Re: 新世界への神話 4スレ目 2月16日更新 ( No.7 ) |
- 日時: 2020/02/23 22:15
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
4 気がつくと、エイジは一人倒れていた。
起き上がって周囲を確認すると、自分以外誰もいない。
いや、自分が進もうとしている先に、誰かいる。
佳幸をはじめとした仲間たちだ。エイジは起き上がろうとするが、何か見えない力で抑えつけられているのか、動くことが出来ない。
やがて、佳幸たちはエイジに背を向けて進みだした。エイジは声をかけるが、彼らは聞いてはくれない。追いかけようにしても、立ち上がることができない。
このまま自分は倒れたままなのか。
いや、これで終わりたくはない。
邪魔しているのが何であるかわからないが、自分の持てる力すべてを振り絞って立ち上がろうとする。
そう、今までの戦いのように。
そして、エイジは立ち上がり、佳幸たちを追いかけ始めるのであった。
そこでエイジの意識は現実に戻された。
フラップシュートで倒されたエイジは、よろめきながら立ち上がる。
「大丈夫か、エイジ?」
仲間たちが心配して声をかける。傷ついても、大抵のことでは元気を失わないエイジだけに不安になってしまう。
「ああ、なんとか」
一体化が解けてしまったエイジはそう返し、何か思案しているようだ。
普段の騒がしいほどの活発さを潜め、真剣みを増した彼の表情に一同は若干気後れしてしまう。頭でもぶつけて気がおかしくなったのではないかと疑ってしまうほどに。
そんな彼らに、エイジは決心した様子で告げた。
「皆、先に行ってくれ。俺も後で追いつく」 「エイジ?」
さっきまでとは違うことを口にした彼に、皆戸惑いを感じてしまう。
やはり頭でも打ち、そのショックでおかしくなったのだろうか。
そう思ってしまうのは、それだけエイジが手を焼かされている証拠でもある。普段の彼なら、今の皆の表情を見ただけで憤慨してしまう。それこそいつもいがみ合っているナギのように。
しかしエイジはそれでも騒ぐことはなかった。
「本当に大丈夫か?」
つい口に出てしまうぐらい、皆の方がショックを受けていた。
「大丈夫だ。だから早く行ってくれ」
心配だが、何時までも立ち止まっていられないのも確かだ。一同はエイジを信じて、彼を残し先を進むことに決めた。
翼の間を出る途中、ナギが振り返ってエイジを見やった。自分が彼を残していこうと言ったのを気にしていたら何か悪い気がしてしまう。かといってこの男に謝るのは何か違うし、何より自分のプライドが許せない。
何を言おうか迷っているナギ。そんな彼女に対して、エイジの方から切り出してきた。
「早く行かないと置いて行かれるどころか、俺に追いつかれるぞ。あんた鈍足なんだからな」 「誰が鈍足だ。私はおまえたちと違って体力バカじゃないんだ」 「わかったわかった。だから早く行け」
鼻を鳴らして去っていくナギを確認した後、エイジはジュナスに再び向き直う。
「これで心置きなく戦える。あんたにも、とことん付き合ってもらうぜ」 「置いていかれるのは嫌だったのではなかったのか?」
ジュナスはエイジの心を確認する。彼が何かを吹っ切ったのは間違いないが、どういったきっかけでそうなったのか知りたくなった。
「置いていかれたくない。それが甘えとなっていたんだ」
ジュナスから見たエイジの心は、固い決意に満ちていた。
「俺はあんたたちへの挑戦者だ。そして、俺は仲間たちに対しても競い合っていかなきゃいけねえ。ただ憧れているだけじゃダメなんだ」
エイジの今の心境は、初めて精霊と出会った頃と同じであった。佳幸をはじめとした八闘士たちに憧れ、希望を持ち彼らのようになろうと努力しようとした時の気持ちと。
そして、仲間たちを先に行かせたのは自分の中にあった気持ちの緩みを引き締めるため。一体化が出来るようになってから、エイジは心のどこかで仲間たちと対等になった、これで自分もようやく一人で戦えるという意識があったのだろう。その安心感と自信を振り払い、前に進むと自らを奮い立たせなければならない。
「だから俺は、自らの力で道を切り開いていくんだと、自分に言い聞かせたんだ」
エイジにはもう、意地や慢心、油断などは無い。
「進む先には皆がいる。希望を捨てずに、俺は戦う!」
再びウェンドランと一体化するエイジ。
どんな状況でも、諦めずに前へと進もうとする。そんないつもの調子を取り戻し、エイジはジュナスと対峙する。
「俺の技を全て見切ったというけど、あんたも甘いな」
エイジは両手を前に構えた。その手の中でエネルギーを練り出し、大きな光球を作り出す。
「俺にはまだ、この技が残っている!」
エイジは、上空へと飛び上がった。
「メテオダンクフォール!」
大きな光球を、ジュナスに向けて投げつけた。その光球を、ジュナスは感心したように見ていた。
「確かに、今までの技とは違うな。だが…」
ジュナスはそれを両手で受け止め、上へと弾き返した。
「まだ、足りないものがある」 「まだ?他に何があるっていうのかよ」
この技はエイジのオリジナルである。完成品とは言い難い練度ではあるが、同じ黄金の使者であるエーリッヒも防御に手を回した技なのだ。ジュナス相手にも通用するとエイジは思っていた。
パワーは十分にある。けど、ジュナス曰くまだ足りないものがあるらしい。
「再びこの技を受けて、それを思い知れ」
ジュナスの翼が風を生み、続けてフラップシュートが放たれた。
ジュナスの必殺技を受け、エイジはまたも倒れてしまう。しかし、エイジはもう倒れたままというわけにはいかない。
何度でも立ち上がる。ここであきらめたら道は閉ざされてしまう。全身に力を、魂を込めて立ち上がるんだ。
そこでエイジは、力を込めるということで気づいた。
ジュナスの技、フラップシュート。あれは背中の翼で風を起こし、それと共に集めた力を拳に込めていた。ジュナスの思いを込めて。
そうだ。必殺技はここで勝負を決めるという気迫を込めて、全ての力を放つものだ。
なにより、使者は心を強く持つことで力を高めているのだ。要は、それだけなのだ。
理解したエイジは、もう一度拳を構える。流星暗裂弾を放つつもりだ。
「その技はもう通用しないはずだが?」 「それでも、俺にはこの技しかないんだ」
流星暗裂弾。エイジはいつもここぞという時はこの技を使ってきた。彼にとってはやはりこの技こそが決め技なのだ。
相手の口車に乗せられたからと言って、そうやすやすと封じることなどないのだ。
開き直ったエイジの背後に龍のオーラが浮かぶ。
マインドが発動したのだ。今までと違う何かが来るとジュナスは悟る。
「フラップシュート!」
警戒はしていた。だがそれよりも、エイジの力を確認しておきたいという気持ちの方が強かった。
おまえが本物だというのなら、打ち破って見せろ、と。
「これで最後だ」 「負けるか!」
力を。
「負けるもんか!」
思いを。
「負けてたまるか!」
この一撃に込める。
エイジの拳が、今までよりも眩しく輝きだす。
「流星暗裂弾!」
光る拳でもって、フラップシュートに突撃する。
両者の拳が激突。互いの威力がぶつかり合い、相殺されたかと思われた。
だが、エイジはもう止まらない。
「負けてたまるか!」
なんと、フラップシュートを打ち破り、そのままジュナスの顔面を殴り飛ばした。
勢いよく倒れたジュナスは、驚きをもってエイジを見上げた。まさか、ここまでの力を持っていたなんて予想外だったのだ。
「…見事だ」
一体化を解き、ゆっくりと起き上がるジュナス。
「君に足りなかったもの。それはここぞという時に放つ必殺技に、力と思いを込めること。もうわかっているね」
仲間の技を参考にしてきたエイジだが、そのため形ばかりを優先して技を磨いていってしまった。彼が戦いから遠ざかっていたこともあって、技の威力そのものを上げることをしなかったのだ。
「マインドは、使者の力である心を100%開放するものだ。しかし、いくら力を全開にしても、それを技に反映させなければ意味がない」 「だから力を、心を技へと結ぶことが俺には必要だった」
ジュナスは、微笑みでそれを肯定した。
「君の魂の資質は十分に輝いていた。どんな逆境でも屈せずに立ち向かっていくその心は使者として大いなる力だが、まっすぐにしか突き進まないのが難点だった」
曰く、それではただ力を放っているだけでしかない。ホースやバケツなどを用いず、水道から出る水を手でそのまま掬って放水しているようなものだと。
バカにされているような口ぶりに、何処となくエイジは面白くなかった。しかし、真剣な話なので何時ものように口は挟まない。
「だが、君が今放った必殺技はそれを乗り越えたものだ。君だけの力が加われば、始めは真似でもそれはいつか、君だけの必殺技へと進化していくだろう」
今はまだ完成とは言えない。だが、自分を打ち破った程の威力が出せるのだ。必ず最強の必殺技が出来るに違いない。
「それを見ることができないのは残念だが…」
そこでエイジは気付いた。
「あ、あんた足が…」
ジュナスの足が、消えかかっている。
いや、足だけではない。ジュナスの全身が透けてきている。このまま消えてしまうかのように。
どうなっているのかわからず焦っているエイジとは対照的に、ジュナスはすべてを悟っているかのようだ。
「こうなることは覚悟していた」
ジュナスが話をしている間にも彼の体はますます透けてきている。
「私にはもう、ここで戦えるだけの力しか残っていなかった。それが尽きれば、私自身の存在は消滅する」 「つまり、死ぬってことなのか?あんたは、自分がそうなるまでして俺たちと戦いたかっていうのかよ!」
詰問口調で問うエイジに対して、ジュナスは静かにうなずいた。
「スセリヒメと彼女に従う君たちを、確認しておきたかったからな」
先程見た当代のスセリヒメであるナギを思い返すジュナス。
純粋な目をしていた。まだ幼さが残り心も弱いが、内に秘めた情熱と優しさを感じた。
彼女を信じる者たちは、しっかりと支えになるに違いない。だから、彼女は大丈夫だし強くなれる、そう信じることができる。
「後のことは君たちに託す。頼んだぞ」 「ま、待て…!」
それを最後に、ジュナスは消滅してしまった。
後に残ったのは、ウェザリオンとそのリングのみ。
呆然と立ち尽くすエイジ。一体化も解け、名残を求めるような目でウェザリオンを見ている。
「どいつもこいつも、人に色んなモノ背負わせて…」
エイジは膝を着き、床を思い切り殴った。
「バカ野郎!」
ジュナスの影がある人物と重なってしまう。前代のスセリヒメである黒沢陽子と。
自分の命をかけて自分たちに後を託す。死を恐れず、辛さを表に出さずにただただ自分の務めを果たそうとする、そんな姿が。
本当は、自分たちだってもっと生きていたいだろうに…。
エイジの中で、やり場のない思いだけが行き場なく溢れていく。彼の瞳に涙がたまり、どこにぶつければいいのかわからない。
そんな彼に、声がかかった。
このまま止まったままでいいのか、と。
ハッとしてエイジは振り返る。その声は、ウェンドランのものであった。
「…そうだよな。俺は先に進まなきゃいけねえ」
涙をぬぐってエイジは立ち上がった。
思いを託された。それは自分を認めたということ。ならば自分はそれに応えなくてはいけない。
それが託された者の務めだと、エイジは教えられたのだから。
「まずは、皆に追いつかないとな」
翼の間を後にするエイジ。思いを受け取り、先へ進む。その姿に、もしかしてという思いをジュナスは抱いたのかもしれない。
これにて39話は終わりです 次回は来週更新予定です。
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