Re: 新世界への神話 4スレ目 5月31日更新 ( No.22 )
日時: 2020/06/07 20:30
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは
今週の分を更新します。


 6
 勝利の余韻を引き裂く、瓦礫が崩れ落ちる大きな音がこの場に響き渡る。

 嫌な予感のまま音のした方向を見ると、瓦礫の中から起き上がってきたマサキの姿があった。

「そんな…あれだけの必殺技と魔法を叩き込んでも平気だなんて…」
「いや…」

 ところどころに大きく傷つき、震わせている身体を見れば、通用したことは明らかだ。

「完全に倒しきれなかったんだ」

 自分たちの攻撃の威力が足りなかったのか。あるいはマサキが耐えきったのか。いずれにせよ、これで終わったと信じ切っていただけにそれが裏切られたショックは大きかった。

 対して、マサキの方は今にでも攻撃をしでかねないほどの敵意をこちらに向けてくる。間違いなく反撃が来る。

「おのれ。もはや許さん。こうなれば、徹底的に吹っ飛ばしてやる!」

 マサキが再び構えをとる。とてつもないプレッシャーがこの場を支配する。今にでもこの明智天師の間が消滅してしまうと錯覚してしまう。

 ハヤテたちはマサキを前にして逃げることができない。というより、この威圧感から逃げることは不可能だと察してしまう。

 プレッシャーがピークに達した時、マサキの背後に天空のオーラが浮かび出た。

「烈鳴天破!!」

 瞬間、眩い光と共に大きな爆発が起こった。明智天師の間は粉々に吹っ飛び、跡形もなく崩落していった。

 天をも揺るがしかねない威力の爆発。その音と衝撃は霊神宮全体、そして近くの空域にまで響き渡った。

 霊神宮にいる者は皆、戦いが終わることを察していた。




「うわわっ!」

 突如襲ってきた大きな揺れに、ナギはバランスを崩して転んでしまう。

 膝を打ってしまうが、痛がってはいられなかった。軽傷であったということもあるが、それ以上に気になることがあった。

「ハヤテ…」

 今の衝撃は、先程抜けてきた明智天師の間から起こってきた。あそこではまだ、ハヤテたちがマサキと戦っていたはず。つまりこれは、彼らの戦いによって起こったものであることがわかる。

 気になるのは、ハヤテたちが無事であるかということだ。

 ナギは嫌な予感をしていた。全員やられてしまったという最悪のケースだ。先程の大きな揺れがそれを頭に焼き付かせ、離れないのである。

「…ハヤテ」

 だが、ナギは止まらずに進みだした。約束したのだから。

 それに、ハヤテたちなら大丈夫。根拠はないが、そう信じることができたから。

 だからナギは、龍鳳の間へ進むことができのだ。





 明智天師の間は烈鳴天破によって壁も天井も吹っ飛ばされ、その瓦礫が至るところに散乱していた。

 その瓦礫と共に、光、海、風の三人が倒れていた。死んでいるのかはわからないが、少なくとも意識はないように見える。

 この光景を見て、マサキは高揚した。

「ようやく、ようやく終わった。反逆者たちも、厄介な相手である魔法騎士たちも倒れた。私は、勝ったのだ!」

 勝利の余韻を噛みしめるマサキ。しかし彼はすぐに現実へと戻った。

「そうだ。まだ終わりじゃない。肝心の三千院ナギを止めなければ意味がないんだ」

 冷静になったところで、ナギを追いかけようとする。自分の足なら今から走っても彼女が龍鳳の間に着く前に追いつけるだろう。

 そんな彼に、待ったをかける声が。

「待ってください」

 それを聞き、振り返ったマサキは驚愕した。

 ハヤテ、佳幸、エイジ、雷矢。

 膝を着き、深く傷ついている様子ではあるが、それでも戦う意志が消えていないことが伝わってくる。

「何故だ…烈鳴天破を受けてまだあらがうだけの力がある…?」

 魔法騎士の三人でさえ倒れているのだ。防ぐ手段が何もない以上、あれを受けたらこうして立ち向かうことができないはずだ。彼らはダメージこそ負ってはいるが、光たち程深く傷ついてはいないようだ。

 かわすことは不可能。こらえるだけの力も残っていないはず。

 ならば、なぜ彼らはここにこうしているのか。

「よく見てみるんだ。僕らの前に何があるのか」

 佳幸に言われ、マサキは気づく。彼らの前方に、光の防御壁が張られている。これが烈鳴天破からハヤテたちを守ったのだ。

 しかしこれはハヤテたちによるものではない。これを張って彼らを助けたのは…。

「勾玉…?」

 八つの勾玉が宙に浮き、八芒星を描いている。それが強力な力場を発生させ、光の防御壁を生んだのだ。

「仲間の皆が、俺たちを守ってくれた」

 ヴァルキリオン、フラリーファ、シャーグイン、グルスイーグ、ワイステイン、コーロボンブ、ユニアース、アイアール。

 八芒星を作っているのは、皆仲間たちの精霊の勾玉だ。

「ここに来るまでに託された、皆の思いと力が助けてくれたんだ!」

 エイジが明智天師の間まで着く途中、ヒナギクたちから受け取ったものの正体はこれだったのだ。自分たちは共に戦えなくても、何かの力にはなるのだという思いを込めて。

「皆がこれを託したのは、俺たちを信じているからだ。俺たちならやってくれると信じているから!」

 そう叫びながら、エイジは力強く立ち上がる。

「こんな俺でも信じてくれるのなら、やってやるしかないじゃないか!」
「そうだ…!」

 エイジに同調するように、ハヤテも立ち上がった。

「彼らはナギお嬢様のことも信じてくれた。そんな彼らがこうして力を貸してくれたんだ。お嬢様の執事である僕が立ち上がらないわけにはいかないんだ!」

 絆の情や使命感に燃える二人。そして、弟たちの奮起に兄たちも黙ってはいられない。

「倒れてなんていられない。力がある限り戦うって、決めたのだから!」
「一度は敵対したこの俺をも守ってくれたのだ。それ相応の働きをしなければな!」

 佳幸と雷矢も、気合を入れて立ち上がった。

 マサキはそんな四人に圧倒されかけていた。仲間たちと力を合わせ、心を強く持ち、強大な相手と戦っていく彼らが、大きな存在のように感じたのだ。自分を超えていくかのような存在に。

 彼らの心の強さは、彼らがつけているリングを見ればわかる。彼らの魂の資質に反応して、リングが今までよりも眩しい光を放っている。

 今の私は、あれほどの輝きを出せるのだろうか。

 心に翳りが差し込んだところで、マサキは気を持ち直した。

「立ち上がったところで如何というのだ?もはや手も足も出せないというのに。潔く負けを認められないというのなら、今ここで引導を渡してくれる!」
「僕たちは負けない!」

 マサキが必殺技を放つ前に、ハヤテたちは迎え撃つ構えをとっていた。

「皆のために、自分たちのために!」

 負けずに立ち上がった彼らに応えるように、八芒星を描いていた勾玉がそれぞれのリングへと自ら挿入していった。

 ハヤテのリングにはヴァルキリオン、アイアールが。

 佳幸のリングにはフラリーファ、シャーグインが。

 エイジのリングにはワイステイン、コーロボンブが。

 雷矢のリングにはグルスイーグ、ユニアースが。

 仲間たちの精霊が、ハヤテたちに力を与えていく。

「マサキ、今こそおまえを倒す!」

 全ての力と心を込めて、ハヤテたちは必殺技を放った。

「疾風咆哮!」
「ブーストフレイム!」
「龍星暗裂弾!」
「雷鳳翔破!」

 鳥獣、炎龍、光の龍、雷鳳のオーラが浮かんだと同時に、四つの必殺技がマサキを大きく吹っ飛ばした。

 ハヤテたちはこの戦いの中で一番の手応えを感じていた。これは、決まったと。

 飛ばされた後、マサキはそのまま倒れた。呻いてから数秒の後、ゼオラフィムとの一体化が解けると同時に意識を失った。

「遂に…倒した…!」

 霊神宮の内乱の主犯であったマサキに。五年前のジュナスの事件から続いた長い因縁に、今やっと決着がついたのだ。

 だが、まだすべてが終わったわけではない。

「お嬢様…あとは任せましたよ」

 ナギが龍鳳のリングを手にし、スセリヒメであることを証明しなければならない。だがナギなら、きっと大丈夫。

 力尽きたハヤテたちは、一体化を解いてその場で倒れてしまった。気を失うまで彼らの胸中にあったのは、ナギへの安心感であった。




45話はこれで終了です。
次回は来週更新予定です。