Re: 新世界への神話 4スレ目 2月9日更新 ( No.6 )
日時: 2020/02/16 21:36
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは
今週の分を更新します。


 3
「お、俺?」

 指された男、エイジは驚きのあまり自分を指差してしまう。なぜ自分が、と言わんばかりの様子だ。

 こいつ、自分じゃないと思い込んでいたのか…。

 あまりの呑気さに、全員内心で呆れてしまう。

「君だけが、他の皆と比べて足りないものがある」

 ジュナスだけが、冷静にエイジに語る。

「俺に、何が足りないっていうんだ!?」

 冷淡ともとれるような態度で自分に欠点があることを言うのだから、沸点の低いエイジは激しくなってしまう。

「俺だって、みんなと一緒にここまで戦ってきたんだ!それなりの実力はある!」
「本当に戦ってきたのか?」

 突然の問いに、エイジは虚を突かれた。

「あ、当たり前だ!」
「本当にそうか?」

 先程までの温かみとは一転して、氷のような冷たさをもった言葉をジュナスは投げかける。

 それが、エイジの心をえぐっていく。

「君は一緒に戦ったというが、ただついてきただけではないのか?」
「そ、それは…」

 エイジは言葉を噤んでしまう。ここまで来て、エイジはなにも活躍してないからだ。同じような氷狩、伝助、拓実は素質ありと言われたのに、自分だけは別。果たして、それで一緒に戦ってきたと言えるのだろうか。

 だが、それでも。

「俺がただついてきただけかどうか…」

 エイジは拳を握りなおす。

「もう一度この技をくらって思い知れ!流星暗裂弾!」

 ジュナスに向かって必殺技を放つ。自分だって何もしてこなかったわけじゃない。その証明として、拳に怒りを込める。

 だが、ジュナスはその拳をいとも容易く捌いた。

「なら、こいつだ!」

 エイジは武器の剣を取り出す。

「ブレードスラッシュ!」

 その剣で、ジュナスに斬りかかっていく。しかしこれも簡単に払われてしまう。しかも、特に警戒するわけでもなく、だ。

「こいつならどうだ!」

 今度は銃を持って構える。

「ファイブラスター!」

 銃弾がジュナスを襲うが、またも何事もないかのように防いでしまった。

 これらの攻撃を見てきて、ジュナスは落胆しきっていた。

「やはりな。これではダメだ」
「何がダメなんだ!?」

 エイジは益々訳が分からなくなってしまう。これだけの技を見せても覆せないものがあるなんて。焦りと怒りがエイジの中で最高潮に達してしまう。

「君の力は別に問題ではない。君の力、心は彼らの中で特に輝いている。ちゃんと育てていけば、黄金の使者に匹敵、いやそれ以上になるかもしれない」

 ならば、何がいけないというのか。

 それを今、ジュナスは突きつけた。

「足らないのは…君の技だ」
「技…?」

 技について、エイジは特に問題無いと思っていた。武器と組み合わせた多彩な技。これだけ多くの技を持っているのだから大丈夫なはずだ。

 しかしジュナスは、そんなエイジの考えを真っ向からぶち砕いた。

「君は必殺技と言っているが、到底必殺技と呼べるものではない。すべて他人の見よう見真似だ」
「み、見よう見真似…」

 その言葉は、エイジに大きな衝撃を与えた。これには彼にも、心当たりはあった。

「例えば先程のブレードスラッシュ。細かい所に差異はあるが、これはムーブランの炎龍斬りを意識した技になっている。

 それは事実であった。エイジにとって一番インパクトのある必殺技が、兄である佳幸の炎龍斬りだ。あの技のような威力を出したいと思っているエイジは、自然と炎龍斬りに似た形の技を編み出してしまっていたのだ。

 ブレードスラッシュだけではない。ファイブラスターや他の技も、仲間である八闘士たちのものを見て、その模倣からはじまったものだ。模倣だけで、自分自身の技と呼べるレベルにはまだ達していない。

 つまりエイジは、自分だけのオリジナルである必殺技を持っていないのだ。

「他人の真似技しか持っていないのなら、この先の戦いでは通用しない。そもそも君がいなくても事は足りる」

 これもある意味では正しかった。仲間の技がすべて使えるというのは器用だが、役に立つとは限らない。オリジナルの使い手である仲間の方が、より有効にその技を使えるからだ。

 仲間がいればエイジは必要ない。そのようなことを宣告されては、エイジもショックを受けてしまう。

 ただついてきただけというジュナスの話も、これでは頷けてしまう。

 だが、エイジはまだ納得していなかった。

「この技だけは、誰の真似でもないぜ!」

 三度、流星暗裂弾を放つ。

 同時に百発以上の拳を繰り出す。仲間の技を参考にしたのではない。自分で編み出した技。自身のもっとも自信ある必殺技である。

「確かに、これは君だけの技といえるな。だが…」

 ジュナスはその百発以上の拳を全てかわしきった。

「技の練度は、まだまだだな」

 流星暗裂弾も、通用しなかった。

 これでエイジの持つ技は、全て無くなってしまった。

 彼はもう、攻めることができなくなったのだ。

「今度こそ、打つ手なしということが実感できたかな」

 しかし、エイジはまだ戦意を失ってはいなかった。

「あきらめないぞ…必殺技が無くったって、戦える限り戦い続けてやる!」

 そのまま、ジュナスに向かって殴りかかるが。

「甘い!」

 ジュナスによって、カウンターの一撃を受けてしまう。

「そんな実力で、この私と戦えると思ったのか」

 ジュナスはエイジを完全に寄せ付けないでいる。正攻法で戦っても彼には勝てない。それでも、負けん気の根性でエイジは立ち続ける。

 しかし、この状況を逆転できる具体的な策はエイジの頭には浮かんでこなかった。今までどんな強敵も跳ね除けてきた必殺技もジュナスにすべて破られてしまった以上、エイジはどうすればいいかわからなかった。

「どうすればいい…?」

 その心音が、思わず言葉として零してしまう。

「新しい必殺技を作るんだ!」

 そんなエイジに、佳幸がアドバイスを送った。

「おまえだけの新しい必殺技を、今ここで!」
「そ、そんなこと急に言われても…。それに、新しい必殺技なんてどう作ったらいいかわからねえよ…」
「そんなの、誰かに教わるもんじゃないだろ!」

 達朗も発破をかける。

「自分のオリジナルなんだから、自分自身で編み出さなきゃ意味がないだろ!」
「け、けどよ…」

 この窮地に、誰の助力も借りずに自分だけで突破しなければならない。追い込まれてしまったエイジは弱腰となってしまう。

 必殺技を作れと言っても、そう簡単ではない。しかも、実戦でいきなりだ。

 どうしたらいいかもわからない。誰も教えてくれない。

 エイジは完全に行き詰ってしまう。今の彼からは普段の威勢の良さは完全に消えてしまっていた。

「というか、別に私たちはあいつを待たなくてもいいのではないか?」

 ナギは、ハヤテたちはジュナスの課題をクリアした事を思い出した。

「ここはあいつに任せて、私たちは次の間を目指そうではないか」
「ちょ、ちょっと待てよ!俺はそんなのゴメンだぜ!」

 ここまで来て置いてけぼりにされるのは勘弁してほしい。エイジはナギを睨むが、等のナギは涼しい顔のままだ。

「おまえのために、ここで足止めされても困るからな」
「名案だな」

 ジュナスが口を挟んできた。エイジに対する挑発のつもりだろう。

 味方からも敵からも言われ、一層意地になるのが岩本エイジという男だ。

「冗談じゃねえ!ここで置き去りにされてたまるか!」
「だが、今の君では無理だ」

 ジュナスがここで構えに入る。

 彼から伝わる気迫から、本気であることがわかった。ついにジュナスが攻めに転じてきたのだ。

「君に、真の必殺技がどういうものなのか見せてやろう」

 ジュナスの背にある翼が舞い、周囲で風が切る。

「フラップシュート!」

 エイジに向けて、必殺の拳が放たれた。

 咄嗟に盾で防ごうとしたエイジだったが、強風で盾が飛ばされ、無防備で相手の必殺技を受けてしまう。

 翼によって起こった風にエイジの体が宙に舞い、そこにジュナスの拳が叩き込まれた。

 フラップシュートを受けたエイジは、その威力によって意識を飛ばしてしまうのであった。




今回はここまでです。
続きは来週更新します