Re: 新世界への神話 4スレ目 4月26日更新 ( No.17 )
日時: 2020/05/03 21:56
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

こんばんは。
今週の分を更新します


 第44話 死闘

 1
 遂に、目指していた明智天師の間までたどり着いた。

 ここまで数々の戦いを経てきた。道中倒れていく仲間も、次々と現れた。

 しかし、ナギたちはとうとうここまで来れた。

「この先に、明智天師がいる…」

 ナギや光たち以外は何度も来たことがある見慣れた廊下を歩いていく。賢明大聖がいた時はただ古代の西洋風な造りだなんて思っていた。だが今は、様々な緊張感が絡み合っている。

「いよいよだな…」

 ここに来るまでの道中を思い返す。いくつもの激闘を潜り抜けてきたことが、ハヤテたちの実力を上げていくこととなり、彼ら自身もそれを実感していた。

 なにより、仲間たちがいたからここまで来れた。協力し合えたからこそ進めた。照れくさくて口には出せないが、みんな心の中ではそう思っている。

 だからこそ、全員明智天師に臆することはなかった。

「ここまで来たのだ。もう突き進むだけだ!皆、行くぞ!」

 あのナギでさえやる気になっているのだ。もう迷いはない。

「見てろ!目にもの見せてやる!ハヤテがな!」

 ハヤテ任せなところは相変わらずだが。

「ここまで来てなんだけど、本当に大丈夫なのか?」

 途中で逃げ出したり、弱音を吐いたりしないだろうか。この最終局面で。

 不安になり達郎はハヤテに耳打ちする。ハヤテは苦笑するも、心配はないと答えた。

「お嬢様の無駄に高いプライドから考えて、泣き言は言うかもしれませんけど意地でも逃げ出したりしないでしょう」
「聞こえているぞ。無駄に高いってどういうことだ」

 バカにされているような、実際半分はバカにしているのだが、そんな調子で言うのだから、ナギは口を尖らせる。

 とりあえずやる気が失われないので安心する。自分たちがここまで来ようと思ったのも、彼女が戦いまで覚悟したことに感心したからだ。例えおふざけでも、ここでやめるとか言い出したらその怒りは計り知れないものだっただろう。

「心の準備はできたかな?」

 佳幸が皆に確認をとる。残ったメンバーの中では自然と彼がまとめ役となっていた。

 全員頷きで返答する。それだけで十分伝わった。

「よし、行こう!」

 目の前の扉を力いっぱいに開け、中へと入っていく。

 そのまま進んでいくと、玉座が見えてきた。もちろん、そこに座っているのは…。

「おまえたち、よくここまで来れたな」

 法衣のようなローブ、顔を隠す仮面が目立つこの男こそ、明智天師である。

「明智天師ですね?」

 佳幸がいつになく険しい表情で尋ねてみる。

「…そうだ。こうして対面するのは初めてだな」

 決して横柄ではない。しかし、尊厳と威圧に満ちたその態度。賢明大聖を彷彿させるのは彼が弟だからだろうか。

 普通の人ならそれだけで気圧されただろう。だが、激闘を経て心を強くしたハヤテたちは怯むことはなかった。

「明智天師、僕たちは霊神宮の敵ではありません。この三千院ナギお嬢様は龍鳳に、時代のスセリヒメに選ばれたのです」

 ハヤテのその言葉と共に、ナギが傍らに並んだ。

「それを証明するために、僕たちはここまで来たんです。決してあなたたちに敵対するつもりは…」

 その時だった。

 龍鳳が、突然光りだしたのだ。ハヤテたちは何のことかわからないが、ナギだけは理解できていた。

「龍鳳のリングが…この先にある」

 ナギの言葉が正しいことを表すかのように、光は明智天師の玉座のさらに奥へと伸びているようであった。

「リングと惹かれ合っているということは、やはり本物か」

 明智天師はこれを見て、何故か笑みをこぼす。それが何を意図するものかはわからない。顔を仮面で隠しているため、表情がわからないためでもある。

「確かに、スセリヒメの証となる龍鳳のリングはこの先の龍鳳の間にある。あれは他の精霊と違い、リングと勾玉それぞれ別々に保管してあるのだ」

 なぜ別々なのかはわからないが、ジュナスがリングも一緒に持ち去れなかったのはそういう理由なのだろう。どうして対になっているはずのリングと勾玉が揃っていないのか少し疑問に抱いていたが、これで解決できた。

「ああ、石像となったダイ・タカスギもそこにいる」

 ダイの名前が出たところで、ハヤテたちは聞かずにはいられなかった。

「高杉さんはどうなっているんですか?どうすれば助けられるんですか?」
「死んではいない。石化を解きたければリングによって龍鳳の力を解放させ、その力を使えばいい。龍鳳は明朗(ポジティブ)の最大級の力を持っているからな」

 いわく、ダイにかけた術は陰鬱の精霊と似た力によるものだそうだ。それと相反し、なおかつ巨大な力を持つ龍鳳なら破ることができるというのだ。ただし、真のスセリヒメがその力をすべて開放しなければならない。

 つまり、ナギがこの先の龍鳳の間でリングを授かれば、ダイを救出することができるのだ。

「しかし、そこの少女を龍鳳の間へと行かせるわけにはいかない」
「何故ですか?」

 返答自体は予想できた。しかし、こうも自分たちの行く手を拒む理由がわからない。

 真の龍鳳だということは認めている。それが何か不都合でもあるのか。明智天師は何を考えているのだろうか。

「必要ないからだ。龍鳳もスセリヒメも」
「必要ないとは、どういうことですか?」
「言葉通りだ。私は、スセリヒメや龍鳳のいない霊神宮を作ることを目指しているからな」

 スセリヒメや龍鳳のいない霊神宮。

 その言葉に、佳幸や達郎が微かに反応を示した。

「愚かだと思わないか?たった一人だけに運命を担わせ、他の使者たちは腐敗に堕落していく。いくら自分たちの旗頭とはいえ、これで使者は人の心を救えるのか?」

 佳幸たちは先代のスセリヒメ、黒沢陽子と当時の霊神宮を思い返す。あの時の状況は、明智天師の言う通りであった。それをはっきりと実感できたのは使者になってからしばらく経った後だが、それが腹立たしさをさらに増していた。

 怒りは、明智天師も同じだった。

「そんな霊神宮を、私は変えたい。腐敗を正して、真のあるべき霊神宮を取り戻したいのだ」

 彼の言葉には切実な思いが込められている。他意はなく、真摯な心がこちらにも伝わっており、佳幸たちも誘われかけている。それが正しいと感じるからだ。

 だが、それを容易に頷けるほど彼らは単純ではない。

「その気持ちはわかりますけど、だからって襲撃することはないのでは?」

 これに対して、明智天師はわずかに顔を伏せて答えた。

「今の霊神宮を混乱させず、かつ変革をもたらすには、真実を伏せすべてが明るみになる前に片をつけるしかなかった」
「他に方法があったはずです!」

 ハヤテの言葉にも明智天師は耳を貸さなかった。

「多少過激であっても、仕方のないことだ」

 これに嘆息したのは、ターゲットにされているナギであった。

「まったく、いかにも迷君が言いそうなセリフだな」

 彼女は呆れていた。組織のトップであるはずの者が、強硬姿勢であることはともかく、仕方がないなどと情けない発言をしたことには、ナギでなくとも怒りを抱いてしまう。

「荒事で解決しようとするなんて、今時の子供でもしない。第一、それでは本当の改革ではない。暴力の革新など、存在しないのだ」

 小娘が何を偉そうに。

 そう感じたのだろう。明智天師から怒気が発せられる。しかし彼が何か言う前にハヤテがそれを遮った。

「明智天師。このナギお嬢様は真性のダメ人間で、面倒くさくて情けないうえ、負けず嫌いな困った人です」
「おい!誰が悪口を言えといった!」

 てっきり自分に同調してくれるのかと思ったら、主である自分をこっぴどくこき下ろすのでナギは当然怒り出す。

 それを一旦受け流して、ハヤテはさらに続けた。

「ですが、それでもまっすぐに自分や他人のために頑張れる人です。お嬢様なら、スセリヒメになっても腐敗に負けることはありません」

 佳幸たちも、ハヤテほどナギを信じているわけではない。ただ、ナギがスセリヒメになることは認めていた。

 最後に、ナギははっきりと締めくくった。

「おまえのやり方は認められない。従っておまえが作ろうとしている霊神宮など、お断りだ」

 互いの主張は相容れないものである。明智天師はもう、話し合いは無理だと判断したのだろう。

「ならば、言葉はもう必要ないな」

 いや、言葉を交わす意思などはじめからなかったかもしれない。

「力づくでも、貴様らを止めてもらおう」
「やっぱりそうなるのか…」

 ナギは呆れてしまうが、佳幸たちは不気味さを感じていた。

「なんだ。急に様子が変わった…?」

 明智天師が放つ雰囲気というか、纏う気がそれまで厳かだけであったのが、悪意に満ち溢れたものへとなっていった。まるで、人が変わったかのように。

 すると、明智天師がつけている仮面にひびが入った。それと同時に悪意のオーラが増し、仮面のひびも進んでいく。

 そして、仮面がひとりでに粉々となって散り、明智天師の素顔が露になった。

 賢明大聖と兄弟というだけあって、顔立ちは彼に似ている。しかし、その眼差しだけは違っていた。その悪意が込められた目が合った瞬間、ハヤテたちは寒気が走った。

 先程までにはなかったこの悪意は一体…?

 戸惑いと恐れを抱くが、十二の間を突破してきた彼らはそれに負けない。

「ひとつ言っておきます。このお嬢様がスセリヒメになるとしても、今はまだ戦う力もないか弱い女の子です」

 ハヤテは明智天師を睨みながら言う。その目には、その言葉には、明智天師に対する敵意が込められている。

「それに手をかけようというのなら、あなたはもう人の指導者である死角はありません」
「だいたい、これだけの人数を相手にたった一人でどうにかなると思っているのか?」

 続けた達郎の言葉は去勢のようにも見えたが、事実でもあった。いかに疲労しているとはいえ、黄金の使者との激戦でレベルアップした自分たちをたった一人で相手をして勝てるとは到底思えない。

「確かに、ここまで来たおまえたちに対して、最早隠す必要はないな」

 しかし、明智天師は自身に満ちた様子で、玉座からゆっくりと立ち上がった。

「今こそ、真の主の元へ戻ってこい」

 その彼の背後に現れたのは…。

「ゼオラフィム!?」

 間違いない。ミークの精霊である、天のゼオラフィムである。

「な、何故ここにゼオラフィムが…?」
「言ったはずだ。真の主の元へ戻ってきたと」

 ゼオラフィムの主はミークのはず。明智天師自らが弟子の彼女に送ったとミーク自らが言っていたではないか。

 明智天師が真の主というのなら、ミークは一体…?

「そして、おまえたちの言うとおり、私には明智天師と名乗る資格はない。智に明るい師というには、な」

 明智天師。その名は賢明大聖の補佐に着いた時に送られたものだ。その明るい智能をもって、皆を天から導く師になれと。

 その願いを踏みにじる行為をした以上、明智天師の名は捨てるしかない。

「今から私は一人の使者に戻るだけだ。天のゼオラフィムが真の使者、マサキとしてな」




今回はここまでです。
続きは来週更新予定です。