この作品のあらすじ
トップページ > 記事閲覧
Meaning of living (更新停止中)
日時: 2013/04/30 06:18
名前: サタン

どうも、お久しぶりのサタンです。

前の長編は色々アレな感じがしたので、連載を途中でやめてしまいました。

というわけで心機一転の長編SS「Meaning of living」を執筆していきたいと思います。

次スレから物語が始まります。

では、どうぞ。
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください

Page: 1 |

Re: Meaning of living ( No.1 )
日時: 2013/04/30 06:21
名前: サタン

1、 Unexpected happiness





生きるとは一体何なのか。
今からちょうど十年前に赤服を着て白い髭を生やしたおじさんに毒舌を吐かれて以来、僕は自分の生きている意味が分からなくなっているのだ。


「クズ両親にこき使われるだけのお前の人生など生きていく意味が無いに等しい」


その人の言う通り僕の両親は揃って働かないダメ人間の鏡である。
それだけならまだしも、親は働きもしないばかりか僕が稼いだ”お金”のみに興味を示す。
僕自身には欠片も興味を向けない。
親という依然に、人間なのかと疑問と憤りを覚えているくらいの息子への関心のなさだ。
でも僕は良い転機に巡り合える事を微かながら信じていた。
今日までは…!

「さて、今日もバイト頑張るか〜」

僕は太陽が昇り始めた頃に目を覚ました。
起き上がると朝の行事を手早く済ましてアパートの階段を駆け下りる。
今日はバイト先に出向く前に昨日頼まれていた仕事を遂行しなくてはならない。
荷台にお届け物を載せて自転車を走らせた。

「ふー 今日は一段と冷え込むな〜」

自転車を漕ぎながら僕の目に映る景色からは水たまりが凍結してる箇所があちこち見受けられて、冬らしさを感じた。
凍結路面に滑らないように十分注意しながら自転車を進めていると、僕の視界を巨大な建造物が占領した。
日本の大富豪の代表と呼ばれている三千院家の敷地前に到着した。
ここが目的地だ。

「どちら様ですか?」

インターホンを押すと、女性の声が聞こえてきた。
声色からして若そうな感じだ。

「自転車便の綾崎と申します。 三千院家宛に書類をお届けに参りました」
「それはご苦労さまです。 少々お待ちください」

そこで女性の声が途切れた後、こんな大きなお屋敷なのだから、応対人がここに来るまで少しは時間はかかるだろう…そんな少しの覚悟をしたが、僕の考えは甘かった。
あの会話から三十分経ったが、一向に応対人が現れなかった。

この家の人間はどれぐらい時間にルーズなのか! くそ、こっちも暇じゃないのに
僕は心で悪態をつきながら、再びインターホンを押そうとした。
その時になって、ようやく門が開く金属音が響いてきた。

少し文句を言ってやろう…!
僕は散々待たされた身なので、それ相応の対処をしようと決心した。
お、門が開き終わったみたいだ…よし!

「全く、少し待たせすg…!?」
「長らくお待たせしてしまって、申し訳ありませんでした」

僕の前に現れた人物は紺のメイド服を着ており、茶色の髪を結っていたとても清楚な女性であった。
な、何!? 三千院家には名家に恥じない、こんなに綺麗なメイドさんがいるんだ!
これは男として、寛大に対応しなければ!

「えっと? 本当にすみません…何せ屋敷からここまでh」
「いえ、全然平気です。 ちょうど耐寒練習したいと思ってましたから♪」
「はい?」

うんうん! バイトもたまには良い事あるな〜♪ こんなキレーな人と会話できるなんて光栄極まりない!
…ってやば、仕事しなきゃ、仕事!
それに、彼女から何やら痛々しい視線を感じるしね…

「…いえ、なんでもありません。 こちらがお届け物になります。 伝票にサインをお願いします」
「…でしたね! はいはい!」

その美人なメイドさんは手慣れた手つきで伝票にサインした。
このサイン持って帰っていいかな〜♪ …駄目だよね。 仕事先に受領証として提出するもん…そもそも。

「はい、どうぞ。 お手数おかけしました」
「いえいえ、では、これが書類になります」

僕は自転車の荷台から書類を運んできて、メイドさんの足元に置いた。

「あれ? 案外、書類の量多いですね」
「そうですね。 本宅の帝様からと明記されてますよ」
「おじいさまったら、また自作の小説を送ってきたんですね…」
「え?」

これって書類じゃなくて小説なの!?
封筒には書類って書かれてるんだぞ…? こんな厳重な梱包が施されてるのに…金持ちは良く分からない所に拘るな。

「… ありがとうございました。 そうですわ! 待たせたお詫びにお茶でも飲んでいきませんか?」
「ええ! 良いんですか? 僕仕事中なんですけど…」
「息抜きも仕事の内ですよ。 根を詰めすぎてもいけませんわ♪」

こ、この人…今まで会ったどんな人よりも優しいかも… 僕なんかに気を遣ってもらって…! うう…
僕は目から大粒の結晶が流れ落ちたと同時にしゃがみ込んでしまった。

「どうしたんですか!? 私、何か気に障る事でも申しましたか?」
「いや、嬉しいんですよ。 純粋に! こんなに僕の事を思ってくれる人が久しぶりでして…!」

突然の僕の異変に面を食らったのか、彼女は口調を低めて尋ねてきた。
くそ、涙が止まらない…でも! 男ならしゃきっとするんだ! しゃきっと!

「そろそろ屋敷に行きませんか? ここ寒いですし… 体が暖まれば自然と元気になれると思いますよ」
「…そうですね!行きましょうか! ご心配お掛けしました!」

メイドさんの温かい言葉に放心泣きして、スッキリしたのか、僕は本来以上に堂々とした態度でそう答えた。
三千院家のメイドさんが荷物を持とうとした時、僕はその動作を止めるように言う。

「その荷物は屋敷まで僕が持ちましょう。 さっきあなたがここに来るまでの時間を考慮すると、けっこう長距離のようですからね」
「え、良いんですか? 別に私は大丈夫ですよ」

案の定、僕の提案を躊躇気味に返してきたメイドさん。
でも僕は目の前の人にかけてもらった優しさに対して、少しでも恩返しがしたく追い打ちをかける。

「いえ、お茶をごちそうして下さるのに、僕が何もしない訳にいきませんから、せめてものお礼です…それに」
「それに?」
「あなたみたいな綺麗な人にこんな力仕事させたくありませんので…これぐらい僕がやります!」

少しお世辞染みた言い方かな? しかし、これは僕の本音だもんね! 綺麗な人を綺麗と言って何が悪い!

「!?…そ、それではお願いしますわ! では、ご案内します! こちらです」
「は、はい」

急にそっぽ向いてどうしたんだろうか? 僕が何か空気の読めない発言でもしてしまったのかな…
僕ってデリカシーない奴だなあ、はあ…
その後、僕と彼女の間に気まずい空気が流れて、会話することはなかった。
二十分くらい歩いた時だろうか、僕の視界にふと現れたものがあった。
それは本来なら花壇と呼ぶのだろうが、それは花園と言っても過言ではない出来栄えであった。

「うわ! 綺麗ですね! …この花、シクラメンですよね?」
「あら、良くご存知で♪ 苦労して育てているので、そう言われますと嬉しいですわ♪」

花の植え方も見事なものだった。 シクラメンの植え方のバランス、花が育つ為の個々のスペース等、どれをとっても熟練者の世話したと手に取るように分かるものであった。
まあ、僕がこんな事知ってるのは、昔花屋でバイトしていた時期があったからだが。

「あなたが育てられたんですか!? 素晴らしいですね!」
「ええ、そうです。 ありがとうございます。 あら、あのシクラメンだけどうしたのでしょうか」

彼女がそう呟くと花壇の方に駆け寄って行った。
僕もすぐに後を追うと、メイドさんの視線の先に一輪だけ枯れているシクラメンがあった。

「枯れ方から見ますと、植え方がまずかったのでしょうね…」
「そうかもしれませんね。 球根を植える深さが良くなかったって感じですね」

僕の知識では、シクラメンは9月が一番球根を植えるのに、最適な時期だそうだ。
それ以外のシクラメンは全くそんな事がないのにどうしてだろうか? 単なる些細なミスかな?

「ですね …まあ、あの時期はちょうど悩ましい時期でしたから、仕方ない事なのかもしれませんね…」

僕にそう答えながら、彼女の表情が一瞬だけ沈んだような気がした。
僕は黙って頷いた。 一輪の枯れたシクラメンを見つめて…育てた人の気持ちを汲み取ろうとしながら。





〜 〜 〜 〜 〜





「うわー すごく大きなお屋敷ですね!」
「そうでもないですよ。 本宅に比べれば、けっこう小さい屋敷ですよ」

この屋敷で小さいって ! じゃあ、本宅はもう何処かの国のお城レベルなのか!?
僕が目の前の建造物に圧倒されていると、後ろから何やら気配を感じる。

「マリアよ。 何なんなのだこの幸薄気な少年は!」

甲高い男性の声が聞こえた。
僕の背後に白髪のおじさんがいた。
なぜか、この人から感じる風格から影が薄いような印象を受けた。
マリア…? このメイドさんマリアって言うんだ…あの聖母マリアと同名なんだな。
容姿に違わない名前だ。

「あら、クラウスさん帰ってたんですか?」
「… 昨日の夜には戻ってたぞ。 知らなかったのか?」
「そうだったんですか。 昨日はナギと一緒に早く寝てしまったので、気づきませんでしたわ♪」

何か、身内同士の会話が始まって僕がフェードアウトしてるな。
そういえば、僕まだ名乗ってなかったけ。

「な、なら、仕方がないがな! でも少しは上司に気を配ってもらわないと困りますな」
「以後気をつけます♪ それで、この人の事なんですが…」

マリアさんが事情を説明するとクラウスと呼ばれた人も納得してくれた。

「なるほど、なら、早くこの少年を屋敷に通しなさい。 だが、その前に一応名を聞いておこう」
「僕は綾崎ハヤテと申します」
「それでは改めて…綾崎ハヤテ君! こちらへどうぞ」

そう言ってマリアさんは僕を屋敷へ招き入れてくれた。

「ところで綾崎よ… 私はけっして存在が薄くなどない! 私はここの三千院家に長年務めている執事長だ!」

うん? 何かあの影薄さんが何か言ってる気がするけど扉越しだと良く聞こえないなあ。
…ま、いっか。 それにしてもこの扉地味に防音効果高いな。
屋敷内に入った僕は中の造りに圧倒されてしまった。
これが世界有数の大富豪である三千院家の財力か!
そのまま僕は呆然と屋敷の内観を眺めながら客間に通された。

「では、紅茶を淹れて来ますので、ソファーでかけてお待ちくださいね」
「分かりました。 色々、ありがとうございます」

僕が返事をするとマリアさんはそのまま出て行った。
うーん、それにしても凄いなあ… あそこに掛かってる絵画なんてゴッ◯のア◯リスだ!?
ニューヨーク最大級のあの美術館にあるはずの絵画がここにあるなんて、相当な金持ちなんだな三千院家って!
しかし、僕はある事が屋敷に入ってからずっと気になっていて、仕方がなかった。
それは…

この部屋一見してみるとすごく整ってるように見えるんだけど、けっこう隅のほうとか、ホコリちらほらある!
僕はこう見えても清掃屋で長年バイトしていた経験があり、当時はそれで両親の酒代を稼いでいた。
だから、掃除にはかなりうるさい口である。
その事で僕は落ち着かなくなり、辺りをキョロキョロすると端の方に掃除用具の一式がポツンと置かれていた。

これは僕にここを掃除しろという神からの啓示なのか。 でも、他人の部屋を勝手に掃除するわけには…でもやりたい…どうする
こう自分に言い聞かせて必死に悩んだ。
悩み…悩んだ末…決断した。
数分後、ドアが開いてマリアさんが紅茶とそれを淹れる道具を運んできた。

「ハヤテ君、お待たせしました。 …あら?」
「あ、マリアさん。 すみません…じっとしてるの苦手でして、この部屋を勝手に掃除してしまいました」

結局やっちゃったよ。 あははは…
マリアさんが面を食らったように立ちすくんでる。 やっぱり、掃除とはいえ、好き放題やったのはまずかったなあ。 謝らなきゃな。

「ハヤテ君、あなた…すばr」
「すみませんでした…! ホコリが少々あったとはいえ、掃除を勝手にやってしまって!」

僕は膝をつき反省の意を表した。
せめてマリアさんから注意される前に自分から謝った。
だが、この後のマリアさんの対応は僕の想像違っていた。

「いえ、ハヤテ君が謝る必要なんてありませんよ。 さっきあんな事頼んだ後に、掃除までして頂いて…その上にこの部屋の綺麗さ…文句の付け所なんてありませんよ。 逆に私がお礼をしなければなりません」
「え…し、しかし」
「しかしもかかしもありません。 と・に・か・く今度は私がうーーんとお礼しますので、堪能して下さいね♪」

床に座り込んでいる僕に対してマリアさんは僕に目線を合わせると口元をほころばせて微笑んだ。
それからしばらく彼女に見惚れしまっていた僕がいた。
すぐにソファーに戻されしまったが、それから少しのティータイムもいつもの大変な生活を忘れさせてくれるほどの幸福な時間だった。

「お茶、ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

外は日当たりが良くなっていて、少し寒さが弱まっていた。
門まで見送りに来てくれたマリアさんに最後の挨拶をした。
そして、僕がこの場から去ろうとした…瞬間。

「ちょっと良いですか? ハヤテ君」
「どうかしましたか? マリアさん」

真剣な眼差しで僕を見つめるマリアさん。
それから僕と彼女の間に沈黙が続く。

「ハヤテ君、あなたなら……を変えられるかもしれません! だから…!」

マリアさんは言いにくげに表情を強張らせてそう告げた。
小声ではあったが、何か確信しているような雰囲気を出していた。
肝心な所が聞こえないが…僕が”何か”を変えられるのか?

「マリアさん、肝心な所が聞こえなかったので、もう一度お願いします」
「…いえ、やっぱりあなたにこんな事頼むわけにはいきませんので…今のは聞かなかった事にして下さい…」

ところがマリアさんは再び同じ事を言わずに謝ってきたのである。
…が、本当は言いたくて仕方ないようにも見えたが、それを必死で我慢するマリアさんの姿に僕は詮索する心を握り拳をグッと握りしめてこらえた。

「あ、そうなんですか。 …では、僕はバイトがありますのでこれで」
「引き止めてすみませんね。 良かったら、また遊びに来て下さいね」
「え、良いんですか?」
「あなたなら大歓迎ですよ♪」

別れる直前に彼女が言った言葉に僕はほんのり暖かなモノを感じていた。
また行きたいなあ…マリアさんの笑顔を見てそんな名残惜しい気持ちを心で呟きながら、僕は三千院家を後にしたのだった。
僕はその時浮かれていて、忘れていた。
幸せな後には不幸が待っている― そんな僕の日常を。





続く





一話はいかがだったでしょうか? 原作と違って早い段階でマリアと出会う展開でした。(ついでにクラウスも)

これが後々重要になってきます。

次回もそんな風に原作の展開を大きく逸脱予定です♪

二話目は例の如くハヤテに不幸が振りかかります。

次回の更新はなるべく早くしたいのですが、恐らく一ヶ月以内にできれば良い方だと思います。

では、また。

この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
Re: Meaning of living (5/7更新) ( No.2 )
日時: 2013/05/07 22:22
名前: サタン

2、末路の先には…





2、末路の先には…





「だいぶ長引いちゃったな。 急がないと」

三千院家で想定外の至福のひと時を過ごした僕は自転車のスピードを極限まで出してバイト先を目指していた。←※因みに法定速度はバリバリ守っています。

しかし、その途中に派手な色合いの外車とすれ違った。
その瞬間、赤く染まった車に乗車している男女が僕を見た途端に不敵な浮かべたように見えた。
すぐに振り返ったが、外車は既に僕の視界から消えていた。

…いや、でもそんな大金僕の家にあるわけないし、見間違いだろう
嫌な予感がしたが、バイト先が目の鼻の先なので迷わずそちらに向かう事にした。
そして、仕事完了の報告を上司にいち早く言いに行ったが、まさかの通告を受ける。

「おお、綾崎君か。 最後の仕事ご苦労様だったな」
「ど、どういう事ですか!? それは…?」
「君を今日限りで解雇するという事だ」

予感が当たった…!
だが、首になる要因は自分には思い当たらなかったので、僕は上司の机をおもいっきり叩いて抗議してみた。

「何故ですか! 僕はきちんと仕事をこなして…無断欠勤だってした事ありませんよ…!」
「確かに君はうちでトップクラスの速さで且つ誠実だ…だが、君は年齡を偽っているね」
「あ…」

上司に言われて思い出した。
僕は年齡を詐称してここで働いていたんだった…!←※年齡詐称は犯罪ではないそうです。

「君も知ってるだろう。 うちの募集規定は一八歳以上だということは…君はまだ一六歳だそうじゃないか」
「しかし、何故それを?」


二歳差くらい誤魔化せると思ったから、応募して今ここにいるのに…どうしてだ?
履歴書にもバレないように色々施したのに…

「今さっき君の両親がそう告げられに来たぞ」
「両親がですか!?」

両親という言葉にさっきの外車の中にいた男女が思い浮かぶ。
やっぱり、さっきの二人は両親だったのか! でも、何故ここに…まさか!?

「とりあえず、君の今月分の給料一八万円は両親に渡して置いたからな」
「ええええええええ、あの両親に全額渡しちゃったんですかー!?」

そんな…あの両親にそんな大金与えたら、どうなるか予想は大概つく…!
これはマズイ!

「君は高校生なんだろう。 親に渡すのが当然の話じゃないか」
「あの両親に一八万も渡したら、競馬で全て消えるじゃないですか!」
「ふ、何を馬鹿な事を… そんな事をする親がいるはずないだろう」
「…いるから僕が年齡詐称してまでバイトしてるんですよ!」

僕はもう行くこともないバイト先に荒々しく本音をぶちかまして出て行ったのだった。
少しでも給料が残っているという淡い希望を抱きながら。





〜 〜 〜 〜 〜





はあ…はあ…
それから僕は無我夢中に自宅に向かって走っていた。
一刻も早く両親から給料を取り返さなければならなかったから。

父さんたちだって分かってるはずだ…うちにはもうあれ以外お金がない事を!
僕の給料をあてにして生活している両親だ。
いくらなんでも、すぐには全部使い果たす事はないだろう。
見慣れた建物に到着すると、階段を駆け上がり、部屋のノブを手に掛けると鍵が開いていた。

「全く、鍵を開けっ放しにして置くなんて…不用心だな」

今朝、扉をきちんと閉めて僕は出かけたので、誰かがここを入室したかは一目瞭然である。
そして僕の他に部屋の鍵を持っていたのは、紛れもなくあの二人しかいないので間違いない。
まあ、盗られる物なんて、塵一つないので良いのだが。

「あれ、これって…」

茶の間に入った僕の目に真っ先に入った物があった。
テーブルの上に毎月必ず僕に渡されている給料が入ってるはずの封筒が置いてある。

「よ、良かったー まだ使ってなかったんだね! 僕の給料!」

期待混じりに封筒を手に取ったが、なんと非情にも開封した痕があったのだった。
僕は恐る恐る封筒の中身が出てくるように振った。
出てきたのは―

「…百二十円でどうやって年越すんだよ…」

現実は残酷だった… いくら振っても百円玉と一つに十円玉二つ…それにただの紙切れ一枚しか出てくる気配がなかった。
一ヶ月間働いた努力が一瞬にして全て水の泡と化したのだ。
もう何の為に働いていたのか、自分で曖昧になってきた。
落ち込んだのを少しでも紛らわそうとして、封筒から出てきた紙をせめての救いとして…期待を寄せながら読んでみたが…案の定、見事に裏切られた。

”ハヤテ君、給料ほぼ全部外車の頭金に使わせてもらったよー ありがとうねー”
”そうそう… ハヤテ君の給料だけじゃ全然足りなかったから、沢山借金しちゃった〜 てへぺろー”

「な、何!? 一体何考えてんだあの両親は!」

ほぼって…百二十円しか残ってないじゃん!
読むにつれて両親に対する怒りがどんどんむき出しになっていく自分がいた。
だが、これぐらいで両親への憎悪は収まる事はなかった。

”でも私たちお金持ってないし、ハヤテ君の稼ぎでも絶対足りないと思ったので名案を考えました”
”そうだ…! 息子を売却しよう♪”

「ええええええええええええええ!そ、そんな…」

無慈悲に溢れた両親からのメッセージ。
両親には過去に色々な仕打ちを受けてきたが、これほど酷い物は例がなかった。
まるで使えない奴隷を捨てるかのような息子への扱いであった。
親が子を売るなんて…

”大丈夫だよ! もし、払えなかったら、体で払えば済む話だしね〜 バンジージャンプより簡単な事だよ!”
”では、お迎えが上がると思うのでよろしく♪”

もうこんな奴ら両親でもなんでもないな…ただの生ゴミだ…!
とんでもなく腐った…!

「子供を売るなんて親として最低だな」
「ですよね…! こんな奴らもう人間として生きていく資格なんてない… ってあなたたちは!?」

知らない間に僕の背後には黒服の男があふれていた。
僕は警戒するように身を引く。

「びびらなくてもいい。 俺たちはただの取り立て屋だ」
「そ、そうでしたかー うちにはもうお金なんてないですよー」
「大丈夫…大丈夫。 こういう稼ぎ方もあるから♪」
「!?」

左目に傷を負った男がそう言うと紙を突き出してきた。
それには内蔵の値段が各臓器毎に明記されていた。
これを見た僕は身の危険が一層増し、窓から飛び出そうとした。

「おっと… お金を支払ってくれるまでは逃さないぞ。 何せ、君の両親には外車の借金以外にも一億円のツテがあるからな」
「うぐぐ… ツテ?」
「これを見な」

逃げようとした僕を二人がかりで抑え込んできた黒服たち。
毎日鍛えている僕でも大人数人相手だと動きが自由になることはなかった。
さらに、また紙きれを僕の目の前に提示してきた。

「一、十、百、千、万…一億! こ、これは…!?」

どうやらこれは借用書のようで、借金の額がなんと九桁に上っていてたのだった。
いつの間にかあのクズがこんなに借金してたとは、僕には思いもよらず、また気づけなかった自分に後悔した。

「さあ、返済してもらおうか。 それができないなら…さっき見せた書類通りに事を運ぶぞ」
「い、嫌だー! 離せ!」
「静かにしろ! このガキが!」

僕はありったけの力を使って男たちの拘束を解こうとした。
しかし僕の抵抗に虚しく、僕の口元になにやら薬の臭いが漂うハンカチを嗅がされてしまった。
羽交い締めにされたまま、僕は意識がもうろうとしていく。

「しかし兄貴。 今日はクリスマス・イブだというのに子供を見捨てる奴が二組もいるなんて…日本もどうかしていますね」
「確かにな。 …まあ、俺たちは商売だから同情する訳にはいかないがな」

薄れていく僕の意識からそんなヤクザたちの会話が微かに聞こえていた。




〜 〜 〜 〜 〜





う…ここは?
目を開けると倉庫のような場所に僕はいた。
いや、正しくはヤクザの集団に捕まって無理やり連れて行かれたみたいだが。

「それにしても数時間前の屋敷でのひと時が夢のようだな…」

あのまま屋敷に入れば、こんな目に遭わなかったかもな。
まあ、絶対迷惑だけどね。
でも手足は縛られてはおらず、身動きはとれる分まだ良い方だ。
さて…あのような酷い仕打ちを受けていた僕であったが、まだ諦めていなかった。
このままクズの思いの通りにお金に変身するのは流石に納得がいかず、少しあがいてみる事にした。
すると…

「あれ、誰かいるぞ…?」

視線の先に一人の少女が倒れていた。
僕は慌てて少女の元に駆け寄る。
この少女との出会いが、僕の生き方を変えるキッカケになるとは、今の僕に知る由もなかった。




続く




予想以上に早く更新できましたー(^^)
暇な時間を有効に使って書いた次第です。
そして、ハヤテと出会った少女の正体は…?
多分、読者の皆さんはもうお気づきでしょうね。
そう…あの方です!
では、またの更新でお会い致しましょう!
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
Re: Meaning of living (5/7更新) ( No.3 )
日時: 2013/05/07 22:38
名前: 開拓期

こんにちは!開拓期です!
この作品、次がすごく気になり
どうやってナギとの絡みを書くのかや
彼女との出会いがどうハヤテを変えるのかが気になりました!
次の更新を楽しみにしています!
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
Re: Meaning of living (5/7更新) ( No.4 )
日時: 2013/05/07 22:58
名前:

  どうも帝です。

 もう一人の売られた少女おそらく..........でしょうね。



 二人の両親、共々同じとこから借りてた!!?


 二人がどうなルカ楽しみです!!!
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
Re: Meaning of living (5/7更新) ( No.5 )
日時: 2013/05/15 23:32
名前: サタン

3、星に誇れる出会い





「大丈夫ですか! しっかりして下さい!」

彼女をさすりながら呼びかけた。
澄んだ水の色のショートヘアーが印象的な少女だ。

「うん…」

目をゆっくり開けて、こちらを向いた。
一時心配はしたが、彼女はどうやら無事のようである。

「よかった。 目を覚まさないかと思っていましたよ…」
「…あなたは!? まさか…取り立て屋! …だから言ってるじゃない!
私はびた一文もお金持ってないって!」
「…え」

ああ…初対面から僕はヤクザの一味にされてしまった。
まあ、それはさておき…彼女のこの反応もしかしたら、
僕同様な目に遭ってここに連れて来られのかもな…

「それに私はここから出ないと借金を返しようがないんだよ… それを…」
「あの…」

言い逃れというよりも、何かを訴えってくる今の彼女。
そんな彼女に僕は言葉をつまらせてしまった。
彼女の気持ちはよくわからない。
正直なところ。
…でも僕がこのままヤクザだって勘違いされっぱなしは良くない。

「僕は黒服の仲間ではありませんよ。 ご安心ください。
あなたも両親借金を押し付けられたんですか?」

誤解を解く以前に困った女の子が目の前にいるのに、
それをただ見過ごすことなんて、僕にはできない…!

「そうなのね…疑ってごめんなさい…
両親が騙され続けて借金大きくしちゃったから、
嫌でも人をむやみに信じられなくなっちゃって…」

人が信じられなくなるなんて、悲しい話だな。
昔から信じてない両親がいた僕が言えるセリフじゃないが。
きっとそんな騙され続けるほど、
純真な両親の下で育った彼女は本当はとても素直な人なんだろうな。
そこで僕は、

「いえいえ、そういう事情があるなら仕方ないですよ。
気にしないでください」

囚われの身で苦渋の心境の中、
僕は今できるだけの笑顔を作った。
彼女が何か安心感を抱いたかのように、

「大丈夫…! あなたは今から信じるから…ね♪」

曇りがちだった彼女の表情が少し晴れやかなものに変わっていた。
すっかり、僕のことも信じてくれたみたいだ。
だが、この和やかな場に水を差すかのように、
男の話し声が飛んできた。

「おい、準備はまだか」
「あと十分くらいです」
「分かってるだろうな。 先に女の方を連れ出して、男の方はここで臓器を回収する」
「へい! 了解しました」

子分だと思われる男の方が生きのいい返事をしていた。
僕は息を潜めて男たちの会話を聞き入っていた。
会話が終わると僕は彼女の方を向き直ったが、彼女は小刻みに震えていた。

「ど、どうしよう… このままだと…私たち…」

男の言葉から察するに僕はここで殺されるのは確実。
彼女の方は連れ出された後、生き地獄に放り込まれるに違いない。
僕は一瞬の苦しみで終わるだろうが、彼女はそうはいかないだろう。
おまけにさっき彼女は”それに私はここから出ないと借金を返しようがないんだよ… それを…”
と言っていた。
考えろ…考えるんだ…!
何かあるはずだ…ここからの脱出方法が…!

「ねえ…さっきから気になっているんだけど…少しいい?」
「…どうかしましたか?」
「あっちの方にある階段から上がって、脱出できないかしら」
「階段…!?」

彼女が指を指している先には、
なぜ今まで気がつかなかったのかと、
思うくらい分かりやすい場所に上り階段が存在していた。
捕まってたときの恐怖心のせいで気づけなくなっていたみたいだ。
案外あのヤクザたちも抜けているのかもしれない。

「さて、ヤクザが来ないうちに行きましょうか。 …ってどうしましたか?」
「いいえ、何でもないわ…イタタ…」
「何でもなくないですよ! 足を怪我しているじゃないですか!」

足を引きずって僕に付いてきた彼女は顔を歪めながらも、
虚勢を張っていた。
だが、足の傷の感じだと軽傷ではないようだ。

「大丈夫よ! 私は将来アイドルになる女…これくらいことで…う…!」
「…時間がありません。 少し失礼しますね」

今は時を一刻と争う事態なので、
とりあえず、彼女の発言はスルーして、
僕は問答無用に彼女の怪我をしている箇所にハンカチを巻いた。
応急処置だけど、少しは良くなったかな。

「…ありがとう」
「どういたしまして。 では、行きましょうか」
「え、これは…?」

お礼を言いながら、立ち上がる彼女にそっと手を添える。
僕の行動の意図に気が付かない彼女は戸惑いの表情を浮かべていた。

「僕の手につかまって上ってください。 無理はいけませんよ」
「うん…」

華奢な彼女の手が僕に身を委ねるように握る。
僕は優しくされど、離さないという強い意志で握り返す。
こんな僕を信じてくれる彼女を必ず助けるという堅い決意とともに。

「外は安全みたいです。 早くここから出ましょう」
「そうね」

上った先の部屋には昇降口があって、奇跡的にも鍵が掛かってなかった。
一度外に出て、ヤクザがいないことを確認してから、
彼女を連れ出した。
屋外は今の僕の心情のように晴れているわけでもないが、けっして雨でもない気候だった。

「うわ、寒いわね」
「そうですね。 この分だと夜辺り雪になるかもしれませんね」

…とまあ、僕たちのんきな会話をしつつも、階段をできるだけ早く降りていた。
少し順調過ぎるのが怖いなあ…
降り立った場所は青いスカイブルーで染まった海が一望できる港のようだった。
さて、何処まで逃げようかな?
あ、そういえばまだ名乗ってなかったけ…今日二回目だな。
そんなこと思っていたが、彼女の方から、

「こんなによくしてもらってるのにまだ名前言ってなかったわ。
私の名前は水蓮寺ルカよ」

彼女から名前を教えてくれた。
そして僕も当然のように名前を名乗ろうとした。

「よろしくお願いします。 水蓮寺さん。 僕の名前は…「よく脱出できたな。 お前たち…褒めてやるぞ」

まさか、この声は…!?
僕と水蓮寺さんも後を振り返ると、
銃を片手に持った黒服の集団が目に入ってしまった。

「まあ、少し爪が甘かったようだがな…
手を上げろ! おとなしくこっちに来い!」

ドスの効いた声が辺りに響いた。
それは僕や水蓮寺さんを脅かすのには、十分過ぎた。
水蓮寺さんが諦めたように表情を歪ませると、
絶望への一歩踏み出そうとした。
でも、そんなことさせやしない。
絶対に。

「ちょっと待ってください! 言いたいことがあるんです! 聞いてください!」
「うるさい! 黙って前に出ろって言っているのが聞こえないのか!?」
「いいから…聞けって言っているだろう!」
「…ふん、度胸ある兄ちゃんだな…良かろう言ってみろ」

口調が荒んでいつのまにかタメ口になっていた僕。
それで少しは気持ちが伝わったのか、目に傷痕がある男が許可をくれた。

「何の方法もない僕と違って、彼女はアイドルになって借金を返すって方法があるんですよ!
せめて、芸能会社のオーディションを受けさせてやってください」

僕は彼女が今まで言っていたことから一つの答えを出して、
この男たちを説得しようとした。
伝わってくれ…あの男たちだって人間のはずだ。
無駄に人の辛いところなんて見たくない…と思う。
正しく伝わってさえいれば、きっと届く。

「…そういえば、その女は借金の大半がその手の物だったな…
だったら、仕方あるまいか…」
「え、じゃあ…」

僕が少し期待感を寄せた。
そこに…一台の車が入ってきた。
なぜだか、その車を見た途端、少し落ち着いた気持ちになった。

「誰だ…? こんなときに」

ヤクザの一人がぼそっと呟くと、
車は僕らの近くに停止した。
待つ程なく運転席から人が出てきた。

「まさか、趣味のドライブをしている最中に君にまた会うとは思わなかった」
「あ、あなたは…!?」

その人を見て久しぶりの再会って訳じゃないのに、
物凄く新鮮な感じがした。
まさかこんな場所で巡り会うとは思わなかった…!
これが運命か。





続く





さて、出て来ましたね原作では、すっかりお馴染みの水蓮寺ルカ。
そして、ハヤテが最後に再会した人物とは?
次回に続きます。

帝さん、開拓期さん、コメントありがとうございました。
引き続き頑張らさせて頂きます。

それでは、また。


この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
Re: Meaning of living 5/15更新+注意文追記 ( No.6 )
日時: 2013/05/22 23:00
名前: サタン

4、もう二度と…




運命だとは思うけど…この人の名前忘れちゃった。
だって、そんなに会話した覚えないし…
そこで僕は失礼ながら名前を尋ねてしまった。

「あなたは…えーと……どなたでしたっけ?」
「…だから、私は三千院家の執事長のクラウスだって今朝言っただろうが!」
「あ、そういえば、そうでしたね。 すっかり忘れてました」

そうそう…クラウスだった!
あのときはマリアさんと話すのに夢中で記憶が曖昧になってたけど、
そんな影が薄い人もいたよね。 確か。

「何か私の陰口言わなかったか?」
「…は! いえ、何も言ってませんよ!」
「まあいい…それでこれは一体どういう状況なんだ? 綾崎」

クラウスさんが内心ひと安心した僕と水蓮寺さんを振り返った。

「それが…「おい! 何だこの老いぼれは!」

痺れを切らしたらしいヤクザたちが、
僕とクラウスさんの間に割り込んできた。

「私をどなたと心得ておる… 我こそが三千院家、
執事長のこと…蔵臼征史郎だ!」
「…だからどうした。 部外者が口を挟むな」

古臭い自己紹介をしたクラウスさんに対して、
目傷男が余裕のある態度をとる。
肩書きや風貌に物怖じはしていないらしい。
ヤクザをちらりと見たクラウスさんは思い出したように、

「お前たちは確か学館組ですな… 表では慈善事業をしているが、
それはあくまでも表向きの話で、
裏では主に情け無用の債権回収を行なっている、
鬼武者ノ小路系ヤクザ…で正しいですかな?」
「…じいさん、俺たちのこと良く知っているじゃねえか。
こりゃあ、お前さんたちは生きて返す訳にはいかねえな」

銃口を向けて、不気味な笑みを浮かべたヤクザ。
触れてはいけないことを、
どうやらクラウスさんは言ってしまったらしい。

「ええ! さっき彼女の頼みは!?」
「これを聞いてしまった以上、
その女もその老いぼれ同様に死んでもらわないとな…
だが、安心しろ君たちの臓器で借金は返させてもらう」
「そ、そんな…」

思わず僕は絶句してしまった。
寄り添っている水蓮寺さんが体を小刻みに震わせていた。
怯えているみたいだ。
彼がここに来てこんなこと言わなければ、
彼女は助かったかもしれないのに…
だが、執事服を身にまとった彼は、

「彼女と後に下がりなさい」

こっそり小さな声で僕に言った。
口調から察するに何か策があるらしい。
そこで僕はクラウスさんの言う通り、
僕は水蓮寺さんを後に庇うような態勢を瞬間的に整えた。
そして、クラウスさんはヤクザの態度に、

「最近の若い奴らは、
鉄砲を向ければ勝てるつもりか…」
「ああ、お前みたいな老いぼれに何ができる!」

呆れたようにそんなことを言った。
虚勢を張っていると思っているのか、
余裕の表情のヤクザだったが、

「お近づきの印としてこれを差し上げましょう」
「…え? うわあああ! 何だこれは… 何も見えねえ!?」

何かクラウスさんが転がしたと思ったら、
ヤクザがいる場所を強い光が覆った。
ヤクザたちが騒いでいるパニックに陥り始めたらしい。
光を起こした張本人は慌てふためいていた僕や彼女を誘導するように、

「今の隙に私の車に乗るんだ! 早く!」
「ああ、はい!」

どうやらヤクザたちが光で怯んでいる隙に逃走するらしい。
僕はクラウスさんが指さした車に飛び乗った。
反対のドアから彼女も続く。
僕たちが乗ったのを見定めると、

「発車するぞ!」

掛け声を発するとエンジンをかけて、
瞬く間に車のハンドルを切る。
こうして僕と水蓮寺さんは死の淵から脱出することができた。
でも…僕は、どの道…





〜 〜 〜 〜 〜





車窓から雪がちらつき始めて、
クリスマス・イブを飾る夕方。

ここで沈黙していた水蓮寺さんがようやく口を開く。

「…あ、ありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」
「当然のことをしたまでです。
それで君たちはどうして学館組に命取られそうになってたのかね?」

僕の気持ちを代弁してくれた彼女。
勢い良くそう言ったものの、
少し後半の方は涙声が入り交じっていた。
そこで僕は彼女の代わりに状況説明をすることにした。

「…なるほど。 今朝の仕事の後にそんなことが…
しかも、両親に借金返済ために売られるとはな」
「ははは… 僕も驚きでしたよ」

決して、人事じゃないのに苦笑する僕。
今朝からの幸せな出来事からどん底まで落とされかけたのだから、
もう笑うしかないほどの状況の変化だ。

「…で彼女の方は?」
「彼女は…ああああああああああ! 」

今思い出した! 水蓮寺さんはアイドルのオーディション受けるって言ってたっけ!
時間の猶予ないんじゃ…

「水蓮寺さん! オーディションの方の時間って大丈夫なんでしょうか?」
「もう間に合わないわ。午後四時からだもん…
でも命が助かっただけでも、私は十分よ」

車のデジタル時計は午後四時を指している。
確かに彼女の言う通り間に合わないだろう…
だが、さっきは逃げられたが、
ヤクザに命を狙われていることには変わりない。
つまり彼女は借金を払える保証があるアイドルにならない限り、
例え僕がそばにいて守るにしても、
水蓮寺さんの命の保障なんてできる訳がない。
あの規模のヤクザが動いている限り…

「クラウスさん、彼女を会場まで送って差し上げてください」
「それは良いが、
もしかして君が受けたいオーディションって新宿で開催されたりしないですかな?」
「え、そうですけど…なぜそのことをご存知で?」
「実はそこで開催されるオーディションは三千院傘下の芸能会社主催で、
私も仕事で時々行くことがあるのだよ」

さすが三千院家…!
そんな会社まで傘下にあるとはな。
それなら受けられるかも…

「それなら尚更ですよ! 早くそこに向かってください」
「そうだな…融通が効くかは分からんが、行ってみる価値はあるな」

トントン拍子に話は進んで行って、そこまで車で向かうことになった。
クラウスさんとの会話が一段落すると、

「あなた…本当にありがとうね。
今日会ったばかりなのにここまで私のために色々としてくれて…」
「いえいえ、頑張ってくださいね」
「うん、ありがとう!頑張るよ!」

彼女が生き生きした笑顔を浮かべて、
僕に向かって決意表明をしたが、
車窓に見覚えがある公園が映った。
そのとき、僕は思い出してしまった。
あの夜のことを。
僕が一緒にいたばかりに傷つけてしまった少女のことを。
このとき、もう僕は同じ過ちを繰り返したくないと思っていたばかりに、
言ってしまった。
離別の言葉を。

「すみません、ここで僕だけ降ろしてもらえないでしょうか?」
「は、それはどういう意味かね?」

突然の言葉に驚きを隠せないクラウスさん、
無論、水蓮寺さんも唖然としていた。

「僕は借金返す方法はないですし、
もし、彼女と一緒にオーディションに行ったら、
僕が持っている疫病神が彼女のチャンスを潰しかねないです」
「…そうか、勝手にするがいい」

クラウスさんはそれだけ言うと黙ってドアを開閉させた。
どうやら僕に何を言っても説得できないことを分かっているみたいだ。
僕が降りようとすると、

「何で急に別れるだなんて言うの! あなたがいたから私は今ここにいるのに…」
「…そんな顔されないでください。
自分がいると回りが不幸になることを分かりきっています…
だから、そうなる前に自ら引くだけのことです」

彼女の言っていること間違いではないと思う。
僕があの倉庫にいなければ、
彼女は助かってなかったかもしれない。
一緒に行って彼女の応援だけでもしてあげたいとも思っている。
でも彼女のチャンスを奪いたくない。
自分といる人は不幸になってしまう。
もう、あれっきりにしたい。
女の子を傷つけて悲しませることだけは…

「で、でも! あなたの借金なら私がアイドルになって、
私の借金と一緒に返済してあげてもいいのよ!
命の恩人の頼みなら何でも…」
「水蓮寺さん、あなたの気持ちはありがたく受け取らせて頂きます。
…ですが、あなたにそこまで負担をかける訳にはいきません…
オーディション頑張ってください…僕はここでさよならです」
「…行かないで! まだ聞きたいことも知りたいこともいっぱい…」

彼女がそこまで言ってくれたことは、
正直嬉しかったし、それに甘えたかった。
だが、彼女の借金を増やす訳にはいかない。
僕なんかのために。
水蓮寺さんに背を向けて僕は公園の方へ歩き出した。
背後から悲痛な叫び声に耳を塞ぎつつも、
彼女の成功を願っていた。
この場では自分の行いは正しいと思っていたが、
それが彼女に辛い思いをさせたのを、
僕は自覚できなかった。




続く





現段階ではルカの心情描写が分かり辛いと思いますが、
彼女サイドのお話をやりたいと考えておりますので、
それまで暫しお待ちください。

そしてハヤテとルカを結果的別れさせてしまった、過去のトラウマの少女。
もうお分かりですよね?

それでは、また。
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください
Re: Meaning of living (5/22更新) ( No.7 )
日時: 2013/05/29 23:24
名前: サタン

5、出会い、別れ、そしてまた出会い





自分の本当の気持ちに嘘を付いたことに少し後悔しつつ、
公園の中に歩み出した。
そりゃあ本音は一緒に行きたかった。
でも、もう女の子を傷つけたりしないって決めたんだ。
あの黄金のような日々の終わりから――――――否が応でも学んだんだ。
アーたん…

遠き昔の幼き過去を回想していると、
自販機とベンチが一式並んでいる空間に出た。
そこではクリスマス・イブに浮かれていると思われる男たちに
囲まれている一人の少女がいた。

「君、可愛いねー ? 良かったら、俺らと付き合わないか」
「ふん、お前らのような平民が私と釣り合うとでも思っているのか、愚か者め」

強気な少女だこと…
でもそんな高圧的なセリフを吐いたら…
男の中の一人が少女を強引に掴んだ。

「ふふふ… こんな傲慢でいられるのも今のうちだぜ」
「ちょ、離せ!」

そりゃあそうだろうな。
誰がどう見ても華奢な女の子にしか見えないし、
まあ、口だけだよな。

「このまま俺らと付き合ってもらうぞ。
俺らにあんな口利いたことを後悔させてやるぜ」
「…止めろ! 離せー!」

……はあー 仕方ないな。
改めて思った。
困っている人がいると反射的に飛び出してしまうなんて、
僕がドが付くほどのお人好しなんだなと。

「お前たち…そんな年下の女の子相手に数人でかかるなんて…
恥ずかしくないのか?」
「何だと! お前やる気かよ!」

少女を掴んでいた内の一人の男が、
僕に向かってきた。
相手の拳が僕の頬を狙っていたが、
殴らせなかった。
相手の拳を掴んでそのまま僕の背後に投げ飛ばした。

「まだやるのかな?」
「くそ! 覚えてろー」

余裕の笑顔で少女を掴んでいた輩に向き直るが、
男たちは今のでビビったらしく逃げ出した。
所詮、数だけか。
まあ、少女が無事でよかった。
男たちがいなくなったのを見定めると、

「大丈夫?」
「…誰が助けろなどと言った! 余計なことをするな。 まったく…」

声をかけるが、反応は決して良い物ではなかった。
…強がっているのか。
この期に及んで。

「さっきの光景から君が逆転するような展開は想像できないけど…」
「そ、それは! 実は私にはコナ◯のような麻酔型腕時計を常にしていてだな…」
「腕時計なんてどこにあるの? アニメと現実をゴッチャにするのは良くないよ」
「う…!も、もう! バカ!」

僕のツッコミで反論できなくなった彼女は金髪ツインテールを、
揺らしながら俯く。
黒のパーティードレス姿の少女は冬には相応しくない、
少し肌が見え隠れしたものだった。
この冬空でそんな格好しているなんて風邪引くんじゃないかな。
…しょうがない。

「寒いならこれあげるよ」
「だ、誰が寒いなどと…」
「いいからいいから♪」

僕は自分が着込んでいたボロボロのコートを少女に羽織らせた。
どうせ、いつヤクザに捕まってもおかしくない僕だ。
ならば…

「このコート随分安い作りだな、
おまけに糸がほつれて中の繊維がでかかっていて、
おまけにサイズはブカブカ…」

せっかく、人のコートあげたのに何だその可愛げない反応は…!
何様のつもりだ…!

「…でも、温かい。気に入った♪」
「……そう」

少女はさっきからの可愛げない反応と打って変わって、
無邪気な笑顔を浮かべた。

「そうだ、この機械が私に嫌がらせするのだが、
何とかならないのか?」
「嫌がらせ?」

機械が何の嫌がらせできるんだよ…
僕は呆れたように少女が指し示す先を見ると、
そこには何処にでもあるような自販機が設置されていた。

「まるでじじいのような手の込んだいじめなのだ。
カードが使えないなんて!」
「は…はあ」

彼女が持っていたのは、
大金持ちの中の大金持ちしか持てないと言い伝えられる
プラチナカードであった。
なぜ彼女が自販機のことを分かっていないか、
理解できた。
きっとこの少女は超の付くほどの大金持ちの家のお嬢様であるから、
こんなに世間知らずなのかと。

「私はこの”あたたか〜い”が飲みたいだけなのにな。
このポンコツが…!」
「……」

彼女はカードが使えないことに腹を立てて、
自販機を蹴った。
もう少しおしとやかにやれないのだろうか。
そんなことを考えつつも彼女をたしなめた。

「女の子が物をやたらに蹴るのは良くないよ。
その”あたたか〜い”くらいなら僕が買ってあげるから」
「ふん、余計なお世話だ!
別にそんな物飲みたいなどと…」

あれ、さっき自分の言っていたことと矛盾してない?
それとも僕がお節介焼いたから怒っているのかな?

彼女の気まぐれはとりあえず無視して、
僕は両親が残していった最後のお金である百二十円を自販機に投入しようとしたが、
小銭をぶちまけてしまった。

「僕はどこまでついてないんだか…」

ため息をつきながら、小銭を追いかける。
百円玉がコロコロと転がっていく。
一メートルくらい転がると静止した。
そこを僕は拾おうとしたが、
僕よりも先に小銭に着手していた人間がいた。
見上げると、

「久しいな。 少年よ」
「あ、あなたは…!?」

十年前に出会った懐かしい人であった。
なぜかその人からは独特なプレッシャーが感じられた。

「どうだ、少しは生きている分かってきたかね?」
「…そんなこと考える前に僕の未来はもうないのですよ…
あなたの言う通り両親にこき使われて、挙句の果てには捨てられましたよ…
まるでゴミのようにね」

そう、あの頃から状況は何も良くなってないんだ。
むしろ悪化している。
そんな人生に生きている意味なんて考える時間があると思う?
その前に僕は今日で死ぬかもしれないのに…

「そうかそうか、
両親はやっぱりお前のことを物以下の扱いだったか…」

僕をあざ笑いにきたのか十年前と同じく。
あのときも思ったけど、
サンタっていうのは子供に夢を与える存在じゃないのか?
そんな人が僕の末路を見届けに来ただけなんて…

「…じゃが、お前を必要としている奴もいるかもしれないぞ」
「そんな人いやしませんよ」

いるわけないんだ。
僕なんかを必要にしている人なんて…
人なんて…いるわ…け…

”大丈夫…! あなたは今から信じるから…ね♪”

暗闇の絶望の中で僕を頼ってくれた少女。
短い期間であっという間に僕に運命を託したり、
とにかく僕に賭けてくれた。
こんな僕に。

”うん、ありがとう!頑張るよ!”

そう言った彼女の表情はやる気に満ち溢れていた。
そしてこの言葉は紛れもなく、
僕に感謝している証その物であったとも思う。
彼女はまさか…
僕を…

「ではな。 わしはパーティーに戻らないといけないからな」

サンタが去って行くのを、上の空のように眺めていた。
え… もしそうなら…僕は何てことを…
ははは…やっちゃったよ…
僕はまた女の子を傷つけちゃったよ…
自分との約束を犯してしまって、
何ともやりきれない気持ちが僕の中を駆け巡っていた。
そんな僕に悲鳴が聞こえてきた。

「は、離せ―! む、むぐ!」
「!?」

自販機の前で待たせていた少女が、
二人組の男に捕まっていて、
公園の外の車に押し込められていた。

僕が目を離していたばかりに…
もう、これ以上僕の目の前で女の子は泣かせない…!
僕は電光石火の如く駈け出した。

「ゲームの始まりじゃな…」

無我夢中に公園を僕が飛び出すとき、
微かにそんな声が聞こえた気がした。




〜 〜 〜 〜 〜





僕がたどり着くまでに少女が囚われた車は、
発進してしまった。
だが、車のナンバーはしっかり記憶した。
くそ、何か乗り物でもあれば…追いつけるのに…!
仕方なく、車が去っていった方向に駆け出す。
すると、本来ならお呼びでない人たちが乗った車が、
僕の目の前に登場して中の人が出てきた。

「どうだ、ヤクザの情報網は凄いだろ?
東京内にいるうちの連中に情報を流したら、
こんなに早く再会できたぜ、お坊ちゃんよ」
「…」
「さあ、今度こそ来てもらおうかな?」

こんなに早くヤクザに見つかるなんて…
やっぱり、僕はついてないな。
…あれ、待てよ…?
これを利用すれば… もしかしたら…!

「良いですよ。…但し、この条件が飲めればの話…ですがね」
「はあ…? この期に及ん命乞いしようなんて…
ふざけ…「どうすれば、大人しく捕まってくれるのかな?」

僕の願いを足掻きとみたヤクザが僕に銃口を向けてきたが、
目傷男がそれを遮り、僕に聞き返した。

「柏木! なぜ、こんな奴の言う通りにする必要があるんだ!」
「少し言うことを聞くだけで素直に捕まってくれると言っているんですぜ。
聞いてやりましょうや、 まあ、逃がしてくれっていう願いは聞けないがな」
「ありがとうございます。実は…」

ヤクザの中には話が分かってくれる心の広い人はいるんだなあ。
このあとの自分の運命はさておき、
僕が今助けたい人がいると伝えた。

「何だそんなことか…いいだろう!
よし、お前たち都内にいるうちの組の奴らに伝えろ!
多摩11―20を見つけ次第、俺らに連絡するように…と!」
「かしこまりました!」

柏木と呼ばれていた男がそう仲間に命じると、
仲間の方も慌ただしく、携帯を取り出し始めた。
ヤクザもあながち悪いことだけしているじゃないんだな。
人間関係が厚いヤクザを見て思わず笑みをこぼす。

「おい、ぼさっとしてないで早くお前も乗れ!
仲間がそれらしい車をもう見つけたみたいだから、
さっさと行くぞ!」
「はい!」

行くぞ! 少女を必ず助け出すんだ!
僕は心の中で意を決すると、
車の中に足を踏み入れた。





続く




さて、ハヤテはナギを救うことができるのでしょうか?
原作と違ったハヤテの超人ぶりをご期待してくださいw
このあとの話の流れとしては、sideハヤテ→ sideナギ →sideルカといった感じになります。

それでは、また。


この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください

Page: 1 |

題名 スレッドをトップへソート
名前
URL
パスワード (記事メンテ時に使用)
文章チェック ミスがあったら教えてほしい  ミスを見つけてもスルーしてほしい
コメント

   クッキー保存