Re: 新世界への神話 4スレ目 5月3日更新 ( No.18 ) |
- 日時: 2020/05/10 21:40
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します
2 全ての権威を手放し、組織の長としての重責から解放されたマサキ。
その彼に、ハヤテたちは圧迫されてしまう。十二人の黄金の使者たちもそのプレッシャーは凄まじかったが、マサキは格が違うと言ってもいい。黄金の使者たちが内心彼を疑っていても、従わざるを得なかったのはこれが一因となっているかもしれないと感じた。
マサキの後方にいたゼオラフィムも、人型形態となって動き出そうとしていた。
「く、来るなぁ!」
高まった緊張感が焦りを生んだのか、達郎が叫び、シャーグインが人型形態となってハヤテたちの前に出た。いつ攻撃してくるかわからないという不安と、防御の要としてナギたちの盾にならなければならないという義務感から動いたのだろうが、これは迂闊であった。
次の瞬間、シャーグインがゼオラフィムの攻撃によって吹っ飛ばされてしまった。
ゼオラフィムによる攻撃だということはわかる。たった一発によるものだということも察する。
しかし、その攻撃が全く見えなかった。全員反応すらできなかったのだ。人型形態の精霊に。
さらに驚くべきは、その攻撃力だ。シャーグインが倒れると同時に、達郎もその場で倒れてしまった。
「達郎!?」
みんなが達郎を見やり、優馬が彼の元へと駆け寄って診てみる。
「大丈夫だ。気を失っているだけで死んではいない」
その言葉にハヤテたちはひとまず安心する。しかしマサキとゼオラフィムに脅威を覚えずにはいられなかった。達郎がつけているシャーグリングに、無数のひびが入っているのだ。 シャーグインが受けたダメージがそのまま使者である達郎に伝わったのだろう。本来ならリングがそのダメージから使者を守るのだが、あまりの威力に肩代わりしきれなかったのだ。ショック死にならなかったのは、幸運だったのかリングがせめてもと守ったのか。
「前にもあったかもしれないけど、いつ見ても震えるな」
これにより、マサキとゼオラフィムの使者としてのレベルは、十二人の黄金の使者より上だと改めて認識する。
「すまないな。はずみでやってしまった」
当のマサキは、悪びれない様子で声をかける。
「しかしここからは、遠慮なしでいくぞ」
そして彼は、ゼオラフィムと一体化する。
ミークのものとは意匠が少々異なる姿が、ハヤテたちの目の前にある。霊神宮での最後の戦いが、始まろうとしていた。
果たして、ハヤテたちは勝てるのだろうか。彼らも自分たちの精霊と一体化するが、不安が心を占めているのだった。
「さあ、天からおまえたちを落としてやろう」
マサキが力を集中し始める。
「来るぞ!俺に集まれ!」
優馬の呼びかけで全員彼を中心にして寄せ合う。彼らは先のミークとの戦いでゼオラフィムの技を知っていた。
今いる場を天空の環境に変えるスカイフィールド。自らを天空環境の異空間となって敵を引きずり込むスカイデッドホールの二つだ。
「なるほど。天の間では土井優馬、貴様にミークは負けたのだったな」
そう。ゼオラフィムの二つの技は優馬とユニアースによって破られている。彼を中心に陣形を組めばどう攻めて来ても対処できると思うのは当然だろう。
「だが私はミークとは違う。この技がその証だ」
マサキは自らの掌に力を集中し始める。優馬はそれを打ち破ろうとするが、その考えが甘かったことをすぐに知る。
「天下流動!」
次の瞬間、マサキの掌から光が生まれ、ハヤテたちを包み込んだ。
気がつくと、ハヤテたちは天空に漂っていた。
「これは…落ちてる!?」 「いや、浮いているんだ!」
周囲は雲一つない天空。自分たちはそこで、重力に従うことも逆らうこともできずただただ漂っていた。
「やはりこれは…スカイデッドホールでは?」 「いや、違う!」
索敵能力に優れたユニアースの角を手にしている優馬は断言する。
「マサキの意思はどこにもない。また、マサキ自身がこの空間になったわけでもない。奴はこの空間のどこにもいないんだ!」 「それじゃあ、マサキは異空間を作って、そこへ僕たちを引きずり込んだというのですか?」
今まで精霊が使ってきた空間に関する技は、輪をかけるものがその空間内にいることが前提であった。だというのに、マサキはこの異空間にはいないというのだ。
「私たちの知らない必殺技であることは、周囲を見ればわかりますわ」
風の言葉で、一同は異空間を見渡してみる。
「風ちゃんの言うとおり、空が金色になっているね」
スカイデッドホールは、青い空であった。それに比べて、この空は黄金に輝いている。目が眩んでしまう。
しかも、それだけではない。
「なあ、なんか気分が落ち着いてこないか?」
ナギの言葉で、そういえばと気づく。ここに来てから、不思議と心が安らいでしまう。
このまま、下手をしたら眠ってしまいそうな…。
「いけない!気をしっかり持て!」
優馬が慌てて全員に向けて怒鳴った。
「それはこの異空間による影響だ!マサキは気力を削がせ、抵抗させることなくここに閉じ込めるつもりなんだ!」
言いながら優馬は思い出していた。大学時代、伝助が興味をもって調べていたものだ。
仏教では六道という六つの世界が存在しているという。そのうちの一つに、天道というものが存在する。
そこに住む者は長寿で、空も飛べる。苦しくもないためただ甘楽がある世界。しかし、自力で悟りを開くことができない世界。
この異空間もそれと似ているのではないか。ただ楽のみを与え何かをするという意志をなくさせる。そして何もすることなく永遠にここで漂いながらさまようことになるのだ。
「も、もしそうなら急いでここから脱出しなきゃ!」
みんな慌てだすが、どうやってここから抜け出すのか、その方法がわからない。気をしっかり持っていても段々とそれがほぐれていく。このままここにいてもいいような気がする。
「…もう何もかも、どうでもよくなってきたのだ」
怠惰な存在ともいえるナギに至っては、全身がしぼんでしまっているかのように気が抜けきっていた。
「お嬢様、しっかり!」
だらけ切ったナギを起こそうとするハヤテ。肝心のナギが消沈してしまっては全員士気が下がるかと思われたが、皆いつもの光景をを見ているような気がしてとりあえず安心していた。
それより今は、この異空間からの脱出が問題である。
「…やはり、この方法しか思いつかないな」
優馬は何かを決心したようだ。ユニアースの角が変化した槍を強く握る。
「この状況で、どれだけの力が出せるかわからないが…」
そう言いながら、槍に力を込める。ユニアースの索敵能力でもって、この異空間の弱点等を探るつもりだ。
しばらくして、優馬は見つけた。この異空間の力場というものを。そこへダメージを与えればこの異空間は崩壊する。
しかし、全員をここから脱出し、元のマサキがいる場所まで戻す力は今の優馬にはない。この異空間の力にあてられてしまい、思うように力が振り絞れないのだ。
だが、ハヤテやナギたちは何としても戻さなければならない。
「おまえら、よく聞け」
優馬の呼びかけに、全員が彼の方を向く。
「今からアースホーンバスターを放って、この異空間に穴をあける。そうすれば、おまえたちの力でもここから脱出することができるはずだ。その穴をくぐり、光が指し示す方へとまっすぐに進めば戻れるはずだ」
いいな、と確認すると全員頷き合う。了承したようだ。
「いくぞ!」
優馬が槍を構え、アースホーンバスターを放つ。放った先で、選考と爆発音が起こった。
そして、目でわかるように空間に空洞が出来上がっていた。と同時にハヤテたちに気力が沸いてきた。
「急げ!この異空間が崩壊しはじめている!」
見ると、確かに周囲に朧気がかかってきた。このままここにいればこの異空間と共に消えるか、どこかへ飛ばされてしまう。
ハヤテたちは光が差し込んでくる方向へと跳び上がる。それだけで、優馬があけた穴へと吸い込まれるように飛んでいく。
ハヤテは周囲を確認する。まずナギだ。彼女もハヤテ同様に飛んでいる。とりあえず安心した。次に光、海、風もいて、佳幸と塁も一緒だ。
しかし、優馬は…。
「土井さん!?」
アースホーンバスターを全力で放ったため、優馬には跳び上がる力すら残っていなかった。全員は無理だというのは、彼一人は残るということであったのだ。
優馬はハヤテたちへ言葉を贈る。
「頼んだぞ!」
そしてハヤテたちは異空間を抜ける。優馬の姿が見えなくなる。
そのことに、ハヤテたちは悲しく思った。だがもう、彼に何かすることはできない。また、戻る気もなかった。
そんなことは、彼の望みではなかったからだ。
ハヤテたちは、すぐに明智天師の間へと落ちていった。
戻ってきたのだ。その事実に安心するハヤテたち。一方で驚いているのはマサキ。
「天下流動からどうやって脱出したのだ?」 「土井さんのおかげです」
ハヤテたちは、マサキに対して構えをとる。
自分たちのために、というわけではない。あくまで自分がやりたいことをやったわけだ。
それでも、ほんの少しぐらいは優馬は自分たちのことを思っていたに違いない。だから、自分たちがやらなければならない。
「そこをどいてもらえますか」
実力行使でも、この先へと進む。そして龍鳳のリングを手に入れるのだ。
一方のマサキも構えをとる。それに比例して、怒気も増していく。
「天下流動を抜けてきたおまえたちには、閉じ込めるなど生ぬるい手はもういいな」
ハヤテはナギを一旦下がらせる。ナギは戦闘に参加できるほどの体力も腕力もない。危険な目には遭わせられない。
それと同時に、佳幸が青龍刀でマサキに斬りかかっていく。相手に攻撃する暇を与えないつもりだ。相手をいきなり襲うなんて気が引けるが、そうも言っていられない。
佳幸の刀身に龍を象った炎が纏われる。炎龍斬りだ。この必殺技を叩き込めば多少ダメージを与えられるはずだ。
勢いよく振り下ろされる剣。だがそれは、マサキを捉える前に彼が片手で剣を掴みそのままへし折ってしまった。
今まで共に戦い抜いてきた信頼ある獲物を折られてしまい、佳幸は愕然としてしまう。タイチとの戦いでも欠けることすらなかった剣を、いとも容易にやったのだ。佳幸の自信すら打ち砕いたのだ。
しかし、止まるわけにはいかない。
佳幸に続いてハヤテ、塁が挑みかかる。まずハヤテがマサキに殴りかかるが、マサキは佳幸の腕を片手でつかみ、ハヤテへと放り投げる。
佳幸と激突したハヤテは、マサキに攻撃することができずその場で転倒してしまう。だが、まだ塁がいる。
塁の左手は手刀の構えに入っている。エレクトロンブレイクだ。トキワとの戦いで右手では負傷の為放てなくなっている以上、左手で必殺技を放つしかない。利き手ではないが、威力は絶大だ。
例え左手がつぶれても、ここでやらなくてはいけない。
塁は覚悟をもって、マサキに斬りかかった。
「エレクトロンブレイク!」
紫電を纏った手刀が、マサキ目掛けて振り下ろされる。
それがマサキを捉える直前、逆に塁の方が吹っ飛ばされてしまった。マサキが佳幸を投げたのとは逆の、空いている拳に力を込めて叩きつけたのだ。
塁は壁と激突し、その場で倒れてしまう。一体化が説かれてしまったところから気を失ってしまったのだろう。
そしてマサキは、ハヤテと佳幸に狙いを定める。二人はまだ激突でもつれ合ったまま、動くことができない。このままでは狙い撃ちされてしまう。
「炎の矢!」
そこへ、二人の間を遮るかのように光が魔法をマサキに向けて放った。
襲い掛かる無数の炎。それに対して、マサキはバリヤーのようなものを前面に張り炎の矢を防いだ。
隙が無さすぎる。
達郎、優馬、塁の三人を瞬く間に倒し、あれだけの攻撃を寄せ付けずに涼しい態度でいられるマサキに対して、そんな実感しか持てなかった。
だからと言って、すぐにはあきらめない。自分たちは、ナギをこの先に行かすため相手を引き付ければいいのだ。
ハヤテと佳幸は、再び立ち上がる。
「獅堂さんたちはお嬢様を守ってください。僕たちは何とかあの人を押さえつけて見せますから、その間にここを抜けてください」 「痛めつけられても、絶対にあの人を放しません。ただ、魔法での援護はお願いします」
光たち三人は剣も強いが、魔法が使えるのが何よりの強みだ。それに、これから自分たちが行う攻撃には、とてもじゃないがついていけないだろう。
「いきますよ、ハヤテさん」
佳幸は、青龍へと形態変化する。
「準備はいいですよ、佳幸君」
そして、二人は一斉にマサキへと攻め立てていった。
高速の連続攻撃。並の相手なら防ぐ暇もなく滅多打ちにされていただろう。
だが、マサキはそのすべてをかわし切っていた。目にもとまらぬ速さで繰り出しているその攻撃が、次々と当たらないのだ。しかも、押しているのはこっちなのに、彼はわずかでも後退しなかった。これでは、ナギの為に隙を作ることすらできない。
このままでは、何も変わらない。
そう判断した二人は、一気にマサキを押さえにかかった。どちらかは必ずマサキに組み付けるだろう。
目論見通り、マサキを捕まえることができた。ハヤテは彼の腕を掴んで、拘束しようと試みる。佳幸も青龍携帯の武器である二振りの小太刀を取り出し、串刺しにしてやろうとする。
しかし、マサキは組みつこうとするハヤテをいとも簡単に振りほどき、その身を放り投げた。更に佳幸の持つ小太刀を二つとも指で砕き、彼を突き飛ばした。
その瞬間、マサキの体を強烈な風が包み込む。
風の魔法である戒めの風である。相手の体を風で捕らえ、動きを止める魔法だ。光や海でも破れないこの魔法ならマサキをここで釘付けにできる。そう確信して、ナギに進むよう促そうとした。
しかし、その風の中でマサキは徐々に動き出している。
これには風も驚きを隠せなかった。戒めの風が、足止めにもならないとは。
マサキはすぐに戒めの風を気合だけで吹き飛ばした。その衝撃で、ナギたちも吹っ飛ばされてしまい、その場で倒れてしまう。
「いたたた…あっ!」
痛みをこらえながら状態を起こしたナギが目を開けると、自分の周囲に光、海、風の三人が倒れていた。それも、自分よりも傷ついた様子で。
「お、おい!大丈夫か!」
ナギはなぜ彼女が自分よりもダメージを負っているのがわかっていた。
吹っ飛ばされた時、彼女たちは飛んでくる礫などから彼女をかばっていた。落下の時も、光たちがクッションとなって衝撃を和らげてくれたのだ。
「だ、大丈夫…?」
傷つきながらも、光は顔を上げてナギに微笑みかけた。
「おまえたち、なんで私を助けたのだ?」
光たちは精霊の使者ではない。自分を助ける義務なんてない。また知り合ったばかりの自分たちにそこまでの義理もないはずだ。
それなのに、傷ついてまで自分をかばった。
「何故、そこまでして…」 「決まっているでしょ」
海と風も、光と同じ目をしていた。
「あなたなら、と信じたからよ」 「三千院さんならきっと、この戦いをだれもが満足する形で終わらせることができる。綾崎さんたちと同じことを、私たちも思い、そして信じましたから」
信じると、彼女たち三人は言う。
不思議だ。まだよく知りもしない自分を信じたことも、その心に触れて、立ち上がる気力が沸いてきたということも。
心の強い人だと実感すると同時に、そんな彼女たちのようになりたいと。そう思った時には、ナギは立ち上がっていた。
「私だって、このまま倒れたままでいるわけにはいかない…」
その彼女の前には、マサキが立ちはだかっていた。
今回はここまでです。 続きは来週更新します。
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