Re: 新世界への神話 4スレ目 7月5日更新 ( No.27 ) |
- 日時: 2020/07/12 21:44
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今日でこの小説も第一部終了です。
ここまで来るのに長かった…
それでは、どうぞ。
5 ウィンガードを駆るダイは、着実に艶麗を追い詰めていた。
相手の攻撃をかわし、その動きを封じるように牽制しながら反撃を加えていく。完全にダイがペースを掴んでいた。既に一度戦っているため、その動きが読めているのだろう。
逆に焦りを見せているのは艶麗であった。打つ手がことごとく破られ、引き連れた無人気も予想外の来訪者たちによって壊滅状態にまで陥ってしまっている。もはや彼女の配色は見て明らかだった。
「おのれ…おのれおのれ!」
悔しそうに声を荒げる艶麗。しかしどんなに苛立っても彼女にはもうどうすることはできない。
ならば、やることはひとつしかない。
「妖尾九連打!」
艶麗は九つに分かれた鞭を振るって、相手を打ち倒す必殺技を繰り出した。この鞭の軌道を読むことも、またかわすこともダイには容易であった。
だがダイは油断していた。艶麗の狙いまでは読めていなかったのだ。
鞭を全てかわしたウィンガードは、艶麗に肉薄しようとするが、機体に何かが絡まり、うまく動かない。
ウィンガードは、艶麗の鞭に絡めとられていたのだ。そのため、一瞬ウィンガードの動きが止まってしまった。その隙を、艶麗は逃さなかった。
「覚えてろ!この恨みはいつか必ず晴らしてみせよう!」
艶麗は全速力でこの場から離れだす。どうあってもダイには勝てないのなら逃げるしかない。
「待て!」
鞭を振りほどいて、ウィンガードは艶麗を追う。だが一瞬とはいえ動きを止めてしまったことは痛く、高機動を誇るウィンガードでも追いつくことは難しい。
それでも彼女を逃がしてはならない。彼女を蘇らせたのは誰なのか調べなくてはならない。何より、いきなり襲ってきて雰囲気をぶち壊したのだ。彼女をぶちのめさなければ気がすまない。
そんな思いが通じたのか。いや、そういうわけではないのだろうが、艶麗の対面から大型の戦闘機が高速で飛来してきた。このままお互いまっすぐに飛んでいけば正面衝突しかねない。危機を感じた艶麗は急停止し、あわてて戦闘機をよける。
「なんだ?」
ダイも戦闘機の存在に気づき、ウィンガードを横へと移動させる。
戦闘機はそのまま通り過ぎていったかと思ったら、急に引き返して来たり、ジグザグに飛んだり、ダイたちの周囲を縦横無尽に取り囲むように飛んでいた。そのため艶麗は逃げることができず、ダイはダイで戦闘機の方へ気をとられてしまった。
「あれは、一体…?」
その時、ウィンガードのコンピュータがあの戦闘機の機種特定を自動で行っていた。それが終わり、はじき出された結果を見たダイは目を丸くした。
「ウィンガードの、支援戦闘機…?」
そんなものが存在していたなんて知らなかった。だが、それが何故今この場で飛び回っているのだ。
色々と驚くことが多いが、まずはあの戦闘機とコンタクトをとってみるべきだ。見たところ、艶麗の差し金ではないようだし、味方になってくれるかもしれない。
向こうと通信がつながったが、こちらが呼びかける前にスピーカーから声が聞こえてきた。
[なんだこれ!?どうして動いているんだ!?]
その声の主は、意外な人物だった。
「春風か?」
あの戦闘機には千桜が乗っているのか。
「なんであいつが。とにかく、あの戦闘機を止めないと」
そもそも千桜は戦闘機の操縦なんてしたことはないはずだ。それに、通信機から聞こえる声音からして、相当パニックになっているようだ。誤って危険な操作でもしたら、戦闘機も千桜も、木っ端微塵となってしまう。何としても防がなければ。
再び戦闘機がこちらに向かって飛んできた。これは好機だ。
ウィンガードは通り過ぎようとする戦闘機にしがみついた。戦闘機は自分より大型のウィンガードにしがみつかれたままでも飛んでいく推力を出し、ダイを驚かせたが、ウィンガードは負けずと損壊しない程度に戦闘機を強く叩いた。
[うわっ、なんだ?] 「落ち着け春風!ダイ・タカスギだ!」 [えっ、高杉君…?]
コクピットにまで伝わった衝撃と、ダイの呼びかけによって、千桜はようやく落ち着いたようだ。
「大丈夫か?」 [う、うん] 「どうしてそんな戦闘機に乗っているんだ?」
まだ不安があるようだが、千桜はそれでも答えてくれた。
戦闘が遠く離れていた千桜たちにまで危険が及びそうになったこと。千桜たちはそれぞれ避難したが、彼女は知らずにその戦闘機のコクピットに乗り込んでしまったこと。
[私、何かスイッチとか押したみたいで、こいつが勝手に飛んで行ってしまったんだ]
ダイは少し考える。ウィンガードの兄弟機はいくつか存在するが、操縦システムはすべて共通するよう統一されている。この戦闘機もウィンガードの支援機であるなら、それに違わないだろう。
「春風、操縦桿の近くにいくつかボタンがあるだろ。青いやつを押すんだ」 [う、うん。うわっ、なんかコンソールみたいなものが出てきた] 「大丈夫だ。そのコンソールを俺が言うように操作するんだ」
操作自体は簡単だが、状況が状況なのでダイはひとつひとつ丁寧に説明していく。
「最後に、一番奥にあるスイッチを切り替えるんだ」 [こうか…うわっ!]
それまで飛び回っていた戦闘機がスピードを落とし、ウィンガードと共にその場で滞空する。
「よし、これで完全自動操縦(フルオート)は解除できた。春風、今のこいつはおまえが念じればその通りに動いてくれるぞ」
恐らくこの戦闘機にはあらかじめ何らかのプログラムが仕込まれていたのだろう。また、フルオートモードになっていたので起動し、パイロットを検知すれば自動で運転するようになっていたのだ。
だが今は自動は自動でも、千桜の思念によってある程度コントロールできるようになっている。これで少なくとも間違って自爆なんて真似は起こらないはずだ。
「茶番は終わりか?」
そこへ、艶麗が目前まで迫っていた。今までそちらの方には気を向いていなかったので、ダイは完全に虚を突かれてしまった。
「あの方が念じていた…逃げることは許さんと…。私は、ここで戦うしかないのだ!」
よくはわからんが、艶麗は誰かに脅されたみたいだ。なんにせよ、彼女にとっては絶好の機会。今ならダイを討つことができるかもしれない。
ダイはかわすことができない。せめて千桜だけでも守ろうとウィンガードが身構える。
[き、来た!]
一方の千桜は、間近にまで来た敵に恐怖を感じたようだ。それに反応したのか、戦闘機に装備された二門の砲塔から艶麗に向けてビームが発射された。
推力だけではなく、小型にしては高い出力と威力。そして至近距離からの砲撃を受けた艶麗はのけ反ってしまう。
「な、なんて威力だ…!」 「そうだな、俺も驚いた」
艶麗はその瞬間、背筋に悪寒が走った。
一瞬。戦闘機が艶麗に攻撃してから今に至るまでの時間は、一瞬と言ってもよいだろう。
その一瞬で、ウィンガードは艶麗の背後についていたのだ。両手に剣を持ち、今にも斬りかからん様子で。
ウィンガード越しに伝わるダイのプレッシャーが、艶麗には恐ろしく感じた。
まるで、狼に牙を立てられたような錯覚までした。
艶麗が振り向こうとした時には、ウィンガードはすれ違いざまに剣で彼女を切り裂いた。
刃は確実に艶麗を捉えていた。傷は深手である。
「こ、こんなところでやられるのか…。デボネア様に復活してもらえたというのに…」 「デボネア?そいつ黒幕か」
それ以上の情報は聞き出せないだろう。というより、それ以外の情報を艶麗は持っていないに違いない。彼女はただ恨みを晴らすためだけが目的なのだから。
「所詮、我はいいように使われる人形でしかないということなのか…」 「そうかもな」
ウィンガードは、艶麗の対面についていた。
「だがこの霊神宮の奴らは、おまえを見て何かしら省みるだろう。自らの過ちや弱さを受け入れ、認めることができる。そして人形の貴様と違って、恐れも恨みも超えていく」
そして、剣先を彼女に向ける。
「その心を、人は勇気と言うらしい」 「…貴様、一体何者だ」
艶麗には、ダイが人でない何かのように感じたのだろう。だからこんな言葉が出てきたのだ。
ダイは思わず笑みをこぼした。艶麗の言葉がおかしかったからではない。そういった言葉は以前から何度も聞かされたからだ。
事実、自分はちゃんとした人間ではない。
だからダイは、お決まりのようにこう返した。
「悪いが、おまえに名乗るほどの名は持っていないんでね」
その言葉と共に、ウィンガードは剣を一閃。艶麗を斬り捨てた。
「恨みも哀しみも終わりだ、人形」
そして、艶麗は爆散した。霊神宮の負の象徴だった傀儡兵は、これで全て無くなった。
ダイの言うとおり、霊神宮にまつわる哀しみは、これで終わったのだった。
離れたところでも、デスティニーインパルスがストライクノワールを長剣で斬り落とし、撃墜させていた。他の無人機も、皆片付いている。
霊神宮の戦いは、今度こそ終わったのだ。
「マサキ!しっかりしてください!」
ナギをかばい重傷を負ったマサキのもとに、みんな集まって何とか手当を行っている。
しかし、マサキの顔色が良くならない。
「よせ…助からないことは私にもわかる…」
マサキの言葉通りということは見ればわかる。彼の傷口からはおびただしい量の血が流れており、誰が見てももう駄目だと判断するだろう。
「だが!」
そんな現実に、どうしても受け入れたくないというのが全員一致の思いであった。
ナギもまた、目に涙を浮かべていた。
「…優しいな」 「おまえは悪いやつではないからだ!」
ナギの言葉を聞き、マサキは微笑んだ。
それは、十分に後を託せることへの安心感のように思えた。
「…私に悪を吹き込んだ者は、陰鬱の使者たちとは違う。それ自体が闇であり、精霊界だけでなくすべての世界の破壊と消滅を望んでいる」
全ての世界を破壊し、消滅する。
その言葉を口にした者を、ハヤテは知っていた。光も何か、思うところがあるというような表情をしていた。
「奴には…デボネアには情けはいらない。絶対に倒すんだ」 「デボネア!」
予想通りの名前が出てきて、ハヤテと光は揃えて口に出す。二人は顔を見合わせるが、今はマサキの方が気がかりだ。
マサキはナギの方へ顔を向ける。そこに悪意はもうなく、あるのは謝罪の意思だ。
「私のしてきたことは、許されることではない。すまな…」 「許すさ!さっきも言ったが、おまえは悪い奴じゃない!おまえの気持ちはわかる!」
ナギが強い口調でそうきっぱりと言ったので、マサキは心が救われただろう。彼の表情を見ればわかる。憑き物がとれたような、安らかな表情だ。
「ありがとう…」
それを最後に、マサキは事切れた。彼の死を悼むように、沈黙がその場を支配するのだった。
「デボネア、か」
少し落ち着いたところで、ウィンガードから降りてきたダイと合流して話をする。内容は、デボネアについて、だ。
「艶麗は自分を蘇らせたのはデボネアだと言っていた。おそらく同一人物とみていいだろう」 「デボネア自身は、マサキを始末してもらうのに都合がよかったからあいつを利用したんだな」
始末の目的は口封じだろう。名前程度なら知られても構わないが、それ以外のことは知られたくないのだろう。
「デボネアは、セフィーロにも現れて、他の国も一緒に滅ぼすと告げてきたわ」 「けど、夢の中にまで出てきたというのは、光さんだけですわ」
海と風は、怪訝そうに光を見やる。光自身も困惑しながらそのことを話す。
「影がかかって姿ははっきりと見えなかったけど、デボネアは夢の中でも同じことを言っていた。あと、女の子が一人いた」 「女の子?」 「顔はわからないけど、時々その子だけの白昼夢を見てしまうんだ」
ハヤテとヒナギクは、その少女に心当たりがあった。
「その女の子は、ノヴァですね」 「ノヴァ?」
ハヤテは、ノヴァとデボネアと初めて出会った時のことを話した。
「その女の子、ノヴァは獅堂さんと同じ容姿をして、同じ魔法を使うんです」 「だからあなたたちは、私のことをノヴァと間違えたのか」
夢の中で会っただけでなく、これだけ自分との共通項が多いと何か運命のようなものを感じてしまう。
だから光は不安を抱いていた。ノヴァは自分が好きなものはみんな嫌いで、すべて殺すとまで言っていた。本当に運命だとしたら、海も、風も、セフィーロの人々も、みんなノヴァに襲われてしまう。
「大丈夫よ光。私たちはそう簡単に殺されたりしないわよ」 「私たちも狙われているのですから、光さんだけで悩むことはありませんわ」
光の不安を察したのか、海も風も彼女を元気づけようとする。
「…ありがとう」
そうだ。自分はこの親友たちと一緒にいる。喜びや悲しみを共有でき、今まで共に戦ってきた親友が。
自分たちは互いを信じている。その心だけは、見失わないようにしよう。
「話の続きは、ここじゃなくてセフィーロでやるべきだな」
ダイが神妙な面持ちで語るので、皆静かになって聞いている。
「最終的には全ての世界を消滅させる気なんだろうが、デボネアはまず最初にセフィーロを狙うに違いない。セフィーロの人々にも事情を説明して、なんとか協力関係を結んで奴を迎え撃つべきだ」 「そうだね。ダイの言うとおりだ」
そう言って、こちらに近づいてくる人影が二つ。
一人は赤毛の少年。ナギと同年代に見え、服装は高貴な印象を与えている。もう一人は銀髪の少女で、妖精と錯覚してしまうほどの美しさを持っていた。軍服をきちんと着ていることから、まじめな人だということがわかる。
「アトレー、ルリ」 「異変は私たちの世界でも起きています。世界の垣根を超えているなら、こちらも世界を超えて手を結ぶのが得策でしょう」 「あんたら、もしかしてあの戦艦に乗っていた人間か?」
エイジが疑問を投げかけたのを見て、二人は自己紹介を始めた。
「僕はアトレー・アーカディア。アーカディア王国の王です」 「はじめまして。ガーディアンフォース所属、ナデシコC艦長ホシノ・ルリです」
アーカディア王国にガーディアンフォース。わからない言葉もあるが、王様と艦長という、身分が高いことは理解できた。それがまだ十代の少年少女のことに、ただ感心してしまう。
そんな彼らをよそにして、ダイは冷静に質問する。
「二人が来たってことは、向こうの世界は深刻なんだな」 「ええ。時空の歪みが頻繁に生じて、人々は混乱しています。この状況の中、ガーディアンフォースに原因究明と事態収束のために動くように命じられました」 「別の世界に行くのに時空転送装置が使えるかどうかわからなかったけど、うまくいってよかったよ」
なるほどと頷いていたダイだが、ふと気づいた。
「なんで原因が別の世界にあると睨んだんだ?そもそもこの世界のことも、俺やジェットたちがここにいることも何で知っているんだ?」
ダイには嫌な予感しかしなかった。
「誰かから聞いたな?と言ってもミサキがいる時点で想像つくけどな」
アトレーもルリも、黙ったまま返事もしない。ダイにはそれが肯定を示しているように見えた。
「とにかく、そのことも含めてセフィーロで話そう。ここは今までの戦いでそれどころではないからな」
ナギがそう言って話を締めようとする。ダイは納得がいかなかったが、その通りなので何も言わず従うことにする。
「私はハヤテたちと共にセフィーロに行く。霊神宮のことはおまえたちに任せるぞ」 「あなたはここに残って霊神宮の立て直しを行ってもらいたいのですが、この状況ではそれは後回しですね」
エーリッヒたちは、ナギの命令を承認した。
ふと、ナギは上空を見上げた。何か思いをはせるようだ。
「普通の生活に戻りたいか?」
そんな彼女にエイジが声をかけた。その顔は真剣そのものだ。
ここでうんと頷いても、エイジはナギを責める気はなかった。誰だって必ずそう思うものだと知っているからだ。
だがナギの反応はそれとは違った。
「いや、ただ面倒くさいなぁって…」
その答えに、エイジはただ呆気にとられていた。そして、思わず笑ってしまった。
「なにがおかしい」 「いや、逃げようと思わなかっただけマシだなって」
口を尖らせるナギを、エイジは何とかなだめようとする。それが尚更、ナギには面白くなかった。
「誰が逃げたりするもんか。自分で決めたことなんだからな」 「そうだな」
エイジもまた、今日の戦いで同じことを思っていた。
「俺も逃げないって決めた。自分のために逃げたくない。そして、強くなりたいって」
ナギとエイジ。同じ思いを共有することに以前までなら不服しかなかったが、この戦いを通じてそれぐらいなら悪くないという気持ちに変わっていた。
「お嬢様」
そこへ、ハヤテが近づいてきた。
「ハヤテ」 「お嬢様が戦おうというのなら、僕も共に戦います。それが僕の決意ですから」
それは、ここにいるほかの精霊の使者たちも全員同じであろう。
「そうだな。私は弱い。そんな私でも戦うことを決めたから、おまえたちがいてくれるのだな」
ナギは、この場にいる使者たちに感動していた。
「これからも頼むぞ、ハヤテ。そして岩本エイジ」
エイジは何を言われたのかわからず目を丸くしたが、すぐに含みのある笑みを浮かべて返した。
「よろしくな、三千院ナギ」
どこか似ているが、互いにいがみ合っていた二人は、この戦いで少しだけ相手を認めるのであった。
三つの世界のどこかにある、常に闇で覆われた場所。
「愚かなる者どもよ。三つの世界が力を合わせたところでこの私には勝てん」
そこに、デボネアはいた。ノヴァも一緒だった。
「ヒカル、もうすぐ会えるね。ヒカルも、ヒカルが好きなものも、みんな殺してあげるから」 「すべては、消滅する運命なのだ」
闇の中で、デボネアとノヴァの笑い声が響いていく。
誰もが初めての、新世界の戦いが陽焼き始まるのであった。
第一部、完
はい、これにてこの小説は一区切りをつけさせます。 長らく読んでくれた皆さん、ありがとうございます。
近日中にあとがき等を載せる予定です。
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