahina,trip.

どうも、Hina2です。

それでは、感想です。

やっぱり、ヒナギクでしたか〜。

予想が当たってほっとしました。

でも、ヒナギクの実力は、どんぐらいなのか気になりますね〜。

ひょっとしたら、ハヤテより強かったりして(笑)

それにしても、最後の少女は、いったい

誰なんでしょうか!?

敬語だから、伊澄かなと、思ったんですけど、

伊澄は、着物でしたね!!

う〜ん、分かりません!!

とにもかくにも、すごく気になりますね〜。

長々となってしまいました。

では、最後に二言!!

壊れたラジオさんは、読者に期待を持たせるような

書き方をしているので、すごくいいと思います。

これからも頑張ってください、応援しています!!

それでは、また。
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.14 )
日時: 2013/06/25 20:44
名前: 壊れたラジオ

感想ありがとうございます!
いや、余りに勿体ないお言葉で…
とにかく、頑張らせて頂きます
では、

*                *


『少女、その2』






「いやあ〜大変でしたねぇ〜あなたも……ああなったヒナさんは誰にも止められないから」
「…あ……え…?」








いきなり後ろから現れ、
こちらのペースなど気にも止めない様子で喋り続ける彼女に、
ハヤテはしどろもどろな状態から抜け出すのに少々時間を喰ってしまった







「…えっと…あなたは……?」
「あ!申し遅れましたぁ…私はアユムって言います♪見ての通りハンターで、ヒナさんとコンビを組んでいます♪」







やっぱりそうらしい
それならば、彼女の事をよく知っているはずだ







装備は、ユクモ村のハンターが愛用する、<ユクモノシリーズ>

元の色がどんなものかはよく知らないが、
少し染め直しているところを見ると、彼女も上位ハンター……ただし、成りたてっぽいが……と分かる
装備の色を染めるのは、上位ハンターから、とギルドによって決められているからだ




武器は…ハヤテの<弓>と同じく、ガンナー武器に分類される、<ヘビィボウガン>

見たところ、この辺りの特産品である上質な木材である、<ユクモの堅木>と言う非常にしなやかで強い、
この辺りにのみ自生する木と金属を上手く組み合わせて設計、製作された、<真ユクモノ重弩>らしい




山林を走り回らなければならないこの辺りのハンターにとって、
丈夫で簡単な構造のこの一丁は、ヘビィガンナーにとって人気の品だった



余談だが、彼女の言動や振るまいからして、やはりこちらの事を知らないらしい
しかし、そんな事を頓着する様な性格をしていないハヤテは、アユムに尋ねる









「…ところで……ヒナギクさんって、他所から来たハンターには、いつもあんな感じなんですか…?」
「ふぇ?う〜〜ん……どうだったかなぁ……いつもあんな感じだった気もするし…そうで無かった気も……うん、どっちも違和感無いから分かんないや〜あはは」








…本当にコンビを組んでるハンターなんだろうか…
ハヤテは少し呆れたように溜め息をつく

あ、でも…とアユムは付け足した










「いつものヒナさんがどうかは良く分かんないけど……多分、あなたの武器に問題があったんだと思うなぁ〜…」








武器?…この弓の事だろうか?

あまり理解が出来ていないのが分かったのだろう
彼女は更に付け足す


ーー…ドリンクを飲みながらだが…・・・いつ買ってきたんだろう…?










「ヒナさんはね?あんまりガンナータイプのハンターさんが好きじゃないの・・・<ライトボウガン>とか、<弓>とかね」









ーー…ますます意味が分からない…ーー
と言うか、持ってる武器で他のハンターを選り好みしているハンターなんて聞いたことがない











「う〜〜ん……いつからかなあ……とにかく何かがあってヒナさん、ガンナータイプのハンターさんを毛嫌いするようになっちゃったんだよ…」
「…うーーん…」
「私の見た感じでは、遠距離から安全に攻撃してるだけで良い所を取っていくガンナーさんが嫌いみたいで……それがチームを引っ張っているなら尚更みたいなんだ」








ーー…なるほど…
この前も言ったが、ガンナーは遠くから攻撃するぶん、
そうは言われやすいのは知っていたけど……それがここまで極端なのは初めてだ









ーー…ん?
ハヤテはあることを疑問に思う








「あれ?でもあなたの武器って、<ガンナー武器>の<ヘビィボウガン>ですよね?だったらどうして…」










<ヘビィボウガン>
ガンナーの武器の中でも、屈指の攻撃力を持つ武器だ

<ボウガン>と名が付いているが、その実は弾倉に込めた大量の弾丸を火薬によって発射する、謂わば銃火器だ

一応弦は付いているが、弾丸のリロードに使う位だ
ここまで名前と実際が異なる武器も珍しいだろう




弓と違い、多種多様な弾丸を使うことで、『状態異常』『物理攻撃』『肉質(モンスターの体の固さ)を無視の炸薬』を使い分けることが出来、オールラウンダーな攻撃を得意とする

おまけに<スコープ>やら<シールド>やら<サイレンサー>やらの、
各種アクセサリを付けられるし、
引き金を引いて弾を発射すると言う構造上、弓よりも扱いは簡単だ



ただし、欠点もある

まず、大量の弾丸によってポーチが圧迫されること
しかもハンターは、狩り場で有効な弾を調合するためにその素材まで持ち込むから、
それはとても大きい

要するにモンスターに合わせて適宜有効な弾のみ、最低限の物を持っていくために、モンスターと弾についての莫大な知識が問われるのだ




そして弓とは違い、撃ったときに大きな反動があるし、矢筒から素早く矢を取りだし発射できる弓と違い、弾倉を一々付け替えてリロードしなくてはいけないという弱点もある

この小さな隙が、命取りになる瞬間が、常に狩り場には存在するからだ









ボウガンには、
<ヘビィボウガン>と<ライトボウガン>の二種類が存在する

<ライトボウガン>はその名の通り、とても軽くて使い勝手が良く、
特に『状態異常攻撃』に適している

その軽さで狩り場を素早く駆け回り、<状態異常弾>で味方をサポートし、
自分も強力な弾を使うことでモンスターを追い詰める

対して<ヘビィボウガン>は、物理的攻撃に優れ、
一撃一撃の威力が非常に大きい

パーティの主力となれるほどと言えば分かりやすいだろう


ただかなりの重量があり、持ち運ぶのは少し骨が折れる
つまり、一人用の大型火砲と言った所か









これらのガンナー武器を、とことん嫌っているヒナギク
…ならどうして、アユムは彼女とコンビを組めているんだろう…?










「…あー…さっきも言いましたけど、ヒナさんは『パーティの主力になるガンナー』さんをとことん嫌ってるだけで……普通に援護してくれるガンナーさんは別に構わないんですよ〜」








ーー…そう言う事か…しかし参ったなぁ…
彼女のガンナー嫌いがここまでだとは思って無かった

黙り込んだハヤテを見て、アユムは少しの間沈黙していた……のだが










「あ!もうこんな時間!!早くしなきゃ!!!」
「え?…どうしたんです?」









ーー…慌てて走り去る彼女…
こちらをちらっと見ると、大きな声で言った










「今日は特産品の交易があるんです!ガノトトスがいなくなって、交易ルートが復活したので!交易品をとっても安く買うチャンスなんですよ!珍しいアイテムとか……近隣の美味しい食材とか……他国の美味しい食材とか!!!とにかく急ぎますんで!!じゃあ!!!」










ーー…後半は見事に食べ物ばっかりじゃないか…ーー
そう思って苦笑するハヤテ

…彼女…ヒナギクとは違った意味で話を聞かない…
…逆ベクトルなのに、こちらの置かれる状況は似たようなものだからなんとなく可笑しい








ーー…今回は何だか波乱の一日だったなあ…ーー
ハヤテは今日あったことを、一つ一つ思い出してみる











『ガノトトスとの戦い』

『ガンナーを毛嫌いする少女、ヒナギク』

そして…『そのコンビハンターのアユム』


ーー…キャラクターが濃いと思うのは自分だけだろうか









今まで緊張しっぱなしだったからか、まるで嵐の過ぎた後の様に体のあちこちに疲れが戻ってくる

もう一度温泉に浸かろうかと思うが、中から出てきた声にその考えは中断する









「ん〜?どうしたんだお前…浮かない顔して…」







ドリンクを豪快に飲みながら出てきたソウヤ
こちらの状況なんかお構いなしだ……まあ、何があったのか知らないから、
無理はないと言えば無理はないのだが









「…ま、色々あってね……」
「…お前の色々って…時に笑えない事があるよな……」
「……むう……」








全くその通りだったので、何も言い返せなかった
年中不幸症の自分だったから、もういい加減こう言うことには慣れた
…慣れたくは無いけど


しばらく、温泉の側にあった石畳のテラスで、
ハヤテはもう既に高く昇った月を見上げていた






こんなに綺麗な月でさえ、何だか自分を嘲笑っている様に見えた
ーー…月にとってはいい迷惑だろう








ソウヤはと言えば……何やらドリンクを色々注文して混ぜている
彼の事だ…どうせ色々混ぜてどんなスキルが発動するか試したいんだろう

でも、やめておいた方が良いよな…とハヤテは思った
あまり言いたくは無いが、自分の経験から、だ

ああいうのには、混ぜて良い物と悪い物がある









ーー…例えば…?
…そうだな…例えば、『酒類』×『酒類』とか
(物凄く酔っぱらう。温泉でせっかく上げた『体力』も『スタミナ』も台無しだ)









ーー…後は…ーー

ーー…自分と、あの少女……ヒナギクとか










「ーー…くっだらない…ーー」





ハヤテは大きく溜め息をついた












「ーー…<蒼火竜>様……<白海竜>様…ーー」






また後ろから声が聞こえた
流石に今度は驚かなかった

そこにいた若い女性……村長の侍従さんだ










「どうしたんですか?」






ハヤテは聞いた……何か用だろうか?











「ああいえ……村長様が、お二人の宿を手配なさったので……お二人には、早く今日の疲れをそこで癒して頂きたい……と」

































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.15 )
日時: 2013/06/26 21:49
名前: 壊れたラジオ

『月下』





ハヤテと言う男は、不幸と言っても差し支えない
…と言うか、むしろ不幸の方がメインで本人の方がオマケではないのか?
と言われたら、自分でも否定出来ない(この際、女難の気とかそう言うのは置いといて)






ちょっとアイテムを無くす、何もない所でつまづく・・・こんなのは可愛い方だ



せっかく剥ぎとったモンスターの素材が予想外にいらない物だったり、アイテム調合を失敗したり・・・



酷い時には、苦労して集めた貴重なモンスターの素材が一瞬でパーになったり、
報奨金を紛失したり・・・

スキルの一種、<悪霊の加護>とか、<不運>とか発動してるのかと思うぐらいだ
(勿論、防具にそんなスキルは入ってない……防具には)



ーー…素材がパーになる理由は、また後々分かると思う…ーー










まあ、あの少女……ヒナギクに喧嘩を吹っ掛けられてる時点で、もはや今更だったんだけど










(…ま、今は幸せと言っても良いんじゃないかなぁ…)

ハヤテはまた月を見上げながら、そんなことを考えていた
ただし、場所は先程までの浴場ではない








ここはユクモ村のある旅館……温泉村の観光村であり、こういう旅館の多い中で、
最も良い部屋の窓際の縁に腰掛けながら、ハヤテは外を眺めていた









「…村長さんも粋な事をしてくださいますねぇ…」







少し吹いてくる夜風にその蒼い髪をなびかせながら、ハヤテは呟いた











『お疲れでしょうから……どうぞここでお休みになって下さい……この村の一同、誠心誠意おもてなしをさせていただきます……』


この部屋に案内してもらう途中、村長さんがそう言っていたが……なるほど、それも頷ける話だった


部屋は広いし(自分の住んでるあの小さな舟の中とは大違いだ)、
所々に便利で気の利いた品が置いてあり、過ごしやすさは満点

それにこのユクモ村は外からの観光客で成り立っている村だから、
客へのもてなしも最高クラスだった

何でもかんでも自分が気付いたときには、その処置を終えているし…
物凄くこちらに気を回してくれる・・・
長年の接客業の賜物なんだろう




ハヤテは部屋の近くにあった盆の中から、急須を持ってきて、窓際の自分の近くの机に置いた

この地に生える<薬草>の一種を煎じた茶葉が入れてある
急須の蓋を開けると、煎った葉の香ばしい匂いが鼻に飛び込んできた
湯飲みに注いで飲むと、独特の苦味とその中にある深い味わいを感じる
<薬草>を使っているため、少量の回復効果もある







寝る前に取っておこう…・・・とハヤテは、茶筒の中を確認した
少ししか残っていないが、その程度飲むには足りるだろう



…コンコン、と言う音が部屋に響く
この部屋の外の、通路に繋がる引き戸からだ


そこを開けたのはここの従業員だった
それと共に、何やら食欲をそそるような香りが飛び込んできた






『食事をお持ち致しました』と従業員が笑顔を浮かべる

考えていたことが当たって、思わずそれに少し笑って返した

長年、様々な客を見てきたらしい彼女だったが、
笑みを返したとたん、少しワタワタし始めた


どことなく焦っているように見えたので怪訝そうに尋ねると、
彼女は『何でもないです!』と言って、部屋から立ち去った










ハヤテは自分ではそんなに意識していないが、
かなり整った容姿をしており、それによる人気も高い


そして、そこから繰り出される笑顔は、世の中の男性陣、女性陣から、
<キラー・スマイル>の称号を得ている(ギルド非公認)


しかも狙ってやってる訳では無いから余計たちが悪いし、
よりにもよってこれは、誰か人を助けた後に見せる事が多い







ーー…ぶっちゃけコレがハヤテの
<フラグ・アップ+3>の所以だったりする…ーー




勿論、同時発動しているスキル
<鈍感+2>のせいで、状況を把握出来ていないハヤテの頭では、いくら考えても答えなんか出てくるはずがない

ハヤテは首をかしげた




考えても仕方がないので、彼女が持ってきた料理に目を移す

ハヤテが今まで食べた中でも、トップクラスと言える料理がそこにあった



彩りは豊かで様々な種類があるし、バランスも良く考えられている

主食には、この辺りの湿潤な気候を活かして作られる稲……つまり、白米だ
白い粒の一つ一つがキラキラと光ってとても美しく、そして美味しい


薬草、キノコに幾つかの魚の干物から取った出汁で作った汁物も、これまた美味しい
なんと言うか、元の食材の味が上手く活かされてる



そしてまだ熱い鉄板の上で、ジュウジュウと香ばしい音を立てている肉は、<ガーグァ>の物だ
食べてみると、閉じ込められていた肉汁が口一杯に広がる
肉だけでなく、甘い味噌と幾つかの香辛料の味がする
おそらく、味噌と香辛料を混ぜた瓶か何かに肉を浸けて、味を付けたんだろう


また、ガーグァの卵を使った厚焼き卵や、甘い焼き菓子まである


この何日間、動きっぱなしだったハヤテの体、特に胃袋はまるで早く次を寄越せと言わんばかりに、手を動かさせる


こんなに良い食事があって、しかもこの宿泊代はタダ……最高だ

しばらくの間、彼の手が止まることは無かった










*                *










「…はあ…ソウヤ君もバカな事をしたもんだね…」








一通り食べ終わったあと、ハヤテは呟いた
ソウヤはと言えば、隣室で寝込んでいる




原因はいわずもがなだ

ソウヤはドリンクを混ぜて遊ぶ子供の如く、それを混ぜて何か良いスキルが発動するか試したのだが……どうやら組み合わせがマズかったらしい

よせば良いのにそれを飲んだ瞬間、
<悪運>と言う、体力やスタミナが最低限まで落ち込むスキルが発動してしまい、
部屋に担ぎ込まれて、現在に至る……と言う訳だ


この料理の味を堪能出来なかった彼には同情するが、
彼の身から出たサビなので、気にしないことに決めた
いちいちこんな事を気にしていたら、体が持たない









「う〜〜ん……」









気になると言えば、ハヤテの頭に浮かんだのは、あの少女だった

彼女は言っていた




『ここに大型モンスターが現れたら、それをどちらかが先に狩って、
どちらがハンターとして相応しいか決める』

と・・・(あくまでも自分の脳内イメージなので、本人が本当にそう言ったかは良く知らない)











ーー…そんなに都合良く大型モンスター何て現れるだろうか…ーー

そこにいる大型モンスター(こう場合はガノトトス)がいなくなった場合、
そこを新しく縄張りにしようと、新しく大型モンスターが入ってくるのは良くある話だが…








「…いやいや…入ってきて欲しくは無いんですけどね…」






何日も狩りを連続で行えば、流石のG級ハンターでも疲れは来る




ま、そう簡単には大型モンスターなんて来ないだろう
そんな淡い期待を胸に、ハヤテはさっさと布団に入る

良い夢が見られるといいな…と言う期待と共に、ハヤテの瞼はゆっくりと閉まっていく
すぐに意識を手放していた







…ただ、不幸な彼の淡い期待など、
すぐに打ち砕かれる事になったのだが











*                *











ーー…ドンドンドン!…ーー










どのくらい経ったのだろうか……戸を思いっきり叩く音がして、ハヤテは目を醒ます
寝ぼけ眼で、部屋の水時計を見る







「…まだ二時じゃないですか…一体誰が…」







と言うか、なんで自分の居場所を知っているのだろう?

多分、部屋間違いだろうなぁ…と思いつつ、ハヤテは寝ぼけた足取りで戸に向かっていく
ガラガラっと言う音を立てて、引き戸を開いた









ーー…ハヤテの目は、完全に覚醒した









「…ヒナギク…さん…?…それにアユムさんも…」






こんな夜更けに…どうしたんだろう…?
それに彼女…ヒナギクの勝ち誇ったような顔に、アユムの申し訳無さそうな顔…
…あまりにも対照的で、思わず笑いそうになったが……ハヤテの悪い予感がそれを許さない

引き吊った顔のまま、ハヤテは恐る恐る聞く









「…えっと…一体…何の御用で……?」







彼女は『ふふん』と胸を反らした
何に勝ったのかは知らないが、彼女の顔は物凄くキラキラ(…綺麗すぎるかな…?)していた










「…ふふふ……こんなに早く決着を付ける時が来るなんてね…」









決着?…一体なんの事だろう?









「どっちがハンターとして相応しいか…ーー…その目にハッキリと見せてあげるわ!!!」








…ああその事か……ぶっちゃけすっかり忘れてた…申し訳無いけど

彼女はそれに気付いていないらしく、こちらを指差す









「ーー…で、どんなモンスターなんですか?」


もはや諦めてハヤテが問うと、ヒナギクは待ってましたとばかりに返す










「ふふ…今回のターゲットは……<青熊獣・アオアシラ>よ!」













*                *













ハヤテは朝には強いタイプだった
まあハンターだから、いつモンスターが現れても大丈夫な様にと言う事だった

こんな職業をやっている以上、健康もへったくれも無いから今さらだ






しかし幾ら不規則な生活に慣れているとはいえ、
連日のクエストの後ぐらいはゆっくりと休んでおきたいと思うのは、多分普通だろう……と言うか、休める時に休んでおかないと身が持たない



ただ知っての通り、今日のハヤテの睡眠は、思わぬ客人によって遮られる事になった




ハヤテは旅館に預け、メンテナンスを頼んでいた自分の蒼い鎧を見に纏う

もちろん重さはいつもの通りだ……ただ、疲れた体にはより重く感じる

アイテムポーチの確認を素早くし終えて……と言うよりヒナギクがせっつくので、まともに準備出来たとは到底思えないそれを身に付ける












ーー…月が南のほぼど真ん中に出ている…ーー










ヒナギク、アユムと共に旅館を出たハヤテが最初に見たのはそれだった

薄暗い夜道の、石の階段を下っていく

虫の声が聞こえるが、今のハヤテの頭は絶賛起き抜けだ
そんな風流を気にするなんぞ、とても無理な話だった









静かな道……まだ家々の灯りは点いていないし、物音なんかも無い
強いて言うなら、この村を貫通する水路からかすかに水音がするぐらいだ












「…はあ…」












ハヤテは一つ、溜め息を付いた







































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.16 )
日時: 2013/06/26 22:44
名前: 帝 

 どうも帝です!!




 初めてですよね♪?






 いやぁ、モンハンとコラボ............いいねぇー♪





 アオアシラって、上位になっても技の特徴変わんないっすよね♪






 あ、でもバック攻撃がウザイ!!!







 ヒナギクも勝負となると一般常識が効かないのかな?







 まぁ、ハンターは出た依頼はすぐ受けて自分のものにしなきゃいけない大変な仕事ですからね♪






 結構前に、モンハンの小説読んで気づいたんですが、ゲーム世界の一分は一時間らしいです。






 次回も楽しみです!!
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.17 )
日時: 2013/06/27 22:28
名前: 壊れたラジオ

どうも、
感想+貴重な情報ありがとうございます!
そんな設定があるんですか…
…って言うかモンハンに小説あるんですか!?
良いこと聞きました…今度探してみよう…では

*                *


『猛進!ブルファンゴ!』





この村のクエストカウンターは二十四時間営業の様だ
灯りが点いているし、クエストの受注準備もしている

…が、そこの受付嬢もこちら同様起き抜けらしい
カウンターに腕枕を作って、寝息を上げている









「…あの…」
「…ふぇ……?…〜〜〜っ!!?<蒼火竜>さん!?…な…何でこんな所に!?って言うかすみません!!見苦しい姿を…!!」








バネ仕掛けの壊れた玩具のように跳ね起きる彼女
気持ち良さそうに寝ていたから起こすのはちょっとかわいそうだったが、ハンターとしては、そうとは行かない

クエストの受注をしなくては







「渓流に<アオアシラ>が出た……と彼女が言っているんですが…」
「え?ええ出ていますよ?……なんでも昨日の夕方、ガノトトスがいなくなって安全だと思った人が、そこにキノコ狩りに行ってたんですが…」








こんなに早く大型モンスターが戻ってくるなんて思わなかった
…どんだけ肝っ玉太いんだそのアオアシラ…
それともこちらに対する当て付けか…?……それは無いか









「その人はアオアシラに見つかって、命からがら逃げたらしくて……この村のギルドマスターは、直ちにこのモンスターを狩ってほしい……と…」







ま、それをヒナギクが聞き付けて、これ幸いと思ったのだろう

昨日の一悶着をどうやら知っていたらしい彼女は、『大変ですね』と苦笑した
ハヤテは、薄く苦笑を浮かべながら、『いえいえ』と返した


ハヤテ自身はそれと気付いていないが、
彼に勝負のようなものを挑むハンターは結構いた
…ただし、ハヤテの圧倒的な狩猟センスに自らの自信を失うハンターも多かったが




ヒナギクは迷うことなく、そのクエストを受けた
ギルドとの契約金をさっさと払うと、ハヤテを急かして、クエストカウンターを出た









*                *










先程ガノトトスを狩るために通ったベースキャンプへの道だが、こんなに間を置かずに通る事になるなんて思って無かった


番人は昼と夜の交代制らしい
夜番の人は大変だろうな……と思いつつも、ギルドカードを見せる

恐らく彼らもこちらの事情を知っていたのか、受付嬢と似たり寄ったりの反応だった




ヒナギク、アユムもカードを提示する
三人は番人の間を抜け、門を潜ってベースキャンプへと向かった






昼の風景と夜の風景では、景観がガラッと変わることがある
このロープが張られただけの危なっかしい崖もそうだ
昼に見たときも薄く霧がかかった渓流の風景は絶景だと思ったが、夜もまた格別だ




どことなく不気味で……それでいて神秘的な山奥の、大自然と言える光景が広がる

ーー…まあ、その代わり足元がおぼつかないのが少し厄介だが










「…ヒナギク……さん?」
「な……何よ……」









ちらっと見ると、ヒナギクの様子がおかしい
ハヤテが尋ねると、さっきまでとは考えられない弱々しい声が返ってきて少し驚く……調子でも悪くなったんだろうか?









「あ〜……ヒナさんはですねぇ〜…」
「アユムッ!!!」










なにか言おうとしたアユムを遮り、ヒナギクが叫ぶ
叫んだ声が、山彦となって響く……何なんだろうか









「えっと…調子悪いんですか?一応ベースキャンプまで行ったら休んだ方が……」
「っ!余計なお世話よ!!それにそんな事で時間を使ってる暇なんて無いの!!さっさと行くわよ!!!」








…体調管理もハンターの大事な仕事なんだけど…
そう思ったハヤテだったが、不規則な生活をしている自分が言えた口では無いので、
ずんずん歩いていくヒナギクの後を、黙って付いていった









*                *










支給品ボックスの中は、またしても空だった
<G級クエスト>の一つ下である、この<上位クエスト>でも届かない事があるが、
少し期待していたハヤテはちょっとガッカリした


ヒナギクはさっきまでの感じが嘘の様にピンピンしている
ベースキャンプで休まなくていい、と言うのは本当らしい



ヒナギクは、自分の<飛竜刀・双火>に手をかける
コンビを組んでいるアユムが、ヘビィボウガンに弾丸を込めているのはもう見慣れているらしい

『カシャッ!』という音と共に弾倉が差し込まれ、弾丸のリロードが完了する







「さあ!行くわよ!!!」







ヒナギクは声高らかに言った
…その元気を少しでも良いから分けてくれ、とハヤテは思った








<エリア1>に入ったが…今回、ガーグァは見られなかった
…自分のせいだろうか……だとしたらガーグァはどんだけ臆病なんだろう…?

ヒナギクは少しつまらなさそうにして、エリア1を後にする
…ハヤテは少しエリアを探索した後、その後に続いた










*               *











「てやああああぁぁっ!!!」








ヒナギクは、飛竜刀を降り下ろす
『ズシャアッ!!』と言う音を立て、
全長三メートル程の大きな猪型のモンスター、<ブルファンゴ>が倒れる



ヒナギクはどんだけ武器を振り回したかったんだ?
と言う感じで、次々とブルファンゴを文字通り肉塊にしていく



たまにブルファンゴが反撃とばかりに突進を仕掛けるが、
いずれも彼女に届くことなく、バタバタと倒れていく

アユムがボウガンで狙撃しているためだ





こうしてみると、二人は確かに中々の手練れのハンターの様だ
『ハンターは狩り場で真価が問われる』と言うが、その通りだ

ヒナギクは太刀を細やかに動かし、切り込んでは切り下がりを繰り返すが、よく見ればブルファンゴの動きを殺さないように細心の注意を払ってその太刀筋を合わせている

並みの太刀使いでは出来ない動きだとすぐに分かる








一方アユムは、ヘビィガンナーとしては中の上ぐらいだろう

基本的な回転回避(ヘビィボウガンは重くて移動しにくいから、主に回転して移動する。その方が重心が安定するからだ)を繰り返し、ブルファンゴとの的確な距離から狙撃する



まあ中の上と言っても、そこは長年のコンビのなせる技だ
ヒナギクに迫るブルファンゴの頭部に<通常弾Lv1>が命中して、ソイツは吹っ飛ばされて倒れる









…ただ、現在このエリアのブルファンゴが多いのが難点だった


この渓流じゅうのブルファンゴが集まって大集会……もしくは大パーティーでもやってるんじゃないかと思うぐらいだ




このパーティーの題名は……そうだな…

…多分だが、『自分達を殺りにきたハンターをぶっちめてやろうぜ!パーティー』みたいな感じだろうか……いや、別にふざけてはいない
実際そんな感じなのだ




三人がかりで片っ端から倒していくと、その内ブルファンゴの大多数は倒せた
ただ、残った数頭は逃げてしまったが、無理に追うことはあるまい









死骸から剥ぎ取れたのは、<ブルファンゴの皮>とか、<ブルファンゴの大牙>とか……あとは<生肉>




大抵のモンスターから剥ぎ取れるアイテムだけど、
ブルファンゴのは…何て言うか……非常にクセが強い
焼いて食べることも出来るが、あんまりハヤテは好きではない







ーー…まあ、好きな人もちらほらいるみたいだが








「うわあ〜美味しそう!」









実際、いた
アユムはそれを剥ぎとったと思うと、持ってきたアイテムの<肉焼き機>で焼き始めた









…君には何でも美味しいだろう…って言うかヤメロ!こんな所で肉なんか焼いたら、モンスターがわらわら集まってくるじゃないか!!

と言うツッコミが出そうになるが、何も言わない事にした










見ると、ヒナギクは真面目な顔で太刀を<砥石>と言う、切れ味を回復させるアイテムで研いでいた
月光に照らされた刀身が、彼女の顔を鏡の様に映している

几帳面な性格なのだろうか、結構な時間を掛けて、飛竜刀を研いでいる







手持ちぶさたな気持ちになったハヤテは、エリアを少し歩き回り……そして、何かを見付けて立ち止まった






しゃがみこんで何をしているのか気になったんだろう

アユムが両手にこんがり肉を持ち、交互に食べながら(この食べ方は止めた方がいい。アイテム消費量が激しすぎる)ハヤテに尋ねる








「ああ、これですよ…何かに使えるかと思って…ーー」









ハヤテが取っていたのは……キノコ
こう言うキノコは、人にとって有用な物質を含む物が多く、調合すれば様々な便利アイテムになる
(中には<毒テングダケ>のように、食べると毒状態になるものもあるけど)



それに、ハンターとしてはこう言う何でもない時にアイテムを少しでも多く集めておくことが、後の戦いを非常に有利に進めてくれる事もある

…が、少し熱中し過ぎたらしい










「何やってるのよ!ここのキノコ狩りに来た訳じゃ無いのよ!!さっさとアオアシラを探しに行かないと!!!」







ヒナギクがハヤテに怒鳴る




…ブルファンゴを倒すのに夢中になっていた彼女が言えた事だろうか…?
これを言うと絶対彼女は怒るだろうから、ハヤテは黙ってキノコを取るのを止めた……これもハンターとなってから覚えた処世術だ








仲間割れしていたらクリア出来るクエストも、クリア出来ない
ハンターの士気(ヒナギクの闘志?)の為にも、亀裂は避けておきたい







…ま、ヒナギクの逆鱗には触れているから今更か…








エリア2の先、少しの下り坂がある
この下を下れば、崖下に見えている巨大な森と、そしてその中を流れる、浅い川に出られるルートがある


ヒナギクは先頭を、アユムはその後を追う
流石に慣れているらしいし、道にも詳しいんだろう


ハヤテは、彼女らについていくことにした









ーー…その方が迷いにくいしね…ーー












そう考えながら




































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.18 )
日時: 2013/06/27 23:05
名前: 帝 

 ブルファンゴってウザイよね♪





 あっ、帝だよ♪






 いやぁ、狩り場で肉焼くならベースキャンプか、アイルーとか山菜じぃのいるエリアで焼かなきゃ♪





 まぁ、アユムの食い意地が半端ないんでしょうけど。







 コンビ狩猟ならアユムはしゃがみ打ちかな♪







 モンハンの小説は電撃だよ♪





 “ゆうきりん“が書いたモンハンは凄くいいよ♪







 次回も楽しみです!
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.19 )
日時: 2013/06/28 22:21
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
いや、ホントにウザイですよね…
…モンスターと戦ってるときに吹っ飛ばされたらPSP折りたくなってきます…
近くの本屋で探してみたけど…無かった
予約しといたからすぐ届くと思いますが…では、

*                *





『<青熊獣・アオアシラ>』






<青熊獣>
この文字を見て分かる通り、
アオアシラは青い体毛を持つ熊の様なモンスターだ

特徴としては…それに加えて強靭な四肢を持ち、
二本足で立ち上がったり、前足を使って器用に獲物を捕らえる

この前足で川魚などを器用に捕る姿を目撃されることも多いが、これには変わった別名がある




通称、<ハニーハンター>



アオアシラの好物は<ドスミツバチ>と言う虫が集めるハチミツだ
何せ栄養価が高いし、手間もなく得る事の出来る食材だからだろう(…ハチに刺されるけど)





木の根本に作られたそのミツバチの巣を器用に掘り出したり、木に釣り下がったそれを引きちぎったり・・・
そしてその中に手を突っ込み、上手くミツを取り出して、それを舌で舐め取って食べる


ここまで書いたら、どっかの某ぬいぐるみの熊みたいな、可愛い感じを想像するかもしれない







想像する分には勝手だが、狩り場ではそういう思い込みは絶対捨てた方がいい
痛い目を見るのはこっちだからだ







まず全長……なんと六メートルもある大熊だ
(え?小さいんじゃないの?と思ったとしたら、きっとその人はガノトトスのせいで感覚が麻痺してると思うよ)






立ち上がったときも同じくらいある
上から目線は結構堪えるけど、六メートル上から目線はその比じゃないと思う




そして、体の前半分はまるでアルマジロも顔負けの分厚い甲殻で覆われている
その中でもとりわけ発達しているのは前足で、ほとんどが角質化した皮膚はもはやヤワな金属なんかよりもよっぽど頑丈だ



おまけにその甲殻には、攻撃用……と言うよりも、険しい山道で滑らない様にと言う配慮からだろうか、鋭いスパイクまである

勿論、これが攻撃に使われたら、人なんてひとたまりもない
幾ら険しい山地に住むヤツとは言え、これはいくらなんでもやりすぎじゃないのかとハヤテは思っている



もう分かっただろう?
コイツは君達が想像した様な可愛い森のくまさんじゃ無い
れっきとしたモンスターだ






長ったらしい解説申し訳ない
どうしてこんな文字数を使ってだらだらと書いたんだろうと言われたら、もはや返す言葉もないが…
…その辺は分かって欲しい




ま、なんで書いたのかと言われたら……それを説明するとすれば、非常に単純明快な理由からだ









「ーー…いた…ーー!」








坂道を降りていくとそこには、幅は広いがそれにしては非常に浅い川が見えてきた

左手の方には、ごうごうと音を立てる滝がある
このエリアの風景はと言えば、『森のトンネル』と言ったら分かりやすいだろう





紅葉に染まる木々が緩やかな川の側面……長年の水の侵食で出来た、緩やかな谷に生えている

ひらり…ひらりと紅葉が川面に落ちては、ゆっくりと流れていく
風光明媚と言われる渓流だが…その景色は、その中でも格別のものだった





そのせいで、異様なものが物凄く目立つのだが







違和感の正体は、どう考えてもここにマッチしていない青い甲殻をした生物が浅い川の上をのそのそと歩いている事に起因するだろう

どうしてあんな割りに合わない色に進化したんだろう?と言う疑問が浮かぶが、今は考えるべき事は他にあるはずだ


三人は息を詰め…物音を立てないように、それに近付いていく









*                *









『勝負(彼女がそう言っているだけだけど)』のゴングは、ヒナギクの一太刀から始まった




相変わらずノソノソと我が物顔で歩くアオアシラの無防備な尻に、
彼女は長さ約二メートルの太刀の抜刀切りを浴びせた

当然の事ながら、アオアシラは気づいた・・・…そう、気付いただけだ







大型モンスター全般に言える事だが、モンスターにとって人の武器の一撃なんか屁でもない
はっきり言って塵みたいなものだ






ただし、『塵も積もれば山となる』と言う言葉がある
ここでの狩り、と言うのはそういうものだ

少しずつ、少しずつダメージを蓄積し、モンスターを追い詰める根性と忍耐と勇気と体力と、その他諸々が集まって始めて狩りは成功する








アオアシラは二本の足で立ち上がった
コイツがこうするときは高い所にあるハチミツを採るときか、前足を自由に使いたい時か……相手をぶちのめしたい時か、だ





口からヨダレが飛び散る
黄色い色をしたそれ……色もそうだが、臭いも大概だ
ずだ袋の中に魚の食べ残しを入れて、何日か置いておいた時の臭いみたいだ……いや、嗅いだ事ないけど、きっと似たような臭いだろう









「グオオオオオオッ!!!」








大きく吠え猛るアオアシラ
攻撃的な前足を大きく広げ、体を大きく見せようとする……小さな人間に対してやっても効果は薄いとは思う






アオアシラの口からは、鋭い犬歯が覗く
この辺に住んでる小型モンスターの骨ぐらいは簡単にバリバリとかじれそうだ


ハヤテの故郷、<孤島>にもいくらかいるモンスターだったが、ハヤテはあまりこのモンスターが好きでは無い






理由と言ったら、あの目が上げられる
どう考えてもこちらを殺しに掛かってる、あの狂った様な目はいつ見ても慣れない







ま、ハヤテが僅かな内に思考している間に、ヒナギクは次の行動に移っていたが


『おっ』と自分の口から声が漏れた
ヒナギクは流れるような動きで、素早く連続切りへと繋げる

ハヤテは一人で狩りに行くことが多く、
太刀を使うことも無いからあまり見たことが無かったが、
彼女の動きは、すぐにそれと分かるものだった




あの連撃は、<気刃斬り>と言われる太刀の奥の手だ
斬りつける度に感覚が研ぎ澄まされて鋭くなって行く刀身は、練られた静かな気によって淡い光を帯びる
そこから放たれる一撃は、まさに太刀の必殺技と呼ぶに相応しい





ただ、見ている分には美しい気刃斬りだが、
斬りつけられている側にとっては面白くないどころか、痛いだけだ

しかも飛竜刀は火属性を持っている
斬りつけられる度に体毛の先を焦がされるのは嫌だろう……こっちだってごめんだ







(…やばっ!)



アオアシラが右腕を大きく振り上げる
身の危険を感じたヒナギクは、アオアシラの左腕方向に素早く斬り下がる

『ブウン!!』とアオアシラの腕が空を切る
音の大きさとアオアシラの腕の大きさからして、当たったらタダでは済まない事が分かる











「オオオッ!!!」










アオアシラは四つ足に戻り、斬り下がりの後のヒナギクの隙を狙い突進を仕掛ける……が














ーー…ガガッ!ガガガッ!!!…ーー


アオアシラは立ち止まる……と言うより、狙いすまされたかのように前足に命中した弾丸に足止めをくらう





アユムが<Lv2通常弾>と言う、<Lv1>よりも高い威力を持つ弾を使った為だ

見ればヒナギクは体勢を立て直し、武器を構えていた
アユムは<Lv2通常弾>をもう一度装填し、ガチャン!と言う音を響かせる
















アオアシラは再び立ち上がった
そして二人の少女に向かって、渓流じゅうに響き渡る大声を上げた















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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.20 )
日時: 2013/06/29 11:10
名前: 壊れたラジオ

『レイアSシリーズ』






ハンターとして、やっちゃいけない事は結構あるけど、
例えば、身長六メートルの大熊に正面攻撃を仕掛けるなんかはその良い例だ
(いや、どっちかと言うと悪い例か?)



頭がおかしい、と思われるかもしれない
だがぶっちゃけ、今その状況を作ってる人がいるもんだから困る








「…きゃあっ!」




ヒナギクは大きく袈裟掛けに太刀を降り下ろした
が、その一撃はアオアシラの前足のとりわけ硬い部分に当たり、『ガキン!!』と大きな火花を上げて弾かれる



どうやら切れ味が落ちたらしい
その後の切り下がりが、なんだかぎこちない




それに……戦い始めてから、何だか気になる事があった
彼女らは確かに良いハンターだ…見れば分かる


だが……どことなくぎこちないのだ
二人の元々の実力、長年のチームプレーの影に隠れがちだが、ハヤテは見逃さなかった

ある予想が頭に上がる

ハヤテはおもむろにアイテムを取りだし、アオアシラがこちらを向くタイミングで投げ付ける









ーー…カッ!!!…ーー






暗闇の中に、閃光が撒き散らされる
アオアシラは大きく怯んだ









「ーー…!?一体何やって…ーー!?」








呆気にとられていたヒナギクが声を上げた
ただ、ハヤテは一つだけ確認しておきたい事があった







「…その太刀、切れ味が落ちていますよね?アユムさんも弾の調合をした方が良いでしょうし……ペイントは撃ち込んでおきましたから、少し移動しましょう」







一応、最もらしい理由をつけておいた
ヒナギクはいつの間にペイントを……と言う顔をしていたが、
こちらの言う事が正しいと思ったようで、それに従う

アユムも、撃っている<Lv2通常弾>が尽きかけていたらしく、これ幸いとばかりにエリアを移動した










*                *










<エリア5>

全てのエリアの中で、最も『森』と言う感じがする
その辺にはブルファンゴ(多分さっきの生き残り)が数頭いて、木の根本のキノコを食べている










「一つ聞いても良いですか?」




ハヤテは、砥石で物凄く丁寧に太刀を研ぐヒナギクと、弾丸の調合をしているアユムに切り出した






「何かな?ハヤテ君?」






アユムはこちらを見て、ニコッと笑う
いつも彼女はこんな感じなんだろうか









「…お二人って……<上位クラスのアオアシラ>と戦ったこと……もしかしてほとんど無いんじゃ無いですか?」





ヒナギクは顔を上げた
大きく目を見開き、こちらを見ている

この反応からして、恐らく図星のようだ









「……一体何を根拠に……」
「いや、だってお二人が長年組んでいたのは見れば分かりますし、動きも良かったんですが……何となく戦い慣れていない様に見えたと言うか…」







彼女らは心底驚いたらしく、顔を見合わせる
まあ、これは僕の予想ですけど……とハヤテは付け足す








「ヒナギクさんの<レイアSシリーズ>…作るのが大変だったと思います……お二人は<上位>に上がってから恐らく日が経っていませんよね?……その中でリオレイアの素材をそれだけ集めた……つまりは…」



「…裏を返せば、『ほとんどリオレイアしか狩らなかった』と言う事になります」










ハヤテの予想はほぼ当たりらしい
彼女は黙り込んだ







「あ、<砂原>に行ってたってことは、そこに現れたリオレイアを狩っていたんじゃ無いですか?」
「…どうしてそこまで分かるのよ…」
「すごーい!!」






まあ、リオレイアが砂原にも出現すると言う知識があっただけだが…
ハヤテは『ハンターたるもの洞察力を鍛えておきませんとね』と返した










「でもまあ、飛竜の中でも強力なリオレイアを何頭も狩れるぐらいなら、アオアシラにもすぐ慣れるでしょうし、大丈夫でしょう……」








まだ日が出ておらず、うっそうとした森は何だか凄く不気味だ
崖の上から見下ろす分には絶景だったが、今はそうとも思えない


チラッ…チラッ…と光の粒がその辺りを飛んでいる
<閃光玉>の素材となる、<光虫>だ
・・・捕まえておこうかな、とハヤテは立ち上がる……が








「ーー…っと!?」







暗くて足下が良く見えていなかった

月明かりがあるとはいえ、そこは夜の森
木の影ばっかりでほとんど見えないに等しい




ハヤテがつまづいたのは切り株らしい
こんな所でもちょっとした不幸はあるのか……と少しテンションが下がる



しかし、小さな羽音がいくつも聞こえ、ハヤテははっとする






……もしかしてこれって…
ハヤテはおもむろに取り出した虫捕り網で光虫を幾つか捕まえて、そのまま提灯の様に切り株を照らす

思った通りだった









「……どうしたのよ?」
「…これ、見てください」





ハヤテは明かりを彼女らにも見える様に照らす









「…この切り株がどうかした?」
「この切り株、おかしな割れ方をしていますよね?」







何の事か分かり辛そうだ
そのまま結論を話した方が早いだろう








「この割れ方と…折られてからの時間の経ち具合からして、多分あのアオアシラがやったものだと思います、これ…」







そんなことしてアレに何の……とヒナギクは言うが、ハヤテの指差す方向を見て理解する







「……<ドスミツバチ>……」
「……ええ、この切り株の中のこれは恐らくハチの巣でしょうね…アオアシラはこのミツの匂いに誘われて、巣の内部にあるそれを取り出す為に木を折ったんでしょう……そして」


ハヤテは剥ぎ取り用ナイフで木を抉る

そして、腕で抱えられる程の樹脂で出来た巨大な塊を取り出した
中からは光虫の明かりに照らされて、黄金色に輝くミツが流れ落ちる







「…このハチミツは、多分後で使えるでしょうから……ミツバチには悪いですが、取っておきましょう」








わあい、と声を上げるアユム
早速それを空き瓶に詰めていく

うん…あのハチミツは彼女のおやつとなって、すぐにあの胃袋の中に消えそうだ









「ーー…?…ヒナギクさんは良いんですか?」







立ち上がり、すたすたとアオアシラのいるエリアに戻ろうとするヒナギクに、ハヤテは声を掛ける









「…こう言うアイテムが後で役に立つと思います……取っといた方が…」
「いいえ、結構よ」






ヒナギクはつっけんどんに返してくる
それからこちらを横目で見た









「…それはあなたが見つけたものであって、私が見つけたものじゃないわ…それにね、今は『勝負』の最中なのよ……敵からの施しは受けないわ」







敵って…それはどっちかと言うとアオアシラの方だろう…

…あの負けず嫌いはどっから来るんだ?…とハヤテは思った












ヒナギクはポーチの中から回復薬グレードを取り出して飲む

…実を言うと、隠してはいるが先程、アオアシラの前足に弾かれたときに少し腕を捻っていた









(…弱気になっちゃダメよヒナギク…ーー…アイツの鼻を明かすんだから!)

この気持ちが、彼女を支えていたのだ








ハヤテは溜め息をついた
スタミナを回復するアイテム、<元気ドリンコ>をひとつ飲むと、
たちまちまた、どれだけでも走れる気力が湧いてくる










見ると、彼女……アユムはビンのハチミツを舐めていた

まるでアオアシラみたいだ、とハヤテは苦笑した










「…ん?……もしかしたらコレって使えるんじゃ……」









突然、何かが降りてきたような感覚を覚える

ーー…良いかもしれない…ーー…そんなアイデアが浮かんだ









「ちょっと先に行ってて下さい」









ハヤテはそう言うと、先程のハチミツのあった切り株の辺りに走っていった

それを最後まで見ることなく、ヒナギクとアユムはエリア6に戻っていく















ヒナギクは、自分のプライドの為に……だが































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.21 )
日時: 2013/06/29 14:21
名前: 帝 


そうですか、モンハンの小説予約しましたか\(^о^)/




 いいねぇー♪







 ハヤテ、流石ですね♪







 少し見ただけで、ヒナギク達が、何をしていたかわかるなんて♪







 モンハンで今日俺もアオアシラ上位、ソロ弓でかりました!







 ハチミツはいいですよね♪





 回復薬グレートにも使えたり、ハンターには重宝されますから






 次回も楽しみです
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.22 )
日時: 2013/06/30 11:20
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
ハヤテに関してですが、この小説内では最強クラスです
“クラス”なのは、まあ他にもいるからですが……では


*                *


『プライド』








生物の生命維持への執着は結構なものだ

ペイントの匂いを元に、アオアシラと再びまみえた二人
だが、アオアシラは絶賛怒り状態だ
攻撃倍率大安売り!!いつもの三割増しだよ!・・・・・・みたいな感じだ





アオアシラは二人を見つけた途端(と言うより嗅ぎ分けたんだろう。アオアシラはそんなに目が良くない)かなりのスピードで突っ込んでくる






二人はそれをかわして左右に避ける・・・・・・が、

アオアシラが急停止する







二人は予想外の行動に足が止まってしまう
アオアシラのフェイントだと気付いたときにはもう遅い










「グオオオオオッ!!!」





その体勢のまま野太い声を上げ、その前足をぶん回す









「ーー…くっ!!」





ヒナギクは太刀で応戦する……が、太刀はその繊細な造りのため、ガードなんか出来やしない


『ガキン!!!』と言う大きな音を立てた後、そのまま太刀ごとヒナギクをぶん投げた












「きゃあっ!!!」






数メートルほど吹っ飛ぶ……体では理解しても、頭がそれに付いていかない

バシャッ!!!と深さが数センチも無い川に叩きつけられる
冷たい水に触れた途端、自分の状況を把握する









「ーー…あ……アユム…ーー」








視界が大きく横転している…・・・いや、自分が倒れているだけだが…・・・彼女はアユムの方を向いた



アオアシラが腕をぶん回すのは最大三回…・・・今までの経験から、アユムはそう知っていた




今度はアユムを狙おうと、もう一度立ち上がるアオアシラ…・・・回転回避を行って、アオアシラの腕をギリギリで避ける










「オオオオッ!!!」










…一回目…

ブウン!と、刃物を振り回した時のような鋭い音ではなく、
ニトンクラスのハンマーを振り回した様な音が鼻先で鳴る

かわされたアオアシラの体は大きく捩れるが、
アオアシラの怒りは止まらない
体が捻れた遠心力で、もう一度思いっきり腕をぶん回す









…二回目……

またもアオアシラの腕は空を切った
アユムは、『ガキン!』と弾丸をリロードする
空の薬恭が飛び出して宙を舞う







…三回目をかわしたら反撃だ…

三回腕をぶん回すと、アオアシラには大きな隙が出来る……そこを狙うのだ












「グオオオオオオオッ!!!」




どうやらアオアシラは頭に血が上りきったらしい

的確に小さな的を狙おうと思ったのだろうか、下段に向かって降り下ろされる腕は彼女の頭を狙っていた








(来たっ!)


アユムは回転回避でアオアシラの脇の下を潜り抜けた
そして、照準を定めようとスコープを覗き込む…







…信じられない事が起こった











「ガアアアアアアアッ!!!」







先程、自分をなぎ払おうとした手……余りにも勢いが付きすぎていたのか、アオアシラの体を大きく回転させる









要するに、スコープを覗き込んだ途端、
そこにはアオアシラのトゲだらけの腕甲があったわけだ








(…あ…私、死んだかな……?)


悲鳴を上げる隙もない……アユムは硬く目を瞑る














ーー…ガッ!!!…ーー



アユムは地面に張り付いた
…だが、何故だろうか……ほとんど痛くない
その感触も、何トン級の物に張り手をされた感じでは無い


何かに頭を押さえられている感じだ










アユムは目を開けた……自分は死んではいない……と言うことが最初に分かる










ーー…なぜ?…ーー

その答えと、頭を抑えている者の正体は……隣を見るとすぐに分かった










「ーー…危ない危ない…ーー…間に合って良かった…ーー」








ハヤテだった
ハヤテは相当急いで来たのか……それとも自分の状況を見てか……少し汗をかいていた










「……早く立ってください…ーー…危ないですから」



そう言われて、やっと意識がハッキリとする











「あ……あの……ありが…ーー」

「グオオオオオオオッ!!!」



アユムの声はアオアシラの声・・・・・・多分、物凄くブチ切れている声によって遮られた

アユムは先程の事を思い出して、少しすくんでしまう

ついハヤテを見ると……そこにいたのは彼では無かった






いや……『先程までの』彼では無いと言うことだ

一瞬にして、雰囲気を大きく変えた彼に、アユムは驚きを隠せない













ーー…ズドドドッ!!!…ーー



瞬く間に、アオアシラに矢を……それもアオアシラの弱点である頭に何本も正確に撃ち込むハヤテ

小さな爆炎が幾つも上がり、アオアシラは怯む









「…オオオ……」





するとどうだろうか
自分達を追い込んだアオアシラが素早く踵を返して、別エリアへと逃げていく…ーー

ハヤテは、そこにまたペイントを幾つか撃ち込んだ










*                *










「…びっくりしましたよね…?アオアシラは<上位>になると、ああやってフェイントを使ったり……腕ぶん回しも三回と五回で使い分けたりしてきますしね……」







ハヤテはヒナギクを助け起こしながらそう言った
助け起こされている間じゅう、ヒナギクは機嫌わるそうだったが(ま、今更だ)


しかし、アユムが考えていたのはその事では無かった







少し見ているだけでも分かる
彼のモンスターに対する知識は、自分達なんかよりも遥かに高いし……まるでモンスターの動きを全て読んでいるかのように立ち回っている

良く良く思い出して見れば、彼は自分達がアオアシラと戦っている間、
危険な行動の際に、こちらが気付かないレベルでの細やかな援護を行っていた








(一体…ーーハヤテ君って…ーー何者なの…ーー?)


アユムの頭の中は、それで占められていた








*                *










ーー…肩が外れたかもしれない…ーー





ヒナギクは響くような痛みに、そう思った
回復薬グレードをほとんど飲み干したため、幾分は和らいでいたが……もう、万事休すと言っても良いぐらいだ


それでも、ここまで来てしまった以上は引き下がれない
体の痛みよりも、プライドが先に出たのだ










「ヒナさん…ーー…大丈夫……?」






アユムがそう言ってくれる
ヒナギクは出来る限り笑みを浮かべて、『大丈夫よ』と返す

・・・が、上手く笑えた自信は無い
多分、ひきつっていただろう






自分の性格を良く知っているアユムは少し心配そうな顔をしたが、
こちらの気持ちを察しているらしく、それ以上何も言わない

…見れば、ハヤテがこちらを見ている
何か文句があるのなら、すぐに返してやる……と思う











「…では、行きましょうか」





しかし、彼は何も言わなかった

気が付かなかったのだろうか、何事も無かったかのように歩いて行く……少しムカついた

もはや矛盾した考えだが……そう思わずにはいられなかった











ヒナギクは、何も言わずにペイントの匂いを辿り始めた











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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.23 )
日時: 2013/06/30 16:13
名前: 壊れたラジオ

『青熊獣戦・決着』





<エリア7>
ガノトトスとハヤテ、ソウヤが戦ったところだ
その爪痕は未だに残っているのか、小型モンスターはあまり見られない
ブレスが直撃し、真っ二つになった地面もそのままだ



その中をアオアシラは、のそのそと歩いている
息が荒くなっていないところを見ると、もうキレてはいないようだ



ただし、それはこちらを見付けていなかったからに過ぎなかった
川面で食料である魚を捕ろうとしていたアオアシラだが、こちらに気付くと再度吠え猛る





ヒナギクは先程の失敗を思い出す
これ以上、恥を掻くのは許されない






アオアシラが吠えながら突進して来る
今回はフェイントでは無く、単純な突進であった



ひゅん、と鋭く大気を切るような音が響く
そして、横へのステップで太刀を横薙ぎに払う

それは、今度は弾かれることなく……アオアシラの甲殻の継ぎ目を切り裂く











「ガアアアッ!!!」



文字通り、飛竜刀によって『焼けるような』痛みを受けるアオアシラ
ただ、今の一撃も体毛の先の少しを焦がしただけだ

ヒナギクは振り向き、アオアシラに太刀を合わせる

アオアシラは両腕を大きく広げた







(まずい!)


ヒナギクはアオアシラの攻撃である『両の腕でのタックル』を察知し、回転回避ですり抜ける……が










「…つうっ!!!」



先程痛めた肩が、転がった瞬間に悲鳴をあげた
回復薬グレードによって幾らかは治ったとは言え、痛みを完全に消すには至らなかった












「こんなっ!……時にっ……!!!」







非常にマズかった

自分の下を見れば、自分の影とは明らかに違う、ずっと巨大な影が覆い被さっていた












「…グルルル…」


低く唸り声を上げるアオアシラ
…彼女が動けないのを察知したのか、おもむろに右腕を振り上げた

回避する間もない
ヒナギクは目を見開いたまま、その腕を見つめる












ーー…つっ…ーー


ヒナギクが目を閉じようとした時、そんな音がした

まるで、金属に金属の錐が突き刺さったような……が、それは一瞬だった




















ーー…バゴオオオオオン!!!…ーー









何が起きたのか、分からなかった

ただ、目の前でアオアシラが大きく吹っ飛ばされたのが見えた













ーー…矢だ…ーー




凄まじい威力を持った矢は…アオアシラの頑強な腕甲を、一撃のもとに砕いていった














ポフン、と自分の肩に何かが当たる
驚いてそれを見ると、キラキラと薄く輝く粉が自分の肩に着いていた













「…<生命の粉塵>…」



このアイテムは、触れた者すべてを癒す事の出来るアイテムだ
<生命の粉>や、<不死虫>から作られるが・・・

ヒナギクはそこまで考えると、その方向……つまり、矢が飛んできた方向を見る












ーー…ハヤテがいた













「グオオ……グオオ………」





ハヤテは、先程まで……少なくともヒナギクが見ていた、
あのお人好しそうな、優しそうな顔では無かった




眉ひとつ動かさず、倒れてもがくアオアシラに何本も……
それもかなりの距離から正確に、さっき砕いた甲殻の下の柔らかい組織に命中させていく



流石のアオアシラも命の危機を感じたらしい
何とか立ち上がると、フラフラとした足取りで、もと来た道を戻っていく












*                *











「……治りましたか?」





ハヤテが聞いてきた……恐らく肩の事だろう



それは先程の粉塵で治った……が…やっぱり気付いていたのか…











「う〜〜ん……まあ、ヒナギクさんの事ですから・・・・・・例えそうだったとしても言わないだろうなって思いましたし…」





表立って助けられるのもイヤでしょうから……と言う事だろう
そこでわざわざ、この場のハンター全員を回復出来る<生命の粉塵>を使って、
『あくまでもハヤテ自身のため』と言う事を強調したんだろう









「……追うわよ」






釈然としないまま、立ち去ろうとするヒナギクに、ハヤテは『あっ』と言ってポーチをあさる








「……これ、良かったらどうぞ」


何だろう?
ハヤテが投げ渡してきたそれを掴む

そこには、ハンターにとって最も重要なアイテムの入った瓶があった。








ーー…回復薬グレードだ…ーー










「いらないわ!!敵からの施しなんて!!って言うか、自分の為に使いなさいよ!!!」
「大丈夫ですよ、まだありますし……それに、そちらはもう尽きかけているんでしょう?」




…図星……ポーチの中を見られたのだろうか……?
…いや、彼の事だ……この肩の具合を考えて、の事だろう










「…でも……」
「回復薬グレードの調合方は知っていますよね?」





当たり前だ…ハンターの基本では無いか…<薬草>に<アオキノコ>……それに………あ












「そうですよ、さっき採った<ハチミツ>ですが……意外と早く使い道が出てきましたね……」



まあ、受け取ってあなたに損は無いでしょう?と言ったハヤテ








ここまで戦況を見渡していたのかと思うと、
悔しくてビンを投げつけてしまいそうになる……が、そうはしなかった

貴重な回復薬グレードだ……無駄には出来ない
それを飲み干すのを見たハヤテは、二人に向かってニコリと笑う










「では、行きましょうか……アオアシラはもう追い詰めていますから…あと少しです、頑張りましょう」










*                *











多分こちらだ、と言うハヤテの予想は当たった

エリア5……先程ハチミツをとった場所に、アオアシラは来ていた



体力の無くなったモンスターは、何かを食べる事で体力を回復しようとする
勿論ハンターとしては、これをさせてはいけない……邪魔しなくては

しかし、飛び出そうとする二人をハヤテは止めた
驚く二人だったが、ハヤテは気にせずアオアシラの動きを見る









(…行くか…?)


ハヤテは、真剣な表情でそれを見据える

まるで『自分の仕掛けたイタズラが成功するか、緊張する様に』








ハヤテの読みは当たった
アオアシラは、自分が倒したらしい木に向かっていく

そして、好物のハチミツを食べようと切り株に手を伸ばす










「グオオ……オオオオオッ!!??」


掛かった!!










「今です!!!」


ハヤテはアオアシラが驚愕の声を上げた瞬間、二人に叫ぶ
二人は呆気に取られたが……すぐに動き出す

アオアシラはまるで
『電気に痺れている様に』体をビクビクと痙攣させ、そのまま硬直している






太刀と言う武器にとっては、最大最高のチャンスだった













「てやあああああああっ!!!」




しなやかに抜かれ、解き放たれる白銀の刀身は、
ヒナギクの流れるような動きでアオアシラの体をとらえる

鍛えられた太刀の刃が何処にも弾かれる事無く、アオアシラの体を切り裂いていく




痺れ…声を上げる事も出来ず、ただただ、それに身を任せる事しか出来ないアオアシラ

ヒナギクは、浴びせた太刀を振り抜き、その遠心力を生かして練られた最大の気を解き放つ














ーー…ザンッ!!!…ーー



川の流れよりもしなやかに…
…それでいて強烈な激流の如く、太刀の奥義……<気刃大回転斬り>が炸裂した













「…オ…オオオ……」




相当堪えたらしい
アオアシラは大きく呻き声を上げた











「……もう、良いかな……」


ハヤテはそう呟く……捕獲出来るだろう











「アユムさん……<捕獲用麻酔弾>を…ーー」




<捕獲用麻酔弾>と言う、モンスターを生け捕りにする特殊な弾をアユムに頼む

彼女は頷いて、その弾をボウガンにリロードした

未だに痺れているアオアシラの頭部に吸い込まれるように命中したそれは、
ポフン……ポフンと二度ほど白い煙を上げた








その瞬間、アオアシラの足腰は弛緩し、その巨大な体は地面へと沈んでいった






























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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.24 )
日時: 2013/07/01 18:50
名前: 帝 

 すいません!!!!





 ゆうきりんのモンハン小説はファミ通だった!





 アオアシラを捕獲ですか..................捕獲はガンナーが多く使う手なんでやっぱり捕獲を選択しましたか♪








 ぶっちゃけ、ガンナーソロは捕獲、剣士は討伐が上等手段ですよね♪







 次回も楽しみです!
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.25 )
日時: 2013/07/01 20:24
名前: 壊れたラジオ

『最悪のネタ晴らし』





捕らえたアオアシラを荷車に乗せると、三人はその場に座り込む
緊張が一気に抜け、溜め息が勝手に出る









「ーー…でも…どうやってアオアシラの動きを……?」




アユムが聞いてきた
ハヤテは、ああ……と言って種明かし(まあ、そう言う程でも無いのだが)を説明する


その切り株を見てください、アユムに言う…
アユムはそれに従った







そこには、黒い円盤があった

いや、ただの円盤ではない
役目を終え、黒い金属が鈍く光るだけのそれだったが、
彼女も知っている、ハンターの基本的アイテムの一つだった










「…『シビレ罠』…」




『シビレ罠』
<トラップツール>と言う、罠を作るためのアイテムと、
一時的に強烈な電撃を放つ特殊な虫である<雷光虫>を組み合わせて出来るアイテムだ

主として、モンスターの動きを止めて攻撃するチャンスを作ったり、
モンスターを捕獲するための手段として使うのだが……











「ーー…でも…いつの間に…?」




ヒナギクはそこまで言うと、何かに気付いた様にハッとする

…もしかしてあの時に…?












「いや、アオアシラは疲労するとハチミツを食べに行くかと思いまして……それに、わざわざ新しく木を倒すよりも、元から倒してあった木のハチミツを食べる方が楽でしょうから、掛かるかと思って仕掛けて置いたんですが…」



上手くいきましたね…と言うハヤテに対し、ヒナギクは息が詰まった

そのまま、頭は何も考えない……考えられない












「…ま、止めはヒナギクさんが差したような物ですし……今回の勝負はあなたの勝ちって事で良いですよ……僕は今回特に何もしていませんしね」







ーー…何もしていない?…ーー

それどころか……今回の狩りの立役者みたいなものでは無いか












「…くっ…」


勝負に勝った、なんて言われてもちっとも嬉しくない……こんな事は始めてだ

ハンターとしての知識…先を見通す力、

……そして何よりも、もっと奥底の何かで負けた気がした




ハヤテは大きく伸びをしながら、帰っていく
ヒナギクは、その後ろ姿を茫然と、ただ見つめているだけだった
・・・それしか、出来なかった


朝日が昇ってくる
だが、ヒナギクの心はそれに反して、夕暮れの様に沈んでいった








*               *









村に帰ると、またもや歓声が上がった

あんなでっかい熊が、ガノトトスの後に現れて、
どうしようかと困っていた矢先にさっさとアオアシラを狩ってきたものだから、村人達の驚きと尊敬の眼差しは昨日にも増している









「ありがとうございます!!<蒼火竜>様!!」
「やっぱり……凄いです!!こんなに素早くクエストを達成されるなんて!!」




ハヤテは、あ〜いえいえ、と返す
そして、二人をちらっと見て言った










「あのお二人が、ほとんど狩りをしたんです……僕は、あんまり何もしていませんよ…」
「またご謙遜を!!でもそこが良いです!!」




ギャラリーは増える一方だ
ギルドカードの交換や、握手を求められるが…
生憎こちらの手とギルドカードには限りがある








ーー…どうしようかな…と思ったその時、ヒナギクが割り込んでくる










「ねぇ……ハヤテ君って……一体何者なの?」




ヒナギクがギャラリーの中の一人に尋ねる
辺りは水を打ったように静まった







あ〜……そう言えばここ最近ゴタゴタしてたから言ってなかったし……今更だと思っていたけど…・・・








「……えっと…僕は…ーー」




説明しようと口を開くが、
その声は心底驚いたような、ギャラリーの中の数人の女性ハンターに遮られた











「ええ〜〜っ!?知らないんですかヒナギクさん!?」
「ええっ!?何をよ!?」
「だってこの人、<蒼火竜のハヤテ>様ですよ!?ホラ!ギルド史上最速で<G級ハンター>になった!!!」




え……と言う声が漏れた
文字通り、石になったみたいだ










「ええええええええ〜〜っ!?」




アユムが大きな声をあげる

……どうやら通り名の方は知っていたらしい……
しばらくぽかんと口を開けたままだったので、
心配して顔をのぞき込むと、慌てふためいたような声を出した。









「す……すすすすみません!!知らなかったとは言え失礼な態度を取っちゃって!!!でもその…」
「あ、いえ……良いですよ……言ってなかった僕が悪いですし……それに、対等にお話出来て嬉しかったですしね」



その後、握手やらカードの交換やら、
G級モンスターはどんな感じか…や、どんな狩りが印象に残っているかを
慌ただしく、根掘り葉掘り聞いてくる彼女にハヤテは苦笑した











「…何よ…ーー…それ…ーー」





ガタン!!と言う音を聞いて、ハヤテはそちらを向く
そこにあった不運なドリンクの入れ物が潰れていた








……ヒナギクの前髪が顔にかかって、黒く陰を作っている……
・・・ぶっちゃけG級モンスターよりもおどろおどろしい


その気をまとったまま、彼女は静かに近付いてくる




そして、目の前で止まった











ーー…パアアアン!!!…ーー




目の前で銀砂が散った
『引っぱたかれた』と分かるのに、時間を要した











「ーー…どういう事よ…ーー」
「…え…?」



彼女が、喉の奥から絞り出すような、そんな声で言う











「…どうせ……<G級ハンター>の自分に喧嘩を売った……馬鹿な<上位ハンター>とでも思ってたんでしょう!?」
「えええっ!?」




言いがかりだ!!と思うが、言ってなかった自分にも責任があるから言い返せない












「…これだから…ガンナーは……せっかく信じられると思ったのに……私が馬鹿だったわ…」




うつむき、小さな声を上げる彼女にハヤテが声を掛けようとすると、
彼女はビクッと体を震わせた後、集会浴場から走って出ていってしまった







ーー…彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた…ーー






*                *










「…ふう……」


ハヤテは温泉に浸かっていた

あんなことがあった後だから、ギャラリーに囲まれている訳にもいかず……とりあえず落ち着こうと彼なりに考えた結果だった






だが、いつものようにスッキリとした……晴れやかな気分にはなれない

・・・あるのは、しこりの様なモヤモヤだけだ











「ーー…はあ」




ドリンク………<ラッキーヨーグルト>でも飲んで、<幸運>を発動させようかな……

……まあ、自分の不幸に対して、どれだけ効果があるのかは知らないが……飲まないよりはマシかもしれない

そのドリンク売りのアイルーに話しかけると、ドリンクを差し出してくれる

『大変ですニャー』と言ってくれた彼に、ええまあ……と返した







・・・ここを出てから飲もうか…

ハヤテは、脱衣所に向かった













*            *







……脱衣所を出て、最初に自分が見たものを説明してくれた人には最大限のお礼を言いたい……そう思った

そこにあったのは……ええと……なんと言ったら良いのか……



……ええい!……結論から話そう










『風呂を出たら人が倒れていた』





我ながら馬鹿っぽい
こんな説明で誰が分かるというのだろうか




しかもその人……女性だろうか?
…は身なりからして、ハンターズギルドの教官の制服を着ているのだが…

『う〜〜んムニャムニャ………もう飲めない〜〜』……なんて寝言を言っている







寝言は子供っぽいのに、もう飲めないと言っている辺り、妙な所で大人っぽ………いや、オッサン臭い















ーー…飲んだくれか…ーー


とりあえず助け起こして家に送れば良いだろう、とハヤテはその人の顔を覗き込む



ハヤテはその顔に、どこか見覚えのある感じがした

だが、一瞬で記憶が引っ張り出され、鮮明にそれが蘇る













「ユキジ………先生……?」




目の前で酔っぱらって寝こけていた女性の顔は、ハヤテのよく知る人のそれだった













「どうして……先生がこんな所に……」


考えてる暇はない
ハヤテはユキジを担ぐと、彼女の家の場所を近くの人に聞く









幸いと言うかなんと言うか、彼女は有名人らしく…すぐにそれは分かる


ーー…なんだか最近、おかしな事ばかり起きるなあ…ーー

そういった、理解出来ていない大量のモヤモヤをいくつも頭に浮かべながら、
担いだものの重さにヨロヨロとしながらそこを後にするハヤテ













その時に気付くべきだったのだ

……自分がまた、不幸の地雷の種を落としていた事に……







































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.26 )
日時: 2013/07/06 11:07
名前: 壊れたラジオ

『誤解』





ヒナギクはむかっ腹が立っていた
別に彼が悪いわけではない
自分がただの思い込みで暴走したに過ぎないのは、自分でも重々分かっていた……だからこそだ





ヒナギクはぶつけどころの無い怒りを抱えながら、村の道を歩いていく
途中、顔見知りが話しかけてくれるが……まともな返事をせずに歩いていく
と言うか、よっぽど恐ろしい顔をしていたのだろう、苦笑いを浮かべて帰って行く


…ふと、あることを思い出した










「……そういえば……」




自分とした事が……あまりの怒りと動揺に、あそこにアイテムポーチを置きっぱなしにしていた事に気付かなかった

大きく息をつき、肩の力がだらんと抜ける……もう、疲れてしまった











「…さっさと帰って…寝よ…」





思えば昨日は一晩中寝ていないのだった
急にどっと襲ってきた眠気に、ヒナギクは欠伸をする
だが、アイテムポーチを放って置く事は出来ない










「はあ……仕方無いわね……」




面倒だが、自分のミスだ
ヒナギクは棒の様な足のまま、集会浴場のある石段を上がっていった






*                *








そこでキャイキャイと騒いでいる女性ハンター達を見たとたん、
ヒナギクは、ミスったかな……と思った

さっきハヤテを取り囲んでいたハンターだろうか








「ーーホントにあの方ーー凄いですよね!!ーー」
「ーーあ〜…ーー私もあんな人と!ーー」
「ーーそれにいつも謙虚でいらっしゃるし…ーーああ、素敵ですわ…ーー」









実際そうらしい
ハヤテを褒め称える声があちらから聞こえて、少し収まっていた彼女の怒りを再燃させる











(ーー…何よアイツは…ーー!『そっちの勝ちで良いですよ』って!何様のつもりよ!!)




それに『大したこと無い』!?
ふざけているのだろうか……こちらはこんなにも真剣だったと言うのに!!

そして、彼なら少しは信用できると……!











「……やめやめ……こんな事考えても仕方ないわ……」





さっさとポーチを持って帰ろう・・・
そう切り替えて、ヒナギクは集会浴場の中を歩いていく

すると、その数人がこちらを見てヒソヒソと何か話している
おそらく彼女らも他所から来たハンターなのだろう





…そして、どうせ自分の事を身の程知らずのバカな思い上がりとでも思っているのだろう





やっていられない





ヒナギクはムシャクシャしたまま、ポーチの置いてある机に向かう

ポーチは、ハヤテがいた机の上にあった
ヒナギクはそれを乱暴にひっ掴む













ーー…バサッ…ーー



何か、紙の束が落ちたような音がして、ヒナギクはパッとそちらを見た

何か分厚い……ノートだろうか?
そんなものが落ちていた

拾い上げてみると、裏に『ハヤテ』とサインしてあった
・・・アイツの物らしい


ヒナギクは好奇心に勝てず、ペラペラと捲ってみる
・・・そして、言葉を失った












「ーー…なによ……これ…ーー」


開いてみると、そこにあったのは・・・

まず…生き生きとした、非常に細やかなモンスターの絵

そして、その下には繊細な、丁寧で綺麗な字で様々な事が書いてあった
その字を追ってみると、それに書いてあったのは、その絵のモンスターについての事だった



大きさから、その生態……果てはこのモンスターと合間見える時のハンターへの細やかな注意まで…

ギルド管轄のハンター養成学校で、教科書になっていても可笑しくないような一品だった







……どうして彼だけが持っているのだろうか……いや、それよりも…

ヒナギクの頭に、ある考えが浮かぶ













…アイツ……ハヤテはコレを読んでいたから……あんな芸当が出来るのだ……と














「ーー…G級ハンターに史上最速でなれたのも……これのおかげだったのね…ーー!!」




ヒナギクは頭に血が上る
あんな……コレを読んだだけのニセモノハンターが許せない……そう思う




化けの皮を剥がしてやる!!
ヒナギクはポーチの中に、それを無理矢理突っ込んだ

彼女が出ていくところを見ていた者は……一人としていなかった











*                *











「……おかしいなぁ……この辺にあると思ったんだけど……」


ハヤテは集会浴場の中を探し回っていた
……自分のポーチに入れてあったはずの図鑑が無いのだ

先程ユキジ……飲んだくれて倒れていた彼女を家まで送り届け、旅館に戻ってきていたのだ






何か色々聞きたいことがあったが、聞きそびれた……まあ、別に後でも良いだろう

ほとんど寝ておらず、少し眠っておこうか……と布団を広げた

隣ではソウヤが二日酔いで寝込んでいるらしい事を聞いた
・・・本当に何がしたかったんだ?……と思いながら布団に入る




……が、寝付けない……何かを忘れているような感覚に陥ったのだ









ーー…この頭の中にある引っ掛かりは…ーー














「!!!」




文字通り飛び起きた
集会浴場に、あの自分の命とも言える図鑑を……広げっぱなしにしておいてしまっていた










「アオアシラの事を書き足して……そのまま忘れたのか……」



…我ながら、とんだ注意力散漫になっていたものだ
よりによって、一番大切なものを忘れてくるとは……


ハヤテは急いで集会浴場に戻った
しかし……前述のように見つからないのだ





……あれだけ大きい物だから、見つからないなんて事は無いはずなんだけど……

これだけ探しても見つからないと言うことは、誰かが持っていってしまったのかもしれない

はあ……と溜め息をつくと、受付嬢に紛失物の依頼をして、そこを出ることにした






流石にあそこにいた人、一人一人に聞いて回るのは骨だろう……そして聞いたところで出てくるとも限らない

自分の不幸症を少し呪いながらも、諦めて石段を下って旅館に戻るハヤテだった






ーー…雨が降りそうだ…ーー

どんよりとした雲は、彼の心を象っている様だった










*                *










「ーーー!ーーー!!…ーー!」




ある家の前を通ったとき、中から喧騒が聞こえた

家……と言っても何だか屋敷と言うか、道場みたいな感じをした所で、隣の家とは結構離れている

それに人通りも少ないから、それに気づいた人も少ないらしい





…いや……慣れているのだろうか?
見て見ぬ振りをしている人もいるから、この中の人が喧嘩をするのはよくある事なのだろうか…


気になって少し覗いてみることにして、背伸びをして近くの格子からのぞき込んでみる










ヒナギクがいた
相手に対し、何かを捲し立てている様だった

相手は……ユキジ先生?












「ーーだからっ!!アイツ…・・・ハヤテ君はコレを見ていたから……あんなに早くG級ハンターになれたのよ!!」










ーー…なんの話だろう…ーー?
ハヤテは眉をひそめた












「こんな……こんな図鑑なんてズルをしているニセモノに皆騙されているんだわ!!」



そうして彼女が降りかざすそれ……自分の図鑑だ・・・…彼女が持ち出していたのか・・・











「ーー…ヒナ……」


それに対し、ユキジは静かな声を上げた

……少し驚いた
自分の記憶の中では、彼女はあんな人では無かったからだ











「…ヒナ……ハヤテ君がそれを完成させるために、どれだけの苦労をしたと思ってるの……?」
「…え?……な、何を言って…」


ヒナギクは呆気に取られた顔をした
ユキジはそのまま続けた













「ーー…だってその図鑑はね……ハヤテ君がハンターになった時から、一枚一枚……少しずつ書きためた、彼の今までの狩りの記録だからよ……」
「…そ……そんなはずは……嘘よそんなの!!」
「…嘘じゃないわ……それよりアンタ……それをハヤテ君の許可無しに持ってきた訳じゃ無いわよね…?」


彼女の詰問とも取れる問いに、怯むヒナギク
諭すような声音でユキジは言った












「…すぐに謝って、返して来なさい……それと…」
「……るさい……」
「ーー…?」


「うるさいッ!!!」

「!!?」





ヒナギクの感情が爆発した
ユキジはそれを止めようとするが……

……振り回された図鑑は、そうはいかなかった












「あっ!!!?」


ヒナギクが悲鳴をあげるが……もう遅い
















ーー…バラバラバラ……ーー



ノートを止めていたヒモが切れて、辺りに中の紙が散らばっていく


何十枚……何百枚のスケッチが、筆の後が、紙吹雪のように舞い上がるのを、ハヤテは見ていた






































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.27 )
日時: 2013/07/16 20:23
名前: 壊れたラジオ

ふう…やっと期末テストが終わりました…
長らく更新していなかったので、忘れられてるかも……

余談ですが、数週間ぶりにモンハンを起動して…
腕ならし!…とばかりに行ってきましたG級ラギア…ーー

ーー…強っ!?
幾らなんでも強すぎるよ久々のラギアさん……

…と言うことで、続きです


*                *


『理由』






雨が降り始めた
ポツ、ポツと僅かには先程から降ってはいたが、だんだんと本格的になってくる

こちらにとっては大きな災難だった







紙が飛び散るだけなら、まだいい
拾えばいい話だ

だが、降ってきた雨はこちらの事情なんか気にも止めない
紙の上のインクが、少しずつ滲んで読めなくなっていく

慌てて拾おうと外に出てきたヒナギクはこちらを見て、文字通り凍り付いた

ハヤテは何も言わずに、拾ったそれを見つめる











ヒナギクは、まるで叱られる前の子供の様にすくんでいた
それをついと見たあと、ハヤテはぽつりと口を開いた












「ーー…ま、コレぐらいなら何とかなるでしょう……大丈夫ですよ」



そう言って、ニコッと笑いかけた











「っ!!」



彼女は駆け出した
こちらに背を向けて、大雨の中を走っていった

ユキジが家から出てきた
こちらを見て、ハッとしたような顔をすると、雨に濡れるだろうから入ってきなさい・・・と促してきた

・・・酔いは、覚めたのだろう


しかしハヤテは、彼女が見えなくなるまで、その背を見ていた……











*                *











「悪かったわね……妹があんなことをしちゃって…」


彼女とヒナギクが姉妹だと言うことを聞かされ、ハヤテは少々驚いた
だがよく見ると面ざしが少し似ているから、意外とあっさり納得は出来たのだが




ユキジはバラバラになった図鑑だったもの……現、紙の束を差し出してくれる

外で雨に濡れたのは、図鑑の内の一割程度だった
要するに、自分の人生の内の一割が消失したことになる

そう考え、ハヤテは苦笑した











「良いですよ、この部分の内容は全て覚えていますし……」


まあ、全てページの内容を覚えているのだけれどね……とは口にしない

それに、この際聞いておきたいことが幾つもある
ユキジの酔いも覚めているし、良い機会だ










「ーー…あの…先生…ーー?」
「ーー…?なあに?」


どっから出してきたのだろうか、
ユキジは徳利からお猪口に酒を開けて、喉に流し込んでいた
飲み足りないんだろうか?












「……先生は何故……こんな所で教官をされているんですか……?昔の功績からして、もっと高い地位を目指せた筈なのに……」


ああ、とユキジは呟くように返した



彼女はハヤテの言う通り、昔はハンターだったのだ
それも、ハヤテに追い抜かれるまでは史上最速でG級ハンターになった凄い人物である

十年以上前、
ハンター養成学校に入ったばかりのぺーぺーの自分も良くお世話になった




また、その時は歴代きっての美人ハンターとしても有名だったんだけど……今はその面影すらない







それは余計よ、とユキジは言った














「…まあ、こちらにも色々と事情があってね……話すと長い訳よ…」




恐らく、触れてはいけないところに自分は触れたのだろう

それは……そうだ
あまりプライベートにまで踏み込んだ話をするべきじゃない

何かしらの傷を伴うものがあるのだろう・・・
ユキジの表情が少し暗くなる







…あの酒も……ただ単にその傷を忘れようとして、飲んでいるんじゃないのか……?

マズッたな……とハヤテは思い、話題を変えた












「…あの…ヒナギクさんって……一体どうしてあそこまでガンナーを嫌うんでしょうか…?」



ーーん……とユキジはこちらを見て肩を竦める











「…あの子が……この村の専属だと言うことは知っているわよね?」
「……ええ……」
「…で、私が私だったじゃない?結構名前の売れたハンターで……だから、村の皆から……特に両親は、ヒナに大きな期待を掛けていたの」


「『私みたいな立派なハンターになるように』……ってね」











ーー…ああそうか…ーー大体掴めてきた


その期待の中で自分を磨き、それに答えようとしていたから、あそこまで誇りやプライドが高くなったんだろう

他所から来たヤツがその仕事を取ってしまったら、面白くないのは当然だ










が、彼女のガンナー嫌いとどう関係があるのだろうか?














「ーー…と、まあ……話はここからな訳よ…ーー」


ユキジはお猪口を置くと、姿勢を正した
ハヤテは何となくそれに従わなければならない気がした

同じく姿勢を正すと、ユキジは語り始めた










*                *











「…う〜〜ん……アレはいつだったかしら……ヒナが物凄く怒りながら帰ってきたから……よく覚えてるわ…」


記憶の糸をたぐり寄せるかの様に語るユキジ












「帰ってきて、部屋に引きこもっちゃって……心配だから様子を見に行ったんだけど……物凄い剣幕でまた怒り始めて……それで……泣いたのよ……あの子…ーー」





あの彼女が泣くようなこととは……一体何なんだろう?












「…落ち着いてから話を聞いてみると、こう言うことだったの……」


ユキジは一息ついた
何か酸っぱいものを含んだような顔をした後、口を開く













「あの時、ヒナは<上位>に上がりたてでね……その日は砂原で、リオレイアの狩猟を依頼されたんだけど……生憎アユムちゃんはその時風邪を引いててね、ヒナは一人でそこに向かったの…」



一人で?・・・それは・・・・・・












「…当然、苦戦して……時間切れになりかけたらしくて……回復薬も全部無くなって、もう駄目か……そう思ったときに、『一人の弓使い』が現れたそうなの…」




狩猟場に他のハンター?

おそらく……採取クエストか何かを受注していたハンターだろうか?

もし他のモンスターがいて、そこに狩りに来たとしたら少しおかしい

そもそも同じフィールドに複数モンスターがいたのなら、それはギルドが<大連続狩猟>として依頼するはずだからだ













「その人は……ヒナが苦戦していたリオレイアをいとも簡単に倒した後、ヒナに向かって言ったの……」













「『この程度のモンスターを一人で狩れないなら、アイツには程遠いな』…ーー…とね」



ハヤテは黙って聞いていた













「…それでね、そのハンターは倒したリオレイアから剥ぎ取りもせずに帰ってしまったのよ……それからかしら……あの子が人一倍プライドが高くなったのも……ガンナーを毛嫌いするようになったのも…」



ユキジはこれでおしまい、とばかりにお猪口に手を伸ばした











ーー…そんなことが…ーー

ハヤテは驚きを隠せなかった









それは……トラウマになってもおかしくはないレベルの屈辱だろう

しかも自分の武器は弓……よりによってそのハンターと同じ……最悪だ













「…言っておくけど、あなたが気に病む必要は無いわ……これはあの子の問題だしね…」



そろそろあの子の頭も冷えたんじゃないかしら…ーーとユキジは立ち上がる












「何処へ行くんですか?」
「ああ、あの子はこうなると、大体行き先は決まってるのよ……」





そう言って、扉へと向かうユキジ……が












「たいへんたいへんたいへ〜〜ん!!!」


けたたましい音と共に、『パーン!!!』と激しく開けられた引き戸

その声の主はアユムだった














「ど……どうしたのよアユムちゃん?」


狼狽を隠せないユキジに、アユムは捲し立てる
まるで、何か強大なモンスターに追い掛けられた後みたいに見える













「ヒナさんが……ヒナさんがぁ!!」
「ヒナが!?どうしたのよ!?」



妹の事だと分かり、急激に焦り出すユキジ
アユムの肩をつかんで、目を見開いて尋ねる












「ヒナさんが……一人で<砂原>に行っちゃったんです!!!」











その言葉を聞いた時、ハヤテは嫌な予感がした

先程の集会浴場のクエストカウンターにあった、モンスターの討伐依頼書


たくさんあった集会所の依頼書の中でその内たった一つが砂原で・・・














ーー…『ある危険なモンスターの討伐依頼だったから』だ…ーー


















ハヤテは素早くモンスター図鑑を確認する

あのページに書いてあることを、今の彼女が見たとしたら・・・!!!



ハヤテの予想は、最悪の確信に変わる














ーー…あのページのみが、ここには無かった















*                *
















「お客さん……本当にあそこに向かうのかね……」




船の番頭が、鎧を着けた女性にそう尋ねる










「あそこは……ギルドが立ち入りを禁止して……ハンターしか入れなくなっとるじゃろうが……」
「……大丈夫です。私もハンターですから」
「……しかしなあ……」






鎧を着けた女性……ヒナギクは、<レイアSヘルム>を深く被る

そして、手に持った紙……あの図鑑の一部を覗きこみ、もう一度その字を追っていく

生き生きとした絵を眺めたあと、その下の端正な文字に目を滑らせる
























ーー…『<角竜・ディアブロス>』…ーー









ーー…砂原に生息する飛竜種…ーー















ーー…筆者もあまり出くわしたことが無く……情報も少ないので、早急に調査を行った方が良いと思われ…ーーーーーー



































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.28 )
日時: 2013/07/17 22:06
名前: 壊れたラジオ

『双角のマ王』


<角竜・ディアブロス>



砂漠地帯に生息する<飛竜種>で、このカテゴリの中でも特に巨大な体駆を誇る
性質は非常に凶暴であり、最大の特徴である、
名の由来ともなった頭部の巨大な二本の角がそれを顕著に著す




おまけに、その全身を覆う甲殻は重厚かつ堅牢
<砂原>という、昼夜で寒暖の激しい過酷な環境に“これでもか”とばかりに適応している

とはいえ、その重さのせいで<飛竜種>のカテゴリに含まれているにも関わらず、滅多に飛ばない(と言うか飛びにくい)




が、そんなことはさして問題ではない
むしろ地上、そして地中がこのモンスターの独壇場だ
特に、地上での運動性能と戦闘能力は他のモンスターの比では無い






何年か前の話だ
とある国の国境に、モンスターから町を守るために作られた巨大なバリケードがあったのだが、そこに突然襲来したディアブロスにとっては縄張りを侵す不埒な脆弱者に過ぎなかった

怒り狂う角竜によって、人々が何年も掛けて作ったそれを『一撃で粉砕された』と言うことが起こっている



強靭な脚力、そしてその双角を活かした攻撃は熟練のハンターすら恐怖させるほどの威圧感を持つ
また、その尻尾は巨大な石斧の如き形状をしており、薙ぎ払うだけで、鋼鉄のハンマーすら凌ぐ威力を持つ



だが、最大の脅威はそんなものでは無い
最たるべき、そして最も恐れるべき攻撃は、その巨体を存分に活かした『突進』だ



ディアブロスは、その巨体に全く似つかわしくないスピードが出せる

その上、ディアブロスの重い体重の乗ったそれは、鋭い角の脅威を存分に引き出し、
人の作ったバリケードはおろか、堅い岩を砕き、その岩盤ごと穿ってしまう

もしもそれを人が喰らえば、“吹き飛ばされる”では済まない
そこに残るのは、もはや人の形をしているかどうかも分からない。




そして輪をかける様に厄介な事に、彼らは異常なまでに『縄張り意識が強い』
プライドが高く、侵入者に対してはやり過ぎと思えるほどの猛攻を仕掛けてくる


僅かにでも攻撃されたときには、言うに及ばずだ
凄まじい怒気と殺気を放ち、興奮がピークに達すれば視認出来るほどの黒いガスが口の周りにチラつく

興奮状態のディアブロスは最早手が付けられない程に凶暴化するが、実は一番このモンスターを狩ることを厄介にしている問題がその後にまだ残っている



ディアブロスは、身の危険が迫るほどにこの怒りに拍車が掛かる
つまり“死にかけている時”が一番危険なのだ


最早、怒りが全ての感情を圧倒した上で支配し、それに従って暴れまわる
要するに、ハンターにとっては『足を引きずってからが本番』とも言える





地中を頻繁に潜り、一度逃げられると見つけるのが難しいと言われるが、
意外にもディアブロスの居所は大まかなエリアの特定に限っては、すぐに把握出来る


彼らはブレスこそ吐かないものの、その代わりに『大音量の咆哮』を持つ

どのぐらいの大音量かと言えば、とりあえず『至近距離から喰らうとまず命が危ない』程だ
大気を震わすほどの大音量で、鼓膜が破れてしまったハンターもいるそうだ


あまりの轟音、恐怖に襲われて動くことも出来ず散っていったハンターが後を絶たないと言う

そういうわけで、ディアブロスの叫びが響く砂漠に足を踏み入れる事は、
殆ど自殺に等しい……とまで言われる







*                *












「…最悪ね…」




この状況を表すのに最も適切な言葉を発したのは、ユキジだった
アユムなんてもう涙目になっている……無理もないのだが





上位ハンターが戦って、そんな簡単に勝てるような相手ではない
最悪の予想が頭の中を駆け巡る

ハヤテは迷わず立ち上がった









「ハヤテくん?……どこへ…?」
「ギルドに連絡して……僕の家から、少し武器とアイテムを送って貰おうかと……」
「!!!それじゃあ!!!」


アユムは期待に満ちた目を、こちらに向けた
ハヤテはニコッと笑って言った









「なーに……<砂原の採取クエスト>を受けてそちらに向かえばいい話です……ギルドにもその辺の制限はないでしょうしね」





ハヤテは『あ、そうだ』と言った感じでユキジを見る








「先生も来て下さいますか?」



現役から退いているとは言え、G級ハンターだった人が来るのは心強い

だがユキジはハヤテの期待とは裏腹に、お手上げのポーズをする










「あーー……私は無理だわ……」
「何故ですか?」
「……う〜ん……アイツと戦ったこと無いし・・・・・・前の装備は、もう無いしね……行っても足手まといになるだけだわ…」



ダメか・・・
ハヤテは肩を落とした

しかし後ろを見ると、アユムは目に強い力を宿らせてやる気に満ちた声で叫ぶような口調で言った












「私も行くっ!!!ヒナさんを助けないと!!!」
「…いや……やめた方が良いでしょう……」
「何で!?」


納得がいかない様子のアユム
気持ちは分かるが、彼女の実力からしてディアブロスとやり合えるとは考えにくい
かえって危険な目に遭うだけだろう










「僕達がいない間、この村の近くにモンスターが出るかもしれません……その為に、一人残っていて欲しいんです」





最もらしい理由を付けたが、これは半分本心でもある
三人とも不在だったら、あの時のガノトトスの時の二の舞だ
それは是非とも避けておきたい危険であったからだ









「あ…うん……分かった……」




少し納得出来ないような表情を浮かべたが、理解したのか彼女はこくんと頷いた

ハヤテはバラバラになったモンスター図鑑を紐でグルグルと巻くと、
それをアイテムポーチに突っ込んだ

そして、引き戸を開けて旅館へと鎧を取りに向かおうと足を向けた


土間の水瓶につま先が触れた瞬間に、つぶやくような声がした










「ーー…ハヤテくん……ヒナを宜しくね…ーー」



そんな声が、後ろから聞こえた
ハヤテはそれに、“笑って返した”

ハンターとして様々な覚悟をしているとは言え、こうなればやはり心配なのも事実だ
肉親なら、尚更だろう



それを引っくるめて、ハヤテは笑った
『大丈夫』というニュアンスを込めて







彼がふっと空を見あげると、雨はいつの間にか止んでいた









ーー…そしてその空には、蒼天がいっぱいに広がっていた…ーー












*                *











<砂原>
昼夜の寒暖の激しい過酷な砂漠地帯だ




そうは言っても、それは砂漠に限った話である
むしろ、それ以外のエリアではオアシスがあったり、そうでなくとも動物や植物の生存能力には目を見開くものがあり、ひび割れた土地にすら草が生えている

しかもそれは、ここにしか生えないような珍しいキノコや草であったりするから、この地域に住み、生計を立てる人も意外と多い








そして、この不毛な土地に住み着く変わったモンスターも多い









ヒナギクは、砂原に足を踏み入れた
と言っても、本当の<砂原>ではなく、それに繋がる乾燥地帯のあたりであるのだが



初めてではない
ここには自分の装備の<レイアSシリーズ>を作るため、リオレイアと連戦した地だからだ




しかしリオレイアは、<砂原>と言う地域の砂漠地帯に入ることはあまり無い
つまりは、彼女にとって砂漠地帯は『入ったことの無い未知のエリア』だった




ヒナギクは身震いした

今は昼である
砂原の土地は輻射熱が半端ではないので、寒いどころか汗が滲むほど暑いはずだった






ヒナギクはふと頭に浮かんだその考えを打ち消すように、もう一度あのページを見つめた




そして何かを決意する様に、ただ1つの決意を固めるように、それをポーチに押し込んだ





青い箱……支給品ボックスを開ける

幸いにも、アイテムは届けられていた
中から使えるものを使えるだけ、ポーチに詰められるだけ詰めていく





…<応急薬>……<携帯食料>……<ペイントボール>……これは……<クーラードリンク>だろうか?




今まで使ったことが無いから、どんなものか詳しくは知らないが……持っておいても良いかもしれない

また、ハヤテの図鑑に書いてある、
『潜行時に音爆弾が有効』とはどういうことだろう?
一応、その通りに家から音爆弾は持てるだけ持ってきたが、使い道が分からない




また支給品ボックスの中にも、<支給品専用音爆弾>があったため、それもポーチに押し込む

ポーチの整理を追え、ヒナギクは立ち上がった

彼女の前には、一本の道がある
砂原へと続く……そして、彼女の運命を左右する下り坂だ






目の前に広がる砂原の光景を目にしながら、
ヒナギクはその道を、一歩、また一歩と下っていった…ーーーーーー









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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.29 )
日時: 2013/07/18 22:23
名前: 壊れたラジオ

『Frustration』


「ウモオォ……」




唸り声をあげる中型の草食モンスターが、この時ヒナギクの目に入った自分以外の動くものだった





モンスターの名は<リノプロス>
まるで金属の如く角質化した皮膚を持つ草食種で、
五メートル程の太短い体格、そして特徴的な襟飾りを持つ





主に砂漠地帯で比較的よく見られるモンスターだ
その堅い甲殻は、その為の進化だと考えられている
勿論、その甲殻が役立つのはその時だけではないが






ブルファンゴとは桁違いに頑丈なそれは、大抵のモンスターを歯牙にもかけず、
しかもそれがブルファンゴ並みのスピードで突進してくるのだ




そして彼らが何らかの理由で集まり、万一にも暴走してしまえば、中型肉食モンスターなど目ではない程にまで危険化する




ただし、一頭一頭ならばそう手こずる相手ではないことも事実だ
特別堅い頭を除けば、幾ら体の甲殻が厚いとは言え、よっぽど粗悪な業物で無ければ比較的容易に攻撃が通る











「ウモオオオオオッ!!!」





リノプロスが大声を上げた
カサカサに焼けた大地をドラムの様に踏みしめながら突進してくる



だが、ヒナギクの方が一枚上手だった
何度もここにリオレイアを狩りに来ているし、彼らの動きには慣れていた




リノプロスはあまり目が良くない
そしてそんな向こう見ずな突進をするものだから、
自分がヒナギクの策にまんまと引っ掛かったと気付いた時にはもう遅い










ーー…ゴッ!!!…ーー



ヒナギクはリノプロスをさっとかわす
リノプロスは彼女の後ろにあった巨大な一枚岩にしこたま頭をぶつけた





大きく火花が散って、リノプロスは衝撃でくらくらと目を回した










「てやあっ!!!」





その隙をヒナギクは見逃さない
飛竜刀がリノプロスの体に深々と大きな傷を付ける




そのリノプロスは一つ断末魔を上げて、バタリとその体を横たえる







(後、何頭いるだろうか?)





リノプロスは出来る限り狩らなくてはいけない

素材の為というのも勿論ある
リノプロスの甲殻や頭殻は、良い鎧の素材となるし、性能も中々優秀だ





だが、それとはまた違った、倒しておく理由がある


彼らは、草食のモンスターにしては非常に粗暴なのだ

巨大な大型肉食モンスターがやって来ても逃げやしないどころか、
攻撃を仕掛けることすらある(この場合“鈍感”と言うべきだろうか?)





それだけならまだいいのだが・・・厄介な事に彼ら、その大型モンスターに敵わないと見るや、
その縄張りを侵された怒りを、
あろうことかそのモンスターと戦っているハンターに、“八つ当たり”と言わんばかりに向けてくるのだ


大型モンスターに気を取られていた所をリノプロスに吹っ飛ばされ、
そのまま倒れている所を、その大型モンスターにやられると言うことが物凄く良く起こるから、彼らは早くに倒しておくに限るのだ







そういうヒナギクも、リオレイアと戦っているときにどれだけ彼らに茶々を入れられたことか・・・・・・ある意味当事者とも言える

今まで嘗めてきた苦汁を思い出してしまう


見ると、幸いなことにリノプロスは今倒した奴以外には二頭ほどであった




すぐに倒せそうだ
それに<ディアブロス>がどういうモンスターかあまり分からない以上、今のうちに危険因子は取り去っておいた方が良いだろう


彼らは、こちらを向いた侵入者を威嚇している
前足で砂を蹴り、体を低くして唸り声を上げている






考えるまでもなかった


ヒナギクはばっと飛び出した








*                *







「……ふう」





隣のエリア4に移動し、そのエリアを静かに見渡してみる

主にリオレイアが現れるのはこの場所だったため、この辺りの事は結構詳しい筈だ





逆に言えばこの先の、要するに<砂原>の名を冠する所には足を踏み入れたことが無い





日は、どうやら正午少し過ぎらしい
てらてらとこちらを突き刺すような炎天は、ヒナギクの肌を少しずつ湿らせていた


幾ら通気性の良い<雌火竜の翼膜>を装備の裏生地に使っているとは言え、これは少し耐えがたい


<レイアSヘルム>の中に押し込んだ自分の髪を、一度パサッと解放した
中の湿気は炎天に晒された途端、一気に大気中に四散した




ただ、日の光はよりいっそう強く彼女の頭を照らしたが、つけていて蒸れた頭をしているよりもましだった






しかしそうもしていられないヒナギクはもう一度ヘルムを被り直すと、少し息をついて歩き出した


一本の枯れかけた、生きているのかそうではないのか分からない木の横を通り抜ける

その木の周りの栄養と、吸い上げる地下水を狙ってか、焼けつくような、干からびた粘土質の土地に草が少し生えている





そこまでして、ここで生きる必要があるのかと思ったが、『それは自分達も同じだろうな』と思い直す









通り過ぎようとして、ヒナギクはふと思い出した




『<砂原>の植物は、特殊な成分を持つものがあるはずだ……』と





今の自分には関係無いじゃないとヒナギクは歩き出そうとするのだが、


『ーー…こう言うアイテムが後で役立つと思います……取っておいた方が…ーー』


と頭の中に響く、彼の声に立ち止まる









「ーー…うるさいわね……余計なお世話よ…ーー」





そう思いつつも、体は動いていた

ぶつぶつと言いながらも彼女の手はその草をより分け、
使えそうなものをポーチに瓶詰めして、押し込んでいった








*                *









ヒナギクは支給品の地図

といっても観光マップなどでは無く(観光に来る人がいるのかどうかはほとほと疑問だが)『狩り場としての砂原』の地形を記した、ハンター用のそれを引っ張り出して確認していた


ヒナギクがいつも来ていたのは、この地図で言えば右側半分の、半砂漠地帯である



つまり、砂漠一歩手前の場所だ
とは言っても人が住めるぐらいの自然の恵みはあるし、オアシスのような所もある


地下水が湧き出るそこは非常に生態系豊かで、つまるところモンスターの溜まり場である


勿論モンスターだって生き物だ
水を飲まなくては生きてはいけない

その水場が限られているのだ
そこが混沌とした場所となってしまっているのは、想像に難くない



ただし、どういう訳か大型モンスターはそう言う所には滅多に姿を見せない







恐らく砂原の環境に非常に適応し、何らかの方法でそういう仕組みを手にいれているのだろう……と言うのが昨今の推測だ




ま、そうでもしなければ巨大なモンスターがこの砂漠で生き残るなど不可能に等しい話だ






ヒナギクはどうしてかそんなことを考えた自分を不思議に思うが、答えはすぐに出る






考えるまでもない
“緊張”しているのだ


それは当然の事だと自分に言い聞かせるが、どうも落ち着かない


この地図で言えば反対側である、この先に見えているあの細い崖と崖の間の通り道
あそこを抜ければ、今まで自分の入ったことの無いエリアが広がっている







恐怖しているのかと聞かれれば、それは勿論そうだと答えられる

だが、それだけではなく、心の何処かで高揚するものがあるのも彼女は感じていた







久しく感じていなかった、未知への何かへの期待か、希望か・・・それとも羨望か

彼女の心の中に会ったのは、それだった






ヒナギクは立ち上がった

武器も研いだし、アイテムポーチの準備も万全






ーー…あと、思うことは…ーー











その時、彼女の心に去来したのは、あの図鑑の破けてしまったシーン











ーー…そして、何故か……彼の顔だった











あの時、どうして彼は笑えたのか……何故怒らなかったのか
それが、頭に、脳裏に焼き付いて離れない










「ーー…バカ言わないでよ」







ヒナギクは自分の顔が紅潮するのに気付いた
抑えようとしてもその度に、頬は赤みを増していってしまう


ヒナギクは、ヘルムの鍔を掴んだ
そのまま、また深く被り直す









まるで自分の中の何かを、覆い隠すように









ヒナギクは一歩を踏み出した
ザッ、と言う、乾ききった砂を踏みしめた音が最初の音となって足に伝わった




この先を行ってしまえば、もう後戻りは出来ない
この先にあるのは、自然に勝てずに淘汰されるか、若しくはそれを乗り越え、屈服させて行き長らえるかの世界である










そんな地が、この隔てられたエリアの先に広がっているのだ



ヒナギクは一度も振り返ることなく、エリアの境の渓谷に入っていった












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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.30 )
日時: 2013/07/19 22:54
名前: 壊れたラジオ

『双角猛る、砂原の暴君』










ーー…暑い…ーー



渓谷を出て、すぐに浮かんできた考えは、それだけだった
出た途端、先程までとは段違いの暑さが彼女を襲う

日陰が恋しい…と本気で感じた








砂原の砂による太陽の熱の輻射熱が容赦無く彼女を襲い、ヒナギクは少しうんざりした気持ちになった





ヒナギクの入ったエリアは<エリア8>と呼ばれ、
この下には<エリア9>、<エリア10>と大きな砂原が更に広がる、ちょっとした高台だ





地面の砂も先程までの泥が干からびたようなものではなく、かなりサラサラの砂で覆われている
恐らく、風で下の砂漠から来たものなのだろう





支給品ボックスに入っていた、<クーラードリンク>の出番だった

飲み干すと、喉にサッパリとした風味が広がり、
体が冷え、そしてジリジリとした頭をサッパリとさせる


こんな不毛の地に何がいるのだろう?
そう、サッパリとした頭で考えるが、どこの場所にも変な奴はいるものだ




そう言うことを、少し前にユキジに聞いた

ヒナギクは出来るだけ音を立てないように歩き出した









*                *









ヒナギクはエリア8のど真ん中にある、妙な形をした岩に体を預けた

ちょうど日陰になっていて、クーラードリンクを飲んだ体にはちょうど良かった





それにしても、この岩は何なのだろうか?
どう見ても自然に出来る様な形では無いし……そもそもこの砂原のど真ん中に何であるのだろうか?




ただ、その答えは、思わぬ方向からすぐに見つかることになった










「……?」





自分の足元がモゴモゴと動いたような気がして、ヒナギクは慌てて飛び退いた

先程まで立っていた地面の盛り上がりは次第に大きくなり………その姿を現した










「ーー…オルタロス…」







<甲虫・オルタロス>

サソリとアリを合体させて、二で割ったようなモンスターで、
<甲虫種>という部類に含まれている小型モンスターだ



彼らは、体長とほぼ同程度の大きな腹袋を持ち、
取った餌を巣に持ち帰り、そのまま蓄えると言う習性がある

そして数頭単位で固まり、巨大な巣を作ると言うのだけれど、その事実を今はっきりと理解した










「ーー…オルタロスの巣だったのね…ーー」





高さ十メートルはありそうなソレは、オルタロスが何年も掛けて築いた物なのだ


ヒナギクは少しの間感嘆して狩りのことを忘れ、それを見ていた










*                *










「…熱いわね…」


ヒナギクはそうこぼした
『暑い』ではなく、『熱い』のだ




日は弱まるどころか更に一層その光を強め、ヒナギクを照らす

地面の幅射により、空気中の僅かな水分でさえも干からび、熱で蜃気楼がモヤモヤと浮かぶ




体に着けている鎧が本当に邪魔に思えるぐらいの暑さだ
出来ることならこれを今すぐにでも脱ぎ捨てて、体に籠った熱や湿気を追い出してしまいたい




何度も砂原の暑さを経験していると自分では思っていたが、その考えは少し甘かったらしい


だが、実際問題として、これを脱ぐのは危険である
と言うか、狩り場においては自殺行為だ







いつ自分を襲うか分からない脅威と、
今きつかったとしても、一応の我慢の出来る暑さの二択である

どちらを取るかは、明白だろう





まあ、今のところ鎧が必要な状況になっていると言うのが最も正しいのだが










「キチチ……チチ……」





どうやらここにいたオルタロス達は、自分の巣を襲ってきた敵か、若しくはここに貯蔵した食料を狙う不埒者と認識したらしい





どう転んでも敵と認識されるのだろうが、それは全く当然の事だ

人も、『危険になるから』モンスターを狩るのだ
それは彼らも同じだろう





ただ、こっちとしても大人しくやられるつもりは無い

ヒナギクは飛竜刀をすらりと抜いた






オルタロスはカマキリの前足のようになった歩脚を降りかざしてくる

全長三メートルの巨大な甲虫だ
普通の虫ならばすぐに踏んで潰せるだろうが、コイツらはヒナギクの<レイアSグリーヴ>で踏み潰すには少し大きい






ヒナギクは飛竜刀を、薙ぎ払う様に振る

普通の虫よりは遥かに堅い甲殻を持つとは言え、対モンスター用の武器にかかってはひとたまりもない

一振りでオルタロスが数匹切り裂かれ、緑色をした体液が辺りに飛び散った


『ピキィ』と言う、情けない声を上げて、オルタロス達は次々とバラバラになっていく


先程まで彼らの所業に感銘すら覚えていたのに、
その彼らをいとも簡単に割りきって倒してしまえる自分が、分からなかった







*                *







オルタロスから素材を剥ぎ取りたいのなら、<毒煙玉>を使うのが有効だ

<毒煙玉>は<毒テングダケ>と<素材玉>を調合すれば、簡単に作れる


普通に攻撃しても良いとは思うけれど、
大抵の場合、バラバラになってしまってマトモに剥ぎとれなくなってしまう


オルタロスが続々と巣の下から出てくる








一体、何匹がここに潜んでいるのだろう?


ヒナギクはカチカチと顎を打ち鳴らす彼らを見据えた


こうなったら徹底交戦かな……という考えが頭によぎる
虫相手に何ともアレな話だけれど……と自分でもおかしく思う






思えば、自分はここに大型モンスターを狩りに来たのであって、
こんな所で時間を潰している暇は無いはずだった
それなのにどうして・・・と自分でも不思議に思う













ーー…いや……本当はどうしてかは分かっている…ーー


ーー…それは…ーー





















ーーーー…ドドドドドド…ーーーー





















突然、地面がドラムを打ち据えた時のの様に、小刻みに振動する

オルタロスはその振動を感じとると、
先程までの威勢はどこへやら、さっさと巣穴に戻ってしまう


ヒナギクは武器をギュッと握りしめた
その振動はどんどん近付いてくる









辺りをキョロキョロと見渡すと、その正体・・・・・・と言うよりも、多分それだろうと言う推測が出るものを視認する













エリア8とエリア9の境目に、砂煙が立っていた

ヒナギクは体を固くした
嫌な汗が背を伝って流れた

それを気持ち悪いと感じながらも、それをしっかりと見据える












「・・・ウモオオ……ウモオオオオオ……」





あまりのオチに、ヒナギクは心底拍子抜けした



砂煙の正体は、先ほども戦っていた<リノプロス>達であった


ヒナギクは安堵した
ただ、その安堵は一瞬で消え去る事になったのだが





そのリノプロスが、何十頭の群れでこちらに向かって走ってきていた
全長五メートル、体重一トンの岩が、数十で固まってくると言えば分かりやすい






ヒナギクは咄嗟にエリアの端へと逃げた

リノプロスはそんなヒナギクに目もくれず、ズドドドド……と言う音と共に走り去っていく











ーー…おかしい……縄張り意識の強いリノプロスが、外敵に目もくれないなんて…ーー


ヒナギクは隠れながら、怪訝そうに彼らが走り去るのを見ていた
リノプロス達は、ヒナギクの来たルートを逆に走っていった

先程までの静けさが嘘のように静まり帰る









ーー…静かすぎる…ーー

今ここには、自分以外に生きているものの気配を感じない
さっきまであった、生命を感じうるものは、何も…






それは、まるで時間の止まったかのような錯覚だった



ヒナギクは、膝を折ってしゃがんだ
恐らく、この状況に対しての彼女自身の本能によるものだろう
この静寂を、気味の悪いものとして捉えた事への、行動だったのだ






ヒナギクの右手は、武器に掛けられたままだ
彼女はそのまま全身の神経を集中して、辺りを見回す

















それは、刹那の出来事だった
















時間の止まったような錯覚
それは、彼女の極限状態が生んだ、一片の真実の時だったのかもしれないと、彼女は後になって思った

































ーーーー…ドンッ!!!…ーーーー





























そんな音が、衝撃が彼女の体をつき抜けた


地が震え……それに呼応するかのように大気が揺るぎ、彼女は空中に打ち上げられてバランスを崩す


『ビシイッッ!!!』と、乾いた砂だらけの地盤が大きな亀裂の口を、ポッカリと開いた














ゴゴゴ・・・、と言う地鳴りが、しばらくの間余韻として残っていた




嫌な余韻が止み、何とか立ち上がるヒナギク

足はガチガチの棒のようだった
・・・もうなってしまっているかもしれない






ヒナギクは刀を手にかけたまま、そろり、そろりと辺りを見回す
恐怖で体が押し潰されそうになりそうだった















ーー…カシャン…ーー















僅かな怯えが、鎧の衣ずれとなって響く
しまった、と思うが、もう遅かった
















ーー…ピッ…ーー
















足元が、小さく裂ける音がした

もう、とやかく言っている暇は無いと知覚したヒナギクはハンターとしての感覚をフルに活かして行動し・・・そこを離れた

















その瞬間、凄まじい轟音を上げて、今までそこにあった・・・・・・彼女が先ほどまで立っていた地盤が砂や岩盤ごと吹っ飛んだ







砂、そして大量の瓦礫が十数メートルの高さまで打ち上げられ、抉り出される



ヒナギクは何とか緊急回避でそれを凌いだ
だが今まで立っていた所は、地盤がそのままひっくり返されたと思える程の砂が、煙幕の様に舞い降っていた






その事にぞっとしながらも、その中に存在する、巨大な動く影をヒナギクはしっかりと見ていた

砂煙をもうもうと未だに上げ、凄まじく視界の悪い状況からでも、それは分かった






















ーー…二本の、大角…ーー








最早、見間違う術も無かった





















「………グルルル………」





ヒナギクの目は、『砂原の猛き暴君』たる者の姿を、正確に、冷酷に……彼女の頭の中に伝えていた















「ディアブロス…」























砂煙の中に姿を現した双角のマ王の叫びが・・・自らの領地を侵された怒りが、砂原一帯にこだました































ーー…大型モンスターを狩りに来て、小型モンスターを狩る暇など無い筈なのに…ーー







ああ、そうか……とヒナギクは思った















ーー…私は……“こうなる事に怯えていたのだ”……と…ーーーー






































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.31 )
日時: 2013/07/20 20:15
名前: 壊れたラジオ

『砂原に聳える双丘』









ーー…ズシン……ズシン…ーー



ディアブロスが歩を進める音が、嫌に頭に響く













ーー…ここまで巨大なのか…ーー


ヒナギクはそう感じた
アオアシラの比ではない大きさに、彼女は思わずディアブロスを見上げた





頭までの高さが、悠に十メートルを越えている

褐色をした甲殻は日に照らされた砂のような、鈍い光を持つ

鋭いカッターの様な歯が上向きに生え、まさしく“悪魔(diablo)”の如くだ

爛々と光る目は地底生活に慣れており、あまり発達はしていないそうだが、普通に見る分には問題無いらしい

こちらをじろりと睨みつける目からは、深い怒りが沸々と沸いているのが見える









敵か味方か、それを見極めているような目では無かった


奴にとって自らの縄張りを侵すもの全ては、同族でさえ邪魔な敵でしか無いのだから






ヒナギクは武器に手を伸ばす
その手が、飛竜刀の柄に触れようとした








けれど、ヒナギクの手が武器に届く前に、ディアブロスは体を突然丸めた
体を大きく捻り、そして何かを堪えるかの様にその巨体を震わせる









ヒナギクは一瞬、呆気に取られたが、あの図鑑の内容がフラッシュバックする


これから来る事に備えて、慌てて両手を自分の両耳に付け、固く塞いだ






















「ギエエエエエェェェェエエエエッッ!!!!!」
























その声は、地獄から来た悪魔なのか、それとも自分を死へと誘う死神の呼び声なのだろうか
ディアブロスは、その肺の中の空気を全て押し出さんが如く、凄まじい咆哮をあげた



ビリビリと大気が震える

耳を塞いでさえ頭の奥に響く大音量と、凄まじい肺活量から生じる風圧に、ヒナギクは思わずうつむく








そして、底知れぬ恐怖が彼女を襲った

大気の震えと同調するかの様に、全身にそれと分かる程の鳥肌が立つ


上からの風圧は、彼女を押さえつけると共に、彼女の精神すら蝕んで行く








ディアブロスの叫びが止む

ようやく目を開けた彼女が見たのは、『完全な外敵排除状態のディアブロス』だった
目は見るも真っ赤に血走り、荒い息を吐いている













臨戦状態のディアブロスを前にしては、もう後には退けない
ただ、元より退く気も無かったのだが



ヒナギクは、震える右手をゆっくりと伸ばし、飛竜刀を掴む
そうすることで、右手の震えを無理矢理消したのだ

金属と革が擦れる様な、独特の音が響くと共に、飛竜刀が鞘から抜かれる

白銀の刀身を上段に構え、ディアブロスにその切っ先を向けた














「……オオオ……」








ディアブロスは唸り声を上げた

頭を低く下げ、その二本の大角をヒナギクに向けた


ヒナギクは震える刀身を見て、先程のディアブロスの叫びが、体にこびりついている様な錯覚を覚えた











だが、それもすぐに消えてしまった














*                *











『割りに合わない仕事』と言う物がある

例を挙げれば、『採取クエストに来て、肝心の採取をしない』と言う事がその最たる物に挙げられるだろう
少なくとも、今の自分に取ってはそうだった









ハヤテは砂原を走っていた
冒頭のあのシーンにようやく戻ってきた訳だ
















「……はあっ……はあっ……」





いつもなら、こんな距離でバテたりはしないのだが、砂原の暑さに加えて、何日にも及ぶ寝不足は確実にハヤテのスタミナ消費量を激しくする










端から見たら、馬鹿の様に見えるかも知れない
採取クエストを受注したハンターが採取もせずに、必死で走り回っているのだから
それが、このくそ暑い砂漠のど真ん中であるならば、なおのことだ






そもそも採取クエストは、そこで採取したアイテムを売ることで採算を取るタイプのクエストだ
一応乱入してきた大型モンスターを狩ることで追加報酬を得ることは出来るが、あんまり期待は出来ない(“期待”と言うのもおかしいが)





まあしかし、今そんなことを考えている暇が無いのは自分でも分かっている
当然のこと、自分がここに来た目的は最初からただ一つだった









ハヤテは奥歯を噛み締めた
あの走り去る前の、彼女の表情が頭をよぎり、ハヤテは顔をしかめた






<憎悪>…<嫉妬>…<羞恥>
そんな物が、グチャグチャに混ざったようなあの目と、ユキジから聞かされた、彼女のトラウマ







正直、自分が行ったところで、どうにか出来る様な事では無いのかも知れない


いや、それどころかそもそも口を出すこと自体、正しい事では無いのかも知れない







“自分はそのハンターとは違う!”と大きな声で自分は言えるのだろうか?
そして、言ったところで何か変わるのだろうか?







そんな思いが、頭の中を駆け巡った










ハヤテは頭を少し振って、その考えを追い払った
とりあえず今考えても仕方がない事であった









どうかしていた
狩りの場で余計な事を考えるなんて、自分らしくも無いことだった。









『弓』と言う武器は、使い手の精神状態によって、精度が大きく左右される

使い手が動揺すれば、弦が動揺し・・・・・・使い手が後ろ向きな思考をしていれば、矢は飛ばずに地に臥すだろう








(ーー…集中しろ…ーー…自分の目的は、何だ?)





自分にそうして言い聞かせた

いつも自分のやるように、自らのやるべき事を頭で反芻する











自分の目的は…彼女を助ける事
もしも、彼女がそれを求めていなかったとしてもだ


彼女を助けに行く事がお節介に当たるのなら、自分は敢えてそうなって見せる

ここまで来たら、もうどうのこうの言っていられない

何処までも、“自己中心的に”やってやる……そのつもりだった











そして、『ハンターとして、目標ーーーーディアブロスを狩ること』


ここまで来て、これを達成しないのならば、何故ハンターをやっているのだと言う事になる





それに、ディアブロスはギルドの設定している、『モンスターの危険度』が物凄く高い
野放しにしておけば、必ずこの周辺の村が危険に陥る事になるだろう












現に、前例があった











数年前にこの砂原の近辺の町に突如として出現し、国境付近のバリケードを破ったディアブロスは・・・・・・一夜にして、バリケード内の町を半壊させたのだ










勿論そんな事が出来る個体は、特別と言えば特別ではあるのだが・・・
結局そのディアブロスはG級ハンターになって暫く経っていた自分に依頼が来て、自分との凄まじい激闘の末に、何とか討伐出来たのだが、不安はぬぐえない
ディアブロスと戦ったのは、それを加えても数度しか無い。

ディアブロス自体そこまで多いモンスターでは無い(大量にいたら、それこそ災厄だ)
戦ったこと自体無いハンターも多いことは確かだが、それでも緊張はする











バリケードをあっさり壊せるような個体が現に存在したと言う事は、いつそれに準ずる個体が出現するか分からない
万が一、と言う事も充分有りうるのだ




相手がどれ程のものか分からない以上、最大限の警戒を持ってコトに当たるべきだ














(ーー…とは言っても……何処から出てくるか…ーー)






いつ、何処に潜んでいるのかも分からないモンスターだ・・・・・見つけるのは容易じゃない

その上、音を頼りに地中から物凄い勢いで突っ込んでくる事さえある

どんな小さな音でも手に取るように(ディアブロスの前足は翼だが)分かるので、走った所で今更なのだが














「!?」




そう思った瞬間、ハヤテの足は僅かな振動を感知する

背に負った、自分の得物に手を伸ばした















「ギエエエエエエエェェェエエエエッッ!!!!!」













一瞬遅れて、凄まじい轟音が響く
ハヤテの額に、明らかに暑さから出たのでは無い汗が流れた












この砂原はどう考えても四方八方、地平線まで真っ平らな砂の大地である
にも関わらず、ここにはそんな轟音を上げられるモンスターとおぼしき物は、確認されない


立っている現在地から地平線までは、大体五キロメートルと言われている



つまり、その叫びは、少なく見積もっても、五キロ圏外から響いたもの、と言う事になる










ーー…それなのに、この大音量を放てるとは…ーー?













「ーーーー…くそっ!」










ハヤテは猛然とダッシュした




嫌な予感が……嫌な予感しか、沸々と湧いてこない










叫びが聞こえた方向へと、ハヤテは走っていく













ーーーー…どうか無事であってくれ…ーーーー








そう祈りながら





























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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.32 )
日時: 2013/07/21 23:00
名前: 壊れたラジオ

『砂原の死線』










「ゴアアアアアアアッ!!!」



ディアブロスが頭を下げた
双角がこちらに向けられ、後ろ足に蹴り上げられて大量の砂が舞う


気付くと、ディアブロスの双角が目の前にあった











「ーー…っ!」







ヒナギクはそれを何とか避ける
ギリギリでディアブロスの太い足は、ヒナギクを掠めていく


ただ、体重の乗ったディアブロスの巨体は、そうそうすぐには止まらない
普通に考えて、止まれるはずが無かった。


その巨体は、そのまま崖に突っ込んでいった










ヒナギクは一瞬、ディアブロスが崖に激突し、リノプロスの様に目を回すことを期待した
・・・しかし、そうは問屋が卸さなかった。














ーーーー…ドゴオッ!!!…ーーーー










ディアブロスが崖に激突する
その振動は数十メートル離れているにも関わらず、彼女の足に届いた













ーーーー…ガラ…ガラガラ…ーーーー







ディアブロスは首をぶんぶん振って、何事も無かったかの様な顔をしている


実際、何事も無かったのだろう

それどころか、負けたのは崖の方だった
ディアブロスの突進によって大きな窪みが出来、脆い部分はそのまま粉砕されて大量の瓦礫となって崩れ落ちる








ディアブロスは突進を避けられたことに、少しムカついたらしい
再度頭を下げ、猛スピードで突進してくる


ヒナギクは緊急回避を行う
ディアブロスの双角は、ヒナギクが今まで立っていた所に突き立てられ、凄まじい音と砂煙を立てる










あの五メートルを越える角が、この堅い岩盤に易々と突き刺さる威力など、どう考えても半端な力じゃないのは目に見えている



が、ディアブロスはそれをものとのせず、力任せに双角を引っこ抜いた
と言うか、元々こんな岩盤すら潜行して移動しているから、不思議ではないと言えばそうなのだが








引っこ抜く際に、抉り出された瓦礫……と言っても、軽く三メートルを越えるような岩の塊が幾つも周囲に撒き散らされる















ーーーー…ゴトッ!!…ゴトンッ!!…ーーーー






「ゴオオオッ……」








ディアブロスは牙だらけの口を剥き出し、こちらを再度見据えた


ヒナギクは飛竜刀に手を掛ける……が、一瞬押し負けた








ディアブロスは体を低める予備動作無しに、力任せに体当たりを仕掛ける


ただ、ヒナギクは運が良かったらしい
ディアブロスのあまりの巨体に尾の下がガラ空きで、そこを上手くすり抜けた












「やあああああっ!!!」






飛竜刀がキラリと光る
渾身の抜刀切りをディアブロスの足にお見舞いした・・・・・・はずだった














ーーーー…ガキィン!!…ーーーー








手に来るジンジンと響くような痛みに、ヒナギクは大きく退けぞった

切れ味最大の筈の飛竜刀は、ディアブロスの分厚い甲殻の継ぎ目から僅かに反れ、鈍い音と共に弾かれた


ディアブロスはその一撃を、何とも思わなかったようだ
大きく頭を振り上げ、背を思いきり退けぞらせると、ヒナギク目がけて双角をカチ下ろす













ーーーー…ガアァン!!!…ーーーー







ヒナギクは横に回転して、回避する

背にしていた壁の様な崖は、そのたった一撃で大きく粉砕される


ディアブロスはまたしても、強引に角をそこから引き抜く
横薙ぎに大きく頭を振り上げ、その壁を完膚無きまでに崩壊させた






ヒナギクはその間にディアブロスから距離を取り、回復薬グレードをポーチから引っ張り出していた

一本飲み、ようやく呼吸が落ち着くが、ディアブロスはそれに気付くと、距離を詰めようと突進を仕掛ける






一瞬で距離が詰められた
ディアブロスは後ろ足の蹴爪でブレーキを掛け、急停止する











「ーーーー…はああああっ!!!」







ヒナギクはディアブロスの背後を取り、無防備になっている比較的柔らかそうな足の付け根に向かってダッシュし、抜刀攻撃を仕掛けようとする

















ーーーー……ブ………ウン…ーーーー








目の前で、大きく振り上げられる尻尾に彼女は気づく
だがダッシュしている上に、その尻尾の間合いに入ってしまっているのだから、もうどうしようも無かった















ーーーー…ガッ!!!…ーーーー




ディアブロスの尻尾は、地面を大きく抉った
横薙ぎに十数メートルに渡って、巨大な溝が出来る


















「ーー…く…………う…ーー」








ヒナギクは、瓦礫や大量の砂と共に吹っ飛ばされた
<レイアSメイル>の上に大量の砂が被さりながらも何とかヨロヨロと立ち上がると、砂がサラサラと落ちる


ディアブロスは振り向き、こちらを見た
そのまま止めを刺そうと言わんばかりに、頭を低く構えて突進してくる






ヒナギクは目を瞑った
体を低くしゃがみ、頭を守ろうとする




















ーーーー…ガゴンッ!!!…ーーーー






どう考えても、自分が吹っ飛んだ音でも、何かが壊れたのでは無いような音が、鈍く響いた
何かが……引っ掛かるような?そんな音だった








恐る恐る目を開けてみると、そこにはディアブロスの頭部が至近距離にあった
それが分かった途端、心臓が止まりそうなほどゾッとした













「ゴオオオオ………オオオオ………」



ディアブロスは、心なしか焦っているような声を上げている
そこを素早く出るてそちらを向くと、その理由が分かった





彼女は咄嗟に、あのオルタロスの巣を背にしていた

ディアブロスの双角は、それに深々とぶっ刺さっていた
幾ら堅い岩盤を掘り進める事が出来る角でも、オルタロスが自らの体液で固め、更なる硬度を持ったそれはそう簡単に崩れないらしい


ディアブロスはじたばたともがきながら、何とか角を抜こうと躍起になっている

ヒナギクはその隙を見逃さない
飛竜刀を引き抜き、もう一度抜刀切りを浴びせる












「ーーーー…オオオオオッ!?」






今回は弾かれる事無く、後ろ足の柔らかい部分に白銀の刀身は通る
初めてダメージらしいダメージを与えられたらしく、ディアブロスは悲鳴を上げる






しかし、良いことばかりでは無かった
その痛みでディアブロスは大きくのけぞり、そしてその反動で刺さっていた角が抜けてしまった

















「ーーーー…フーーーーーーーーッ!!!!!」






ディアブロスが太い唸り声を上げた

凄まじい怒気と殺気を感じ、ヒナギクはディアブロスを見る







ディアブロスは頭を低く下げ、酷く体を強ばらせながら、威嚇の状態を取っている
目は血走り、そして・・・・・・口からは、煤の様に真っ黒な吐息を吐き出していた



ヒナギクは、心の底から恐怖が涌き出す感覚を覚えた
















ーーーー…シュウ…シュウ…ーーーー



黒い吐息は、更に量を増す










(マズい!!!)


ヒナギクは走り出した
どう考えても、今戦うべきじゃなかった
ーー…だが





















「ギ……エエエエエエエエエエエエエッ!!!!!」














ディアブロスが、頭を天空高く掲げて叫ぶ

ヒナギクは突然の絶叫に、思わず足を止めてしまう
大音量と凄まじい恐怖で、足が動かなくなる

















ーーーー…ドドドド!!!…ーーーー







一瞬、巨大な影に、自分は覆い隠された

















ーーーー…疾い…ーーーー







そう思った瞬間、ヒナギクの体は空高く打ち上げられていた









































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.33 )
日時: 2013/07/22 21:28
名前: 壊れたラジオ

『何もない筈のところに何かあったなら、きっとそれは死亡フラグ』





不思議な事に、地面に叩きつけられた時、痛みは感じなかった
痛いんだろうな、と想像していたヒナギクは驚く








ーー…もしかして、私死んだ?…ーー


そんな考えが頭を巡る





しかし、恐る恐る目を開けてみると、どうやらそうでは無いらしい事が分かる

そこにあったのは臨死体験でよくあるような川や花畑ではなく、先程まで見ていた砂原の光景だった

一瞬、何が起こったのか分からず、ヒナギクは呆気に取られていた
しかし、気付くと自分は硬い岩盤の上ではなく、何かそれとは違う感覚の中にいた









ーーーー…鎧だ
そうヒナギクはぐらぐらする頭の中で知覚する












「大丈夫ですか?ヒナギクさん…」









蒼い鎧を身に付けた少年が、自分に向かって微笑んでいた

ヒナギクは、少年……ハヤテに、横抱きに抱えられていた

どうやら、自分が地面に叩きつけられる寸前に、彼が下から受け止めていた様だ







安堵……そして今まで感じていた恐怖が一気に薄れ、彼女はしばらくの間放心していた







ハヤテは相当急いできたらしく、ゼーゼーと息を吐いて大きく肩を上下させていた














「…はぁ……はぁ……ふぅ……まあ、無事で良かったです……」





彼はそう言うと、また少し笑った
ヒナギクは何か気恥ずかしい様な気がして、ハヤテの腕を押し退けた












「下ろしてよ!私は大丈夫だから!!」








安堵から来るものなのか……それとも自分のプライドから来るものなのか、良く分からない

しかし助けられた事に対し、心にも思っていない言動と行動を取ってしまう
ハヤテはそれに対し、ちょっと困ったような顔をした









が、此方に気を取られて、一番大切な事を忘れていた
あまりにも死が急に近付いて来たせいか・・・そして、危機一髪で生存した事への余韻からなのか・・・・・・『ここがどういう場なのか』すっかり忘れていた

















「ゴオオオオオオッ!!!」






ディアブロスが吼えた
ヒナギクの顔が少し青ざめてしまう
こちらの世界に入り込んでしまっていて、奴の事から気が逸れてしまっていた











ディアブロスはそれがよっぽど気にくわなかったらしい
黒いガスを口の回りに、帯を引くかの様に吐き出し…ーーーー















ーー…『帯を引くかの様に』?
















ヒナギクはハッとした

『帯を引いていた』のでは無く……『ディアブロスがあまりに速かったため、その残像で帯を引いているかのように見えた』が正しかった

簡潔に要約すれば、『ディアブロスがこちらに猛突進してきた』









咄嗟に動けなかった
ディアブロスの双角が目の前に迫る


その時、横に立っていたハヤテが、彼女の前を守るかのように立ち塞がる
















ーーーー…ガキイイィィン!!!!!…ーーーー







ヒナギクは目を瞑った……来るはずの衝撃に備える

しかしその心配は杞憂だった

















「ーーーー…女性に先に手を出すなんて、ナンセンスですよディアブロスさん…ーーーー」






そんな冗談を、この状況下で放つ少年
ディアブロスの突進は、ハヤテが素早く取り出した、巨大な矢一本で止められていた










何でやねん!!!
と、どう考えてもこの場に似つかわしくない、異国の突っ込みが沸いてきそうになる










(ーー…弓矢の矢で、あのディアブロスの突進を止めるなんて……どんだけの力量があれば出来るのよ…ーー)





ヒナギクは少し恐ろしくなった
それと共に、自分の中に抱えていたモヤモヤが一つ消えた気がするから不思議だった















ハヤテは、ピッ!という風切り音を立て、その矢を振り抜いた

力押しをしていて、前に重心を掛けていたディアブロスは大きくつんのめる


ディアブロスは腹立ち紛れに、つんのめった先の地面を大きく叩き割ると、こちらを睨み付けた














「ハイ、チーズ♪」








ハヤテはそれに対しても、一向に怯まなかった
ポーチから素早く閃光玉を取り出すと、ディアブロスに投げ付ける















「ゴアアアアアアッ!!??」










このカンカン照りの中でも、閃光玉は有効だった
青白い閃光が散らばり、ディアブロスは大きく怯んだ


普通閃光玉を使われたモンスターは視界への不安から、
その場でジッとするか、小範囲の中をがむしゃらに、めったやたらに攻撃するのだが……どうもディアブロスは違ったようだ















「ギエエエエエッ!!!ギエエエエエッ!!!」











ディアブロスは怒りの叫びを上げながら、地を踏みならし、その辺りを滅茶苦茶に暴れ回る

尾が岩盤に叩き付けられて巨大な岩が中を舞い、崖に向かって体当たりをかまして落ちてくる瓦礫に勝手にキレている















「さて…」





ハヤテは腰に手を当て、ニッコリと笑うと言った

















「逃げますか」















*                *












二人は隣のエリア……ヒナギクが入ってきた、エリア4に戻っていた
先程までの暑さが嘘の様に和らぐ


ハヤテが受け止めて大事には至らなかったものの、打ち上げられた際に、ヒナギクは大きなダメージを受けていた









それだけではない
自分が挑んで、全く歯が立たなかったモンスターの存在を知った事で、彼女の今まで積み上げてきたハンターとしての自信は粉々に粉砕されていた















「…気持ちは分かりますよ……よくある事です」






ハヤテはそう言った
彼女はそれを聞いているのか、そうではないのか曖昧に首を振った














「僕も昔に、何度も挫折しましたしね……人の事言えませんよ」












本当にそうなのだろうか?
ハヤテの失敗など、こちらの冒した失敗に比べれば、極々些細な事の様にヒナギクは感じた












それよりも……と彼女は感じた


ーー…彼はどうして、こんな自分を……自分のプライドに走って、勝手な行動を取ってしまった自分を怒らないのだろうか?


ヒナギクは問うた













「…ねえ」
「??何ですか?」







ハヤテはこちらに、体力を全快させる貴重な特殊アイテムである<秘薬>をこちらに渡しながら、自分の方を向いた


















「何で……私を助けたの?どうして……あんな事した私を怒らないのよ?」







ハヤテは一瞬、虚をつかれたような顔をしたが……その表情をすぐに崩した















「モンスターに襲われている人を助けるのに、理由が要ります?」
「!!」







ハヤテはまあ、と言いながらその表情を変えると、意地悪そうな顔を作って笑う














「そりゃまあ、怒りたくもなりましたけどね……あんなに目の敵にされたんですから……ね?」
「……う……」








ヒナギクが縮こまるのを見て、ハヤテは、パッとその顔を笑顔へと戻した



















「ま、怒ったところで仕方がないじゃないですか…それに、僕もきっと・・・・・・あなたと同じ行動を取ったでしょうから」








そう言ってポーチの点検を終えたハヤテは、すっと立ち上がる


ヒナギクは少しの間、うつ向いて黙っていた
いつもなら、こんな上から目線で子供っぽい扱いをされたなら、黙ってはいられない筈なのに……そんな気が、全く沸いてこない自分が不思議だった













「…よし……準備終わりましたか?」






ハヤテはそう訪ねた













「ーーーー…え?」











何の準備なのだろうか?
皆目検討のつかなかったヒナギクは、ハヤテに問うた














「何処へ行くつもりなの…ーーーー?」







ハヤテは、その白い歯を見せて笑う

















「決まってますよ……ディアブロスを、ぶっちめに行きましょうか」












子どものような笑顔を見せながら、ハヤテはエリアの境目に向かっていった


















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日時: 2013/07/23 20:25
名前: 壊れたラジオ

『狂いし暴竜』





口ではああ言ったものの、
ハヤテ自身、少し緊張していた




ディアブロスは飛竜種の中でも最大級の体格を持つが、ぶっちゃけ全長三十メートルを越えるディアブロスなんて、全くの想定外だった

ディアブロスの平均サイズと言ったら、大体二十メートルを少し越える位だと習った

要するにアイツの全長は、通常の約一・五倍と言う訳だ
全長が一・五倍と言うことは、体重はその三乗で、三・四倍と言う事になる





まあ、体重三十トンを越えるような化け物に、武器と鎧とその他諸々のアイテムだけを纏って勝たなくてはならないてはいけないわけだが……はっきり言って死亡フラグしか感じない






と言うより、大体あのディアブロスはどう考えてもG級個体だとしか思えないのだが……どうして上位クエストだったのだろう?





理由があるとすれば、ディアブロス自体、そんな数がいるモンスターでは無いからギルドが正確に把握出来なかったと言うことが考えられる。
特にディアブロスは危険で近づきにくいから、誤認するとしてもおかしくは無いとも言える



はたまたG級への昇格試験である、と言うことも考えられる。
ギルドはたまに上位ハンターに対して、G級モンスターを上位クエストに組み込み、ハンターの力量を測ろうとすることもある。

まあ、倒せるか倒せないかで判断できるから楽と言えば楽だが、ハンターの安全性とか考えていないあたり、実はギルドはドSの巣窟何じゃ無いかと勘ぐってしまう

ーー…もしかして、ハンターを抹殺するために、ギルドが仕組んだ事なのでは?……それは幾ら何でも無いか









自分の運が悪いのは良く知っているのだが、これは幾ら何でもあんまりじゃないだろうか



そんな事を考えている内に、二人は元のエリアに戻ってきていた


しかし、そこの風景は大きく変貌していた・・・・・・と言うか、殆ど原型を留めて無かった





あちこちに数十メートルに渡る溝、と言うか裂け目が出来ており、
入ってすぐ右に見えていた巨大な崖は、その殆どが粉々に砕かれていた


そのエリアの中、もうもうと砂煙を上げて大暴れする、この事態の元凶がそこにいた


















「ォギャアアアアアァァァアアッ!!!!!!」












本気でガノトトスが可愛らしく感じる

こちらを見たとたん、ディアブロスは大きく吼え、こちらに向かって猛ダッシュする
大きく砂を蹴りあげた途端、ディアブロスの巨大な体が宙を舞う


<マズイ!>とハヤテは直感し、
ヒナギクの手を引き、ディアブロスの足元に向かって走り出す


目測を誤ったディアブロスは二人の上を飛び越え、
後ろにあった渓谷に頭から突っ込んだ

大タル爆弾が炸裂した時の様な破裂音が響く
ディアブロスは、エリア4とエリア8の境となっている渓谷を、半分ほど吹っ飛ばしてしまった







無論、ディアブロスには全くダメージが無いらしい

こちらを振り向くと、腹立ち紛れに振るった尾が渓谷を更に崩壊させた








地形を粉砕して、変えてしまう程の力を持つとは・・・
『地図を書き直さなくては』、なんて事を心配している暇なんか無い










この個体……G級個体であるのはほぼ間違いじゃ無いが、どう考えても自分が前に戦った奴よりも圧倒的な力を持っているし・・・あんな攻撃のパターン、他のディアブロスは持ってもいないはずだ





ディアブロスが距離を詰めてきた
ハッとしたハヤテは、ヒナギクを反対方向に逃がす








後ろ足を軸にして、ディアブロスが大きく体を回転させる
自分を狙い、低く振り抜かれた、石斧か……もしくは巨大なハンマーの様な尾が地面を大きく削る


が、<回避性能>スキルを付けているハヤテは、それを回転回避で避ける


ディアブロスはハヤテを八つ裂きにせんとばかりに、彼を殺気に満ちた目で睨む


ハヤテは自分の武器に、スッと手を伸ばす














ーーー…カラン……と、水に入れた氷が、砕けるような音を立てる


ディアブロスは、この砂漠では全く聞きなれない音に反応する
とは言え身の安全を保つべきならば、奴はそれに反応するべきでは無かったが
















ーーー…ガガガガガッ!!!…ーーー










ディアブロスの堅い頭部の甲殻をものともせず、二メートルを越える矢が、続けざまに打ち込まれる
ディアブロスは少しその痛みにひるむが、どうと言うことも無いかのようにハヤテを睨む

















ーーー…パキ…パキパキキキッ…ーーー







しかしその瞬間、通常の砂漠どころかこの炎天下では到底有り得ない強烈な冷気がディアブロスを襲う

角や額を初めとして、矢が刺さった所から蜘蛛の巣を張ったような円形を描いて、即座に凍り付いていく
















「ギ………ギャアアアアアアアアアッッ!!!??」











ディアブロスはあまりの痛みと、身を切る様な冷気に凄まじい悲鳴を上げる

ハヤテはその隙に手に持った白銀の弓を引き絞り、ディアブロスの弱点である足に、的確に幾つもの矢を打ち込む


また矢が刺さった所からたちまち凍り付いて、ディアブロスどんどんと消耗させる














ハヤテの武器の名は、<琥牙弓・アルヴァランガ>

<凍土>と言う、一年を通して寒冷地帯に覆われる、
文字通り極寒の土地に住まう、氷と塵雪を自在に操る飛竜の一種である、<氷牙竜・ベリオロス>の素材から作成された弓で、強力な氷属性を持つ


灼熱の砂漠に住むディアブロスには、極めて有効な武器だった
















「グオオオオ…………」











ディアブロスは、更に深い唸りを喉から絞り出す


ハヤテは唇を噛んだ







はっきり言ってしまえば不味かった
……確かに、矢が刺さった所は凍り付いているのだが、如何せんこの暑さで凍った先から溶け出している







それにも増して、ディアブロスの体は思った以上に頑丈だった事にも、ハヤテは驚いた

このアルヴァランガは、最強まで鍛え上げられたG級武器だ……それにもかかわらず、その矢は奴の外角に大きなダメージを与えるには至っていなかった


これ程の耐久性を持つとは……正直、どう手を付けていいのか分からなかった




ハヤテは少し距離を取った









*                *











不味いことに先程与えた刺激によって、ディアブロスがまたキレた
黒雲の様な、大量のガスを吐き散らし、威嚇をしてくる



ハヤテはヒナギクの方を見る
武器を構えているが……多分怯えがあるのだろうか、手が少し震えているし、動きがぎこちない















我ながらバカな事をしてしまった
他事を考えてしまったため、獲物から目を離すという………自分らしく無いミスだった


勿論、ディアブロスがその隙を見逃す筈が無かった
その強靭な足は、砂煙をごうごうとあげ、その巨大な角はこちらを正確に捉えていた


ただ、ハンターとしての経験はこういうときに活きてくれ、間一髪で避ける事が出来る
数メートルを越える巨大な足の裏は、自分の隣を地響きを上げながら通りすぎた














「!」










ディアブロスが突進した先に、巨大なオルタロスの巣があるのをハヤテは見た


ハヤテは、あれに角が突き刺さって、暫く動きが止まることを期待した

前に戦ったときに覚えた事だが、近くにあった頑丈な、ああいった物に角を突き立てさせ、動けないうちに仕留めるのが得策なのだ






・・・・・・だが、それは甘い期待に終わる














「ゴアアアアアアアアッ!!!!」













ディアブロスの勢いは止まらなかった
巨大な粉砕音を立て、オルタロスのオブジェクトは呆気なく崩壊する
















「ギエエエエエエェェェエエエエエッ!!!!!」














僅かに残ったその巣の残骸を完膚無きまでに粉砕し、そのたぎり切った怒りをぶつける様に天高く吠え猛るディアブロスに、ハヤテは歯を食い縛った





































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.35 )
日時: 2013/07/24 21:31
名前: 壊れたラジオ

『角竜激昂』






モンスターの何が怖いかと言えば、
多分大抵の人は『火』や『雷』……『氷』や『水』の『ブレス』と答える


勿論、一理ある意見だ
遠距離から届くブレスは、それだけでも大きな驚異だし、<それがある>と思わせるだけで、戦う相手を逃げ腰にする事も出来る







だが、少しでもハンターを経験した事がある者ならば、モンスターの恐ろしさの本質はそうでは無いと分かるだろう







『ブレス』はあくまでも、ここぞ!と言うときの大技だ
慣れれば、それほど見極めるのには苦労しない










本当に怖いのは、あの巨大なモンスターの体から繰り出される『肉弾戦』だ

実質モンスターの戦いと言うのは、殆どがコレである
つまり、それに長けたモンスター=強敵、と言う事になる

ぶっちゃけ、ヘタなブレスを吐くモンスターなんかよりもよっぽど厄介だ













特に、その点から見ると、ディアブロスは戦闘のエキスパートだ
恐ろしく直線的で荒々しい攻撃は、動きこそ単調だが、何しろスピードが付いている


それは見る者に対し、大きな不安を与え……しかも怒り状態だと、比べ物にならないぐらい加速するから手に負えない

もはや、時間を早回しにしているかの様だ…………勿論ディアブロス限定で、だが















――――――ガガガガッ!!













ハヤテはすれ違い様に矢を打ち込んでいたが、どうにもディアブロスが弱ってきたようには見えない


それどころか攻撃を加える度にディアブロスの怒りの神経が次々と切れ、攻撃のパターンが更に滅茶苦茶に、力押しの様になっていく








ディアブロスは地を踏みならす
ハヤテは矢を矢筒から取り出した






ディアブロスの左足が空いていた
すかさずそこへ潜り込むが、突然ディアブロスが急ブレーキを掛けた
後足の鋭くはないが、重厚なかぎづめが地面をひっかいて、不快な音を立てる。






ハヤテは不意を突かれて一瞬立ち止まってしまった。












「――――――しまっ」









声が漏れた
ディアブロスが大きく首を振り、太陽を遮って目の前に黒々とした影が落ちる。

しかしそれも束の間。
ディアブロスはそのまま、その双角を掬い上げる様に振り上げた












この間、コンマ数秒だった。
この僅かな時間が、彼の生死を分ける結果となった。


ディアブロスの自慢の双角の一撃が掠めるだけで、乾いた大地が一気にめくりあげられた。
それはまるでニトン爆弾の様に巨大な岩塊が地盤から引っぺがされる















「………あ………危な…………」












しかし、自分の経験に辛くも助けられた

ハヤテは咄嗟にバックステップをすることで、角降り上げを回避した
しかし、流石に目の前数センチを振り抜かれた鋭い角には、正直冷や汗が流れた












モンスターの正面に立つことは、ハンターにとってやってはいけない事の一つである
何でか?それは誰でも分かる非常に簡単な理由からだ







モンスターの攻撃手段
例えば『牙』や『角』、『ブレス』何かがそうだが、そういうのは殆ど全てが頭部に集中しているからだ

ちなみに同じような理由で、巨大で太い尻尾のある真後ろに立つものNGだ







だから必然的にモンスターの両側に張り付いて戦うのが、ハンターの基本中の基本だ
ハンター養成学校の問題集でも、赤インクで『ここ大事!』と書かれている






と言っても、実際にそれをやるのは物凄く難しい
出来ればそれは、一流ハンターの証だ











その面でも、ディアブロスは特に張り付くのが面倒なモンスターだ
その巨体の癖にちょこまかと動くし、攻撃に夢中になっていればいつの間にか頭部がこちらに振り向いて、鋭い角の餌食となる


















――――――ズガガガガッ!!!













それでもハヤテは、今まで培ってきた能力をフルに発揮し、ディアブロスの周りを立ち回る


矢を放っては横に避け、尾が振り抜かれれば前転してかわし、
突進を避けては、振り向きざまに矢を正確に打ち込んでいく



















「フゥーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」










ディアブロスが太い唸りを、その喉から押し出す。
どう考えても怒り狂っているのは明白だが、あの黒いガスの量を見るに、どうやら怒りが頂点に達したらしい
















――――――ガンっ!!















金属の巨大な鉄球を、高高度から投げ下ろした時のような衝撃が響く

ハヤテはさっと弓を構えた


ディアブロスはその双角を大きく振り上げたかと思うと、そのままそれを思いきり地面に叩き付けた


















――――――ガガガガガガガガッ!!!!!


















何十本……何百本ものピッケルを同時に、何度も何度も叩き付ける様な音を響かせる。

ディアブロスがその角を地面に何度も打ち付けるたびに、巨大な砂埃が煙幕の様に立ち昇って、その砂色をした巨大な体を覆い尽くしている。


ハヤテは飛んできた石の塊を矢で払いのけながら、その様子を見ていた。
と言うのも、ディアブロスがその固い爪のついた前足で地面の土や石をひっかき、掻き出すたびに、人間には大きすぎる塊が次から次へと飛んできて、近づくことが出来ないだけだった。


ハヤテが手を出しあぐねている間に、ディアブロスの巨大な体は、どんどん赤茶けた地盤の中へと消えていってしまう。





その煙幕が薄くなり、石が飛んでこなくなったときには、すでにディアブロスの体が見えなくなっていた。


ハヤテは歯噛みをしながらも、素早くポーチに手を突っ込むと、一つの玉を取り出す








砂煙がまだ散っている
だが先程まででは有り得ない静寂がこのエリアを襲った


ハヤテは渇いた唇を舐めた
少しの音でも敏感になった耳には、余計な音までもが何かのモンスターの挙動のように感じた

















――――――ポフン









ディアブロスが潜った所から数十メートル離れた場所に、人の背丈程の砂柱が立つ



ハヤテはそれを見るや、手に持っていた玉を投げつけた
















――――――キイイィィン!!














玉が炸裂し、耳をつんざくような甲高い爆音を上げる
しかし、何も起こらず、それの音だけが虚しく響き渡るだけだった


















「――――――くそっ!!!」
















伏せろ!!!
悪態をつき、ハヤテはそう叫んだ


ヒナギクには、それが聞こえていたらしい
彼女は、一瞬理解が追い付かなかったらしいが、慌てて伏せる














――――――ボゴオン!!!

















彼女が伏せたのを見て、ハヤテが地面に素早く伏せた瞬間、先程までとは比べ物にならないほどの砂柱が立つ
しかしそれで済むはずが無く、地面ごと大きく吹き飛ばされた細かい砂が雨のように降り注ぎ、ハヤテたちの視界を奪った。





頭の少し上に嫌な感覚がして、ハヤテの目は勝手にそちらに動いていた。














見えたのは、巨大な足の裏。
一つ一つが人間の身の丈ほどもある重厚な爪が、前に三本、後方に蹴爪の様に生えた巨大な足の裏が、目の前を一瞬で掠めていった。






ディアブロスは、ハヤテの頭の上すれすれを掠めていき、その巨体からは想像も出来ないほどの跳躍力でかっ飛んでいく。

まるで、戦車に羽が生えて突撃してきたような勢いだった。
自分の皮膚の感覚に残る、風圧がそれをありありと伝えていた。



















そのまま、ガリガリガリッ!!と言う地面を擦る摩擦音を響かせ、ディアブロスは数百メートル大地を滑走する











ただ、これは序の口だったらしい

ガンっ!!!ともう一度頭を叩き付けたかと思うと、地面へとズブズブ潜っていく















遂に、ディアブロス……『砂原の暴君』の本領発揮と言う訳だ


ディアブロスは地中を有り得ないスピードで潜行する


砂煙がこちらに向かってきたかと思えば、その際に起こす地震に捕らえられて身動きが取れなくなる





それを何とかかわしても、ディアブロスは地中からの突き上げを連続で仕掛けてくる



飛び出したかと思えば、攻撃の届かない地中へとあっという間に隠れてしまう



それ以上に厄介なのは、あの巨体と素早さが、異常にマッチしている事だ


ディアブロスは地中で大きく体を捩り、強力な回転と捻りを掛けながら飛び出してくる
こうする事でライフル構造を施したボウガンの如く、正確に、凄まじい威力の攻撃を浴びせて来るのだ













殆ど打つ手が無かった



そして、ハヤテは薄々気づいていた予想が、見事に的中してしまった事に歯を食いしばった














「<音爆弾>は、ディアブロスがキレている時は効果無し・・・・・・か」












普通ディアブロスは非常に鋭い聴覚を持っているため、地上の生物に対してこんな芸当が出来るのだが、それを逆手に取り、大きな音を放つアイテムの<音爆弾>を使うことで、無理矢理地上に引っ張り出すことが出来る




それどころか、音に驚いたディアブロスは自らの掘った穴に引っ掛かり、
こちらにとっては大きな攻撃のチャンスとなるのだ













しかし、どうやらキレているディアブロスはその爆音すら気にも止めないらしい

恐らく、怒りが全ての感覚器官をも、それによって入ってくる情報すらも凌駕し、打ち消してしまっているのだろう…・・・とハヤテは推測する



















「…万事休す………か…」






ハヤテはそう、呟いた










































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.36 )
日時: 2013/07/25 21:36
名前: 壊れたラジオ

『反撃開始!』







モグラ叩きと言うゲームを知っているだろうか
穴から出てきたモグラを、ハンマーでぶっ叩くアレだ

こっちの世界では、巨大なモンスターを、
これまた巨大なハンター用のハンマーで叩くのを想像してしまうが……まあ、それをとりあえず考えてほしい







こちらは、今その状況に陥っていた
……ただし、ぶっ叩かれるのはこっちの方だ

と言うよりも『モグラがキレて、プレイヤーに襲いかかってくる』が正しい






けれど、いくらなんでも三十メートルを超えるモグラに地中から約五メートルの角で貫かれるのは勘弁してほしい












「…っと!」
「きゃあっ!!?」








ディアブロスが飛び出してくる

弾丸の様なスピードで、しかも影の映らない地中から飛び出してくるものだから正直手に負えない



ドガガガガ!!!と地中を掘っているとは到底思えないスピードで、
またしても地中に姿を隠してしまう













「………どうするの!?」







ヒナギクが焦ったような声で聞いてくる





ハヤテは頭をフルに回転させる

しかし、この極限状態・・・つまりは、ディアブロスがいつ飛び出して来てもおかしくない状況では、何かいいアイデアが浮かぶとは考えにくい

それを聞かれても、どうしろとは答えられない














「・・・とにかく、あの角をどうにかするかが鍵なんですが……ねぇ…・・・」







ハヤテは今すべき最優先事項を考えるが、出てきたのは今この状況では本当にどうしようもない事だった






第一攻撃しようにも、相手は土の中

つまりは、ボールを一方的に、何処から投げ込まれるか全く分からないドッジボールの様なものだ
しかもキャッチは無しであり、してはいけない(出来ない)・・・あんまりだ





ピシッ、と言う音を上げ、地面がひび割れて持ち上がる

ハヤテはヒナギクを突き飛ばす
その瞬間、またしても巨大な砂柱が立ち、ディアブロスが飛び出す














「グルルルルル…………」







どうやら、怒りが収まる気配は一向に無いらしい









(くそっ!)



せめて、怒り状態を解除する事が出来れば!!!
そうすれば、まだ有利な戦況を狙えるのだが、そんな簡単に事が運ぶはずが無い


考えて見れば当然の事だ
自分の命を狙う奴に出会って、平常心を保てる奴がいたら見てみたいぐらいだ












*                *











さて、現実問題でどうする?
どうにかしないと、此方が生きて帰れるかどうかもあやしい


こんな風に改まって考えた所で何か良いアイデアが浮かんでくるとは思わなかったが、そうでもしないとやっていられなかった









ハヤテは藁にもすがる思いで走りながら、攻撃を躱しながらポーチを探る






音爆弾?
さっき効かなかったじゃないか





閃光玉?
使ったときのアイツの暴れっぷりを見た上で言ってるのかい?





回復薬?
今は取りあえずいらない







石ころ?
……何で僕こんなもの持ってきたんだろう?









ああもう!!!とハヤテは頭を抱える

取りあえず、今の状況を打破出来るようなアイテムは無さそうだ……と言う、何とも嫌な結論が出てしまう














「ーーーー…おわっ!!?」






ディアブロスが蹴りあげた岩が飛んでくる
ハヤテはそれを、大きく体を捻ってかわす


しかし、そのせいでポーチの中の1つ……矢に装着するビンを入れた方の蓋が外れ、シリンダが一本飛び出して地面に落ちる





ハヤテは慌てて拾い上げた
そのビンが割れていないかどうか、素早くチェックする




そのビンに張ってあったラベルを見た途端、唐突に物凄く良いアイデアが頭に浮かんだ












(もしかしたらーーー)



失敗したらそれまでだが……いけるか?











ハヤテはキッと顔を引き締める
ヒナギクを大声で読んだ








「何!!?」
「僕がしばらくアイツの気を引きます!!!それでアイツがまた地面に潜ったら、コレを使ってくれませんか!!?」







ハヤテは、ポンとあるアイテムをヒナギクに手渡した…丸っこい灰色のそれは、<音爆弾>だ













「何言って…?ーーー…さっきは効かなかったじゃない…ーーー」



怪訝そうに……そして不安そうに言うヒナギクに、
ハヤテは困ったように笑う












「これから先、一生僕を信用しなくても良いですから……今回だけは、色んな事を抜きにして……僕を信用してくれませんか?」











ーーー別に信用してない訳じゃないけど…とヒナギクは言おうとするが、ハヤテはバッと振り返ってしまう












「・・・っと!!来ましたよ!!!」







ディアブロスが突進してくる
二人はギリギリで両サイドにかわした



ハヤテが、交戦を始めた








ヒナギクは、それを見て、ただ『凄い』と感じた






ハヤテは一撃も貰わない
射ってはかわし、転がって回避しては甲殻の継ぎ目に過たずに矢を打ち込む






彼女は色々な感情を抜きに、彼が何か・・・・・・他の人とは違うと感じた















ーーーまるで、何かに選ばれたかの様な…ーーー














他人をそう思うのは、初めての経験だった


















「ーーー…オオオッ…ーーー」



ディアブロスがうめく
その隙は命取りだ








ハヤテは弓にビン……今回の切り札をセットする


カシャン!!!
そういう音を立て、“その薬品”の匂いが鼻をつく






ハヤテは眉をも動かさず、ビンの効果を付加した特殊な矢をディアブロスの顔面目がけて射つ





矢が、全弾命中する
ビンの内部の薬品が、霧のようにディアブロスの頭部の回りにまとわりつく
















「グ…………オオオッ!?………」







まるで窒息するかのように、喉を潰されたような声をあげた


本能的にまずいと思ったのか、ディアブロスは一目散に地面に潜る














ハヤテはこれで良し、とばかりにニッと笑った
































ーーー…キイイイイン!!!…ーーー





































「ーーーー…グオオオオッ!!??」










爆音が鳴り響いた
その甲高い快音は、砂原の大地を震わせた

ディアブロスは潜った途端、その音に驚いて飛び出してきた
ついでに、自分が掘った穴に埋もれ、前足の翼をじたばたと羽ばたかせている











ディアブロスは、苦しげな声をあげた
此方にとっては攻撃の恰好のチャンスだった


ハヤテはヒナギクを見た
彼女は、何が起こったのかを、良く理解していない様だった


それを見て、ハヤテはニコッと笑う












「さあ」







ハヤテは、弓に別のビンを付け替えた
カシン!と小気味良く、シリンダが装着される

















「反撃の時間です」
















*                *














「やあああああっ!!!」






ヒナギクの飛竜刀が鞘から抜き放たれ、日の光を反射して光る


じたばたと動いているとは言え、地面に体が固定されている分、攻撃の当てやすさは雲泥の差だ

甲殻に切りつけ、その度に小さな火炎が刀身に舞い踊る







ハヤテはディアブロスの頭部に、<強撃ビン>を装填した矢を射つ

<ニトロダケ>のエキスを含んだそれは紅いエネルギーの閃光を放ち、アルヴァランガの生み出す氷の欠片と共に飛び散る















流石のG級個体でも、コレは堪えたらしい





















「ゴオオオオオオオオッ!!!!」





ディアブロスは雄叫びと共に、その巨体を無理矢理引っこ抜いた

滅多に使うことのない、前足の翼で宙を掴む


あの巨体で飛べること自体驚きだが、そう長くは飛べない



しばらく飛んだかと思うと、一目散に地面に潜っていく


ハヤテはまた音爆弾を投げた

















が、その快音が鳴り響くよりも速く、砂煙を上げてエリア8の出口へと向かっていく



















そしてディアブロスは奴の本来の生息地である、砂漠地帯……<エリア9>へ続く道へと、姿を消した







































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.38 )
日時: 2013/07/28 10:29
名前: 壊れたラジオ

『砕ける時』












「でも……どうして音爆弾が効いたの?」





ヒナギクがそう尋ねてくる
まあ、当然の質問だろう

ハヤテはシリンダの中からビンを一本取りだすと、種明かしをした











「?」



ビンの中には、青い液体が入っていた
眉を潜めるヒナギクに、ハヤテは説明した














「これ、<減気ビン>と言うアイテムなんですが………」







<減気ビン>
弓にセットできる特殊攻撃用ビンの一種で、強力な疲労効果を持つキノコである<クタビレタケ>のエキスをたっぷりと抽出したものだ





これが当たると息苦しくなり、急激にモンスターのスタミナが減っていくと言う効果を持ち、非常に短時間だが、モンスターを疲労させる事が出来る











「これで奴を疲労状態にすることで、一旦怒り状態を解除出来ると思ったんですが…」



ハヤテは苦笑した
ヒナギクはそれに、溜め息をついた












「そういう事なら、事前に言ってくれれば良かったのに…」



あはは、と渇いた笑いがハヤテから漏れた












「いやあ……僕もやった事無かったですし……ディアブロスに効くかどうか、自信無かったですしねぇ………」












かなり危険な賭けだった、とハヤテは感じていた

もし効いていなければ、今頃あの猛攻の中にいたか……もしくは、殺られていたか
そのニ択だった




ハヤテは、ポーチに減気ビンをしまい直した












「・・・・・・多分、減気ビンで疲労させる事が出来るのは……恐らく、あと一回だと思います」



ハヤテはビンの残量から、そう判断した
余分な物を持ってくる余裕は無かったし、ビンの調合も出来ないから、残った分を大切にしなくてはいけない












「残りは切り札って事ね」





ハヤテは頷いた











「急ぎましょう……<減気ビン>の効果はかなり短いですから、アイツがスタミナを回復する前に、ダメージを与えておかないと…」



それに放っておけば、食事をすることでスタミナをさっさと回復してしまうかもしれない


ハヤテは、ディアブロスの逃げた方向に向かおうとした














「・・・・・・ヒナギクさん?」



彼女が来ないのを不審に思って振り返ると、そこでヒナギクは立ち止まっていた
鞘から飛竜刀を抜き、それを見つめている

武器を研いでいる訳では無いらしい












「どうしたんですか?」
「え…?ああ、うん…」



ハヤテが問うと、ヒナギクは困ったような……作ったような笑いを浮かべた

飛竜刀を持つ手がおぼつかない













「・・・さっきから戦ってて、薄々気付いてたんだけど…」



ヒナギクは目を、刀に落とした









「…ディアブロスには、私の飛竜刀の<属性>は殆ど効果が無いみたいなの・・・」










そういう事か・・・

ヒナギクの飛竜刀は、強力な火属性を持つ
つまり、火に弱い敵には絶大なダメージが期待出来るが、逆に火に強い敵……
例えば、この灼熱の砂漠に住むディアブロスには殆ど効果が無い







ただ、切れ味と攻撃力が優秀なので、それを頼りに一応戦えるが……それでも、心もと無いんだろう


それに彼女はあの後、直行でここに来たはずだ
武器の事を考えている暇なんて無かったんだろう


ハヤテは頭を掻いた











が、その時に自分の武器とヒナギクの武器を見て、パッと良いアイデアが思い付く














「…そうだ」



声をあげる
自分ではどうか分からないが、恐らくはきっと、顔はパッと輝いていただろう

それを見て、ヒナギクは首をかしげる













「ちょっと耳を貸してくれませんか?」



ハヤテは、何かイタズラを思い付いたかの様な顔でヒナギクに笑いかける

つまりは、飛びっきり良い笑顔で















「…ディアブロスの双角を破壊する、良いアイデアがあるんです」










*                *













「…ガフッ……ガッ……ガツッ…」



ディアブロスは、エリア8の隣……エリア9に来ていた




先程までハヤテが走っていた広大な砂の大地で、他の生物を寄せ付けない風格を持つ土地であったのだが……ディアブロスにとっての絶好の住処だった


そしてそこに生える、この砂漠独特の植物である<サボテン>を、ディアブロスは一心不乱に貪り喰っていた










意外と言うか何と言うか、
なんとディアブロスは、かなり珍しい『草食性』の飛竜なのだ

だったらどうしてあんな凶暴でこんな攻撃性を持たなくてはいけないんだ、と言うのはほとほと疑問だ


しかし研究が進んでいない今、そんな食生活でよくもまああんなパワーが出せるものだとしか言うことができない















「・・・見つけた」






ハヤテは武器に手をかけた
近くにヒナギクもいるはずだが、その姿は見えない


数百メートル先で、脇目も振らずにサボテンを喰うディアブロスに向け、ハヤテは一矢を放つ












ひょう…と風を切り、大気中の僅かな水分を凍てつかせ、
フロストの反射を煌めかせた矢が、ディアブロスに命中する


こちらを振り向いた












『またお前らか』と言う怒りと、食事を邪魔された怒りがディアブロスを再び激昂させる




ディアブロスが砂漠を踏みしめると、足が砂にめり込んで「ミシッ」と言う音を立てた






ディアブロスが距離を詰める
この足場の悪い砂原で、一向にスピードが落ちないのが恐ろしい


しかし、ハヤテはそれを避けない
ディアブロスを、ギリギリまで引き付ける……防御力の低いガンナーにとっては、これは決死行にも近い















「ーーー…っと!!!」











ディアブロスはハヤテに角を突き立てた

それをかわしたハヤテは、ディアブロスの角に向かって、何本か矢を射った

一矢ごとに凝結した水分が舞い散り、さながらダイヤモンドダストの様な光を煌めかせる











しかし、その角は健在だった
舞い散る霜にも、全く動じない














・・・予定通りだ

そう思いつつ、ハヤテは執拗なまでに頭部を狙う

あまりの冷たさにディアブロスは叫び、ハヤテの攻撃を激しくする


黒い息は、最早天にも届きそうだ






















ーーー…カシンッ!!!…ーーー



ハヤテが素早くビンをセットする
今回の切り札たる、<減気ビン>だ














ディアブロスの死角、ちょうど顎の下に入り込む

ハヤテはディアブロスが気付く前に、それを打ち込んでいた






青い閃光が幾つも散る
減気属性を帯びた矢が、ディアブロスの頭部に命中する

















「……グ……オオオオ……」






またしても、喉元を絞めるような息苦しさに襲われるディアブロス

このままでは埒があかないと思ったのか、ディアブロスは凍り付き、この砂原ではまず目にすることがないであろう、白く冷たい蒸気をあげる角を地面に突きたてて勢いよく潜っていく
















ーーーー…今だ…ーーーー








ハヤテは音爆弾を放る

キイイイン!!!と言う音は、疲れ・・・音に敏感になったディアブロスの鼓膜を揺さぶる



















「ギエエエエエエエッ!!??」







たまらず飛び出してくるディアブロス












(ーーー…よし)



ハヤテはニッと笑う
そして、大声で叫んだ

















「ヒナギクさん!!!」




その合図と共に、近くの岩場に隠れていた彼女が走ってくる


その手が飛竜刀に掛けられ、その目は凍てついたディアブロスの双角を捉えていた


















「てやあああああああっ!!!」








ヒナギクが、最大の力を込めて飛竜刀を降り下ろす
双角に刀身が触れ、チリ……と火花が舞う


















ーーーー…弾かれるか?…ーーーー



ヒナギクはそう思ったが、今回はそうはならなかった




































ーーーー…バゴオオオオオオオン!!!!!…ーーーー






























そんな凄まじい音を立て、ディアブロスの名の由来となった双角は、砕け散った












































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.39 )
日時: 2013/07/28 11:55
名前: 壊れたラジオ

『ディアブロスの根城』







『熱疲労』
高温、ないしは低温の物体を、
急激に冷却、加熱した時に起きる現象で、それを受けた物体は非常に脆くなり、砕けやすくなる



















「ギ……エエエエエエエェェェッッ!!!!」











ディアブロスが、体を半分埋めたままで、凄まじい悲鳴をあげる


ディアブロスの角は片方が根本から折れて、砕けた


上手く行ったことに嬉しいのか、驚いているのか・・・・・・信じられないという表情のヒナギク



















「ーーー…よっし!!!」











ハヤテは思わずガッツポーズをする
そして矢筒から、一本矢を取り出した


















「…もう、一発!!!」








ハヤテは逆手に持ったそれを、ディアブロスの頭部に降り下ろす


















ーーー…ズバンッ!!!…ーーー




矢に付いていた鋭利な鏃は、
ヒナギクの攻撃を受けてボロボロになっていた、もう一本の角を切り落とした
砂とともに、氷が石英の様に輝く


見ると、ヒナギクがこちらを驚いた様子で見ていた







当然だ
弓はあくまでも遠距離武器だ
こんな近接戦闘には、お世辞にも向いているとは言えない

それでも、ハヤテは矢切りと言う技を使ったのだ

















ーーー…本意が伝わったなんて、思っていない…ーーー





それでも、構わなかった


















「ウオオオオオ………」



ディアブロスがうめく
今まで聞いていたのとは違う……明らかに弱りきった声で












これだけの猛攻を受けて、なお生きていられるディアブロスの生命力には少し驚かされる
しかし、それも後少しだ













ディアブロスは地面を堀り始める
角が折れ、潜るのが困難になったはずだが、命の危機が迫っている今、そんな事に頓着する余裕は無いらしい










両の前足を使い、大量の砂を掻き出して潜っていく
そしてその姿は、完全に見えなくなった












*                *













二人はその場に座り込み、ゼーゼーと荒い息を吐いていた


そして同じ事を考えていたのか、お互いに目が合った
















「…上手く、行ったわね…」








ヒナギクが笑う
初めて見た………彼女の本心からの笑みだった
















「そう……ですね」



ハヤテはそれに微笑んだ

本心など、伝わらなくても良かった

それでも今、この時には………確かに自分達の間に『信頼』の二文字があるような気がした


ハヤテは、親指を立てて見せた


ヒナギクはそれを見て、またニコリと笑った



















「…でも、どうするの?………潜って行っちゃったし……何処にいるのか…」
「え?……ああ、それなら大丈夫ですよ?」







心配そうに言うヒナギクに、ハヤテはビンを弓から取り出した














「…<ペイントビン>…?」








いつの間に付けていたんだろう?
彼の手腕には恐れ入るわね……とヒナギクは感じた







まあ、折角あそこまで追い詰めたのに、倒せなかったとなったら……もはや地団駄ものだ


ハヤテがペラッと地図を捲る
















「…恐らく、ここですね」



ハヤテは、地図上の一点を指差した

















「<エリア11>……やだ、かなり遠いじゃない…」










それを見て、ヒナギクは溜め息をついた

ここからだと、かなり時間がかかりそうだ





エリア11は地図のかなり下の方で、一応ルートはあるが物凄く要り組んでいるし、下手をすれば、迷ってしまいそうな奥地だ


そんな彼女を見て、ハヤテは苦笑した

















「大丈夫ですよ……エリア11には簡単な行き方があるんです」









さ、行きましょうか、とハヤテが促す


一瞬、ハヤテがちらりと上を見た
先程まではそれどころでなく気付かなかったが、相当な時間が経ってしまっていたらしい

日が、傾きかけていた












早いとこ、終わらせなくてはいけない


ヒナギクは、ハヤテの後を走っていった










*                *















「…で?……ここがその近道なわけ?」



エリア9の隣……と言っても、その砂原の延長であるエリア10に侵入した二人









しかしヒナギクはハヤテの言う『近道』を前に腕を組み、不機嫌そうな顔で仁王立ちをしていた














「ええ、そうですけど…」









何を言っているんだ?というニュアンスで尋ね返すハヤテ
ヒナギクは眉間のシワを、更に濃くした

先程までの信頼感は何だったんだと言わんばかりだ
















「…ハヤテくん……さっき、『これから自分の事を信頼しなくても良いから』って言ってたわよね?」
「え…?……まあ………はい」







一体何の事なんだ?とハヤテは首をかしげた
















「…今決めたわ・・・私、あなたの事一生信頼しないから!!!」
「えええっ!?」







思わず絶叫した
・・・なんだなんだ?自分はまた何かやっちゃったんだろうか?とハヤテはあっけにとられる


















「で、でも……早くディアブロスを倒しに行かないと…」
「そうね……でもそれとこれとは別問題よ」
「えっ・・・えええ〜〜〜〜………」









ハヤテの頭は、クエスチョンマークで一杯だった

何が一体、そんなに気に入らないんだろうか?

こんな安全な近道を避ける手は無いと思うのだが

















「…だって…………だって…」
「…?」









フルフルと体を震わせ、うつ向く彼女
その顔は、耳まで真っ赤だった














「だって!!!そこ『崖』じゃないのよ!!!」




?…よく分からず、ハヤテの頭には先ほどよりも多くのクエスチョンマークが浮かぶ

エリア10とエリア11の間には、巨大なクレバスがある






普通なら、大きく遠回りすることになるが、
ここを飛び降りれば、素早くエリア移動が出来るのだ














しかし・・・・・・え?そんな理由?


















「え?大丈夫ですよ?鎧を着けてれば、飛び降りても特に問題は…」
「…そ……それは……その…」












ヒナギクは、もごもごと口ごもる



しかし、ここを飛び降りるのが一番近いのだし・・・・・・って言うか、このぐらいの崖の飛び降りは、ハンターにとって日常茶飯事なのだが・・・











と、そこで彼女の様子がおかしいのに気づいた

足が自然に内へと向いてカクカク震え、手はまるで痺れているかのようだ












そして極めつけに、顔は凍っているんじゃないかと思うぐらいに青い
ハヤテははっとしたような顔をして、むすっとしているヒナギクに問いかけた

何よ、とわたし不機嫌ですと言いたそうな声が響いてくる















「…あの……ヒナギクさん?ヒナギクさんってもしかして…」






彼女の体がビクッと震えた

多分、自分の予感は当たっているんだろう















「…『高所恐怖症』…なんですか・・・・・・?」













ビンゴ・・・かよ
彼女は顔を上げた



青くなったと思えば、次の瞬間には真っ赤に染まる

















「何よ!!そんなにおかしいの!?」
「あ、あ〜……あの時の渓流の崖での一件って……そういう訳だったんですか…」
「〜〜〜〜っ!!!…ああもう!!!そうよ!?悪い!?」














ーーー…悪くは無いけれども…ーーー
と、噛みついてくる彼女に、ハヤテは曖昧に返した













「…と言うか……じゃあ今まで、高いところからの移動って、どうしてたんですか………」










ヒナギクは拗ねたらしい
フンッ!と鼻を鳴らしてそっぽを向く
しかし見つめてくる自分に観念したのか・・・














「…迂回して、降りてたわよ…」









小さな声でボソボソと言う彼女に、ハヤテは少し吹き出してしまった

















「あ!!今バカにしたでしょ!?ねえ!?」
「ははは……仕方ありません……迂回しましょうか……『時間は』かかりますが」
「何その嫌味ったらしい言い方!?良いわよ!!コレくらいの崖、すぐに飛び降りて………」









ぷんぷん怒りながら、崖に向かっていくヒナギク







しかし崖を除き込んだ途端、彼女の視界はグワン…グワンと揺れ始めたらしい
















「…コレくらいの崖………崖………ガ…」














どんどん言葉が片言になっていく
・・・強がってはいるものの、限界なのは明らかだ

後ろにいるから見えないが……多分、彼女の目は涙目なんだろう







ハヤテはヒナギクの肩に手を置いた

ビクッと震えたあと、こちらを振り向いた彼女に、ハヤテはおかしそうに言った





























「…もう一つのルートを使いましょう……お勧めの、近いルートがありますから」







































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.40 )
日時: 2013/07/28 17:30
名前: 壊れたラジオ

『砂原の斜陽』





崖の上のエリア10と違い、狭い渓谷となって両サイドに崖のあるエリア11は日があまり当たらない
クーラードリンク無しでも、暑さを感じない程だ






それに砂原の中でも比較的入りにくい地形であるため、飛んで渓谷を降りるか、地面を潜るかが大型モンスターのここの侵入ルートの二択だ








つまり敵の大型モンスターが入ってきにくい、最高の寝床と言うわけだ
・・・ただし、彼らより圧倒的に小さいハンターは例外だ















「…いた」









二人は、少し遠回りをしたが、結局はここにたどり着いた
エリア10の奥にある洞窟、そこはこのエリア11の渓谷に繋がっていた










二人が出た場所は、狭い渓谷の中では比較的広い場所だ

上の砂漠であるエリア10から、サラサラと小さな滝の様に、砂が流れ落ちる





二人は、エリア11の入り口にあった小さな岩の側に身を隠す


非常に静かな、閑散としたこのエリア11に……それに似つかわしくない、大きな音が響いていた








大きな音の元は、勿論ディアブロスだ
その巨大な体を丸め、大きないびきをかいて寝ていた


ハヤテはポーチから、ハンター生活に於ける重要アイテム……<シビレ罠>を取りだし、隣のヒナギクに目配せする











ヒナギクはこちらの意図を理解し、コクッと頷いた




ハヤテは、それを仕掛けようとディアブロスに近付く

この役目は、どんな熟練ハンターでも全く気の抜けない危険なものだ

ハヤテは足音を一切立てないよう、慎重にディアブロスに近づいて行く














「…ガウ」











心臓が跳ね上がった
声を出してしまいそうになり、慌てて口を塞ぐ







そして、声のした方を恐る恐る振り向くと・・・
・・・そこにいたのは小型肉食モンスター……<ジャギィ>だった















・・・今このタイミングでくるかよ!?


ハヤテは内心、物凄く焦る









確かに、この辺りはジャギィの縄張りである事は知っていたが……こんなディアブロスみたいな化け物がいるところにわざわざ入ってくるなんて…

…よっぽど縄張り意識が強いのか……それとも、空気の読めない只のアホなのか……











頼むから動かないでくれよ、と思うハヤテ
だが……ハヤテの願いに反し、ジャギィはこちらを一瞥した後・・・・・・あろう事か、ディアブロスにちょっかいを掛け始めた


















ーーー…ブンッ!!!…ーーー





















縄張りを守ろうというジャギィの勇気は良かったが、実力が伴わなかった
過ぎた勇気は、『蛮勇』である








キャンッ!!!と言う情けない声を上げ、ジャギィが吹っ飛んだ


寝起きのモンスター、
…特に無理矢理起こされた奴は、総じて機嫌が悪くなる










ジャギィを降り飛ばし、こちらに向かってくる尾……完全に不意をつかれた


巨大な尾の先のトゲ付きのハンマーが命中する








痛いなんてもんじゃない
まんま鈍器で殴られた様な、鈍く……そして凄まじく熱い、焼け付く様な痛みが体を駆け巡る


ハヤテくん!とヒナギクが叫ぶのを聞いた















ーー…ダメだ、今叫んじゃ…ーーと言おうとするが、痛みに口を開ける事すらままならない……喉が潰れたような、かすれ声が漏れた








ディアブロスがこちらを見た
いい加減、このうざったらしい人間を叩き潰してやろうと思ったのかも知れない















…後ろは崖……絶対絶命だった

ディアブロスは低く頭を下げる
後ろ足を蹴りあげ、こちらに突進してくる

















「やああああああああっ!!!」


















ーーー…ガキンッ!!!…ーーー






金属が岩に当たって弾かれた様な音がした


一瞬遅れて、ヒナギクがディアブロスに切りつけたのだと知覚する


渾身の一撃はディアブロスの頭殻に命中したが、あまりの堅さに大きな火花を上げて弾かれてしまった
悲鳴を上げ、彼女は反動で吹き飛ばされる







…が、それによってディアブロスの突進の方向は、ハヤテから逸れた
凄まじい衝撃を立て、ディアブロスはハヤテのすぐ横の崖に突っ込んだ















ハヤテにとっては、充分過ぎる時間だった

痛む体を無理矢理立たせ、ディアブロスの足元をすり抜ける

ディアブロスは襲いかかってきたヒナギクを見、ハヤテの方を疎かにしていた



















ーーー…バチンッ!!!…ーーー















電気がはぜる音がした
空気が変質して、異臭がするほどの大電流がほとばしる

ハヤテが先程居たところには、黒い円盤……シビレ罠が仕掛けられていた



















「ギャエエエエエエエエッ!!??」











ディアブロスは体を硬直させた
シビレ罠から放出される大電圧で、体がピクピク痙攣する
もがこうにも、そのもがく為の筋肉が硬直しているため、為す術が無い

ハヤテは、<捕獲用麻酔玉>をヒナギクにポンッと手渡した
彼女は呆気に取られた顔をした
















「…早く………シビレ罠の効果が切れますから……止めを」










ヒナギクは頷いた
痙攣するディアブロスの頭に、過たずに麻酔玉をぶつけた


白煙が上がる
それを吸い込んだディアブロスは、
一つ長い息を吐いたかと思うと、そのまま地に倒れ伏した














*                *
















ディアブロスを運び出すのは、思った以上に大変だった

何しろ重いから、ギルドの人間を何人係りかでディアブロスを積んだ荷台を運び出していたのだが…ハヤテは、それを遠巻きにぼうっと見ていた













…トン、と肩に何かが当たる

見ると、レイアSヘルムを外したヒナギクの頭がそこにあった
その桃色の髪からは、リオレイアの革の匂いに混じり、何かの洗髪料の匂いが、ふわっとハヤテの鼻腔を擽った













・・・終わったのね、とヒナギクが呟いた
ハヤテは、薄く笑って言った
















「さっきは、有り難う御座いました…僕もまだまだ甘いですね……」



ハヤテがそう言うと、ヒナギクの表情が少し陰る
偉そうな態度がくると思っていたハヤテは、少し面食らう














「…良かったの?」
「?……何がですか?」








彼女の背は、自分よりも低い
当然の如く、下から尋ねてくるヒナギク

ハヤテは質問の意図が分からず、聞き返した














「その……私が止めを刺したこと…良かったのかなって」
「…!…ああ、その事ですか…」








ハヤテは苦笑する
自分に取っては『誰が倒したか』よりも、『倒せた』と言う事実の方が大事だったから、気にしてもいなかった







ーー…しかし、彼女に取っては確かに気にする事だったのだろう……少し配慮が足らなかったか、と思う














「そっか……」



ヒナギクは、ハヤテの少し前に立つ
こちらを向かず、反対側を向いたまま、ハヤテに話しかけた

















「…私ね……あなたに怒って欲しかったの」



ハヤテは彼女の告白に、虚を突かれた様な顔をした……意図が掴めない














「え〜〜と……その……あなたは怒って貰って悦ぶ、変人なんですか………?」
「…ぶっ!!?違うわよ!?えっと……そうじゃ無くて……」
















あらぬ誤解をされたと思ったらしいヒナギクは、
後ろ見でもそれと分かる程に動揺して、言葉を濁してしまう

ーー…しかし、言いたいことがまとまったのか、さっとこちらを向いた















「…だからね?あなたが私を怒らずに笑った時………自分が、物凄く情けない奴に思えたの……人から『怒られる価値』も無い人間なんじゃないか………ってね」









彼女は、それきりうつ向いてしまった

ーー…何が言わなくては、と直感的に思った

きっとここで何か言わなくては、全てが終わってしまうと……今回の事が、きっと無駄になるだろう、と










でも、きっと彼女は……ありきたりな慰めの言葉なんて、求めてやしないだろう
彼女の、最後に残ったプライドを、ズタズタにしてしまうから…














ーー…だとすれば…ーー


ハヤテは大きく息を吸い込んだ


















「あ〜〜……そういえば……僕のモンスター図鑑、一ページだけどっかに行っちゃったんですよねぇ」








ヒナギクは顔を上げ、ポーチを探り始める













「それならここに……」
「ま、話は最後まで聞いてください」



ハヤテはヒナギクを遮った
彼女は要領を得ないらしく、首をかしげる











「無くなったページは、また書き直さなくてはいけません……そしてどうせ書くなら、より正確なものを書きたいじゃないですか」



ハヤテは、ヒナギクを見据える
















「僕が書くと、どうしても<ガンナー>への注意点ばかりになりますから、剣士の人の意見も入れたい訳ですよ・・・…そうすれば、みんなが少しでも、安全に狩りが出来るでしょう?」



彼女は目を見開いた
その意図を把握したらしい



















「…どうですか?『ディアブロス』のページは、一緒に書くと言う事で……それで埋め合わせをしてくれませんか?」






ヒナギクは少しの間、驚いた顔をしていた
…が、すぐに破顔する

















「仕方ないわね……良いわよ、私の撒いた種だし……とことん付き合ってやろうじゃない!」










ーーー…もう、大丈夫かな

笑顔になったヒナギクと握手をしながら、ハヤテはふとそう思って表情を崩した
















「もう遅いですから、今日はこの近辺の村で一泊しましょうか」
「そうね…あ、勿論宿代はハヤテくんの奢りで♪」
「なんで!?僕今回採取クエストと言う名目で来てるから、報酬ほとんど無いんですよ!?」
「こうなった元凶は誰かしら♪」












ーー…ぐ、と言葉に詰まる


夕日に映え、黄金に輝く砂原を歩いていく二人



ハヤテは、ふと立ち止まった















「どうしたの?」



ヒナギクは、それにつられて立ち止まる

ハヤテはどこからか、何かを大きなものを取り出すと、ヒナギクに放る


逆光で何か分からなかったが、それをキャッチする


















「今回の報酬です……山分けってことで」



ハヤテはそう言って、ニッと笑う


それをまじまじと見詰めると、
それは、『ディアブロスの捩れた角』の内の一本だった

















「…いいの?ギルドに断りも無く…」







ハンターズギルドは、こう言う貴重なものを欲しがるはずだ
さっきハヤテは、ギルドの人達に『無くした』と答えていたけれど…・・・

















「良いんじゃないですか?ギルドはそこまで厳しくないですし………それに……」
「?」



ハヤテは、微笑んだ















「これは今日の狩りの思い出と言うことで、どうですか?」



ハヤテはそう言って、ポーチに双角の片方を押し込んだ


ヒナギクは、ハヤテの笑顔を何故だか見ていられずにうつむいた













ーーー…顔が熱い


ヒナギクはそれを、無理矢理砂原の夕日のせいにして、
ハヤテと同じようにディアブロスの角をポーチに押し込んだ



ハヤテはそれを見て、微笑みを一層深くした

そして、また歩き出す
















「?…どうしたんです?」



ヒナギクが立ち止まったままなのを不審に思い、ハヤテが尋ねる

その顔が夕日よりも赤い理由を、彼は知らないだろう……なにせ、自分でも分かりかねているのだから

















「…ううん、何でもない♪」



そっか、と言ってハヤテはまた歩き出す


少し、距離が離れた
声が聞こえて仕舞わないよう、ヒナギクはふっと口を開いた

















「…ありがとう……ハヤテくん…」







その言葉は、ハヤテには届かない



ーーー…それで、良かった

















「?何か言いました?」
「ホントに何でもないったら!」












アオアシラの時とは違う、晴れわたった心にヒナギクは何となくむずかゆいものを感じ、彼を追って行った



























彼女の頭上には一片の雲もない、晴れやかな空が広がっていた













































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.41 )
日時: 2013/07/28 17:37
名前: 壊れたラジオ


……どうだったでしょうか?

これで、ディアブロス編とでも言えば良いのか……は終了です


いや、ヒナギクさんは負けず嫌いなイメージが先行したのでこう言う役回りになったわけですが…

……正直、すみませんでした




この話はあともうしばらく、このスレッドで続きます


次回、あの少女の登場です



では………



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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.42 )
日時: 2013/07/30 21:07
名前: 壊れたラジオ

ーー何時からか、退屈していたのかもしれないーー

ーーこの、変わる事の無い毎日にーー

ーー自分は求めていたのかもしれないーー

ーーこの答えの無い迷路に射す、一片の光を…ーー

















『少女の憂鬱』





















<ユクモ村>



温泉の独特の匂いがふわりと立ち上る
ここならではの、温泉街の匂いだ



村の周りに生える美しい紅葉と共に、愛でる人の多い、そんなユクモ村の午後であった









人が出てきたようだ
恐らく、外はもう夕刻なんだろう











ーーもう、そんな時間か…と彼女はふと、微睡みの中の僅かな夢現から帰還する
















「…ヒマだ」







そう、思った
自分が意識を手放す前も、そんな事を思っていたのだろうか、頭の上に広げられていた雑誌をヒョイッと退ける







彼女は、その金髪がぐしゃぐしゃになっているのを、さして気にも止め無かった
その目は、ぼうっと天井を見据える



よく眠った後と言うのは、動き回った時にも増して体が怠く、起こすのが億劫なものだ
急いでいる時ほどそれが顕著だが…・・・彼女には、特にする事が無い




それに、ここには現在彼女一人
つまり、誰にも邪魔されない最高の微睡みタイムと言うわけだ……これはなんてデイドリームだろうか












「…ふう」







彼女は考えるのが煩わしくなり、足をだらんと伸ばした
このまま起きていれば、いずれ更に煩わしい事を考えなくてはいけなくなるから・・・・・・が大きな理由かもしれない





もう一度、雑誌を頭上に置いて寝ようとする彼女の耳に、小さな…高い音が入ってくる

リー…リー…と言う小さな音に、彼女は何処か不愉快を感じた
文字通り虫の居所が悪かったのかも知れない






空いていた右手で、畳の上を探る
コン…と手が固いものに触れた



恐らく、彼女が寝ている間に使用人が持ってきてくれた湯飲みだろう
彼女は、それをおもむろに投げつけた







音はしなかった
どうやら湯飲みは壁に当たらず、開け放しになっていた窓の外へと落ちていったらしい






下で小さな悲鳴が上がる
使用人の一人だろうか……その悲鳴に、先程まで鳴いていた虫の声が止む

彼女は、夕暮れの差し込み、長い光の陰の様になっている窓を雑誌の下から見ながら、少し優越に浸る









程なくして、虫が再び鳴き始めた
・・・が、その時にはもう、意識を手放していた











*                *













「…さま……お嬢様…」





体が揺さぶられる
それが煩わしくて、寝返りをうった
バサッ、と顔の上の紙束が滑り落ちる



目をゆっくりと開けると、隣に落ちた雑誌をひょいと持ち上げる、シワだらけの大きい手が映った













「…ん」
「お目覚めですかな、お嬢様」






髭の生えた初老の男性が、こちらを見ていた
きっちりと整えられた服装は、彼女が物心ついた頃からの見慣れた物だった













「クラウスか…」





寝惚けているため、それほど思うように声が出ない
体を起こすことすら億劫だった













「もう夕刻を回っておりますぞ……お昼寝は良いですが、流石にここまでなのは如何なものかと…」











ほうら来た……いつもの台詞だ

身分の高い者なのだから、うんたらかんたら…
これが彼女の煩わしさの原因の一つであるとは、クラウスは気づいていないのだろう


















ーー…あ〜あ…『彼女』が居てくれたらなぁ…




数年前まで自分に支えていた『彼女』……今何処で、何をしているのかも良く分からないが……きっと、彼女がいれば、自分もこうはならなかっただろうに




そんな事を考える彼女を知り目に、クラウスは部屋に散らばる他の雑誌を片付けつつ言う
















「またこんなに散らかしなさって・・・…ああ、そういえば……先程使用人の一人の目の前に、新品の湯飲みが落ちてきたそうなのですが……何かご存じですか?」










彼女はそっぽを向いた


クラウスはきっと気付いているんだろう
この野郎…と思いながら、そのまま体を横たえる














「…はあ……お嬢様……お嬢様はもっとこの家の『ご令嬢』としてのご自覚を…ーーーー」








聞きなれた説教に彼女……ナギは耳を塞いだ










*                *











ここから遠く離れた<タンジアの港>
世界最大の貿易港であり、商人達にとっては、商売のメッカ中のメッカと言われている





その街で一際大きな…港最大の権威を持つのが、彼女の一族だった
そして、代々続く巨大な貿易商の令嬢・・・・・・それが、彼女……ナギである



彼女は生まれてこの方、大事な一人娘として育てられており、生活に不自由した事などが無かった





食事も、衣服も…凄まじい大豪邸まである
それどころかこの大陸全体に、プライベートな土地を、両手の指……いや、両足の指を足しても数えきれない程所有しているのだ










勿論、このユクモ村も例外では無い

こんな郊外にどうして…と言うのは今は言わない
ただ、ユクモ村の一番眺めの良い高台に据えられたそこからは、この辺り一帯の絶景を楽々と見渡せる

が、それを楽しむ様な彼女では無かったが













この様に、満ち足りた生活をしていると端からは見える彼女だったが……しかし、これらの物と引き換えに、色々な物を失った感じが否めない





毎日毎日決められ切ったスケジュールに、お嬢様としての体面

がんじがらめの様な生活に、彼女は些か辟易していた
そして、その対処法として彼女が取った方法があったのだが・・・













「…お嬢様……折角ここに来たのですから……ご両親と一緒に散歩でも…」
「断る……私は家の外に出ると死んでしまう体質なのだ」
「そんな……」









クラウスが落胆した声を上げる











そう、彼女の取った方法は、シンプルかつ、根本的だった







『引きこもる』
こうすれば、少なくとも外と関わらなくて済む

自分に来る仕事なんて家の中でも処理出来るし、家の中の人間が少し煩いが、一日中ゴロゴロと好きな事が出来る


他がどうか知らないが、自分に取ってはこれ以上ない、最良の手段だった










まあしかし、楽に苦はつきものであり、障害が無い訳では無いが


一番厄介だったのは、彼女の母だ
母は、体が結構弱いくせして、かなりのアウトドア派なのだ


それに自分と違って年がら年中テンション高いから、こっちとしてはそれに付き合っていると少し萎えてくる









その母とは真逆も真逆で、父はかなり物静かな人だった
自分は父に似たのかもしれない…と、常日頃から彼女は思っていた
(ただし一旦怒ると義父のジジイが恐れをなすほど凄まじく怖いが)




父も良く母と結婚したものだ……と言うか、あんなに振り回されて、なんで平気でいられるんだろうか、不思議で仕方ない

ナギは、暫く答えの出ない底無し沼に嵌まったような気がした















「おっと……そうではありませんでした…」







クラウスが、何かを思い出したかのような声を上げる
ナギはそれに釣られて、思考の海から帰還した








ーー…クラウスが、いつになく緊張した面持ちなのが気にかかる…ーー
















「どうした?」
「お嬢様……本来はここに後2日滞在する予定でしたが……それを一足早く切り上げる事になりました」
「…?」







ナギは眉をひそめた

別に早く切り上げる事は良かった
と言うか、自分はここに好きで来たわけでは無く、両親の付き添いで来ただけの為、逆に嬉しかったりする


さっさと家に帰り、読んでいない雑誌やらゲームやらに手を付けて、更なる引きこもりライフを続けたいと、この別荘でずっと考えていたのだが…










ーー…いきなり、どういう事だろう?
そこだけが引っ掛かる


クラウスは、その面持ちのまま続けた














「…それが……この村に物資を届ける筈の使用人と、三日前連絡が取れなくなり…」


クラウスの顔が強ばる











「原因を調べるため、調査隊をすぐさま派遣したのですが……そのほとんどが帰ってこず、帰ってきた少数の者も、みな『ボロボロの状態』で帰還したのです…」








ナギは、それに聞き入っていた

















「…そして、帰ってきた調査隊の面々は皆口を揃えて、『ある信じられないモンスター』を目撃したと言うのです」






目を少し見開いたナギに、
クラウスはその眼鏡ごしに、いつもの口調よりも少し上ずった様な声で言った

















「…にわかには信じ難い事ですが……どうやら渓流に、<雷狼竜・ジンオウガ>が出現したらしいのです…ーー」

























ーーー…彼女を縛っていた歯車が、回り出した瞬間だった









































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.43 )
日時: 2013/07/31 00:12
名前: フェルマー

どうも、フェルマーです。
やっぱり面白いですね、壊れたラジオさんの作品は。毎日楽しみにしています。

では感想です。
ナギはやっぱり引きこもりなんですね。でも、両親は生きているのは驚きですね。どんなかんじに登場するか楽しみです。

ジンオウガキターー!!
やっぱりユクモ村と言えば、ジンオウガですよね。このジンオウガがどのように暴れてくれるか、楽しみにしてます。

では、頑張って下さい。
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.44 )
日時: 2013/08/01 22:48
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
両親が生きている設定にしたのは、
こんな形でも家族と一緒にいる彼女を書きたかったからです

ユクモ村にはやっぱりジンオウガですよね?良かった反論されなくて…

では……






*                *



『<雷狼竜・ジンオウガ>』












<雷狼竜・ジンオウガ>
ユクモ村の遠い昔の文献や古くから語られてきた伝承に、僅かに登場するモンスターだ
その姿は、東方の化物である『鬼神』のようとも、『地を這う稲妻』とも称される






そして、しばしばその強大かつ物怖じせぬ雄大な姿から、『無双の狩人』とも伝えられる、非常に強力なモンスターだ











『ーー…その者、地を歩けば千の獣を従え……一度吠えれば、天空すら畏怖する…ーー』












この辺りでは有名な、文献の一節だ

そして秘めた力を解放した暁には、それに挑んだことを後悔させる程の力を……そして、体から放つ<蒼光>によって、哀れな獲物を捕らえる……これが、『無双の狩人』たる所以だ











しかし、それほど有名にも関わらず、遅々として生態研究の進んでいないモンスターでもある

何しろ個体数が少ないからなのか人の前に姿を現すことすら希少であり、しかも万一運良く(運悪く?)出会えたとしても、ジンオウガの体から放たれる<蒼光>を目にした者は、二度と生きて帰って来れないと言われる程の危険性故、だと言う












おまけに、ジンオウガはここ最近ユクモ村近辺には姿を現していなかったそうだ
最後に確認されたのが最早数十年も前であり、もしかしたら、この地域では絶滅してしまったのではないか?と勘繰られていた



















ーー…それが今、突如として現れたと言う…ーー
























「…ジンオウガ……か…」











ナギが呟いた
かく言う彼女も、ジンオウガについては少し知っていた
この村の出身だった父が小さい頃語ってくれたおとぎ話の中に、よく登場したモンスターだからだ














「…お急ぎ下さい、お嬢様……出発の準備が整いましたから」









しばらくぼうっとしていたナギを、クラウスが急かす

ーー…分かってるよ…と、怠くて重たい体をゆっくりと持ち上げた

服を払うと、少し埃が中に舞った








ーー…どうせまたなんか堅苦しい車にでも乗せられるんだろうな、
と思ったナギは、思わずげんなりする











「…ま、ここからさっさと家に帰れるだけマシか……」








いい加減、この暇にも飽き飽きしていた
そう言えば、頼んでおいた雑誌やらゲームやらは、家に届いているだろうか…
さっさと帰ってそれをやらねば、きっと積み重なってしまうだろう

そんな、引きこもりに有りがちな事を考える
しかし、それだけが今の彼女の楽しみで有ることは、違いなかったが










*                *











ーー…やはりと言うかなんと言うか…ーー…と彼女は立ち止まる
勿論、車を見て・・・だが









ケバケバしい、と言う訳では無いのだが、何やら……どこか、『高貴な人が乗るもの』と言う雰囲気が隠しきれてない





結果、彼女の思う『堅苦しさ』に拍車を掛けていた




先程から、彼女の心のテンションは相変わらずローレベルだったが……
……今ので更にゼロに……若しくはマイナス値にくい込んだのでは無いかと言うぐらいまで落ち込んだ









ーー…まあ、仕方ない
引きこもりライフを享受する上で受ける拷問なら……と彼女は妥協する





取っ手に手をかけ、ステップを三段ほど登り、中に入る

外から見た感じよりも、中は広い
彼女は入って奥の席に座り、手にした雑誌を開こうとする












ハンターズギルド発行の『狩りに生きる』と言う雑誌が、彼女のお気に入りだった

別にモンスターについての解説やら、そんなのが読みたい訳じゃない
中には、ハンターやモンスターをモチーフにした連載漫画が載っていたり、
星占いなんかが書いてあったりして、中々に充実しているが……それだけでは無い







この雑誌の最後には、あるハンターの写真が載っているのだ

ただのハンターではない
この一ヶ月で最もギルドに貢献したハンターのもので、その功績を称える記事があるのだ





そしてここ数年はその上位の一位から三位までを、殆ど同じ三人で競いあっており、おまけにその三人が中々に綺麗な顔立ちをしていると来たものだ




その三人の人気は、このギルド雑誌の売り上げにも大きく貢献していて、書くネタの供給にも事欠かない……編集者も大喜びだ












その中でも、彼女には一番のお気に入りがいた

ほぼ毎回一位を独占しており、他の二人をいつも頭一つ分追い越している彼

最初に見たときは余りにも綺麗な顔立ちで、しかも幼かったために女の子かと思ってしまった





その少年がどんどん順位を上げ、勇ましく成っていき、
とうとう、ほぼ一位を独占するようになったときは、こちらが嬉しくなってしまった

最初に彼に目を付けていたのが自分の様に感じられて、誇らしかったのかもしれない……彼は、それを夢にも思ってはいないだろうが









ナギは『狩りに生きる増刊号』を開こうとした
しかし座り込んだ途端、ふとある疑問が沸いてくる










ーー…あの二人は、どうしたのだろう?…ーー














「なあクラウス…」
「どうされましたか?」







外でてきぱきと使用人達に指示を出していたクラウスを呼ぶと、低い声が返ってくる












「車の中が暑かったでしょうか?それならこのクーラーシステムを……凍土のベリオロスの『凍結袋』を使用した最新鋭器ですが…」
「ああ、いやいやそうじゃないんだ」






車の中は外とは違い、心地よい涼しさに保たれていたが、クラウスは質問を誤解したらしい
ナギは苦笑しながら尋ねた














「父と母はどうしたのだ?」
「ああ……」










そう聞いた途端、クラウスの口調が曇る
ナギは頭にフッと嫌な予感がしたのを逃さない

















「あのお二人は……現在出掛けられて、どこにいらっしゃるのか……何でも紫子様の方が、『どうしても今から渓流観光をしたい!!』・・・と言いなさって、彼を無理矢理連れて行ってしまったらしく……」








ーー…あんの万年色恋夫婦!!!
と、そんな突っ込みが出てきそうになる






あの二人は、いっつもそんな感じだ

母の方のワガママとか、そんなのは今に始まった事じゃないが…………父も父だ
なんだかんだ言っても、結局は母に迎合(押しきられる?)してしまう




人の目が有るところでもベタベタしまくるもんだから、こっちはもう目も当てられない

黙って他人の振りをするか……その場を離れるかのニ択だ


もういい加減にしろよ!!!と叫びたくなってくる
自分の引きこもりの原因の一端は、きっとそこにあると彼女は思っていた











*                *













母は生まれつき体が弱かったらしい
医者も、『二十歳まで生きられればよい方だ』と匙を投げていた

娘バカだったジジイがそれを許すはずもなく、八方手を尽くしたが……それも無駄だった

それでも、天性の明るさを絶やさなかった母に、幾分か救われていたのだろうか……と思う










ただ、解決の糸口が見付かったのは突然で……偶然だった

たまたま、その時のユクモ村の専属ハンターだった父と出会い、(しかも、とんでもない出会い方だったらしい)偶然その村の事を知った母は、どうしてもそこに行ってみたいと言ったそうだ








ジジイは可愛い娘の頼みとあらば、断れなかったのだろう
遙々、あの遠いタンジアから人を寄越して、この別荘を作らせた

一回きりの旅行のつもりだったらしいのに、
こんな別荘作る必要無かったんじゃないかとも思ったが……まあ、それはそれだ








父は母の体の事を聞くと、この村に代々伝わる『湯治』による治療を提案したと言う








効果はすぐに現れた
母の体に、劇的な変化が起こったのだ



母は、見違える程にその病弱だった体を回復していった








この効果に…こちらの家の者はおろか、この温泉を開発していた村の人々……そして、その開発に協力していたハンターの父もが、驚いた












この事に喜んだらしいジジイは、この村を支援する事を決め、
ギルドにもかけあって、あの立派な集会浴場を建設し、更なる温泉の質の向上を求め……仕舞いには、この村の強力なバックアップも兼ねるようになった












その後、色々あって父を気に入ったらしい母は、
この時もやはり無理矢理に、彼を自分の家に連れ込む事を決めてしまったらしいのだが












ま、そういう訳で、少なくとも一年に一回はここに来る羽目になったんだけど……と彼女は溜め息をつく













「申し訳ありません……今捜索隊を向かわせてあるのですが………」
「あ〜〜……良いよ良いよ……どーせすぐひょっこりと出てくるだろ………」








焦るクラウスに、ナギはヒラヒラと手を振った
クラウスは少し溜め息をつく








彼と父とは……母が無理矢理連れてきたばかりの頃は、それはもう反目し合っていたらしいが、少なくとも自分の物心つく頃には、そんな空気はもう無くなっていた様な気がする















「…はあ……まあ、アレが付いていれば大丈夫でしょうか………」








まあ、何だかんだ言っても、一応は信頼しているのだろう














「じゃ、一足先に私は帰るとするよ……父と母が見つかったら、宜しく言っといてくれ」








クラウスは一礼する




御者に『出してくれ』と言うと、小さな鳥の声がする
車に繋がれたガーグァが、御者に促されて走り出した

窓の外には、ユクモ村の温泉街が半ば液状化したかの様に流れていく
勿論、彼女が気にしている訳は無いが


手に持った雑誌が読みにくいかと思ったが、そうでもなかった
良く舗装された道の上を走っているため、車は滑らかに進んでいく





















ーー…俺がいた頃だったら、考えられなかったな…ーー











そう、感慨深そうに、行きの道の中で呟いていた父の姿が思い出された


そりゃあ、父と母が出会う前のここは、凄まじいド田舎だったのだろう
・・・数年後、ここが観光客で賑わう土地に成るなんて、誰が予想しただろうか?


彼女はふと目を上げて、街を見渡す
自然と人工物が織り成す、本物の芸術の様だと、ナギは思った


ふと、ここを立ち去るのが少し惜しく感じた














もうかなり高く上がった月の光に映える温泉の湯煙を見ながら、彼女は目を細めた



































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.45 )
日時: 2013/08/02 22:59
名前: 壊れたラジオ

『嵐の中の閃光』





先程まで感じていた気分はどこへ行ったのやら、ナギは少し憂鬱気味になっていた



辺りがますます夜に飲み込まれ、自分を乗せた車がユクモ村を少し出た頃、急に天気がぐらりと傾き始めた





少し空気が湿ったような匂いがする
そう思って空を見上げると、黒い闇の空にベールを覆う様に厚い雲が、その隙間から覗く僅かな月光に照らされて浮かび上がる






そう、思ったのも束の間だった

ポツ……ポツと降ってきた雨は、一気にどしゃ降りとなり、彼女の乗る車を襲う





雨は、それほど嫌いでは無かった

・・・はっきり言ってしまえば、外に出なくて済むからだ

その代わり、外に出られない母が憂鬱そうな顔をするのが唯一と言って良い程の悩みだった
(特に、それは父が居ないときに顕著になる)






しかしこの状況で降られると、こちらとしては少し不味い



今自分が通っていた所は舗装されていない、ただの畦道だ
ゴトゴト揺れて、かなり気持ち悪い






それにここは、陸路で渓流に行く唯一とも言える道なのだが、なにせ普通は歩いて通行する道を、即席で改造しただけの所であるため、車がギリギリ通れる程の横幅しかない





しかも、ここは山道
上下運動が否応なく激しくなり、彼女の心地の悪さに一層拍車を掛ける














「…はあ……」




雑誌など、読んでいられない
こんな畦道が後何時間も続くかと思うと、物凄く自分が惨めに思えてくる














ーーー…ゴトッ!!!…ーーー















「うわっ!!!」



大きく車が揺れる
不意に外を見ると、車の外輪が崖から落ちそうになっていた


・・・肝が冷えた
ベリオロスの<凍結袋>も真っ青だ





よくよく考えてみれば当然だ
こんな山道を通るために人が道を作るのは、どう考えても割りに合わない

元々ある道を開発した方がよっぽど安上がりだからだ










とは言っても、崖を切り出しただけ、
車がギリギリ通るだけ、と言うのは少し頂けない


ぶつけどころの無い怒りに、御者に文句を言ってやろうかと思ったが・・・・・・御者も必死でガーグァを操っているのだろう

・・・実際、それどころでは無さそうだし














「ーーー…はあ〜〜〜……」













彼女は大きく息を吐いた
肘を窓の側の縁に置き、仕方なくこの酔いを覚まそうと遠景を見つめる

ただ、豪雨のせいで景色など殆ど見えないに等しいのだが



白いベールどころでは無く、バケツをひっくり返したような、
滝でもあるんじゃないかと思えるどしゃ降りで殆ど何も見えず、彼女は更に深くため息をついた











ーーこんな事になるんだったら、付いてくるんじゃなかった…ーーと思ってしまう













ーーーー…ピシャアッ!!…ーーーー















体の神経が強ばった
閃光が、彼女の目の前を支配する
それに少し遅れて、ゴロゴロ……と言う音が響く














「ーー…遠雷ですよ……どうぞお気になさらず…ーー」



御者がそう言ってくれるが、あんなものを見て気にするなと言う方が無理だ




もう一度、稲光が走る

ナギはそれを見ると、もう限界だと言わんばかりに、毛布を引っ張り出して頭にスッポリと被る













ーー…もう嫌だ…さっさと家に着いてくれ…ーー















そう思いながら、毛布を体に巻き付けた
ふわふわと暖かく、よく手入れをされていた生地は、彼女の不安を少しずつ取り去っていく様に思えて、彼女はそれを、更にきつく体に巻く














ーーこの暖かみが、どうか続いてくれ……と祈った











しかし、それは儚い願いに終る






















ーーー…ドゴオッ!!!…ーーー






















巨大な斧が、天空から降り下ろされたような音が響く

さながら、神の怒りの様だとも思う















「ピキィッ!!!」







ガーグァがパニックを起こして、滅茶苦茶に走り出す
ナギは、その暴れ狂う車の中で情けない声を上げながら転倒する



















「……いったたた……」






あのガーグァ……今日の夕食にでもしてやろうか……とやり場の無い鬱憤が、喉の奥にまで持ち上がる






















「………あ………」












顔を上げると、その位置にはちょうど窓があった








そして……稲光の中が散る、巨大な雷雲の中に……『何かの影』を見た気がした


















自分が見たものを信じられずに、首をブンブンとふる
そして、もう一度その雲を見る




今度は、何も見えない……稲光だけだ
ーー…きっと、疲れて幻覚でも見たのだろう




ほら見ろ・・・・・・暇は人を殺すのだ、と都合のいい解釈をしながら座り直す


















ーー…大丈夫、何も起こらない…ーー






















今思えば、これから起こることへの逃避が、
この中に含まれていたのかも知れない


















































突然視界が横転した
自分も車も、中のもの全てがグチャグチャに空間ごとかき混ぜられているかの様に宙を舞う

大きな音を立て、車は二、三度転がったかと思うと、側にあった崖に衝突したようで停止する












自分は助かった様だ、と痛む体から認識する

どうやら、この大量の毛布のおかげらしい
助かった……と思うが、この大量の瓦礫のせいで抜け出せない
箱入り娘の自分に、そんな力があるわけが無かった


そして、自分の命を救った毛布までもが、降りしきる雨でどんどん湿って重くなる














「くっそう……お〜〜い……助けてくれ〜〜……」










彼女は、咄嗟に御者に助けを求めた
が、返事が返ってこない





きっと車の屋根のせいで、音がくぐもって聞こえないに違いない










ーーならばもっと大きな声で




そう思った彼女は、息を大きく吸い込んだ





















ーーー…ゴッ!!!…ーーー











声を出そうとした瞬間、突風で屋根だった物が吹っ飛ぶ
彼女は、咄嗟に目を伏せた




風が止み、彼女は恐る恐る目を開ける
















「ーーーーー!!!」














絶句した
と言うよりも…自分が見てしまったものに対して、あまりの恐怖と驚愕に、声が出せなかっただけだろう





















そこに在ったのは、『先程まで御者だったもの』だった

惨い状態だった
手足はもげ……大量の赤いものがドクドクと、このどしゃ降りの中にじんわりと広がっていく
そしてあっと言う間にその辺りを紅でも散らしたかのように、深紅に染める







頭は……その半分が無かった
その残った片方は虚ろな眼のまま、恐怖にひきつっていた






ナギの体は、まるで金縛りにでもあったかのように動かなくなる

震えが止まらない……声帯がひきつって、声も出ない






















ーーー…パキパキ……プチ…ーーー














ーー…そんな、何か堅いものを砕く音と、肉を骨から剥がす様な音が聞こえる


見たくない……そう思いつつも、目はその方向を追ってしまう

必死で押しとどめ、見ないようにしたくても……もう遅かった


























「……グルルルルル……」








どしゃ降りの中……視界が悪く、殆ど一寸先も見えないにも関わらず……





『それ』がそこにいるとハッキリ分かる












それが放つ一種の威圧感に、ナギの奥歯は勝手にカチカチと鳴る


暗闇の中で、ボウッと浮かび上がるそれは、
濡れそぼった何かが、重々しく動く様な音をたて、こちらに向かってくる







どう考えても、車とかそう言う類いの物ではない
何か、巨大な生物の動く音……と言うことはすぐに分かる


全身から、まるで幻影の如き蒼い光を浮かび上がらせるそれに呼応するかのように、パリ……パリと、静電気が這い回る様な音が立つ




特異な異物臭に、ナギは思わずむせる







最初に見えたのは、前肢だった

一本だけですら自分の家の柱よりも太い、ひどく頑丈そうなそれには、
二メートルを越える巨大な爪が生えており・・・・・・これにかかれぱ、どんな敵ですらただの獲物なのでは無いかと勘繰ってしまう





それに続き、次々と全身が浮かび上がる







ーーとんでもなく大きい・・・・・・

腕から大体想像していたが……どう考えても、ユクモ村の正門より大きいではないか…







真っ青な甲殻に覆われ、抵抗がいかに無力かを体現する頭部には、
巨大な、そしていびつな左右非対称の二本の角が逆向きに生え……
天に舞う、『全ての龍に反旗を翻した』かの様な角は、『無双の狩人』の名を冠するに相応しい


















ーーー…プチッ……パリ……グチュ…ーーー
















血なまぐさい臭いと、何かを噛み砕く様な音がする

見ると、その鋭い牙の生え揃い、
顎の外にすら、鋭利な外骨格状の甲殻となっている口から、血が滴り落ちていた










口に引っ掛かっていたそれを、その光持つ巨体は噛み砕いて、飲み込んだ













暗くて良く見えなかったが……あの形からして、きっと先程まで車を引いていたガーグァの首だ・・・・・・



ソレが近付く
臭いを嗅いで、自分を探しているのか……それとも、まだ何かいるかどうかを調べているのだろうか…









鼻息が掛かる
もう終わりか……と彼女は目をつぶった














ーー…だが、どうしたことか、ソレは蒼い鋼玉をそのままはめ込んだような目を向けた後、おもむろにこちらに背を向ける




諦めたのか?と一瞬安堵する


































ーーー…ガッ!!!…ーーー

























が、そうは行かなかった

巨大な……甲殻が密集して、最早鎧の様な強度と化した尾が彼女に振り抜かれる


彼女は車の残骸ごと、高さ数十メートルの崖下へと放り出された


自分の口から、とんでもなく大きな悲鳴が漏れる

























ーー…しかし……その薄れ行く意識の中でも、彼女はしっかりと見ていた


































「……オオオ〜〜〜…ン……オオオ〜〜〜…ン……」






























自分を谷の底へと突き落としたソレが、<蒼い光>を撒き散らしながら……















……天空に向かって、吠え猛っていたのを・・・・・・



































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.46 )
日時: 2013/08/06 19:38
名前: 壊れたラジオ

『忍び寄る影』





カタン、と言う小さな物音でハヤテの意識が浅い夢の中から舞い戻る

ハンターとなってから覚えたその感覚は便利でもあったが、
少しの不便でもある

今しがたのように折角の眠りさえ、
小さな音によって目覚めてしまう自分の意識に、
ハヤテは寝惚けたままの感覚で少しうんざりする





あの後、自分とヒナギクは砂原近くの村に入った
ディアブロスの恐怖に駆られていたその村の人々は自分達を歓迎してくれたが、
ヒナギクは村についた途端、今までの疲労からか、
それとも恐怖が一気に抜けたからか、ふっと意識を失ってしまった




あの時は慌ててしまったが、
すぐにすうすうと寝息が聞こえたので、そんな自分に苦笑したのを覚えている











そこからは、あんまり覚えていない

多分、宿をとって……ヒナギクを隣の部屋に寝かせた後、
自分も布団を敷いて、さっさと寝息を立て始めたのかもしれない
……何しろ、数日間ほぼ寝ていなかったのだから





鎧の下に着ていたインナーが少し汗ばんでいる

寝汗かとは思うが、それにこびりつく砂は、
昨日の激闘の時に着けていたものだと言う事を表していた






やはり、自分はさっさと寝てしまっていたらしい
着替える余裕も無く、布団に倒れ込んだんだろう


目が少し暗闇に慣れてきた
枕元には、小さな盆が置いてある
急須には水が入っているらしく、ずっしりと重い






喉がカラカラだ……
ゆっくりと手を伸ばし、それを手に取る

ズキッと横腹が痛んだ
ディアブロスの尾の一撃は、中々癒えないダメージを置き土産にしたらしい




それでも億劫そうに手にとったそれを口に当て、その中に入っていた水をゴクゴクと飲む

少量の薬草が入っているのか、体の痛みが少し和らいだ気がした





ハヤテは一息つくと、もう一度布団に潜り込んだ

朝までは、もう少し時間があるだろう
たぶん・・・・・・起きれば、また厄介事が有るだろう



だがそれはそれ……今はゆっくりと寝させてもらおう


もう一度寝られるか?と思ったが、
布団に入るとよっぽど疲れていたのか、割りとあっさりと意識を手放していた












*                *












「よし、もっかい寝たか…」






ハヤテの部屋の外から、中を覗き込む目があった
息を潜め、戸のそばに潜んでいる



砂原は昼こそ暑くなるが、夜は逆に急速に冷え込む
白くなった息を吐きつつ、その人影は彼から目を離さない















先程音を立ててしまった事を、しまったと思った







こう言う事に関して鋭い彼の事だ
ここまで来て、自分の計画がパーになるのは御免被りたかったが……


どうやら彼は、自分の足音をただの気のせい、若しくは気にならないものとして片付けたらしい










こちらにとっては好都合だった

こう言う所でツメの甘い彼に、少し顔がにやける














いつもガードが固いため、こうでもしないとこんな事は出来ないから・・・だ





彼が布団に潜る
もぞもぞと暫く動いていたが、やがてそれは静かな寝息へと変わる












今だ、と声にならない掛け声をそっと上げた

そうっと引き戸を開ける
良く手入れをされていたのが嬉しい

音を立てずに引き戸が開く










彼まで約数メートル・・・・・・抜き足指し足忍び足・・・・・・とふざける様に、しかし真剣に近付いていく


彼の顔を覗き込んだ
少年とは思えない程のあどけない寝顔で、すうすうと眠っていた


そして、その人影はそれを見てニッと笑った後、体制を整える
そして次の瞬間・・・・・・・・・・・・・











*                *













「ぐぼえっ!!??」







ハヤテは、腹に感じる衝撃に思わず目を醒ます
腹の中の空気が一気に押し出され、素っ頓挟な声を上げてしまった

何か、重いものが……いきなりのしかかって来たようだ
正直言って、寝起きを攻撃するのは本当に心臓に悪いからやめてほしい





鎧を着けておらず、インナーだけの素肌の上からいきなりのしかかられ、
ハヤテは暫くの間、もんどりうっていた


ようやく意識がはっきりし始め、自分の腹の上にあるものに目を落としてみる
















・・・・・・銀の髪を生やした、小さな頭がそこにあった



こちらに気付いたらしい
それはこちらに顔を向けた
ふわり、と髪が額に掛かって流れる







その人……少女はヒナギクと同じ勝ち気そうなつり目を緩ませ、いたずらっぽく笑いながら言った
















「久しぶり♪ハヤテにーちゃん♪」














聞いたことのある声が、ハヤテの耳と記憶の一部をくすぐった
・・・・・・数年振りの記憶のドアが開かれた

ハヤテは少し困ったような顔をして、笑い返した














「…お久しぶりです、サクヤさん…」









サクヤと呼ばれた少女は、何が気に入らなかったのか……少し口を尖らせた

















「も〜〜……その敬語と“さん”付けはやめてほしい言うとるのになあ……」













…無理ですよ……年下とは言え、女の子を呼び捨てにするなんて…

そう言える訳もなく、ハヤテはただただ苦笑していた
















「…本当にお久しぶりですね……ってハンターになったんですか!?」
「え?ああ、そうやけど?」
「そうやけどって……そんな素振り全然見せて無かったじゃ無いですか……」
「これでも色々と苦労したんやで〜?少しは褒めてくれへん?」










呆れた様なハヤテに、サクヤはへらへらと笑った



…それにしても、どうして彼女がここに?
















「決まっとるやん。ここでハンターやっとるんやから…」







まあ、当然と言えば当然の返答が返ってくる

確かに彼女はここの出身だし……いても何ら不思議ではあるまい



















「で、今にーちゃんがここに来とるって言う話を聞いてなあ……居ても立ってもいられんよーになって、急いでここに来たっちゅー訳や………どや?嬉しいやろ?」






ハヤテは、先程にも増して、渇いた笑いを漏らした
あんな起こし方をされちゃあ……なあ……

















「寝てる時のにーちゃんの顔、可愛かったで〜〜?」
「…その気持ち良さそうな眠りを叩き起こしたのは誰ですか………」







ハヤテは安眠を妨害された事に対し、少し恨みがましい声を上げた
しかしそれを気にも止めない彼女は、更にハヤテの体に刷り寄ってくる















「ってちょ……何して!?っつーか降りてくださいよ!?」









そうハヤテが抗議の声を上げると、彼女はニヤッと笑い、こちらの体に手を回してくる

ーー…完全に抑え込まれてしまった























「本当に一体何を…」
「ん〜〜?止めろ言うとんのに敬語でしか話してくれへんにーちゃんは、ちょっと懲らしめなあかんと思て」
「はあ!?」











更に力を強めてくる
細い体の何処にそんな力が在るのか、万力か何かに締め付けられているかの様だ

それに、と彼女は付け足す



















「最近、にーちゃん分が不足しとってなあ〜〜……ちょっと補給させて欲しいんやけど?」
「意味が分からない!?」
「良いや〜〜ん♪減るもんや無いし〜〜それに、美少女に抱きつかれとんねんから、ホンマは満更でも無いんやろ〜〜?」















ーー…どこの親父だ、と言う突っ込みを抑え、ハヤテは大きく溜め息をつく















「…はあ……いや、『重い』から退いて欲しいんですが………」








一瞬の沈黙が辺りを包む

しかし、彼女はすぐに顔を真っ赤に染め上げたかと思うと、そのままキッとこちらを睨んだ




















「にーちゃん……ホンマに相変わらず繊細な乙女心が分かってへんな……」







ーー…え?なんか地雷踏んだ?

おどおどするハヤテに向かって、サクヤは捲し立てた


















「そりゃ……ウチは前に比べて成長しとるんやから重くなって当然やろ!?分かっとっても言うたらアカンのやそう言う事は!!!」









全く……ホントに…!!と言って怒りつつも、
全く降りてくれる様子の無い彼女だが、

……意識のはっきりした今、ハヤテは別の意味で辟易していた


・・・・・・彼女の装備だ










砂原には、その環境に適応出来ずに死んでいったモンスターが数多くいる

そしてその体は骨となって、砂の大地に転がっている

そしてその骨は相当の強度を持っており、しばしばハンターの武具に用いられるのだが…










彼女の防具は、その典型である<ボーンシリーズ>

モンスターの骨をワイルドに使ったそれは、頑丈で作りがよく、初心者に対し、お勧め防具の一つなのだが・・・・・・何と言うか……野性的?







…ええい、仕方ない……ハッキリ言おう

















ーー…この装備、露出が多いのだ



















いや……まあ、少し前の彼女だったらホンの子供だったから、気にもしなかっただろうが・・・・・・今の彼女は成長……勿論、『女性的な部分』の成長もしていらっしゃる…










ーーー…ここまで説明して、理解してくれる事を祈るよ

ついでに、彼女は未だに自分の上に乗ったままだ

このままではマズイ……色んな意味で














「あの…ーーー…降りて貰えませんか?」










何か、刺される様な予感がしたハヤテはサクヤに言うが、
彼女は降りるどころか、更に悪い笑みを浮かべ、抱き締める力を強くした



















「ん〜〜〜…どーせこうでもせんと、にーちゃん気付いてくれへんからなあ〜〜〜…どうしようかなぁ〜〜♪」








やけに楽しそうな声を上げ、猫の様に刷りよってくる彼女に、ハヤテは少し諦めた様な表情をした























ーーー…後で一体、どんなオチが待っているんだろう?と、心の中で思いながら



































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.47 )
日時: 2013/08/09 12:07
名前: 壊れたラジオ

『修羅場!』








「…いやホント降りてください……マズイですから!色々と!!」




そう言ってハヤテは声を上げて抗議するものの、
彼女は聞く耳を持つつもりは毛頭無いようだった











「…ウチとしては、そっちの方がええんやけどなあ……」
「何アホな事言ってるんですか!?早く降りて…」








そう言いかけた時、ドアの外で『カタン』と言う音がした
ハヤテの鍛えられた耳は、それを敏感に捉える

敏感過ぎる感覚は、こう言う時に非常に厄介だ
何せ自分に襲ってくる不幸を、ここまで鮮明に伝えてくれやがるのだから






少し冷や汗が流れた











「…ハヤテ君?どうかしたの?さっき変な声が聞こえて来たんだけど……」






声の主はどうやらヒナギクらしい

…あれぐらいの音で起きるとは・・・・・・やはり彼女もハンターなのだなぁと、ハヤテは少し恨めしく思った











本格的にマズイとハヤテの頭は高速で思考する

ーー…いや、別にやましい事をしていた訳では無いのだから、心配する必要なんか無いと言えばそうなのだが・・・如何せん、この状況が好意的に理解して貰えるとは到底思えない
















「…にーちゃん……また女たぶらかしたんか?」








地の底から響く様な声に、ハヤテの神経はさらに凍り付いた

見れば、サクヤは不機嫌そうな顔・・・・・・と言うか、鬼の様な形相をしている











ーー…いやちょっと待て!?いつ自分が女をたぶらかしたと言うんだ!?


しかし、人聞きの悪いことは言わないでくれ……とは言えなかった











フイッと目を逸らしてしまった彼女
そして何を思ったのか、外にいるヒナギクに向かって口を開いた















「外寒いやろ〜〜?入ってきてもエエで〜〜♪」






ーー…いかにも朗らかそうに、中に入ることを提案してしまったよこの人!





ハヤテは目を見開いた
何でわざわざ地雷を踏み抜きに行くんだ!?
自分の今一番避けたい事をさらりとやってしまった彼女に、ハヤテは驚愕した

















「…え?誰?」
「い……いや何でもないんですよヒナギクさん……」






物凄く焦りながらも、ヒナギクに声をかける
しかし、聡い彼女はそれをあっさり見破ってしまったらしい
















「怪しい……」



マズイ……いや何度も言うが、自分はやましい事なんて何もしていない!!!……はずだ








引き戸に手がかけられた音がする
カラカラ……と言う音が、ディアブロスなんて比じゃない程の死神の呼び声に聴こえる


















「…一体何が…!!?」








彼女がそう言いかけて、息を詰める



まあ、それは驚いた事だろう
鎧を着けておらず、インナーだけを着ている自分……
そしてその上には、全く見知らぬ少女がこちらに抱きついていたのだから










ーー…ぶっちゃけ、目の前に死挑星が見える……しかも超ド級のが、爆発寸前で











え〜〜と……許されるとは思わないけれど、……と言うか自分が悪い訳では無いのだけれど・・・・・・


何か弁解とかしないと、物凄くヤバイ気がした……主に、自分の命が
















「えっと……これには色々と事情が……」
「……事情?」



うつ向き、目の下に真っ黒な影を作っているヒナギクは、ハヤテが発言した途端、恐ろしく低い声を上げる



その静かすぎる剣幕に、ハヤテはディアブロスの尾の一撃が再来したような気がした




















「ふ〜〜ん……そんな格好の女の子と抱き合ってる様な事情?へ〜〜……」









そう言いつつニッコリと笑みを浮かべるヒナギクに、ハヤテは心の底から叫びたい気分になった・・・・・・多分、『冤罪だ!!!』と


大多数の犯人が言いそうな事を心の中で叫ぶと、ハヤテは冷や汗を流れるままに流していた













ーー…見ると、サクヤの方もヒナギクに対して何やらニコニコと笑っていた

端から見ると、美少女二人が笑いあっている、実に微笑ましいワンシーンであるだろう
…が、自分にはその中に含まれている、ドロドロした黒い何かしか見えてこないから不思議だ






暫くはそうしていた二人だったが、ヒナギクはそんなサクヤを見て、癪に触ったらしい


こちらを見てニコニコ笑いながら……ただし物凄く鋭い、光のない目でこちらを見据える














「…ねぇ、ハヤテ君………」
「は……はい?」









ビクビクと、まるで武器を降り下ろされる前のケルビ(小型のシカ型モンスター)のようになりながら、ハヤテはひきつった笑みを浮かべた

















「あのね?G級ハンターだからって、やっていい事と悪い事があると思うのよ…ーー」







ーー…へ?
ハヤテは首をかしげた




ーー…意味が分からない……そういう事を感じとったらしい彼女は、それまでに溜まっていた全てを爆弾の様に解放した






















「ーー…朝っぱらから……何やってんのよアンタ達はああぁっ!!!」









ヒナギクが飛竜刀を抜く

…おい待て!?モンスター用の武器を人に対して抜くのはギルドで禁止されて…!!



















ギャアアアアア……



ハヤテの悲鳴は、澄んだ砂原の村に広がった
この後、ここにいた三人が酷く怒られた事は言うまでも無いだろう














*               *















「…全く……そう言う事ならさっさと言いなさいよね……」
「話を聞こうとしなかったのは誰ですか……」







何とか彼女に訳を説明すると、ようやく事態は落ち着いた

少しの心境の変化はあったとはいえ、本質と言うものはそれほど簡単には変化しないのだろう

やれやれ、とハヤテは溜め息をついた

















「…はあ……ホンマににーちゃんは………」






ヒナギクに洗いざらい説明してから、やけに機嫌の悪いサクヤにハヤテは眉を潜める

やっぱり、『妹みたいなもの』と説明したのが悪かったんだろうか……よく分からない







サクヤは何か考え込むような顔でヒナギクをじっと見た後、ヒナギクにふっと声をかけた

















「…なあ、あんさんとにーちゃんはどー言う関係なん?」
「ふぇっ!?……ええと……」



そう聞かれたヒナギクは、変に動揺した・・・・・・そんな変な質問だったか?















「ああ、渓流近くの専属ハンターさんでして……まあ、二回ほど組んだだけですけど……」






ハヤテが何の狂いもなく、そう真実だけを述べると、
ヒナギクがさっとムスッとした顔になり、それと対照にサクヤの顔が明るくなる






















「…そこで何でそんな言い方しか出来ないのよ……バカ……」






ヒナギクが何かボソボソと言うが、良く聞こえなかった

ハヤテは聞き直したが、ヒナギクは『何でもない!!』と言ってそっぽを向いてしまった
…何なんだ一体……























「そーかそーか……で、もうひとつ聞きたい事があるんやけど……」
「?」







ニコニコと笑いながら、ヒナギクに問うサクヤ
その笑みの裏に、何かあるような気がしてならない




















「あんさんって、にーちゃんの事好きなんか?」
「………っ!!??」







ヒナギクが大きく噴き出した


うわっ、と小さくのけぞるサクヤ

ーー…え?何その質問……何でそんな縁遠そうな質問をしたんだろう?






















「げほっ……げほっ……一体いきなり何を……」
「え〜〜?当然やろ?にーちゃんライバル多いから……それっぽい人は牽制しとかなアカンかな〜〜思て………」

















ーー…ライバル?
確かにヒナギクはライバルっぽい時もあったけど……今はそうでも無いけどなぁ……
















「べ……別にハヤテ君の事なんか好きじゃ無いわよ!!!」
「ふ〜〜ん……」









ーー…目の前で言われると、流石に傷付くなあ……とハヤテはうつむいた






そう言ったあと、サクヤはヒナギクの体に目を走らせた

今彼女は鎧を着けておらず、インナーだけのため、体のラインが良く分かるが・・・・・・サクヤは彼女の体のある一点を見て、フッと笑った















「ま、にーちゃんは『大人っぽい人』が好みらしいからなあ〜〜・・・・・・あんさんがもし“そう”でも、大丈夫やろうか?」









ーー…こちらには良く分からない一言だったが、ヒナギクは何かに気づいたらしい

胸の辺りでさっと両腕を組んだ
その顔は、紅でも塗ったかの様に赤くなっていた・・・・・・恐らく、羞恥と怒りで






















「…言ったわね……人が気にしてる事を……!!!」







彼女の喉の奥から、怒りの声が上がる

しかし、サクヤは『何の事や?』と小首をかしげながら笑ったまま……目は笑っていないが













「ちょ……少し落ち着いて…」



ハヤテが言い終わる前に、ヒナギクが飛び出した

飛竜刀が空を斬り、ひゅんひゅんと音をたてる

サクヤはそれをひらりひらりとかわしているが・・・・・・ハヤテはそれをひやひやしながら見ていた










止めた方が良いんじゃないか?と思って一歩踏み出そうとするが…













「…こう言うのは、収まるまで待つのが一番ですよ……特に、元凶が止めに行ったら逆効果ですし……『ハヤテ君』?」











後ろから聞こえた柔らかい声と、肩に乗せられた手に、ハヤテは立ち止まった



気配を感じなかった。
驚いて振り向くと、そこには声と同じく柔らかい表情でニコニコと笑う、一人の女性が立っていた






































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.48 )
日時: 2014/03/11 11:27
名前: 壊れたラジオ

どうも、壊れたラジオです
今までずっと更新できませんでしたが、
受験勉強をやっていたからです。

近いうちにまた更新を再開します
覚えていないかもしれませんが、
また頑張って書こうかと思っています。


・装備紹介(しておきたかった)

ハヤテ
装備・リオソウルZシリーズ
武器・カイザー・ボウT、琥牙弓アルヴァランガ、龍頭琴<水戯>、ネオボルトアロー

ちなみに身長175cm 体重70kgで、原作よりも男っぽい体型をしている。
なお、ここ一〜二年で成長したため、それ以前は原作のような姿をしていた

ソウヤ
装備・ラギアZシリーズ
武器・ネオ・クルスランス、スパイラルアクア、トゥースランス、プロミネンスピラー


ヒナギク
装備・レイアSシリーズ
武器・飛竜刀<双炎>


アユム
装備・ユクモノシリーズ<地>
武器・真ユクモノ重弩


まあ、まだ登場させていない武器もありますが、こんな感じです
では、後々・・・・・・


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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.49 )
日時: 2014/03/18 08:57
名前: 壊れたラジオ

『砂原のお嬢様達』

余談ではあるが、ハンターの既婚率はめっぽう低い。
あったとしても、<ハンター同士>というのはものすごくまれだ。

吊り橋効果、というのがあるかもしれないと思うだろうが、
そんなのは所詮、雑誌の中だけの話。

というのも、この世界のハンターというものは、
何時命を堕とすか分からない極限の中で生きる職業だ。

つまりはこれになろうということ自体、変わり者という話なのである。




(いやいや・・・さすがにそれは失礼と言うものだろう・・・)

ハヤテはブンブンと首を振りながら、
知り合いの女性ハンター(というか、知り合いがほぼ全て女性であるが)
を思いだしていた。

『ああフルフル・・・あの子の皮膚の質感・・・たまらない・・・』
『バサルモスちゃん・・・ゴロゴロ転がって・・・かわいい・・・』
『ああリオレウス様〜・・・お美しいわぁ・・・』
『グッラビモスッ!グッラビモスッ!』


・・・うん、前言撤回。
見事に変な人しかいなかったな・・・


ただし、目の前にいた女性はそんなに変・・・というわけでは無さそうだった。

装備は<ブナハシリーズ>。
<飛甲虫・ブナハブラ>という、
小型の甲虫種モンスターの素材をふんだんに使用した装備だ

ブナハシリーズは比較的作成しやすい装備であるし、スキルもよいため、
下位、上位序盤でハンターが愛用する装備だ。

彼女のものは光沢の具合からして上位装備のSシリーズの様だったが、
それにしては生地の具合もよいし・・・仕立てがよかったのだろうか?


肩に掛かるぐらいの白みがかった銀髪を、
ブナハシリーズのカチューシャのようなキャップで止め、
傍目からはハンターと言われても、
十人中八人か九人は信じないだろうような柔らかい笑みを浮かべている。




ハヤテは、強い既視感を感じた。



「・・・えと・・・あの・・・」



引っかかりはあるものの、その人が誰か思い出せず、
ドモるようになってしまうハヤテも見て、
その女性はこらえきれずクスクスと笑い出した。



「・・・やはり、相変わらずでしたね。”アカデミー”にいたときから・・・」



ほぅ、と安心したように笑うと、
彼女はレジストのポケットから眼鏡を取り出した。



「・・・これでも、分かりませんか?」
「・・・あ」



ハヤテは目を見開いた。
途端に脳内の一部が切り開かれたような感覚が襲ってきた。



「チハルさん!?」
「ご名答です」



目の前の女性――――――チハルはもう一度ふっと笑った。











*                    *










「なんやにーちゃん・・・知り合いやったんか」
「ええ」


サクヤの問いに、ハヤテはゆっくりと首を振った



「そうですよ『サクヤお嬢様』」
「『お嬢様』?」



チハルがサクヤに答えるのを聞き、ハヤテは小首をかしげた。
サクヤとチハルはハヤテの反応をしばしきょとんとしていたが、
理由が分かったのか、顔を見合わせて笑った。



「わたし、サクヤさんの『使用人』兼『狩人の相方』なんですよ」
「・・・へぇ・・・珍しい主従関係ですね・・・」



だからブナハ装備なのか・・・とハヤテはほほえんだ

ブナハ装備は元々とある貴族がとある披露宴で、
あたりを騒然とさせるために作った奇抜な装備である。
ただ、女性用の装備はどちらかと言えば、異国の使用人装備に似ている。
見た目もそう悪くないため、かわいらしさを求めるハンター御用達の装備である。

・・・だが、彼女は本物の使用人である。
そこまでこだわる必要があるのか・・・とハヤテは苦笑した。




「いや、でも最初見たときは分かりませんでしたよ・・・」
「・・・どうしてですか?」



チハルはおかしそうに笑った。
たぶん、最初から自分が分からないであろうということを想定していたんだろう。
ハヤテは笑っていたが、少し眉間にしわを寄せた。




「・・・いや、当たり前でしょう?アカデミーにいたときとは口調も見た目も変わってたんですから・・・」


チハルはいたずらっぽく笑った。
サクヤもつられるように笑っていた。













*                       *














「・・・ねえ」



不機嫌そうな声で、談笑していた三人は現実に戻された。
見ると、少しむくれた顔をしたヒナギクがこちらを、
・・・というか、ハヤテをジト目で見ていた。



「・・・ハヤテ君とあなたって・・・どういう関係なの?」
「はい?」


ああそうか・・・一人だけはぶられてたのが気にくわなかったのか・・・
まあ、彼女を放っておいて話をしたのは悪かったが、
仕方ないことではないのか・・・と思いつつ、話をこじらせるのはまずい。

ヒナギクの方を向き、口を開こうとしたハヤテの声はチハルの声に遮られた。



「ハヤテくんとわたしの関係は・・・元カノ?」
「!!?」
「はあっ!!?」



・・・とんでもない爆弾発言だった。
ハンターは変わり者が多いが、彼女は違うかと思っていたのだが・・・違ったか。
なんてくだらないことを考えていられたのは一瞬だった。

次の瞬間、ハヤテは大声を出していたからだ。



「ちょ!!何を言っているんですかチハルさん!!?」
「ちょっとハヤテ君!!どういうことよ!!?」
「・・・ちょ・・・首締めないでヒナギクさ・・・」


ハヤテはチハルを責めようとしたが、
ヒナギクがものすごい剣幕でこちらに襲いかかって首を絞めてきて、それはできなかった。



「冗談ですよ」



にこりと笑って、チハルはやんわりとヒナギクの手をハヤテの首から離させた。
ヒナギクは目を見開いた。
自分はかなりの力を込めて首をつかんでいたのだが(それはそれで問題だが)
それがいとも簡単に、あっさりと引き離されたからだ。



「・・・何者なの?あなた・・・」



怪訝な目を向けて、ヒナギクはチハルに問うた。
隣で、ヒナギクの手から解放されたハヤテが、ゲホゲホと咳き込んでいる。



「にーちゃん・・・大丈夫かいな・・・?」
「・・・あ・・・ありがとうございます・・・」



見かねたのか、サクヤがハヤテの背中をさすってくれる。
・・・さすってくれるのは嬉しかったが、ボソッと
『にーちゃん・・・このままじゃ将来尻に敷かれるで・・・』
と言っていたのをハヤテは聞き逃さなかった。




「・・・チハルさんは・・・僕がハンター育成アカデミーにいたときの同期ですよ」




呼吸をようやく取り戻したハヤテは、ゆっくりとそういった。











*                    *











「・・・なんだ・・・そういうことだったの・・・」



それを聞いて落ち着いたのか、ヒナギクはすとんと腰を下ろした。
ハヤテはそれを見て、ほっと息をついた。
いつもこういうことになるんじゃ、命がいくつあってもたりない。
常時狩り場に放り出されているようなものだ。




「まあ、同期と言っても・・・彼とは大きな差がありましたけどね」
「・・・どの口が言うんですか・・・アカデミートップ生のくせに・・・」


ハヤテがそう言うと、チハルは苦笑した。



「いや、だってハヤテくん・・・アカデミーの特待生クラスだったじゃないですか・・・」
「・・・あれ、そうでしたっけ?」
「・・・そうですよ・・・だいたいハヤテくんのクラスは、ハヤテくん一人だったでしょう?」



あ・・・とハヤテは昔のことを思い出して口をぽかんと開けた。



「あ・・・あ〜・・・だから僕一人しか教室にいなかったんですか・・・」
「・・・むしろ何で今頃気づいたんですか・・・」
「・・・いや、僕だけクラスからはぶられていたのかと・・・」



チハルはやれやれとため息をついた





「・・・ハヤテ君・・・特待生クラスだったの・・・?」




ヒナギクは目を見開いていた。
ハヤテはどうしてそんな反応になるのかが分からず、きょとんとしたような顔をした。



「・・・そうらしいですけど・・・なんかすごいことなんでしょうか・・・」



そう言ってこちらを向いたハヤテに、チハルはあきれたような顔をした。



「・・・だってハヤテくん・・・特待生なんて、なろうと思ってなれるもんじゃないんですよ」
「・・・と言うと?」










「・・・ハンターが何万人といて、一人なれるかどうか・・・そんなレベルですよ」












*                        *










ハンター育成アカデミーはギルド経営の直轄機関である
優れたハンターを育成するため、そしてハンターの掟や心得を得るために、
ハンターを志すもの全てが通らなくてはいけない場所である。

アカデミーでは、それぞれのクラスは武器毎に分けられており、
それぞれの武器の適性試験を行って、自分に合う武器を選んでいく。


老若男女、いつからでも何歳でも入ることができるため、以外と融通も利く。
十代から入るものもいれば、ずいぶんと歳を召した人もいる。

最初に見たときは戸惑うかもしれないが・・・慣れればきっと、よい思い出となるだろう。




また、クラスには二つの種別がある。

まずは<一般クラス>
一般の名の通り、多くの・・・というかほとんど全ての人は此方に行くことになる
長くて4年・・・ただし、飛び級制度があるため一年で卒業していくものもいる。

飛び級生は、それだけでも大きな特権・・・
例えば卒業した時点で、即座に下位最終ランクほどのハンターランクを贈られる。



チハルはこの内の一人である。







しかし、もう一つのルートがあるのだ。

<特待生クラス>
『狭き門』と形容することすら生ぬるく、此方から入るハンターなどほぼ存在しない。


二ヶ月にわたるすさまじい試験を経て、合格を許可されるのだが・・・
その試験内容が冗談抜きでえげつない。

例を挙げるとするならば――――――












・インナーのみで、孤島のモンスターがうじゃうじゃいる海で、
鎧を着けずに三日のサバイバル

・インナーと配布された丸太のみで渓流下り

・砂原の寒暖の激しい空間で、クーラー、ホットドリンクなしで421,95q走破

・凄まじい吹雪吹き荒れる凍土で、インナーと支給品のナイフと肉焼き機のみで一日生存

・火山でクーラードリンクを使用せず、火薬岩の納品















――――――どう考えても合格させる気がないだろこれ、というような試験である。
これをクリアできる超人、というか人外がこの特待生クラスには入れるのだ。



その代わり、それを乗り越えたハンターには大きな特権が与えられる。

まずは、上位中盤クラスのハンターランク
普通の手段でここまでもハンターランクを上げるには、
何年もハンターを続けなくてはならない・・・
というか、上位ハンターになれずに一生を終えるハンターもいる
また、その上のランクのG級への近道でもある


そして、最初から全てのフィールドの解放
上位になってからでなければ入れないフィールドはもちろん、
もっとハンターランクが高くなければ入れないフィールドへの立ち入りが許可される。



そして最後。
特待生クラスにはギルドから生活費の斡旋があり、ほぼ生活に困ることはない。
ギルドの掟を破らない限り、それは死ぬまで続く。
緊急クエストも回してもらいやすい。





特待生と言うことは、ハヤテは過酷な試験を乗り越えた猛者ということだ。
















*                     *

















「アカデミーの頃のハヤテ君はどんなだったの?」
「アカデミーで?そうですねぇ・・・」




元々社交性は高かったのだろうか、
ヒナギクたち三人はすっかりと打ち解けて、きゃあきゃあと話し込んでいる。
ハヤテはそれを見ながら、昔のことを考え込んでいた。




――――――元々自分は、特待生に入るつもりではなかったのだ。
というのも、特待生クラスは受験料も高いので、その頃のいろいろと大変だったハヤテには敷居の高いものであった。
だから一般コースを受け、平穏にハンターになるつもりでいた。


しかし試験のあの日、どうも手違いがあったらしい


多くのハンターが列を作って試験場に入っていったのだが、
列に並ぼうと最後列に行ったとき、役員の一人に呼び止められたのだ。



その時、自分はまだ十歳になったばかりで記憶はおぼろげだが、
その役員が『まだこんなに小さいのに・・・』といったのを覚えている。
・・・ぶっちゃけ、その時に気づけばよかった。




あれよあれよという間に船に乗せられ、孤島の海に放り出されたことは忘れない。
・・・というか受験したハンターの内半分くらいが、
海の底からかみついてきたルドロス(ロアルドロスのメス、若しくはロアルドロスの未成熟個体)に喰われたのが見えた。

ボコボコと沸いてくる鮮血は、自分を心底恐怖に陥れた。



……あとから知ったことだが、あの書類は誓約書で、
『この試験で命を堕としてもギルドは一切責任を持たない』と書かれていたらしい。




それを切り抜けても次々と襲ってくる試験。
今思い出すと、ものすごい頭痛に襲われる。
次々と命を堕としていく試験生達・・・

乗り越える頃には、自分一人になっていた。



全ての試験が終わり、ギルドのマスターに謁見させられたときの彼の顔は、
驚きに満ちたものだった事は覚えている。
今思えば、それは当然だったと思う。



その試験が終わって教練が始まっても、それは他のクラスとは大きく違っていた。
……遙かに厳しかったのだ





教官とのマンツーマン。
自分一人だったので必然的にそうはなるのだが・・・
僅かな合間に他のクラスを見に行ってみたが、
その当時の自分は、他の人たちの訓練がそれほど厳しくないことに驚いたものだ。


そして、他の人たちが自分を見る目にも気になっていた。
どれだけ自分が親しくしようとしても、どこか恐れているような・・・
もしくは、何かすごいものを見るような目をしていたのだ。



その頃はそれが何となくつらくて、それを紛らわすためにひたすら鍛錬を積んでいた。

・・・ただ、今その理由が分かった。











「・・・そうか・・・そういうことだったのか・・・」
「ん?何がですか?」



ボソッと言った声に反応したチハルが、此方を向いた。
ハヤテは苦笑して、何でもないと言った。









「(きっと・・・このことを言ったら笑われるんだろうな・・・)」









少しほほえんだが、ハヤテには少し眉間にしわが寄っていた。
きっとめざといチハルは気づいていたのだろうが、
含んだ笑いをしたあと、そうですかと笑った。




























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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.50 )
日時: 2014/03/18 13:27
名前: 壊れたラジオ

『渓流に猛進する牙』


女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
それがそれぞれに話のネタに困らないハンターならなおさらだ。
お互いに武器の紹介をしているらしい。



「へぇ・・・チハルの武器は弓なのね・・・」
「ええ、そうですよ」
「・・・」



まだガンナーに対して完全に敵意がなくなったわけではないらしいが、
ハヤテのことがあって、目に見えてガンナーを目の敵にはしなくなったようだ。
さすが村付きのハンターと言ったところか、社交性も抜群だ。
すでに呼び捨てで呼ぶようになっている。


あまり同年代の人たちと親しく話す機会がなく、
社交性がお世辞にもいいとは言えないハヤテは、少しうらやましかった。



「そのブナハSシリーズ、よっぽど良い職人が作ってくれたのね。上位装備とは思えないぐらいきれいだもの・・・」
「あ、それは僕も気になってました。」
「・・・え?・・・ああ、これは・・・」



そう、さっきから気になってはいたことだったが、ヒナギクが先にそれを口にした。
やはり、見れば見るほど上位装備にしては質がよすぎる。
チハルは、そのセリフに困ったような顔をしたあと、秘め事を明かすような口調で声を発した。




「・・・だってこれ、ブナハXシリーズですから。」
「Xシリーズっ!!?G級装備じゃないですか!!?」
「えええっ!?」



なるほど、G級装備ならばこの質の良さにも納得がいくが・・・
少し引っかかることがある。



「・・・あれ?チハルさんって、上位ハンターじゃなかったですか?」
「ええそうですよ?」
「じゃあなんで・・・」



疑問がわいてくる。
上位のハンターがG級に上がっていないのに、装備を作れているのは・・・なぜ?



「正確に言うならば、G級の狩り場を仮に開放されている上位ハンターと言ったところですよ」
「?」
「まあ、試験のようなものですよ。G級ハンターの適正があるかどうかの・・・ね」



へえ・・・そういうシステムがあるのか・・・
ハヤテは考え込んだあと、意外とすんなりと納得できた。
優れたハンターがG級の資格を持つに値するかどうかを調べるにはもってこいだろう。



「ま、ハヤテくんはそれがなかったらしいですけどね」
「・・・そうですね・・・何ででしょう?」
「する必要がなかったか・・・もしくはギルドのお偉方が何かを考えたか・・・ですね、たぶん」




ハヤテはまた眉をひそめた。
特別扱いされるのは嫌いではないが、やり過ぎも好きではない。
自分の社交性や、交友関係を犠牲にしてまでそんな扱いをされるのはごめんだった。

強引だが、ハヤテは無理矢理話を変えることにした。




「チハルさんの弓、G級でそのフォルムって事は<アルクトレスブラン>ですか?」
「ええ、ギルドでの正式名称は<飛甲三式氷弓>です」



アルクトレスブランは、これまたブナハブラの素材の中でも、
美しい部分のみを贅沢に使った一本であり、
そのままでも芸術品として通用する美しさを持つ。
一度でもその弓に走る線が織りなす編み目や、
オーロラのように光る飛甲虫の薄い膜を張った弓身を見れば、虜になること請け合いだ。




「懐かしいですね。その武器、アカデミーの時から使ってた<アルクウノ>ですよね?」
「・・・ええ、長年使ってると愛着もわきますから。」
「アルクウノ・・・アルクウノブラン・・・アルクセロブランと・・・強化も大変だったでしょう?大事にしてますね。」
「ハヤテくんのも、元々持ってた<クイーンブラスター>をまだ使っているんでしょう?」
「ええまあ・・・今は<カイザー・ボウ>になっていますけどね」




アカデミーにいたときから、ハヤテは一際目立っていた。
容姿はどちらかと言うとかわいらしい部類に入るが、見た目は完璧。
体力、知力など実力は最高クラスで、他人の追随を全く許さない。
それでいて努力家で、人を見下したりもしない優しい性格である。

ハヤテは持ち前の鈍感のせいでそれとは気づいていないが、
アカデミーの中には彼に思いを寄せるものも多かった。
・・・というか変人を除けば、ほぼ全てが彼に対して多少なりとも好意を持っていた。


チハルの場合、好意と言うよりも一種の憧憬に近かった。
きつい訓練が終わったあと、少し休もうと場所を探していたとき、
偶然彼が訓練に行こうとしていたところを見たのだ。

聞いてみると、本訓練ではなく自主訓練だったらしい。
そのときは大きく驚いたものだ。
自分たちよりも遙かに厳しい訓練を積んでいるのに、
その合間の僅かな時間さえ訓練に回すのか、と。



そうしないとついていけませんから、と彼は言った。
ドンだけ厳しい訓練なんだ、とそのときは頭を抱えたものだ。

そのあと、彼の訓練をみせてもらうことにした。
おそらく恐いもの見たさがあったのだろう。



・・・見たことを後悔した。本当に見なければよかった。
なんだあれ拷問じゃないのか。どうしてあんな訓練で生きていられるんだ!!?
それと同時に、彼の実力に一種の恐れを感じた。






彼は、完全すぎた。
弓の射程は貫通弓でも、
どれだけ碗力の強いものが引いたとしても100メートルが限界だ。
しかも、これは限界射程距離。あたるかどうかといえば、間違いなく否と言える。


しかし、彼はそんな常識をあざ笑う様な腕前をわたしの前でみせた。
具体的に言うならば、かなりのスピードで走り回る車の上から、
130メートルはなれた直径30センチメートルの的に向かって流鏑馬。


正直、ぐらぐらと揺れる車の上から矢を射るのも難しい。
それにも関わらず、彼の放つ矢は弓の限界距離を軽々と飛び越えて、
その上決して中心を外れることがなかった。


そのあと、しばらく呆然としていたのを覚えている。
わたしは大きな衝撃を受けた。今まで生きてきて、経験したことがないほどの。


あまりの実力の差に、彼に反目してしまったこともあった。
ただし、いつの間にかよく話すようになっていた。
・・・きっと、彼のこの性格もあったのだろうか。
過酷な訓練をしていたのを見かねて、いろいろと世話を焼くようになった。
そのせいで、彼に好意を持つ人たちからやっかみを買うことになったのだが。


それを抜いたとしても、あのときはとても楽しかったのだろうと思う。




あのときと変わらない(こう言うと、きっと彼はふくれるだろうが)彼の笑った顔を見て、
チハルはまたふっと笑った。








*                     *









「そうですか・・・砂原の村の避難を・・・」
「せや。あのディアブロスは上位個体・・・というか、その後の調査でやっぱりG級個体やったらしいからなあ・・・手出しできんかったんや」



砂原の事件だったのに、
そこの専属ハンターが見当たらなかったことに対してサクヤはやれやれと首を振った。




「あれ、でもチハルさんは・・・」
「ええ、一度あれと戦ってみたんですが・・・一人ではかないませんでした。X装備とは言え、ガンナーの防御力は心許ないですし・・・」

「なるほど・・・」




ヒナギクはあのディアブロスを思い出したのか、少し身震いした。
もし一人でいたら・・・と考えて、今さらながら恐怖がわいてきたのだろうか・・・
なんて言うとまた怒られるのだろうけど。




「でな?このままじゃ弱いままで、村の役にも立てへんし・・・会いに来たついでに頼みたいことがあんねんけど・・・」
「なんですか?あんまり難しいことは無理ですけど・・・大概なら大丈夫ですよ?」
「・・・ホンマに?」
「僕たちの中でしょう?遠慮は・・・ある程度はいりますけど、大丈夫ですよ」



ハヤテのセリフは全く意識のないものであったが、彼女を紅潮させるのには十分だった。
ただ、その代わりにヒナギクからはジト目で見られ、チハルにはふくれられたあとにため息をつかれるというおまけ付きだったが。




「・・・まあ、これを見てや・・・」




サクヤはまだ紅い顔のまま、そばに置いてあった塊をハヤテの前に差し出した。




「これは・・・ハンマーですか?」




ハンマーは文字通り巨大なハンマーであり、巨大なモンスターでさえ殴られれば大きなダメージを受ける。
・・・というか、単発の威力であれば全武器中でトップクラスである
そして頭を狙って打ち込めば、巨大なモンスターですら脳震盪を起こしてダウンする。
さすがにそれで倒すことはできないのだが、大きな攻撃チャンスを生める。


・・・彼女のイメージに何となく合うような武器だと思えたことは気のせいだろう・・・





「これは<ボーンハンマー改>っちゅう武器なんやけど・・・最近威力不足で・・・」
「・・・ま、ボーンシリーズと同じで採取のみでできる武器ですからね・・・そろそろ強化した方が良いでしょう」




あ、とハヤテは手をたたいた。





「・・・もしかして・・・」
「・・・せや。この武器を強化するのを手伝ってもらえんかなあって・・・」
「武器の強化先は、何ですか?」





ボーンハンマーは、ボーンシリーズと同じでモンスターの骨を削りだしたもので、モンスター素材との相性がよい。
とは言え、その形のハンマーに合うものを作る訳なので、いくらか制限は掛かる。

・・・まあ、まだ下位の序盤の武器だ。それほど難しい素材を使うわけではないだろう。






「作りたいのは、<ブルハンマー>っていうんやけど・・・」
「・・・なるほど・・・ってことは、<ブルファンゴ>と・・・」






「・・・そのボスの、<大猪・ドスファンゴ>ね」





ヒナギクが口を開いた。
サクヤはうなずいた。



<大猪・ドスファンゴ>
大型の牙獣種のモンスターで、ブルファンゴのボスである。
ブルファンゴの頃から突進は強烈だったが、それの二倍もの体格を持ち、
体重も重くなっているくせに、素早さは全く変わらない。

二本の大牙は大きくねじれており、非常に巨大。
リーダーになると体色が変わるのか、白毛に覆われている。

大型モンスターを狩ろうとする下位のハンターの、
最初の登竜門として立ちはだかるモンスターだ。




「・・・その様子だと、まだ大型モンスターと戦ったことは無さそうね。」
「せやな」





ヒナギクの確認に、彼女は少しばつの悪そうな顔をした。
採取だけで生計を立てるハンターもいるから、恥ずかしいことではないはずだが。





「ドスファンゴなら大丈夫ですよ。僕も手伝えます。ヒナギクさんは?」
「大丈夫よ。わたしも狩った経験があるし・・・」




上位以上のハンターにとって、ドスファンゴはそれほど恐れるに足らない相手だ。
もちろん、必要十分の警戒は必要だが。





「ホンマか!?・・・ありがとな〜にーちゃん!」
「何時出発されますか?」
「思い立ったが吉日!用意ができたらすぐにいきたいんやけど・・・」
「?」





おそらく、ドスファンゴはこのあたりには生息していないのだろう。
どこに行けば良いのか分からないのかもしれない。





「近場だと、<水没林>に行けば良いと思いますけど・・・」
「あ、そこまで遠くに行かなくても大丈夫だと思うわ。」





ハヤテが意見を上げると、ヒナギクが横から声を上げた。





「実は、最近<渓流>にもドスファンゴがあらわれるようになったの。」
「あ〜・・・確かにブルファンゴもたくさんいましたし・・・いてもおかしくないでしょう。」
「でも妙なのよね・・・」





妙?
子分のブルファンゴがいるならば、いても大しておかしいとは思えないが・・・





「いや・・・ブルファンゴは割と前からいたんだけど・・・ドスファンゴは渓流じゃ最近まで確認されてなかったのよね・・・」
「・・・へぇ・・・なんか確かに変やなぁ・・・」
「今まで見つからなかっただけでは?」




チハルの意見ももっともだ。
モンスターも好きこのんで人に見つかりたいわけではない。
人に見つからないよう、隠れていた可能性も否定できない。





「・・・まあ、わたしも早くユクモ村に戻りたいし・・・一緒に行かない?」
「・・・う〜ん・・・せやなあ・・・」
「わたしは賛成です」
「ハヤテ君は?」




確認してくるヒナギクに、ハヤテはうなずいた。







「ま、どうせ僕もユクモ村から直行できましたから、荷物を置いたままですから戻らなくてはいけませんし」
「・・・ん、じゃあ決定ね。」






ヒナギクは少しばつの悪そうな顔をしたが、すぐに向き直る。







「じゃ、早く行かなきゃね。渓流行きの砂上船を探さなくちゃいけないし」




















この一言で、新たな火種が今まかれたことに、
気づくものは一人としていなかった。
















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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.51 )
日時: 2014/03/18 21:26
名前: Hina2

こんばんは〜!!そして、お久し振りです!!

久々の更新だったので、最初はビックリしましたが、

どんどん読んでいるうちに自分がその場に居るような感じになっていきました。

では、感想です!!

ハヤテの肩を叩いたのは千桜だったんですね。正直、僕の予想はマリアさんでした。

しかも、アカデミーから同じだったとは…(クラスは違うけど

ハヤテの訓練内容が半端じゃないですね(笑)なんで生きてるんだろう…?

ドスファンゴか〜。サードやってた頃はよく狩ってたなぁ

あの大きさであの速さ…奴は何者だ、と思ったこともあります(笑)

千桜の装備はG級だったとは…正直驚きました!!

後から理由を聞いたら、まぁ普通に理解できました(笑)

そして、最後の部分の『この一言で、新たな火種が今まかれたことに、気づくものは一人としていなかった』が、

これから何が起こるのだろう…と好奇心を持って思っています。

長々となってしまったので、最後に二言。

まずは、この作品を絶対に諦めないでください!!

なぜなら、僕はこの作品が大好きだからです!!

プレッシャーをかけるつもりはありませんが、

上記の通り、これからも頑張ってください!!

それでは、また。Hina2でした〜。
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.52 )
日時: 2014/03/19 10:48
名前: 壊れたラジオ

あ・・・ありがとうございます。
未だに見てくださる人がいるなんて、感激です。
できれば、わたしも諦めずに書いていきたいと思っています。
マリアさんは・・・登場させる予定はあります。まだ先ですが。
では、書いていきたいと思います。
つたないですが、よろしくお願いします。では









『砂の海を渡りし、蒼き山脈』




四人は砂原近くの村を出るために、村の北門へと向かっていた。
村は、砂原の過酷な環境をみじんも感じさせないほどの活気を見せている。
いつもがどうなのかは知らないが、少なくとも今は危機もなく、平和に見えた。



「おお〜・・・やっぱりディアブロスがいなくなったからやなあ・・・」
「村にも活気が戻りましたね。よかったです」



やはりそうか、とハヤテはあたりを少し見渡した。
大きな街道の両端に出た、多くの出店が軒を連ねている。
肉を焼くにおいや、穀物を蒸すようなにおいがハヤテの鼻をくすぐった。

それは、彼に限ったことではないようだ。
道は、多くの村人によってごった返していた。
おそらく、避難していた時間は思ったよりも長いのだろう。
今まで避難していたぶんの食料品や生活品などを買い求めに来た人たちだ。




「少し、旅が長くなるかも。わたし、ちょっと買い物してくる」
「あ、わたしもおつきあいします」
「うちも」





三人はそう言って、人混みをかき分けて行ってしまった。

女性の買い物は長い。
男性のほとんどにしてみれば、辟易とするほどの長さだ。
もちろん、彼にとってもついて行くのはためらわれた。

きっと待っていた方が得策だろう。




どこか座れそうな所を探そうと、ハヤテも人混みをかき分けた。
ついと目を上げてみると、道の中心にある大きな街路樹を見つけた。
あそこなら日陰になっているし、きっと目立つから、あとからあの三人も見つけやすいだろう。




「あ・・・すみません・・・」





そこを目指そうと歩くと、肩が誰かに当たってしまった。
<リオソウルZレジスト>は、特有の鋭い棘があしらわれていて、
人にあたると少し危ない。
ハヤテはそれを考慮して、鎧を外して荷車に積んではいたが、
それでも鍛えているハンターと、ただの一般人では痛みの度が違う。





「すみません・・・急いでて・・・」
「いえ、此方こそ失礼しま・・・!!?」





自分の肩当たりにある頭に話しかけると、
その人は信じられないような物を見る顔をして、目を見開いた。






「も・・・もしかして<蒼火竜>様ですか・・・?」
「え・・・ああ、そうですけど・・・」





嘘をつく必要もないと思って、素直に答えたのだが、
彼女が、まるであたりに日が差したような笑顔をぱあっと浮かべたので、
ハヤテは失敗したかな、と感じた。






「や・・・やっぱりそうなんですね!!!雑誌の写真見ました!!!ずっとファンだったんです!!!」





雑誌・・・?何のことだろう?
ハヤテはそう疑問符を浮かべたが、その答えが出ることはなかった。

彼女の声が非常に大きく、周りが此方に気づいてざわつき始めたからだ。






「<蒼火竜>・・・?」
「・・・マジか・・・あのお方が・・・」
「・・・え、あのディアブロスを倒してくれた・・・?」





その声を発端として、あたりはユクモ村の集会浴場とは比べものにならない騒ぎとなった。
握手を求める声・・・というか、無理矢理彼に触れようとする人の波に押されて、
ハヤテはその顔に冷や汗を浮かべた。





「・・・ちょ、何この騒ぎ!!?」
「ま、言わずもがなにーちゃんが原因やろうなぁ・・・」
「・・・同感です」





大きな荷物を抱えて店から出てきた三人は、あたりの喧噪をみて呆然としたが、
理由をすぐに理解し、すぐさまあきれた顔を浮かべた。






「・・・にーちゃん・・・自分が何者なんかそろそろ理解せんと・・・」
「いやそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!?」






逃げますよ!とハヤテは脱兎の如く逃げ出していく。
その後ろ姿は、とうていこの村を救った英雄には見えなかった。

あ〜あ、もっと買い物したかったのに、と三人はため息をついていたが、
彼のそんな姿を見ると何となくおかしくて、少し吹き出した。

そして荷車に荷物を載せると、彼のあとを追ったのであった。








*            *









<砂原>という地は<大砂漠>にほど近い場所であり、時折そこから砂嵐がくる。
というのも大砂漠の砂はきわめて細かく、遠くから見るとまるで水のような質感を覚える。

たとえるならば<砂原>は浜辺、<大砂漠>は大海のようなイメージだ。



とは言え、大砂漠の砂は水ほど融通が利かない。
非常に細かい砂の層は非常に厚いのだ。
大昔にそこが海底で会った事の名残であり、
何らかの原因で海水が急に全て干上がったらしい。


一度そこに落ちてしまえば、もはや二度と上がってくることはできない。





ただし、砂は水よりも重いので、比較的容易に<船>を浮かべることができる。
ガレオン船の様な船に、巨大なマストに風を受けて進む船で、大砂漠を渡るのだ。


特に、このあたりの町や村はその中でも巨大な砂上船による交易が盛んだ。
巨大な大砂漠は、広範囲にわたる。
その豊かな交易の源になるのが、この砂上船なのだ。
異文化の豊かな交流によってもたらされるものも少なくない。






「さてと・・・ギルドの砂上船をさがさないとね」
「まあ、この時間帯だとあまり人は多くないですから、もう少し奥の港に行きましょうか」





ハンターには、特例でただで船に乗ることが許可されている。
むしろ、船に乗って狩猟地に向かうのはハンターにとって必要不可欠だ。
その度に金を払っていたのでは埒があかない。
そこはギルドによっていくらかの配慮をされている。






「それにしても、大きな船ですね」
「ん?ああ、あれは交易船やな。出港場所は・・・<バルバレ>?」
「<バルバレ>・・・<ロックラック>の様な、砂の町ですね」
「せやな。まあ、ギルドの管轄が違うくらいやから、遠いところなんやろ」





あの船は、ここで交易品を下ろしたあとに、
ここの特産品をいっぱいに積み込んで、またバルバレに戻り・・・を繰り返すのだろう。
・・・いや、きっとそれ以外の町にもよるはずだ。

ハヤテは、まだ自分が見たことのない世界を思い浮かべて、目を煌めかせた。
三人は、彼の考えていたことを多少なりとも感じ、少しほほえんだ。





「あ、見えてきたわよ」





ヒナギクが声を上げた。
指さすその方向を見つめると、確かに巨大な船が見えた。
・・・ただし、その船の装いは、ただの交易船とは一線を斯くしていたが。











*            *












近づくと、大きな竜骨となっている巨大な骨に目が行った。
あんな巨大な一本につながった骨がとれるモンスターはどれだけいるだろうか。
じっと目をこらせば、あちこちに小さな傷が見える。
補修はしているが、大きな傷は隠せないのだろう。
この船は・・・何があったのだろうか?





「おう、おまえらはハンターか?・・・って、ボウズじゃねえか・・・」
「あ、またお世話になります。カシワギさん」
「ああ・・・ていうかオメーも大変だなぁ・・・休みねぇのか」
「あはは・・・」




カシワギと呼ばれた、青年は少し揶揄するような笑みを浮かべた。
しかし、ハヤテはその顔を見てはっとした。





「・・・その目の傷・・・」
「ん・・・あ〜これな」





カシワギは苦笑して、ポリポリとほおを掻いた。
笑うとその傷がゆがんでいるように見えた。






「この間の<祭り>でな」
「あ・・・なるほど・・・そんな季節でしたね」
「・・・祭り?」




ヒナギクがきょとんと首をかしげた。





「おうハヤテ・・・おまえもとうとう身を固めることにでもしたのか」
「ぶはっ!!?」
「なななななななにを!!?」
「・・・違うのか・・・じゃあ愛人・・・何号だっけか」
「何ですかその不名誉な呼び名!?違いますよ!!?」
「身を固めることにしたんなら歓迎だったんだがな・・・おまえ、ほんとに女子受け良いし」






えええ〜・・・とハヤテは汗を流した。
後ろからジト目で見られているような気がしたが、恐いので関わらないことにする。







「・・・ところで祭りって?」
「おう嬢ちゃん・・・この辺のもんじゃねぇな」
「ええ、ユクモ村の・・・」






ゾッとするような気を納めて、ヒナギクはカシワギは問うた。
カシワギは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに納得したのか、口を開いた。






「<祭り>っつーのはな、正しくは超大規模の狩猟なのさ」
「狩猟?こんな大きな船を使って、ですか?」
「ああ、こうでもしねぇと狩れないんだよ・・・あいつはな」






カシワギは、船に手を置いた。
まるで、長年の狩りを共にした相手を慈しむような手で竜骨に触れている。






「・・・ハンターなら、聞いたことがねぇか?この<龍>の名を・・・」







カシワギは、ゆっくりと船の舳先・・・
まるで巨大な槍のような物体がついたそこを見つめたあと、彼はふっと言った。


















「<祭り>の主役は、俺達のような、この<撃龍船>使いとハンター・・・そして・・・」























「<峯山龍>・・・またの名を、<ジエン・モーラン>さ」































*             *










すみません
柏木さんをこんなキャラにしたのは、
どうしても登場人物をできるだけハヤテのごとくに限定したかったからです。
ツッコミはいくらでも受けます
マジですみませんでした・・・







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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.53 )
日時: 2014/03/19 13:59
名前: 壊れたラジオ

『蜃気楼に浮かぶ峯山』






「ジエン・モーラン!!?」





ヒナギクが大声を上げる。
あまりの大声だったので、正面に立っていたカシワギはおろか、
ハヤテやサクヤ、チハルまでも少し目を見開いた。





「嬢ちゃん・・・そんなに驚くことか?」
「だって・・・ジエン・モーランっていったら、『動く山脈』とも言われるモンスターじゃないですか!!?」
「・・・まあ、そうですね・・・僕も最初に戦ったときは腰が抜けましたよ」
「見たことがあるのハヤテ君!!?」





あまりにもさらりとハヤテが言ったので、ヒナギクはまた目を見開いた。
もしかして、とヒナギクは思った。





「カシワギさんと知り合いなのって・・・もしかしてそういう・・・」
「ええ、僕も何年かに一回ぐらい、孤島の代表として<祭り>に参加させてもらっていたんです」
「へぇ・・・」





<祭り>に参加できるのは、ある程度の力を持つハンターのみである。
そうなってくると、どこかの村の代表などに限られてしまう。

理由なんか、考えなくても分かる。ごくごく簡単な、ある理由だけだ。







「それはうちも初耳なんやけど・・・」
「わたしもです」






そう言って来たのは、サクヤとチハルだった。
サクヤはともかく、チハルも?







「わたしは、あの村の代表ハンターではありませんし・・・」
「そうなんですか・・・」








チハル以上のハンターがあの村に?
見かけなかったし・・・そもそも、どうして彼がディアブロスを狩りに行かなかったんだろう?

ハヤテはそう問おうとしたが、あまり余計に詮索するのもためらわれた。







「ところで、その傷は・・・」
「ん?ああ・・・こいつは・・・」






ハヤテは、視線をカシワギに戻した。
傷についても、一応大丈夫かどうか確かめておきたかった。
カシワギは、自嘲するかのように笑った。
見ただけでは、どこかのゴロツキの様に見えてしまうが、
知っている身からすれば優しい顔に見える。






「ジエン・モーランの背中に飛び乗ったは良いんだが・・・そのまま振り飛ばされちまってなぁ・・・当たり所が悪かったんだ。」
「・・・大丈夫なんですか?」
「ま、見た目ほど深くはねぇよ。目だって潰れてない。そのうち見えるようになるそうだ。」






そう言ってにやっと笑う。
ハヤテはホッと息をついた。






「ところで、今は何を?」
「ま、今年はもう祭りは終わったからなぁ・・・積んであったバリスタ(大型の船舶に搭載する巨大な弩)や大砲を、演習場へ運んでいたところだ」
「演習場?」
「ああ、ジエン・モーランがいない、オフの時期は俺達は訓練に明け暮れるんだ」






カシワギは、背後にいた雑用達に指示を出しながら、バリスタの弾丸を縄でくくっている。
一つ一つが、巨大な銛のような鋭い先端をしている。
これがあの搭載砲から、凄まじいスピードで放たれたのなら・・・





「ま、ここにお前らがいるってんなら、目的地に送って欲しいんだろ?」
「あ、そうですが・・・忙しいのならお断りくださっても大丈夫ですよ」





カシワギはにやっと笑った。





「馬鹿を言うな。お前の頼みとなら、だいたいは聞いてやる。というか、この船はハンターに使ってもらってナンボのもんだしな」
「あ、どうもありがとうございます」





ハヤテは一礼した。
他の三人もそれに習う。






「それにしても、ハヤテ君顔が広いのね」
「え?ええまあ・・・いろんな所へ行きましたから・・・」







船に乗り込みながらヒナギクがハヤテに笑いかける。
ハヤテは、昔のこと・・・といってもそこまで長くは生きてはいないのだが、
過去にあった人々の顔ぶれを思い出していた。







「あ、そういえば行き先はユクモ村だったな・・・」
「そうですけど・・・どうかしたんですか?」







カシワギはふと思い出したかのように尋ねた。
あごに手を当て、ヒナギクに問うた。






「ユクモノ木って言う丈夫な木材が名産品だと聞いたんだが・・・それを此方に回してもらうことは出来ねぇか?」
「ええと・・・村長さんに頼めば大丈夫だと思いますけど・・・」
「そりゃあいい!あの木の噂は俺達にも流れてきてるんだよ。それを船の素材に使えれば、きっと良い船が出来ると思うんだ」
「は、はい!村長さんにお伝えしておきます!!!」






カシワギは、自分の愛する船をさらに強くする事が望みなのだろう。
嬉しそうな顔で、職人と木材について話し込んでいたのを聞いたことがある。

ヒナギクは、自分の故郷の事がこんな所にまで流れてきていたのが嬉しいのだろう。
抑えようとはしているが、嬉しいのが丸わかりだ。








「じゃ、出向準備はこの船の倉庫の整理が終わってからだ。それまでは、船の中でくつろいでいてくれや」
「あ、僕も手伝います」
「じゃ、わたしも」







できれば早く出向したかった。
カシワギは、すまねぇなと言うと、てきぱき指示を出し始めた。

作業は意外と早く終わり、
出航が出来たのは、高くに昇った太陽が少し傾き始めたときだった。
















*           *
















「そういえば、カシワギさんは僕たちを送ったあと、どうするつもりなんですか?」
「ああ、そうだなあ・・・」





砂の海を切り裂いて、もうもうと立ち上る砂煙を側面と背後に尾のようにまとった船の上でハヤテは聞いた。
ハヤテは船の舳先にある階段に座り込んで、遙か彼方の砂の海を見つめていた。







「ま、ロックラックに最初は向かうつもりでいたんだよなぁ・・・」
「す・・・すみません」
「ん?・・・ああ、気にする必要はねえんだ。」





カシワギはマストをつっている巨大なロープを引きながら、ひらひらと手を振った。






「言ったろ、気にするなと。お前はいつも<祭り>の時には頼りになるからな・・・むしろこうでもしないと、義理が返せん」
「・・・それは」
「謙遜するな。実際そうなんだ。」






またにやりと笑うと、カシワギは口を開いた。







「ロックラックに行く理由なんだが、少しクエストの依頼をしておきたかったんだ」
「クエスト?・・・何のクエストですか?」
「ほら、この船に使われている大砲の弾・・・火薬岩を使ってるだろ?」
「ああ、なるほど」




“火薬岩”というのは、火山地帯で採取することが出来る鉱石の一種だが、貴重さが他の地域に比べて非常に高い火山の鉱石の中でもとりわけ貴重な部類に入る。

採取クエストではなく、それ単体で通常クエストに分類されるほどだ。



理由としては、火山の最奥でしか取れないという地理的条件もあるのだが、最大の理由はこの岩石の物質的特性による。

火薬岩は火山奥地で生成されるのだが、その影響か非常に高温であるのだ。
運ぶ際にクーラードリンクを使用しても、体力を大きく削られてしまい、一つ運ぶにも相当な労力が必要である。




そして第二に、火薬岩はその名の通り、火薬のごとく衝撃で大爆発を起こすという特性を持つ。
その威力はとんでもなく、加工して大砲の弾に搭載すれば、いくら強大な古龍種と言えど、その外皮は無傷ではいられないほどだ。

しかし、それは人間にも同じことが言える。
輸送途中に何があるかわからず、万が一にも衝撃を与えるようなことがあれば、荷車ごと大爆発を起こしてすべてがおじゃんという事にもなりかねない。


それを防ぐため、撃龍船に搭載する際は、ギルドの加工技術ですぐには爆発しない様にするのだが、その方法は彼ら撃龍船の関係者の中でもトップシークレットだ。













「それが足りなくなってきたからな・・・演習用も含めて、とってきて貰わねぇとな」







今はオフのシーズン。
しかし演習は怠ってはいけない。
来年のために用意をせねばならないのだろう。


そのために火薬岩が必要なのだろうが……








何かこの船に乗せてもらった恩返しが出来ないかとハヤテは考えていた。

そうして考えていると、ふと思いついたことがあって、彼はあ、と声を上げた。
そして、他の船員に指示を出すカシワギに声をかける。








「僕の友だ・・・いや、狩り仲間に凍土か火山にこもっている人がいるんですが・・・その人に連絡して、採ってきてもらえると思うんですが・・・どうでしょう」
「へぇ・・・そいつぁ渡りに船という奴だな・・・じゃ、恩に着る。頼んでも良いか?」
「もちろん。帰ったら手紙を書いて、ギルド経由で送って貰います」





ハヤテは本当に交友関係が広いのだと、船で話し込んでいた三人は顔を見合わせる。
そのハンターとは・・・もしかしてまた女性なのだろうか?

後ろから感じる視線に、ハヤテはまた自分は何かやらかしたのかと怯える。






「で、そいつはまた女なのか?」






カシワギは、彼女たちの考える事が分かったのか、苦笑してそれを代弁した。








「いえ、違いますよ。友だち・・・ではないですが、<黒轟竜>というハンターです」
「!!?」
「<黒轟竜>!!?黒轟竜ってあの!!?」







どうやら、彼もまた有名らしい。
ハヤテの及び知らない所ではあったが、
ソウヤ、そしてこの<黒轟竜>もまた、ハヤテと同じ特待生クラスである。
とは言え、アカデミーは違うので、そこで会う事はなかったのだが。

本来ならばとうていあり得ない事ではある。
同時期に三人もいる特待生が有名でないはずはなかったのだが、ハヤテは気づかなかった。








「いやぁ・・・あの<黒轟竜>に火薬岩運びをさせるたぁ・・・ねぇ・・・」
「そんなこと考えなくても大丈夫ですよ・・・あの変態には」
「・・・辛辣だなぁ・・・お前」
「・・・当然です」






あの地上戦では並ぶものがなく、暴虐な轟竜にもたとえられる彼を、
『変態』の一言で切って捨てるハヤテに、乗組員達は困ったような顔をしていた。












*          *











お、というカシワギの声で一同は我に返った。
見ると、カシワギは素早くベルトから望遠鏡を引っ張り出してのぞき込んでいた。

ハヤテはカシワギの視線の先を見つめる。
ハヤテの視力はよい。というか、よくなければ弓使いなんか出来ない。





「・・・あれは・・・<デルクス>?」





船の左舷の先の方で、くすんだ茶色に、
その体には不釣り合いなほど巨大な緑の背びれをつけたモンスターがピョコピョコと跳ねている。



<デルクス>は小型の魚竜種モンスターだが、
何を考えたのか、海ではなくこの砂の大海原に生息している。
・・・おそらく、海が干上がる前にここに生息していた魚竜種が進化して適応した結果なのだろうが・・・
わざわざこんな住みにくいところに住むのは、今でもよく分かっていない。



全長約三メートル。
決して大きくはないが、小さくもない。
人間一人ならば、おそらく彼らの格好の餌食だろう。
ただし、ハンターにとってはそれほど恐れる相手ではないのだが・・・






・・・そう、今この場でなければ。


現在ハヤテ達の前には、優に数十頭を越えるデルクス達が泳いでいる。
船にぴったりと寄り添い、船の起こす波に悠々と乗っている

デルクスの主食は腐肉などのスカベンジャーである。
その腐肉が手に入りやすい場所を考えると、それは容易だ。







『強大なモンスターの近く』








例えば、ここに超巨大な山脈のような巨大なモンスターがいたとしたならば?
そのモンスターのおこぼれに与ろうと、あんなに多く集まっていたのならば?











ハヤテの全神経が告げていた。
『ここから離れろ』と















「船を右に!!!急いで!!!」
「くそっ!!!マジかよっ!!!」
「おーーい!!!急げっ!!!取り舵いっぱーーいッ!!!」









ハヤテは、三人に身構えさせた。
そうだった・・・大自然の中にいた以上、安全なところなんてない。
もっと気を張っておくべきだった。


伏せさせた瞬間、船が大きく右へ旋回する。
慣性で体が引っ張られたが、砂の海に落ちても大丈夫なように、
と事前につけられた命綱が少し伸びただけだった。






次の瞬間、まるで間欠泉から熱湯が飛び出すかのような音を立て、
巨大な砂柱が空に打ち上げられた。
船の側面の淵を少し吹き飛ばしたそれは、ハヤテ達に砂の雨を降らせる。

もちろんそれはただの砂だ。
あたると痛いし、口の中や鎧の中に入ってじゃりじゃりだ。




が、そんなことを頓着している暇はない。
次に襲ってきたのは、地鳴りであった。
地鳴りと言っても、ディアブロスの起こす震動などもののたとえではない。
まるで、大地が身を捩って、異物をふるい落とそうとしているみたいだ。









「くそっ・・・うわあっ!!?」
「あ・・・おい!!大丈夫かぁっ!!?」






一人が船外に落ちた。
揺れる船の中で、足がおぼつかないが、ハヤテは必死でそちらへ向かい手を伸ばす。











































ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!














































しかし、その手は届かなかった。
何十、何百・・・何千トンもの砂が盛り上がり、まるで巨大なうねりのように立ち上がる。
落ちた彼の命綱は、砂の圧力に耐えきれずに千切れた。

なおも立ち上がり続ける砂に、カシワギは歯を食いしばる。









『それ』が姿を現した。

砂の山から、美しい放物線を描いて飛び出したそれは、
30メートルを優に超えているはずの撃龍船をもまるでおもちゃの小舟の様に感じさせる。

頭上を巨大な黒い影が舞う。
その影だけで、撃龍船の上を全て覆ってしまった。







だが、それも一瞬だった。
結局、あんな大きな物体が空に浮くことなど不可能だ。
船を軽々と飛び越えたそれは、また砂の海に潜っていく。


しかし、ここまで巨大な物体になると、周りの被害も甚大である。
非常に長大な牙が砂に触れ、頭が浸かるだけで、巨大な砂の津波が立ち上る。







普通なら、この砂の波にのまれ、転覆してしまうのだろうが、
ここはさすが撃龍船と言ったところか。
両側に取り付けられた添え木は、船のバランスを失わせることなく、それに耐えた。







『それ』が砂の中に完全に姿を消す。
さっきのものが本当にそこに在った事を疑わせるような静けさが襲う。

・・・ただ、巨大な砂煙のみが、『それ』の存在を雄弁に語っていたのだが。













「・・・いったか?」






カシワギがあたりを見渡す。
船員がいるかどうかを確かめているようだ。

・・・さっきの彼を除いて・・・





しかし、そうはいかなかった。

あざ笑う様に再びの地鳴りが襲い、全員がふらつく。
今度は、先ほど『それ』が飛び込んだ右舷から、砂の山が盛り上がる。











「くそ・・・時期は過ぎたから、もう大砂漠の中心に帰っていると思ったんだがなぁ・・・」










ボソッと、カシワギが目を細めてその『山』を見る
砂の山は、どんどん崩れていく。


まるで、本来の姿を現さんが如く。







砂の山が崩れたときに見えたのは、巨大で鋭い山脈だった。

・・・違う。
あまりにも大きく、『山脈』かと勘ぐってしまうだろうそれは、巨大な背びれ。



船の帆に送られている風は、その山脈の全身の砂をも洗い流していく。
砂が吹き飛ばされたあとに見えたのは、文字通り、『峯のごとき龍』であった。



美しく輝く蒼い鱗は、この雄大な龍にふさわしいものだろう。










































「<峯山龍>・・・・・・<ジエン・モーラン>・・・」











































誰ともなく、声を上げた。

だが、この山脈が砂をわたる音に、いとも簡単にかき消された。






































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.54 )
日時: 2014/03/20 11:48
名前: 壊れたラジオ

ーーかの龍、悠久の時の中を生きーー

ーー壮大なる砂漠を、廻りて戻りけんーー

ーー人の思惑など意にも介すことなく、時に災厄の如く人の前に雄々しい姿を現すーー

ーーその者の象徴は、天災と勇気・・・そして、豊穣ーー

ーー雄大に泳ぐ、彼の龍の名はーー








『狩人の矜持』









ヒナギクたちは、あまりのジエン・モーランの巨大さに開いた口がふさがらなかった。
ジエン・モーランの腕は、砂の海を泳ぐ事に適した形をしているのだが、
それだけでもそんじょそこらの通常モンスターよりも大きい。
砂をその腕で掻き分ける度に、巨大な砂嵐が立ち上る。


ここからほど近い砂の町、<ロックラック>には、
とある季節になると凄まじい砂嵐が襲ってくる。
また、同時に砂の上には巨大な波が発生し、通常の砂上船が一切出せなくなる。
その時期だけは交易がほとんど全てストップしてしまうのだ。




・・・実は、この現象のほとんどの要因は、
驚くべき事に、このジエン・モーランによる物なのである。

ジエン・モーランは、泳ぐときに大量の砂を飲み込みながら進む。
中に入っている有機物を漉し取る、という食生活をしているのだ。

もちろん、砂は食べるわけではない。
いらなくなった砂は、口の側面の噴気孔から吐き出してしまう。

ただし、この砂を吐き出すスピードが半端ではなく、
巨大な砂嵐、引いては大砂漠の砂の流れを変えてしまうほどの波を起こしてしまう。




ハヤテ達が乗っている撃龍船は、このような大波の中でも進んでいけるほどのバランスや、
この巨大な龍の攻撃をある程度耐えられるという、驚異の耐久性を持つ。


・・・が、周囲の環境を激変させる程の龍に真っ向から戦って勝てるかどうかは疑わしい。







そもそも、ジエン・モーランは全てのモンスターのカテゴリーに含まれない。
あくまでも分類をするとすれば、その存在は非常に特異な物になるのだ。




<古龍種>
これがジエン・モーランのいるカテゴリーである。
ただし、これは便宜上、仕方なくそう呼んでいるだけである。

<古龍種>は、その名の通り、古から生きる龍達の意味を持つ。
その寿命は千年とも、二千年とも、そもそも寿命などないと言う意見まである。
生態研究など全く進まず、形態から全てが不明瞭ではあるが・・・



その全てが、天災にも匹敵するという共通点を有する。




ジエン・モーランに限ったことではないが、古龍種のほとんどは広大な縄張りを持つが、
その中で他の生物は追い出されることなく、自由に過ごしている。
古龍達も、彼らを積極的に追い出そうと動くこともない。




・・・それは、古龍達にとって、彼らが歯牙にもかける必要がないからであるだけだ。
実際、その気になれば一瞥するだけでも追い払うことが出来るのだから、わざわざ動く必要もない。






特に、この古龍種の中でもジエン・モーランは最大級だ。
この山脈のごとき体に立ち向かう様な者がいれば、それは勇気ではない。
蛮勇というものだ。











ただし、それでも戦わなくてはいけないときもある。
ジエン・モーランにとって、人間の作った町などまるで藁の壁だ。
しかもあまりの巨大さ故に、大まかな巡航ルートはあっても、
あくまでも方向だけであるため、その挙動は非常に曖昧だ。

運が悪いと、その移動ルートに人間の町があることもある。

ジエン・モーランにとっては、自分の進むルートにたまたま町があっただけで、
決して悪気があるわけではない。


とは言っても、これほど巨大な生物が町に突っ込んできたならば、
もはやそこらの天変地異など物の比ではない。





それを防ぐために、人はこの撃龍船を作ったのだ。
そして、これに乗り込んで、この災厄に立ち向かう蛮勇の者。











それがハンター達なのである。


















*           *


















「・・・どうするのよ?ハヤテ君・・・」





ヒナギクが、ハヤテに耳打ちをする。
普通に喋ったとしても、ジエン・モーランは意にも介さないだろう。
というか、あれが此方の声を聞いているかどうかも疑わしい。

ハヤテは少し笑うと、カシワギの方を向いて言った。







「とりあえず、ここから離れましょう。あまりにも危険です」
「・・・そうだな。それ以外なさそうだ」








ハヤテは逃げることを提案した。
だが、誰も反発しない。

それも当然だった。
撃龍船は、大砲にバリスタ・・・
船首には、強力な火薬式の巨大パイルバンカーの<撃龍槍>まで搭載されている。

また、船尾の大銅鑼はジエン・モーランをひるませるほどの大きな音を出せる。




しかし、今回はもう時期は過ぎてしまっている。
曰く、不測の事態とも言うべき状況なのだ。




主な兵器となる、バリスタや大砲は積んでおらず、
撃龍槍に至っては、ジエン・モーランが正面にいなければ当たらない。

大銅鑼だけでは、どう考えても力不足である。


しかも、通常ジエン・モーランと戦うときは、この撃龍船だけで戦うわけではなく、
援護の小舟が何隻かいなければ到底太刀打ちできない。

要約すれば、今のところこのデカブツと戦う余裕など、此方には一切ないわけだ。







「・・・そうね、それしか無さそうだわ・・・」







ヒナギクは少し悔しそうに目を細めた。
ハヤテは、彼女の肩をぽん、と叩いた。








「・・・悔しいのなら、腕を磨いてください。そうすれば、いつかきっとリベンジ出来ますよ」
「・・・・・・そう・・・・・・そうね」






そう言って、ハヤテは駆けだしていく。
ヒナギクは、どうにか精神を切り替え、この状況を打破するために行動を開始した。








*             *












(遠くから見たときよりも・・・遙かに大きい・・・)





チハルは、初めて至近距離からみたジエン・モーランの大きさにいくらか驚きを隠せなかった。


今までジエン・モーランは大砂漠の淵に立って、遠景に浮かぶ小さな山の様な姿しか見たことがなかった。
それが、今目の前にある。


















「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
















突然ジエン・モーランが体を捩り、天に向かって絶叫した。
それがあまりに突然だったため、彼女は慌てて耳をふさいだが、
まるで管楽器の音を低くしたものに、何の配慮もなく巨大な息を吹き込んだかのような音が響く。


音が手を貫通して、鼓膜をギンギンと揺さぶる。
脳を揺らされているような感覚に襲われ、チハルは少しの吐き気を催したが、
そこはハンターである。何とかそれを飲み込む。


使用人らしく、自分の主が無事かどうか耳をふさぎながらも確認する。

サクヤも耳をふさいでうずくまっていた。
見ると、それは彼女に限ったことではなく、
船の上の船員の全てが、耳をふさいで、地面に伏している。








(・・・ハヤテくんは・・・?)








見渡してみても、ハヤテの姿がない。
・・・もしかして、落ちてしまったのか?

最悪の予想が頭を駆け巡る。
ただ、その思考は長く続かない。



























「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」


























ジエン・モーランが大きく体を捻った。
普通に考えれば、ものすごいスピードのはずなのに、
あの巨大な体格のせいでスローモーションでも掛かっているかのような錯覚を覚えた。



ジエン・モーランの頭の先端には、巨大な二本の大牙がついている。
ただし、その乳白色の牙はブルファンゴの比ではない。
長さは十メートルを下らず、二十メートルに達するものもある。


ジエン・モーランの素材の中でも一際高価な素材であり、これを求めて一生を終える者もいる。




普段は砂を掻きだし、泳ぐために非常に便利な牙ではあるが、
それが攻撃、もしくは外敵の排除のために使われたのならば・・・

そして、それが今のようなスピードで突き立てられたとしたら?







いくら頑丈な撃龍船とはいえ、与えられるダメージは計り知れない。

しかも、自分たちは動けないのだ。
このままでは、この船もろともこの大砂漠に放り出され・・・二度と日の目は見られない。




いくらハンターとして優秀でも、死の恐怖だけはいつまで経っても慣れないものだ。
慣れてはいけないものだ。




周りを見ると、新米の乗組員達が目を見開いて震えている。
ヒナギクやサクヤも同様だ。

カシワギのようなベテランも、歯を食いしばり、冷や汗を流していた。









ジエン・モーランの太い牙が迫る。
ズザザザザ・・・と巨大な津波のような音が、それを鮮明で、
いっそ清々しいほどに恐怖感をかき立てる。

耳をふさぎながらも、ついと目を上げてみると、
ブラックホールの様な口腔が、目の前に迫っていた。











































ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!











































巨大な音が、船の背後から響く。
銅鑼の音だ、とチハルが知覚した途端、ジエン・モーランの体がぐらりと揺れる。
立ち上がった、五十メートルをくだらないだろう体が、
情けない声を上げながら、横倒しに倒れていく。


砂煙が高く上がる。
数十メートルにわたって砂のベールが立ち上ったあと、スコールのように降り注ぐ。











「つっ!!!カシワギさん!!!前です!!!急いで!!!」

「!!!ああっ!!!」









銅鑼の後ろから、ハヤテが現れた。
その声を聞いた途端、カシワギが走り出す。
ダッシュで船の舳先に向かい、階段をジャンプで飛ばしてのぼる。



































「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」































ハヤテの言ったとおり、今度は正面にジエン・モーランが姿を現した。
カシワギがにやりと笑う。






「・・・ったく・・・あいつの見立ては凄ぇな・・・俺が立つ瀬がねぇったらありゃしない・・・」






でもまあ・・・といいながら、ピッケルを振り上げる。
振り下ろす先は、巨大な円形の物体・・・




最終兵器、<撃龍槍>の起動スイッチだ。











「喰らえや!!!」












金属同士をたたきつける甲高い音が響く。
瞬間、大タル爆弾が炸裂したような音がして、船体が大きく震えた。













「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?」











巨大な槍が打ち出され、あらわになっていたジエン・モーランの柔らかい腹に撃龍槍が突き刺さった。
いくら強大な古龍種とは言え、この一撃は堪えたようだ。


彼も生き物なのだ。痛みも当然ある。
大きくひっくり返ると、ジエン・モーランは砂の海に沈んでいった。











「・・・やった・・・のか・・・?」










カシワギがそうつぶやくのを境にして、甲板からは大きな歓声が上がる。
それは、ヒナギクたちも同じだった。

だが、チハルは少し気になることがあって、ハヤテに駆け寄った。






「ハヤテくん、銅鑼は良いタイミングでしたね・・・ありがとうございます。ですが・・・どうして動けたんですか?あんな・・・大声だったのに・・・」
「ああ、それですか?」
「あ、そういえば・・・」
「どうしてや?にーちゃん・・・」







降りてきたカシワギと話しているハヤテは、笑いながら答えた。








「答えは、この装備のおかげですよ」
「あ、もしかして<スキル>の一つ・・・?」
「そうですよ。<リオソウルZシリーズ>の固有スキル・・・・・・<高級耳栓>です」








<高級耳栓>は<耳栓>の上位互換のスキルだ。
本当に耳栓をするわけではないのだが、モンスターの咆哮を全て無効化するものだ。

ハヤテは咆哮を無効化することで出来た時間で、ジエン・モーランの動きを予測して行動したのだ。












「やっぱ、お前にゃ敵わねぇなぁ・・・」
「そんなことありませんよ。撃龍槍のタイミング・・・僕じゃ無理です」
「・・・それもそのうち抜かれそうだ」






そう言いながらも、カシワギからはうれしさが隠し切れていない。
ハヤテの肩を叩こうとする。
みんなその様子を、笑いながら・・・というより、みんなで肩を組みながら笑っている。















































「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!」














































突然、また巨大な咆哮と、砂の山が立ち上る。
ハヤテ達は、完全に不意を突かれた。






「ヤバい!!!!!」








誰ともなく、驚愕の声をあげるが、時すでに遅し。
ジエン・モーランは、もはや目と鼻の先に迫っていた。

全員、自らの死を覚悟してぎゅっと目を閉じた。










・・・ただ一人を除いて。











ハヤテは耳をふさがない。ふさぐ必要もない。
ジャンプで船の舳先に飛び乗ると、ジエン・モーランに向かって飛び出す。


ジャンプにより、とんでもないスピードが出た岩のように重い体は止まらない。
このまま衝突したのならば、いくらハヤテといえど、命はない。





だが、ハヤテは衝突の瞬間、身をねじって衝撃を緩めた。
そのエネルギーを利用して、持っていた矢を・・・

ジエン・モーランの弱点である、強烈な<氷属性>を持つ、
<琥牙弓・アルヴァランガ>の矢を、思いっきり叩き込んだ。
















「オ・・・・・・オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!???」














矢の氷属性エネルギーが爆発する。
ジエン・モーランの体は大きくズレ、船の側面をギリギリでかすめていった。




砂の海に頭から突っ込んだジエン・モーランは、また姿を現したが、
それは船からかなり離れた場所であった。

此方を一瞥したあと巨大な尾ビレを振り上げて、ジエン・モーランは深く潜っていった。









ヒナギクたちはそれを呆然として見ていたが、ハッと思い出した様に船の舳先を見た。










「ハヤテ君!!!?」












うわああああぁぁ・・・・・・
と言う、先ほどまでからは考えもつかない情けない声を上げて、ハヤテは船外に落下していく。








「おいっ!!しっかりしろ!!今引き上げてやるから!!!」







カシワギが命綱を引っ張り始める。
おい!!手伝え!!!という声で、他の船員も我に返って動き出す。


ヒナギク、サクヤは、綱を引っ張りながら、
『ハヤテは一体、本当に何者なんだ?』
という疑問をさらに深めていた。



どう考えても、ガンナー装備の防御力でジエン・モーランに真正面から特攻して、
しかも力押しで押し切ってしまうなど、どう考えても普通じゃない。



・・・なるほど、ディアブロスの突進を矢の一本で止められたのは、至極当然の如く思えた。










チハルは、アカデミー時代に考えていた『ハヤテ化け物説』が正しいものであったとうなずいていた。



















*              *


















その後は、特に何もなく航海は進んだ。
砂の海に落ちたハヤテは、鎧の中に砂が入るだけにすんだ。
ハヤテはレギンスに入った砂を掻き出すことに必死になっていたが、
その他の人たちは、ハヤテを畏敬の念を持って見つめていた。

ハヤテは、また何かやってしまったか・・・とため息をつきながら、
今度はガードに入った砂を掻きだしている。








「それで、どうするの?」
「・・・どうする、とは?」
「あのジエン・モーラン・・・放っておいたら危険でしょう?どうにかしないと・・・」






ヒナギクは不安そうな顔を浮かべた。
他のみんなも、同じような顔をしている。








「その必要はないな」
「まあ、そうですね」







カシワギが声を上げると、その場が静まる。
ヒナギクは驚いた声を上げた。







「え、どうして!?」
「ああ、良いか?ジエン・モーランっつー古龍はな、人間じゃ殺すのは難しい・・・祭りと言っても、ジエン・モーランの進行方向を調整して、そのついでに背中から素材をはぎ取るのが主なんだ・・・・・・危険だがな」










そう、ジエン・モーランは生きる鉱山とも呼ばれ、
何故だかは分からないが、背中からは非常に希少な鉱石が採取される。
というか、ほぼ此方がメインであり、ジエン・モーラン本体を狩ることなど無いに等しい。


だからこそ、ジエン・モーランは町を滅ぼす災厄と同時に、
ハンター達の勇気を試す機会でもあり、町に潤いをもたらす豊穣の象徴とされてきたのだ。












「『砂の国の風物詩』・・・むやみに狩ることは、ギルドからも禁止されていますしね」
「・・・でも・・・」






ハヤテは、にこりと笑うと、ジエン・モーランが泳ぎ去った方を見つめた。









「ジエン・モーランが向かった方は、大砂漠の中心ですから、もう大丈夫だとは思いますけど・・・・・・心配ですから、ロックラックには連絡して警戒して貰いましょうか。」










ハヤテの目は、先ほどまでモンスターと戦っていたとは思えない、優しい目をしていた。
ヒナギクや、ほかの船員達は少しあっけにとられていた。

ハヤテは、人の暮らしに災厄をもたらすモンスターが憎くないのだろうか?








「憎くないと言ったら嘘になりますけど・・・そもそも、彼らの生活に勝手に割り込んでるのは、此方ですから」





ハヤテは淡々と言った。
その言葉の中に、嘘の入る余地など無いように感じた。










「・・・ジエン・モーランは、本当に数が少ないモンスターです・・・乱獲したら、きっと滅びてしまう。ま、乱獲できるようなモンスターではないですが。」







ハヤテはふっと笑った。









「さっきのジエン・モーラン、きれいだったでしょう?」






ハヤテの一言に、みんなは顔を見合わせた。
あんな恐ろしい目に遭って、そんな余裕など無かったのが本音だ。
だが、彼の曇りのない目を見たら、そんな感情は消えた。









「ジエン・モーランは、きっと繁殖のため、子を育てやすい砂漠の浅瀬に来るんでしょう。そして、いつも砂埃をかぶった体を磨いて、異性にアピールするんですかね。」







どんなに人に災厄をもたらすものでも、生きているのには変わらない。
とハヤテは付け加えた。










「・・・そして、また彼は戻ってくるんでしょう。次に命を繋ぎに。それをむやみに妨げるのは、ハンターがやるべき事じゃない」










ハヤテはそのあと、付け足すように言った。





「・・・とは言っても、人の生活も大事です。それは変わりません・・・そのときは、仕方なく・・・モンスターにも諦めて貰わなくてはいけないでしょう・・・」








ハヤテはうつむいた。
実際、ロックラックには、何重にも非常線が張られており、それに踏み込んだ本数によって、危険度が変わってゆく。


その最後の防衛ラインが突破されたときが・・・・・・












「人とモンスターの境界に立って、その間を取りなすのが、本物のハンターだって・・・前に教わったんです、ある人から」






受け売りなんですけどね、と笑う彼は、どこか悲しい目をしていた。











「・・・さ、もうすぐ渓流近くの場所に着くでしょう・・・降りる準備をしましょうか」
「・・・ええ」







ハヤテは、船室に入っていった。
ヒナギク達はそれを追おうとしたが、口を開いたカシワギの声に立ち止まる。












「『モンスターハンター』・・・か・・・」
「・・・なんですか?それ・・・」








ヒナギクは聞き返した。
カシワギは手を振りながら答えた。









「・・・<バルバレ>の知り合いから聞いただけだ。世界で一番優しいハンターの事を指すそうだ」







ヒナギクたちが首をかしげるが、彼はそれにかまわず続けた。









「俺ぁ・・・そのときはそんなハンターがこの世にいるもんかって答えたんだが・・・・・・案外、ああいう奴のことを指すのかもしれねぇな・・・・・・・」








顎を掻きながら言う彼の言葉は、最後は独り言の様だった。







程なくして、船は目的地の港にたどり着いた。
ハヤテは火薬岩の納品場所について、しばらく話し込んでいたが、
すぐに話がついたのか、少し謝りながら走ってきた。

チハルとサクヤが、見慣れないだろうガーグァの荷車を見ている。






荷物を積み込んで、ハヤテに声をかけられるそのときまで、ヒナギクはボウッとしたままだった。













『“モンスターハンター”っつうのは、世界で一番優しいハンターの事を指すらしいんだが・・・・・・・案外、ああいう奴のことを指すのかもな』













カシワギの言った言葉は、ユクモ村の正面門が見えてくる頃まで、ヒナギクの胸にこびりついていた。















































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.55 )
日時: 2014/03/20 13:23
名前: 壊れたラジオ

おお、いつの間にか6000回も見ていただいている・・・
ありがとうございます。

あ、そろそろナギとハヤテを本格的に絡ませないと・・・
ナギの両親もそろそろ登場させますが・・・本当に彼らを表現できるかどうか不安です。

その辺は大目に見ていただけると嬉しいです。

では・・・
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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.56 )
日時: 2014/03/20 13:52
名前: masa

こちらでは初めまして、ですよね?masaです。

実は言うと、最初の方から見てましたが、感想を書くタイミングを逃してしまっていたので、今になりました。


正直、自分はモンハンを全くやったこと無いですが、そんな自分でも楽しんで読ませてもらってます。

ハヤテの超人ぶり、そして驚異の天然ジゴロぶりはここでも健在なようで。安心するやら呆れるやら。
そして、ハンターと言う立場でも、「優しさ」と言うのも忘れてない。流石と言うべきですよね。



次回以降も楽しみにしてますね。
では。

[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.57 )
日時: 2014/03/21 10:57
名前: 壊れたラジオ

うわぁ!?
僕が一番好きで尊敬してる作者さんから感想が来た!?
ありがとうございます。そんな感想がもらえるとは・・・

ハヤテは原作でも超人なので、いっそのことここでは誰も敵わないようにしたかったからです。
『モンスターハンター』の優しさの定義は<モンスターハンター4>の登場人物からです。

それでは、続きを書いていきたいと思います。では・・・







*         *







『嵐の前触れ』









ハヤテは、いつも持ち歩いているメモ用紙に何かを書き込んでいた。
言わずもがな、彼の命とも言える『モンスター図鑑』を埋めるための作業である。


ページの内容は<ジエン・モーラン>だ。
ジエン・モーランのページはすでにあったのだが、
今回のことで新たに分かったことも多いので、
正しく言えば、その項目に書き足すべき事をメモに書き出しているのだ。



突然、ゴトッと荷車が揺れた。
ハヤテは集中すると周りがあまり見えなくなる性質であるらしい。
メモをとる目をとめて、ハッとあたりを見渡した。



メモをとる内容が頭から飛んでしまった・・・
ハヤテはため息をついた。
メモは大事なものでは在るのだが、文句を御者に言うわけにも行かない。



周りを見てみると、自分と同じくこの荷車に乗り込んだ三人は、
荷車に積まれている、交易品が入った箱やタルに寄りかかって眠っていた。



そう、思ったが、ハヤテのこんな時まで研がれた無駄に高性能な感覚は、起きている気配を感じた。







「・・・寝ないんですか?体に毒ですよ」
「・・・あなたが言うことかしら」






サクヤに膝枕をしたまま、自分も箱に寄りかかって寝ているチハルの横で声がした。
こんな体勢で寝ていたら、体がおかしくなりますよとハヤテは言うと、
彼は自分が座っているところをどいて、チハルとサクヤを横に寝かせた。





「・・・いろんな事があって、眠れない?」
「・・・」
「・・・ま・・・当然ですね」





どこから取り出したのか、ふわふわな毛布を寝ている彼女たちに掛けると、
ハヤテはヒナギクの隣に座った。

二人が寝ていて、座るスペースが小さくなっているので、いやでも密着した体勢になってしまう。
しかし、そのことに気づいていないのか、そもそも自分がそう見られていないのか、
ハヤテが気にする様子はかけらとしてない。

ヒナギクは少しむくれていたが、ハヤテはそれを違うものとして受け取ったようだった。






「・・・ハンターになって、恐いと思ったことあります?」
「いきなり何を・・・」





ヒナギクはハヤテの問いがよく分からず、首をかしげた。
もちろん、恐くないと思ったことなんて無い。
だが、それをなくすのがハンターではないのか。






「・・・あるけど・・・それをなくすのがハンターでしょう?」





ハヤテは、少し苦笑して言った。






「それを聞いて安心しました。でも、恐怖を感じないハンターは・・・はっきり言ってハンターには向いていません」
「どういうこと?」






益々分からない。
恐怖を感じないのと、感じるのでは・・・どう考えてもない方が有利に思える。
ハヤテは、彼女の目を見つめると、また少し微笑んで見せた。

あの、船の上でのように。








「・・・僕たちが恐いように・・・彼らも恐いんです。あちらにしてみれば、命を奪われかかってるんですから・・・」






「・・・だからこそ、彼らの恐怖を感じ取ってやれるハンターを目指すべきだって、僕は思ってます」







ハヤテはそう言うと、僕もそろそろ寝ます、
と言ってヒナギクが口を開く前に意識を手放してしまった。


自分の悩んでいたこととは違うことだったのだが・・・
彼が勘違いして言って来たことは、いくらか彼女の心のつっかえを外していた。




ヒナギクは肩をすくめた。
これ以上考えたところで、答えが出てくることはないし、
現実的な問題として、そろそろ寝ないとまずいことも分かっていた。




そう知覚した途端、彼女は大きな睡魔に襲われた。
耐えきれずに、隣の彼の肩に頭をのせてしまった。
いつもの彼女だったならば、起きた瞬間にこの光景を見れば、
きっと赤面して過去の自分を責めようとするだろうが、今の彼女はそれを考える余裕がなかった。







いつか、『モンスターハンター』の意味が自分にも分かるときが来るだろうか?

そう思いつつ、彼女は目を閉じた。











もっとも、彼女がこの意味を理解するのは、まだ先であったが。
















*               *















ユクモ村の正門が見えたのは、日がとっぷりと落ちた頃だった。
しかし真っ暗と言うわけではなく、大きな街道にともされた明かりが町を華やかに彩っていた。

温泉から立ち上る湯気がその光に映えて、霧のように幻想的な雰囲気を醸し出していた。



ただ、天候は少し荒れそうだ。
大きな真っ黒い雲が空を覆い始めている。

これは、一嵐来るだろうか・・・とハヤテは隠されていく星空を眺めていた。







積み荷を降ろし、町に入った瞬間、彼は人の波にのまれた。
人、というのはこういうときにはひどく目聡いらしい。
彼の姿を誰かが目にして声を上げた瞬間、それに気づいた人が押し寄せてきたのだ。







「ちょ・・・やめてくだ・・・ちょっとどこ触ってるんですか!?」







彼の体に触れようとする人々の波に押しつぶされそうなハヤテに、他の三人はあきれたような顔をした。





「すげぇよなあ!今回はディアブロスを矢を一本で倒したらしいぞ!!」
「俺は、一撃でディアブロスの角を吹き飛ばしたって聞いたぜ!?」
「・・・ヤバイ・・・俺ノーマルなのに・・・なんか目覚めそうだ・・・」




ハヤテの今回の活躍は、すでに知られていたようだ。・・・えらく尾ひれがついていたが。

その話・・・どこの超人だよ・・・というか最後の人やめろ!!!
まだ間に合うから!!!ノーマルに戻っていてくれ!!!永遠に!!!


村人達は、あの凶暴なディアブロスを制したハヤテに、尊敬の念を隠せない。
しかし、話を聞こうとしたのはハヤテに対してだけではないようだ。






ハヤテが助けを求めるように顔を向けると、ヒナギクがいくらかの女性ハンターに囲まれているのが見えた。








「ね、<蒼火竜>様と狩りに行ったってホント!!?」
「え?・・・ホントは違うけど・・・そういうことになるのかしら・・・」
「ああっ!いいなぁ!」
「わたしだって、あのお方と一緒に・・・」
「ねぇ!狩り場でのあのお方はどんなだった!?」







ヒナギクは女性ハンター達の質問に、しどろもどろになっているのが見えたが、
それは一つの大きな声によって遮られた。












「ヒナさあああああああああああああんんんんんん!!!!!!!」











・・・否、吹き飛ばされた。
猛ダッシュしてきたアユムに、ヒナギクは押し倒された。
ボロボロと目から涙を零しているのを見ると、本当に心配したのが分かる。


ヒナギクはそれを見ると、いたたまれなくなったのか、
彼女を抱きしめて、同じように泣き出した。





今さらになって、恐怖の念が出てきたのだろうか・・・
彼女の泣き顔には、そんな感情が見て取れた。


村人達はその様子を、みんな優しい目で見ていた。
現に、ヒナギクの今回の暴走を知っているのだろうが、誰も攻めはしない。






「・・・いい、人たちですね」






ハヤテはそれとなく、つぶやいた。
しかし、ここまで泣かれると、此方もいたたまれない。


ハヤテは、レジストから砂原の町で買い求めたお菓子を取り出して、アユムに差し出した。
子どもにやるような手だが、それ以外にやれることがない。






ただ、それを見た瞬間アユムの顔がぱあっと光り、そのお菓子を一心不乱に食べ始めたときには、あたりがドッと笑いに包まれた。













*             *










「もうっ!アユムったら!!!」
「あはは〜・・・ごめん・・・しばらく何も食べて無くて・・・」





あれから、ポツリポツリという小雨から始まって、
途端にバケツをひっくり返したような大雨に変わると、
ハヤテ達の周りにいた人たちは一人、また一人と帰って行った。
それを好機とばかりに近づいてきた人もいたが、もう遅い時間ともあって、帰って行った。


ハヤテ達は、ユキジのもとにいた。
彼女は戻ってきた妹をひとしきり叱りつけたが、そのあとゆっくりと抱きしめた。
そして、妹に怒られているにもかかわらず、とっくりから酒をつぎ始めた。


こんな時ぐらいは許してあげても良いのでは?というハヤテの意見に、ヒナギクは渋々うなずいた。
今回のことがあって、少し強く出来ないのを見て、
ユキジがそーだそーだと調子に乗るが、あっという間に叩き伏せられる。


ハヤテは、昔の恩師が妹にぼこぼこにされるのを、複雑な思いで見ていた。







「あ・・・アユムが何も食べてないなんて・・・」
「ちょっとヒナさん〜それどーゆう意味〜!?」







そのことに関しては、あまり知らないハヤテも驚いていた。
あの健啖家をそのまま形にしたようなアユムが・・・
と思ったが、それほど友だちを心配できるような優しい人なんだろうと勝手に理解した。

・・・ま、将来彼女を養うだろう人は大変だろうなぁ、とも考えたが、それは口には出さない。








「へぇ・・・ドスファンゴを狩りに・・・か」
「ええ、そうですよ先生」
「せや・・・と言うか、『先生』?」





チハルもユキジとは面識があった。
まあ、ハヤテと同じアカデミーにいた事を考えれば至極当然だが。








「チハルちゃんも変わり無さそうね・・・元気そうでよかったわ」
「そういう先生は、大きくお変わりなさって・・・なんだか申し訳ありません」
「それどー言う意味!!?」







アカデミーからいたときから思っていたのだが、チハルは気の許した相手に対しては結構毒舌だったりする。
しかも、それをそうだとは思ってはおらず、完全に素でやっているのでどうしようもない。

ハヤテと一緒にいるとき、他の女生徒にやっかまれたときも、これで大抵は返り討ちにしていた。
涙目になった彼女らの顔は、今もよく覚えている。


そのときに思ったものだ。
『彼女は怒らせてはいけない』と・・・









やれやれ・・・と言いながら、ユキジは座り直した。
ハヤテ君も飲む?と言いながらお猪口を差し出してくるので、
一杯だけなら良いか、と受け取った。





「<ドスファンゴ>のクエストは今は出ていないわね・・・そもそもこのあたりには少ないモンスターだし・・・」
「やっぱりそうですか・・・」





サクヤががっかりしたような顔をした。
ユキジは苦笑すると、肩を優しく叩いて言った。





「ま、焦ってもしょうが無いわ・・・明日、クエストカウンターに行ってみましょう。」






今日は遅いしね、と付け加えた。
ハヤテも、正直旅館に戻って休みたかった。




泊まってく?と立ち上がったハヤテに聞いてきたが、ハヤテは首を横に振った。
姉妹や、友だちの時間を邪魔したくはない。

サクヤとチハルも宿を探していたようだったが、それは自分が泊まっている宿に来て貰えばよいだろう。








「ハヤテくん・・・私たちを宿に連れ込んで何をするつもりですか?」
「なんで同じ部屋に泊まるという前提で話してるんですか・・・」
「いえ、その方が宿代も浮くかなぁ〜・・と」







いきなりの爆弾発言に頭を抱えたが、それが案外合理的な理由だったため、ハヤテはため息をついた。
とは言え、ハヤテの旅代はギルドによって支給されているし、
それは結構な額であるため、部屋をいくつか取るぐらいはたいした手間では無い。

・・・別に何をしても良いんですけどね・・・というつぶやくような声が聞こえたが、聞かなかったことにした。






「大丈夫やってハルさん!にーちゃんはそんなことせぇへんって!」





予想外の援護射撃に、ハヤテはサクヤの方を見た。
いや、だから同じ部屋じゃ無いんだってば!と言うツッコみが在ったのだが、
それを抜きにしても、自分の人格がフォローされたようで、少しうれしさを感じた。





「だってにーちゃんヘタレやもん。女の子に手を出す勇気なんてないやん?」
「・・・期待した僕が悪かったです」





前言撤回だった。
ハヤテは肩を落として、華やかに彩られた明かりの中を歩いて行った。












*            *












「お!やったぁ!<ドスファンゴ>のクエスト出てるやん!」






翌朝、クエストカウンターに来て受付嬢と話し込んでいたサクヤが嬉しそうな声を上げた。
どうやら、ドスファンゴが渓流に姿を見せたらしい。





「へぇ・・・良かったじゃない」
「そうですね」
「・・・クエストがあったのは良かったと思いますけど・・・」





ハヤテ達は、現在クエストカウンターの隣の温泉に浸かっている。
もう一度、この極上の湯につかれることは素直に嬉しいし、
出来ることならこのまま夢見心地に浸りたいところだった。

ため息をつく彼に、チハルが怪訝な声をあげた。





「どうかしましたか?」
「どうかしたかじゃありませんよ・・・・・・どうしてそんなに近いんですか・・・」







そう、彼女の位置取りが非常に近かったのだ。
ヒナギクは、湯浴み衣をつけているとは言え、一般的な恥じらいがあるらしく、
ハヤテとは一定の距離を取っていた。


だが、チハルの位置は彼のほぼ眼前であり、ともすれば体があたってしまう。
しかも彼女は、自分では気づいてはいないのか・・・
その・・・部分的な凹凸が非常に大きい。



そんな彼と、彼のそばの彼女を見て、ヒナギクは非常に不機嫌そうな表情をしていた。
しかし、ここは浴場。
下手をすれば、自分が恥ずかしい思いをすることになるだろう。いや、絶対になる。


嫉妬もあったが、それよりも大きな羞恥で動けず、ヒナギクは鎖で繋がれた猛獣の様な目をしていた。





「えっと・・・そのヒナギクさん?・・・これはあなたが思っていることではないと言うか・・・」






ただ、その鎖は目の前の超鈍感男によって、あっさり千切れたのだが。

ブチッと言う音が頭から聞こえた。
ハヤテは、目の前で起こっている事に怯えているのが見える。










「こんの・・・」









ヒナギクの体が震え、地の底から吹き出してくるような声を上げる。












「破廉恥ヤロおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」











ぎゃーーーーっ・・・という声が響く。
チハルはその様子を、少し笑いながら見つめていた。


・・・此方をおちょくりたかっただけらしい。
ハヤテは恨みがましい目で、チハルを見たが、彼女はついと顔をそらした。











「ハヤテくんはやっぱりハヤテくんですね」






チハルはふっと言った。
さっきの行動で、どうなるかぐらいは分かっていた。

それを見て彼をおちょくりたいとは思ったが、それは半分。
半分くらいは本気だったのだろうが・・・ま、何やらの人にはいたずらしたいと言うことだ。


が、それに気づいたりしないこの男にわざわざ言う必要など無いとは思っていたが。












































「<蒼火竜>さまああああああああああああああああ!!!!!!」











































朝早くで人がいないとは言え、ハヤテ達によって良くも悪くも賑やかだった浴場は、
その大きな声によって遮られた。






「・・・どうしたんですか?」






あっさりと精神のチャンネルを切り替えて、ハヤテは集会浴場に飛び込んできた人を見つめた。
<蒼火竜>と賞される彼は、その空よりも蒼い目を光らせた。

ヒナギクは彼の一瞬の変化にしばし目を奪われたが、すぐにその方向を向いた。

入ってきた彼は、見たところ二十代ほどで、黒い服装をしている。
きっちりとした服装の使用人服であるので、どこかの使用人のようだ。
・・・それも、何か高い身分の人間の。











「すみません!!!昨日お帰りになったばかりなのに・・・ですが・・・」
「僕なら大丈夫です・・・・・・まず、落ち着いてください」






ハヤテがそう言って、優しく口調で落ち着かせる。
使用人はいくらか深呼吸をしたあと、一気にまくし立てた。










































「・・・わたしは、タンジアの豪商、<三千院>の使用人なのですが・・・・・・昨夜、その跡継ぎの一人娘であらせられる方が・・・・・・行方不明になってしまわれたのです・・・・・・」

















































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.58 )
日時: 2014/03/21 15:26
名前: masa

どうもmasaです。

チハルさんの膝枕か。なんか羨ましい様な。

理由はどうあれ、「恐怖」と言う感情は大切なんでしょうね。「生きるため」とか、「狩られる側の気持ちになる」とか。
まあ、ハヤテの言う恐怖を感じる理由は、命に優しいハヤテなりの理由でしたね。

噂なんて、尾ひれなんてものはつきものですよね。ってか、ほっといたら虎鉄2号が生まれるんじゃ。それは色んな意味で困った事になりますね。

で、アユムはここでも相変わらずの様で。いくらお腹がすいてても、お菓子貰って一心不乱って。子供か。
まあでも、そこまで心配してたってことも彼女らしいか。

ここでのチハルさんって意外と大胆と言うかなんというか。
普通なら「一緒の部屋に泊まる」なんて発想は出ませんよ。宿代節約のためとはいえ。

ヒナギクさんの怒りって「理不尽」ってやつじゃ。何もハヤテが望んであの状況になった訳じゃないのに。
まあ、チハルからすれば、「当たってる」ではなく、「当ててる」ですよね。やっぱ大胆だわ。


三千院か。と言う事は…


次回も楽しみにしてますね。

では。

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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.59 )
日時: 2014/03/23 17:36
名前: 壊れたラジオ

感想どうもありがとうございます!
『命』については、ハンターにとって切っても切れない関係なので、それをハヤテに代弁してもらいたかったのが、意外とこの話を作る切っ掛けだったりします…
戦闘描写は苦手ですしね。

チハルさんは原作でも主従関係と言うより姉妹の様なので、膝枕をしていただきました…

虎鉄二号か……その内出るかも知れませんね……(おい)

アユムのキャラは、単純で使いやすいです。
本当はもっと感情豊かなんでしょうけど、ここではまだ垢抜けて無かったり……

ヒナギクさんのキャラが理不尽なのは、この話の視点がハヤテよりの三人称を目指しているからだと思います。
……その割に二転、三転しているのは申し訳無いのですが。

ツンデレは通用しない人にやるとこんな感じに見えるのかな、と思った結果です。
……すみません、ヒナギクさん……


チハルさんの性格については、頭が下がるばかりです……どこをどうしてこうなっちゃったんだろう……?

私の場合、話の大筋は頭にあっても、登場人物の性格や口調はその時々に思い付いた事を書くことがあるので、かなり原作とずれたものになることがあります

そのたびにキャラの性格を付け足していくのですが……チハルの場合はそれが非常に変な方向へ向かったようです

一応、アカデミーにいたときの性格は原作と同様です。
まだここで書いていない、ハヤテと経験したある事件によって、こんな性格になる切っ掛けが出来たという設定ですが、また後で書くことになるでしょう。
それまでお待ちください。


では、また明日に更新できるかもです






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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.60 )
日時: 2014/03/24 10:08
名前: 壊れたラジオ

『恐怖の予兆』





「三千院!!?って事はもしかして・・・」
「・・・!!?サクヤ様!?」






この使用人の声は、ただでさえ朝早くで静かだった集会浴場に響くのには十分だった。
クエストの契約金を払って此方に来たらしいサクヤが、大きな声を上げた。

が、それよりもハヤテはサクヤの反応が気になった。
まるで、その行方不明になった人について知っているような雰囲気だ。







「なぜあなたがこんな所に・・・お父上はお元気でしょうか?」
「え・・・ああ〜・・・あの馬鹿親父は・・・」
「・・・サクヤさん、知り合い?」



ヒナギクも同じ事を思ったらしく、サクヤに問うた。
彼女は少し考え込んだあと、何か言いにくいことがあるように口を開いた。








「ウチは砂原のあるでっかい商人の出なんやけど・・・<タンジアの港>で交易をしとる三千院とは、昔から付き合いがあって・・・そこのウチと同じくらいの女の子とも、よう遊んどったんや・・・」
「・・・なるほど」





ハヤテは昔、砂原でディアブロスと戦った時にその町にいたサクヤと出会ったのだが、
初めて会ったそのときは、まだその家の令嬢のような姿だった。
再会したときに驚いたのは、まさか彼女がその不自由ない地位から、苦しみの絶えないハンターになってくるとは思わなかったからだ。


ただ、そんな経緯でハンターになる人も少なくはないし、彼女の性格もある。
あまり深く詮索されるのは、きっと好まないだろう。









「・・・家の事は大丈夫や・・・それよりも今は、その女の子・・・『ナギ』について、村長さんと話さんと・・・」
「・・・そうですね。そうしましょうか・・・村長さんに連絡は?」
「もう行っていると思います。<蒼火竜>様と村長殿に即刻伝えるよう仰せつかって、二手に分かれてきましたから・・・」





ハヤテは手早く着替えると、鎧を旅館でメンテナンスのために置いてきてしまった事を思い出した。
少し唇を噛んだが、今はそれどころで無い。
早く村長と相談して、これからのことを決めなければ・・・




村長や、村の重役達は村の中心にある大広間に集まっているらしい。
見ると、他の三人も準備が終わっている。

ヒナギクはこの村の専属ハンターなので、当たり前なんだろう。
しかし、心なしか表情が硬かった。


少し疑問に思ったハヤテだったが、せかす使用人の声で我に返り、素早く集会所を出て走り出した。





体から出ていたはずの温泉の湯気は、いつの間にか消えてしまっていた。












*           *










中央の大広間を作った職人は、とても腕が良かったのだろう。
そして、そんな職人を雇えた財力も大概だ。


豪華絢爛な朱色に塗られた柱に、金銀装飾も決して派手では無いのに、どこか勇壮な雰囲気を受ける。

足下に使われている檜の舞台の心地も最高だ。
自分の家に使われている、ささくれだった船の床板とは比べるまでも無い。






しかしこの豪華さは、今の状況に至っては今回の事件の深刻さを増していくだけの代物だった。










「<蒼火竜>様・・・そして専属ハンター様のお着きです」





ここまで案内してくれたお付きの人が中に向けて声を掛けた。
沈黙は肯定、もしくは了承の意味だろうか、その人はゆっくりと引き戸を開けた。


戸の中には、異様な雰囲気が流れていた。

村長が、ハヤテが入ってきた戸の対極に位置する場所に座っている。
その隣に、ひとまわり小さな着物を着込んだ女の子がうずくまっている。
まるで着物の重みに耐えかねているみたいで、まるでそこに衣類しか存在しないのでは無いかと言う錯覚に陥りそうだ。









「・・・伊澄・・・さん?」
「大丈夫・・・か・・・?」




サクヤが声を掛けた。
決して大丈夫では無いなんて事は分かっている。
それでも声を掛けずにはいられないほど、彼女の様子は痛々しかった。


二人は知り合いのようだ。
どうしてかは知らないが、決して他人という雰囲気では無い。






咳払いの音がした。
ハヤテが振り向くと、そこには白いひげを生やした、壮年の男性が座っている。

見渡してみると、いたのは男性だけでは無かった。
この広い部屋の縁に沿う様に、何十人何百人と黒服の屈強な男達がそろっている。




そのリーダー格である壮年の男性はハヤテを一瞥したあと、何を思ったのかため息をつき、村長に向かって口を開いた。









「・・・何度も言ったとおり、これは事故ですので・・・あなた方に落ち度はなく、帝様も責めるつもりなど毛頭無いと、先ほど連絡が来ました・・・」




しかし・・・と男性は続けた。










「もしもお嬢様が、<狩り場としての渓流>で遭難されている場合・・・被害は深刻な物になるでしょう・・・」





その言葉を聞いた途端、村長の顔がゆがんだ。












「・・・幸か不幸か・・・今現在ここには、かの有名な<蒼火竜>様と・・・優秀な専属ハンターがおられます・・・我々はハンターではありません。ギルドから狩り場への立ち入りは禁止されていますし・・・私たち自身が帰ってこられるという保証もありません・・・」






男性はちらりと此方を見た。
まるで値踏みをされているような視線にハヤテは気まずくなったが、もはや狩りに行った先でこんな目で見られるのは慣れていることだった。

村長がゆっくりと一礼をすると、男性はゆっくりと立ち上がると、ゆっくりと出て行った。
それに呼応するかのように、そこの男達もぞろぞろと出て行った。











「・・・私たちに力があれば・・・お嬢様をお守りするのが、我々の役目なのに・・・また守れないのか・・・」
「・・・仕方ないさ・・・こればかりは・・・」
「・・・天下の三千院家も、ハンターズギルドには勝てぬから・・・なぁ」





男達がぼそぼそと話しているのをハヤテの耳はとらえたが、そんなことよりもハヤテは村長の方を向き直った。

相手は意図していたかどうかは分からないが、あれだけの人がいれば自然と威圧になる物だ。
村長は大きくため息をついて、緊張しきった体をほぐしていた。

とは言っても、その顔に浮かんでいる心配は消えていなかったが。











*              *











「ごめんなさいね、こんなことになってしまって・・・」
「いえ、それよりもご自分の体を気遣ってください。あんな事が続いたら、あなたも倒れますよ・・・」




村長には楽な姿勢を取って貰おうとハヤテは促した。
隣では、サクヤが伊澄を慰めている。

先ほどちらりと見てしまったが、ずいぶん長いこと泣きはらしたらしく、目が赤くなってしまっていた。








「・・・伊澄さん、サクヤさんや・・・その三千院家のご令嬢とお知り合いで?」




ハヤテの問いに、うつむいた伊澄は小さくうなずいた。
初穂がそれに付け加えるような形で口を開いた。








「少し前に、三千院現当主の帝様の一人娘の紫子姉様の病を、ここの湯の湯治で治したことがきっかけで、この村の後ろ盾になってくださり・・・この村を発展させてくださったのです」





ユクモ村に初めて来たときと比べて、だんだんと大きくなっていたのは気のせいでは無かったと言うことだ。
そして、その情報はこの事件を一層深刻にする。









「・・・行方不明になったのは、その紫子姉様の一人娘なのです・・・わたしの娘とも、親しく交遊されていたのですが・・・」
「ウチは・・・ナギがきっかけで、伊澄さんと知りおうたんや・・・と言っても、伊澄さんがタンジアの港に出てきたときだけやけどな・・・」






なるほど、この人達の知り合いで、親しくつきあってきたのならば、それはここまで心配するのは普通であるだろう。


しかも、村のこともある。
この村の発展は、三千院家におんぶにだっこの状態だ。
下手をすればそれがあっという間に崩れ、村人達への被害も多くなる。





二つの大きな心配に挟まれたのならば、伊澄さんも初穂さんも心身共に疲れるのも道理だろう。












「・・・<蒼火竜>様、すみません・・・狩りを終えてきたばかりなのに・・・」
「いえ、僕のことは構いませんよ。狩りをしての、依頼を受けてのハンター業ですから」





ハヤテが依頼を断ることは少ない。
そこには、人々の様々な思惑があるのだろうが・・・直接の依頼を断るのは、ハンターとしての沽券に関わる。

とは言え、あまりにもむちゃくちゃな依頼を受ける事は無いのだが、
そもそも依頼を受けられないハンターもいる中で、そんなことを言うのははばかられた。














「集会場に、<ドスファンゴ>のクエストが出ていたのに、お気づきですか?」
「え?ええ、先ほど・・・」





初穂さんが、此方を窺うように尋ねてくる。
その姿は村長には到底見えず、子どものことを心配する一人の女性のようだった。








「その依頼を、少し変えさせていただきたいのです。」




依頼を変える?
ギルドに受理された以上クエストの依頼内容を変えることは少ないが、この場合は特例だ。
許されてしかるべきだろう。











「依頼内容は、ドスファンゴ一頭の狩猟、または捕獲でしたが・・・・・・<サブターゲット>として、渓流の<探索>をお願いしたいのです」












*            *












<サブターゲット>とは、決してクエストクリアというわけでは無いが、それをこなすと一定の成果と見なされて、報酬の一部を受け取れる。

欲しい素材がそのサブターゲットの報酬に含まれている場合、此方のみをクリアしてさっさと帰るハンターも多い。



ただ、<探索>がその対象となるのは非常に珍しいことであったのだが。












「・・・つまり、ドスファンゴを倒すついでに、行方不明になった彼女がいないか探せ・・・と」
「・・・ええ」





その理由は至極当然の物だった。
ハンターで無い一般人は、狩猟地には入れない。
いくら屈強な人々であっても、変動し、何が来るか分からない場所に行けば、生きて帰れるかどうか分からない。

そこはもっぱらハンターの仕事になるから、仕方ないことではあった。
忠義が強い人たちがそこへ入ることが出来なくても、責められる筋合いは無い。










「・・・実は、あの使用人達の中には、あの子・・・ナギちゃんの車を襲ったのは、そのドスファンゴだって意見も出てるの・・・」
「そうですか・・・ここから出るには、船か車を使わなくてはいけませんし・・・」
「ええ・・・そうでなくとも、遭難した先で、もしドスファンゴに出くわしたら・・・」




川で船を使うことは、ガノトトスのことがあってためらわれたんだろう。
しかし、山越えするにしても危険なことに変わりは無い。

よりにもよって、このあたりでは珍しいドスファンゴの出現に出くわしてしまったわけだ。










「・・・うう、ナギ・・・」
「大丈夫や伊澄さん・・・ウチもナギを探したる・・・それにあいつのことや、そのうちひょっこり顔出すって・・・」





落ち込む伊澄をサクヤは慰めるが、その声もどこか力が無い。
いつも力の限り咲いている花が、突然しおれてしまったみたいだ。









「どうするの?」




ヒナギクがハヤテをのぞき込む。
だが、ハヤテには最初から迷いなど無かった。











「どうするも何も・・・僕たちは最初からドスファンゴを狩りに来たんでしょう?サクヤさんがクエストを取ったようですし・・・早くに終わらせましょう」
「そうね、わたしもそう思う」





自分が期待に答えを返せたのだろうか、ヒナギクは初めて会ったときからは想像もつかない笑顔を見せた。

サクヤ達の表情がぱあっと明るくなる。

ハヤテはゆっくりと立ち上がった。その足は、外へと向いていた。






















「善は急げ・・・早く行きましょうか。まあ、旅館に荷物を置いたままですから、一度戻らなくてはいけませんけれど。」











































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.61 )
日時: 2014/03/24 13:19
名前: masa

どうもmasaです。

やっぱりと言うか、ナギでしたか。
普段ふわふわしている伊澄が咲夜が心配するほどになってるとは。まあ、当然ですよね。
白ひげの人って、確かカゲウス?・・まあいいや。その人の言葉は、良いんだか悪いんだか分かりませんよね。「危険」と言う言葉以外では言い表すのが難しい狩り場で行方不明になっちゃったんですから。
まあ、モンスター相手じゃ「金を出すから助けてくれ」なんて通用しませんからね。しかも、専門の訓練を受けたハンターですら死ぬ場所じゃ一般人立ち入り禁止は当然か。

ゆっきゅんはここでは存命なんですね。って事はシンさんも?
友人や使用人ですらあんな状態ですから、実の親であるゆっきゅんは気が気でないでしょうね。
ハヤテは流石と言うべきですよね。「救出ミッション」を一切迷いなく受けたんですから。

まあでも、相手があのナギじゃ助けて貰った時の態度は何となくですが、予想は出来ますね。その予想が外れる事を願ってますが。
で、あのナギじゃトラブルの匂い満載ですよね〜。まあ、こっちも外れてほしいですが。


次回も楽しみにしてますね。
では。

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.62 )
日時: 2014/03/25 10:23
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
カゲウスさんは、ここではそんなに影が薄いわけじゃ無いんですがねぇ・・・
ま、原作があっては仕方ないですね。

確かにモンスター相手では、原作でやってたオトナの解決法は使えませんね(笑)


ゆっきゅんはご存命ですよ。
ナギの初登場シーンで一応書いてあります。

シンさんももちろん存在しています。ていうか、この後の展開では物凄く目立つかも?

ま、ハヤテについては・・・やっぱりハヤテはハヤテだという事しか言えませんね・・・全くもう


ナギについての予想は・・・はっきり言ってあたりですね(笑)
今回彼女はトンデモな目に遭うでしょうから。



では、本編です。









*            *









『ざわめく森』









「うわあああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」






自分は三千院家の令嬢、ナギである。
名前は・・・あるな。下手なボケをして申し訳ない。


さて、今のところ自分は物凄い勢いで走っている。
それはもう、端から見れば自分は究極のインドアとは思えないほどの勢いで。


何度も言うが、自分は深窓の令嬢である。極端な話、究極のインドアである。
走るのなど、好きでは無い。というか大嫌いだ。

しかも走っているところと言えば、深い深い森の中だ。
時間はいつ頃なのかは分からないが、木々の枝の間に見える空にかかる雲が赤みを帯びているから、たぶん夕刻だ。


しかし、そこまでだった。
空に頓着する余裕なんかあるならば、どう考えても足を動かすべきだ。

足下の雑草と、昨日降った大雨のせいでぬめる泥のせいで走りにくいったらありゃしない。
が、どうにも走らなければどう考えてもやっていられないのも事実である。





長々と申し訳ない。
自分が今陥っている状況から、少しでも現実逃避をしたくて誰とも無く自分の心情をはき出していたのだが、もう限界だ。

息はいつもの運動不足がたたって、絶え絶えだ。
くだらないことを考えていたら、足に回すべき酸素まで脳が勝手に使ってしまう。



わたしをこうやって無理矢理走らせている現象・・・アクティブな母よりも、よっぽど恐ろしかった。
















「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」









わたしを後ろから地響きを上げて追いかけてきていたのは、全長六メートルの森の主の様な風格を醸し出す、<大猪>だった。













*                *











─数時間前





ハヤテ達は、アイテムポーチや武器を簡単に点検したあと、文字通り踵を翻すようなスピードで渓流のベースキャンプへと向かった。

今回のクエストは本当に特別らしく、支給品ボックスにはアイテムが満載だ。
<探索>がクエスト内容に入っているからか、いつもはいつ使うんだろう?と思うアイテムの<双眼鏡>まで入っている。




四つ入っていたが、ハヤテは持っていかなかった。
チハルは、持っていかないのかと聞いていたが、ハヤテはアイテムポーチが一杯だったこともあるし、素で望遠鏡並みの目を持っていたので、いらないと答えた。

自分はおかしな事を言った覚えは無かったが、三人は驚いた目をしていた。








エリア1を通り抜け、渓谷を超えてエリア2に出た。
この間アオアシラを狩りに来たときは多くのブルファンゴがいたものだが、現在は数頭ほどに収まっている。
・・・やっぱりあのときは、パーティーでもやっていたのだろうか。


数頭のブルファンゴが、わき水の際に生えているキノコを食べている。

キノコは栄養満点の食品である。
人間にとってそうなら、大概の生物にとってもそうだ。
ブルファンゴなどの草食動物はエサをそれほど食べられない時期に備えて、ああいった栄養の大量に含まれているキノコを食べ、体に蓄えることで過ごすのだ。


つまりは、ああいった食料を探せば、自ずとそれを食べに来たモンスターをそこまで苦労せずに見つけることが出来る。
裏を返せば、そこに近づかなければ、簡易式のモンスターよけにもなるわけだ。



・・・最も、ハンター学校では最初に習うことであるものの、ハンターで無い行方不明の彼女がそれを知っているかはほとほと疑問であるが。



そして、彼女が行方不明になっていると言うなら、そのご両親はさぞ心配しているのだろうなとハヤテは考えていたものの、それはある意味無用な心配だった。

どうもその二人は、昨日渓流観光(とは言え、奥様の暴走らしいが)に行ったまま、此方も行方不明らしい。
親が行方不明になってはそれは世話は無いだろう。

まあ、此方は腕の良いハンターである旦那様がついているから大丈夫らしいが。
・・・彼はちゃんと武装しているのか?という疑問が出てきたが、彼らが出たのは<観光地としての渓流>なので、大丈夫なのだとか。やれやれ・・・










そんなことをハヤテが考えているうちに、渓流・エリア2には不穏な空気が流れ始めていた。
小型モンスター達が集まり始めたのだ。

元々この地は、複数のモンスターの縄張りが入り組んだような土地柄なので、モンスター同士の小競り合いは比較的よく起こる。

ブルファンゴは複数いればそれなりに危険なモンスターだが、基本的には狙われやすい被捕食者である。
そうなると、もちろん彼らを狙う輩がいるわけである。



エリア2の端から出てきたのは、十数頭のジャギィだった。
元々こういう大規模な群れを作るのを好む種であるため、それほど不思議は無い。
数とは力である。それは人間の民主主義にも言えることであるのだが。

ただ、こうも集まられると非常に厄介である。
もしこのまま斬りかかっていけば、群れは散開したあと、側面からその足の鋭いかぎ爪や、口の中にあるナイフのような牙で仕留めようと襲いかかってくる。

彼らの全長は三メートル。
とは言え体のほとんどは細長い尻尾のため、体高は人間の肩ほども無い。
それでも、ここまで集まられるとどうにも行動が制限される。





ジャギィがブルファンゴ達にちょっかいをかけ始めた。
群れの中に弱い物がいないか探し回っているらしい。
フェイントのようにぴょんぴょんと飛び跳ねて彼らを牽制しているが、その度にファンゴ達の突進で後ろに下がってしまう。


どうしようか、とハヤテは思った。
この中を突っ切ったりしたら、間違いなく気が立っている両者がこれ幸いというように此方に八つ当たりしてくるだろう。
探索をしなければならない以上、時間は最小限にするべきだし、ハヤテは余計な戦闘を避けたかった。

彼女を探し出し、必要ならばそれを運べるだけの体力を残しておくべきだった。





















「フゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!」













そんな声が聞こえたのは、ハヤテ達がこれからどうするかを話合っていた最中だった。

巨大なブルファンゴの様な声が響く。
バッとふり返るが、どうやらそんなに大きな声を出せそうなブルファンゴはここにはいない。

ハヤテ達は、声のした方向・・・・・・崖の上を見た。


エリア2は、片方が断崖絶壁の崖になっており、そこから下には渓流の美しい森が広がる。
アオアシラと戦ったところだ。

しかし、今回はその逆サイドである、切り立った崖の上からだ。
そんな何かに削り出された所に何がいるのかと見上げてみる。
















それが、いた













四本の足に生えた蹄は、がっちりと地面・・・というか崖っぷちををつかんでいる。
よくもまあ、あんなでかい体をほぼ垂直のこの崖に制止することが出来るのものだ。

顔の前方に生えている二本の巨大な牙は、ジエン・モーランほどの威圧は無いものの、十分巨大な凶器だ。

まあ、来る度に人間の生活を脅かす古龍と比べるのが酷という物だ。
人間からしたら、それは十分すぎるくらい大きい。ねじれているくせに、二メートルもあるのだから。


ブルファンゴをそのまま体格二倍にしたような姿だが、大きく異なる点が二つある。

一つは、その肩の高さだ。
でかくなっているんだから当たり前だろう、と思うかもしれないが、単なる高さでは無い。比率の問題だ。

どう考えても、通常のブルファンゴよりも肩の高さの比率がでかい。
凄まじく鍛えられた筋肉がその下にある証拠だ。

彼の体の大きさにもかかわらず、変わらぬスピードを生み出せるのはこれが要因となっているのは間違いない。

なるほど、ブルファンゴのボスになるには十分だ。
と言うか、ここまでしないとボスになれないほど自然は厳しいと考えると、いやに納得できるのだが。



そして二つ目。

その全身は、ブルファンゴの焦げ茶色をした体毛は生えていない。
まるで歳を取った老練の武将の如く、真っ白な体毛に覆われている。
一部は銀白色のような体毛をしているので、それが一層際立つ。


まるでこの森の主の様な風格をもつ、この大猪・・・・・・<ドスファンゴ>が、争いを繰り広げる小型モンスター達の前に姿を現した。











*            *










全長六メートルの巨大な猪にとって、小型の恐竜数頭をなぎ払うのはそう難しいことではない。

ドスファンゴはその強力な前足で崖を数回蹴ったあと、おもむろに猛突進を仕掛けた。
何しろ崖の上であるため、考えるのも恐ろしいスピードがついている。

たちまちジャギィの群れに突っ込むと、その巨大な牙を振り回して群れの殲滅を開始した。
最初の突進に吹っ飛ばされ、足に轢かれる奴もいれば、ねじれた牙に引っかけられて崖下へと落ちていく奴もいる。

一通り暴れると、敵わないと悟ったジャギィ達は文字通り尻尾を巻いて逃げていく。
ブルファンゴ達は、自分たちを助けに来たボスに近づいていく。



ただ、残念なことにそのボスはそれほどおつむが良い方では無かったらしい。
近づいてきた子分達を“邪魔だ”と言わんばかりに突き飛ばしていく。

一頭のブルファンゴが吹っ飛ばされて此方に飛んでくる。








「うわっ!!?」




サクヤが声を出してしまう。
邪魔者を吹っ飛ばし、好物のキノコを独り占めしようとしていた暴君は此方を向いて体を低く構えた。
ガリッ、ガリッと地面の砂がその前足で蹴り出されて宙を舞う。


まあ、言わずもがな突進の予兆であるのだが。










「・・・じゃ、みなさん・・・・・・用意は良いですか・・・?」







ハヤテが武器を構えた。
蒼く輝く全長二メートルの長弓が、金属音を立てて開く。



キン、と言う金属がすれるような音がして、ヒナギクの飛竜刀がその牙たる刀身を現す。

サクヤはごつい骨を削りだしたハンマーを取り出し、早速力を溜め始めている。




ジャキン!と言う音で、チハルの背負った美しい弓が展開される。
ポーチに込められていた弓のビンを取り出し、その見た目と同様のきれいな金属音を立てて、それをビンのシリンダを込める位置に持っていく。










ハヤテが強撃ビンを<カイザー・ボウ>に込めた。
強烈で、攻撃的な臭いが鼻をついて、ハヤテの目は冴え渡った。


















「では・・・・・・戦闘開始です」








その言葉と共に、ハヤテ達は駆けだした。
このときだけは、頭の中には他のことはついぞ入る余地は無かった。
















*            *














「やあああああああっっ!!!!!」








ヒナギクの飛竜刀が猛炎を上げる。
ディアブロスには効かなかったが、火属性を弱点としているドスファンゴにはよく効く一撃だった。


彼女はドスファンゴの初撃を右への切り下がりで躱したあと、急ブレーキを掛けて立ち止まったドスファンゴの尻に、縦の袈裟懸けで強烈な一撃を食らわせた。


間違っても上位武器だ。
攻撃力は十分高いし、切れ味もなかなか良い業物だ。
しかも相手はあの堅いディアブロスでは無いのだから、十分対応できる。





ドスファンゴはすかさずふり返ってその牙でヒナギクを引っかけようとするが、
彼女はそれを見越して、切り下がりでその巨大な牙が届かない位置まで後退する。

ドスファンゴはヒナギクをにらみつけるが、残念なことに彼の視覚はそこまで良くない。
だいたいエサを探すときはその聴覚や優れた嗅覚を使用するのだが、怒りに満ちた今ではそれは上手く働いていなかった。


悲しいかな、生きるうちに退化した目だが、それが裏目に働いていた。











「おりゃああああああああああああああっっっっ!!!!!」










ガキン!!!と言う音がして、ドスファンゴの頭が打ち上げられて、少し持ち上がる。
あの重い体が持ち上がるんだから、その威力が大概だったことが分かる。



(・・・どこで鍛えたんですか・・・サクヤさん・・・)




ハヤテは息を吐いた。
最初にあったときに喰らったツッコミの感触から、素質はあるとは思っていたが・・・
・・・まさかここまでとは。

彼女は怒らせることを避けた方がいい人ランキング予備軍かもしれないとハヤテは憂鬱そうな顔をした。
自分の命が日に日に凄まじい勢いで削られているのは気のせいだろうか。










「うおわっ!!!??」






今度はサクヤの方を向いたドスファンゴが牙を振り上げた。
サクヤは間一髪のところで横に回避した。

ハンマーの強烈な<溜め攻撃>
その中でもトップクラスの一撃を誇るアッパーを食らったドスファンゴだが、スタンには達しなかったらしい。

少しふらついてはいるがまだ足腰はしっかりしているし、意識が混濁している様子も無い。











「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」






ドスファンゴが吠え、サクヤに向かって突進を仕掛ける。
サクヤは武器を慌てて仕舞うと、緊急回避の大ジャンプで躱した。








「あっぶな!!!どんだけ方向修正して来んねん!!?」




サクヤは本当に大型モンスターと戦うのは初めてらしい。
しかし、ドスファンゴに遅れを取るようでは、一流のハンターどころか三流のハンターにも届かない。

超えなくてはいけない。




・・・・・・って。











「サクヤさん!!!後ろ!!!」
「え?うわあ!!!!」







ドスファンゴは突進のあとは必ず止まるし、そのあとは大きな行動チャンスとなるのだが、上位の強力な個体は行動が変化する。

ドスファンゴはその重い体重でスピードを出すものだから、急には止まれないし、方向転換も少しの方向修正をするぐらいしか出来ない。

ただ、上位の個体はその筋力を上手く活用し、ドリフトをするように大カーブを描いてくる。




今回のドスファンゴは、それをいきなり行ってきたのである。









(攻撃はそこまで重そうな雰囲気では無かった・・・肉質もそれほど堅そうではないし・・・)




しかし、集会所では下位のクエストに分類されていた・・・

そこから導き出される答えはただ1つ。
あの個体は、限りなく上位に近しい下位個体と言うことだ。





と、言っているうちにサクヤに猛進する牙が迫る。
ハヤテはすかさず矢を構え、それほど時間を掛けることも無く狙撃する。












ボゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!









とても矢が命中した音とは思えない轟音を立てて、ドスファンゴが大きく吹き飛ばされた。
サクヤは初めて見るハヤテの凄まじい弓を引く強腕に目を見開いた。
どう考えても体重三トンを超える猪を吹き飛ばすような弓矢の威力なんて、普通じゃ無い


ドスファンゴは自分が降りてきた崖にたたきつけられて、そこに大きなひびを入れた。
ブルブルと首をふるったあと、ハヤテを見据える。


もう一度突進を仕掛けようと体を構えるが、ドスファンゴはそこから一歩も動けない。








ガガガガガッ!!!!!








体の側面に感じる、何かが突き刺さる激痛と、パチパチと自らの肉が絞られるような感触にドスファンゴは違和感を感じて振り向く・・・が、首が動かない。

必死の形相で目だけを動かすと、そこには弓を構えたチハルがいた。






<アルクトレスブラン>は攻撃力こそ控えめだが、強力な氷属性を持つ。
とは言えこの非常に強力な属性でさえ、実はこの弓にはおまけに過ぎない。

この武器の本領は、様々な<状態異常ビン>の使用である。



そもそもブナハブラというモンスターは、麻痺などの状態異常攻撃で外敵を払い、獲物を捕らえるモンスターである。
その素材を使ったこの弓は強撃ビンなどの強力なビンは使えないが、それを補って余りあるほどの多種多様な状態異常を駆使してモンスターを追い詰めることが出来る。

しかも、この弓の特性としてそのビンを強化することが出来る上に、チハルのブナハXシリーズには<状態異常強化>と言うスキルが入っており、この弓の特性をこれでもかとばかりに後押しする。

チハルが操るこの弓は、その中でも、パーティープレーでの<サポート>に徹した種類に入る。










「サクヤさん!!!ヒナギクさん!!!今です!!!」






麻痺したのを確認すると、ハヤテはサクヤとヒナギクに声を上げた。
二人はうなずき、飛びかかっていく。

そのハヤテも、弓を引く腕に力を込めて強力な矢を放つ。
チハルは、別の麻痺ビンのシリンダを口にくわえ、使い切ったシリンダを急いで取り出している。









「やああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」
「りゃあああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」







ヒナギクがドスファンゴの体の中でも比較的柔らかい下半身に攻撃を過たずに命中させる。
柔らかい組織を切り裂いて、その度に刀身に宿る火属性が内側から焦がしていく。


サクヤはハンマーを大きく振り上げると、限界まで溜められた力を解放する。
凄まじい勢いで振り下ろされたハンマーが、麻痺で動けないドスファンゴの頭部にたたきつけられる。











「ブオオオオ・・・・・・ブオオオオオオオオオ・・・・・・・」





ドスファンゴが何とか麻痺から抜け出した様だ。
よろよろと歩きながら、エリアを移動しようと動き出す。









「逃げんなあああああああああああああああああああっっ!!!!!」





サクヤがハンマーを振り上げるが、それは届かなかった。
ドスファンゴはまだ麻痺で上手く動かず、傷ついた体を引きずりながらエリア4へと通じる道へと消えていった。










「逃げたんかな・・・・・・」
「いえ、睡眠をしに行ったか・・・・・・エサを探しに行ったかでしょうね」





追いましょう、とハヤテに促され、他の三人もうなずいて歩き出した。

・・・あとからハヤテは思うことになる。
これで終われば良かったのだと。

ここでドスファンゴを倒すだけで終わったのならば、きっとあんな気持ちにはならなかっただろうと。



ただ、この時点で気づかなくても詮無いことではあったのだが。













そしてハヤテは、とある少女と会うこととなる。
その少女が自分の人生に大きく関わってくるとは、このときの彼にはまだ気づくはずも無かった。








































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.63 )
日時: 2014/03/25 13:55
名前: masa

どうもmasaです。

やっぱりと言ったら失礼かもしれませんが、ナギはモンスターに追いかけられてましたね。
まあ、それがナギクオリティですからねえ。

ってか、ゆっきゅんは知らせを聞いてるかどうかは知りませんが、娘をほったらかして旦那と優雅に観光っすか。まあ、ゆっきゅんらしいか。

で、ハヤテは相変わらずののハイクオリティの様で。
肉眼にもかかわらず、望遠鏡並みの視力って。マサイ族か。
このままいけば、「電磁波をもとらえるほどの圧倒的な視力」を手に入れる日はそう遠くないかも。ってかもう持ってたりして。

ハヤテ達からすれば、モンスターとの遭遇は「あまり嬉しくない事」でしょうね。
本来なら、ナギを見つけた後で狩ると言うのが、一番だったはずですから。

モンスターは一時撤退しちゃいましたが、よっぽどの強敵が出ない限りは倒すのは時間の問題ですね。

最後の煽りには何やら嫌な予感がするるものが。
まあ、自分の嫌な予感なんて中ったためしが無いので、違うでしょうが。


次回も楽しみにしてますね。
では。

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.64 )
日時: 2014/03/27 10:45
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
ま、ナギですからね。この話では、それを詳しく書きます。
ゆっきゅんは・・・いろいろすみません。何か違う・・・と思われたら頭が下がるばかりです。
人間の視力の限界は9,0らしいですが、まあそれぐらいかもう少し上であると思ってください。
ドスファンゴを倒すことは、ハンター4人なら楽勝ですね。ドスファンゴならば・・・


では、本編です。







*           *






『暗闇の中から現れし者は』









体がぎしぎしと痛む。
寝起きのけだるさとはまた違った感覚に、ナギは目をぎゅっとつぶった。

瞼が非常に重い。
だが、開けなければそれこそ二度と起きられないような感覚に襲われて、億劫そうにその双眸を開く。


するとどうだろうか・・・見知った顔がそこにあった。









「グワァッッ!!!???」










その目に映ったのは、扁平なアヒルのようなくちばしを持つ生物、ガーグァだった。
それが、かなりの至近距離で自分を上からのぞき込んでいた。

いくら非常におとなしい小型の鳥竜種とは言え、モンスターはモンスターである。
しかも、そんなものが突然に目の前に現れたのだ。それが危険な種類であるか、そうでないかなど判別できるわけがない。
それに、モンスターの中では小型とは言え、人間の身長よりも大きい体格から見下ろされるのは、余り良いこととは言えない。

しかも、自分の体は横になっているのだ。
ガーグァも歴とした鳥竜である以上、祖先から継いだ太くて頑丈な足を持っている。
そのつま先には、鋭い爪までついているのだ。

その上自分は寝起きであり、頭がしっかりとしていないため、とっさに体が動かせない。


結果として、非常に大きな悲鳴を出してしまった。








それに驚いたガーグァは大きな悲鳴を上げ、その丸々と太った体を左右に大きく揺らしながら逃げていく。
やはり鳥竜とはいえ、小型種。
非常な臆病な生物であり、その一匹の怯えを感じ取ったのか、近くにいたらしい複数のガーグァ達が一目散に逃げていく。


そこでナギは、まずい!と感じた。
ガーグァは臆病だが、気の良い生物だ。
そして本能的に安全な場所を知っているらしいから、そこに連れて行ってもらえれば・・・と彼女は寝起きの頭をフル回転させて考えた。










「おい!!!待てよ!!!お前らガーグァだろ!!?わたしを助けてくれ!!!ちょっと待て!いくなーーーーーーーっ!!!!!」









しかし、考えたは良かったが、それが実行できなくては何の意味もない。
助けを求めてナギは力の限り叫ぶが、ガーグァは気にもとめない。
それはそうだ。モンスターが人間の言葉の意味など知るはずも無い。

しかも、彼女の思っているガーグァのイメージはあくまでも家畜化されたガーグァの事なのであり、野生の彼らにとってはナギのそんな思惑など知ったこっちゃ無かった。

まあ、野生のモンスターを見たことも無い彼女にそれを分かれ、と言うのも野暮な話ではあった。








「くっそう・・・ガーグァは良い奴だと思っていたのに・・・・・裏切られた・・・・・・」









モンスターにとっては言いがかり以外の何物でも無い。
しかし、箱入り娘で狩猟地に放り出されたことどころか、家の周囲に殆ど外出することのない彼女にそんな事が分かるはずもなく、モンスターとって理不尽な事を割と本気で思いながら、ナギは上を見上げた。

そういえば、どうしてわたしはこんな所にいるのだろう?
ナギはたった今夢の中から帰還したかのような考えに囚われる。






「確か・・・・・早くうちに帰るために車に乗って・・・・・・で、嵐に遭ってそれから・・・・・・!!」








少しずつたぐり寄せた記憶の糸は、聡い彼女の頭に、ゆっくりと記憶を引っ張り出してくる。。
そしてさっきのガーグァの顔を見て、全てを思い出した。










「そうだ・・・・・・嵐の中で、あれに出会って・・・・・・たたき落とされたんだ・・・・・・」















ナギは首をひねって崖を見上げた。
空は殆ど見えず、中心から円を描くかのように巨木が周囲に生えそろっている。
苔むしたその幹にはいくつものツタが絡み合っており、木々の間に蜘蛛の巣のように張り巡らされている。

見渡してみるとここは深い森のようだったが、その枝と葉の隙間から薄い青をした空と、自分がいただろう崖の道が明け方のまだ鈍い光をした太陽に照らされて、灰色にくすんだ色をしているのが見えた。

わたしって凄い。あんな高いところから落ちても死んでないなんて。ハンターになれるんじゃ無いか?
そんなことを考えたのは、この非日常の現実から目をそらしたかっただけだろう。

落ちても助かった理由はだいたい予測できた。
はっきりと言ってしまえば、引きこもりはそれをしても十分生活できるステータスがあれば成り立つのだ。
彼女は頭が良かったので、こういった慣れていない事に関しても、意外とたくましい事が考えられる。
ただし、良いのは頭だけなのがいささか問題ではあった。




ふと見ると、木に掛かっているツタがいくつか切れている。
そして、自分の下には襲われたとき巻き付けていた毛布が下敷きになっていた。
おそらくこれが、自分の命を救うことになったのだろう。

ただし、ツタはそこまで自分の体に配慮してくれているわけでは無く、あちこち鞭を打ったような痛みに襲われているし、スピードが軽減されていたとは言え、打った背中はずきずきと痛む。


箱入り娘の自分が、こんなダメージを受けては立ち上がれるはずも無い。
石ころが飛んできても致命傷になるとも言われている彼女だ。それは仕方ない。
いや問題だらけだが、今のところどうしようも無いと言わざるを得ない。




ナギはため息をついた。












*             *











ナギはある程度高くに上がり、自分を照らしている太陽の光にまどろんでいた。
いつもなら母が煩くなるのでうっとうしがっていた太陽だが、今の彼女にとっては体を温める優しい光のように感じた。

彼女の服は、雨でぐしょぐしょに濡れたままだったため、彼女の体温を奪っていたのだ。
それに落ちた場所も木のそばなので雑草が生えているのだが、その雑草の根の部分にある泥がついてぬるぬるになっている。

結果として、非常に気持ちが悪い。



それが太陽によって少しずつ乾いていく。
泥だらけなのは頂けないが、濡れているのと乾いているのでは天と地ほどの違いがある。
先ほどよりも格段に過ごしやすくなった木陰で、彼女はまどろんでいた。







ただし、彼女は気づいてはいないが・・・・・・ここは渓流で最も危険な場所だ。
こんなところで優雅にお昼寝なんかしていたら、モンスターにおやつを提供するようなものだ。
とは言え、彼女は地図など持っていないし、そもそもここがどこかも分かっていない。

しかも致命的な問題として、彼女はモンスターの危険性をよく理解していなかった。
彼女にとってモンスターは、紙面の上だけでの存在だったため、知らなくても無理は無いと言えば無理は無かったのだが。


















冷や水を掛けられたのは、空が少し赤みを帯びてきたときだった。

自然の中で過ごし、外にいるのも悪くないと自分らしくも無いことを思ったのだが、さすがに夕刻ともなってくるとまずいと分かってくる。

第一に、彼女はあのときから何も食べてはいなかった。
彼女はそこまで大食いというわけでは無いが、人並に腹は空く。
音を上げる腹の虫には何とも逆らいがたかった。


第二に、非常に危険な問題があった。
この森には、もうすぐ夜の闇のベールが掛けられて、真っ暗になるだろう。
晴れていれば、月の光である程度は大丈夫だろう。
が、ここは深い森。月の光は木に阻まれて入ってこられ無い。
それは彼女にとっては致命的であった。

彼女は暗闇に弱いのだ。
母やキレた父など比ではないほどの恐怖に襲われてしまう。
ただし、負けず嫌いの彼女はそれが認められず、必死でいつもは強がっていたのだが・・・・・・今からは絶対に無理だ。

なんせ、家の中でも暗いのは苦手なのに・・・・・ここはなにが出てくるか全く分からない上に、勝手の分からないどっかの深い森なのだ。
いくら肝っ玉が太い人でも無理だと断言できる。












「どうにかして・・・・・・起きないと・・・・・・」






ナギは体を動かそうと指先とつま先に力を込める。
節々は痛いが、致し方が無い。痛みに顔をしかめながら、ゆっくりと起き上がっていく。
まるで腰の曲がった老人のような姿勢になりながら、よろよろと歩き出した。

どうしてわたしがこんな目に遭わなくてはいけないんだ・・・・・・とこんな状況になってしまった理不尽に、ぶすぶすと煙を上げるたき火のようにむかむかとしながら、ナギは歩いて行く。




まさか、ここから動いたことでさらに危険な目に遭うとは思ってもみなかったが。















*            *












この世界でのレスキューの基本は、出来るだけ狭い空間に身を隠すことだ。
少なくとも、大型モンスターが入ってこられないのならばそれだけでも安全だ。
それが出来なければ、余りそのエリアから動かないこと。見つけてもらえる可能性が高くなる。

ただ、ナギはそこから離れてしまっていた。
行方不明になってしまったのは、ひとえに落下地点から動いてしまったためである。
そして、もっと危険なところに入り込んでいることにも気づいていない。






よたよたと悪態をつきながら歩いていると、心身共に疲れてきた。
いつもは動かさない筋肉を酷使してしまい(酷使と言っても、常人レベルだが)、体の関節が悲鳴を上げる。
足が棒のようになって、彼女は立ち止まる。
ゼーゼーと歩いてきただけとは思えないぐらい息を吐きながら、近くにあった岩に手を掛けた。

・・・・・・その岩は、岩にしては非常にごわごわとした毛に覆われていたのだが。
ナギの頭は酸素を他の器官に奪われ、それを感じる余裕すら無くなっていたのだが。
















「フゴオオオオォォォォォォ・・・・・・・・」








突然触れていた岩がビクッと震えた。
ナギはハッとしてその岩から距離を取った。

体から震えが止まらない。
崖の上でモンスターと邂逅したものの、それははっきりと見えていなかった。
ただ、目の前にいる者の姿は、はっきりと分かる。
いくら薄暗いとは言え、多少の明かりはまだあるのだから。










「うぁ・・・・・・・・」




肩の高さだけでも、ナギの二倍は軽くあるだろう、肩。
その巨大な白い岩の如く巨大な体に、ナギは腰を抜かしてしまった。

目の前にいたのは、<大猪・ドスファンゴ>
ナギがいつも<狩りに生きる>の雑誌を見ていたとき、最も最下級大型モンスターとして軽んじていた相手であった。










<狩りに生きる>の嘘吐き!!!ドスファンゴこんなに強そうじゃんか!!!
どこが最下級モンスターなんだよ!!!???

ナギは受け取りようによっては理不尽とも言える事を考えていた。
そもそもこれはハンターにとっての危険度ランクである。
一般人はそこに加味していない。つまりは、普通の人にとっては等しく“危険”の一言で済ませてしまえるわけだ。



ドスファンゴは体の触覚は非常に鈍いらしく、彼女が触っても気づいた様子は無い。
それどころか彼女がいることにすら気づかず、一心不乱に好物のキノコを木のうろから探って食べている。

ナギは、これをチャンスととらえ、抜き足差し足で遠ざかろうとする。








パキッ!








・・・・・・最悪だった。
ナギは足下にあった小さな枝を踏んでしまう。
いつもなら気にしないような音だったが、今この状況では災厄をよぶホイッスルだった。
いやにその音が静かな森に響き、ドスファンゴの動きが一瞬止まる。


ドスファンゴがギロリと此方をにらみつける。
どう考えても遠くから来た友だちをキノコパーティーで迎えようというような顔では無い。
殺気に満ちた目に、ナギは大きくひるむ。

ブンッ!!!という、バットを振り回したような音がして、ドスファンゴの巨大な牙のついた頭がふるわれた。
しかし、運が良かったのか、それはひるんですっ転んだナギにはあたらず空を切る。













「ブルルルル・・・・・・・・・・・・・・・・」






ドスファンゴがうなり声を上げる。
よく見れば、ドスファンゴの体には大きな切り傷があるし、牙も片方が折れていた。

おそらく、他のモンスターと戦ったのか・・・・・・ハンターと戦った手負いの個体なのか・・・
もしも後者ならば、非常にまずかった。
なぜならば、ハンターがいると言うことは、今自分がいる場所は・・・・・・・・




しかし、考えている暇など無かった。
ドスファンゴが地面を蹴り上げ始めた瞬間、ナギは体の痛みも、疲れも忘れて駆けだしていたのだから。


自分の口から出ているとは思えない悲鳴を上げながら、ナギはだんだんと暗くなっていく森の中を駆けだしていく。
その走りッぷりからは、いつもの引きこもりの運動不足の片鱗は一切見えない。
彼女の母が見たら、阿保のあれのことだ。ドスファンゴを自分のコーチにするかもしれない。

それは嫌だ!!!!と思いながら、ナギは文字通りなりふり構わずダッシュした。
まさに命がけだ。自分の人生は、今この足に掛かっていると言っても過言では無い。

後ろを振り向くと、ドスファンゴが自分を追いかけていた。
三トンもある大猪が自分を追いかけてくるだけでも恐怖なのに、途中で木々に阻まれてスピードが遅くなり、追いつきそうなのに追いつかない・・・というのが、彼女の心理に大きなダメージを与えている。

ドスファンゴが丸太に衝突する。
もちろん転ぶはずが無く、その横たわっていた丸太が大きく粉砕されて吹っ飛ぶ。


捕まれば、あの丸太と同じ運命を辿るだろう。
ナギは、脇目もふらなかった。













*             *











ドスファンゴは、別にナギを取って食おうとしたわけでは無く、縄張りから追い出そうと思っただけらしい。
岩陰のほらに隠れ、息を潜めていると諦めたのか、もしくはもう必要ないと思ったのか、どこかへ消えてしまった。



ナギは大きく安堵の息をついた。
洞から出て、こわばった体を一気に伸ばす。
しかし、外の光景を見て、彼女は少し戦慄を覚えた。

そこは浅い森のようだった。
ようだった、というのは比喩では無い。本当に分からないからだ。
外はもう真っ暗だ。そして、その夜の闇は確実に彼女の周りにも押し寄せていた。


体をすくめ、彼女は誰とも無く助けを求めた。
母に父、クラウスにあの少女・・・・・・・そして、あんまり目立たない使用人達・・・・・・
・・・・最後に、あの少年にも・・・・・・





背の高い草が揺れたような音がして、ナギの心臓は跳ね上がった。
壊れたゼンマイ人形のようなぎこちない動きで、その音の方向をみた。











「グワァッッ!!?」
「うわああああああっっっ!!??」






目の前にあった間抜けそうな顔に、思わずナギは大声を出してしまった。
しかし、驚いたのは相手も同じらしい。

拍子抜けだった。
出てきたのはガーグァ・・・・・・先ほどと同個体かどうかは分からないが。









「な・・・なんだよーーーっっ!!!そんなにわたしをびくびくさせて楽しいか!?そしてよくもさっきはあそこに置いて行ってくれたなーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!」







ナギは安堵と、それに伴って起きた理不尽な怒りを、目の前に現れた鳥竜種にぶつけた。
無論、臆病なガーグァがそれに耐えられるはずも無い。
周りのガーグァ達も合わせて、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

ナギはどこか安心したかのような顔で、それを追いかけようと駆け出す。














































ゴッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!














































そんな彼女をとどめたのは、一陣の疾風だった。
思わず顔を腕で守ってしまう。

それが通り抜けたあとに目を開けると、もうそこにはガーグァ達はいなかった。
ナギはまた孤独になったような感触を覚えた。



しかし、その感触はすぐに薄れることとなる。

パチッ・・・という、冬場にセーターを脱いだような音が、草むらから聞こえた。
ハッとしてそちらを見てみると、草むらがほんの少し光っていた。



興味と好奇心には勝てず、その草むらを探ってみる。
ヴヴヴっ!!!と言う羽音がしたあと、ナギの顔を少しかすって、それが空へと飛び上がった。


薄い緑色の、光の玉。



それが蛍のように、ちろり、ちろりと切れかけの明かりの様に明滅する。
それはふらり、ふらりと虚空を漂ったあと、まるで何かに引き寄せられるかのように森の奥へとフッと姿を消した。

その様子はまるで幻想のようで、小さい頃に読んで貰った空想絵本の中の妖精のようで・・・
ナギの疲れ切った目は、幻想でも見ているかのように、ボウッとしていた。





しかし、その光は幻想では無いとすぐに分かる。






ブワッ!とまた一陣の風が吹いた。
それに伴い、草むらの中から先ほどと同じ光の粒が舞い上がる。

先ほどとは比べものになどならないほどの大量の光達が風に舞い上げられて、旋風のようにぐるぐると円を描いて、光の残像を尾に引かせている。

ナギは最初こそ、体を守るかのように腕を回していたのだが・・・・・・
すぐにその幻想的な光景に目を奪われた。

まるで夢の様に、光達の舞踏は続いていた。
ナギは、その舞踏会のたった一人の観客であるかのような感覚に襲われた。















ただ、夢の終わりは、あっさりと訪れた。

光達は風がやむと、まるで渦潮がはじけるように、波間の波紋が広がるように、パアッとはじけた。


それが、たった一方向へ向かって何か意思があるかの如く、向かい始めたのである。




先ほどの舞踏が、貴族達の豪華絢爛な夜会だとするならば、
此方は過酷な夜の遠征に向かう兵士達の進軍である。

そして、他の草むらからも、まるで徴兵された兵隊のように光が舞い上がる。


光があちこちから立ち上り、いくつかの光条となって、マンガの効果線のように一点へ収束していく。






ナギはハッとした。
飛んでいく光達が、ある一点からおかしな変化をしていることを。

優しい緑をしていた、光達が・・・・・・冷たい、氷のような、蒼い光をまとっていくのを。











光が収束して、全く別の姿を形作っていく。
まるで、小さい頃の教科書に載っていた話で、小さな魚たちが大きな魚を追い払うために、集まることで自分たちを大きく見せるかのように。


しかし、すぐにそれは違うと分かる。
正しく言えば、元からそこにあった大きな塊に、その光たちが集まって行くというのがそれだ。
その何かとは?・・・・それは分からない。分かりたくも無い。






光が集まりきったそれは、冷たい蒼い光をたたえながら、その姿を現していく。
その色が伝えるのは、冷たい怒り。
その温度が伝えるのは、深い悲しみ

そしてその姿が現していたのは、強烈な憎しみの感情だった。




相手が何者かは分からないとは言え、その感情達が分からない人間・・・いや、生物などこの世には存在しないだろう。











光がゆっくりと静まっていく。
そこにあったものがまるで夢であったかのように消えていく。
気づくと、まるで昼間のごとき明るさとなっていた森は、静かな闇の静寂へと戻っていく。

















ずん





























地が震えた。
なにか、大きな生物が、その身を捩るように。




























ずん・・・・・・ずん・・・・・




























それは、大猪などなんの比にもならない大きさであろう事はすぐに知れた。
いや、比べることすらおこがましいのかも知れない。







































ずん・・・・・・ずん・・・・・・・・・・・ばきっ








































しかし、それはしかたの無いことであるのだろう。
誰でも、彼女のこの意見には、異を唱えられる者がいるとは思えない。
そして、かの評価は、この勇壮な<竜>にこそふさわしい。


かの名・・・・・・・・・・・・・・・












































『無双の狩人』の名は














































初めて邂逅したときと同じ顔で、それはいた。
薄くほとばしる、冷たい蒼い光をその身にまとわせて。


口には、あのときと同じで、ガーグァの首が引っかかっていた。
それを飲み込んだあと、そいつは此方をにらみつけた。



らんらんと光るその眼は、なぜか片方分しか無かったが。














































「オオオ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」













それは、力を込めるかのように頭を下げた。
ただし、ナギにはそれを見上げることしか出来なかった。

体が動かない。
全身の筋肉という筋肉に、麻痺薬を塗られたようで。



空気が変質していく臭いが、彼女の鼻をついた。
その瞬間、『無双の狩人』たる王は、空に向かって絶叫した。














































「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!」










































その瞬間、体中に生えている、鋭い甲殻という甲殻が、その体からほとばしる<蒼光>に耐えきれないと言うように展開する。
閉じ込められている光達が一気に解放されて、王の体を守るローブのように、所狭しと飛び交っている。




そこには、ナギ以外誰もいなかった。





獣たちは知っているのだ。





歴然たる力の差を。












王たる狩人の実力を。














































<雷狼竜・ジンオウガ>が、数十年ぶりに、渓流に舞い戻った。

まるで、王が凱旋するかのように。





















































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.65 )
日時: 2014/03/27 14:58
名前: masa

どうもmasaです。


成程、ナギが危険な狩り場に居た理由が分かりました。
ナギの言いがかりは神がかってますよね。モンスターが喋れたら、「知らねーよ。自分で何とかしろ」とか言いそうですね。あっちも生死が懸った野生ですし。

ナギは強運ですね。蔦がクッション代わりになるなんて。これがハヤテだったら、器用に蔦を避け、地面に激突。なんて展開でしょうから。

ナギの暗所恐怖症はここでも健在なんですね。まあ、ナギは認めてませんが。
戦場の危険さは実際に体験しないと分からないなんて聞いた事ある気がしますが、ナギはまさにそれですね。
生き残る術を知らないのは仕方ないか。戦場の危険さを知らない訳ですから。

モンスターに追いかけられたナギにあげる言葉は「火事場の馬鹿力」ですよね。非力そのもののナギがモンスターとの追いかけっこでいい勝負になったんですから。

ナギって運がいいのか悪いのか分からないですね。追いかけっこが終わったと思ったら、もっと強力なモンスターに出会っちゃったんですから。
危険以外の言葉では言い表せない状況になっちゃったナギがどうなるか気になりますが、次回以降まで気長に待ちます。


そう言えば、ナギが身を隠していた時に思った少年って誰なんでしょう?まさか・・。
まあ、少女の方は何となくわかります。多分、あの魔女でしょうから。



次回も楽しみにしてますね。
では。
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.66 )
日時: 2014/03/31 18:48
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
いやあ、引っ越しとかで更新できませんでしたが、また再開です。

ナギはまあ、こんなもんでしょう。
ツタについて、ハヤテだったらツタを器用によけた後で、たぶん尖った木の枝にぶっ刺さります(笑)

火事場の馬鹿力もありましたが、幸運だったのは、モンスターが動きにくい狭い森だったからですね。

ナギがジンオウガにあうことは前から決めてました。
ここから話をつなげていこうと思っています。


少年については、ナギの話を読めば、まあ分かるでしょう。

では、更新しようと思います。しばらくお待ちください。
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.67 )
日時: 2014/03/31 20:19
名前: 壊れたラジオ

『狩られる前に狩れ!』





ドスファンゴの追跡はそこまで難しいことではない。
足はその体に対して短いのであちこちの岩や草木に体を引きずった跡があり、さながら獣道のようだ。

アカデミーではこれもまた最初のほうに習うことではあるが、優れたハンターならば、足跡一つでそのモンスターが何か特定できる。


勿論というか、ハヤテはそのうちの一人であった。








「ドスファンゴはこっちに向かったようですね」




足跡の方向は、エリアの端に向かって伸びていた。
ハヤテたちは先ほどのエリア2から、広々とした草原のごとき風貌を持つ、エリア4に侵入していた。
ただし、このだだっ広いエリアには巨大な生物が姿を隠せるような物体がほとんどない。
手負いのモンスターが来るにしては、あまり向かないだろう。

地図を見て確認すれば、このエリアの隣の少し岩場を上った場所には、森があるらしい。
狩場の全体図から見ても非常に巨大であり、うっそうとしている。


〈エリア5〉と銘打たれたそこは、その森のうちでも中心地にあたる。
モンスターが身を隠すにはうってつけの場所であるだろう。






「じゃ、早くとどめを刺しにいかないと…ドスファンゴが回復しちゃうわ」
「せやな……早く終わるに越したことはないし……」
「ビンの調合が終わりました。いつでも行けますよ」




三人はもう用意できたようだ。
ハヤテはそれを見ながら、ドスファンゴの足跡を見ていた。

いや、そうではない。
ハヤテが見ていたのは、その隣だった。



昨日の風雨に晒されたのか、ひどくかすれて殆ど目立たなくなったそれは草木に埋もれていて、気を付けてみなければ気づくことなどできないだろう。





それは、巨大な足跡だった。

ドスファンゴなど、比べられるはずもないほど巨大なそれは、酷く大きな生物が堂々と歩く様子を彷彿させるかのように、大きな歩幅で動いている。






「(この足跡……どこかで……)」





ハヤテはその足跡に、どこか既視感を覚えた。
しかし、ほとんど原型をとどめていないのでは、いくらハヤテといえど判別は難しい。

ただし……この足についている巨大な爪の跡を見る限りでは、ここのエリアに長居することは得策ではないことだけは確かだ。



何事も無ければいいけど……とハヤテは思ったが、このエリアのどこかで行方不明になっている彼女のことを考えると、そう思っていられないことも事実であった。












*             *










ドスファンゴは案外あっさりと見つかった。
いくら広い森の中といえど、あの大きな体が動けばそれなりの音が出る。


まあ、それは異常な聴覚を持つハヤテだから言えることであったのだが。







「……空気の流れが変わりました……音の方向はこちらです。」
「噂は本当やったんやなあ……にーちゃんの耳はウルクスス並やっちゅうのは……」




モンスターの一種〈ウルクスス〉は凍土に生息し、傍目でもわかるほどの巨大な耳を持つ。
聴力は異常に高く、5km四方の小さな物音も逃さない(モンスター図鑑より抜粋)


ハヤテの聴覚はウルクススと似たようなものであるらしい。
自分自身ではそんなことないだろうと思い込んでいたが、まあ、空気の流れでモンスターのいる場所を特定できるのが人間の所業である、と言われればそれは疑わしい。


ハヤテはため息をつきながら、はるか遠くのドスファンゴを見つめた。
彼の視力は望遠鏡並だ。ほかの三人はドスファンゴを双眼鏡を駆使してみているが、ハヤテの場合、それがいらないので非常に楽だ。









「……良いですか?僕がまずドスファンゴを撃ちますから、それを合図にしてヒナギクさんとチハルさんはドスファンゴの側面にそれぞれ散開してください。」
「んで、もう一回麻痺したら、ウチがとどめの一撃を頭に叩き込む……やな?」
「そうですね。どちらかといえば一撃必殺の側面が大きいハンマーですから、そうしたほうが早く終わるでしょう……」






そのあと一言二言かわすと、ハヤテは隠れていた岩からそろりと飛び出した。
ハヤテの力量はすごかった。音を一切立てずに、ドスファンゴに接近している。

並の人間には到底まねのできない所業だ。
長年のハンターとしての経験の賜物なんだろう、と三人は感心して見ていた。
















カシャンという音がして、ハヤテの弓が展開される。
キリキリと引き絞られる弓の弦は重い。

腕の筋力が足りないとか、そういう話ではない。
それは命を奪う一撃だ。その重みを理解できないならば、いくら腕が良くても本当のハンターとは言えない。




矢が放たれた。
空気の抵抗が、飛ぶ矢に捻じ曲げられるような音を立てる。
その音に敏感にも気づいたドスファンゴだが、その巨体では飛んでくる矢をよけることなどできない。


振り向きかけたドスファンゴの側頭部に矢は命中する。
ドスファンゴは大きく吹き飛ばされ、二三度横転したかと思うと、ドスンと倒れこむ。
深々と突き刺さった鏃から、どくどくと鮮血が流れ落ちる。

苦しげな声を上げるドスファンゴだが、どこにそんな生命力があるのかなおも立ち上がり、こちらに向かって突進しようとしてくる。





ハヤテは表情のない顔で、それをよける。
うまくいった、と思ったが、ハヤテがその表情を顔に出すことはない。

普通なら笑っていてもおかしくはないだろう。
だが、ハヤテにはそれができなかった。












「やああああああっっ!!!!!!」






ヒナギクの太刀がすれ違いざまに薙ぎ払われる。
その一撃はドスファンゴの体の側面にまっすぐで、真っ赤な一文字を描く。

ドスファンゴはUターンでヒナギクを正確に狙おうとするが、自分の体がうまく動かないことに気づいて立ち止まる。


先ほどと同じ感覚……体を引き絞られ、パチパチとほとばしる静電気のような……







チハルが、麻痺ビンを取り付けた矢を何本も放ったためだ。
対モンスター用の麻痺毒が、ドスファンゴの体の自由を奪っていく。

ドスファンゴがそれでも体を動かそうと、ぎちぎちと歯を鳴らしている。










「サクヤさん!!!!!」
「よっしゃーっっ!!!!!!」





ハヤテの声で、サクヤが木の陰から颯爽と躍り出た。
最大まで力を込められたハンマーが、そのオーラを爆発的なまでに放って光っている。


サクヤが叫びながら、ハンマー投げの要領でハンマーをぐるぐるとぶん回す。
一撃一撃が遠心力で強化され、ただでさえ強力なハンマーの威力を高める。

何度も何度も殴打されたドスファンゴの意識は朦朧としていく。
がちがちと噛み合わされていた歯から、力がどんどんと抜けていく。








「おおおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああっっっ!!!!!!!!!」







最後のとどめとばかりに、サクヤがハンマーを一気に振り上げる。
ハンマーの最大の必殺技、〈アッパー〉だ。


さしものドスファンゴも、強力なハンマーの連撃を食らえばひとたまりもない。
大きくのけぞったその体は後ろ向きに転倒する。




しばらくは空に向かって伸びた短い四肢はぴくぴくと痙攣していたが、やがてだらんと力を失った。













*           *













初めて倒した大型モンスターというのは、ハンターの人生の大きな転換点にもなる。
サクヤはドスファンゴを前にしばらく呆然としていたが、ハヤテが背中を少し押すと、こちらを少し見た後で満面の笑顔を浮かべた。



さっそく剥ぎ取りに興じるサクヤと、それをそばで見ているヒナギク。
ハヤテはそれを遠くからゆったりと見ていた。









「お疲れ様です、ハヤテくん」



チハルがそばに寄ってきて、ハヤテにねぎらいの言葉をかけた。
ハヤテがチハルのほうを見ると、彼女は喜んでいるような表情だったが……どこかぎこちない。








「お疲れ様です……どうかしましたか?」
「いえ……先ほどのエリアで、ハヤテくんが何か考え込んでいるような顔をしていたので、どうかしたのかと……」




彼女は思った以上に目ざとかったようだ。
こちらの様子に気づいていないようなそぶりを見せていたが、実際は確実に気づいていた。

こうでもないと確かにG級ハンターになれないことも事実ではあるが。









「いえ、サブターゲットの探索がまだ終了していないですし……これから渓流の全フィールドを探索しなければいけないと思うと……」
「嘘ですね」



ハヤテは当り障りのない答えをチハルに返したが、彼女にはあっさりと見破られてしまった。
そのことにハヤテは少し驚いたが、チハルの『ハヤテくんは嘘をつくと眉が少し動きますから』の一言に、ハヤテは眼を見開いた。







「……観察力が鋭いですね……」
「今更ですね。アカデミーにいた時からそうだとわかっていたでしょう?」



ハヤテはため息をついた。
チハルが『……ま、ハヤテくんだけですけどね』といったが、ハヤテには聞こえなかった。









「で、本当に何があったんですか?」
「え?ええまあ……」






チハルの問いに、ハヤテは気を取り直して口を開こうとする。
先ほどは確かに当り障りのない答えだったが、真実でもある。

<サブターゲット>はあくまでも“サブ”であるため、<メインターゲット>ほどの拘束力はない。
メインをクリアしてしまえば、さっさと帰るのが主流だ。

というか、あまり長居をしては危険なのだ。
狩場というのは非常に不安定であり、何があるかがわからない。

しかももう日が落ちて、暗くなってしまっているから、どんなモンスターが現れるかわからない。


先ほどの、足跡の主を含めて。














































「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!」














































突然の咆哮に、森がざわめいた。
それとともに森を駆け抜けたすさまじい突風に、木の葉が揺れる。

そしてその巨大な咆哮は、確実にハヤテたちの体を、脳内を内側から揺らした。









「な……何……これ……」
「何が起っとるんや……」




動揺するサクヤとヒナギク。
まあ、無理もないだろう。彼女たちが一度も聞いたこともないモンスターの咆哮だ。
分かれと言うほうが無理がある。










一方、ハヤテは違う意味で動揺していた。
その咆哮の主を、ハヤテは知っていた。
自らの故郷にもいくらか生息していて、ハヤテも何度か邂逅したことがある。

しかし……ここではしばらく存在が確認されていないはずで、すでに絶滅したと思い込んでいた。









あれがここにいるとしたら、ドスファンゴとは比べ物にならないほどの危険が、行方不明の彼女を襲うことになる。









ハヤテは駆け出した。
後ろで動揺するような声が聞こえたが、今はかかわっている暇はない。
一直線に、もうすっかり暗くなった夜の森をかけていく。





岩を飛び越え、丸太を蹴飛ばし、邪魔になる木々を鏃で伐採しながら進む。
非常に乱暴なやり方ではあるが、ハヤテの予想通りならばそれに頓着している暇などない。







幅だけで十数メートルはありそうな切り株に飛び乗ったその時にハヤテは目を見開いた。



























それが、いた































「っあ…………」











のどの奥から絞り出すような、恐怖をそのまま固めたような声を、ハヤテの異常な聴力は聞き逃さなかった。

ハヤテの目の前にいたのは、きれいなサラサラの金髪をツインテールにした少女。
だが、それに反して身に着けているものは泥だらけで、顔には擦り傷がいくつも入っている。

だが、今のところそれは問題外だ。
なぜなら、彼女の顔がまるでこの世の終わりを見ているような、悲壮な……絶望に満ちた恐怖の表情だったからだ。




いや、本当にこの世の終わりで間違いないのかもしれない。
目の前にいる、このモンスターの姿を見ているのならば。














静電気がはぜるような音が、耳についた。
青白い光をまとい、体中に空の稲光を走らせているそのモンスターは、まるで彼女の品定めをしているように、その双眸でにらみつけている。



いや、双眸というのはおかしいだろう。
もし両の目でにらみつけているならば、その爛々とした目の光は二つあるはずだ。







しかし、その片方は……“まるで何かに抉られた様に”つぶれている。








全身にビッシリと生え揃う、頑丈な甲殻からリンを大量に燃やしたような光をほとばしらせ、それは牙をむき出した。




人間の“狩人”と、“無双の狩人”が、ここに立ち会った。












































「〈ジンオウガ〉…………なんで、こんなところに……」













































ハヤテの声は、怒りに燃え滾るジンオウガの唸りにかき消された。



















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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.68 )
日時: 2014/03/31 23:32
名前: masa

どうもmasaです。

ハヤテは流石、と言うべきですよね。基本的な足跡の追い方から、判別には至らなかったものの、かすれた足跡を発見したんですから。

ハヤテって目だけじゃ無く、耳までいいんですか。じゃあ下手すると、向かい合う相手の脈拍や血圧の変化で嘘を見破るなんて出来るのかも。
ハヤテは優秀ですよね。音を一切立てずに敵に近寄れるんですから。
そして、「命に感謝する」と言うのが日常的に出来るのも優秀さの表れですね。

まあ、チハルさんの観察力は考えてみれば普通の事かも。観察力が優れていなければ、一瞬の隙を生みだし、そのせいで死亡。なんて日常的でしょうから。
まあでも、「好きな相手だから身につけた観察力」でしょうけどね、彼女の場合。

そしてついに目的の人物の発見。に至りましたが、状況的には最悪の一言ですよね。
唯でさえ厄介な相手が怒ってるんですから。

ハヤテ達がどう切り抜けるのか気になりますが、次回への楽しみにしておきます。


次回も楽しみにしていますね。
では。

[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.69 )
日時: 2014/06/06 23:05
名前: 壊れたラジオ

『雷狼竜の縄張り』



ハヤテは、この事態に少々気が急いていた。

彼の目の前にいたジンオウガは、その群青の甲殻に覆われた顎を軋ませている。
あの中には、どんな獲物だろうと意にも解さない一撃必殺の武器が仕込まれているのだろう。

ぎらりと光るその一つの目には、明らかな殺意が浮かんでいる。





〈不味いな〉




彼は動けずにいた。
闇夜ではあるが、彼の卓越した感覚は、そこにいる人間…つまりはナギの様子をしっかりととらえていた。
しかし、その位置取りが問題であった。


彼女は、自分とジンオウガを挟んだ間の木の洞にいる。
なぜ分かるのかと問われれば、“勘”と答えるほかないのだが、実際に確かめるよりもこちらのほうが正確ではあるので、今は疑う余地はない。

ただ、おそらくこの状況で自分が動くことをジンオウガが許してくれるとは到底思えない。
うかつに動けばあの巨大な爪か、もしくはあの鋭利な牙か…もしくはその二つのフルコースになると言う可能性が一番高そうだ。



そして、もう一つ彼を動けなくしている要因がある。













ジンオウガはハヤテを見ても怯んだりしない。
と言うより、彼らモンスターと人間の間には明確な体格差があるので、基本的に巨大な体躯を持つ大型肉食モンスターは人間を見てもさして驚くことはない。

そしてジンオウガ。
『無双の狩人』の異名を持つ彼は、どんな敵を相手としようと、まったく怯まない。
それどころか、発達し、筋肉の盛り上がった巨大な肩で風を切るように、『威風堂々』をそのまま形にしたような姿で、敵に対応する。

もしくは、彼にとって“敵”は敵ですらなく、“獲物”と言ったほうが正しいのかもしれないが。


ハヤテは、ジンオウガの挙動を必死で読み取る。
もしここで自分が動けば、きっとジンオウガはすぐさま自分を噛み裂こうと動くだろう。
ジンオウガの発達した巨体は、その巨大さとは裏腹に、とんでもないスピードで走ることが出来る。

ジンオウガの攻撃を避け、武器を抜いて反撃することは、この間合いであれば出来ないことはない。


ただ、前述のとおり彼とジンオウガの間には彼女がいる。
ジンオウガが彼女に配慮することがあり得ない以上、彼女が戦闘に巻き込まれて踏みつぶされる可能性も無きにしも非ずだ。



ハヤテはじりじりと横にそれていく。
ジンオウガには、これから戦う相手を様々なサイドから観察…と言うより、相手の力量を図るような行動をとるという癖がある。


彼女を危険に巻き込むわけにはいかない以上、軽率な行動はできない。











ジンオウガは、ハヤテの思い通り、彼のサイドを回り始めた。
その光る一つ目が、彼を強かに見据えているのを体中に感じる。

彼は体を低くし、それでも背中の武器に手をかけたまま、ジンオウガを見据えながら彼女のいる木の洞に少しずつ近づいていく。

普通の人間ならば、この真っ暗な夜の闇の中、このような強大なモンスターに出会えば、正気は保てない。
そして、正気が保てなければ、文字通り勝機はない。


夜の狩場と言うものは、そういう理由もあって、上位以上のハンターにしか解禁されていないのだ。





あと一歩で彼女の体に手が届く。
『よく頑張った』とか『大丈夫ですか』とか、彼の性格もあって口から出そうになるが、この状況を崩すのはどうしてもよくないだろう。

彼女の緑色(彼の暗視視力は猫並だ)のおびえた瞳を見て、彼は安心させようと少しの笑みを浮かべたが、声を出しそうになった彼女にはっとして、人差し指を口の前に当てる仕草をとった。

ジンオウガの耳は鋭い。
もしも声を出せば、それを付け入るスキと見て攻撃を仕掛けてくるだろう。






彼は、彼女を立たせようとゆっくりと手を伸ばした。






























突然、身を虫が這い上るような感覚に襲われる。
彼の皮膚はまるで、危険を察知するセンサーのようになっているので、とっさのときの状況判断能力も素晴らしいと、ハンター養成アカデミーでも評価されている。

が、それが真に力を発揮するときは、どちらかと言うと無いほうが彼の身にとっては非常に良いことではあるのだが。




しくった、と彼は地面を強く蹴りだした。
え?と言うような素っ頓狂な顔をした彼女を見る暇もなく、彼は横抱きに抱えた。
乱暴だが、それは事後承諾で許してもらうしかないだろう。

大きく空中で前転(非常に重い鎧を背負ったままだと、ものすごく大変だ)して、その場から素早く離れた。





その瞬間、彼女が背にしていた木の洞…と、木の切り株ごと吹き飛んだ。











ジンオウガの鋭い鉤爪の付いた前足が、その蛮力のまま、何の捻りもなく振り下ろされた。
格闘や武道の試合なら、批判されてしかるべき行為だが、野生ではそれが当然だ。
そして、それが自然界で最も力を示せる方法であり、見た目的にも最も威圧感を与えられる。



ジンオウガは、自ら“間合い”を壊した。




ハヤテは彼女を抱えなおすと、エリアの継ぎ目に走り出した。
彼女の泥まみれの体を抱えていると、なんとなく捨てられた動物を拾ったような感覚になる。
その体が、信じられないほど軽いことに驚いた。







「…お前…もしかして……」







彼女が自分に目を向けているのに気付いた。
その視線にどこか、希望のような驚愕のようなものを感じ取り、ハヤテは彼女を見据えた。

どこか不思議と初めて見た気はしなかった。







「オオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!」









激昂したジンオウガの声が後方から響いた。
ハヤテはすぐに正気に戻ると、走りながら彼女に話しかけた。













「…今から、ベースキャンプまであなたを連れていきます。よく無事でしたね、もう大丈夫ですよ……」
「……」





今の只の一言で、彼女は目が潤むのを感じた。
突然、今までの恐怖が津波のように襲ってきて、わずかな嗚咽が浮かぶ。
が、それを見られたくはないという負けず嫌いの心が出てきて、彼女は彼のまとっている鎧に目を伏せた。


ハヤテはそれを見て苦笑すると、目を細めて後方のジンオウガを見る。








鋭くとがった群青色の甲殻。
しかし、非常にしなやかな継ぎ目のおかげで、その巨体に関わらずスピードは一向に落ちない。
おまけに、その継ぎ目からジンオウガの怒りを象徴したかのような蒼光が漏れている。



しかも、ハヤテは今武器を抜くことが出来ない圧倒的不利にいた。
その強力な身体能力のおかげでぎりぎり逃げきれてはいる。
時速50kmで走るモンスターに対して、全身に鎧、背中に武器、腕に人間一人を抱えて逃げ切れるというのも大概おかしくはあるのだが、不利な状況には変わりない。




ハヤテは地面を鋭く蹴る。
大きく体をひねると、目の前にあった大木に強力な後ろ蹴りを放つ。


木は鈍い粉砕音を立てると、こちらに向かって倒れてくる。
ハヤテはそれを踏み台にして大きく跳躍すると、木は人間二人分の体重、鎧と武器の質量を受けて、倒れるスピードをさらに加速する。




ジンオウガは大木の先についている大量の葉と、木の幹に体を防がれる。
理由は不明だが、片目しかない以上、どうしても距離感は掴めないだろう。


後ろでやけくそになったかのように暴れているジンオウガを見ることなく、彼はエリア4に続く道へと姿を消した。












*              *











「…ハヤテ君!?どうしたのよ、いきなり駆け出して!!!」





エリア4への道の途中、ハヤテはこちらを追ってきたらしい3人と合流する。
自分はそれ程速く走ったつもりはなかった彼だが、ハンターとはいえ常人と変わりない彼女らと彼を一概に比較するには無理がある。

ゼイゼイと息を切らした彼女らは、ハヤテを見ると、安堵と置いて行かれたことへの少しの怒りと怪訝を浮かべた顔で彼を見る。
その次に、彼の抱えている泥まみれの彼女に対して、不思議そうな顔を浮かべた後にはっとしたような顔をした。


……特に、彼女と深くかかわりのあるサクヤは。









「ナギ!?よかった、無事やったんか!!!」
「サク!?なんでお前がこんなところに!?というかその恰好……」





そのまま感動の再開……とハヤテも言いたいところだったが、今の状況からして悠長にここで話し込んでいる暇なんかない。

ハヤテは彼女らをせかした。
最初は怪訝そうな表情を浮かべた彼女たちだったが、後ろから響く鈍い轟音に一斉に目を見開く。








“ジンオウガ”


ユクモ村の人間であるヒナギクにとっては、この名は幼少期から刷り込まれた、一種のお化け的ものであっただろう。









「あ…あれって……」
「逃げますよ!!!急いで!!!」







このエリアの間の道は細い。
ジンオウガの体が通るぐらいと言えば広いように感じるが、逆に言えばジンオウガがぎりぎり通れるぐらい。
つまりは、戦う余裕なんかないのだ。








「エリア4へ!!!急いで!!!」







広けたエリア4へ誘い込めば、多少は有利になるだろう。
全員それがわかっているので、一目散にかけていく。

ジンオウガは全く速力を緩めずにこちらに襲い掛かってくる。






「皆さん!!!足元に気を付けて!!!」






チハルが叫んだ。
見ると、そこには黒い円盤が仕掛けられている。
ハヤテはそれを見た途端ハッとしたが、すぐに苦い顔になる。








「ダメですチハルさん!!!それは!!!……」
「え!?」






ジンオウガの巨体はすぐには止められない。
先ほどとは違い、ここには両サイドに何もない。
その巨大な体は円盤に突っ込んでいく。









「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!!!!」









やった!!!とサクヤがこぶしを握る。
そこに仕掛けられてあったのは“シビレ罠”。

高圧電流はジンオウガの体を駆け巡り、その体を一瞬留めた……かに見えた。












ボンッッ!!!!!!





そんな破裂音がして、シビレ罠が引き裂かれた。











「ええっ!!?」
「シビレ罠が効かない!!!!??どうして……」




効かないならまだいいけど……とハヤテは歯を食いしばった。




「……ジンオウガにはシビレ罠は効きません……それどころか、あいつの体に溜まっている電力をさらにチャージさせるだけです!!!!!!」
「なんやて!!?」
「それじゃあどうすれば!?」
「今は逃げるしかありません!ドスファンゴとの戦いで、アイテムを消費しているんでしょう!?さすがではないですが、万全の状態でなければあれには勝てません!!!いったん戻りましょう!」




メインターゲットはすでに達成している。
と言うより、ジンオウガなどと言う強力なモンスターが乱入してくるなど、ギルドにとっても予測はできていなかったであろうから、一端引いても誰も責めまい。

それに、一番の主力であり、ジンオウガについての知識もあるだろうハヤテが今武器を抜けないのはきつ過ぎる。


今は確かに、ベースキャンプに戻る以外に選択肢はないだろう。





彼らは顔を見合わせると、エリア4へと向かった。










*                *









すっかり真っ暗にはなっているエリア4は、もともとが廃墟だったこともあり、何とも言えない不気味な雰囲気を出していた。
満月があるだけましだったが、それでも普通の人には何とも言えない恐怖を掻き立てる光景であることだろう。

特に、今彼が抱えている彼女……ナギにとっては。




「……暗いの、ダメなんですか?」
「……」



声は出さないし、負けず嫌いなのか、彼女は何も答えない。
今まで極限状況にいたのだし、もともとがお嬢様なので何とも言えないが、その様子からして、きっと怖いことには変わりない。

それにあんな体験をしてしまった以上、それが今後の大きなトラウマになる可能性も少なくない。

その辺を、後でご親族の方に伝えないとな、とハヤテは考えた。





「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!」

「「「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」」」





……こんな状況で考え事ができるようになる、というのも考え物ではあるが。


広いところで戦いやすくなるというのは、何もハヤテたちに限ったことではない。
むしろ、逃げやすさと言う面では彼らのほうが上と言うだけで、根本的には巨大なモンスターとの力関係は変化がない。
どちらかと言うと、その巨体を存分に活かせるモンスターのほうに軍配が上がるぐらいだ。




チハルが背中から武器を取り出す。
アルクトレスブランが、その周りに冷たい冷気を纏いながら展開する。




「先に行ってください!!!私が援護します!」




武器を使えない自分に代わり、しんがりを務めるつもりらしい。
ハヤテはアルクトレスブランを見た瞬間、とっさに頭を働かせる。





「チハルさん!!!ビンを使わずに、アルクトレスブランの“属性”を使ってください!!!」
「?…はい!!!」




一瞬、何故という表情を浮かべたが、ハヤテへの信頼があったのか、すぐに実行に移す。

鋭い風切り音を立てて、拡散されて放たれた矢がジンオウガに襲い掛かる。
その矢は堅い甲殻にはじかれるが、幾らかは継ぎ目に突き刺さり、強力な氷属性を解き放つ。

チハルの腕は見事なもので、拡散した矢はジンオウガの全身に隈なく命中し、解き放たれた氷属性は、ビシビシと言う音を立てて傷口を中心にはい回っている。







「オオオン!!!」








しかし、ジンオウガの動きが収まる様子はない。
アルクトレスブランは、G級の弓の中では攻撃力がある方ではない。
むしろ、ジンオウガの怒りをたきつけるだけだろう。
それでも、チハルはジンオウガの攻撃の届かない両サイドに回り込んで狙撃していく。





しかしそれを鬱陶しがったジンオウガは、チハルの方を全く見ずに前足を踏ん張った。
そこを支点にして、ジンオウガは体を捻ってその甲殻によってとげとげしく武装された尻尾をしならせた。

まるで虫を払うようにジンオウガの尾がチハルに向かって振りぬかれる。
その先端は、まるで鞭のように空気の中でしなり、恐ろしい金切音を立てて、チハルの横腹をとらえた。










「ぐあっっ!」











強かに打ち据えられたチハルの体が宙に舞う。
地面にたたきつけられ、肺の中から一気に空気が抜けて思わず咳き込んでしまう。
地面が丸出しの石ではなく、雑草の多く生えたエリア4だったため、そこまでの痛みは無かった。
しかし、彼女の動きを止めるには十分すぎる時間だ。






すぐに立ち上がる事が出来ず、倒れたままになったチハルは体に強力な風圧を感じた。
首だけを何とか動かして、風圧があった方向を向く。
そして彼女が見たものは……空中に大きく身をひるがえしたジンオウガの姿だった。


自身の体を大きくしならせ、後方へ宙返りしながら、強力に働く遠心力を活かして彼女に尻尾を叩き付けようとしていた。




あんな巨大な体で、あんな芸当が……
スローモーションのようになる光景の中で、チハルは思わず目を閉じた。



























衝突の鈍い音が、エリア4の閑散とした地に響き渡る。

しかし、チハルはいつまでたっても来ない痛みをおかしく思って目を開ける。
そこには、見知った蒼い鎧があった。









「……本当に化け物ですね、ハヤテくん……弓って、ガード不可の武器ですよね?」
「……弓は使ってないからセーフですよ……」










激突の瞬間、ハヤテはチハルとジンオウガの間に割って入り、“徒手空拳”の要領でジンオウガの尻尾を足でそらしていた。
その太い尻尾は地面を二人のそばの地面を強かに打ち付けて、雑草の生えて緑色になった地面を抉り出して、茶色の地面の色をむき出させている。






あとこの尻尾が数センチずれていたら不味かった、とチハルは内臓がきゅっと締まるような感覚に襲われた。


この信じられないような芸当をしたハヤテは、元々肝っ玉が太いのか、それともこんなこと日常茶飯事だから慣れてしまっているのか……。
しかも、穏便に腕に抱えているナギを下せないため、彼女を抱えたままこれを行ったのだ。

後者だったらなんだかいやだな、とチハルは彼に少し同情した。










尻尾をひゅんと振りぬいて、その反動でジンオウガが素早く振り向き、こちらを睨みつける。
ハヤテは素早く立つように促すと、先に走り出した。
チハルは後を追うように立ち上がると、ジンオウガを牽制しながら走る。











「……生身でモンスターと渡り合うとか……どんなスペックなんでしょうね、ホント……教官が時々あきれていたのも頷けますね……」











チハルはそう思って呆れつつ、どこか安心したかのような表情を浮かべた。










*              *







エリア4の端が見えた。
ここを越えれば、巨大なモンスターが入ってこられない安全地帯へと入れる。
ハヤテたちの心の中にわずかに安堵が浮かんだ。





突然、ハヤテの肌がまた粟立った。
後方で、何かが近づいてくる。







「危ない!!!!!!」
「え!!?きゃあっっ!!!???」





ハヤテは隣にいたヒナギクを突き飛ばした。
その瞬間、体を雷で撃たれたような衝撃が貫く。
……と言うより、実際に雷に撃たれたのだ。


実際にモンスターによって落雷を食らったことのあるハヤテには、すぐに分かる。
いつもなら食らわないところだが、今回は状況が悪すぎた。

幸いナギは鎧が絶縁してくれたのか、感電していない様だったが、全身が火傷を負ったかのようにひりつく。
腕に力がこもらない。

思わず膝を着いてしまうほどに、あのジンオウガの放電は強烈だったのだ。







「……逃げて……僕に構うな……」
「ええっ!?出来るわけないでしょそんなこと!!!」
「せや!にーちゃんを放っていくなんてそんな事……」
「次の放電が来る!!!さっさと行け!!!!!」




サクヤの言葉を遮り、いつもの敬語のなくなった切羽詰まった声をだす。
ハヤテは背中の武器を引っ掴むと、ジンオウガの前に躍り出る。

焼けつくような痛みに耐えながら、ハヤテはカイザー・ボウでジンオウガを狙撃する。
一発も外さず、甲殻の継ぎ目に矢を直撃させていく。
彼の弓は、威力がG級武器の中でもかなり高い部類に入るため、さしものジンオウガもただでは済まない。







「皆さん!行きますよ!!!」
「ええっ!?」





雷に撃たれてなおあんなことが出来るハヤテの身体能力に、彼女らは驚いていたが、チハルの声で我に返る。




「なんでやハルさん!助けに行かんと!!!」
「私たちが行っても足手まといになるだけです!!!ハヤテくんが作ってくれている時間を無駄にしてはいけません!!!」



サクヤは彼女の顔を見てはっとした。

彼女は、歯噛みをしている。
チハルは、今の自分たちとハヤテとの、圧倒的な差を知っていた。
彼の時間を無駄にして、彼の邪魔をするなど本末転倒だ。
二人はそれが分かったのか、ナギを抱えてそのエリアを後ろ髪をひかれる思いで出た。








「くそっ……」




意識が薄れる。
手足がうまく動かない。
目の前が真っ白になっていく。


こんな感覚に陥ったのは、いつの狩猟以来だろうか。
ソウヤと火山へと狩りへ行ったとき?
それとも凍土で救出依頼を受けた時だろうか。

もしくは……あの、自分の記憶の奥底にある、自分が絶対に忘れてはならない経験をしたときだろうか?





このジンオウガは、今まで戦ったどの個体よりも強い。
最初に動けなくなったのはそのせいだ。
圧倒的な力。
それが、第六感の薄くなった人間にも感じ取れるぐらい、こいつは強い。



でも、最初に見た時から、こいつには違和感があった。
こんなに強いのに、堂々として一種の気高さすら感じるのに……


……どうして。






「オオオッ!!!」



いい加減こちらに対して、堪忍袋の緒が切れたのだろう。
……堪忍袋自体が破れたのかもしれないが。
ジンオウガはその前足を振り上げた。

うまく動かない体でそれを避けるが、上手くいかずに倒れこんでしまう。
その隙を、ジンオウガが見逃すはずがない。


その前足の鱗の一つ一つに光を纏わせ、完全にチャージしきったそれを、彼に向かって振り下ろす。


自分の口から、声と、何か熱いものが漏れる。
荒れ野となっているエリアに生える雑草が、その前足の一撃で焦げて、自分の周りが黒いクレーターになっている。

鎧が守ってくれたが、もう後一撃は耐えられないだろう。










「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……」





本格的にとどめを刺そうと思ったのだろう。
ジンオウガが天に受かって吠え猛ると、あたりの草むらから次々と緑色の閃光を放つ光球が無数に舞い上がり、つむじ風のようにジンオウガの体を包む。

その緑色の光が、攻撃的で冷酷な蒼い光に代わっていく。


ハヤテは立ち上がる。
その際、気持ちが悪くて口からその熱いものを吐き出した。
色は暗くてわからないが、この鉄臭い匂いから、それが何か嫌でも分かる。

しかし、立ち上がったのはいいが、あくまでも立てただけだ。
この状態で逃げ切るのは、いくらなんでも無理がある。






光が一層強くなる。
ジンオウガのチャージが終わったらしい。

バチバチと抑えきれなくなるほどの電力が漏れ、エリア自体が帯電していく。
それだけで、この個体がどれほどの力を持つかと言うのが分かる。

ハヤテはジンオウガを見据えた。












ボンッッッ!!!











そんな音がして、ハヤテはあっけにとられた。

紅い……そんな印象が最初だった。



後ろ足あたりで起きた爆破に、不意を突かれたジンオウガは横転する。
その巨大な体が転がるのだから、かなりの衝撃が地面に伝わる。




「……あれは……打ち上げタル爆弾!!?ということは別のハンターが!?」



ハヤテは紅色の正体を見抜き、そこから頭を働かせた。
先ほどの爆発は、打ち上げタル爆弾と呼ばれるアイテムだ。
タルの中を二分し、片方に爆薬、片方に粉にした金属片を込めることで、爆発的な推進を得て、着弾した瞬間に爆薬が破裂してダメージを与えるものだ。

普通は空中にいるモンスターを叩き落とすために使うのだが、こういった使い方も熟達すれば可能だ。




つまりは、それほどのハンターがこの近くにいることになる。














「……ご名答……」












ハヤテは、声のした方向を向く。
廃墟の影から、一つの人影が姿を現す。
その人物がつけていたのは、暗くても満月でよく分かるものだった。








〈怒天・真シリーズ〉

『金獅子・ラージャン』の素材を使って作った、G級ハンターですら一目置くほどの一級品だ。

ラージャンは、「超攻撃的生物」と通称される大型の牙獣種である。

つまりはアオアシラなどと同じ種族の生物なのだが、牙獣種の中では特に屈強な肉体の持ち主である。

しかし、危険度はこれらの比ではない。


目撃報告自体の数は非常に少ないが、その理由は異常なまでに高い攻撃性によるものと考えられている。
ラージャンは非常に縄張り意識が強く、その視界に入ったあらゆる生物に対して徹底的に攻撃を加える。



要するに、「ラージャンと遭遇して生きて帰ってきたものがいること自体稀」という危険性ゆえであり、結果的に報告の数が少なくなっているとされているのである。
その猛攻は「黄金の暴風雨」とも例えられ、恐れられているほどなのだ。



牙獣種であるにも関わらず、古龍のように伝承に名を残す存在でもある。

ある文献には「その者の力は、唯一古龍種に匹敵する」と言われており、あまりにも危険すぎるため、生態調査もなかなか進まず、一時は古龍学者が研究していた程だ。
それでも生態は数々の謎に包まれており、今なお古龍種としての見方をする学者も少なくない。




筋肉、特に腕の逞しさは異常で、腕を使った攻撃は驚異的な攻撃力を誇る。
軽く振り下ろすだけで大地を揺るがすほどの剛腕に殴りつけられれば、生半可な防具ではたった一撃耐える事さえも不可能。

また、腕力そのものも申し分なく、中には地面を掘り起こして相手に投げつけてきたり、相手を両腕で捕えて握りつぶすように締め上げてくる個体もいる。

角は古龍の鱗をも貫き、鋭い牙や爪もどんな物体も易々と切り裂く凶器である。





そして、全身は漆黒の体毛に覆われているが、興奮状態に陥ると突如として大部分の体毛が金色に変色する。

これが、“金獅子”の名前の由来だ。









そして、あまりの危険性ゆえに、ギルドが狩猟できるハンターを制限している。

その素材を使った防具をつけている時点で、彼は只者ではない。


















(でも、ラージャンはこの大陸にはいなかった筈……という事は、別の地方から来たハンターか……)





ラージャンは、この地方では情報こそあれ、実物はいない。
酔狂な王族が彼らの素材を欲しがることもあるが、そもそも数が少なく、危険の一言に尽きるモンスターであるため、市場に流通することもほぼない。

そして、なぜ別の地方のハンターが、遠く離れたこの地にいるのだろう?

















「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」







ジンオウガが立ち上がる。
怒りに燃えた目を、そのハンターに向けた。
そのハンターは顔色を一切変えることなく(ヘルムで顔は見えないが)、背中の武器をつかんで取り出した。




ジャキン!!!という音とともに、その鋭い鋼の光沢をした武器が展開される。






『剣斧・スラッシュアックス』
それがこの武器のカテゴリーだ。
ギルドが技術を結集して作った、非常に大胆な設計の武器である。

斧モードと剣モードと言う二つの面を持ち、機動性の斧、攻撃の剣と素早く使い分けることで、的確にモンスターを追い詰める。
ただ、それを実現できるための力量がなくては意味がないのだが。




ジンオウガが飛び出す。
鋭利な牙をむき出して、彼に襲い掛かった。
ハンターはスラッシュアックスを斧モードの状態で抜刀して迎撃する。


鋭い音と、金属がこすれあうような音を立てる。
ハンターはジンオウガの振り下ろす腕を正確に見切り、その斧の鋭い刃先を継ぎ目に当て、そこまで力をかけずに、ジンオウガの力を利用して切り裂く。


痛みにつんのめったジンオウガは、腹立ちまぎれに地面を叩き付けた後、鮮血を空中に舞い散らせながらハンターを見る。

ハンターは、またゆっくりと構えた。
その構えに、一瞬の隙も、ハヤテは感じ取れなかった。


ハンターが、飛び出す。
ジンオウガはそれを見計らっていたかのように体を大きくひねると、その体からは想定出来ない跳躍を見せ、尻尾でハンターを薙ぎ払おうとする。
が、彼は跳躍の瞬間、体の下に潜り込んでいた。

重力に従って落ちてきたジンオウガの体に、勢いよく振りぬかれた斧が深々と突き刺さる。




さすがのジンオウガも、これには堪えたのだろうか、苦しげな声を上げてハンターから距離をとる。

あのスラッシュアックスは、“氷属性”を宿しているらしい。
傷が、凍り付いている。






と、いう事はジンオウガの弱点も知っているのだろうか……もしそうなら、なぜここにいるのだろう?




ジンオウガに立ち上がらせる暇を与えず、彼はスラッシュアックスを頭に叩き込んだ。
まるで、それはモンスターを殺すために、それだけのために作り上げられた必殺の斬撃。
無慈悲な程の攻撃が、ジンオウガに加えられていく。
その武器は、ジンオウガにとっては針のようなものなのに、それでここまであいつを追い詰めている。






……ああ、まただ。
……どうして、あいつは……








ハヤテの頭の中に、またあるイメージが浮かぶ。
それが何なのか分からずに、ハヤテはジンオウガを見据える。








「……終いだっっ!!!!!」






彼のスラッシュアックスが、火花を立てて軋んだ。
スラッシュアックスにはビンが装着されており、剣モードを使用する際には、このエネルギーを使用する。
このエネルギーを纏った剣は、長くは使用できないが、すさまじい切れ味と攻撃力を得ることが出来る。





彼は腹の底から叫びながら、そのスラッシュアックスを突き立てた。
ビンの薬品が勢いよく燃え上がる感触が、彼の手を這い登った。

スラッシュアックスの必殺技、“属性解放突き”。
ビンを大量消費することで、スラッシュアックスの全エネルギーを解き放ち、強力な属性攻撃を叩き込む。
さしもの大型モンスターでも、この攻撃を食らえばただでは済まない。





エネルギーがすべて放出され、剣先が爆発する。
悲鳴を上げ、ジンオウガは大きく怯んだ。
そして、このままでは分が悪いと思ったのか、その目に怒りをたぎらせたまま、森の奥へと姿を消した。










*            *








「……流石だな……あのジンオウガ。」



このスラッシュアックスの属性解放突きを耐えきるなんて、とそのハンターはヘルム越しに笑った。
どうやら悪い人ではなさそうだが、どうしてここまで腕の良い、別地方のハンターがこんなところにいるのか、という疑問は晴れていない。

ハンターは、人の生活を守る要だ。
そんな人物が、おいそれと自分の持ち場の地域から離れることはごく稀のはずだ。
流れのハンター、とかなら分かる気もするが、ここまでの腕ともなると、その地域のギルドが重要な戦力となるそのハンターを手放すとは思えない。
強力なハンターの存在は、そのギルドの権力へと直結する。
人間の醜い力への執着と欲望が、その疑念をより一層深めていた。






「おう、お前はもう大丈夫そうだな……流石同じハンターだな。まるで化け物。……ま、嬉しくはねぇけど。」
「……あなたは……いったい誰なんですか?」



こちらを見て笑う彼に、ハヤテは問いかけた。
あ、そうか。自己紹介がまだだったな、と気さくではないが、どこか落ち着いた雰囲気でこちらに気を使わせない口調で、彼はヘルムに手をかけた。





その瞬間、ハヤテは振り向いた。
何かが、廃墟の後ろにいる。
武器に手をかけたハヤテを、彼が静止した。







「……ったく……あいつはここで何やってんだ……」





あきれたような、怒っているような声で彼はため息をついた。
しかし、なぜかそのわりに、彼の口調に鋭さは感じられない。

まるで子供を相手をするかのような、優しさや安心や信頼や呆れや怒り、その他の何かがぐちゃぐちゃに混ざったような声音で、彼はそちらを向いた。







「やっほ〜!終わった〜?“シンちゃん”」
「……お前はここで何をやっていやがる……」






そこから出てきたのは、小柄な一人の女性だった。
いやちょっと待て。なんで私服姿で狩猟地に入ってこれてるんだ!?

ハヤテの疑問にも気づいていないのか、彼女はニコニコと笑いながら彼に話しかけている。

彼女の能天気さはよくあることなのだろうか。
半ばあきらめたかのように、もう一度彼はため息をついた。
ヘルムをとった彼の顔を見て、ハヤテは驚愕した。






そんな事も意に介さず、彼女は彼に勢いよく飛びついた。
走り方もどこか幼く、子供っぽい。なんだか小動物を見ている感じがした。
生まれつきの天真爛漫さがにじみ出ているように見える。





「シンちゃんやっぱり強いね〜♪見ててびっくりしちゃった!」
「……今までお前は俺をどう思ってたんだ……」
「ん〜……イケメン?」
「……俺は顔だけですかそうですか……ってそうじゃねーよ!?」





二人して漫才っぽい会話を繰り広げていたが、正気に戻ったらしい彼が、彼女の頭をチョップした。





「いった〜い!何すんのいきなり〜!?」
「お前……キャンプで待ってろって言ったよな?言ったよな俺!?」
「シンちゃんが気になって。えへっ♪」
「このアホ!!!狩猟場は危険だって何回説明すりゃいいんだ!?これ何回目だよ!?」
「えと……50回ぐらい?」
「15年前からのべ112回だこのバカ!!!ダブルスコアじゃねぇか!!!」
「だからってチョップしなくてもいいでしょ!?シンちゃん“女は殴らない”なんていっときながら、そんじょそこらの男の子に殴られるよりもよっぽど痛いんだから!!!」
「じゃあ殴られないようにしろよ!!!お前が無茶するとあの影薄野郎に睨まれるの俺なんだぞ!?」
「何よ〜!!!?」




「……あの……すみません……」





いい加減、惚気とも喧嘩とも取れるやり取りを聞いているとこちらが参りそうだったので、ハヤテが二人に問いかけた。





今のを見られていたのを思い出したのか、彼の眉が少ししわを寄せた。
それを横から見ていた彼女が、「や〜いシンちゃんたらシャイなんだから〜」と言ったため、彼の眉間の皺が濃くなった。

このままでは埒が明かないので、ハヤテは“シンちゃん”と呼ばれた男性に向かって話を切り出した。














「……あなたはもしかして……“バルバレ”出身のハンターの、“鋼龍殺し”ですか……?」











この名は、ハヤテがいつか会いたいと願い、最も感謝しているハンターの一人の名前であった。
故郷と、その近辺を守った、救いの英雄。
彼と、その地域の人間にとっては、決して忘れられない人間である。
















「……今は、ハンターをやめたようなものだから、その通り名ではないが……確かに昔はそう呼ばれていたかな。」
















その男性は、歳を重ねて丸くなった性格の外に、昔のどこか荒い性格を残した表情で、ハヤテに語り掛けた。
















「俺は、“シン”。昔はハンターだった。お前は俺の後輩、という事になるのかな。」





































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.70 )
日時: 2014/06/07 00:21
名前: masa

お久しぶり、ですね?masaです。

流石はハヤテですよね。ナギの位置情報を正確につかむとは。
そう言えば、何処かの漫画で言ってましたね。プロは膨大な戦闘経験から生まれる直観力で戦うって。だから、かもしれませんね。

絶対的な捕食者は余程の事が無い限り余裕を崩さない。これもどこかで聞いた事ですが、ジンオウガにも当てはまりますね。
人間、とはいえ一流のハンターと言えるハヤテを相手にしても余裕を崩さないんですから。

まあ、とりあえずはナギは無事みたいですね。
ハヤテがナギを小動物と例えたのは当然かな?ナギは小さいし、体重も軽いし。何より化け物ハンターと言える人間からすれば軽いという錯覚は当然ですね。

しかし、ハヤテは人間かな?車と同等の速度のモンスターから逃げられてるんですから。
人間とモンスターのハーフっていう嘘も「そうだったんだ。納得」って大部分の人が信じるかも。

ハヤテが突然駆け出した理由をナギを見たうえで攻めたら「唯の悪魔」ですよね。ナギを助けるために駆け出したんですから。
で、ハヤテの言う通り罠は無効ですよね。電気を武器にしている相手に電気を与えるって事は、「餌を献上する」と同意義ですからね。

ハヤテよ、やっぱりお前は人間ではない。親のどちらかがモンスターだ。でなければ生身でモンスターの攻撃をそらせるなんて無理だ。

流石のハヤテも死か!?と思いきや援護があってよかったですね。
事情があったにせよ、ハヤテが苦戦した相手をいともたやすく「逃げ」と言う選択肢を選ばせるほどですからね。

まあ、ハヤテが尊敬?している相手ならそんな芸当は出来て当然?かな。
ってかゆっきゅんは相変わらずですよね。あの人に言い聞かせるなんて1億回言っても無駄な気が。そんな人ですから。



さて、高名なハンターと邂逅したハヤテ、そして現時点では「とりあえず」救いだされたナギ。
そして深手を負ったモンスターとの戦いがどうなるか楽しみにしてますね。

では。

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.71 )
日時: 2014/06/07 00:31
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

待ってましたあああぁぁぁぁ!!!!!

あ、すいません。どうも新米のタッキーです。
いっとき更新がなかったのでもう打ち切ってしまわれたのかと思ってたんですよ。

いやぁホントに良かった。そして面白かった。
実はこの作品に感化されてモンハン3Gで弓縛りやってみたんですよ。そしたらなんと!リオソウルZ作れちゃいました(天鱗が全然出なかったけど)。以外といけるんですね

それより相変わらずハヤテはハイスペックですね。ジンオウガと肉弾戦って。
やっと本格的に出てきたシンさん、ぱねぇっす。ラージャンの装備って2種類ありますよね?やっぱり激昂の方なんでしょうか?

この後ハヤテとナギがどんな風に関わっていくかとても楽しみです。

あと、壊れたラジオさんは描写などがとっても上手で、凄い憧れます。特に風景描写!自分はこれが苦手で、頭の中の風景を上手く表現できないんですよ。この作品を参考にして、ちょっとずつできるようになりたいと思います。

masaさんと違って、非常に凡コメですいません。この作品大好きなのでこれからも頑張ってください。


この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.72 )
日時: 2014/06/07 13:31
名前: 壊れたラジオ

コメントありがとうございます!
いや、しばらく授業とかが忙しくて書けなかったんですが、これから時間を見つけてちょくちょく書いていこうと思います。

masaさん
まあ、お前はゴルゴかよ、と原作のマリアさんに言われても仕方無いでしょうねぇ……
マリアさんに関しては、まだ出せるほど話は進んでないですが。

確かに絶対的な捕食者は余裕を崩さない……のですが、この世界のハヤテを前にすれば、大体のモンスターは怯みます。
普通はジンオウガも同じなのですが、今回の個体はそれをも上回る化け物個体(いずれ本編でも言及しますが)であるというだけです。
そういう意味では、初っ端のディアブロスもそうです。
どうしてハヤテはこういう超ド級個体との遭遇に恵まれるんでしょうね、ホント。

まあ、この世界の定義で言うハンターからすれば体重が50s以下ぐらいなら軽いというでしょうね。
とはいえ、ハヤテならアオアシラ一頭(大体5トンぐらい?)を背負って山間走破とかできるでしょうか?(←おい)

ハヤテの親に関しては、いずれ出します。
まあ、あまり期待はしないほうがいいかもしれませんね。
原作が原作ですし。

ジンオウガは帯電していなければシビレ罠は効きます。
ただ充電してしまうのでアウトですが。

シンさんは現時点では最強のハンター、というかこの作品の中でも五本の指に入るほどのハンターです。
ハヤテの持つハンタースキルの全てにおいて上位互換と考えても良いです。

ゆっきゅんとシンさんに関して批判が来なくてよかった……キャラが物凄く掴み辛かったので、書くときは戦々恐々としながら書いていました……

これからもお付き合いのほどよろしくお願いしますね。



タッキーさん

初めまして、コメントありがとうございます!
出来るだけ読んでいただいている人を心配させたくはないのですが……更新がないのは、こちらの忙しさもあるので、よくあることになってしまいます……すみません。

しかし、書ききっていないことがあるし、ネタがまだ大量にあって消化不良を起こしそうなので、ちょくちょくは書いていきたいと思ってます。

弓縛りですか……という事は他に使える武器が?
私は弓しか使えないので、少しうらやましいです。
私のおすすめ装備は、ナルガZ一式と、破岩弓イクサプロドです。
これでほぼすべての敵を一掃できます。
ちなみに、ハヤテの武器を弓にした理由は、作者が書きやすいと思ったという事もありますが、また別の理由があります。
主人公は大剣や太刀などを背負わせたほうが絵的に映えるのですが、この作品内のハヤテは、ほかのハンターから一歩離れて俯瞰する、と言う立ち位置を目指しているので遠距離用の弓にしました。
こうすれば、剣士とガンナーの確執など、面白い要素も二次的に組み込めましたし。
この話の主人公的立ち位置は、どちらかと言うとヒナギクとかナギとかにしようと思ってます。
彼女らのハンターとしての成長を書ければいいなと思ってます。ハヤテはどっちかと言うと保護者的ポジションでしょうか?(笑)

ジンオウガとの肉弾戦に関しては、批判が来ると思ってたので、安心しました。
まあ、ハヤテが化け物であることには変わりないですが……

シンさんの装備をラージャンにしたのは、彼の力をストレートに伝えられたら良いなぁと思ったのと、
『ラージャン』→『金獅子』→『金』→『金髪』→『シンさん!!!』と言う安直な理由からです……
と、いうわけでシンさんの装備は黒い普通のラージャン装備ではなく、暗闇でもはっきり分かるような金色の激昂ラージャン装備です。

ナギとハヤテに関しては、これからのお楽しみですが……ナギの性格からして、普通の話になる事はないでしょうね……たぶん。

私の風景描写が良かったのですか……ほかの作品を見ていると、全然上手くいかないなぁと落ち込んでいたところなので、そういった意見はものすごくうれしいです。
これからももっと上手く出来るように頑張りたいです。


それでは、ありがとうございました!




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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.73 )
日時: 2014/06/07 16:32
名前: 壊れたラジオ

『鋼龍殺しのシン』




『鋼龍・クシャルダオラ』

このユクモ村……と言うか、この大陸から遠く離れた、別の大陸にある、ドンドルマ、メゼポルタ、バルバレ地方を中心に目撃例のある古龍。
古龍種の中でも謎は多く、積極的な研究がおこなわれている。

背中から生えた極端なほどに大きく発達した翼が特徴で、元々並みの飛竜よりも恵まれた体格を誇るにも関わらず、その巨大な翼が一層身体を大きく見せている。

普段は四肢で地面をしっかりと捉え歩行するが、外敵と交戦する際や長距離を移動する場合は、その大きな翼を広げ、はるか上空を移動する。
その飛行能力は驚異的なレベルで、例え空中でも陸地を走る人間のように小回りの利いた動きを見せることが出来るほどだ。
その動きはまさしく風のごとき姿だ。

さらに、地上でも四肢を駆使してかなりの素早さを見せる。
あまりにも堅い甲殻を持つ生物はその分動きが鈍くなる傾向にあるが、
クシャルダオラの動きはその通説を根本から無視するような素早い動きである。

そして、クシャルダオラを古龍足らしめている能力がある。
それは風や天候を自在に操作する能力だ。



クシャルダオラの出現地域には大木が折れんばかりの突風や、数メートル先の視界をも奪う暴風雨や猛吹雪が観測されることが多々ある。

さらに厄介なことに、自分の身体を包むように旋風を巻き起こし、それを纏うことで身を守る。
この風は『龍風圧』とギルドによって呼称されており、クシャルダオラを強敵足らしめている。
不用意に接近する者は悉く吹き飛ばし、風を突き破って攻撃してくる者がいても鋼の鱗が攻撃を弾く。



この風を纏う能力に関しては体内のある特殊な器官が関与しているとされている。
そしてその器官は頭部後方に向かって生えた角と密接に係わっているらしいのだが、詳しいことは未だ分かっていない。

クシャルダオラの引き起こした悪天候に歯止めをかける術は、現在までのギルドの総力を結集した古龍観測隊の面々を持ってしても、調査の結果ではクシャルダオラ本体の撃退以外に確認されていない。

口からは凄まじい風圧を伴う風のブレスを吐き出し、一発で岩石さえ砕け散るほどの破壊力を持つ。
さらに直撃した者の身体を猛烈な勢いで吹き飛ばし、受け身を取る隙さえ与えずに壁や地面に叩き付け、確実にダメージを与える仕組みになっている。



雪原では大量の雪を巻き上げ、直撃を受けた者を雪まみれにして動きを封じてしまう。
が、バルバレ近辺の個体は、素で氷や雪を操る能力を持っているとの報告もある。



その他、鋭い爪や強靭な尻尾が主要な武器であり、肉弾戦では鋼鉄の外殻が直接攻撃の威力をさらに加速させる。

各素材には強力な冷気のエネルギーが秘められている。
これ等は武器の素材として利用する事で恐ろしい性能を発揮するようになり、その刃を突き立てられれば大地すらも凍り付くと言われる。


全身が鋼鉄の強度と性質を持つ鱗や甲殻に覆われていることから「鋼龍」と呼ばれる。
また、たいていの個体は黒銀色の外殻をしているのだが、これは空気中の酸素と反応して酸化しているためであり、その素材を丹念に磨き上げれば眩い白銀色に輝くという。




















ただ、先述のとおりクシャルダオラは古龍である。
ジエン・モーランと同格で、人が戦って勝てるような生き物ではない。
ドンドルマやメゼポルタ、バルバレなどの彼らの縄張りに近い地域では、強力な非常線が何重にも張られていて、それぞれの防衛ラインには、手練れの兵士を何千人と投入している。

それでも追い払うのがやっとであり、古龍種の強大さを世に知らしめる一つの要因となっている。
特にドンドルマやバルバレは数種類の古龍種の縄張りが密接に絡み合っている。


古龍種……『クシャルダオラ』『テオ・テスカトル』『オオナズチ』……
名前を聞けば、どんな歴戦のハンターでも震えが止まらなくなるだろう。
どんなハンターであっても、彼らを殺して素材を手に入れてくるなど、命がいくらあっても足りず、いくら金を積まれても出来やしないことだというのがいつしか常識となっていた……が














しかし、約15年前、その常識を覆した一人のハンターがいる。
その青年は、バルバレでは一流のハンターであった。
何度も何度も、幾多の危機からバルバレを救ったそうだ。

そしてある時、バルバレギルド管轄内……『氷海』にて、クシャルダオラと激突したのだという。
その『氷海』は、昔天変地異でいきなり凍り付いた海であるらしいのだが、詳しいことはよくわかっていない。

その原因は時折ここに現れ、近辺に甚大な被害をもたらす『クシャルダオラ』だと目されていたのだ。
近辺には、ハヤテの故郷のモガの村があった。

その時のことは、周りのあまりの緊張状態だったので、しっかりと覚えている。
古龍種がこの村を襲うかもしれないという恐怖。
それで村はパニックになりかけた。












だが、その青年は立ち向かったのだ。
たった一人で。誰の助けも求めることもなく、その巨大な力に真っ向から。
















何かあった時のために、ギルドは救援隊を即座に手練れのハンターを集めて結成して待機していたらしい。

しかし、彼が戦っている間、クシャルダオラのものと思われる強烈な氷雪の嵐のせいで、ベースキャンプに近づけもしなかった。

それが、命からがらベースキャンプに彼らが到達した瞬間、ふっと止んだのだ。
その時間は、彼のクエストの制限時間の数分前であった。


しかし、クエストの制限時間が来ても戻ってこない彼を心配し、救援に向かった隊員たちの面々は、一種の驚愕と畏怖を彼に感じたという。



彼らの前方……巨大な氷山の果て、そこにいたのは。












































古龍と、己の傷から出た血にまみれた、荒い息を吐きながら、人の勝てるはずのなかった古龍……
“クシャルダオラだったもの”を片腕で引きずってきた一人のハンターの姿だった。










修羅か、鬼か……それとも夜叉か、悪鬼羅刹か……

その姿を、彼らは形容すべき方法がなかったのだという。




























何故戦おうと思ったのか。
バルバレで彼を見てきた、ほぼすべての人はこう答えるだろう。



『強い敵がそこにいたから』





そのことについて、彼は雑誌記者に対して、何も……ついぞ話すことは無かったという。
この時のことは、ハヤテもしっかりと覚えていた。
その後、彼ともう一度、本格的に関わることがあったのだが……その話はまた後にしよう。































「それで、どうしてあなたがここに……?」






彼の正体については納得したものの、どうしてここにいるのかが分からない。
“鋼龍殺し”ほどのハンターが、わざわざ遠く離れたこの地域にいることの意味が分からない。
それ以前に、バルバレギルドが彼をそう簡単に手放すとは思えないが……


シンはこちらの質問に頭の後ろを少し掻いた。

彼は聡い。
きっと、言外に込めた意味もすべて汲んだ上で、どう答えるべきか考えあぐねているのだろう。










「まあ……なんだ。こんなところで話し合いをしている暇はあるまい……。危険だし、このアホがこの狩猟場に勝手に入り込んだことに関して、門番に話をつけてこないといけないから、一度村へ戻るぞ。……報告もあるだろうしな。」









ハヤテははっとした。
確かにここは狩場だ。悠長に話し込んでいればどうなるかは分かったもんじゃない。
それを忘れていたことを少し悔やんだ。

自分の未熟さに唇を少し噛んだハヤテに、シンは少しの苦笑を浮かべた。








「お前はまだ若いよ。……でも、それでいいんだ。お前ぐらいの奴なら、みんな未熟者だ。その未熟者でいいと思えることが駄目なだけだ。」
「シンちゃんったらカッコつけ〜」
「うるせぇっ!!!自分のガキよりも幼ねぇお前に言われたくねぇよ!!!」








またなんだか口論を始めた二人に、ハヤテは自分の心のしこりが取れていくような感覚になる。
行くぞ、と促されてハヤテはエリアを出るために歩き出す。








「うわっ……?あれ?」








突然、目の前が歪む。
どうやら、先ほどのダメージがぶり返したらしい。
おっと、と意にも解していないようなしぐさでシンが彼の腕をつかむ。
このまま倒れていれば結構危険だったろうが、危機一髪だ。


歩けるか?と聞く彼に大丈夫です、と答えてまた歩き出す。
流石にここまで頼りきりでは、自分のハンターとしての沽券に係わる。
そうか、と言って彼はさっさと歩きだす。彼もハンターだから、自分の気持ちもよく分かるのだろうか、とハヤテはその後姿を追った。










「ね、ハンター君」
「え?」







後ろから聞こえた声に、ハヤテは振り向く。
先ほどの彼女が、自分ににこやかに話しかけていた。
その笑顔に、なんとなく癒し系と言うのはこんな感じなのかな、という印象を得た。
その彼女は、視線を前を歩いてゆく彼を見ていた。

彼は歩くのが早い。
もう自分から十数メートル離れたところを歩いている。
いや、自分が遅いだけだろうか?怪我をしてるし……じゃあ、その自分と同じくらいの彼女はどれだけ歩くのが遅いのだろうか?









「ひどいよね〜シンちゃん。こんなレディをエスコートせずにおいてくんだから。愛想もそんなにないから、冷たそうに見えちゃったかな?」
「え?はぁ……いえまあ……そうですかね?」






彼女は、またニコッと笑うとハヤテに語り掛けた。
ここで肯定するわけにもいかないから、ハヤテは一応言葉を濁した。

それにしてもこの人は上流階級の人なのだろうか。
天真爛漫さの中に、どこか昔の堅苦しいしきたりが一挙一動に組み込まれている気がする。

そして、笑ってはいるものの、先ほど彼と話していた時ほどの艶やかさはない。
きっと、その目に映るのは彼だけで、それ以外の異性はジャガイモか何かにしか見えないのかもしれない。
そして彼女はその笑った顔のまま、ハヤテに言った。









「でも、許してあげてね。シンちゃん、あれでも子煩悩だし。」
「子煩悩……?ってまさか……」





今の話から、すべての話が頭の中でつながった。
それが分かったのか、彼女は小さくうなずいた。
……彼が聡いとは思っていたのだが、一見そうには見えないものの、この狩猟場に入ってくることが出来たという事は彼女も意外と切れ者なのかもしれない。


そして、彼女はハヤテのそばによると、小さく囁くように言った。
先ほどとは全く違う、真剣な顔で。








































「彼女……ナギちゃんの前で、彼の事を“鋼龍殺し”って呼んだり、“バルバレ出身”って言ってあげないでね。」








































シンちゃん、臆病さんで、寂しがり屋さんだから









































「え?」
「えへっ♪お〜い待ってよシンちゃ〜〜〜ん!レディを置いてくなんて、紳士のすることじゃないよ〜〜〜!」
「誰がレディだこのアホゥ!!!!!」








ハヤテが答える暇もなく、彼女はその表情を先ほどまでのおバカで天真爛漫な顔に戻し、彼に走り寄って行った。

一見すると、あの天然な姿が本物に見えるかもしれない。
だが、もしかすると……
















「……一番の切れ者は、彼女なのでしょうか……?」













ハヤテは、誰ともなくつぶやいた。
後ろに、天高く上った満月がこちらを照らしている。



ハヤテは、ジンオウガの逃げ去った森を見つめていた。
夜行性の鳥や、虫が鳴き続ける森を見て、ハヤテは先ほど感じた感情を思い出していた。









































ジンオウガは、渓流ではもう絶滅したのかと思っていた。
それが、今になって突如姿を現した。

隠れていた?それならどうして隠れたままでいなかったのだろう?
そのほうが、彼にとっても安全だったはずだ。

そして、あの片方がつぶれてしまった眼……
あれはハンターにつけられたものなのだろうか。
それで、あんなに狂暴化した?そして、その怒りのまま暴れるようになって、結果的に見つかった?
でも隠れていたのなら見つかることもないはずだし、見つかったとしても、あんな傷をつけられるハンターなどわずか……そう簡単に見つかるとは思えない。





そして、あのジンオウガの出で立ち……それがどうしても引っかかる。





鋭い怒り、憎しみがごちゃ混ぜになった感情の中で、やり場のなさにあいつは咆哮していた。
普通のジンオウガよりもはるかに巨大な体躯を持ち、恐れを感じることも、恐れを感じるだろう相手もいないはずだろうに、どうして……









































どうして、あんなに悲しい声で鳴くのだろうか。











































彼にしか分からなかっただろう、嘆きの籠った声が頭から抜けないまま、ハヤテは狩猟場を後にした。

















*               *
















ベースキャンプに戻ると、そこには三人とナギがいた。
ナギがベッドに寝かされていたので一大事かと焦ったが、疲れてしまって寝ているだけだと聞かされ、安心する。
しかし、サクヤはハヤテを見た途端に飛びついたので、ハヤテは妙な声を上げて倒れこむことになった。
と言うより、ぼろぼろになった体に負荷がかかって倒れた、と言うのが正しいのだが。


しばらく気を失っていたらしいのだが、目覚めた時には痛みがずいぶん引いていた。
どれぐらいの時間がたったのか疑問に思って飛び起きようとしたのだが、自分のそばに座っていたらしいチハルとヒナギクに止められる。


気を失っていたのは30分程だったらしい。
その間に、体の手当てを二人がしてくれていたらしいのだが、ヒナギクが顔を真っ赤にしていたのが気がかりでチハルに尋ねた。

それによると、治療の際に鎧を脱がさねばならず(当たり前だ)、それをチハルが何の躊躇もなくやったため、ヒナギクは別の世界にトリップしてしまっていたらしい。

意外と初心だったんだなあ、と思うが、アカデミーで習うこととはいえ、異性に対してそういうことをあっさり出来るチハルには少し呆れた。


……一番のダークホースはハルさんかもなあ……と前にサクヤが言っていたが、何のことなのだろうか?













「それにしても驚きましたね……」
「?何がですか?」







チハルがその細い顎に手を当てて、ハヤテの体を見ながら考え込む。
ハヤテは何のことか分からずに首をひねった。











「いえ……三十分前に治療した時はもう全身ボロボロだったのに……今さっき確認したら、もう傷口がすべて塞がっていたんですよね……それに……」







チハルが先ほどジンオウガの前足の一撃をモロにくらった左腕をひねった。
ひねられる痛みは感じたが、やはり何のことか分からず、疑問符を浮かべるハヤテにチハルは言った。








「……何も感じませんか?」
「?いえ……特に、何も……」
「はあ……さっきまで左腕……複雑骨折してたんですが。」
「えええっっ!?」









ヒナギクが驚くが、ハヤテはああそういうことですか、と納得する。
自分にとっては、複雑骨折程度の傷は意外とよくあることであり、対して気にすることもない。
それは他のハンターも同じことだと思っていた。

全員がなんだかおかしな顔をしているので、ハヤテはシンに尋ねた。











「え、回復能力ってこのぐらいありますよね、シンさん……?」
「あー……まあ、それもそうだな。」








この二人の会話についていけないそれ以外の人は、少し呆れかけていた。
チハルは、もう考えるのがばかばかしくなっていたが。






















「それにしても、助かりました……まさかあんなモンスターが出てくるなんて……」







ハヤテがシンに改めて礼を言うと、ヒナギクたちもそれに倣った。
ただ、彼らは自分たちが何者かは明かさなかったのか、そもそも自分の治療で聞く暇がなかったのか、分からなかったらしい。
サクヤは知っていたのだろうが、ナギと同じく疲れて眠ってしまったらしい。
あんなモンスターにあった上に、自分の治療の手伝いもしていたのだから当たり前だ。

ハヤテが説明しようとしたが、話し込む声で目を覚ましたナギの声で、その全員の疑問は解ける事となった。

























「んんん〜〜……?ってうおおおおおおおおい!!?父!?母!?なんでこんなところに二人がいるのだ!!?」
「「ええええええっっ!!?」」

















話がややこしくなりそうだ……とハヤテは一人肩をすくめた。
長い長い、今日の夜が明ける。

ナギにとって、最も大変で、劇的な……彼女の人生を大きく変えるだろう一夜が、山々の果てから上る、薄い光によって開けようとしている。




渓流の水分を大量に含んだ空気が、その光に照らされ、乱反射しながら瞬いている。
遠くから響く滝の音と、森の木々がざわめく音が混じり合う。


早朝の鳥が飛び始めた。朝食に向かうのだろうか。















新たな一日が始まる。
だが、それが彼らにとって良いものになるかどうかは、誰も知らない。

















































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.74 )
日時: 2014/06/07 17:57
名前: masa

どうもmasaです。

クシャルダオラ。説明を聞いてすぐに出た感想は「死にたくないなら、会わない努力か逃げる努力をするしかない」ですね。
天候を操るって。真っ先に思いつくのは何処かの漫画の泥棒猫ですね。それか、悪○の実の能力者か。
まあでも、「撃破出来ればそれ相応の武器を入手できる」はメリットですよね?デメリットが大きすぎてと欲しくないですが。

しかし、シンさんはアニメ3期の設定を引き継いでるのか無茶な人ですよね。
「逃げるのが常識」を無視して戦ったんですから。しかも勝ったし。

シンさんのアドバイスを的確ですね。
以前テレビで「真の一流は何時如何なる時でも上を目指すもの。現状に満足する様じゃ普通だ」って言ってましたもんね。

流石のハヤテも簡単には回復しませんか。当然か。
で、ゆっきゅんは何処の作品でも「天然で何も出来ない。でも、人を引き付ける」ですね。勿論ここでも。
ハヤテが感じた「一番のキレ者は彼女」ってのは気のせいですね。原作でも「母親らしい雰囲気はごくたまに」ですからね。

さて、一行は無事に戻れたみたいですね。
ってかハヤテってグ○メ細胞を持ってるのか?再生機能に特化した万能細胞ですから、持ってると言えば異常な回復力も納得ですが。

ナギも目を覚ましたみたいですし、色々と起こりそうですね。



しかし気になるのは、ハヤテも持った疑問ですよね。
「絶対的な強者」のはずなのに傷をおっていたり片目がつぶれていたり。
訳ありの様子。
それは、明かされるのでしょうかね?



次回も楽しみにしてますね。

では。
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.75 )
日時: 2014/06/08 19:45
名前: 壊れたラジオ

感想どうも!
シンさんが戦った理由に関しては、後ほど彼の回想で書こうと思います。
セリフに関しても、そこで出るかも?

この世界のハヤテは、とにかくチートを目指すことにしています。
しかし、あくまでもこの世界は“モンスターハンター”です。
モンスターのほうが圧倒的優位であることは特に変更はありません。

ゆっきゅんに関しては、原作とは違う点を出すかもしれないので、そのあたりは最初に警告しておきます。

ハヤテの細胞に関しては……まあ、突然変異的な?
この世界のハヤテの生い立ちに関しても、回想を入れたいなぁと思っています。
この作品内ではオリキャラはほぼ出さないつもりですが、原作に登場したキャラクターはできるだけ全員何らかの形で出したいかなと思っています。


訳ありな理由は……今は言いません。
本編でのお楽しみです。
しばらくは明かすつもりはありませんが、そのうち明らかになるでしょう。


話は変わりますが……ネタはあるのに筆がゆっくりとしか進まない……
まさしくの○太君のごとく、ド○えもんに泣きつきたい気分です……

『うわ〜んドラ○も〜ん。筆が進まないよ〜(泣)』






では、次回をお楽しみに。


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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.76 )
日時: 2014/06/09 23:20
名前: 壊れたラジオ

『悩みの斜陽』


ナギにとって、激動の一日が終わった。
父の背中に背負われて、ユクモ村の門が見えてきた時、彼女は安堵から気を失ってしまった。





しかし安堵したのはナギだけではなかった。
ハヤテが気絶している間に、シンはキャンプの門番に連絡を頼んでいたらしい。

その門番から連絡を受け取ったのであろう、初穂とイスミが門の前でどこか臆したような顔でこちらを待っていた。



シンと紫子、そして背負われたナギの姿を見ると緊張が解けたのか、イスミはふっと気を失ってしまい、サクヤとチハルに慌てて肩を支えられる。

初穂も長く息を吐くと、ハヤテとヒナギクに向かって慰労の言葉をかけた。
ガノトトスを倒した後の、あの肩の荷の下りたような笑顔にハヤテたちも思わず破顔した。












そしてもう一人、初老の男性がいた。
あの豪勢な館に仕えていた男性だ。




彼はちらりとハヤテを一瞥したが、あの館で初めて会った時の値踏みをするような視線は今回は感じなかった。






その後彼は紫子の方を向くと、彼女をひとしきり叱りつけた。
しかし彼女に全く気にする素振りはないらしい。


その男性にへらへら笑いながら『シンちゃ〜ん!クラウスがいじめる〜(泣)』とか言いながらシンに抱き付き、その彼からもチョップされている。

たぶん、実際に気にかけるつもりなんか微塵もないんだろう。















あれ、とハヤテはつぶやいた。
門の前から見ただけなので詳しいことは分からないが、心なしか人が少ないように見える。



ただ単に早朝だからだろうかと思ったが、遠くに見える集会浴場や温泉街から立ち上る蒸気の様子からして、起きている人はいるのだろうし……














「……使用人のほとんどは、現在屋敷にて待機しております。大挙してきても、仕方がないでしょう……それに、三千院家としては、今回の事件はあまり公にして騒ぎにしたくないのです。」













ハヤテの考えていたことが分かったのか、その初老の男性(クラウスと言うらしい)がハヤテに言った。




確かに、それも道理だ。

朝っぱらからこんな目立つところに大勢の屈強な人間たちが来たならば、大騒ぎになる事は避けられまい。
それに、彼らや初穂たちが村人たちに何かを勧告して、家から出ないように言ったという所だろうか。



それにこの村の人間としても、強大なモンスターが出て人的被害が出たとなると、観光客の足も遠くなるだろう。
観光に力を入れている村としては、それはどうしても避けたいだろう。



そして、三千院家の直系の一人娘がこんな事件に巻き込まれたとなると、彼ら付き人や使用人の価値が問われるだろう。
それに今回の事を利用して彼女をモンスターに襲われて死亡するという筋書きを作って捏造し、莫大な財産を狙おうとする馬鹿者がいくらいるか知れない。





賢明な判断だとは思いつつ、彼女……彼らが使えるべき人物の本質的な価値はどうなるのか?とハヤテは疑問に思った。













「……お前がする心配ではないよ。こいつの事は、俺たちが一番分かっている。」










シンが、つぶやくように言った。
自分の考えていたことが次々と読まれ、ハヤテは動揺したが、シンは気にすることなく門をくぐって屋敷のほうへ向かう。


その横顔には、娘を慈しむ父親と言うよりは、何かを失うことを恐れるような、大事なものを見逃すまいとする鋭さがあった。



紫子が彼の腕に張り付いていることにも全く頓着しないで、石畳の街道を歩いてゆく。
そして彼女の様子にも、ハヤテは何かを感じていた。


















彼は、彼女は……一体どんな人生を送ってきたのだろうか。





隣で大きなため息が聞こえて振り向くと、クラウスがどこかあきれたような顔をしていた。















「……あいつは……もうそんな心配はしなくてもいいだろうに……」







彼は一言つぶやくように言ったが、結局それ以上何も言うことは無かった。
元々独り言のようなものだったのだから当然だろうが、ハヤテは眉をひそめた。

それに気づいたのか、クラウスは咳払いをした後、初穂とイスミをちらりと見た。
そしてハヤテに視線を戻す。




















「……ナギお嬢様の救出に手を貸してくださって、ありがとうございます。私はこのまま屋敷に戻ろうと思いますが……あなた方はどうされますか?」













彼はこちらを向くと、ハヤテたちに尋ねた。
彼はきっと、ここでこのまま別れるのを望んでいるだろう。
出来れば、家の失態を外にばらしたくはないという都合からだろう。





ハヤテもその気持ちは理解できないでもない。納得が出来たわけではなかったが。
様々な王族の無茶ぶりな依頼をこなしてきたし、それらの依頼はギルドを通して極秘裏にハヤテに回されていた。

ギルドは高い金を仲介料としてもらうことが出来、ハヤテも高い報奨金を得られるが、その比率は比べるまでもなくギルド側のほうが大きい。
言い方は悪いが、ギルドは彼らハンターを切り売りしているようなものなので、こういった依頼を表立って好んでいるハンターはあまりいない。









人々の生活を守るのが“モンスターハンター”だという持論を持つハヤテにとっては特に。

















「……村長殿の屋敷に向かおうと思います。今回のクエストの整理が必要ですから。今回の件に関しては、他言無用。これを全員に貫いていただくので、ご心配なく。」
「……そうですか。では、私はこれでお暇させていただきます。今回のサブターゲット報酬は、後からギルド経由で送らせていただきますので。では……」














ハヤテがそういうと、彼は安心したかのように息を一つ吐くと、こちらに社交辞令程度の礼をしたかと思うと、館の方角へと歩いて行った。















「ハヤテ君?」





ヒナギクが恐る恐ると言った様子で話しかけている。
よっぽど変な顔をしていたのか、彼女の表情がどこかぎこちない。

悟らせるわけにはいかない。
ハヤテは努めて笑顔を浮かべたが、上手く笑っている自身は自分にはなかった。
今回あった人たちのことを考えると、脳がゲシュタルト崩壊を起こしそうだった。



















「とりあえず、戻りましょうか。……今回は、少々厄介になってきちゃいましたから。」

















*                 *




















「『雷狼竜・ジンオウガ』……そんなまさか……」





初穂が息を吐き出すかのように口を開く。
屋敷にて昼食を振舞われたハヤテたちだったが、あんなことがあった後で食欲はあまり湧かない。
朝食としては、支給品ボックスに会った携帯食料を少し齧っただけだったが、それもそれ以上食べたら戻しそうだったのでやめた。

湯気を上げる汁物も、香ばしい香りを立てる焼き魚も、色合いの良い煮物も絵画を見ているようだった。














「……おとぎ話では、小さいころからよく読み聞かされていたの……この村の誕生にも大きく関わっているし……」






ハヤテの隣でヒナギクが声を上げる。
この村出身の彼女にとってはよく聞いた名前ではあったのだろうが、実物を見たのは初めてだったのだろう。
障子から入ってくる薄ぼんやりとした明かりが近くの木の葉を写し、彼女の顔にゆらゆらとした影を作っていた。
















「……ハヤテくん。たしか、ギルドのモンスター調査班へ、モンスターの生体報告書をいくつか送っていましたよね?その中に確かジンオウガに対しての記述があったのを見たのですが……」
「え!?そうなんかに〜ちゃん!!?」












あ、とチハルが思い出したかのように言う。
驚いた顔で、ヒナギクやサクヤ、イスミがこちらを見る。
その顔には幾分かの期待が含まれていたように見えた。
ハヤテはああ、そういえば、と言ったような顔をした。



















「よく知ってますね、チハルさん……確かにギルドに依頼されて、ハンター図鑑の一部を研究資料として提出しましたけど……」















研究資料、軽く数百枚の束を数週間に一度くらい送ってたから、膨大な量になるはずだし、そもそもそんなに簡単には読めないはずなんですけど、とハヤテは言う。






その疑問に対して、チハルは『禁則事項です』と返答し、それ以上は聞けなかった。
















「ところで、調査報告書を書けたってことは、ハヤテ君ジンオウガと戦ったことがあるの?」






ヒナギクの問いに、ハヤテはうなずいた。













「僕の故郷にも、数は少ないですが、生息していますよ。報告書も、そこのジンオウガについてですが、たぶんここのジンオウガにもその対処が通用するとは思います……でも……」
「……でも……?」









ハヤテの話を聞くうちに対処できるかもしれないという期待が彼女らから出てくるが、言いよどんだハヤテに対し、ヒナギクが怪訝そうな顔をする。
この部屋にいる他の人間も同様だ。














「僕の故郷の個体は差こそあれ、大体12メートルから、最大18メートルぐらいだったんですが……ここの個体は、どう考えても20メートルを超えてます……確実に今まで僕が戦ってきたジンオウガの最大個体を大きく上回る力を持っていると考えてよいでしょう……」











ハヤテがつぶやくように言った言葉に、彼女らは黙り込んでしまった。
殆どは疑問から、そしてチハルはハヤテの言う理由が分かったのか、手を顎に当てて考え込む。

あまりよく分かっていない何人かにチハルが説明しようとするが、ハヤテが静止する。
















「……モンスターの体格が大きいという事は、思っている以上に大変なことなんです。」






















ハヤテがあのジンオウガに対して、動きがぎこちなかった理由。
それはナギを救わねばならないという枷があったことも大きいが、そこにも大きな問題があった。







モンスターの体格が大きいという事は、それだけ多くの栄養を取り込んで巨大化したと考えてほぼ間違いない。
こういった個体は非常にタフであり、なかなかダメージを与えられない。
体格が大きい分、甲殻も分厚く、武器の通りも悪い。






そしてモンスターと言うのは、例外はあるが、生まれてから死ぬまで成長が止まる事はない。
つまり、歳経た個体ほど巨大化するという事である。
巨大な蛮力と歴戦を経た狡猾さ、鍛え抜かれた感覚。
そのどれをとってもトップクラスの個体だという事だ。










そして一番厄介なことは、ジンオウガの攻撃はほぼすべて肉弾戦。
つまりは、体の大きさが攻撃の当たりやすさ、リーチに直結する、という事だ。




ハヤテからそれを説明され、彼女たちは思案顔を浮かべた。

















「……近接武器……とりわけガードが出来ない武器だと確かにキツイわね……そもそも刀身が通るかどうか……」












ヒナギクが自分のわきに置いてある飛竜刀を見ながら言う。
どんなに良い業物でも、ジンオウガの分厚い甲殻に傷をつけられるかどうかは分からないし、火属性もハヤテの経験から、あまり効かないと判明している。

白銀の刀身に映る己の姿を見ながら、ヒナギクはため息をついた。おそらく、さえない顔をした自分が写っていたのだろう。












「大きいっちゅうことは……頭の位置も高いから、ハンマーはスタンが狙いにくいし……そもそもあの素早い動きじゃ攻撃を当てるのも難しいし……」













サクヤがつぶやく。
そもそもあのジンオウガは少なく見積もっても上位以上だろう。
最近ハンターになったばかりの彼女でははっきり言って力不足だが、彼女の言ったことは他のハンターにも当てはまる。






ハンマーや太刀は防御が出来ない。
また、相手はあのジンオウガ。素早さ、力強さではトップクラスであり、しかも近接戦を最も得意とする強敵だ。
しかも、今回の個体は幾多の激戦を生き抜いてきただろう、ジンオウガの中でもトップクラスの化け物である。


ハンマーや太刀、その他の近接戦闘のエキスパートなら分からないが、彼女たちでは荷が重すぎるのも確かではあった。


















ならハヤテ、チハルにアユムのガンナー勢はどうかと言えば、はっきり言ってこちらも少なからず苦戦は免れない。





アユムはガンナーとしては中の上。ジンオウガへの対処法も知らないため、危険すぎる。

チハルやハヤテも、弓でダメージをしっかりと与えたいのならば、少なからず近接戦をせねばならない。
ガンナーの防御力では心もとないのだ。おそらく、耐えられるのは一発が限界……一つのミスが命取りになる危険性がある。
















そして、根本的な問題として、ここにいるハヤテ以外は、『ジンオウガに対する効果的な対処法』を今まで知らなかったことだ。

一応知っているハヤテが教えることも出来ることは出来るが、付け焼刃で作戦を練って戦って勝てるかどうかは分からない……。














彼女らはそれきり黙り込んでしまった。















燭台の炎がゆらゆらと揺れる。
それにハヤテが気づいたころには、もう夕刻が近くなり、手元が暗くなってきたころだった。

障子から入ってくる光が、ゆっくりと力を失っていく。





長い間つけられていた炎が燃料を失い、小さな音を立てて消えたのはそれからすぐ後だった。












































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.77 )
日時: 2014/06/10 02:29
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうもタッキーです。


ジンオウガなんて楽勝、というのはやっぱりゲームの中だけですね。
ほんとにモンハンに出てくるハンターって化物ですよね。

そんなことより気になるのはゆっきゅんとシンさんの過去、それとあのジンオウガとの決着ですね。ヒナギクさんや歩はまだ上級だし、咲夜に至っては新米ハンター。このパーティーでハヤテも苦戦したジンオウガとどう戦うのか、非常に気になる展開です。それにナギが襲われた時のはやっぱり‘アレ’なんでしょうか?自分3rdを持ってないんでよく知らないんですけど。
あと三千院家の出方も気になるところですね。原作ではあまり関わらないシンさんやゆっきゅんがハヤテたちと絡むところは大好きです。あと、ナギがこれを堺にどう変わっていくのか、それともそのままなのか、とても楽しみです。
そういえば4の設定もでてきてますよね。バルバレとかラージャンとか。ということは狂竜化もあったりするんでしょうか?あれがでてくるとハヤテたちが本格的に危ない気が・・・
まぁいろいろ気になる展開があってこれからが楽しみです。

あ、ちなみに自分は全部の武器を使いますよ。適当に気分で選んでいる感じです。武器使用数を友達に見せたら浮気野郎と言われました。4のモンスターは同時でなければ全てソロで倒せるぐらいやり込んでて、Gが楽しみです。通信とかで会うことがあったらよろしくお願いします。名前分かんないけど。

次回も楽しみにしてますね。


それじゃ

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.78 )
日時: 2014/06/10 16:15
名前: 壊れたラジオ

感想どうもありがとうございます!

この話は、出来るだけゲームよりではなく、どちらかと言うと現実味を足したいかなと思っています。
モンスターは等しく危険。それが根本的な土台です。

ゆっきゅんとシンさんの過去は、そのうち書くことになるでしょう。
ヒナギク、アユム、サクヤに関しては、今回の狩りに関わってくるでしょうか……?

とりあえずネタバレしそうなのでここまでです。
ただ、ナギはこれからハヤテに大きく関わっていくことになるでしょうねぇ……話の内容からして。

シンさんとゆっきゅんのハヤテたちの絡みは、書きたかったものの一つなので、肯定的な意見があるととてもありがたいです……。

4の設定に気づかれたようですね。
しかし、しばらくはハヤテたち自身がモンスターハンター4の世界に関わることは無いでしょう。
しかしシンさんの回想では本格的な舞台になるでしょうし、いずれ関わらせたいなとも思っています。


全武器種コンプリートだと……?
私の場合、弓しか使えないから闘技場のコンプリートとかほぼ諦めているのに……
うらやましい限りです。


モンハン4では、キャラは“女”で「アルテミス」と言うハンターネームでやってます。
どこかで会えるといいですね。





では……








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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.79 )
日時: 2014/06/10 21:09
名前: 壊れたラジオ

『虚空の呼び声』





ハヤテは眠りが浅い性質であった。

幼少期からの鍛錬では、夜遅くまで訓練と勉学を行い、朝早くから体をほぐしたりするために数十キロのランニングを行っていた。




時間があれば今でも行うことはあったが、不規則な生活が主であることもあって、最近は非常にやる回数が週によってまちまちだ。

ゆっくり熟睡して疲れを取りたいところではあったが、昔からの習慣はそう簡単に直せるようなものではない。
二度寝が苦手だったこともあって、ハヤテはのそのそと布団から這い出た。









昨日のあの後、結局良い考えは出ることは無かった。
ハヤテたちはそれぞれの寝床に一度戻り、一応疲れを癒そうという事で話はまとめられることになった。





ハンターたるもの、体が資本だ。

ジンオウガも確かに問題ではあるが、ここ最近ハヤテたちは動きっぱなしだ。

体を崩して狩りが出来なくなることのほうが、将来を考えるとよっぽど大問題であるのだ。

ただ、休むことと眠れるかどうかは別問題ではあるが。










壁を両側に隔てた場所に、サクヤとチハルの部屋を取っている。
……彼女らは、眠れているだろうか。












ハヤテは目を閉じた。


外から来るわずかな風の音や、木々がこすれあう音。
水路を流れる水や、早く起きた人が洗濯をしているらしい音をハヤテは捉える。




そしてその感覚を一端遮断し、意識を全体へと広げていく。

ハンターになってから覚えたものであり、感覚を薄い膜のように広げることで周囲にあるものを素早くとらえることが出来る。





濁流の中に泳ぐ魚でも、暗夜に潜む夜行性の小動物であっても正確にとらえられるように鍛えられたハヤテの感覚。

この感覚はハンターとしては非常に便利なものであり、彼にとって天性の才能と言うべきものだ。
ただ、鍛えなければコントロールは不可能だったが。








二人は起きているらしい。
とりあえず横にはなっているが、と言う感じだろう。









力を持つハンターであるハヤテ自身も、眠る気がしなかったのだ。
初めて会ったあのようなモンスターを前にして……しかも、そのモンスターがこの村の周辺のどこかにいて、危機に陥っているのだから。












障子から入ってくる光はまだほとんどない。
夜明けはまだらしく、ハヤテは薄暗い部屋を見渡した。




普通の人なら真っ暗だと表現するだろうが、ハヤテには薄暗く見えているし、感覚が鋭いので、どこに何があるかは把握している。




燭台を探そうと思ったが、それすらも少し煩わしかった。









ハヤテは外に干していた手拭いを取りに向かった。
少しや風に当てられたそれは朝露に濡れてしっとりとしていたが、特に問題はないと判断して、それを素早くたたんでその部屋を出た。

























*             *



















温泉街に入ると、朝風呂に入る人も多いのか、ほぼすべての宿からは湯気が出ていた。
しかし、やはりまだ早いのか、雑踏には昼間や宵闇ほどの人手はない。



ガノトトスやアオアシラを倒して帰ってきた時は、歩くとレジストの棘が他人に当たらないかを気に病まなくてはならなかったほどだったが、今はここまで来るまでに歳を召した数人の村人とすれ違っただけであった。











しかし、ハヤテはこの町の温泉に入るつもりで出てきたわけではない。


温泉には“体力”と“スタミナ”を最大限に高める効果があるが、それはあくまでもこの村のハンターズギルドが管理している温泉のみ。


確かに湯源は同じではあり、これらを上昇させる効果も確かに見込めるし、湯治の効果もある。
だから人が遥々ここまでやってくるのだ。
しかし、それらの効果はギルドの集会浴場にあるものと比べると非常に微弱である。







その理由として、ギルドの温泉には効能を落とさないための様々な工夫がされているため、と言うのが挙げられる。

いくつかのモンスターの素材や鉱石を煉瓦と粘土を組み合わせるようにして、その素材の効果を最大限引き出すための工夫をしているのだ。

そして別の湯源からも湯を引いて、様々な効果を複合している特殊なものであり……いわばトレーニング施設のようなものだと考えてもよいだろう。








それにちょくちょく入っておけば、緊急時に素早く、万全の状態で対処することも見込めるだろう。

そういうわけで、ハヤテは集会所の中にある、集会浴場へと向かっていた。
















そういえば、とハヤテはふと考え込んだ。





集会浴場にある温泉は、昔は近辺に沸く温泉と大差がなかったそうだ。

ハヤテはこの村に来るのはこれで二回目だったが、最初に来た時にはすでに集会浴場の温泉とここいらの温泉では効果に歴然とした差があった。







なんとなく興味がわいて話を聞いてみると、その温泉開発はここ最近になって急激に進んだのだという。


10数年前までは、ギルドの集会浴場の温泉もそこらの温泉と特に大差はなかったというのだ。





しかしその当時の村人から聞くには、この目覚ましい発展にはこの村の一人の専属ハンターが関わっていたらしい。
とある令嬢の病を治すために温泉開発に協力して改良に改良を重ね、今現在の万能薬とも称される絶大な効果を持つ秘湯を完成させたのだという。















専属ハンター……ハヤテは自分が知っている限りのこの村に関係があるハンターを思い浮かべる。



ユキジだろうか?



その頃はまだ現役ハンターだったし、ユクモ村とも縁が深い。
ヒナギクから言われたこともあるし、彼女が優れたハンターだったのはハヤテも知っている。

しかし、彼女らからはそんな話はとんと聞かなかった。













令嬢に関して、イスミや初穂はここの出身なので、違うだろう。
わざわざ遠くから来た令嬢と言っているので、もともとここにいた彼女らには当てはまらない。














しかも妙なことに、話を聞いた村人からも、その専属ハンターについての情報はとんと入らなかったのだ。
どんな顔をしていたのか、どんな武器や装備を纏っていたのかも、何も。













情報が一切入ってこないハンターと言うのは別に珍しいことではない。

姿を隠してハンター業に身をやつす人もいるし、ハンター同士でお互いの腹の探り合いをしないことはお互いの暗黙の了解のようになっていることも多い。

ギルドもハンターの実力主義要素の強い組合なので、むやみにモンスターを狩るなどの問題行動をしない限りは不干渉を貫いていることもある。

ギルドカードの交換もハンター同士の自由意志であるし、そう簡単に複製できるものでもないので一応の機密性はある。






ギルドの役員や、ハンターからギルドが選抜するギルドナイト(ハンターを監視したり、通常では狩猟できない強力なモンスターを狩ることを仕事とする、ハンターの上流職種。ハンターに対する警邏の役割も持つ)でしか個人情報を閲覧することは出来ない。























しかし……専属ハンターであるからには、少なくとも村の人々にはある程度どんな人物なのか知られているはずなのだが、その情報が一切出てこないのだ。













そこまで考えたところで、ハヤテはふと昨日のことを思い出した。

とある令嬢という事は、もしかしたらあの少女なのだろうか?
しかしそうすると年齢の計算が合わないから、その母親であるあの女性だろうか。

そうするとそのハンターと言うのは……





ハヤテは首を振った。


その可能性もないではないが、そうすると様々な事が噛み合わない。

まず、なぜバルバレギルド出身のハンターがここの専属ハンターをしているのかという事だ。






ギルドは地域はある程度周囲のつながりはあっても、大陸の違うギルドとはあまりかかわりのない閉鎖的である集団だ。

横には浅く、縦には非常に深く絡み合っているとでもいえばいいのか、ハンターはその一つの歯車として組み込まれているという節が大きい。

しかも非常に精緻な機械のようなもので、歯車は一つとることも一苦労だ。
それも、強力で大きなメインの歯車は特に。



腕の立つハンターと言うのは、非常に強大な戦力となる。




ギルドや様々な王国の条例で、ハンター業に身をやつすものは、兵としての徴集はされないという決まりがある。

今現在、表立った戦争はこの世界では起こってはいないので、危険なハンター業よりもこちらの兵に入るものも多い。


しかし、仮に上位ハンターがもし武器を抜いて戦うようなことがあれば、一般兵団一部隊では歯が立たないと言われている。







そのため、ハンターたちは基本的に人に対して(他のハンターも含めて)武器を抜いてはいけないとギルドで決められている。
狩人としてのプライドと言う面も大きいが、彼ら自身の力を制御するためのリミッターともいえる。



ギルドや王国、平民と言う三角点に支えられた薄氷の上に立つような微妙な立場だから、ギルドも配慮が必要だったのだろうとハヤテは考えていた。













G級ハンターともなれば、その制約は一層重くなる。
ギルドは様々な特権を彼らに与え、どうにかこうにかそのギルドの管轄から離すまいとする。

周囲が危機に陥った時に、強いハンターがいなければ不安だというのも大きいが、また違う理由があると多くのハンターは踏んでいるだろう。




















理由としては、他への威嚇に他ならない。
G級ハンターは、一人いるだけで他のギルドに対しての威嚇になる。
結局としてそのギルド、引いてはそのギルドが所属する王国の発言力の強化にもつながる。






純粋な戦力としての見方もできるだろう。
侵略戦争を起こすことはよもやないだろうとは思ってはいるが、他国から攻められた時の最終兵器としての側面としても多いのかもしれない。






ギルドがモンスターの狩猟を制限している理由は、生体保護の理由もあるだろうが、ハンターが使う強力な武器や防具をそう簡単に生産させないためと言う側面も大きいかもしれない。






そういう観点から考えると、昨日の彼がここにいる理由が分からない。
実際にそれが起っているのだから何らかの理由があるのだと考えられるが、そのなんらかが分からない。




























“鋼龍殺し”









彼の本来の所属地域のみならず、この大陸でも非常に高い知名度を誇るハンターだ。

ここから東の果てに別の巨大な大陸があるのだが、そこに住むハヤテの兄からたまに来る手紙の文面からも、彼はやはりハンターの一つの到達点として認識をされていると聞いた。









そんなハンターである彼を、バルバレギルドがそう簡単に手放すだろうか。

機械に例えれば、機器の中枢の中枢。
ギルドにしてみれば、駆動部に位置する非常に重大なパーツであるはずだ。









それに、ハンターが別の大陸のハンターとなるための手続きは非常に煩雑でもある。
ギルドの力量関係を考えると、出来るだけ現時点の状況を維持するのが、ベストではないがベターではある。
ハンターの力量が上がれば上がるほど面倒だし、G級ハンターともなればそう簡単に大陸から出られない。








受け取るギルド側からすれば、垂涎ものの贈り物のように感じられるだろうか、送り出すギルド側からすると手痛い出費だ。




それを補うためにギルド同士の間で裏取引があるのかもしれない。
人間はどうしても損得で物事を考える節があるので、その可能性は否定できないだろう。













それに、彼がここの専属ハンターとなった経緯もよく分からない。
このようなギルドの重い制約を課されてまで、ここにいる理由が。


彼はハンターをやめたと言っていた。
もしかして、それを口実としたのだろうか。

ハンターを一度やめれば、その個人情報はギルド側に残るし、ある程度の制約をつけられるが、ほぼ平民として扱われる。
勿論海外渡航も可能である。

そして、別大陸で別の国籍をもらい、その国の人間となれば本来の国籍の国からはほぼフリーとなる。
干渉をお互いにしない国の条例の裏をかいたようなやり方だが、こうした上でもう一度ハンターになると……?

個人情報的には、その国出身の別のハンターとして登録されるし、お互いに関わりはないも同然だから、強い制約が課されることもない。














しかし、やり方としては出来ないこともないが、非常に難しいだろう。
リスクもバカにできないから、個人では出来るとは思えないが……。


いや、とハヤテは思い直す。
彼の後ろには、あの家がバックボーンとしてある。
それを利用した?

しかし何のために?
そもそも、彼がこちらに来たのは、時系列を考えるとそれよりも前のはずだ。
それを考えると、やはり噛み合わない……。














「うわっ!?」





少しうつむき加減になってしまっていたせいで、前がおろそかになってしまっていた。
自分より上背のある相手にぶつかってしまったらしく、ハヤテは後ろに転んでしまう。















「おい、大丈夫か?」




上から降ってきた声に、ハヤテは顔を向けた。
その人は自分の腕をつかんで支えてくれていたが、ハヤテはびくりと体が震えたのを感じた。














「シ……シンさん……」
「どうした……まだ昨日の傷が痛むのか。」




彼は特に意に介したことは無いというように話しかけてきた。
傷はもう気にならない程度にまで痛みは引いていたが、ハヤテは思わずうなずいてしまう。

彼の雰囲気に呑まれたのかもしれない。
どこまでも人の心の奥底を見透かし、その上で何のこともないというような表情で話す彼に。

一応ぶつかってしまったことを詫びると、シンは気にするなと言うように手を振った。
しかし、こんな朝早くに彼は何をしているのだろう?
そういうことを聞いてしまうと、それならお前は?と聞かれると痛い。
今考えていたことは、他でもない彼らの事だったのだから。














「考え事をするのはいいが、周りもよく見ろ。見えるものも見えなくなる。」




シンはそう言うと、ハヤテを離した。
昨日と同じ、気を使わせないのに、どこか読めない表情でちらりと集会浴場の方を見た。
















「……俺は、お前たちを手伝えない。」







ハヤテはぎくりとした。
突然言われたことに驚いたという事もあるが、自分が言おうとしたことを先読みされたことにもっと驚いた。












「お前が俺に対して、不信感を持つのは分かる。……が、俺はもうハンターをやめたんだ。お前が思っているような、複雑な事情など、ないよ。」
「……」




わきの水路を、温泉の排水が流れていく音が聞こえる。
その音を聞きながら、それきり押し黙ってしまったシンを見る。













「……しかし、このままではこの村が……」
「……そのためにお前や、他のハンターがいるのだろう?」




正論にぐうの音も出ない。
ハンターをやめたと本人が言うのならば、他のハンターは腹を探ることは出来ても、クエストの強要は出来はしない。
そういった事は“現役の”ハンターの仕事であるからだ。






















「“蒼火竜”……か」





どこか揶揄するかのような表情でシンがつぶやいた。









「ああ、いや……娘がよく読んでいた雑誌に頻繁に乗っていた名前だったからな。その話に付き合せられているうちに、覚えてしまっただけだ。」




シンはそう言って、ハヤテをもう一度見つめた。
クラウスのような、値踏みをする視線ではない。
しかし、それよりもはるかに大きな威圧のようなものが、そこにある気がした。















「……モンスターに対しても“慈愛”の心を忘れない、現在でも稀に見るハンター……知っているか?これが世間の持つ、お前のイメージだ。」
「……」
「まあ、どう受け取るかはお前の自由だ。世間の世論を、お前が気にする道理はないよ。」







彼は遠くを見つめた。
しばらくぼうっとしていたが、不意に口を開く。

















「……俺は、昔お前のような男に出会ったことがあるんだ。モンスターと、人への愛情に満ちていた、そんな奴に。」

彼が続ける。











「……しかし、俺には無理だった。何も出来なかった……人を救うことも、モンスターを理解することも、どちらも。」












だからハンターをやめたんだ。
本当に何もできなくなる前に、自分から。















ハヤテは彼の話の内容が掴めず、キョトンとした顔をしていたらしく、シンが苦笑した。


















「いや、勘違いするな。お前を笑ったわけじゃない。今日の俺はどうかしているようだ。話すべきでは無いようなことを、お前にずいぶんと話してしまっている。これでお相子という事でどうだろう?」




シンがそういうと、ハヤテは図らずも苦笑してしまった。
心のどこかで、彼に心を読まれても大丈夫だと思っていたのかもしれない。
それを他人に口外せず、己の心の中にとどめ置くような人間だからだろうか。















「……あまり、お前には時間があるまい。早く用事を果たしたほうがいいだろう。」






シンのセリフに、ハヤテは一瞬首をかしげたが、すぐに気づく。
ジンオウガは待ってくれない。
早く対処しなければ、きっと被害はガノトトスやアオアシラの比ではなくなるからだ。





ハヤテは一礼をすると、走り出した。
まだ聞きたいことはあったが、今の優先順位を考えるとそうは悠長にしていられない。
彼は足早に、丘の上にあるそこを目指して足早に去っていく。




シンは、その後姿を少しの間見つめていた。










*            *

















(時間がない……か)




シンはぼうっと頭の中で自分が彼に言った言葉の一つ一つを反芻していた。

何故、俺はあんなことを言ったのだろうか。
彼ほど聡いハンターならきっと自分の事情についても、今は分からなくとも近いうちに、かなり近似したところまで暴いてしまうかもしれない。

決して許されざることをしているわけではないし、彼の事だからそれを公にすることもないだろう。
ギルドも、自分たちが手に入れた駒をむざむざ捨てようとすることは無い。



それでも、自分が今いる場所を本当に守りたいのならば、あんなことを言う必要などない。
それならば………何故?










(……まさか)


シンはふっと笑った。
















(あいつに、何か自分に近しいものを、感じ取ったから?)







彼の姿を、目を見た時、図らずも何か親近感を持った自分がいたのは、何故だろう。

雑誌で見せられ、彼の評判を嬉しげに教えてくる娘の話を。
その彼の偉業に関して、熱のこもった瞳で、彼が自分であるかのように演説する姿を見た時には、自分とはまったく別個の種類の人間だと思ったのに。



そして、その少年に、昔に会ったその輝かしい彼と、重ねていたのだろうか。
自分に対して夢を語り、その優しい目と表情の中に、強い激情を秘めていた、あの少年に。

















(……お前が見たら、どう言うだろうな。)







かつて自分のもとで、自分と共に狩場を駆けた、自分がなりたくてもなれなかったものを持っていた彼に、シンは語り掛けた。











*            *















ハヤテは旅館に戻ると、装備の点検を始めた。

昨日にジンオウガの放電を受け、少し傷ついていたリオソウルZシリーズだが、おそらく気にするほどではない。






防具には耐性と言うものがある。
モンスターの素材を使った武器に属性があるのは、そのモンスターが使用する属性の幾つかがモンスターの体組織全てに浸透しているためだ。
また、鉱石のいくつかや虫にも属性が宿っていることもある。


そして、それはそれらの素材で作った防具にも同じことがいえる。
そのモンスターの素材に宿る属性があり、そして苦手としている属性も含まれている。
防具はそれを顕著に反映するのだ。


これをうまく考えることもハンターとしては当然の事なのだが、大連続狩猟クエストや乱入クエストでは、どうしても耐性を考えることは大変となってくる。
















例えば、火属性を得意とするリオレウスと、雷属性を得意とするラギアクルスの二頭クエストだった場合を考えてみよう。




リオレウスは火に強く、雷に弱い。
逆にラギアクルスは雷に強く、火に弱い。




リオレウスに対して有効な装備を着ていくとラギアクルスに弱くなり、逆ならそれもしかりだ。




こういった場合、そんな簡単に装備を変えられないため、どちらか自らが苦手としている方に強い耐性を持つ装備を着ていくのがセオリーだ。


















しかし、現在ハヤテはリオソウルZシリーズしかない。

家に戻ればいくつかの装備を用意できるかもしれないが、今は時間がない。
ジンオウガはいつ、この村に牙を剥くかわからない……





この間、<琥牙弓アルヴァランガ>を届けてもらったが、それは特例。

それに、砂原と孤島は非常に地理的に近いため、同時にギルドの配達者とスタートすれば、途中の航路で落ち合えたので可能になっただけであって、ユクモ村に武器よりもはるかに大きく、嵩張る防具を輸送するのは非常に骨だろう。






それに、防具は非常に貴重なものだ。
それを着ければ、並の人間よりもはるかに高い耐久力を得られるのだ。
どこかの国の軍部が、ハンターたちの防具を虎視眈々と狙っていると聞く。

それを渡してしまえば新たな危険となるだろうから、それは避けたかった。





















ただ、リオソウルZシリーズはお世辞にも雷耐性が高いとは言えない。
むしろ、リオレウス亜種は雷属性を弱点の一つとしているので、ジンオウガ戦には不向きだろう。






しかし、ジンオウガが緊急クエスト化する可能性のある今、ハヤテはここを離れられなかった。






ハヤテはしばらく悩んでいたが、眉をキッと結んだ。
それを体にまとい、弓を背中に引っさげて矢筒を確認すると、キャップを横脇に抱えて部屋を出た。













「あ、ハヤテくん」












部屋を出ると、チハルが同じく隣の部屋から姿を現す。



ブナハXシリーズの手入れをしていたらしく、インナーをつけているだけだった。
羞恥心のようなものが一切ないらしい。

自分も異性なのだけれど……と思ったが、きっと自分は異性と見られてすらいないのだろうと考えなおした。
















「今から、また村長さんのもとへ?」











チハルが首を傾げた。
今の彼女は眼鏡をかけている。
後ろに纏められている、少し短めの髪が揺れた。






その姿は、どこかアカデミーにいたころの彼女を彷彿とさせた。
幼い中にも、鋭いものが見えていたあの頃の姿を、ハヤテは少し思い出していた。
その頃の鋭さは、今でこそ少し垣間見える事はあったが、ほとんどなくなっていた。



ハヤテがうなずくと、チハルはそうですかと言った。
味も素っ気もないセリフに、ハヤテは苦笑した。
















「あ、ごめんなさい……昔は、こんな感じだったなぁって思って。」













こちらを見つめる彼女にそういうと、チハルはばつの悪そうな表情になった。
あまりこれを言うと、あまり人に対して怒る事のないチハルがへそを曲げてしまうのでこれ以上言うつもりはなかった。





過去の事は、彼女にとっても思い出したくないことも含まれているだろうからだ。





それは、彼女がハンターになった理由にも直結する。
過去の記憶の中に、しまったものがそこにある。

彼女の故郷であった、あるモンスターとの邂逅が……。

















「……僕は、あなたのハンターとしての意識を、否定するつもりはありません。でも……」
「分かっていますよ。」














チハルは肩をすくめた。
そんなこと分かりきっている、と言う表情で笑う。


昔からそうだろうと。
今更、彼がそれを変えることがないと分かっているのだ。






















ジンオウガ。

村を危機に陥れている元凶であるが、モンスターにとっては生息地の場所に村があっただけ。
ことさら、人間に恨みがあるわけではないと彼女も分かっている。



昔の彼女だったならばどうかは分からないが、今の彼女にはそれはそれとして置いておけるだけの心の余裕があった。


















「……ハヤテくん?」














何かを考え込んでいるような表情のハヤテに、チハルは眉をひそめた。
ハヤテが考え込むという事はよくあることだが、それとは違うような感覚が胸の中に引っかかった。



彼女が自分の顔を覗き込んでいることにハヤテははっとして、少し困ったように笑った。
















「……いえ、ジンオウガがどう動くか分からないですから……少し不安なんです。」













これは本心だろう、とチハルは思った。
眉は動いていないし、呼吸や体温にも変化は見られなかった。(チハルはハヤテに対してのみ、彼のような能力を持つ)

それに彼のいう事は道理ではある。
このままの状態では、いつ被害者が出るか分からない。
だいたい、ナギですら絶体絶命だったぐらいで、助かったのが奇跡だと言えるだろう。

ジンオウガの影響で陸路にまた何かあれば、物資が届かないのをはじめとして、観光客の足を遠のかせることも考えられるし……。

それに水路があるとはいえ、そこを通るのはさらに危険である可能性もある。












しかし、チハルの心に引っかかっているのはそれではなかった。
ハヤテは、他の人よりも鋭い感覚を持つ。
それが、いつも良い結果をもたらすとは限らないのだ。

それに生来の優しさから、彼が何かを感じた時、それを他の人たちの心配にならないように自分の心の奥底に押し隠す癖がある。




アカデミーのときからそうだったため、彼女はそれを知っていた。




















「……難儀ですね……」












ハヤテが薄く笑う。
チハルが呆れたように肩をすくめると、ハヤテは申し訳なさそうな顔をした。












どのくらいそうしていたかは分からないが、それほど時間は経っていなかったらしく、今の話を聞いていたらしいサクヤが部屋から出てきた。


……やはりインナーのみの姿で。


まったくどいつもこいつも……とハヤテはため息をついた。









































「……お取込み中すみません。蒼火竜殿……」
















廊下の端、階段のある方向から、事務的な響きを秘めた声が聞こえる。
そこには、ナギと同じくらいの年頃の少女がいた。

少女にしては少し低い声が、広めの廊下に響く。















「……に〜ちゃん……ま〜た女のファンかいな……」










サクヤの低い声が響く。
チハルからも同じような視線を感じ、ハヤテは冷たい汗が流れたのを感じた。

しかし、彼女はファンではないのだ。
彼女がいたことには、ハヤテは別の意味で少し驚いていた。




















「シオンさん……どうしてここに?」
「……本当は、分かっているのではないですか?」













そう呼ばれた少女がハヤテを見て、首をかしげる。
ハヤテははっとしたような顔をした。


















「……どうやら、忘れていただけのようですね……キリカさんは怒っていましたよ?蒼火竜はどうしているのだ、と……なだめるの大変だったんですよ?」













あまり表情は変化せず、どこまでも事務的に淡々と伝えていく。
が、どこか恨みがましいものがあるようで、声音にそれが現れている。









一方、ハヤテは『困ったなあ……』と言った表情を浮かべている。
どうやら、彼らに対する何らかの事情があるらしいが、チハルとサクヤは疑問符を浮かべた。



それが分かったのか、シオンはため息をつきながら胸ポケットから何かを取り出した。











それは、一枚の封書であった。














ハヤテはそれを受け取ると、油紙で作られた封書を破ると、中から折りたたまれた手紙を取り出す。
結構な量が書いてあるだろうなと、彼女……キリカの性格を知っているシオンとハヤテは思っていたのだが、意外と折りたたまれていない事に気づいた。


しかし、それはつまり、単純明快なことで用事が済むという事を表している。








































手紙の内容は、こうだった。










































(前略)

……………………

君のそちらへの滞在期間の限界は、すでに一週間過ぎている。
タンジアギルドのG級ハンターとしては、これ以上の延長は認められない。
至急戻られたし。

……………………

追伸
ユクモ村の有名な甘味である、“ワガシ”なるものを、シオンに入手させることを伝えておいてくれると嬉しい。

親愛なる、タンジアギルド・ギルドマスター          キリカ















































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.80 )
日時: 2014/06/10 21:54
名前: masa

どうもmasaです。

成程。ハヤテの異常に短い睡眠時間はここでも健在なのですか。
確かにハンターは生きてなんぼの世界ですもんね。死んだり、戦いの最中に体調を崩しては意味無いですもんね。

ってかハヤテって「見聞色の覇気」が使えたんですね。あれは鍛えれば正確に状況を読める物ですから、ハヤテがやってたのはまさにそれですね。

成程。この世界の温泉は現実世界以上の高い効能があるんですね。って事は、ハンターじゃない人も来るのかな?

で、温泉開発を進めた人は謎のままの様で。
ハヤテの推論通りなのであれば、シンさんじゃないですよね。

ハヤテとシンさん。似ている部分は多々ありますよね。
シンさんが「自分に似ている」と思うのは無理無いかも。

ハヤテが装備を万全の状態にするのは当然ですよね。ジンオウガは「追い払った」訳で、「死んだ」訳ではありませんから。

ハンターの武器を奪おうとする愚か者が居るのですか。まあ、どんな物にでも「正しく使おうとする者」と「悪用しようとする者」に分かれますからね。
強力なモンスターを狩れる武器は同時に「強力な殺し合いの道具」にもなりますもんね。

チハルさんは大胆の様で。ってか「意識してない」では無く、「誘惑している」とも取れる気が。まあ、後者でしょうね。
で、チハルさんはジンオウガと何かあったようですね。まあ、その何かは「襲われた」で合ってるでしょうけど。
ってか咲夜に関しては「ハヤテを誘惑するチャンスかもしれない」と思って薄着だったのかも。

で、色々と切羽つまってる状態なのに、「強制帰還命令」か。無視したら厄介だし、かといってジンオウガもほっとけないし。難しい決断ですね。


さて、新たな謎「温泉開発を進めた人」が出てきましたね。これは明かされる時が来るのかな?
それと、ハヤテが「戻る」のか、「無理を承知で残る」のどちらを選択するのかも気になります。



次回も楽しみにしてますね。
では。

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.81 )
日時: 2014/06/10 23:45
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうも、タッキーです。

それでは感想を・・・


インナー姿のヒナさんが出てなぁああああああい!!!!

というのは半分冗談で、少しだけイクサ兄さんが出てきましたね。彼もやっぱりハンターなんでしょうか?情報を送っていることからギルドの役員だったり。もし彼がハンターだったら凄まじいでしょうね。原作でキング・ミダスもボコボコにしてたし・・・

チハルの過去も気になりますが、やっぱり一番はシンさんでも憧れていたという‘彼’ですね。一体どのキャラなのかとても楽しみです。

ハンターの装備を狙っている輩がいるとのことですが、果たしてモンスター用の武器を使いこなせるんでしょうか?なんか逆に大怪我をしそうで心配です。

そして当然出てきたシオンとキリカさん。相変わらず甘い物が好きなんですね。キリカさんがギルドマスターということはアーたんは一体・・・
まぁそれは置いといて、SSでもこのコンビを見たのは結構久しぶりだと思います。まぁシオンは原作では1コマしか出てませんし・・・
こんな風に原作にあまり関わらないキャラを出してくれているのでなんだか懐かしかったり、新鮮だったりでとても面白いと思っています。
この後のハヤテの決断が気になりますね。

次回も楽しみにしていますよ〜


あ、それから自分4では男で「jita」というハンターネームです。剣士ではゴルルナ、ユクモ、ガンナーではエスカワ、ラギアが主です。まぁコロコロ変えるヤツがいたらそいつです。会えるといいですね。

それでは
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.82 )
日時: 2014/06/11 18:25
名前: 壊れたラジオ

感想どうもありがとうございます!

masaさん
ハヤテの睡眠時間が短いのは、それが彼の特徴と言ってもいいですからねぇ……
とはいえ、原作とはベクトルがまた違う理由からですし、他のハンターもハヤテ程ではないものの、こんなもんです。

見聞色の覇気……に近しいものですが、すさまじく集中しないと使えませんし、簡単に途切れてしまうという弱点があります。
ハヤテはそれを強靭な精神力で支えているので、いわば天性の才能。
この世界で使える人は非常にわずかですね。
シンさんは使えます。この後から、ハヤテと同レベルか、それ以上のキャラも出るので使える人も出てくるかもしれませんね。

そしてあくまでも高い効能があるのは、ギルドのもののみ。
しかし、その温泉に入れるのはハンターか、特別な許可を得た人のみ。
周りの人はそれに気づいておらず、微弱な効果を持つ他の温泉を秘湯と思って入りに来ています。
曰く、バーナム効果と言うやつですが、一応ここの温泉の効果は現実世界の温泉に比べれば非常に高い効果を持つので、だましているわけではありません。
ギルドの温泉が異常に効能が高いだけです。

温泉の開発を進めた人ですが……予想以上に混み合っていますが、実はそう難しく考える必要はないんですがね。
実は答えは本文の中に入っています。

装備に関しては、定期的な補修が必要と言うどうでもいい裏設定付きです(笑)。
まあ、苦手な属性という事が大きいですが。

人間同士の醜い面もこの話のテーマとして入れたいなと思っています。
ただ純粋に生きていて、時折甚大な被害を出すモンスターと、どこまでも欲深い人間。
どちらが悪いでしょうか?

チハルさんに関しては、もうここまで来たらとことん暴走させようと思います。
原作の彼女のファンの人には申し訳ないですが、ここではもうそういう方向性という事で。

チハルさんは、過去にジンオウガと何かあったわけではないです。
回想で書こうと思っていますが、幼少期の事とアカデミーに入った頃の事に関連してきます。どうぞお楽しみに……

強制送還命令ですが、私はどうしてもハヤテを切羽詰まった状況に追いやるのが好きなようです。
今回のジンオウガにしても、ディアブロスにしろ……。

ハヤテの決断は……?

では……







タッキーさん
インナー姿のヒナさんについては……需要無いかなって思いまして(笑)
……あ、ヒナさんごめんなさ…殴らないで!!!

と言うのも冗談で、ヒナギクはこの旅館にいなかったので、出せなかっただけです。
期待されていたのなら、すみませんでした。

イクサ兄さんについては、やはり後々を待ってもらわないといけないでしょうね。
ただ彼の性格して、やはり普通の登場にはならないでしょう。

チハルの過去はそのうち書くつもりです。
とはいっても私は筆が遅いのでいつになるやら……。

シンさんが憧れていた、と言うよりは自分に持ってないものを持っていた年下の人間に対する羨望ですね、これは。
一体どのキャラなのか……はお楽しみです。

私はこの作品全般として、ハヤテのごとく原作に登場したキャラクターは何らかの形でほぼ全員出そうと思っています。
時折原作と噛み合ってない!と思われることがあっても、そういうものだから……と軽く流していただけることを祈っています。
まあ、そんなに大きく改変することはもうチハルさんでやったので、これ以上はしない様にしたいですが……

武器ではなく、誰でも使用できる防具のほうが狙われやすいです。
着るだけでいいんですから。

シオンさんとキリカさん。
やっぱりなんとなくこういう役職にはこの二人かなと思いました。
と言うか、書いていてハヤテに連絡してくれる人はだれがいいかなと考えた結果、なんとなく浮かんだのがシオンさんでした。
→あ、じゃあキリカさんギルドマスターでどうだろう?
→思った以上に違和感なかったので、これで行こう!と言う、何とも行き当たりばったりなやり方で決まりました。

アテネに関しては……そのうち分かると思いますよ。






では。








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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.83 )
日時: 2014/06/12 20:54
名前: 壊れたラジオ

『帰還命令』














「一体どういう事や!?今のこの村の状況分かって言うとんのかそれ!」









サクヤが大声でシオンに詰め寄る。
シオンは全く表情を変えないどころか、少しため息をついただけだった。
サクヤはチハルに援護を頼もうとしたが、チハルは困ったような顔をしただけだった。



無理もない。
ギルドマスターからの直々に使者が来ること等、よっぽどのことがない限り無いのだから。
そして、どうしてそんな命令が出たのかも知っているから、言葉を返すことが出来ないのだ。



















「……蒼火竜殿は、あくまでもタンジアギルドに籍を置くハンター。ここへは、そこのハンターでは対処できない事情があって派遣されたにすぎません。これ以上ここに滞在するのは、双方のギルドにとっては好ましくないですから。」











シオンがいう事はもっともだった。


ハヤテは、違うことなき現役のG級ハンターであり、彼自身も世界最高のハンターの一角であり、タンジアのギルドの要である。

つまりは、シンについて考えていたことが、そっくりそのまま自分に返ってくるわけだ。








一応、同じこの大陸にあるユクモ村のギルドではあるが、それ以上のつながりは薄いと言えるだろう。





ハヤテがこれ以上ここに滞在することは、タンジア側のギルドからすれば、危惧すべき状況であった。
上手くすればハヤテを取り込み、発言力の強化につなげられるという見方も出来るためだ。






















それに、防衛上の問題もある。





強力なハンターであるハヤテが抜けた穴、と言うのは想像を絶するほど大きいのだ。

現に今、タンジアの港にはハヤテよりも一足先に帰ったソウヤと、凍土地方に赴いたままだった<黒轟竜>こと、コテツがいる。










しかし、タンジアは様々な狩猟地域から近いうえに、海にも面している。
特に海上拠点は海洋生息モンスターの被害にとりわけ遭いやすい。

他国からの防衛の拠点をモンスターによってダウンさせられれば、何が起こるかわからないし、そのタンジアの経済の大部分を占める貿易がストップしてしまえば、大きな損害だ。






その港自体がモンスターに襲われれば、巨大な港町には人が多く住んでいるから、大きな被害は避けられないだろう。












今現在、タンジアのギルドは人手不足だ。
いかにG級ハンターの二人がいても、その体は一つであり、どうしても限界がある。
ハヤテが抜けた穴を、実に十数人の上位ハンターが埋めているが、どうしてもハヤテの力量には届かなかった。





ハヤテもそれが分かっているため、強くは出られない。
迷惑をかけているのは自分だし、無理を言っているのは自分なのだ。
旅費もギルドから捻出してもらっているし、キリカ以外には表情が薄いシオンがこんなに不機嫌そうな表情をあらわにする時点で、相当あちらでは対処に困っているというのが容易に想像できる。







あの状態のキリカに絡まれるのは並大抵の苦労ではないよなとハヤテは思うが、どうしても今はここを動こうとは思えなかった。




シオンもそのことは理解してはいたのだろう。




複雑そうな表情をしているが、きっとこののっぴきならない事情についてもある程度聞かされていたのかもしれない。

しかし、自分たちのギルドとは……ありていに言ってしまえば、ここはユクモギルドの管轄地域であり、タンジアギルドとは根本的には関連がない。







つまり、本来ならばわざわざタンジアの宝刀であるG級ハンターを貸す謂れは無いのである。
これが原因で、パイプが出来たと思われてハヤテがタンジアから頻繁に駆り出されるようなことが万一にでもあれば、ギルドにとっては事だ。







それに、シオンはもうあの状態のキリカに構うのは嫌なんだろう。
見たことがあるハヤテとしても、確かにそれは好き好んで関わりたいものではないだろう。

















「……しかし……」





ハヤテがつぶやくように発した言葉に、シオンだけでなく、チハルやサクヤが彼の顔を見た。




彼は普段は、狩場で見るような表情をすることが少ない。
それはハンターとしてのけじめでもあるし、適度なリラックスでもある。





どんな人間でも集中し続けることは出来ない。
人が集中時間を本当に続けられるのは、たった7秒と言われている。
そうすると、ハヤテのあの周囲を知覚する感覚は、7秒しか使えないことになる。


しかし、ハヤテはその何百倍も、何千倍も集中を続けることが出来るのだ。
それは普段は力を適度に抜いていることが挙げられる。
力を抜くとき抜き、込めるときにだけ徹底的に込める。

















これが、ハヤテを最強の狩人の一人としている要因である。

















ハヤテを狩場では見たことがないシオン。
しかし、その表情にはわずかな変化が見られる。
……とはいっても、眉が片方少し上がっただけであったが。

















「……今、僕がここを動けば……対処できるハンターは少ないと思います。」
「……なぜ?ここには専属ハンターがいらっしゃるではないですか。」













ハヤテのセリフに、シオンが首をかしげる。
確かにここには、ヒナギクやアユムと言うれっきとしたハンターがいる。







その実力を、個人情報である程度閲覧しているであろう彼女は知っているはずだ。
そもそも、ここのハンターでは、G級個体のあのガノトトスに対応できないだろうと踏み、ハヤテをここに送り込むのを許可したのは、彼女とキリカであるからだ。









しかし、今回の個体についてはまだ情報が少ない。
そもそもクエストにすらなっていないのだ。理由もないのに、わざわざタンジアの防衛面を削ってまで、ここの村に肩入れする理由はないのだ。


彼女の言い分も、分からないでもない。
しかし、ハヤテとしては、ここで引き下がるわけにはいかない。






















「……あなたの言い分は、分かりました……ですが、僕はまだ戻れません。」





シオンが眉をひそめる。
ギルドの最上職種である、ギルドマスターの命令に逆らってくるとは思わなかったからだろう。






















「……ギルドマスターからの直接の命令です。あなたが今抜けることは、ギルドの面子に関わるのです。そのあたりをご理解していますか?」











少し棘が混じった声音に、今度はハヤテが眉をひそめた。
















「ギルドの面子と、民間人の安全。天秤にかければ、どちらが大事かは量るまでもないでしょう。ハンターは、一般の人間をモンスターから守り、自然との一定の距離を保つことが本質のはず。それを掲げ、民間に浸透させているのがギルドの構造のはずですよ。」





ハヤテがそういうと、シオンの表情が厳しくなり、もともと低かった声に少々のドスが入り、人をおびえさせられるような声音になる。

サクヤがびくりと肩を震わせるが、ハヤテは引き下がらずに、シオンの目を強い眼光で見つめる。




















「……いくらG級ハンターのあなたとはいえ、幾らかの公共の福祉はわきまえているはず。あなたの行動次第では、こちらのギルドがこうむる被害も少ないとは言えません。」
「……それは分かっています。しかし僕がここから離れれば、もし万が一のことがあった場合、本格的に取り返しのつかない事態を引き起こす可能性も捨てられません。」
「……あなたが、これ以上その話にこだわるのならば、こちらはあなたの身柄を保証できなくなる可能性があります……それでもかまわないと?」








やられた、とチハルとサクヤは思った。
ギルドとのつながりで言えば、ギルドマスターと直接つながりのあるシオンのほうが遥かに有利だ。





こうなってしまえば、さすがのハヤテでも抵抗のしようがない。
いくら力があっても、その特権を与えているのはギルド。
力関係では、ハヤテもきっとあらがえるものではないだろう。



















「……はい。」







しかし、ハヤテの口から出てきたのは、彼女らの考えとはるかに異なったものだった。
シオンすら、目を少し見開いていたのだから。


















「……本気ですか?あなたは、この全く縁もゆかりもないこの地のために、こちらのギルドに楯突くと?」





シオンの揶揄するような声に、ハヤテはまたうなずいた。


















「縁やゆかりが、この村や、町を守りたいと思わせているわけではありません。村人が危機に陥った時に、それを救うのがハンターである、と自分なりに答えを出しただけです。」





ハヤテは大きく息を吸い込むと、シオンをじっと見据えていった。
















「……ギルドマスターにお伝えください。このことで罰せられるのならば、僕はその罰を受けようと思います。もしも……仮にモンスターハンターとしての資格を剥奪されることがあっても、それも覚悟の上だと。」





















ハヤテがそう言い切ると、シオンは黙り込んでしまった。
彼の瞳には、ごまかしや嘘は一切見られなかった。
強い意志の籠った瞳に、シオンはしばし考え込むような様子を見せた。


さわさわと揺れる木の葉の音だけが外から響いてきた。






シオンがゆっくりとため息をつくと、ハヤテたちは少し身構えた。
……が、その心配はある意味無用だった。

シオンは、あきれたような顔をしたまま笑っていたからだ。


















「……ま、“ハヤテ君”がそう言うのは分かっていましたよ。」






チハルやサクヤはほっとしたような表情をしていたが、ハヤテは彼女の表情の変化に驚いていた。

表情のほとんどない彼女が、ここまで柔らかい笑顔を浮かべることが出来るとは思わなかったからだ。





















「シオン……さん?」






ハヤテが怪訝そうに問うと、シオンはまた小さくため息をつくと言う。














「キリカさんも、ハヤテ君ならそう言うだろうとおっしゃっていました。もしギルドの力を盾にして脅しても、絶対に屈しないだろう……と。」









キリカは、初めから自分がどういうかが分かっていたらしい。
あんな無茶苦茶な人間だというのに……ハヤテはそれがなんとなくおかしかったのと、安堵から少し苦笑した。


ですが、とシオンが咳払いをしたことにハヤテはびくりと体を震わせ、思わず背筋を正してしまう。

















「先ほど言った通り、タンジアのギルドが大変であるのは事実。すぐに帰ってきてもらわねばならないという状況に、変わりはありません。」
「分かっています……ですが……」
「だから、折衷案を持参した次第です。」






シオンの言葉に、ハヤテは首をかしげるが、すぐに表情を引き締めた。
と言うか、最初からこちらの言葉を予想していたのなら、そういう案は最初から選択肢の上に入れていたはずだ。

シオンが一枚の書類を取り出した。
一瞬何かと思ったが、その答えはすぐに出る。

ハンターが、人生で最もよく見るはずの書類だったからだ。















「クエストの契約書類?って、なんやこれ……」





サクヤが怪訝そうな声を上げる。
それもそのはず、当然の反応だっただろう。





















「契約書に……何も書いてありませんが……」





チハルがそういって声を出すと、シオンはそうですね、と言った。
ハヤテはその意図が分かったらしく、難しい顔でそれを見つめている。
シオンはその契約書をハヤテに渡すと、最初の事務的な声音で淡々と言った。
















「ここに来るまでの間に、<白海竜>殿に依頼を出したのです。」





二人は今の話から内容をつかめなかったらしく、怪訝な顔を向ける。
シオンはそれをあまり意にも解さず、ハヤテに話し続ける。

















「タンジアからここまでは、おおよそ3日。昨日ジンオウガがハンターによって確かに確認されたのならば、モンスターの詳細が調べられ、クエストが登録されるまでの時間もおおよそ3日以内と考えてもよいでしょう。」



彼女はふっと笑った。




















「これは、いわゆる猶予期間です。今から3日以内にジンオウガのクエストが登録されたのならば、<蒼火竜>殿に対応していただきます。それ以内に登録されなかったのならば、3日後にこちらに来るであろう<白海竜>殿に対処していただき……あなたにはタンジアに戻っていただきます。」












これ以上の譲歩は、タンジアギルドとしては認められません、とシオンは締めくくった。
勿論、断る理由などハヤテにはなかった。



そして、ハヤテは無理をいった事や、先ほどの事を詫びた。
しかしシオンはいつもの事ですから、と半ば諦めたような表情で言った。


















「では、私は帰らせていただきます。キリカさんに、“ワガシ”なるものをお土産としてもっていかねばなりませんし。」






大量に買い込まなくてはいけないから、本当はハヤテ君を連れ帰る途中に荷物持ちをしてもらおうと思ったのに、と愚痴を溢しながらシオンは綺麗に塗料を塗られた廊下を歩いてゆく。
なめらかな床の上を足袋で歩くと、キュッキュッという音が響く。



しかし、階段のそばで少し立ち止まると、こちらを向いてニコリと笑って、声を発した。




















「……そこのお二人はどうか分かりませんが……一応言っておきます。気を付けないと、メインターゲットを“狩られてしまいますよ”?」





二人が呆気にとられた顔をするのを尻目に、彼女は軽やかに階段を下っていった。


ハヤテは、何のことだろうと首をかしげた。

しかし、呆気にとられた二人はすぐにその意味を(正しいかどうか分からないが)くみ取ったらしく、ハヤテに対して疑いの視線を向ける。



















「……に〜ちゃん……ホンマ、またかいな……」
「ええっ!?何がですか!?」





いきなりよく分からないことで怒られたハヤテは、素っ頓狂な声を上げる。
チハルに援護を求めるが、その彼女もサクヤと似たり寄ったりなのでどうしようもない。



















「……鈍すぎるのも、罪ですよねぇ……」






彼女は、途中で<蒼火竜>と言うハヤテの二つ名の方ではなく、『ハヤテ君』と呼んだ。

どうして呼び方を変えたのかなど、彼女らにとっては考えるまでもないことだった。





只のハンターとギルドの職員ならば、事務的なやり取りや呼び名で事が足りるだろう。
それをわざわざ変え、先ほどまで浮かべていたのとは全く違う笑みを浮かべていたとなると……。





答えは、火を見るよりも明らかだ。
チハルの呆れたような、半ば諦めたかのようなため息と、肩をすくめるような仕草にハヤテは首をかしげる。

二人は大きくため息をつくと、部屋に戻ってしまった。

帰還命令と言う、ある意味ジンオウガ以上の最大の危機を超え、落ち着いたハヤテであったが、二人の機嫌を損ねるという結果になってしまった。







防具関係ないスキル、<鈍感+2>。
それが入っているハヤテにとってはわけのわからない理由だったために、結局何度も首をかしげるしかないハヤテであった。
















「っと!こうしちゃいられない……」




ハヤテは思考をはっと切り替えた。
最初の村長さんの屋敷に行こうと決めてから、予定外の事情が入り、ずいぶんと時間がたってしまっている。

それに、クエスト内容の事もある。
自分がここにいられるのはあと3日。
その間に、何とかモンスターに対処できるような状況を自分だけでなく、周囲にも用意してもらう必要がある。


何も知らない村人たちにそのことを伝えれば、パニックになりかねないから慎重に。
場合によっては、伝えないことも視野に入れたほうがいいかもしれない。

しかし、クエストが受注できるような状況になるときは、少なくとも明かさなくてはいけないだろうが、それでも大丈夫なように周りを固めなければ。





時間がない……とハヤテは素早くその宿を飛び出した。
外の石畳の上を走ると、朝よりもはるかに人出の多くなった街道に入る。

昼餉を取ろうと出て来た観光客の人々にぶつからない様に気を配りながら、人波の間をすり抜けていく。
幾らか自分を知っている人から声がかかるが、少し会釈しただけで終わらせた。




そうして走っていくと、それほど時間はかからずに村長さんの屋敷に到着する。






門をくぐって石段を渡る。
戸の前できょろきょろとあたりを見回すと、初穂が庭に植えている木々に柄杓で水を与えていたのが見えた。





ハヤテが声をかけると、すぐに気づいたのか、指でハヤテに屋敷に入るように指示した。
ハヤテはうなずくと、引き戸に手をかけた。


カラカラと音を立てて、ゆっくりと開く。
昼間にしては少し薄暗い部屋の中に、ハヤテは足を踏み入れた。
















*                *















「……今現在、ユクモギルドが総力を結集し、現状を確認しています。蒼火竜様達からの情報もありますので、今からさほど掛らずにクエストの受注準備が整うと思います。」





ハヤテは奥の座敷で初穂、そしてイスミと話し込んでいた。
初穂にジンオウガのクエストの受注状況を尋ねたが、こちらが思っていた以上に話は進んでいたようだ。


確かに、この村の進退が懸っているのだから、この対処の速さは当然と言えば当然と言っても構わないだろう。

ハヤテは期限の3日までに何とかなるだろうと、ほっと息をつく。
しかし初穂やイスミが不安げな顔を浮かべているのが気にかかった。









「<蒼火竜>様……先ほどギルドの使者がこちらに来たのですが……この村のために、随分と危ない橋を渡ったと聞きました……」






ああ、そのことかとハヤテは微笑んだ。
自分にとっては、ここに住む村人たちを守りたいと思っただけであり、そんなに気にする必要はないのだけれど……とハヤテは思っていた。


しかし、ギルドに逆らった事実は消えない。
そのことで、ハヤテの将来を変えてしまう恐れのある事象を作ってしまったという罪悪感は消えない。
初穂もイスミも申し訳ないという気持ちが抜けないのだろう。






出されたお茶を少し飲むが、すっかり冷めてしまっていた。
ハヤテは少し笑うと、二人に向かってもう一度口を開いた。









「ハンターの、根本的な意味は……自然と人間の間をとりなし、罪なき命を守る事です。こういうことがギルドの言う罪に当たるのならば、僕は最初からハンターをやろうと等、思っていません。」






あなた方が気にすることは、この村の皆さんの幸せを願うことで、それを実現するための努力をする事でしょう?


ハヤテがそういうと、初穂ははっとした表情を浮かべ、イスミは目を見開いた後に真っ赤な顔をしてうつむく。


そうだ。
ハンターと言うものは、得てしてそうあるべきだ。
ずっとさっきから思っていたことだったが、なかなか言えなかった。




しかし言葉にしてみると、それは自分にとってごく簡単なことであった。

すっきりとした気持ちになったハヤテは気持ちを引き締めた。





今から、この村にいる上位以上のハンターを集めなければ。
そして、この村の人々に、いかにパニックにならない様に伝えるかを考えることも必要だ。








初穂が難しい表情を浮かべる。
この村には数千人の人間が現在いる。
うち、村人がその3分の1程で、あとは観光客である。




この状態でこの村の近くにジンオウガと言う強大なモンスターがいます、などと言えばパニックになる事は避けられない。


火事場強盗などの二次被害なども考えれば、その影響は生半可ではあるまい。

もしも逃げ出そうとする人がいれば、それだけでも危険だ。
道中でジンオウガに遭遇する可能性もある。


かといって逃げられなければ、この村に入れるルートが限られているため、いわば陸の孤島だ。


船と言う手もあるが、昨日の今日でガノトトスが現れたばかりだ。
彼らの心情を考えると、幾らかの不安は残る。






それに物資が外から入ってこなければ、観光客全員を保護することは出来まい。
近くには農場もあり、食糧生産もしているが……あくまでも村人の人数が自給できるのみ。

相対的な人数を考えれば、生半可ではない。








しかし、このまま伝えないわけにもいかない。
いずれギルドに緊急クエストとして提示されるのだから、そこにいるハンターから村人へ伝言されるだろう。

そこで初めて知ったのならば、さらに大きなパニックになる事は必至だ。
いずれ知られるのならば、早めに伝えるのがいいかもしれない。



しかし、そのタイミングをどうする……。











「……ハヤテ様……」








イスミが小さな声を上げる。
見ると、おずおずとこちらを見ている彼女にハヤテは首をかしげる。











「どうしたんですか?イスミさん?」
「……ええと……考えと言うほどではないのですが……」








聞くと、どうやら何やら考えたことがあるようだ。
この際、どんな意見でも聞いておいても損はないはずだ。
ハヤテも初穂もイスミの方を見たため、彼女はその小さな体をさらに小さく縮こめてしまう。

しかし、彼女はハヤテを見つめて言った。

















「クエストが出た時に、集会浴場にいるハンターたち経由で、村人や観光客の皆さんに伝えるのです。“ジンオウガが出現したものの、<蒼火竜>が対処する”……と。ハヤテ様の知名度や実力を当てにしたようなやり方ですが……ハヤテ様の実力をよく知っているハンターたちからの話からとなれば、きっと混乱も少ないと思うのですが……」










自分の実力がある程度分かっているとはいえ、住民たちを混乱させないほどの名前の力が自分にあるだろうか?





ハヤテはそう思ったが、初穂がこちらをちらりと見た。
彼女もイスミの考えに同意見だったらしく、ハヤテに頭を下げる。






最初からクエストは自分が受けるつもりではあったが、そうなってくると自分の責任は重大だ。
何せ、モンスターに対処できるかと言う問題だけでなく、村人や観光客の安全や期待を一身に背負わなくてはならない。



その重圧に耐えられるかどうかが、ハンターのメンタルの強さの問題でもある。
そして、その重圧に耐えられるのは……今まで、様々な地域で、その期待に何度も答えてきたであろうハヤテだけだった。









「……考えている暇はありませんね……クエストの依頼書が出たら、呼んでもらえませんか?」







話が大まかにまとまったようなので、ハヤテは立ち上がる。

一端頭を冷やしたいというのもあったが、それ以外にもやるべきことはたくさんある。

例えば、必要なアイテムの買い込み。
自分のアイテムボックスから持ってきたアイテムだけではたぶん足りないだろう。

幸い、自分の故郷でのジンオウガとの戦いでの経験値から、必要なものは大体わかっている。
それに、それらのアイテムは入手がことさら難しいものではないから、買い込んでくる以外でも、農場などで栽培しているものをいくつか見つくろえばいいだろう。






そして、ヒナギクたち実力のあるこの村のハンターに、ジンオウガへの対処を伝える事。

ある意味こちらが一番重要だ。
いくらこちらにとって有用なアイテムを持ち込んでも、それを適宜に使用できなければ意味はない。



それに、伝えておけばチームで上手く補い合って狩りを優位に進められるかもしれない。
特に、実力のあるヒナギクやチハルは心強い同行者となるだろう。




ハヤテは、アイテムポーチの中から、モンスター図鑑を取り出した。

ヒナギクとの一件で一度はバラバラになってしまったそれだったが、ハヤテが合間を縫って修復をしており、最初とほぼ変わらない見た目に修復している。

ただ、雨に濡れてしまった部分はまだ書き直せてはおらず、ヒナギクとの共同執筆予定となっているディアブロスに関しても空白だ。






ギルドに幾らか資料として提出した図鑑だったが、それはこの図鑑を執筆するための自分にメモだったため、完全版はこちらである。

ハヤテにとっては痛くもかゆくもないし、その都度書き足すため、この図鑑にしか載っていないモンスターの特徴もある。





問題のジンオウガのページだが、幸い雨には濡れていない部分のページであった。
数ページに渡って書かれた詳細な情報を彼女らに見せれば、ある程度の対処は付け焼刃であっても出来ると思う。


ハヤテにとっての伝家の宝刀だ。











「なるほど……それがあれば、確かに対応できるかもしれませんね。」
「ええ……あくまでも、最終手段ですが。」






初穂が納得したような表情を浮かべる。
そして表情を引き締めると、ハヤテに口を開く。








「ここの村人たちへの対応は、こちらに一任していただきます。<蒼火竜>様には、モンスターの方へ集中し、ここのハンターたちへの対応をお願いします。」
「分かりました。お願いさせていただきます。」














ハヤテと初穂がお互いに頭を下げる。



何とか、この状況を変えることが出来るかもしれない。








そんな希望が、広がり始めたその時だった。









カラカラ……と言う音が立てて、後ろの“襖”と呼ばれる引き戸が開けられた。



入ってきたのは、この家にいる使用人だった。

クラウスたちが来ていた使用人用の黒い服装だったが、それのような異国風のものではなく、イスミたちと同じ伝統衣装の趣のある服装だった。







その使用人はハヤテに向かって一礼すると、初穂とイスミのそばへとこの屋敷全体を覆っている“畳”と言う床材の上をつかつかと、どこか落ち着きなく歩いてくる。


この奥の間は意外と広いので、彼がここに来るまでの時間が妙に長く感じた。










「どうか、しましたか?」






初穂の問いに、その使用人は一礼した後、二人の正面に座り込んだ。
初穂たちの右隣にいて、窓際の客人席に座っていたハヤテはその横顔を見ながら、どこか心の奥から浮かび上がってきた不安感を隠せないような表情に、眉をひそめた。







外で、カタン、と言う音がした。
たぶん、ここに来るまでに見た竹で作った細工物だ。
どういう用途があるのか分からなかったが……鎮静作用でも期待されているのだろうか。








「……先ほどユクモギルドは様々なエリア調査。そして蒼火竜殿の情報から、この一件を重大視し……この『雷狼竜・ジンオウガ』を捕獲、または討伐することを決定いたしました。」






部屋の空気が一気に張り詰める。
初穂やイスミは目を見開いている。

こんなに対応が早いとは思わなかったのだろうか。







ハヤテもまさかと思ったが、ある意味当然の結果だろうとも考えた。

これ以上ユクモ村にモンスターを野放しにしておけば、ギルドの沽券にも係わるし、経済的にもこのままではまずいと判断して急速に、加速度的に調べたのだろう。



























「……クエストコード、『月下雷鳴』。このクエストは、この村に現在いらっしゃるハンターの<蒼火竜>様に『緊急クエスト』として処理していただくことに、ユクモギルドは決定いたしました。」






ここまでは予想通りだ。
ギルドとしても、緊急クエストのような重大性の大きいクエストは実力重視で受注するハンターが選ばれることが多い。

その緊急クエストがあるギルドは、その受注条件からしていつ出るかが分からない。
普通にハンターをやっていて、地道にハンターランクを上げることは出来るが、緊急クエストで貰えるハンターランクポイントには遠く及ばない。




ましてやG級モンスターの緊急クエストなど非常に稀であるため、それがG級ハンターの門をさらに狭めている要因となっている。


さらに、その緊急クエストはその一番近くにいる中で、実力の最も高いハンターに受注することになっている。

つまりは、緊急クエストを受けるにはその地域に非常に近く、そして実力も伴わなくてはいけないのだ。







G級ハンターとなるには、これらの狭き門をくぐらなくてはいけないため、その名は一層メジャーなものとなる。










しかし、今回の場合は……自分だけでなく、他のハンターもいる。
クエストに同行してもらうことも出来るかもしれない。





そう……とある、たった一つの状況を除けば……
















ハヤテは、その張り詰めた空気になんとなく得も言われぬ気持ちになった。
その使用人は、何かをまだいいあぐねている。










「……どうしたのですか?一体……何があったというのですか?ユクモギルドで、一体……」
「……」







使用人が難しい顔をしてハヤテの方を向く。
嫌な予感がして、ハヤテは唾液をゆっくりと飲み下した。


初穂たちもただ事ではないと感じているのだろう。
神妙そうな表情で、こちらの様子をうかがっている。





使用人は、襟の間から取り出した小さな手拭いで額をぬぐった。


あ…や、う…などの声にならないくぐもった声が響く。

その様子にどうしても嫌な予感がぬぐえない。

しかし、意を決したのか、その使用人はその重い口を開いた。































「……クエストコード……『月下雷鳴』は……今回のジンオウガの個体の強力さ……知能、や戦闘能力の高さなど諸々の見地から検証した結果……『G級』に値する実力を持っているとの結論が出たのです……つまりは……」
















その口から語られる事実は、ハヤテの嫌な予感をしっかりと当ててしまっていた。
それどころか、弓の矢を全部的に当てておつりがくるほどの的中率で。









ハヤテは、自分の運の無さと……その悪いほうへの的中率に嘆息した。


初穂、そしてイスミも口に手を当てている。


この事件は、彼女らが思っているよりも、さらに厄介なことになっているだろう。



こんがらがって、もはや解くことのできなくなってしまった糸のように絡まりあい、ただならぬ暗雲が立ち込めていた。






























「……チハル殿は…狩場を解禁されたとはいえ、まだランクは上位……今回のクエストは受けることが出来ません……タンジアギルドのギルドマスターからの通達では、<白海竜>殿の到着には、日を待たねばいけません……」








次々と止まらぬ汗を吹きだしている使用人は、時々つっかえながらも話し続けている。

外で音を立てる竹細工の音が、心なしか早くそのペースを上げているような気がした。






















「……つまりそのクエストは……」

「はい……一度クエストが始まってしまえば、そのあたりは原則立ち入り禁止となり……増援のハンターですら入れなくなります。つまりは……」












使用人は、最後の言葉を絞り出した。



















「……今回の狩猟は……<蒼火竜>様、お一人で、挑まなくてはならない、という事です。」











































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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.84 )
日時: 2014/06/12 22:26
名前: WING

初めましてWINGです

初めから拝見させていただきました

モンスターハンターには全く接点がなかったのですが

とても分かりやすく説明なども載せていただき

とても楽しんで拝見させていただいています

それでは感想ですが

いくらハンターといってもハヤテはハヤテですね

優しさや愛情が垣間見えます

ジンオウガはハヤテの防具の苦手とする

雷の性質なのでしたね

そして他に防具は今のところない状態

いくらハヤテは強いとはいっても

いままで対峙したどのジンオウガよりも

大きく強い個体だとすると

ハヤテでも倒せるかは分からない状態ですね

一人で20mのモンスターを退治というのはかなりきついと思います

20mというと現実だと現在は生息していませんが

Tレックス(ティラノサウルス)に

単身で挑むという想像に私はなります

しかも相手は雷などを操ってくる

これは現実だと撃退不可能なような気がしてきます

長々と失礼しました

最後にこれからも応援させていただきます

ありがとうございました



この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.85 )
日時: 2014/06/13 00:46
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうもタッキです。

いや〜ハヤテが相変わらず格好良い。
だけどあの鈍感っぷりには一発殴ってやりたいものがありますね。

それは置いといて、やっぱりG級になる程だとメンタルから違いますね。能天気なソウヤや変態のコテツも実はハヤテと同じように自分の決めたことに真っ直ぐなんでしょうか?
結局、命の駆け引きをするのは実力だけじゃないってことですね。まぁそれ相応の実力は必要なんでしょうけど。

それにしても、あのジンオウガと一騎打ちですか。あれだけハヤテを苦戦させましたから、対策が万全でも一筋縄じゃいかないでしょうね。
それよりも気になるのがやっぱりそれを聞かされたヒナギクたちの反応ですね。この展開でハヤテがさらにフラグを建てる予感がします。そうでなくてもどうやって説得するのかとても楽しみです。
あれ?でも説得するにはやっぱりフラグを建てる必要があって・・・あぁもぉ!とにかくハヤテはさすがフラグアップ+3てことで。

私情を挟んですいません。次回も楽しみにしてますね。

それでは。
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.86 )
日時: 2014/06/13 22:43
名前: 壊れたラジオ

感想どうもありがとうございます!

WINGさん

始めまして、感想ありがとうございます!
一応モンスターハンターと関連の無い人でも読めるように工夫してきたので、嬉しいです。
ハヤテの優しさに関しては、あまり変えたくないなと思ってます。
その中に、カッコよさを入れていけたらなと思ってます。

今回のジンオウガは、原本のモンハンのジンオウガを凌駕する超ド級個体という事です。
ティラノサウルスは大体14mほどの全長ですが、そのほとんどは尻尾なので大体7mが本体ですね。体重は5tぐらい。

しかし、今回のジンオウガは約20メートル以上。
尻尾の割合もそこまで大きくないですから、大体大型バス一台と戦うようなもんではないかと……。
ま、普通は勝てませんね。こりゃ。

では……




タッキーさん

感想ありがとうございます!
ハヤテは出来るだけカッコよくしたいですね〜。
いっそ、登場人物全員(男含む)に惚れられるくらいの甲斐性持ちに……それはダメか。
ま、鈍感っぷりは原作と同等かそれ以上という事で。
だってあんなことされても気づいてすらないですし……ねぇ。
ヒロインの皆様、ご愁傷様です。

ソウヤやコテツに関しては、後々また再登場しますので、その時に。
一騎打ちは……初めのプロットには無かったんですがねー……
ソウヤとコンビで戦わせるつもりでいました。はい。
ハヤテをこういう事でいじめるのが好きなのかもしれません。

ヒナギクたちの反応は……お楽しみです。
しかし、ハヤテが説得するかどうかは……。


では、お楽しみに……
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.87 )
日時: 2014/06/13 22:45
名前: 壊れたラジオ

『雷鳴を討て』





初穂はその使用人に慰労の言葉をかけた後、退室して休むように命じた。

彼もそれをこれ幸いと思ったのか、よろよろと立ち上がるとその奥の間を出ていった。
きっと、ユクモギルドではだれがこれを伝えに行くかで大変な葛藤があったのだろうと簡単に予測がつく。


現に、こうしてその事情を伝えられたこちらの心理的なダメージも大概なものだったからだ。










「……ハヤテ様……」






イスミが心細げな声を上げる。
はっとして振り向くが、彼女の泣きそうな顔が映り、何とも言えない気持ちがハヤテを襲う。


心配を出来るだけかけたくなくて笑うものの、上手く笑えている自信がない。

実際に上手く笑えていなかったのだろう。
初穂も難しい顔をしており、イスミに至ってはもう本当に泣いてしまいそうだ。




外で揺れる木の葉が、風に耐えられずにハラハラと落ちていく。
庭に植えている花々も同様だ。


萎んでいるものから、その花弁をゆっくりと落としていく。
一つの蒼い水仙の花が、その花の重みに耐えられずに、ぽとりと地面に落ちた。







ハヤテはゆっくりと立ち上がった。
奥の間を出ようと、引き戸に手をかけた。









「<蒼火竜>……様?……」







後ろで、不安げな声が漏れる。

それはハヤテの身を案じたものなのか、彼に見捨てられると感じたためのものなのか。




それとも、ハヤテが臆病風に吹かれたと思ったのか。


拳を握ると、彼は外の様子を見渡した。








外は、もう夕刻近くなっていた。
日が地平線の彼方の山々に近づきつつある。


半分隠された太陽は、横に筋のように光線を広げており、今日最後の明かりを町中に送り込んでいる。


温泉から立ち上る湯気が、その光を乱反射して、うすい靄のように立ち上っている。







そして、その光に照らされて、その靄の中で長い影を作っているものが、ハヤテの目に飛び込んできた。




何人も、何人も。ハヤテの目でも、感覚でも、数えきれないほどの人々だ。


立ち並ぶ温泉街の建物から出てくる、食事処で夕食を取ろうと出て来た人。


夜のこの村の情景を見ながら湯につかろうと、建物の暖簾をくぐる老人。


夕餉の材料を買おうと、家々から出てくる若い女性と、そのそばに纏わりついている小さな子供たち。


外の洗濯物を取り込む、夫婦と思しき一組の男女。




幾人もの人々が、この平和な時間を謳歌している。
この村に近づく、一つのある脅威にも、露ひとつ気づく人もなく。




この平和を、崩れていくのを、このまま傍観しているだけと言うのは、許されることなのだろうか。





ここで逃げても、誰も文句は言いやしないだろう。

タンジアに帰らせたがっているシオンやキリカは逆に喜ぶかもしれない。





しかし、それだけのことで。
自分の身可愛さだけで、この美しい村を見捨てることは果たして自分の心に、本当に従ったと言えるのだろうか。





ハンターとしての、最大の後悔。
それは、誰も守れなかったあの時の、身を切るような悲しみだけではないのか。

この感情を、無いものとして、この職種に身を置くことは……










自分は、どうすべきなのか。





自分は、どうしたいのか。














「……逃げたりなんかしない。」













自分の宿命から。すべきことから。
背を向けて、逃げたりなんかしない。





歯を食いしばる音が、耳の奥でぎしりと言う音を立てた。

握る拳に力が入る。
ハヤテはゆっくりと振り向くと、部屋の奥にいる初穂とイスミに言った。








「……大丈夫です。僕は、僕に課せられた使命を果たすだけです。……この村の平和は、絶対に守られるべきですから。」







だから大丈夫。

誰かが必ず立たねば、きっと何もかもがおしまいになるだろう。

自分の全てをかけて、このクエストに挑む。




それだけが、この状況を……この絶体絶命の状況を変えられる唯一の方法なのだから。

それを実現できるだけの力があれば、きっと何とかなる。
無かったときは……自分はそれまでの人間だったという事だ。





「クエストの開始は、今日にします。……早いほうがいいですから。」
「な……しかしそれでは、ハヤテ様の体が!」







確かに、モンスターを早くどうにかできるに越したことは無い。
しかし、それを行うハンターが倒れてしまっては元も子もない。

イスミが大きな声を上げるが、ハヤテは少し困ったように笑うと、片手を上げて門の方へと体を向ける。









「大丈夫です。昨日休んだことで体はよくなりましたし、朝温泉にも入ったので。もうほとんど万全なんですよ。それよりも……」






奥の間は、障子が作る陰でもうほとんど暗くなっていた。
その奥にいる彼女たちの表情は分からないが……少なくとも、そんな辛そうな声音で話してほしくは無かった。








「……夜の間に……人々が寝静まった夜に行ったほうが、誰にも心配させなくて済みますから。」






村人たちや、新米のハンターさんたちには、伝えないでください。









ハヤテはそういうと、駆け出した。
ひらひらと手を振っているのは、彼に出来る精一杯の虚勢なのだろうか。


長い影法師が、赤い光の中でゆらゆらと揺れている。
門を出た彼が向かった先は、考えるまでもない。









ユクモギルドの、クエストカウンターだ。




二人は、呆然としながらその後姿を見つめていたが、一陣の突風が吹いて思わず目をふさいでしまう。

もう一度目を開けた時、彼の姿は雑踏に紛れ、見えなくなっていた。





















*              *










『ユクモギルド・クエストカウンター』





石段を登り、集会場に入るとハヤテは集会浴場にいた数人のハンターに声をかけられた。

傍目でも分かるほど自分の表情が外に出ていたのか、と彼は眉をひそめる。
何かあったのかと聞いてくる彼らに曖昧に返すと、納得できていないような表情をした。
しかし、自分たちが憧れているハンターがいう事だったのか、それほど時間がかからずにもう一度温泉に浸かりに戻っていく。


ドリンク屋のアイルーと朗らかに話し込んでいる数人のハンターを横目で見ながら、ハヤテはギルドの受付嬢のもとへ歩いてゆく。





彼女はこちらを知覚した途端、たちまち難しい表情になる。



彼が人差し指で、奥の扉を指さすと、こちらの意図が分かったのか小さく頷くと強張った表情で奥のドアを開ける。


ハヤテは周囲の人間に見つからないうちに、素早くその中に体を滑り込ませた。

薄暗い部屋の中で、少々黴のようなにおいが鼻についた。
後ろで小さな音を立てて扉が閉まり、少しの熱と光が背中に差す。






燭台を持った受付嬢がハヤテの前を通り、歩道の側面に大量に積み上げられた書物の間を縫って奥へと進んでいく。

それに倣って彼が歩を進めると、見慣れたものが置いてあるのが目に入る。





ハヤテが昔、ギルドに提出したモンスターのデータの模写である。
この世界には活版印刷技術が最近開発され、その書物を作る能力が飛躍的に向上したので、彼が提出した貴重な書類が至る所のギルドに参考資料として配布されているのだろう。






ギルドの受付嬢をはじめとするギルドガールと言う職種は、ギルドマスターに次ぐギルドの上流職種の一つである。

ただし、それになるためには大量のペーパーテストをクリアし、実力やモンスターの知識を見せなければ、到底なれるはずがない。

ギルドの職種のG級とも呼ばれている所以だが、ハヤテは今までの知識の功績から、この職種と同程度の待遇を受ける権利を得ている。




つまり、こうしてギルドの裏側に入る権利を持っているという事だ。
まあ、ここで使われているモンスターのデータの作成者でもあるので、ある意味当事者ともいえる。




ギルドガール内には、こうした彼を尊敬している人間も多いので、こうしてよそのギルドでも裏側に入れるという面もあるのだが。










その狭い書物棚を抜けると、重々しいドアが目についた。
そこには、幾何学的な文様が浮かんでいる。
芸術には詳しくないハヤテだったが、それが貴重なものだとはすぐに分かる。


そのドアが軋み、鈍い金属の留め具が音を立て、ゆっくりと開く。








ドアの先にあったのは、円卓のある大きめの部屋だった。


異国の様相であるこの村の建物の構造とは違い、ハヤテの住むタンジアでもよく見るような正式の会議場で、一人の老人が円卓の端、ドアと反対側に座っている。

周りには、正面にいた受付嬢と色違いの制服を着た何人かの女性が立っている。










「……座りなさいな。」









その小柄な老人は、手に持った瓢箪でその皺だらけの唇を湿らせると、ハヤテに促した。

その示された椅子に掛けると、小さな軋みを立ててそれは自分の体重を受け止めた。

こんな時にお酒を飲むのはどうかと思ったが、ハヤテのその視線に気づいたのか、その老人はケラケラと笑って言った。


そこにいた受付嬢の一人が大きな燭台に火を移すと、薄暗い部屋がゆらゆらとした明かりに照らされる。

老人はそこにあった精緻なガラス細工の容器に瓢箪の中身を空ける。
透明な溶液が、その中になみなみと注がれる。



それを受付嬢がハヤテの前に持ってきた。

匂いを嗅いでも、何の香りもしない。
ギルドマスターは瓢箪からまたそれをぐいっとやった。







「これは酒ではないよ。“霊水”と呼ばれる……まあ、ここの温泉の源泉から分離した、湧き水だ。」







ギルドの温泉にも負けず劣らずの効果があるから、他のギルドからも輸入依頼が来ているんだがね、とその老人は語る。








「……ま、今までは断ってきたんだが。今回の君の働きを考えると、タンジアギルドには大きな貸しを一つ作ったことになった。これも近々タンジアのギルドマスターにお礼の品として贈ることになったよ。」








その老人は、ハヤテに向かってケタケタと笑うと、こちらを見据えた。









「……ご迷惑をおかけします。ユクモギルドのギルドマスター殿。」






ハヤテがそう詫びると、老人……このユクモのギルドマスターは、いやいやと手を振った。








「こちらのせいで、あなたも危ない橋を渡ったそうですな……そうでもしなければ、この恩はお返しできますまい。これでも少ないぐらいです。」







しかし……とギルドマスターは皺だらけの顔にさらに皺を刻み、難しい顔でハヤテを見つめる。


周りの受付嬢たちも皆、同じような表情だ。










「しかし、今回のジンオウガの力は強大……そして、今戦えるG級ハンターはあなたのみ……しかも増援もない……」








自分の力だけでは、確かに不安かもしれない。
しかし、それでもやらなければ未来はないのだ。


後回しも出来ない。
たった一回のチャンスであり、それを不意にすれば……









「……やらねばなりません。どんなに危険だったとしても。この村のために。」







ハヤテがそういうと、ギルドマスターたちは深く考え込む。
燭台の火がゆっくりと揺れる。


彼はギルドマスターを見据えた。










「僕は、ここでクエストを受けた後、すぐに渓流へ向かおうと思います。用意は、ここに来るまでに完了しています。後は、もうクエストを受注するだけです。」










その上で、ここにいるハンターや村人の人々には出来るだけジンオウガについて伝えない様に、ハヤテは頼んだ。

ここに来るまでの間に、今現在<渓流>の狩場にはハンターは入り込んでいないことを聞いた。
運の悪い自分だったが、悪運の強さには感謝した。

そして、今から明日の夜明けまでは、そのエリアを一切立ち入り禁止にすることを依頼した。







彼らの顔に明らかに動揺が浮かぶ。

つまりは、人々の安全を考慮するために、自分に関しては一切の安全を保障しないやり方だったからだ。

ギルドとしては犠牲が出ても、それは現役のハンターだけである。
ハンターが狩場で死亡しても、ギルドは一切責任を持たないという制約がある。

ギルドはハンターに対して精一杯の努力をしており、彼らが死亡するのは自分自身の力量不足だからだ。





しかし今回のやり方は、ギルドなどの組織では正しいやり方かもしれないが、人間の道徳性から考えるとどうしても首を傾げてしまう。








しかし、彼らは反論しなかった。
いや、出来なかったのだ。




彼のいう事は、村人や観光客の安全を考えると至極真っ当であるし、被害を最小限に抑えられる、もっとも効率の良い方法だ。

しかも、何かあってもギルドの手は汚れない。
後からどうとでも言い訳が効くからだ。









しかし、それだけではなかった。


彼らは、ハヤテのその瞳に、何も言い返すことが出来なかったのだ。
嘘も誤魔化しも、怯えも動揺も何もない、すべてをはっきりと決めてしまったその目には反論を許さない強さがあった。







ギルドマスターは、折れた。












「……分かりました。情報規制は、こちらで徹底いたしましょう。そしてあなたの狩猟時間制限以内では村人や観光客の皆様が入町・出町しない様に、そして夜間の出歩きをしない様に徹底させて頂きます。」







クエストの契約書をこちらへ、とギルドマスターが受付嬢の一人に命じた。


彼はそれを受け取ると、書いてある内容を読み始める。

ギルドマスターは、それをじっと見ていた。









「……クエストの内容は、承りました。誠意をもって、このクエストに当たらせていただきます。」






ギルドマスターは難しい顔でうなずくと、彼から契約金を手渡しで受け取った。
受付嬢から判をもらい、その契約書に押し付ける。





ダン!と言う判の音が部屋の中で反響する。


確実に、今後の自分の人生の進退が決まった音に、ハヤテは表情を引き締めた。














*              *












「……あ」






集会所からほど近い、小高い丘の上に建てられた、豪華絢爛な建造物。
その窓から、父親譲りの金髪と緑色の瞳をした少女が、ある方向を見つめていた。



少女の視線の先にあったのは、蒼い鎧。
そしてそれを纏う、彼女が憧れていた一人の少年。





彼女は、一昨日から昨日に架けて起こった出来事により、朝まで寝込んでいた。
元々深窓の令嬢(つまり引きこもり)である彼女にとって、ここまで体を動かしたことは無く、そして精神的に追い詰められたことは無かったためだ。

とはいえ、あのようなことがあれば、彼女でなくてもこうなるはずだが、非力な彼女にとってはさらに甚大なものになったというだけのことだ。





そのナギは、たまたま起きたのが先ほどであり、なんとなく窓の外を見つめてみると、あの少年を見つけたというわけだ。




どこか落ち着きの無い様子で、ギルドの集会所から出て来た彼に、何かを感じて見つめていたが、突発的にベッドを飛び出していた。

ヒッキーの彼女がベッドからこんな勢いで飛び出すのを見たら、彼女をよく知る人物から見れば、何事かと思うだろう。

実際、自分でも驚いていた。






しかし、あの少年の事を考えると、いてもたってもいられなくなったのだ。

自分を間一髪で救ってくれた、あの少年。
暖かい腕や、鎧の堅さの下にある強さを思い出すと、不覚にも頬が熱くなる。


それをごしごしとこすって無理やり消そうとするが、赤みはなかなか抜けない。
ナギは、この無駄に広い屋敷に辟易としながらも、外に向かって駆けていく。




途中で父とすれ違ったが、今の自分には気にも止まらなかった。


昨日、父と話したのだ。
ぜーぜーと荒い息を吐く自分の隣で、寡黙に座っていた父と、自分の体力の無さをケラケラと笑っていた母。

母は悪気はなかったのだろうが、自分の体力の無さを揶揄するような言い方には、少し蹴っ飛ばしてやりたくなった。

そんな母の頭に、そこまでだと言わんばかりにチョップを叩き込んだ父に、彼女はいつものごとく抵抗したが、精神年齢が子供っぽい(少なくともナギの前では)母では、理詰めで攻めてくる父には勝てるはずがなかった。

『シンちゃんのバカーーーーーーっ!!!』と言って部屋を飛び出していった母には悪いが、少し笑わせてもらった。




それをため息をつきながら見ていた父は、自分にいつもの事だろうと発した。
自分もそうだという事は知っていたので、父には全面的には同意した。





その時にはっと思い出したことがあって聞いたのだ。












『父は、どうしてジンオウガと戦いに行かないのか?』と






父は少し呆気にとられたような顔をすると、自分の頭をポンポンと優しく撫でた。


そして、たかだか一介の上位ハンターで、この村の専属でしかなかったこの俺が勝てるわけがないだろう、と言った。



しかし、あんな強そうな防具を持っていたではないかと返すと、困ったように笑うと、『亡くなったハンターの師匠に遺品として貰っただけだよ』と言った。



父にそんな知り合いがいたとはつゆ知らない。
彼の交友関係は、自分ではほとんど知らない。

だって、父の親族の人間や、知り合いのハンターになどあったことすらないのだ。
しかもこの村の出身なのに、ここに親族や友達も、一人として見受けたことは無かった。




そういう事を言うたびに、彼にははぐらかされたり、母の邪魔が入ってうやむやになる事が多かった。










問い詰めようとすると、彼は自分を横に寝かせ、布団の中に寝かしつけた。





体が万全になるまでは寝ておけと、彼は言った。

そして、『お前のひいきのハンターでも、あそこまで苦戦したんだ。俺が行っても、勝てないさ。』と言い残すと、お休みとつぶやき、その部屋を出ていった。




どこかに行った母をなだめに行ったのかもしれない。






その後、自分は考え事をしているうちに寝てしまったらしい。

そして、何も明かさない父への一種の不信感が、“彼”への感情を一層高めていた。






ナギは、蒼い鎧をまとった少年を追って、暗くなり始めた街道に飛び出していた。


少し、暗くなってきた街道の人手は少なくなっていたが、それでも人々の間は彼女がぎりぎり通れるほどしかない。


温泉宿の煙に混じって、食事処の中から様々な料理の匂いが漂ってくる。

街道に出ている屋台の暖簾の中から、香辛料の匂いがする。
見た目からすると、野菜や肉を刻み込んだものを香辛料のよく効いた、食欲をそそるスープと絡めた麺類らしい。

何人もの人が、それをすすりこんでいるらしい。
中には子連れの人もいるらしいが、令嬢としてこういう所での食事は経験したことないナギは興味がわく。


それ以外にも、串に刺した肉を炙る匂いや、温泉の蒸気を利用した饅頭の匂いが彼女の鼻を擽る。
思えば、気絶してベッドの中に入ってから、碌なものを食べていない気がする。


空腹に負け、懐から財布を取り出そうとするが、急いで出て来たため持っていないことに気づいて嘆息する。





しかも、追ってきたはずの彼も見失ってしまった。

戻るしかないのか……と彼女は大きくまたため息をついた。











「……食べたいんですか?」







横から聞こえて来た声に、ナギは驚いて振り向く。
そこには、蒼い鎧をまとった少年……ハヤテがいた。








「……お、お前……」
「また会いましたね。今度は狩場じゃなくてよかった……もう、体は大丈夫なんですか?」






ナギは探していた少年に突然あったことに驚くが、ハヤテはあまり気にした様子は無いようで、軽口を叩きながらこちらの体の心配をしてくる。

その彼の目を見ていると、なんとなく気恥ずかしくなってナギは少し紅潮する。
それを何とか隠したくて、ハヤテに聞き返した。





「そ……そんな事より、こんなところで何をやっているのだ?」






しかも一人で。
これは本当だ。自分が飛び出してきた理由の一つはこれだったからだ。


ナギがそう聞くと、ハヤテはああ、とさりげなく返した。







「いえ、後ろで誰かが僕をつけている気がして……誰かと思ったら、昨日のお嬢さんだったんで、また何かあったのかと思ってこちらに来たんですが……」






お前は漫画のキャラクターかよ!と言う何とも彼女らしい突っ込みが出そうになる。
つまり、最初から自分の存在は彼に知覚されていたわけだ。


そして、彼がにこやかな笑顔でこちらをお嬢さん呼ばわりするものだから、こちらの顔は一層熱を持ってしまう。

何故だろうか、他の大人たちに言われても全く心が動かないのに、彼に言われるとまるで心臓が早鐘を打っているようになる。




しかし、彼はそれを意に介した様子もなく、彼女に何が食べたいのかを尋ねてくる。

雑誌に書いてあった通り、彼は筋金入りの鈍感のようだ。




しかし、彼女がまた一つの質問をしようとすると、空気の読めない腹の虫が音を立てる。

ハヤテは少し吹きだすと、奢りますからといって屋台の暖簾をくぐる。




助けた貰った上にそこまでしてもらうのはなんとなく気が引けて遠慮しようとしたが、僕も何か食べておきたいですし、話したいこともあるんでしょう?と言われた上に、暖簾をくぐった途端に麺類の香りがこちらの鼻腔をまた擽り、腹の虫が性懲りもなく響く。




すっかり赤面してしまった彼女は、苦笑するハヤテの隣に腰を下ろした。









*                  *












麺類の味は絶品だった。

彼女は、これまで食べた中でも最上級のその味の虜となっていた。
決まりきった体裁の中で食べるものなど、味が分かりはしない。

それに引き換え、自由な状況で食べられるこれらは最高だ。
庶民に生まれたかったと、彼女はある意味贅沢な悩みを抱えることになったのであった。





しかし、その絶品の麺でさえ、隣に座っているこの男の影響で輝きを失っているように思える。

隣では彼がこちらをどこかほほえましそうに見ている。

ナギにとっては、自分が色気も何もない姿で麺を掻き込んでいるのを、笑顔で見つめられるという羞恥プレイだ。


少しの気恥ずかしさを感じながら、麺をすべて食べ終えた彼女を見終えると、彼は屋台の親父に銅貨を幾らか払う。



近くの店などでは、彼の容貌に見惚れ、仕事が手についていない女性もいくらかいる。



生まれ持った彼の整った容貌は、人目を惹きつけるには十分だった。


ナギはそれがなんとなく面白くなくて、少し頬を膨らませてみたりしたが、鈍感な彼が気づくはずもなかった。








ではこれで、と言う彼の後ろについていく。

怪訝そうな顔をしたが、先ほどの屋台では羞恥から話せなかったことがあると伝えると、彼は途中までだが同行を許した。


と言うか、話せなかったのは彼のせいでもあるから当然だ。

ナギは意を決して、話しかけた。








「ええと……この間の事は、どうもありがとう。おかげで助かったよ。」





彼は、微笑んだ。
その笑みは雑誌で見るよりも何倍も魅力的だ。

伝えたかったことは、まず感謝の気持ちだ。
彼がいなければ、おそらく自分はジンオウガのエサとなっていただろう。








「……えっと……<蒼火竜>は……」
「ハヤテでいいですよ。お嬢さん。」






ハヤテは、自分がなんとなく呼びにくそうにしていたのを感じ取ったのか、名前で呼んでも構わないことを示した。

ナギは、その気さくな態度に思わず笑みを浮かべた。





「『狩りに生きる』という雑誌でお前の事を見たのだが……どんなモンスターと戦った時が、一番心に残ってる?」
「え?……ええと、そうですねぇ……」







ナギは、彼のファンだった。
今まで、本人に会ったら聞いてみたいと思っていたことを、次々と尋ねていく。


彼は、それにも嫌な顔一つせず答えていく。
と言うか、雑誌のインタビューを結構受ける身であったため、このやり取りの自然さはそれの賜物だろう。



しかし、自分が雑誌に載っていたことは知らなかったらしい。
インタビューも、ファンが興味本位で聞いてきたものだと思っていたらしく、写真も同じらしい。


ナギはそれを聞いて少し呆れたが、話の楽しさにそれを忘れて話し込んでいた。

そして、出来るならばこの時間がもっと長く続いてほしいと……








「……っと。ここまでですね。」






ハヤテのセリフに、ナギははっとして立ち止まる。

気づけば、自分は村の端まで来てしまっていたらしい。
話が楽しくて時間を忘れるなど、いつ以来だろう。


母の作ったおとぎ話を子供心に聞いていた時か、父の語るこの村の歴史についての話以来だったかもしれない。





その道は、一つの小さめの橋につながっていた。
そしてそれが続く道についても、彼女はどこに行くか知っていた。






「ああすまない……そろそろ戻らないとな。」
「ええ、では。」






ナギが屋敷に戻ろうとハヤテに別れの挨拶を告げる。

しかし、彼の行動は彼女の想定とは大きく違っていた。








「……ハヤテ?どこへ行くのだ?」






ハヤテもてっきり自分の宿に戻るものだと思っていたナギは、その橋を渡ろうとしている彼に声をかける。

彼は、ん?と何か問題があるのかと言う表情でこちらを振り向く。










「なぜそっちに行くのだ?だってそっちは……」







ナギは、そこまで言ってはっとしたような表情を浮かべた。

その道は、<渓流>のベースキャンプにつながっている。



もう今の時刻では日が暮れてしまっている。
何か物資を取りに行くのならば、夜の非常に危険な狩場に行く必要はない。

そして、夜と言うのは、非常に危険な夜行性の強大な肉食動物がはびこる時間である。
そんな状況の狩場に、今行くという事は……











「もしかして……ジンオウガを狩りに行くのか?……」









恐る恐る聞いたナギの言葉に、ハヤテは困ったように笑った。
それで確信してしまったナギは、確認するように聞く。

……と言うより、自分に言い聞かせたかったのだろう。










「ちゃ……ちゃんと、この間の仲間と狩りに行くんだよな……そうだよな?……」








ハヤテは何も答えない。

橋の下で、温泉宿から出た排水が流れていく音が響く。

彼は、ゆっくりと口を開く。








「…今回のジンオウガはG級……この村には僕しかいませんし、増援ももう入れません……僕一人ですよ」
「なんでだよ!!!この前、あんなに苦戦していたじゃないか!!!」






淡々と語る彼に、ナギは半ばやけになったような口調でまくしたてる。

自分を救ってくれた、憧れの少年。
それがむざむざと危険な状況に放り込まれているのを見逃せなかった。











「ギルドは何をやっているのだ!こうなったら三千院の力を使ってでも……」
「……おやめください。」








静かに、しかし鋭い威圧感を持って、ハヤテはその言葉の続きを静止した。









「なっ……」
「これは、僕が決めたことで、ギルドに正式に了承していただきました。誰のせいでもありません。余計なことをするのは、得策ではありませんよ。」







自分の考えが余計な事、と切って捨てられたことにナギは狼狽する。
彼の強い眼光に怯むが、負けてはいられない。







「お前が負けたほうが被害は甚大だ!他のハンターを待ったほうが得策…」
「そのハンターを待っている間に、あなたのような人が現れても、ですか?」







ハヤテが言ったセリフにナギは黙り込む。

いくらハヤテに助けられたとはいえ、それは運が良かったからだ。

いくつもの幸運が重なって、結果的に助けられた。
しかし、次にこんなことがあった場合、同じように行く可能性は少ない。










「…あんなに…あんなに強いんだぞ……勝てるのかよ……ほんとに…」






ナギが声を絞り出す。

ハヤテは、その眼光を緩めないまま、ナギを見据える。










「勝てるか、勝てないかは分かりません。ですが、やらなきゃ勝てないんです。」
「死ぬかもしれないんだぞ!?今度こそ!本当に!!?」
「僕一人の犠牲と、何千人もの命。天秤にかけてみてください。そうすれば分かるでしょう。」







彼は全く引かない。
この強い意志が、彼をG級ハンターにしたのは、彼女の目から見ても明らかだった。


ハヤテはその眼光を緩めた。
先ほどまでの優しい瞳が、うつむく彼女を見据えている。












「……もし、住民の皆さんが混乱状態に陥ってしまったら、あなたが伝えてください。<蒼火竜>が、それに対処している、と。」






ホントに行くのか……?とナギが訪ねた。

真っ暗で、遠くのわずかな街の明かりと、月明かりしかない中でも、彼女が不安げな顔をしているのをハヤテは分かった。


にこりと笑って頷くと、ハヤテは橋の方を向いた。



















「行きますよ。だって僕は、“ハンター”ですから。」









そうして彼は歩き始めた。

全身に蒼い鎧、そして頭にそれと同じ色をしたキャップを装着した。

背中には、ナギが初めて見る白みを帯びた武器と、矢筒をつけて。





彼のレギンスが橋の木材の上を歩くと、コツコツと言う音が嫌に大きく響く。






橋を渡り切った彼は、こちらにもう一度手を振った後、木々の生い茂る陰に姿を消した。



ナギは、しばらくそこを動けずに突っ立っていた。








































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.88 )
日時: 2014/06/14 17:36
名前: 壊れたラジオ

『一人の楽園』







シンは、屋敷の中のある部屋にいた。

この部屋はもともと書斎だったらしいが、使う人間が自分と使用人のクラウスぐらいしかいない。

ナギもたまに使うこともあるが、この部屋に置いてある雑誌(保存用)を仕舞いにきたり、取り出していくだけで、この部屋にいることは無い。

紫子に至っては使うかどうかも分からない。


まったくもって金の無駄だとか、何故作ったんだという疑問がわく。

しかし、クラウスは自分とここを使う事はあまりない。
実質、ここはシンの個人の部屋のようになってしまっている。



備え付けの湯を沸かすぐらいにしか使えない小さな竈でお茶を入れている。

個人的には一番好きな時間であったが、どうにもすっきりしない感覚がする。





ナギを寝かしつけた後、どこかに飛び出していった紫子を追ったが、元々足のコンパスには大きな差がある。

それに、回復したとはいえ、常人程度の運動能力の彼女に追いつくのは、(条規を逸した)ハンターであった自分にとっては簡単な事だった。





拗ねていても、子供っぽい彼女をなだめるのはお手の物だ。
伊達に十数年そばにいたわけではないのだ。



その後、幾らか振り回されはしたが、今は彼女の部屋で休んでいるだろう。

そして、無駄に広いこの屋敷のほぼ対極に位置するであろう、この部屋に来たわけだ。





非常に不都合なつくりに少し辟易としたが、その辺りはもう割り切っている。


ため息をつきながら部屋を見渡すと、自分のハンターだった証が目に入る。











<怒天・真シリーズ>



自分が、最後に身に着けていた装備だ。

かつての自分の力の象徴で、そして……捨て去ってしまいたい過去の栄光。





少し手を触れると、王族でもその手触りに虜になると聞き及んだ感触が手に飛び込んでくる。


屈強な金獅子の体を覆い、如何なる攻撃でも受け流して耐えきるその体毛。

それが、自分の手の中にある。





この部屋は少し埃っぽい。
それ程整理整頓が好きではない性質であったし、クラウスもあまりこの部屋を掃除しに来る事は無い。

昨日の今日なのに、もう埃をかぶってしまったそれを離して、シンはあたりを見回した。





外はもう、夕暮れのようだ。





少し騒がしくなっていく外の雑踏に、何気なく視線を落とす。


そうすると、ギルドから蒼い鎧をまとった少年が出てくる。

おそらくは、昨日の少年だろう。
そして、彼があそこから出て来たという事は……





何の疑問も感じなかった。
彼の性格から考えれば、クエストが出た途端に出発することを考えていてもおかしくはない。





しかし……と少々の心配が胸中に残った。



自分のハンターとしての力量に疑いがなければ、おそらくあのジンオウガはG級だ。
この村には現在、G級ハンターは彼しかいないはずだ。



自分も確かにG級ハンターだし、ライセンスもまだ持っている。

しかし、シンは彼には協力できないと直に伝えた。

否応なく、彼は今回、孤独な戦いを強いられるだろう。









ナギには、納得できるように伝えたと思っているが、一種の不信感までは拭えなかったかもしれない。

あいつは、どこか鋭い所がある。

それが彼女の優秀な点でもあるし、こちらが危惧すべきことでもある。









一人……特に、ソロ狩りを専門としている彼が、今回も一人で行くことに、何がおかしいことがある?

ハンターは、いつだって一人で戦うのだ。

それが、自分の……いや、“昔”の自分の考え方だった。












今日の朝会った彼を思い出し、シンはふっと笑った。




そうだ。
俺が彼に、何か似ていると感じたのは。


あの目だったのだろうか。













彼は、優しいのだろう。

それは、初めて見ても分かるほど、彼の姿や出で立ちから見えていて。



彼は、きっとこの村を救いたいと願い、場合によっては自分の犠牲も厭わないだろう。





“自己犠牲”

きっと、他の人物。
例えば、小説や、人の心を揺さぶる文を書く人間にとっては、とりわけ美しいものに映るだろう。
しかし、それは自分の事を考えられないという危うさでもある。




人は、利己的な生き物なのだ。

我が身可愛さのために、争いが起き、人が死に、また争い。
その血のインクでつづられてきたのが、人の歴史だ。





彼のようなことは、誰にでもできる事ではない。
だから、“美徳”とされるのだ。








昔の自分は……程度の差こそあれ、それに似ていたのかもしれない。
彼のように、なんでも救える、完全無欠の美しいものではなかったけれど。





それでも、命を賭けて、何かを守りたいと思ったことがあった。
たとえ、この身が朽ちても。








シンは、手に持っていた湯呑をテーブルに置いた。
燭台が振動でゆらりと揺れ、冷めた茶はもう下に葉の一部がたまってしまっている。




日が落ちかけて、西にあるこの書斎も、少しずつ影が差して暗くなってくる。

そこで自分の影を見ながら、シンは腕を組んで、窓のへりに背を預けた。


























































自分が、犠牲に出来るものは、それでもいいと思ったものは。





ある時、呆気なく消えてしまった。





自分が守りたいと思ったもの、大切な人たち。

そのために捨てた、ちっぽけな命が、自分の全てだった。





それは、まるで最初から無かったことになった。

みんな、いなくなってしまった。







そこからは、もう自分が自分で無くなったようで。







そこん立ちふさがる者たちを殺して、殺して殺し続けて。



心の中に醜く居座り続ける、彼らを恨む己でも嫌気がさすような稚拙な心を消せずに暴れ続けて。



心の見た目に等しく、外の面も灰色の獣のように変わり果てて。











なのに、気づくと失ったはずのものが、何事も無かったかのように自分の手のひらに会った。

幼いころから、手に入れたくて仕方なかったものが、いつの間にか自分の手の中に。





そして、それを手の中に置き続けたいと醜くも願う、一人の人間がここにいる。





そのために、自分はいくつもいくつも嘘をついている。


ようやく手のひらに捕えたこれを離さないために。






そんな中で、あいつを育てた。

嘘に嘘を塗り固めて、外面の良い虚構で堅い胡桃の殻のようになって。

守りたいと思うほどに、その嘘で作った壁は、さらに強く厚くなっていって。


















ふと、思うときがある。






自分は、彼女が自分の手の中から離れていくまでに、一体いくつの嘘をつくのだろう?
一体いくつの事を、彼女に伝えずにいるのだろうか。








『バルバレ』にいたことも、自分が<鋼龍殺し>であったことも、すべて忘れてしまいたかった。

只の何でもない、一介のハンターだった人間として、彼女を見ていたかった。




過去の事を捨てて、自分を捨てるこのやり方を、紫子は揶揄したことがあった。


それはそうだ。
嘘をついて、それを積み重ねて生きるこのやり方に、何の面白味があるのだろう。











シンは、すっと立ち上がると、部屋を出ようとドアに手をかける。



だだっ広い廊下では、無数につけられたランプが、足触りのよいカーペットを明々と照らしている。


足音がして、そのランプを点灯していた使用人かと振り向く。


しかし、それは彼の予想とは全く異なる人物……ナギだった。





半ば彼も諦めかけている彼女の引きこもり癖だが、そんな彼女がベッドを飛び出したことにも驚いた。

しかし、さらにそれが自分も目に入らぬほどに猛ダッシュを行っているのにはもっと驚いた。




去っていく彼女の後姿を見ながら、一瞬不思議に思うが、先ほどの光景を思い出して納得した。






(追ったか)






十中八九、あいつはあの少年を見て、何か話そうと追ったのだろう。

せっかく助けてもらうという体験をした憧れの少年。

それに礼もしないままと言うのはプライドもあるが、これほどおいしいチャンスは無いだろう。






クラウスがうるさそうだなと思ったが、ここで邪魔をする野暮な真似をしたくない。

護衛は、いくつかの使用人を着かせればよいだろう。





クラウスへの言い訳を考えながら、シンはこの無駄に広い屋敷の中を歩いた。





「シ〜ンちゃん♪」





後ろから、少しの重みを感じて振り返ると、自分のよく見知った人が背中に飛びついていた。

重い、とつぶやくと、ハンターだったんだからこれぐらい大丈夫でしょ!?
とか、と言うか女の子に重いとか言っちゃだめじゃない!!とむくれる彼女の頭にチョップをまた叩き込む。






「いった〜い!殴ったらバカになっちゃうじゃない!!」
「最初からバカだからほとんど影響はないだろう。もしくはマイナス同士を掛け合わせたらプラスになるかもしれんぞ。」
「んなわけないでしょ!?ていうか、バカっていうほうがバカなんですぅ〜!!」





相変わらず子供っぽい彼女とのこのやり取りは、嫌いではない。

少しの間、いつものように言い合いをしていたが、彼女が不意に話を変えた。






「そういえば。さっきナギが玄関ホールの方に走って行ったんだけど、なんか知らない?」





話のタイミングを変える頃合いがうまい。

こいつの場合はおそらく天然だろうが、狙ってやっているんだったら……ギルドマスターなんかの重役をも、口で言い負かせるかもしれない。


しかし、分かってやっているわけではない以上、その可能性は無いが。





彼女にナギの突発的な行動を起こした理由を話すと、彼女はおどけたような顔をした。






「そっかぁ〜。ナギちゃんももうそんなお年頃なのかなぁ〜。」






にやにやと性質の悪い笑みを浮かべている彼女にため息をつくと、シンちゃんはどう思う?とこちらを見上げて問うてくる。








「……ま、こんな母親のもとで、よくも真っ当な感性で育ったもんだとは思うよ。」






憎まれ口を叩くと、彼女は怒る様子も見せずにケラケラと笑った。







「う〜ん……じゃあ、ナギの引きこもりはあなた譲り?」
「んなわけあるかよ!?」





そこははっきりと否定した。
そんな根拠のない冤罪は全く持って勘弁願いたい。

しかし、考えてみると紫子は体の弱さを除けば結構活発なほうであるから……いったいどちらに似たのだろうか。


一瞬考え込んだが、真剣に考えたところでそれを茶化してくる彼女の前ではバカらしくなってそこを離れようと歩き出す。



ナギの警護に関しては、使用人を送る事にしよう。



そう思って、クラウスのいる使用人長の部屋へ向かおうとする。






ふと、彼らの事を考えて、足が少し遅くなる。

彼ら……使用人たちは、彼女に対しては非常に扱いが丁重だ。
それこそ、やり過ぎだと思うぐらいに。





それはきっと、三千院家現当主のあのジジイの影響だろう。

こいつに何かあれば、あの過保護ジジイの前では、どうなるか分からない。










しかし、自分にとってあいつは年甲斐のない、盛りの付いたやつにしか見えない。

それ程恐ろしいと感じたこともない。







いつか、彼女にあまりにこんな口調を叩くものだから、使用人やジジイは俺はこいつをどうにも思っていないと感じたことがあるらしい。





しかし、あいつらの目は節穴だ。

こうして話すことだけが、自分に出来るすべてだったからだ。





自分と同じく、ひねくれていたこいつと話すための。

自分の本当の感情すらも押し込め、周りのために、自然に振舞わざるを得なかった、こいつの自分でも気づいていなかった心と、本当に対話するための。















最初に会ったときは、すさまじく驚いたものだ。





しかし、会ううちに、過ごすうちに。
そこにあるのが当然になっていた。





そして、失いたくないと思うようになった。






始めは、なんてことのないものだったはずなのに。

いつの間にか、心の奥底に根を張って、抜けなくなった。







無理やりこれを引き抜くことも出来た。
しかし深く根を張っているそれを引き抜けば、抉られた地盤は深く大きな空洞になってそこには残るだろう。

それを消すことは、一人ではきっと叶うまい。
一生かかっても消すこと等、出来はしなくなるだろう。

そうなってしまえば、自分は再び――――――。










それでも、そばにいたいと思うほどに、自分の過去が牙を剥く。


何もかも捨ててしまった自分がそばにいるほど、きっとお互いに救われない。

それはこいつも同じだったのだろう。





孤独はいつだって心について回る。
誰がそばにいたとしても、いつも、どんな時でも。
















「シンちゃん」










後ろで、静かな声がした。
いつもの、溌剌とした笑顔と声音で、自分と自分に娘に語り掛ける彼女とは、全く違う声で。



振り向くと、彼女が柔らかい表情でこちらを見つめていた。
どこか、小さな生き物を見ているような目が、自分の双眸を見据える。














「……私は、あなたを置いてどこかに行ったりしない。約束したもの。」







ううん、“行けない”のが正しいかな、と彼女は寂しそうに笑った。










「あなたは、私がいなければ生きていけない。私も同じ。そうでしょう?」








自分の考えていたことを見透かされていた。
ハヤテ……あの、高い能力を生まれ持っていたあいつにすら、読めなかった筈の心を。


しかし、いつもの事だった。
隠し事をしていても、彼女にだけは見透かされた。

そして、それを構わないとしていた、自分の感情に慄いたこともあった。











「あなたは私の事、命を賭けて助けてくれたでしょう?」









彼女はあと何年、何十年生きるか分からない。
過去に彼女の体を蝕んでいた病魔は、この村と、自分の手によって治療することが出来た。



しかし、寿命まではどうなるか分からない。
彼女の命は、後数十年か……明日かもしれない。






だから、残りの命をすべてあなたにあげる。





彼女はにこりと笑ってそう言った。










「あなたが『バルバレの鋼龍殺し』だったとしても、過去を忘れたいのだとしても構わない。あなたが誰だったとしても、それを怖がったりしない。ちゃんとそばにいる。どこかに行ったりしないよ。」











たとえ、あなたが嫌がっても、絶対に離れたりしない。
だって、私にはもうあなたしかいないんだから。

























だから大丈夫。

そう言って彼女は自分の背中にピタリとくっつくと、その細い腕を脇の下から回して、自分の胸あたりで組んだ。

その腕のあまりの細さに、酷く狼狽した。
そして、その暖かさが鋭く胸を突き、痺れたような痛みに体が震えた。







その人肌の暖かさに少し慄いたのが分かったのか、彼女は少し吹きだすと、その回した手を離した。






そして、いつものあの彼女に戻った後、『ナギを迎えに行くぞ〜』と拳を振り上げてどこかへ行ってしまった。





クラウスに伝えるのがまた面倒になるなと思いつつも、やはりいつものように不快感は無かった。





感謝の言葉は、またしても言えなかった。




彼女は、自分にそれを言わせる事は望んでいないのだろうと思ってしまうことがある。

彼女の言動はあまりにも自然に、人に何かを言わせなくしたり、言わせることも出来るような不思議な感覚を持っている。




それが、彼女の周りに人を集める原因なのだろう。
現に、こうして自分もここにいるのだから。











いつもはそうは思えないが、時折こちらがびくりとするほど大人びた表情を浮かべる彼女には、少し恐れを抱いてしまう。



しかし、それで幾らか救われている自分がいる事にも気づいていた。












彼女の足音が、パタパタと響く音だけが、廊下に反響していた。
























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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.89 )
日時: 2014/06/14 21:13
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

愛だあああぁぁぁぁぁ!!!!!

どうも、タッキーです。
相変わらず、二人の愛は揺るぎませんね。
自分もこんなのが書きたいです。

今回はシンさんの優しさというか、悩み(?)が出ていたと自分は感じています。ぬぐいきれない過去をナギに隠すあたり、ゆっきゅんの言った通り寂しがり屋なんですね。ナギがそのことに気づく時がくるのか、これからの展開が気になります。
それにしても、ひねくれたゆっきゅんですか。なんだか分かりかねますね。やはり病気の事とかが原因なんでしょうか?しかし彼女のシンさんから離れられないという言葉、愛ですね〜。こういうのホント大好物なのでありがとうの一言です。

前回のハヤテは結局フラグ建てましたね。ナギだけですけど。
ハヤテでもG級ソロ狩りは緊張するんでしょうか。ナギ途中までついてくることを許したり、奢ったり・・・
でも、皆を守る為に一人で危険に立ち向かう姿、くぅ〜!そこにしびれる、憧れる〜!
なんだか凄くハヤテっぽい感じが出せていたと思います。
しかし、この選択だともしジンオウガに勝っても、残された女性からの・・・
まぁこの事はあまり考えないでおきます。

それでは最後に一言


愛だあああぁぁぁぁぁ!!!!!


次回も楽しみにしてますね。

それでは
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.90 )
日時: 2014/06/14 22:59
名前: 壊れたラジオ

感想どうもありがとうございます!

自分は恋愛系は難しくて苦手ですが……この二人に関しては書かざるを得ないので、悶々とした日々を送ってます。
ここでこれなら、回想篇はもっと凄いことにしないとだめですね……いや、この二人のCPは、ハヤテのごとく原作でほとんど一番好きですしねぇ。
艱難辛苦を乗り越えてでも書きたいですね。
この二人に関しては、本気でラブコメを書きたいです。
大の大人二人ですから、難しいですけど。


ゆっきゅんのひねくれに関しては、確かに違和感ありますね。
しかし、回想篇ではそのあたりの補完をしたいなと思っています。


ハヤテの緊張具合に関しては、次で分かるかもしれませんよ。
結局フラグは立てましたね。ヒナギクさんたちを期待していたのならすみません。
そのうちに出てくるとは思いますがね。


女難の気に関しては、もうどうしようもないですね。
勝っても負けても地獄という事で。
このフラグメーカーめ。


ハヤテのCPに関しては、実はまだ決まってません。
ヒナギクさん一歩有利か?と思うこともあれば、チハルさんもこの話では大胆ですし。
サクヤやナギも考えようによったら転がる可能性も……
あと、登場させていないキャラに傾く可能性も……
うん……この絶対無敵の旗創作者<フラグ・クリエイター>め。


愛ですかぁ……やっぱり、この二人に関しては改めて頑張りたいです。







では……
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.91 )
日時: 2014/06/14 23:14
名前: 壊れたラジオ

『月下雷鳴』








今回、ベースキャンプの前にいつもいるはずの門番はいなかった。








ギルドからの通達で、彼らもまた避難したのだ。
今回のクエストの危険度が、いつもの比ではないことを顕著に表しているが、それが分かり切っていたハヤテは躊躇なくその門の金錠を外した。







ガチャン、と言う無機質な音が静かで、真っ暗な通路に響いた。








ところどころ、一部が錆付いた門を押すと、少し肌が粟立つような音を立てて開いた。
人一人が通れるほどの間をあけると、彼は後ろ手にその門を閉め、内側からロックした。
後から増援が万が一押し切ってきても、入れないようにするためだ。








危険さを考えると、上位のハンターが入ってきたとしたら、足手まといになる可能性も高いからだ。
彼、彼女らのプライドを著しく損なうかもしれないが、安全を考えるとどうしてもこのやり方をせざるを得なかった。








キャンプまでの道。
ここに来てから四回目の道だったが、アオアシラの時と同じくここは暗いのだ。




右手の方にある、落下防止のロープはぎしぎしと音を立てていて心もとない。
掴まないほうがいいかもしれない。














今日は、雲一つない満月。
その月明かりは、目で回りが見える程度には明るかった。










なんとなく下を見下ろしてみると、渓流の風景は、数日前と変わらずそこにあった。


水気をたっぷり含んだこの地域の大気が薄い靄となり、月の明かりで浮かび上がる。
その下に夜風でさわさわと揺れる、温帯特有の広葉樹の葉と、尖った山岳から流れ落ち、水しぶきを上げる滝がうっすらと見える。
















月光で照らし出される風景は変わらず美しかった。

しかし、晴れやかな気持ちには、どうしてもなれなかった。














そして、山々の合間に広がる鬱蒼とした巨大な森。
その隣を流れる、轟々とうねる大河。
山の一部が崩れてできた、灰色をした崖と、水の浸食作用でできた洞窟。
















この中のどこかに、ジンオウガが潜んでいる。



















ざくざくと足を覆っている堅いレギンスが歩いている岩場にこすれて音を立てる。



随分と深く考え込んでしまっていたらしく、気づくとすでにベースキャンプに到着していた。














ベッドは他のハンターも使ったのか、この前と比べても別段埃をかぶった様子は無かった。

まあ、村人の生活の生命線もここの狩場はまかなっているわけだから、納品クエストでここに赴いた人間がいてもおかしくは無いだろう。












ハヤテはベッドを少し確認した後、支給品ボックスに手をかけた。

初めから期待はしていなかったものの、その中には何も入ってはいなかった事に少し落ち込んだ。




ここに一番最後に来たハンターの納品クエストの時にあったものを少しでも残しておいてくれれば良かったのにと思わないでもないが、
それも彼らのクエストにも必要であったことも仕方ないことだ。



初心者の場合は、こういった支給品も含めて、全ての力を注ぎこまないとクエストはクリアなど出来ない。

実際、彼も駆け出しのころはそうであった。

しかし、こういった重大なクエストの時にも、あったほうが心強いことは確かではあったが。

















「……ま、仕方ないか。」









ハヤテはそういうと、自分の持ってきたポーチを確認し始める。
自分が今までジンオウガと戦ってきた経験から、必要だったものや有効なものをポーチに入るだけ入れてきていた。

ビンも同様だ。
今回の弓に装填できるだけのビンの種類を持ってきた。














しかし、不安は消えない。
元々、何人かで事に当たろうとしていたのだ。




人が多ければ多いほど、ポーチにも余裕が出来る。
アイテムは一人の時よりも、軽く4倍を持ち込めるのだから、当然有利になる。





逆に言えば、今回ソロであるハヤテは必要最低限の物しか持ってこられなかったという事になる。


ソロ狩りを専門としているハヤテであったとしても、今回のあのジンオウガに対してはこれまでのようには行かないだろうと直感していた。















回復薬や、弓を引くために必要なスタミナを切れないようにするためのアイテムを一つ一つ確認し、取り出しやすい位置へと整理していく。


そして、ここに来るまでの雑貨屋で買い求めた緑色の箱二つをその隣に忍ばせる。
これを上手く使用できれば、狩りの成功率はぐんと上がるだろう。

しかし、使いどころが難しいのが難点であったが。
















次に弓を背中から取り出した。
弾薬ポーチの中からビンを取り出すと、金属のジョイントを外してエッジを開く。

ビンのシリンダを奥に挿入し、エッジを突き立てて固定する。

そのエッジの先についていた細いパイプがビンの蓋を貫通し、弓矢の矢掛に薬品を流れ込ませる。

ここに矢を装填すれば、この薬品がその矢に塗布されるという仕組みだ。


そして矢を放った衝撃で、カラになったビンをシリンダのギアが押し出し、次のビンを装填する。













その一連の作業を確認すると、ハヤテは弓のジョイントを閉じ、コンパクトに二つ折りにしてたたむ。


背中にそれを引っ掛けると、ポーチのベルトを締め直し、前を見据える。








人が何回も通ったであろう、そこだけが草の生えていない道を見る。
その下り坂は、下に見える渓流につながっている。



ハヤテは、迷うことなくその道を下り始めた。


















*             *























『雷狼竜・ジンオウガ』








主に起伏に富んだ山林の奥地に生息する大型モンスター。






近年新たに確立された『牙竜種』と言う種族に属するが、現時点ではこのジンオウガのみ。

食性は完全な肉食性で、ハヤテの故郷では陸上の生態系ではリオレウスなどと並び、最上級に君臨していた。









嘗てのギルドの公式な記録では、僅かに名前が残っている程度であり、ハヤテが孤島に住んでいた個体の情報をギルドに提出するまでは、有名ではあってもほとんど生態が知られていないモンスターだったのだ。






しかも、その僅かな資料も「肉食性らしい」「強力な放電能力を持っている」「奇妙な球状の光を無数にまとっている」といった非常に不明瞭な情報のみであり、ハヤテが孤島のジンオウガの生態を発表した時は学会に大きな衝撃が走ったものだ。















また、ユクモ地方にある渓流の奥地では村人による目撃証言も存在していたようだ。















但し、彼が読んだこの村の文献やメジャーなおとぎ話には「その昔、とあるハンターが彼に挑んだ」という話が残るのみであった。








かくも謎多きモンスターであった理由は、長年の調査により、ジンオウガの生息地にあるという事が分かってきた。






彼らは、群れで子育てを行う習性を持つらしい。
人里離れた豊かな地域の奥深くにしかその姿を見せないジンオウガは、本来人目に触れる事が滅多にないモンスターだった。





結果的に中々見つからず、生態研究自体が行われてこなかったのである。






ハヤテは自分の書いた図鑑の文字を、歩きながら見つめる。
そこには、ジンオウガの精密なスケッチや、ある程度の解剖図も書きこまれている。



















その身体は青い鱗と黄色い甲殻、白い体毛で覆われている。
頭から背中、尻尾にかけては甲殻の割合が多く、腹や首には毛が多く生えている。




蒼い甲殻は蓄電殻、真っ白な体毛は帯電毛と現在は呼称されている。
蓄電殻は電気を発生する特異な脂質を備えており、生みだした電気を帯電毛に蓄え、更に増幅している。





また、険しい山地を疾駆するため、四肢の力が強く発達しているのも特徴の一つだ。
特に前脚はその強靭な甲殻と厚い鱗の下に著しく強靭な筋肉を備え、尋常ではない膂力を持っている。

それは、過去や昨日に実際に喰らったハヤテは良く分かっている。











またこれも確かに分かっていることなのだが、爪も極めて鋭利な形状をしており、獲物や外敵を一撃で仕留めるほどの強力な武器となる。

実際に木々を刈り倒し、近くにいた小型モンスターたちを切り裂いていたのを見れば、それは疑いようのない事実だろう。
















前述の通り、甲殻で発電を行い、体毛でそのエネルギーを増幅する能力を持つ。
しかし、ジンオウガ単体で攻撃に利用できるほどの電力を生み出すことは困難であり、放電による攻撃も基本的には行わない事が分かっている。


実際にジンオウガの武具を武具職人に作ってもらったところ、非常に強靭な爪や角、そして鋭利な甲殻や頑丈な鱗は武器や防具としては比類なき力を秘めていた。


















しかし、雷属性の能力と言うのはそこまで発達したものではなかったのだ。
それは、単体では、同じく雷を扱うラギアクルスにも及ばない。



















しかし、実際のジンオウガはその限界をはるかに超えた蓄電量と、発電量を有している。






















ハヤテは、その答えがハンターにとって、非常に身近なところにあると考えていた。


ハンターの必需品『シビレ罠』だ。













これは、<雷光虫>を<トラップツール>の中に込め、その発電力と増幅能力を利用し、膨大な電力でモンスターの筋肉を弛緩させて拘束するアイテムだ。

しかし、これは帯電したジンオウガにはほとんど効かないどころか、壊されてしまう。








そして、ジンオウガが周りに纏っている、あの蛍のような蒼光。

それはジンオウガの雄叫びに呼応するかのように舞い上がり、その色を変質させていく。



あれは、おそらくシビレ罠に使用されている雷光虫と同じものだとハヤテは考えていた。












只の机上の空論ではあるのだが、ジンオウガの蓄電殻にある電気を発生させる脂質には雷光虫を引き寄せるフェロモンのような役割がある。
雷光虫にとっては、それは抗うことのできない麻薬のようなものであるのだろう。
















そして雷光虫の体質自体を変容させ、自分の意のままになるようにしている。
通常は緑色の薄い光を放つ雷光虫が、ジンオウガの周囲にいるときにあの鋭い蒼い光の球になるのはそういう理由だろう。






その脂質による体質変化により、発電能力と蓄電能力、増幅能力の全てが異常活性状態にあるのだ。
そして大量の雷光虫から供給される電力に加え、自分の作り出した電力を周囲に飛び交っている雷光虫に分け与えることで、そしてその活性化した雷光虫がその電力を増幅したものを利用するのだ。






因みに雷光虫がジンオウガに身を寄せる理由としては、雷光虫にとっての天敵であるガーグァから自分たちを守ってもらえるためというのもあるだろう。

雷光虫は、絶縁体の嘴をもつガーグァに捕食される危機をいつも持っている。
そして、非力なガーグァは、ジンオウガにとっては格好のエサであり、強力なジンオウガのそばにいることで、その危険を払拭できる。



雷光虫にとっても利益があるので、つまり、ジンオウガと雷光虫は相利共生の関係に当たると見る事も出来るのだ。





そうすることで、自らの発電力の限界を超えた膨大な電気エネルギーを身に宿す事ができるのだろうと、ハヤテは想定している。


















その電力が最大限に達すると、天に向かって咆哮し、それを合図とするように角や蓄電殻が上向きに展開され、全身から電光を迸らせる。

この姿になったジンオウガを「超帯電状態」と呼び、元々相当の力を持つ彼らの攻撃を一層苛烈なものにする。



















ハヤテたちが見たジンオウガの姿は、こちらの状態だった。

今考えてみても、よく逃げ切れたものだとハヤテは嘆息する。

















なぜなら、超帯電状態のジンオウガが誇る電力はあの海竜ラギアクルスと同等、若しくはそれ以上とされる。


ハヤテがいくつか邂逅した個体では、落雷にも匹敵するかという凄まじい放電能力を発揮する姿も確認していたし、昨日の個体もそれを見せていた(と言うか喰らった)。
















ただ、この状態のジンオウガは、甲殻が開いているために守りは弱くなっている。
ならばそこに付け込めるかと言えば、それは否と言えるだろう。

攻撃力や俊敏性が飛躍的に上昇しており、疲れを見せる事無く矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくるためだ。




また、超帯電状態でも身の危険を感じる強敵に出会うと、蓄電殻や帯電毛から蒼白い電光を発し、より激しい攻撃を繰り出すようになる事も分かっている。

















そこまで読むと、ハヤテはパタンと図鑑を閉じた。

今この状況で図鑑を読んでいるのは、これから戦う相手の情報を再確認していたと、ほぼ全ての人は考えるだろう。







しかし、この図鑑。
特に、自分で書いたこの図鑑の内容など全て記憶している彼が、再確認のために読む必要などない。




と言うかこんな所で図鑑など読んでいたら、どうなるか分からない。

狩場で少しの油断も、一切の妥協も許してはならないはずだ。
















その状況で、何故。














そこまで考えて、ハヤテは自嘲するかのように笑った。



考えるまでもない。
自分は激しく緊張しているのだ。







あのジンオウガの条規を逸したと一目で分かる実力に対して、自分は怯えているのだ。

こんな自分を、いつも見ていた人間に見せたら、どんな反応をするだろうか。










おかしいと笑うだろうか。
それとも、自分がここまで怯える相手に、強い恐怖を得るだろうか。







ハヤテは図鑑をポーチのサイドについている小さなポケットに収納すると、目線を今通っている道に向ける。











彼が通っていた場所は、エリア1とエリア4の境目であった。

かなりの急斜面であり、露出したごつごつした岩場には小さな水の流れがあり、それに従って苔が生えている。



踏みしめるたびにその苔が足元を掬うため、進みにくくて仕方がない。
しかもこの間の土砂降りで上のエリアから泥が流れているため、もっと歩きにくい。







しかも今は夜。
両サイドに木々や崖の段差があるせいで光がほぼ入ってこない。


普通なら松明を使う所だが、ハヤテの卓越した感覚はそれなしでもどこに何があるかは把握している。

把握していても歩きにくさは変わらないので、あまり楽にはならないが。














どうにかこうにかその崖を下り降りると、広々とした草原地帯であるエリア4へと到着する。


月光に照らされた人の住んでいたという廃墟を怪しく照らし出している。


鈴を鳴らしたような虫の声が草むらの中から聞こえる。
心地よい湿気を適度に含んだ夜風が彼の頬を撫でていく。


降りるのに時間がかかっていたのか、先ほどよりも月は高く上がり、澄んだ空気とこの地域の高い標高は、美しい星々を一層光り輝かせていた。














ただそれを聞き、感じ、見ても、今のハヤテは何も感じなかった。

なぜなら、それを感じるという事はそれだけの余裕があるという事だ。




エリア4が、非常に閑散としていたのだ。
ここには、いつもなら小型モンスターたちがエサを取りに来るため、静かになる事など殆ど無い。

ハンターが来たら、一切の油断など出来ない。
つまりは、そんなことを気にする余裕など、普通はある方がおかしいのだ。


















ハヤテはあたりを見回した。









そこには、小型モンスターの影も形も見えない。

しかし、疑問は無かった。














理由は単純だ。

普通ならば小型肉食モンスターは大型モンスターにつかず離れずの位置にいる。
つまり、おこぼれに預かりたいが、危険なのは御免と言うわけだ。



だから、大型モンスターが特定のエリアに居座っていても、別のエリアから小型モンスターが消えることは無い。

















……そう、通常ならば。







今回は、そのおこぼれに預かるどころか、近づけば殺されるという絶対的な恐怖が彼らの身を隠させているのだ。

つまり、そのモンスターの絶対的なまでの危険性は、それほどのものという事になる。
















ハヤテはもう一度周りをゆっくりと見渡した後、エリアの端にある通路に目を向けた。


そこはまるで丘のようになっていて、下には巨大な大河が流れているのが見えた。






ガノトトスが遡上してきたほど巨大な川だったが、その川の水源はこの近くのエリア6を流れる川だ。

アオアシラと戦った場所だが、その水深は人が普通に走れるぐらいに浅い。
森の中を流れるため、その栄養分をたっぷり含んだ水は、この渓流の下にある村々の貴重な生活資源となっている。















それは、モンスターも変わるまい。













おそらく、ジンオウガはこの下の川面に現れるだろう。
エサをとるためか水を飲むためかどうかは分からないが、あれだけの巨体を維持して激しい運動をするとなると、こまめな水分補給を必要とするはずだ。



ハヤテはそこに降りるためのなだらかな坂道を下っていくことにした。




















*               *






















高く成長した葦が、大河のそばに生えそろっていた。
ふさふさとした穂がその先について、ゆらゆらと揺れている。







そこには、緑色の光をした球のように輝く雷光虫がその羽を休めていたり、ふわふわと舞っていた。








栄養豊富な泥は、川の端に追いやられて積み重なって不安定な土手となっている。
その上に葦が深く根を張って、その地盤を多少なりとも強くしている。









そして、その枯れた葦は水中生物や虫たちの貴重な栄養分となり、豊かなこの生態系を作っていた。






そして、それを食べに来るだろうガーグァなどの小型モンスター。

さらに、それを食べに来るだろう、大型モンスター。























ジンオウガ。























奴は、多かれ少なかれ、ここへ来たはずだ。

そして、縄張りを侵されることを激しく嫌う種類だから、その凄まじく鍛えられた感覚で侵入してきた不埒な脆弱者を排除しようと動いてくるはずだ。





その今回の脆弱者……つまり、今回あいつをおびき出す“エサ”は、この自分だ。



















「……」















ハヤテは息をひそめ、葦の中に身を隠した。

気配は消さない。
出来ないことは無いが、今回の目的はあくまでもおとり。

この広い渓流をしらみつぶしに探すのは時間の浪費だ。
だから、あちらから出向いてもらうのだ。





気配を追って、奴は必ず姿を現す。
ハヤテはそれを待っていた。


























そこで、ふと、あのジンオウガの姿が脳裏に蘇った。























そして、あの心の中にこびり付いているあの感覚にも、なぜか意識が向いた。

そんなことを思っている暇などない筈なのに。

















ハヤテが身を隠したことで鳴くのをやめていた虫たちが、再び声を上げ始めた。
後ろで音を立てる川面には、歪んだ満月が浮かんでいるのだろう。





あったのは、静寂のみ。
それだけしか、このエリアには無かった。


















































突然、ハヤテの正面にあった森林が揺れた。
どう考えても突風で無く、そこだけがまるで見えない手にかき乱されているように。



ハヤテは神経を鋭く尖らせて、そちらに意識を一気に集中する。

しかし、その正体を察知した瞬間、ハヤテの極限まで引き絞られた感覚神経は緩む。











飛び出してきたのは、数頭のガーグァ。
そしてそれを追う、やはり数頭のジャギィ。



小型モンスターはいないと思ったが、少数の例外はあったようだ。













そう思ったが、何かその様子がおかしいことに気づく。


この状況では、獲物はガーグァ。
獲物を捕らえようと狙っているのはジャギィのはずだが……



どちらの様子も、なんだかぎこちない。







その様子は、追うものと追われるものと言うよりも……


“どちらも追われる側”で、何かに怯えて逃げているようで。




























ハヤテは再び神経を集中する。
先ほど彼らが飛び出してきた場所を見つめた。


彼らの飛び出してきた森と、このハヤテが隠れている土手の間には段差がある。
昔のこの川の浸食されたらしいのだが、その段差のせいで森の奥の暗くなっている部分は良く分からない。

精神を集中し、感覚器官をフルに活用したハヤテでも知覚が難しい。













しかし、彼の感覚ははっきりと捉えていた。

こちらに近付く、巨大な“二つ”の影を。

























































瞬間、巨大な爆発音がして、段差を構成していた岩塊ごと吹き取んだ。


木の枝や、泥に砂や礫が飛び散り、ハヤテの上に覆いかぶさる。

虫たちは、鳴くのを即座に止めて一気に飛散する。







何か巨大で重い、しかし岩とは全く違う感触の物が地面に叩きつけられたような音が響く。

それは大概重かったらしく、こちらにまで振動が及ぶ。







ハヤテは砂まみれ、泥まみれになりながら、葦の隙間からそれを見据える。
























吹き飛んできたものに、彼は既視感を感じた。


全身を覆う青い体毛。
上半身を覆う、薄い褐色の棘の付いた甲殻。


そして、ハヤテが苦手と評していた、赤い目を持っていたその巨大な生物。



























『青熊獣・アオアシラ』





この間、ハヤテやヒナギクと戦った種類の別個体だ。



どうしてこんなところにアオアシラがまた、と考える暇もなかった。





そのアオアシラには、体の至る所に大きな傷が出来ていたのだ。
その自慢の堅い甲殻はところどころ剥がれ、鮮血が体中から流れている。





まるで、“狩られた”と言うよりも、その傷はまるで凄惨な処刑だ。



どこかの領土を、無断で犯した、その罰として。











おそらく、この間から時間がたっていない事や、ここにあれがいる事を考慮すると、只迷い込んだ個体なのだろう。


それが、自分の命を著しく縮める選択だったとも、露知らず。










巨大な木の幹が、ゆっくりとへし折れる音がした。





その音に怯え、アオアシラは急いで立とうとするが、吹き飛ばされた際に叩きつけられた後ろ足を引きずっているため、上手く立つことが出来ない。







それを悠然と、しかし強烈な怒りを持って見据える、たった一つ輝く眼光があった。









巨大な体躯。
それは蒼い甲殻と、美しい白毛に覆われている。

その下には、如何なる獲物も意のままに抑え込めるだけの巨大な筋肉が隠されている。



この哀れな犠牲者に振るわれたであろう爪は、月光を反射して鋭利に輝く。



口の周りの鋭い甲殻を歪ませて、その野太い牙を剥く。
喉の奥から絞り出す、一息ごとに鈍い憎しみと共に吐き出される吐息が、白い靄のように立ち上る。









片方の目。
そして片方の角がへし折れたいかつい顔は、彼が潜り抜けて来ただろう修羅場を彷彿とさせる。

















その残った片目の蒼玉が爛々と怪しく、彼の牙にかかった獲物を見据えている。



















その目には、一切の情けも容赦も憐れみも無かった。

まるで、自分に降りかかった災厄を、ぶつけどころのない怒りとして、何かにぶつけようとするが如く。



そして、自分の住処を、奪わせたくないと思い、入ってきたものに対して全く容赦することがなく。


















それは飛び出した。
その二十メートルを超える巨体が宙を舞う。





ドスン!!!と言う鈍い着地音を立てて着地する。
アオアシラの比ではない振動がハヤテの足の裏に伝わってくる。





それは一切勢いを緩めることなく、頭を低くして突進する。

体重約15トンの巨体の衝突で、傷付いたアオアシラの体は、ゴムまりのように跳ね飛ばされた。

近くの岩盤に再度叩き付けられたアオアシラの体が、綿が駄目になったぬいぐるみのごとく、だらりともたれ掛る。

彼に、もう抵抗できるだけの力は無かった。












































それは荒く息を吐きながら、アオアシラを見下し、睨みつけた。

戦意喪失した相手に倒しても、赦しの表情を見せる事は無かった。























「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」











耳の鼓膜を押し破りそうなほど巨大な、太く低い声を上げてそれ……ジンオウガはその木の幹を何本も束ねたほどの太さの前足を振り上げた。



それが叩き付けられる威力は、その腕自体の力と重さに従って破壊力を増す。








鈍い音がして、小型の地震でも起こったかのような衝撃があたりに響く。

その足はアオアシラの頭を叩き潰し、血も頭蓋を構成した骨の破片も脳漿も一緒くたになって飛び散る。



























「オオオオオオオオオオオオオッ!!!」













それでも、怒りの冷めやらぬジンオウガはその巨体を弓なりにしならせて、天空に向かって絶叫した。

それに呼応するかのように、先ほど飛び散った光が一陣の光の風のようになって、放射線を描いてジンオウガに集中していく。



そして、光が優しい緑色から、鋭利な蒼へと変質していく。






その光の竜巻が完全に蒼く、冷たい色に変わり切った後、ジンオウガは全身の力を爆発させる。











































「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」











































全身の甲殻が開き、その中にある発電を行う白毛と蒼く輝く体表の器官が姿を現す。

体に生えている白毛が、静電気を帯びて一斉に逆立つ。





鱗の継ぎ目から、抑えきれないほどの電光が漏れ、バチバチと這い登っていく。

凄まじい電気量により空気中の物質自体が変質して、異物臭が鼻を刺す。






全身の甲殻が開いたことにより、抑え込まれていた筋肉が膨張し、いたるところが盛り上がる。

その角と、肩に生え揃うスパイク上の甲殻が全て天空を向いたとき、『無双の狩人』たる王者が姿を現した。














こちらを凝視するかのように、その太く頑丈な筋肉に覆われた首をひねって自分を見下ろしてくる。

自分がどこにいるかも、確実に把握しているのだろう。









ハヤテはゆっくりと立ち上がった。

背中に手を掛け、自分の得物を開いた。































氷が割れるような音を立て、ハヤテの今回の最終兵器が姿を現す。












『琥牙弓・アルヴァランガ』

その雪色に輝き、水分の多い渓流の空気を凍てつかせてダイヤモンドダストのように月光に輝く霜を纏った弓身。

それに備え付けられた、琥珀色の牙がジンオウガに向けられる。













ジンオウガが両前足を踏ん張り、帯電状態になって凄まじい事となっている背中の体毛を一層逆立たせて臨戦態勢を取った。

その、怒りに染まった目には、光がなかった。


















ハヤテは矢を一本つがえると、ジンオウガは頭を低く下げ、突進の体制をとる。




















矢が放たれる。
その矢が空気をつんざいて、金切音を立てて空気を凍らせながらジンオウガに向かって一直線に飛ぶ。














その矢は命中した。













この渓流では、この季節ではありえない強烈な冷気が発せられ、甲殻の一部を凍らせる。

しかし、それはジンオウガの怒りをさらに高めるだけだった。






甲殻の継ぎ目に突き刺さった矢を全くものともせず、ジンオウガはその巨体を空中に躍らせた。





こちらに向かってくる牙の生えそろった口をハヤテは見ながら、矢筒からまた矢を取り出した。



























ドオン!!!と言う鈍い衝撃が、渓流を取り囲む山々に山彦のように響いた。












































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.92 )
日時: 2014/06/21 15:46
名前: 壊れたラジオ

『暗雲の館』





空は完全に夜の帳に飲み込まれ、煌々と輝く月と星々だけが、自分に薄い影を作っていた。
ハヤテと橋の前で別れたナギは、その自分の影をしばらくぼうっと見ながら、そこに立ち尽くしていた。

そこまでの記憶しかなかった筈なのだが、自らが意識していないうちに動き出した体によって、街の入り口付近まで戻ってきたようだった。

そこでふっと意識が戻った彼女は、あたりを見渡して体が震えだしたのに気付いた。





何を隠そう。
自分はひどい暗所恐怖症なのだ。
今まではハヤテがそばにいたから気にも留めないほどであったが、一人でこんな町の裏道をとぼとぼ歩いていたら、それはもう恐ろしかった。



しかも、もうだいぶ遅い時間になっていたのか、人の出はほとんど見当たらない。
何か得体のしれないものが出てきそうな、真っ暗な夜道を見つめると、足ががくがくと震えて歩くことも、立つ事すらおぼつかない。





(まずい……本当にまずいのだ……)





誰ともなく、そんな事を思っている暇があるのなら、さっさと立ち上がって屋敷に戻るのが賢明なのだろうが、その歩くことすら出来ないのだから世話無い。





自分はモンスターとか病気で死ぬのではなく、こんな路地裏で死ぬのか……なんて弱気になった時特有のネガティブ思考が頭の中にちらつき、嫌な事しか頭に浮かばない。



……自分たちを救いに行ったハヤテの事に関しても、最悪の予想しか出てこないから嫌だった。


















「おい」








後ろから低い声が響き、彼女の小さな体がそれと分かるほど大きくはねた。

恐る恐る振り向くと、そこには自分がよく見知った、自分と似たような金髪が目に入った。










「ち……父!?」
「こんなところにいたのか……探したぞ。」








シンは心底呆れたような顔をした後、ナギの腕をガシッと掴み、自分を立たせた。
意識していたわけでもないのに、自分の目がうるんでいくのを感じ、ナギは目を伏せた。


どうも最近、自分の涙腺は緩んでいるようだと思うが、それがどうしてかは分からない。











「もう遅い。帰るぞ。」









彼の事だから、説教が最初に来ると思い、彼女は頭を伏せていたのだが、彼の口から出たのは、かなり淡白なセリフだけだった。

まるで、最初から自分がどこに行っていたのか知っているような感じだったので、ナギは首を傾げた。









「……説教は家に帰ってからだ。」









やっぱりかーーーーー……



それもそうだとがっくりと肩を落としたナギに、シンは少し鼻を鳴らした。
どっちかと言うと、こちらを嘲笑うような雰囲気だったこともあって、彼女はついと顔をそらした。





ただ、いつまでもそうやっているわけにもいかない。
そう思って歩こうとするが、足がいきなり絡まってつんのめり、シンに向かって倒れこむ。

恐怖心や、安堵から足の力が抜けてしまっていたらしい。
それを見ると、彼はため息を一つついた後、何の躊躇もなく彼女を抱え上げた。



色気もへったくれもなく、ただ荷物を担ぎ上げるようなやり方である。
ハヤテもそうだったが、ハンターと言うものは得てしてこういうものなのだろうかとナギは少し膨れてみた。

が、シンも気にかけた様子は無かったが。





































*              *




















時計(ナギは三千院家の特注の正確な小型懐中時計を持っている)を持たずに家を出たせいで、今がいったい何時なのか分からなかったが、人の出から考えて深夜だと考えていた。



しかし、屋敷の時計を見ると、まだ8時にもなっていないことに驚いた。
そして、人通りが少なかったのは、食事を終え、温泉もひと段落する時間帯だったことと、彼女がいたのは人通りの少ない裏路だったから……らしい。



ならどうして父は自分の場所が分かったのかと聞くと、“カン”と答えた。
自分が漫才の役者のようにずっこけたのは、少し恥ずかしかった。


やはり、程度の差こそあれ、ハンターとはこんなもんなのだろうか。







食堂にはかなりの量の食事が用意されていたが、外で食べて来たというとクラウスが絶対うるさいので言わないことにする。

それに、あの思い出は自分の中だけにおいておきたいというのもあったが。





隣のシンに食べないのかと聞くと、『外で食べた』と淡白に返された。
やはり昔はハンターだけあって、こういう事には慣れていたのだろう。



少しうらやましく感じ、ナギは少しため息をついた。













「部屋に戻るぞ」








シンが不意に言った言葉に、ナギは身構えた。
とうとう恐れていたことが起きるのだろうか……と思うと、震えが止まらない。





何時も怒られている母はどうか知らないし、彼女を怒るときはほとんどふざけあっている様子だったので怖くもなんともないが、
自分が時たま悪いことをした時に怒った父は本当に恐ろしい。




何せ、言葉を発することなく、体から発する気かなんかでこちらの心理の奥底を恐怖で包み込むような……と言えばいいのか。


具体的に言えば、この家で最大級の権力を持つジジイすら怯えて土下座するほどの恐ろしさを持つのだ。





本気で怒った父ならば、母を簡単に反省させられるのに、と思う。
しかし、彼女に対してだけは見たことは無かったのだが。







それも昔ハンターだったことの名残なのだろうか、と考えていたが、今はそれどころではない。


勝手に護衛もつけずに外に出ていったことに、クラウスも含めて説教するつもりなのだろうか。
そうなったらヒッキーの自分が、さらにグレードアップしてキングオブヒッキーになるかもしれない。




よく掃除されたカーペットの上を、シンの後ろでとぼとぼと歩きながら自分の部屋へと戻っていく。
それをちらりと見ると、彼は少しだけ笑うと口を開いた。













「……説教は、また今度だ。残念だがな。」







その言葉を聞くと、自分の顔が思わずほころぶのを感じた。
良かった……と大きく息を吐くが、一つの疑問が残る。





説教で無いのなら、何の話があるというのだろう?







シンはただし、と前置きをした後に目線を前に戻した。













「場合によっては、説教よりもきついかもしれんぞ。お前に、客人が来ている。」









ああ、そうだっけ。
父は、上げて落とすのが得意な奴だったっけ、と思い出してナギは肩を落とした。


しかし、父の説教よりもきつい客人との話とは?
首を傾げながら、部屋の前にたどり着く。





シンが、どう考えてもこのドア一枚にかける費用とは思えない装飾を施された文様が彫り込まれた重厚なそれを開ける。

重さとは裏腹に、よく金具に油を指されているのかあまり音を立てずにすんなりと開く。
と言うよりも、そうして貰わなければきっとヒッキーの彼女や、非力な彼女の母は開けられないに違いない。









「!?」
「……ナギ……」








そこにいたのは、自分の親友だった。
イスミは、少し困ったような顔をしながら自分の前にいた。





しかし、客人はそれだけではないようだった。
ちらりと見渡すと、ドアと同じく一つで普通の人間が一生で稼ぐような額がするだろう長机に、何人かの人間が座っていた。




その人間は、その職業特有の服装と、表情をしていて。
こちらを視認した途端、はっと目を開いた。










「お……お前らは……」








そこにいたのは、この村で現在専属ハンターをしている人間。
つまりは、父の後任をやっていると聞いた人間。

そしてイスミと同じく自分の親友で、久しぶりに再会したと思っていたら、なぜかハンターとなっていたサクヤ。
そして、その使用人兼、狩人の相方をしているという少女。





彼女らがそこに座ってこちらを見据えていた。















「お前への客人だ……聞きたい話があるそうだ。」










シンがあまり何かを気にしていないような口調で言った。

ナギはその様子に少し苛立ったが、そういうわけにもいかなかった。







ここまでハンターがこんな場所に集結するなど、ただ事ではないだろうからだ。














*                  *




















「……と言うわけなの」









イスミから話を聞いたナギはこめかみを抑えていた。




話によると、どこからかジンオウガの事が集会浴場にいたハンターたちにバレたらしい。
そしてそのハンター達の口コミでそれが村人たちに伝わり、現在集会浴場に人々が殺到しているらしい。






集会浴場は、モンスターに万が一攻め込まれても対処できるだけの設備があるかららしい。
緊急避難所と言う側面を持つので、人々が集まるのは道理だが。







人が少なかったわけだ、と彼女は納得する。











そして、ハヤテが内密に対処しようとしたことは村人たちに知れわたり、一応の安定剤にはなっているらしいが、それでも彼一人に任せてしまったことには不安は隠せないという。





ヒナギクも不安な表情を隠せていない。
おそらく、専属ハンターであるにも関わらず、この危機に対処できない自分に歯噛みしているのと、純粋に彼を心配する気持ちがぐちゃぐちゃになっているのだろう。

それに、彼に対しても対処できるのが彼だけだったこともあり、文句を言おうにもあちらのほうが正しいため、言い返すことが出来ない。

他の二人も似たようなものだろうが、心配の度の方が大きいのだろうか、落ち込んだ顔で武器の整備をしている。









「……なんで一人で行っちゃうかなぁ……」







ヒナギクの一言は、ハンター全員が同じ気持ちであっただろう。
その声には、悔しさがにじみ出ていて、彼女のプライドの高さと、心配の気持ちが見て取れる。






その中で、ナギは彼の様子を思い出していた。













「……そういえば、お前たちはなぜこの村に?」










ナギは、最初から疑問に思っていたことをイスミに聞く。
彼女は思い出したような表情をした後、こちらにおずおずと口を開いた。









「いえ……三千院家の力で、後から来るハンターさんを救援で入れることが出来ないかと、この方たちが意見を……」










そういう事か、と納得して考え込む。

確かに、その方が彼のためにもなるだろう。
安全であるし、確実性も増す……しかし、時間が足りない。





そして、彼の言っていたセリフを思い出していた。














「……ハヤテは言っていた……『あなたのような人間が出ても、ですか』……と」









その言葉に、ヒナギクたちが反応した。
自分がハヤテに会っていたことに心底驚いたようだ。


しかし、シンのみが全く表情を変えていなかったところを見ると、初めから自分が彼に会いに行っていたことを知っているように思える。





内心、狸か……表情を隠すのが得意なポーカーフェイス野郎と思ったが、ヒナギクのセリフにその思考は止められる。











「あなた……ハヤテ君と会ってたの?」









頷くと、彼女は机をたたいた。
その音が広い部屋に反響して、ナギは少し体をびくつかせたが、引くわけにはいかない。












「なんで止めなかったの!?ハヤテ君なら止めに行くって分かっていたでしょ!?」
「止めたさ!何度も!……でも駄目だった。止められるハンターは自分一人しかこの村にはいないと言って……それにお前だってハヤテなら止めに行くと言っているじゃないか!お前なら止められたとでも言うのか!?」








その言葉に、ヒナギクは言葉に窮して座り込む。











「……ごめんなさい。」
「いいさ……私がお前なら、同じ反応をしただろうさ……」







心の中はどうか分からないが、見た目では静かになったヒナギクは謝罪の意を表し、額に手を当てた。

しかし、彼女の言葉は至極当然なものだっただろう。
彼を止められなかった自分に、少しの罪悪感を感じて、こちらも顔を伏せた。












「……ハヤテくんは、なんと?」








サクヤの使用人の少女が口を開く。
その表情はハヤテやシン程ではないが、読みにくいものがあった。

しかし、現在はそうでもない。

彼女の目を見ながら、口を開いた。













「……もし、パニックになったとしたら自分が対処しているから心配しない様に伝えてくれ……と。」
「…ハヤテくんらしいですね、本当に。」










少し目を見開いた後、クスッと笑った彼女に少し眉を潜めた。
自分の知らない彼の過去を知っているような素振りに、今まで感じたことのないぐちゃぐちゃな感情が湧き上がる。




それに気づかなかったのか、彼女はすっきりとしたような表情をした後、落ち込んでいたサクヤとヒナギクの背中を軽くたたいた。












「ハヤテくんが対処しているんです。大丈夫ですよ……私たちがそれをよく知っていますし、その私たちが信じなくてどうするんですか。」








彼女は何も恥ずかしがることもなく言い切ると、自分の武器をつかんでポーチの中のビンを取り出して調整していく。








「……いったい何を?」
「もしもの事があった時、ここの村の人を守れるのは、私たちだけ。特に専属ハンターのあなたはそうでしょう?」







ヒナギクははっとしたような表情をした後、ニッと笑うとそばに立てかけてあった長刀を抜き、確認していく。


サクヤも、自分のハンマーを欠けている場所がないかを確認していく。











「あちゃあ……こうなるんやったら、昨日のうちに加工屋で武器を強化しておくんやったなあ……」







サクヤがそうこぼすのを聞きながら、ナギは肩にかけられた手に振り向く。

シンがこちらを見つめながら、ふっと笑った。














「見たか?……あいつは一人じゃないさ……それに、お前が一番ひいきにしている奴なんだろう?心配しなくても大丈夫さ、きっと。」








何を分かったような口を、と思ったが、不快感が全く出てこないから不思議だった。











どたどたと部屋の外を革靴で走るような音が聞こえ、ドアが勢いよく開いた。











「お嬢様……モンスターがこの近辺で本格的に活動を開始しています!すぐに避難を……」











知ってるよ、そんな事……実際に襲われたし。



ナギはクラウスのセリフに少々呆れを出した。
彼は避難シェルターへの移動を検討してきたが、ナギはそれをはねのけた。











「なぜですか……危険ですぞ。あなたにもしもの事があったら……」
「私は……あいつがこの村を守るところを、見ていたいんだ。」








なぜか、避難する気がわかなかった。
そのほうが圧倒的に安全だと分かっていたのだが、彼が前線にいるときに自分だけ安全な場所にいたいとは、どう考えても思えなかった。



何をバカなことを、とクラウスは悪態をついたが、シンが彼女の前に立った。






「ここには、手練れのハンターがいる。いざとなったら、俺も出るさ。」











シンの目に射すくめられ、クラウスはため息をつくと、誠に遺憾ながらと言ったような感じで部屋を出ていった。


















「ハヤテ……」














ナギがそうつぶやき、窓から外を見渡した。



月明かりで案外遠くまで見えるのだが、どうしても狩場としての“渓流”は遠いようで、薄い靄に阻まれて、あまりよく見えない。





山紫水明の地と呼ばれる渓流の尖った山脈が遠くに見えているのが限界だ。













































ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!



































いきなり遠くから響いた轟音に、ナギたちは一気に神経が張り詰める。
どう考えても、この辺りで起きたものではないし、遠くで起きたのならば、自然で起きるような音の大きさではない。










「……山が音を反響したか……それにしても……」









大きすぎる、とシンは腕を組みながらつぶやいた。












「少々、厄介だな。」











薄く青く輝く、靄の向こうを見ながら、そこにいる人間たちは固唾を飲んでいた。































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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.93 )
日時: 2014/06/22 15:55
名前: 壊れたラジオ

『月天に雷鳴は轟く』










僅かに右から迫る風圧に、ハヤテは体を仰け反らせた。
その瞬間に、ジンオウガの鋭い鉤爪の先端が、目線の僅か下を掠める。







長年の感覚に助けられた。
後僅かでも遅れていたら、首から上のないおかしな人形になっていたかもしれない。


そんなの御免だと思いながら、矢筒から矢を取り出し、思いっきり引き絞る。
エネルギーが徐々に貯まると共に、アルヴァランガに赤いオーラがともっていく。












しかし、ジンオウガは賢い。
今までの自分の動きと、この弓の特性をこの短時間で理解した(もしくは、過去に戦ったことがあったのだろうか)のか、自分に弓の『貯め』の時間を作ってくれない。






どちらかが生きるか死ぬかの戦いなのだから、必死になるのは当然なのだろうが。













ジンオウガが右前脚を大きく振り上げる。
溜めが勿体なかったが、そんなことを言っている暇ではない。


ジンオウガの向かって右に側転して、その場からすぐに離れた。











鈍く、巨大な衝撃音とともに右腕にチャージされていた電撃が解き放たれ、蒼いフラッシュが上がる。
電光が衝撃波と共に打ちあがり、その場所をすさまじい電圧と腕からの衝撃が襲う。
地面が抉り取られるほどの一撃は、先ほどのアオアシラの時よりもとんでもないだろう。






雷光を纏っていなくとも、あの頑丈なアオアシラの頭部甲殻を叩き潰すだけの威力があるのだ。
あれを食らえば、いかに頑丈な鎧を纏っていようと、全てがおじゃんになる事請け合いだ。



…と言うか、前回あれを食らったのに、生きて帰れた自分は一体?













考え事をしていたのはコンマ3秒くらいだったのだろうか。
ハヤテは矢をつがえようとするが、すかさずジンオウガはチャージの終わったらしい左前脚を、右前足を叩き付けた時の勢いで体を捻って振り上げた。



振り上げた瞬間、蒼い光の球がさらに強い輝きを増したのは、見間違いではないだろう。











後ろに向かって回転回避した。
しかし、そこにあったのは大きな水たまりだった。

不味い、と思う暇もなく、先ほどよりも威力を増した左足の叩き付けが襲う。


















「ぐあっ!」













直撃はしなかったものの、ジンオウガの電光は、水を介してハヤテの体に這い登る。
全身の筋肉を弛緩させるような衝撃に、ハヤテは思わずたじろぐ。







雷属性に弱いリオソウルZシリーズをつけているため、そのダメージは一切軽減されることがなく蓄積される。















少し呼吸が止まった。
何とか息の塊を吐き出して、体を何とか調整する。


しかし、ジンオウガがその僅かな隙を見逃すはずがない。
眼前に、柱のような影が迫る。











上を向く、など自殺行為だ。
こういうのは、見た瞬間に逃げるに限る。


左に向かって回避した瞬間、ジンオウガに叩きつけられた水溜まりは電熱によって一気に蒸発し、空気の変質した異様なにおいと共にハヤテの鼻を刺した。















ポーチから回復薬グレードを引っ張り出して飲み込んだ。
さっきの電撃で喉の筋肉もおかしくなっていたらしいが、飲み干した瞬間にそれがふっと楽になる。

先人の知恵の賜物に感謝しつつも、素早く回復薬のビンを仕舞いジンオウガを見据える。











バチバチと静電気が這うような音がする。
ジンオウガは全身に纏っている光の粒を背中の帯電毛に収束させていく。

そのまま体を大きくひねると、その全身の肉体をばねのように動かし、その収束させた人の身の丈ほどもある光球を放った。








蒼く輝く光球が、薄い弧を描いてハヤテに向かっていく。
それは非常に美しいものだったが、見とれるには死の対価が必要だ。


それが描く弧の逆方向に回転回避すると、それは数十メートルそのまま飛んで行ったあと、地面に落ちた水しぶきが弾ける様に、空中に飛散する。













しかしそれは、意思のある統率されたもののように、ジンオウガの方向へと戻っていく。





ジンオウガは再度体を捻る。
素早く側面に回り込むと、そこまでの修正は出来なかったのか、光球は見当違いの方向に向かって飛んでいき、先ほどと同じように飛散した。





あれは、おそらくと言うか、確実に超電雷光虫の塊だ。
多分、己の電力でチャージした雷光虫を自らの意志で集合させ、上手く使役して飛ばすことで、あんな芸当を可能にしているのであろう。






しかし、あれには何百……場合によっては何千もの雷光虫が含まれている。
たった1匹ですら、シビレ罠に仕込んで上手く使えばモンスターを一時的に拘束できるほどの大電流を放てるのだ。
それがジンオウガの脂質によって異常活性状態にあるのだ。


それの集合体ともなると、その電力は計り知れない。
ジンオウガの獲物を捕らえる狩りの一助になっていることは間違いないだろう。





こちらを奴がギロリと見据えてくるが、それよりも早く矢を抜き、一矢を放つ。
それはジンオウガの右後ろ脚の甲殻の継ぎ目に過たずに突き刺さる。




巨大生物の共通しての弱点は足だ。
重い体重を支えるには、四肢の存在は欠かせない。
ここにダメージを蓄積するのが、ハンターとしての基本中の基本だ。






しかしジンオウガは少し喉の奥で唸り声を上げただけだった。
元々侵入されて苛立ち、堪忍袋の緒が切れかけていたのだろうが、今ので堪忍袋自体が破れたかもしれない。





ハヤテは再度矢を構えるが、ジンオウガはそれを見越したようにひらりとその巨体を翻し、ハヤテから距離を取った。





あの巨体であんな距離を一跳びに出来ること自体が驚きだが、あの甲殻の下にある膨大な筋肉と、荒い山岳地帯に住んでいることを考えればごく当然だろう。




ハヤテが苦し紛れに放った矢は、離れたせいで力が消滅し、ジンオウガの甲殻に弾かれた。









ジンオウガが、ハヤテの周りをゆっくりと周回し始める。
相手の力を量るような仕草だが、単純にどの方角から攻めればいいか、隙が無いかを調べているようにも見える。



隙を見せれば、ジンオウガは一気にこちらに食い掛かってくるだろう。
ハヤテは体を低くし、ジンオウガの目線を見据えながら矢筒の矢に手を伸ばす。





ジンオウガの重たい体が不安定な地盤に生える葦を踏みつぶし、泥が撥ねるような音を立てる。

ハヤテがそれに反応し矢を抜いた途端、ジンオウガが動いた。









体を思い切り低く構え、前足と後ろ足を踏ん張る。
体幹のバネが一気に軋み、蓄えられたエネルギーで一気に空中に飛び出す。


体高の何倍も高く飛び上がったジンオウガは、放物曲線を描いてハヤテにとびかかる。





ハヤテはそれをぎりぎりで回避し、すれ違いざまに矢で切り付けた。





バチン!とジンオウガの口元の甲殻が叩きあわされたような音が響くと共に、耳元で、巨大な鋏をいくつも軋り合わせたような心地悪い音が響く。

あの口腔の中には、鋭く研がれた牙が仕込まれているし、口元に発達した鋭利な甲殻はその牙のダメージをより確実にするために、獲物をとらえて離さない拘束具兼凶器だ。


肉食生物全般にいえるが、歯の形状はおおよそD字型だ。
これは、獲物が暴れれば暴れるほど肉に食い込み、そして骨を砕いて逃走を不可能にするという。

そしてなだらかな曲線を描くことにより、動いた分だけ肉が口の奥へと動き、がっちりと獲物を逃がさない仕組みになっている。




つまりは、自然で生き残るために肉食動物の様々な部分は収斂進化(全く別系統の動物が、同じような身体的特徴を持つこと)を起こしている。



草食動物や、それと戦わねばならぬ人間たちにとってははなはだ迷惑な自然選択である。







研がれた鋭利な鏃が、ハヤテの動体視力によって的確に甲殻の継ぎ目を切り裂く。





この間シンもやっていたが、落ちてくる物体のスピードはかなりのものだし、あまりエネルギーを掛けなくても相当のダメージを与えられるのだ。


但し、それを行うにはモンスターの方向や速度、力の加減を考えなくてはならないという、とんでもない技量が必要だ。

しかし、それを実際に持っていたシンのハンターとしての力量と、近接武器の中でも随一の切れ味を誇るスラッシュアックスを使えば、それはもうすさまじい力だろう。




実際、これほどの強さを誇るジンオウガに、一端逃げと言う選択肢を選ばせたほどなのだから。





しかし、それはやはり彼の出自をより不明瞭にすることに一役買っていたが。









しかし、ハヤテの武器はあくまでも近接武器ではなく、遠距離武器だ。

弓は“矢切り”と言う技があるため、他の遠距離兵器に比べれば近接戦は得意だが、それでも小型モンスターが寄りついてきた時に追い払うのが主な使い道だ。



ハヤテの場合、それを驚異的な身体能力と、弓を使う技量によって最大限まで高めており、やろうと思えば中型モンスター程度なら矢切りだけで倒すことが出来る程度の実力は持っている。





しかし、それはあくまでも奥の手であるし、ジンオウガにそれが効くなどはなはだ疑問ではあったのだが。








小型の地震のような衝撃が再度ハヤテを襲う。
ジンオウガの15トンの巨体は地面に着地した瞬間、そこの地盤を大きく抉り取った。
そのまま滑走し、体を横薙ぎにドリフトさせながら、柔らかい地面を大きく抉り、湿った焦げ茶色の地盤をあらわにする。







「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」











僅かに出来た右腕の傷口から鮮血を飛ばしながら、ジンオウガは咆哮する。
その怒りに呼応するかのように、蒼光は一層輝きを増し、ギシギシと甲殻の継ぎ目ははちきれんばかりの筋肉を抑え込もうと悲鳴を上げている。



近辺の森から、さらに増援らしい光球が次々と我先にと飛び出してくる。
不味いとは思ったが、自分にはどうしようもない。








その緑色の光が蒼く変わった時、ジンオウガの片目の蒼玉はそれを写し取ったかのように、一層強く光り輝いていた。






しかし、月光と自分の光に包まれて光っているその目には、“輝き”が無かった。



































*               *



































今まで戦ったジンオウガのデータから、ハヤテはこのモンスターの弱点をある程度推測していた。



今回の武器を選んだ訳、そしてチハルに言ったあのセリフも、それに伴うものだった。







ジンオウガの弱点は、“氷属性”



チハルのアルクトレスブランや、今回の自分の武器である琥牙弓・アルヴァランガの共通する属性だ。


チハルの場合、状態異常属性ビンではなく、その弓自身が持つ属性を使ったほうが有効だと考えていたのだ。
しかし、アルクトレスブランは属性値こそ高いが、通常の攻撃力に難がある。

そのため、そこまでダメージを与えられなかったのではないかとハヤテは推測していた。






氷属性が有効な理由は二つある。

一つ目の理由を考えるには、まず電池の特性を考えれば分かりやすいだろう。





電池……特に生物が発生させる電気と言うものは化学反応に基づいている。
生物は、筋肉などを電気刺激によって動かすことが、ギルドにいる……ある天才科学者によって、数年前に解き明かされた。

ジンオウガや、ラギアクルスなどの電撃を扱うモンスターの発電原理も、発電量こそ膨大だし、ある特殊な器官も持っていることが明らかになってはいるが、
基本的にこれに近しいものだと考えられている。





そして、化学反応を起こすにはある程度のエネルギーが必要である。
つまりは、基本的に高温の状態である方が、発電量は多い。



その発電が出来るだけのエネルギー状態は高ければ高いほど楽になる。
逆に言えば、低温であるとその状態まで持っていくのが難しく、発電量を著しく抑えることが出来るという事だ。





ジンオウガの発電器官もこの性質を持つ以上、この方法は有効だ。
擬似的に低温の状態を作り出せば、彼自身の発電量を減らせ、通常の状態……つまりは、帯電していない状態に戻せるかもしれない。

実際に、いくつかの個体ではこの方法によって、帯電状態を解除可能であった。







しかし、それは今回の個体のような巨大なものだと、自己の発電量自体も途方もない。










それならばどうするか。

その解決方法は、第2の理由で解決できるとハヤテは踏んでいた。







ジンオウガと雷光虫。
この二つの生物は、強い共生関係を持っており、ジンオウガの強力な電撃は雷光虫に主に起因する。

これを逆手にとって、付け込むのだ。





先ほど言った通り、生物の電気を発生させるプロセスは、低温状態によって不活性化させることが出来る。


雷光虫も生物である以上、これは避けられない。




そして、異常活性状態にある雷光虫……“超電雷光虫”は、低温にさらすことによって通常の状態に戻すことが出来る。

一種の洗脳を解くようなものだが、ジンオウガにとってこれは非常に強力な一撃になる。





無数の雷光虫によって己の電力を高めている彼らにとって、雷光虫がその電力を供給できなくなれば非常に痛い。


つまり、電力の大元となっている雷光虫を叩くことが出来れば、おのずとジンオウガも弱体化させることが出来るのだ。












……と、思っていた時が、自分にもありました。



































ハヤテは頬に伝う冷や汗を感じながら、ジンオウガの猛攻を避けていた。



ハヤテはジンオウガを誘導し、現在エリア4まで移動していた。

理由としては、先ほどのエリアのような水気の多い環境では戦いにくかったのと、高い葦は自分よりも背が高かったため、非常に視界が悪いという事もあったからだ。





いくら感覚器官が鋭いからと言って、使える器官を犠牲にするのは得策ではない。

全てをフルに使える環境は、あちら様は作ってはくれないので、自分から何とか作るしかない。







エリア4はそういう意味では非常に戦いやすい場所であった。

開けていて遠くまで見渡せるし、廃墟はこれを盾にすることが出来るかもしれない。
水気はあまりないから、感電する心配もない。








しかし、広いことはジンオウガにとっても身体能力の全てを活かせるという事であるし、廃墟を盾に出来るのはこちらに限ったことではない。




それに、ジンオウガにここで一度コテンパンにされたこちらとしては、このエリアには若干トラウマのようなものがあったが。

しかも、ここは先ほどのエリアよりもユクモ村に近い。
ここで戦うのはいいが、乗り越えられては困る。



このエリアを最終防衛ラインと勝手に決めて、ここで最低限足止めしなくてはいけない。





















「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」
















ジンオウガが鼓膜を引き裂かんばかりの咆哮を上げて、こちらに突進してくる。

通常の小型モンスター……とりわけこれのエサになる動物にとっては、それは恐怖を体現したものであるに違いない。



実際、何度も命のやり取りをしている自分ですら、少しの怯えがわいてくるのだから。










先ほども言った通り、氷属性で弱点を少しずつ抉っていけば何とかなると先入観で思い込んでいたが、どうやらそれは甘かったらしい。





前回のディアブロスもしかりだったが、どうして自分にはこういった強力な個体ばかりが行く先々で立ちふさがるのか、と自分の運の無さに心の中で嘆息した。


しかもディアブロスの時はヒナギクがいたため、一人の時よりは良かった。
角を折ることが出来たのも、彼女のおかげもある。









しかし、今回は違う事なきソロ狩りである。
一人きりではどうしても火力面で問題があるし、アイテム面も心もとない。




回復薬グレードは調合分持ってきているものの、それだけで足りるのかと少し疑問に思い始めていた。






しかし、そこまで考えたところで頭を振った。
ここで弱気になっていては、あの村にいた人々たちの事を裏切ることになる。





それだけはしたくない。





ハヤテは歯を食いしばると、目の前まで迫ってきたジンオウガを睨む。






















「……村には、行かせないぞっ!!!」









ジャキン!!!と弓のシリンダが音を立てて開く。
そこに弾薬ポーチからビンを取り出すと、赤い液体が詰まったビンを取り出してセットする。




ギアに組み込まれ、パイルで貫かれたビンから嗅ぎなれた異臭が鼻を突いた瞬間、ハヤテは側面へ回転回避を行う。



ジンオウガの体は足のブレーキによる轟音を立てながら、ハヤテの横を通り抜けていく。
すれ違いざまの風圧に少し目がかすむが、ひるむことなく矢を放つ。












フルまで力をためられた矢が弦から放たれる。
弦が空気を切り裂いて、鞭がしなるような音を立てて撓む。


氷を割ったような破砕音と共に、強烈な氷属性を纏った矢がジンオウガの後ろ足……先ほどハヤテが与えていた傷口に衝突する。








ハヤテの弓力は、ドスファンゴを吹き飛ばし、アオアシラの甲殻を一撃の下で粉砕するほどの威力である。



それが最大まで発揮された威力が、傷付いた部分に衝突したのだ。
さしものジンオウガもただではいられなかった。









軸となっていた後ろ足の支えを失い、ジンオウガはバランスを失って大きく横転する。

両足をじたばたと動かして立とうとするが、あそこまで巨大な生物が一度転べば、立ち上がるのには時間がかかる。


四肢の短い巨大な生物が転倒した場合は、そのまま死に至る事もある。
とはいえ、ジンオウガはその限りではないだろうが、チャンスであることは事実だ。












「っ!!!」









ハヤテは矢を次々と取り出し、チャージが終わると即座にそれを放つ。
狙うのは、背中の帯電殻と、そこに生え揃う帯電毛。



そこには、特異な脂質が集中してあるため、雷光虫の巣窟だ。
大部分の彼らを狙うには最適な場所であったし、ジンオウガは上手く背中側を向けてこちらに横転している。




またとないチャンスだった。
ハヤテはその僅かな時間をものにするために、矢を素早く打ち込んでいた。

それこそ、“集中”スキルをフルで使えるほどに。











しかし、自分は気づいていなかったのだ。


そのチャンスを狙うあまり、ジンオウガに近付き過ぎていたのを。

















「オオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」











ジンオウガが体を大きくひねり、勢いをつけて立ち上がった。
流石にあの巨体を起こすすべくらいは習得していたようだとハヤテは若干眉を潜めたが、これまでの個体も行っていたことなので、それは分かっていた。


ハヤテは素早く距離を取ろうとする。





しかし、起き上がったジンオウガは、左前脚を素早く踏ん張ると、後ろ足の鉤爪をしっかりと地面に食い込ませた。











ハヤテがその様子をはっとした表情で見るより早く、左側面から巨大な風圧と気配が彼の肌の触覚神経に到達する。


































瞬間、左の脇腹と腕に、鈍い痛みが襲う。
ジンオウガの巨大で重厚な、そして甲殻が密集して鎧のようになった尾が振りぬかれ、自分の側面に命中したのだ。




振りぬかれた尻尾は、ハヤテごと彼の側面に会った廃墟の家を一気に吹き飛ばす。





尻尾に吹き飛ばされ、叩き付けられた廃墟に挟まれ、肺の中から空気が一気に大気中に飛散する。

しかし、咳き込む暇もなくその廃墟を構成していた木材や石材もろとも吹き飛ばされる。




地面に叩きつけられたと分かると、即座に真空状態になっていた肺に空気が流れ込んできて、思わず咳き込んだ。



それと同時に、生暖かい液体のようなものが立ち上がろうとした自分の手に降りかかった。









その鉄臭い匂いを嗅いで、遅れて鋭い痛みとすさまじい灼熱の感覚が体を襲う。








多分、アバラが幾つかいっただろう。
密集した甲殻は、尾自体で重いダメージを与え、そこに生えている鋭く細かい棘によって裂傷を起こさせる。
しかも、その一撃の重さは廃墟とは言え、高さ数メートル、底辺が一辺十数メートルの重たい石と木材でできたそれを難なく吹っ飛ばすほどの威力を誇る。



つまり、獲物は鈍器で殴られた後に、刃物で全身裂傷して出血多量で死亡するという算段だ。





いささかやり過ぎのような気もするが、そうでもしないと生き残れないのが自然の摂理なのだろうと思うと、少し呆れがわいてくる。



しかし、そのフルコースを食らった自分からしてみれば、笑いごとでも何でもないのが事実だった。








(立ち上がった瞬間に、体幹のバネを上手く縮めて……チャンスだと思った奴を一気にサマーソルトで仕留める、という事か……)









只では転ばない。
その性格が、このジンオウガの狡猾さを一層際立たせている。






(一体……何がこいつをそうさせているんだ?)








敵に対する、ここまでの執念。
やられたら、それを何倍にしても返そうとする狡猾さ。
そして………























「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!」
















この強大なジンオウガの咆哮を、ここまで『悲しく』させているものは、一体何なのだろうか。


































(くそ……)








目がかすんできた。
これではこの間の二の舞だ。

しかし、動かそうにもそのたびに体の外部の鋭い痛みと、内部から響く熱く鈍い痛みにそれを阻害されて、思うように体が動かない。


体に着けた鎧すら、その重みで痛みをさらに増すだけの代物だった。

体から廃墟の礫が傷口に落ちるたびに、体が悲鳴を上げている。





腕も大概なダメージを受けたらしく、弓を持っている左腕が腰よりも上に上がらない。

持ち上げようとすると、だらりと腕が力なく垂れ下がり、それと共に甚大な痛みを催した。







月の光によって、自分の眼前には影が出来ている。

体が上がらず、目線が下がってそれをぼうっと見つめると、そこに光るものがあった。






かすんで白い靄が立ち込めている自身の目でそれを見つめると、そこにはこの廃墟に人が住んでいたであろう痕跡があった。





それを拾い上げようと、ぼうっとした頭で思ったが、どうやら自分は判断能力が著しく落ち込んでいたらしい。


















自分の影が、さらに大きな影によって覆い隠されていた。


上から降ってくる重厚感のある唸り声に、何とか痛められていない個所である首だけを持ち上げた。












「グルルルルルルルルルルルルル……」










眼前数メートルの位置に、蒼い光を放つ視線があった。
その瞳の無くなった目は、彼の今まで生きて来た生の壮絶さを物語っていた。






そして、その目の中にはボロボロになり、怯えた自分の姿が写っていた。










――――――僕は、守れないのか。命に代えても守ると、自分で誓ったものを。

自らの脳裏に、ユクモ村を出る瞬間に見た人々の顔が思い浮かんでくる。

その顔は、今自分たちが安全な状況にいると、信じているようだった。

それを、守ることが出来ないのか。



僕は――――――ハンターとしてやるべきことを、為せないのだろうか。

いつかあの人が教えてくれた、あの生き方のように。












その瞬間、自分の脳髄の奥から、何かが湧き上がってくる。

自分が、忘れてはならない、過去の記憶が滝のように目の前にフラッシュバックする。





















―――――カエシテ――――――






それは、自分の頭の中に、奥深くこびり付いたもので。








――――――カエシテ――――――











一生かかってもぬぐえない、罪の意識で。

その奔流が、自分の神経すべてを伝って体中にほとばしる。













――――――ワタシノダイジナヒトヲ――――――














――――――カエシテ――――――












その瞬間、巨大な、ひきつるような叫び声を聞いた。

世にも恐ろしい声を聴いた気がしたが、気づくとその声を出していたのは、他ならぬ自分だった。









体が動くようになる。
全身という全身から、とんでもなく巨大な力が湧き出てくる。




気づくと、自分は矢を弓につがえていた。
その弓を持つ左腕は、先ほど上がらなかったにも関わらず、まるでいつもよりも充実感が違った。





弓の弦がしなり、矢は空を切ってジンオウガへと向かう。
それを、幾度となく、意識をすることもなくただ“機械のように”繰り返していく。









最初こそ、何が何だか分からないと言った様子のジンオウガだったが、それに負けじと猛攻を繰り出してくる。

発達した両前足を交互に振り上げ、電光を鋭く纏った腕でハヤテを襲う。




しかし、ハヤテがそれを意に介す様子は無い。
ジンオウガと同じく、光のない目で、憑き物を落とすような表情と攻撃で、ジンオウガを攻めたてる。








二メートルを超える鋭い鉤爪がハヤテの頬を掠め、一文字の裂傷を付ける。

彼は何もなかったかのように、近接での切れ味を著しく上昇させる特殊効果ビンである、
『接撃ビン』を素早く装着し、電撃がうまく届かない範囲へともぐりこむと、ジンオウガの体幹の継ぎ目であり、最も勢いがついている部分にその矢をブッ刺した。












「オオオオオオオオオオオオオッ!!!???」









ジンオウガは大きく怯む。
関節の継ぎ目に、切れ味の大幅に上がった二メートルの鏃が突き刺さったため、左前足の動きが一瞬ぎこちなくなる。






ハヤテはその隙を見計らうと、左後ろ脚に最大まで溜めた矢を放った。

ジンオウガは片側を支えていた軸を失い、大きく転倒する。












ハヤテは、自分が腹の底から大きく叫んでいたのを聞いていた。

その声のまま、全ての力がこもった矢をいくつも放つ。









ジンオウガが、息絶えるまで、何度も放つつもりで。
それは、自分では制御が出来なかった。



まるで、それだけを生存している意味だというように。






























次はハヤテが近接していないこともあって、ジンオウガはサマーソルトを行わなかった。

しかし、立ち上がるとハヤテの方をぎろりと一瞥すると、エリア4の眼前にある岩山を見据えた。





そのまま体を低く構えて突進の姿勢をとると、地面を大きく蹴り上げて、石ころや草を後ろに飛ばしながら走って行った。



その様子には、ハヤテの攻撃をあまり意に介していないような感覚が見て取れた。





















ジンオウガの姿が見えなくなると、ハヤテの視界がまた薄くなっていく。

先ほどまで動いていたはずの左腕は、また動きを失っていく。







体の痛みが薄れていく。
それが彼の自己回復能力によるものなのか、意識の薄れによるものなのかは、知る由もなかった。





気づくと、左足の膝が地面にぶつかっていた。
痙攣する自分の指先を見ながら、だんだんと上半身にも力がこもらなくなっていく。
















上半身に、先ほどまであった痛みがふっと消えた。



それと同時に、頬が地面の草に触れた感覚があって、それを最後に彼の意識は真っ暗な空間へといざなわれていた。






























・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






裏設定ですが、このジンオウガの個体の構想のヒントは、
ユクモ村の村クエストの『月下雷鳴』のジンオウガ×『JUMP・獄界の門番』の超強化ジンオウガがモデルです。

一人じゃ勝てないですよ……何考えてんですかカプ○ン……



では
















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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.94 )
日時: 2014/06/22 17:23
名前: masa

どうもmasaです。

流石は「見聞色の覇気」を持ってるハヤテですね。攻撃を紙一重でかわすとは。
で、相手も賢いんですね。まあ、学習能力の高さも「絶対的な強者」故の武器でしょうけど。

大型の敵の攻撃を受けられる鎧なんてそうそうは無いはずじゃ。まあ、「無い」とは断言できませんが。
まあ、ハヤテが生き残れたのは異常な頑丈さのおかげ以外ないですね。

相手もかなり厄介ですね。1体だけでも厄介なのに、強い電撃を持つ虫と共闘?状態なんですから。ハヤテ以外は相手は出来ないと言うのも納得ですよね。
まあでも、そんなのを回避できるハヤテもおかしいか。

モンスターに限らず、足への攻撃は有効ですよね。機動力を失えば、戦力は大幅に減退するはずですから。
とは言っても、ジンオウガにはたった1回で学習されちゃいましたけど。

モンスターもそうですが、確かテレビで「肉食獣に噛まれたら、無理に引き剥がしてはいけない」って言ってましたよね。それはこの世界にも当てはまるのか。
ってかハヤテよ、相当の実力が無ければできない攻撃を簡単にやってのけるとは。「モンスターはどっちなんだよ」ってツッコミがあってもおかしくないですね。

そう言えば、カウンター攻撃は強烈ってのも聞いた事ありますね。まあ、タイミングがずれたら意味ありませんが。
ジンオウガはやっぱり厄介ですね。効果覿面のはずのカウンターを受けても倒れないとは。

電気属性のモンスターの弱点が氷なのはそう言う理由ですか。そう言えば、寒さは体の動きを鈍らせると言うのを聞いた事ありますからそれに近い理由かもしれませんね。

まあ、相手側からすれば自分の戦力を減退させるであろう手段は意地でも阻止してくるでしょうね。簡単にそんなこと出来たら「絶対的な強者」になんかなれませんよね。

流石のハヤテも「1人と言う名の孤独」そして「絶対的な強者に挑んでいる」。この2つのせいで恐怖心は生まれちゃいましたか。
とはいえ、「守りたい」と言う気持ちで殆ど消せたみたいですが。

流石のハヤテも攻撃チャンスに溺れすぎたみたいですね。何時立ち上がってもいい様に適度な距離を保つのを忘れてたんですから。
で、強力な攻撃を受けちゃいましたが、普通ならそこで死ぬでしょ。

ハヤテの過去にいったい何が!?そして謎の覚醒。どうやらただ事じゃない様ですね。なにせ、苦戦していた相手を一方的にいたぶる猛攻を見せたんですから。

ハヤテは意識を失ったみたいですが、大丈夫なんでしょうかね?まあ、きっと大丈夫でしょう。



次回も楽しみにしてますね。




そう言えば、ある有名クリエイターが言ってましたね。「カプ○ンは海外進出を考えて、難易度を高めに設定してる」ってだからかも知れませんね。
まあ、自分は「モンハン派」ではなく、「ゴッドイーター派」なので、分かりませんが。

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.95 )
日時: 2014/06/28 15:01
名前: 壊れたラジオ

どうも!感想ありがとうございます。

相手が賢いのは……まあ、この話だけのオリジナル展開だからでしょうか?
ジンオウガは爬虫類よりも哺乳類的なんで、賢いかな〜と(笑)

勿論鎧の防具は大きいですが、やはりそこはハヤテですね。
ですが、この話の中のガンダム的な強さは無論、原作とは違う方向から鍛えられました。

ジンオウガと雷光虫の関係はモンハンをやっている人はみんな知ってるでしょうね。
しかしこの世界では、いまだに研究過程にあり、はっきりとしたことは分かっていないという事で。
まあ、それは原典の全てのモンスターに言えることですが。

象やサイなんかの巨大生物に関しても、体重は常に3本の足で支えていますしね。
同じく、ディプロドクスやアパトサウルスなんかもそうです。
まあ、この世界のモンスターの場合はその限りではないですが。

肉食獣の牙は、大なり小なり内側に湾曲しています。
暴れれば暴れるほど歯が食い込み、口の奥にがっちりと抑え込まれる仕組みです。

カウンターは……実はれっきとした確証は無いんですけどね(笑)
カッコいいから入れたようなものですが、相対速度を考えると分かりやすいと思います。

雷と氷の力関係はこういう理由かなと思って考えただけです。
無理やりですが、納得していただけたのなら満足です。

恐怖心とハヤテの覚醒については、この話で補完します。
ま、ハヤテの超人的な肉体は、モンスターの攻撃では死の一歩寸前までは行っても、最後の一線は超えないんでしょうねぇ。
原典のハンターが強靭な肉体を持つので、ハヤテの場合はそれと同じですね。

カプコンについて難易度を高くしている理由にはそんな事があったんですねぇ……。
その割に、モンハンは海外ではあまり売れていませんけど。


では、どうぞ。








*                   *

























『震える手』









眼を開くと、そこには自分のよく見知った風景があった。




―――『孤島』。


自分の故郷であり、自分が守るべき使命を負っていた、美しい島。

あたりを見回してみると、夜らしかった。
だいぶん開けた高台にも拘らず真っ暗で、月の光ぐらいしか頼れるものがない。





ハヤテは天空に丸く輝く月を見た途端はっとした。
自分は先ほどまで渓流にいたはずだ。
そこでジンオウガと戦っていて――――――。






――――――負けた。








その事を思い出し、拳を握りしめた。
自分は守れなかったのだろうか……守ると決めたはずのあの村を。



そうすると、ここは自分の精神が見せている、いわば走馬灯のような物なのかとハヤテは考え込んだ。

どう考えても、一瞬のうちに孤島に帰ってこられるわけはないし、渓流での出来事は……。
いや、むしろ渓流の方が夢で、こちらが現実なのだろうか。





彼女らとの出会いや、あの悲しい一匹狼との出会い自体が夢だったのだろうか。
そう思ってしまうほど現実じみたこの風景に、彼の思考は深いところまで落ち込んでしまう。




このエリアは、孤島のエリア8と呼ばれる場所のようだ。
あくまでもこれが自分の夢ではなく、ここが孤島だとしたならばだが、おそらくその確証は正しいだろう。


ここまで似ている風景が他にあるとは思えない。

月影がゆったりとそのエリア全体を映し出している。
堅い岩壁が何年と掛けて風雨に晒されて出来た岩棚のようなこの地は、でこぼことした岩肌に影を落としている。

エリア左手には高さ数十メートルの崖がその大口を開けており、その下には孤島特有の青々とした海が広がっていたはずだった。
ただ、今の真っ暗な空のせいで、闇色に染まった海が地平線の彼方まで連なっているのしか見えなかった。





本当に夢かどうか疑いを抱くほどの孤島の風景に、ハヤテは思わず背中の武器に手を掛けた。
背中に慣れ親しんだ感覚があったことに思わず安堵した。
背負っていたのは、先ほどまでのアルヴァランガではなく、自分の最強の武器であるカイザー・ボウであった。

武器が変わっていたことに疑問を感じたが、それよりも武器がとりあえずあったことはありがたい。
こんな夜の危険なエリアで武器なしのままうろつくなど、自殺に等しいからだ。



同じく、全身には自分の蒼い鎧が纏われている。
自分のお気に入りだったそれが変わっていないのはそれ程おかしいことではあるまいが、どちらにせよ体を守る防具があるのはもうけものだ。






ハヤテがここまで注意深くなるのも当然だ。
それはこの場所の危険性によるものであるから、それも一入だ。












孤島・エリア8。

ここは高台であるため、裏道を使えるハンター以外の巨大なモンスターは入ってこられない。






但し飛竜は別だ。
その巨大な翼で天空を掴めば、その巨大さとは裏腹に、すさまじい飛翔能力を誇る。
どうしてあんな巨大な体で飛べるのかと言うのは、この世界の空気組成によるものらしいが、そこまでの詳しいことは未だに分かっていない。

それを利用した飛行船なども発達はしているが、正確な事はもっと深く調べてみないと分かるまい。



話が逸れたが、ここにはモンスターでは飛竜しか入ってこられない。
つまりは、彼らにとっては格好のねぐらであり、子育てをするための巣にもなる。

小型モンスター程度なら、しばらく巡回しているだけで追い払えるから問題は無い。
そして、それを確実なものにするために、つがいで巣を守る竜が孤島にはいて―――――。

































突然、自分の足元にあった影が消えた。
月が雲に隠されたのかと思って上を向くが、ハヤテの思考とは逆に、彼の感覚はそうではないと警鐘を鳴らす。





月を隠したその巨大な影は、その船のメインマストのような翼を風になびかせた。

そのぎらぎらとした鋭敏な瞳でこちらを見据えるその飛竜は、怒りの形相を浮かべる。






羽ばたくごとに強烈な風圧が彼を襲う。
思わず手で顔を覆うが、それを見計らったのか、その飛竜は体を折りたたんで急降下してくる。



風圧の勢いを利用し、ハヤテは思い切り後ろに飛んだ。
夢なのか現実なのかは分からないが、自分の体がいつものように自由さを持っていたのは安心できた。

しかし、それは相手に関してもどこまでも正確なものであることは確かだったが。








下から上に向けて、アッパーのような風圧が駆け抜けた。
急降下した勢いで体を思い切り反転させたその飛竜は、ハヤテの眼前でその棘だらけの太い尻尾をかちあげた。

その勢いに、硬い岩盤が削られて宙を舞った。
礫や砂が舞い散り、彼に向かって降りかかる。








鈍い衝撃音がして、振動が伝わってくる。
地面に着地したその飛竜は、喉の奥から唸るような声を上げてこちらをその光る眼で見据えてくる。

自分の卵を奪いに来た不埒者と認識しているのは確かだろうが――――――それだけなのだろうか。

それに――――――。







ハヤテはその姿に強い既視感を感じて、その飛竜を見据えた。






月に反射することもない、鈍い赤茶けた甲殻は獲物の返り血。


幾たびも幾たびも、獲物の血を浴びるほどにかぶってきた証で、その飛竜の持っている力を証明する勲章。

そして、消えない罪の刺青。










それほどまでに、自然の摂理に逆らうほどの殺戮を繰り返したその理由は。

ハヤテは知っていた。
















手が震える。
カタカタと小刻みに揺れる手は、その飛竜から目を逸らそう逸らそうと思うほどにそれを増す。




しかし思い直す。
これは自分が決して忘れてはいけない記憶だ。

しかしいつまでも引きずられていてはいけない。
『忘れる』事と『引きずる』事は全く別なのである。


今こそ、この記憶と―――自分に決着をつけろという事なのだろうか。
そうすると、これはやはり――――――。

















ハヤテはきっと気を引き締め、口を結んだ。
目を細めてその飛竜を見据えると、背中の武器に手を掛けて無理やり震えを消した。






その背中から武器を取り出し、ビンをセットしようとジョイントを外そうとした。






























その瞬間、カイザー・ボウのその弓身を構成していたすべての素材がその形を失い、風の中に消えていった。

金属の取っ手から、布や伸縮自在のゴム――――――そして、弓のメイン素材であるリオレウス亜種の甲殻や鱗までが、バラバラに崩壊していく。









いきなりの変化に、一瞬戸惑ってしまう。
その瞬間、その飛竜の牙の並んだ巨大なアギトが自分の目の前で大きく開いていた。
























































*                 *




















「うわああああああっ!!!!!」










噛み裂かれそうになったその瞬間に、突然目が覚める。
額には玉のような汗が幾つも浮かんでいる。

長い夢の後の覚醒と言うものは、前後不覚もいいところで、しばらくハヤテは呆けて目の前をぼうっと見つめていた。





視線の先にあったのは、只の岩壁で出来た天井だった。
無機質なそれは、月の光を浴びていても輝くことは無く、黒々とした影を作っていた。

自分の体には毛布が掛けられていたが、その毛布にも寝汗がこびり付いて、もともとあった不快感を増していた。














「……目が覚めましたかニャ?」





そういう声が足元から聞こえてきて、ハヤテはそちらを向いて起き上がった。
その瞬間に強烈な痛みが胸の下あたりで響き、息が詰まって思わずうずくまった。





「まだ傷口が塞がって居ないのニャ……しばらくは安静にした方がいいのニャ。蒼火竜さん……」






そばにいた声は、アイルーの様だった。
おそらくギルドに雇われている、ハンターを救出する任務を持ってここに配備されていて、倒れていた自分を救出したのだろう。


そしてここまで運び、治療もしてくれていたのだろうが――――――。










「…ありがとう、助かりました。」
「これが僕たちの仕事ニャから……気にすることは無いですニャ。」







ハヤテが礼を言うと、アイルーたちの一匹がそう答えた。
その後ろでは、他のアイルーたちがひそひそと話している。

その表情には大なり小なり不安げな顔をしていた。





そして、その不安げな表情を作っているのは、言わずもがなジンオウガと――――他ならぬ自分だろう。




自分が勝てなくては、ユクモ村に甚大な被害が出るかもしれない。
そうすれば、あの村在住のこのアイルーたちにも被害は出る。


誰も心穏やかではいられまい。









「どのくらい、僕は気を失っていたんですか?」
「大体1時間くらいですニャ。」





ハヤテがそう聞くと、アイルーはそう答えた。

1時間か……自分は結構ダメージを受けてしまっていたらしい。
すぐに戻らなくてはと思って立ち上がろうとする彼を、アイルーたちが静止する。







「行っちゃだめですニャ!さっきまで蒼火竜さんは死んでもおかしくない重傷だったのニャ!そんな無茶したら今度こそ……」






ハヤテは痛む体を引きずって立ちあがった。
自分に掛けられていた毛布が落ちると、醜く刻まれた大きな傷に、包帯が幾重にも巻かれていた。

その包帯にも血が滲んでいたのだから、1時間前はもっと大概な傷がそこにあった事だろう。
なにせ、30分くらいで複雑骨折を治すことが出来る自分の回復能力でさえ、1時間かかってやっとこれと言うぐらいなのだから。



しかし、止まるわけにはいかなかった。









「ジンオウガには、結構なダメージを与えています。その傷が癒えてしまう前に、かたをつけなくてはいけません……」
「た……確かにそうニャけど………」





あのジンオウガの回復能力はおそらくすさまじく高い。
シンの連撃を受けた体は、そこまで時間は経っていないのにほとんど傷が目立たなかったからだ。

今このタイミングを逃せば、残された時間が少ない自分では対処が出来まい。





ハヤテは近くに置いてあった自分のレジストを身にまとい、レギンスを足に着けてバインダーでしっかりと固定した。
キャップを取り、アルヴァランガを少し点検すると、背中に背負って立ち上がる。

傷の痛みは未だに癒えてはいないが、走れないというほどではない。
ハヤテがもう一度狩りに行くための準備をするその様子を、アイルーたちは止めることが出来ずに見ていた。






「ほんとに行くのかニャ?」






心配そうに聞いてくる、リーダーと思しきアイルーに、ハヤテはにこりと笑った。





「もちろん。あなたたちの村の、平穏を壊したくはないですから。」







ハヤテはそういうと、今度は歩かずに、走って渓流の道を下って行った。
気を失ってしまっていた分の時間を取り戻さなくてはいけない。

それに自分がここにいられる時間も限られている以上、出来るだけ早く戦闘を再開しなくてはいけない。

はやる心を抑えながら、畦道を疾風のように突き進んでいった。





















侵入したエリア1の中を驀進しながら進むと、そこに住んでいた小動物が一気に姿を隠す音がした。

小さな虫から、カメにカエルまで。
様々な生物がモンスター以外にも住んでいる。



小さな水音に、彼らも生きているものだという事が良く分かる。
その姿は、モンスターに比べると小さくとも、確実に生きていた。









ハヤテは走りながらも、ぼうっと頭の中で思考を続けていた。
先ほどの夢の内容についてだ。



アイルーたちには心配を掛けたくなかったからこの内容を話さなかったが、それは確実に彼の心境を大きく揺るがしている。

あの光景を見るたびに、自分のハンターとしての心情が揺らぐことも知っている。
幾度も幾度も夢枕に立つあの存在は、自分が目指すものがどれだけもろいのかを、ありありと示してくる。


モンスターと人。
それは決して分かり合えるものではない。
特に、人とモンスターの生活の境が重なっていて、モンスターの素材を人が自分の富のためだけに欲しがるのならば。



それでも彼は自分が信条とするものを変えたくは無かった。
自分を導いてくれた、あの人が直接教えてくれた、最初で最後の教えは、その記憶と同じくらい、自分の心の奥底に根を張っているのだから。

本質はなかなか変えられるものではない。
自分はお人よしだとよくソウヤやコテツに揶揄されるが、そんなことは無い。

むしろ、自分の信条に関しては、誰よりも強情で頑固で――――――そして、否定されることに脆い。
相反する性質かもしれないが、堅いものほど衝撃に脆いのだ。

衝撃的なあの出来事は、いつまでもきっと自分を苛むのだろう。





そして、自分にもいつか決着をつけるときが来るのかもしれない。
それがいつになるのかは分からないが、仕方ないとはいえ、自分が屠ってきたモンスターの数を考えれば、それも当然だと思う心境があったのも事実だった。

















































*                  *
















ペイントの匂いが漂ってきた。
現在エリア1とエリア2の間にある渓谷の中にいたが、その方向は一直線にその前方にあるエリア2を示していた。


先ほど逃げたジンオウガは、エリア4からさらに高い標高を持つエリア2に逃げ込んだらしい。

元々険しい山岳地帯に住む生き物だから、これくらいの崖や断崖絶壁を上るのは大した苦労ではないだろう。
しかし1時間も経っているのにそこのエリアから移動していないという事は、先ほどの傷がまだ癒えていないのかもしれない。

一縷の期待が持てるが、油断はならない。
あのジンオウガの知能から行くと、傷を負ったと見せかけて近づいた瞬間に牙を剥くとかそういう事もありそうだから怖かった。



――――――怖い?






ハヤテは頭に浮かんだこの単語を、もう一度反芻した。

そして苦笑した。










そうだ。
自分はきっと怖かったのだ。
先ほどの夢もしかりだが、モンスターに対する潜在的な恐怖が、自分の信条を忘れさせていたのだ。

怖いという感情を持つのは、ハンターとして当然の事で、忘れてはいけないことだ。
それはヒナギクにも言った事だったが、それはこの状況においては全くの免罪符にもならない。





ユクモ村を守りたいとか、そういった感情は全てはこちらの都合であり、ジンオウガは好き好んでこちらを危機に陥れているわけではない。

あちらも必死なのだ。
自分の縄張りを守りたいだけで、入ってきた侵入者を排除しているに過ぎない。





そんな事も忘れていて、何が『モンスターハンター』だ。
それどころか、自分は結局自分の事しか考えられていない奴ではないのか。





昔、遠い地域で『怪物(モンスター)喰い(イーター)』と言う狩人がいたという。
自分のためだけにモンスターを殺し、殺し続けたそのハンター。

だが、元をたどれば自分もそれと同じではなかったか。

彼らの恐怖を感じ取ってやるなんてことは、先ほどの自分は出来ていたのか。






ジンオウガを追い払った時のあの力も、それによって生み出されたものだ。
自分が守りたいなんて言うのは、あちらにとっては何の関係もないし、侵入しているのはこちらなのだから。







ハヤテは歯噛みをしながら、その渓谷のあいだをすり抜けていった。

崖から崩れた角ばった石ころが、上手く避けられなかった体に当たるが、彼は気にも留めずに、匂いを追って行った。
































*                *










渓谷を抜ければ、また満月がエリア内を照らし出していた。
真っ暗な渓谷に慣れていた眼だと、何もかもがはっきりと見えるようになる。




そしてその月下の下で蒼く輝く甲殻は眩いばかりの光を放ち、エリアを威圧と共に照らしていた。







ジンオウガはこのエリアで仕留めたらしいガーグァを一心不乱に貪っていた。
ガーグァの色とりどりの羽がジンオウガの牙が振り下ろされるたびに空中にひらひらと舞い散っている。





いけない。
ハヤテはそう思うと、弓に素早く矢をつがえた。
攻撃を受けた手はいまだに熱くひりつき、腕の正確な動きを妨げていた。

しかし、食事をさせるわけにはいかない。
モンスターの体力やスタミナを回復させてしまえば、また劣勢になる事は明白だからだ。







放った矢がジンオウガの頭部に命中する。
口から肉片と唾液が飛び散り、ジンオウガは少し悲鳴を上げた。




ただ、ダメージはそこまで喰らわなかったらしく、すぐさまこちらをぎろりと見据えて唸り声を上げる。

食事を邪魔されたモンスターと言うものは須らく機嫌が悪くなるものだが、ジンオウガにもそれは当てはまる。
もういい加減、この人間を見るのも嫌になってきた頃合いだろう。













「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!」









ジンオウガが吠える。
咆哮は大気中に振動となって響き、ハヤテの鼓膜を揺さぶる。

スキルの高級耳栓によって何も感じなかったが、そのジンオウガの力が一向に落ちていないのはすぐに分かる。
背中に冷や汗が少し流れていた。







ジンオウガが体を低く構えて突進の姿勢を取った。
ハヤテが矢を再度構えるよりも早く、15トンの巨大な塊が目にもとまらぬ速さで飛び出した。




ハヤテが素早く避けると、ジンオウガは彼が背にしていた渓谷の崖に突っ込んだ。
ディアブロスの時と同じく、堅牢なジンオウガの角は壁を崩てしまう。


当のジンオウガは激突した時のダメージなど意にも介していないようで、頭を少しふるった後でこちらに体を向けた。







あれほどの衝撃で折れもしないどころか、傷もつかないジンオウガの角には恐れ入るが、それと同時に大きな疑問もわいてくる。



――――――それほど頑丈なジンオウガに傷をつけたのは、いったい何者なのだろう?










ジンオウガは咆哮し、その蒼玉の瞳を爛々と光らせながらハヤテにとびかかった。
膨大な電力がチャージされた右前足がハヤテに向かって振り下ろされる。




その攻撃を紙一重で避けながら、ハヤテはジンオウガの死角から矢を打ち込んでいた。






その度に、ジンオウガが悲痛な声を上げる。
ハヤテはそれを聞きながらも、その手を緩めることは無かった。

次々と矢が飛び、氷属性の力が解放されて甲殻を凍てつかせる。
そして冷気は切り裂くような痛みをジンオウガに与え、その電力を下げていく。


雷光虫も同様だ。
蓄電能力や発電能力、増幅能力が失われて青い光が弱まっていく。



先ほどの傷やダメージがそこまで癒えていないのだろう。
ジンオウガの動きには精彩が無くなっていたし、付け入る隙も大きくなっていた。

それに、ジンオウガの動きに慣れたことによるものが大きいかもしれない。




















ジンオウガの上げる物悲しい声に、ハヤテは歯を食いしばった。



その悲しさは、どこから来るものなのかは分からなかったが、一つ直感的に理解できたことがあった。








それは、恐怖。
自分が怖いのと同じように、ジンオウガも怖いのだ。

自分の命が奪われるかもしれないという恐怖。
縄張りが奪われるかもしれないという恐怖が、ジンオウガをここまで必死な物にさせている。

それの元凶が、自分なのか、その角や目に傷を与えたものなのかは分からないが。














ハヤテは弦を引き絞ると、それを腕の脇から飛び出すように生えた、巨大な鎌状の爪に矢を解き放った。
それは空気を切り裂いて飛ぶと、過たずに命中する。




角質化した真っ黒に光るそれは、根元からパックリと折れて宙を舞う。

根元の骨ごと折れたのか、爪の生え際から鮮血が飛び出した。
地面に吸い込まれるようにして落ちたそれは、黒ずんだシミを作って溜まった。






痛みに一瞬動きが止まったジンオウガの脇に回りこみ、背中の蓄電核を狙う。
特殊な矢を筒から取り出すと装填し、真上に向かってハヤテは弦を引き絞った。

放たれた矢は空中で一気に爆発したかと思うと、その矢の先に装填されていた袋の中から大量の小さな矢が降り注ぐ。












「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!???」









頭上から降ってきた大量の撒き菱のような矢は、ジンオウガの体の至る所に突き刺さり、氷属性を解き放った。

全身と言う全身から、氷の粒が飛び散って共生している雷光虫に襲い掛かる。








ハヤテが行ったのは、曲射と言う弓のテクニックの一つである。
充分に引き絞った矢を上空へ放ち、落下してくる矢で時間差攻撃を仕掛けるというのが概要だが、矢には細工が施されており、その細工によって集中型、放散型、爆裂型の3種類の型が存在する。








集中型は、落下途中で矢が弾け、無数の礫となって一地点だけに降り注ぐため攻撃範囲は狭い。
しかし使いこなせればモンスターの弱点をピンポイントに狙い撃てる。そして集中攻撃するという特性から、スタンを誘発させやすいのも大きな強みである。





放散型は集中型と同じく空中で弾け、無数の礫となる。
ただし、こちらは広範囲に飛び散るため、多大な攻撃範囲を誇る。
小型モンスターや素早いモンスターが相手でも安定してダメージを与えやすく、減気効果も高いのでモンスターを疲れさせやすいのも長所であるが、頭部だけを狙うのも難しいため、スタンは狙いにくい。その攻撃範囲のせいでパーティープレイでは味方を攻撃してしまう危険性があるため、使いどころが難しい。





そして爆裂型は、モンスターなどを貫通しながら落下し、地面へ着弾すると爆発するという特性を持つ。
爆発するという事から分かりやすいと思うが、スタン能力や状態異常の蓄積、単発の物理威力は3種の曲射の中で最高であるが、ヒット数の少なさのために属性ダメージはあまり稼げない。
それに着弾時の爆発は巻き込まれた仲間をぶっ飛ばしてしまうため、放散型以上にパーティープレイでは使いにくいという特性を持つ。





型によって細かい特性は異なるが、共通して減気ビンと同じ減気効果を持っているため、曲射を頭部に集中させることでスタンを狙っていくことが可能であるし、弓の属性効果やビンの効果も通常と同じように発揮され、場合によっては通常よりも強力になる。





しかし弓によって型は初めから決まっており、それを変更することは出来ないため、狩りの時はモンスターや、パーティーの人数によって使い分ける必要性が出てくる。



曲射は届く範囲がほぼ固定となっており、弓についている照準器によって計算される弾道が曲射の攻撃範囲である。

ハヤテのように慣れた弓使いであれば照準を合わせずとも感覚で狙えるようになり、熟練の弓使いはモンスターの行動を予測し、移動するであろう位置に向かって先に曲射を放っておき、モンスターの足止めなどを行える。

通称「置き曲射」と呼ばれ、高度な技の一つとして、ハヤテもハンター育成アカデミーのころから特訓し続け、身に着けている。



届く範囲が固定されているため、普通に放った時のような最適距離と言うものがなく、適正距離の範囲外のモンスターに対しても一定以上の効果を発揮する。



岩陰などの普通に射撃しても命中しない時などの、死角からの奇襲などにも最適である。

但し発射前後のスキがやや大きく、攻撃自体も発射からワンテンポ遅れて発動するため、通常の射撃と比べると手数では劣ってしまう。
また、それぞれの弾強化系統のスキルの恩恵を受けることも出来ないため、あまり頼りすぎるとかえってダメージ効率は悪くなってしまう。





適切な状況で使えるかどうかが弓使いとしての腕の見せ所である。






ハヤテのアルヴァランガの特性は『放散』。
皮肉ではあるが、パーティーがいない今ならばその力は最大限発揮される。



動きが止まったジンオウガに、氷属性の連撃が次々と降り注ぐ。









ハヤテは次々と上空に曲射用の矢を打ち上げながら、ジンオウガが光を失っていく様子を見ていた。















――――――お前も、怖いんだろう。





氷の結晶が、鮮血と共に月明かりに照らされて輝いていた。
しかし、次の瞬間には強烈な冷気によってその血液は傍から凍り付いていく。

傷口には凍り付いたときに出来た、氷柱があちらこちらにずらりと並んでいた。



こちらを見据えるその頭部にはあちこちに霜が降り、がちがちと牙を鳴らしている。

その牙を鳴らしているのは、はたして寒さだけだろうか。










――――――僕だって怖いさ。
本当だったら、今すぐ逃げ出したい。
こんなことを言ったら、村のみんなは笑うだろうか。

蒼い火竜が臆病風に吹かれたと笑うだろうか。

それとも失望の念を浮かべてこちらを見るだろうか。



しかし、それでもかまわまいと思ったかもしれない。
あの時の僕ならば。








(怖いことは、情けない事なんかじゃない)







頭の中で響く声に、ハヤテは耳を傾けた。
懐かしいその声は、何年とたった今でも鮮烈に頭に染みついている。


ハヤテは強撃ビンを取り出して、弓に装填した。
そのフルまでエネルギーを溜められた矢は、赤いエネルギーと氷属性のフロストを纏いながらジンオウガに向かって空間を切り裂いた。











――――――怖いことは怖い。

それは、きっとどちらも同じだろう。






ハンターと言うのは、一種の代行者のようなものなのかもしれないと感じた。

みんなが感じているモンスターに対する恐れを、自然の中で生きている彼らに代表して代弁し、彼らの怒りや悲しみや恐れを感じ取ってやるのがハンターなのだろう。





彼らも自然の担い手だ。
決して滅びていいものじゃない。

しかし、その最後のラインを踏み越えた時は、ハンターも覚悟を決めなければいけない。






あくまでも人の生活を守るものと言うスタンスを崩さず、自然の境界に立つのがハンターだ。
それは、きっと変わらない。





自分にそう教えてくれたあの人にも、自分の中にもきっと残り続けるであろう信条。
それのままに進めば、きっとあの夢の答えも出る時が来るだろう。



そのために、死ぬまでは必死で生きるしかないのだ。
それはモンスターも変わらない自然の摂理だ。





























衝撃音と共に、破砕した物体がゴトンと言う鈍い音を立て、破片が飛び散った。


氷により動きが鈍くなっていたジンオウガの頭部に吸い込まれるようにして命中した矢は、強撃ビンの威力と、怪我をしているとはいえ、尋常ならざる腕力を誇るハヤテの弓力により、すさまじい力を発揮した。






壁に衝突してもびくともしなかったジンオウガの、その片方の雄々しき角を根元から粉砕した。

身の丈ほどもあるそれが、地面にむなしく転がった。







ジンオウガはアッパーを喰らったように大きくのけぞり、地面へと背中から倒れこんだ。
しかしジンオウガはあまりもがくこともなく起き上がる。


近づこうとしていたハヤテは、びくりと体を震わせた。








ジンオウガはゆっくりとこちらを向き、深い甲殻によって影の落ちたその表情をさらに歪ませた。








怒りはついに怒髪天を突いたらしい。
氷属性によってエネルギーを抑えられていたはずの雷光虫が再びその青い光を全身に纏っていく。




ハヤテは驚愕した。
一度帯電が切れたジンオウガがもう一度帯電するには、何度かのチャージが必要だったはずだし、それに周りから雷光虫を集めた様子もない。



それなのに、ジンオウガは再び――――――いや、むしろ先ほどよりも強い光を纏いながらこちらを見据えている。











「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!」














その瞬間、ジンオウガの周りの地面が無数に輝き始める。
ジンオウガがあたりに放った雷光虫に背中の蓄電殻から電流を放射状に放っているのだ。






空気が無理やり電気の強烈なエネルギーによって変質し、オゾンのようなにおいが鼻を突く。

しかし、考え込んでいる暇は無かった。









「うわっ……!?」







ハヤテの足元が蒼く光る。
足元のレギンスが淡い青の光に包まれて怪しく光るが、それどころではない。


彼は素早く後方に向かって回避した。











その瞬間、轟音と共にそこから光の柱がジグザグに天空に向かって打ち上げられる。

考えるまでもなく、稲光だった。
離れていなかったので、光と音が同時にハヤテの視界と耳を襲った。


喰らったとしたならば、雷の耐性が低いこの装備ではおそらく致命傷だ。





しかし、それで終わりではなかった。
次々と無数の光から、同じようにいくつもの光条が空に向かって打ちあがる。

それこそ幾筋も幾筋も、まるで天空に対して恨みでもあるかのように、次々と雷霆が闇夜をついて立ち上る。










射影機を取るときに使う、リンを使ったフラッシュを何倍にも強めて焚いた時のような光は、衰えることなく次々とハヤテを襲う。


その姿は、遠い遠い国に伝わる、『雷神』が降臨したかのようで。
















最後の決戦が始まった。
ここからは、どちらかが死ぬまで戦い続けなくてはならないだろう。

















ジンオウガが雷光虫を蓄電殻から集め、巨大な光球を作っていくのを見ながら、ハヤテは低く構えた。








































*                             *






はい、いよいよクライマックスに入る事が出来ました。
ユクモ村編は後……2〜3話くらいで終わるでしょうか。

しかし、終わらせる気はまだありません。
書き切っていないネタがあるので、次スレで書くことになるでしょう。
読んでくださる人がいるのなら、書き続けたいと思ってます。

では……。





















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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.96 )
日時: 2014/06/28 16:17
名前: masa

どうもmasaです。

走馬灯って確か、「死の間際に過去の出来事を見る事」だった気が。別に一瞬で別の場所に移動してても、過去にそこに行った事があれば不思議はないはず。
まあでも、夢と走馬灯は親戚みたいなものだから特別な違いは無いと思いますが。

高い所にあれば、誰かさんを除けば、飛べるモンスターに気をつけさえすれば、良い休憩場所かもしれませんよね。違うか。

まあ、飛竜が急に襲いかかって来たのは当然ですよね。自分の巣?に不審者が居れば、追い払うのはごくごく当たり前の事ですから。

ハヤテが相対している相手は過去に因縁のあった相手の様子。
確かに「忘れる」と「引きずる」は違いますね。過去を過去として受け止めるか、過去の事なのに現在のように見続けるかと言うね。

どうやらハヤテは助かったみたいですね。まあ、そう簡単には死なないから当然と言えば当然か。
アイルーが止めるのも当然ですが、ハヤテがそれを振り切るのも当然ですよね。「守る」を使命としてるハヤテからすれば、1時間でも「休みすぎた」と言う結論でしょうから。

モンスターと人か。分かりあう気持ちさえお互いに持てば、共存も不可能ではないんでしょうね。
でも、人の強欲がある以上は不可能と言う結論は当然ですね。
ハヤテは過去の教えを大事にしてるんですね。それが何かは分かりませんが、ハヤテという存在を確かにしているのは事実みたいですね。

「恐怖」とういう感情は野生を生き抜くうえでは大切ですよね。恐いからこそ、「どうすれば生き残れるか」を考えられると思いますから。
過去にそんな嫌な奴が居たんすか。「命に感謝できない奴」は優しいハヤテからすれば許せない存在でしょうね。

只でさえ厄介な相手を回復させたらそれこそ勝ち目が万に一つも無くなりますよね。
相手からすれば、確かにハヤテを見るのはもう飽きたでしょうね。何度も自分の命を狙ってきてる訳ですしね。

本当に「絶対的な強者」であるはずのジンオウガに恐怖を与えた事って何なんでしょうね。いずれは明かされるでしょうが、気になります。
しかし、流石はハヤテ。手負いの相手とはいえ、前回はあれほど苦戦した相手をいともたやすく追いつめて行くとは。

ハヤテって本当に人間かな?雷の速度って、確かマッハの単位が用いられるはず。それを察知したり回避したりするなんて。
まあでも、回避出来てるから考えるのは止めるか。


さて、ついに最終決戦。どうなるか楽しみですね。


次回も楽しみにしてますね。

では。

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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.97 )
日時: 2014/06/29 00:21
名前: タッキー
参照: http://hayate/nbalk.butler

どうも、タッキーです。

ハヤテの夢に出てきた飛竜はいったい・・・なんとなく想像はついているんですが、ハヤテが火属性のカイザー・ボウで戦おうとしてるので確信が持てずにいます。この際属性は関係なかったんでしょうか?

そして今回はついにアイルーが喋りましたね!自分の中では可愛らしい仲間(?)というイメージがあるんですよ。時々邪魔をするのを除けば・・・
ハヤテが運ばれてきたということはもしかしてあの体制で・・・なんだかあまり想像できません。ハヤテはやっぱりカッコいいイメージがあるので。

やはりハヤテは優しいですね。自分だけではなく殺し合う相手の恐怖まで汲み取ろうとするんですから。
なんというか、認める力?そんな感じのものがあるんですね。自分の気持ちに嘘をつかず正直になることで、たとえモンスターであってもきちんと応える。こういうことが出来るからモテるのかもしれませんね。まぁモンスターには応えるというよりちゃんと向かい合って戦えると言った方が正しい気がしますが・・・
そうやってジンオウガと戦っていくなかで、ハヤテは自分の決意というか答え(?)みたいなものを再確認しているのかもと感じました。

そうそう、ジンオウガとの戦いでふと思ったことがあるんですが、ハヤテのビンの装填速度・・・めちゃくちゃ速くね?
いや、ガノトトスやアオアシラのときも思ったんですが、逃げている相手にいちいちビンを装填し直してから矢を当てるってなんだか間に合わない気がするんですよ。多分その辺はゲームの方と設定を変えていらっしゃるんでしょうがもしそうでなかったら装填速度のスキルが必要なはず。でもリオソウルに回避性能つけるんならスロットに余裕がなくなる気がするので。もしかして実は神オマを・・・って不幸のハヤテにその可能性は低いかな。
と、とにかくこっちではスキルではなくハンターの技量ってことなんですよね!うん!きっとそうに違いない!
それにしても弓で装填速度+2は便利ですよね〜。なにせモーションなしで装填できますからね。麻痺らせたあとに強撃で攻撃なんかもできますし・・・
あと曲射は楽しい。スタンとるとさらに楽しい。まぁハヤテみたいな高等技術は自分はでき・・・るのかな?よく考えてみれば結構やってたような、そうでないような・・・。ま、まぁさすがハヤテって感じです。

ジンオウガの急な変化はなんなのか!?クライマックスがとても気になります。次スレも喜んで読ませていただきますので頑張って下さい。

今回はなんだか口出しが多くてすいませんでした。それでは。

この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス) ( No.98 )
日時: 2014/06/29 12:49
名前: 壊れたラジオ

どうも!感想ありがとうございます!

masaさん
まあ、ハヤテは死にかけていたので、その時に見た走馬灯のようなものという事で(笑)
ハヤテのこの話に付いては、次で書くかもしれません。

1時間は結構大きいですしね。ハヤテにとってはそういう結論になるでしょう。
ハヤテに教えを伝えたのは……また今度明かします。『怪物喰い』にしてもですが。

まあ、慣れさえすればいろんなことは出来るようになりますしね。
でも雷を避けるのは…モンハンのハンターがやっているので、ハヤテにも出来るかなと(笑)

では


タッキーさん
夢に出て来た飛竜については、たぶんハヤテの回想を入れるのでその時に。
アイルー自体は、シー・タンジニャでもうしゃべっていますがね。
ギルドのアイルーとしては確かに初めてですね。
ハヤテの運ばれ方は…たぶんうつ伏せではなく仰向けだと思ってください。

ハヤテが向かいあう覚悟は、どうなるでしょうか。
それがこの話の根底においておきたい内容でもあります。

ハヤテのビンの装填速度に関しては、あまり設定を作りこんでいませんでしたが…
後から補完しようかと思ってます。次スレをお楽しみに。

では。


今回の話は、過去最高の文字数でした。
何せ最終決戦だったので――――――では、どうぞ。







*                  *












『嘆きの唄』






集会浴場には詰めかけた人間が我先にと中に入ろうと長蛇の列を作っていた。
村人のこのあたり特有の民族衣装があったり、はるか遠くから来たと思われる観光客もいる。

サクヤやチハルの知っているような、砂原の民族衣装もある。


それにここに来ている旅行費があるだけでも平均以上の収入があると考えられるが、その中でも特筆して金を持っているどこかの領主や貴族や豪商なんかの階級の人間もちらほらと見られる。

ちらほらと言ったが、結構な数がいる。
ただ単にここに集まっている人間の人数が大概多いと言うだけだ。




避難してきた人間が、集会場の前の石畳の前や階段の上にずらりと座っていた。
足の踏み場は人の波のせいでなかなか見つからない。

いくら広い集会浴場とはいえ、ここの村全員を収容できるほどの面積は無いから、当然と言えば当然であった。




その人々は、多少の差異はあったが、みな不安げな表情を浮かべている。


怯える子供を抱く親が目に見えて、ヒナギク自身も強い不安を覚えた。
――――――守れるのだろうか、私たちは。彼すらも苦戦した、あの相手に対して。







ヒナギク、アユム、サクヤ、チハルは人の波を押しのけて集会所に向かって登っていく。
しかし順番違反で責めるようなものはいない。
彼女らの装備を見ればハンターであり、この状況に対処できるのは彼女たちのようなハンターだけであるためだ。



ヒナギクたちが集会所の扉に近付くと、中から武装した人間が十数人出て来た。

一瞬何事かと思ったが、すぐにその答えは出た。









「ユクモ村ギルド、ギルドナイト陣……」







彼女もこの村の専属として、幾度か交友はある。
この村の警邏や、違反ハンターがいないかを取り締まる担当しているギルドナイトたちだ。


狩りの時にもお世話になったことのある彼らだったが、ハンターとしての防具をつけているところは今まで見たこともなかった。



彼らは過去に名のあるハンターだった者達で、彼女の先輩もいくらかいる。
手練れであり、かなりの実力者である。

さすがに現役のハンターではないのでG級クエストには参加できないが、それでも心強い。
しかし、現在のその状況がこうさせているという事も同時に分かる。





隊長らしき人がヘルムの下から周りに命令する。
大剣を背負ったそのハンターが命令すると、一個隊が敬礼を直列不動で返し、仲間と共に闇夜に消えていった。







「3班は南門の守護に回れ!!!蒼火竜殿の誠意に応えよ!!!恥をかくような真似をするな!!!」





そんな激励と共に、大きな掛け声が上がって彼らの士気が上がったような感覚がある。
ハヤテが命がけで今守ろうとしているこの村だが、彼らもその気持ちは負けていない。

ヒナギクもそうであった。





「おお、現専属ハンター君か……」
「馳せ参じました、隊長さん。」





ヒナギクに気づいたその老練の武士のような風格をした、深いしわが刻まれた顔をした男性がこちらに向かってきた。
笑い皺が多い所を見るといつもは快活明朗な男性である事は分かるが、今はそれどころではないのだろう。






「ご苦労様です……しかし、今彼がジンオウガを足止めしてくれています。」
「そうだな……今は、ユクモのギルドナイトが総出で町の守護に回っているところだ。モンスターとは戦えないが……しかしこのくらいの事はしなければ、今戦っている彼に申し訳が立たないよ。」






隊長は情けないがな、と言ったような表情で唇をかんだ。

彼も悔しいのだろう。
ここは自分たちの故郷であるのに、自分たちで戦いに行くことが出来ないのだ。

この村を今守る任を負っているヒナギクも現に同じ気持であった。

しかし自分たちが行ったところで何もできない事が分かっているし、足手まといになる事自体も分かり切っているから、その悔しさには拍車がかかっていた。








「隊長!!!」





横の階段から、そこに落ちていた枯葉をぱりぱりと踏む音と共に大きな声が響いた。

年若い男のような声を出した、隊長と同じようなギルドナイト用の制服を着たその人は、出て来た瞬間、隊長に敬礼した。

隊長が敬礼を返して口を開く。







「ご苦労――――――で、どうだった?」
「いえ――――――。」






質問に口ごもるその男の様子に、隊長はやっぱりかと言う表情を浮かべる。






「ったく……あいつはまたか!!!」





大きくため息をつくと、そのやってきた男も呆れと申し訳なさで縮こまった。
その男は頭のヘルムに手を掛けた。

見知ったその顔に、ヒナギクははっとした。







「カオルさん……」
「お、妹にアユムちゃんに……後の二人は誰だ?」






カオルと呼ばれたその男性は、ヒナギクとアユムに気づいて挨拶を返した。

この男性はユキジのかつての同期で、ハンターを途中でやめてギルドナイトの職に移った人間の一人だ。

ユキジとは幼馴染だったため、ヒナギクやアユムとも面識があった。






「それよりカオルさん……やっぱりってもしかして……」
「ああ……」





ヒナギクは嫌な予感がして恐る恐る尋ねると、カオルは頭の後ろを掻いた。
どうやら、嫌な予想は当りらしかった。







「いや……援軍としてユキジを連れてこようと思ったんだが――――――あいつあれでも実力者のハンターだったし、ハンター育成アカデミーの教官だからさ……でも……」






ヒナギクは頭とこめかみを抑えて、大きなため息をついた。
あくびは感染すると言うが、あまりにもとんでもない出来事だとため息も感染するらしい。


隊長もカオルも、アユムも同じようにため息をついている。
話が分かっていないサクヤはどうか分からないが、アカデミーで多少の縁故があったチハルは大体の結論に達したのか、苦笑いを浮かべている。






「あいつ、昨日普通の酒とアルコールの蒸留した奴をドリンクとして飲んじまったらしくて……今見て来たけど泥酔状態だったよ……」
「ったく……この状況なのに何考えてんだあいつは!!!!!!」




ヒナギクでもあるが、ユキジの先輩でもあるこの隊長はユキジに対して悪態をついた。
彼女は腕の良いハンターだったのだが、こういう所が玉にきずだ。

隊長はしばらく禁酒と教官としての給料減俸だなとつぶやいていたが、ヒナギクは反抗するつもりは無かった。
むしろ、あの姉を雇ってくれること自体が不思議だった。


真面目なカオルと現役時代に専属ハンターとして組んでいたらしいが、その時の彼の苦労はとんでもないものだっただろう。
―――――もしかしてハンターをやめたのはそういう事だったのでは?









話がまとまりそうになかったので、隊長は肩を竦めた後でカオルの方を向いた。

彼に慰労の言葉とを掛けると、持ち場に戻ってくれるように命じた。

彼は敬礼を返した後、ヒナギクたちの前を通るときに彼女らの方を向いて口を開いた。





「ハンターにしか任せる事が出来ないのは心苦しいけど、俺たちの街なんだからこれぐらいの事はやらないとな。お前たちも頑張れよ!」





彼はそういってもと来た階段を大急ぎで下って行った。
先ほどのハンターとは、今出撃しているハヤテの事だろうか。

しかし、この村を守りたいと思っているのは自分たちも同じだ。
そのために人が集まる集会所に来ているわけで、自分たちは今どうするかを見極めなくてはいけない。









ヒナギクとアユムは目を見合わせて頷いた。

サクヤとチハルを見ると、二人はしっかりと頷いて返してきてくれた。

































突然、あたりにいた避難者から大きな悲鳴が響いた。


驚いて振り向くと、大きく遅れて空から稲光が地面に衝突した音が響いてくる。
もはや自然の稲妻と見まごうほどの轟音であったが、空には雨雲など存在しないし、そんな電力を生み出せるような施設もあたりには無い。



という事は――――――。









しかし、その一発で終わりではなかった。
はるか遠くの、月に照らされた白い靄の中の渓流が蒼い光でぼうっと明るんでいる。


その中から、天空に撃ちあがる閃光は、彼が今相手としているモンスターの強大さを顕著に表している。
そしてその場所は、遠いうえに靄のせいで判別しにくいが、ヒナギクの勘が正しければそこは『渓流』のエリア2だ。





つまりは、この街の端からはそう遠くは離れていない場所となる。
攻め込まれたとしたならば、守りの弱いこの村の辺境部分は藁の壁だ。


遠雷のように響きるづける轟音は確実に人々から冷静さを欠かせていく。

村人の一人が抱えていた小さな子供のおびえるような泣き声が引き金となって、恐怖のリミッターが崩壊した。

パニックになった村人や観光客の面々が、我先にと中に入ろうと動き出す。
それはまるで津波のような力を持って、前から後ろから攻めてくる。





踏まれ、怒号が飛び、押し倒されてあたりの騒ぎが大きくなる。
このままではモンスターに襲われなくとも大きな被害が出てしまう。

人の力はこんな時に集まってしまえばまずい。




あちこちから響く怒号のような声に泣き声、不安や絶望の声を上げながら人の津波が迫ってくる。














ドオン!



































後ろで響いた発砲音に、そこにいた人の波はあっけにとられて一瞬動きが止まる。


人々の背後にいたのは、手に小型のリボルバーを持った一人の女性だった。
不安など一遍もない柔らかい笑顔で、泣き出したその子をあやしにかかっている。

その頭にチョップを叩き込む金髪の男が後ろからぬっと現れて、彼女に向かって口を開いた。








「アホかお前は!!!こんなところで拳銃ぶっ放してどーすんだアホ!!!」
「だってだってこれ以外に静かにする方法が思いつかなかったんだもん!!?っていうかアホって二回言ったな〜!!?」
「アホはアホだこのバカ!!!人に当たったらどーすんだ!!?」
「だから上に向かって撃ったんじゃない!!?それで当たるなんてよっぽど運の悪い人じゃないと当たんないよ!って今度はバカってゆった〜!!!」






いきなり後ろから現れた二人の男女の漫才のようなやり取りに、全員呆気にとられた。
あたりを先ほどまでは考えられない静寂が襲った。

その静寂に心地悪さを感じたのか、金髪の男――――――シンは口をゆっくりと開いた。





「あー……こいつの事は気にするな。ただ何かワイルドっぽい登場を演出したかっただけだろう。」





いやいやいや、とあたりは心の中で突っ込まざるを得なかった。
っていうか、ワイルド系で拳銃って何だ。


あたりのそんな空気を意にも介することなく、シンは淡々と続けた。







「今は、お前たちが最も信頼したハンターが当たっているというのだろう?何をそんなに怯える必要がある?」
「し……しかし……あんな力を見てしまっては……蒼火竜様一人だけであんな敵に勝てるのか、不安で……」





村人の一人がそういうと、他の人間もそうだそうだとまた騒ぎ始める。


彼ら一人一人の口々に叫ぶ声を彼はほとんど聞き流していたが、彼らの中には自分本位なセリフを唱えてギャーギャー言うやつもいて、その意見を耳に入れた途端に口を開いた。









「随分と勝手な事を言っているが、お前たちが同じ状況なら、一人で立ち向かえるのか。」
「それは……」
「何もできずに上の椅子に座っているだけの奴がぐちゃぐちゃ言ってんじゃねぇよ。」







ここにいる全員がぞっとするような声で、彼は吐き捨てた。
その顔には表情が無い所為で、余計にぞっとする。

怯える他の村人に、シンは続けた。







「不安がってるやつも、不安がってもいいから彼を信頼してやれ――――――お前らが信頼してやらずに、誰があいつを信じてやるんだ?そうしたらあいつは本当に一人になるぞ」






シンがそう言い切ると、隣にいた彼女はシンちゃんったらやっぱりカッコつけ〜と彼をおちょくっている。
彼はそれにうるさいと返しただけで、それ以上何もいう事は無かった。



彼女は一通りおちょくり終えるとシンから離れて、泣き始めてしまった子供たちの方にちょこちょこと歩み寄ってきた。

不思議なもので、彼女があやした子供たちは先ほどまでの恐怖がまるで水の中に溶けて消えてしまったようになくなる。





「まあ、焦ってもしょうがないよね。ぼんやりとでも過ごしていれば、何とかなるよぅ?」




彼女の舌が少し足りていないその口調に、あたりはいつの間にか先ほどまでの暴走があっさりと消えていた。

頃合いか、とシンがつぶやき、後ろにいた小柄な少女を呼び出した。





その少女は少しおどおどしたような表情をしていたが、すぐにキッとした表情に変えた。
と言うよりも、いつもの表情がこちらなのかもしれない。
そう思わせるほど、彼女のその表情はしっくりとしたものだったのだ。





「蒼火竜が、ジンオウガ討伐前に言っていた言葉をお前たちに伝えたいらしいぞ。」





その言葉に人々は次々に顔を見合わせた。
ざわざわとざわめき始めた観衆をシンは手で静止すると、隣にいた少女――――――ナギに促した。


彼女は一歩前に進み出ると、ずらりと並んだ観衆の前で口を開いた。






「あいつは…今回のジンオウガはG級でこの村には僕しかいませんから、僕一人で戦うと言って出ていったのだ――――――あんなに苦戦していたじゃないかと言ったのにだ。」





淡々と語るナギに、あたりは静まりかえっていた。





「ギルドの配慮についても怒りたくなったし、三千院の力を使ってでも助けたいと思ったが――――――あいつは私のいった事を余計と切って捨てたのだ。何故だと思う?」





ナギの問いに、答えられたものは誰一人としていなかった。







「あいつは自分が行かなかったときに、私のような人間が現れてもいいのかと聞いたんだ。」







そのセリフはジンオウガに彼女が襲われたとは知らない彼らにはよく分からぬことだったが、彼女の様子から何かとんでもないことがあったのだろうという事は容易に予測がつく。

三千院家の名に傷がつく可能性があったが、シンも紫子も止めるつもりは無かった。
彼女の心に溜まっていた事を、全て言わせてやりたかった。











「あいつはこうでも言っていたぞ……勝てるか、勝てないかは分からなくとも、やらなくては勝てないんだとも……そのためは自分の犠牲も全く厭わずに、全く怯むこともなく立ち向かっていったんだ。」






彼女の目がうるんでいるのが、月明かりとギルドからの明かりで良く分かった。
それほどまでに、心の中に押し込めていた言葉が堰を切ったかのように溢れ出してくる。






「そして最後に言っていた……もし、住民の皆さんが混乱状態に陥ってしまったら、<蒼火竜>が、それに対処しているから、みんなが心配しない様にしてほしいと言っていた――――――だって僕は、“ハンター”だから――――――と。」






村人たちが顔を見合わせて話し合い、うなずきあっている。
自分たちよりもはるかに若く、普通ならばまだ親や保護者がいてもおかしくないほどの年齢の少年。



その人が、それほどの覚悟でこの村のために立ち向かったのだとしたならば。
縁もゆかりもなかったはずのこの村を守るためにその力を振り絞っているのだとしたならば――――――。











「当の守られている側の私たちが、信じなくてどうする……」






そこまで言った彼女の頭を、シンはくしゃくしゃと撫でた。
彼女を自分の後ろに隠して、肩をすくめて見せた。







「……不肖の娘にここまで言わせたんだから――――――ここで騒ぐ奴がいたら、恥をかくのはそいつだな。」





シンがあっさりと言い切った。
子供のそばにいた紫子はいつの間にか彼のそばに立っていた。



いつも良く読めない彼女の動きにはもう慣れた様子で、軽くあしらいながら時折チョップを叩きこむ。







「そうだな……ハンターを信じなかったら、どうにもならないよな……」
「そうよ!だって対応しているのはあの<蒼火竜>様よ!モンスターに負けるわけがないわ!!!」
「俺のあこがれのあのハンターが、こんなところでやられるような人じゃねぇよな!」
「そうだ!」





村人、そしてそこに集まっている新米からある程度の実力を持っているハンターまでがその言葉に同意して、そのざわめきがあたりに大きく広がっていく。

傍には利己的な人間が追いやられている。
まあ、この状況ではうかつに彼を否定する言葉など上げられまい。





シンは、“昔のような”人の悪そうな笑みを浮かべた。
隣にいた彼女が、自分にいきなり拳銃を向けてきた時よりももっと深い笑みで。


















遠くで、巨大な爆弾を炸裂させた時の光を何倍にも強化したような閃光が上がった。

彼ら――――――この村に住むほとんど全ての人間の目が、そのはるか遠くで響いた閃光と、またしても地面に大きく響くほどの轟音を上げた渓流に向けられていた。





ナギは、その涙ではっきりとしない瞳で、かすれる影のかかった山の麓を見つめていた。
先ほどの彼が、雑誌に載っていたよりもパーフェクトな笑みのまま、戻ってくることを祈りながら。









































*                  *

















「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」










咽喉の奥から絞り出した声を上げ、ジンオウガは背中に充電しきった雷光虫を収束させていく。

蓄電殻の周りに渦を巻くようにして立ち昇ったそれは、巨大な光球となって、膨大なエネルギーを放つ電撃の一撃となっていく。
バリバリとどう考えてもやばいとしか思えない電流の量が、その光球をはい回り、ハヤテの危機回避能力に激しい警鐘を鳴らしていた。



ジンオウガはそれを同じく帯電した尾で勢いよくハヤテに向かって叩き込んだ。







ハヤテの側面を、太い光条が通り抜けて行った。
渦を巻き、竜巻のように飛んできたそれの中にいた雷光虫は途中で飛散し、電流のみが彼の鎧をかすった。



雷を幾筋も幾筋も束ねたようなそれは、空気すらも蒸発させてエリア2のそばにある、ドスファンゴが駆け下りて来た壁に衝突する。








衝撃。
そして、膨大な熱と光がハヤテの皮膚を襲った。
その光は壁に吸い込まれたかと思うと、着弾したそれは壁の一部を一気に吹き飛ばした。

その上で飛び散った破片はバラバラに砕けて細かくなり、発した熱によって蒸発し、その岩石の蒸気はハヤテに襲い掛かったのだ。






いくら本体の攻撃を避けたとはいえ、高熱はどうやっても防げない。
思わず顔を覆ってしまうが、その隙をジンオウガは見逃さない。


高熱をさらに後ろから感じて振り向くと、ジンオウガは二発目を再チャージしている。
ハヤテは素早く回転して回避すると、矢をつがえようと手を後ろに回した。






その瞬間、二度目の光条が先ほどまでハヤテがいた場所を吹き飛ばした。
ハヤテはそちらに一瞬気を取られたが、すかさず矢を射ようとジンオウガを見据える。






















――――――が、ジンオウガはそこにはいなかった。


側面から感じた風圧にハヤテがとっさに脊椎を後ろに引き、体をブリッジの要領でそらした。





その瞬間、ジンオウガの棘だらけの甲殻に覆われた太くしなやかな尻尾が振りぬかれた。
眼前の風圧はハヤテの蒼い髪を大きく揺らし、そのうちの数本を持って行った。






ハヤテは大きく跳躍し、ジンオウガから距離を取った。
サマーソルトを不発させたジンオウガは大きくその体幹を捻って、恐るべき平衡感覚で地面に降り立った。










あの巨大なチャージ攻撃はフェイクだった。
相手がその大技に気を取られているうちに死角に回りこみ、サマーソルトの尻尾の衝撃で仕留めようとしたのだろう。





ジンオウガの知能や、回り込む身体能力にも驚いたが――――――ハヤテは別の事で頭がいっぱいだった。









あの攻撃は、相当膨大な電力を食っている。
この状態のジンオウガは超帯電状態のエネルギーがフルに発揮される状態ではあったが、どう考えても普通のジンオウガに出来る事ではない。

よほどの屈強な個体でなければ、電力を抑えきれずに体が崩壊してしまうはずだ。
しかし、それを実際に放っているのだから困る。

凄まじい電力により、空気の分子と言う分子が崩壊するほどの一撃を持つモンスターを野放しにしておくにはいかなかった。
これは突然変異の一種と言えるだろう。

どこかの辺境におかれた個体が、種の限界を超える変異を起こしたとしか考えられない。
これを放っておけば、人間だけでなく近隣の生物群――――――ひいては生態系の異常を引き起こすかもしれないイレギュラーとなる可能性も否定できない。








しかし、その攻撃はこの屈強なジンオウガにすら、多大な対価を支払うものであるらしい。
チャージした時のあまりの高熱やエネルギーによって、蓄電殻や帯電毛は焼け爛れ、ところどころが剥がれている。


痛々しいまでのそれは、このジンオウガの覚悟の証かもしれない。
自らの命を賭けてでも、この縄張りを守ろうと思ったのか――――――しかし、生物には自殺願望と言うものは無い。

早くこの敵を追い払い、死以外の何もかもの対価を支払ってでも倒すという覚悟を決めたのだろう。






息の上がりかけているジンオウガを目の前にして、ハヤテも表情を引き締めた。

牙の生え揃った大顎の縁に、吐血によってか先ほどのガーグァによってなのかは分からないが、唾液と混じって粘性を増した黒い液体が流れていた。









ジンオウガが天空に向かって咆哮した。
その瞬間再び地面が蒼く光り始め、幾筋もの閃光がハヤテに向かって襲い掛かる。




バチバチどころではなく、大銅鑼か大タル爆弾を至近距離で炸裂させているかのような衝撃。

閃光玉を無尽蔵に投げ続けているかのような閃光に、爆弾を鼓膜に直接投げつけられているような音がハヤテを襲う。



まるで雷神がハヤテに対して怒りでもあるかのように、雷霆が襲い掛かってくる。
実際にジンオウガはその角や風格から雷神に例えられることもあるから、納得と言えば納得ではある。
しかし、雷が連続で襲い掛かってくるこの状況でそんな事考えてる暇があるなら回避しろと言うべきだ。






雷が次々と自分を狙って落ちてくる中で、ジンオウガは全く雷を気にすることなく襲い掛かってくる。

自分の引き起こしたものだし、ある程度は洗脳している雷光虫に制御しているのだから、気にする必要もないという事なのだろうか。





雨のように無尽蔵に落ちてくる雷霆と雷鳴を肌で知覚しながら避け、目の前のジンオウガの太い幹のような腕を避ける。

一撃ごとに電流がほとばしるそれはあたりの雷も誘電して、避けたハヤテの近辺に無数に落ちてくる。





腕を叩き付けたかと思うと、ジンオウガは体を一気に体を思い切り翻し、尻尾をハヤテに向かって叩き付ける。

雷を避けるのに必死になっていた彼はそれを完全によける事は出来ず、鈍い痛みがハヤテの肩に襲い掛かった。






意図せず口から苦しげな声が漏れた。

動きが止まった瞬間、体に一本の光の筋が通り抜けた。





僅かに体幹を逸れていたからよかったが、雷の直撃はどう考えても痛すぎる。
火傷を負ったようにひりつく腕に高熱の感覚が襲い掛かってくる。

もはや痛いのではなく、体が熱い。










ジンオウガが体をもう一度翻してこちらを見据える。

どうやら雷の雨は電力の不足のせいで止まったらしいが――――――こちらの体も限界だ。







(くそ……足が動かな――――――)






ハヤテがそう思ったとたん、ジンオウガはその体を横に構えて後ろに引いた。
一気に力を溜められた肩の筋肉が盛り上がる。







(まずい!!!)






痺れているハヤテの体が動く前に、ジンオウガの巨体から繰り出されたタックルが彼に浴びせられる。

ジンオウガのショルダータックルの一撃は、道をふさいでいる巨大な岩塊を吹き飛ばしたり、自分と同じくらいのモンスターならば戦意喪失させるほどの威力を持っている。



それをまともに喰らったハヤテは、エリア2の端からエリア6につながる通路に向かって吹き飛ばされた。








ゴムでできた物体が吹き飛ばされるような放物線を描き、緩やかとは言え崖の下に放り出された。


































*                *




















「ぐぁ……」






体全身を鞭で打ったような感覚が体を襲った(鞭で打ったというのは慣用句だ。想像しているような事は無い)。

全身を雷がはい回ったような跡がひりつくが、幸いタックルを受けた時のダメージはあまりなかった。
衝突の瞬間受け身を取り、ダメージを最小限にとどめていたのだ。

ハンター養成アカデミーで習うのアクションの一つに、シャドーやキックと言うものがある。

シャドーは徒手空拳の一種であり、何らかの状況で武器が使えない時のためのハンターの自衛手段の一つだ。
キックはその名の通り蹴り技である。

ハヤテはこの能力をも極限まで鍛え上げているため、小型モンスターや中型モンスター程度ならば、一対一の状況では素手で解体できるほどの腕前がある。




その能力が、今回のハヤテの命を救っていたのだ。





訓練は自分を裏切らないねと崖から落ちて受け身を取った時に思ったが、その隣に折れて尖り、竹やりのようなものがあったことには冷や汗が流れた。

落ちたところに竹やりがあって、それにブッ刺さって死ぬなんて本末転倒もいいとこだ。
と言うか、自分の運の悪さは訓練ではどうともならないのに、嫌がらせのように降りかかるこういう事には彼も少し辟易としていた。

まあ、突き刺さらなかっただけ悪運は良かったのだろうと考える事にした。
こんなことでいちいち考え込んでいたら、ハンターなんて出来たもんじゃない。











(しかし……これからどうする……)







ハヤテはそう思って考え込んだ。
ジンオウガは先ほどの経験から、十中八九自分が完全に死んだかどうか匂いをたどってこちらに来るかもしれない。


しかしあのジンオウガの攻撃能力がこちらの予想外であったし、今の自分が戦うには相当不利だ。

このエリアには電気を伝えやすい水がなみなみと流れている。
くるぶしまでもなく、普段なら何の影響もない水の流れが、今は自分の命を奪う可能性もある電気椅子のようなものだ。





どうする。
この状況で、打破する方法は無いのかよ――――――?





せめて、体の帯電状態を完全に解くことが出来れば!
そうすればまだ有利な状況を展開できるのに……。

ハヤテは祈るような思いでポーチを探った。
ポーチから取り出したのは、先ほど町の雑貨屋で買いそろえた二つのボックスだった。



これは切り札として今まで取ってきた。
ジンオウガが弱っているときに使わなければ意味は無い。

しかし、自分の感覚が正しければあのジンオウガはもうほとんど体力は残っていない。
戦いっぱなしでは、ジンオウガのような巨体は疲弊しやすいし、著しく体力を削るであろう電撃をもう相当回数使っている。





これを使えば――――――。




しかし、それを使うには大きな問題があった。

これはシビレ罠のように設置型のアイテムなのだが、いかんせんこの武器の特性上、設置に非常に時間がかかる。

その間にジンオウガがこちらの後を追って来れば、それが不発のままこちらがやられてしまう可能性もある。





くそ――――――。

時間を稼げるようなアイテムを持ってこれなかったことにハヤテは歯を噛みしめた。
アイテムポーチの量の少なさは、ハヤテの狩猟を確実に苛んでいた。






彼はポーチをひっくり返すような勢いで探っていく。
しかしその中のものをかき分けても、対抗できるような手段……もしくは足止めすら出来るようなものは見つからなかった。











「――――――痛っ……なんだ?」






ビンのシリンダを退けた途端に、手のひらを守っているリオソウルZガードの布の上から、何か刃物のような感覚がハヤテの指の上に現れた。

何かと思ってその黒い布を巻かれた取っ手を掴んで、森のトンネルから差し込む月の光にかざして何かを確認する。



月の光は傾きかけていたが、それが何かは柄の先についていた光沢を放つ金属によって分かる。

ハンターだけではなく、人にとっても大事なものの一つだ。













「――――――ナイフ?」






ハヤテが取り出したのは、非常に小ぶりのナイフだった。

こんなもの入れて来ただろうかと考えた瞬間、ジンオウガに一度倒された時の記憶が戻ってくる。






(あの時!)





エリア4の廃墟。
確かその中にあった光るものを自分は拾った気がしたのだが……。

おそらくその時のものだ。
人が長らく住んでいなかったにもかかわらず、そのナイフにあまり錆は無く、金属の光沢は当時のまま月の光を反射して光っていた。




しかし、ナイフがあったところでどうしようもない。
しいて言えば、小ぶりだから敵に放って『投げナイフ』と言うアイテムとして使えるぐらい――――――。





そこまで考えた瞬間、ハヤテははっとして顎に手を当てた。
投げナイフは確か――――――。



ハヤテはそのナイフをもう一度見て、上手くいくかどうかを考え始める。
その確証がある程度できた時、ハヤテはあたりを見渡した。

前回あれを取った時にあったものがここにまたあれば――――――。






エリアの近辺に生えているそれを見つけ、ハヤテは未だに痛む体を引きずってそこに小走りで向かった。
この状況では体の痛みなど、気にする余地もなかった。





ハヤテは、急いで自分の咄嗟の機転で動き始めた。
それはこのエリアにジンオウガが来るという、彼の予測の上での行動であり、若干の希望的観測も入っていた。

しかし、それを気にしていれば余計な時間を食うだろう。
一縷の望みをかけ、ハヤテはそのエリアを自分の土俵にするための改造を始めた。







































*               *















「あとはこれを……」





全ての準備を終え、ハヤテは最後の仕上げに取り掛かる。
緑色のボックスの蓋を開け、地面に固定すると、蓋の側面にあるトリガーを思い切り引いた。

ガチャン!!!と言う音がして、その緑色のボックスが地面に深く固定される。
しかし、完全に展開するまでにはまだ時間がかかる。

今来られたら――――――。







「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」









そんな事を考えていると、この森のトンネルのようなエリア6の木の葉を巨大な咆哮が揺らした。
エリア2を構成している断崖絶壁から飛び降りて来たジンオウガは、エリア6にある巨大な滝の落差を全くものともせずに踏み越えてくる。

水飛沫が高さ数メートルにまで上がり、ジンオウガの体を覆い尽くす。
しかしあまりの電気エネルギーにより、ジンオウガの体に触れた先から蒸発していく。

体にこのエリアの水を伝ってわずかな電流が流れ込んでくる。
あらかじめポーチから取り出しておいたウチケシの実で効果を軽減しながら、ハヤテはジンオウガを見据えた。

雷属性の攻撃を喰らった時に、体が痺れ、動きにくくなると同時に敵の攻撃で麻痺しやすくなる状態異常の〈雷属性やられ〉を発症していた。
しかし今まではエリアの改造を必死でやっていたので気にも留めなかった。

ウチケシの実を齧った途端に痺れていた体が先ほどよりはまともに動くようになる。
回復薬グレードは先ほど飲んでいたが、調合できる数が残り数本のこの状況では無理に使うことは出来なかった。







(くそ……あれが展開するのにはまだ時間が……)






ジンオウガがハヤテに向かって吠える。
四肢を張り、殺してやると言わんばかりに口腔の奥から肺の中の空気を一気に押し出したかのような咆哮に、木々は揺れ、怯えた小動物たちは木の影や水の中に隠れた。







(使うしかないか……)






ハヤテは先ほどのナイフを取り出した。
ジンオウガがその牙を剥き、張り出した両前足で彼を抑え込もうと飛び掛かってきた。

一瞬、時間がスローモーションのようになった。
死の直前と言うときは全てが遅くなると言うが―――――死ぬつもりなど今はまだ無い。


ハヤテは、そのナイフを投げつけた。





(届け!!!)






そのナイフは、彼の手を離れると一直線にジンオウガの胸部の甲殻に突き刺さった。
命中した!!!とハヤテの表情は一端緩むが、ジンオウガの動きを見て再び険しくなる。


ジンオウガは止まらない。
ハヤテのいる、川の中の僅かな中洲に向かってその鋭く研がれた牙を突き立てる。

彼は間一髪でかわしていた。
ジンオウガは川の砂利や泥に噛みつき、口の中からそれをふるいだした後、こちらを見据える。
腹立ちまぎれに振るった尾が水面に叩きつけられ、振動と共に水柱が上がる。

ジンオウガが電力のチャージを行って、辺りが再び蒼く光り始める。


どう考えてもまずい。
このエリアは先ほどと違ってはるかに多くの雷光虫がいるはずだ。
それが今再チャージされたのならば――――――。





ハヤテは覚悟を決めた。
背中の弓に手を掛け、最後の瞬間まで戦おうと矢筒に手を掛けた。










「オオッッ!!!???」






しかしその瞬間、ジンオウガの動きが変わった。
見ると、体が変な動きでぴくぴくと痙攣しており、口からは神経系に何かが作用しているのか唾液が飛び散っている。

まるでドスファンゴに麻痺ビンを撃った時のように、ジンオウガはその自身の体を動かすことが出来ずにいた。









(効いたか)






ハヤテは先ほどの投げナイフによる影響が出たことに安堵する。


彼は投げナイフを改造し、近くにあった強い麻痺効果を持つ<マヒダケ>と言うキノコと調合して<麻痺投げナイフ>を作成していたのだ。

麻痺ビンや麻痺弾よりも、直接的に刃から流し込むことが出来るので、高い状態異常効果が期待できる。



しかし、このジンオウガには効果の出が遅れた。
それはこの個体の巨大さ故だろう。
あまりにも巨大だと、薬の効果が出にくいのがいい例だ。







ただし、ぼうっとしている暇はない。
マヒダケの麻痺効果と言うものは、わずかな電気刺激によるものが大きい。
雷光虫とは違う系統の麻痺なのでジンオウガにもある程度の効果はあったようだが、根本的には似たようなものである。

つまりは、ジンオウガには麻痺の効果があまり持たなさそうだという事だ。
今回のこのド級個体は特に。



ハヤテはアルヴァランガを再び開き、次々と矢を放つ。
フルまでチャージされた矢をクリティカル距離で放つと共に、上に打ち上げた曲射用の矢でさらに追い打ちをかける。

放散型なのでスタンには向かないが、ジンオウガのこの巨体ならばバラバラに広範囲に落ちる矢は全身を隈なく攻撃できる。


ビシビシと体に叩きつけられるその石礫か、撒き菱のような矢にジンオウガの全身の甲殻は少しづつ剥がれて血が滲んでいく。

土台これほどのエネルギーの暴走を抑えること自体が、このジンオウガと言う生物種にとって無茶な事だったのだ。
疲労を起こした甲殻は相当なダメージを受けていたのか、命中のたびにボロボロと細かい鱗のように落ちていく。



蓄電殻は電流によってオーバーヒートを起こして、高熱に晒された殻に氷属性の矢が命中し、耐久力の限界を迎えている。
帯電毛はあまりの高熱に耐えられず、ところどころが焼け焦げて、生体組織が燃えるときの嫌なにおいが鼻に突く。













「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」





ジンオウガが無理やり体を苛んでいた麻痺の拘束を解き放った。
血走った目でハヤテを見据えるが、その頭部の甲殻から連なる全身の装甲はずたずたになって、悲しいまでの悲壮感を漂わせている。

咆哮までがまるで彼の悲劇を唄う、嘆きの唄の様で。































麻痺していた時間は短かったが、ハヤテにとっては十分な時間だった。
ジンオウガの体にチャージされている電力は、度重なる氷属性による攻撃とジンオウガ自身の電力の使用によって、後僅かのはずだ。

甲殻から出ている蒼い光の急激な減少は、それを顕著に表している。





緑のボックスを仕掛けた位置をちらりと見た。
確証はないが、今までの展開にかかった時間を考えると……そろそろ頃合いだろう。

ハヤテは素早く後ろを向いて逃げ出した。
こういう時に背中を向けると、肉食獣は獲物と認識し、猛スピードで追ってくる。
だから森で猛獣に会った時は、眼を合わせながらゆっくり下がるのがいいとされている。

哀しいかな、体に刻まれた本能なのだ。





ジンオウガもその例から外れなかった。
咄嗟に背中を向けた途端、ぼろぼろの前足と後ろ足に力を込め、脊椎をばねのように駆動させながら、ハヤテに向かって猛進する。

背中にジンオウガの牙が迫る。
四肢が踏み鳴らす振動が、身体に伝わってくる。





ハヤテもまた、ぼろぼろの身体に鞭を打って、必死に走っていた。
もう息も絶え絶えだ。

それに先ほどから喰らっているダメージは未だに癒えていない。
無理に走ったりしたら傷口が開くだろうが、今は気にしていられない。


まさに、命を賭けた鬼ごっこ状態だからだ。






ハヤテは先ほどのボックスを仕掛けた位置の直前で、大きく跳躍する。
その体は人間技とは思えないほどの距離を跳躍し、地面にぶつかって受け身を取りながら着地する。

ジンオウガがその後ろから全くスピードを緩めずに突進してくる。
このまま踏みつぶされれば、怪我では済まないが――――――。





ハヤテはそこから動かずに武器に手を掛けていた。
避ける必要がないことを知っていたのだ。











ジンオウガの体がその位置まで来たとき、いきなりその巨体が地面へと落ち込んだ。
地面に大穴が開き、モンスターの体をしっかりと固定してしまっていた。
訳も分からず、下半身が埋まったままもがいているジンオウガに向かって、ハヤテは弦を引き絞った。






アイテムの一つ<落とし穴>

非常にシンプルなネーミングだが高度な技術の産物である。
設置すると緑のボックス、<トラップツール>により地面を急激に腐食させて穴が掘る。
そして同時に仕込まれた蜘蛛の巣とツタの葉から作成されたネットが展開されて穴を隠し即席の落とし穴となる。


その上に超重量の大型モンスターが乗ると、その重さに耐えきれずにネットが落下し、突如出現した穴とネットの粘着性でモンスターを拘束する。




非常に強力なアイテムだが、効果が無いモンスターも少なくないし、設置する場所にも条件が必要であることは、同じくモンスターを拘束するシビレ罠よりも厄介だ。

ある程度しっかりした地面でないと穴が形にならないし、設置にもはるかに時間がかかる。
水中では使うこと自体が無理である。





但しその見返りは大きく、拘束できる時間は長いため、適切な状況、適切なタイミングで使いこなせば非常に大きなダメージソースとなる。





それに、電力をチャージされる可能性のあるシビレ罠とは違い、これにはそういったジンオウガに対する弱点は無い。

つまりは、帯電状態のジンオウガを拘束できる数少ない手段なのだ。














ハヤテは背中に回り込んだ。
いつもならば位置が高いうえに狙いにくい角度の背中の甲殻が狙いだ。
落とし穴にはまっている今ならば、それは低い位置にあるうえに非常に狙いやすい的のような角度にある。



ハヤテはアルヴァランガを思い切り引き絞り、背中の甲殻に向けて連続で高威力、高属性の矢を叩き込む。

さすがのジンオウガでも、最恐まで鍛え上げられたG級武器の攻撃を、ここまでまともに喰らってしまったのならばただでは済まない。
それにその武器を使っているのは、最高レベルまでの腕を持った弓使いなのである。






背中の甲殻が砕けた。
ジンオウガは悲鳴を上げるが、それと共に背中で共生していた雷光虫の洗脳が解けてそのほとんどが解放される。


ジンオウガの超帯電状態が完全に解け、幻想的な光が真っ暗な渓流中に飛び散った。
その蒼から緑へと戻った光は、宿主の周りをしばらくふわふわと舞い散っていたが、しばらくすると一陣の風のように夜の闇の中へと消えていった。






















*                     *













ジンオウガが、落とし穴の拘束を解いた。
しかしこちらを見る目には、先ほどまでの勢いは感じられない。

もはや弱り切った体でもこちらを見据えるジンオウガには、ありありと苦痛が滲んでいた。






体中が傷まみれの状態のジンオウガはいつものような力強い走り方ではなく、よろよろと足の出す順番もバラバラになったその体を引きずりながら、エリア6の端に向かって弱弱しく動いていった。



ハヤテもその場に思わず立ちすくむと、めまいがして水面に座り込んだ。
目の前でちらちらと銀の砂が散っている。

極度の緊張と疲労、そして大量出血から貧血になってしまっていたらしい。


座り込み、太腿の間に頭を挟んでしばらくじっとしていた。
何分経ったかは分からないが、頭に血が戻り、混濁していた意識がゆっくりと戻ってくる。



あのさっきのジンオウガの様子からして、もう瀕死のはずだ。
あともう少し――――――。





ハヤテはよろよろと立ち上がった。
このクエストの制限時間は、おそらく夜明けまでだからあと数時間程度だろう。



時間がない。
只でさえ一度戦闘不能になって時間を大分消費してしまっているのだ。

ここが最後のチャンスだ。
最初で最後、一度きりの機会を逃すわけにはいかない。
放っておけばジンオウガは回復し、破壊した甲殻を修復して再び雷光虫を集めるだろう。

そうなれば、もうどうしようもない。


ハヤテは、ジンオウガの逃げた方向へと走り出した。












































ペイントの匂いをたどっていくと、ハヤテはエリア9にたどり着いた。
このエリアの標高は大体エリア2と同程度だが、岩だらけだったエリア2とは違い、草が生い茂っているのが特徴だ。



渓流の地図上では一番の奥地であるが、ここには初心者熟練者問わず、様々なハンターがやってくる。

何せ奥地であるし、危険だからあまり人が来れない分珍しいキノコやら虫やらが結構いる。
それに上級の蜂蜜が取れる場所でもある。



エリア6よりも標高が高い分、空は開けている。
空の星々はクエストに出発した時よりは傾いていたが、その瞬きの強さは変わっていない。

但し、月はもう渓流の高い山々の後ろにほとんど隠れ、光はもうあまり期待できない。
そして、反対側の山々を見ると、山の端が薄く紫色に白んでいる。
夜明けが近いのだろう。

どこかの誰かが早朝の山の端が白んでいくのが美しいと言っていたような気もするが、ハンター育成アカデミーの情操教育はそこまで深いところまでやらないからうろ覚えだった。




それに、ハンターにとってはそんな芸術的センスはあまり必要とされていない。
どっちかと言うと技術的センスの方が重要だ。







ジンオウガがそこに眠っていた。
ハヤテが近づいているのにすら気づかないほどあまりに深く眠っているものだから、死んでいるのかと勘違いしてしまう。


草枕の上にその巨体を横たえながら、先ほどまでの暴力的な力とは裏腹の穏やかな寝息を立てて眠っているジンオウガに、ハヤテはふと思った。
このジンオウガの本当の性格は、敵対しているわけで無かったのならば、こんななのではないか――――――?

人間が攻めて来たと思っているから、モンスターは狂暴になるだけであって、本来群れるジンオウガが仲間に向ける表情と言うものは、また違っているのではないか。



彼らは非常に高度な社会性と知能を持つ。
仲間同士での発達したコミュニケーションを取れるとしてもおかしくは無い。

ならば、ますますどうしてこのジンオウガは、たった一匹で今まで生きて来たというのだろう?






ハヤテは首を振って、いったんその考えを追い出した。
今は狩りに集中すべきだ。考え事や後悔なんて、後でいくらでもする時間があるはずだ。


ハヤテはポーチを探った。
捕獲用の道具を取り出そうとするが、ハヤテは取り出したボックス2つ目を見てため息をついた。








「はあ……ネットは使い切っちゃったし……<雷光虫>と合わせて<シビレ罠>にするしかないか……」





アイテムポーチに入っていたのは、ハヤテが持っていたトラップツールがあと一つに、調合用の雷光虫が一匹。
これで製作できるのはシビレ罠が一つだけ。

ジンオウガは超帯電状態の時こそシビレ罠を破壊してしまうが、通常状態の時は普通にシビレ罠にかけることが出来る。
ただし、ジンオウガは厳密にはシビレ罠にかかっているのではなく、その電力をチャージしているだけなのだ。


しかし実質的には拘束しているのと同義なので、そこで捕獲用の麻酔玉を投げれば捕獲は出来る。
とはいえ、それはジンオウガが捕獲できる状態にある事が前提条件だったが。





ハヤテはあたりを見渡した。
それ程広くないエリアだったが、どこに小型モンスターがいるかわからない。

この前のディアブロスを叩き起こしたジャギィのような奴がいる事は御免こうむりたい。


辺りにモンスターがいない事を確認すると、ハヤテは静かにジンオウガの足元へと近づいていく。
足を全て伸ばした状態でジンオウガはぐっすりと眠っていて、ハヤテに気づく様子は無い。



その胴体の真下、確実にシビレ罠が取れない位置にしっかりと仕掛けると、ハヤテはトラップツールを起動した。




























バチン!!!というスパーク音と共に、ジンオウガは急な衝撃で眠りを妨げられて飛び起きる。
しかし、体に高圧電流が駆け巡り、ジンオウガの動きをとどめていた。




しかしジンオウガも負けてはいない。
トラップツール内の雷光虫が発生する電力を、シビレ罠を伝って自分の背中の蓄電殻に充電していく。
しかし、ほとんど崩壊したそれは役目を果たし切れていなかったが。





ハヤテがすかさず捕獲用麻酔玉を投げつける。
投げつけられた二つの球は、白い煙を上げた。


ジンオウガの痙攣する口や鼻はそれを思わず吸い込んでしまい、体中の筋肉が勢いを失っていく。
弛緩しきった巨大なその体は、地面へと沈んでいった。













*                *













「やったニャ――――――やったニャ〜〜〜!!!」
「さすが蒼火竜さんニャ!!!」
「よかったニャ〜〜〜ユクモ村は守られたニャ!!!」





岩陰に隠れてついてきていた救出役のアイルーたちは、あまりにも心配でついてきてしまったらしい。
しかしジンオウガが倒れこむのを見て、とうとう興奮が抑えきれなくなったのか、口々に喜びの言葉を口にしながら自分の方に向かってすり寄ってくる。







(僕は――――――守れたのかな)






そんな事が頭に浮かぶが、喜んでいる彼らを見ていると、強い安堵の気持ちが浮かび上がってくる。
自分は、あの村を守るという誓いを果たせたのだという事が頭の中に浮かび上がる。
喜びが体中に染みわたっていき、ハヤテは思わず飛び上がりそうになった。
















――――――が、何かがそれを押しとどめている。
喜ばしいはずなのに、嬉しいはずなのに、そんな気持ちが心の奥底にしこりのようになって、ハヤテの感情を妨げていた。

喜ぶアイルーたちの声が、どうしても遠く聞こえる。
素直に喜ぶ気持ちを持つ事が、自分にはどうしても許されていないような気がして。










































「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!」



































突然、背後からそんな巨大な咆哮が響き、アイルーたちはその大きな耳を思わず塞いだ。
そして、その顔が歓喜の色から、恐怖と絶望に変わっていく。


ハヤテが咄嗟に振り返ると、信じられない事が起きていた。








捕え、特殊な方法を使わないと起きられない筈の捕獲用麻痺薬の効果を振り切り、ジンオウガが再び立ち上がっていたのだ。

ぎらぎらと光るその片目に、すさまじい執念を宿らせて。
『狼』は首だけになっても敵に食らいつくとはよく言ったものだが、実際にそういう事が起きるとは予想ができただろうか。



足元にあるシビレ罠がボフンという情けない音を立てて砕け散った。
おそらく――――あのシビレ罠から最後の電力を受け取って、帯電状態に戻ったのか……。

背中にわずかに残っていた雷光虫が、その輝きを取り戻していく。










もはや、こちらには戦う手段がなかった。
最後まで気を緩めてはいけなかった筈なのに、心のしこりや嬉しさに飲み込まれて最後の詰めを怠ってしまった自分に後悔した。
狩場と言うものは、いつも予測できない事が起きるなど、最初から分かっていたはずなのに。






ジンオウガが、ハヤテに向かってゆっくりと歩を進めてくる。
静電気がはい回る音と共に、背中には武者震いが這い登った。

それでも恐怖を前面に出すことは無く、ハヤテはアイルーたちの前に立ちふさがった。
油断してしまった自分は仕方ないが、彼らを巻き込むわけにはいかない。

逃げろと命じたかったが、彼らも動くつもりは無かったらしく、自分のそばに張り付いている。





ゆっくりと近づくジンオウガに、ハヤテは目をつぶった。
風圧が彼の皮膚を刺した。おそらく、あの腕を自分に向かって振り上げたのだろう。

あの、自分が傷つけて、ぼろぼろになったあの腕で、自分に引導を渡すのだろうか。
ハヤテは、自分を襲い来る衝撃を待った。












































しかし、いつまでたっても衝撃は襲ってこなかった。
ふと目を開けると、目の前の光景がありありと飛び込んできた。





中ほどまで振り上げたその右の前足は硬直し、動きが止まっていた。
全身と言う全身が、彫刻のように固まっている。

そして、そのまま平衡感覚を失い、バランスが取れなくなったジンオウガの体は鈍い衝撃音を立てて地面に沈んだ。
背中にはい回る電力が少しずつ弱まっていき、それに伴って目の光が無くなっていく。







まるで赤子のようなうめき声をあげて、ジンオウガの瞳が、ハヤテの目を見つめていた。
その目にはもう、怒りも執念もハヤテには感じる事が出来なかった。

そこにあったのは、悲しみだけだ。












静電気のような音が、最後にわずかなスパークを立てて、それっきり消えてしまった。
もはや甲殻自体が限界だったのだ。
先ほどの帯電は、その限界をとうに超えてしまっていた。



その瞳から完全に光が消滅し、ジンオウガはうつぶせの状態のまま目を閉じた。
モンスターは殺されるとき、最後の瞬間まで生きようとするから、眼が開いたまま死ぬことが多い。

しかし、ジンオウガは死を覚悟したのか、その目をピッタリと閉じ、分厚い甲殻で出来た鎧のような瞼の下にその蒼玉の瞳を隠してしまった。











その瞬間、背中の蓄電殻に共生していた雷光虫たちが、ぶわっと舞い上がった。
残された者達ですらこれほどの数がいるのだから、それが発生させる規格外の電力を放つこのジンオウガの強さがありありと示されていた。



その光の粒は、息絶えたジンオウガの周りをしばらく飛び交った後、一陣の風に吹かれたように、天空に向かってベールのように舞い上がった。

それはまるで弔いの送り火の様で。
大事な仲間を失った彼らが、葬礼の儀を行っているようで。







渓流にざわめく森や、流れる川の音は―――今この時ばかりは、死を悼む嘆きの唄の様で。







非現実的だと言う人もいるだろうか。
彼らにそこまでの知能は無いし、ただ主観的な見方だけで物を見るなと。

それでも、彼はそう感じずにはいられなかった。





アイルーたちが、こちらを見上げているのが感覚で分かった。
しかし、ハヤテはどう反応することも出来なかった。

力を失った彼の腕から、持っていた白い弓身が地面にごとりと落ち、そこに生えていた雑草に霜を降らせた。









ハヤテは、しばらくは動くことが出来ず、目の前に転がっているものを見つめていた。


































*              *

これでジンオウガとの戦いは終わりです。
しかしスレが足りなくなったので、ユクモ村編最終話は次スレでやります。
読みにくいですが……ご迷惑をおかけします。

では……





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Re: 疾風の狩人<リメイク版> (モンハン3rd,3Gクロス)続 ( No.99 )
日時: 2014/06/29 14:21
名前: masa

どうもmasaです。

確かに低級のモンスターなら「ハンターが居るから平気だろう」と思えますが、相手は「絶対的な強者」。不安になるなって言う方が無理ですよね。

ハンターであるはずのヒナギクも周囲の人を見て不安に駆られたようですね。確か、「プラシーボ効果」だったはず。こう言う状況の説明は。
ギルドナイト達は流石?ですね。血戦に挑んでいるハヤテを裏方とはいえ、援護するとは。

ユキジは相変わらずか。緊急事態なのに酒浸りとは。相手がユキジじゃなかったら「酒に逃げないと恐怖で壊れてしまう」と言う結論を出してもらえたでしょうが。

雷が怖くない人なんて中々いませんよね。しかも、恐怖の大本が雷属性のモンスターですから当然ですよね。
そして、大慌てで避難しようとしたのも当然ですね。

ゆっきゅん、場を鎮める方法が威嚇射撃って。怒られるのは超当然ですよ。万が一があったら余計に不安を与えるだけでしょ。
でも、シンさんは流石ですよね。「信じる」と言うのは何より大切な事ですからね。

重度の引き籠りのナギにあそこまで言わせて、騒いだ人はもう人間とは言いにくい部分がありますよね。
そのおかげか何とか騒ぎは収まりましたね。良かった。


ジンオウガも「絶対的な強者」と言われるだけあって、学習能力も高いのか。ハヤテとの戦いで、攻撃方法を学ぶとは。
まあでも、ハヤテには通用しなかったみたいですが。

ジンオウガが必死なのは当然かな。野生では「弱肉強食」が当然で、生と勝利は同じ意味でしょうから。

ってハヤテよ。雷が直撃したら「痛い」ではなく「死」でしょ。よっぽど運が良ければ大丈夫でしょうけど。

戦っている相手の生死を確認するのは当然ですね。でないと「何時か虎に成長して寝首をかきにやってくる」かもしれませんからね。
で、ハヤテは危機的状況でも冷静さを失わないとは流石。唯でさえ不利なんだから、こちらが戦いやすい状況に引きずり込むのは当然ですね。

成程、ハヤテは麻痺させる事を考えついたのか。体が大きいから、効果が出るか不安みたいでしたが、出て良かったです。

ハヤテの罠は落とし穴か。シンプルゆえに厄介な物みたいですね。
適切な設置が難しいであろう罠を正確無比に使えるなんてさすがハヤテ。

アイルーが喜ぶのは普通か。強力な相手が眠りに落ちたはずですから。
まあ、眠ってませんでしたが。それを察知したハヤテは「野生の勘」が鋭いんですね。

ジンオウガは流石ですよね死の間際なのに戦おうとするとは。
なにはともあれ、撃破出来て良かったです。


次回も楽しみにしてますね。

では。

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