Re: 新世界への神話 4スレ目 6月7日更新 ( No.23 )
日時: 2020/06/14 21:32
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは。
この小説も一つの区切りが近くなってきました。
今週の分を更新します。



 第46話 復活

 1
 どれだけ走っただろうか。

 息も切れ切れで、走るというよりも、歩く速度になりつつあるが、それでもナギは走るのをやめなかった。

 実際は大した距離ではないのだが、体力のないナギにとっては地獄のようであった。

 だが今、その思いも終わる。そして、霊神宮での戦いも。

「ここが…龍鳳の間?」

 その一室には、中央に祭壇があった。暗い部屋にそこだけ光が当てられているその光景は、神々しさを感じる。少し奥の方に、石像となったダイもいる。

 何よりナギが注目したのは、祭壇に祭られていた一つのリングだった。

「あれが、龍鳳のリングか」

 間違いない。主だからわかるが、龍鳳も反応している。

 あれを自分が手にすれば、この戦いが終わるのだ。




 数刻呻いた後、マサキは気を取り戻した。

 上体を起こして、自分の前方にハヤテ、佳幸、エイジ、雷矢の四人がうつ伏せになっているのを確認する。

 そうだ。自分は彼らの必殺技を受けて吹っ飛ばされたのだ…。

 四人は一体化が解かれ意識を失っているようだ。あの技を放ったことで、力尽きて倒れてしまったようだ。

 自分は、どれくらいの時間気を失っていたのか。

 そこに気づいた時、マサキは焦燥しだした。

「三千院ナギは!?」

 急いで立ち上がり、龍鳳の間へと駆け出した。

 すでにナギは龍鳳の間にたどり着いているかもしれない。それでも、自分は龍鳳の間へ行かなければならない。時代のスセリヒメの待つあの間へ。

 走りながら、マサキは自分の思考に異変を感じていた。

 何故、自分は三千院ナギを止めなければならないと考えていないのか。自分はナギをスセリヒメにさせないはずだった。彼女が龍鳳のリングを手にしてスセリヒメとなったとしても、力づくでもその座から降ろせばいいはずだ。なのに何故そこまでの考えに至らないのか。自分が龍鳳の間へ行くことにしか胸中にないとしても、負けを受け入れようとしている自分に疑問を抱いてしまう。

 自分は心から霊神宮の改革を望んでいたのではないのか。スセリヒメのいない霊神宮を目指していたのではなかったのか。その思いは、こんな敗色濃厚な状況になったとしても決して薄れるはずはなかったはずだ。

 それとも、これは自分の本意ではないということなのか。

 あの戦いの中で佳幸が言いかけていたが、自分は誰かに踊らされているのだろうか。

 そう、あの女に…。

「ええぇぃっ!とにかく先へ急がなければ!」

 そう。今はただそれだけだ。そこに答えがあるのだから。

 迷いを振り切ったマサキは、龍鳳の間へと着いていた。そこでは、ナギが今にも龍鳳のリングを手にしようとしていた。

「やめろぉっ!」

 そうはさせまいと、マサキはナギへと飛びかかる勢いで手を伸ばしていく。

 ナギがリングを手にするのか。マサキがそれを阻止するのか。

 それが決まるまで、一瞬。その一瞬が、永遠のように感じていた。

 そんな長くて短い時間の後、ある指が何かに触れた。

「な、なんだ?」

 勝利を掴んだその者は、突然のことに驚いた。

「こ、これは…!」

 龍鳳の間が、光によって明るく照らし出された。

 それによってはっきり見える。ナギが手にした龍鳳のリングがひとりでに彼女の腕に装着されるところを。

 虹色の輝きの中、龍鳳がまるで祝福するかのように、ナギの周囲で舞っている。

 その光景は、マサキを絶句させるには十分すぎた。

 ナギはたった今、真のスセリヒメとなったのだ。



 エーリッヒたち黄金の使者たちは皆、明智天師を目前にして集っていた。

「揃いましたね」

 皆と言っても全員ではない。ミーク、ジュナスはすでに亡くなり、ラナロウ、タイハ、リツの三人は戦闘による深手で動くことができない。集ったのは半数ほどでしかなかった。

「皆も感じたのでしょう。龍鳳の輝きと共に力が解放されたのを」

 聞くまでもない。全員それでここまで来たのだから。

「あの三千院ナギという少女が、やはりスセリヒメとなったか」
「見事だな。あの少女も、彼女を信じて戦ってきた使者たちも」

 誰もがナギは途中でリタイアするものだと思っていた。ハヤテたちも、自分たちを乗り越えることなどできないと。

 その予想は覆り、ナギは新たなスセリヒメとなった。

 だが特に、驚きやショックはなかった。むしろ、彼らと手合わせした者として、当然のことだと感じていた。心のどこかで、こうなることを期待していたのかもしれない。

 しかし自分たちはマサキに忠誠を誓ったのだ。それを裏切るわけにはいかないし、そうはしたくないとも思っていた。マサキはそれだけの人物なのだ。

 だからこそ、わからないのだ。

「エーリッヒ、おまえはわかっているのではないか?明智天師、いやマサキのことについて」

 ロクウェルの問いに、全員がエーリッヒの方を向く。

「おまえもジュナスも、マサキの兄である賢明大聖の命令で動いていた。そしておまえは見定めるものだ。自分で見抜いたか、賢明大聖から聞いたか知らんがおまえは真実を知っているのではないか?」

 エーリッヒはロクウェルを見た。彼女の目は、真実を求めたいという意志が強く表れていた。他の皆も同様だった。

「ならば話そう。最も、まだ私にもわからない部分はあるが」

 ナギがスセリヒメとなり、戦いに決着がついた今だからこそ話すべきだと判断したのだろう。エーリッヒは今まで隠してきたマサキについて、その思い口を開いた。

「結論からいうと、マサキは利用されているのだ。ある者に悪意を植え付けられたうえで」

 マサキが利用されている。

 それを聞き、ロクウェルたち他の黄金の使者たちは驚く。厳格で高潔な強い精神を持つマサキが、何者かに悪意を植え付けられたなんて考えられない。

 信じられないという意思を目で訴えかけるが、エーリッヒはそれを否定する。

「この戦いを通じてそれは確信に至りました。五年前から抱いていた疑惑が正しかったのだと」
「と言ってもよ、俺はマサキとそれなりに接する機会が多かったけど、そんな悪意など微塵も感じなかったぞ」

 弟子であったミークほどではないにしろ、リツ、ラナロウと共にマサキから特命を受けることが多かったサイガ。エーリッヒのように心中を見抜けはしないが、自分も黄金の精霊の使者だ。邪悪な意思を少しでも感じることはできる。何もなかったというサイガは、何かの間違いではないかと疑っている。

 そんなマサキに、エーリッヒは平然として言った。

「それは、マサキがいつも着けている仮面のおかげです」
「仮面…」

 そういえば、とマサキが常に仮面を着けていたことを思い出す。

「あの仮面は一種の宝具なのでしょう。あれによって悪意を外に発せずに抑え、呑まれないようにしていたのです」
「呑まれないようにって…そうか、これはマサキの本意じゃなかったんだよな」

 先程エーリッヒは悪意を植え付けられて利用されていると言った。そこから察するに、マサキ自身も悪意に支配されまいとしていたのだろう。最悪の状況にさせまいと。結局はこんな内乱まで起こる事態になったのだが。

「そういえば、マサキがあの仮面を着けるようになったのは、五年前からだったな」
「そうだ。確か先代スセリヒメ、黒沢陽子の死からジュナスが脱走する間に着け始めたんだ」

 黄金の使者たちはそのことを思い出していた。当初は突然のことにみんな驚いていた。単純なイメチェンをするような人物ではないので、あの仮面には何かの意味があるのではないかと推測はしていたが、それにとどまらず、ありもしない噂までもが飛び交ったこともあった。

「そう。その少し前、マサキは調査のためにセフィーロに潜入していたのです」
「調査、とは一体…?」

 エーリッヒは、表情に神妙さを増して続けた。

「あの国の住人は、柱も含めて気がつかなかったのですが、その深淵には闇が潜んでいたのです。それも巨大な」
「闇だと。我々黄金の使者たちも気づかなかったというのか」

 知らぬ間にそんなものがあったことに、ロクウェルたちは驚く。

「マサキと賢明大聖だけが微かに気づいていました。詳細を知るためにマサキはその闇と接触したのですが、返り討ちにあってしまい…」
「そこで心に悪意を植え付けられたということか。しかし、マサキを退けるとはその闇とは一体…?」

 はっきり言って想像ができない。それがより不気味さを醸し出していた。

「そこまでは私もわかりません。ですが、戦いが終わった今なら、向こうから本性を現すかもしれません」





今週はここまでです。
続きは来週更新予定です。