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まつり(一話完結)
日時: 2013/02/24 09:42
名前:
ピアノフォルテ
一月末。寒いけれど、ときたま春を思い出したように、少しだけ日差しが暖かくなる日がありますよね。ここ最近は、まさにそんな日が続いていました。
「さて、1月に始まる『まつり』とは、何でしょう」
「正月のことか?いきなり何を言い始めるんだ」
私は、いつものように庭の花壇や鉢植え達に水をあげていました。
ふと、部屋の中でこたつの中に引き籠っている主――ナギに質問したのは、たまたまほんの少し嬉しい気持ちになったからでした。
こたつの上には、沢山の蜜柑の皮。そして畳の上には散らかされた駄菓子の袋や漫画の数々。
「ひょっとして、マリアみたいにいつも休みだと、祝日の感覚ってなくなるのか?」
堕落しきったこの子に呆れられる私って、一体……。
「……失礼ですわね。それと、さっきのクイズに対する答えは、まちがっていますわ」
「じゃあ、正解はなんなのだ」
「こちらにくれば解りますわ」
「寒いから嫌だ」
ナギは口をへの字に曲げて、こたつの中にもぐりこんでしまいます。
外へナギを誘おうと言う私の魂胆は、どうやら裏目に出てしまったようでした。
「お嬢様、はしたないですよ」
「いいだろ、別に休みの日くらい」
そこで登場したのが、三千院家の誇るモビル○ーツ、でも女装の似合う男の子であるハヤテ君でした。言葉にこそしなかったけれど、その顔に張り付けられた笑みが微かに引きつった所を見ると、「いつもの間違いでしょう」という突っ込みを飲み下したのは明らかでした。
ハヤテ君はゴミを手早く片付けると、縁側から降りてきました。
両腕には、大きな籠に入れられた沢山の洗濯物が抱えられています。前が見えているのかも解りませんが、ハヤテ君は危なげなく歩きます。
「それで、お嬢様と何をお話されていたんですか」
「訳の分らんクイズだ。一月に始まる祭りが何なのか、だとさ」
にゅ、と体をこたつから出すナギ。勿論目的は次の蜜柑です。バスケットから蜜柑を取ると、またすぐにこたつの中に戻ります。……貴方は亀かやどかりですか。
「マツリ……。初売り出しとか?」
いや、答えが余りにも所帯じみているでしょう。なんだか涙ぐましいですわ。
「残念。こちらにくればわかりますわ」
籠を置いたハヤテ君は、可愛らしく小首を傾げて、私の方に来てくれました。
ナギもこれ位素直なら、良いんですけどねえ。
私はちょんちょん、と『答え』を指差します。
「……ああ、なるほど」
ハヤテ君がはにかみました。
「おうい、ハヤテ。解ったのか」
「答えを教えては駄目ですわよ」
私がくぎを指すと、ハヤテ君は頷きます。
「……意地悪」
ナギはと言うと……しぶしぶこたつから這い出てきていました。
仲間外れにされた事が答えたのでしょうか。ちょっとだけ涙目です。
「ううっ、寒っ」
はんぺんの袖の中で腕を組んで、私は今不機嫌の絶頂ですよー。という表情でナギが下りてきます。
とてとてとて。小柄なナギでは、今にもはんぺんを引きずりそうなので、なんだかペンギンさんみたいです。可愛いとか、思ってしまったり。
「で、答えは何なのだ」
「これ、ですわ」
私が指差したのは、鉢植えの中。枝の先には薄紫色の蕾がありました。
ナギは私が指す先を睨みつけて、次に私を睨みつけてきました。
「ひょっとして、この花のことか?花一つでお祭り騒ぎとは……呆れたやつだ」
「違いますわ。この花の名前は何だか解りますか?」
「知らん」
だからなんだ。と首を背けるナギ。
「ジャスミンです。そして茉莉花(マツリカ)とも言います。これはまだ蕾ですが、もうしばらくすれば白い花が咲くと思います。」
「おやじギャグかよ」
じとりと、見据えられても、私はめげません。
「このハゴロモジャスミンの開花時期は1月から5月上旬。基本的に冬が寒い日本では、4月以降が基本です」
「それでは、そもそも、クイズにすらなっていないじゃないか」
その通り。これはそもそも破綻した問題だったのです。
「ええ。ですが、どうしても貴女に見てもらいたくて」
ふん、とナギが照れ隠しにはなをならします。
「ここ最近は、比較的暖かい日が続いていました。とくにこの辺りは風も無く、日当たりも良いので、こんなに早くに咲き始めてしまったんでしょうね」
「確かに、思ったよりは何だか暖かいな」
ちょん、とナギは蕾を突いて遊んでいます。本当は触らない方が良いのだけど、怒る気にはなれませんでした。
「外も、悪いことばかりでは無いでしょう?」
「ん、まあ、な」
ジャスミンの花言葉には、素直。という意味もあります。それに釣られたのかは解りませんが、少しだけ素直になったナギを見ていると、私の頬は、思わず緩んでしまうのでした。
完
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ジャスミンって茉莉花って書くのよねえ。でも、読みって何なんだろう(←え?
って事で、調べた結果の読みが面白かったので、思いついたスーパーショートストーリーです。短い。本当に短い(笑)
本当はもっと長くする予定でしたが、冗長になってしまったので大幅削減。時代はエコですよね(?)
また、一人称の練習も兼ねてます。一人称の素敵な所は、主人公以外の人物をちょっと曖昧な存在に出来る所でもあると思っています。
敢えてマリアの視点に徹底したのは、これが二次創作であり、キャラクターが確定しているからでした。
説明しなくても、色々広がって行くんですよね。
甘えといえば甘えですが、たまにはこういうのもアリかなと。
現在執筆中の長編が重苦しいので、箸休めにでもして頂けたら幸いです。
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Re: まつり(一話完結)
( No.1 )
日時: 2013/02/28 02:01
名前:
ロッキー・ラックーン
参照:
http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=25
こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
三千院家メンバーの日常の話は気持ちが和みますね。
なんともホンワカパッパな気分になりました。
茉莉花…とあるマンガのドSメイドさんを思い浮かべたのは私だけではないはず…(「まりあ」繋がりですし。笑)
"素直"以外の花言葉は、"可憐"・"気立ての良い"・"清浄無垢"…まさにマリアさんそのものですね。
ナギの「ん、まあ、な」からは、そんなマリアさんからの気立てへの心の動きと引きこもり精神との間で揺り動いている印象を受けました。
頑張れマリアさん!
>一人称の素敵な所は、主人公以外の人物をちょっと曖昧な存在に出来る所でもあるでもあると思っています。
自分もそう思います。セリフ回しでキャラの心情を読者に想像してもらえるという楽しみがあると思います。
それだけに、言い回しに気を遣うところが難しいのではありますが…。やっぱり楽しかったりするのであります。
それでは、失礼しました〜。
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Re: まつり(一話完結)
( No.2 )
日時: 2013/02/28 12:11
名前:
ピアノフォルテ
>ロッキー・ラックーンさん。
いつも感想有難うございます。本当に励みになります。
ここ(ひなたのゆめも含みます)の作品って、良くも悪くも、一人称の利点を利用した作品が多いんですよね。
一人称はキャラクターのパワーに影響されやすいので、作者にある程度力が無いと、お話が振り回されてしまうんです。だから、私は今まで三人称を徹底していたのですが……。
でも、色々考える所もあって、このような形に挑戦してみました。内容こそ日和ったも短いものですが、これはこれでかなりの野心作だったりもします。「ピアノフォルテ」の名前で出していいのか、迷った作品でもあります。
正直お蔵入り寸前でしたが、「待て、逆に考えるんだ。今までのイメージが壊れてしまってもいいさと考えるんだ」と思い切って出稿しました。
徹底的に削りまくった作品なので、もしかしたら、私の作品を見て来られた方々の中には、首を傾げられた方もいらっしゃるかもしれませんね。
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