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迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲)
日時: 2013/06/02 17:42
名前: 餅ぬ。


こんばんは、餅ぬ。です。
今作はHNを変更する前の作品で唯一手元に残っていた中編です。
随分と昔に書いたものですが何気にお気に入りだったので、再び止まり木にて投稿させて頂きます。
まるっと丸写しでほとんど修正は加えていませんが、どうしようもない当時のノリをそのままお楽しみ頂けたら何よりです。

長々と前置き失礼しました。それでは、本編です。



=========================================

【ああ。もしも、あのとき】



 『沈黙』。その言葉は、今の僕たちを指すべくして存在しているのではないか。そんなことを思ってしまうような、この現状。
 三千院家の和室に集まる僕とお嬢様、そしていつもの三人組とヒナギクさん、そしてなぜか桂先生。
 なかなか面白いメンツがそろっているにも関わらず、僕たちの間に会話はない。あるのは、気まずい空気だけ。
 お嬢様は押し黙り、三人組は目をそむけ、桂先生は現実から逃げるため酒を浴びるように飲んでいる。あのヒナギクさんでさえ、下を向いて黙ったままだ。
 ……しかし、この沈黙も仕方ないことなのだ。目の前の惨状を見たら、誰だって押し黙ってしまう。
 そしてその惨状が、のちにもう一つ恐ろしい災いを起こすということが明白である時点で、沈黙が起こるのは必然的なことなのかもしれない。

 ふいにツン、とした刺激臭が僕の鼻をついた。その吐き気を催すほどの臭いに、僕は思わず顔をそらせた。
 その臭いに顔をそらせたのは僕だけではないようで、まわりを見渡せば皆顔をその臭いの根源から背けていた。
 そしてこの臭いの根源こそ、まさしく僕たちが直面している惨状の種なのだ。
 
 この、時期はずれな鍋がすべての元凶なのだ――。


 ――もしも、あのときあんなことを言わなければ。
    もしも、あのときあんなことをしていなければ。
    もしも、あのときあんなものを入れなければ。
    もしも、あのときこんな冒険していなければ。
    もしも、あのときあの人の暴走を止めていれば。


 そんな後悔が今更になって僕を襲ってくる。しかし、それらは今となってはどうすることもできず、僕の頭の中で響くだけ。
 頭を抱え、後悔の波を乗り切ろうとする。ふと、顔を上げると、僕の斜め前に座っているヒナギクさんが目に入った。
 ヒナギクさんも、僕と同じように頭を抱えている。ヒナギクさんも僕と同じように、後悔の波に襲われているのだ。
 当然だろう。なんせヒナギクさんは責任感が人一倍強いわけだし、自分があんな所業を行ってしまったわけなのだから。

「はぁ……」

 初めて沈黙の中に響いた音。それはお嬢様のため息だった。
 ため息を連続で二回ほどついた後、お嬢様は震える声で小さく呟いた。

「闇鍋なんて、しなければよかったな……」

 お嬢様は目の前の異臭を放つ大きな土鍋を見つめる。その瞳には、後悔とそろそろ起こる恐ろしい第二次災害への恐れが浮かんでいた。
 屋敷のドアが開かれる音がしたとき、僕たちはきっと恐ろしいものを見ることになるだろう。
 日頃優しい聖母を怒らせることほど、恐ろしいことはないのだ。
 それはお嬢様や僕は当然知っていることだし、瀬川さんたちやヒナギクさんと先生にも、お嬢様から事細かに恐ろしさが語られている。
 だからこそ、こんな重々しい沈黙が生まれてしまっているのだ。

 ――がちゃり……。
「ナギ〜。お鍋の具、買ってきましたよ〜」

 ドアが開かれたと同時に、響いてくる彼女ことマリアさんの声。珍しく友達を呼んで、鍋パーティーを開いているお嬢様を心から慈しむ声。
 だが、そんな優しい声も、僕たちには地獄への進行曲にしか聞こえない。
 お嬢様が僕の袖を握ってきた。その小さな手は小刻みに震えている。それを包むように、僕はお嬢様の手を握る。
 瀬川さんたちもとうとう立ちあがってあわあわとパニックを起こし始めた。
 ヒナギクさんは潔く謝ろうと決意を決めているようだ。酔いつぶれている姉の桂先生とは大違いだ。
 僕は、こちらに近づいてくるマリアさんの足音を聞きながら、今までに起こったことを思い返していた。

 ああ。もしも、あのとき――。



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Re: 迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) ( No.1 )
日時: 2013/06/02 17:44
名前: 餅ぬ。


【もしも、あのときあんなことを言わなければ】




「ハヤテ! マリア! 鍋するぞ、鍋!」

 ――意気揚々とお嬢様の口から放たれたその言葉が、すべての始まりだった。

 なぜ夏休みが終盤に差し掛かった、暑くてたまらないこの時期に鍋なのか。そもそも、なぜお嬢様は鍋ごときでこれほど興奮しているのか。
 台所の掃除をしていた僕とマリアさんは、お嬢様の奇行に首をかしげた。

「ほら、何してるんだ! はやく用意してくれ! 私はこの鍋パーティに参加する人間を集めてくるから!」
「え、僕たちだけでやるんじゃないんですか?」
「ああ。これを忠実に再現するには、仲間が必要不可欠だからな!」

 そう言ってお嬢様が僕とマリアさんに見せつけてきた、一冊の漫画本。その漫画を見た瞬間、マリアさんは何か納得したかのように「ああ、それですか」と呟いた。
 わけがわからないまま、僕はお嬢様から手渡された漫画に目をやる。漫画の表紙には、白髪の少年と黒髪の少女のシリアスな顔とカッコつけたポーズが描かれていた。
 絵柄からするに、シリアスなバトル系だろうか。お嬢様にしては、なんだか無難な漫画だな、などと思いながら漫画のタイトルを確認する。

『迷走! 闇鍋劇場!』

 ……見間違いだろうか。なんだかすごくふざけたタイトルが見えた気がした。
 闇鍋? いやいや、絵柄的にありえない。だって、この少年が持っているのはどう見たって二槍だし、それに女の子だった大きな盾のようなものを構えているわけで……。
 この表紙からして、今のタイトルはありえない。きっと、昨日ハバネロを余っていたおはぎに突き刺して食べるなんていう暴挙をしたから、こんな幻覚を見たんだ。
 食い合わせが悪くって、目に毒が回ってたんだよ。きっと。そうに違いない。もう一度、タイトルを見てみよう。きっと、まともなシリアスちっくなタイトルに戻っているはずだ。

 『迷走! 闇鍋劇場! 〜怒涛の闇鍋将軍編その壱〜』

 なんてことだ、もっと酷くなっている。そんなに僕は疲れているのだろうか。
 いや、現実を見ようじゃないか僕。これはもう幻覚とかそういうレベルじゃない。はっきりとそう書いてあるんだ。
 ああ、よく見てみれば少年の持っている二槍がなんだかお箸っぽい。
 それに少女の持っている大きな白い盾。よく見れば取り皿じゃないか。なんだろう、この混沌っぷりは。

「……これは……?」

 お嬢様の自作漫画『マジカル☆デストロイ』と肩を並べてもおかしくないほどの、凡人には理解できないオーラを放つこの漫画。
 僕は自分で考えることを放棄し、お嬢様に真相を尋ねた。

「知らないのか? まぁ、個人誌だし仕方ないか……。
 これはだな、私にとって一・二を争う思い出深い漫画なんだ。私が漫画を描き始めたのも、この漫画の影響からだと言っても過言ではない。
 このシリアスな絵柄に不釣り合いな、世界最高の鍋を作るという目的の元集まった主人公とナベリスト(鍋を極めし者たち)!
 彼らの最高の具材を求めての全国行脚を壮大なスケールで描いた全十五巻の超大作だ!
 最終章である、闇鍋将軍とのポン酢飛び散る戦いは、あまりにも暑苦しくて夏場には読めないほどの臨場感なんだぞ!
 だが、私は今それを我慢して読み切ってしまったんだ。そして、決意した。

 私もナベリストになるんだと!」

 そう高々と宣言するお嬢様を、僕はただ眺めることしかできなかった。僕のような貧乏凡人がついていける次元ではないのだ。
 背後にメラメラと炎を浮かばせながら、お嬢様は未だに迷走! 闇鍋劇場! の素晴らしさについて語っている。
 聞いてあげたいのは山々だが、それについて行けるだけの脳の容量を、僕は持ち合わせていない。
 心の中でお嬢様に謝りながら、呆れ顔を浮かべているマリアさんに話しかけた。
 先ほど、マリアさんが呟いた、「それですか」という一言が気になったのだ。きっと、過去にも似たようなことがあったのではないかと、僕は推測している。

「マリアさん、あの漫画のこと知ってたんですか?」
「ええ、ハヤテ君が来る前、二回ほどありましたから。同じような出来事が。
 でも、その二回とも鍋を作る段階で断念してしまって……。黄金の白菜がないとダメだとか、虹色フグの肉じゃないとダメだとか……。
 さすがにもう付き合いきれなくて、二年前に本棚の奥の奥にあの漫画を封印したはずなんですが……。まさか見つかるなんて……」

 ため息をつくマリアさんを見て、今お嬢様がやろうとしている鍋は危険かつわけのわからない謎の鍋だということを察した。
 僕はお嬢様の喜ぶ顔を見るのが、何よりも嬉しい。けれど、さすがに黄金の白菜やら虹色フグなんてものは無理だ。叶えられない。
 ここは、どうにかしてお嬢様の興味を鍋からそらせなくてはいけない。

「お嬢様っ! 鍋は危険です! やめましょう!」
「え? もうみんなに鍋やるって連絡してしまったんだが……」

 ああっ! なぜこういうときに限って無駄な行動力を発揮するんだこの人は!
 HIKIKOMORIお嬢様のまさかの行動力に、僕が頭を抱えていると、ふと何かを疑問に思ったのかマリアさんがお嬢様に尋ねた。

「だれに連絡したんですか? 今日は、伊澄さんも咲夜さんもお出かけしてるそうですが……」
「言っただろ? これはただの鍋パーティじゃないんだ。迷鍋!(迷走!〜の略)の再現なんだよ。
 だから、今回呼んだのは迷鍋! に出てくるキャラに似ている人々……ヒナギクと生徒会三人組を呼んだのだ!」

 意外なメンツに、僕とマリアさんは顔を見合わせた。まさか、お嬢様がこういったことに白皇の方々を呼ぶなんて。
 お嬢様が人を呼ぶとすれば、伊澄さんか咲夜さんぐらいであって、それもかなり少ない頻度でしか呼ばない。
 そんなお嬢様が、学校でしか面識のないはずのメンバーを屋敷に招くなんて! これは、一つの脱・ひきこもりのチャンスかもしれない!
 ヒナギクさんや、瀬川さんといったクラスメイトたちと仲良く鍋を囲んで、クラスメイトという友人の良さを知る。
 そして、いつしか自分から学校へ行くようになり、輝かしい未来が開かれる……! うん、完璧だ!

「お嬢様、やっぱり鍋やりましょう!」
「おお! わかってくれたか、ハヤテ! じゃ、ヒナギクたちが来たら、伝説の百本足蟹を取りに行くぞ! 伝説の鍋を作るには必要不可欠だからな」

 ……ダメだ! やっぱりダメだ、こんな危険極まりない鍋! それも、僕だけならまだしも、ヒナギクさんたちにまで被害が及ぶ!
 でも、この鍋を中止してしまったら、せっかくのお嬢様の輝かしい未来への道が閉ざされてしまうわけで……。
 ここはお嬢様の執事として、お嬢様の興味を伝説の鍋作りを削ぎつつ、鍋は実行させないといけない!
 でも、そんなこと可能なのだろうか。お嬢様の目的は、伝説の鍋とやらにあるわけで、普通の鍋には興味がない。いかにして、伝説の鍋を諦めさせればいいのだろうか……。
 悩んでいると、ふいに手に持っている迷鍋! のことを思い出した。そして、もう一度その表紙に目をやる。

『闇鍋』

 そうだ! 闇鍋だ!

「お嬢様、伝説の鍋を作るより、闇鍋をしてみませんか?」
「む? 闇鍋は将軍の名前だろ? そんな闇鍋なんてものがあるわけ……」
「あるんですよ、それが。鍋の一つの楽しみ方として」
「本当か!? それはどんなものなのだ!?」

 予想以上にお嬢様が食いついてきた。あとは、僕の口次第。

「闇鍋というのはですね……――」

 僕は雄弁に語った。闇鍋の引き起こすスリル、そして驚き、驚愕、阿鼻叫喚。少々大げさに言いすぎた気もするが、別に支障はないだろう。
 僕が一通り語り終えると、お嬢様は呆然と僕の顔を見つめた。なぜかマリアさんも呆然としていた。マリアさんも知らなかったらしい。

「漆黒の闇の中で、何が入っているかわからない恐怖の鍋をつつき合う……。
 これは、まさに闇鍋将軍との最終決戦の舞台そのままではないか! そうか、だから闇鍋将軍は闇鍋だったんだな……」

 そう言うお嬢様の目は爛々と輝いていた。もう、伝説の鍋よりも闇鍋に夢中になっているようだ。

「でも、ハヤテ君……。食べられないものとか入れたら、危ないんじゃ……」
「大丈夫ですよ、さすがにそんなものは入れません。入れたとしても、ちょっとしたゲデモノぐらいです」

 僕がそう言うと、マリアさんは安心したように胸を撫で下ろした。安心したマリアさんの顔は、少しだけ楽しそうな表情が浮かんでいた。
 マリアさんも、お嬢様ほどではないけど、鍋が楽しみなのだろう。

「じゃ、さっそく準備をするぞ! マリア、確か和室あったよな?」
「ええ、奥から三番目の部屋が和室ですよ。……あ、あと土鍋も必要ですね。これ、使いましょうか」

 そう言ってマリアさんが取り出したのは、桐の箱に入れられたお高そうな土鍋。高級品を惜しげもなしに使っているこの三千院家でこの扱い。かなりの値段と見た。
 お嬢様も、その土鍋を見て少し驚いた表情を浮かべている。どれほどの値段がするのか、僕には想像もつかない。

「マリア……それ、使っていいのか? すごく大切にしてたんじゃないのか?」
「ええ、大切よ。けれど、こういうものは使うことに価値があるんです。ぜひ、使ってください」
「ああ、大切に使わせてもらうよ」

 そう言って、お嬢様はマリアさんから土鍋の入った桐の箱を受け取った。
 マリアさんの大切な品。傷つけたり割ったりしたら、そりゃ恐ろしいことになるのだろうな、と僕は二人を眺めながらしみじみと思っていた。

「うわっ!」

 マリアさんの手が、土鍋から離れた瞬間、土鍋の重さに耐えられなかったお嬢様の手が滑った。
 割れる! 瞬間的にそう思い、土鍋を地につけまいと手を伸ばそうとした瞬間。マリアさんが目にもとまらぬ速さで土鍋を助けた。
 僕が早さで負けた……。そんなショックを受けるよりも、マリアさんの意外な素早さに驚いていた。
 呆然とする僕とお嬢様に向けて、土鍋を大切そうに抱えたマリアさんがにこりと笑いながら言い放った。

「……盛り上がるのはいいですけど、割ったりしないでくださいね♪」

 語尾の明るさが、異様に怖かった。僕もお嬢様も、無言でコクコクと頷くことしかできなかった。
 多分、この鍋を傷つければ最後、僕たちはマリアさんの逆鱗に触れるに違いない。ああ、考えただけでも恐ろしい。

「あっ! そういえば、野菜があまりありませんね。ちょっと買ってきますから、お鍋の準備お願いしますね、ハヤテ君」
「はいっ」
「ナギ、普通の野菜でいいわよね?」
「はいっ、かまいません!」
「あら、敬語を使うなんてナギらしくありませんよ。それじゃ、行ってきますわ。
 ヒナギクさんたちが来たら、先にはじめててくれてもいいですから」

 そう言い残して、マリアさんは軽い足取りで台所から出て行った。
 残されたお嬢様と僕は、それぞれの心に鍋を傷つけないことを誓いながら、和室へ向かった。

「闇鍋、楽しみですね」

 和室へ向かう途中、無言に堪えられなくなって、お嬢様に話しかけた。
 『闇鍋』という単語を聞いて、お嬢様の顔は一気に明るくなる。こういうところが、まだ子供っぽくてなんとも可愛らしい。

「やるぞー! 闇鍋!」
「はい!」

 これから始まるスリル満点の闇鍋に思いをはせて、僕とお嬢様は笑い合った。
 どんなものを入れようか、そんな純粋な意地悪心がなんとも心地よい。驚く瀬川さんたちの顔を想像すると、どうも顔がほころんでしまう。
 それはお嬢様も同じのようで、ニヤニヤと微笑みを浮かべていた。
 僕も、お嬢様も、今までにないこのワクワク感に酔いしれていたのだ。


 ――このワクワク感が、このあと来る二人組によってただの恐怖へと変わるのだ。

 ――ああ、このとき、僕が闇鍋をしようなんて、言わなければ……。



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Re: 迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) ( No.2 )
日時: 2013/06/02 17:47
名前: 餅ぬ。


【もしも、あのときあんなことをしていなければ】
【もしも、あのときあんなものを入れなければ】



「やっと準備終了だな」

 満足げにそう言って、お嬢様は額に浮き出た汗を手の甲で拭う。
 ほとんど僕が準備をしたのに、なぜお嬢様が汗をかいているのか不思議でならなかったが、あえてこの疑問は心のうちに秘めておくことにした。
 闇鍋、ということで今鍋に入っている具はほとんどない。出汁が入っているだけの寂しい状態だ。
 だが、闇鍋が始まった瞬間、この一見寂しげな鍋は一瞬にして混沌の世界へと変貌するだろう。……そういえば、具を何にするか考えてなかったな。

「お嬢様、具はどうしますか? 屋敷にあるものを適当に入れます?」
「いや、その必要はない。さっきヒナギクたちに連絡してそれぞれ闇鍋の具を持ってくるように頼んだ。
 それぞれ、得体のしれないものを持ち寄った方が、スリルが増すだろう?」

 そう僕に告げるお嬢様の目は、それはもう美しく輝いていた。これは、冒険者の目だ。
 さすがお嬢様。闇鍋程度でここまで勇者っぽい瞳になれるなんて。あなたこそ、真のナベリストだ!!
 ……とまぁ、脳内暴走もほどほどに、とりあえずヒナギクさんたちを待つことにした。どうやら、こんなわけのわからないことを考えてしまう僕は、なんだかんだで闇鍋が楽しみなんだろう。
 お嬢様曰く、ヒナギクさんは準備があるからと言ってあと三十分くらいかかるらしい。
 問題の生徒会三人衆は、闇鍋と聞いた瞬間、それはもうテンションが上がりに上がりまくっていたらしく、あと十分以内に参上するとのことだった。
 テンションのあがったあの三人組ほど恐ろしいものはない。今までの学校生活で、僕はそのことを学んでいる。
 闇鍋を穏便にかつ平和に楽しむためにも、彼女たちの言動には目を光らせなくてはいけない。


 そんなことを考えていると、唐突に訪問者の到着を告げるチャイムが鳴り響いた。どうやら、問題児さんたちのお出ましらしい。

「何を持ってきたんでしょうねぇ」
「あいつらのことだ、きっとすごいものを持ってきてるはずだぞ。特に朝風とか花菱とか」
「あ〜、朝風さんとか羊羹とか持ってきそうですよね」
「はっはっは……。なんだかリアルで笑えないぞ、ハヤテ……。羊羹が入ってる鍋なんて食べたくない」
「それを入れるのが闇鍋なんですよ。スリルです、スリル」

 眉をしかめるお嬢様を見て笑っていると、またもやけたたましくチャイムが鳴り響いてきた。恐ろしいほど連打されている。
 これ以上放置していたら扉を破壊しかねない勢いなので、僕は玄関にむかって走り出した。
 だが、少々遅かったらしく、待ちくたびれた訪問者は勝手に扉をこじ開けて中にいる僕たちに向かって呼びかけてきた。

「ちょっとぉ! お出迎えが遅いわよー! 先生が来たんだぞーっ!」

 ……この声はまぎれもなく桂先生のもの。呼んだはずのない、桂先生の声。
 思わず、お嬢様に視線を配ると、お嬢様は何も知らないといったように首を横に振った。確かに、お嬢様が先生を呼ぶはずがない。
 だったら、なぜ先生はここに来たのか。
 ……正直に言おう。すごく帰っていただきたい。

「こらぁ! 先生を待たせるとはなにごとかー!」

 このテンション、この声のトーン。絶対にお酒が入っている。生徒会三人衆以上に、問題を起こしまくりそうな人物が来てしまった。
 だが、相手は担任。追い返すわけにはいかない。とりあえず、玄関へ向かわなくては始まらない。
 僕は覚悟をきめて、和室から飛び出した。
 お嬢様は座布団に座ったまま全く動かなかった。どうやら、ともにお出迎えに行こうという気はさらさらないらしい。


 玄関に立つと、そこには当然のように派手な格好をした桂先生の姿があった。先生の後ろには、気まずそうな瀬川さんの姿。
 その瀬川さんの姿を見て、なぜ桂先生がこの場に降臨したのか、だいたい察しがついた。

「闇鍋なんて面白そうなことするじゃない。ちょうどお酒のつまみが欲しかったところだし、混ぜてもらうわよ」
「ごめんね、ハヤ太君……。私たちの情報管理が甘かったばかりに……」

 すまなそうに謝る瀬川さんを、視線で慰めつつ、僕はどうにかして桂先生を追い返す手段はないかと脳みそをフル回転させていた。
 人数は多い方が楽しい。だが、桂先生となると話は別だ。それも、酔っ払いとなると。なぜ昼間から酔ってるんだ、という疑問は「休日の桂先生だから」の一言で晴れる。

「あの、桂先生……。闇鍋に入れる材料は何か持ってきましたか? 持ってきてないのなら、その……」
「何よぉ? 帰れっていうの? ……でも、心配はいらないわ。持ってきたわよ、とっておきのやつ」
「とっておき?」
「うふふ、闇鍋開始まで秘密よ。それじゃ、材料持ってきたということで、あがらせてもらうわよー!」
「あ、ちょっと……!」

 先生は人の話を最後まで聞かないまま、靴を脱ぎ散らかして和室の方に向かって走り去って行った。
 和室の方向が分かるのか心配だったけど、ここは桂先生に備わっている金目のもの察知センサーに任せていれば問題ないだろう。
 走り去っていく先生の背中を、冷ややかな視線で見送った後、僕は瀬川さんの方に目をやった。

「……喋っちゃったんですか?」
「んーん……。喋ってないよ。でも、ちょうどナギちゃんからお誘いのメールが来たとき、桂ちゃんに勉強教えてもらってて……。
 それで、テンションあがりまくって善悪の区別がつかなくなった理沙ちんが桂ちゃんに……。
 ごめんね、ハヤ太君……」

 しょんぼりとうなだれてそう言う瀬川さんを攻めるなんて、僕にできるわけもなく、「いいんですよ」とすべてを許して、瀬川さんを中に招き入れた。
 和室へ向かっている途中、朝風さんたちはどうしたのかと尋ねた。
 瀬川さんが言うには、二人とも材料をとりに家に帰ると言って桂先生を瀬川さんに押し付け、去って行ったという。

「……災難でしたね……」
「にはは……」

 笑う瀬川さんにいつもの元気はない。どうやら先生を連れてきてしまった責任を感じているようだ。ここらへんの責任感の強さは、いいんちょさんらしい。
 瀬川さんを元気づけるためにも、僕はわざと話題をそらせた。

「あ、それで瀬川さんは材料、何を持ってきたんですか?」
「え? 私? ふっふっふ〜、それはねぇー……」

 話題そらし成功。先ほどまでの暗い表情は消え、いつもの笑顔が瀬川さんの顔に浮かぶ。やっぱり瀬川さんはこうでなくちゃ。

「内緒、ですか?」
「うん! あとからのお楽しみだよ!」

 そう言って、瀬川さんは胸に抱いている袋を僕に見せた。それほど大きくないその袋のサイズから、野菜ではないだろうと推測される。
 まともなものならお肉、変なものならお菓子、といったところか。
 お菓子はちょっときついな、と思いながらも僕は瀬川さんと肩を並べて和室へ向かった。


 和室に入ると、そこには青ざめたお嬢様と桂先生がいた。

「……ハヤテ……」
「……綾崎君……」

 懇願するような瞳で、二人は僕を見てくる。絶対何かしでかした、と僕の不幸センサーが警報を鳴らしている。
 まだメンバーが半分もそろっていない時点で、この懇願するような瞳をされる。全くの予想外だった。
 僕はおそるおそる、尋ねたくもないことを尋ねた。

「……何か、したんですか?」

 頷いてほしくない。頷いてほしくなかったのだが、僕の期待に二人が答えることはなく、二人の首は無情にも縦に振られた。
 『材料を勝手にぶち込んだ』。理由はこれ以外に考えられない。
 きっと、二人にとって予想以上にカオスなものが出来上がってしまったのだろう。でも、それならプラス志向に考えられないこともない。
 二人とも闇鍋初心者。僕みたいな庶民の考える闇鍋の普通の状態が、彼女たちにとっては恐るべき事態に見えているということもある。
 きっと、桂先生がおつまみをぶち込んだのだろう。サラミとか、さきいかとか。これくらいなら、多分大丈夫……なはず。
 その程度の状態であってほしい、と願いながら、僕は鍋の蓋を開けた。

「うっ」

 二度目の期待、脆くも崩れる。
 なんだろう、この色は。それに、異様に酒くさい。赤茶色? 最初の澄み渡っていた美味しそうなお出しの色はどこへ?
 濁って底が見えないその鍋をよくよく除いてみると、何か底に沈殿物がある。
 黒くて、でかい、その何か。
 その大きさからして、サラミとかさきいかとか可愛らしいものではないことは明らかだった。

「お嬢様、桂先生……この底にある、巨大な沈殿物は?」
「私のマイ・フェイバリットおつまみのスルメ&チーズ……」
「あと、私がそのスルメ臭さを中和するために入れた、昆布……さっき、ハヤテが出汁を出すのにつかってたやつ丸々……」

 なんてことだ、すごいことになってしまった。
 そしてこの酒臭さの正体は話さずともわかる。桂先生の隣に置かれている、お高そうなワインの瓶。
 とっておきとは、このワインのことだったに違いない。なぜ、鍋にワインを入れようと思ったんだこの人は。
 でも、今はこうやって脳内でツッコミをいれつつ呆れている場合ではない。火をかけて沸騰させたりして、味が出切ってしまう前に取り出さなくては。

「お嬢様、お箸は?」
「昆布と共に鍋に落ちました……」
「……台所まで取りに行ってきます……。
 いいですか、絶対に火をかけたりしないでくださいよ!」

 僕はそう言い残して、和室を飛び出した。
 このとき、桂先生の少しむっとした顔に気が付いていればこんな惨事にはならなかっただろうと、後々に後悔することになる。


 台所から菜箸を新たに持ってきた僕を出迎えたのは、三人のどんよりとした顔と雰囲気だった。
 鍋に素早く視線を送る。
 火が、ついていました。

「なぜつけたぁぁぁぁっ!」
「ごめんハヤ太君―っ!!」
「先生が! 先生が付ければいいって! わ、私は悪くないぞ!」
「だってだって、綾崎君が命令っぽい口調で言うんだもん! 十歳以上年下のヤツ、しかも生徒に命令されたらムカつくじゃない!
 だから腹いせに火をつけて……それで……うん……」

 なぜか後半にいくにつれて元気がなくなっていく桂先生の口調を聞いて、火をつけた上、何かとんでもないことをまたしやがったと直感した。
 まずお嬢様を見る。懸命に自分は何もしていないと主張しているだけで、なにか行動を起こした様子は見当たらない。
 次に桂先生。手元にあるワインの量は減っていないし、スルメとチーズ以外、何も持ってきていないようだ。
 ということは……瀬川さんか!

「瀬川さん……。何か、しましたか?」

 僕が問いかけると、瀬川さんは恐る恐る何かを僕の前に差し出した。
 それは先ほど大事そうに抱えていた、袋。と、なにか茶色い汚れがついている四角い透明のパック。
 そして、鍋から酒の匂いに混ざって漂ってくるスパイシーな香り。

「カレーですか!?」
「うん、カレー……。だって、私の家ではカレー鍋するんだもん! 激辛カレーはすべてに勝るんだよっ!?
 だからきっとこのお酒くささとか打ち消せると思って入れてみたら……こんな結果に……なんか、うん。
 ごめんなさい」

 鍋の中の惨状を見て、瀬川さんは言い訳をやめ素直に謝った。
 カレーをいれたことによって、底が全く見えなくなった鍋から昆布やスルメを取り出すのは至難の技だろう。
 ついでに、チーズなんかは溶けてしまっているに違いない。

「……ここにまだ、朝風と花菱と、ヒナギクの持ってきたものが混ざるんだな……」
「恐ろしいね……闇鍋」
「こんなにスリリングだとは思わなかったわ。私、闇鍋舐めてたわ」

 スリリングで恐ろしいのはあんたらの行動力だ、と心の中で突っ込みながら、僕はカレー鍋をかき混ぜていた。
 昆布を引きずり出そうにも滑ってつかめない。
 なので諦めた。もう、闇鍋で誰か当たってしまえばいいさ、と半ば自暴自棄に陥っていた。
 というか、その気になれば食べられない鍋の味でもない。お酒が混じっているとはいえ、カレーとワインは結構合うもので、昆布の味もほとんどしない。
 お酒の混じったイカとか昆布の入っているカレースープだと思えば、食べれないことはないだろう。
 プラス思考! プラス思考だ! 僕!
 きっと、意外に花菱さんやヒナギクさんがいいものをもってきてくれるはずだ! 朝風さんが暴走しそうだけど、それをどうにか食い止めればなんとかなる!
 大丈夫! まだ、闇鍋は始まったばかりなんだから!


 ――しかし、結果的にはこの僕のプラス思考と、大丈夫だと思っていた瀬川さんのカレーが仇となってしまうわけで。

 ――後に瀬川さんと先生は言う。

    『もし、私がこのとき火なんかつけていなければ』
    『もし、私がこのときカレーなんて入れていなければ』


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Re: 迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) ( No.3 )
日時: 2013/06/02 17:49
名前: 餅ぬ。


【もしも、あのときこんな冒険をしていなければ】



 カレー色に染まり、人参やらジャガイモやら中途半端に生に戻っているスルメの足が浮かぶ鍋を見つめながら、僕たちは沈黙していた。
 気まずい雰囲気。瀬川さんのような明るい盛り上げ役の人間がいるというのに、この雰囲気。多分それを作ったのは僕だろう。
 一時のテンションに身を任せ、らしくもなくみんなを怒鳴りつけてしまったせいで、一気にこの場の雰囲気を悪くしてしまったんだ。
 例えるなら、修学旅行のときにみんなが恋バナに花を咲かせている真っ最中に怒鳴り散らしながら乱入してくる教師のような所業を、僕はしてしまったわけだ。
 ここは、どうにか責任をとってそれなりにテンションを戻さなくてはいけない。
 お嬢様が楽しみにしていた闇鍋、こんな残念なテンションで行うわけにはいかない!

「あの、さっきは怒鳴ったりしてすいませんでした……。それに、よくよく考えてみれば、カレー鍋なんていうのもなかなか美味しそうですし、
 お酒だって調味料によく使われているんですから問題なさそうですし、昆布だって鍋にはよくある具材のひとつです。
 それにこれは闇鍋という名のスリリングな鍋。普通の鍋じゃないんです。これくらいおかしいほうが、かえって楽しいですよ、絶対に!」

 フォローできそうにないスルメについては触れないようにして、僕は落ち込むお嬢様たちを慰めた。
 僕の声を聞いたお嬢様たちが、心配そうに顔をあげ僕を見つめる。三匹の子犬に見つめられている気分だった。

「本当に……大丈夫なの?」
「大丈夫です。絶対大丈夫です」

 そう力説すると、やっとお嬢様たちは安心したようで自然と笑顔が浮かび始めた。

「そ、そうだよな! カレー鍋も確かにおいしそうだしな!」
「だよねっ! ありがと、ハヤ太君、ナギちゃん、なんだか元気でてきたよ!」

 安心したように笑う瀬川さんとお嬢様。それにつられて僕も先ほどまでの作り笑顔ではない、普段の笑顔を浮かべる。
 なんだか、お嬢様のこんな笑顔久しぶりに見た気がするなぁ。それに、その笑い合っている相手が、伊澄さんにや咲夜さん以外のクラスメイト。
 このままお嬢様と瀬川さんが交友を深めてくれれば、お嬢様が学校へ普通に通ってくれる日も近くなるかもしれない。
 闇鍋を開いてよかった、と僕はしみじみと思っていた。

「ねぇ、綾崎君……。このスルメは……?」
今まで黙りこんでいた桂先生が、鍋を指さしながら心配そうに尋ねてきた。
 スルメは水分を多量に含んだせいで、ぶよぶよに膨らんだ足を鍋の淵に乗せていた。正直に言おう。すごく気持ち悪い。
 絵本の悪い魔女のかき混ぜている大釜……まさしくそんな感じだ。ボコボコと沸騰していれば、完璧だろう。

「これは、ヤバイんじゃないかしら。綾崎君……?」

 まさかの桂先生からのまともなツッコミ。先ほどまで笑い合っていたお嬢様と瀬川さんの顔にも、少し不安の色が戻りつつある。
 これはまずい。せっかく穏やかな雰囲気に戻りつつあったのに、このままでは振り出しに戻ってしまう。どうにかせねば、執事として!(?)

「そぉい!」
「綾崎くーん!?」

 どこぞの笛吹き男の有名な掛け声と共に、僕は煮えたぎる鍋の中にスルメの足を箸で押しこんだ。押しこんだ衝撃てスルメの頭が飛び出してきたので、それも無理やり押し込める。
 この大きな土鍋から飛び出すほどのスルメのサイズに疑問を抱きながら、僕は呆然とするお嬢様たちの方に爽やかな笑顔を向けて、こう言った。

「僕たちは何も見てませんよ! ねっ!?」

 これが漫画であれば、薔薇が僕の周りに咲き乱れているであろうほどの笑顔を浮かべながら、僕は元気よく親指を立てた。
 そんな僕のさわやかさに誤魔化されて、お嬢様も瀬川さんも桂先生も安堵の表情を浮かべた。
 そして声をそろえて、こう言った。

「だよねー!」

 こうして、この時点で一番の問題児だったスルメは僕の手によってカレーの海に沈んだ。
 カレー色に濁っているため底が見えない鍋に感謝しつつ、僕たちは何事もなかったかのように他の人たちの到着を待つことにした。
 今から到着する彼女たちは幸せだ。このカレー鍋に、巨大なスルメが沈んでいるなんて知る由もないのだから……。



 しょっぱなから波乱の連続だった闇鍋だけど、なんだかんだでお嬢様は楽しそうだし、鍋もまだ救いようのない状態とまではいっていない。スルメ? そんなことはもう忘れました。
 それに、まだ希望のふたりが残っている。
 数少ない常識人である、マリアさんとヒナギクさんだ。
 マリアさんが帰ってきてくれれば、安全でおいしい野菜を鍋の中に入れることができるだろうし、ヒナギクさんはあの性格からして、きっと変なものは持ってこないはず。
 むしろ、運が良ければ魚とかお肉とか、まともで美味しい常識的なものを持ってきてくれるかもしれない。
 だが、希望の裏には絶望もある。
 そう。生徒会三人衆の中でリーダー格の花菱さんと、最もわけのわからないものを持ってきそうな朝風さんだ。
 瀬川さんの話からすると二人ともかなりテンションが高かったとのことなので、本当に何をしでかすか、そして何を持ってくるのか見当のつかない状態だ。
 せめて、甘いもの好きな花菱さんがお菓子系、朝風さんはイメージ的に和菓子やちょっとしたゲテモノ系を持ってくることを祈ろう。


 そんな心配ごとを密かに増大させていると、誰かの到着を告げるチャイムが鳴り響いた。
 全員の視線が僕にそそがれる。やっぱり、僕一人で出迎えに行けと言っているようだ。

「……じゃあ、お迎えしてきますね」
「グッドラックだよ、ハヤ太君。美希ちゃんたちでないことを祈るよ!」
「綾崎君、もし朝風さんとか朝風さんとか朝風さんとかが何か変なものを持っていたら、かまわず突き返せばいいからね」
「何言ってるんだ先生! 朝風は迷鍋の中盤に出てくるキーキャラ、暗黒豆腐の巫女をイメージして呼んだんだから、返しちゃダメだぞ!」

 まだ迷鍋の設定にこだわるのかこの人は、などと心の中で軽くツッコミの役割を果たしながら、僕は早足で玄関へと向かう。
 ああ、どうか! どうかヒナギクさんかマリアさんでありますように!


 胸に手を当て、祈るような気持ちで玄関のドアに手をかける。
もし、このドアを開けた瞬間、嬉々とした笑顔を蓄え、両手に不可解なものを大量に持った二人組が立っていたら……ああ、考えるだけでも恐ろしい。
 しかし、桂先生の時同様、ドアを開けないわけにはいかないのだ。それに、もしかしたら希望のふたりの到着を告げているのかもしれない。
 僕はとうとう決心を固め、運命のドアを開けた。

「あ……は、ハヤテ君……。お久しぶりね」

 ドアの前にいたのは、なぜか少し顔を赤らめているヒナギクさんだった。
 そして、その手にぶら下がっているのは、どう見ても魚や豆腐の入った袋。まともな食材だったのだ!

「ヒナギクさんっ……」
「なっ!? なんで泣きそうになってるのよ!?」
「ありがとうございます、ありがとうございます……。これで鍋も救われます……。あなたは闇鍋の救世主です……!」
「救世主って、そんな……。私はただあの三人組が来るから、変なものは控えただけで……。
 でも、そっちのほうが結果的によかったみたいで安心したわ。闇鍋にこんな普通の具材持ってくるなんて、なんだかおもしろくない気がして心配だったのよ」

 そう言ってヒナギクさんは微笑んだ。そのどこかはにかんだ微笑みが、今の僕には天使の微笑みのように思えた。
 僕はもう一度ヒナギクさんに感謝に意をこめて、深々と頭を下げた。それを見て、ヒナギクさんは困ったように笑う。そして、「どういたしまして」と照れくさそうに返事をした。

「あ、すいません。こんなところで立ち話なんか……。どうぞ、こちらへ」

 僕はそう言ってヒナギクさんを招き入れようとした。しかし、ヒナギクさんの足は玄関に散らばっている靴の前で止まった。
 なにかあったのかと、僕はヒナギクさんの顔を見る。ヒナギクさんの瞳は、驚きの色があからさまに浮かんでいた。その視線の先には、桂先生の赤いハイヒール。

「……この靴は?」
「ご察しの通りです……」
「…………なんか、ごめんね。お姉ちゃんが、その……。絶対、なんかしでかしたでしょ?」

 ヒナギクさんの心配そうな瞳に見つめられて、僕は思わず口ごもった。
 こんな状態で、桂先生が巨大なスルメを丸々鍋にぶち込んだなんて話そうものなら、絶対に雰囲気が悪くなる。
 それに、今スルメはカレーの海に沈んで全く見えない状態。味だってカレーの味でかき消されてあんまりわからない。
 ……言わなければ、絶対にばれないのだ。

「……大丈夫です! ちょっと鍋にお酒を入れたくらいで、それ以外何もしてませんよ。
 お酒も逆に良い味付けになったようですし、それにこれは闇鍋ですからちょっとおかしなものを入れたぐらい、罪にはなりません」

 微笑みながらヒナギクさんのそう言うと、ヒナギクさんは「そっか」と言ってすまなそうに笑顔を浮かべた。
 闇鍋の時、ヒナギクさんが……むしろ全員がスルメをつままないまま終了することを願いつつ、僕は立ち止まっているヒナギクさんをこちらに来るよう促した。
 お邪魔します、と言ってヒナギクさんが靴を脱いで玄関をあがる。そのとき、背後の閉まりかけのドアに、何者かの影が映った。
 背中まである水色の髪に、夏の日差しで光るおでこ。そしてその隣を走る黒髪の長身。ヤツラだ!

「まずい……!」

 僕の本能が、彼女たちを入れるなと告げた。ドアを閉めようと、ヒナギクさんの隣を横切り、ドアに駆け寄った瞬間――。

「閉めようとするなんて……酷いなあ、ハヤ太君……」
「うわぁぁぁぁああっ!?」

 一歩出遅れたようだった。僕がドアに手をかけたころには、朝風さんの両手がドアが閉まるのを阻止していた。
 そして少し遅れて花菱さんが到着すると、二人は息切れをしながらも楽しそうな笑顔を浮かべながらヒナギクさんへと寄っていった。
 そして僕は見た。
 その二人の手に握られている、異様に大きな手提げ袋を。
 特に朝風さんのなんか、禍々しささえ感じられるようなオーラを放っている。はたして、あの袋の中身は食べ物なのか。

「ヒナ、何持ってきたんだ?」
「あなたたちが変なものばっかり持ってくると思ったから、普通のばっかりよ」

 ヒナギクさんが呆れたように二人に言う。呆れられた二人は、変わらず楽しそうな笑みを浮かべている。
 そして花菱さんが僕を手招きして、言った。

「さあ、ハヤ太君! 闇鍋の会場に案内してくれ!」

 いつもよりテンションが上がっていることが明白な口調で、僕に案内を促してくる。僕は観念して、二人を和室へ案内することにした。
 和室へ向かう途中、一番後ろを歩いている朝風さんが「おっと……」などと言いながら、袋の中をのぞいているのを目撃して、僕の不安は和室についたころには頂点に達していた。
 そして、中にいるお嬢様たちに心の中で謝りながら和室のドアを開けた。

「ヒナギクさんと、問題の二人が同時に到着しました」
「問題とはなんだ問題とは」
「そうだぞ、ハヤ太君。私と美希はこの闇鍋で一番の盛り上げ役となるべき……というか、なんだ? このカレーのにおいは」

 そう言って朝風さんは鍋に向かっていく。そして、鍋の現状を確認した瞬間、爆笑し始めた。

「あっはっはっは! すごいな、私が来る前からこの状態か! うん、すごく楽しみになってきたぞ!」
「カレー……? まさか、泉が入れたの?」
「うん、ごめんね。ヒナちゃん。でも、カレー鍋っていうのも美味しいよ!」

 瀬川さんが必死にそう言い訳すると、ヒナギクさんも渋々納得したようで、自分の持ってきたものを確認しながらぶつぶつと何か呟き始めた。

「ヒナー! いらっしゃい! そして他のふたりは帰れ!」
「自分の生徒に酷い言いぐさだな!」
「うるさいうるさーい! 私はある程度安全を認められた闇鍋がしたいの! あなたたちが具材入れたら、安全性が一気に減るじゃない!」
「その台詞、ナギや泉が言うならわかるけど、雪路が言うと説得力無いわね」

 先生VS花菱さんと朝風さんの戦いを冷ややかな目で眺めていると、ヒナギクさんがいきなり僕の肩を叩いた。
 そして、お嬢様も呼びつけて、一つの提案を持ち出してきた。

「あのね、みんなの前で自分の持ってきた具材を入れるんじゃ楽しくないと思うの。
 だからね、具材を入れる時はその具材を入れる人一人を部屋に残して、他の人は退室するっていうのはどうかしら?
 もちろん、具材を入れる人が前の人が何を入れたかわからないように、部屋を真っ暗にして入れるの」

 どうかしら? と首を傾げてくるヒナギクさん。
 もし、この場にいるのが既に具材を入れてしまった瀬川さんたちを除いて、ヒナギクさんとマリアさんだけだったなら、僕はこの提案に大賛成しているだろう。
 だが、ここには問題児が二人いる。
 特に朝風さんのなんか危なすぎると、僕の長年培ってきた野生の勘が告げている。
 どうにか、やんわりと断らなくては、ここにいるみんなの胃がヤバイ。

「えっと……良い案だと思うんですけど……なんで、いきなり?」

 僕がそう問うと、ヒナギクさんは少し恥ずかしそうにしながら話し始めた。

「実はね、私もひとつだけまともな食材以外に、ちょっと変なもの持ってきちゃってるのよ。あ、もちろん食べられないような危ないものじゃないわよ!?
 だけどさっき、和室に来る途中、美希たちに『変なものなんて一つも持ってきてない』って言っちゃったから入れにくて……。
 だがら、スリル増しもできるし、こういうことしたらどうかなぁって思ったのよ」

 断りにくい。実に断りにくい。相手がヒナギクさんな分、彼女のささやかな遊び心を積むようなことはしたくない。
 だが、断らなくては。安全のためにも。心を鬼に! ごめんなさい、ヒナギクさん……!

「あの、ヒナギ……」
「うん、いいぞ! 良い案じゃないか! ヒナギク!」

 お嬢様ぁぁぁぁっ!! あなたの胃を心配して断ろうとしてるのに、なに了解しちゃってるんですかぁぁぁ!

「いや、でも!」
「なんだ、ハヤテ? この闇鍋パーティの主催者である私の決定にケチをつける気か?」
「いいえ、そういうわけでは……! でも」
「……そんなに、私の案が気に食わないの? 綾崎君……?」

 ああ……ヒナギクさんの背後に、大きな虎が見える。タマがちゃっちく見えるような、巨大かつ畏怖のオーラを纏った百獣の王が僕を睨んでるよ……。
 無理だ、この負けず嫌いのふたりが結託した今、非力な僕になせることはない。
 大人しく、指をくわえて花菱さんたちの暴挙を見つめるしかないのだ……。いや、隔離されてしまうのだから、見つめることさえできないか……。
 僕は、無力だ。

「ヒナギク。わからずやのハヤテなんて気にしないで、花菱たちにも相談してこい。先生たちには、私が言っておくから」
「ありがとう、ナギ」

 ヒナギクさんは嬉しそうな笑顔をお嬢様に向けた後、鍋を覗き込んでいる花菱さんたちのもとへ駆け寄っていった。
 遠目から見た、あの花菱さんと朝風さんの表情から、彼女たちがヒナギクさんの案を承諾したことがわかった。
 お嬢様の方も、先生の大反対を無視し、テンションが上がった瀬川さんと結託した結果無理やり先生を承諾させていた。まともに思えた瀬川さんも、やっぱり三人組の一人というわけか……!



「それじゃ、私から具材入れてくるわね」

 弾んだ声でそう言い残し、ヒナギクさんは一人和室に残った。
 和室の外に追いやられた僕たちは、ただただヒナギクさんが出てくるのを待つことしかできなかった。
 そして五分後。笑顔のヒナギクさんが、持って入っていた袋をぺったんこにして和室から出てきた。どうやら全部鍋に突っ込んだようだ。
 ヒナギクさんの持ってきたのは、僕の確認しただけでもかなりまともなものばかりだった。豆腐、魚、それからたしかえのき……だったかな。
 そんなまともな具材が入った後に、花菱さんと朝風さんが何か分からぬものを突っ込むわけだ。
 さようなら、ヒナギクさんのまともな具材たち……。こんにちは、混沌の具材共……。

「じゃ、私から入れてくるぞー!」
「行ってこい! 勇者・ミキサスよ!」
「美希ちゃん! レッツ☆ぶち込みだよ!」

 暖かな一部の声援を背中に受けながら、足取り軽く花菱さんが和室へと入っていった。
 花菱さんの、ヒナギクさんより少し小さめの袋の中に入っている材料が気になったが、今となって知るすべはない。
 ……お菓子。せめてお菓子であることを祈ろう。
 甘いお菓子なら、きっと瀬川さんのカレーがどうにかしてくれるに違いない。クッキーとかだったら、溶けて少し気持ち悪いことになりそうだけど……。
 僕は不安な気持ちとキリキリ痛む胃を抱えたまま、和室のドアを見つめていた。見つめることしかできなかった。



 ――この恐怖の具材投入が終了した後、僕はヒナギクさんのオーラの虎にかじられようとも、この案を却下すべきだったと後悔する。

 ――そして、ヒナギクさんも後にこう言う。


  『もしも、私がこの時、一人ずつ具材を入れていこうなんていう冒険心を起こさなければ』





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Re: 迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) ( No.4 )
日時: 2013/06/02 17:51
名前: 餅ぬ。


【もしも、あのときあの人の暴走を止めていれば】


 花菱さんが和室にこもって十分が経過しようとしていた。先ほどから、なぜか部屋の中から「やべっ」とか「うわぁ……」とか悲痛な叫びが聞こえてくるのだが、僕たちにはどうしようもない。
 自分が具材を入れ終えて、少しご機嫌だったヒナギクさんも花菱さんの独り言を聞いているうちに、いつの間にか青ざめていた。
 野生の本能的なもので危険を察した桂先生が逃げ出そうとするのを、朝風さんと瀬川さんがせき止めている。僕はこのとき初めて桂先生に同情した。
 お嬢様も、ヒナギクさんと同様、和室の中で起こっている惨劇を想像して青ざめている。

「……ハヤテ君、ごめんね。私があんな提案したばっかりに……」
「いいんです……。もう、すべてが遅いんですから……」

 僕とヒナギクさんが意気消沈気味に会話をしていると、和室から花菱さんがそれはそれは元気よく現れた。なんだかつやつやしてる。絶対、なんかしでかした。
 何をいれたのか、何をしやがったのか問い詰めようと、花菱さんに駆け寄ろうとする。しかし、僕より先に花菱さんに駆け寄った人物がいた。
 ヒナギクさん……だったらよかったのだが、現実とは常に残酷なものである。

「美希、どうだった? 何入れた? 鍋、どんな状態になってた?」
「まぁ、理沙よ。慌てるでない。次にお前が具材を入れてみんなで鍋をつつくときになれば、すべてがわかるのさ」

 そういってクールキャラ独特のキラキラを放った後、花菱さんは朝風さんの隣を横切り、満足げにヒナギクさんの隣に並んだ。その瞬間殴られてた。ヒナギクさん、ナイスです。
 しかし、僕がヒナギクさんの活躍を見ているうちに、最大の問題児である朝風さんはすでに和室の中へと入ってしまっていた。
 またもや惨劇を回避できなかった無念さに打ちひしがれる。

「とうとう、朝風が行ったか……」
「理沙、変な物入れないといいけど……。願うだけ、無駄ね……」
「ヒナさんヒナさん、お姉ちゃんおなか痛い。帰る」
「何言ってるの。お姉ちゃんも道連れよ」
「うわーん! ヒナのサディスト!」

 文字だけでみると、あまり緊張感というものは感じられないこの会話。しかし、実際はかなり殺伐とした雰囲気が流れている。
 ただ、その殺伐としたお嬢様と桂姉妹の隣の二人組は、それはもう生き生きしていた。花菱さんとか、もうニッヤニヤしている。小憎たらしいとさえ思ってしまう。
 そんな笑みを浮かべている花菱さんに、いつもの明るい笑顔を取り戻した瀬川さんが何かしきりに話しかけている。
 少し耳をそばだてて聞こえてきた会話の一部始終はこういったものだった。

「美希ちゃん、何入れたの? 甘いの好きだからお菓子とか?」
「うーん……やっぱり察しがついてしまうか。まぁ、お菓子系だな。もう少し遊び心をだしてカエルとかどじょうとか入れようとも考えたんだけどな。
 そんなもん入れて自分に当たったら、私多分死ぬからやめておいたんだ。だから無難に甘いもので攻めてみた」

 確かに、女の子ばかりの闇鍋パーティでカエルなどのゲテモノは少しきつい。花菱さんも一応ここは女の子らしく、そういったものは避けてくれたようだ。
 そして、いれたものも僕が最悪の事態を想像した何パターンの中で、もっとも被害が少ないもの。ちょっとだけ安心した。
 それにしても、なんのお菓子を入れたのか。無難なところでクッキーや飴……いや、もしかしたら和菓子系なのかもしれない。そんなふうに連想しているうちに、僕はとあることに気がついた。
 そう、お菓子系は決して安全ではなかったこと。僕が想像していたのは、まだ安全性の高いクッキーや飴、それからあまり溶けないもの系ばかりだった。
 しかし、お菓子にはあれがある。入れたら間違いなく惨事を引き起こす、甘くて憎い白いやつ。そう、それは恐怖の生クリーム……。
 チーズケーキやチョコレートケーキならいい! いや、よくないけどまだいい! でもショートケーキだったら!?
 生クリームっぷりのショートケーキだったら!? あの茶色いカレー鍋の中に白いクリーミーなものが浮いていたりしたら!?
 あああっ! 想像しただけでも胸やけを起こしそうだ!

「へぇ、お菓子かぁ。ねぇねぇ、誰にも言わないから教えてよ、美希ちゃん」
「ふっふっふ、仕方ない。可愛い泉のために教えてあげよう。
 私が入れたのは今日の私のおやつになる予定だった松屋の栗羊羹、それから私の手作りクッキー(チョコチップ)、それから……」
「え……? 美希ちゃんの手作り……?」
「そうだけど? 何か問題でも?」
「ありまくりだよ! 美希ちゃんの手作りシリーズヤバイもん! この前のチーズケーキとか、なぜかしいたけの味がしたよ!?」
「面白いじゃない」
「うううっ……美希ちゃんのせいで、一気に闇鍋食べたくなくなったよぅ……」

 というか、すでにお菓子を入れた時点で食べたくないと思うのだが。甘いもの好きの女の子は、お菓子なら何でもいいのだろうか。
 もしそうだとしたら、僕の抱いていた女の子という生物の甘くて可愛らしいイメージが一気に崩れてしまう。
 だが、今はそんな想像の崩壊を恐れている場合ではない。とりあえず、瀬川さんと花菱さんの会話から、どうにかして惨事を最小限に抑える方法を考えなくてはいけない。
 僕は、気を取り直してもう一度瀬川さんたちの会話に耳をそばだてた。

「美希ちゃんのばかちんー! 他には何入れたのさ!? また手作りシリーズだったら、私は心を鬼にして美希ちゃんをつねる!」
「つねるって地味に痛いな。……安心しろ。私があと入れたのは……」

 さあ、真実を話すんだ! 花菱さん!

「私が入れたのは、クリーミーなショートケーキと生クリームの原液的なものだ。もちろん砂糖もどっぷりさ」

 案の定最悪の事態じゃないか!!

「あんたは鍋でケーキでも作るつもりかーっ!!」
「うおっ!? びっくりした! 盗み聞きとは趣味が悪いぞハヤ太君! 変態!」
「ハヤ太君、へんたーい」
「盗み聞きで変態だったら、盗撮のあなたたちはどうなるんですか!」
「あれはちゃんとした部活動だもーん。ねー美希ちゃん?」
「ねー、泉ちゃん」

 二人して可愛らしく首を傾げる瀬川さんと花菱さん。もうつっこむのも疲れてしまった。桂先生じゃないけど、今すぐこの場から戦線離脱したい。
 しかし、僕には使命がある。この崩壊しかけの闇鍋パーティを無事に終わらせるという使命が! この使命を果たさんとして、離脱するわけにはいかない。
 僕は、この混沌の闇鍋パーティを制する!


 そんなカッコいいセリフを頭の中で叫んでいる最中のことだった。和室の中から、いきなり朝風さんが飛び出してきたのだ。
 その顔は蒼白で、薄っすらと瞳には涙が浮かんでいる。あの朝風さんがここまで怖がるなんて、一体和室の中で何が……。
 僕たちは素早く朝風さんに駆け寄って、和室の中で何があったのかを問う。しかし、朝風さんはパニック状態でなかなか日本語を話そうとしない。あばばばば……と繰り返すだけだ。
 瀬川さんと花菱さん、そしてヒナギクさんの三人がかりで朝風さんを落ち着かせ、中でのことをもう一度聞く。
 そして、朝風さんの震える口から語られた、恐るべき現状。


「……鍋から、生命体が誕生した……!」


 ああ、どうやら僕の予想さえしていなかった範囲までことは進んでしまっていたようだ。生命体誕生って、どんな禁忌を闇鍋で犯しちゃってるんだよ。

「鍋から生命体だと……!? まさかそれは闇鍋将軍!?」

 お嬢様は夢見る少年の眼差しで、朝風さんを見つめ始めた。
 お嬢様が元気であることは、執事である僕の何よりの喜び。だけど、このときばかりは少ししょんぼりしてほしかった。現状を楽しんでほしくなかった。まともな考えを持っていてほしかった……。

「いや、闇鍋将軍と言うより、あれは……そうだな。闇鍋将軍の右手として序盤活躍していた闇鍋組長って感じだった……」

 あ、朝風さんあの漫画知ってたんだ……。ちょっとした驚きだが、そんな驚きに流されている場合ではないのだ。
 今すべきことは、この和室の奥にある鍋の現状をこの眼で確かめること。

「ハヤテくん、どうするの? 中、入る?」
「そうするしかありませんね……。危ないですから、ここは僕一人で行きます」
「いいえ、私も行くわ。もとあと言えば、私が電気を消して具材を入れようなんて言い出したのが悪かったんだから。
 だから、一緒に行く。行かせてほしいの」
「ヒナギクさん……」

 もし、もしこの話がシリアスなバトルものであったのなら、なんとも感動的なシーンだろう。
 しかし、この話の根底はあくまで闇鍋。たかが鍋なのだ。鍋程度で、ここまで感動的な演出をできる僕もヒナギクさんも、役者の才能でもあるんじゃないかと思う。
 僕とヒナギクさんはそんなシリアスな雰囲気を保ったまま、和室へ続くドアを開けた。
 ちなみにお嬢様と先生、三人組は僕たちの後ろでなぜ生命体が生まれたのかということに関して話し合っている。
 僕が和室の暗闇へ足を踏み出した瞬間、後ろから聞こえてきたのは、その生命体の出生の秘密だった。

「なんで鍋から生命体が生まれるのよ」
「うん、何か面白いものでも入れようと思っていろいろ探してたら、牧村先生の研究室らしきところに辿りついてな。
 面白そうだから、薬品一個拝借しちゃった♪」
「理沙ぁぁぁ! お前っ、私たちを暗殺する気だったの!?」
「理沙ちん! それさすがにヤバイ! ありえないよ! 非常識だよ!」
「まさか泉に常識を問われる日がこようとは……。ちょっとした記念日だな、今日は。はっはっはっは!」
「笑ってる場合じゃないだろ!? どうするんだ朝風! その生命体が闇鍋組長並みに強かったりしたら……」

 ここら辺から、朝風さんとお嬢様の迷鍋のマニアックトークが始まったので、僕は耳をそばだてるのをやめた。
 そして僕は隣で一緒にその会話を聞いていたヒナギクさんに、「行きましょうか」と語りかけ、暗闇へと足を踏み出した。


「電気、つけるわね」
「はい、よろしくお願いします……」

 僕が鍋の前にたどり着いたと同時に、ヒナギクさんが電気をつけた。そして、その瞬間僕の目に飛び込んできたのは、例の生命体の姿だった。
 無言で見つめ合う、僕と鍋の生命体。ちなみに、僕の想像していた禍々しい生き物ではなく、なんだかドラ○エのスライムを彷彿とさせるような、可愛らしい顔だちをしていた。
 しばらく見つめ合っていると、生命体の口らしき部分がゆっくりと開いた。隣で見ていたヒナギクさんが小さい悲鳴を上げる。
 そして、生命体が一言。

『兄ちゃん、可愛い顔してんな』

 その声はまさしく五十代の中年オヤジそのもの。白いプルプルした可愛らしい見た目からは想像できないほど、おっさんくさいものだった。ついでにセリフの内容もなかなか気持ち悪い。
 僕が背中に走る悪寒に耐えていると、次にヒナギクさんがおっさんスライム(命名)の被害に遭った。

『嬢ちゃんもなかなか可愛いじゃねえか。ちょっと胸が……いや、かなり胸が残念だけどな』

 胸について突っ込まれた瞬間、ヒナギクさんからまた虎のオーラが放たれ始めた。僕の時とは比べ物にならないほど、禍々しいオーラを纏っている。
 それでもヒナギクさんは笑顔を浮かべ、もう一度おっさんスライムに語りかけた。しかし、その笑顔はもうすでに笑顔ではない。

「……胸が、なんですって? ヘンテコスライム?」
『ちょっとなぁ〜、色気がねぇんだよなぁ。それじゃ、彼氏もできねぇぞ』

 ぶちっ。そんな効果音がどこからともなく聞こえてきた。
 そして、僕がヒナギクさんの機嫌を伺おうと顔を覗きこんだときには、すべてが遅かった。

「だれがぺったんこだぁぁぁ! 死ね! 死んでしまえぇぇぇ!! 私だってまだまだ成長の兆しはあるのよ! お姉ちゃんがそれなりにあるんだから、私だって! 私だって!!」
「ヒナギクさーん!! キャラ! 自分のキャラを見失わないで!」

 僕の叫びも、バーサク状態のヒナギクさんには届かない。この荒れっぷり、どこか桂先生を連想させるものがある。残念なことにやっぱり二人は姉妹なのだと確信してしまう。
 僕がヒナギクさんの将来を想像して、一人嘆いている中、当のヒナギクさんは鍋の隣にあった菜箸でおっさんスライムをぶっ刺し続けていた。
 最初のころ聞こえていたおっさんスライムの叫び声も、今となっては聞こえてこない。聞こえてくるのは、ヒナギクさんの高笑いのみ。

「あははははっ! 私を貧乳と罵った罰よ!」

 そう言い放った直後、ヒナギクさんはとどめと言わんばかりに、菜箸を高々と掲げて鍋に突き刺した。
 ……もうこの子は僕の知ってるヒナギクさんじゃない。こんなヒナギクさん、僕は知らない。これはあれだ、ミニ桂先生だ。あの凛として冷静なヒナギクさんではない。
 そんな自己暗示をかけているうちに、ヒナギクさんの最後の渾身の一発は鍋に深々と突き刺された。その瞬間、和室に響く、ビシッ! という音。

 ――……ビシッ?

「ちょ、ヒナギクさん! 鍋! 鍋大丈夫ですか!?」
「へ? 鍋?」
「割れてませんか!?」
「そんなまさか。菜箸で刺したくらいで、割れるわけ………………」

 長い沈黙。僕たち包む嫌な緊張感。
 そして、それを断ち切る、ヒナギクさんの言葉。

「……………ごめん、ハヤテ君……………」

 ぼくは めのまえが まっくらに なった。

 マリアさんの大切な鍋にヒビ。もう僕たちは無事では済むまい。そして、この鍋の現状。おっさんスライムはヒナギクさん(バーサク状態)によって倒されたものの、なぜか溶岩の如くボコボコと泡立っている。
 今となっては、瀬川さんや桂先生しかいなかったカレー鍋の時代が懐かしい。まだ、あの時の鍋は食べられたのだ。
 それが今となってはどうだ? 食べる食べないの問題じゃない。食べられないのだ。というか、食物であるかさえ怪しいのだ。もはやこれは鍋ではない。劇薬だ。
 朝風さんの牧村先生特製薬品混入事件により、この鍋は失敗に終わってしまったのだ。
 そしてその上、まさかのヒナギクさんにより鍋大破。これを嘆かずにいられようか。

「ヒナギクさん……」
「……はい」
「死を、覚悟してください」
「うん……って、ええっ!?」

 そう、僕たちはこの時点で死を覚悟しなくてはいけない。先ほどまで、僕の中で救世主だと崇めていたあの人が、残酷な天使へと変貌したのだ。
 マリアさんが本気で怒れば、きっとヒナギクさんたちにも容赦ないはず。これはもう、本当に絶望的だ。

「……死ぬの? 私たち」
「精神的に、多分……。聖母の手で嬲り殺されるかと……」

 僕とヒナギクさんは青ざめたまま、和室を出た。お嬢様たちにも、この事態を報告しなくてはいけない。


 ――闇鍋は失敗に終わり、これから地獄が始まると。


「もし、私が暴走してなかったら……」


 和室を出たとき、ヒナギクさんの口からそんな一言が呟かれた。


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Re: 迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) ( No.5 )
日時: 2013/06/02 17:52
名前: 餅ぬ。


【全ての終わり】



「ハヤ太君! どうだ!? いただろ? 生命体!」

 意気消沈で和室から出てきた僕とヒナギクさんを迎えたのは、むかつくほど眩しい笑顔の朝風さんとお嬢様だった。
 もし、苛立ちと憎しみで人が殺せたとすれば、きっと朝風さんは今頃惨殺死体となっているだろう。お嬢様は、まぁ僕の主なのでそんなことはしません。
 あまりにも二人がしつこく「居ただろ? 居ただろ!? 闇鍋組長!」とかなんとか聞いてくるので、僕は苛立ちと焦りを抑えつけながら、先ほどあったことを説明した。
 おっさん顔のスライムが居たと言うと、二人は少し残念そうな顔をして「ああ、闇鍋係長のほうだったか」と呟いた。もういい加減、迷鍋! から離れてほしい。
 そして、問題のヒナギクさん暴走のシーンを話し始めた瞬間、桂先生が盛大に笑い始めた。その手にはどこから持ってきたのか、一升瓶。それも半分近く空になっている。
 先生は、いつの間にか完全なる酔っぱらいになっていた。

「あっはっはっは! 鍋から生まれたわけわかんない生物にまでぺったんこって言われてるー!
 ヒナぁ、ごめんねぇ、お姉ちゃん、全部栄養とっちゃったのかも〜」
「なっ……!!」

 ヒナギクさんの額に青筋が浮かんだ。拳を強く握りしめ、怒りを堪えている。しかし、そんなオーバーヒート寸前なヒナギクさんに先生は容赦なく攻撃を続ける。

「あーあ、私の栄養分けてあげられればいいんだけどねー。残念だわぁ〜」

 また、先ほど和室の中で聞こえたものと同じ、『ぶちっ』という音が響いた。バーサクヒナギクさん降臨の合図だ。
 ヒナギクさんは眉をひそめ、焦点の合っていない眼で桂先生の方を見た。さすがの桂先生にも冷や汗が浮かんでいる。
 そして、ヒナギクさんが大きく腕を振り上げ、先生を殴ろうとした途端、僕は自然と叫んでいた。

「ヒナギクさん! またあの和室と同じ過ちを犯すつもりですか!?」

 これ以上壊れたヒナギクさんを見たくないという思い、それからまた面倒なことになりそうだという恐怖心からの叫び。
 その叫び声は半狂乱のヒナギクさんにも届いたらしく、ヒナギクさんは振り上げていた拳をゆっくり下ろし、ぺたりとその場に座り込んだ。
 そして、ぽつりとみんなにむかって一言呟いた。


「ごめんね、みんな……。私、私……っ……マリアさんのお鍋に、ヒビ入れちゃった……!」


 その言葉を聞いた瞬間、あたりの気温が氷点下に下がった。実は、花菱さんが鍋の具を入れているときに、お嬢様がマリアさんの恐ろしさについて語っていたのだ。
 それは僕の知らないエピソードも満載で、なぜマリアさんが三千院家において最強を名乗っているのか存分にわかる内容だった。
 そして、皆がそれぞれ思ったのだ。

 『絶対に、マリアさんを怒らせないでおこう』

 そのためには、鍋を傷つけないことが何よりも重要だ。
具材は、その時点では先生の入れたお酒とスルメ、そして瀬川さんのカレー。それからヒナギクさんのまともな具材たちだけだったので、何の問題視もされていなかった。
 とりあえず、各々の心の中で鍋を傷つけないというのが暗黙のルールとなっていたのだ。もちろん、花菱さんにも瀬川さんが語って聞かせていた。

 だが、その恐れていたことが起こってしまったのだ。それも、まさかのヒナギクさんの手によって。
 迷鍋! トークで盛り上がっていた朝風さんもお嬢様も顔面蒼白になり、桂先生の酔いも一気に冷めてしまったようだ。
 瀬川さんと花菱さんも、呆然とした表情でヒナギクさんを見つめる。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 ヒナギクさんは小さな声で懸命に謝っていた。今にも泣きそうな声だった。
 そしてその声を聞いて、触発されたのか、朝風さんがゆっくりと口を開いた。

「……いや、すべては私が悪いんだ……。私がわけわからん薬品入れたせいで、変な生命体が生まれて……。
 もしかしたら、土鍋が割れてしまったのも、その薬品のせいで鍋が脆くなっていたからなのかもしれないし……。
 ヒナだけが悪いわけじゃない」
「理沙……」
「そうだよ、ヒナちゃん。悪いのは理沙ちんだよ!」
「うん、悪いのはすべて理沙だ。ヒナはなんにも悪くないぞ」
「泉……美希……」
「え? ちょ? なんで完全私が悪者? だって、ちょっ! ええええっ!?」

 朝風さんが皆の理不尽な理由づけにとうとう発狂した。でもある意味、すべての発端は朝風さんだとも言える。だから僕は何もフォローできない。がんばれ、朝風さん。

「なんだよなんだよぉっ! 私だけが悪いみたいな言い方して! 割ったのはヒナだろ!?」
「でもさっき理沙、私のせいだって言ったじゃない」
「半分は私のせいだって意味だ! 美希、ヒナの肩ばっかり持つな! だからお前は百合キャラだと言われるんだ!」
「何を!? 百合のなにが悪い! 可愛い女の子がいちゃこらしてたら、誰だって萌えるだろうがぁぁあ!」
「二人とも! 話の論点がずれてる! 修正して、修正!」

 懸命に瀬川さんが叫ぶも、己の主張に忙しい朝風さんと花菱さんは耳を貸そうとしない。
 しかし、このわけのわからない流れを断ち切ったのは、なんとも意外な人物だった。

「あなたたち! いい加減にしなさい! 今は花菱さんが百合だとかどうだとか言う前に、鍋にヒビが入っちゃったってことが先決でしょ!?
 ヒナも朝風さんも謝ったんだから、だれが悪い悪くないって話は終了! 次の話題に進めなくちゃ意味がないわ!」

 そう言い放つ先生は、本当に学校の先生っぽく見えた。右手に大切そうに握られている一升瓶さえなければ、完璧だったのに。
 先生の説教に落ち着きを取り戻した朝風さんたちは、お互いにかなり適当に謝った後、僕に鍋の現状について聞いてきた。

「鍋は、どんな状態だった?」
「……自分たちの眼で見た方が早いでしょう。和室、入りましょう」

 そう言って僕は皆を和室に入るよう促した。全員が暗い面持ちのまま、和室に入っていく。
 そして、和室には言った瞬間に響いてくる皆の絶叫。

「くさっ! なんか濡れた犬を拭いた雑巾の臭いがする! まさか、美希ちゃんのクッキー効果!?」
「失敬な! 私のクッキーがそんな異臭を放つはずがない!」
「たぶん、美希のクッキーと理沙の薬品が化学反応的なものを起こしたんでしょうね……」
「朝風! 花菱! お前ら、そんな危険なもの鍋に入れてどうするつもりだったんだ!」

 怒声響き渡る中、桂先生だけが果敢に鍋に近づいていった。こういうとき、桂先生の神経が図太くてよかったと常々思う。
 だが、その図太い神経も、鍋の恐るべき惨状を目の前に千切れてしまったようだ。

「……ね、これ……鍋……?」

 先生の、先生のものとは思えないほど弱々しい声に、全員が怒鳴るのをやめて鍋に駆け寄る。そして、除いた瞬間、全員が顔をしかめた。
 僕も一足遅れて覗いたのだが、本当に酷かった。
 相変わらず火も焚いていないのに、鍋からは溶岩を彷彿とさせる粘り気のある気泡が湧き上がり、その気泡が割れるたびに異臭を放つ。
 色はまさしくクリーム色。だが、よくよく見ると、底の方はカレーの茶色に染まっている。分離しているのだ。
 それも、なぜかヒナギクさんの入れた魚や野菜などは全く見当たらない。すべてがドロドロだ。白い粘っこいドロドロになっている。
 もう、野菜や魚は溶けたとしか考えられない。なんと恐ろしい鍋だ。

「……地獄は、ここに存在したのだな……」

 お嬢様がそんなセリフを呟いた。確か、どこぞの少年漫画で主人公が言っていたセリフなのだが、異様に現状にマッチしている。その漫画の舞台は、戦国時代だというのに。
 僕もお嬢様もヒナギクさんも先生も、ただただ地獄絵図と化した闇鍋を眺めることしかできなかった。
 そして、鍋を見つめれば嫌でも見える、土鍋に入った無残なヒビ。割れてはいないものの、結構目立つヒビだ。誤魔化しはきかないだろう。
 何もできないまま鍋を見つめる僕たちをよそに、三人組は何やらまたいらんことを始めようとしていた。
 だが、もう前のように止めようとは思わない。僕はもう疲れたよ……パト○ッシュ……。早く天使よ降りてきて。そして僕を天国へ……。

 現実逃避をしていると、いきなり鍋からあがった赤い煙で無理やり現実に引き戻された。

「なっ……何してるんですか!」

 立ち上る煙を目を丸くして見つめている三人組に叫ぶ。

「いや、ちょっとでもまともな状態にしようと思って、備え付けのポン酢を入れたら……」
「なぜか、赤い煙が……」
「ついでに鍋のボコボコも激しくなっちゃった……」

 えへっ☆ なんて、頭上に浮かんでいそうな可愛らしい笑顔で誤魔化そうとする三人組を見て、僕はもう呆れることしかできなかった。
 というか、ポン酢を入れて赤いどくどくしい煙が発生するって、どんな鍋だよ。もう、鍋じゃないよ。これは鍋に入った核兵器だよ。日本の非核三原則破っちゃってるよ。
 できることなら、今すぐにでも中身を流してしまいたい。でも、この深いヒビだ。下手に動かせば真っ二つ、なんて危険性もある。
 僕たちには、どうすることもできないのだ。

 僕たちは無言のまま、その場に座り込んだ。
 それぞれがもう分かっているのだ。このまま、大人しくマリアさんの帰還を待つしかないと。死を、覚悟しなくてはいけないと。


 そして、静寂だけが僕たちを包んだ――。

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Re: 迷走! 闇鍋劇場!(完結・ひなゆめより再掲) ( No.6 )
日時: 2013/06/02 17:53
名前: 餅ぬ。



【そして、今に至る】


「……な、なんですか? この臭い……?」

 和室に一歩足を踏み入れた瞬間、マリアさんの口から放たれたこの疑問。僕たちは答えることができず、ただ苦笑いで誤魔化すしかなかった。
 そんな僕たちをマリアさんは不思議そうな眼で眺めながら、こちらへ歩みよってくる。一歩一歩、ゆっくりと。
 実際はいつもとかわらぬ歩幅なのだろうが、なぜだか僕には酷くゆっくりに見えた。死ぬ前に視る映像はスローモーションになるというのは、本当のことらしい。
 そんな新しい発見を感じているうちに、マリアさんはすでに鍋まで後十歩というところまで迫っていた。
 ヒナギクさんとお嬢様が観念したかのように、目を閉じた。三人組は顔面蒼白。先生はすでに酔い倒れている。先生、なんて羨ましいんだ。
 とうとうマリアさんが鍋の中身を覗ける位置まで近づいた。ああ、とうとう聖母の雷が落ちる……。

 しかし、神様はどうも焦らしプレイがお好きらしい。

「あ! 忘れてました! お野菜、切ってこないとだめですよね。私としたことが……。闇鍋、初めてなので、少し舞い上がってしまって……」

 照れくさそうにそういうマリアさん。頬を染めながら恥ずかしそうに笑う彼女は、とても可愛らしく見えた。……このまま、可愛らしいマリアさんのままでいてほしかった。
 もし、先ほどまで振り返っていた後悔たちが起こっていなかったら、マリアさんはこの優しい笑顔で僕たちと鍋を囲っていたのだろう。
 楽しくて少しスリルのある闇鍋。美味しいものと奇妙なものがいい感じに混ざりあった、安全な闇鍋。僕の夢見たそんな闇鍋の原型は、もう残っていない。
 あるのは混沌、そして恐怖を呼ぶ割れた土鍋。食材を溶かす、安全性皆無の闇鍋。
 ああ、こんな鍋を見たら、マリアさんはきっと――。

「それじゃ、私はちょっと野菜を切ってきますね」

 どこか弾んだ声でそう言い残し、マリアさんは軽い足取りで和室を出ようとした。
 それをなぜか呼び止めるお嬢様。

「マリアっ!」
「はい? どうしたんですか、ナギ?」
「こ、この臭いに、何か違和感を覚えないのか?」

 そう言うお嬢様の声は少し震えていた。溢れだしそうな恐怖心を我慢しながらも、マリアさんにさりげなく鍋の異変を伝えようとする。
 そのお嬢様の優しさを見て、僕はマリアさんを恐れてばかりいた自分を戒めた。
 そうだ、マリアさんはこの闇鍋パーティでの一番の被害者なのだ。買いだしに出ている間に、楽しみにしていた鍋をこんなわけわからん状態にされ、大切な鍋までも割られた。
 そんな可哀そうなマリアさんを、まるで化け物のように恐れていた僕は、なんて冷たい人間なんだ……! ごめんなさい、マリアさん! そしてお嬢様っ!

「うーん……確かに臭いは気になりますが……。闇鍋ってこういう、不思議なものなんでしょう? だったら仕方ないですわ」

 マリアさん! 違う! 違うんです! もう不思議とかのレベルじゃないんです! 混沌……まさに危険しか孕んでいないカオスの状態なんです!
 気がついて下さい! これ以上、あなたの期待を裏切りたくないんです!

「マリアさんっ! 実はっ……!」

 ――話そう。真実を。
どうせ、結末は同じなのだ。だが、黙っているよりはここで素直に謝ってしまった方が、きっとマリアさんの逆鱗も小さなものですむだろう。
 だから、僕はこの場で……土下座をする!

「マリアさん、じつはこの鍋……」
「なーんでもないぞぉぉっ!? マリア、鍋は何ともないぞっ! この臭いもちょっと闇鍋にありがちなすこーし奇妙なものを入れたからなんだ!
 マリアが嫌だったら取り出そうかと思って、聞いただけなんだ! ホント、この鍋はなんでもないぞ!! ハッハッハ! あー、超楽しみだなぁぁぁ!!」

 お嬢様ぁぁぁぁっ!? 何言ってるんですかアンタはぁぁぁ!!

「あら、そうなの? ……気を使ってくれてありがとう、ナギ……」

 そう言ってほほ笑むマリアさんを見て、僕はとてつもなく切なくなった。お嬢様、あんたは鬼だ。
 自分の危険を顧みず、マリアさんにこの鍋の危険性を伝えようとしたあなたは、虚像だったんですね。あなたの執事として、とても悲しいです。
 でも! 僕は言わなくちゃいけない! 言うなら、今しかないじゃないか!
 もう、僕は後悔なんてしたくない!

「違うんです! 本当はこの闇鍋……」
「割ったんですか?」
「……え?」
「土鍋、あれほど言ったのに割ったんですか?」

 なぜだろうか、マリアさんの背後に巨大なドラゴンが映っている。いやぁ、ヒナギクさんといいマリアさんといい、レベルの高い人のオーラは凄い。
 渦巻く黒い空気、そしてその空気に酷く不釣り合いな聖母の笑み。この威圧感だけで、僕は死にそうです。

「割ったんですか? ハヤテ君……?」

 笑顔のまま、僕に一歩歩み寄ったマリアさん。そのわずかな動きだけで、和室の空気に衝撃が走る。
 そんな空気に包まれたまま、僕は口を開いた。


「……割れて、ないです……。鍋も無事……です、はい……」


 ごめんなさい、お嬢様。僕も臆病者でした。見損なったとか思ってしまって本当にすいませんでした。
 感じたこともないような、こんな威圧感をお嬢様は知っていたのですね。今、あなたの気持が痛いほどわかりました。
 この威圧感の中、真実を告げるなんてこと恐ろしすぎてできやしない。

「だったらいいんですよ。では、私は野菜を切ってきますから、電気を消して待っていてくださいね♪」

 語尾の音符が、僕たちの恐怖心を掻き立てた。もう、絶対に逃げられない。今から起ころうとしている、この惨劇から逃れることはできないのだ。
 僕の描いていたエンディングの中で、一番最悪なエンディングを超越した状態で迎えたこの闇鍋パーティ。
 この先のことは考えるだけ無駄だろう。すべてを諦め、受け入れようじゃないか。

「……ハヤ太君……。電気、消すか?」
「ええ、お願いします、花菱さん……」
「ハヤ太君っ! 私思ったんだけど、この鍋の底に沈んでいるであろう、美希ちゃんのクッキーを取り除けば、少しはまともになるんじゃないかな?
 ほら、菜箸でこうやって鍋をかき回して……ってうわぁ! お箸の先っぽ溶けたぁぁぁ!?」
「それ、もう硫酸とかの類よね……。お姉ちゃん! いい加減起きなさい!」
「起きないわよ! 私はもう死んだ! お酒の手によって殺されたっていう設定なのよ! 巻き込まないで!」
「残念、お姉ちゃんも道連れよ。姉妹仲良く、逝きましょ?」
「うわーん! ヒナがツンデレからヤンデレにぃぃっ!」

 崩壊する桂姉妹のやり取りを眺めている途中で、和室の電気が花菱さんによって落とされた。その瞬間、ヒナギクさんと桂先生の会話はおさまり、また静寂が訪れた。
 静寂の中に響く、鍋のぼこぼこと泡立つ音。もちろん、火はついていない。
 溶岩を彷彿とさせるようなその音に耳を傾けながら、僕たちはマリアさんを待った。
 暗闇に目が慣れてきたのか、僕の正面に座っている朝風さんと瀬川さんの姿が微かに見えた。
 二人とも、先ほどの溶けた菜箸を触りながら震えている。その震えは、鍋そのものに対しての恐怖なのか、マリアさんに対しての恐怖なのかは僕にはわからない。

「……なぁ、ハヤ太君」
「なんですか、朝風さん」
「薬、もう一瓶あるんだが、入れていい? もう、どうなっても同じじゃないか」

 自暴自棄になった朝風さんがまたいらんことをしようと立ち上がった。どんだけパクって来たんだ、といつもならツッコミをいれるところだが、生憎僕にそんな元気は残っていない。
 そのかわりに、瀬川さんが制裁を加えてくれた。
 先ほど鍋に突っ込んで先っぽが溶けた菜箸で、朝風さんをつつきまくる。これでもかというほど、つっつく。

「理沙ちんのばかちんー!!」
「あつっ! なんで菜箸の先っぽ……あっつ!! ちょ、泉! ストップ! 痛熱い! 痛熱い!!
 ごめんなさい! 入れませんから! 入れないからつつかないで! いいんちょさん! ごめんなさい!」

 騒ぐ朝風さんを見て、お嬢様と花菱さんが少しだけ笑った。被害を被った朝風さんには申し訳ないが、いい働きをしてくれたと思う。
 わずかに和んだこの雰囲気。だが、お約束通りこういったいい雰囲気は長続きしない。

 マリアさんが帰ってきたのだ。

「うふふっ、楽しそうですねぇ」

 暗闇に足を踏み入れたマリアさんは、穏やかな口調で騒ぐ朝風さんたちにそう言った。
 けっして、僕たちは楽しくて騒いでるわけではないんです。これはどちらかと言えば、パニックなんです。なんて言えるはずもない。
 マリアさんは机の開いているところに野菜が大量にのっている大皿を置いた。
 そして、持参してきた新しい菜箸で野菜を入れる。
 野菜が鍋に入った瞬間、野菜は音もなく白濁の鍋の中に消えていった。消えたというより、溶けた。だが、マリアさんはそんなことには気づかず、どんどん野菜を入れていく。

「……さて、と。野菜も全部入れましたから、始めましょうか」

 そう言った後、マリアさんはお待たせしてごめんなさい、と少しすまなそうに付け足した。できることなら、ずっとお待たせしてほしかった。


 マリアさんの「始めましょうか」宣言により、開始されてしまった恐怖の闇鍋。もちろんのごとく、だれも鍋に手を伸ばそうとしない。
 そりゃそうだろう。だって、菜箸さえも溶かす驚異の鍋だ。だれだって、自分から食べるという命を粗末にするような行為はしたくない。
 だが、それを知らないマリアさんはどうだろうか。誰も手を伸ばさないことを気にして、自分から手をつけてしまうかもしれない。
 マリアさんだって、普通の人間だ。こんなもの、口に入れれば無事ではすまないだろう。
 だが、みんな自分の命は惜しい。だから、手を伸ばさない。

(どうしたものやら……)

 暗闇の中で、僕はひとり腕を組む。うーん、と唸っていると、隣に座っていたお嬢様が僕の肩をトントンと叩いた。
 そして、そっと耳打ちをしてきた。

(今、ヒナギクたちと相談して、満場一致で決定したんだが……。
 逝け、ハヤテ)
(はあぁぁぁっ!!? 僕に死ねと!?)
(大丈夫だ! お前はガン○ムの生まれ変わりだろ? きっと大丈夫!)
(こんなもん中に入れれば、ガン○ムだって溶けますよ!)
「……? ハヤテ君、ナギ。何をヒソヒソ話してるんですか? 闇鍋が食べづらいなら、私が先に……」

 あああっ! なんてこったい! 僕とお嬢様が討論をしているうちにいつの間にやらマリアさんが自分の皿に、あの液体をよそっている!
 「ネバネバしてますね……」って、そのネバネバの時点で何か変だと気がついて下さい! そんな鈍感なキャラでしたかあなたは!
 鈍感なのは僕だけでじゅうぶんなんです! 
 
「ストーーップ! マリアさぁぁぁん!!」

 僕は立ち上がり、マリアさんの手にあった小皿を奪った。あっ、というマリアさんの短い悲鳴が耳に残った。
 そして、不機嫌そうな口調で「何するんですか?」と聞いてくるマリアさんに、僕は優しく語りかけた。

「さようなら、マリアさん。そして、ごめんなさい」

 僕はそう言い残し、小皿の中に入っている鍋の汁もとい劇薬を飲みほした。喉に入った瞬間、血液が逆流してくるような感覚に陥る。
 四肢が痺れ始め、僕は床に倒れた。僕が倒れたことに気づいたマリアさんが、悲鳴を上げた。
 その悲鳴を合図に、和室の電気がつけられた。そして、照らし出される闇鍋の真実の姿。

「…………これは? いったいなんですか………?」
「闇鍋だ」
「どう見ても悪い魔女がかき混ぜてる毒薬じゃないですか! なんでこんなことに……、あっ! それより、ハヤテ君!」

 マリアさんが僕に駆け寄ってきた。その姿も、今の僕には霞んで見える。

「ハヤテ君……」
「マリ、アさん……。ごめんなさい、ホント、に……ごめんなさい……」
「なんで謝るんですか? 鍋があんなことになっても、私は別に怒りませんよ……? 言ってくれれば、もう一度作り直したのに……。
 わざわざ、あなたが体をはって私を守る必要なんて……!」

 マリアさんは今にも泣き出しそうな声でそう言いながら、僕の手を強く握った。僕も、握り返したかったが、もう力が入らない。
 僕はマリアさんを虚ろな眼差しで見つめたまま、もう一度「ごめんなさい」と呟いた。
 その声を聞いたマリアさんが、一層強く僕の手を握る。……よくよく考えれば、このちょっと感動的なシーンは鍋からきてるんだよなぁ。
 このシーンの原因が、お嬢様やマリアさんをマフィアとかから守った的な原因だったら、本当に感動的なシーンだろうなぁ。
 はっはっは……。まさか、まさか……鍋で死ぬとはなぁぁあ!! ちくしょおおぉぉ!! なんかすっごい嫌だ! こんなんで死ぬの絶対に嫌だ!!
 せめて、死に方くらいカッコよくしてくれてもいいじゃないか! 神様のドアホ!!


「マリアっ! ハヤテ!!」

 お嬢様が叫んだのを皮切りに、みんなが僕とマリアさんに駆け寄ってきた瞬間だった。
 酔っぱらいの足が、机にひっかかった。その衝撃をもろに衝撃を受ける土鍋。そして、ヒビの入った部分から綺麗に真っ二つ。
 ああ、ごめんなさい。ほんとごめんなさい神様。さっきのドアホは取り消します。だからあの土鍋を元に戻してください。マリアさんの顔が、怖すぎます。
 二つに割れた土鍋から、僕をこのような状態にした憎きドロドロが流れ出ている。床に落ちたドロドロが、じゅわっと音を立てながら畳を溶かしている。
 僕はあんなものを飲んだのか。そりゃ死ぬよな。ガン○ムも解けるよ。

「……ナギ……? なんで土鍋がこんな綺麗に真っ二つに割れてるのかしら……?」
「……ヒナギクが……」
「ちょっ……! 確かに私がヒビを入れたけど……! もとあといえば、理沙の変な化学薬品が……」
「いや、もしかしたら美希のクッキーが……」
「いやいや、まさかのまさかで泉の激辛カレーが……」
「でも、鍋を真っ二つにしたのは桂ちゃん……」
「なっ! 私はただ躓いただけよ! そう……すべてはナギちゃんよ! パーティを企画した、ナギちゃんなのよ!」
「違う! 私は企画をしただけだ! 闇鍋の発案者は、ハヤテだ!!」

 人間とはなんと醜いものか。こんな状況を見たら、そう感じざるをえない。前にあったかばい合いの精神はどこへやら。
 そんなやりとりを見ているマリアさんの顔は、常に満面の笑顔。恐ろしいことこの上ない。
 そして、ゆっくりとマリアさんの口が開かれた。口調は、まさに聖母を彷彿とさせる穏やかなもの。


「わかりましたわ。ここにいる全員が平等に悪いんですね?」


 そう言った瞬間、マリアさんの僕の手を握っていた手の力が倍以上に増した。
 ……痛い! やばい、これ折れる! マリアさん! なんかミシミシいってる! ヤバイヤバイヤバイ!! 粉々になるっ!!

「……ハヤテ君は、あとからお仕置きですからね♪」

 僕にその言葉を言い残し、マリアさんは立ち上がった。その横顔に、いつもの笑顔はなくはじめて見るような無機質な表情が浮かんでいた。

 これが、マリアさんの本気か――。

 薄れゆく意識の中、僕は暗黒のオーラを背負いふらふらと歩くマリアさんの後ろ姿と、それから逃げ惑うお嬢様たちの姿を見た。
 まさに地獄絵図。次に僕が目を開けた時には、きっとこの白かった和室の壁は赤く染まっているだろう。
 さっき、こんな無様な死に方はしたくないと言ったけど、このまま死んでもいいかもしれない。恐れ慄き死に行くよりは、このまま穏やかに逝ったほうが……。


「ハヤテ君!」


 マリアさんの声。


「私から逃げられるなんて、思ってませんよね?」


 ……ああ、やっぱり逃げられないんだな。
 わかってたさ、わかってた。マリアさんの恐ろしさくらい。



「……ナベリストに……栄光あれ……」



 マリアさんを闇鍋将軍に、そして逃げ惑うお嬢様たちをナベリストたちに見立て、僕は彼女たちの背中にそう告げて、ゆっくりと目を閉じた。
 どんな状況になろうとも、鍋と向き合い続けた僕たち七人はまさしくこの世のナベリストだろう。
 そして、この鍋によって眠ろうとしている僕も果敢なナベリストの一人なのだ。鍋に命をかけた者すべてが、ナベリストなのだ!!


 ……ふはは、何言ってんだろ、僕。そろそろ毒が脳に回ってきたのかなぁ。
 ああ、そろそろ意識が遠のいてきた。ずっと響いていた先生と三人組の悲鳴も、あまり聞こえなくなってきた。
 次、僕が目覚めた時、僕はどうなってしまうのか。そして、どんな光景が僕を待っているのか。


 ――それは、女神(マリア)のみぞ知る。




【BAD END】

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