Re: 新世界への神話 4スレ目 4月12日更新 ( No.15 ) |
- 日時: 2020/04/19 21:58
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
第43話 激動する霊神宮
雷矢、伝助、氷狩、拓実。
彼らがその身を挺したおかげで、ハヤテたちはついに十二の間をすべて突破した。約一名置いて行った奴がいたような気もするが、今は考えないでおこう。
明智天師のもとは、最早目前であった。
「あとはもう明智天師だけだ。みんな、もうひと頑張りだぞ!」
ナギが残ったハヤテたちに発破をかける。言葉だけを聞けば格好いいが…。
「そんな後ろで、息を切らしながら言ってもなぁ…」 「う、うるさい!走りっぱなしなんだから、しょうがないだろ!」
体力のないナギにとって、長距離を走るというのは酷だろう。よくここまで走れたものだ。負けず嫌いなだけかもしれないが、意外と根性があるのかもしれない。
「けど本当に、よくここまで来れたよね僕たち」
佳幸が今までの激闘を振り返る。立ちはだかった黄金の使者たちはみんな強大で、それを突破できたことが奇跡のように思える。しかし現実であり、佳幸たち自身も実力がついていくのを手応えとして感じていた。
「お嬢様の言う通り、ここまで来たのですから、あとはもう突っ走りましょう!」
ハヤテの一言に、皆も頷く。
「そうだな。けど、油断は禁物だぜ」
その中で、達郎だけは真剣な表情であった。
「後はここだけ、そう安心しきったところを狙った罠が仕掛けられているかもしれねえからな」 「ちょ、ちょっと達」
普段ならここで調子に乗るところなのに、今は慎重になって警戒している。本人はふざけているわけではないのだが、何か嫌な予感がして佳幸は達郎を止めようとする。
だが、少々遅かった。
「そう、突然兵士の大軍が目の前に現れたり…」
達郎がそう言った時だった。
上空から、大量の影が飛来し、ハヤテたちの前へと降り立った。それらは皆人の形をしていたが、背に翼が生えていたり、指が鉤爪状になっていたりと体の一部がそれぞれ異形のものであった。
それらを、ハヤテたちは知っていた。
「傀儡兵…」
艶麗、そして霊神宮に着く直前に襲い掛かってきたモノたち。それらと同じものがこうして自分たちの前に立ち塞がっている。
全員、達郎に避難の視線を向ける。
「な…なんだよ?」
別に自分が何かしたわけではない。自分はただ危険性を訴えただけだ。まさかこうなるとは思っていない。
それでも、口にしたことが現実となったのだ。みんなが達郎を責めたくなる気持ちもわかる。十二の間を突破できたとはいえ、全員は疲労しきっているのだから。
「達郎、あんた後で死刑」 「ちょっ、花南!?」
それだけで死刑宣告されるとは思わなかった。しかし本気ではないことはわかっているので達郎はそれ以上は騒がなかった。花南の方も、目前の大軍に対してどうするかということに思考を切り替えている。
「…強行突破しかなさそうね」
策を考えたり実行したりする余裕はない。何より、明智天師の元へあとわずかというところまで来たことでみんな体力以上に気力が高まっている。足を止める時間が長くなって、皆の意気が消沈することは避けたい。明智天師には、気力だけでも勝っておかなければならない。実力では勝てなくても。
「この状況じゃ、それしかないわね」
ヒナギクが白桜を手にする。
「全部蹴散らす勢いで行くわよ!」
そして、今すぐ飛び掛かっていくように敵の大軍に立ち向かっていく。
「待ちなさい」
だがその直前、花南がヒナギクの襟首を掴んで引き戻した。
「ちょ、普通に呼び止めなさいよ!」
呼びかければ、運動神経の良いヒナギクなら寸前に止まることができた。こんな痛い思いをすることはなかったというのに。
花南はそんな訴えは無視して、全員を招いて輪を作らせ話し始めた。
「確かに強行突破しか手はないわ。けど、皆が闇雲にバラバラで動いたんじゃ危ないわ」
更に花南は一拍置いてから、有無を言わせない強い口調で続けた。
「ここは縦一列に並んで、一点突破を目指すわよ」
花南の案はリスクがあった。もし先頭が倒れてしまったら、後ろに並んでいる者たちは脚が止まって敵の袋叩きにあってしまうからだ。
だがヒナギクや風は、これが今の自分たちに合っていることに気づく。
「なるほど。披露しきった私たちの力でも、一点に合わせればかなりの力になる。縦一列は、力を一点に集中させやすいわね」 「敵の攻撃も一転に集中してしまいますけど、あえてそうすることで攻撃を引き寄せる。そうして先頭が倒れても、後ろに並ぶ人たちが踏み越えていくことで突破はしやすくなりますわ」
これを聞き、光は真っ先に反対する。
「ダメだ。この中の誰かが犠牲になるようなことなんて、私は嫌だ!」
光は純粋な性格である。誰かが傷つけば彼女も悲しむ。自分のことのように人の痛みを共有しようとする彼女は、会ったばかりとは言えハヤテたちに倒れてほしくない。
「雷矢さんやエイジ君、風間さん、桐生さん、金田さんだけでもう十分だ。他に何か考えれば…」 「けど、それでも僕は花南さんの案でいこうと思う」
はっきりと言った佳幸の顔を光は確認する。彼は花南を微塵も疑ってはいない、屈託のない表情だった。
「頭の切れる花南さんの考えなら、僕たちは花南さんを信じるさ」 「それに、ただ素直に犠牲になんかならねえよ。ここまで来たんだ、こんなところで倒れてたまるかよ」
達郎が気合を入れるのを見て、光は理解する。
彼らは花南を、そして自分を信じている。目的を果たすまでは、決して倒れない。それだけの力を持っているのだと信じている。
自分たちも、信じる心を力にしている。彼らと同じだ。ならば信じるだけだ。
「…私たちも、あなたたちを信じる」
光、海、風の了承を得たところで、花南はもう一つ付け加えた。
「もちろん全員が先へ進めるつもりということで話しているわ。けど、優先順位ははっきりしないといけないわ」
そう言って、彼女はある人物らを指した。
「あんたたち二人は、最優先で明智天師のもとへ行かなければならないわ」 「僕たちが?」
指名されたナギとハヤテは、どうして自分たちなのかわからず戸惑う。
いや、ナギはわかる。彼女はスセリヒメという重要な存在。明智天師の悪事を暴けるのは彼女しかいない。
「なんで僕も?」 「あんたはこのおちびさんを守らなきゃいけないでしょ」
言われて気づく。自分はナギの執事だ。その使命は、ナギを守ることだ。
ハヤテが悟ったのを確認し、花南は皆に呼びかけた。
「それじゃあ皆、私が言うように並んで」
ハヤテたちは素早く、花南の指示通りに縦一列へと並んだ。
先頭は佳幸。ムーブランのパワーなら並大抵の敵は蹴散らせる。彼が前に立ち、道を開くのだ。
その彼の後ろには優馬がつく。敵の攻撃を一番食らうであろう佳幸を治癒術で回復できるし、何よりユニアースの角による索敵能力で敵の動きを常にチェックできる。戦闘が見逃した、または見えない敵に対してサポートするには、優馬がうってつけだ。
そして三番目、四番目は達郎、海と続く。スピードのある海の魔法と柔軟のあるシャーグインの戦法は、追撃等の援護にも働く。
更に五番目は風がいる。攻撃よりも防御重視の魔法と高い知力を持つので、相手の動きを読み、見方を守ってくれる唯一の頼りだ。
彼女の後ろに、一番重要なハヤテとナギがつく。二人が狙われても風の魔法で守ることができるし、ハヤテなら列の中心にいても、いざとなったらその身体能力で一気に敵を飛び越えられる。ちなみにナギはハヤテの背におぶさっている。当初ナギは気恥ずかしさからそれを拒んでいたが、皆からの無言の圧力に負け、渋々従った。
二人の後ろには光が控えている。ここに置いたのは攻撃力というよりは、彼女の高い運動能力だ。万が一列から離れたハヤテに敵が迫ってきても、彼女の運動神経ならそれに反応できる。
残った三人から塁、ヒナギク、そして殿に花南と並ぶ。後方からの追撃を防ぐ役目に、指示した責任をとるからと言って花南自らが着く。
「怪しいな」
しかし、達郎は花を訝しんでいた。
「普段のおまえは、そんな責任なんて言葉は口にしないんだよな」
佳幸をはじめとして、花南をよく知る人物たちもまた同様であった。花南は仲間の為なら必要なら力を尽くすが、基本的には不真面目な性格である。それが今かしこまった物言いをするのだ。何か企んでいるのではないかと疑うのも無理はない。
「あら達郎、あんた一人を囮にして私たちは悠々と抜けていくっていう手もあるのよ」
満面の笑顔で、しかし黒いオーラを漂わせて言うのだ。
「さあみんな、列を乱さず息を合わせて進むぞ!」
ただの意地悪なのだが、本当にやりかねないのが花南。そんな彼女をよく知っているからこそ、達郎は恐れてこれ以上何も言えなくなるのだった。
「準備はいいかな?」
佳幸が振り返り、優馬たちに確認をとる。彼らの目が、いつでもいけると語っていた。
「よし、行こう!」
佳幸の号令と共に、使者たちは精霊と一体化し光たちも武器を手にした。
そのまま、敵の大軍へと突撃していった。
先頭の佳幸が次々と迎え撃つ敵を蹴散らしながら前へ前へと進んでいく。その勢いは止まらず、後ろに続く優馬たちの足が止まることはなかった。
もちろん優馬たちもちゃんと働いていた。相手の攻撃が正面から来るとは限らないが、彼らは見事それを捌いていた。おかげでハヤテたちに危機が及ぶことはなかった。
そうして、佳幸たちは難なく突破できた。
「全員いるな?」
先頭の佳幸が周囲を見渡す。全員の姿が確認できたので、無事であることが理解できた。
「よかった。敵がそれほど強くなかったおかげで何とか進めたね」 「けど、これだけ手応えがないならわざわざ列で並ばなくてもよかったんじゃね?」
達郎の言うとおり、敵はあまり強くなくこれなら各個人でそれぞれバラバラに突撃しても何とかなっただろう。花南の策も、単なる徒労でしかなかったなと内心で嘆息する。
「いいえ、列を組んだ意味はここにあるわ」
花南はそう言い、佳幸の背を押す
佳幸の体が少し前に出たのと同時に、ハヤテたちの後方に巨大な蔦の壁が出現した。
「花南?まさか…」
花南の真の狙いが今理解できた。
彼女は、追ってくる敵すべての足止めをするつもりなのだ。蔦の壁を出したのも花南であり、敵の全身を防ぐためと自分以外の味方が戻ることを防ぐためである。
「花南さん…僕たちを先に進めるために」
列を組ませたのは自分が一番最後に着くため。最後尾にいれば、自分を除く全員を前へ行かせやすくためだったのだ。
「さあ皆、明智天師に目にもの見せてやりなさい!特に佳幸!」
最後に花南は、佳幸だけに向けて激励を送る。
「支えるだけじゃなくて、背中を押して送り出したのよ。必ず負けちゃだめよ」
壁を作る際、佳幸の背を押したのは一緒に取り残されないようにするため。そして、それとは別にもう一つの思いも込められていた。
戦う目に二人が交わした約束。片方が倒れそうになったらその背中を支えると。それは互いに支え合っていくという互いの思いと、一人でも奮起してくれという願いが込められているのだ。
その心を背に受け、立ち上がらない佳幸ではない。ましてや、それが大切な女からの思いなら特に。
「行こう、みんな」 「いいのか、あいつを置いていって」
ナギが不安そうに尋ねる。花南に対してあまりいいイメージは持っていないが、それでもこの場に残しておくことには人情的に抵抗があった。
「大丈夫ですよ」
そんな彼女をハヤテがなだめた。
「花南さん一人が残ったわけではありませんから」
「あんたまで残らなくてもよかったのよ」
花南は自分の隣に並び立つ人間に冷ややかな対応をする。
「生徒会長の私が、後輩一人を置いていくなんて真似はできないわよ」
ヒナギクも、憮然とした態度で返した。
列を組んだ時、ヒナギクは花南の考えを察した。だからこそ、彼女は花南のすぐ前に位置取ったのだ。蔦の壁が出現する寸前に、花南の方へと飛び込めたのだ。
「自分から私の前に着くって言いだしたから、なんとなくこうなるんじゃないかと思ったけど」
これでは格好がつかない。それに明智天師へ向かう戦力を割いたことになった。
思ったようにならず、花南は不機嫌だ。しかし、過ぎてしまったことはしょうがない。
今は、目の前にいる敵に集中しなければ。
敵の大軍はこちらへじりじり迫ってくる。後ろの蔦の壁はそう簡単に破れない自信はあるが。
「…このままただ立っているなんてできないわよね」 「当然よ」
各々の精霊と一体化し、二人は敵の大軍へと挑みかかった。
花南とヒナギクはそれぞれの武器で敵を次々と倒していく。しかし、一度に襲い掛かる人数が次第に増えてくると、一人では捌き切れなくなる。
花南が倒しきれなかった敵の一人が背後から迫るが、ヒナギクがこれを打ち倒す。今度はそんな彼女を敵が狙ってくる中、花南がカバーをする。
二人はそうして互いに協力し合いながら敵を蹴散らしていく。出会ってからの時間は短く、しかも常にいがみ合っていた。だというのに、コンビネーションのよさを見せつけている。心底では互いを認め合っている証だろうか。
「私たち、案外いいコンビになれるかしら?」
背中を合わせた時、ヒナギクは冗談っぽく言葉をかけた。
「…皮肉だったらぶっ飛ばしてたわよ」
プライドの高い花南にとって、誰かと手を組むなんてことはあまりしない。
けどまあ、と花南は思う。
塁や達郎らと比べれば、マシかもしれない。
とりあえず、今は彼女と息を合わせよう。そうすれば楽に戦えるのだから。
そう考え、花南はヒナギクと共に戦う。不本意だが、悪い気はしないと彼女は感じるのであった。
今週はここまでです。 続きは来週更新予定です。
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