Re: 新世界への神話 4スレ目 5月24日更新 ( No.21 )
日時: 2020/05/31 22:15
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは。
今週の分を更新します。


 5
「電光石火!」

 雷矢はいきなり必殺技を繰り出す。それを真正面から受けたマサキは、この戦いではじめて倒れた。

「今だ、早く行け!」

 雷矢はナギに先に進むよう発破をするが。

「言ったはずだ。今まで倒してきた相手と一緒にするなと」

 なんと、マサキはすぐに立ち上がってきた。それも大してダメージを受けた様子もなく。

 これには雷矢も驚愕せざるをえなかった。自分の必殺技を受けてほぼ無傷で立ち上がってきた者などいなかった。

 マサキの言っていることははったりではない。雷矢はそれを激しく実感する。

 しかし、マサキの相手は雷矢だけではない。

「チェーンファング!」

 エイジが牙のついた鎖をマサキに向けて投げつけ、からめとる。あっという間にマサキは鎖に縛られてしまった。

「何してるんだ!止まってんじゃねぇ!」

 エイジの叱咤に、ナギは再び動き出そうとするが。

「こんなもので、この私を止められると思うな」

 マサキは瞬く間に鎖を引きちぎってしまった。これにエイジは愕然とした。

「足止めにもならないのか…」

 鎖を自ら解くとは半ば予想してはいたが、こうもあっさり破られるとはそれ以上だ。

 やはり、最初から全力で行くしかない。しかし、満足に動けるのは恐らく自分と雷矢しかいない。迂闊に動いて返り討ちにあったら終わりだ。

 どうすればいい?

「何を躊躇している?」

 中々一歩が踏み出せない中、雷矢がエイジに声をかけた。

「どんな相手にも持てる力全開でぶつかっていく。そんなおまえだから、おまえの仲間たちはおまえにすべて託したのではないのか?」

 雷矢の言葉を受け、エイジは皆から受け取ったものを確認する。

 それと、ジュナスとの戦いを思い出す。あの時知ったのではないか。死力を尽くさなければ状況は打破できないと。

 決意を固めたら、エイジの行動は早かった。

「流星暗裂弾!」

 必殺技を、いきなりマサキに向けて放つ。

 百発以上連続で繰り出される高速の拳。それらすべてを、マサキは軽々とかわしながらエイジへと迫っていく。

「おまえの技がこの私に通用するわけがなかろう」

 やはり、エイジの行動は勇み足だけで終わってしまったのか。

「確かに、俺の技だけなら、な」

 必殺技が交わされたというのに、なぜかエイジには余裕があった。

 エイジの狙い。マサキはそれを察したが、そこまでの時間を稼がれたことが既に手中にはめられていたのだ。

「もう一度、俺の技を食らってもらうぞ」

 マサキの横から、雷矢が二度目の電光石火を仕掛けていたのだ。これがまともに入り、マサキはその勢いのまま壁に叩きつけられる。

 そこへ更にエイジがマサキを押さえつけるようにして飛び掛かり、矢でマサキの手を壁に刺しつけた。これでマサキの動きを封じたつもりだったのだろう。

「これで私の動きを封じたつもりか」

 だがマサキは、風穴が開いても構わないかのように、その右手に自ら矢に深く差し込んでいく。そうすることで、右手を抜くことに成功した。
エイジは戦慄した。手が引きちぎれてもいい。それほどの覚悟がなければできないことだ。

 ともあれ右手と引き換えに、マサキは身の自由を取り戻した。それはエイジと雷矢にとっては、一転してピンチになったということだ。

「この私の右手を傷つけたのだ。それ相応の例をしなければならないな」

 そう言い、二人に対して構えをとる。

「天のゼオラフィムが真の使者、マサキの最大の必殺技を見よ!」

 今まで感じたことのない力と威圧を感じる。すぐにこの場から逃げなければならないと本能が警告しているが、その威圧に足がすくんでしまって動けない。

「烈鳴爆砕!!」

 左の拳を繰り出すと同時に、天を燃やし、裂く程の衝撃にこの明智天師の間が激しく揺れた。

 遠巻きにいたハヤテたちも、その衝撃によってダメージを受け、倒れかけてしまう。

「そ、そんな…余波だけでこんなにもダメージを受けてるなんて…」

 身を焦がす熱と強烈な爆風に何とか耐えるハヤテたち。

 では、標的とされ至近距離から必殺技を受けたエイジと雷矢は?

 爆発によって宙に舞った砂埃が晴れると、そこにあったのはマサキの姿だけだった。

 二人はどこに。探そうとした時だった。エイジと雷矢がズタボロの状態で上から落ちてきたのだ。

 マサキの必殺技、烈鳴爆砕を受け二人は上へ舞い上げられた。そして大きなダメージを負ったため、受け身も取れないまま床に叩きつけられたのだ。

 エイジと雷矢の容態は、一目見ただけでわかる。一体化は解けていないが、深手を負っている。そのまま動かなくなってもおかしくはなかった。

 だが、二人ともピクリと動き出す。

「生きていたか。やはり利き手でないと全力は出せんな」

 ゆっくりと起き上がるエイジと雷矢を見て、マサキは冷静にそう言った。

「へへっ、俺たちの攻撃も無意味じゃなかったということだな」

 よろめきながらも、エイジは構えをとる。まだ戦う気でいるのだろう。

「そんな状態でまだ戦うというのか」
「皆にいろんなものを託されたんだ。そう簡単に終わらせるわけにはいかないんだよ」

 仲間たちやジュナス、エーリッヒ。ここに至るまで様々な人の思いを託されてきた。

 彼らの願いを、無下になんてできない。

「あんたがどんなに強くても、ゆずれないモンがあるならあきらめちゃいけないんだ…」

 そして、自分の心からも逃げない。エイジにとって、仲間たちも自分もゆずれないものだから。

「だから俺は戦う!」

 その思いをぶつけるかの如く、エイジはもう一度流星暗裂弾を放った。

「バカめ。その技は通用しないことを忘れたか」

 炎の矢を防いだ時と同様、マサキは前面にバリヤーを張った。エイジの必殺技は全てそれに弾かれてしまう。

 しかし、それでもエイジは流星暗裂弾を打ち続ける。

「あきらめるか…」

 このまま続けていけば、エイジの拳の方が砕けてしまうかもしれない。いや、拳どころか腕さえも使えなくなってしまう。そんな不安さえ抱かせてしまう。

 それでも、エイジは流星暗裂弾を止めなかった。

「こいつは霊神宮の現状にあきらめた。何もかもに絶望して、力で訴える手段に出た。そんな奴に勝つには、俺はどんなことがあっても、どうしようもない時でも、まずはあきらめないことなんだ!たとえ通用しなくったって、俺にはこの技しかない!なら、最後まで打ち続けてやる!そして必ずおまえに喰らわせてやる!」

 エイジのその思いが、必殺技に変化を起こした。

 流星暗裂弾を防いでいるマサキは、確かにそれを感じていた。威力が、速度が上がっている。打ち続けるごとに、微かだが止まることなく上がり続けていく。

「あきらめるか!あきらめるもんか!あきらめてたまるか!」

 その時、エイジの中であるイメージが生じた。

 巨大な龍が、眩しく光っていく。

 それは刹那にも満たない、一瞬とも言えるかどうかもわからない短い時だった。しかし、エイジはそれで何かをはっきりと掴んだ

 エイジは技を止め、拳を引いて構えなおした。それと同時に、エイジの背後に龍のオーラが浮かび出た。

「いくぞ。これが俺の新しい必殺技…」

 再び、エイジが拳を振るう。

「龍星暗裂弾!」

 流星暗裂弾のように、いくつもの拳を高速で繰り出すのではない。ただ一発の拳を放つだけだ。

 しかし、その拳は今までよりも眩しく光っていた。そして拳から龍を象ったエネルギーが放たれ、マサキに向かって飛んで行った。

「これは…今までとは威力も速度も違う!」

 光の龍は、マサキのバリヤーを突き破り、彼をそのまま吹っ飛ばした。

 エイジが、マサキを倒した。

 無鉄砲で生意気な、トラブルメーカーとして手を焼かされていた彼が、霊神宮で一番強い使者を倒した。

 驚きも大きいが、佳幸はエイジがどんな苦境にもあきらめずに努力してきた姿を知っているためどこか感慨も深かった。

 こんな状況でなければ、素直にエイジを褒めていただろう。

 しかし、その喜びは戦いの後にしてからだ。

「今なら…今ならやれる!」

 マサキは弱者とみていたエイジの攻撃で倒れるという、予想外の事態に動揺しているはず。だから、今までなかった隙が生じているに違いない。叩くには、今しかないのだ。

「雷矢さん!彼の心に目にもの見せてやるんです!」

 雷矢にそう叫んだ後、佳幸はナギの方を向く。

「その後お嬢さんはすぐに龍鳳の間を目指して!その間は、僕たちがなんとかマサキを止めて見せる!」
「しかし、今ならあれが効果があるかもしれないとはいえ、あの男がそう簡単にあれを受けてくれるとは思えないぞ」

 不安を抱く雷矢に、佳幸は何かを投げてよこした。

「そいつを使ってください!」

 それを確認した雷矢は、すべて承知した。

 その間に、マサキは立ち上がっていた。

「しかし…岩本エイジにここまでの力があったとは…」

 格下だと侮っていたために、そのショックは大きかった。

 打ちひしがれているとところへ、雷矢がマサキへと迫っていく。

「マサキ、覚悟しろ!」

 左手に帯電させているのか、火花がパチパチと飛んでいる。このまま殴り掛かるつもりだろうか。

「この私を舐めるな!」

 ただまっすぐに突っ込むだけでは、かえっていい的になるだけである。奴が攻撃する前に、こちらの拳を当ててやる。

 佳幸が睨んだ通り、この時マサキは冷静ではなかった。そうであれば、すぐに気づけただろう。

 マサキは思い切り雷矢を殴った。雷矢は防御をとらず、吸い込まれるように拳が左胸をえぐった。

 しかし、その瞬間マサキは違和感がした。殴った感覚がおかしい。

 自分が殴ったのは、本当に雷矢なのか?

 その疑問に答えるかのように、殴られた雷矢はまるでガラスのように粉々に砕け散ってしまった。

 飛散する破片。その後方から、もう一人雷矢が右腕に帯電させながらマサキに向かって走っていた。

 二人の雷矢。前にいた一人は砕けてしまった。砕けてしまった方は左腕に、もう一人は右腕に帯電。

 これらの要素から、マサキはからくりを見抜いた。

「鏡像か!」

 マサキが攻撃したのは、雷矢を鏡写しにして作ったダミーだ。

 佳幸が雷矢に渡したもの。それはかつて戦った映理の精霊、鏡のカメルーンの勾玉であった。その力を使って雷矢は自身の鏡像を作り、マサキを出し抜いたのだ。

 マサキが冷静ならば、すぐに鏡像だと気づけたはずだ。鏡写しということは、左右反転した姿となっているからだ。やはりエイジにやられたショックは、それに気づけなかったほど大きかったのだろう。

 もう一つ、マサキが気づけなかった要因がある。

「今度は直接、幻覚を見せて惑わせてやる」

 雷矢の技の中に幻魔雷光というものがある。幻覚を見せる電撃を相手に流して、心を砕く必殺技だ。これは電気による光を見ただけでも相手にかけられるという利点がある一方、右腕からしか放てないという欠点もあるため、警戒もされやすい。

 だが鏡像を介すればそれとは気づかせずに光を見せることができる。左右反転するため、相手は左腕に帯電しているように見える。更に鏡像を通して幻魔雷光の光を見たので、マサキは完全に鏡像を本物だと錯覚してしまったのだ。

 そして今、雷矢は右腕にこめた力を放とうとする。

「この幻魔雷光で、貴様の心を手玉に取ってやる!」

 雷矢の右腕から電撃が放たれ、マサキを襲った。体に流れる電撃に、マサキは身を震わせる。

「行け!三千院ナギ!」

 雷矢の激と共に、ナギは龍鳳の間へと走り出す。

「い、行かせるか」

 うまく動けない体に鞭打って、マサキはエネルギーを拳にこめ、それをナギに向けて放った。

 あの少女を、絶対に龍鳳の間へ行かせてはいけない。今のマサキにあったのはその思いであった。

 マサキの放ったエネルギーが、ナギを後ろから貫いた。ところが、その瞬間ナギの姿が消えてしまった。

「なっ、幻覚だと!?」

 それとは見抜けなかったことにショックを受けるマサキ。雷矢の幻魔雷光は、自分すら手玉にすら取れるというのか。

 その一方で、ナギは龍鳳の間を目指し、この明智天師の間から離れようとしていた。

「くっ、待て!」
「それはこっちのセリフだ!」

 マサキは今度こそナギを止めようとするが、それをハヤテたちが遮る。

「ここから先は行かせない!」

 佳幸はエイジから剣を受け取り、光と並び立つ。

「炎の矢!」

 光の魔法である炎の矢がマサキに向かって飛んでいく。これに合わせて、佳幸も剣に炎を纏わせながらマサキに飛びかかっていく。

「炎龍星斬り!」

 炎の矢が当たると同時に、エイジから渡された剣を用いた佳幸の必殺技がマサキに炸裂した。

 魔法と必殺技を一緒に受け、さすがのマサキも怯んでしまう。この隙を、彼らは絶対に逃さない。

 海は魔法を、エイジは必殺技をそれぞれ放つ。

「水の龍!」
「龍星暗裂弾!」

 水と光の龍がマサキに突進し、彼を宙に舞いあげた。これなら反撃は取れないはず。ここでとどめを打って勝負を決める。

「疾風怒濤!」

 ハヤテはマサキに向かって、勢いよく飛んでいく。それに続けて、風が魔法を放った。

「碧の疾風!」

 風の魔法によって生じた疾風による効果なのか、ハヤテはそれを身に纏うような姿で更に加速する。

 そのまま、ハヤテはマサキに突撃していった。ハヤテの肉弾は見事に決まり、マサキを壁の方へ吹っ飛ばした。

 勢いよく壁に激突したマサキは、そのまま床へと落下する。続いて壁が崩壊し、落ちてくる数々の瓦礫がマサキを襲った。

 下敷きとなったマサキは、ピクリとも動く様子がない。

「…やった!」

 倒れたままのマサキを見て、ハヤテたちは勝利を確信する。

「やった!ついにやったんだ!」

 最後の強敵だったマサキを倒した。それを力を尽くすまで戦ったハヤテたちにとって大きな喜びであった。

 これで、戦いが終わる。

 そう思っていたのだが…。



今回はここまでです。
続きは来週更新予定です。