Re: 新世界への神話 4スレ目 1月18日更新 ( No.3 ) |
- 日時: 2020/01/25 21:28
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
3 「まだよ!まだ私は戦える!」
負けず嫌いな性格から毅然として立ち上がる。しかし、内心では自棄に近いものが渦巻いていた。
必殺技も効かない今、打つ手がない。どうしたらよいのか。
気持ちが後ろ向きになってしまい、一歩後退してしまう。
それをユラは見抜いていた。
「威勢は良くても、叶わないことは察しているようだな」
剣先をヒナギクに向ける。
「最後はやはり、私の剣で決まるのだな」
やられる。
直感したヒナギクは逃げたかったが、逃げることができない。逃げても避けられない。
「終わりだ!」
ユラがヒナギクに向けて、剣を振るった。
斬られた。
その実感はあった。
しかし、思ったほどの痛みはなかった。
見てみると、つけられた傷は浅かった。ユラの必殺技のタイミングは完璧だった。必ずやられていたはずだ。
「くっ…」
ユラが口惜しげに毒づいた。
ユラの持つ剣に視線を移すと、なんと剣の先端が欠けているではないか。
「もしかして、最初から…?」
ヒナギクは意図していなかったことだが、最初の打ち合いでユラの剣は強度が落ちていた。そこへ、凍気によって更に脆くなり、ブレイテッドレイザーに耐えられなくなったのだろう。
「剣一本で決着が左右されるとはな」 「剣一本…」
剣一本という言葉がヒナギクに響いた。
先程まで、自分はユラに勝てないと落ち込んでいた。実際、ヒナギクとユラの実力は覆せるものではない。
だが、たかが一本の剣によってユラの必殺技は防がれたのだ。
負けず嫌いな性格の為、ヒナギクはいつの間にか勝つことに熱中していた。相手を倒して、勝利を得ることにこだわり過ぎていた。
その結果、ユラの実力の前に膝をつきそうになった。
だから、考え直さなきゃいけない。
今の自分の実力では、ユラに一太刀浴びせるのが精一杯だ。しかし、その一太刀が勝利へと必ず至るのだ。
「一振りでも…あの人に当てなきゃ!」
少しでも勝利へと進もうとするヒナギク。
その原動力となる勇気の力が、彼女のマインドを覚醒させた。
「開き直ったか?」
マインド覚醒を見て、ユラはそう感じていた。
いずれにしても、必殺技はもう通用しない。例え剣が直っても見切られている上では同じだ。
だから、ヒナギクが見切れないスピードで剣を振るった。
ところが、ヒナギクはその剣を紙一重でかわした。
マインドが覚醒しただけではない。ヒナギクは今集中している。
ユラがそう気づいた通り、ヒナギクはユラの持つ剣のみに注意していた。ユラの攻撃は主に剣によるものだ。だから剣のみ気をつけていれば、多少の傷は負うことはあっても、決定的な一撃をかわすことはできる。
一振りに集中。それは防御だけではない。
自分は人たちが精一杯。ならば、その一太刀に自らの力を全て込めればいい。
「乱撃のように何回も繰り返すんじゃなくて、一振りに集中すれば…」
ヒナギクは剣を構え直す。それと同時に、彼女の背後に戦乙女のオーラが浮かび出てきた。
そして彼女は、剣に力を、勇気を込めた。
「氷華一閃!」
ヒナギクが白桜を、ユラに向けて振るった。
「そんな技にかかるか…」
振るうスピードは自分より速くない。いくらパワーがあっても、当たらなければいいだけだ。
ユラは余裕をもってかわそうとしたが。
「…なに!?」
気づいたら、ユラの身体はまたも凍りついていた。力任せに動こうとするが、全く動けない。
そのまま、必殺技を喰らったユラはそのまま吹っ飛ばされてしまった。
「な、なんだ今の技は?」
ヒナギクの新必殺技を目の当たりにしたが、疑問も生じていた。
「ユラはいつ凍結させられたんだ?」
エイジにはわからなかった。ヒナギクからはユラを凍結させようというそぶりは全く見えなかった。
「恐らく、剣を振るった時だろう」
氷狩は冷静に分析していた。
「氷華一閃は塁さんのサンダーボルトナックルと同じ、まず凍気、次に斬撃という技を連続で放つんだ」
つまり、剣を振るったと同時に凍気が相手に襲いかかり、凍ったところで必殺技の威力を叩きこむのだ。
「狙ってやったわけじゃないわ」
ヒナギクは言う。
「私は剣に自分の力を込めていた。けど、剣はその力をすべて受け入れきれず外へ漏れてしまった。それがヴァルキリオンの力によって凍気に変わって、必殺技と一緒に放たれたのよ」
ユラが先に凍ったのは、凍気の方が速かったからだろう。
「俺も似たような技を持っているが、それを会得するのに結構努力したんだぞ…」
それをこの短期間、しかも戦闘中に習得するとは。
塁は悔しそうに、そして感心したように零した。
「やっぱり、ヒナギクさんはすごいですね」 「ああ、全く同意だな」
ハヤテとナギはヒナギクを称賛する。
「けどまあ、白桜でも受け切れないなんて、どれだけの力を持っているのかしら?」
一方で、花南はいつものように嘲笑的な態度を見せる。これに対して、ヒナギクは食ってかかる。
「何が言いたいのかしら?」 「いえ、ヒナギクって本当に力任せの戦いがお似合いだなって思ったのよ」 「私が脳筋って言いたいのかしら!?」
怒りが湧き立ってくるヒナギク。そんな彼女に花南は最後に一言。
「私が言ったとおり、無心で戦ってその技を得た。そのことは、誇りなさい」 「…一応、礼を言っておくわ」
賛辞と感謝。そんな雰囲気ではないが、互いの心中は伝わっている。
…そのはずだと、仲間たちは一応思うのであった。
「感動はその辺にしておこう。戦いはまだ終わっていない」
氷狩の指摘に、全員意識を戦闘に戻す。
「氷狩君、冷静だね」
佳幸は敬意をこめて呟く。
ヒナギクが戦闘に注意し直すと同時に、倒れていたユラが起き上がった。
戦闘が再開されるのか?
だが、ユラは何か思考にふけているようだ。
「まさか、また悩みこんでいるんじゃないか…?」
達郎はそう思ったが、それに反してユラはヒナギクに向き直った。
「やはり、あいつみたいだな…」 「あいつ?」
いったい誰なのか。ヒナギクにはわからなかったが、ユラは話を続ける。
「あいつは八闘士と同じ時期に私の弟子となった。それまで半ば荒んでいたあいつの心は安らぎと共に強くなっていった。だが…」
ユラはそこで暗い顔となる。
「私のもう一人の弟子…あいつにとって兄弟子になるものが任務中に行方不明になってしまった。そして、その任務には当のあいつもいた」
それを聞き、八闘士は何か思い当たった。
「ショックを受けたあいつに対して、私は何もしてやれなかった。あいつは私を許してくれたが、それでも私は何もできなかった私を許せなかったんだ」 「もしかして、あなたの弟子って…」
佳幸たちの問いには答えず、ユラは悲しそうに俯いてしまった。
「私は無力だ。こんな自分が霊神宮の腐敗を正すことが出来るのか。弟子たちにとって尊敬される黄金の使者であるように霊神宮に従順すべきか、悩んでいたんだ…」
自身の力不足を痛感し、足を止めてしまった。ユラは自分で想うほど至っていないわけではないが、それでも弟子たちに何もできなかったのは無念だったのだろう。
ユラの弟子を思う心が、はっきりと伝わった。
「だが、おまえたちは一歩踏み出した。私より弱くても、現状を打破するために前へと進もうとした」
そこでユラは一体化を解き、端へと身を寄せた。
「その勇気を信じて、先へ進むがいい」 「い、いいんですか?」
ユラは笑みを持って答えた。
「そこの娘、ヒナギクといったか?見事に私の悩みをたち切ったのだ」 「えっ?それは一体…?」 「さあ行け!」
ユラに促され、ヒナギクは前へと進みだす。他の皆も彼女を追う。
刃の間に残ったのは、ユラだけとなった。
「そう、悩みはたち切られ、決心ができた」
誰もいなくなった間でユラは呟く。
「私がこれからしなければならないのは、新たなる使者たちの支えになること。しかし、彼らがそれに値するかどうかは…」
ユラはハヤテたちが去った方向を見つめる。
「これから先に待ち受けている、真の試練で明らかになる」
その言葉の裏には、彼らなら大丈夫。そういう思いが込められていたようであった。
第38話はここまでです。
次回、第39話 来週更新予定です
|
|